(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ヘテロエピタキシャル構造体及びその作製方法、並びにヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体及びその作製方法、ナノギャップ電極及びナノギャップ電極の作製方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/44 20060101AFI20220224BHJP
C30B 7/14 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C23C18/44
C30B7/14
(21)【出願番号】P 2020550206
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034167
(87)【国際公開番号】W WO2020071025
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2018187109
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019005299
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】真島 豊
(72)【発明者】
【氏名】チェ ユンヨン
(72)【発明者】
【氏名】島田 郁子
(72)【発明者】
【氏名】遠山 諒
(72)【発明者】
【氏名】楊 銘悦
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089913(JP,A)
【文献】国際公開第2012/121067(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/132567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶構造を有する第1金属部と、
前記第1金属部上の第2金属部と、を有し、
前記第2金属部は、前記第1金属部上で島状構造を有し、
前記第2金属部は、前記第1金属部の表面に露出する少なくとも一つの結晶粒に対応して設けられ、
前記第2金属部と前記少なくとも一つの結晶粒とは、ヘテロエピタキシャル界面を形成
し、
前記第1金属部が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種の金属元素を含み、前記第2金属部が金(Au)である、ことを特徴とするヘテロエピタキシャル構造体。
【請求項2】
前記第1金属部がパラジウム(Pd)であり、前記第2金属部が金(Au)であり、
前記第1金属部と前記第2金属部との界面に前記第1金属部と前記第2金属部の固溶体を含む、請求項1に記載のヘテロエピタキシャル構造体。
【請求項3】
前記島状構造は、山型状又は半球状の形状を有する、請求項1に記載のヘテロエピタキシャル構造体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3のいずれか一項の記載のヘテロエピタキシャル構造体の上に、前記第2金属部を覆う第3金属部を有する、ことを特徴とするヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体。
【請求項5】
前記第2金属部は、前記第1金属部の表面に複数個が離散して配置されている、請求項
4に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体。
【請求項6】
前記第2金属部は、前記第1金属部の表面に単位面積当たり50個/μm
2以上、2000個/μm
2以下の密度で分散されている、請求項
5に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体。
【請求項7】
前記第1金属部の表面積に対し、前記第2金属部が前記第1金属部と接する合計面積の割合は、0.1以上0.8以下である、請求項
5に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体。
【請求項8】
前記第3金属部は、前記第2金属部と同種の金属、又は異種の金属、若しくは合金である、請求項
4乃至請求項
7のいずれか一項に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体。
【請求項9】
多結晶構造を有する第1金属部を、第1金属部と異なる種類の第2の金属の金属イオン、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、及び還元剤を含む無電解めっき液に浸漬し、
前記第1金属部の表面を前記酸化剤と前記還元剤とにより還元しつつ、電気化学的置換反応により前記第2の金属の金属イオンから還元された金属を、前記第1金属部の少なくとも一つの結晶粒の還元された表面に対応してヘテロエピタキシャル成長させる、ことを特徴とするヘテロエピタキシャル構造体の作製方法。
【請求項10】
前記ヘテロエピタキシャル成長により、前記少なくとも一つの結晶粒とヘテロエピタキシャル界面を形成し、前記第1金属部の表面で島状構造を有する第2金属部を形成する、請求項
9に記載のヘテロエピタキシャル構造体の作製方法。
【請求項11】
前記第1金属部が白金であり、前記金属イオンが、金イオン(Au
+、Au
3+)であり、前記ハロゲン元素のイオンがヨウ素イオン(I
-、I
3
-)であり、前記還元剤が、L(+)-アスコルビン酸(C
6H
8O
6)である、請求項1
0に記載のヘテロエピタキシャル構造体の作製方法。
【請求項12】
前記無電解めっき液は、純水で500倍以上に希釈されている、請求項10
又は請求項11に記載のヘテロエピタキシャル構造体の作製方法。
【請求項13】
前記第1金属部を、前記無電解めっき液に浸漬する前に、ヨードチンキとL(+)-アスコルビン酸(C
6H
8O
6)に浸漬させる、請求項
11又は請求項
12に記載のヘテロエピタキシャル構造体の作製方法。
【請求項14】
請求項
10乃至請求項
13のいずれか一項に記載のヘテロエピタキシャル構造体を作製した後、前記第1金属部の上に前記第2金属部を覆う第3金属部を形成することを特徴とするヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法。
【請求項15】
前記第2金属部は、前記第1金属部の表面に複数個が離散するように形成する、請求項
14に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法。
【請求項16】
前記第2金属部は、前記第1金属部の表面に単位面積当たり50個/μm
2以上、2000個/μm
2以下の密度で分散するように形成する、請求項
15に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法。
【請求項17】
前記第3金属部を、前記第2金属部と同種の金属又は異種の金属で形成する、請求項
14乃至請求項
16のいずれか一項に記載のヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法。
【請求項18】
多結晶構造を有する第1金属部と、前記第1金属部上の第2金属部と、をそれぞれ含む第1電極及び第2電極を有し、
前記第1金属部は幅20nm以下の線状パターンを有し、
前記第2金属部は、前記第1金属部の前記線状パターンの一端に少なくとも配置され、
前記第2金属部は、前記第1金属部上で島状構造を有し、前記第1金属部の表面に露出する少なくとも一つの結晶粒に対応してヘテロエピタキシャル界面を形成し、
前記第1電極に属する前記第2金属部と、前記第2電極に属する前記第2金属部との間隔が5nm以下である、
ことを特徴とするナノギャップ電極。
【請求項19】
前記第2金属部は結晶方位の異なる複数の結晶領域を含む、請求項
18に記載のナノギャップ電極。
【請求項20】
前記第2金属部は半球状である、請求項
18に記載のナノギャップ電極。
【請求項21】
前記第1金属部が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種の金属元素を含み、前記第2金属部が金(Au)である、請求項
18に記載のナノギャップ電極。
【請求項22】
前記第1金属部がパラジウム(Pd)であり、前記第2金属部が金(Au)であり、前記第1金属部と前記第2金属部との界面に前記第1金属部と前記第2金属部の固溶体を含む、請求項
18に記載のナノギャップ電極。
【請求項23】
前記第2金属部は、前記第1金属部の前記線状パターンの略中心軸上の一端に配置される、請求項
18に記載のナノギャップ電極。
【請求項24】
多結晶構造を有する第1金属部と、前記第1金属部上の第2金属部と、をそれぞれ含む第1電極及び第2電極を有し、
前記第1金属部は幅15nm以下の線状パターンを有し、
前記第2金属部は前記第1金属部の表面を連続的に覆い、
前記第2金属部は前記第1金属部の表面の露出する結晶粒に対応してヘテロエピタキシャル界面を形成する領域を含み、
前記第1電極と前記第2電極とは、それぞれの一端が相対し間隙をもって配置され、前記間隙の長さが5nm以下である、
ことを特徴とするナノギャップ電極。
【請求項25】
前記第2金属部は、結晶方位の異なる複数の結晶領域を含む、請求項
24に記載のナノギャップ電極。
【請求項26】
前記第1金属部が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)から選ばれた一種の金属元素を含み、前記第2金属部は金(Au)である、請求項
24に記載のナノギャップ電極。
【請求項27】
前記第1金属部がパラジウム(Pd)であり、前記第2金属部が金(Au)であり、
前記第1金属部と前記第2金属部との界面に前記第1金属部と前記第2金属部の固溶体を含む、請求項
24に記載のナノギャップ電極。
【請求項28】
多結晶構造を有する第1金属部により、幅20nm以下の線状パターンを有し、それぞれの一端が相対し且つ離間して配置される第1電極パターンと第2電極パターンとを形成し、
前記第1電極パターン及び前記第2電極パターンを、前記第1金属部と異なる種類の第2の金属の金属イオン、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、及び還元剤を含む無電解めっき液に浸漬し、
前記第1電極パターン及び前記第2電極パターンの表面を、前記酸化剤と前記還元剤とにより還元しつつ、電気化学的置換反応により前記第2の金属の金属イオンから還元された金属が、前記第1電極パターン及び前記第2電極パターンの表面を連続的に覆うようにヘテロエピタキシャル成長させ、
前記第1電極パターンと前記第2電極パターンとの前記それぞれの一端が相対する間隔を5nm以下に形成する
ことを特徴とするナノギャップ電極の作製方法。
【請求項29】
前記ヘテロエピタキシャル成長により、前記第1金属部の表面にヘテロエピタキシャル界面を形成する第2金属部を半球状に成長させる、請求項
28に記載のナノギャップ電極の作製方法。
【請求項30】
前記ヘテロエピタキシャル成長により、前記第1金属部の表面を被覆するように第2金属部を成長させる、請求項
28に記載のナノギャップ電極の作製方法。
【請求項31】
前記第1金属部が白金であり、前記金属イオンが、金イオン(Au
+、Au
3+)であり、前記ハロゲン元素のイオンがヨウ素イオン(I
-、
I
3
-
)であり、前記還元剤が、L(+)-アスコルビン酸(C
6H
8O
6)である、請求項
28に記載のナノギャップ電極の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、無電解めっきによりヘテロエピタキシャル成長を行う技術に関する。また、本発明の一実施形態は、無電解めっきによりヘテロエピタキシャル成長した領域を含むナノギャップ電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電解めっき及び無電解めっきは工業的に広く用いられている技術の一つであり、様々な用途で利用されている。例えば、電子部品の生産現場では金めっきにより電極を加工する技術が普及している。金(Au)は化学的に非常に安定した金属であり、電子部品に広く用いられている。例えば、電子部品においては、半田の濡れ性やワイヤボンディング性が良好であることから、電極材料として用いられている。金(Au)の被膜は電解めっきで形成することができる。しかし、金(Au)は柔らかい金属であるため、金(Au)の被膜を電解めっきで形成する場合には、下地面にコバルト(Co)、ニッケル(Ni)等のめっき膜を形成して硬質化が図られている。
【0003】
めっきは古くから知られた技術であるが、現在においても様々な研究がなされている。例えば、白金(Pt)上に電解めっきにより金(Au)の被膜を層状に成長させる研究報告がなされている(非特許文献1参照)。また、球状白金(Pt)シードの表面に、塩化金(III)から還元された金(Au)を析出する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Stephen Ambrozik, Corey Mitchell, and Nikolay Dimitrov、 “The Spontaneous Deposition of Au on Pt (111) and Polycrystalline Pt”、Journal of The Electrochemical Society、163 (12)、D3001-D3007、(2016)
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無電解めっきにより貴金属をヘテロエピタキシャル成長させる技術は、これまでほとんど報告されていない。電解めっきが電流を流して金属を素材の表面に析出させる方法であるのに対し、無電解めっきは金属イオンと還元剤の還元力に基づく化学反応によって、金属イオンを素材の上に金属として析出させる方法である。そのため、無電解めっきは素材の種類によってめっき膜を成長させることが困難である場合があり、密着性が高く、接触抵抗が低いめっき膜を形成することが困難であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体は、多結晶構造を有する第1金属部と、第1金属部上の第2金属部と、を有し、第2金属部は第1金属部上で島状構造を有し、第2金属部は第1金属部の表面に露出する少なくとも一つの結晶粒に対応して設けられ、第2金属部と少なくとも一つの結晶粒とはヘテロエピタキシャル界面を形成している。
【0008】
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体は、多結晶構造を有する第1金属部と、第1金属部上の第2金属部と、を有し、第2金属部は第1金属部上で島状構造を有し、第2金属部は第1金属部の表面に露出する少なくとも一つの結晶粒に対応して設けられ、第2金属部と少なくとも一つの結晶粒とはヘテロエピタキシャル界面を形成する部位を覆うように設けられた第3金属部を含む。
【0009】
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法は、多結晶構造を有する第1金属部を、第1金属部と異なる種類の第2の金属の金属イオン、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、及び還元剤を含む無電解めっき液に浸漬し、第1金属部の表面を酸化剤と還元剤とにより還元しつつ、電気化学的置換反応により第2の金属の金属イオンから還元された金属を、第1金属部の少なくとも一つの結晶粒の還元された表面に対応してヘテロエピタキシャル成長させることを含む。
【0010】
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製方法は、多結晶構造を有する第1金属部を、第1金属部と異なる種類の金属の金属イオン、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、及び還元剤を含む無電解めっき液に浸漬し、第1金属部の表面を酸化剤と還元剤とにより還元しつつ、電気化学的置換反応により第2の金属の金属イオンから還元された金属を、第1金属部の少なくとも一つの結晶粒の還元された表面に対応してヘテロエピタキシャル成長させた後、第2金属部を覆うように第1金属部の上に第3金属部を形成することを含む。
【0011】
本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極は、多結晶構造を有する第1金属部と第1金属部上の第2金属部とをそれぞれ含む第1電極及び第2電極を有し、第1金属部は幅20nm以下の線状パターンを有し、第2金属部は、第1金属部の線状パターンの一端に少なくとも配置される。第2金属部は、第1金属部上で島状構造を有し、第1金属部の表面に露出する少なくとも一つの結晶粒に対応してヘテロエピタキシャル界面を形成し、第1電極に属する第2金属部と、第2電極に属する第2金属部との間隔が5nm以下とされる。
【0012】
本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極は、多結晶構造を有する第1金属部と、第1金属部上の第2金属部とをそれぞれ含む第1電極及び第2電極を有し、第1金属部は幅15nm以下の線状パターンを有し、第2金属部は第1金属部の表面を連続的に覆う。第2金属部は第1金属部の表面の露出する結晶粒に対応してヘテロエピタキシャル界面を形成する領域を含み、第1電極と第2電極とは、それぞれの一端が相対し間隙をもって配置され、間隙の長さが5nm以下とされている。
【0013】
本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極の作製方法は、多結晶構造を有する第1金属部により、幅20nm以下の線状パターンを有し、それぞれの一端が相対し且つ離間して配置される第1電極パターンと第2電極パターンとを形成し、第1電極パターン及び第2電極パターンを、第1金属部と異なる種類の第2の金属の金属イオン、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、及び還元剤を含む無電解めっき液に浸漬し、第1電極パターン及び第2電極パターンの表面を、酸化剤と還元剤とにより還元しつつ、電気化学的置換反応により第2の金属の金属イオンから還元された金属が、第1電極パターン及び第2電極パターンの表面を連続的に覆うようにヘテロエピタキシャル成長させ、第1電極パターンと第2電極パターンとのそれぞれの一端が相対する間隔を5nm以下に形成することを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、第1金属部の表面にヘテロエピタキシャル成長した第2金属部を含むヘテロエピタキシャル構造体を得ることができる。第2金属部が第1金属部の表面でヘテロエピタキシャル成長した部位であることにより、第1金属部と第2金属部との密着性を高め、接触抵抗を低減することができる。また、このようなヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体およびナノギャップ電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体及びヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の概念を示す断面図である。
【
図2A】本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体を走査型透過電子顕微鏡で観察した結果を示し、原子分解能の二次電子像を示す。
【
図2B】本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体を走査型透過電子顕微鏡で観察した結果を示し、TEM暗視野像を示す。
【
図2C】本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体を走査型透過電子顕微鏡で観察した結果を示し、TEM明視野像を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体における接触抵抗の、ヘテロエピタキシャル界面の面積割合依存性を示すグラフである。
【
図4A】本発明の一実施例において作製された試料のSEM像を示し、前処理無しの試料を示す。
【
図4B】本発明の一実施例において作製された試料のSEM像を示し、前処理液Aで処理された試料を示す。
【
図4C】本発明の一実施例において作製された試料のSEM像を示し、前処理液Bで処理された試料を示す。
【
図4D】本発明の一実施例において作製された試料のSEM像を示し、前処理液Cで処理された試料を示す。
【
図5】実施例1において作製された試料のSEM像を示し、無電解金めっき処理を10回繰り返して作製された試料を示す。
【
図6】実施例2において作製された試料の断面SEM像を示す。
【
図7A】実施例2で評価された試料を電子顕微鏡で観察した結果を示し、実施例2で作製された試料の断面SEM像を示す。
【
図7B】実施例2で評価された試料に対する比較例の断面SEM像を示す。
【
図8A】本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極の平面図を示す。
【
図8B】本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極のA1-B2線に対応する断面模式図を示す。
【
図9A】本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極の平面図を示す。
【
図9B】本発明の一実施形態に係るナノギャップ電極を示のA-B線に対応する断面模式図を示す。
【
図10】実施例3で作製されたナノギャップ電極のTEM明視野像を示す。
【
図11A】実施例3で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示し、処理時間が6秒の場合を示す。
【
図11B】実施例3で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示し、処理時間が10秒の場合を示す。
【
図12A】実施例5で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示し、熱処理前の白金電極パターンの表面状態を示す。
【
図12B】実施例5で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示し、熱処理後の白金電極パターンの表面状態を示す。
【
図12C】実施例5で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示し、熱処理後の白金電極パターンの表面に無電解金めっきを行った結果を示す。
【
図13】実施例6で作製された試料のSEM像を示す。
【
図14】実施例6で作製された試料の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察したTEM明視野像を示す。
【
図15】実施例6で作製された試料の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察したTEM明視野像を示す。
【
図16】実施例6で作製された試料の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察したTEM暗視野像を示す。
【
図17A】実施例6で作製された試料の断面SEM像を示す。
【
図17B】実施例6で作製された試料の断面をEDXにより酸素(O)の元素分布をマッピングした結果を示す。
【
図17C】実施例6で作製された試料の断面をEDXによりシリコン(Si)の元素分布をマッピングした結果を示す。
【
図17D】実施例6で作製された試料の断面をEDXによりチタン(Ti)元素分布をマッピングした結果を示す。
【
図17E】実施例6で作製された試料の断面をEDXによりパラジウム(Pd)の元素分布をマッピングした結果を示す。
【
図17F】実施例6で作製された試料の断面をEDXにより金(Au)の元素分布をマッピングした結果を示す。
【
図18A】実施例6で作製された無電解金めっきをする前のパラジウム(Pd)電極のSEM像を示す。
【
図18B】実施例6で作製された無電解金めっきをする前のパラジウム(Pd)電極のSEM像を示す。
【
図19A】実施例6で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示す。
【
図19B】実施例6で作製されたナノギャップ電極のSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号(又は数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。
【0017】
第1の実施形態
本実施形態は、ヘテロエピタキシャル構造体の構成及び作製方法について詳細に説明する。
【0018】
1.ヘテロエピタキシャル構造体
図1は、本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体200(200a、200b、200c)の一例と、当該ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202の一例を説明する断面図を示す。
図1は、本発明の一実施形態に係る無電解金めっきにより作製されたヘテロエピタキシャル構造体200の断面を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による原子分解能の二次電子像に基づいて作成された概念図である。なお、本発明の一実施形態に係る無電解めっきについては、本実施形態及び実施例1において詳述される。
【0019】
図1は、第1金属部104と第2金属部108(108a、108b、108c)とを示す。第1金属部104は多結晶体であり、複数の結晶粒106(106a~106e)を含む。複数の結晶粒106(106a~106e)は、第1金属部104の表面に、それぞれ特定の方位に配向した結晶面を形成する。第2金属部108は、結晶粒106(106a~106e)の少なくとも一つに対応して設けられる。例えば、第2金属部108aは結晶粒106aに対応し、第2金属部108bは結晶粒106bに対応し、第2金属部108cは結晶粒106cに対応して設けられる。
【0020】
第2金属部108(108a、108b、108c)は、第1金属部104の表面にヘテロエピタキシャル成長された領域であり結晶性を有する。例えば、第2金属部108aは、第1金属部104の複数の結晶粒106a~106eの内、少なくとも一つの結晶粒106aに対応して形成され、結晶粒106aの結晶構造を維持して格子の連続性を保った状態を有する。すなわち、第2金属部108aは、結晶粒106aが特定の方位に配向しているとき、それと同じ方位に配向した結晶を含む。結晶粒106aからヘテロエピタキシャル成長された第2金属部108aは、単結晶を形成し得ることから単結晶領域と呼ぶこともできる。第2金属部108aと結晶粒106aとはヘテロエピタキシャル界面を形成する。また、第2金属部108b及び第2金属部108cについても同様であり、結晶粒106b及び結晶粒106cとそれぞれヘテロエピタキシャル界面を形成する。このように、ヘテロエピタキシャル構造体200aは、第1金属部104の結晶粒106aと第2金属部108aとを含んで構成され、ヘテロエピタキシャル構造体200bは、第1金属部104の結晶粒106bと第2金属部108bとを含んで構成され、ヘテロエピタキシャル構造体200cは、第1金属部104の結晶粒106cと第2金属部108cとを含んで構成される。
【0021】
第2金属部108は、第1金属部104の表面でナノスケールの島状構造を有する。別言すれば、第2金属部108は、断面視において山型状又は半球状の外観形状を有するともいえる。なお、本実施形態において、ナノスケールの島状構造とは後述されるように約50nm以下の大きさを有する個体を指し、外観形状が山型状又は半球状とは、球状と区別される意味で使用される。また、外観形状が山型状又は半球状とは、第2金属部108の水平方向の断面積が、結晶粒106との接触面から上端側に向かうに従い小さくなるような形状を意味する。さらに、半球状とは曲面が連続する球状表面をいうものとし、真球表面に限定されるものではない。
図1に示す点線の丸印で囲まれた領域の拡大図で示すように、第2金属部108cは、結晶粒106cの表面に対する接触角θが90度未満であり、濡れ性の高い状態でヘテロエピタキシャル成長することにより、なだらかな山型状又は半球状の突起を形成している。
【0022】
ナノスケールの島状構造を有する第2金属部108(108a、108b、108c)の大きさは、平面視において(第1金属部104を上面から見た場合において)、一端から他端までの幅が50nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下の大きさを有する。また、第2金属部108(108a、108b、108c)の第1金属部104の表面からの高さは、40nm以下、好ましくは20nm以下の大きさを有する。第2金属部108(108a、108b、108c)は、このような大きさを有し、第1金属部104の上で結晶構造を維持した状態で、離隔して設けられている。
【0023】
第2金属部108が、結晶粒106の表面でヘテロエピタキシャル成長するためには、格子が整合する必要がある。結晶粒106の格子定数と、第2金属部108の格子定数との格子不整合の割合は4%以下、好ましくは1%以下であることが望まれる。
【0024】
本実施形態において、第1金属部104を形成する好適な金属材料として白金(Pt)が例示される。また、第2金属部108を形成する好適な金属材料として金(Au)が例示される。第1金属部104として例示される白金(Pt)の格子定数は0.39231nmであり、第2金属部108として例示される金(Au)の格子定数は0.407864nmである。白金(Pt)と金(Au)、格子不整合の割合(ミスフィット率)は3.9%となるので、白金(Pt)で形成される結晶粒106の表面に金(Au)で形成される第2金属部108をヘテロエピタキシャル成長することが可能となる。例えば、結晶粒106の面方位が(111)である場合、第2金属部108も同じ面方位を有する結晶が形成される。
【0025】
さらに、第1金属部104は、第2金属部108である金(Au)に対して固溶性を有していてもよく、このような場合には、第1金属部104と第2金属部108との界面に固溶体を形成しつつ第2金属部108をヘテロエピタキシャル成長させることができる。したがって、第1金属部104としては、白金(Pt)以外にも、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)等の遷移元素を適用することができる。
【0026】
図1は、第2金属部108aと第2金属部108cとが隣接するように形成され、第2金属部108bがこれらとは離隔されて形成されている態様を示す。第2金属部108aと第2金属部108cとが隣接する部分においては、体積の大きい第2金属部108aの方が先にヘテロエピタキシャル成長が始まっていると考えられる。すなわち、結晶粒106aの部分で先に核生成が生じ、結晶粒106cの部分ではそれに遅れて核生成が生じているものと考えられる。第2金属部108aは、ヘテロエピタキシャル成長の過程で縦方向(厚さ方向)と横方向(幅方向)に成長すると考えられる。この成長過程で第2金属部108aは、結晶粒106aに隣接する結晶粒106cの領域に結晶粒間の結晶粒界を超えて広がり、第2金属部108cとの境界に結晶粒界が形成されていることが確認される。
【0027】
第2金属部108aと第2金属部108cとの間に結晶粒界が存在することは、両者がそれぞれ個別に成長したことに加え、第1金属部104の結晶粒106aと結晶粒106cとは結晶軸が異なっていることにも起因すると考えられる。そのため、ヘテロエピタキシャル成長した第2金属部108aと第2金属部108cとの間には、結晶粒106aと結晶粒106cとの結晶粒界を延長させるような結晶粒界が生じるものと考えられる。このことは多結晶体で形成された第1金属部104の表面でヘテロエピタキシャル成長が行われることを意味している。
【0028】
図1は、また、第2金属部108aと第2金属部108bとが離間して設けられた状態を示す。別言すれば、
図1は、結晶粒106dの表面にはヘテロエピタキシャル成長していない状態を示す。このことは、核生成が離散的に起こり、ヘテロエピタキシャル成長が層状に成長するのではなく、島状に成長するモードであることを示している。
【0029】
図1は、ヘテロエピタキシャル構造体200aと離間して、別のヘテロエピタキシャル構造体200bを示す。ヘテロエピタキシャル構造体200bは、第1金属部104の結晶粒106b及び第2金属部108bを含んで構成されるが、これらの構成はヘテロエピタキシャル構造体200aと同様である。
【0030】
本実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体200は、第1金属部104の上に、結晶粒106とヘテロエピタキシャル界面を形成する第2金属部108が設けられることにより、密着性を高め、接触抵抗を低減することができる。
【0031】
2.白金(Pt)\金(Au)ヘテロエピタキシャル構造体
図2A、
図2B、及び
図2Cは、第1金属部104として多結晶構造を有する白金(Pt)膜を形成し、第2金属部108として金(Au)を用いて作製されたヘテロエピタキシャル構造体を電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【0032】
図2Aは走査型透過電子顕微鏡におけるSEM観察による原子分解能の二次電子像、
図2Bは透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)観察による暗視野像、
図2CはTEMによる明視野像を示す。ここで観察された試料は、酸化シリコン(SiO
2)上に、2nmの膜厚のチタン(Ti)膜、9nmの膜厚の白金(Pt)膜が積層された上に、後述される本実施形態に係る無電解めっきで金(Au)を成長させたものである。
図2A、
図2B、及び
図2Cは、このような構造の試料を奥行き60nm程度に集束イオンビームでスライスした断面観察した結果を示す。
【0033】
図2BのTEM暗視野像と
図2CのTEM明視野像において、白金(Pt)に縞状構造が観察される。ここで観察される縞の方向は場所によって異なっており、白金(Pt)が多結晶構造を有することが確認される。
図2Aの原子分解能の二次電子像からは、白金(Pt)の領域で観察される縞状構造が、金(Au)領域にまで伸びていることが観察される。このことから、白金(Pt)膜上の金(Au)が、下地の白金(Pt)の結晶構造(縞状構造)に依拠してヘテロエピタキシャル成長していることが分かる。
【0034】
さらに、
図2BのTEM暗視野像、
図2CのTEM明視野像の透過電顕像おける縞状構造が、断面表面の様態を示すSEM二次電子像と一致していることから、金(Au)は奥行き方向にもヘテロエピタキシャル成長している。金(Au)が成長した領域は、
図1で模式的に示したように、ナノスケールの島状構造(又は、山型状若しくは半球状)に突起を形成するように成長している。金(Au)は、白金(Pt)の結晶粒の表面に広がっており、白金(Pt)膜表面と金(Au)表面とがなす角度は90度以下であることが観察される。このことから、本実施形態に係る無電解めっきで成長した金(Au)は、白金(Pt)表面で濡れた状態で、裾が広がる島状構造(又は、山型状若しくは半球状)の突起を形成していることが観察される。
【0035】
3.ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体
次に、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体について示す。ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体は、以下に節説明されるように、第1金属部、第2金属部、及び第3金属部を含んで構成される。
【0036】
3-1.ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の構成
図1は、また、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202を示す。ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、第1金属部104の上に、第2金属部108を覆うように第3金属部110が設けられた構成を有する。第2金属部108は、結晶粒106からヘテロエピタキシャル成長した領域であるので、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、第3金属部110がヘテロエピタキシャル構造体200a、200bを覆うように設けられた構造を有するとみなすこともできる。
【0037】
ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、複数のヘテロエピタキシャル構造体200を含んで構成される。ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、第1金属部104と第3金属部110との間に、離間して配置された複数の第2金属部108を含む。
図1を参照して説明したように、第2金属部108は、第1金属部104に含まれる結晶粒106に対応してヘテロエピタキシャル成長した部位であり、一つ一つが孤立した島状構造を有する。
【0038】
第3金属部110は、第2金属部108と同種又は異種の金属材料で形成される。例えば、第2金属部108が金(Au)で形成される場合、第3金属部110は同種の金属材料である金(Au)で形成することができる。また、第3金属部110は、金(Au)とは異種の金属材料として、例えば、白金(Pt)を用いて形成することもできる。さらに第3金属部は、合金(例えば金、パラジウム合金)を用いて形成することもできる。また、第3金属部110は、結晶構造を有していてもよく、非晶質構造を有していてもよい。例えば、第3金属部110は、第2金属部108を核として結晶成長した多結晶体であってもよいし、下地面とは無関係に非晶質構造を有していてもよい。
【0039】
金属膜が積層された金属積層体は、上層の金属膜と下層の金属膜との界面で生じる剥離が問題となる。ここで、第2金属部108は、第1金属部104の結晶粒106とヘテロエピタキシャル界面を形成し、第1金属部104の表面に分散して配置されるため、第3金属部110は第1金属部104と接する領域と、第2金属部108と接する領域とを有することとなる。
【0040】
第3金属部110は、第2金属部108と同種の金属材料で形成される場合、材料の親和性から高い密着性を得ることが期待できる。また、第3金属部110は、第2金属部108と異種の金属材料で形成される場合でも、第2金属部108と密着力の高い金属を選択することが可能である。仮に、第1金属部104と第3金属部110との密着性が悪い場合(密着力が小さい場合)であっても、第2金属部108と第3金属部110との密着性を高めることで、第1金属部104上に積層した第3金属部110の剥離を防止することができる。このように、第3金属部110と第2金属部108との密着性が高まるようにすることで、第3金属部110が第1金属部104から剥離することを防止し、接触抵抗を低減することができる。
【0041】
すなわち、ヘテロエピタキシャル構造体200aを構成する第2金属部108aは、結晶粒106aとヘテロエピタキシャル界面を形成するため、結晶構造の連続性が保たれた状態にあり、構造的に安定した状態にある。したがって、第3金属部110として、第2金属部108と密着性の高い金属材料を用いることで、第1金属部104に対する第3金属部110の密着性を高め、接触抵抗を低減することができる。別言すれば、第3金属部110は、第2金属部108が第3金属部110の中に突出するように設けられることでアンカー効果が発現され、第1金属部104から剥離し難くなり、接触抵抗を低減することができる。
【0042】
第1金属部104に対する第3金属部110の密着性を高めるために、第1金属部104の面内には複数の第2金属部108が分散して配置されていることが好ましい。例えば、第2金属部108は、第1金属部104の面内に、単位面積当たり50個/μm2以上、2000個/μm2以下の割合で分散して配置されていることが好ましい。また、第1金属部104の表面積に対し、第2金属部108が第1金属部104と接する合計面積の割合は、0.1(10%)以上、0.8(80%)以下であることが好ましい。このような密度で第2金属部108が第1金属部104の面内に配置されることで、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、第1金属部104と第3金属部110との密着性を高め、接触抵抗を低減することができる。
【0043】
図1に示すように、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、基板100上に設けられる。基板100と第1金属部104との間には、下地金属膜102が設けられていてもよい。下地金属膜102は必須の構成ではなく、第1金属部104と基板100との密着性を高め、接触抵抗を低減するために設けられる。第1金属部104が白金(Pt)膜で形成される場合、下地金属膜102は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等の金属材料を用いて形成されることが好ましい。基板100としては、シリコン基板(シリコンウェハー)、シリコン基板の表面に酸化物シリコン(SiO
2)膜又は窒化シリコン(Si
3N
4)膜、SOI(Silicon on Insulator)基板、サファイア基板、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板等を用いることができる。
【0044】
3-2.ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の接触抵抗
ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、ヘテロエピタキシャル構造体200a、200bを含んで第3金属部110が積層される。第3金属部110は、第1金属部104の上面の第2金属部108を覆うように設けられている。第3金属部110と第2金属部108とは、同種又は異種の金属材料で形成されるが、少なくとも第2金属部108が金(Au)で形成される場合、第3金属部110との接触抵抗は小さくなる。したがって、第1金属部104と第3金属部110とが積層された構造を含むヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202において、第2金属部108と第3金属部110との接触抵抗が、全体の接触抵抗に与える影響は低いといえる。
【0045】
一方、第3金属部110は、第1金属部104と接する界面を有する。すなわち、第1金属部104は、第2金属部108との間で形成されるヘテロエピタキシャル界面と、第3金属部110との物理的接触界面の2つの界面を含む。ヘテロエピタキシャル界面を形成する第1金属部104と第2金属部108とは、金属結合を形成するため接触抵抗は極めて低い。一方、第1金属部104と第3金属部110とは、第1金属部104を形成する白金(Pt)の表面に白金酸化物(PtO、又はPt2O)が形成されているため、金属結合を形成せず物理的に接触する構造となっている。
【0046】
第1金属部104と第3金属部110とが物理的に接触する界面は、密着性を低下させる要因ともなっている。さらに、白金(Pt)の表面を覆う白金酸化物(PtO、又はPt2O)は絶縁体であるため、第1金属部104と第3金属部110とが物理的に接触する部分の電気伝導はトンネル効果に起因するものとなる。また、第1金属部104と第3金属部110とが物理的に接触する界面の一部は、第1金属部104の白金(Pt)が露出する領域を有し、第3金属部110が金(Au)で形成される場合、白金(Pt)と金(Au)とがオーミック接触して低抵抗接触領域が形成される。
【0047】
ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202において、第1金属部104と第3金属部110とがオーミック接触している物理的接触界面と、第1金属部104と第2金属部108とで形成されるヘテロエピタキシャル界面の単位面積あたりの抵抗を比較すると、ヘテロエピタキシャル界面抵抗の方が1桁程度低くなる。また、オーミック接触している物理的接触界面の、物理的接触界面における割合は、金属積層体の作製プロセスに依存する。
【0048】
白金(Pt)\金(Au)ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202において、第1金属部104を形成する白金(Pt)膜と第2金属部108を形成する金(Au)との間の抵抗Rtは式(1)に示すように、第1金属部104(Pt膜)の抵抗R1と、上記のヘテロエピタキシャル界面における接触抵抗Rcと、第2金属部108(Au)の抵抗R2の和となる。
Rt=R1+Rc+R2 (1)
R1=ρ1d1/S
R2=ρ2d2/S Rj=ρj0/(S×a)
Rp=ρp0/(S×(1-a))
Rc=RjRp/(Rj+Rp)
ここで、ρ1:第1金属部104(Pt)の体積抵抗率(1.04×10-7Ωm)、d1:第1金属部104(Pt)の膜厚、S:金属積層体の面積、ρ2:金(Au)の体積抵抗率(2.44×10-8Ωm)、d2:第2金属部108(Au)の膜厚、ρj0:ヘテロエピタキシャル界面の単位面積当たりの抵抗(単位はΩm2)、ρp0:物理的接触界面部分の単位面積当たりの抵抗(単位はΩm2)、a:金属積層体における第1金属部104(Pt)と第2金属部108(Au)とで形成されるヘテロエピタキシャル界面の面積割合、1-a:物理接触界面の面積割合、Rj:ヘテロエピタキシャル界面の接触抵抗、Rp:物理的接触界面の接触抵抗である。なお、白金(Pt)の体積抵抗率は、金(Au)の体積抵抗率と比較して約4.3倍大きい。また、抵抗値は、膜厚に比例し、面積に反比例する。
【0049】
第2金属部108の膜厚を1μmとしたときの第2金属部の単位面積当たりの抵抗ρ2d2と、物理的接触界面部分の単位面積当たりの抵抗ρp0とヘテロエピタキシャル界面の単位面積当たりの抵抗ρj0を比較すると、ρp0>ρ2d2>ρj0となる。オーミック接触している物理的接触界面の、物理的接触界面における割合は、金属積層体の作製プロセスに依存するが、ρp0は、ρ2d2の2倍~100倍程度の値(膜厚1μm)となる。また、ρj0は、ρ2d2の0.1倍以下となる。
【0050】
接触抵抗R
cは、ヘテロエピタキシャル界面の接触抵抗R
jと、物理的接触界面の接触抵抗R
pとの並列接続となるため、接触抵抗R
cを低減するには、ヘテロエピタキシャル界面の面積割合a(0≦a<1)を大きくすることが好ましい。
図3は、ρ
p0=10ρ
2d
2、ρ
j0=0.1ρ
2d
2を仮定した際の、ρ
2d
2で規格化した接触抵抗R
cの、ヘテロエピタキシャル界面の面積割合a依存性を示すグラフである。ヘテロエピタキシャル界面の割合aが0から増えると、急激に接触抵抗が低下し、a=0.08(8%)程度でρ
2d
2と同等まで下がり、さらにaの値が増加すると、ρ
j0(=0.1ρ
2d
2)に向かって接触抵抗は徐々に減少する。このように、接触抵抗は、ヘテロエピタキシャル界面の面積割合aに対して減少する傾向があるため、aの値は、好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.5以上であることが望ましい。
【0051】
4.ヘテロエピタキシャル構造体の作製方法
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体は、無電解めっきを用いて作製される。以下に、その作製方法について詳細に説明する。
【0052】
第1金属部104の表面に分散して設けられる第2金属部108は、無電解めっきにより形成することができる。第1金属部104として白金(Pt)が用いられるとき、無電解金めっきにより第2金属部108を形成することができる。なお、これまでに無電解金めっきによって、白金(Pt)表面に金(Au)をヘテロエピタキシャル成長させた例は報告されていない。非特許文献1は、電解めっきで白金(Pt)の上に金(Au)を成長させる技術を開示するが、金(Au)は白金(Pt)上で層状に成長しており、本実施形態で示す第2金属部108のようにヘテロエピタキシャル構造が分散して配置された構造は確認されていない。
【0053】
本実施形態で示されるヘテロエピタキシャル構造体200を考察すると、ナノスケールの曲率半径を有する金(Au)を白金(Pt)の表面にヘテロエピタキシャル成長させた場合、金(Au)の表面には曲率半径の逆数に比例した非常に大きな表面張力が生じると考えられる。本実施形態に係る無電解金めっきは、白金(Pt)表面に形成された白金酸化物(PtO)を還元して白金(Pt)表面を形成すると共に、この大きな表面張力の存在下で金イオン(Au+、Au3+)が電気化学的置換反応(Surface Limited Redox Replacement:SLRR)により還元され、ヘテロエピタキシャル成長するものと考えられる。すなわち、白金(Pt)膜の表面では、式(2)で示すように、白金酸化物(PtO)の還元反応が生じていると考えられる。
PtO+2H++2e-→ Pt+H2O (2)
そして、還元された白金(Pt)表面に金(Au)が成長する過程は、式(3)のように白金(Pt)と金(Au)の電気化学的置換反応で示すことができる。
Pt+2Au++H2O → PtO+2Au+2H+ (3)
このような、白金(Pt)上に金(Au)をヘテロエピタキシャル成長させることのできる無電解金めっきの詳細について以下に説明する。
【0054】
4-1.第1金属部の作製
図1を参照して説明したように、第1金属部104は、基板100上に作製される。基板100と第1金属部104との間には、下地金属膜102が設けられていてもよい。第1金属部104及び下地金属膜102は、スパッタリング法、電子線蒸着法、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法、気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により作製することができる。
【0055】
基板100として、例えば、表面に酸化シリコン膜が形成されたシリコンウエハが用いられる。第1金属部104は、スパッタリング法により、多結晶構造を有する白金(Pt)膜が、5nm~20nmの厚さで形成される。基板100と第1金属部104との間には、下地金属膜102として、2nm~10nmのチタン(Ti)膜が形成されてもよい。
【0056】
4-2.無電解金めっき液
無電解めっきは、下地金属の溶解に伴って遊離する電子によって、無電解めっき液中の金属イオンが還元されて電極上に析出する置換型と、還元剤が電極上で酸化され、遊離した電子により金属イオンが還元されて金属被膜として析出する自己触媒型とに分類される。
【0057】
本実施形態に用いられる無電解金めっき液は自己触媒型に分類され、金イオン(Au+、Au3+)、酸化剤としてのハロゲン元素のイオン、還元剤を含む溶液が用いられる。無電解金めっきにより、白金(Pt)上に金(Au)をヘテロエピタキシャル成長させるためには、白金(Pt)表面に存在する白金酸化物(PtO)を還元する必要がある。本実施形態では、この還元作用を発現するためにハロゲン元素のイオンと還元剤の組み合わせとして、適切なものを選択している。さらに、還元剤を過剰に含ませることにより還元反応に律速されて金(Au)が析出するようにしている。さらに、このような無電解金めっき液を多量の純水で希釈して金(Au)の還元速度を制御し、無電解めっき液中で金(Au)粒子が析出しないように制御している。
【0058】
具体的に本実施形態は、金(Au)を溶解させたヨードチンキと、還元剤として用いられるL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)とを組み合わせた無電解金めっき液を用いている。このような無電解金めっき液により、白金(Pt)の結晶表面上への金(Au)のヘテロエピタキシャル成長を可能としている。無電解金めっき液は、ヨードチンキ由来のヨウ素イオン(I-、I3
-)とL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)とを含むことで、白金酸化物(PtO又はPtO2)の還元反応を生じさせていると考えられる。
【0059】
4-3.無電解金めっきの方法
無電解めっきは、第1金属部104としての白金(Pt)膜を無電解金めっき液に浸漬させることにより行われる。第1金属部104としての白金(Pt)膜を無電解金めっき液に浸漬させると、白金(Pt)膜の結晶粒の表面に優先的に核生成され、金イオン(Au+、Au3+)から還元された金(Au)が成長する。無電解金めっき液は、前述のように純水で100倍、好ましくは500倍以上、さらに好ましくは1000倍以上に希釈されたものが用いられる。また、無電解めっき液は、還元剤が過剰に含まれている。
【0060】
本実施形態に係る無電解金めっき液は、希釈前の溶液で還元剤を過剰にいれているため、金(Au)イオンは、3価の金イオン(Au3+)から1価の金イオン(Au+)に還元されている。
【0061】
1価の金イオン(Au+)から金(Au)への、あるいは3価の金イオン(Au3+)から1価の金イオン(Au+)への還元電位(標準水素電極を基準、25℃、105Pa)は、
Au++e-→ Au:1.82V
Au3++2e-→ Au+:1.41V
Au3++3e-→ Au:1.52V
である。
【0062】
また、白金イオン(Pt)から白金(Pt)への還元電位は、
Pt2++2e-→ Pt:1.188V
である。
【0063】
3価の金イオン(Au3+)から1価の金イオン(Au+)に還元されると、金(Au)への還元電位は高くなり、1価の金イオン(Au+)は、3価の金イオン(Au3+)と比較すると還元されにくくなっている。純水による希釈により、純水に溶けにくいヨウ素(I2)は、溶けやすいヨウ素イオン(I-、I3
-)に平衡が移り、ヨウ素に対するヨウ素イオンの割合が高くなる。ヨウ素イオンは、金(Au)をエッチングする作用があるため、過剰に入れた還元剤は、エッチングを抑える効果がある。白金イオン(Pt2+)の還元電位(1.188V)と比較して、3価の金イオン(Au3+)及び1価の金イオン(Au+)の還元電位はそれぞれ1.52V、1.82Vと高くなっており、還元されにくい。過剰な還元剤は、白金と金の電気化学的置換反応を、その還元作用により促進するために有効である。
【0064】
また、本実施形態に係る無電解金めっき液は、純水で100倍以上、好ましくは500倍以上に希釈されることにより、第1金属部104の白金膜上で金はヘテロエピタキシャル成長しつつ第2金属部108を形成する。希釈する割合が小さいと、無電解金めっきの成長速度が速くなり、ヘテロエピタキシャル成長ができなくなり、めっき浴中で核が生成して金ナノ粒子として成長し、その金ナノ粒子が、第1金属部の白金膜表面に物理吸着する可能性が高くなり好ましく無い。1000倍希釈時には、第1金属部104の白金膜上で金はヘテロエピタキシャル成長しつつ第2金属部108を形成することを可能とするめっき速度が得られる。本めっきでは、上記のように希釈の倍率で、めっきの成長速度を制御するため、純水の希釈割合は重要である。
【0065】
無電解めっき液に浸漬された第1金属部104としての白金(Pt)膜は、前述のように表面に金(Au)をヘテロエピタキシャル成長させつつ、無電解金めっき液中では金イオン(Au+、Au3+)が還元され析出しそれが第1金属部104の表面に沈積する前に無電解めっき液から取り出される。このような処理を少なくとも1回、好ましく複数回繰り返すことで、第2金属部108としての金(Au)の領域を形成する。浸漬時間は、無電解金めっき液の濃度、温度によって適宜設定される。例えば、第1金属部104を無電解金めっき液に浸漬させる1回当たりの時間は、3秒~30秒、例えば10秒間となるように制御される。
【0066】
具体的に、金(Au)を溶解させたヨードチンキと、還元剤として用いられるL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)とを組み合わせた無電解金めっき液は、白金(Pt)膜の表面に形成された白金酸化物(PtO)を、ヨードチンキ由来のI3
-イオンと還元剤(ここではアスコルビン酸を使用)の組み合わせにより発現される還元反応により白金を還元し、電気化学的置換反応(SLRR)により、金イオン(Au+、Au3+)が還元され、白金(Pt)が白金酸化物(PtO)に酸化されることにより、金(Au)を白金(Pt)表面でヘテロエピタキシャル成長することが可能な状態を生じさせている。
【0067】
白金(Pt)の結晶粒の表面に付着した金(Au)原子は、レイリー不安定性により表面自己拡散し、エネルギーの安定な曲率半径の大きい球形になろうとする。また、金(Au)原子は堆積した表面でマイグレーションし、エネルギー的に安定な結晶状態を形成する。それにより、白金(Pt)の結晶粒の表面に、ナノスケールの島状構造(又は、山型状若しくは半球状)を有する金(Au)の単結晶領域が形成される。
【0068】
4-4.無電解めっきの前処理
無電解めっきを行う前に、酸化された状態にある第1金属部104の表面を、還元処理をする前処理が行われてもよい。前処理としては、酸化剤と還元剤を含む前処理液が用いられる。具体的には、酸化剤としてヨードチンキ由来のヨウ素イオン(I-、I3
-)を用い、還元剤としてL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)との組み合わせたものが用いられる。前処理は、このような前処理液の中に第1金属部104を浸漬することで行われる。この前処理により、第1金属部104の表面に形成された白金酸化物(PtO)が還元され、白金(Pt)の表面を形成することができ、無電解めっき処理において核生成密度を高めることが可能となる。
【0069】
5.ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体の作製
図1に示すように、第1金属部104の表面に形成された第2金属部108を覆うように第3金属部110を形成することで、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202が作製される。第3金属部110は、無電解めっき、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法などで形成される。例えば、本実施形態に係る無電解めっき液とは異なる無電解めっき液を用いて第3金属部110を0.1μm~20μmの厚さに形成する。このような第3金属部110を設けることで、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202を得ることができる。
【0070】
ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202は、第1金属部104の表面にヘテロエピタキシャル成長した第2金属部108を含むことにより、第1金属部104と第3金属部110との密着性を高くすることが出来るので、剥離を防止し、接触抵抗を低減することができる。
【0071】
第2の実施形態
本実施形態は、ヘテロエピタキシャル界面を有するナノギャップ電極の一例を示す。なお、ナノギャップ電極とは、特段の断りがない限り、一対の電極間に間隙部(ギャップ)を有し、間隙部の間隙の長さ(ギャップ長)が10nm以下、好ましくは5nm以下の長さを有するものをいう。
【0072】
図8Aは本実施形態に係るナノギャップ電極204aの平面図を示す。ナノギャップ電極204aは、第1電極112aの一端と第2電極114aの一端とが間隙をもって対向して配置される。第1電極112a及び第2電極114aは、平面視において幅20nm以下、好ましくは10nm以下の線状のパターンを有する部位を含む。第1電極112a及び第2電極114aそれぞれの線状パターンの先端部分は対向して配置され、10nm以下、好ましくは5nm以下の間隙を有する。
【0073】
図8Aに示すA1-B1線に対応する断面構造を、
図8Bに示す。第1電極112aは第1金属部104と第2金属部108dを含み、第2電極114aは第1金属部104と第2金属部108eを含む。第1の実施形態と同様に、第1金属部104と第2金属部108d、108eとは異なる金属材料が用いられる。第1金属部104は多結晶構造を有し複数の結晶粒106を含む。
図8Bは、第1電極112aの第1金属部104に複数の結晶粒106d1、106d2、106d3が含まれる態様を模式的に示す。複数の結晶粒106d1、106d2、106d3は、第1金属部104の表面に、それぞれ特定の方位に配向した結晶面を形成する。
【0074】
第2金属部108d、108eは、第1の実施形態と同様に、無電解めっきにより形成される。無電解めっきで形成される第2金属部108d、108eは、第1金属部104上において孤立した一つの領域とみなせるナノスケールの島状構造を有する。別言すれば、第2金属部108d、108eは、断面視において山型状又は半球状の外観形状を有するともいえる。ナノスケールの島状構造を有する第2金属部108d、108eの大きさは、平面視において(第1金属部104を上面から見た場合において)、一端から他端までの幅が50nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下の大きさを有する。第2金属部108d、108eは、このような大きさを有し、第1金属部104の上で結晶構造を維持した状態で、離隔して設けられている。
【0075】
図8Bに示すように、第2金属部108dは、結晶領域108d1、108d2、108d3を含む。結晶領域108d1、108d2、108d3は、無電解めっきにより結晶粒106d1、106d2、106d3の上にヘテロエピタキシャル成長した領域である。結晶領域108d1が結晶粒106d1と、結晶領域108d2が結晶粒106d2と、結晶領域108d3が結晶粒106d3と、それぞれヘテロエピタキシャル界面を形成する。別言すれば、第1電極112aは、結晶領域108d1と結晶粒106d1とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200d1、結晶領域108d2と結晶粒106d2とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200d2、結晶領域108d3と結晶粒106d3とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200d3、を含む。
【0076】
第1金属部104結晶粒106d1、106d2、106d3は、結晶方位が必ずしも一致せず異なっている。そのため第2金属部108dの結晶領域108d1、108d2、108d3のそれぞれも結晶方位が異なっている。無電解めっきの初期段階において、核生成確率が高いことにより、結晶粒106d1、106d2、106d3のそれぞれに対応してヘテロエピタキシャル成長した結晶領域108d1、108d2、108d3は、隣接する結晶方位の異なる結晶領域と結晶粒界を形成しつつ一体化する。これにより、複数の結晶領域を含む第2金属部108dが形成される。第2金属部108dは、無電解めっきにより、曲率半径をできる限り大きくして、表面張力が小さくなるようにし、エネルギー的に安定な構造を取りつつ成長するため、ヘテロエピタキシャル構造を含みつつも、表面は半球状のなだらかな形状を有する。
【0077】
以上においては、第1電極112aについて説明したが、第2電極114aについても同様である。なお、第1の実施形態と同様に、第1金属部104としては白金(Pt)が用いられ、第2金属部108d、108eとしては金(Au)が用いられることが好ましい。また、第1金属部104と基板100との間には、下地金属膜102としてチタン(Ti)膜が設けられていてもよい。
【0078】
ナノギャップ電極204aは、第1金属部104で形成される線状パターンの先端部分に、少なくとも第2金属部108d、108eが設けられた構造を有する。線状パターンの幅を細線化することで、第1電極112aの第2金属部108dと、第2電極114aの第2金属部108eとは、線状パターンの中心線上で相対するように配置することができる。
【0079】
第1電極112aの第2金属部108dと、第2電極114aの第2金属部108eは、無電解めっきにより成長し大きくなるが、両者の間隔が狭まるとヘルムホルツ層(電極表面に吸着した溶媒や溶質分子、溶質イオンの層)が形成され、無電解めっき液中の金属イオンが間隙の中に入っていけない状態となる。これにより、第2金属部108dと第2金属部108eの相対する領域のめっき成長が停止する。このように、本実施形態では、無電解めっきで発現される自己停止機能を利用することで、ナノギャップ電極204aのギャップ間隔を精密に制御することができる。
【0080】
無電解めっきの自己停止機能により制御されるギャップ長は、第2金属部108dと第2金属部108eの相対する領域の曲率半径が小さいほど狭くなる傾向がある。曲率半径が10nm程度では3nmに制御でき、5nm程度では、1nm以下の例えば0.7nmのギャップ長に制御することができる。
【0081】
下地金属膜102は、積層構造の場合は必須の構成ではなく、第1金属部104と基板100との密着性を高め、接触抵抗を低減するために設けられる。一方、線状パターンの場合は、一端から他端までの幅が20nm以下となると、曲率半径の逆数に比例する表面張力により第1金属部104に下地金属膜102の一部が拡散して、第1金属部多結晶の粒界に存在する場合がある。さらに複数の結晶領域を含む第2金属部108dの結晶境界にも拡散する場合がある。この下地金属膜102の拡散による複数の結晶界面への偏斥により、第2金属部108dの安定性は向上する。このような下地金属膜102の拡散は、加熱処理を施さない限り積層膜構造では観察されない。
【0082】
本実施形態によれば、第1金属部の上にヘテロエピタキシャル界面を形成する第2金属部を無電解めっきにより成長させることで、ナノスケールのギャップ長を有するナノギャップ電極を得ることができる。この場合において、線状パターンの線幅を細くすることで、ギャップを形成する両電極先端の第2金属部同士の位置が同一軸上になる確率を高くして、ナノギャップの間隔を精密に制御することができる。
【0083】
第3の実施形態
本実施形態は、ヘテロエピタキシャル構造を有するナノギャップ電極において、第2の実施形態と第2金属部の形態が異なる一例を示す。
【0084】
図9Aは本実施形態に係るナノギャップ電極204bの平面図を示す。ナノギャップ電極204bは、第1電極112bの一端と第2電極114bの一端とが間隙をもって対向して配置される。第1電極112b及び第2電極114bは、平面視において幅20nm以下、好ましくは10nm以下の線状のパターンを有する部位を含む。第1電極112b及び第2電極114bそれぞれの線状パターンの先端部分は対向して配置され、10nm以下、好ましくは5nm以下の間隙が設けられている。
【0085】
図9Aに示すA2-B2線に対応する断面構造を、
図9Bに示す。第1電極112bは、第1金属部104と第2金属部108fとを含み、第2電極114bは第1金属部104と第2金属部108gとを含む。第1金属部104と、第2金属部108f及び第2金属部108gとは異なる金属材料が用いられる。第1金属部104は多結晶構造を有し、複数の結晶粒106を含む。
図9Aは、第1電極112bに結晶粒106f1、106f2、106f3、106f4が含まれる態様を示す。複数の結晶粒106は、第1金属部104の表面に、それぞれ特定の方位に配向した結晶面を形成する。
【0086】
第1金属部104は、アモルファス領域107を含む。無電解めっきでは、アモルファス領域107においても核生成が起こる。第1金属部104のアモルファス領域107上には、第2金属部108のアモルファス領域109が生成される。アモルファス領域109を形成する第2金属部108の金属原子は、アモルファス領域107を形成する第1金属部104の金属原子と金属結合を形成する。また、第1金属部104の上に第2金属部108がヘテロエピタキシャル成長する場合、成長の途中で格子歪みなどによりアモルファス状に成長が続く領域も含まれ得る。このように、第2金属部108は、ヘテロエピタキシャル成長した結晶方位の異なる複数の結晶領域108f1、108f2、108f3、108f4を含み、さらにアモルファス領域を含む。
【0087】
第1金属部104結晶粒106f1、106f2、106f3、106f4は、結晶方位が必ずしも一致せず異なっている。そのため第2金属部108fの結晶領域108f1、108f2、108f3、108f4のそれぞれも結晶方位が異なっている。第1金属部104の線状パターンの幅Wが15nm以下、好ましくは10nm以下になると、その形状に起因して第1金属部104とめっき液の界面における電界集中が起きて核生成確率が高くなる。そのため、無電解めっきにより形成される第2金属部108fは、第1金属部104の表面を連続的に覆うように形成される。結晶粒106f1、106f2、106f3、106f4のそれぞれに対応してヘテロエピタキシャル成長した結晶領域108f1、108f2、108f3、108f4は、隣接する結晶方位の異なる結晶領域と結晶粒界を形成し、さらにアモルファス領域109を含んで一体化する。第2金属部108fは、無電解めっきによりロッド形状に成長する過程で、曲率半径を可能な限り大きくし、エネルギー的に安定な構造を取ろうとするため、表面はなだらかな形状となる。
【0088】
第2金属部108f、108gは無電解めっきにより、第1金属部104とヘテロエピタキシャル界面を形成しつつ成長する。例えば、第1電極112bの第2金属部108fは、第1金属部104に含まれる複数の結晶粒106f1、106f2、106f3、106f4に対応してヘテロエピタキシャル成長した結晶領域108f1、108f2、108f3、108f4を含む。別言すれば、第1電極112bは、結晶領域108f1と結晶粒106f1とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200f1、結晶領域108f2と結晶粒106f2とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200f2、結晶領域108f3と結晶粒106f3とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200f3、結晶領域108f4と結晶粒106f4とで形成されるヘテロエピタキシャル構造体200f4、を含む。
【0089】
第1金属部104の上に成長する第2金属部108f、108gは、無電解めっきの自己停止機能により、一対の線状パターンの先端部分に5nm以下のギャップを形成する。第1電極112b及び第2電極114bは、第1金属部104の表面に第2金属部108が連続的に覆うように形成されるので、線状パターンの中心線上において5nm以下のギャップを形成する。この場合、第1金属部104の表面に連続的に第2金属部108f、108gが覆うので、第1電極112b及び第2電極114bの線状パターンの先端部分が対向する部分(線状パターンの中心線上)に、ナノギャップを形成することができる。
【0090】
なお、第2の実施形態と同様に、第1金属部104としては白金(Pt)が用いられ、第2金属部108f、108gとしては金(Au)が用いられることが好ましい。また、第1金属部104と基板100との間には、下地金属膜102としてチタン(Ti)膜が設けられていてもよい。上記では、第1電極112bについて説明するが、このような構造は第2電極114bについても同様である。
【0091】
本実施形態によれば、第1金属部104の表面を第2金属部108f、108gが連続的に覆う構造とすることで、ナノギャップ電極204bのギャップ間隔の微細化を図ることができ、またナノギャップが形成される位置を精密に制御することができる。
【実施例1】
【0092】
6.白金(Pt)\金(Au)ヘテロエピタキシャル構造体の作製例
本実施例は、白金(Pt)表面における還元反応(PtO→Pt)が、ヨードチンキ由来のヨウ素イオン(I-、I3
-)と還元剤(L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6))との組み合わせに起因することを確かめる比較実験をおこなった結果を示す。本実施例は、以下に示す3種類の前処理液A、B、Cを用い、無電解金めっき前に前処理を行い、作製された3種類の試料の評価を行った結果を示す。
【0093】
6-1.前処理液の作成
3種類の前処理液A、B、Cを作製した。以下に、前処理液A、B、Cの内容とその作製方法を示す。
前処理液A:ヨードチンキ+アスコルビン酸
前処理液B:ヨードチンキのみ
前処理液C:エタノール+アスコルビン酸
【0094】
(1)前処理液A
(a)3mLのヨードチンキを容器Aに入れ、L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を1.2g加え、容器Aを振って両者をかき混ぜる。そして、85℃、30秒程度の湯煎を行う。その後、超音波洗浄器を用いて約30秒程度撹拌する。さらに、85℃、30秒程度の湯煎を行う。
(b)湯煎の後、容器Aを遮光した状態で約1.5時間静置する。
(c)容器BにL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を0.6g入れ、容器Aから上澄み液2mLを取出し、容器Bに加える。
(d)容器Bを振って投入したアスコルビン酸と上澄み液をかき混ぜ、85℃の湯煎を30秒程度行う。その後、超音波洗浄機を用いて壁面のアスコルビン酸を溶液中に落とし、再び85℃、30秒程度の湯煎を行う。
(e)容器Bを遮光した状態で30分程度静置する。
【0095】
(2)前処理液B
(a)3mLのヨードチンキをアセトンとエタノールで洗浄した容器Cに入れ、85℃、30秒程度の湯煎を行う。その後、超音波洗浄器を用いて約30秒程度撹拌する。再び、85℃で30秒程の湯煎を行う。
(b)容器Cを遮光して、約1.5時間静置させる。
(c)静置後、容器Cの上澄み液を2mL取出し、空の容器Dに注入する。
(d)容器Dに取り出された溶液に対し、85℃、30秒程度の湯煎を行う。その後、超音波洗浄機を用いて攪拌し、再び85℃、30秒程度の湯煎を行う。
(e)容器Dを遮光した状態で30分程度静置する。
【0096】
(3)前処理液C
(a)3mLのエタノールを容器Eに入れ、L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を1.2g加え、容器Eを振って両者をかき混ぜる。そして、85℃、30秒程度の湯煎を行う。その後、超音波洗浄器を用いて約30秒程度撹拌する。さらに、85℃、30秒程度の湯煎を行う。
(b)湯煎の後、容器Aを遮光した状態で約1.5時間静置する。
(c)容器FにL(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を0.6g入れ、容器Eから上澄み液2mLを取出し、容器Bに加える。
(d)容器Fを振って投入したアスコルビン酸と上澄み液をかき混ぜ、85℃の湯煎を30秒程度行う。その後、超音波洗浄機を用いて壁面のアスコルビン酸を溶液中に落とし、再び85℃、30秒程度の湯煎を行う。
(e)容器Fを遮光した状態で30分程度静置する。
【0097】
6-2.無電解金めっき液の作製
無電解金めっき液の作製方法を示す。
(a)金箔を容器Gに入れ、3mLのヨードチンキを加えてシェイクする。その後、超音波洗浄器を用いて3時間程度溶液を撹拌する。
(b)容器Gに、L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を1.2g加える。その後、容器Gを振って溶液を攪拌し、85℃、30秒程度湯煎する。この湯煎の際に、溶液の色が濃青紫色から黄金色に代わることを確認する。溶液の色の変化が、金イオン(Au+、Au3+)が生成されていることを示している。
(c)その後、超音波洗浄器を用いて撹拌する。容器Gの壁面に付いたアスコルビン酸が溶液に中に落ちるまで行う(約30秒程度)。その後、再び85℃で30秒程度の湯煎を行う。
(d)容器Gを遮光した状態で約1.5時間静置させる。
(e)静置後、容器Hに、L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)を0.6g投入し、そこへ容器Gの上澄み液を2mL取り出して加える。この際、容器Gには金箔の残骸が残っているが、これは無電解金めっき処理の段階でクラスターを生成する要因となるため、取り出す上澄み液に混入しないように留意する。
(f)容器Hを振って投入したアスコルビン酸と上澄み液をかき混ぜ、85℃の湯煎を30秒程度行う。この湯煎の際に、溶液の色が、黄金色から透明がかった黄色に変わることを確認する。湯煎後は、再び超音波洗浄機を用いて攪拌し、壁面のアスコルビン酸を溶液中に落とし、再び85℃の湯煎を30秒程度行う。
(g)容器Hを遮光した状態で30分間静置する。
【0098】
6-3.試料の作製
酸化シリコン(SiO2)の被膜が形成されたシリコンウエハに、2nmの膜厚のチタン(Ti)膜、9nmの膜厚の白金(Pt)膜をスパッタリング法で作製した。
【0099】
6-4.無電解金めっき前の洗浄処理
無電解金めっき処理の前に、白金(Pt)の被膜が形成された試料の洗浄を行う。洗浄処理は以下のように行う。
(a)アセトンボイル(50℃、2分×2回)、エタノールボイル(70℃、2分×2回)。その後、窒素ブローで試料を乾燥させる。
(b)乾燥後の試料に、5分程度の酸素プラズマ処理を行う。この処理は、酸素ラジカルの作用により、試料表面に付着した有機物を除去することを目的としている。
(c)上記(a)と(b)の処理を繰り返す。
(d)上記(a)の洗浄を行った後、UVオゾン処理を行う。
【0100】
酸素プラズマ処理、及びUVオゾン処理により、白金(Pt)表面には部分的に白金酸化物(PtO、PtO2)が形成されると考えられる。
【0101】
6-5.無電解金めっき処理
以下に無電解金めっき処理の手順を示す。
(a)洗浄された容器Iに、超純水8mLを入れ、8μLの前処理液(A、B、又はC)を加え、5秒程度攪拌する。その後、試料を10秒間浸漬させる。
(b)容器Iから試料を取出し、超純水で5秒間リンスし、アセトンボイル(2分)、エタノールボイル(2分)を行う。その後、窒素ブローで試料を乾燥させる。
(c)容器Jに8mLの超純水を入れ、8μLの無電解金めっき液を加え、5秒程度攪拌した後、試料を10秒間浸漬させる。
(d)容器Jから試料を取出し、超純水で5秒間リンスし、アセトンボイル(2分)、エタノールボイル(2分)を行う。その後、窒素ブローで試料を乾燥させる。
(e)その後、上記(c)、(d)の処理を1セットとし、無電解金めっき液に浸漬す
る累積時間が目標値に到達するまで繰り返す。
【0102】
以上のようにして無電解金めっき処理が行われる。なお、前処理を省略する場合は、上記(a)、(b)の処理が除かれる。
【0103】
6-6.実験結果
以下に示す作製条件(I)~(IV)により4種類の試料を作製した。作製条件(I)~(IV)は、無電解めっき処理の条件を共通とし、前処理の有無、及び前処理液の種類が適宜設定されている。
(I)無電解金めっき処理10秒×3回(前処理無し)
(II)前処理液Aへの浸漬10秒+無電解金めっき処理10秒×3回
(III)前処理液Bへの浸漬10秒+無電解金めっき処理10秒×3回
(IV)前処理液Cへの浸漬10秒+無電解金めっき処理10秒×3回
【0104】
各条件で作製された試料の表面状態を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図4A、
図4B、
図4C、及び
図4Dに各試料の表面状態を観察したSEM像を示す。ここで、
図4Aは作製条件(I)で作製された試料であり、4Bは作製条件(II)で作製された試料であり、4Cは作製条件(III)で作製された試料であり、4Dは作製条件(IV)で作製された試料である。
【0105】
図4A、
図4B、
図4C、及び
図4Dに示す各SEM像には、白金(Pt)表面の上に複数の金(Au)の塊が離散して形成されている状態が観察される。しかし、その状態は、前処理の有無、及び前処理液の種類によって差異があることが観察される。
【0106】
図4Aの前処理無しの試料と、
図4Bの前処理液Aで処理された試料とを比較すると、前処理を行わなかった場合に比べ、前処理液Aを用いて前処理を行った方が、金(Au)の核生成密度が高いことが観察される。また、生成される金(Au)の塊は、前処理Aで処理を行った方が小さくなる傾向が観察される。
【0107】
図4Aの前処理無しの試料と、
図4Cの前処理液Bで処理された試料とを比較すると、前処理無しの試料と前処理液Bで前処理を行った試料の、金(Au)の核生成密度は同程度であることが観察される。また、生成される金(Au)の塊の大きさも同程度であることが観察される。
【0108】
図4Aの前処理無しの試料と、
図4Dの前処理液Cで処理された試料とを比較すると、前処理液Cで前処理を行った試料は、前処理無しの試料に比べて金(Au)の核生成密度が低いことが観察される。前処理液Cで作製された試料は、他のどの条件で作製された試料よりも核生成密度が低く、生成された金(Au)の塊の大きさが大きいことが観察される。
【0109】
図4Aの前処理無しで作製された試料の単位面積当たりの金(Au)の塊の密度は、40個/μm
2であり、
図4Bの前処理液Aで作製された試料の単位面積当たりの金(Au)の塊の密度は、80個/μm
2であり、
図4Cの前処理液Bで作製された試料の単位面積当たりの金(Au)の塊の密度は、20個/μm
2であり、
図4Dの前処理液Cで作製された試料の単位面積当たりの金(Au)の塊の密度は、20個/μm
2である。また、金の塊部分がヘテロエピタキシャル成長しているものとして、ヘテロエピタキシャル接合部分の、全面積に対する面積割合を見積もると、
図4Aの前処理無しで作製された試料の面積割合は0.1(10%)であり、
図4Bの前処理液Aで作製された試料の面積割合は、0.2(20%)であり、
図4Cの前処理液Bで作製された試料の面積割合は、0.05(5%)であり、
図4Dの前処理液Cで作製された試料の面積割合は、0.01(1%)である。これらの値より、
図4Bの前処理液Aで処理された試料は、他の条件で作製された試料と比べ、白金(Pt)上でヘテロエピタキシャル成長した金(Au)が占める割合が大きいことがわかる。これらの結果より、前処理液Aで処理された試料の上に、第3金属部として金属膜を形成した場合の接触抵抗は、他の条件で処理された試料の場合と比べて、半分以下にすることができる。
【0110】
これらの結果より、前処理液Aで前処理を行うと、白金(Pt)表面で金(Au)の核成長が促進され、めっきが進行しやすいことが分かる。このことは、白金(Pt)表面で白金酸化物(PtO等)が還元されやすい状態にあると考えられる。前処理液Aには、ヨードチンキ由来のヨウ素イオン(I-、I3
-)と、還元剤(L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6))の組み合わせが存在する。この組み合わせにより、白金(Pt)表面の白金酸化物(PtO)が、白金(Pt)に還元され、電気化学的置換反応(SLRR)により、金イオン(Au+、Au3+)が還元され、白金(Pt)表面で成長し、他の領域の白金(Pt)が酸化して白金酸化物(PtO)を生じさせるものと考えられる。無電解金めっきを行う前の白金(Pt)表面には、白金酸化物(PtO)が存在しており、ヨウ素イオン(I3
-)と還元剤との組み合わせは、白金酸化物の還元反応(PtO→Pt)を促進すると考えられる。
【0111】
ヨウ素イオン(I3
-)は酸化剤であり、L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6)は還元剤であるため、本実施例における無電解金めっき液には酸化と還元の相反する反応を進める材料が共存していることになる。2価の白金イオン(Pt2+)は四配位平面型、4価の白金イオン(Pt4+)は六配位八面構造を形成し、ヨウ素イオン(I-)は配位子となる。白金(Pt)膜表面に形成された白金酸化物(PtO)の近傍に、酸化力の強いヨウ素イオン(I3
-)が近づくと、酸素イオン(O2-)とヨウ素イオン(I-)が置換されると考えられる。白金(Pt)表面で、ヨウ素イオン(I-)が配位した白金イオン(Pt2+)は、還元剤(L(+)-アスコルビン酸(C6H8O6))により還元されて白金(Pt)となり、金イオン(Au+、Au3+)が電気化学的置換反応(SLRR)により還元される白金(Pt)表面を生成すると考えられる。
【0112】
ここで、
図5は、無電解金めっき処理を10回繰り返したときの、試料の表面SEM像を示す。
図5に示す結果より、金(Au)の塊は、単純に径が大きくなるのではなく、核生成密度が増加していることが分かる。本実施例の無電解金めっき液には、酸化剤としてのヨウ素イオン(I
-、I
3
-)及び還元剤と共に、金イオン(Au
+、Au
3+)が含まれている。
図5に示す結果は、白金(Pt)表面の白金酸化物(PtO)を還元して白金(Pt)表面を形成しつつ、金めっきが同時に進行することを示している。
【0113】
図5を詳細に観察すると、金(Au)の塊の大きさにばらつきがあることが確認される。これは、無電解金めっき処理が断続的に行われたことによるものと推察される。すなわち、試料を無電解金めっき液に浸漬する毎に、新たに核成長する反応と、すでに形成された金の塊がさらに成長する反応とが混在することにより、大きさの異なる金の塊が生成されるものと推察される。
【0114】
図5における単位面積当たりの金の塊の個数は、1000個/μm
2である。また、金の塊部分がヘテロエピタキシャル成長しているものとして、ヘテロエピタキシャル接合部分の、全面積に対する面積割合を見積もると、0.5(50%)となる。この値より、この上に第3金属部として金属膜を形成したときに見込まれる接触抵抗Rcは、当該金属膜の抵抗と比較して十分に小さい値となる。
【0115】
本実施例によれば、前処理液A(ヨードチンキ+還元剤)を用いて前処理を行うと、白金(Pt)表面で無電解金めっきが進行しやすくなることが示される。なお本実施例では、ヨードチンキ(ヨウ素とヨウ化カリウムをエタノールに溶かした液体)を用いた例を一例として示すが、本発明はこれに限定されず、ヨードチンキと同じ成分を有する溶液であれば他のものに代替してもよい。例えば、エタノールを溶媒として、100mL中に6gのヨウ素(I)とヨウ化カリウム(KI)を添加した溶液を用いてもよい。
【0116】
本実施形態において、作製条件(I)、(II)で作製された試料は、
図1で説明したように、白金(Pt)の結晶粒の表面に金(Au)がヘテロエピタキシャル成長している。このようなヘテロエピタキシャル構造体の上に、さらに金属の厚膜を形成することで、密着性が高く、接触抵抗の低い金属積層体を形成することができる。
【実施例2】
【0117】
本実施例は、
図1に示すようなヘテロエピタキシャル構造体200の上に第3金属部110として金属膜を積層した、ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体202の一例を示す。
【0118】
実施例1の作製条件(I)と同じ作製条件(前処理液Aの処理無し、めっき時間は、10秒×10回)で作製された試料に対し、市販の無電解金めっき液を用いて無電解金めっき処理を行い、第3金属部110の作製を行った。市販の無電解金めっき液としては、関東化学社製の無電解金めっき液(Aurexel MD101 Au 4g/L)を用いた。この無電解金めっき処理は、57℃の湯浴上で行い、1.2μm/30分の成長速度で金(Au)の厚膜を成長させた。無電解金めっきを所定時間行った後、超純水でリンスを行い(5秒間)、アセトンボイル(2分)、エタノールボイル(2分)を行い、窒素ブローで処理を行った。
【0119】
図6は、作製された試料の断面を、透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果を示す。
図6はTEMの暗視野像を示し、第1金属部104に相当する白金(Pt)表面上に、第3金属部110に相当する金(Au)めっき被膜が形成されている状態が観察される。
図6の観察結果は、作製条件(II)によって白金(Pt)表面に成長した金(Au)がシード層となって、白金(Pt)の表面上に市販の無電解金めっき液を用いて金(Au)の厚膜を形成できることを示している。
【0120】
図7Aは、本実施例で作製された試料を割断し、断面状態をSEMで観察した結果を示す。
図7Aからは、基板100の上に、第1金属部104に相当する白金(Pt)膜が形成され、その上に第3金属部110に相当する金(Au)のめっき膜が形成されている状態が観察される(試料は金(Au)膜の上に、SEM観察用のカーボン膜が形成されている)。本試料は、断面を観察するために、物理的な力を加えて割断しているが、第3金属部110としての金(Au)膜が剥離した状態はほとんど観測されず、下地の第1金属部104(白金(Pt)膜)との密着性が良いことが分かる。
【0121】
これに対し、
図7Bは比較例であり、白金(Pt)上に、市販の無電解金めっき液(すなわち、ヨウ素イオンによる酸化剤と還元剤を含まない無電解金めっき液)を用いて直接金(Au)の厚膜めっき膜を成長させた試料の断面SEM像を示す。この比較例の試料では、白金(Pt)膜と金(Au)膜との界面に鬆が入っていることが観察される。
図7Bの結果から、比較例の試料は、本実施例の試料に比べて、金(Au)の厚膜と下地の白金(Pt)膜との密着性が悪いことが分かる。
【0122】
本実施例によれば、酸化剤としてのヨウ素イオンと還元剤とを含む無電解金めっき液で、白金(Pt)表面にヘテロエピタキシャル成長した金(Au)をシード層として用いることで、密着性の高い金(Au)の厚膜を、無電解金めっきで作製することができる。
【実施例3】
【0123】
本実施例は、
図8A、
図8Bで説明される構造を有するナノギャップ電極204aの作製例について示す。
【0124】
7-1.第1金属部の作製
第1金属部を作製する基板として、表面に酸化シリコン膜が形成されたシリコンウエハを用いた。基板は、アセトン、エタノールを用いた超音波洗浄、紫外線(UV)オゾン処理等により洗浄を行い、清浄な表面を形成した。
【0125】
基板の表面(酸化シリコン膜の表面)に、電子線レジスト溶液(ZEP-520A(日本ゼオン株式会社)とZEP-A(日本ゼオン株式会社)を混合したレジスト溶液)をスピナで塗布してレジスト膜を形成し、さらにプレベークを行った。レジスト膜が形成された基板を電子線描画装置(ELIONIX製 ELS-7500EX)にセットし、レジスト膜に電子線描画を行い、電極を形成するためのパターンが形成されたレジスト膜を形成した。その後、現像処理を行い、描画部分(電極パターンに対応する部分)が開口するレジストパターンを形成した。
【0126】
次に、パターンが形成されたレジスト膜の上から、電子線蒸着装置(島津製作所製 E-400EBS)を用いて下地金属膜としてチタン(Ti)膜を形成し、さらに第1金属部104として白金(Pt)膜を成膜した。チタン(Ti)膜は白金(Pt)膜の密着性を改善するために形成した。チタン(Ti)膜の膜厚は3nmとし、白金(Pt)膜の膜厚は10nmとした。
【0127】
チタン(Ti)膜と白金(Pt)膜が積層された基板を剥離液(ZDMAC(日本ゼオン株式会社製))に浸漬して静置させた、バブリングを行うことで、パターンが形成されたレジスト膜を剥離した。チタン(Ti)膜と白金(Pt)膜が積層された金属層は、レジスト膜の剥離と共にリフトオフした。これによって、レジスト膜の開口パターンの部分に金属層が残存し、し、他の部分はレジスト膜と共に剥離され取り除かれた。このようにして、基板上に、第1金属部104としての白金電極(より正確には、チタン/白金が積層された電極)を作製した。白金電極は線状のパターンを形成し、線幅は10nmとした。
【0128】
次いで、電気的特性測定用のコンタクトパッドの作製を行った。白金電極が形成された基板を洗浄した後、ポジレジストを塗布し、プレベークを行ってレジスト膜を形成した。レジスト膜をマスクアライナ(ミカサ株式会社製 MA-20)で露光し、現像を行って、プローブコンタクト用のパッドに対応する開口パターン有するレジスト膜を形成した。
【0129】
電子線蒸着装置(島津製作所製 E-400EBS)を用い、チタン(Ti)膜と白金(Pt)膜が積層された金属層を形成した。その後、レジスト膜を剥離すると共に、金属層をリフトオフして、プローブコンタクト用のパッドを形成した。
【0130】
7-2.第2金属部の形成(無電解金めっき処理)
実施例1と同様にして、無電解金めっき液を作製し、線状のパターンを有する白金電極に無電解金めっき処理を行った。
【0131】
7-3.ナノギャップ電極の観察
図10は、本実施例で作製されたナノギャップ電極の断面構造のTEM明視野像を示す。
図10から観察されるように、第1金属部に相当する白金(Pt)の領域に縞状構造が観察される。縞の方向は場所によって異なっており、白金(Pt)が多結晶構造を有することが確認される。白金(Pt)の領域で観察される縞状構造は、第2金属部に相当する金(Au)領域にまで伸びていることが観察される。このことから、ナノギャップ電極においても、白金(Pt)膜上に金(Au)がヘテロエピタキシャル成長していることが分かる。
【0132】
さらに白金(Pt)膜上で半球状に成長した金(Au)は、結晶方位の異なる複数の結晶領域を含み、半球状の形状を有することが観察される。これは、核生成確率が高いことにより、白金(Pt)の結晶粒のそれぞれに対応して金(Au)がヘテロエピタキシャル成長し、成長の過程で隣接する結晶方位の異なる結晶領域と結晶粒界を形成しつつ一体化したものと考えられる。さらに、金(Au)は、曲率半径をできる限り大きくして、表面張力が小さくなるようにし、エネルギー的に安定な構造を取りつつヘテロエピタキシャル成長するので、半球状のなだらかな表面を形成するものと考えられる。
【0133】
また、相対する2つの白金(Pt)膜の先端に成長した、2つの半球状の金(Au)は明確に分離されており、ナノスケールのギャップが形成されていることが確認される。このように、本実施例によれば、白金(Pt)で形成される電極パターンを10nmの線幅とし、無電解金めっきにより島状の金(Au)をエピタキシャル成長させることで、ナノギャップ電極を形成できることが確認された。
【実施例4】
【0134】
本実施例は、
図9A、
図9Bで説明される構造を有するナノギャップ電極204bの作製例について示す。
【0135】
8-1.第1金属部及び第2金属部の作製
実施例1と同様にして、第1金属部の作製を行った。第2金属部についても、実施例3と同様の無電解金めっき液を用い、白金(Pt)膜上に金(Au)をエピタキシャル成長させた。このとき、白金(Pt)膜の表面に酸素プラズマ処理を十分に行った。
【0136】
8-2.ナノギャップ電極の観察
図11A及び
図11Bは、作製されたナノギャップ電極のSEM像を示す。
図11Aは無電解金めっき処理時間が6秒の結果を示し、
図11Bは無電解金めっきの処理時間が10秒の結果を示す。
図11Aでは、第1金属部として形成された白金(Pt)電極の線幅が10nm部分に第2金属部である金(Au)の被膜が均一に形成されている状態が観察される。また、幅200nmの部分では、線幅20nmの部分に比べて核生成確率が低いため金(Au)が均一な被膜にまで成長できず島状に孤立したままであることが観察される。
【0137】
一方、
図11Bでは、線幅10nmの部分において、金(Au)の被膜の均一性が
図11Aの場合に比べて悪くなっていることが観察される。また、幅200nmの領域においても金(Au)の粒径が大きくなっていることが観察される。
【0138】
このように、本実施例によれば、白金(Pt)で形成される電極パターンを10nmの線幅とし、無電解金めっきの処理時間を最適化することで、白金(Pt)表面に金(Au)の被膜が均一に成長したナノギャップ電極を形成することが示された。
【実施例5】
【0139】
本実施例は、熱処理によりナノギャップ電極の形状を制御する一例を示す。なお、熱処理工程が追加されることの他は、第4実施例と同様である。
【0140】
第3実施例で示す工程において、線状のパターンを有する白金電極を作製した後に熱処理を行った。熱処理は不活性ガス中で500℃、0.5時間行った。
図12Aは、熱処理前の白金電極の表面状態を観察したSEM像を示し、
図12Bは、熱処理後の白金電極の表面状態を観察したSEM象を示す。SEM観察の結果、線状のパターンを有する白金電極の先端部分が、熱処理により曲率を有するように丸みを帯びている状態が観察される。この結果は、白金電極を、5nmの幅に微細化した線状のパターンに形成したことで、レイリー不安定性による形状変化(エネルギーの安定な曲率半径の大きい球形になろうとする変化)が顕在化した結果であると考えられる。
【0141】
図12Cは、無電解金めっき処理後のナノギャップ電極のSEM像を示す。白金電極の表面には、特に線状のパターンを有する部分で連続的に第2金属部としての金のめっき膜が形成されている状態が観察される。また、白金電極による線状パターンの先端部分が曲面状に成型されたことにより、一対の電極の最近接部が線状パターンの中心軸線上に揃っている状態が観察される。このことは、熱処理による白金電極の形状制御の効果が無電解金めっき後にも承継されていることを示す。
【0142】
本実施例によれば、第1金属部を形成する白金電極の線状パターンに熱処理を行うことで、ナノギャップ電極の形状を制御することができ、最近接部分の位置を制御することが可能となることが示された。これにより、ナノギャップ電極でナノデバイスを作製する際に、ギャップ間隔の精密な制御をすることができ、プロセスの再現性を高め、作製されたナノデバイスの特性ばらつきを小さくできることが期待される。例えば、ナノデバイスとして単分子トランジスタを作製する際に、ナノギャップ電極と交差するように形成される一対のゲート電極に対して、ゲート静電容量が一方のゲート電極に偏らないようにすることができ、デバイス特性のばらつきを抑制できると考えられる。
【実施例6】
【0143】
本実施例は、第1金属部104としてパラジウム(Pd)を用いた場合のナノギャップ電極204aの作製例について示す。
【0144】
9-1.ナノギャップ電極の作製
第1金属部104としてパラジウム(Pd)を用いた以外は、第3実施例と同様にしてナノギャップ電極204aを作製した。
【0145】
9-2.ナノギャップ電極の観察
図13は、本実施例で作製された試料のSEM像を示す。試料は、第1金属部として作製されたパラジウム(Pd)電極上に、無電解金めっき処理を10秒間行い、その後10秒間純水でリンスする処理を2回繰り返して作製され、合計20秒間の無電解金めっきを行って作製されている。
図13において、白く見える粒状のものが金(Au)である。金(Au)の粒径は、1nmから20nm程度まで分散していることが観察される。この粒径の違いは、核発生の時間が異なることに起因していると考えられ、粒径の大きいものほど無電解金めっきの初期の段階で核発生したものであると考えられる。このことから、無電解金めっきでは、時系列的に核発生が継続していると考えられる。このような現象は、一旦核発生したら、その核を基にめっき膜が成長する通常のめっきのメカニズムと明らかに異なり、本発明の一実施形態において観察される特有の現象であるといえる。
【0146】
図14は、本実施例で作製された試料の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察した結果を示し、そのTEM明視野像を示す。
図14からは、下側からシリコン(Si)基板の上に、酸化シリコン(SiO
2)層、チタン(Ti)層、パラジウム(Pd)層が積層され、その上に金(Au)が離散的に成長している様子が観察される。
図14において矢印で示す半球状の山型の部分は、金(Au)の粒子に相当し、下地面であるパラジウム(Pd)の表面からなだらかな裾を引くように半球状の山型に成長している状態が観察される。パラジウム(Pd)に対する金(Au)の接触角は30度程度となっており、非常に濡れ性が高いことが分かる。
【0147】
図15は、半球状の山型に成長した金(Au)の部分をSTEMで拡大観察したときのTEM明視野像を示す。また、
図16は、同試料のTEM暗視野像を示す。
図15及び
図16の観察から明らかなように、第1金属部に相当するパラジウム(Pd)の領域に縞状構造が観察され、その縞状構造が金(Au)の領域まで連続性を維持した状態で延びていることが分かる。このことから、第1金属部が白金(Pt)の場合と同様に、パラジウム(Pd)上においても無電解金めっきによって金(Au)がヘテロエピタキシャル成長することが確認された。さらにパラジウム(Pd)膜上に成長した金(Au)は、結晶方位の異なる複数の結晶領域を含んでいることが観察される。
【0148】
図17Aは、試料の断面SEM像を示し、
図17Bから
図17Fは、試料の断面をEDX(Energy Dispersive X-ray Micro Analyzer)により元素マッピングした結果を示す。ここで、
図17Bは酸素(O)について、
図17Cはシリコン(Si)について、
図17Dはチタン(Ti)について、
図17Eはパラジウム(Pd)について、
図17Fは金(Au)について、それぞれ元素マッピングした結果を示す。
【0149】
図17B及び
図17Cは、下地絶縁膜が酸化シリコンであることが示されており、
図17Dは下地絶縁膜の上にチタン(Ti)膜が形成されていることを示す。また、
図17Eはチタン(Ti)膜の上にパラジウム(Pd)膜を示し、
図17Fは金(Au)が存在していることを示す。ここで、
図17E及び
図17Fを詳細に観察すると、
図17Eにおいては、パラジウム(Pd)膜として識別される領域から上方に突き出るように、一部の領域でパラジウム(Pd)が分布していることが観察される。この突き出る部分は、
図17Fに示すデータとの対比から、金(Au)が成長している領域と重なることが分かる。金(Au)については、
図17Fに示されるように、パラジウム(Pd)膜の領域においても存在することが確認され、特に金(Au)が半球状の山型に成長している部分と重なる領域の濃度が高くなっていることが観察される。
【0150】
このことから、無電解金めっきにおいて、金(Au)は、パラジウム(Pd)と相互拡散しながらヘテロエピタキシャル成長していることが分かる。そして、金(Au)は、パラジウム(Pd)膜との界面において固溶体を形成しているものと考えられる。このような構造により、パラジウム(Pd)膜上にヘテロエピタキシャル成長した金(Au)は、密着性が高まり、接触抵抗が低減するものと考えられる。
【0151】
図18A及び
図17Bは、本実施例で作製された試料であって、無電解金めっきをする前のパラジウム(Pd)電極のSEM像を示す。
図18A及び
図18Bは、第1金属部104としてパラジウム(Pd)を用いた以外は、第3実施例と同様の条件で作製した試料である。
図19A及び
図19Bは、パラジウム(Pd)で作製された電極パターンの上に無電解金めっきを行って作製されたナノギャップ電極のSEM像を示す。
図19Aは無電解金めっき処理を5秒間行い、その後5秒間純水でリンスする処理を3回繰り返して作製された試料のSEM像を示し、
図19Bは無電解金めっき処理を10秒間行い、その後10秒間純水でリンスする処理を3回繰り返して作製された試料のSEM像を示す。いずれの場合においても、金(Au)が半球状に成長しており、ナノギャップ電極が形成されていることが確認された。無電解金めっき処理時間が長い
図19Bの試料では、半球状に成長した金が相互につながっている。これは、本めっきでは濡れた状態でめっきが進行するため、めっきの経過と共に隣接した半球状のめっき粒は連続しためっき膜に成長する。連続めっき膜が、左右の幅200nmの領域と比較して、ナノギャップを形成する細い線幅の部分で顕著に観察されるのは、線幅が狭い方がめっきの核生成発生頻度が高いことを示唆している。
【0152】
本実施例によれば、第1金属部としてパラジウム(Pd)を用いた場合でも、第2金属部としての金(Au)がヘテロエピタキシャル成長することが確認された。その成長メカニズムは第1金属部が白金(Pt)である場合と異なり、相互拡散を伴って固溶体を形成しつつヘテロエピタキシャル成長することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の一実施形態に係るヘテロエピタキシャル構造体及びヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体は、電子デバイスの電極構造として適用することができる。例えば、バイオセンサにおいて検出物を担持するセンシング電極の構造として適用することができる。また、パワーMOSトランジスタのようなパワー半導体の電極構造として適用することができる。
【符号の説明】
【0154】
100・・・基板、102・・・下地金属膜、104・・・第1金属部、106・・・結晶粒、107・・・アモルファス領域、108・・・第2金属部、109・・・アモルファス領域、110・・・第3金属部、112・・・第1電極、114・・・第2電極、200・・・ヘテロエピタキシャル構造体、202・・・ヘテロエピタキシャル構造を含む金属積層体、204・・・ナノギャップ電極