(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】リラクタンスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20220224BHJP
H02K 1/24 20060101ALI20220224BHJP
H02P 25/08 20160101ALI20220224BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K1/24 Z
H02P25/08
(21)【出願番号】P 2018212937
(22)【出願日】2018-11-13
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017222372
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】713009714
【氏名又は名称】梨木 政行
(72)【発明者】
【氏名】梨木 政行
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-053756(JP,A)
【文献】特開2016-163440(JP,A)
【文献】特開2011-177021(JP,A)
【文献】特開2012-114975(JP,A)
【文献】特開2011-217567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/10
H02K 1/24
H02P 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータの円周方向に配置する(SN×MN)個以上のステータ磁極SPと、
各ステータ磁極を励磁する各ステータ巻線SWと、
ロータの円周方向に磁気的に分離して配置する(RN×MN)個以上のロータ磁極RPの一部であって、円周方向の片方向端に位置する第1のロータ磁極部RPB1と、
前記ロータ磁極部RPB1の円周方向に隣接して配置する第2のロータ磁極部RPB2とを備え、
前記第1のロータ磁極部RPB1のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の単位角度幅当たりの磁気抵抗値をMRPB1とし、前記第2のロータ磁極部のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の単位角度幅当たりの磁気抵抗値をMRPB2として、前記磁気抵抗値MRPB1は前記磁気抵抗値MRPB2より20%以上大き
く、
前記ロータ磁極RPの円周方向角度幅θBrは前記ステータ磁極SPの円周方向角度幅θSrより大きく、
ロータの回転駆動は前記第2のロータ磁極部RPB2から前記第1のロータ磁極部RPB1の方向へ回転し、
前記ステータ磁極SPを励磁する電流サイクルの始めと終わりの部分では2つ以上の前記ステータ磁極SPを励磁して各ロータ磁極RPを駆動し、それらのトルク発生区間の一部が重複するように駆動し、
前記の各ステータ磁極SPを通電して励磁する各相の電流サイクルの波形において、通電する電流サイクルの前半で電流値を増加し、電流サイクルの後半にかけて電流値を減少して電流減少時の電流変化率を低減することにより前記ステータ磁極SPと前記ロータ磁極RPとの間のラジアル方向吸引力の変化率を低減する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
ここで、SNは6以上の整数、RNは4以上の整数、MNは1以上の整数とする。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロータ磁極部RPB2の円周方向に隣接して配置する第3のロータ磁極部RPB3を備え、
前記第3のロータ磁極部のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の磁気抵抗値をMRPB3とするとき、ロータの円周方向の単位角度幅当たりの前記磁気抵抗値MRPB2は前記磁気抵抗値MRPB3より20%以上大きい
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1のロータ磁極部RPB1のラジアル方向磁気抵抗MRPB1、前記第2のロータ磁極部のラジアル方向磁気抵抗MRPB2、前記第3のロータ磁極部RPB3のラジアル方向磁気抵抗MRPB3、および、前記各ロータ磁極RPの相互の円周方向隙間のラジアル方向磁気抵抗MRPMとを電磁鋼板に施す複数の細長い穴や四角、丸などの各種形状の穴、凹み、および、電磁鋼板厚みを薄くした部分を用いて作成し、
前記電磁鋼板をロータ軸方向に積層して前記各磁気抵抗の所望の比となるように構成する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項4】
請求項1において、
電気角で180°の位相差、あるいは、360°の位相差の円周方向位置に配置する複数のロータ磁極RPXが相互に磁気的に異なる特性であって、
前記の複数のロータ磁極RPXの各位相のラジアル方向磁気抵抗の電気角で180°の整数倍の位置の平均値がMRPB1、MRPB2、あるいは、MRPB3の前記各磁気抵抗値となるように構成する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項5】
請求項1において、
スロットSSTY1と、
スロットSSTY1の円周方向の隣のステータ磁極PRY1と、
スロットSSTY1の円周方向の逆方向隣のステータ磁極PRY2と、
前記ステータ磁極PRY1に与えるべき集中巻き巻線WPRY1の励磁電流IPRY1と前記ステータ磁極PRY2に与えるべき集中巻き巻線WPRY2の励磁電流IPRY2を仮定して、前記巻線WPRY1と巻線WPRY2とを統合して前記スロットSSTY1へ巻回した巻線WPRY3とを備え、
巻線WPRY3を前記スロットSSTY1とその円周上の他のスロットSTY2へ巻回し、
前記巻線WPRY3へ前記励磁電流IPRY1と励磁電流IPRY2とを加算した電流IPRY3を通電する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項6】
請求項1において、
スロットSSTY1と、
スロットSSTY1の円周方向の隣のステータ磁極PRY1と、
スロットSSTY1の円周方向の逆方向隣のステータ磁極PRY2と、
前記ステータ磁極PRY1に与えるべき集中巻き巻線WPRY1の励磁電流IPRY1と前記ステータ磁極PRY2に与えるべき集中巻き巻線WPRY2の励磁電流IPRY2を仮定して、前記巻線WPRY1と巻線WPRY2とを統合して前記スロットSSTY1を統合してた巻線WPRY4とを備え、
前記巻線WPRY4を前記スロットSSTY1とSSTY1のバックヨークの外側を通して巻回し、
前記巻線巻線WPRY4へ前記励磁電流IPRY1と励磁電流IPRY2とを加算した電流IPRY3を通電する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項7】
請求項1において、
円周方向に並んで配置するN極のステータ磁極とS極のステータ磁極と、
前記N極のステータ磁極の歯の先端部近傍と前記S極のステータ磁極の歯の先端部近傍の間に配置する永久磁石PM1と、
前記N極のステータ磁極および前記S極のステータ磁極の歯の先端部近傍の円周方向幅の最大値をLtfとして、ステータの歯先とバックヨークとの中間部の歯の円周方向幅Ltsが(0.9×Ltf)以下である
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項8】
請求項1において、
モータ内の磁束を通過する主な軟磁性体MM1と、
飽和磁束密度が前記軟磁性体MM1より大きい特性を示す軟磁性体MM2とを使用し、
前記軟磁性体MM2をステータ磁極であるステータの歯の1/2以下の部分に使用し、
前記軟磁性体MM2をロータ磁極であるロータの歯の1/2以下の部分に使用する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項9】
請求項1において、
ステータの円周方向に隣り合わせに配置した2個以上のN極のステータ磁極と、
ステータの円周方向に隣り合わせに配置した2個以上のS極のステータ磁極と、
前記N極のステータ磁極と前記S極のステータ磁極との間のバックヨークへステータ磁極の磁性に合わせて配置する永久磁石PM2と、
前記永久磁石PM2と磁気的に並列に配置して、前記N極のステータ磁極と前記S極のステータ磁極との間磁束を通過する軟磁性体のバイパス磁路と
を備えることを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項10】
請求項1において、
N極のステータ磁極とS極のステータ磁極を円周上に交互に配置し、
前記N極のステータ磁極と磁気的に接続するバックヨークBY1と、
前記S極のステータ磁極と磁気的に接続するバックヨークBY2と、
前記バックヨークBY1と前記バックヨークBY2との間へステータ磁極の磁性に合わせて配置した永久磁石PM3と
を備えることを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項11】
請求項1において、
前記ロータ磁極RPのそれぞれの前記磁気抵抗値MRPB1は前記磁気抵抗値MRPB2より2倍以上大きく、
モータの基底回転数以上の高速回転の制御において、前記それぞれのステータ磁極SPの励磁は、前記それぞれのロータ磁極の第1のロータ磁極部RPB1がさしかかって対向する時に励磁してトルクを生成する制御を行う
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項12】
請求項1において、
モータが回転をしている状態で2組のステータ磁極が同時に回生トルクを生成可能な領域での回生制御において、時間的に回生トルクが先行するステータ磁極の励磁電流を徐々に減少し、同時に時間的に後行するステータ磁極の励磁電流を徐々に増加させて、モータ全体の回生トルクの脈動が小さくなるように制御する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項13】
請求項1において、
ステータ磁極のエアギャップに面した形状とロータ磁極のエアギャップに面した形状とを相互に逆の形状とする、あるいは、ステータの歯形状とロータ歯形状の両方を変形して相対的に等価な磁気特性とする
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項14】
請求項1において、
ステータ磁極SP1とステータ磁極SP2とステータ磁極SP3とを円周方向に並べて配置し、
各ステータ磁極SP1の円周方向の両隣のスロットに配置する巻線SW1と巻線SW2と、
各ステータ磁極SP2の円周方向の両隣のスロットに配置する前記巻線SW2と巻線SW3と、
各ステータ磁極SP3の円周方向の両隣のスロットに配置する前記巻線SW3と巻線SW4と、
前記巻線SW1に直列に接続した電力素子PE1と、
前記巻線SW2に直列に接続した電力素子PE2と、
前記巻線SW3に直列に接続した電力素子PE3と、
前記巻線SW4に直列に接続した電力素子PE4と、
正端子と負端子を出力する直流電源とを備え、
前記電力素子PE1と前記巻線SW1と前記巻線SW2と前記電力素子PE2とを直列に接続し、
前記電力素子PE2と前記巻線SW2と前記巻線SW3と前記電力素子PE3とを直列に接続し、
前記電力素子PE3と前記巻線SW3と前記巻線SW4と前記電力素子PE4とを直列に接続して各巻線に励磁電流を通電して各ステータ磁極を励磁する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項15】
請求項1において、
ステータ磁極SP11とステータ磁極SP12とステータ磁極SP13とステータ磁極SP14とステータ磁極SP15とステータ磁極SP16と、
前記ステータ磁極SP11とステータ磁極SP12との間に配置する巻線SW11と、
前記ステータ磁極SP12とステータ磁極SP13との間に配置する巻線SW12と、
前記ステータ磁極SP13とステータ磁極SP14との間に配置する巻線SW13と、
正端子と負端子を出力する直流電源と、
前記正端子に接続する電力素子PE11と電力素子PE12と電力素子PE13と、
前記負端子に接続する電力素子PE14と電力素子PE15と電力素子PE16と、
ダイオードDD11とダイオードDD12とダイオードDD13とを備え、
前記巻線SW11と前記ダイオードDD11と前記巻線SW12と前記ダイオードDD12と前記巻線SW13と前記ダイオードDD13とを直列に接続し、
前記各電力素子により前記巻線SW11、SW12、SW13の内の2個の巻線へ直列に電圧を印加して各電流を制御する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【請求項16】
請求項9、10において、
ステータ磁極SP21と、
ステータ磁極SP21を電流IS21を通電して励磁する巻線SW21と、
ステータ磁極SP22と、
ステータ磁極SP22を電流IS22を通電して励磁する巻線SW22とを備え、
ある回転角位置において、巻線SW21へ正の電流IS21を通電して指令方向のトルクを発生し、他方の巻線SW22へ正の電流IS22を通電すると指令とは逆方向のトルクを発生する関係である時、巻線SW22へ負の電流IS22を通電して指令方向のトルクを増加する
ことを特徴とするリラクタンスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電気自動車EVの主機用モータ、家電用モータ、産業用モータおよび、その駆動技術などに関わるものであり、特に、リラクタンスモータの低騒音化に係わる。また、リラクタンスモータとその制御装置の高効率化、小型化、低コスト化の技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来のリラクタンスモータの横断面図の例を
図46に示す。ステータの磁極が6個でロータの磁極が4個のリラクタンスモータで、スイッチトリラクタンスモータとも言われている。469はステータ、46Bはロータ軸である。46A、46Fはロータの突極磁極で、円周方向幅は30°で、全周の4か所に等間隔に配置している。461はA相のステータ磁極で、集中巻巻線467、468を破線で示すように巻回している。このモータの各巻線の電流は片方向電流で、各巻線を電流シンボルで示している。巻線467は紙面の表側から裏側へ流れる電流、巻線468は紙面の裏側から表側へ流れる電流を通電する。従って、電流を通電する時は、A相のステータ磁極461はS極となる。462はA相とは逆相の関係となるA/相のステータ磁極で、集中巻巻線46C、46Dを破線で示すように巻回している。A/相の電流を通電すると、A/相のステータ磁極462はN極となる。461と462を同時を励磁してロータに矢印46Eで示す磁束を、紙面の下側から上側へ、ステータ磁極462、ロータ磁極46F、ロータ磁極46A、ステータ磁極461へ通過させる。
図46の状態では、ロータに反時計回転方向CCWのトルクが発生する。
【0003】
463、464は、A相とA/相のステータ磁極と同様に、B相とB/相のステータ磁極である。それぞれに励磁用巻線を巻回している。465、466は、同様に、C相とC/相のステータ磁極である。それぞれに励磁用巻線を巻回している。各ステータ磁極の円周方向幅は30°で、全周の6か所に等間隔に配置している。
【0004】
次に、
図46のリラクタンスモータの動作について説明する。ロータの回転角位置について、A相のステータ磁極461の時計回転方向端の回転角位置をロータの始点と定義する。ロータ回転角位置θrは、図示するように、この始点からロータ磁極46AのCCW方向端部までの回転角とする。A相の巻線467、468とA/相の巻線46C、46Dを直列に接続し、A相電流Iaとして連続定格に近い値の一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図47の電圧Vaとなる。このVaの横軸は時間tであり、
図47の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
図46のCCW方向は、
図47の紙面の右方向である。ここで、Vsoの単位は[ラジアン/sec]とする。また、ステータ磁極461、462とロータ磁極46A、46Fとが対向した部分に、磁束がエアギャップ部を介して通過すると仮定する単純モデルとしている。
【0005】
同様に、463、464のB相の巻線とB/相の巻線を直列に接続し、B相電流Ibとして一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図47の電圧Vbとなる。同様に、465、466のC相の巻線とC/相の巻線を直列に接続し、C相電流Icとして一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図47の電圧Vcとなる。
【0006】
図47の各電圧Va、Vb、Vcは、それぞれ一定電流Ioを通電した状態であるから、それらの電圧と電流の積はパワーPa=Va×Io、Pb=Vb×Io、Pc=Vc×Ioであり、一定速度Vsoの状態なので、各相のトルクはTa=Pa/Vso=Va×Io/Vso、Tb=Pb/Vso=Vb×Io/Vso、Tc=Pc/Vso=Vc×Io/Vsoとなる。ここで、Io/Vsoは一定値なので、各相のトルクTa、Tb、Tcは、
図47の各電圧Va、Vb、Vcに比例した形状の特性となるので、括弧付きで各トルクを付記している。
【0007】
次に、
図46のリラクタンスモータをCCWへ一定トルクを生成して回転する動作について説明する。
図47の電圧Vaの特性から、A相はθrが0°から30°の間と90°から120°の間でCCWのトルクを生成可能であり、A相電流は
図47のIaに示すA相電流を通電する。同様に、
図47の電圧Vbから、B相は30°から60°の間と120°から150°の間でCCWのトルクを生成可能であり、この間で、
図47のIaより30°位相の遅れたB相電流Ibを通電する。
図47の電圧Vcから、C相は60°から90°の間と150°から180°の間でCCWのトルクを生成可能であり、この間で、
図47のIaより60°位相の遅れたC相電流を通電する。リラクタンスモータのトルク周期は180°であり、ロータ回転角位置θrに応じて前記電流Ia、Ib、Icを通電することにより、
図47の合計電圧Vtの471に示す、CCWの一定トルクを得ることができる。
【0008】
また、
図46のリラクタンスモータをCWへ一定トルクを生成して回転する動作について説明する。前記のCCWトルクの生成と同様である。A相の電流Iaは、
図47のIaより30°位相の遅れた電流を通電することにより負のトルクが得られる。B相の電流Ibは、
図47のIaより60°位相の遅れた電流を通電することにより負のトルクが得られる。C相の電流Icは、
図47のIaより90°位相の遅れた電流、すなわち、
図47のIaと同じ電流を通電することにより負のトルクが得られる。そして、ロータ回転角位置θrに応じて前記電流Ia、Ib、Icを通電することにより、
図46の合計電圧Vtの472に示す、CWの一定トルクを得ることができる。
【0009】
図46の従来リラクタンスモータの優れている点として、ロータが単純構造で堅牢であるため、高速回転が容易であることが挙げられる。また、永久磁石を使用せずに駆動することができる。リラクタンス力である吸引力によりトルクを発生し、駆動アルゴリズムが比較的単純である。ステータ巻線も突極への集中巻き構成で、簡素であり製作が容易である。そして何より、低コストなモータシステム実現の可能性がある。
【0010】
次に、
図46の従来リラクタンスモータの問題点について説明する。前記のモータ構成、前記の動作説明に関連する問題点である。第1の問題点は、リラクタンスモータの騒音の問題である。特に、高速回転で大きなトルクを出力する時の駆動騒音が非常に大きい。ハイブリッド自動車の主機用モータとして使用されている永久磁石型同期モータの騒音より遙かに大きいことが良く知られている。
【0011】
図46の従来リラクタンスモータの第2の問題点は、連続定格トルクが同一モータサイズの永久磁石型同期電動機に比較して劣ることである。また、連続定格トルクの3倍以上の大きなトルクも望まれる。一般的に、大きなトルク領域では力率の低下などによりトルク定数が低下する傾向があり、大型化し、重量の問題もある。第3の問題点は、トルクリップルが大きいことである。第4の問題点は、高速回転は可能であるが、高速回転での安定で均一なトルク出力が困難な点がある。第5の問題点は、力率が低く、インバータが大型化することである。特に、電気自動車の主機用モータとしては、連続定格トルクの3倍以上の大きなトルクが必要であり、力率の問題、トルクリップルの問題が増大する。
【0012】
以上のように、
図46などの従来のリラクタンスモータは優れた点もあるが、問題点が多い。これらの問題の大半を解決することにより、リラクタンスモータを電気自動車の主機用モータとして実用化できるようになり、従来の永久磁石型同期モータに対する競争力を持ち、魅力的なモータとすることができると考える。なお、前記問題点の諸原因と、本発明構成およびその効果については、後に詳しく説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の第1の課題は、前記第1の問題点を解決することであり、リラクタンスモータの騒音の低減である。本発明の第2の課題は、前記第2の問題点を解決することであり、リラクタンスモータの連続定格トルクの改善である。また、連続定格トルクの3倍以上の大きなトルクも望まれる。本発明の第3の課題は、前記第3の問題点を解決することであり、リラクタンスモータのトルクリップルの低減である。使用頻度の多い低トルク領域だけでなく、大きなトルクを発生する時のトルクリップルの改善も必要である。本発明の第4の課題は、前記第4の問題点を解決することであり、リラクタンスモータの高速回転での安定で均一なトルク出力が求められる。本発明の第5の課題は、前記第5の問題点を解決することであり、リラクタンスモータの大きなトルク出力時の力率の改善、インバータが小型化である。なお、これらの課題の対策案は他の課題と背反関係となっていることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、用途として電気自動車の主機用モータなどを目指しており、片方向回転を優先するモータである。順回転および順回転方向トルクを優先するモータとして前記諸課題を解決する。順回転方向トルクを優先することにより、モータ形状、特性の自由度が得られ、優れた特性が得られる。なお、逆回転方向トルクの性能は、従来リラクタンスモータ程度である。なお、個々の改良技術には長短の両方が発生することが多く、前記の従来リラクタンスモータの第1の問題点から第5の問題点までを総合的に改善しなければ、リラクタンスモータの競争力を改善できない。
【0016】
本発明の概要として、特に片方向回転、片方向トルクを優先して、リラクタンスモータのロータ磁極の進行方向の一部形形状を変形し、あるいは、磁気抵抗を大きくし、各相のトルク発生範囲を拡大し、また、電流の増減時間を確保して騒音を低減する。この駆動方法による銅損の増加分は、全節巻き巻線として銅損を低減する。全節巻き巻線では過大電圧が発生する弊害が発生するが、過大電圧を相殺する巻線構成とその駆動回路とにより前記弊害を低減し、かつ、駆動回路を小型化する。
【0017】
請求項1に記載の発明は、ステータの円周方向に配置する(SN×MN)個以上のステータ磁極SPと、 各ステータ磁極を励磁する各ステータ巻線SWと、ロータの円周方向に磁気的に分離して配置する(RN×MN)個以上のロータ磁極RPの一部であって、円周方向の片方向端に位置する第1のロータ磁極部RPB1と、前記ロータ磁極部RPB1の円周方向に隣接して配置する第2のロータ磁極部RPB2とを備え、前記第1のロータ磁極部RPB1のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の単位角度幅当たりの磁気抵抗値をMRPB1とし、前記第2のロータ磁極部のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の単位角度幅当たりの磁気抵抗値をMRPB2として、前記磁気抵抗値MRPB1は前記磁気抵抗値MRPB2より20%以上大きく、前記ロータ磁極RPの円周方向角度幅θBrは前記ステータ磁極SPの円周方向角度幅θSrより大きく、ロータの回転駆動は前記第2のロータ磁極部RPB2から前記第1のロータ磁極部RPB1の方向へ回転し、前記ステータ磁極SPを励磁する電流サイクルの始めと終わりの部分では2つ以上の前記ステータ磁極SPを励磁して各ロータ磁極RPを駆動し、それらのトルク発生区間の一部が重複するように駆動し、前記の各ステータ磁極SPを通電して励磁する各相の電流サイクルの波形において、通電する電流サイクルの前半で電流値を増加し、電流サイクルの後半にかけて電流値を減少して電流減少時の電流変化率を低減することにより前記ステータ磁極SPと前記ロータ磁極RPとの間のラジアル方向吸引力の変化率を低減することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。ここで、SNは6以上の整数、RNは4以上の整数、MNは1以上の整数とする。
この構成によれば、各ステータ磁極に作用するラジアル方向吸引力の増減を低減し、各ステータ磁極に作用するトルクの変動を低減し、リラクタンスモータの騒音を低減することができる。平均トルクの向上、トルクリップルの低減、最大トルクの向上と力率改善の効果もある。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ磁極部RPB2の円周方向に隣接して配置する第3のロータ磁極部RPB3を備え、前記第3のロータ磁極部のロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の磁気抵抗値をMRPB3とするとき、ロータの円周方向の単位角度幅当たりの前記磁気抵抗値MRPB2は前記磁気抵抗値MRPB3より20%以上大きいことを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、請求項1の効果をさらにきめ細かな特性とすることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記第1のロータ磁極部RPB1のラジアル方向磁気抵抗MRPB1、前記第2のロータ磁極部のラジアル方向磁気抵抗MRPB2、前記第3のロータ磁極部RPB3のラジアル方向磁気抵抗MRPB3、および、前記各ロータ磁極RPの相互の円周方向隙間のラジアル方向磁気抵抗MRPMとを電磁鋼板に施す複数の細長い穴や四角、丸などの各種形状の穴、凹み、および、電磁鋼板厚みを薄くした部分を用いて作成し、前記電磁鋼板をロータ軸方向に積層して前記各磁気抵抗の所望の比となるように構成することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、電磁鋼板の内部形状の工夫により、様々な磁気特性を得ることができ、積層してロータコアを製作できるのでロータ製作を容易化することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1において、電気角で180°の位相差、あるいは、360°の位相差の円周方向位置に配置する複数のロータ磁極RPXが相互に磁気的に異なる特性であって、前記の複数のロータ磁極RPXの各位相のラジアル方向磁気抵抗の電気角で180°の整数倍の位置の平均値がMRPB1、MRPB2、あるいは、MRPB3の前記各磁気抵抗値となるように構成することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、ロータの電磁鋼板の製作をより単純化できる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1において、スロットSSTY1と、スロットSSTY1の円周方向の隣のステータ磁極PRY1と、スロットSSTY1の円周方向の逆方向隣のステータ磁極PRY2と、前記ステータ磁極PRY1に与えるべき集中巻き巻線WPRY1の励磁電流IPRY1と前記ステータ磁極PRY2に与えるべき集中巻き巻線WPRY2の励磁電流IPRY2を仮定して、前記巻線WPRY1と巻線WPRY2とを統合して前記スロットSSTY1へ巻回した巻線WPRY3とを備え、巻線WPRY3を前記スロットSSTY1とその円周上の他のスロットSTY2へ巻回し、前記巻線WPRY3へ前記励磁電流IPRY1と励磁電流IPRY2とを加算した電流IPRY3を通電する
ことを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、巻線の抵抗値を最小1/2とすることができ、銅損を低減でき、モータ効率を向上できる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項1において、スロットSSTY1と、スロットSSTY1の円周方向の隣のステータ磁極PRY1と、スロットSSTY1の円周方向の逆方向隣のステータ磁極PRY2と、前記ステータ磁極PRY1に与えるべき集中巻き巻線WPRY1の励磁電流IPRY1と前記ステータ磁極PRY2に与えるべき集中巻き巻線WPRY2の励磁電流IPRY2を仮定して、前記巻線WPRY1と巻線WPRY2とを統合して前記スロットSSTY1を統合してた巻線WPRY4とを備え、前記巻線WPRY4を前記スロットSSTY1とSSTY1のバックヨークの外側を通して巻回し、前記巻線巻線WPRY4へ前記励磁電流IPRY1と励磁電流IPRY2とを加算した電流IPRY3を通電することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、巻線の抵抗値を最小1/2とすることができ、銅損を低減でき、モータ効率を向上できる。また、ステータの軸方向長さの短縮、モータの冷却性能を改善できる可能性もある。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1において、 円周方向に並んで配置するN極のステータ磁極とS極のステータ磁極と、前記N極のステータ磁極の歯の先端部近傍と前記S極のステータ磁極の歯の先端部近傍の間に配置する永久磁石PM1と、前記N極のステータ磁極および前記S極のステータ磁極の歯の先端部近傍の円周方向幅の最大値をLtfとして、ステータの歯先とバックヨークとの中間部の歯の円周方向幅Ltsが(0.9×Ltf)以下であることを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、歯の等価的な比透磁率を改善でき、巻線を配置するスロットの断面積を増加させることができ、巻線抵抗を低減することによりリラクタンスモータの損失を低減し、効率を改善できる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項1において、モータ内の磁束を通過する主な軟磁性体MM1と、飽和磁束密度が前記軟磁性体MM1より大きい特性を示す軟磁性体MM2とを使用し、前記軟磁性体MM2をステータ磁極であるステータの歯の1/2以下の部分に使用し、前記軟磁性体MM2をロータ磁極であるロータの歯の1/2以下の部分に使用する
ことを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、ステータの歯とロータの歯が磁気飽和し易い動作点において、磁気特性を改善し、トルクを増加させることができる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、請求項1において、ステータの円周方向に隣り合わせに配置した2個以上のN極のステータ磁極と、ステータの円周方向に隣り合わせに配置した2個以上のS極のステータ磁極と、前記N極のステータ磁極と前記S極のステータ磁極との間のバックヨークへステータ磁極の磁性に合わせて配置する永久磁石PM2と、
前記永久磁石PM2と磁気的に並列に配置して、前記N極のステータ磁極と前記S極のステータ磁極との間磁束を通過する軟磁性体のバイパス磁路とを備えることを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、リラクタンスモータの励磁電流を低減することができ、トルクを向上し、力率を改善することができる。
【0026】
請求項10に記載の発明は、請求項1において、N極のステータ磁極とS極のステータ磁極を円周上に交互に配置し、前記N極のステータ磁極と磁気的に接続するバックヨークBY1と、前記S極のステータ磁極と磁気的に接続するバックヨークBY2と、前記バックヨークBY1と前記バックヨークBY2との間へステータ磁極の磁性に合わせて配置した永久磁石PM3とを備えることを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、リラクタンスモータの励磁電流を低減することができ、トルクを向上し、力率を改善することができる。同時に、前記の巻線抵抗の低減技術と両立させることができる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、請求項1において、前記ロータ磁極RPのそれぞれの前記磁気抵抗値MRPB1は前記磁気抵抗値MRPB2より2倍以上大きく、モータの基底回転数以上の高速回転の制御において、前記それぞれのステータ磁極SPの励磁は、前記それぞれのロータ磁極の第1のロータ磁極部RPB1がさしかかって対向する時に励磁してトルクを生成する制御を行うことを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、高速回転においてモータ電圧を抑制することができ、高速回転におけるトルクの増加、定出力特性の実現、トルク脈動の低減を行うことができる。
【0028】
請求項12に記載の発明は、請求項1において、モータが回転をしている状態で2組のステータ磁極が同時に回生トルクを生成可能な領域での回生制御において、時間的に回生トルクが先行するステータ磁極の励磁電流を徐々に減少し、同時に時間的に後行するステータ磁極の励磁電流を徐々に増加させて、モータ全体の回生トルクの脈動が小さくなるように制御することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、回生時のトルク脈動を低減することができる。
【0029】
請求項13に記載の発明は、請求項1において、ステータ磁極のエアギャップに面した形状とロータ磁極のエアギャップに面した形状とを相互に逆の形状とする、あるいは、ステータの歯形状とロータ歯形状の両方を変形して相対的に等価な磁気特性とすることを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、ステータ磁極形状を変形することにより、より多彩な磁気特性を実現することができる。
【0030】
請求項14に記載の発明は、請求項1において、ステータ磁極SP1とステータ磁極SP2とステータ磁極SP3とを円周方向に並べて配置し、各ステータ磁極SP1の円周方向の両隣のスロットに配置する巻線SW1と巻線SW2と、各ステータ磁極SP2の円周方向の両隣のスロットに配置する前記巻線SW2と巻線SW3と、各ステータ磁極SP3の円周方向の両隣のスロットに配置する前記巻線SW3と巻線SW4と、前記巻線SW1に直列に接続した電力素子PE1と、前記巻線SW2に直列に接続した電力素子PE2と、 前記巻線SW3に直列に接続した電力素子PE3と、前記巻線SW4に直列に接続した電力素子PE4と、正端子と負端子を出力する直流電源とを備え、前記電力素子PE1と前記巻線SW1と前記巻線SW2と前記電力素子PE2とを直列に接続し、前記電力素子PE2と前記巻線SW2と前記巻線SW3と前記電力素子PE3とを直列に接続し、前記電力素子PE3と前記巻線SW3と前記巻線SW4と前記電力素子PE4とを直列に接続して各巻線に励磁電流を通電して各ステータ磁極を励磁することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、巻線に作用する不要な電圧成分を除去して、過大電圧を除去し、効率良くリラクタンスモータの電流を通電することができる。同時に、インバータの電流容量を1/2に低減し、インバータの大幅な小型化を実現することができる。
【0031】
請求項15に記載の発明は、請求項1において、ステータ磁極SP11とステータ磁極SP12とステータ磁極SP13とステータ磁極SP14とステータ磁極SP15とステータ磁極SP16と、前記ステータ磁極SP11とステータ磁極SP12との間に配置する巻線SW11と、前記ステータ磁極SP12とステータ磁極SP13との間に配置する巻線SW12と、前記ステータ磁極SP13とステータ磁極SP14との間に配置する巻線SW13と、正端子と負端子を出力する直流電源と、前記正端子に接続する電力素子PE11と電力素子PE12と電力素子PE13と、前記負端子に接続する電力素子PE14と電力素子PE15と電力素子PE16と、ダイオードDD11とダイオードDD12とダイオードDD13とを備え、前記巻線SW11と前記ダイオードDD11と前記巻線SW12と前記ダイオードDD12と前記巻線SW13と前記ダイオードDD13とを直列に接続し、前記各電力素子により前記巻線SW11、SW12、SW13の内の2個の巻線へ直列に電圧を印加して各電流を制御することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、巻線に作用する不要な電圧成分を除去して、過大電圧を除去し、効率良くリラクタンスモータの電流を通電することができる。
【0032】
請求項16に記載の発明は、請求項9、10において、ステータ磁極SP21と、ステータ磁極SP21を電流IS21を通電して励磁する巻線SW21と、ステータ磁極SP22と、ステータ磁極SP22を電流IS22を通電して励磁する巻線SW22とを備え、ある回転角位置において、巻線SW21へ正の電流IS21を通電して指令方向のトルクを発生し、他方の巻線SW22へ正の電流IS22を通電すると指令とは逆方向のトルクを発生する関係である時、巻線SW22へ負の電流IS22を通電して指令方向のトルクを増加することを特徴とするリラクタンスモータの構成である。
この構成によれば、より効果的のトルクを発生することができるので、リラクタンスモータを小型化することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の新規な技術により、リラクタンスモータの低騒音化、連続定格トルクの改善、最大トルクの増加、トルクリップルの低減、高速回転領域でのトルク増加とトルクリップルの低減、力率の改善、モータの効率改善による小型化と低コスト化、インバータの小型化と低コスト化を実現することができる。リラクタンスモータの特徴とこれらの改良の結果、従来の永久磁石型同期モータを使用した駆動システムに対して、競争力のあるリラクタンスモータ駆動システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図3】励磁電流と磁束密度の関係、および、ロータ回転角と歯の磁束の関係である。
【
図4】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図5】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図6】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図7】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図10】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図11】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図12】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図13】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図14】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図15】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図17】電磁鋼板へ穴加工などをしたロータ横断面図の例である。
【
図18】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図19】2極対化した本発明モータの横断面図の例である。
【
図20】全節巻き巻線とした本発明モータの横断面図の例である。
【
図21】全節巻き巻線に作用する磁束成分を示す図である。
【
図22】全節巻き巻線とした2極対の本発明モータの横断面図の例である。
【
図23】各スロットの巻線をトロイダル巻線とした横断面図の例である。
【
図24】巻線長とコイルエンド長を短縮したトロイダル巻線の例である。
【
図25】本発明モータをデュアルモータとした横断面図の例である。
【
図26】ステータ磁極の歯間に永久磁石を配置したモータの横断面図の例である。
【
図27】モータの主とする軟磁性材料の構成に、部分的に異種材料を配置した構成の例である。
【
図29】バックヨークに永久磁石を配置した本発明モータの横断面図の例である。
【
図30】バックヨーク部をN極用とS極用にラジアル方向へ分離した本発明モータの横断面図の例である。
【
図31】バックヨーク部をN極用とS極用にロータ軸方向へ分離した本発明モータの横断面図の例である。
【
図32】本発明のリラクタンスモータの制御ブロックダイアグラムである。
【
図33】本発明モータのステータ磁極とロータ磁極の水平展開図である。
【
図34】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図35】回生時にトルク脈動を低減する電圧、電流、トルクの例である。
【
図36】従来のリラクタンスモータの駆動回路の例である。
【
図38】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図39】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図41】本発明モータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図46】従来のリラクタンスモータの横断面図である。
【
図47】従来のリラクタンスモータの電圧、電流、トルクの例である。
【
図48】従来のリラクタンスモータのトルク特性の例である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0035】
図1に本発明のリラクタンスモータの横断面図の例を示す。ステータの磁極が6個でロータの磁極が4個のリラクタンスモータで、スイッチトリラクタンスモータとも言われている。19はステータ、1Bはロータ軸である。1J、1K、1L、1Mはロータの磁極で、その円周方向角度幅θBrは30°より大きく、全周の4か所に等間隔に配置している。
図46に示した従来のリラクタンスモータの例に比較して、ロータの突極磁極の円周方向角度幅θBrが異なり、さらには、ロータ磁極の内部形状、磁気抵抗などが異なる。このロータ磁極の形状、特性のいくつかの例について、後に詳細に説明する。
【0036】
図1の11はA1相のステータ磁極で、集中巻巻線17、18を破線で示すように巻回している。このモータの各巻線の電流は片方向電流で、各巻線を電流シンボルで示している。巻線17は丸印にXを書き入れた電流シンボルで、紙面の表側から裏側へ流れる電流である。巻線18は丸印に点を書き入れた電流シンボルで、紙面の裏側から表側へ流れる電流を通電する。従って、電流を通電する時は、A1相のステータ磁極11はS極となる。12はA1相とは逆相の関係となるA1/相のステータ磁極で、集中巻巻線1C、1Dを破線で示すように巻回している。A1/相の電流を通電すると、A1/相のステータ磁極12はN極となる。11と12を同時を励磁してロータに矢印1Eで示す磁束を、紙面の下側から上側へ、ステータ磁極12、ロータ磁極1L、ロータ磁極1J、ステータ磁極11へ通過させる。そして、その磁束はバックヨークを通って一巡する。
図1の状態では、ロータに反時計回転方向CCWのトルクが発生する。
【0037】
13、14は、A1相とA1/相のステータ磁極と同様に、B1相とB1/相のステータ磁極である。それぞれに励磁用巻線を巻回している。15、16は、同様に、C1相とC1/相のステータ磁極である。それぞれに励磁用巻線を巻回している。各ステータ磁極の円周方向幅は30°で、全周の6か所に等間隔に配置している。
【0038】
各ロータ磁極1J、1K、1L、1Mを円周上に均等に配置している。ロータの回転角位置θrは、その中で、ロータ磁極1Jの位置で定義する。
図1に示すように、A1相のステータ磁極11の時計回転方向端の回転角位置をロータの始点と定義する。ロータ回転角位置θrは、この始点からロータ磁極1JのCCW方向端部までの回転角とする。なお、ロータの突極磁極の円周方向角度幅θBrは、モータの種類によりロータ形状が異なり、求めるモータ特性に応じて種々の値を取ることができる。
【0039】
ここで、電気自動車の主機用モータに求められる特性の例を
図2に示す。この特性は本発明のリラクタンスモータが目標とする性能の例でもある。横軸は回転数で、最高回転数は10,000rpmである。縦軸はトルクTで、連続定格トルク33Nm、最大トルク100Nmである。
図2のAで示す領域は、自動車の主機用途で急坂道の登坂運転などで必要となり、低速回転の大トルク領域は重要な特性である。大きな電流を通電するため一般的に力率も低下し銅損が増加するため、熱的に過酷な運転領域であり、モータの大きさに影響する運転領域であることが多い。
図2のBで示す領域は高速回転領域で、自動車の高速走行で必要となる。従来のリラクタンスモータでは回転はできるものの、トルク脈動が大きくなり、騒音も大きくなり、トルクの発生も容易ではない。従来の磁石式同期モータでは、界磁弱めのために力率が低下し、電圧、電流が増大する問題、インバータが大型化する問題がある。特に、領域Aの低速回転、大トルクと、領域Bの高速回転での定出力特性とは、モータ技術的に磁束の量が相反する面があり、トレードオフの関係になることがある。
【0040】
図2のCで示す領域は定出力領域で、基底回転数は2,500rpmなので最大出力は26.18kWとなる。
図2のDで示す領域は自動車の市街地走行で使用頻度の高い領域であるが、モータ、インバータの大きさ、重量、コストには影響しない領域である。しかし、静粛性が求められ、騒音、振動の低減が必要な領域である。
【0041】
図47における従来リラクタンスモータの説明では、磁気特性を単純にモデル化した磁気特性、トルク特性を示したが、特許文献1にも示されているように、
図48の例に示すようなトルク特性となる。ロータ回転角θrが0°から30°の間で矩形波状の特性とはならず、θrが30°に近づくにつれトルクが大幅に低下する。このトルク低下の原因は単純ではないが、軟磁性体の部分的な磁気飽和特性の問題とステータの歯及びバックヨークの全磁路の磁気飽和の問題、および、漏れ磁束の問題等がある。
【0042】
図3の(a)の実線は電磁鋼板などの軟磁性体の磁気特性の例で、励磁電流Ifと共に磁束密度が増加するが、1.6[T]を超えた辺りから比透磁率が低下し、磁束密度2.0[T]近辺で磁気的に飽和する。
図3の(b)は、
図46、
図47、
図48に示したロータ回転角θrとステータの歯を通過する磁束の大きさφ[Wb]の関係である。ロータ回転角θrが15°の近辺までは比較的線形で、ステータの突極磁極の角部とロータの突極磁極の角部との間に磁束が通過する。ロータ回転角θrが30°の近辺ではステータとロータの歯およびバックヨークの磁路全体の磁気抵抗が大きくなり、磁束の増加が低下する。これらの問題の改善についても後に述べる。
【0043】
図48でロータ回転角θrが30°の近傍では騒音の問題がある。30°の近傍ではトルクが減少してきて、30°を超えると負のトルクが発生する。従って、30°の手前で該当するステータ磁極の励磁電流を減少する必要がある。また、ロータ回転角位置θrが30°に近づくと、A相のステータ磁極とロータ磁極とのラジアル方向吸引力が増加する。この状態で急激に励磁電流を減少すると、ステータ磁極とロータ磁極とのラジアル方向吸引力が急激に減少することになり、ステータのバックヨーク部が変形、振動する。その結果、モータのバックヨーク部および周辺から大きな騒音を発生することになる。また、ロータの回転と共に共振的な現象となり大きな騒音を発生する。
【0044】
また、各相のトルクが
図48のようなトルク特性であれば、トルクが大きく脈動することになり、トルクリップルの問題がある。また、各相トルクが
図48の30°近傍のようにトルクが低下すれば、平均トルクが低下する問題もある。
【0045】
次に、前記の
図1のリラクタンスモータの具体的な動作例として、その動作、電圧、電流、トルクについて
図4、
図5に示し、説明する。CCWへ回転して、CCWのトルクあるいはCWのトルクを発生する動作である。
図4の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図4の横軸方向となるように直線展開した図である。
図4の縦軸方向はロータ軸方向である。
図4の11はA1相ステータ磁極、12はA1/相のステータ磁極、13はB1相ステータ磁極、14はB1/相ステータ磁極、15C1相ステータ磁極、16はC1/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが30°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0046】
図4の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図1のCCWの円周方向が
図4の横軸方向、即ち、
図4の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図4の最下段にロータ回転角位置θrの値を示している。
図1において、ロータの始点はA1相のステータ磁極11の時計回転方向端の回転角位置とし、ロータ回転角位置θrは、その始点からロータ磁極1JのCCW方向端部までとした。
図4におけるロータの始点は、紙面において、ステータ磁極11の左端である。その点の最下段のロータ回転角位置θrの値を0°としている。
図4におけるロータ回転角位置θrは、前記始点からロータ磁極4Jの右端までである。
図4において、ロータ磁極4Jの右端はCCWの先端でもある。
図4の(b)のロータの回転角位置θrは0°であり、このθrは-90°から360°までを示している。-90°から0°までは、270°から360°までと同じで、視覚的な見易さのため、拡張して表示している。破線で示すステータ磁極SP、ロータ磁極RPは、重複して示している。
【0047】
次に、ロータ磁極の形状について説明する。
図4の(b)のロータ磁極4Jは、
図1のロータ磁極1Jに相当するが、
図4の特有のロータ形状である。
図4の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは60°である。各ロータ磁極のロータ軸方向幅は、CCW方向の前方部の30°幅部分と後方部の30°幅部分が異なる形状となっている。前記前方部の30°幅部分は、ロータ軸方向長さがLs/2である。前記後方部の30°幅部分は、ロータ軸方向長さがLsで、各ステータ磁極SPのロータ軸方向長さと同じ長さである。なお、後で説明するが、これらの形状を変えることにより種々のモータ特性を得ることができる。
【0048】
図4の(c)は、
図4の(b)のロータ位置θr=0°からCCWへ15°回転しており、θrは15°である。
図4の(d)は、さらにCCWへ15°回転し、θrは30°である。
図4の(e)、(f)、(g)は、同様に、ロータを15°ずつCCWへ進めた図である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ステータ磁極SPと各ロータ磁極RPとの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPをそれぞれ適切なタイミングで励磁してロータの回転トルクを得ることができる。
図4ではそれらの動作を視覚的に確認できる。
【0049】
次に、ステータ磁極の各巻線へ電流を通電した時に作用する電圧、モータ出力のパワー、トルクの関係について説明する。但し、電磁気関係を単純にモデル化した場合の特性である。前述のように、
図4のリラクタンスモータのステータ磁極、その巻線、ロータ磁極、磁束の立体的な位置関係は、
図1のリラクタンスモータの横断面図の構成である。今、A1相の巻線17、18とA1/相の巻線1C、1Dを直列に接続し、A1相電流Ia1として連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する状態を考えてみる。
図1のCCW方向は、
図4の紙面の右方向である。この時のA1相の巻線電圧は、
図5の電圧Va1となる。
図5のVa1の横軸は時間tであり、
図5の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。θrが-30°から210°の間の値を示しているが、リラクタンストルクの周期は180°となるので、主にθrが0°から180°の間を示している。前後の30°は見易くするために表示している。
【0050】
A1相の巻線に鎖交する磁束と、A1相の巻線電圧Va1について説明する。最初に、ロータ磁極4Jがθrの0°から30°にさしかかると、ロータ磁極4Jの前方部がA1相のステータ磁極11に、エアギャップを介して対向する。
図4の(b)から(c)そして(d)までの状態である。ロータ磁極4Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。ここで、
図5の電圧は正規化していて、Va1の0°から30°の間の値は0.5として示している。
【0051】
次に、ロータ磁極4Jがθrの30°から60°にさしかかると、ロータ磁極4Jの後方部がA1相のステータ磁極11に、エアギャップを介して対向して行く。ステータ磁極11の円周方向角度幅とロータ磁極4Jの前方部の円周方向角度幅は共に30°なので、θrの30°から60°の時には、ロータ磁極4Jの前方部がA1相のステータ磁極11から外れていく。
図4の(d)から(e)そして(f)までの状態である。ロータ磁極4Jの後方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsと同じである。この結果、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は、前記前方部と後方部の差し引きで、最大値の1/2となる。
図5のVa1の30°から60°の間は0.5として示している。結局、A1相電圧Va1は、0°から60°の間で0.5となる。
【0052】
次に、ロータ磁極4Jがθrの60°から90°にさしかかると、ロータ磁極4Jの後方部がA1相のステータ磁極11から外れていく。
図4の(f)から(g)、そしてθr=90°の位置までである。ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の変化率は、この間は、負の最大値となる。
図5のVa1の60°から90°の間は-1.0として示している。なお、θrが90°となると、後方のロータ磁極1KがA1相のステータ磁極11へ対向し始め、θrが0°の状態から繰り返す。なお、ステータ磁極11、12とロータ磁極4J、1Fとが対向した部分に、磁束がエアギャップ部を介して通過すると仮定する単純モデルとしている。
【0053】
同様に、13、14のB1相の巻線とB1/相の巻線を直列に接続し、B1相電流Ib1として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図5の電圧Vb1となる。同様に、15、16のC1相の巻線とC1/相の巻線を直列に接続し、C1相電流Ic1として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図5の電圧Vc1となる。電圧Va1、Vb1、Vc1は相互に30°の位相差となっている。
【0054】
次に、各ステータ磁極の巻線の電流、巻線に鎖交する磁束、巻線に発生する誘起電圧、そのステータ磁極が発生するトルクの関係について、数式で示す。ただし、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。軟磁性体は2.0テスラで磁気飽和し、2.0テスラ以下の領域では線形で比透磁率は2000以上などと十分に大きい。電流により励磁された磁束は、ステータ磁極とロータ磁極との間の狭いエアギャップ部のみを通って生成され、周辺の漏れ磁束は発生しない。このエアギャップ部の磁気抵抗、各巻線抵抗は無視する。以上の簡素化条件である。それらの数式を記載する目的は、本発明リラクタンスモータの各部形状と電圧、電流、トルク、パワーの関係を定性的に示し、特定条件の下で定量的にも明らかにすることである。また、本発明リラクタンスモータを説明する都合上、特定条件の下で電圧とトルクが比例することを示すことでもある。
【0055】
次に、連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する状態における、A相、B相、C相の磁束φa、φb、φc[Wb]と電圧Va、Vb、Vc[V]とリラクタンスモータの出力パワーPa、Pb、Pc[W]とトルクTa、Tb、Tc[Nm]の関係を次の各式に示す。なお、本発明で示す
図4、
図6、
図10、
図12、
図14などのリラクタンスモータへも適用できるように、一般化した式で示す。
【0056】
A相ステータ磁極に関して、ロータ磁極各部の(ロータ軸方向長さ)/(ステータの軸方向長さLs)を軸方向長さ比Kraとする。具体的には、(Kra×Ls)は、ロータ磁極が回転してA相のステータ磁極に対向してさしかかる部分のロータ磁極の軸方向長さである。例えば、ロータ磁極のロータ軸方向長さがLsの部分ではKra=1で、ロータ磁極のロータ軸方向長さがLs/2の部分ではKra=0.5で、ロータが無い部分ではKra=0となる。
【0057】
図1のA1相ステータ磁極11とロータ磁極1Jのような状態で、ステータ磁極とロータ磁極が対向する部分において、通過する磁束φの微少変化率Δφ、ロータの微少回転角Δθrは次式(1)となる。ロータ半径をRrとする。
Δφa=Kr×Ls×Bo×Δθr×Rr (1)
dφa/dθr=Kra×Ls×Bo×Rr (2)
Boはステータ磁極の巻線へ一定電流Ioを通電した状態で、ステータ磁極とロータ磁極が対向する部分へ生成される磁束の磁束密度Boである。
【0058】
前記の一定速度Vsoは、一般化して次のようにも書ける。
Vso=dθr/dt (3)
A相巻線に誘起する電圧Vaは、2個のステータ磁極に巻いた巻線を直列に接続しているので、両巻線の巻き回数の和をNwaとし、巻線抵抗を無視して、(4)式となる。そして、(5)式に変形できる。なお、巻線電圧は、磁束鎖交数(Nwa×φa)の時間変化率である。
Va=Nwa×dφa/dt (4)
=Nwa×(dφa/dθr)×(dθr/dt)
=Kra×Ls×Nwa×Bo×Rr×Vso (5)
(5)式において、(Ls×Nwa×Bo×Rr×Vso)は一定値と仮定しているので、電圧Vaは前記軸方向長さ比Kraに比例した値となる。なお、前記の「
図5の電圧は正規化して」とは、(5)式において一定値である(Ls×Nwa×Bo×Rr×Vso)を1と仮定することである。
【0059】
A相巻線が供給する電力Paは、電圧と電流の積であり、次式となる。
Pa=Va×Io (6)
そして、A相が発生するトルクTaは、供給電力と機械的パワーが等しいと仮定して、次式となる。
Ta=Pa/Vso (7)
=Va×Io/Vso (8)
(8)式において、Io/Vsoは一定値なので、A相トルクTaは、A相電圧Vaに比例した値となる。なお、パワーは[W]、トルクは[Nm]、電圧は[V]、電流は[A]、速度は[ラジアン/sec]、LsとRrは[m]の単位としている。
【0060】
(2)式から(8)式の関係は、B相、C相についても同じなので、次式の関係となる。
Vb=Krb×Ls×Nwa×Bo×Rr×Vso (9)
Vc=Krc×Ls×Nwa×Bo×Rr×Vso (10)
Tb=Vb×Io/Vso (11)
Tc=Vc×Io/Vso (12)
ここで、KrbはB相の軸方向長さ比、KrcはC相の軸方向長さ比である。但し、これらはステータ磁極とロータ磁極が対向する区間において成立する式である。
【0061】
図5で説明した前記A1相電圧Va1、B1相電圧Vb1、C1相電圧Vc1は、(5)、(9)、(10)式と一致する。そして、(8)、(11)、(12)式より、
図4のリラクタンスモータに関する各相トルクTa1、Tb1、Tc1は、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧Va1、Vb1、Vc1に比例する。その意味で、
図5の各相電圧Va1、Vb1、Vc1の下に各相トルクTa1、Tb1、Tc1を括弧付きで付記している。
【0062】
次に、
図4のリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法について説明する。
図5のA1相トルクであるTa1が正トルクを生成する区間は、θrが0°から60°と90°から150°であり、
図5のIa1Fに示す電流を通電する。
図5のB1相トルクであるTb1が正トルクを生成する区間は、θrが30°から90°と120°から180°であり、
図5のIa1Fに対して位相が30°遅れた電流Ib1Fを通電する。
図5のC1相トルクであるTc1が正トルクを生成する区間は、θrが60°から120°と150°から210°であり、
図5のIa1Fに対して位相が60°遅れた電流Ic1Fを通電する。
図5に示す各相のCCWの電圧、トルクは0.5の大きさである。しかし、各相のトルク発生区間が30°づつ重なって、常時、3相の内の2相がトルクを発生する。その結果、各相トルクの和は、
図5のTt1の51に示す1.0の値で、一定トルクとなる。
【0063】
次に、
図4のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図5を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図5のA1相トルクであるTa1が負トルクを生成する区間は、θrが60°から90°と150°から180°であり、
図5のA1相電流Ia1Rに示す電流を通電する。
図5のB1相トルクであるTb1が負トルクを生成する区間は、θrが90°から120°と180°から210°であり、図示していないが、
図5のIa1Rに対して位相が30°遅れたB1相電流を通電する。
図5のC1相トルクであるTc1が負トルクを生成する区間は、θrが120°から150°と30°から60°であり、図示していないが、
図5のIa1Rに対して位相が60°遅れたC1相電流を通電する。
【0064】
各相トルクの和は、
図5のTt1の52に示す値で、負の一定トルクとなる。この場合、各相の負トルク発生区間が重なる部分は無く、各相のトルクが交互に負トルクを発生し、負の一定トルクを生成する。なお、
図5のVt1は、各相トルクの和に相当し、各相の動作電圧を足し合わせた仮想の電圧である。また、CW方向のトルクを生成するアルゴリズムは、基本的に回転方向、回転数には関係なく生成できるが、
図5を使用してCCWトルクと対比して説明する都合上、CCW回転時のCWトルクについて説明した。
【0065】
図46、
図47、
図48に示した従来のリラクタンスモータは、騒音の問題、トルクリップルの問題、平均トルク低下の問題があることを示した。これに対し、
図4、
図5に示したリラクタンスモータの特長は、各相のトルク発生区間が広くなることと、各相のトルク発生区間が相互に重複することである。
図5に示すように、各相のトルク発生範囲が重複するので、単純に各相のトルク脈動が相殺する効果と、種々対応策も容易となる。
【0066】
騒音の問題に対しては、例えば、
図5の各相の電流を前半30°では大きめにし、後半30°では電流値を小さめにする方法が考えられる。具体的には、
図5のロータ回転角θrの0°から30°の辺りまではA1相電流Ia1を大きめにし、30°から60°にかけて小さめにする。この時同様に、B1相電流Ib1は30°から60°の辺りまでは大きめにし、60°から90°にかけて小さめにする。そして、C1相電流Ic1は60°から90°の辺りまでは大きめにし、90°から120°にかけて小さめにする。このように、各相の電流通電方法を修正して、各相の電流を0[A]に減少するときの電流変化率を低減することにより、ラジアル方向吸引力の変化率を低減し、モータのバックヨーク、ケースなどの振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0067】
また、
図5に示す3相のトルク波形Ta1、Tb1、Tc1の正側から解るように、トルク発生幅が広く、永久磁石型の3相交流同期モータをいわゆる120°通電で駆動する場合と類似したトルク波形である。従って、ステータの歯、ロータの歯の円周方向の変形、振動も低減し、騒音を低減することができる。
【0068】
トルクリップルの問題については、
図48の特性から類推できるように、
図5のA1相トルクTa1は0°から30°近傍までのトルクが比較的大きく、60°に近づくにトルクが低下して行く。しかし、B1相トルクTb1は30°から60°の間では比較的大きく、A1相トルクTa1の低下を補う関係となっている。
図4、
図5に示した本発明のリラクタンスモータでは、各3相間で同様の関係であり、各相のトルク脈動が相殺する作用があり、トルクリップルが低減している。騒音、振動の低減効果もある。
【0069】
平均トルク低下の問題については、前記のようにA相の場合、トルク定数の大きい0°から30°近傍までの電流を大きめにすることにより補うことができる。但し、
図1、
図4、
図5で示したリラクタンスモータは、各相へ通電する電流の通電区間が2倍に増えるので、リラクタンスモータの銅損は2倍に増加することになる。なお、この銅損の低減については、各ロータ磁極のCCW方向前方部の円周方向長さを短縮するなど、本発明で示す他の技術等で補うこともできる。
【実施例2】
【0070】
次に、本発明の他の例を、
図1、
図6、
図7に示し、説明する。なお、リラクタンスモータの横断面図
図1は、
図4と
図6と
図14で共通に使用して説明する。また、
図6、
図7の表現方法は、
図4、
図5と同様である。ここでは、表現方法などの説明は省略する。
図6に示すリラクタンスモータは、
図4に示したリラクタンスモータとロータの形状が異なる。
【0071】
図6の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図6の横軸方向、即ち、
図6の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図6の紙面の縦軸方向はロータ軸の方向である。
図6の11はA2相ステータ磁極、12はA2/相のステータ磁極、13はB2相ステータ磁極、14はB2/相ステータ磁極、15はC2相ステータ磁極、16はC2/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが30°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0072】
図6の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図1のCCWの円周方向が
図6の横軸方向、即ち、
図6の紙面の右方向となるように直線展開した図である。そして、
図6の最下段にロータ回転角位置θrの値を示している。
図6の(b)のθrは0°である。なお、このθrは-90°から360°までを示している。
【0073】
図6の(b)のロータ磁極6Jは、
図1のロータ磁極1Jと同じものであり、ロータ回転角位置θrは0°である。
図6の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは52.5°である。360度の範囲に、6J、6K、6L、6Mの4個のロータ磁極を配置している。
各ロータ磁極の形状をCCW方向の前方部と後方部に分けて説明すると、CCW方向の前方部は、図示しているように、円周方向角度幅が15°で、ロータ軸方向長さはLs/2である。後方部は、円周方向角度幅が37.5°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0074】
図6の(c)は、
図6の(b)のロータ位置からCCWへ15°回転したロータ形状で、θrは15°である。
図6の(d)は、さらにCCWへ15°回転し、θrは30°である。
図6の(e)、(f)、(g)は、同様に、ロータを15°ずつCCWへ進めた図である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ロータ磁極RPと各ステータ磁極SPの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPの各相巻線へ、それぞれ適切なタイミングで電流を通電して励磁し、ロータの回転トルクを得ることができる。
【0075】
今、A2相の巻線17、18とA2/相の巻線1C、1Dを直列に接続し、A2相電流Ia2として連続定格に近い値の一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する状態を考えてみる。
図1のCCW方向は、
図6の紙面の右方向である。この時の巻線電圧は、
図7の電圧Va2となる。このVa2の横軸は時間tであり、
図7の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
【0076】
最初に、ロータ磁極6Jがθrの0°から15°にさしかかると、ロータ磁極6Jの前方部がA2相のステータ磁極11に、エアギャップを介して対向する。
図6の(b)から(c)の状態である。ロータ磁極6Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。
図7のVa2の0°から15°の間の値は0.5として示している。
【0077】
次に、ロータ磁極6Jが、
図6の(c)のように、θrの15°から30°にさしかかると、ロータ磁極6Jの後方部がA2相のステータ磁極11に、エアギャップを介して対向して行く。ロータ磁極6Jの後方部の軸方向長さはLsであり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値となる。
図7のVa2の15°から30°の間の値は1.0と示している。ロータ磁極6Jが、
図6の(d)のように、θrの30°から45°にさしかかると、ロータ磁極6Jの後方部がステータ磁極11に、さらに対向して行くが、一方、ロータ磁極6Jの前方部がステータ磁極11から外れて行く。この結果、ロータ磁極6Jとステータ磁極11へ通過する磁束の回転変化率は、差し引きで、最大値の1/2となる。
図7のVa2の30°から45°の間の値は0.5と示している。
【0078】
ロータ磁極6Jが、
図6の(e)のように、θrの45°から52.5°の間は、ステータ磁極11の全面がロータ磁極6Jへ対向している。ステータ磁極11へ通過する磁束の回転変化率は0であり、この間の
図7のVa2の値は0となる。ロータ磁極6Jが、
図6の(e)から(f)のように、θrの52.5°から60°の間は、ロータ磁極6Jの後方部がステータ磁極11から外れて行くので、ステータ磁極11へ通過する磁束の回転変化率は、-1となる。ロータ磁極6Jが、
図6の(f)から(g)のように、θrの60°から75°の間は、ロータ磁極6Jの後方部がステータ磁極11から外れて行くので、ステータ磁極11へ通過する磁束の回転変化率は、-1となる。ロータ磁極6Jが、
図6の(f)のように、θrの75°から82.5°の間は、ロータ磁極6Jの後方部がステータ磁極11から外れて行くので、ステータ磁極11へ通過する磁束の回転変化率は、-1となる。結局、θrの52.5°から82.5°の間は、
図7のVa2の値は-1となる。
【0079】
ロータ回転角位置θrが82.5°から90°までの間は、ステータ磁極11に対向するロータ磁極は無く、
図7のVa2の値は0となる。θrが90°になると、ロータ磁極6Kがステータ磁極11にさしかかり、
図6の(b)の状態になって前記動作説明の最初の状態に戻り、その動作を繰り返して、CCWへ連続的に回転する。
【0080】
同様に、
図6の13、14のB2相の巻線とB2/相の巻線を直列に接続し、B2相電流Ib2として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図7の電圧Vb2となる。同様に、15、16のC2相の巻線とC2/相の巻線を直列に接続し、C2相電流Ic2として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図7の電圧Vc2となる。電圧Va2、Vb2、Vc2は相互に30°の位相差となっている。各電圧は、(5)、(9)、(10)式で、値を正規化している。
【0081】
図7で説明した前記A2相電圧Va2、B2相電圧Vb2、C2相電圧Vc2は、(5)、(9)、(10)式と一致する。そして、(8)、(11)、(12)式より、
図6のリラクタンスモータに関する各相トルクTa2、Tb2、Tc2は、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧Va2、Vb2、Vc2に比例する。その意味で、
図7の各相電圧Va2、Vb2、Vc2の下に各相トルクTa2、Tb2、Tc2を括弧付きで付記している。ただし、前記の、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。
【0082】
次に、
図6のリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法について説明する。
図7のA2相トルクであるTa2が正トルクを生成する区間は、θrが0°から45°と90°から135°であり、
図7のIa2Fに示す電流を通電する。前記のように、ロータ回転角位置θrの45°から52.5°の間と、82.5°から90°までの間は、A2相Va2が0[V]の区間なので、前記A2相電流Ia2Fの増加時間、減少時間として利用でき、
図7のIa2Fに示すような台形状の電流とすることができる。なお、通電区間の短縮により銅損を低減できるので、回転数に応じて電流の増減時間を短縮することもできる。
【0083】
図7のB2相トルクであるTb2が正トルクを生成する区間は、θrが30°から75°と120°から165°であり、
図7のIa2Fに対して位相が30°遅れた電流Ib2Fを通電する。
図7のC2相トルクであるTc2が正トルクを生成する区間は、θrが60°から105°と150°から195°であり、
図7のIa2Fに対して位相が60°遅れた電流Ic2Fを通電する。A2相のトルクTa2の正の部分、B2相のトルクTb2の正の部分、C2相のトルクTc2の正の部分を足し合わせると、
図7のTt2の71となり、正の一定トルク1.0となる。以上のように、3相のトルクはそれぞれ0.5と1.0との階段状の特性であるが、3相のトルクを足し合わせると一定トルクとなるようなロータ形状としている。
【0084】
次に、
図6のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図7を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図7のA2相トルクであるTa2が負トルクを生成する区間は、θrの52.5°から82.5°と142.5°から172.5°の間で、
図7のTa2の値は-1となる。この間に
図7のA2相電流Ia2Rを通電する。そして、ロータ回転角位置θrの45°から52.5°の間と、82.5°から90°までの間は、A2相電圧Va2が0[V]の区間なので、前記A2相電流Ia2Rの増加時間、減少時間として利用できるので、
図7のIa2Rに示すような台形状の電流とすることができる。同様に、B2相電流Ib2として、
図7のIa2Rより30°位相の遅れた電流を通電する。同様に、C2相電流Ic2として、
図7のIa2Rより60°位相の遅れた電流を通電する。
【0085】
各相の負のトルクの和は、
図7のTt2の72に示す値で、負の一定トルクとなる。この場合、各相の負トルク発生区間が重なる部分は無く、各相のトルクが交互に負トルクを発生し、負の一定トルクを生成する。なお、
図7の電圧Vt2は、各相トルクの和に相当し、各相の動作電圧を足し合わせた仮想の電圧でもある。また、CW方向のトルクを生成するアルゴリズムは、原理的に回転方向および回転数には関係なく生成できるものであるが、
図7を使用してCCWトルクと対比して説明する都合上、CCW回転時のCWトルクについて説明した。
【0086】
図1、
図6、
図7に示した本発明モータは、前記のように、独特の特性となっている。
騒音の問題に対しては、例えば、
図7の各相の電流を前半では大きめにし、後半では電流値を小さめにする方法が考えられる。具体的には例えば、
図7のロータ回転角θrの0°から15°の辺りまではA2相電流Ia2を大きめにし、30°から45°にかけて小さめにする。この時同様に、B2相電流Ib2は30°から45°の辺りまでは大きめにし、60°から75°にかけて小さめにする。そして同様に、C2相電流Ic2は60°から75°の辺りまでは大きめにし、90°から105°にかけて小さめにする。このように、各相の電流通電方法、すなわち、電流の大きさを修正して、各相の電流が大きな電流値から0[A]に減少するときの電流変化率を低減することにより、ラジアル方向吸引力の変化率を低減することになる。その結果、モータのバックヨーク、ケースなどの振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0087】
また、
図7の電流波形Ia2F、Ia2Rは台形状の電流波形とすることができるので、各相電流の急増、急減などの電流変化率を抑えることにより騒音を低減することができる。また、
図7に示すように、各相のトルクは50%の区間でトルクを発生している。そして、
図7で各相トルクが0.5となる区間では、3相の内の2相がトルクを発生している。このように、各相のステータ磁極が広い区間でトルクを発生すること、そして、3相が相互にトルク発生区間を重複させることにより、より滑らかな回転を実現し、騒音低減が可能である。
【0088】
比較のため、3相の正弦波交流モータの一つの相のトルクを破線で
図7に示す。この破線は正弦波の2乗式であり、その変換式は(SINθ×SINθ)=(1-COS(2θ))/2である。なお、この式および破線は3相交流モータの一つの相の理想的なトルク波形形状であり、その3相分のトルクを加算すると一定値3/2となる。ここで、
図7のTa2の正トルクの部分だけに着目し、階段状のトルク波形を平滑して基本波成分を考えると、前記破線に類似していることが推測できる。従って、
図7の各相の正トルクは、ほぼ矩形波形状の電流で駆動するリラクタンスモータでありながら、3相正弦波で駆動する同期モータのトルクに近い特性が得られるので、騒音、振動の低減が期待できる。また前記の様に、
図6のリラクタンスモータの正側トルクの合計は
図7のTt2の71に示した一定値である。
【0089】
図7の駆動法における銅損について説明する。CCWへ回転するとき、各相の電流は全通電区間の50%で電流を通電することになり、
図47の従来方法の通電区間の33%の場合より銅損が増加することになる。モータの静粛性を優先している。なお、本発明モータの銅損の大幅低減方法とトルクの増大方法については後述する。
【0090】
また、
図6に示す各ロータ磁極の形状は軸方向長さがLs/2の前方部と、軸方向長さがLsの後方部の2段階の形状としているが、種々の形状へ変形することも可能である。例えば、
図7に示すA2相のトルクTa2の正側部分が、(1-COS(2θ))/2により近い特性となるように、ロータ磁極の形状を変形することも可能である。階段形状がより滑らかな形状となる。また、各トルク特性はステータ磁極とロータ磁極との相対的な磁気特性で作れるので、ロータ磁極形状だけでなく、ステータ磁極形状も変形することができる。
【0091】
また、
図6では、各ロータ磁極の前方部のロータ軸方向長さをLs/2していて、ラジアル方向の磁気抵抗値で表現すると2倍、即ち、200%としている。前方部のロータ軸方向長さ、即ち、ラジアル方向の磁気抵抗値は、種々の値を取ることができるが、ロータ磁極の後方部の磁気抵抗値より20%以上大きければ、トルクを出力する角度幅の拡大および低騒音化の効果を発揮することができる。この時、各ステータ磁極が、ステータ磁極の円周方向角度幅より大きい角度幅に渡ってトルクを発生することができる。また、トルク波形を
図7の階段状からより滑らかな形状とする方法として、駆動電流の波形を矩形から台形波あるいはより滑らかな波形にする方法があり、前記のロータ磁極の前方部の形状と合わせて選択できる。
なお、ロータ磁極の前方部のロータ軸方向長さ、即ち、ラジアル方向の磁気抵抗値の設計、製作方法は、後に
図17に示す電磁鋼板への穴加工などが有力な方法であり、渦電流などの磁気特性の点、生産性、量産性の点で優れている。
【0092】
また、ロータ磁極の前方部の円周方向角度幅についても、
図4、
図6、
図10、
図12、
図16に示すように、種々の値、種々の形状を選択できる。各ロータ磁極のトルク発生幅の拡大と低騒音化と銅損の増加および駆動回路の得失が関わる。また、ロータ磁極の前方部の円周方向角度幅は、
図7、
図11、
図13に示すように、後方部の円周方向角度幅の10%以上であればトルク形状の階段化ができるので、トルク発生幅の拡大と低騒音化の効果を期待できる。
【0093】
また、
図1、
図6、
図7に示した本発明モータにおいて、CWのトルクについては、各相トルクの重複期間が無い例について説明したが、各ステータ磁極の円周方向幅を30°から(30°+α)とすれば、αの角度だけCWのトルクも重複させることができる。そして、αの角度についての駆動法も変えることができる。また、ステータ磁極の円周方向前後の形状を、ロータ磁極のように、変えることも可能である。但し、巻線配置のスペースの問題などが発生する。また、ロータ、あるいは、ステータのスキューも可能である。
【実施例3】
【0094】
次に、
図8の(a)に本発明の他のリラクタンスモータの横断面図の例を示す。ステータ磁極が8個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータである。
図8の(a)の表現方法は、
図1と同様である。
図8の(a)のリラクタンスモータの構成は、ロータの中心点に対して点対称の構成として、発生する磁束が電気角で180°反対側へ通過する構成としている。その場合、ステータ磁極の数が4の倍数である場合、円周方向にステータ磁極のN極とS極とを交互に並べられない部分が出てくる。
図8は、ステータ磁極の並び方が一部不規則になる例である。他方、ステータ磁極の数が、
図1の6個、
図9の10個、14個、あるいは、18個などの場合は、円周方向にステータ磁極のN極とS極とを交互に配置できる。
【0095】
図8の101はA3相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線81を巻回し、巻線を電流シンボルで示していて、片方向のA3相電流Ia3をその電流シンボルの方向へ通電する。102はA3/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線81を巻回し、片方向のA3相電流Ia3をその電流シンボルの方向へ通電する。通常、巻線81と巻線82を直列に接続して、両巻線へ同一のA3相電流Ia3を通電する。その時、102はN極となり、101はS極となる。
図8の(a)の状態の場合、励磁される磁束は、ステータ磁極102からロータ磁極10Mと10Jを通り、ステータ磁極101を通り、バックヨークを介して一巡する。その場合、ロータへCCWのトルクが発生する。
【0096】
同様に、103はB3相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線83を巻回する。104はB3/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線84を巻回する。巻線83と巻線84を直列に接続して、両巻線へ同一のB3相電流Ib3を電流シンボルの方向へ通電する。その時、103はN極となり、104はS極となる。
【0097】
同様に、105はC3相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線85を巻回する。106はC3/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線86を巻回する。巻線85と巻線86を直列に接続して、両巻線へ同一のC3電流Ic3を電流シンボルの方向へ通電する。その時、106はN極となり、105はS極となる。
【0098】
同様に、107はD3相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線87を巻回する。108はD3/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線88を巻回する。巻線87と巻線88を直列に接続して、両巻線へ同一のD3電流Id3を電流シンボルの方向へ通電する。その時、107はN極となり、108はS極となる。
【0099】
ここで、ステータ磁極101と108のS極の同極が円周方向に並び、その間に位置するスロットには巻線81の正電流側と巻線88の負電流側とが配置する。同じように、ステータ磁極107と102のN極の同極が円周方向に並び、その間に位置するスロットには巻線87の正電流側と巻線82の負電流側とが配置する。前記したように、ステータ磁極の数が4の整数倍である場合、このような不規則性が発生する。
【0100】
次に、
図8の(a)のリラクタンスモータの電圧、電流、トルクについて
図10、
図11に示し、説明する。CCWへ回転して、CCWのトルクあるいはCWのトルクを発生する動作である。
図10の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図10の横軸方向となるように直線展開した図である。
図10の縦軸方向はロータ軸方向である。
図10の101はA3相ステータ磁極、102はA3/相のステータ磁極、103はB3相ステータ磁極、104はB3/相ステータ磁極、105はC3相ステータ磁極、106はC3/相のステータ磁極、107はD3相ステータ磁極、108はD3/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが22.5°で、ロータ軸方向長さはLsである。
図8の(a)と
図10で同一符号のものは同一のものである。
【0101】
図10の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図8の(a)のCCWの円周方向が
図10の横軸方向、即ち、
図10の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図8の(a)において、ロータの始点はA3相のステータ磁極101の時計回転方向端の回転角位置とし、ロータ回転角位置θrは、その始点からロータ磁極10JのCCW方向端部までとした。
図10におけるロータの始点は、紙面において、ステータ磁極101の左端である。その点の最下段のロータ回転角位置θrの値を0°としている。
図10におけるロータ回転角位置θrは、前記始点からロータ磁極10Jの右端までである。
図10において、ロータ磁極10Jの右端は、
図8の(a)における10JのCCWの先端でもある。
図10の(b)のロータの回転角位置θrは0°である。なお、
図10ではθrは-90°から360°までを示している。
【0102】
次に、ロータ磁極の形状について説明する。
図8の(a)、
図10の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは33.75°である。各ロータ磁極のロータ軸方向幅は、CCW方向の前方部の7.5°幅部分と後方部の26.25°幅部分が異なる形状となっている。前記前方部の7.5°幅部分は、ロータ軸方向長さがLs/2である。前記後方部の26.25°部分は、ロータ軸方向長さがLsで、各ステータ磁極SPのロータ軸方向長さと同じ長さである。
【0103】
図10の(c)は、
図10の(b)のロータ位置θr=0°からCCWへ7.5°回転しており、θrは7.5°である。
図10の(d)は、さらにCCWへ15°回転し、θrは22.5°である。
図10の(e)のθrは30°、(f)のθrは33.75°、(g)θrは56.25°である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ステータ磁極SPと各ロータ磁極RPとの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPをそれぞれ適切なタイミングで励磁してロータの回転トルクを得ることができる。
【0104】
次に、ステータ磁極の各巻線へ電流を通電した時に作用する電圧、モータ出力パワー、トルクの関係について説明する。但し、電磁気関係を単純にモデル化した場合の特性である。今、
図8の(a)のA3相の巻線81とA3/相の巻線82を直列に接続し、A3相電流Ia3として連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する状態を考えてみる。
図8の(a)のCCW方向は、
図10の紙面の右方向である。この時のA3相の巻線電圧は、
図11の電圧Va3となる。
図11のVa3の横軸は時間tであり、
図11の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
【0105】
最初に、ロータ回転角位置θrが0°から7.5°へさしかかる時のA3相の巻線に鎖交する磁束と、A3相の巻線電圧Va3について説明する。ロータ磁極10Jがθrの0°から、その前方部がA3相のステータ磁極101に、エアギャップを介して対向し始める。
図10の(b)から(c)までの状態である。ロータ磁極10Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。ここで、
図11の電圧は、(5)、(9)、(10)式などで、正規化していて、Va3の0°から7.5°の間のA3相の巻線電圧Va3は0.5として示している。
【0106】
次に、θrが7.5°から22.5°の間は、
図10の(c)から(d)までの状態である。ロータ磁極10Jの後方部がA3相のステータ磁極101へ対向して行き、通過する磁束は軸方向長さLsと最大で、回転と共に増加する。ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値となる。その結果、
図11のθrが7.5°から22.5°の間のA3相の巻線電圧Va3は1.0となる。
【0107】
次に、θrが22.5°から30°の間は、
図10の(d)から(e)までの状態である。ロータ磁極10Jの後方部がA3相のステータ磁極101へ対向して行き、通過する磁束が回転と共に増加するが、一方で、ロータ磁極10Jの前方部がA3相のステータ磁極101から外れて行く。磁束の差し引きの増加は1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。その結果、
図11のθrが22.5°から30°の間のA3相の巻線電圧Va3は0.5となる。
【0108】
次に、θrが30°から33.75°の間は、
図10の(e)から(f)までの状態である。この間は、ステータ磁極101の全面にロータ磁極10Jが対向しているので、通過する磁束が一定である。従って、ロータ磁極からステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は0である。
図11のθrが30°から33.75°の間のA3相の巻線電圧Va3は0となる。
【0109】
次に、θrが33.75°から56.25°の間は、
図10の(f)から(g)までの状態である。ロータ磁極10Jの後方部がA3相のステータ磁極101へ対向している状態から外れて行き、θrが56.25°では完全に外れる。この間は、通過する磁束が回転と共に減少する。ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は負の最大値となる。その結果、
図11のθrが33.75°から56.25°の間のA3相の巻線電圧Va3は-1.0となる。
【0110】
次に、θrが56.25°から60°の間は、
図10の(g)から、元の状態の
図10の(b)までの状態である。ロータ磁極の間隔は60°なので、最初に説明を開始した元の(b)の状態に戻る。この間は、ステータ磁極101はロータ磁極10Jに対向しないので、通過する磁束は0で、一定である。
図11のθrが56.25°から60°の間のA3相の巻線電圧Va3は0となる。以上説明した、θrが0°から60°の動作を繰り返して回転する。
【0111】
B3相についても、
図8の(a)のB3相ステータ磁極103に巻回した巻線83とB3/相のステータ磁極に巻回した巻線84を極性を合わせて直列に巻回する。そしてこの巻線へ連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する。この時のB3相の巻線電圧は、
図11の電圧Vb3となり、A3相電圧Va3に対して位相が45°遅れた電圧である。60°周期なので、位相が15°進んだ電圧でもある。同様に、C3相の電圧Vc3は巻線85と86を直列に巻回した巻線の電圧で、
図11の電圧Vc3となり、A3相電圧Va3に対して位相が30°遅れた電圧である。同様に、D3相の電圧Vd3は巻線87と88を直列に巻回した巻線の電圧で、
図11の電圧Vd3となり、A3相電圧Va3に対して位相が15°遅れた電圧である。
【0112】
これらの各相の電圧などは、(1)式から(12)式の関係となっている。D相についても同様の式である。ただし、前記の、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。また、各電圧、各電流、各トルクは、(5)、(9)、(10)式などで、値を正規化している。
【0113】
図11で説明した前記A3相電圧Va3、B3相電圧Vb3、C3相電圧Vc3、D3相電圧Vd3は、(5)式の関係となっている。そして、(8)式においてA相のトルクがA相電圧に比例するように、
図8の(a)のリラクタンスモータに関するA3相トルクTa3、B3相トルクTb3、C3相トルクTc3、D3相トルクTd3は、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧Va3、Vb3、Vc3、Vd3に比例する。その意味で、
図11の各相電圧Va3、Vb3、Vc3、Vd3の下に各相トルクTa3、Tb3、Tc3、Td3を括弧付きで付記している。
【0114】
次に、
図8の(a)、
図10、
図11に示すリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法について説明する。
図11のA3相トルクであるTa3が正トルクを生成する区間は、θrが0°から30°と60°から90°などであり、
図11のIa3Fに示す電流を通電する。ここで例えば、θrが-3.75°から0°、および、30°から33.75°の間は巻線電圧Va3が0なのでトルクへの影響がなく、電流の増加時間、減少時間として使用している。
図11のB3相トルクであるTb3が正トルクを生成する区間は、θrが45°から75°と105°から135°などであり、
図11のIa3Fに対して位相が45°遅れた電流Ib3Fを通電する。
図11のC3相トルクであるTc3が正トルクを生成する区間は、θrが30°から60°と90°から120°などであり、
図11のIa3Fに対して位相が30°遅れた電流Ic3Fを通電する。
図11のD3相トルクであるTd3が正トルクを生成する区間は、θrが15°から45°と75°から105°であり、
図11のIa3Fに対して位相が15°遅れた電流Id3Fを通電する。この時の各相の正トルクを合計すると、
図11のVt3の111に示すトルクとなり、大きさ1.5の一定値となる。常時、4相の内の2相がトルクを発生していて、その和が1.5になっている。
【0115】
次に、
図8の(a)、
図10、
図11のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図11を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図11のA3相トルクであるTa3が負トルクを生成する区間は、θrが33.75°から56.25°と93.75°から116.25°などであり、
図11のIa3Rの実線で示す台形状の電流を通電する。ここで例えば、θrが-3.75°から0°、および、30°から33.75°の間は巻線電圧Va3が0なのでトルクへの影響がなく、電流の増加時間、減少時間として使用している。Ia3Rの他の電流サイクルも同様である。
図11のB3相トルクであるTb3が負トルクを生成する区間は、θrが18.75°から41.25°と78.75°から101.25°などであり、
図11のIa3Rに対して位相が45°遅れた電流Ib3Rを通電する。
図11のC3相トルクであるTc3が負トルクを生成する区間は、θrが48.75°から71.25°と108.75°から131.25°などであり、
図11のIa3Rに対して位相が30°遅れた電流Ic3Rを通電する。
図11のD3相トルクであるTd3が負トルクを生成する区間は、θrが48.75°から71.25°と108.75°から131.25°などであり、
図11のIa3Rに対して位相が15°遅れた電流Id3Rを通電する。
【0116】
各相トルクの和は、
図11のTt3の112に示す値で、7.5°ごとに-1.0と-2.0との値を繰り返すトルク特性となる。平均トルクは正側トルクと大きさは同じの-1.5となる。しかし、この特性はトルク脈動が大きく、騒音、振動の観点でも好ましくない。この対策の一つとして、電流通電方法を
図11の1a3Rに破線で示す台形状の電流波形とする方法がある。各相の電流波形をこの台形状の波形とすることにより、
図10のリラクタンスモータの負トルクは、大きさ-1.0の一定値のトルク特性となる。この結果、トルク脈動がが0となる。また、電流制御の点でも電流の増加時間、減少時間を作ることができるので、電流制御上の難点も解消できる。なお、
図11のVt3は、各相トルクの和に相当し、各相の動作電圧を足し合わせた仮想の電圧である。また、CW方向のトルクを生成するアルゴリズムは、基本的に回転数には関係なく生成できるが、
図11を使用してCCWトルクと対比して説明する都合上、CCW回転時のCWトルクについて説明した。
【0117】
図8の(a)、
図10、
図11に示した本発明リラクタンスモータは、前記のように、独特の特性となっている。騒音の問題に対しては、例えば、
図11のA3相の電流Ia3Fなどの各相電流を、各サイクルの前半では大きめにし、後半では電流値を小さめにする方法が考えられる。各相のトルクが他の相のトルクと重なっているので、2つの相が前半と後半で相互にトルクを補う方法である。具体的には例えば、
図11のロータ回転角θrの0°から15°の辺りまではA3相電流Ia3を大きめにし、15°から30°にかけて小さめにする。この時同様に、D3相電流Id3は15°から30°の辺りまでは大きめにし、30°から45°にかけて小さめにする。そして同様に、C3相電流Ic3は30°から45°の辺りまでは大きめにし、45°から60°にかけて小さめにする。そして同様に、B3相電流Ib3は45°から60°の辺りまでは大きめにし、60°から75°にかけて小さめにする。このように、各相の電流通電方法、すなわち、電流の大きさを修正して、各相の電流が大きな電流値から0[A]に減少するときの電流変化率を低減することにより、ラジアル方向吸引力の変化率を低減し、モータのバックヨーク、ケースなどの振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0118】
また、
図11の電流波形Ia3F、Ia3Rは台形状の電流波形とすることができるので、各相電流の急増、急減などの電流変化率を抑えることにより騒音を低減することができる。また、
図11に示すように、各相のトルクは50%の区間でトルクを発生している。そして、各相トルクは、常に2つの相がトルクを発生している。このように、各相のステータ磁極が広い区間でトルクを発生すること、そして、3相が相互にトルク発生区間を重複させることにより、より滑らかな回転を実現し、騒音低減が可能である。
【0119】
また、
図11のTa3の正トルクの部分だけに着目し、階段状のトルク波形を平滑して基本波成分を推測すると、正弦波の2乗式である(1-COS(2θ))/2に近い形状である。従って、
図11の各相の正トルクは、ほぼ矩形波形状の電流で駆動するリラクタンスモータでありながら、4相正弦波で駆動する同期モータのトルクに近い特性が得られるので、騒音、振動の低減が期待できる。また前記の様に、
図10のリラクタンスモータの正側トルクの合計は
図11のTt3の111に示す一定値でもある。
【0120】
図11の駆動法における銅損について説明する。CCWへ回転するとき、各相の電流は前通電区間の50%で電流を通電することになり、
図47の従来方法の通電区間の33%の場合より銅損が増加することになる。モータの静粛性を優先している。なお、本発明モータの銅損の低減方法については、
図8の(b)、
図42で説明する。駆動回路がやや複雑化する。
【0121】
また、
図26の永久磁石の活用法においても少し不都合が発生する。なお、
図8の(a)に示す各ステータ磁極のN、S極性の円周方向の並び順は、種々得失はあるものの変更可能である。
【0122】
また、
図10に示す各ロータ磁極の形状は種々の形状へ変形することも可能である。例えば、階段形状をより滑らかな形状とすることもできる。また、各トルク特性はステータ磁極とロータ磁極との相対的な磁気特性で作れるので、ロータ磁極形状だけでなく、ステータ磁極形状も変形することができる。ロータ、あるいは、ステータのスキューも可能である。
【実施例4】
【0123】
次に、
図9の(a)に本発明の他のリラクタンスモータの横断面図の例を示す。ステータ磁極が10個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータである。
図9の(a)の表現方法は、
図1などと同様である。ステータ磁極の数が10個なので、円周方向にステータ磁極のN極とS極とを交互に配置することも可能であり、その例を示している。そして、ロータの中心点に対してN極とS極を対称に配置する構成としている。生成される磁束は、N極のステータ磁極からロータ磁極を通って、電気角で180°反対側のS極のステータ磁極へ通過し、バックヨークを通って、一巡する構成としている。
【0124】
121はA4相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線91を巻回し、巻線を電流シンボルで示していて、片方向のA4相電流Ia4をその電流シンボルの方向へ通電する。122はA3/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線91を巻回し、片方向のA3相電流Ia3をその電流シンボルの方向へ通電する。通常、巻線91と巻線92を直列に接続して、両巻線へ同一のA4相電流Ia4を通電する。その時、122はN極となり、121はS極となる。
図9の(a)の状態の場合、励磁される磁束は、ステータ磁極122からロータ磁極12Mと12Jを通り、ステータ磁極121を通り、バックヨークを介して一巡する。その場合、ロータへCCWのトルクが発生する。
【0125】
同様に、123はB4相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線93を巻回する。124はB4/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線94を巻回する。巻線93と94を直列に接続して、両巻線へ同一のB4相電流Ib4を通電する。その時、124はN極となり、123はS極となる。
【0126】
同様に、125はC4相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線95を巻回する。126はC4/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線96を巻回する。巻線95と96を直列に接続して、両巻線へ同一のC4相電流Ic4を通電する。その時、126はN極となり、125はS極となる。
【0127】
同様に、127はD4相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線97を巻回する。128はD4/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線98を巻回する。巻線97と98を直列に接続して、両巻線へ同一のD4相電流Id4を通電する。その時、128はN極となり、127はS極となる。
【0128】
同様に、129はE4相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線99を巻回する。12AはE4/相のステータ磁極であり、破線で示す集中巻き巻線9Aを巻回する。巻線99と9Aを直列に接続して、両巻線へ同一のE4相電流Ie4を通電する。その時、12AはN極となり、129はS極となる。
【0129】
次に、
図9の(a)のリラクタンスモータの電圧、電流、トルクについて
図12、
図13に示し、説明する。CCWへ回転して、CCWのトルクあるいはCWのトルクを発生する動作である。
図9の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図12の横軸方向となるように直線展開した図である。
図12の縦軸方向はロータ軸方向である。
図12の121はA4相ステータ磁極、122はA4/相のステータ磁極、123はB4相ステータ磁極、124はB4/相ステータ磁極、125はC4相ステータ磁極、126はC4/相のステータ磁極、127はD4相ステータ磁極、128はD4/相のステータ磁極、129はE4相ステータ磁極、12AはE4/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが18°で、ロータ軸方向長さはLsである。
図9の(a)と
図12で同一符号のものは同一のものである。
【0130】
図12の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図9の(a)のCCWの円周方向が
図12の横軸方向、即ち、
図12の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図9の(a)において、ロータの始点はA4相のステータ磁極121の時計回転方向端の回転角位置とし、ロータ回転角位置θrは、その始点からロータ磁極12JのCCW方向端部までとした。
図12におけるロータの始点は、紙面において、ステータ磁極121の左端である。その点の最下段のロータ回転角位置θrの値を0°としている。
図12におけるロータ回転角位置θrは、前記始点からロータ磁極12Jの右端までである。
図12において、ロータ磁極12Jの右端は、
図9の(a)における12JのCCWの先端でもある。
図12の(b)のロータの回転角位置θrは0°であり、このθrは-72°から360°までを示している。
【0131】
次に、ロータ磁極の形状について説明する。
図12の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは33°である。各ロータ磁極のロータ軸方向幅は、CCW方向の前方部の6°幅部分と後方部の27°幅部分が異なる形状となっている。前記前方部の6°幅部分は、ロータ軸方向長さがLs/2である。前記後方部の27°部分は、ロータ軸方向長さがLsで、各ステータ磁極SPのロータ軸方向長さと同じ長さである。前記前方部の軸方向長さを前記後方部の1/2としている。
【0132】
図12の(c)は、
図12の(b)のロータ位置θr=0°からCCWへ6°回転しており、θrは6°である。
図12の(d)は、さらにCCWへ12°回転し、θrは18°である。
図12の(e)のθrは24°、(f)のθrは33°、(g)のθrは51°、(h)のθrは60°である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ステータ磁極SPと各ロータ磁極RPとの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPをそれぞれ適切なタイミングで励磁してロータの回転トルクを得ることができる。
【0133】
次に、ステータ磁極の各巻線へ電流を通電した時に作用する電圧、モータ出力パワー、トルクの関係について説明する。但し、電磁気関係を単純にモデル化した場合の特性である。今、
図9の(a)のA4相の巻線91とA3/相の巻線92を直列に接続し、A4相電流Ia4として連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する状態を考えてみる。
図9の(a)のCCW方向は、
図12の紙面の右方向である。この時のA4相の巻線電圧は、
図13の電圧Va4となる。
図13のVa4の横軸は時間tであり、
図13の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
【0134】
最初に、ロータ回転角位置θrが0°から6°へさしかかる時のA4相の巻線に鎖交する磁束と、A4相の巻線電圧Va4について説明する。ロータ磁極12Jがθrの0°から、その前方部がA4相のステータ磁極121に、エアギャップを介して対向し始める。
図12の(b)から(c)までの状態である。ロータ磁極12Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。ここで、
図13の電圧は正規化していて、Va4の0°から6°の間のA4相の巻線電圧Va4は0.5として示している。
【0135】
次に、θrが6°から18°の間は、
図12の(c)から(d)までの状態である。
ロータ磁極12Jの後方部がA4相のステータ磁極121へ対向して行き、通過する磁束は軸方向長さLsと最大で、回転と共に増加する。の1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値となる。その結果、
図13のθrが6°から18°の間のA4相の巻線電圧Va4は1.0となる。
【0136】
次に、θrが18°から24°の間は、
図12の(d)から(e)までの状態である。
ロータ磁極12Jの後方部がA4相のステータ磁極121へ対向して行き、通過する磁束が回転と共に増加するが、一方で、ロータ磁極12Jの前方部がA4相のステータ磁極121から外れて行く。磁束の差し引きの増加は1/2であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/2となる。その結果、
図13のθrが18°から24°の間のA4相の巻線電圧Va4は0.5となる。
【0137】
次に、θrが24°から33°の間は、
図12の(e)から(f)までの状態である。
この間は、ステータ磁極121の全面にロータ磁極12Jが対向しているので、通過する磁束が一定である。従って、ロータ磁極からステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は0である。
図13のθrが24°から33°の間のA4相の巻線電圧Va4は0となる。
【0138】
次に、θrが33°から51°の間は、
図12の(f)から(g)までの状態である。ロータ磁極12Jの後方部がA4相のステータ磁極121へ対向している状態から外れて行き、θrが51°では完全に外れる。この間は、通過する磁束が回転と共に減少する。ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は負の最大値となる。その結果、
図13のθrが33°から51°の間のA4相の巻線電圧Va4は-1.0となる。
【0139】
次に、θrが51°から60°の間は、
図12の(g)から、元の状態の
図12の(b)までの状態である。ロータ磁極の間隔は60°なので、最初に説明を開始した元の(b)の状態に戻る。この間は、ステータ磁極121はロータ磁極12Jに対向しないので、通過する磁束は0で、一定である。
図13のθrが51°から60°の間のA4相の巻線電圧Va4は0となる。以上説明した、θrが0°から60°の動作を繰り返して回転する。
【0140】
B4相についても、
図9の(a)のB4相ステータ磁極123に巻回した巻線93とB4/相のステータ磁極に巻回した巻線94を極性を合わせて直列に巻回する。そしてこの巻線へ連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する。この時のB4相の巻線電圧は、
図13の電圧Vb4となり、A4相電圧Va4に対して位相が12°遅れた電圧である。同様に、C4相の電圧Vc4は巻線95と96を直列に巻回した巻線の電圧で、
図13の電圧Vc4となり、A4相電圧Va4に対して位相が24°遅れた電圧である。同様に、D4相の電圧Vd4は巻線97と98を直列に巻回した巻線の電圧で、
図13の電圧Vd4となり、A4相電圧Va4に対して位相が36°遅れた電圧である。同様に、E4相の電圧Ve4は巻線99と9Aを直列に巻回した巻線の電圧で、
図13の電圧Ve4となり、A4相電圧Va4に対して位相が48°遅れた電圧である。
【0141】
これらの各相の電圧などは、(1)式から(12)式の関係となっている。D相、E相についても同様の式である。ただし、前記の、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。また、各電圧、各電流、各トルクは、(5)、(9)、(10)式などで、値を正規化している。
【0142】
図13で説明した前記A4相電圧Va4、B4相電圧Vb4、C4相電圧Vc4、D4相電圧Vd4、E4相電圧Ve4は、(5)式の関係となっている。そして、(8)式においてA相のトルクがA相電圧に比例するように、
図9の(a)のリラクタンスモータに関するA4相トルクTa4、B4相トルクTb4、C4相トルクTc4、D4相トルクTd4、E4相トルクTe4は、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧Va4、Vb4、Vc4、Vd4、Ve4に比例する。その意味で、
図13の各相電圧Va4、Vb4、Vc4、Vd4、Ve4の下に各相トルクTa4、Tb4、Tc4、Td4、Te4を付記している。
【0143】
次に、
図9の(a)、
図12、
図13に示すリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法について説明する。
図13のA4相トルクであるTa4が正トルクを生成する区間は、θrが0°から24°と60°から84°などであり、
図13のIa4Fに示す電流を通電する。ここで例えば、θrが-9°から0°、および、24°から33°の間は巻線電圧Va4が0なのでトルクへの影響がなく、電流の増加時間、減少時間として使用している。Ia4Fの他の電流サイクルも同様である。
図13のB4相トルクであるTb4が正トルクを生成する区間は、θrが12°から36°と72°から96°などであり、
図13のIa4Fに対して位相が12°遅れた電流Ib4Fを通電する。
図13のC4相トルクであるTc4が正トルクを生成する区間は、θrが24°から48°と84°から108°などであり、
図13のIa4Fに対して位相が24°遅れた電流Ic4Fを通電する。
図13のD4相トルクであるTd4が正トルクを生成する区間は、θrが36°から60°と96°から120°であり、
図13のIa4Fに対して位相が36°遅れた電流Id4Fを通電する。
図13のE4相トルクであるTe4が正トルクを生成する区間は、θrが48°から72°と108°から132°であり、
図13のIa4Fに対して位相が48°遅れた電流Ie4Fを通電する。この時の各相の正トルクを合計すると、
図13のVt4の131に示すトルクとなり、大きさ1.5の一定値となる。常時、5相の内の2相がトルクを発生していて、その和が1.5になっている。
【0144】
次に、
図9の(a)、
図12、
図13のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図13を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図13のA4相トルクであるTa4が負トルクを生成する区間は、θrが33°から51°と93°から111°などであり、
図13のIa4Rの実線で示す台形状の電流を通電する。ここで例えば、θrが-9°から0°、および、24°から33°の間は巻線電圧Va4が0なのでトルクへの影響がなく、電流の増加時間、減少時間として使用している。Ia4Rの他の電流サイクルも同様である。
図13のB4相トルクであるTb4が負トルクを生成する区間は、θrが45°から63°と105°から123°などであり、
図13のIa4Rに対して位相が12°遅れた電流Ib4Rを通電する。
図13のC4相トルクであるTc4が負トルクを生成する区間は、θrが57°から75°と117°から135°などであり、
図13のIa4Rに対して位相が24°遅れた電流Ic4Rを通電する。
図9のD4相トルクであるTd4が負トルクを生成する区間は、θrが69°から87°と129°から147°などであり、
図9のIa4Rに対して位相が36°遅れた電流Id4Rを通電する。
図9のE4相トルクであるTe4が負トルクを生成する区間は、θrが21°から39°と81°から99°などであり、
図9のIa4Rに対して位相が48°遅れた電流Ie4Rを通電する。
【0145】
各相トルクの和は、
図13のTt4の132に示す値で、9°ごとに-1.0と-2.0との値を繰り返すトルク特性となる。平均トルクは正側トルクと大きさは同じの-1.5となる。しかし、この特性はトルク脈動が大きく、騒音、振動の観点でも好ましくない。この対策の一つとして、電流通電方法を
図13の1a4Rに破線で示す台形状の電流波形とする方法がある。各相の電流波形をこの台形状の波形とすることにより、
図13のリラクタンスモータの負トルクは、大きさ-1.0の一定値のトルク特性となる。この結果、トルク脈動がが0となる。また、電流制御の点でも電流の増加時間、減少時間を作ることができるので、電流制御上の難点も解消できる。なお、
図13のVt4は、各相トルクの和に相当し、各相の動作電圧を足し合わせた仮想の電圧である。また、CW方向のトルクを生成するアルゴリズムは、原理的に回転方向、回転数には関係なく生成できるが、
図13を使用してCCWトルクと対比して説明する都合上、CCW回転時のCWトルクについて説明した。
【0146】
図9の(a)、
図12、
図13に示した本発明リラクタンスモータは、前記のように、独特の特性となっている。騒音の問題に対しては、例えば、
図13のA4相の電流Ia4Fなどの各相電流を、各サイクルの前半では大きめにし、後半では電流値を小さめにする方法が考えられる。各相のトルクが他の相のトルクと重なっているので、2つの相が前半と後半で相互にトルクを補う方法である。具体的には例えば、
図13のロータ回転角θrの0°から12°の辺りまではA4相電流Ia4を大きめにし、12°から24°にかけて小さめにする。この時同様に、B4相電流Ib4は12°から24°の辺りまでは大きめにし、24°から36°にかけて小さめにする。そして同様に、C4相電流Ic4は24°から36°の辺りまでは大きめにし、36°から48°にかけて小さめにする。同様に、D4相電流Id4は36°から48°の辺りまでは大きめにし、48°から60°にかけて小さめにする。そして、E4相電流Ie4は48°から60°の辺りまでは大きめにし、60°から72°にかけて小さめにする。
【0147】
このように、各相の電流通電方法、すなわち、電流の大きさを修正して、各相の電流が大きな電流値から0[A]に減少するときの電流変化率を低減することにより、ラジアル方向吸引力の変化率を低減し、モータのバックヨーク、ケースなどの振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0148】
また、
図13の電流波形Ia4F、Ia4Rは台形状の電流波形とすることができるので、各相電流の急増、急減などの電流変化率を抑えることにより騒音を低減することができる。また、各相トルクは、常に2つの相がトルクを発生している。このように、各相のステータ磁極が広い区間でトルクを発生すること、そして、3相が相互にトルク発生区間を重複させることにより、より滑らかな回転を実現し、騒音低減が可能である。
【0149】
また、
図13のTa4の正トルクの部分だけに着目し、階段状のトルク波形を平滑して基本波成分を推測すると、正弦波の2乗式である(1-COS(2θ))/2に近い形状である。従って、
図13の各相の正トルクは、ほぼ矩形波形状の電流で駆動するリラクタンスモータでありながら、5相正弦波で駆動する同期モータのトルクに近い特性が得られるので、騒音、振動の低減が期待できる。また前記の様に、
図10のリラクタンスモータの正側トルクの合計は
図13のTt4の131に示す一定値でもある。
【0150】
図13の駆動法における銅損について説明する。CCWへ回転するとき、各相の電流は前通電区間の40%で電流を通電することになり、
図47の従来方法の通電区間の33%の場合より銅損が増加することになる。モータの静粛性を優先している。なお、本発明モータの銅損の大幅低減方法とトルクの増大方法については後述する。
【0151】
また、
図12に示す各ロータ磁極の形状は種々の形状へ変形することも可能である。例えば、階段形状をより滑らかな形状とすることもできる。また、各トルク特性はステータ磁極とロータ磁極との相対的な磁気特性で作れるので、ロータ磁極形状だけでなく、ステータ磁極形状も変形することができる。ロータ、あるいは、ステータのスキューも可能である。
【実施例5】
【0152】
次に、請求項2の実施例を、
図1、
図14、
図15に示し、説明する。なお、リラクタンスモータの横断面図
図1は、
図4と
図6と
図14で共通に使用して説明する。また、
図14、
図15の表現方法は、
図4、
図5、
図6、
図7と同様である。ここでは、表現方法などの説明は省略する。
図14に示すリラクタンスモータのロータ磁極の形状は、軸方向長さがLs/3の部分とLs×2/3の部分とLsの部分とがあり、3段階の軸方向長さの形状となっている。このロータ磁極の特性の特徴は、一つのロータ磁極が発生するトルクの円周方向範囲がステータ磁極の円周方向幅より3倍も広くできること、各相のトルクの発生比率が高く、2/3の回転範囲でトルクを発生できることである。
【0153】
図14の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図14の横軸方向、即ち、
図14の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図14の紙面の縦軸方向はロータ軸の方向である。
図14の141はA5相ステータ磁極、142はA5/相のステータ磁極、143はB5相ステータ磁極、144はB5/相ステータ磁極、145はC5相ステータ磁極、146はC5/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが20°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0154】
図14の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図1のCCWの円周方向が
図14の横軸方向、即ち、
図14の紙面の右方向となるように直線展開した図である。そして、
図14の最下段にロータ回転角位置θrの値を示している。
図14の(b)のθrは0°である。なお、このθrは-80°から360°までを示している。
【0155】
図14の(b)のロータ磁極14Jは、
図1のロータ磁極1Jと同じものであり、ロータ回転角位置θrは0°である。
図14の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは65°である。360度の範囲に、14J、14K、14L、14Mの4個のロータ磁極を配置している。各ロータ磁極の形状について、CCW方向であり、
図14の紙面では右方向の前方部は、図示しているように、円周方向角度幅が20°で、ロータ軸方向長さはLs/3である。ロータ磁極の中間部は、円周方向角度幅が20°で、ロータ軸方向長さはLs×2/3である。ロータ磁極の後方部は、円周方向角度幅が25°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0156】
図14の(c)は、
図14の(b)のロータ位置からCCWへ20°回転したロータ形状である。この時、θrは20°である。
図14の(d)は、さらにCCWへ20°回転し、θrは40°である。
図14の(e)は、さらにCCWへ20°回転し、θrは60°である。
図14の(f)は、さらにCCWへ5°回転し、θrは65°である。
図14の(g)は、さらにCCWへ20°回転し、θrは85°である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ロータ磁極RPと各ステータ磁極SPの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPの各相巻線へ、それぞれ適切なタイミングで電流を通電して励磁し、ロータの回転トルクを得ることができる。
【0157】
今、A5相の集中巻き巻線147とA5/相の集中巻き巻線148を極性を合わせて直列に接続し、A5相電流Ia5として連続定格に近い値の一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する状態を考えてみる。
図1のCCW方向は、
図14の紙面の右方向である。この時の巻線電圧は、
図15の電圧Va5となる。このVa5の横軸は時間tであり、
図15の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
【0158】
最初に、ロータ磁極14Jがθrの0°から20°にさしかかると、ロータ磁極14Jの前方部がA5相のステータ磁極141に、エアギャップを介して対向する。
図14の(b)から(c)の状態である。ロータ磁極14Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/3であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/3となる。
図15のVa5の0°から20°の間の値は0.333として示している。
【0159】
次に、ロータ磁極14Jが、
図14の(c)から(d)のように、θrの20°から40°にさしかかると、ロータ磁極14Jの中間部がA5相のステータ磁極141に対向して行く。ロータ磁極14Jの中間部の軸方向長さはLs×2/3であり、ロータ磁極の中間部とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の2/3となる。しかし同時に、ロータ磁極14Jの前方部がステータ磁極141から外れて行く。
図15のVa5の20°から40°の間の値は差し引き(2/3-0.333)=0.333と示している。
【0160】
ロータ磁極14Jが、
図14の(d)から(e)のように、θrの40°から60°にさしかかると、ロータ磁極14Jの後方部がステータ磁極141に対向して行くが、一方、ロータ磁極14Jの中間部がステータ磁極141から外れて行く。
図15のVa5の40°から60°の間の値は差し引き(1-2/3)=0.333と示している。
【0161】
ロータ磁極14Jが、
図14の(e)から(f)のように、θrの60°から65°の間は、ステータ磁極141の全面がロータ磁極14Jへ対向している。ステータ磁極141へ通過する磁束の回転変化率は0であり、この間の
図15のVa5の値は0となる。
【0162】
ロータ磁極14Jが、
図6の(f)から(g)のように、θrの65°から85°の間は、ロータ磁極14Jの後方部がステータ磁極141から外れて行くので、ステータ磁極141へ通過する磁束の回転変化率は-1であり、この間の
図15のVa5の値は-1となる。
【0163】
ロータ回転角位置θrが85°から90°までの間は、ステータ磁極141に対向するロータ磁極は無く、
図15のVa5の値は0となる。θrが90°になると、ロータ磁極14Kがステータ磁極141にさしかかり、
図14の(b)の状態になって前記動作説明の最初の状態に戻り、その動作を繰り返して、CCWへ連続的に回転する。
【0164】
同様に、
図14の143、144のB5相の巻線とB5/相の巻線を直列に接続し、B5相電流Ib5として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図14の電圧Vb5となる。同様に、145、146のC5相の巻線とC5/相の巻線を直列に接続し、C5相電流Ic5として一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する。この時の巻線電圧は、
図14の電圧Vc5となる。電圧Va5、Vb5、Vc5は相互に30°の位相差となっている。
【0165】
図15で説明した前記A5相電圧Va5、B5相電圧Vb5、C5相電圧Vc5は、(5)、(9)、(10)式と一致する。そして、(8)、(11)、(12)式より、
図14のリラクタンスモータに関する各相トルクTa5、Tb5、Tc5は、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧Va5、Vb5、Vc5に比例する。その意味で、
図15の各相電圧Va5、Vb5、Vc5の下に各相トルクTa5、Tb5、Tc5を括弧付きで付記している。ただし、前記の、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。また、各電圧、各電流、各トルクは、(5)、(9)、(10)式などで、値を正規化している。
【0166】
次に、
図14のリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法について説明する。
図15のA5相トルクであるTa5が正トルクを生成する区間は、θrが0°から60°と90°から150°であり、
図15のIa5Fに示す電流を通電する。前記のように、ロータ回転角位置θrの60°から65°の間と、85°から90°までの間などは、A5相Va5が0[V]の区間なので、前記A5相電流Ia5Fの増加時間、減少時間として利用できるので、
図15のIa5Fに示すような台形状の電流とすることができる。
【0167】
図15のB5相トルクであるTb5が正トルクを生成する区間は、θrが30°から90°と120°から180°であり、
図15のIa5Fに対して位相が30°遅れた電流Ib5Fを通電する。
図15のC5相トルクであるTc5が正トルクを生成する区間は、θrが60°から120°と150°から210°であり、
図15のIa5Fに対して位相が60°遅れた電流Ic5Fを通電する。A5相のトルクTa5の正の部分、B5相のトルクTb5の正の部分、C5相のトルクTc5の正の部分を足し合わせると、
図15のTt5の151となり、正の一定トルク0.666となる。3相のトルクはそれぞれ、30°ずつ重なった特性となり、3相のトルクを足し合わせると一定トルクとなるようなロータ形状としている。
【0168】
次に、
図14のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図15を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図15のA5相トルクであるTa5が負トルクを生成する区間は、θrの65°から85°と155°から175°の間で、
図15のTa5の値は-1となる。この間に
図15のA5相電流Ia5Rを通電する。そして、ロータ回転角位置θrの60°から65°の間と、85°から90°までの間などは、A5相電圧Va5が0[V]の区間なので、前記A5相電流Ia5Rの増加時間、減少時間として利用できるので、台形状の電流とすることができる。 同様に、B5相電流Ib5として、
図15のIa5Rより30°位相の遅れた電流を通電する。 同様に、C5相電流Ic5として、
図15のIa5Rより60°位相の遅れた電流を通電する。
【0169】
各相の負のトルクの和は、
図15のTt5の152に示す値で、2/3の20°の間は-1.0で1/3の10°の間は0となるサイクルを繰り返す。平均値は-2/3である。なお、このトルクリップルが問題となる場合は、ロータ磁極形状の修正、ステータ磁極形状の修正、スキューなどの種々の工夫も可能である。なお、
図15のVt2は、各相トルクの和に相当し、各相の動作電圧を足し合わせた仮想の電圧である。また、CW方向のトルクは、原理的に回転方向、回転数には関係なく生成できるが、
図15を使用してCCWトルクを説明する都合上、CCW回転時のCWトルクについて説明した。
【0170】
図1、
図14、
図15に示した本発明モータは、前記のように、独特の特性となっている。騒音の問題に対しては、例えば、
図15の各相の電流を前半では大きめにし、後半では電流値を小さめにする方法が考えられる。具体的には例えば、
図15のロータ回転角θrの0°から30°の辺りまではA5相電流Ia5を大きめにし、30°から60°にかけてIa5を小さめにする。この時同様に、B5相電流Ib5は30°から60°の辺りまでは大きめにし、60°から90°にかけてIb5を小さめにする。そして同様に、C5相電流Ic5は60°から75°の辺りまでは大きめにし、90°から120°にかけて小さめにする。このように、各相の電流通電方法、すなわち、電流の大きさを修正して、各相の電流が大きな電流値から0[A]に減少するときの電流変化率を低減することにより、ラジアル方向吸引力の変化率を低減し、モータのバックヨーク、ケースなどの振動を低減し、騒音を低減することができる。
【0171】
また、
図15に示すように、各相のトルクは67%の区間でトルクを発生している。
そして、常に、3相の内の2相がトルクを発生している。このように、各相のステータ磁極が広い区間でトルクを発生すること、そして、3相が相互にトルク発生区間を重複させることにより、より滑らかな回転を実現し、騒音低減が可能である。また、
図15の電流波形Ia5Fは台形状の電流波形とすることができるので、各相電流の急増、急減などの電流変化率を抑えることにより騒音を低減することができる。
【0172】
図15の駆動法における銅損について説明する。CCWへ回転するとき、各相の電流は前通電区間の67%で電流を通電することになり、
図47の従来方法の通電区間の33%の場合より銅損が増加することになる。モータの静粛性を優先している。なお、本発明モータの銅損の大幅低減方法とトルクの増大方法については後述する。
【0173】
次に、前記の
図4、
図6、
図10、
図12、
図14で示したロータ磁極の外周面形状について、その変形例の直線展開図を
図16に示し説明する。
図16の(a)は、前記ロータ磁極の例で、紙面で右側をCCWの回転方向として、ロータ磁極の前方部のロータ軸方向幅が161、前方部の円周方向角度幅163、ロータ磁極の後方部のロータ軸方向幅が162である。前記前方部のロータ軸方向幅161は、目的とするモータ特性に応じて
図16の(b)のように、小さくすること、あるいは、大きくすることができる。前記円周方向角度幅163についても同様である。また、前記前方部のロータ軸方向幅が161は、
図16の(c)の165のようにテーパ状にしたり、
図16の(d)の166のように多段のテーパ状にすることもできる。また、ロータ磁極のCW側の形状を167のように、種々形状に変形することも可能である。
【実施例6】
【0174】
次に、請求項3の実施例を、
図17に示し、説明する。前記の
図4、
図6、
図10、
図12、
図14では、各ロータ磁極部RPのロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の磁気抵抗値MRを可変する手段として、ロータ磁極の前方部と後方部とでロータ軸方向長さを変えた例を示した。各図のロータ磁極のロータ軸方向長さLsとLs/2などであり、ロータ表面のロータ磁極形状を水平展開して示した。ロータ軸方向長さを変えるロータ磁極形状は、ステータ側から見た各円周方向位置のロータ磁極の磁気抵抗MRを任意に設定する一つの方法である。視覚的にも解り易い。しかし、モータ製作の容易さ、コスト、騒音、鉄損、風損の観点では、他の方法でロータ磁極のラジアル方向の磁気抵抗値MRを変えることも可能である。本発明のリラクタンスモータでは、
図17に示すようなロータ磁極形状を適用できる。
【0175】
図17は電磁鋼板を各種形状に加工した例を示している。電磁鋼板を積層してロータコアとし、リラクタンスモータのロータ磁極を構成する。ロータ磁極のロータ軸方向厚みは均一で、Lsである。
図17の(a)は、
図1のロータを変形した例を示している。173は電磁鋼板、172は173の部分より飽和磁束密度が小さい軟磁性体で、例えばフェライト鉄心、ステンレス電磁鋼板などである。17Jは軟磁性体172を保持するための保持部である。171は空間である。ラジアル方向に通過する飽和磁束を、その材料の磁気特性により制限することができる。このような構成により、
図4のロータ磁極と類似な電磁気特性を実現することができる。
【0176】
本発明のリラクタンスモータで重要なことは、
図3の(a)において、小さな励磁電流領域での磁気抵抗ではなく、リラクタンスモータの連続定格電流Irate、あるいは、最大電流Imax等の励磁電流領域での磁束の大きさである。それはロータ磁極の材料、形状などを含めたラジアル方向の磁束の大きさである。ロータの各円周方向位置におけるラジアル方向の磁束の大きさを制限することにより、種々のトルク特性、電磁気特性を実現することができる。
【0177】
例えば、
図3の(a)の破線の特性は、励磁電流の小さい領域では実線と同じ比透磁率を示している。従って、破線の特性の磁性材料を
図17の172の材料として使用した場合、励磁電流が小さな領域では、172と173のラジアル方向の磁気抵抗値は同じである。
図5で説明したような特性にはならない。しかし、励磁電流が前記Irate、Imax等の電流領域では、破線の特性は実線の特性は約1/2倍であり、ラジアル方向の通過磁束を制限できる。この状態では、
図5で説明した特性をほぼ実現できる。ここで、破線の前記特性の軟磁性体で構成するロータ磁極の部分である
図17の172は、励磁電流が大きな領域では、(磁束/励磁電流)が小さいのでラジアル方向の磁気抵抗値が小さいと言える。ラジアル方向の磁気抵抗値が、励磁電流が小さな領域では同じで、励磁電流が大きな領域では異なる特性の例である。このように、ロータ磁極の形状と磁性材料の磁気特性の両面で本発明リラクタンスモータのロータを実現できる。
【0178】
図17の(a)の17Kは電磁鋼板173の一部を、プレス加工などにより薄板化した例である。例えば、173の電磁鋼板が0.35mmの厚みとし、17Kの部分を0.175mmの厚みとすることにより、ラジアル方向の磁気抵抗値MRが1/2になり、ラジアル方向に通過する飽和磁束を1/2に制限することができる。このような構成により、
図4のロータ磁極と等価な電磁気特性を実現することができる。この17Kの構成は、電磁鋼板のプレス加工の生産ライン上に薄板化の加工ステージを設けることも可能なので、生産性に優れる。なお、この構成の場合、遠心力に対しては前記保持部17Jは不要となるが、ロータ軸方向の固定の問題があり、17Lに示すように一部を0.35mmの厚板として残すなどの工夫も可能である。また、電磁鋼板の積層において、保持を目的として、例えば20枚に1枚程度、円盤状の電磁鋼板を挟み込むことも可能である。また、他の形状の電磁鋼板と組み合わせて積層し、目的の電磁気特性とロータ強度を得る様な工夫も可能である。また、17Kの構成は、例えば0.35mmの厚板部分と0.24mmの部分と0.12mmの部分のように鋼板の厚みを変えて、種々目的の電磁気特性を得ることも可能である。
【0179】
図17の(b)は、電磁鋼板176へ大きめの穴174と細長いスリット乗の穴175を加工している。前記174の部分は、
図4のロータ磁極間の空間部分と電磁気的にほぼ等価としている。前記175のスリットを配置した部分は、
図4のロータ磁極の前方部でロータ軸方向長さをLs/2とした部分と電磁気的に等価である。前記175のスリットは円周方向の磁気抵抗が大きく、ラジアル方向は約2倍となる構成である。このスリット形状は先のとがった三角形でスリットに挟まれた磁路が均一幅となっている。このように、電磁鋼板に種々の穴加工を施すことにより、ラジアル方向磁束の最大値を制限することが可能である。穴形状は、四角穴、三角穴、丸穴、楕円穴など種々形状が可能で、穴の数、大きさ、分布も様々に可能である。渦電流損、ヒステリシス損の低減も期待でき、磁気特性に優れている。さらに、2種類以上の異なる形状の電磁鋼板を積層して、ラジアル方向磁束の最大値を制限することも可能である。その場合には、前記穴に起因する円周方向の磁気抵抗の離散性を平均化する、ロータ強度を平均化して補完するなどの効果も期待できる。前記の薄板化の技術と組み合わせることもできる。
【0180】
また、
図17の(b)のロータ外周は円形であり、ロータが風を切る騒音を小さくすることができる。また、電磁気的にも、ロータ外周は円形であれば、リラクタンス力の高調波成分を低減することができ、トルクリップル、騒音の低減を期待できる。ロータ振動を低減するために、各穴に樹脂等を充填することもできる。
【0181】
図17の(c)は、電磁鋼板179の外周部に凹みを設ける加工をして、ロータの磁気特性を実現する例である。178の凹み部は磁束を低減する効果を期待していて、177は空間部である。このように、電磁鋼板へ凹み加工を行って、
図4のロータ磁極と電磁気的に近い特性とすることができる。電磁鋼板の簡単な打ち抜きと積層で製作でき、ロータは堅牢である。また、圧粉磁心を使えば、ロータの径方向の凹凸形状、および、ロータ軸方向の凹凸を組み合わせた複雑な3次元形状であっても、金型を用いた成形技術で製作することが可能であり、生産性を改善できる。
【実施例7】
【0182】
次に、請求項4の実施例を
図18、
図19に示し、説明する。
図18は各ステータ磁極と各ロータ磁極のロータ表面形状を直線展開した形状などを示し、ロータ回転角位置θrにおける電磁気的な作用の関係を示している。
図18の構成のリラクタンスモータは、
図6、
図7に示したモータ特性を、異なる構造で簡素に実現することを目的としている。
【0183】
図18の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図18の横軸方向、即ち、
図18の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図18の紙面の縦軸方向はロータ軸の方向である。
図18の181はA6相ステータ磁極、182はA6/相のステータ磁極、
183はB6相ステータ磁極、184はB6/相ステータ磁極、185はC6相ステータ磁極、186はC6/相のステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが30°で、ロータ軸方向長さはLsである。
【0184】
図18のステータ磁極181の集中巻き巻線187と182の集中巻き巻線188は、極性を合わせて直列に接続しA6相巻線としてA6相電流Ia6を通電し、その電圧はA6相電圧Va6である。ステータ磁極183の集中巻き巻線18Aと184の集中巻き巻線18Bは、極性を合わせて直列に接続しB6相巻線としてB6相電流Ib6を通電し、その電圧はB6相電圧Vb6である。ステータ磁極185の集中巻き巻線18Dと186の集中巻き巻線18Eは、極性を合わせて直列に接続しC6相巻線としてC6相電流Ic6を通電し、その電圧はC6相電圧Vc6である。
【0185】
図18の(b)のロータ磁極18J、18K、18L、18Mを円周方向に配置している。
図18の(b)のロータ磁極18Jは、ロータ回転角位置θrが0°であり、円周方向角度幅θBrは52.5°である。ロータ磁極18Lは、θrが(180°-15°)=165°であり、円周方向角度幅θBrは(52.5°-15°)=37.5°である。
ロータ磁極18Mは、ロータ回転角位置θrが90°であり、円周方向角度幅θBrは52.5°である。ロータ磁極18Kは、ロータ回転角位置θrが(90°+180°-15°)=255°であり、円周方向角度幅θBrは(52.5°-15°)=37.5°である。
【0186】
前記の
図4、
図6、
図10、
図12、
図14では、1極対の構成で、ロータ軸中心点に対して点対称となる構成の例を示した。しかし、
図18のロータ磁極の構成は、点対象の構成となっていない。即ち、円周方向に電気角で180°離れたロータ磁極の形状が同一形状となっていない。例えば、ロータ磁極18Jと18Lとが同一形状ではない。なお、ここで、ロータ回転角位置θrは電気角で示している。
【0187】
図18の構成でモータが1極対の場合、例えば、
図18の(b)から(c)にかけて、ステータ磁極181とロータ磁極18Kとロータ磁極18Lとステータ磁極182へ磁束が通過できない。前記の
図4、
図6、
図10、
図12、
図14とは異なる作用となる。
【0188】
この対応策の一つとして、2極対以上の構成とする方法がある。例えば2極対として、
機械角で0°から180°のステータ磁極のN極、S極の構成と、機械角で180°から360°のステータ磁極のN極、S極の構成とが反対の極性とする方法である。
【0189】
図18の構成を2極対としたリラクタンスモータの横断面図を
図19に示す。とし、
図19の191と19NはA6相のステータ磁極、192と19QはA6/相のステータ磁極、193と19EはB6相ステータ磁極、194と19SはB6/相ステータ磁極195と19RはC6相ステータ磁極、196と19PはC6/相のステータ磁極である。そして、各ステータ磁極には破線で示す集中巻き巻線を巻回している。機械角で180°離れたステータ磁極のN極、S極の極性が反対の極性となるように、各ステータ磁極の巻線の向きを逆向きとしている。
【0190】
図19のステータ磁極191と19Nと192と19Qへ、図示するように、それぞれに集中巻き巻線を巻回し、電流の向きを合わせて直列に接続し、A6相巻線としてA6相電流Ia6を通電し、その電圧はA6相電圧Va6である。ステータ磁極193と19Eと194と19Sへ、図示するように、それぞれに集中巻き巻線を巻回し、電流の向きを合わせて直列に接続し、B6相巻線としてB6相電流Ib6を通電し、その電圧はB6相電圧Vb6である。ステータ磁極195と19Rと196と19Pへ、図示するように、それぞれに集中巻き巻線を巻回し、電流の向きを合わせて直列に接続し、C6相巻線としてC6相電流Ic6を通電し、その電圧はC6相電圧Vc6である。
【0191】
ロータは、電磁鋼板を積層する構成の例を示していて、19C、19Dなどの扇状の四角形は電磁鋼板を打ち抜いた空間で、磁気抵抗の大きい部分である。
図19の19Jと19Tは
図18のロータ磁極18Jに相当し、19Kと19Wは
図18のロータ磁極18Kに相当し、19Lと19Vは
図18のロータ磁極18Lに相当し、19Mと19Uは
図18のロータ磁極18Mに相当する。機械角で180°離れた各ロータ磁極は、点対称となっていて、同一形状である。なお、このロータ構成ではロータ外周が円形なので、ロータの風切り音が小さく、トルクリップルの高次の高調波成分も低減する。
【0192】
前記のように、2極対なので機械角で180°離れたステータ磁極は同じ相のステータ磁極であるが、巻線方向は逆向きにしている。これは、電気角で360°離れたステータ磁極でもある。例えば、B6相ステータ磁極193と19Eと、B6/相ステータ磁極194と19Sの各巻線は直列に接続しB6相電流Ib6を通電する。点対称構造なので、19Fと19Gで示す磁束成分を無理なく生成することができる。なお、ステータ磁極の極性を変えたので、スロット19Aと19Bの巻線の電流方向が正の巻線と負の巻線が入る構成となる。他のスロットとは異なる電流極性となるので、後に述べる他の電流通電方法では注意を要する。
【0193】
前記
図19の説明では2極対化して点対称の形状とすることにより、磁束成分の生成に無理がないことを示した。さらに4極対となると、その内の2極対の極性が逆であれば磁束生成に無理が無いので、必ずしも点対称の構成でなくとも良くなる。また、ここで、
図18の構成で1極対のモータ構成の場合でも、点対称の磁束成分ではないものの、必要な磁束成分を生成でき、トルクの生成が可能であることを説明する。例えば、A6相ステータ磁極181とA6/相ステータ磁極182へA6相電流Ia6を通電しているとして、
図18の(b)、θr=0°から(c)、θr=15°にかけて、A6相ステータ磁極181とロータ磁極18Jは徐々に対向するが、A6/相ステータ磁極182とロータ磁極18Lは対向せず、181を通る磁束が182へは通らない。しかしこの時、他のC6/相ステータ磁極186とロータ磁極18Mとは十分に対向していて、磁気抵抗が小さい。同時に、B6相ステータ磁極183とロータ磁極18Lも十分に対向していて、磁気抵抗が小さい。同時に、C6相ステータ磁極185とロータ磁極18Kも十分に対向していて、磁気抵抗が小さい。従って、181を通る磁束は、186と183と185へ、比較的小さな磁束密度で通ることができる。従って、A6相ステータ磁極181とロータ磁極18Jとは、2極対の
図19の場合に近いトルクを発生することができる。
図18の1極対のリラクタンスモータは、その作用が点対称の作用ではないものの、十分に機能する。
【0194】
以降の各相の磁束、各相電圧、各相トルクの説明は、
図18の直線展開図に基づいて説明するが、磁束成分の生成については
図19の2極対の構成を想定して点対称に生成するものとして説明する。今、
図18のステータ磁極181の集中巻き巻線187と182の集中巻き巻線188は、極性を合わせて直列に接続しA6相電流Ia6として連続定格に近い値の一定電流Ioを通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vsoで回転する状態を考えてみる。
図18のリラクタンスモータは
図6のリラクタンスモータと電磁気的に等価であり、
図6の特性である
図7の各相電圧、トルクと同じになる。ここでは、
図7を流用して説明する。なお、
図18のリラクタンスモータのCCW方向は、
図18の紙面の右方向である。
【0195】
最初に、
図18のロータ磁極18Jがθrの0°から15°にさしかかると、ロータ磁極18JがA6相のステータ磁極181に、エアギャップを介して対向する。A6/相のステータ磁極182とロータ磁極18Lはまだ対向しない。
図18の(b)から(c)の状態である。A6相電圧Va6は、(5)式とその定義より、A6相のステータ磁極181の巻線187とA6/相のステータ磁極182の巻線188へ鎖交する磁束を求めれば良い。この時、巻線187へ鎖交する磁束は、ステータ磁極181とロータ磁極18Jを通る磁束であり、両磁極のロータ軸方向幅はLsである。そして、巻線188へ鎖交する磁束は、ステータ磁極182とロータ磁極18Lがまだ対向しないので0である。今、これらの平均値を考えると、ロータ軸方向幅がLs/2のロータ磁極がステータ磁極181とステータ磁極182の両方へさしかかった状態と等価である。そして、187と188の両巻線へ鎖交する磁束は、ロータ軸方向幅がLs/2のロータ磁極が作用する磁束と等価である。従って、
図18の(b)から(c)の状態は、
図6の(b)から(c)の状態と電磁気的に等価であると言える。この時のA6相電圧Va6は、
図7の電圧Va2と同じである。
【0196】
次に、ロータ磁極18Jがθrの15°から30°にさしかかると、ロータ磁極18JがA6相のステータ磁極181に対向する部分が15°分増加する。この間は、A6/相のステータ磁極182とロータ磁極18Lもエアギャップを介して対向する。この状態は
図18の(c)から(d)の状態であり、
図6の(c)から(d)の状態と電磁気的に等価である。この時のA6相電圧Va6は、
図7の電圧Va2と同じである。
【0197】
以下も同様であり、
図18の(d)以降も、
図6の(d)以降と電磁気的に等価となる。この時のA6相電圧Va6は、
図7の電圧Va2と同じである。前記のように、リラクタンスモータの周期は電気角で180°なので、電気角で180°あるいは360°離れたステータ磁極とロータ磁極との関係に関し、それらの平均値が同じであれば電磁気的に等価となる。
図18の構成と
図6の構成がそのような等価な関係となっている。両構成のステータ磁極は同じで、
図18のロータ磁極18Jと18Lの平均値、即ち、平均形状は、
図6のロータ磁極6Jと6Lとなる。そして、
図18のロータ磁極18Mと18Kの平均値、即ち、平均形状は、
図6のロータ磁極6Mと6Kとなる。しかし、各ステータ磁極が生成するトルクの分散具合、磁気飽和の程度などは異なり、モータ内部で作用する力などにも差異はある。また、モータ形状、その製作性について比較すると、
図18のロータ構成は
図6のロータ構成より簡素であり、生産性に優れている。
【実施例8】
【0198】
次に、請求項5の実施例を
図20、
図21、
図22、
図8の(b)、
図9の(b)に示し、説明する。
図20の横断面図は、前記の
図1に示した各ステータ磁極の集中巻き巻線を全節巻き巻線へ変換し、かつ、各スロット内の2個の集中巻き巻線を1個の巻線に統合した構成を示している。各スロット内の巻線断面積を2倍に増加し、スロット内の銅損を低減することを目的としている。
図20のロータなどその他は前記
図1の構成と同じである。なお、
図4、
図6、
図14等のロータ磁極構成では銅損が増加するため、それを補う技術でもある。
【0199】
図1は本発明のいくつかのモータの前記説明で共用しているが、この
図20の説明においても、代表的なモータ形態の一つとして共用し次のように改めて定義する。
図1の11はA7相ステータ磁極で17と18の集中巻き巻線を巻回し、12はA7/相のステータ磁極で1Cと1Dの集中巻き巻線を巻回し、両巻線は電流の方向を合わせて直列に接続してA7相電流Ia7を通電する。13はB7相ステータ磁極で1Uと1Vの集中巻き巻線を巻回し、14はB7/相のステータ磁極で1Sと1Tの集中巻き巻線を巻回し、両巻線は電流の方向を合わせて直列に接続してB7相電流Ib7を通電する。15はC7相ステータ磁極で1Qと1Rの集中巻き巻線を巻回し、16はC7/相のステータ磁極で1Pと1Nの集中巻き巻線を巻回し、両巻線は電流の方向を合わせて直列に接続してC7相電流Ic7を通電する。そして例えば、磁束1Eを生成する場合、A7相電流Ia7を通電する。
【0200】
図20の201はA7相ステータ磁極で202はA7/相のステータ磁極で、巻線207とそのコイルエンド部20Dと巻線208で示すAB相全節巻き巻線へ通電するAB相電流Iabと、巻線20Bとそのコイルエンド部20Fと巻線20Cで示すCA相全節巻き巻線へ通電するCA相電流Icaとを通電して、20GのA相磁束φaを励磁する。203はB7相ステータ磁極で204はB7/相のステータ磁極で、巻線209とそのコイルエンド部20Eと巻線20Aで示すBC相全節巻き巻線へ通電するBC相電流Ibcと、前記巻線207と208の電流Iabとを通電して、20HのB相磁束φbを励磁する。205はC7相ステータ磁極で206はC7/相のステータ磁極で、前記巻線20Bと20Cの電流Icaと、前記巻線209と20Aの電流Ibcとを通電して、20JのC相磁束φcを励磁する。
【0201】
ここで、
図1の電流と
図20の電流とは次の関係となっている。
Iab=Ia7+Ib7 (13)
Ibc=Ib7+Ic7 (14)
Ica=Ic7+Ia7 (15)
図20における各電流の計算方法は、
図1の各電流値を(13)、(14)、(15)式に従って計算して通電すれば、
図20と
図1は電磁気的に等価なので、
図1の場合と同じ磁束が励磁され、トルクを生成することができる。
【0202】
この時例えば、
図20の磁束20Gを生成する場合、AB相電流IabとしてA7相電流Ia7を通電し、CA相電流IcaとしてA7相電流Ia7を通電すれば良い。この時、
図1のA7相巻線17と
図20のCA相巻線207を比較すると、同一スロットに同一巻き回数の巻線と仮定すると、
図1の場合B7/相巻線1Sもあるため、相対的にCA相巻線207の巻線断面積を2倍にできる。従って、
図20の全節巻きの方が巻線抵抗を1/2とすることが可能で、同一電流を通電する時に銅損を低減できる。
【0203】
なお、物理的には、
図1の巻線17と1Sの励磁作用を、
図20の巻線207が共用するということである。この
図20の巻線207はステータ磁極201の励磁に使え、204の励磁にも使える。そして、
図46、
図47に示す従来のリラクタンスモータの様な通電方法の場合は、各巻線の通電時間はそれぞれ全体の33%であり、例えば、巻線467と46Gが同時に通電する時間はごく少なく、全節巻きの巻線へ変えることによる銅損低減効果は大きい。しかし、巻線467と46Gへ同時に同程度の大きさの電流を通電する時間が多くなる通電方法の場合は、銅損低減効果は減少する。
【0204】
また、
図20の各巻線のロータ軸方向端には、20D、20E、20Fに示すような巻線のコイルエンド部が必要である。特に1極対のモータの場合、機械角で180度離れたスロットへ接続することになり、コイルエンド部の長さが製作上、効率上負担が大きい。ここでその対応策として、
図22に示すように、2極対とすれば、コイルエンド221、222、223、224、225、226の長さを約半分に短縮することができる。4極対とすれば、さらにコイルエンドの円周方向長さが半分となり、モータとしての負担を軽減することができる。また、量産されている同期電動機などにおいても、全節巻きの場合コイルエンド部の各相巻線の重なりなどにより巻線が複雑となり、コイルエンド部のロータ軸方向長が大きくなる問題もある。しかし、
図22に示すように、全節巻きで、巻線が1スロットに集中した集中巻きでは、巻線の重なりは少なく、比較的簡素な巻線構成とすることができる。さらに、モータのロータ軸方向長さが大きい、細長いモータの場合は、全巻線におけるコイルエンド部の割合が下がる。
【0205】
次に、
図20の全節巻き巻線の鎖交磁束、巻線電圧について
図21に示し、説明する。なお、
図21は
図20に限らず、
図8の(b)、
図9の(b)、
図23のモータへも適用できるように、一般化したモータ構成として説明する。
図21の全節巻き巻線には他の相の磁束も鎖交するので、巻線電圧が複雑な関係となっている。電圧の発生の因果関係とその問題点を説明する。なお、この鎖交磁束の複雑化に起因して、モータの電流制御が複雑になるだけでなく、電圧の偏りの問題が発生するため、インバータの電圧負担が増加し、大型化する問題も発生する。
【0206】
図21の211はAX相ステータ磁極で、212はAX/相ステータ磁極である。巻線213とコイルエンド214と巻線215の全節巻き巻線W1と、巻線216とコイルエンド217と巻線218の全節巻き巻線W2とを配置し、それぞれ巻き回数はNwxとする。219と21Aはロータ磁極である。破線で示す21Bは、211と212以外のステータの部分で、ステータ磁極の数などは限定しない。破線で示す21Cは、219と21A以外のロータの部分で、ロータ磁極の数などは限定しない。即ち、種々のモータに適用できる。
【0207】
ここで、
図20、
図21のモータの限定条件として、ロータ軸中心点に対して点対称の構造、構成であること、巻線W1とW2へ通電する電流は
図1の集中巻き巻線の電流を
図20の全節巻線の電流値変換した(13)、(14)、(15)式のような電流であることとする。
【0208】
この条件の元では、
図21に発生する磁束は、AX相ステータ磁極211と212はAX/相ステータ磁極212を通る磁束φ1、φ2と、
図21のφ3、φ4のように横切る磁束の2種類となる。また、他の経路の磁束は、これらの4つの磁束に換算できる。この時、前記全節巻き巻線W1の電圧Vw1と前記全節巻き巻線W2の電圧Vw2の電圧は次式となる。
Vw1=Nwx×d(φ1+φ2+φ3+φ4)/dt (16)
Vw2=Nwx×d(φ1+φ2-φ3-φ4)/dt (17)
Vh =Nwx×d(φ3+φ4)/dt (18)
図21で横切る磁束(φ3+φ4)が存在しなければ、(18)式の電圧Vhは0となり、Vw1とVw2は等しい値になる。しかし、(φ3+φ4)が存在すればその電圧成分VhはVw1とVw2へ差動的に作用し、電圧が偏る現象が発生する。
【0209】
通常、
図20のような比較的簡素な構成のリラクタンスモータであっても、
図20の磁束(φ3+φ4)は磁束(φ1+φ2)と同程度の大きさであり、その影響を大きく受ける。しかも、差動的に作用するため、Vw1とVw2の片方の電圧は小さくなり、他方は大きくなり、大きなアンバランスを発生する。この現象は、
図1の集中巻き巻線17、18と1Cと1DへA7相電流Ia7を通電する場合には、磁束1Eだけが両集中巻き巻線に鎖交するが、全節巻き巻線へ変更すると、それ以外の横切る磁束成分(φ3+φ4)が外乱のように作用することを意味している。このように、
図20の全節巻き巻線の構成は、電流による銅損に関してはその低減が可能であるが、電圧が複雑になり、モータの電流制御が複雑になるだけでなく、差動的な電圧成分により電圧の偏りの問題が発生するため、インバータの電圧負担が増加し、大型化する問題が発生する。特に、高速回転の重負荷時に過大電圧が発生する問題となる。なお、この電圧の問題を解決する方法については、後に
図37等で述べる。
【実施例9】
【0210】
次に、請求項5の他の実施例を
図8の(b)に示す。
図8の(a)、(b)に示すリラクタンスモータは、ステータ磁極が8個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータであり、
図8の(b)のステータ磁極の番号は同じなので省略している。
図8の(b)は、先に説明した
図8の(a)の各スロットの2個の巻線を1個の巻線に統合し、かつ、各ステータ磁極へ巻回する集中巻線を全節巻線へ変換する例を示す図である。
図8の(b)の各巻線の電圧、電流、駆動回路等について後に示す。
【実施例10】
【0211】
次に、請求項5の他の実施例を
図9の(b)に示す。
図9の(b)は先に説明した
図9の(a)の各スロットの2個の巻線を1個の巻線に統合し、かつ、各ステータ磁極へ巻回する集中巻線を全節巻き巻線へ変換する例を示す図である。
図9の(a)、(b)に示すリラクタンスモータは、ステータ磁極が10個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータであり、
図9の(b)のステータ磁極の番号は同じなので省略している。
図9の(a)において、先に説明したように、A4相のステータ磁極121とC4/相のステータ磁極126との間のスロットには、A4相電流Ia4を通電する集中巻き巻線12Jと、C4相電流Ic4を通電する集中巻き巻線96とを配置している。A4/相のステータ磁極122とC4相のステータ磁極125との間のスロットには、A4相電流Ia4を通電する集中巻き巻線92と、C4相電流Ic4を通電する集中巻き巻線95とを配置している。これらの両スロットには(Ia4+Ic4)を通電している。但し、電流の方向は電流シンボルの方向である。
【0212】
図9の(b)の全節巻き巻線9Bと9Mへ前記のAC4相電流(Ia4+Ic4)を通電すれば、両スロットの電流が発生する起磁力は、
図9の(a)と同じである。なお、後に説明する本発明の駆動回路の都合で、このAC4相の全節巻き巻線を2個の絶縁された並行する巻線へ分けていて、コイルエンド部に13ac1と13ac2の二つの記号を付けている。同様に、C4相ステータ磁極125とE4/相ステータ磁極12Aの間のスロットに巻回するCE4相の全節巻き巻線のコイルエンドは13ce1と13ce2であり、(Ic4+Ie4)を通電する。E4相ステータ磁極129とB4/相ステータ磁極124の間のスロットに巻回するEB4相の全節巻き巻線のコイルエンドは13eb1と13eb2であり、EB4相電流(Ie4+Ib4)を通電する。B4相ステータ磁極123とD4/相ステータ磁極128の間のスロットに巻回するBD4相の全節巻き巻線のコイルエンドは13bd1と13bd2であり、BD4相電流(Ib4+Id4)を通電する。D4相ステータ磁極127とA4/相ステータ磁極122の間のスロットに巻回するDA4相の全節巻き巻線のコイルエンドは13da1と13da2であり、DA4相電流(Id4+Ia4)を通電する。このように、
図9の(a)の集中巻き巻線の構成を
図9の(b)の全節巻き巻線へ変換することができる。
図9の(b)の全節巻きモータの作用、効果、問題点は、先に説明した
図20のリラクタンスモータと同様である。
【実施例11】
【0213】
次に、請求項6の実施例を
図23、
図24、
図25に示し、説明する。
図23の横断面図は、前記の
図20に示した1組の全節巻き巻線を2つに分割する構成を示している。各スロットごとの巻線を個別に巻回する方法である。
図23のステータ磁極、ロータ磁極は前記の
図20と同じである。
【0214】
図23の237は、
図20のAB相巻線207と同じであるが全節巻きでは無く、コイルエンド部234を通ってバックヨークの外側の巻線232へ巻回している。231は巻線237の断面形状を示し、233は巻線232の断面形状の例を示している。
図23の238も、
図20のAB相巻線208と同じであるが全節巻きでは無く、コイルエンド部23Hを通ってバックヨークの外側の巻線23Fへ巻回している。23Eは巻線238の断面形状を示し、23Gは巻線23Fの断面形状の例を示している。これらのAB相巻線237、238へはAB相電流Iab=(Ia+Ib)を通電する。
【0215】
図23の239、23AはBC相巻線で、
図23のAB相巻線237、238と同様に、バックヨークの外側へ巻回する。これらのBC相巻線239、23AへはBC相電流Ibc=(Ib+Ic)を通電する。
図23の23B、23CはCA相巻線で、
図23のAB相巻線237、238と同様に、バックヨークの外側へ巻回する。これらのCA相巻線23B、23CへはCA相電流Ica=(Ic+Ia)を通電する。このような各相電流を通電する時、
図23の各相電流がモータ内部で発生し、作用する起磁力は、
図2320の各相電流の起磁力と同じになる。なお、
図23のこれらの巻線の形態は、いわゆるトロイダル巻線である。
【0216】
次に、
図23のAB相巻線237、238とCA相巻線23B、23Cの電圧を、
図21と(16)、(17)、(18)式を使って説明する。
図23の巻線237の電圧をVw11、238の電圧をVw12、23Bの電圧をVw21、23Cの電圧をVw22とする。
図21における各磁束との位置と方向の関係から次式のように書ける。
Vw11=Nwx×d(φ1+φ3)/dt (19)
Vw12=Nwx×d(φ2+φ4)/dt (20)
Vw21=Nwx×d(φ1-φ4)/dt (21)
Vw12=Nwx×d(φ2-φ3)/dt (22)
これらの各電圧は、(16)、(17)、(18)式とは異なる電圧となる。
【0217】
ここで、巻線237と238とを直列に接続した場合の電圧をVw1sとし、巻線23Bと23Cとを直列に接続した場合の電圧をVw2sとすると次式のように書ける。それぞれ、
図21の(16)、(17)式と同じになる。
Vw1s=Vw11+Vw12
=Nwx×d(φ1+φ2+φ3+φ4)/dt (23)
=Vw1
Vw2s=Vw11+Vw12
=Nwx×d(φ1+φ2-φ3-φ4)/dt (24)
=Vw2
【0218】
図23と
図20の対比では、
図23の巻線237と238とを直列に接続した場合、
図20の全節巻き線207、208と同じ電圧となる。
図23の巻線239と23Aとを直列に接続した場合、
図20の全節巻き線209、20Aと同じ電圧となる。
図23の巻線23Bと23Cとを直列に接続した場合、
図20の全節巻き線20B、20Cと同じ電圧となる。
【0219】
次に、
図23のような巻線構造を採用した場合の特徴、効果的な使い方を説明する。特徴の一つは、各相の巻線がそれぞれ単独の構成なので、電流制御の制約条件が無くなり、種々の電流制御を行うことが可能となる。
【0220】
また、全節巻きに比較して巻線を簡素化できる。バックヨークを囲うようにトロイダル巻線とすることができ、巻線製作の容易化と巻線占積率の向上を実現できる。
特に、
図8、
図9などのように相数が増加する場合は、巻線を全節巻きとした場合、コイルエンド部の巻線が複雑化する問題があるが、
図23のようなトロイダル巻線であれば巻線の交差も無く簡素化、高占積化が可能である。
【0221】
モータの形状によっても、
図23の構成の長短がある。モータのロータ軸方向長さが小さく、相対的にモータ直径が大きい、偏平なモータの場合、
図23の構成が有利である。
図23の構成では、バックヨークの外径側の巻線は、
図20のコイルエンド部の巻線の様に、モータ内部の起磁力生成には役立っていない。従って、外径側巻線の負担を軽減する一つの方法は、偏平なモータへ適用することである。
【0222】
また、巻線がロータ外周部へ露出するので冷却効果を大きくできる。導線の熱伝導率は大きく、スロット内で発生する銅損の熱も効果的に外部で放熱することができる。モータ外部を強制風冷、液冷する、あるいは、他の放熱手段を追加することも可能である。
【0223】
次に、
図23のリラクタンスモータをより偏平な構造として、特徴有る構成とする例を
図24に示す。
図24は
図23の外側から見た円周方向形状を直線展開した図である。
図24の紙面の上下方向はロータ軸方向で、紙面の左右方向は円周方向形状を直線展開した方向である。
図24の巻線241は、
図23の巻線233および237である。巻線242は、
図23の巻線23Cである。巻線243は、
図23の巻線239である。ステータ磁極244は、
図23のステータ磁極201である。ステータ磁極245は、
図23のステータ磁極206である。
図24の左右は波線として、図を省略している。
図24では、ステータのバックヨークの一部をロータ軸方向に凹ませて、そのスペースに巻線を巻回している。Lssはステータのロータ軸方向長さで、
図20、
図23などのロータ軸方向長さLsと同じ長さである。従って、
図24の構成ではコイルエンド部のロータ軸方向長さの2倍の寸法を短縮できるので、より偏平なリラクタンスモータを実現できる。各コイルの長さも短縮できるので、銅損の低減、銅線コストの低減ができる。前記のように外部冷却が容易である。電気自動車など各種機器へモータを組み込む場合、偏平なモータの用途は多い。但し、ステータのバックヨーク部の磁束が通過する断面積を確保するため、ステータ直径をやや大きくする必要がある。また、ステータの軟磁性体の形状が複雑になるので、その一部に3次元構造が容易な圧粉磁心を使用するなど、工夫が必要である。
【実施例12】
【0224】
次に、請求項6の他の実施例を
図25に示す。一つのモータへ、内径側モータと外径側モータの2組のモータを一体化して配置した構成である。
図25のモータ構成は、
図23のモータ構成を2極対化して内径側モータとし、内外径が対象構造の外径側モータを追加した構成である。
【0225】
図25の25Gは内径側モータの第1ロータで、25Hは外径側モータの第2ロータである。25Eは内径側モータの第1ステータの一部で、B相ステータ磁極である。25Fは外径側モータの第2ステータの一部で、B相ステータ磁極である。第1ステータと第2ステータは背中合わせの配置となっていて、バックヨークは一体化され、背中合わせのステータ磁極は同相のステータ磁極であり、巻線はトロイダル巻線の構成で第1ステータの巻線と第2ステータの巻線が一体化された構成である。
【0226】
巻線257はAB相巻線でコイルエンド部252を通って巻線251へ巻回し、ステータコアを囲う様に巻回している。
図23の巻線237、234、232に相当する。巻線258もAB相巻線であるが巻線の向きは巻線257とは逆向きで、コイルエンド部254を通って巻線253へ巻回し、ステータコアを囲う様に巻回している。
図23の巻線238、23H、23Fに相当する。同様に、巻線259と25AはBC相巻線で、ステータコアを囲う様に巻回している。
図23の巻線239、23Aに相当する。同様に、巻線25Bと25CはCA相巻線で、ステータコアを囲う様に巻回している。
図23の巻線23B、23Cに相当する。
図25は2極対の構成であり、残りの半分は同様の構成である。
【0227】
図25のようなモータ構成とすることにより、
図23のステータの外側の巻線232、23Fなどをトルクを発生する巻線として有効活用することができる。また、モータスペースの内、内径側も有効活用するので、出力密度の高いモータとすることができる。また、
図24の様なステータ構成とすることも可能であり、モータの扁平化も可能である。特に、
図8の(b)、
図9の(b)のように相数が多いリラクタンスモータでは、全節巻きとするとコイルエンド部が複雑になるので、
図25のようなモータ構成としてコイルエンド部の簡素化ができる。
【実施例13】
【0228】
次に、請求項7の実施例を
図26に示し、説明する。
図26は
図19の左上部のステータを拡大し、ステータ磁極の各歯の間に永久磁石を配置した図である。268はステータの外形部である。なお、
図19に示したリラクタンスモータは、6個のステータ磁極と4個のロータ磁極からなる
図1のリラクタンスモータを2極対にしている。
【0229】
図26の261はA6相ステータ磁極であり、集中巻き巻線が巻回され、電流シンボルで示す方向のA6相電流Ia6を通電し、極性はS極となる。262はA6/相ステータ磁極であり、集中巻き巻線が巻回され、電流シンボルで示す方向のA6相電流Ia6を通電し、極性はN極となる。263はB6相ステータ磁極であり、集中巻き巻線が巻回され、電流シンボルで示す方向のB6相電流Ib6を通電し、極性はS極となる。266はC6/相ステータ磁極であり、集中巻き巻線が巻回され、電流シンボルで示す方向のC6相電流Ic6を通電し、極性はN極となる。
【0230】
26AはA6相ステータ磁極261とC6/相ステータ磁極266の歯の間に配置した永久磁石で、26Aの極性の向きは両ステータ磁極の極性の方向に向いていて、両ステータ磁極の歯に生成される磁束の方向とは逆向きの磁束26Bを発生する。26CはC6/相ステータ磁極266とB6相ステータ磁極263の歯の間に配置した永久磁石で、26Cの極性の向きは両ステータ磁極の極性の方向に向いていて、両ステータ磁極の歯に生成される磁束の方向とは逆向きの磁束26Dを発生する。26EはB6相ステータ磁極263とA6/相ステータ磁極262の歯の間に配置した永久磁石で、26Eの極性の向きは両ステータ磁極の極性の方向に向いていて、両ステータ磁極の歯に生成される磁束の方向とは逆向きの磁束26Fを発生する。
【0231】
図26の各ステータ磁極261、262、263、266の歯の先の円周方向幅をLtfとする。
図19の歯先の幅とスロット開口部の幅が同じであると仮定すると、歯先の円周方向角度は機械角で15°となる。
図19では歯の幅をその歯先から根元まで一定幅としていて、その一定幅は前記Ltfに相当する。また、その一定幅とは、
図26の一点鎖線で示す各歯の形状である。しかし、
図26の歯の中心部26Gの幅は、実線で示すLtsの歯幅としていて、前記幅Ltfより小さな幅としている。従って、歯幅を縮小した断面積分だけスロットの断面積を拡大している。その結果、スロット内の巻線抵抗を小さくでき、銅損を低減できる。
【0232】
今、C6/相ステータ磁極266の一部であって、歯幅Ltsの歯中心部26Gを通る磁束φtについて考える。歯中心部26Gを通過する磁束の大きさφtと歯中心部26Gの磁束通過断面積Stと歯中心部26Gの磁束密度Btと永久磁石が発生する磁束φpmと歯の形状の関係について説明する。歯中心部26Gの磁束φtの方向は、バックヨークから歯の先へ向かう磁束を方向を正、逆方向を負とする。ステータおよびロータを構成する軟磁性体の飽和磁束密度を2.0[T]と仮定する。巻線の電流が0の場合、永久磁石26Aと26Cは負の磁束φpmを歯中心部26Gへ供給している。
【0233】
始めに、歯中心部26Gの歯幅Ltsが歯先の歯幅Ltfと等しく、永久磁石26A、26Cが存在しない場合を仮定する。今、ロータ磁極がC6/相ステータ磁極266へ対向する回転角位置にあって、C6相電流Ic6がその最大値で励磁する場合、歯中心部26Gおよび歯先の磁束密度は2.0[T]となる。
【0234】
次に、歯中心部26Gの歯幅Ltsが歯先の歯幅Ltfと等しく、永久磁石26A、26Cが十分に大きく歯中心部26Gの磁束密度Btが-2.0[T]であると仮定する。
歯中心部26Gを通過する磁束φtは、-2.0×Stとなる。この磁束φtはC6/相ステータ磁極266がC6相電流Ic6で励磁する磁束の方向とは逆方向なので、歯中心部26Gを逆方向磁束でバイアスしている状態である。今、ロータ磁極がC6/相ステータ磁極266へ対向する回転角位置にあって、C6相電流Ic6がその磁気回路を十分に励磁できる電流値の場合、歯先を通過する磁束は2.0×St[Wb]である。この時、対向するロータ磁極の磁束密度は2.0[T]となり、磁気飽和している。歯中心部26Gを通る磁束は、(-2.0×St+2.0×St)=0となる。歯中心部26Gの磁束密度Btは0[T]である。結果的にこの状態では、永久磁石26A、26Cからロータ側へ磁束が供給され、歯中心部26Gを通る磁束は0となる。
【0235】
次に、歯中心部26Gの歯幅Ltsが歯先の歯幅Ltfの1/2と狭い場合で、永久磁石26A、26Cが十分に大きく歯中心部26Gの磁束密度Btが-2.0[T]であると仮定する。歯中心部26Gを通過する磁束φtは、-2.0×(St/2)=-Stとなる。今、ロータ磁極がC6/相ステータ磁極266へ対向する回転角位置にあって、C6相電流Ic6がその磁気回路を十分に励磁できる電流値の場合、そ歯先を通過する磁束は2.0×Stである。歯中心部26Gを通る磁束は、(-St+2.0×St)=St[Wb]となる。歯中心部26Gの磁束密度Btは、(St/(St/2))=2.0[T]である。従って、歯中心部26Gの歯幅Ltsを歯先の1/2に縮小しても、ロータ磁極を励磁し、トルクを発生して駆動できることを示している。
【0236】
ここで、軟磁性体の磁気特性は、
図3の(a)の様な特性であり、1.6[T]程度までは比透磁率が比較的大きいが、2[T]に近づくと比透磁率が低下し、鉄損も増大する傾向がある。また、前記永久磁石26A、26Cの特性も理想的ではなく、C6相電流Ic6の起磁力が作用して発生する磁束が減少する。そのため、前記の設定条件を変え、歯中心部26Gの歯幅Ltsが歯先の歯幅Ltfの80%の場合で、永久磁石26A、26Cによる歯中心部26Gの磁束密度Btが-1.6[T]であると仮定する。歯中心部26Gを通過する磁束φtは、-1.6×(0.8×St)=-1.28St[T]となる。今、ロータ磁極がC6/相ステータ磁極266へ対向する回転角位置にあって、C6相電流Ic6がその磁気回路を十分に励磁できる電流値の場合、歯先を通過する磁束は2.0×Stである。歯中心部26Gを通る磁束は、(-1.28×St+2.0×St)=0.72×St[Wb]となる。歯中心部26Gの磁束密度Btは、(0.72×St/(0.8×St))=0.9[T]である。従って、歯中心部26Gの歯幅Ltsを歯先の80%に縮小しても、ロータ磁極を励磁し、トルクを発生して駆動できることを示している。但し前記のように、前記永久磁石26A、26Cの発生する磁束は、C6相電流Ic6の起磁力が作用して減少するので、前記磁束密度Btは0.9[T]より大きな値となる。
【0237】
このように
図26の方法は、歯中心部26Gの歯幅Ltsを、ステータ磁極の歯先の円周方向幅Ltfに対して50%から100%の値の幅に選択することができる。前記永久磁石26A、26Cの磁気特性と形状も選択できる。その結果、スロット面積拡大による銅損の低減と、歯などの磁気動作点の変更と体積の減少による鉄損の低減を期待できる。
歯中心部26Gの歯幅Ltsを、ステータ磁極の歯先の円周方向幅Ltfに対して90%以下にすれば、スロット面積拡大による銅損の低減を期待できる。また、リラクタンスモータで大トルクを出力する場合には、大きな励磁電流により円周方向隣の歯との間に漏れ磁束が生成される問題がある。永久磁石26A、26Cなどはこれらの漏れ磁束を低減する効果もある。なお、求められるモータ特性により種々設計が可能である。ここでは、代表的な特性の例を示した。また、
図26の各巻線は全節巻き巻線に変更できる。
【0238】
なお、同期電動機や誘導電動機の場合はステータとスロット間の磁気抵抗を小さくし、かつ、円周方向の磁気抵抗の離散性を小さくする構成なので、
図26のスロット開口幅Lsoを小さくしている。即ち、歯の中心部26Gの幅Ltsは歯先の円周方向幅をLtfより小さくなっていることが普通である。しかし、本発明モータのような、いわゆる、スイッチトリラクタンスモータと呼ばれるモータは、歯の部分とスロット開口部との磁気抵抗差を利用して、ロータの一部を吸引してトルクを発生する。従って、歯先の円周方向幅をLtfとスロット開口幅Lsoの大きさはほぼ等しい。そして、歯の幅形状は、歯先の円周方向幅をLtfと歯の中心部26Gの幅Ltsは等しい値である。また、円周方向の隣の歯から流入する漏れ磁束を考慮すると、むしろ、歯の中心部26Gの幅LtsがLtfより大きい方が好ましい。
【実施例14】
【0239】
次に、請求項8の実施例を
図27、
図28に示し、説明する。飽和磁束密度の異なる2種類以上の軟磁性体を使用するリラクタンスモータの構成である。
図3の(b)に示すような非線形性を改善、
図48に示すようなトルク飽和の問題を低減する。なお、モータの軟磁性体は、モータ用の電磁鋼板が主流であり、飽和磁束密度は2.0[T]に近い。しかし、諸事情により、鉄損が極めて小さく0.4[T]程度のフェライト鉄心、折曲げが容易な0.8[T]程度のマルテンサイト系ステンレス電磁鋼板、鉄損の小さな1.2[T]程度のアモルファス薄板、高価だが磁束密度が2.4[T]程度まで使用できるパーメンジュールの特殊な鋼板などの種々材料を使用できる。今、あるモータの設計条件から決められた軟磁性体MM1に対し、部分的に飽和磁束密度の大きい他種の軟磁性体MM2を、弊害が出ない程度に部分的に使用して、効果的にモータ特性を改善することができる。
【0240】
図27は
図1の一部に別の部材を追記した構成のモータ横断面図である。ステータとロータの大半を構成する主な軟磁性体をMM1とし、その飽和磁束密度BM1とする。271は飽和磁束密度BM1より大きな飽和磁束密度BM2の軟磁性体MM2で作られたステータ磁極部分である。272は、同様に、軟磁性体MM2で作られたロータ磁極部分である。なお、
図27では、1組のステータ磁極とロータ磁極だけに271、272を記載しているが、これらを適用モータでは全ステータ磁極、全ロータ磁極へ同様に271、272を付加する。
【0241】
図28は前記の
図6の左上部を拡大し、
図27の271、272、あるいは、273、274を付加した、
図6の部分的な図である。
図27のリラクタンスモータを、
図6、
図7で示した特性に対比して説明する。
図28の(a)は、ステータ磁極の円周方向形状を直線展開した図である。
図27の11はA2相ステータ磁極であり
図28の281に相当し、16はC2/相ステータ磁極であり
図28の286に相当し、13はB2相ステータ磁極であり
図28の283である。
図28の(b)は、ロータ磁極の円周方向形状を直線展開した図で、ロータ回転角位置θrは0°である。28A、28B、28Cはロータ磁極の表面形状である。
図28の(c)は、(b)の状態からCCWへ15°回転したロータ回転角位置θr=15°の図で、
図27のロータ回転角位置に相当する。
図27の271は
図28の28Pで、
図27の272は
図28の28Qである。
【0242】
図28において、ロータ回転角位置θrが5°辺りから15°の領域では、C2/相ステータ磁極286とロータ磁極28Bとの間でトルクを発生する。この回転範囲は、
図48の特性ではθrが20°から30°に相当する回転範囲で、磁気飽和によりトルクが大幅に低下する領域である。ここで、
図28の28Pと28Qは前記軟磁性体MM2で構成しているので、飽和磁束密度がBM2と他の部分より大きく、
図48に示すようなトルク低下を低減することができる。ただし、問題の磁気飽和が発生する場所は、ステータ磁極の歯先、あるいは、ロータ磁極の歯先とは限らない。従って、磁束の一巡経路で磁気飽和する部分があれば、その部分の磁路を太くするなどの対応は、別途、必要である。なお、
図28のロータ回転角位置θrが5°辺りから15°の領域では、A相ステータ磁極281とロータ磁極28Aの間でもトルクの発生が開始されるが、まだこの回転領域では、磁束が小さく、磁気飽和の問題は発生しない。
【0243】
ここでは、CCWの回転について説明したが、例えば、電気自動車の主機モータは前進方向の片方向の回転を主として使用するので片方向の回転トルクが重要である。
図28の28Pと28Qは、CCWのトルクを優先した方法である。
【0244】
図27のステータ磁極部分273は、前記ステータ磁極部分271を円周方向に拡大した構成例である。一方ロータ磁極についても、ロータ磁極部分274は前記ロータ磁極部分272を円周方向に拡大し、このロータ磁極のCW端まで前記軟磁性体MM2とした構成例である。少し大きなステータ磁極部分273とロータ磁極部分274をモータへ付加することにより、271、272の場合より効果的にトルクの低下を減少させることができる。このように、ステータ磁極部分、ロータ磁極部分の大きさ、配置場所は選択できる。
【実施例15】
【0245】
次に、請求項9の実施例を
図29に示し、説明する。
図1、
図8、
図9などのモータ構成を変形し、永久磁石を活用して励磁負担を軽減し、モータ効率を改善する技術である。
図29の291はA8相のステータ磁極で292はA8/相ステータ磁極、293はB8相のステータ磁極で294はB8/相ステータ磁極、295はC8相のステータ磁極で296はB8/相ステータ磁極である。
図29は、先に説明した
図1の構成に比較し、B8相とB8/相のステータ磁極と逆に配置し、C8相のC8/相のステータ磁極を逆に配置し、S極の各ステータ磁極を
図29の紙面の上側に集め、N極の各ステータ磁極を紙面の下側に集めている。そして、それらの中間のバックヨーク部へ永久磁石29Aと29Bを挿入している。永久磁石29Aと29Bの極性の向きはステータ磁極の極性の方向である。これらの構成により、永久磁石29Aと29Bは全てのステータ磁極を均等に励磁している構成となり、ロータが回転しても永久磁石を通過する磁束の変動が比較的少ない構成としている。
【0246】
そして、永久磁石29Aの側面には軟磁性体のバイパス部29Cを設け、永久磁石29Bの側面には軟磁性体のバイパス部29Dを設けている。特に、モータを基底回転数より高い高速回転で定出力運転する場合、永久磁石の過大な磁束により誘起電圧が駆動回路の電源電圧を超えることになり、回転数が基底回転数のあたりで制限される問題がある。高速回転のこの制限を緩和する目的で、永久磁石の磁束の一部をバイパス部29C、29Dを通して短絡することにより、モータとして作用する磁束を低減する構成としている。
【0247】
また、永久磁石29Aと29Bが無い場合、基底回転数より高い高速回転では、磁束を励磁するための電流、電圧の負担が必要となる。回転数が高くなると周波数も大きくなり、漏れインダクタンス分の励磁電圧がインバータの電圧負担となる。
図29のモータ構成であれば永久磁石29Aと29Bが励磁の一部を負担するので、高速回転において、インバータの電流負担、電圧負担を軽減することができる。
【0248】
一方、基底回転数以下の回転数で、モータトルクが大きい時は、最大限の磁束が必要となる。各相ステータ磁極の励磁電流も大きく、永久磁石29A、29Bとバイパス部29C、29Dの両方を通って各ステータ磁極へ磁束が供給される。ここで、バイパス部29C、29Dを通過できる磁束の量からバイパス部断29C、29Dの磁路通過断面積を適切な値とする必要があり、各ステータ磁極に必要な磁束、永久磁石が発生する磁束とともに設計することができる。
【0249】
なお、前記説明では、基底回転数Nbaにおいて最大トルクを出力する時、モータ電圧が直流電源電圧に近くなることを前提に説明した。従って、基底回転数より高い高速回転では、同期電動機における界磁弱め制御に相当する、リラクタンスモータの磁束の制限が必要となる。しかし、
図29のリラクタンスモータを基底回転数以下だけで使用する場合は、界磁弱めなどを行う必要が無いので、バイパス部29C、29Dは不要となる。
【実施例16】
【0250】
次に、請求項10の実施例を
図30に示す。301はA9相で302はA9/相のステータ磁極、303はB9相で304はB9/相のステータ磁極、305はC9相で306はC9/相のステータ磁極である。
図20などのステータ磁極、ロータ磁極と同じ配置順である。ステータの各巻線も
図20の全節巻きの例を示している。
【0251】
図30のバックヨークをS極用バックヨーク307とN極用バックヨーク308へ、図示するように空間的に、磁気的に分けている。S極のステータ磁極301、303、305はS極用バックヨーク307へ繋ぎ、N極のステータ磁極302、304、306は307の穴などの部分を通ってN極用バックヨーク308へ繋いでいる。そして、S極用バックヨーク307とN極用バックヨーク308との間には、励磁用の永久磁石309、30A、30Bなどを配置している。各ステータ磁極を均等に励磁することができる。
【0252】
なお、N極のステータ磁極302、304、306は、S極用バックヨーク307を避けて、穴などの部分を通してN極用バックヨーク308へ繋ぐ。その部分は破線30D、30E、30Fで示す部分で、S極用バックヨーク307と交差し、近接し易く、複雑な形状となる。これらの部分では漏れ磁束が発生し易く、30G、30Hのような漏れ磁束低減用の磁石を配置している。なお、この交差部では、磁束通過断面積が小さくなりがちで、円周方向に広げるなど種々の工夫が可能である。
【0253】
これらの組み立て方法の一つは、
図30に示すような多くの永久磁石と軟磁性体のコアを順番に組み付けることができる。また、他の製作方法として、射出成形機でプラスチック部品を成形するように、樹脂と磁石粉とを混ぜた材料を高温に液化して両ステータコアとそれらを覆う型に注入して製作することもできる。その場合、永久磁石30G、30Hのように薄く複雑な形状でも比較的容易に製作できる。なお、各磁石の着磁は組み立て後に両バックヨークへ起磁力を加えて複雑の磁石形状の部分などを一斉に着磁することもできる。また、高速回転時と大きなトルクの時とでは必要な磁束の量が異なるので、
図29のバイパス部29C、29Dに示した構成を付加しても良い。即ち、S極用バックヨーク307とN極用バックヨーク308との間に、適量の軟磁性体を配置して、一部の磁路で繋がっていても良い。
【0254】
図30、
図31の構成の場合、
図29の構成とは異なり、スロット内の巻線を統合して全節巻き巻線化、あるいは、
図23のようなトロイダル巻線化が容易に可能である。また、
図26のように、ステータの歯の間に永久磁石を配置してスロット断面積を拡大すること、歯間の漏れ磁束を低減すること、歯の鉄損を低減することもできる。リラクタンスモータの励磁負担の軽減、銅損の低減、スロット断面積の拡大などによる高トルク化ができる。
【実施例17】
【0255】
次に、請求項10の他の実施例を
図31の(a)、(b)に示す。
図31はステータコアの側面図であり、紙面で上下方向はロータ軸方向である。
図31の(a)の構成では、S極用バックヨーク311とN極用バックヨーク312があり、それらの間に励磁用の永久磁石313を挟んでいる。
図31の(a)の内部には、
図30の様に、各相のステータ磁極、ロータを配置する。S極用バックヨーク311はS極のステータ磁極へ磁気的に繋ぎ、N極用バックヨーク312はN極のステータ磁極へ磁気的に繋ぐ。このようにして、永久磁石313でS極のステータ磁極とN極のステータ磁極を励磁することができる。
【0256】
図31の(b)の構成では、S極用バックヨークをロータ軸方向両端の314と316へ配置している。315はN極用バックヨークである。317、318はバックヨークの極性の方向に合わせて配置した永久磁石である。このように、モータのロータ軸方向長さにより、S極用バックヨークとN極用バックヨークを複数個にして交互に配置することもできる。なお、
図31の内部のN極のステータ磁極などとS極のステータ磁極などとが接近する部分には、
図30の30G、30Hのような漏れ磁束低減用の磁石を配置すると効果的である。また、
図31の(a)、(b)では、永久磁石313、317、318の形状が円環状の場合について示したが、各ステータ磁極の配置、極性に合わせてロータ軸方向に凹凸状の円環として、各バックヨークから各ステータ磁極への磁路断面積を拡大しても良い。
【実施例18】
【0257】
次に、請求項11の実施例を
図33、
図34に示し、説明する。
図33、
図34では、高速回転において、トルクリップルが小さく、低騒音で、またトルクの増加が容易なモータ構成を示す。なお、基底回転数Nbaの定義を、基底回転数において最大トルクを出力する時、モータ電圧が直流電源電圧に近くなるモータ回転数と定義する。回転数と電源電圧とが関わる技術である。
【0258】
先に説明した従来リラクタンスモータの第4の問題点、「高速回転での安定で均一なトルク出力が困難」について改善するものである。
図46、
図47などの従来リラクタンスモータのこの問題点は、ロータ磁極のロータ軸方向幅が均一なため、基底回転数Nba以上の高速回転でステータ磁極へ励磁電流を通電すると、電源電圧に近い過大な電圧が発生して、電流の増加ができず、トルクの増加が困難となることに起因している。各相の巻線電圧は(5)式となる。ここで、大きなトルクを発生する時は電流値も大きく、Boは、
図3の(a)のような、軟磁性体の飽和磁束密度を指している。(5)式では、ステータ、ロータのロータ軸方向長さをLsとし、ロータ磁極各部の(ロータ軸方向長さ)/(ステータの軸方向長さLs)を軸方向長さ比Kraとしており、巻線電圧はKraに比例する。従って、(5)式より、高速回転で巻線電圧を電源電圧より小さくするためには、軸方向長さ比Kraを小さくしなければならない。
【0259】
図46、
図47などの従来リラクタンスモータを高速回転で駆動する時、電流を制限して界磁弱めを行い巻線電圧を電源電圧以下に低減するということと、高速回転において大きな電流を通電して一定のパワーを出力することが、電流に関して矛盾することになる。
なお、従来リラクタンスモータでは、各相巻線の電圧が低い回転角度域のタイミングで電力を注入し、脈動するトルクを発生することはできる。この技術は、
図33の構成においても併用することができる。
【0260】
まず、
図32は本発明リラクタンスモータの制御装置の例について説明する。321は
図1などに示すリラクタンスモータの例であり、322はA相巻線、A/相巻線でA相電流Iaを通電する。323はB相巻線、B/相巻線でB相電流Ibを通電し、324はC相巻線、C/相巻線でC相電流Icを通電する。325はロータの位置などを検出するエンコーダで、325はそのインターフェイスで、回転速度信号329、ロータ回転角位置θrである32Aを出力する。32GはA相電流Iaを検出する電流検出器である。32LはB相電流Ibを検出する電流検出器である。32QはC相電流Icを検出する電流検出器である。
【0261】
327は回転速度指令で、328は回転速度誤差を計算する加算器で、補償器32Bへ計算結果を出力する。補償器32Bは、例えば、比例、積分制御を行い、その出力であるトルク指令、あるいは、電流指令32CをA相制御部32D、B相制御部32H、C相制御部32Mへ出力する。A相制御部32Dは、電流指令32C、回転速度信号329、ロータ回転角度位置θrを入力し、A相電流検出値を入力し、制御モードなど記憶された情報なども使用して計算し、A相駆動回路32Fへ駆動信号32Eを出力する。B相制御部32Hも同様の機能、動作であり、B相電流検出値を入力し、B相駆動回路32Kへ駆動信号32Jを出力する。B相制御部32Hも同様の機能、動作であり、C相電流検出値を入力し、C相駆動回路32Pへ駆動信号32Nを出力する。A相駆動回路32Fは、電力増幅し、A相電流Iaを322のA相巻線、A/相巻線へ供給する。B相駆動回路32Kは、電力増幅し、B相電流Ibを323のB相巻線、B/相巻線へ供給する。C相駆動回路32Pは、電力増幅し、C相電流Icを324のC相巻線、C/相巻線へ供給する。なお、これらの制御機能はマイクロプロセッサーを使用してソフトウェアで実行されることが多い。
【0262】
図33は、基底回転数の4倍の高速回転数まで駆動でき、その最高回転数で基底回転数の最高トルクの1/4のトルクの出力を可能とする、高速回転用リラクタンスモータの例である。横断面図は
図9の(a)である。ステータ磁極が10個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータである。なお、
図33は、
図12に示すロータ磁極形状を変形した構成である。
【0263】
図33の(a)は、ステータとロータとの間のエアギャップ面から見たステータ磁極SPの内周面形状を、そのCCWの円周方向が
図33の横軸方向となるように直線展開した図である。
図33の縦軸方向はロータ軸方向である。
図33の331はAA相で332はAA/相のステータ磁極、333はBA相で334はBA/相ステータ磁極、335はCA相で336はCA/相ステータ磁極、337はDA相で338はDA/相ステータ磁極、339はEA相で33AはEA/相ステータ磁極である。各相のステータ磁極のエアギャップ面の形状は、円周方向角度幅θBsが18°で、ロータ軸方向長さはLsである。ステータ磁極間の隙間も18°である。
【0264】
図33の(b)は、エアギャップ面から見たロータ磁極RPの外周面形状を、
図9の(a)のCCWの円周方向が
図33の横軸方向、即ち、
図33の紙面の右方向となるように直線展開した図である。
図33において、ロータ磁極33Jの右端は、
図9の(a)における12JのCCWの先端でもある。
図33の(b)のロータの回転角位置θrは0°である。
【0265】
次に、ロータ磁極の形状について説明する。
図33の各ロータ磁極の円周方向角度幅θBrは36°である。各ロータ磁極のロータ軸方向幅は、CCW方向の前方部の18°幅部分と後方部の18°幅部分が異なる形状となっている。前記前方部の18°幅部分は、ロータ軸方向長さがLs/5である。前記後方部の18°部分は、ロータ軸方向長さがLsで、各ステータ磁極SPのロータ軸方向長さと同じ長さである。後に詳しく説明するが、前記前方部のロータ軸方向長さをLs/5と小さくしていて、高速回転時における、ステータ巻線に鎖交する磁束の時間変化率を小さくし、ステータ巻線に発生する誘起電圧が過大な値とならないような形状としている。また、ロータ磁極の周期は60°なので、ロータ磁極間の隙間は24°である。
【0266】
図33の(c)は、
図33の(b)のロータ位置θr=0°からCCWへ18°回転しており、θrは18°である。(d)はさらにCCWへ18°回転し、θrは36°である。(e)のθrは54°である。
図33の(f)のθrは60°であり、ステータとロータの関係は
図33の(b)と同じ状態である。このようにロータを回転させ、ロータ回転角位置θrを変えることにより、各ステータ磁極SPと各ロータ磁極RPとの磁気的な相対関係が変わるので、各ステータ磁極SPをそれぞれ適切なタイミングで励磁してロータの回転トルクを得ることができる。
【0267】
次に、ステータ磁極の各巻線へ電流を通電した時に作用する電圧、モータ出力パワー、トルクの関係について説明する。但し、電磁気関係を単純にモデル化した場合の特性である。今、
図9の(a)のAA相の巻線91とAA/相の巻線92を直列に接続し、AA相電流IaAとして連続定格に近い値の一定電流Io[A]を通電した状態で、ロータをCCWへ一定速度Vso[ラジアン/sec]で回転する状態を考えてみる。
図9の(a)のCCW方向は、
図33の紙面の右方向である。この時のAA相の巻線電圧は、
図34の電圧VaAとなる。
図34のVaAの横軸は時間tであり、
図34の最下段にはその時のロータ回転角位置θrの値を示している。
【0268】
最初に、ロータ回転角位置θrが0°から18°へさしかかる時のAA相の巻線に鎖交する磁束と、AA相の巻線電圧VaAについて説明する。
図33のロータ磁極33Jがθrの0°から、その前方部がAA相のステータ磁極331に、エアギャップを介して対向し始める。
図33の(b)から(c)までの状態である。ロータ磁極33Jの前方部のロータ軸方向長さは、ステータ磁極の軸方向長さLsの1/5であり、ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は最大値の1/5となる。ここで、
図34の電圧は正規化していて、0°から18°の間のAA相の巻線電圧VaAは0.2として示している。
【0269】
次に、θrが18°から36°の間は、
図33の(c)から(d)までの状態である。ロータ磁極33Jの後方部がAA相のステータ磁極331へ対向して行く。一方、ロータ磁極33Jの前方部は外れて行く。通過する磁束はそれらの差し引きで、この間の巻線電圧VaAは(1.0-0.2)=0.8となる。
【0270】
次に、θrが36°から54°の間は、
図33の(d)から(e)までの状態である。ロータ磁極33Jの後方部がAA相のステータ磁極331へ対向している状態から外れて行き、(e)のθr=54°では全てが外れる。この間は、通過する磁束が回転と共に減少する。ロータ磁極とステータ磁極へ通過する磁束の回転変化率は負の最大値となる。その結果、
図34のθrが36°から54°の間のAA相の巻線電圧VaAは-1.0となる。
【0271】
次に、θrが54°から60°の間は、
図33の(e)から(f)までの状態である。この間は、ステータ磁極331はロータ磁極33Jに対向しないので、通過する磁束は0である。この間のAA相の巻線電圧VaAは0となる。ロータ磁極の間隔は60°なので、(e)は最初に説明を開始した元の(b)と同じ状態である。以上のように、θrが0°から60°の動作を繰り返して回転する。
【0272】
同様に、BA相の電圧VbAは、
図9の(a)の巻線93と94を直列に巻回した巻線の電圧で、
図34の電圧VbAとなり、AA相電圧VaAに対して位相が12°遅れた電圧である。同様に、CA相の電圧VcAは巻線95と96を直列に巻回した巻線の電圧で、
図34の電圧VcAとなり、VaAに対して位相が24°遅れた電圧である。同様に、DA相の電圧VdAは巻線97と98を直列に巻回した巻線の電圧で、
図34の電圧VdAとなり、Va4に対して位相が36°遅れた電圧である。同様に、E4相の電圧Ve4は巻線99と9Aを直列に巻回した巻線の電圧で、
図34の電圧Ve4となり、Va4に対して位相が48°遅れた電圧である。
【0273】
これらの各相の電圧などは、(1)式から(12)式の関係となっている。D相、E相についても同様の式である。ただし、前記の、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。また、各電圧、各電流、各トルクは、それらの値を正規化している。
【0274】
図34で説明した前記AA相電圧VaA、BA相電圧VbA、CA相電圧VcA、DA相電圧VdA、EA相電圧VeAは、(5)式の関係となっている。そして、(8)式においてA相のトルクがA相電圧に比例するように、
図9の(a)のリラクタンスモータに関するAA相トルクTaA、BA相トルクTbA、CA相トルクTcA、DA相トルクTdA、EA相トルクTeAは、(Io/Vso)が一定値なのでそれぞれ、各相電圧VaA、VbA、VcA、VdA、VeAに比例する。その意味で、
図34の各相電圧VaA、VbA、VcA、VdA、VeAの下に各相トルクTaA、TbA、TcA、TdA、TeAを括弧付きで付記している。
【0275】
次に、
図9の(a)、
図33、
図34に示すリラクタンスモータで、CCWの正方向の連続トルクを生成する方法、あるいは、CCWへ回転中にCW方向のトルクを生成する方法について説明する。その具体的な方法は、先に説明した、
図9の(a)、
図12、
図13に示すリラクタンスモータでCCWの正方向の連続トルクを生成する方法、あるいは、CCWへ回転中にCW方向のトルクを生成する方法と同様である。
図34のAA相トルクであるTaAが正トルクを生成する区間は、θrが0°から36°と60°から96°などであり、
図34のIaAFHの実線に示す電流を通電する。BA相トルクであるTbAは、IaAFHより位相が12°遅れた電流を通電する。CA相トルクであるTcAは、IaAFHより位相が24°遅れた電流を通電する。DA相トルクであるTdAは、IaAFHより位相が36°遅れた電流を通電する。EA相トルクであるTeAは、IaAFHより位相が48°遅れた電流を通電する。これらの合計トルクは、
図34のTtAの341となる。1.2と1.8を12°周期で繰り返すトルクで、その平均値は1.5である。ここで、
図34のIaAFHの破線に示す電流を通電すると、トルク脈動は無くなり、トルクは1.0の一定値となる。モータの所要トルクが最大値の2/3以下であれば、破線で示す通電方法の方が騒音、振動の点で好ましい。
【0276】
しかし、高速回転では巻線の誘起電圧が電源電圧以下となる必要があり、通電電流の制限がある。例えば、モータの基底回転数Nba以下の回転数では、
図34のIaAFHのような電流を通電できるが、Nba以上の回転数でトルクもある程度大きくなると巻線の誘起電圧が電源電圧を超えることになる。今、基底回転数NbaでのAA相の巻線誘起電圧VaAの最大値が、
図34に示すように、0.8であると仮定し、電源電圧Vdcは1.0であると仮定する。そして、最高回転数NmaxはNbaの4倍であると仮定する。
【0277】
高速回転でトルクを可変制御する最も単純な方法は、巻線誘起電圧が電源電圧Vdcを超えない回転領域を作り、その回転領域で電流を制御することである。最高回転数NmaxにおいてAA相巻線へIaAFLの電流を通電すると、基底回転数NbaでのAA相の巻線誘起電圧VaAは0.2なので、最高回転数NmaxにおけるVaAは(0.2×(Nmax/Nba))=0.8となり、電源電圧Vdcより0.2だけ小さい電圧となる。他の相についても同様である。従って、巻線インピーダンスを無視して単純化すれば、最高回転数Nmaxにおいて電源電圧に0.2の余裕がある。り、各相のIaAFLのような電流を自由に増減でき、トルクを制御できることになる。
【0278】
図34のIaAFLの実線ような電流を各相に通電すると、合計トルクはTtLとなる。IaAFLの破線に示す電流を通電すると、トルクは0.2の一定値となり、トルク脈動をなくすことができる。IaAFLの破線の電流波形は、台形状となるので、電流の増減も容易化され、都合が良い。このAA相電流IaAFLを通電している区間は、前記のように、最高回転数NmaxにおいてもAA相の巻線誘起電圧VaAは0.8なので電源電圧Vdcに0.2の余裕があり、AA相電流IaAFLを増加することができる。この時のモータ出力パワーは、トルクが0.2だが、回転数が基底回転数Nbaの4倍なので、0.8である。さらに、各相電流の増加によりパワーを大きくすることもできる。このように、最高回転数Nmaxの近傍において大きなパワーを出力することができる。
【0279】
また、基底回転数Nbaから最高回転数Nmaxの間の回転数において、電流値を増加せずに、TtLに示すトルクより大きなトルクを出力することも可能である。IaAFLとIaAFHの中間のような電流を通電する方法である。巻線の電圧が電源電圧Vdcを超える区間では、通電電流が電源へ回生されることになるが、その時の磁気エネルギーの一部はトルクとなるのでトルク出力として活用できる。但し、この場合、トルク脈動は避けられない。
【0280】
次に、
図9の(a)、
図33、
図34のリラクタンスモータで、CCW方向へ速度Vsoで回転する状態で、CW方向のトルクを生成する方法について、
図13を使用して説明する。モータを制動し、回生する動作でもある。
図34のAA相トルクであるTaAが負トルクを生成する区間は、θrが36°から54°と96°から114°などであり、
図34のIaARの実線で示すAA相電流IaAを通電する。BA相の電流IbAは、同様に、IaARの実線の位相が12°遅れた電流を通電する。CA相の電流IcAは、同様に、IaARの実線の位相が24°遅れた電流を通電する。DA相の電流IdAは、同様に、IaARの実線の位相が36°遅れた電流を通電する。EA相の電流IeAは、同様に、IaARの実線の位相が48°遅れた電流を通電する。各相のトルクの合計は、
図34のTtAの342となる。-1.0と-2.0を12°周期で繰り返すトルクで、その平均値は-1.5である。ここで、
図34のIaARの破線に示す電流を通電すると、トルク脈動は無くなり、トルクは-1.0の一定値となる。破線で示す通電方法の方が騒音、振動の点では好ましい。
【0281】
以上のように、最高回転数Nmaxが基底回転数Nbaの4倍の例を
図33、
図34に示した。最高回転数Nmaxが基底回転数Nbaより大きい場合は、ロータ磁極の形状の工夫と制御方法により、低トルクリップル化ができ、低騒音、低振動を実現することができる。そして、高速回転でのトルクの自在制御ができる。また、基底回転数Nbaと最高回転数Nmaxとの比は、
図33のロータ磁極の前方部の幅であるロータ軸方向長さ比Kraと次式の関係になる。
Kra=Nba/(Nba+Nmax) (25)
例えば、この回転数比が2の場合は、Kra=1/3となり、ロータ磁極の前方部のロータ軸方向幅はLs/3となる。後方部のロータ軸方向幅はLsである。なお、ロータ磁極の前方部の実用化の方法は、
図17に示したように種々の方法でその磁気特性を実現でき、それらも本発明に含むものとする。また、
図33に示したロータ磁極の形状は、求められる特性、用途に合わせた変形、改良が可能である。
【実施例19】
【0282】
次に、請求項12の実施例を
図35に示し、説明する。本発明は電気自動車用の主機用モータなどの片方向回転を主とするような用途のモータを対象としており、CCW回転を順回転方向として、順回転方向の性能を優先するモータ形状、構成として、騒音、振動の低減、トルク特性の改善などを実現する。しかし、ロータ磁極形状を工夫して順回転方向のトルク発生範囲の拡大などの改善を行うと、その反面、CW方向のトルク脈動が発生し易くなるなど、新たな問題が発生することもある。請求項12は逆回転方向のこのトルク脈動を改善するリラクタンスモータである。
【0283】
図35は、先に示した
図8の(a)、
図10、
図11のリラクタンスモータをCCWへ回転させ、CWのトルクを発生する場合の各相の電圧、電流、トルクを示す図である。
図35のVa3Rは、
図11のVa3の負の電圧部分だけを取り出した図である。
図35のVb3Rは、
図11のVb3の負の電圧部分だけを取り出した図である。
図35のVc3Rは、
図11のVc3の負の電圧部分だけを取り出した図である。
図35のVd3Rは、
図11のVd3の負の電圧部分だけを取り出した図である。これらの電圧特性の時に、A3相の電流として
図11のIa3Rの実線で示す電流を通電し、他の相の電流もそれぞれの位相の同様の電流を通電した場合、モータトルクは
図11のTt3の112となり、-1.0と-2.0が15°周期で繰り返す脈動したトルクとなる。従って、トルクリップルの問題、騒音、振動の問題が発生する。
【0284】
各相の電圧は(5)式で表され、トルクは(8)式で表される。前記112のトルクの脈動を低減する一つの方法は、(8)式より、各相の電流値を可変することである。
図35の各相電圧の内、二つの相の電圧が重なっている部分でトルク絶対値が大きくなっているので、電圧が重なっている区間では二つの相の電流を半減すれば良い。
図35でθrが33.75°から41.25°の間は、Va3RとVb3Rとが重なっているので、この間ではA3相電流Ia3Rを直線的に増加させ、Ib3Rを直線的に減少させることによりこの間のトルクを半減することができる。他の部分についても同様に、他の相でも同様に作図すると、
図35のA3相電流Ia3R、B3相電流Ib3R、C3相電流Ic3R、D3相電流Id3Rとなる。この時のモータ全体のトルクは、
図35のTt3rgの-1.0となり、トルク脈動を低減できる。
【0285】
この様に、各相のトルク発生が重複する部分について、時間的に回生トルクが先行するステータ磁極の励磁電流を徐々に減少し、同時に時間的に後行するステータ磁極の励磁電流を徐々に増加させて、モータ全体の回生トルクの脈動が小さくなるように制御することができる。また、
図35の各相電流の波形を台形状としており、各相電流の増減も容易で、ステータ磁極とロータ磁極間の吸引力の急変による振動、騒音を低減することもできる。また、
図35の各相電流波形の台形化は、先に説明した
図34の回生電流IaARの破線も、回生トルクの脈動を低減する例である。
図34の力行の電流であるIaAFLの破線、IaAFHの破線の台形状電流についても同様であり、トルク脈動を低減できる。なお、前記説明は、種々の簡素化した条件の元での話であり、数式である。また、各電圧、各電流、各トルクは正規化して示している。特に、
図35において各相のトルクが図示する各相電流に比例するとの仮定は、励磁電流成分を無視しており、正確ではない。しかし、各相電流に励磁電流成分を付加して容易に修正することができる。
【実施例20】
【0286】
次に、請求項13について説明する。前記の多くの図とその説明において、ロータ磁極形状とその特性を説明したが、ステータ磁極とロータ磁極の間の電磁気的な作用は相対的なものであり、ステータ磁極を種々形状に変形することもできる。ステータ磁極とロータ磁極との両方の形状を相対的に変形することもできる。それらは本発明で、ロータ磁極の形状として説明したものと等価であり、本発明に含むものである。例えば、具体的には、ステータ磁極の巻線の巻回を容易にするためにステータ磁極の四隅の一部を削除して変形し、その変形分をロータ形状で補うような形状とするものである。また、ステータ磁極を構成するステータの歯の先端近傍に永久磁石を配置、固定すると同時に歯先形状を変形することもできる。また、その変形分をロータ形状で補うような形状とすることもできる。この様な場合に、本発明で図示したロータ磁極形状をステータ磁極側で実現し、ロータ磁極の表面形状を長方形とし、ロータ磁極形状とステータ磁極形状を逆転した構成とすることもできる。
【実施例21】
【0287】
次に、請求項14の実施例を
図37、
図40、
図42に示し、説明する。先に、
図20の全節巻き巻線の構成の説明をし、その各相電流Iab、Ibc、Icaを(13)、(14)、(15)式に示し、各ステータ磁極への集中巻き巻線の電流Ia7、Ib7、Ic7との関係を示した。そして、
図20の全節巻き巻線の銅損は、集中巻き巻線の銅損より小さくできることを示した。しかし、
図21に示す1組、2個のステータを励磁する全節巻き巻線W1、W2の電圧Vw1、Vw2は(16)、(17)式で示され、(18)式に示す電圧が(16)、(17)式へ差動的に作用する結果、前記電圧Vw1、Vw2が電圧の偏りにより過大な電圧となることを、一般化したモータモデルの例として示した。
【0288】
駆動回路が大型化する具体例として、
図20のリラクタンスモータを
図36の3相のリラクタンスモータ駆動回路を使用して励磁する例を示す。まず、
図36の駆動回路において、36Aは駆動回路全体の制御回路、36Bは直流電圧源、361、362、363、364、365、366は駆動用トランジスタ、367は
図20の207と208のAB相全節巻き巻線でAB相電流Iabを通電し、368は
図20の209と20AのBC相全節巻き巻線でBC相電流Ibcを通電し、369は
図20の20Bと20CのCA相全節巻き巻線でCA相電流Icaを通電する。残りの6個のダイオードは電力回生用ダイオードである。
【0289】
今、A7相ステータ磁極201とA7/相のステータ磁極202とを励磁するために、IabとIcaを通電する場合、
図36のAB相全節巻き巻線367、CA相全節巻き巻線369には(16)、(17)式で示した過大な電圧が発生する。巻線電圧が直流電圧源36Bの電圧以下とするために、例えば、巻線の巻き回数を1/2とすると、巻線電圧は1/2となるが巻線電流は2倍となる。そのため、
図36のトランジスタ361、362、363、364、365、366の電流容量を2倍に増加する必要があり、大型化、高コスト化する問題が発生する。
【0290】
次に、(16)、(17)、(18)式の問題、即ち、駆動回路が高コスト化、大型化する問題を低減する
図37の駆動回路とその動作を説明する。駆動対象のリラクタンスモータは、
図20を2極対に多極化した
図22のリラクタンスモータとする。
【0291】
まず、
図22の2極対のリラクタンスモータの電圧、電流を明確にするために、1極対のリラクタンスモータである
図20の電圧、電流を説明する。
図20の全節巻き巻線の各電流Iab、Ibc、Icaは、(13)、(14)、(15)式により、各ステータ磁極に巻回した集中巻き巻線の電流Ia、Ib、Icで示される。
【0292】
また、
図20はその対称性から、図示するように、A7相磁束をφa、B7相磁束をφb、C7相磁束をφcとする。そして、
図1の各ステータ磁極への集中巻き巻線の場合の電圧Vb、Vcは、(4)式とVaと同様に、鎖交磁束φa、φb、φcとの関係より次式で表される。
Va=Nwa×dφa/dt
Vb=Nwa×dφb/dt (26)
Vc=Nwa×dφc/dt (27)
AB相巻線20Dの電圧Vab、BC相巻線20Eの電圧Vbc、CA相巻線20Fの電圧Vcaは、
図21と(16)、(17)式と同様に、また、
図20の各巻線の鎖交磁束の関係から、次式で表される。
Vab=Nwx×d(φa+φb-φc)/dt (28)
=Va+Vb-Vc (29)
Vbc=Nwx×d(-φa+φb+φc)/dt (30)
=-Va+Vb+Vc (31)
Vca=Nwx×d(φa-φb+φc)/dt (32)
=Va-Vb+Vc (33)
【0293】
ここで、(29)、(31)、(33)式は、(18)式の電圧成分により差動的な電圧が加わっており、複雑であるだけでなく、大きなピーク電圧を持つことになる。そこで、後に述べる
図37の駆動回路では、2個の巻線を直列に接続にして、(18)式の差動電圧の成分を相殺し、簡素化して通電する。即ち、(29)、(31)、(33)式の電圧の2個を直列に接続にして、(18)式の差動電圧の成分を相殺し、次式のように簡素化して通電する。
Vab+Vca=2×Va (34)
Vca+Vbc=2×Vc (35)
Vbc+Vab=2×Vb (36)
【0294】
その結果、2個の巻線を直列に接続した両端に過大な電圧が発生することは無くなり、即ち、電圧の偏りの問題が無くなり、駆動回路への電圧負担を解消することができる。そして、巻線の巻き回数を減少する必要が無いので、巻線の電流は増加せず、トランジスタの電流容量を増加する必要もなくなる。
【0295】
また、
図20、
図21、
図22で示した全節巻き、および、
図23、
図24、
図25で示した各スロットの巻線をバックヨークの後ろ側へ巻回するトロイダル巻線とする方法は、それぞれに特長が有るものの、電圧が複雑になる問題、電圧が過大になる問題があった。これらの問題に対し、後に示す
図37の駆動回路と各巻線の接続方法では、(13)、(14)、(15)式の合成電流の各巻線への通電と、(29)、(31)、(33)式のように複雑で過大となる各巻線の電圧を(34)、(35)、(36)式のように簡素化した電圧へ変換して駆動する。各巻線の電流と電圧との複雑化した関係を解決し、前記問題を解消する。
【0296】
前記の全節巻き巻線の電流、鎖交磁束、電圧、トルク、パワーの関係は複雑になるので、各ステータ磁極に巻回した集中巻き巻線の電流、鎖交磁束、電圧、トルク、パワーと前記式で換算することにより、励磁の方法、制御の方法が解り易くなる。なお、巻線抵抗などを無視して単純モデル化すれば、集中巻き巻線の各相電流Ia、Ib、Icと各相電圧Va、Vb、Vcとの積和がパワー[W]になり、パワーを回転速度[rad/sec]で割ればトルク[Nm]になる。
【0297】
次に、具体的なモータとして、
図20、
図22のロータ磁極が前記
図6と
図7で説明した構成と特性である場合について、全節巻き巻線の電流、電圧を
図38に示し、説明する。
また、先に説明したように、
図1に示した各ステータ磁極の集中巻き巻線を全節巻き巻線へ変換した構成が
図20の横断面図である。
図38は、前記の
図7の各相電圧と電流Ia2Fに準じていて、
図7に書き加えた特性である。
図38の各電流、各電圧の横軸は時間tで、一定速度Vsoで回転している状態を示している。そして、一番下の欄にその時のロータ回転角位置θrを電気角角度で示している。
図38のIa7は、
図1のA7相ステータ磁極11、12に巻回する集中巻き巻線17、18と1C、1Dに通電するA7相電流Ia7であり、その2つの巻線を直列接続した両端電圧が
図38のVa7である。
図38のIb7は、
図1のB7相ステータ磁極13、14に巻回する集中巻き巻線1U、1Vと1S、1Tに通電するB7相電流Ib7であり、その2つの巻線を直列接続した両端電圧が
図38のVb7である。
図38のIc7は、
図1のC7相ステータ磁極15、16に巻回する集中巻き巻線1Q、1Rと1P、1Nに通電するA7相電流Ic7であり、その2つの巻線を直列接続した両端電圧が
図38のVc7である。
図38のIab、Ibc、Icaは、(13)、(14)、(15)式で示す電流である。
【0298】
集中巻き巻線の
図1、全節巻線化した
図20、それらの電圧、電流の例を
図38に示した。しかし、後に説明する
図37の駆動回路では、各相の全節巻き巻線が2個づつ、合計6個の全節巻き巻線が必要なので、1極対の
図20を2極対とした
図22のモータを使用して説明する。
図20と
図22は機能的に等価である。
【0299】
図22の22Aと22DはA7相ステータ磁極で、22A/と22D/はA7/相ステータ磁極である。22Bと22EはB7相ステータ磁極で、22B/と22D/はB7/相ステータ磁極である。22Cと22FはC7相ステータ磁極で、22C/と22F/はC7/相ステータ磁極である。221はAB相全節巻き巻線のコイルエンド部で(13)式で示すAB相電流Iab1を通電し、224もAB相全節巻き巻線のコイルエンド部でAB相電流Iab2を通電する。Iab1とIab2は制御装置での電流指令は同じ値だが、
図37の駆動回路の都合で、物理的には分離している。同様に、222と225はBC相全節巻き巻線のコイルエンド部で、それぞれ、BC相電流Ibc1とIbc2を通電する。同様に、223と226はCA相全節巻き巻線のコイルエンド部で、それぞれ、CA相電流Ica1とIca2を通電する。
【0300】
次に、
図22のリラクタンスモータを
図37の駆動回路で駆動し、駆動回路の大型化の問題を低減する例を説明する。
図37の駆動回路は、
図22の円周方向に隣り合う全節巻線を直列に接続すれば、その両端電圧は、(18)式の差動的電圧を除去できるので、(34)、(35)、(36)式の様に簡素化できることを利用する。また、
図37の6個のトランジスタで2組の電流経路へ通電できるようにし、利用効率を向上している。そして、駆動回路内での2組の電流経路での電圧、電流の相互干渉を低減する構成としている。
【0301】
図37の37Sは駆動回路全体の制御回路、37Rは直流電圧源、371、372、373、374、375、376は駆動用トランジスタである。各巻線と通電電流については、
図37の377は
図22のAB相全節巻き巻線221でAB相電流Iab1をトランジスタ371により通電し、
図37の37Aは
図22のAB相全節巻き巻線224でAB相電流Iab2をトランジスタ374により通電する。同様に、379はBC相全節巻き巻線222でBC相電流Ibc1をトランジスタ373により通電し、37CはBC相全節巻き巻線225でBC相電流Ibc2をトランジスタ376により通電する。37BはCA相全節巻き巻線223でCA相電流Ica1をトランジスタ375により通電し、378はCA相全節巻き巻線226でCA相電流Ica2をトランジスタ372により通電する。
【0302】
なお、ここで、
図22の各巻線の配置方法は、図示するように、コイルエンド部の巻線巻回上の重なりが少ない方法を選択して、巻線の名称と電流の名称を定義している。しかし、例えばAB相について考えると、4個のスロットがあり、コイルエンド部は2通りの接続方法が可能である。例えば、
図22は1極対目のスロットから2極対目の逆相のスロットへ接続しているので、1極対の
図20と異なる巻線接続とも言える。また、
図37の回路上で2個のAB相全節巻き巻線を逆に配置することもできる。また、それらの変更を各相で行うことができる。従って、機能的には等価だが、多くの異なった組み合わせの巻線形態を実現できる。例えば、
図37で、同相の電流Iab1とIab2を通電する巻線377と37Aの回路配置を交換しても良い。同様に、378と37Bを交換しても良く、379と37Cを交換しても良い。本発明は、これらの機能的に等価な変更を含むものである。また、AB相電流Iab1とIab2は、それぞれ物理的には異なる場所へ流れる電流であるが、制御的に目標とする電流指令値は同じである。BC相電流Ibc1とIbc2、CA相電流Ica1とIca2も同様である。
【0303】
図37のAB相全節巻き巻線377とBC相全節巻き巻線37Cの間に電流方向の向きのダイオード37Qを配置し、AB相全節巻き巻線377とCA相全節巻き巻線378の間に電流方向の向きのダイオード37Kを配置する。BC相全節巻き巻線379とCA相全節巻き巻線378の間に電流方向の向きのダイオード37Lを配置し、BC相全節巻き巻線379とAB相全節巻き巻線37Aの間に電流方向の向きのダイオード37Mを配置する。CA相全節巻き巻線37BとAB相全節巻き巻線37Aの間に電流方向の向きのダイオード37Nを配置し、CA相全節巻き巻線37BとBC相全節巻き巻線37Cの間に電流方向の向きのダイオード37Pを配置する。各巻線と各ダイオードに流れる電流は、(13)、(14)、(15)式の関係となっている。残りの6個のダイオード37D、37E、37F、37G、37H、37Jは直流電圧源37Rへの電力回生用ダイオードである。
【0304】
次に、
図37の各巻線の電圧を説明する。AB相全節巻き巻線377とダイオード37KとCA相全節巻き巻線378の間の電圧は(34)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Va)である。同様に、BC相全節巻き巻線379とダイオード37LとCA相全節巻き巻線378の間の電圧は(35)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Vc)である。BC相全節巻き巻線379とダイオード37MとAB相全節巻き巻線37Aの間の電圧は(36)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Vb)である。CA相全節巻き巻線37Bとダイオード37NとAB相全節巻き巻線37Aの間の電圧は(34)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Va)である。CA相全節巻き巻線37Bとダイオード37PとBC相全節巻き巻線37Cの間の電圧は(35)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Vc)である。AB相全節巻き巻線377とダイオード37QとBC相全節巻き巻線37Cの間の電圧は(36)式の関係となり、これらの両端の電圧は(2×Vb)である。(34)、(35)、(36)式で示されるこれらの両端電圧は、(29)、(31)、(33)式で示される各巻線個別の電圧に比較して、比較的単純な電圧波形である。
【0305】
次に、
図37の各巻線に通電する各電流、印可する各電圧の具体的な波形の例を示す。先に、各ステータ磁極へ集中巻き巻線を施したリラクタンスモータの例として、
図1の横断面図、
図6のロータ磁極形状、
図7の各電圧、電流、トルクの例を示した。
図20は、
図1の集中巻き巻線を全節巻きに変換したリラクタンスモータの横断面図である。
図1と
図6の各相電流と各相電圧、および、
図20の各相電流を
図38に示した。そして、
図22は、1極対の
図20を2極対に変換したリラクタンスモータの横断面図であり、理論的に、電気的に両モータは等価である。従って、
図38は、
図22の2極対のリラクタンスモータの電流、電圧の例であり、また、
図37の各回路、各巻線に通電する各電流、印可する各電圧の具体的な波形の例である。なお、
図38のVa7、Vb7、Vc7は、(29)、(31)、(33)、(34)、(35)、(36)式のVa、Vb、Vcと同じ変数とする。また、実際の電流制御は、通常、各トランジスタでPWM制御を行って、任意の等価平均電圧、電流を得ているので、厳密には少し異なる点がある。また、精密な電流制御をPWM制御で行うためには、
図37では記載を省略しているが、各相の電流値を検出する電流検出手段とその電流検出信号を用いたフィードバック制御が必要である。
図32のエンコーダ325によるロータ回転角位置検出も必要である。
【0306】
図37の動作として、
図38のIab、Ibc、Icaを各全節巻き巻線へ通電し、
図7のTt2のトルク71を得ることができる。トルク71は一定値であり、そのトルクの値はリラクタンスモータの各形状、電流値により(1)から(12)式で示す値である。ただし、種々の簡素化した条件の元で成立する数式である。前記の簡素化条件である。
【0307】
次に、この
図37の駆動回路の利用効率について説明する。
図20、
図22のような全節巻き巻線のリラクタンスモータの利点としてその可能性の一つは、駆動回路の小型化である。
【0308】
図20の3個の全節巻き巻線を
図36の従来の駆動回路で駆動する場合、A7相ステータ磁極201とA7/相のステータ磁極202を、巻線207、208のAB相全節巻き巻線と巻線20B、20CのCA全節巻き巻線へ通電して駆動する。この条件での
図36の従来の駆動回路の最大出力Pfmaxは、3相中の2巻線なので、供給する電力は次式とできる可能性が有る。
Pfmax=Vdc×Irat×2 (37)
ここで、Vdcは電源電圧、Iratはトランジスタの電流容量である。
【0309】
一方、
図1の11はA1相のステータ磁極で、集中巻巻線17、18と1C、1DへA相電流Iaを通電して駆動する。この条件での
図36の従来の駆動回路の最大出力Pcmaxは、3相中の1巻線なので、次式となる。
Pcmax=Vdc×Irat (38)
【0310】
(37)式の最大出力Pfmaxは、(38)式の最大出力Pcmaxの2倍となる。しかし、
図36の従来の駆動回路では、巻線電圧が(16)、(17)、(18)式のような特性となり、電圧が複雑となり、かつ、高速回転の重負荷時には過大電圧が発生する問題があった。そのため、(37)式の最大出力Pfmaxを得ることができなかった。
【0311】
次に、
図37の本発明の駆動回路と
図22の全節巻き巻線のリラクタンスモータで駆動する場合の利用効率について説明する。前記の
図20の例と同様に、
図22のA7相ステータ磁極22A、22DとA7/相ステータ磁極22A/、22D/をAB相全節巻き巻線221(377)、224(37A)とCA相全節巻き巻線223(37B)、226(378)へ通電して駆動する。この条件での
図37の本発明の駆動回路の最大出力Pnmaxは、3相中の2巻線なので、次式とできる可能性が有る。
Pnmax=Vdc×Irat×2 (39)
この時、
図37の駆動回路上では、巻線377と378へ電流Iratを通電し、巻線37Bと37Aへ電流Iratを通電する状態である。先に説明したように、
図37では、直列接続する2つの巻線の電圧和が(34)、(35)、(36)式のように、(18)の電圧成分が相殺する構成なので、高速回転の重負荷時における過大電圧を低減している。6個のトランジスタの駆動回路でありながら、2組の経路で電力供給が実現している。そして、本発明の駆動回路の最大出力Pnmaxは、従来の駆動回路の最大出力Pcmaxの2倍の値となる。
【0312】
なお、2極対化した
図22の全節巻き巻線の数は6個で、
図20の全節巻き巻線の数は3個なので、その2倍である。そして、
図37の本発明の駆動回路では2つの巻線を直列にして通電する。そのため、
図22の各全節巻き巻線の巻き回数を
図20の全節巻き巻線の巻き回数の1/2として、両モータの巻線の巻き回数と巻線太さが釣り合うように決める。両モータの各相の電流値は同じ値となる。
【0313】
以上のように、
図37の駆動回路で
図22の全節巻き巻線のリラクタンスモータを駆動することにより、各巻線の銅損を低減し、モータ効率を改善し、小型化、低コスト化を実現できる。同時に、(16)、(17)、(18)式、および、(29)、(31)、(33)式で示した、過大電圧の問題、電圧複雑化の問題を、(34)、(35)、(36)式の関係とすることにより解消した。
【0314】
図37の駆動回路で駆動可能なリラクタンスモータモータの第1の要点は、各図で示しているように突極型のステータ磁極、突極型のロータ磁極であることで、各磁極は円周方向の隣の磁極とは離れていることである。第2の要点は、スロットに配置している巻線により、その巻線の円周方向の両隣のステータ磁極を励磁することが可能なことである。即ち、巻線を共用できることである。(13)、(14)、(15)式の関係である。例えば、
図20、
図21、
図22で示した全節巻き、および、
図23、
図24、
図25で示した各スロットの巻線をバックヨークの後ろ側へ巻回するトロイダル巻線のモータである。逆に、
図46、
図1などのリラクタンスモータは各ステータ磁極へ専用の集中巻線を巻回しており、共用できないので、
図37の駆動回路で駆動できない。第3の要点は、(18)式の電圧成分が相殺できるような2巻線の直列接続が可能なことである。
【0315】
一方、
図37の駆動回路の構成の第1の要点は、前記のように、(18)式の電圧成分が相殺されるように、(34)、(35)、(36)式の関係で該当する2つの巻線を直列に、かつ、相互に接続することである。第2の要点は、(13)、(14)、(15)式の関係の電流の2つの経路の電流を同時に通電できることである。さらに言えば、(13)、(14)、(15)式の関係の全ての電流を同時に通電できる。なお、
図37の駆動回路例での巻線配置順は、(13)、(14)、(15)式の配置順としている。また、
図37の駆動回路での巻線配置順は、同相の巻線は逆に配置しても等価なので、
図22の巻線配置順として紙面上の配置を書き換え、変換することもできる。これらの結果、
図37の駆動回路は、
図22の巻線の電圧、電流の理論的関係を利用して、巻線構成と駆動回路とを密接に一体化して、効果的に駆動する構成としている。
【0316】
その結果、
図37の本発明駆動回路で電力を効率良く供給できるようになり、従来の駆動回路の2倍の電力を出力できる可能性の有る特性とした。本発明駆動回路の利用効率は従来比2倍であり、駆動回路を1/2に小型化、低コスト化できる可能性が有る。なお、モータの小型化、駆動回路の小型化がどの程度の可能であるかはモータの特性に依存するので、騒音の低減、トルクリップルの低減、最大トルクなどと、モータ用途により最適化を図ることになる。後に、
図37の本発明の駆動回路の小型化に有利なモータ形状例、永久磁石を活用したリラクタンスモータの例を説明する。また、逆方向電流を阻止する37Q、37K、37L、37M、37N、37Pのダイオードは、電流および電圧の急激な変化が少ないようなモータ用途では、必ずしも全てが必要ではない。
【0317】
なお、主流のモータとして多く使用されている3相交流、正弦波電圧、正弦波電流の永久磁石応用同期モータの駆動回路は、6個のトランジスタでPWM制御して電圧、電流を制御している。そして、その最大出力Psmaxは、(38)式と同じで、次式となる。
Psmax=Vdc×Irat
従って、
図37の本発明の駆動回路と全節巻きリラクタンスモータの各巻線の接続方法は、現行の永久磁石応用同期モータの駆動回路に比較し、1/2に小型化、低コスト化できる可能性が有る。
【0318】
また、ブラシ付き直流モータは、4個のトランジスタで正逆の電流、トルクを制御できるが、
図37の本発明の駆動回路と全節巻き巻線のリラクタンスモータは6個のトランジスタで2つの経路でのパワーの出力の可能性がある。従って、相対的に(2/3)/(1/2)=1.33倍の出力である。これは、
図37の本発明の駆動回路が、ブラシ付き直流モータの駆動回路の3/4へ小型化できる可能性を意味している。電気自動車の主機用などの用途で、モータとその駆動回路を低コスト化、小型化、軽量化することは重要である。
【実施例22】
【0319】
次に、請求項14の他の実施例を示す。
図20のモータを
図37の本発明の駆動回路へ適用する場合、
図20の1極対のモータは3個の全節巻き巻線しか無いので、合計6個の巻線へ変換する必要がある。具体的には、各巻線を平行する二つの巻線へ分割して、それぞれ同一スロットへ配置する。巻線207と208のAB相全節巻き巻線Wabを平行した二つの巻線Wab1とWab2へ分割する。巻線209と20AのBC相全節巻き巻線Wbcを平行した二つの巻線Wbc1とWbc2へ分割する。巻線20Bと20CのCA相全節巻き巻線Wcaを平行した二つの巻線Wca1とWca2へ分割する。
【0320】
図37の本発明の駆動回路のAB相全節巻線377を巻線Wab1とし、巻線37Aを巻線Wab2とする。BC相全節巻き巻線379を巻線Wbc1とし、巻線37Cを巻線Wbc2とする。CA相全節巻き巻線37Bを巻線Wca1とし、巻線378を巻線Wca2とする。この様な巻線構成と巻線接続とし、
図22と同様に駆動することができる。なお、
図37の駆動回路の各位置へ配置するためには、同一スロットに配置する2つの同相巻線を相互に絶縁する必要がある。
【実施例23】
【0321】
次に、請求項14の他の実施例として、
図23のモータを
図37の本発明の駆動回路へ適用する場合について説明する。前記のように、
図23の巻線は6個あり、
図23の紙面で180°反対側の巻線が同相の電流を通電する巻線となっている。
図37の本発明の駆動回路のAB相巻線377を
図23の巻線237とし、巻線37Aを巻線238とする。BC相巻き巻線379を巻線239とし、巻線37Cを巻線23Aとする。CA相巻き巻線37Bを巻線23Bとし、巻線378を巻線23Cとする。この様な巻線構成と巻線接続とし、
図22の場合と同様に駆動することができる。なお、
図23のリラクタンスモータはモータ中心に対して点対称なので、AB相巻線237と238の鎖交磁束は同じ大きさで、それぞれ、(29)式の1/2の電圧となる。同様に、BC相巻線239、23Aで、それぞれ、(30)式の1/2の電圧となる。CA相巻線23B、23C、それぞれ、(31)式の1/2の電圧となる。
【実施例24】
【0322】
次に、請求項14の他の実施例として、
図25のモータを
図37の本発明の駆動回路へ適用する場合について説明する。
図25のモータは2個のモータを組み込んだデュアルモータ構成で、
図23の構成と比較すると、1極対を2極対変換し、
図23の外径側の巻線部分を外径側のモータの巻線として活用した構成である。同相と逆の相の巻線が4個有り3相なので、合計巻線数は12個である。
図37の本発明の駆動回路への配置自由度があるが、その一つの配置例を示す。
図37の本発明の駆動回路のAB相巻線377は、
図25のAB相巻線257とAB/相巻線258を直列に接続して配置する。同様に、AB相巻線37Aは、
図25のAB相巻線257とAB/相巻線258を直列に接続して配置する。BC相巻き巻線379は、
図25のBC相巻線259とBC/相巻線25Aを直列に接続して配置する。BC相巻き巻線37Cは、
図25のBC相巻線25LとBC/相巻線25Mを直列に接続して配置する。CA相巻き巻線37Bは、
図25のCA相巻線25BとCA/相巻線25Cを直列に接続して配置する。CA相巻き巻線378は、
図25のCA相巻線25NとBC/相巻線25Pを直列に接続して配置する。この様な巻線構成と巻線接続とし、
図22の場合と同様に駆動することができる。
【0323】
なお巻線の名称と表現で紛らわしいところがある。例えば、AB/相巻線258はAB相巻線257の巻線の向きを逆の向きとしたものであり、AB/相巻線は逆向きに巻回したAB相巻線とも言える。そして、モータの全相の電流制御がバランス良く行われた場合は、AB相巻線の鎖交磁束は、別の場所に巻回しているAB/相巻線の鎖交磁束と同じになる。
【実施例25】
【0324】
次に、
図37の本発明の駆動回路で、前記の
図46の従来のリラクタンスモータを変形したリラクタンスモータRMCONを駆動する例を説明する。
図46のリラクタンスモータは、6個のステータ磁極とそれぞれに巻回した集中巻き巻線と4個のロータ磁極を備え、
図47の特性からも解るようにステータ磁極の円周方向幅30°でロータ磁極の円周方向幅30°の構成である。リラクタンスモータRMCONは、
図46のステータ磁極を2極対に変換し、各巻線を全節巻き巻線し、
図22のステータ磁極の構成とする。ロータは、
図46のロータ磁極を2極対に変換し、8個のロータ磁極で、その円周方向幅は電気角で30°である。
【0325】
RMCONを
図37の本発明の駆動回路で駆動する例を
図39に示す。なお、先に説明した、
図22のステータ構成で
図6のロータ磁極構成として説明した
図38の特性のリラクタンスモータの場合とは、ロータ磁極の形状、磁気特性が異なる。
図37でのRMCONの巻線接続の関係は、
図38の場合と同じとする。
図39の各電流、各電圧の横軸は時間tで、一定速度Vsoで回転している状態を示している。そして、一番下の欄にその時のロータ回転角位置θrを電気角の角度で示している。また、RMCONの磁気特性は、(13)式から(36)式および(39)式が成立する。
図39のIa、Ib、Icは、(13)、(14)、(15)式の右辺の各項の電流に相当する。
【0326】
RMCONの
図39のA相電流Iaは、
図46、
図47の単純モデルでは電気角のロータ角度θrが0°から30°の間に通電するが、現実のモータではステータ磁極とロータ磁極との近接部に漏れ磁束が発生すること、θrの30°から60°までの間に逆方向トルクすなわちCWトルクが発生することを考慮し、少し修正する。
図39のIaは、θrが-7.5°から0°の間に0から1.0へ増加し、22.5°から30°の間に1.0から0へ減少する。そして、θrが82.5°から90°の間に0から1.0へ増加し、112.5°から180°の間に1.0から0へ減少する。同様に、B相電流IbはA相電流Iaより位相が60°遅れた電流波形とする。C相電流IcはA相電流Iaより位相が120°遅れた電流波形とする。
【0327】
RMCONの
図39のAB相全節巻き巻線のAB相電流Iabは、(13)式の関係であるから、図示する電流波形となる。同様に、BC相電流Ibc、CA相電流Icaは、(14)、(15)式の関係であるから、図示する電流波形となる。
【0328】
RMCONの
図39のA相電圧Vaは、A相電流Iaで励磁される
図20のA相磁束20Gに相当する磁束と(4)式で得られる。θrが-7.5°から0°までの間の漏れ磁束は小さく、A相電圧Vaも小さい。θrが0°から22.5°の間は、ロータの回転と共にA相のステータ磁極とロータ磁極の多幸面積が増加するので、A相磁束φaも増加し、A相電圧Vaが1.0の一定値となる。θrが22.5°から30°の間はA相磁束φaが急激に減少し、トルクも発生するが、磁気エネルギーが電源へ回生される。同様に、B相電圧Vbは、B相電流Ibで励磁される
図20のB相磁束20Hに相当する磁束と(26)式で得られる。C相電圧Vcは、C相電流Icで励磁される
図20のC相磁束20HJに相当する磁束と(27)式で得られる。各相の全節巻き巻線の電圧Vab、Vbc、Vcaと前記Va、Vb、Vcは(34)、(35)、(36)式の関係であり、
図37の2つの直列巻線の両端電圧は前記Va、Vb、Vcとなる。
【0329】
リラクタンスモータRMCONは前記動作によりCCWへ連続的に回転する。
図39では、RMCONは
図47で説明したような単純モデルではないので、高速回転を想定し、ロータ回転角θrで7.5°の電流増減時間を作っている。
図39の各相電流が増減する時間帯ではトルクがやや低下し、単純なモータモデル的にもトルク脈動が発生することになる。しかし、低速回転では、前記の電流増減時間を小さくすることができるので、
図39のA相電流Iaは、
図47のA相電流Iaのように、ロータ回転角位置θrの0°直前近傍で0から1.0まで増加し、30°直前近傍で1.0から0へ減少するように修正して制御することが可能である。その結果、原理的に前記トルク低下、トルク脈動は減少する。
【0330】
なお、電気自動車の主機用モータの用途を想定すると、最大トルクを必要とする使い方は急坂道の登坂運転であり、モータの低速回転、大トルクの動作領域である。従って、電流増減時間を低速回転時に短縮するように制御することは重要である。産業用モータ用途でも類似のニーズであることが多い。また、ステータ磁極の円周方向幅、および、ロータ磁極の円周方向幅を拡大することにより、各相のトルク発生幅を拡大することもできる。
【0331】
次に、
図37の本発明の駆動回路とリラクタンスモータRMCONとの駆動特性について、供給する電力で評価し、説明する。ロータ回転角位置θrが0°から22.5°の間、
図39のA相電流Iaは1.0であり、B相電流Ib、C相電流Icは0なので、(13)、(14)、(15)式の関係から、
図22のAB相全節巻き巻線221、224のAB相電流IabとCA相全節巻き巻線223、226のCA相電流Icaは1.0であり、BC相全節巻き巻線222、225のBC相電流Ibcは0である。これは、
図37の巻線377に電流Iab=1.0と巻線378に電流Ica=1.0が通電することである。そして、巻線37Bに電流Ica=1.0と37Aに電流Iab=1.0が通電することである。巻線377と378の直列巻線の両端電圧は(34)式より(2×Va)となる。しかしここで、
図22のステータは2極対なので、各巻線の巻き回数を1/2と設定し、巻線377と378の両端電圧をVaの1.0とする。巻線37Bと37Aの両端電圧のVaも1.0となる。ロータ回転角位置θrが0°から22.5°の間へRMCONの2組の直列巻線へ供給するパワーPc01は次式となる。
Pc00=Va×Ia×2=2×Vo×Io (40)
ここで、Voは(5)式でKraを1としたVaの値で、Ioは通電する電流値とする。また、この時、2組の電流経路は、逆方向を阻止する37Q、37K、37L、37M、37N、37Pのダイオードによりお互いに干渉しない回路構成となっている。
【0332】
同様に、ロータ回転角位置θrが30°から52.5°の間は、
図39のB相電流Ibは1.0であり、A相電流Ia、C相電流Icは0である。従って、AB相の巻線221、224の電流IabとBC相の巻線222、225の電流Ibcは1.0であり、CA相巻線223、226の電流Icaは0である。これは、
図37の巻線377に電流Iab=1.0と巻線37Cに電流Ibc=1.0が通電することである。そして、巻線379に電流Ibc=1.0と37Aに電流Iab=1.0が通電することである。巻線377と37Cの直列巻線の両端電圧は(36)式より(2×Vb)となるが、前記のように巻き回数を1/2と設定し、両端電圧はVbの1.0となる。巻線379と37Aの両端電圧もVbの1.0となる。ロータ回転角位置θrが30°から52.5°の間へRMCONの2組の直列巻線へ供給するパワーPc30は次式となる。
Pc30=Vb×Ib×2=2×Vo×Io (41)
【0333】
同様に、ロータ回転角位置θrが60°から82.5°の間は、
図39のC相電流Icは1.0であり、A相電流Ia、B相電流Ibは0である。従って、BC相の巻線222、225の電流IbcとCA相巻線223、226の電流Icaは1.0であり、AB相の巻線221、224の電流Iabは0である。これは、
図37の巻線379に電流Ibc=1.0と巻線378に電流Ica=1.0が通電することである。そして、巻線37Bに電流Icc=1.0と37Cに電流Ibc=1.0が通電することである。巻線379と378の直列巻線の両端電圧は(35)式より(2×Vc)となるが、前記のように巻き回数を1/2と設定し、両端電圧はVcの1.0となる。巻線37Bと37Cの両端電圧もVcの1.0となる。ロータ回転角位置θrが60°から82.5°の間へRMCONの2組の直列巻線へ供給するパワーPc60は次式となる。
Pc60=Vc×Ic×2=2×Vo×Io (42)
【0334】
以上、
図37の本発明の駆動回路で、リラクタンスモータRMCONを駆動する例を示した。RMCONは
図22のステータ磁極と全節巻き巻線の構成で、
図47の特性の
図46のロータを2極対化して8個のロータ磁極を持つロータの構成である。
図39と(40)、(41)、(42)式に示したように、各相の全節巻き巻線の電流Iab、Ibc、Icaはそれらの合計が常に一定値で、電流の最大値が集中巻きに巻線を変換した場合の電流Ia、Ib、Icと同じ値になっている。従って、全節巻き巻線の抵抗値が集中巻き巻線の1/2であることから銅損を1/2に低減でき、モータの小型化、低コスト化が可能である。
【0335】
図37の本発明の駆動回路は、
図37に示す直列の2つの巻線の電圧和が(34)、(35)、(36)式に示す関係に配置しているので、2つの巻線の両端電圧が複雑にならず、過大な電圧を発生することもない。そして、(40)、(41)、(42)式に示す様に、2組の経路で平行して電力供給が可能である。従って、リラクタンスモータRMCONを集中巻き巻線に変換したモータを、
図36の従来の駆動回路で駆動する場合に比較し、
図37の本発明の駆動回路は2倍のパワーをリラクタンスモータRMCONへ供給することが可能である。従って、駆動回路の小型化、低コスト化が可能である。また、前記のように、現在の主流である3相交流の永久磁石応用同期モータの駆動回路に比較しても、1/2の電流容量へ小型化、低コスト化が可能である。なお、
図39における電流の増減時間の領域については詳しく述べなかったが、前記のように、低速回転においては電流の増減時間を短縮することができる。そして、電気自動車の主機モータの用途において特に大トルクが必要となる使い方は急坂の登坂運転であり、低速回転なので電流の増減時間を短縮できる。
【実施例26】
【0336】
次に、請求項14の他の実施例として、
図9の(b)に示すモータを
図40の本発明の駆動回路で駆動する例を説明する。前記の
図9の(b)に示すリラクタンスモータは、ステータ磁極が10個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータであり、各相の巻線は全節巻き巻線である。
図37、
図40の本発明の駆動回路では、全節巻き線に誘起する(18)式のような電圧成分を相殺して制御するため、相殺可能な2つの巻線を直列に接続して制御する。相殺可能な2つの巻線とは、励磁しようとするステータ磁極の円周方向の両隣のスロットに配置するそれぞれのスロットの全節巻き巻線であり、(16)、(17)式のような電圧となる。また、
図37、
図40などの駆動回路の場合、各相の巻線が2つ以上必要となる。
図9の(b)に示すリラクタンスモータは1極対の構成なので、各相の全節巻き巻線を2個の絶縁された並行する巻線へ分けていて、各相巻線のコイルエンド部の記号を2つずつ記載している。なお、2極対の全節巻き巻線のモータとするか、あるいは、
図23のようなトロイダル巻きとすれば、同相の巻線を2つ作成できるので、同一スロットの巻線を2個の巻線へ分ける必要はない。
【0337】
図9の(b)の各電流は、(13)、(14)、(15)式と同様に次の関係となっている。
Iac=Ia4+Ic4 (43)
Ice=Ic4+Ie4 (44)
Ieb=Ie4+Ib4 (45)
Ibd=Ib4+Id4 (46)
Ida=Id4+Ia4 (47)
各式の左辺は全節巻き巻線の電流で、右辺は集中巻き巻線の場合の電流である。また、同相の巻線を2つに分ける方法は、集中巻き巻線を2個直列にした巻き回数Nwaの1/2の全節巻き巻線を2つ作ることにする。電圧と巻き回数Nwaの関係は(5)式で示した。なお、これらの同相の2つの巻線に同一の値の電流が流れるように制御する。
【0338】
図9の(b)の各電圧は、(34)、(35)、(36)式と同様に次の関係となっている。
Vac+Vce=Vc4 (48)
Vce+Veb=Ve4 (49)
Veb+Vbd=Vb4 (50)
Vbd+Vda=Vd4 (51)
Vda+Vac=Va4 (52)
各式の左辺は全節巻き巻線の各相電圧で、右辺は
図9の(a)の集中巻き巻線の場合の各相電圧である。なお、この5相モータなど、相数が増えると、(18)式の磁束成分、電圧成分が増えることになり、(18)式の電圧がより複雑になり、電圧値が大きくなる。
【0339】
図9の(b)に示すリラクタンスモータを駆動する本発明駆動回路を
図40に示す。前記の(43)式から(52)式の電流条件、電圧条件を満たすように駆動する。
図40の13Sは駆動回路全体の制御回路、13Rは直流電圧源、401、402、403、404、405、406、407、408、409、40Aは駆動用トランジスタである。各巻線と通電電流については、
図40の13ac1は
図9の(b)のAC相全節巻き巻線13ac1で(43)式のAC相電流Iacをトランジスタ401により通電する。同様に、
図40の13ce1は
図9の(b)のCE相全節巻き巻線13ce1でCE相電流Iceをトランジスタ402により通電する。同様に、13eb1はEB相全節巻き巻線でEB相電流Iebをトランジスタ403により通電する。13bd1はBD相全節巻き巻線でBD相電流Ibdをトランジスタ404により通電する。13da1はDA相全節巻き巻線でDA相電流Idaをトランジスタ405により通電する。13ac2はAC相全節巻き巻線でAC相電流Iacをトランジスタ406により通電する。13ce2はCE相全節巻き巻線でCE相電流Iceをトランジスタ407により通電する。13eb2はEB相全節巻き巻線でEB相電流Iebをトランジスタ408により通電する。13bd2はBD相全節巻き巻線でBD相電流Ibdをトランジスタ409により通電する。13da2はDA相全節巻き巻線でDA相電流Idaをトランジスタ40Aにより通電する。
【0340】
前記のように、
図40の本発明の駆動回路では、(43)から(47)式の様に各巻線へ電流を通電する。また、各巻線は
図40の紙面で上下に2つの巻線を直列に接続し、そして、それぞれの巻線が電磁気的に係わりのある2つの巻線へ互い違いに接続している。電磁気的な係わりとは、
図9の(b)において、その2つの巻線がいずれかのステータ磁極を励磁するということで、いずれかのステータ磁極の円周方向の両隣の2つのスロットにそれぞれ配置された2つの巻線である。そして、その2つの巻線の電圧は(48)から(52)式のいずれかに該当する関係である。
【0341】
また、個々の各巻線は(18)式の磁束成分、電圧成分を持っており、(48)から(52)式の右辺の電圧とは異なる過大な電圧を発生する。あるいは、電流をPWM制御し、電流を増減する時にも、各巻線に過大な電圧が発生する。ダイオード40M、40N、40P、40Q、40R、40S、40T、40U、40V、40Wは、前記の過大な電圧の影響を
図40の紙面の左右に配置した他の巻線へ与えないように低減する。
【0342】
次に、
図9の(b)に示すモータを
図40の本発明の駆動回路でCCWへ回転、駆動する場合の電流と電圧について、
図41に示し、説明する。ステータ磁極の円周方向幅は18°で、ロータ磁極の円周方向幅θBrは24°とする。
図9の(a)および(b)において、CCW回転で、A相ステータ磁極121へロータ磁極がさしかかるロータ回転角位置をθr=0°と定義し、
図41の最下段に示している。
【0343】
図9の(b)の各相電流は(43)から(47)式の左辺のIac、Ice、Ieb、Ibd、Idaであり、それらの電流波形を
図41に示す。
図41のIa4、Ib4、Ic4、Id4、Ie4は
図9の(b)のモータ上には存在せず、(43)から(47)式の右辺に示すように全節巻き巻線の電流成分である。全節巻き巻線の電流である(43)から(47)式の左辺のIac、Ice、Ieb、Ibd、Idaを考えることは易しくはないので、電流成分を
図41に示している。そして、これらの電流成分Ia4、Ib4、Ic4、Id4、Ie4は、
図9の(a)の各相のステータ磁極へ巻回した集中巻き巻線の各相電流である。
【0344】
図9の(b)のロータ磁極がA相ステータ磁極121にさしかかる6°前、即ち、θr=-6°からA相電流成分Ia4を増加し始め、θr=0°でIa4を所定値としている。この間は、ロータ磁極がA相ステータ磁極121に対向しておらず、単純モデル的にはトルクを発生しない。但し、至近距離なので、実際には漏れ磁束が発生し、漏れ磁束分のトルクが発生する。θr=0°から18°までの間は、A相ステータ磁極121とロータ磁極の対向面積が増加し、CCWトルクを発生している。θr=18°からIa4を減少し、θr=24°でIa4を0としていて、この間はA相ステータ磁極121の全面がロータ磁極に対向しているのでトルクは発生しない。θr=54°から84°までの間も、同様にA相電流成分Ia4が増減し、60°の周期で繰り返す。
【0345】
他の電流成分Ib4、Ic4、Id4、Ie4は、図示するように、それぞれ12°ずつ位相が遅れている。各電流周期は60°である。
図9の(b)の全節巻き巻線の電流Iac、Ice、Ieb、Ibd、Idaは、(43)から(47)式の関係であり、
図41に示す波形となる。
【0346】
なお、
図41では、電流が増減する角度幅がそれぞれ6°の例を示したが、低速回転では電流の増減時間を短縮でき、逆に高速回転では増減時間を大きくしなければならないこともある。また、この電流増減の角度幅、時間は、電流の大きさにも依存するので、運転条件に応じて可変できる。また、電流増減の時間を短縮するために、各ステータ磁極へ励磁巻線を巻回して直列に接続し、界磁電流成分を通電し、磁気エネルギーがモータ内で回転と共に循環する構成とすることもできる。前記
図30等のように、永久磁石を活用して励磁し、電流増減の時間を短縮することもできる。
【0347】
図9の(b)の全節巻き巻線のAC相電圧Vac、CE相電圧Vce、EB相電圧Veb、BD相電圧Vbd、DA相電圧Vdaは、(16)、(17)、(18)式の関係であり、特に(18)式が複雑な電圧となる。そのため、
図40の本発明の駆動回路では、(48)から(52)式の様に、特定の2つの巻線を直列に接続し、(48)から(52)式の右辺の比較的単純な電圧となるように構成し、制御している。これらの電圧Vc4、Ve4、Vb4、Vd4、Va4を
図41に示し、(48)から(52)式の左辺の値を括弧を付けて付記している。
【0348】
例えば、
図41のVa4は(52)式で表され、
図9の(a)のA相ステータ磁極121に巻回した集中巻き巻線91とA/相ステータ磁極122に巻回した集中巻き巻線92を直列に接続したA相電圧に相当する。
図41のVa4は、前記のように、θr=-6°からA相電流成分Ia4を増加し始めるが、A相ステータ磁極121とロータ磁極はまだ対向しておらず、鎖交磁束は漏れ磁束なので発生電圧は小さく、θr=0°に近づくにつれ漏れ磁束が増加し、かつ、Ia4が所定値まで増加するので、A相電圧は急激に増加する。そして、θr=0°から18°まではAステータ磁極とロータ磁極との対向面積がロータ回転に同期して増加するので定電圧となる。
【0349】
θr=18°から24°までは、電流成分Ia4を減少するので、A相ステータ磁極121とA/相ステータ磁極122に関わる磁気エネルギーが電源へ回生され、この間のA相電圧Va4は大きな負電圧となる。なお、この間は、Aステータ磁極の全面がロータ磁極に対向しているのでトルクは発生しない。この様な電圧、動作を60°周期で繰り返す。また、他の相の電圧もロータ回転角位置の位相が12°ずつ異なるが、図示するように、同様な電圧波形である。
【0350】
図41の動作におけるトルクTt4は12°周期で、正規化したトルク値で表して2.0と4.0を繰り返すトルク波形となる。その平均値は3.0である。なお、
図9の(a)の集中巻き巻線のリラクタンスモータは、従来の駆動回路である
図36のハーフブリッジを3組から5組に増加した駆動回路で駆動することができる。その特性の例は、前記の
図12、
図13であり、その正規化したトルクは1.5である。
図40の本発明の駆動回路と
図9の(b)の全節巻き巻線のリラクタンスモータの巻線構成、巻線接続では、トランジスタの個数が同じ条件で、従来比2倍のトルク、パワーを出力できることになる。
【0351】
図41のトルクTt4は、大きなトルクリップルを持っているので、好ましくない。これは、10個ステータ磁極と6個のロータ磁極のリラクタンスモータの標準的モデルを評価例としたためでもある。しかし、このトルクリップルを低減する方法がいくつかある。第1のトルクリップル低減方法は、電流波形の修正である。例えば、
図41のIa4の破線に示すような電流波形に全ての相の電流波形を修正すると、他の相のトルクと重畳する領域ではトルクが1/2となる。その結果、合計トルクTt4は2.0で均一なトルクとなる。あるいは、Tt4のトルクが低下する領域で電流値大きくしても良い。組み合わせても良い。第2のトルクリップル低減方法は、ステータ磁極とロータ磁極の円周方向幅を修正する方法である。例えば、ステータ磁極幅を18°としたが、24°に修正するとトルクTt4の凹みがなくなり、4.0で均一なトルクとなる。但し、各相の電流波形も変わるので注意が必要である。第3のトルクリップル低減方法は、ステータ磁極とロータ磁極のロータ軸方向幅を修正する方法である。例えば、前記の
図12、
図13のようなロータ磁極形状とすればトルクリップルを0にできる。この時、ロータ磁極は
図17の様に電磁鋼板に加工を加える方法でも良い。ロータにおいて、ロータ軸方向全域に渡るラジアル方向の単位角度幅当たりの磁気抵抗値の、円周方向分布を自在に変え、設定する方法である。また、第1、第2、第3のトルクリップル低減方法を組み合わせても良い。
【0352】
次に、
図40の本発明の駆動回路と
図9の(b)の全節巻き巻線のリラクタンスモータの巻線構成、巻線接続における効果についてまとめる。モータ銅損については、集中巻き巻線のリラクタンスモータに比較し、最大で銅損を1/2に低減できる。前記のように、電気自動車の主機用モータでは急坂の登坂運転であり、低速回転での大トルクが最も過酷な運転モードである。モータの大きさはこの運転モードの特性で決まり、損失の大半は銅損である。従って、銅損の低減により、モータの小型化、軽量化、コスト低減が可能となる。
【0353】
また、全節巻き巻線、トロイダル巻線の問題は、(16)、(17)、(18)式のような複雑な電圧、過大な電圧の影響で、
図36のようなハーフブリッジを組みあわせた従来駆動回路では難しいことであった。前記の本発明の駆動回路とモータ構成では、この問題を解決し、最大で2倍のトルク、パワーを出力することができる。従って、駆動回路の小型化、軽量化、コスト低減が可能となる。なお、前記の駆動回路の比較条件として、トランジスタの電流容量と個数を乗じた総電流容量が同じ条件としている。
【実施例27】
【0354】
次に、請求項14の他の実施例として、
図8の(b)に示すモータを
図42の本発明の駆動回路で駆動する例を説明する。前記の
図8の(b)に示すリラクタンスモータは、ステータ磁極が8個でロータ磁極が6個のリラクタンスモータであり、各相の巻線は全節巻き巻線である。
図37、
図40、
図42の本発明の駆動回路では、全節巻き線に誘起する(18)式のような電圧成分を相殺して制御するため、相殺可能な2つの巻線を直列に接続して制御する。そのため、各相の巻線が2つ以上必要となる。相殺可能な2つの巻線とは、励磁しようとするステータ磁極の円周方向の両隣のスロットに配置するそれぞれのスロットの全節巻き巻線であり、(16)、(17)式のような電圧となる。
図8の(b)に示すリラクタンスモータは1極対の構成なので、各相の全節巻き巻線を2個の絶縁された並行する巻線へ分けていて、各相巻線のコイルエンド部の記号を2つずつ記載している。全節巻き巻線11ad1、11ad2はAD相巻線でAD相電流Iadを通電し、11dc1、11dc2はDC相巻線でDC相電流Idcを通電し、11cb1、11cb2はCB相巻線でCB相電流Icbを通電し、11ba1、11ba2はBA相巻線でBA相電流Ibaを通電する。
【0355】
図8の(b)の各電流は、(13)、(14)、(15)式、あるいは、(43)から(47)式と同様に次の関係となっている。
Iad=Ia3-Id3 (53)
Idc=Id3+Ic3 (54)
Icb=Ic3+Ib3 (55)
Iba=Ib3+Ia3 (56)
各式の左辺は全節巻き巻線の電流で、右辺は集中巻き巻線の場合の電流である。(53)式だけが、他の式に比べ、符号が異なる。また、同相の巻線を2つに分ける方法は、集中巻き巻線を2個直列にした巻き回数Nwaの1/2の全節巻き巻線を2つ作ることにする。電圧と巻き回数Nwaの関係は(5)式で示した。
【0356】
図8の(b)の各電圧は、(34)、(35)、(36)式、あるいは、(48)から(52)式と同様に次の関係となっている。
Vad+Vdc=Vd3 (57)
Vdc+Vcb=Vc3 (58)
Vcb+Vba=Vb3 (59)
Vba+Vad=Va3 (60)
各式の左辺は全節巻き巻線の各相電圧で、右辺は
図8の(a)の集中巻き巻線の場合の各相電圧である。
【0357】
図8の(b)に示すリラクタンスモータを駆動する本発明駆動回路を
図42に示す。前記の(53)式から(60)式の電流条件、電圧条件を満たすように駆動する。ここで、
図8のモータが
図20、
図9のモータと異なる点は、
図8の(a)のステータ磁極101と108の間のスロット、および、102と107の間のスロットに、正負符号の異なる正の電流と負電流が流れることである。従って、(53)式のAD相電流Iadの値は正と負の両方の値になる。そして、
図42に示す駆動回路も、Iadは正と負の両方の電流を通電できるようにする必要がある。
【0358】
図42の42Sは駆動回路全体の制御回路、42Rは直流電圧源、421、422、423、424、425、426、427、428、429、42Aは駆動用トランジスタである。ダイオード40M、40N、40P、40Q、40R、40S、40T、40U、40V、40Wは、前記の過大な電圧の影響を
図42の紙面の左右に配置した他の巻線へ与えないように低減し、また、電流の方向を制限している。これらのダイオードを通過する電流は、(53)から(56)式の右辺の各相電成分であり、括弧付きの記号で示している。
図42の各巻線の向きは、各電流の通電方向へ合わせている。
【0359】
各巻線と通電電流と
図42の駆動回路の関係について説明する。
図42の巻線11ad1は
図8の(b)のAD相全節巻き巻線11ad1と同一記号で示している。11ad1、11ad2のスロット部の巻線は、
図8の(b)の巻線113と114であり、
図8の(a)ではスロット内の2個の電流の方向が異なる。この巻線113は
図8の(a)の集中巻き巻線81と88の和で、(53)式で示され、正の値と負の値になるので、その駆動回路が少し複雑になる。巻線11ad1へ通電するAD相電流Iadの内、電流成分Ia3は、トランジスタ42Aにより巻線11ba2とダイオード50Bを通って巻線11ad1へ通って、トランジスタ422により駆動する。AD相電流Iadの電流成分Id3は、トランジスタ421により巻線11ad1へ通って、ダイオード50Cと巻線11dc1を通って、トランジスタ423により駆動する。巻線11ad1へ通る電流は、(53)式の通り、正のIa3と負のId3の合計の電流が通電することになる。Ia3とId3は重畳しても良い。
【0360】
図42の巻線11dc1へは(54)式の電流をトランジスタ423により駆動する。巻線11cb1へは(55)式の電流をトランジスタ424により駆動する。巻線11ba1へは(56)式の電流をトランジスタ425により駆動する。
図42の巻線11ad2、11dc2、11cb2、11ba2への通電は、11ad1、11dc1、11cb1、11ba1への通電と
図42の紙面で上と下が対象になっていて、同様の動作である。
【0361】
このように、正負の電流であっても本発明駆動回路を実現することはできる。しかし前記のように、トランジスタの数は4相の電流制御に10個必要となり、
図37、
図40の場合に相数の2倍であったことに比較し、2個のトランジスタが余計に必要となる。なお、トランジスタ421、422、426、427の電流容量は、他のトランジスタに比較し、1/2とできる場合もある。
【0362】
図42の本発明駆動回路と
図8の(b)の全節巻き巻線のリラクタンスモータ、特有の巻線構成と接続による駆動特性は、銅損の違い、および、巻線電圧の複雑さと高電圧を除くと、
図8の(a)の集中巻き巻線のリラクタンスモータと同じである。
図10に示すステータ磁極、ロータ磁極の構成の場合、
図11に示すトルク特性となる。なお、種々のステータ磁極形状、ロータ磁極形状、種々の電流制御が可能であり、トルク特性が変わる。
【0363】
図42の本発明駆動回路と
図8の(b)の全節巻き巻線のリラクタンスモータ、特有の巻線構成と接続による駆動の特徴は、
図37、
図40の場合と同様に、従来比で、モータ銅損を最大で1/2に低減できる。そして、駆動回路のトランジスタの総電流容量が同じ条件で、最大で2倍のトルク、パワーを出力することができる。その結果、モータと駆動回路の小型化、軽量化、低コスト化が可能である。
【実施例28】
【0364】
次に、請求項15の実施例を
図43、
図44に示し、説明する。
図43、
図44に記載している各巻線は
図20の全節巻き巻線のリラクタンスモータである。3個の全節巻き巻線と3個のダイオードをデルタ状に直列に、環状に接続して電流を通電して制御する。この構成の目的は、低速回転でトルクの大きな動作領域LSHTにおいてモータ銅損を低減すること、この動作領域LSHTで駆動回路の出力を増加させること、低速回転から中速回転まででトルクが中程度の動作領域MSMTで(16)、(17)、(18)式で示した複雑な電圧、過大な電圧の影響を低減することである。なお、前記の
図37、
図40、
図42の駆動回路に比較すると、駆動回路は簡素である。しかし、中速回転から高速回転のトルク、パワーの出力の点では相対的に劣る。また、
図8の(b)、
図9の(b)などの相数の多いリラクタンスモータへも、
図43、
図44の駆動回路の相数を拡張して適用することができる。
【0365】
図43の43Hは駆動回路全体の制御回路、43Gは直流電圧源、431、432、433、434、435、436は駆動用トランジスタである。437は、
図20のAB相の全節巻き巻線20Dであり、AB相電流Iabを通電する。438は、
図20のBC相の全節巻き巻線20Eであり、BC相電流Ibcを通電する。439は、
図20のCA相の全節巻き巻線20Fであり、CA相電流Icaを通電する。各電流は、(13)、(14)、(15)式の関係である。43J、43K、43Lは、3相の全節巻き巻線437、438、439を相互に接続してデルタ状の環状巻線を形成するダイオードである。43A、43B、43C、43D、43E、43Fは、それぞれ、3相の全節巻き巻線437、438、439の両端から電源の両端へ接続して、電力回生を行うダイオードである。
【0366】
図20のリラクタンスモータが低速回転の時には、電源電圧に余裕があり、3相の電流Iac、Ibc、Icaを個別に電流制御を行うことができる。即ち、トランジスタ431と432でAB相の全節巻き巻線437へ電力を供給してIab通電する。次のフライホイール期間ではトランジスタ431だけをオンして、トランジスタ431と巻線437とダイオード43Aで電流Iabを循環させ、保持する。なお、このフライホイールはトランジスタ432だけをオンしても良い。同様に、トランジスタ433と434でBC相の全節巻き巻線438へ電力を供給してIbcを通電する。トランジスタ435と436でCA相の全節巻き巻線439へ電力を供給してIcaを通電する。
【0367】
低速回転であれば、大きな電流、大きなトルクでも前記の電流制御において他の相の影響が少ない。即ち、
図36に示した従来の駆動回路と同様な動作が可能である。この結果、
図1の集中巻き巻線リラクタンスモータと比較して、低速回転でトルクの大きな動作領域LSHTにおいてモータ銅損を低減することが可能であり、また、この動作領域LSHTでは3相の内の2つの経路で電力を供給できることから駆動回路の出力を増加させることが可能である。
【0368】
しかし、
図20のリラクタンスモータの回転数が上がり、電流も増加してくると、(18)式の電圧成分が増加し、(16)、(17)式の電圧差が大きくなり、電流の制御が困難になる。例えば、ロータが
図20の回転角位置にさしかかっていて、CCWトルクを出力する時、AB相巻線20DへAB相電流IabとCA相巻線20FへCA相電流Icaを通電する。この時、両巻線は(16)、(17)式の電圧であり、(18)式の電圧が差動的に発生する。すなわち、B相磁束φbとC相磁束φcに起因する電圧が差動的に発生する。
【0369】
図43ではこの対応策として、CA相巻線20FとAB相巻線20Dとが直列なるように電圧、電流を制御する。即ち、トランジスタ435とCA相巻線439とダイオード43LとAB相巻線437とトランジスタ432との直列回路で電圧を印加することができる。この時、トランジスタ435とトランジスタ432の間の電圧の複雑さは解消され、(34)式の電圧となっている。ロータの回転と共に同様に、順次2つの巻線を直列にして電流制御を行うことにより、電圧の複雑さを解消して電流制御を行うことができる。
【0370】
しかし、2つの巻線を直列にして電流制御を行うタイミングでは、残りの1相の巻線は、電流を通電しないことが多い。従って、
図43の駆動回路での高速回転の領域を駆動する場合、二つの経路で電力を供給できなくなる。パワーの出力の点では、
図37に示した巻線と駆動回路の構成に劣る。
【0371】
以上説明したように、
図43の構成では、低速回転でトルクの大きな動作領域LSHTにおいてモータ銅損を低減すること、この動作領域LSHTで駆動回路の出力を増加させること、低速回転から中速回転まででトルクが中程度の動作領域MSMTで(16)、(17)、(18)式で示した複雑な電圧、過大な電圧の影響を低減することができる。
【実施例29】
【0372】
次に
図44の駆動回路の構成は、
図43に比較して、電源回生用ダイオード43A、43B、43C、43D、43E、43Fが、
図44のダイオード441、442、443、444、445、446に置き換わっている。回路動作としては
図43と類似している。利点としては、トランジスタとダイオードが逆並列配置なので、市販のトランジスタモジュールを流用できる点が優れている。機能的には、
図43に比較して、回生時のダイオード損失が2倍と大きく、フライホイール時のダイオード損失が2倍となる問題がある。また、回生時とフライホイール時に他相の電圧に影響を与える点についても考慮する必要であり、課題がある。
【実施例30】
【0373】
またさらに、
図44を変形することができる。巻線437とダイオード43Lを直列にしてダイオード43Lの位置に配置し、トランジスタ431のエミッタとトランジスタ432のコレクタを接続する。そして、巻線438、439の2つの相も同様に置き換える。この置き換えの結果、市販され、量産されている6個入りのトランジスタモジュールが使えることになる。コスト的なメリットが有る。なお、
図37、40、42、43、44、44の変形の駆動回路は、全節巻き巻線の駆動だけでなく、
図1、
図46などの集中巻き巻線のリラクタンスモータも、同様に、駆動することができる。
【実施例31】
【0374】
次に、請求項16の実施例を
図45に示し、説明する。
図1、
図8、
図9等に示したリラクタンスモータは、各相の電流を0にすればモータのトルクは0となり、モータ内部の各相のステータ磁極と各ロータ磁極との間に働く力も0である。永久磁石を活用した
図29、
図30、
図31のような場合でも、各相の電流を0にすればトルクリップル分を除けば、モータのトルクは0になる。しかし、モータ内部の各相のステータ磁極と各ロータ磁極との間には、永久磁石によりそれぞれ大きな力が作用している。CCWのトルクTccwとCWのトルクTcwが相殺するような関係となっている。これらのトルクTccwとTcwは永久磁石の強さに依存するので、永久磁石を強化した場合には、定格トルクに匹敵する、あるいは、それ以上の大きな力になることもある。従って例えば、CCWのトルク発生する場合に、CCWトルクを発生可能なステータ磁極を励磁すると同時に、並行してトルクTcwの力を弱めることができれば、より効果的にCCWのトルクを生成できる。
【0375】
例えば、
図29のリラクタンスモータにおいて、図示するロータ回転角位置である場合、まず、各相の電流が0の状態を考えると、永久磁石29Aと29Bにより磁束が発生していて、前記のトルクTccwとTcwが相殺するように発生している。具体的には、A8相のステータ磁極291からロータ磁極を通過してとA8/相のステータ磁極292へ磁束φaccwが通過するので、CCW方向トルクTccwが発生している。一方、B8相のステータ磁極293からロータ磁極を通過してとB8/相のステータ磁極294へ磁束φbcwが通過するので、CW方向トルクTcwが発生している。合計トルクは(Tccw-Tcw)=0と相殺している。
【0376】
次に、CCWのトルクを発生するために、A8相のステータ磁極291とA8/相のステータ磁極292へA8相電流Ia8を通電してトルクTa8を発生することができる。
この時、CCWのトルクを発生する他の方法として、B8相のステータ磁極293とB8/相ステータ磁極296へ負の値のB8相電流Ib8を通電する方法がある。例えば、Ib8が-5[A]の時、前記CW方向トルクTcwが1/2に低下すると仮定して、A8相電流Ia8とB8相電流Ib8=-5[A]を通電すると合計トルクは、(Ta8+(Tccw-Tcw/2))=(Ta8+Tcw/2)となる。即ち、B8相電流Ib8へ負の電流-5[A]を通電して、Tcw/2のCCW方向トルクを得たことになる。
【0377】
この様に、合計トルクTt8を増大するために、B8相電流Ib8を負の電流値とすることにより前記磁束φbcwを減少し、CWのトルクTcwを減少し、モータの発生トルクTt8を増加することができる。ロータの回転と共に、この様に各相電流を制御することにより、CWのトルク成分Tcwを連続的に減少することができる。
【0378】
図45は
図29の各相電流Ia8、Ib8、Ic8を正と負の値に制御できる駆動回路の例である。
図45の45Hは駆動回路全体の制御回路、45Gは直流電圧源である。45DはA8相の巻線、45EはB8相の巻線、45FはC8相の巻線である。A8相電流Ia8の正電流をトランジスタ451と454で駆動し、負電流を453と452で駆動する。B8相電流Ib8の正電流をトランジスタ455と458で駆動し、負電流を457と456で駆動する。C8相電流Ic8の正電流をトランジスタ459と45Cで駆動し、負電流を45Bと45Aで駆動する。
【0379】
図45の駆動回路により、各相電流を正の値だけでなく、今まで通電していなかった区間で負の電流を通電してCCWトルクを生成するので、正の電流値を減少することができ、また、各相巻線の使用率が向上するので、モータの合計銅損を低減することができる。また、
図45の駆動回路は、
図36の従来駆動回路より素子数が増加する。しかし、この対応として、各相の負の電流の最大値は正の電流値より小さいので、前記トランジスタ453、452、457、456、45B、45Aの電流容量を小さくし、駆動回路の増加負担を低減することもできる。なお、本発明のリラクタンスモータとして示した各図では、通電する電流の方向を電流シンボルで示し、ステータ磁極のN極性とS極性を付記しているが、請求項16では電流シンボルとは逆方向の電流も通電することになる。また、
図45の駆動回路は、(13)、(14)、(15)式で換算し、全節巻き巻線のモータへも適用できる。
【0380】
以上本発明について説明したが、各請求項技術の組み合わせ、種々の変形、応用などが可能である。例えば、騒音を低減するだけでなく、全節巻きとして銅損を低減し、
図20の全節巻き巻線のリラクタンスモータは2極対、4極対などに多極化してコイルエンド部を縮小し、
図6のロータ構成を
図17の(b)のような電磁鋼板で構成して生産性と磁気特性を改善し、
図26に示す歯間の永久磁石を適用して鉄損を低減してかつスロット断面積を拡大して銅損を低減し、
図27のように高磁束密度のパーメンジュールを局部的に活用してトルク特性を改善し、
図30もしくは
図31のように永久磁石を活用して励磁し、
図37の駆動回路でインバータも小型化することができる。これらの技術は相互に係わりがあり、同時に併用することにより競争力の高いリラクタンスモータとすることができる。その結果、低騒音化、トルクリップルの低減、ピークトルクの増大、高速回転域の活用が可能となる。そして、リラクタンスモータの銅損低減と利用効率の高い駆動回路により、小型化、軽量化、低コスト化を実現することができる。
【0381】
また、個別の各技術は、
図46に示す従来のリラクタンスモータへも適用できる。モータの相数は、図示した3相、4相、5相だけでなく、7相、11相などへも展開でき、ロータ磁極数との組み合わせ、多極化などもできる。モータ形式についても、アウターロータ型モータ、アキシャルギャップ型モータ、あるいは、リニアモータなどに変形でき、他種モータとの複合化も可能である。モータ用電流での永久磁石の可変、あるいは、専用の装置での永久磁石の可変も可能である。また、各巻線の誘起電圧、磁気特性がロータの回転と共に変化することを利用したセンサレス位置検出技術の活用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0382】
本発明により、低騒音化、トルクリップルの低減、ピークトルクの増大、高速回転域の活用が可能となる。そして、リラクタンスモータの銅損低減と利用効率の高い駆動回路により、小型化、軽量化、低コスト化を実現することができる。本発明のリラクタンスモータは片方向回転のトルクを優先した構成、特性であるが、電気自動車の主機用モータ、産業用モータ、家電用モータなどで、特に片方向回転特性が重視される用途は多い。
【符号の説明】
【0383】
11 A1相のステータ磁極
12 A1/相のステータ磁極
13 B1相のステータ磁極
14 B1/相のステータ磁極
15 C1相のステータ磁極
16 C1/相のステータ磁極
17、18 A1相巻線
1C、1D A1/相巻線
1U、1V B1相巻線
1S、1T B1/相巻線
1Q、1R C1相巻線
1P、1N C1/相巻線
19 ステータ
1B ロータ軸
1J、1K、1L、1M ロータ磁極の横断面例
4J、4K、4L、4M ロータ磁極のエアギャップ面の直線展開形状
θr ロータの回転角位置
θBr ロータ磁極の円周方向角度幅