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特許7029206食用油脂の常温以下での保存安定性向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】食用油脂の常温以下での保存安定性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/06 20060101AFI20220224BHJP
   C11B 5/00 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
A23D9/06
C11B5/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021116749
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2021-07-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591066362
【氏名又は名称】築野食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】築野 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】小石 翔太
(72)【発明者】
【氏名】奥田 安美
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236549(JP,A)
【文献】特開2016-140260(JP,A)
【文献】特開2014-018106(JP,A)
【文献】特開2011-062160(JP,A)
【文献】特開2002-253118(JP,A)
【文献】梶本五郎ほか,植物油脂の熱酸化およびトコフェロールの熱分解に及ぼす油脂の配合割合の影響,日本栄養・食糧学会誌,1991年,Vol.44, No.6,pp.499-505,DOI: 10.4327/jsnfs.44.499
【文献】戸谷洋一郎ほか,油脂の科学,初版第1刷,2015年10月25日,pp.154-160
【文献】福本由希ほか,食用油脂自動酸化速度定数の温度依存性,日本農芸化学会誌,2000年,Vol.74, No.7,pp.769-773,DOI: 10.1271/nogeikagaku1924.74.769
【文献】中谷明浩,食用油脂の基礎と劣化防止,初版第1刷,2020年07月30日,pp.26-27,37-43
【文献】遠藤 修二郎 ,米糠利用の現状と新しい利用技術の開発,月刊フードケミカル 2011年12月号 ,Vol.27, No.12,2011年,pp.54-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00-9/06
C11B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米油、パーム油、又はこれらの混合物から選ばれる油脂(B)を含有する、油脂(A)の45℃以下における保存安定性向上剤であって、油脂(A)は、45℃以下での保存で品質劣化する、油脂(B)以外の食用油脂である、油脂(A)の45℃以下における保存安定性向上剤。
【請求項2】
油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で用いられることを特徴とする、請求項1に記載の保存安定性向上剤。
【請求項3】
油脂(A)のリノレン酸の含有量が5~10質量%、及びヨウ素価が115~135である、請求項1又は2に記載の保存安定性向上剤。
【請求項4】
油脂(A)が、菜種油及び大豆油から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1~3いずれか一項に記載の保存安定性向上剤。
【請求項5】
油脂(A)におけるトコトリエノール含有量が、40ppm未満である、請求項1~いずれか一項に記載の保存安定性向上剤。
【請求項6】
風味劣化抑制剤である、請求項1~5いずれか一項に記載の保存安定性向上剤。
【請求項7】
プロパナール又はアクロレインの生成抑制剤である、請求項1~5いずれか一項に記載の保存安定性向上剤。
【請求項8】
米油、パーム油、又はこれらの混合物から選ばれる油脂(B)と請求項1記載の45℃以下での保存で品質劣化する油脂(A)を、混合する工程を含む、油脂(A)の45℃以下における保存安定性向上方法。
【請求項9】
米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)と請求項1に記載の油脂(A)を、混合する工程を含む、45℃以下における風味劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂の常温以下での保存における保存安定性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の多様化・健康志向の高まりから、食用油脂は様々な用途で使用されている。例えば、従来のフライ・炒め調理などの加熱調理に加え、栄養をそこなわずに摂取でき、油脂本来の風味を楽しめる等の観点から、料理や食材にさまざまな食用油脂をかけて楽しむスタイルが定着しつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、加熱調理時に発生する不快な臭気が改善された油脂が開示されている。該油脂は、米油を0.1~40質量%含有し、構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を0.5~12質量%含有する油脂を調製することで、加熱調理時に発生する不快な臭気が改善されることを特徴とし、特に、パーム系油脂を含有する場合、加熱調理時に発生する不快な臭気が顕著に改善されることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、油脂を2種以上含有し、加熱時のプロピオンアルデヒド濃度が300ppb以下であることを特徴とする食用油脂が開示されている。該食用油脂は、米油、菜種油、大豆油、パーム油、ゴマ油、コーン油、綿実油、ココナッツ油、オリーブ油、パーム核油、ヤシ油、サフラワー油、ヒマワリ油、アーモンド油、カシュー油、ヘーゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、牛脂、ラード、羊脂、鶏油、鯨油、鯨脳油、イルカ油、肝油、馬油、魚油からなる群より選択される2種以上を含有する食用油脂であることを特徴とする。
【0005】
特許文献3には、オリザノールに富み、風味良好で、しかも多用途に適用可能な配合食用油が開示されている。該配合食用油として少なくとも約70重量%のオレイン酸を含むサフラワー油(高オレイン酸(HO)サフラワー油)及び蒸留精製こめ油を配合し、55℃の条件下で、過酸化物価が30meq/kgになるまでの日数から保存安定性を評価したところ、蒸留精製米油に対して、菜種油あるいはサフラワー油を20重量%以上配合することで、配合食用油の保存安定性が改善されることが示されている。また、非特許文献1では、食用油脂として大豆油を使用し、過酸化物濃度の経時変化を測定したところ、50℃と45℃では異なる挙動を示すことが示されている。
【0006】
油脂を構成する脂肪酸のうち、二重結合を有する不飽和脂肪酸であるリノレン酸は、酸化反応を受けやすく、自動酸化及び熱酸化により、プロパナール、アクロレイン等の不快臭を呈する揮発性のアルデヒド類が生じ、油脂及び油脂食品の風味に悪影響を及ぼす(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-62160号公報
【文献】特開2013-236549号公報
【文献】特開2002-253118号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】福本 日本農芸化学会誌 74巻7号 769~773頁 2000年
【文献】戸谷 「油脂の科学」 朝倉書店 155~160頁 2015年
【0009】
しかるに、常温又はそれ以下の温度における保存において、食用油脂の品質劣化が、阻止又は抑制し得ることは報告されていない。この場合、品質劣化としては、具体的には、プロパナール、アクロレイン等の不快臭を呈するアルデヒド類の生成及び食用油脂の風味を害すること等が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、常温又はそれ以下の温度で品質劣化する食用油脂の保存安定性向上剤を提供することが、本発明の課題である。その他の課題は、以下の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討の結果、特定の油脂、つまり米油、パーム油又はこれらの混合物が上記課題を一挙に解決すること、この特定の油脂は、常温又はそれ以下の温度で品質劣化する食用油脂に対して少量でも良いことなどを知見した。このような該知見を得て、更に検討を重ねて、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
【0012】
[1]米油、パーム油、又はこれらの混合物から選ばれる油脂(B)を含有する、油脂(A)の常温又はそれ以下の温度における保存安定性向上剤であって、油脂(A)は、常温保存又はそれ以下の温度での保存で品質劣化する、油脂(B)以外の食用油脂である、油脂(A)の常温又はそれ以下の温度における保存安定性向上剤。
[2]油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で用いられることを特徴とする、上記[1]に記載の保存安定性向上剤。
[3]油脂(A)のリノレン酸の含有量が5~10質量%、及びヨウ素価が115~135である、上記[1]又は[2]に記載の保存安定性向上剤。
[4]油脂(A)が、菜種油及び大豆油から選ばれる少なくとも一種を含有する、上記[1]又は[2]に記載の保存安定性向上剤。
[5]油脂(A)におけるトコトリエノール含有量が、40ppm未満である、上記[1]~[3]いずれか一つに記載の保存安定性向上剤。
[6]風味劣化抑制剤である、上記[1]~[5]いずれか一つに記載の保存安定性向上剤。
[7]プロパナール又はアクロレインの生成抑制剤である、上記[1]~[5]いずれか一つに記載の保存安定性向上剤。
[8]米油、パーム油、又はこれらの混合物から選ばれる油脂(B)と上記[1]に記載の常温保存又はそれ以下の温度での保存で品質劣化する油脂(A)を、混合する工程を含む、油脂(A)の常温又はそれ以下の温度における保存安定性向上方法。
[9]米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)と上記[1]に記載の油脂(A)を、混合する工程を含む、常温又はそれ以下の温度における風味劣化抑制方法。
[10]上記[8]又は[9]の方法によって得られる食用油脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の保存安定性向上剤は、米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)を含有することにより、常温又はそれ以下の温度で品質劣化する油脂(A)の保存安定性を向上させることができる。また、本発明の保存安定性向上剤は、常温又はそれ以下の温度における油脂の風味を維持することができる。さらに、好ましいことに、本発明の保存安定性向上剤は、長期間に亘って常温又はそれ以下の温度での保存における油脂の劣化を抑制することができる。なお、本発明において、常温とは、通常5℃~45℃である。好ましくは、40℃以下である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】菜種油と米油を含有する食用油脂につき、180℃、2時間加熱のプロパナール発生量の相対値の関係を示す図である。
図2】菜種油と米胚芽油を含有する油脂につき、40℃、8週間保存のプロパナール発生量の相対値の関係を示す図である。
図3】菜種油と米油又は米胚芽油を含有する油脂につき、60℃、8週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図4】菜種油と各油脂を含有する油脂につき、40℃、8週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図5】菜種油と各油脂を含有する油脂につき、40℃、8週間保存の風味評価試験の結果を示す図である。
図6】菜種油と各油脂を含有する油脂につき、40℃、12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図7】菜種油と各油脂を含有する油脂につき、40℃、12週間保存の風味評価試験の結果を示す図である。
図8】大豆油と米胚芽油を含有する油脂又は大豆油につき、40℃、8週間又は12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図9】大豆油と米胚芽油を含有する油脂又は大豆油につき、40℃、8週間又は12週間保存の風味評価試験の結果を示す図である。
図10】大豆油と米油を含有する油脂、米油と米胚芽油の混合油及び大豆油を含有する油脂又は大豆油につき、40℃、8週間又は12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図11】大豆油と米油を含有する油脂、米油と米胚芽油の混合油及び大豆油を含有する油脂又は大豆油につき、40℃、8週間又は12週間保存の風味評価試験の結果を示す図である。
図12】菜種油と米胚芽油を含有する油脂につき、40℃、8週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図13】菜種油とパーム油を含有する油脂につき、40℃、8週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図14】大豆油とパーム油を含有する油脂につき、40℃、8週間又は12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図15】菜種油と大豆油の混合油及び米胚芽油を含有する油脂について、40℃、8週間又は12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図16】コーン油と菜種油、ひまわり油と菜種油を含有する油脂につき、40℃、8週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
図17】菜種油、コーン油及び米胚芽油を含有する油脂について、40℃、8週間又は12週間保存のプロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
油脂(A)
本発明において、油脂(A)とは、後述の油脂(B)により、常温又はそれ以下の温度における保存安定性が向上される油脂をいう。油脂(A)としては、特に限定はされないが、油脂(B)以外の油脂であり、例えば、リノレン酸の含有量が3~15質量%の油脂、ヨウ素価が110~150の油脂である油脂等が例として挙げられる。リノレン酸の含有量が5~10質量%の油脂、ヨウ素価が115~135の油脂が好ましく、リノレン酸の含有量が5~10質量%及びヨウ素価が115~135の油脂が特に好ましい。油脂(A)に含まれる油脂としては、特に限定はされないが、例えば、菜種油、大豆油、オリーブ油、ごま油、ぶどう油、やし油、亜麻仁油、荏胡麻油、ひまわり油、コーン油、綿実油等の食用油脂が例として挙げられる。油脂は単独でも併用してもよく、混合油としては、特に限定されないが、例えば、菜種油と大豆油の混合油等が例として挙げられる。油脂を併用する場合のリノレン酸含有量及びヨウ素価は、併用した油脂全体でのリノレン酸含有量及びヨウ素価を意味する。リノレン酸含有量及びヨウ素価を調整するために、例えば、コーン油、オリーブ油、ごま油、ぶどう油、やし油、亜麻仁油、荏胡麻油、ひまわり油、綿実油等を配合してもよい。好ましくは、菜種油又は大豆油を含有していることが好ましい。
【0016】
油脂(B)
本発明において、油脂(B)とは、油脂(A)の常温又はそれ以下の温度における保存安定性を向上する油脂をいう。油脂(B)としては、米油又はパーム油を含む限り特に限定はされないが、例えば、トコトリエノール含有量が、40ppm以上の油脂が挙げられる。トコトリエノール含有量が、40ppm以上の油脂としては、例えば、米油、パーム油、小麦胚芽油等が例として挙げられる。トコトリエノール含有量は、複数の油脂を併用する場合は、その合計量を意味する。米油は、米胚芽油であってもよい。好ましくは、例えば、米油、米胚芽油、パーム油、小麦胚芽油が挙げられる。油脂は単独でも併用してもよく、混合油としては、特に限定されないが、米油とパーム油、米油と米胚芽油、米胚芽油とパーム油等が例として挙げられる。
【0017】
(米油)
本発明において、米油とは、米糠より得られる油脂をいう。本発明に用いる米油としては、例えば築野食品工業社製の商品名「こめ油」が例として挙げられる。米油の中でもγ-オリザノールを比較的多く含むものは米胚芽油と呼ばれ、本発明に用いる米胚芽油としては、築野食品工業社製の商品名「こめ胚芽油」等が例として挙げられる。
米油は、γ-オリザノールを含有するものが好ましい。米油のγ-オリザノール含有量は特に限定されないが、米油100質量部に対し0.01質量%以上含有することが好ましく、0.05質量%以上含有することがより好ましく、0.1質量%以上含有することがさらに好ましく、0.3質量%含有することが特に好ましい。
【0018】
(パーム油)
本発明におけるパーム油とは、アブラヤシの果実から得られる油脂をいう。本発明に用いるパームとしては、例えば不二製油社製の商品名「PWLNS-N」等が例として挙げられる。
【0019】
(菜種油)
本発明に用いる菜種油としては、例えばJ-オイルミルズ社製の商品名「キャノーラ油
」、日清オイリオグループ社製の商品名「日清キャノーラ油」、昭和産業社製の商品名「
キャノーラ油」等が例として挙げられる。菜種油は、高オレイン酸低リノレン酸であるHOLL(High Oleic Acid Low Linolenic Acid)タイプでないことが好ましい。HOLLタイプの菜種油としては、例えば日清オイリオグループ社製の商品名「ヘルシーライト」等が例として挙げられる。
【0020】
(大豆油)
本発明に用いる大豆油としては、例えばJ-オイルミルズ社製の商品名「大豆のサラダオイル」等が例として挙げられる。
【0021】
(保存安定性向上剤)
本発明の安定性向上剤とは、常温又はそれ以下の温度における食用油脂の品質の安定性を向上させる剤をいう。常温又はそれ以下の温度とは、特に限定されないが、例えば、45℃以下、40℃以下等が好ましい。例えば、下限値が0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃であってもよい。具体的には、0℃~45℃、5℃~45℃、25℃~45℃、0℃~40℃、5℃~40℃、25℃~40℃であってもよい。また、高温(例えば180℃等)で加熱後の、常温又はそれ以下の温度における安定性を向上させる剤であってもよい。高温に加熱後の安定性を向上させる剤としては、例えば、油脂(A)を含有する油脂の乳化物等を高温で短時間(例えば3分、5分)加熱後、常温又はそれ以下の温度における保存の安定性を向上させる剤等が例として挙げられる。
また、本発明の保存性安定性向上剤は、長期間にわたり保存安定性の向上を維持することができる。期間は特に限定されないが、例えば、6週間、8週間、12週間、15週間、20週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月にわたり保存安定性の向上を維持することができる。
【0022】
(風味劣化抑制剤)
本発明の風味劣化抑制剤とは、常温又はそれ以下の温度における風味劣化を抑制する剤をいう。常温又はそれ以下の温度とは、特に限定されないが、例えば、45℃以下、40℃以下等が好ましい。例えば、下限値が0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃であってもよい。具体的には、0℃~45℃、5℃~45℃、25℃~45℃、0℃~40℃、5℃~40℃、25℃~40℃であってもよい。また、高温(例えば180℃等)に加熱後の、常温又はそれ以下の温度における風味劣化を抑制する剤であってもよい。高温に加熱後の風味劣化を抑制する剤としては、例えば、油脂(A)を含有する油脂の乳化物等を高温で短時間(例えば1分、3分、5分)加熱後、常温又はそれ以下の温度における風味劣化を抑制する剤等が例として挙げられる。
また、本発明の風味劣化抑制剤は、長期間にわたり風味劣化の抑制を維持することができる。期間は特に限定されないが、例えば、6週間、8週間、12週間、15週間、20週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月にわたり風味劣化の抑制を維持することができる。
【0023】
(プロパナール又はアクロレインの生成抑制剤)
本発明のプロパナール又はアクロレインの生成抑制剤とは、常温又はそれ以下の温度におけるプロパナール又はアクロレインの生成を抑制する剤をいう。常温又はそれ以下の温度とは、特に限定されないが、例えば、45℃以下、40℃以下等が好ましい。40℃は、通常20℃における加速試験として設定される温度であり、また、食品を常温にて保存する際に想定され得る温度である。例えば、下限値が0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃であってもよい。具体的には、0℃~45℃、5℃~45℃、25℃~45℃、0℃~40℃、5℃~40℃、25℃~40℃であってもよい。また、高温(例えば180℃等)に加熱後の、常温又はそれ以下の温度におけるプロパナール又はアクロレインの生成を抑制する剤であってもよい。高温に加熱後のプロパナール又はアクロレインの生成を抑制する剤としては、例えば、油脂(A)を含有する油脂の乳化物等を高温で短時間(例えば1分、3分、5分)加熱後、常温又はそれ以下の温度におけるプロパナール又はアクロレインの生成を抑制する剤等が例として挙げられる。また、本発明のプロパナール又はアクロレインの生成抑制剤は、長期間にわたりプロパナール又はアクロレインの生成の抑制を維持することができる。期間は特に限定されないが、例えば、6週間、8週間、12週間、15週間、20週間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月にわたりプロパナール又はアクロレインの生成の抑制を維持することができる。プロパナール又はアクロレインの生成が抑制された状態とは、例えば、油脂(A)のみでのプロパナール又はアクロレインの生成量に対して、油脂(B)を含有する油脂(A)におけるプロパナール又はアクロレインの生成量が低い場合等が例示される。
【0024】
(リノレン酸)
本発明において、リノレン酸とは、油脂を構成する脂肪酸のうち、直鎖状の炭素数18の脂肪酸で、cis二重結合を持つものをいい、18:3とも表記される。リノレン酸は、酸化反応を受けやすく、酸化により、プロパナール、アクロレイン等のアルデヒド類を生じ、油脂及び油脂食品の風味に悪影響を及ぼす。表1に各油脂の性状を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
(ヨウ素価)
本発明において、ヨウ素価とは、油脂100gに吸収されるハロゲンの量をヨウ素のg数で表したものをいう。油脂を構成する不飽和脂肪酸の割合が高いほどヨウ素価は大きくなり、油脂の安定性の指標となる。油脂のヨウ素価は、例えば、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に従って測定することができる。
【0027】
本発明において、トコトリエノールは、ビタミンEの一種であり、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、及びδ-トコトリエノールの異性体が存在する。トコトリエノールの含有量は、トコトリエノールの異性体の合計量を示す。油脂(A)におけるトコトリエノールの含有量は、特に限定されないが、例えば、200ppm以下が好ましく、100ppm未満が特に好ましく、40ppm未満が更に好ましい。油脂(B)におけるトコトリエノールの含有量は、特に限定されないが、例えば、200ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、40ppm以上が更に好ましい。
【0028】
本発明の油脂(A)と油脂(B)の含有量は、特に限定されないが、本発明の所望の効果を奏する点及び経済上の観点から、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で用いられることが好ましく、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~2/8質量部の割合で用いられることが、より好ましい。
【0029】
本発明の油脂(A)は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、例えば酸化防止剤、栄養強化剤、金属キレート剤、乳化剤、消泡剤等をさらに含有してもよい。
酸化防止剤としては、例えばトコフェロール類、アスコルビン酸、パルミテート、カロテン、フラボン誘導体、没食子酸誘導体、カテキン及びそのエステル、セサモール、テルペン類等が例として挙げられる。
栄養強化剤としては、トコフェロール類、植物ステロール、植物ステロールのエステル、γ-オリザノール、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、カロテン、カプサイシン、カプシエイト等が例として挙げられる。
ここでトコフェロール類としては、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-ト
コフェロール、δ-トコフェロール等が例として挙げられる。また、カテキンとしては、ローズマリー抽出物、茶抽出物、甘草抽出物等が例として挙げられる。
金属キレート剤としては、例えばクエン酸、リンゴ酸等が例として挙げられる。
乳化剤としては、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレ
イン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、
ソルビタン、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステルの有機酸エ
ステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が例として挙げられる。また、レシチンとしては、高純度レシチン、酵素分解レシチン、分別レシチン、水素添加レシチン等が例として挙げられる。
消泡剤としては、例えば微粉末シリカ、シリコーン等が例として挙げられる。
上記添加物の含有量は、特に限定されないが、例えば油脂(A)100質量部に対し0.001~20質量部であることが好ましく、0.005~15質量部であることがより好ましく、0.01~10質量部であることが更に好ましい。
【0030】
本発明における油脂(A)と油脂(B)((A):(B))の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、菜種油:米油、菜種油:米胚芽油、菜種油:パーム油、大豆油:米油、大豆油:米胚芽油、大豆油:パーム油、菜種油と大豆油の混合油:米胚芽油、菜種油とコーン油の混合油:米胚芽油等が例として挙げられる。
【0031】
(プロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の算出方法)
プロパナールアルデヒド及びアクロレインの食用油脂中の発生量の相対値は、例えばガスクロマトグラフ検出器を用いて算出することができる。
具体的には、ガスクロマトグラフ検出器を用いて、対照とする食用油脂のピーク面積値を測定し、次に他の食用油脂について同様にピーク面積を測定する。得られた他の食用油脂の面積値について、対照とする食用油脂の面積値を1として、相対値を算出した。
【0032】
本発明の安定性向上剤を含有する油脂は、食用油脂として、使用することができる。食用油脂は、フライ調理、焼き料理、炒め料理、蒸し料理、煮物調理、低温調理等の加熱調理、生食等の非加熱調理等、様々な用途に用いることができる。特に、サラダ、カルパッチョ、ちらし寿司等の生食の非加熱調理に用いることが好ましい。
本発明の安定性向上剤を含有する油脂を各種の調理法に用いる場合、油脂の使用量、加熱温度及び加熱時間は、使用する食品の種類、調理方法により、適宜変化させることができる。
【0033】
本発明の製造方法は、油脂(A)及び油脂(B)を混合する工程を有する。
【0034】
本発明の製造方法は、菜種油及び大豆油から選ばれる少なくとも一種を含有する油脂(A)と、米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)とを混合する工程を有することが好ましい。
混合方法は特に限定されず、攪拌機や、種々のミキサー等を用いて行うことができる。 なお、混合に用いる油脂の配合順序は特に限定されない。また、油脂を混合する工程における温度も特に限定されない。
【0035】
上記混合工程において、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で混合することが好ましい。
上記混合工程は、精製工程、加工処理工程の前に行ってもよく、精製工程、加工処理工
程の後に行ってもよい。
【0036】
本発明の製造方法は、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭、脱ろう等の精製工程を有することが
できる。精製工程において、食用油脂の製造工程において通常行われる公知の方法を用い
ることができる。原料である油脂として粗油を用いた場合、精製工程を有することが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法は、水素添加、エステル交換等の加工処理工程を有してもよい。加工
工程において、食用油脂の製造工程において通常行われる公知の水素添加方法、エステル
交換方法等を用いることができる。
【0038】
(安定性向上方法)
本発明の安定性向上方法は、油脂(A)及び油脂(B)を混合することにより、常温又はそれ以下における安定性を向上させる。
上記方法は、菜種油及び大豆油から選ばれる少なくとも一種を含有する油脂(A)と、米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)とを混合する工程を有することが好ましい。
上記方法は、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で混合することが好ましい。
【0039】
(風味劣化抑制方法)
本発明の風味劣化抑制方法は、油脂(A)及び油脂(B)を混合することにより、常温又はそれ以下における風味劣化を抑制する。
上記方法は、菜種油及び大豆油から選ばれる少なくとも一種を含有する油脂(A)と、米油、パーム油、又はこれらの混合物から構成される油脂(B)とを混合する工程を有することが好ましい。
上記方法は、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で混合することが好ましい。なお、以下の実施例を含む本明細書全体において、特に断りのない限り、比率は質量比である。
【実施例
【0040】
以下、本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0041】
(実験条件)
以下の原料及び測定機器を用いて実験を行った。なお、本実施例において、原料、器具、測定機器等は、特記のない限り市販品を用いた。
【0042】
(原料)
米油 築野食品工業社製、商品名「こめ油」
米胚芽油 築野食品工業社製、商品名「こめ胚芽油」
パーム油 不二製油、製品名「PWLNS-N」
菜種油 日清オイリオグループ社製、商品名「日清キャノーラ油」
大豆油 J-オイルミルズ社製、商品名「大豆のサラダオイル」
コーン油 日本コーンスターチ社製、商品名「コーンサラダ油」
ひまわり油 日清オイリオグループ社製、商品名「日清ひまわり油」

(測定機器)
ガスクロマトグラフ検出器
アルファ・モス・ジャパン株式会社製 フラッシュGCノーズ HERACLES II
分析ソフト アルファ・モス・ジャパン株式会社製、商品名「Alpha Soft」
(測定条件)
カラム:MXT-WAX(φ0.18mm×10m)
キャリアガス:水素
サンプル量:2g(20mL ヘッドスペースバイアル)
インキュベーション:55℃、10分間
ヘッドスペース注入量:5mL
シリンジ温度:65℃
トラップ温度:20℃
インジェクター温度:220℃
検出器(FID)温度:260℃
カラム昇温条件:40℃で10秒間保持した後、1.0℃/毎秒で120℃まで加温、更に1.5℃/毎秒で250℃まで昇温後、53秒保持
【0043】
(プロパナール及びアクロレイン発生量の相対値の算出)
上記ガスクロマトグラフ検出器を用い、対照油脂、実施例又は比較例のプロパナール又はアクロレインの面積値を求め、対照油脂の面積値を1として、実施例又は比較例の面積値について、相対値を算出した。
【0044】
(実験1:菜種油と米油の180℃と40℃における比較試験)
表2及び表3に従い、菜種油及び米油を混合した。これを十分に攪拌し、油脂を製造した。比較例1~5の油脂2gをアルミブロック恒温槽に入れ、油温180℃で2時間加熱した。また、対照例1、2及び実施例1~9の油脂2gを20mLバイアルに秤量し、蓋をして密閉した状態で恒温槽に入れ、油温40℃で8週間暗所保存した。保存期間終了後、ガスクロマトグラフ検出器を用い、油脂中のプロパナールの面積値を求め、180℃における結果は比較例5を1として、40℃における結果は対照例2の値を1として、比較例1~4並びに実施例1~9及び対照例1の相対値を求めた。結果を図1及び2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
(結果)
図1に示すように、180℃における保存では、菜種油に対して米油の割合を減らしていくと、直線状にプロパナールの発生量が増加した。一方、図2に示すように、40℃における保存では、菜種油に対して、米胚芽油の割合を減らしても、プロパナールの発生量が抑えられた。このことから、180℃保存と、40℃保存では、プロパナールの発生量は全く異なる挙動を示し、40℃では、少量の米油を菜種油に添加すれば、プロパナールの発生を抑えることができ、臭い物質の発生を抑えることができる。また、60℃の保存においても、40℃の保温と同様の方法で8週間暗所保存し、プロパナールの発生量の相対値を求めたところ、図3に示すような結果となり、60℃保存においても、40℃保存とは、全く異なる挙動を示すことが分かった。
【0048】
(実験2:菜種油と各油脂の40℃、8週間保存後の臭い物質の分析試験)
表4に従い、菜種油及び各油を混合した。これを十分に攪拌し、油脂を製造した。比較例6、実施例10~12及び対照例3の油脂2gを20mLバイアルに秤量し、蓋をして密閉した状態で恒温槽に入れ、油温40℃で8週間暗所保存した。保存期間終了後、ガスクロマトグラフ検出器を用い、油脂中のプロパナール及びアクロレインの面積値を求め、対照例3の値を1として、実施例10~12及び比較例6の相対値を求めた。結果を表5及び図4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
(実験3:菜種油と各油脂の40℃、8週間保存後の風味評価試験)
表4に記載の比較例6、実施例10~12及び対照例3の油脂について、被験者12人によって、ANOVA、Tukey testを用いて風味評価試験を行った。風味の評価方法は、3段階(3点:対照例と同等、2点:対照例より少し良い、1点:対照例より良い)で行った。これらの平均点を算出することにより、最終的な評価を得た。風味評価の平均値が2.5を下回る場合に、優れた風味劣化抑制作用があると評価することができる。結果を表5及び図5に示す。なお、保存試験前の油脂について風味評価を行ったところ、実施例、比較例、及び対照例の間に風味の差はなかった。
【0052】
(結果)
表5、及び図4、5から明らかなように、40℃、8週間保存後のプロパナール及びアクロレインの発生量の相対値は、菜種油のみの対照例3と比較して、米油、米胚芽油、パーム油を1割添加すると有意に低下した。また、風味評価では、米油、米胚芽油、パーム油を1割添加すると点数が2.5未満となり、良好な結果となった。このことから、菜種油に対し、米油、米胚芽油又はパーム油を1割という少量添加することにより、臭い物質の産生を抑え、風味を良好に保つことができる。
【0053】
(実験4:菜種油と各油脂の40℃、12週間保存後の臭い物質の分析試験)
実験2と同様の手順で、表6に従い、菜種油及び各油を混合した。これを十分に攪拌し、油脂を製造した。比較例7実施例13~15及び対照例4の油脂2gを20mLバイアルに秤量し、蓋をして密閉した状態で恒温槽に入れ、油温40℃で12週間暗所保存した。保存期間終了後、ガスクロマトグラフ検出器を用い、油脂中のプロパナール及びアクロレインの面積値を求め、対照例4の値を1として、実施例13~15及び比較例7の相対値を求めた。結果を表7及び図6に示す。
【0054】
【表6】
【表7】
【0055】
(実験5:菜種油と各油脂の40℃、12週間保存後の風味評価試験)
表6に記載の比較例7実施例13~15及び対照例4の油脂について、被験者10人によって実験3と同じ評価方法にて風味評価試験を行った。結果を表7及び図7に示す。
【0056】
(結果)
表7、及び図6、7から明らかなように、40℃、12週間保存後のプロパナール及びアクロレインの発生量の相対値は、菜種油のみの対照例4と比較して、米油、米胚芽油、パーム油、ひまわり油を1割添加すると有意に低下した。また、風味評価では、米油、米胚芽油、パーム油を1割添加すると点数が2.5未満となり、良好な結果となった。実験2~5の結果から、菜種油に対し、米油、米胚芽油、パーム油を1割という少量添加することにより、40℃において、長期間にわたり臭い物質の産生を抑え、風味を良好に保つことができる。
【0057】
(実験6:大豆油と米胚芽油の40℃、8週間及び12週間保存後の臭い物質の分析試験及び風味評価試験)
大豆油100%を対照例、大豆油:米胚芽油の含有割合が9:1の油脂を実施例16、17として、実験2と同じ手順で、油温40℃下で8週間又は12週間保存した。保存期間終了後、ガスクロマトグラフ検出器を用い、油脂中のプロパナール及びアクロレインの面積値を求め、各温度下の対照例5、6の値を1として、8週間又は12週間保存後の実施例16及び実施例17の相対値を求めた。また、実施例16、17及び対照例5、6について、実験3と同じ評価方法にて風味試験を行った。結果を表8及び図8、9に示す。
【0058】
【表8】
【0059】
(結果)
表8、及び図8、9から明らかなように、大豆油の40℃、8週間及び12週間保存において、大豆油に米胚芽油を1割添加すると、大豆油のみの対照例と比較して、プロパナール及びアクロレインの発生量が有意に低下した。また、風味評価においても、米胚芽油を1割添加すると有意に風味の劣化を抑制する結果となった。このことから、大豆油に対し、米胚芽油を1割という少量添加することにより、臭い物質の産生を抑え、風味を良好に保つことができる。また、大豆油と米油、米油及び米胚芽油の混合油と大豆油から構成される油脂において同様に試験を行った場合も、大豆油のみの対照例と比較して、プロパナール及びアクロレインの発生量が有意に低下し、有意に風味の劣化を抑制する結果となった(図10、11)。
【0060】
(実験7:油脂(A)と油脂(B)の40℃、8週間保存後の臭い物質の分析試験)
油脂(A)と油脂(B)の組み合わせとして、菜種油と米胚芽油、菜種油とパーム油から構成される各油脂を、油脂(A):油脂(B)を0:10~10:0の比率において、計11点でプロパナール及びアクロレインの面積値を求め、油脂(A):油脂(B)が10:0の値を1として、相対値を求めた。結果を図12、13に示す。また、大豆油とパーム油から構成される油脂、並びに菜種油及び大豆油の混合油と米胚芽油から構成される油脂において、0:10~10:0の比率において、計6点で8週間保存に加えて12週間保存後のプロパナール及びアクロレインの面積値を求め、大豆油:パーム油、又は菜種油及び大豆油の混合油:米胚芽油が10:0の値を1として、相対値を求めた。結果を図14、15に示す。比較例として、菜種油とコーン油、菜種油とひまわり油からなる油脂について、同様に40℃8週間保存で行った試験結果を図16に示す。
【0061】
(結果)
図12-15から明らかなように、油脂(A)である大豆又は菜種油を、油脂(B)に分類される米胚芽油又はパーム油に添加した場合、油脂(B)の添加量が油脂(A)に対して多い場合はもちろん、油脂(B)の含有割合を1割まで減少させた場合であっても、プロパナール及びアクロレインの発生量を有意に低下させた。これに対し、図16から明らかなように、菜種油にコーン油を添加した場合及び菜種油にひまわり油を添加した場合は、油脂(A)に分類される菜種油の割合が高くなるにつれ、プロパナール及びアクロレインの発生量も徐々に上昇した。この結果より、油脂(A)に油脂(B)を加えることにより、油脂(A)の40℃保存における臭い物質の産生を抑え、風味を良好に保つことができる結果となった。また、菜種油にコーン油を添加し、リノレン酸含有量を5~7%に調整した油脂と米胚芽油から構成される油脂において同様に試験を行った。油脂(A)であるリノレン酸含有量を5~7%に調整した混合油を、油脂(B)に分類される米胚芽油に添加した場合、油脂(B)の添加量が油脂(A)に対して多い場合はもちろん、油脂(B)の含有割合を1割まで減少させた場合であっても、プロパナール及びアクロレインの発生量を有意に低下させた(図17)。
【0062】
上記試験の結果より、油脂(A)に分類される油脂を、油脂(B)に分類される米油、米胚芽油またはパーム油から構成される油脂に添加することにより、油脂(A)の40℃保存における臭い物質の産生を抑え、風味劣化を抑制することができた。このような効果を奏するメカニズムは定かではないが、40℃以下の温度帯においては、油脂(B)による保存安定性向上に対する作用が、油脂(A)による油脂の劣化に対する作用を上回り、結果として油脂の劣化が抑制され、油脂の保存安定性が向上するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の保存安定性向上剤は、常温又はそれ以下の温度での油脂の保存安定性を向上させることができ、常温又はそれ以下の温度における油脂の風味を維持することができる点で有用であり得る。さらに、本発明の保存安定性向上剤は、長期間の40℃以下における油脂の劣化を抑制することができる点で有用であり得る。
【要約】
【課題】常温又はそれ以下の温度における保存での食用油脂の保存安定性向上剤を提供する。
【解決手段】米油、パーム油、又はこれらの混合物から選ばれる油脂(B)を含有する、油脂(A)の常温又はそれ以下における保存安定性向上剤であって、油脂(A)は、好ましくは、油脂(B)以外の食用油脂であって、油脂(A)1質量部に対して、油脂(B)が1/9~3/7質量部の割合で用いられる、油脂(A)の常温又はそれ以下の温度における保存安定性向上剤。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17