(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 7/08 20060101AFI20220224BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20220224BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220224BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20220224BHJP
【FI】
B22F7/08 Z
B22F1/052
B22F1/102
B22F1/107
(21)【出願番号】P 2019095913
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川名 泰仁
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021637(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063931(WO,A1)
【文献】特開2019-067986(JP,A)
【文献】特開2017-147151(JP,A)
【文献】特許第5966370(JP,B2)
【文献】特開2017-179403(JP,A)
【文献】特開2017-171844(JP,A)
【文献】特開2019-220641(JP,A)
【文献】YUAN LI,Microstructure and Joint Properties of Nano-Silver Paste by Ultrasonic-Assisted Pressureless Sintering,Journal of ELECTRONICMATERIALS,Vol.45,No.6,3003-3012頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 7/08
B22F 9/00
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1被接合部材と、第2被接合部材とが接合された接合体の製造方法であって、
金属粉と、前記金属粉よりも粒径の小さい金属粒子と、溶媒とを含有
し、前記溶媒が流動パラフィンを含む接合用組成物を準備し、
前記第1被接合部材の接合面に、前記接合用組成物を塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜上に、前記第2被接合部材を配置し、
前記塗膜を加圧せずに、昇温速度0.5~5℃/分で150~400℃まで昇温する、接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第2被接合部材が複数あり、
複数ある第2被接合部材を同時に接合する、
請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接合面の面積が8mm
2以上である、
請求項1又は2に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子が、表面に脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の被覆分子が被覆した被覆金属粒子である、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記流動パラフィンの割合が、前記溶媒全量を100質量%として5~80質量%である、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子等を含む組成物を被接合部材間に配置して焼結することにより、被接合部材を接合する手法が知られている。
【0003】
特許文献1には、2つの被接合部材を接合する接合材料として、平均一次粒径が1nm以上200nm以下の銀ナノ粒子と、2以上のカルボキシル基を有する有機物質等を含有する接合材料が開示されており、当該接合材料を接合前に予備焼成することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、金属サブミクロン粒子と、金属ナノ粒子と分散剤を含む特定の接合材が開示されており、当該接合材を加圧しながら予備焼成し、次いで本焼成することが開示されている。
【0005】
また特許文献3には、接合部の厚みを維持し、接合強度を維持できる接合部が形成できる導電性組成物として、銀微粒子と、溶剤と、特定の熱可塑性樹脂粒子を含む導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/070262号
【文献】特開2015-232181号公報
【文献】国際公開第2016/063931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び2では加圧しながら焼成を行って接合層を形成している。しかしながら、被接合部材の強度や形状などによっては加圧が困難な場合がある。そのため、加圧することなく、十分な接合強度が達成できる接合方法が求められている。
特許文献3の手法は、銀微粒子の焼結時に熱可塑性樹脂粒子が変形し、組成物の硬化収縮時にボイドの発生が抑制されるため、加圧が必要ないとされている。しかしながら特許文献3の手法では、熱可塑性樹脂が接合層に残留するため導電性が低下する。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するものであり、加圧せずに十分な接合強度を有する接合体が得られる接合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る接合体の製造方法は、
第1被接合部材と、第2被接合部材とを接合する接合方法であって、
金属粉と、前記金属粉よりも粒径の小さい金属粒子と、溶媒とを含有する接合用組成物を準備し、
前記第1被接合部材の接合面に、前記接合用組成物を塗布して塗膜を形成し、
前記塗膜上に、前記第2被接合部材を配置し、
前記塗膜を加圧せずに、昇温速度0.5~5℃/分で150~400℃まで昇温する。
【0010】
上記接合体の製造方法は、
前記第2被接合部材が複数あり、
複数ある第2被接合部材を同時に接合してもよい。
【0011】
上記接合体の製造方法は、
前記接合面の面積が8mm2以上であってもよい。
【0012】
上記接合体の製造方法は、
前記金属粒子が、金属核粒子の表面に脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の被覆分子が被覆した被覆金属粒子であってもよい。
【0013】
上記接合体の製造方法は、
前記溶媒が、流動パラフィンを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により。加圧せずに十分な接合強度を有する接合体が得られる接合体の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本製造方法の一例を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る接合体の製造方法(以下、本製造方法ということがある)について説明する。
なお、本明細書において「加圧」とは意図的に圧力を加えることをいい、例えば、第2被接合部材の重量に起因する圧力は、「加圧」には含まれないものとする。
また、本明細書においては、便宜的に、接合用組成物を塗布する側の被接合部材を第1被接合部材といい、塗膜上に載置する被接合部材を第2被接合部材という。
【0017】
まず
図1を参照して、本製造方法を概説する。
図1は本製造方法の一例を示す概略的な断面図である。
本製造方法は、接合層3を介して第1被接合部材1と第2被接合部材2とが接合された接合体10を製造する方法である。本製造方法は、まず、予め接合用組成物を準備し、第1被接合部材1の接合面に塗布して塗膜4を形成する(
図1(A))。次いで、塗膜4上に第2被接合部材2を配置する(
図1(B))。次いで、塗膜4を加圧せずに、昇温速度0.5~5℃/分で150~400℃まで昇温し、必要に応じて最終温度を維持することにより、接合用組成物を焼成して、焼結体である接合層3を形成することで接合体10(
図1(C))を製造する方法である。
【0018】
本製造方法は昇温速度0.5~5℃/分でゆっくりと昇温することで、塗膜中の溶媒が急激に気化することが抑制されるため、気体の流路となるボイド(空隙)の発生が抑制されるものと推定される。また、塗膜内の溶媒が徐々に減少していくにつれて金属粉と金属粒子が適切に再配置されることによってもボイドが抑制されていると推定される。また、ゆっくりと昇温することで、塗膜内の温度のばらつきが抑制されて、例えば、被接合部材に近接する領域だけ焼結が進行するようなことがなく、内部まで均一に焼結が進行しているものと推定される。その結果、接合層の一部に強度が弱い部分が生じることが抑制され、接合強度の向上に寄与するものと推定される。これらのことから、本製造方法によれば加圧することなく接合強度に優れた接合体が得られると考えられる。
また、本製造方法によれば、加圧が不要であるため、第2被接合部材が複数ある場合、更に複数ある第2接合部材の形状が異なる場合(
図1参照)であっても、同時に接合することができ、生産性に優れている。
また、本製造方法は接合用組成物の塗膜を均一に加熱することから、従来無加圧では接合が困難であった、接合面が比較的大面積(例えば8mm
2以上)の場合であっても接合強度に優れた接合体が得られるという効果もある。
以下各工程の詳細について説明する。
【0019】
まず金属粉と、前記金属粉よりも粒径の小さい金属粒子と、溶媒とを含有する接合用組成物(以下、本接合用組成物ということがある)を準備する。
本接合用組成物は少なくとも金属粉と、金属粒子と、溶媒とを含有するものであり、必要に応じて他の成分を含有してもよいものである。ここで本接合用組成物の各成分について説明する。
【0020】
<金属粉>
金属粉は加熱後に後述する金属粒子とともに接合層を形成する成分である。金属粉の材質は、得られる接合体の用途等に応じて適宜選択すればよい。材質の具体例として、金、銀、銅、白金、アルミニウム、鉄、クロム、スズ、ニッケル、亜鉛、鉛、インジウム、ビスマス、ゲルマニウム、アンチモン、コバルト、パラジウム、ロジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウム、ガリウム、ヒ素、ホウ素、ケイ素、及び、これらの合金などが挙げられる。接合層に導電性が求められる場合、中でも、金、銀、又は銅が好ましく、銀、又は銅がより好ましい。金属粉は1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
【0021】
金属粉の平均粒径は、0.3以上10μm以下が好ましく、0.4以上5μm以下がより好ましく、0.5以上1.0μm以下が更にこのましい。平均粒径が10μm以下の金属粉を用いることで、塗膜内で金属粉が密に充填され、得られる接合層のボイドが抑制される。また、粒径の異なる複数種の金属粉を組み合わせてもよい。粒径の異なる金属粉を用いることにより。大きな粒径の金属粉の間に粒径の小さな金属粉が入り込み、塗膜中の充填密度が向上する。
【0022】
<金属粒子>
金属粒子は加熱により融解して金属粉と共に接合層を形成する成分である。
本製造方法において、金属粒子は前記金属粉より粒径の小さい粒子であればよく、150~400℃で融解するものの中から適宜選択すればよい。
金属粒子の融点は、粒径と材質の組合せにより適宜調整される。金属粒子の平均一次粒径は、300nm未満が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が更に好ましい。また、金属核粒子の平均一次粒径は、通常、1nm以上であり、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。
なお、金属粒子の平均一次粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された任意の20個の金属核粒子の一次粒子径の算術平均値である。
【0023】
金属粒子の材質は、前記金属粉において例示したものと同様のもの中から適宜選択できる。接合層に導電性が求められる場合、中でも、金、銀、又は銅が好ましく、銀、又は銅がより好ましい。金属粒子は1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
また、金属粉の材質と、金属粒子の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
金属粒子は、表面に有機物が被覆した、被覆金属粒子であってもよい。被覆金属粒子とすることより、金属粒子の酸化が抑制され、導電性に優れた接合層が得られる。当該有機物は、150~400℃の加熱により、分解又は揮発しやすいものを選択して用いることが好ましい。当該有機物としては、表面酸化の抑制の点から、脂肪族カルボン酸、脂肪族アルデヒドなどが挙げられる。
【0025】
上記脂肪族カルボン酸は、1個以上のカルボキシ基を有する脂肪族化合物である。当該脂肪族カルボン酸を構成する脂肪族基は、直鎖、分枝、又は環状構造を有する炭化水素基であって、不飽和結合を有していてもよい。金属粒子表面に高密度で配置されやすい点から、直鎖炭化水素基が好ましい。また、カルボキシ基は、当該直鎖炭化水素基の片末端に有することが好ましい。このような脂肪族カルボン酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0026】
脂肪酸は、表面酸化の抑制及び後述する溶媒中での分散性の点から、炭素数が3以上であることが好ましく、5以上がより好ましく、7以上が更に好ましい。また、加熱時の揮発性の点から、脂肪酸の炭素数は、24以下が好ましく、16以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。好ましい脂肪酸の具体例としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。脂肪族カルボン酸は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記脂肪族アルデヒドは、1個以上のアルデヒド基を有する脂肪族化合物である。脂肪族アルデヒドを構成する脂肪族基は、前記脂肪族カルボン酸と同様とすることができ、直鎖炭化水素基が好ましい。また、アルデヒド基は、当該直鎖炭化水素基の片末端に有することが好ましい。
好ましい、脂肪族アルデヒドの具体例としては、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、オクタデシルアルデヒド、ヘキサデセニルアルデヒドが挙げられる。脂肪族アルデヒドは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記被覆金属粒子は、例えば、特開2016-069716号公報などを参考に製造できる。当該特開2016-069716号公報の方法によれば、金属粒子表面に脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の被覆分子が被覆した被覆金属粒子が得られる。当該被覆金属粒子の金属表面には、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドのカルボキシ基またはアルデヒド基が配置され、単分子膜の被覆層が形成される。当該被覆密度は、2.5~5.2分子/nm2となり、表面酸化の抑制及び分散性に優れた被覆金属粒子が形成される。なお、被覆密度は、特開2016-069716号公報の方法を用いて算出できる。
【0029】
金属粉の及び金属粒子は、金属酸化物、金属水酸化物、及びその他の不純物を含んでいてもよい。金属粉又は金属粒子に含まれる不純物の割合は、導電性の点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。また、導電性の点から、金属粉又は金属粒子中の金属成分の割合は、95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上が更に好ましい。
【0030】
接合用組成物中の金属粉と金属粒子の比率(質量比)は、接合強度の点から、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30がより好ましく、40:60~60:40が更に好ましい。
【0031】
<溶媒>
接合用組成物に用いる溶媒は、前記金属粉及び金属粒子を好適に分散し、150~400℃の加熱により揮発しやすいものの中から、塗膜形成方法(印刷方法)などに応じて適宜選択できる。
溶媒としては、常温(25℃)で液体の、アルコール系溶媒、アルデヒド系溶媒、炭化水素系溶媒、脂肪酸などの中から適宜選択して用いることができる。溶媒は1種単独で、又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。
本製造方法においては、沸点の異なる2種以上の溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることが好ましい。このような混合溶媒を用いることにより、沸点付近での溶媒成分の急激な気化が抑制され、接合層のボイドが抑制される。
【0032】
本製造方法においては、沸点が160℃以上400℃以下の溶媒(高沸点溶媒ということがある)を含むことが好ましい。このような溶媒を含むことにより金属粒子の焼成時に塗膜内に溶媒が残存し、金属粉や金属粒子が塗膜内で適切に再配置やすくなり、ボイドが抑制される。このような観点から、中でも、沸点が200℃以上の溶媒を含むことが好ましい。また、接合層中の溶媒の残留を抑制する点から、溶媒の沸点は350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
このような溶媒の具体例としては、n-デカナール、ドデカナール、オクタン酸、n-デシルアルコール、ブチルカルビトール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(KHネオケム株式会社製、キョーワノールM)や、イコサン等、炭素数20以上のアルカンなどが挙げられる。炭素数20以上のアルカンを含む複数種のアルカンを含む溶媒として流動パラフィンが挙げられる。
流動パラフィンは炭素数の異なる(即ち、沸点の異なる)複数種のアルカンを含む。本製造方法は後述する加熱工程において、昇温速度0.5~5℃/分で150~400℃まで昇温するため、流動パラフィンは徐々に揮発するものと推定される。その結果、急激な揮発が抑制されてボイドの発生が抑制される。
このような観点から、本製造方法において、接合用組成物は溶媒として流動パラフィンを含むことが特に好ましい。
流動パラフィンは市販品を用いることができ、例えば、ハイコールK-160、ハイコールK-230、ハイコールK-290、ハイコールK-350(いずれもカネダ株式会社製)などが挙げられる。
【0033】
流動パラフィンを用いる場合、その割合は、溶媒全量を100質量%として、5~80質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、15~65質量%が更に好ましい。5質量%以上とすることで上記の効果が得られるため、塗膜の形成方法などに応じて他の溶媒を適宜組み合わせることができる。流動パラフィンと組み合わせる他の溶媒としては、上記の高沸点溶媒であってもよく、下記の低沸点溶媒であってもよい。
【0034】
溶媒は、更に沸点が160℃未満の溶媒(低沸点溶媒ということがある)を組み合わせてもよい。
低沸点溶媒の含有割合は、溶媒全量を100質量%として、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0035】
接合用組成物中の溶媒の割合は、塗膜の形成方法などに応じて適宜調整すればよく、接合用組成物全量に対して、1~95質量%とすることができ、5質量%~90質量%が好ましく、10質量%~80質量%がより好ましい。
【0036】
接合用組成物は塗膜の形成方法などに応じて粘度を調整することが好ましい。後述する他の成分を組合せ、例えば、25℃、10rpmにおける粘度を0.01Pa・s以上1000Pa・s以下の範囲で調整することが好ましく、0.1Pa・s以上100Pa・s以下がより好ましい。
【0037】
<他の成分>
接合用組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。他の成分としては、酸化防止剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤等が挙げられる。
【0038】
酸化防止剤は、金属粒子の酸化防止などの目的で用いることができる。当該酸化防止剤としては、トコフェロールやヒドロキノン等のようなフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。中でもフェノール系酸化防止剤が好ましく、トコフェロールがより好ましい。酸化防止剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いる子ができる。
接合用組成物中の酸化防止剤の割合は、接合用組成物全量100質量%に対して、0.0001質量%~5質量%が好ましく、0.0005質量%~2質量%がより好ましい。
【0039】
接合用組成物は、金属粉や金属粒子の分散性の点から、分散剤を含有してもよい。分散剤としてはポリエステル系分散剤やポリアクリル酸系分散剤等の、公知の分散剤が挙げられる。得られる接合層の強度の点から、接合用組成物中の分散剤の割合は、組成物全量100質量%に対し、0.3質量%以下が好ましく、全量の0.1質量%以下がより好ましい。
【0040】
接合用組成物は、粘度を調整するために増粘剤やゲル化剤を含有してもよい。
ゲル化剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィンが挙げられ、これらは前記流動パラフィンをゲル化できる。中でもポリエチレンが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば、10,000以上のものの中から適宜選択することができ、10,000~5,000,000が好ましく、20,000~3,000,000がより好ましい。接合用組成物をゲル化することにより、塗膜のパターン形状を保持することができる。
流動パラフィンとゲル化剤との配合比率は、パターン保持性を向上する観点点から、流動パラフィンとゲル化剤の合計100質量%に対し、ゲル化剤が0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上12質量%以下が更に好ましい。
【0041】
接合用組成物の調製方法は、溶媒中に金属粉と金属粒子と他の成分を均一に分散できる方法であればよい。例えば、溶媒に各成分を添加し、公知の撹拌機や分散機を用いて分散することで接合用組成物が得られる。
【0042】
次いで、第1被接合部材の接合面に、前記接合用組成物を塗布して塗膜を形成する。塗膜の形成方法は、公知の塗布手段及び印刷手段の中から適宜選択でき、中でも、ディスペンサー塗布、又はスクリーン印刷が好ましい。
【0043】
ディスペンサー塗布は、前記接合用組成物を定量吐出する装置を用いて塗布する方法である。吐出方式は、特に限定されず、例えば、エアパルス方式、メカニカル方式、非接触方式、プランジャー方式などの中から適宜選択できる。一例として、エアパルス方式のディスペンサーの場合、シリンジに前記接合用組成物を充填し、エアパルスをかけることで接合用組成物を一定量ずつ吐出させ、ドット状など所定のパターンに塗布する方法である。後述する第2被接合部材を軽く押し付けることで、接合用組成物は接合面に濡れ広がる。
またスクリーン印刷は、所定の開口部を有するスクリーンに接合用組成物を塗布し、前記第1被接合部材上に前記スクリーンを配置し、スキージを用いて第1被接合部材にスクリーンを押し付けることで接合用組成物を所定パターンに転写する方法である。
接合用組成物の塗膜の膜厚は、例えば、1~100μmの範囲で適宜調整すればよく、2~80μmが好ましい。
【0044】
次いで前記塗膜上に第2被接合部材を配置した後、塗膜を加圧せずに加熱する。本実施形態において加熱の際の昇温速度は、0.5~5℃/分である。ゆっくりと加熱することにより、前記溶媒や、金属粒子が有する被覆層などがゆっくりと揮発してボイドの発生が抑制されると共に、金属粒子が溶融して金属粉と共に焼結し、接合層を形成する。ボイドの発生を抑制する点から、昇温速度は4℃/分以下が好ましく、3℃/分以下がより好ましい。また、生産性の向上の点から、昇温速度は1℃/分以上が好ましく、2℃/分以上がより好ましい。
昇温の最終温度は、金属粒子の溶融温度、溶媒の揮発性などを考慮して150~400℃の範囲で適宜調整すればよく、中でも200~400℃が好ましく、250~350℃がより好ましい。
必要に応じて最終温度を1分~8時間程度維持して、金属粒子の焼結を促進させ、溶媒等の有機成分を除去してもよい。このようにして接合層を介して第1被接合部材と第2被接合部材とが接合された接合体が得られる。
【0045】
なお、第1被接合部材及び第2被接合部材は、後述する加熱温度に対する耐熱性があればよい。一例として、第1被接合部材が基板であり、第2被接合部材が半導体素子である。1つの第1被接合部材に対して、複数の第2被接合部材を用いてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0047】
(製造例1:金属粒子の製造)
特開2016-069716号公報の実施例1を参考にして、ラウリン酸が被覆した平均一次粒径が80nmの金属粒子を得た。
【0048】
(製造例2:接合用組成物の調製)
まず、流動パラフィン(ハイコールK-290:カネダ株式会社製)0.5質量部と、n-デカナール(東京化成株式会社製)0.05質量部とを混合し、攪拌機(あわとり練太郎(ARE-310):シンキー社製)を用いて2000rpmの回転速度で30秒撹拌した。
次いで、平均粒子径が0.5μmの銅粉(1050Y:三井金属鉱業株式会社製)3質量部を添加し、上記攪拌機を用いて2000rpmの回転速度で30秒の撹拌を2回行った。次いで、製造例1の金属粒子5.4質量部と、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(キョーワノールM:KHネオケム株式会社製)0.6質量部と、n-デシルアルコール0.25質量部を添加して、上記攪拌機を用いて2000rpmの回転速度で30秒の撹拌を3回行った。
次いで、容器(なんこう黒160ml:近畿容器株式会社製)上に見開き15μmのナイロンメッシュを張り、撹拌された混合物を当該メッシュ上に乗せたのちに、上記攪拌機を用いて2000rpmの回転速度で15秒撹拌し、メッシュ濾過を行い、接合用組成物を得た。
【0049】
(実施例1:接合体の製造)
前記接合用組成物を、シリンジ(3ccのクリアシリンジと3cc用のプランジャー(イエロー)を使用:いずれも武蔵エンジニアリング株式会社製)に充填し、ニードル(20~22G:武蔵エンジニアリング株式会社製)を用いて、エアディスペンサー(ML5000XII:武蔵エンジニアリング株式会社製)で、5mm×5mm×500μmのシリコン基板(Ti/Ni/Auメッキ)のAuメッキ面上に約50μmの厚みとなるように塗膜を形成した。次いで、当該接合用組成物上に3mm×3mm×500μmのシリコンチップ(Ti/Ni/Auメッキ)を、Auメッキ面が接触するように乗せた。その後、当該シリコン基板を電気炉(KDF900GL:デンケンハイデンタル株式会社製)を用いて、窒素ガス雰囲気下、無加圧で以下の温度プロファイルに従って加熱して、接合体を得た。接合面の面積は9mm2である。
○実施例1の温度プロファイル
25℃(初期温度) → 1℃/分(昇温) → 350℃(最終温度:保持せず) → 放冷 → 25℃(終了)
【0050】
(実施例2~3:接合体の製造)
実施例1において温度プロファイルを表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3の接合体を得た。
【0051】
(実施例4:接合体の製造)
実施例1において、基板を15mm×15mm×500μmの銅板に変更し、チップを10mm×10mm×500μmに変更した以外は実施例1と同様にして実施例4の接合体を得た。
【0052】
(比較例1:接合体の製造)
実施例1において温度プロファイルを表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の接合体を得た。
【0053】
<シェア強度測定>
得られた接合体を、それぞれボンドテスター(Condor Sigma:オランダXYZTEC社製)を用いてダイシェアテストを行い、接合強度を測定した。結果を表1及に示す。
【0054】
【0055】
表1に示されるように、昇温速度0.5~5℃/分とした本製造方法により得られた接合体はシェア強度が高く、接合強度に優れていることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0056】
1 第1被接合部材
2 第2被接合部材
3 接合層
4 塗膜
10 接合体