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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】放射線検出器
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20220224BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
G01T1/20 L
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T1/20 C
A61B6/00 300Q
A61B6/00 300S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018071635
(22)【出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2019184278
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長井 真也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤也
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-284053(JP,A)
【文献】特開2004-281439(JP,A)
【文献】特開2010-217148(JP,A)
【文献】特開2016-128779(JP,A)
【文献】特開2017-015428(JP,A)
【文献】特開2018-044944(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254908(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子を有する基板と、
前記基板の前記光電変換素子上に形成されたシンチレータ層と、
前記シンチレータ層上に配置され、前記シンチレータ層からの蛍光を反射するシート状の反射層と、
前記反射層が固定され、前記基板との間に前記シンチレータ層および前記反射層を覆う防湿体と
を具備し、
前記防湿体は、外側の大気圧よりも内側の圧力が低く、外側の大気圧と内側の圧力との差圧により変位した状態で前記反射層を前記シンチレータ層に密着させている
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記反射層を前記防湿体に固定する固定体を具備する
ことを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記固定体は、前記基板の前記光電変換素子上から外れた位置にある
ことを特徴とする請求項2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記固定体の厚さは、50μm以下である
ことを特徴とする請求項2または3記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記固定体は、前記反射層を前記防湿体に粘着固定する粘着層であり、前記反射層または前記防湿体から剥離した状態でも粘着力を維持する
ことを特徴とする請求項2ないし4いずれか一記載の放射線検出器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、シンチレータ層上に反射層を備えた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形のX線検出器が開発されている。このX線検出器において、照射されたX線を検出することにより、X線撮影像、あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。そして、このX線検出器では、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換させ、この蛍光をアモルファスシリコン(a-Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換することで画像を取得している。
【0003】
シンチレータ層は、材料として、一般的にヨウ化セシウム(CsI):ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd22S)などが用いられ、ダイシングなどにより溝を形成したり、柱状構造が形成されるように蒸着法で堆積したりすることで、解像度特性を向上させることができる。
【0004】
そして、シンチレータからの蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、シンチレータ層上に反射層を形成する方法がある。すなわち、シンチレータ層で変換された蛍光のうち光電変換素子側に対して反対側に向かう蛍光を反射層で反射し、光電変換素子側に到達する蛍光を増大させるものである。
【0005】
反射層の例としては、銀合金やアルミニウムなどの蛍光反射率の高い金属をシンチレータ層上に成膜する方式や、TiO2などの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る拡散反射性の反射層をシンチレータ層上に塗布形成する方式などが一般に知られている。また、Al基板などの金属製の反射性基板上にシンチレータ層を形成したパネルを接着剤などにより光電変換素子を有するアレイ基板に貼り合せる方式がある。さらに、金属製の反射板を用い、この反射板とシンチレータ層とを固定せず面接触させる方式もある。
【0006】
しかし、蛍光反射率の高い金属をシンチレータ層上に成膜する方式や、拡散反射性の反射層をシンチレータ層上に塗布形成する方式においては、反射層がシンチレータ層の柱間に侵入してシンチレータ層の柱間が分離されていることによるライトガイド効果を低減するなどにより、解像度の低下を招くことがある。
【0007】
また、金属製の反射性基板上にシンチレータ層を形成したパネルを接着剤などにより光電変換素子を有するアレイ基板に貼り合せる方式においては、アレイ基板と金属製の反射性基板との熱膨張係数差によってアレイ基板に反りが生じる。
【0008】
さらに、反射板とシンチレータ層とを固定せず面接触させる方式においては、反射板がシンチレータ層の柱間に侵入せず、解像度の低下を抑えられ、かつ、光電変換素子を有するアレイ基板と反射板との熱膨張係数が異なっていても、反射板とシンチレータ層とが互いに拘束されずに変位できることによって、アレイ基板の反りを抑制することができる。しかし、反射板の一部に欠陥がある場合には取得した画像データを欠陥補正処理するが、反射板とシンチレータ層との相対位置が変化すると、その欠陥の位置が補正位置から動くため、欠陥補正処理できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5305996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、反射層による解像度の低下を抑制しつつ、反射層の欠陥補正処理にも対応できる放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の放射線検出器は、基板、シンチレータ層、反射層および防湿体を備える。基板は、光電変換素子を有する。シンチレータ層は、基板の光電変換素子上に形成される。反射層は、シート状で、シンチレータ層上に配置され、シンチレータ層からの蛍光を反射する。防湿体は、反射層が固定され、基板との間にシンチレータ層および反射層を覆う。防湿体は、外側の大気圧よりも内側の圧力が低く、外側の大気圧と内側の圧力との差圧により変位した状態で反射層をシンチレータ層に密着させている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態を示す放射線検出器の防湿体が内外の差圧により変位した状態で反射層をシンチレータ層に密着させている断面図である。
図2】同上放射線検出器の防湿体が変位する前の状態の断面図である。
図3】同上放射線検出器の模式斜視図である。
図4】同上放射線検出器の防湿体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1ないし図3に示すように、放射線検出器10は、放射線像であるX線像を検出するX線画像検出器(X線平面センサ)であり、例えば一般医療用途などに用いられる。
【0015】
放射線検出器10は、蛍光を電気信号に変換する光源変換素子を有する基板(光電変換基板)であるアレイ基板11、このアレイ基板11の一主面である表面上に設けられ入射するX線を蛍光に変換するシンチレータ層12、このシンチレータ層12上に配置されてシンチレータ層12からの蛍光をアレイ基板11側へ反射させる反射層13、アレイ基板11との間にシンチレータ層12および反射層13を覆う防湿体14、防湿体14の周辺部をアレイ基板11に接着封止する接合体15、および反射層13を防湿体14に固定する固定体16を備えている。
【0016】
そして、アレイ基板11は、シンチレータ層12によりX線から例えば可視光に変換された蛍光を電気信号に変換するものである。アレイ基板11は、例えばガラス材からなる絶縁基板20、この絶縁基板20上にマトリクス状に形成された複数の画素21、行方向に沿って配設された複数の制御線(またはゲートライン)22、および列方向に沿って配設された複数の信号線(またはシグナルライン)23などを備えている。
【0017】
各画素21内には、それぞれ光電変換素子(フォトダイオード)24が設けられている。これら光電変換素子24はシンチレータ層12の下側に配設されている。さらに、各画素21は、光電変換素子24に電気的に接続されたスイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)25、および光電変換素子24により変換した信号を蓄積する電荷蓄積部としての蓄積キャパシタ(図示せず)を備えている。ただし、蓄積キャパシタは、光電変換素子(フォトダイオード)24の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0018】
薄膜トランジスタ25は、光電変換素子24への蛍光の入射により発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ25は、非晶質半導体としてのa-Si、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P-Si)などの半導体材料によって少なくとも一部が構成されている。
【0019】
そして、アレイ基板11上には、画素21、制御線22、信号線23などを被覆して保護するために保護層26が形成されている。保護層26は、例えば窒化珪素系の無機膜である。あるいは、保護層26は、シンチレータ層12との密着性の観点より、アレイ基板11のシンチレータ層12が設けられる領域では、無機膜上に有機樹脂が蓄積して形成されていてもよい。有機樹脂としては、例えばアクリル系、ポリエチレンやポリプロピレン、ブチラール系などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。最も好ましくはアクリル系樹脂である。
【0020】
制御線22は、各画素21間に行方向に沿って配設され、同じ行の各画素21の薄膜トランジスタ25のゲート電極に電気的に接続されている。
【0021】
信号線23は、各画素21間に列方向に沿って配設され、同じ列の各画素21の薄膜トランジスタ25のソース電極に電気的に接続されている。
【0022】
このような放射線検出器10は、例えば鉛板のようなX線を吸収できる支持体27上に載置され、支持体27を挟んで放射線検出器10の裏側に配置される回路基板28と電気的に接続される。ここで、回路基板28には、一般に放射線耐性が低い制御回路、および増幅/変換回路などが搭載される。アレイ基板11の周辺エリアに配設される複数の配線パッド29が例えば図示しないACFを介してフレキシブルプリント基板30により回路基板28に電気接続されている。ここで、フレキシブルプリント基板30は、それぞれの制御線22、信号線23に接続される。そして、回路基板28の制御回路により、放射線検出器10は駆動制御される。例えば、制御回路は、各制御線22を通して各薄膜トランジスタ25の動作状態、すなわちオンオフを制御する。また、回路基板28の増幅/変換回路は、各信号線23に対応してそれぞれ配設された複数の電荷増幅器、およびこれら電荷増幅器が電気的に接続された並列/直列変換器、この並列/直列変換器が電気的に接続されたアナログ-デジタル変換器などを有している。このアナログ-デジタル変換器には、画像を転送する画像転送部31が接続されている。
【0023】
また、シンチレータ層12は、入射するX線を蛍光に変換するもので、アレイ基板11において画素21が位置するエリアを被覆して設けられる。シンチレータ層12には、例えばヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)または臭化セシウム(CsBr):ユーロピウム(Eu)などにより真空蒸着法で柱状構造に形成するものがある。これらの柱(ピラー)の間には、空間が存在し、アレイ基板11と防湿体14とにより囲まれるシンチレータ層12外の空間との間で気体の往来が可能である。つまり、シンチレータ層12外の空間の内圧があがることがあれば、その部分にあった気体は、シンチレータ層12の柱間の空間に逃げ、内圧の上昇が抑えられる。構造としては、例えばシンチレータ層12にCsI:Tlの蒸着膜を用い、膜厚は約600μm、CsI:Tlのピラーの太さが最表面で3~8μm程度のものを用いることができる。間接的ではあるが柱状構造の結晶が形成される結果、同時に柱と柱の隙間の部分である空乏部分も形成される。全体から空乏部分の割合を減じた蛍光体が占める部分の割合を充填密度と呼ぶが、それは、シンチレータ層12を形成する真空蒸着法のプロセス条件に左右される。
【0024】
また、反射層13は、シンチレータ層12からアレイ基板11に対して反対側に向かう蛍光を反射させて、光電変換素子24に到達する蛍光の光量を増大させるものである。反射層13は、シート状であり、シンチレータ層12と防湿体14との間に配置されている。シート状の反射層13とは、単体でシートになりうるものであり、一般的にコストが安く、不良が発生した際に取り替えが可能であるものが好ましい。
【0025】
シート状の反射層13の材料としては、金属系材料のものや樹脂系材料を母体とするものが挙げられる。金属系材料としては、Al反射膜や、銀合金反射膜+MgO保護膜がある。樹脂系反射膜としては、発泡ポリエチレンテレフタレートや、ポリエステル系の樹脂に酸化チタンを分散させたものがある。
【0026】
本実施形態では、反射層13は、感度を高める観点や安定性から、ポリエステル樹脂にTiO2が分散した樹脂性反射シートの構成が用いられる。この樹脂性反射シートは、一般的に商品として存在し、例えば厚み0.19mmのTiO2分散型のPET反射シートが用いられる。
【0027】
そして、反射層13は、シンチレータ層12の表面に押し付ける形で配置することが好ましい。シンチレータ層12と反射層13との間に隙間があると、シンチレータ層12からの蛍光が隙間で散乱して、放射線検出器10から出力される画像の解像度が低下するからである。
【0028】
また、防湿体14は、アレイ基板11および接合体15とともに形成される包囲網でシンチレータ層12を取り囲み、シンチレータ層12を収納した内部空間33に外部から水蒸気が侵入することを防止する。同時に、防湿体14は、放射線検出器10のX線入射窓として、X線を透過させる機能がある。したがって、できるだけ軽元素で薄くピンホールの無い構造が望まれ、Al箔を包み込む構造に整形した構造体として作製するのが好適である。例えば防湿体14を一般的に入手される厚さ0.1mmのAl箔とする。この場合、防湿体14は形状保持能力が低く、外部からの圧力により簡単に変形しやすい。
【0029】
防湿体14は、シンチレータ層12に対向される覆い部34、この覆い部34の周辺部からシンチレータ層12を包含する深さを有する側面部35、およびこの側面部35から外側方に突出する鍔部36を備えている。
【0030】
図4に示すように、防湿体14の接合体15によりアレイ基板11に接合される鍔部36の幅である接着幅Aは、耐湿性能が確保できる限界付近の狭さに設定するのが好ましい。例えば接合体15の耐湿性能に応じて1~10mm程度に設定できる。この接着幅Aは大きいほど接合体15の水蒸気が投下する経路が長くなるので、防湿体14の耐湿性能は向上するが、同時に放射線検出器10の画素21とアレイ基板11の端部との間の寸法が大きくなり、アレイ基板11を大きくしなければならないデメリットがある。
【0031】
防湿体14の側面部35の絞り深さBは、シンチレータ層12の厚みと反射層13の厚みとの合計とすることにより、封止後の防湿体14の変形を最小限に抑えることができる。しかし、シンチレータ層12の厚さのばらつきに許容を持たせるために、例えば0.1mm程度深めに絞ることが好ましい。
【0032】
防湿体14の厚さCは、薄いほど防湿体14によるX線吸収が少なくなり好ましいが、ピンホールの発生率が上昇するため、0.1mm程度が好ましい。
【0033】
また、接合体15は、シンチレータ層12および反射層13などを覆う防湿体14の周辺部をアレイ基板11に接着封止するものである。接合体15は、添加剤を含有した接着剤をアレイ基板11と防湿体14の周辺部との界面にディスペンサーなどを用いて塗布することによって形成される。接合体15としては、エポキシ系でカチオン重合型の接着剤を用いることが好ましい。また、添加剤として、接着剤の透湿を抑制する無機材質のフィラーを用いることが好ましい。
【0034】
また、固定体16は、アレイ基板11の光電変換素子24上から外れた位置にあり、シート状の反射層13の周辺部を防湿体14の内側に固定する。固定体16は、反射層13の周辺部の全周に亘って防湿体14に固定するものでもよいし、反射層13の周辺部の所々を防湿体14に固定するものでもよい。
【0035】
固定体16としては、基材のあるテープ状のものより薄く塗布できる液状のものの方が、X線の減衰を防ぐことができるので好ましい。固定体16の厚さは、X線の減衰を防ぐために50μm以下であることが好ましい。
【0036】
固定体16は、例えば市販されている繰り返し貼れるタイプの粘着剤を用いた粘着層である。固定体16は、反射層13を防湿体14に粘着固定するとともに、反射層13または防湿体14から剥離した状態でも粘着力を維持する。
【0037】
そして、放射線検出器10の製造工程においては、真空槽内に、シンチレータ層12を形成したアレイ基板11、および固定体16で反射層13を固定した防湿体14を配置する。真空槽内を真空引きして例えば0.3気圧以下に減圧した状態で、防湿体14の周辺部を接合体15でアレイ基板11に接着封止する。
【0038】
このとき、固定体16は、シート状の反射層13を防湿体14の内側に固定しているため、真空槽内を真空引きする際などに、反射層13が移動するのを阻止する。これにより、反射層13が画素21上から外れて解像度が低下することや、反射層13が接合体15に触れて汚染するのを防ぐことができる。
【0039】
接合体15にUV硬化型の接着剤を使用している場合には、アレイ基板11と防湿体14との間を接合体15で接着封止した後、接合体15に紫外線を照射する。紫外線は防湿体14を透過しないので、アレイ基板11側から照射する。照射量はアレイ基板11の紫外線透過率に応じて調整する。
【0040】
接合体15が硬化した後、製品全体を取り囲む真空槽の内部に大気を導入する。このとき、防湿体14の外側の大気圧よりも防湿体14の内側の圧力が低いため、図1に示すように、防湿体14は、大気圧(図1の矢印参照)で反射層13およびシンチレータ層12に押し付けられるように変位し、反射層13をシンチレータ層12に密着させる(なお、図1では反射層13はシンチレータ層12から離れている状態に図示しているが、実際には反射層13はシンチレータ層12に密着している)。そして、防湿体14の内部空間33の体積は減少するので、封止後の内部空間33の内圧は上昇する。また、Al箔のピンホールなどにより防湿体14の封止が破られている場合、防湿体14の変位がないため、封止されているか否かを工程内で確認することができる。
【0041】
その後、接合体15の凝固をさらに促進するため、製品全体を40度以上の炉で加熱放置する。加熱時間は40度で10時間以上、80度で1時間以上など温度や接着剤に応じて調整する。
【0042】
以上の工程を経て、放射線検出器10のいわゆるモジュールの部分が完成する。このモジュールは、その後の工程で、アレイ基板11に回路基板28が電気接続されるとともに、筐体に組み込まれ、放射線検出器10が完成する。
【0043】
なお、放射線検出器10の輸送時においては、航空機による輸送が想定されるが、この場合、放射線検出器10は0.7気圧の大気に晒されることになる。このとき、例えば、防湿体14の内部空間33の圧力が仮に1気圧であるとした場合、防湿体14の外側の圧力と内側の圧力との差圧により、防湿体14の内部空間33の気体が膨張し、防湿体14は膨れ上がり、アレイ基板11が破壊されるおそれがある。そのため、防湿体14の膨張を防止するためには、防湿体14の内部空間33の圧力は0.7気圧以下に維持することが好ましい。
【0044】
そして、放射線検出器10において、反射層13がシンチレータ層12に成膜または塗布によって形成されるものであると、反射層13がシンチレータ層12の柱間に侵入し、解像度を下げるが、シート状の反射層13を用いることにより、反射層13がシンチレータ層12の柱間に侵入することがなく、解像度特性を改善できる。
【0045】
さらに、シート状の反射層13を用いた場合、反射層13が移動する可能性があるが、固定体16で反射層13を防湿体14に固定しているため、反射層13が移動するのを規制できる。そのため、製造工程における真空槽内を真空引きする際などに、反射層13が画素21上から外れて解像度が低下することや、反射層13が接合体15に触れて汚染するのを防ぐことができる。
【0046】
また、反射層13の一部に黒点やむらなどによる欠陥がある場合には、取得した画像データの欠陥の位置を補正位置として欠陥補正処理している。この場合、シート状の反射層13が防湿体14に固定されていない状態であると、反射層13の欠陥の位置が補正位置から移動し、欠陥補正処理が正常にできないが、固定体16によって反射層13を防湿体14に固定していることにより、反射層13の欠陥の位置が補正位置から移動せず、欠陥補正処理ができる。
【0047】
また、固定体16は、光電変換素子24上から外れた位置にあることにより、X線を入射した際の取得画像に影響が出ることを防ぐことができる。
【0048】
さらに、固定体16は、50μm以下の均一な厚みであることにより、X線を入射した際の取得画像に影響が出ることを防ぐことができる。
【0049】
さらに、固定体16は、反射層13を防湿体14に粘着固定する粘着層であり、反射層13または防湿体14から剥離した状態でも粘着力を維持することが好ましい。すなわち、粘着層の粘着力がある程度弱く、反射層13を防湿体14から剥離した後も粘着層の粘着力が維持していることが好ましい。このように、粘着力がある程度弱い粘着層であることにより、防湿体14上の反射層13の位置が適正でないために反射層13を貼り直す場合や、反射層13に欠陥があったために交換する場合に、反射層13や防湿体14を損傷させずに、反射層13を剥離することが可能になる。また、反射層13を防湿体14から剥離した後も粘着力が維持していることにより、粘着層を再利用できるため、粘着層を除去する必要がなくなり、粘着層の除去時における反射層13や防湿体14の変形や変質を防げるとともに、再度、粘着層を形成する工数を削減することができる。
【0050】
また、防湿体14は、外側の大気圧よりも内側の圧力が低く、外側の大気圧と内側の圧力との差圧により反射層13およびシンチレータ層12に押し付けられるように変位し、反射層13をシンチレータ層12に密着させている。そのため、シンチレータ層12と反射層13との間の光の散乱が抑えられ、放射線検出器10の解像度特性を改善できる。
【0051】
このように、外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14により反射層13をシンチレータ層12に押し付けている場合、押し付けていない状態と比較して解像度の向上が見込まれる。そして、反射層13のシンチレータ層12への押し付けによる解像度の向上を確認するために、下記の条件でサンプルを作製し、比較評価を行った。
【0052】
サンプル1:CsIのシンチレータ層12の上にシート状の反射層13を配置し、内部を真空引きせずに防湿体14を設けた。
【0053】
サンプル2:CsIのシンチレータ層12の上にシート状の反射層13を配置し、内部を真空引きして防湿体14を設けた。
【0054】
サンプル1およびサンプル2とも、共通で、シンチレータ層12には厚さ600μmの柱状構造結晶CsIを、反射層13にはPET樹脂にTiO2が分散された厚さ0.19mmのシートを用いた。
【0055】
サンプル1、サンプル2において、シンチレータ層12の単独のCTF(Contrast Transfer Function)(1)と防湿体14の形成後のCTF(2)を測定し、(2)/(1)を計算することにより、解像度の変化を測定した。
【0056】
サンプル1においては(2)/(1)=0.693、サンプル2においては(2)/(1)=0.790という結果が得られた。この結果から、外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14により反射層13をシンチレータ層12に押し付けていることにより、解像度が向上することが示された。
【0057】
また、外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14により反射層13をシンチレータ層12に押し付けているため、反射層13が移動するのを規制できる。そのため、反射層13の一部に黒点やむらなどによる欠陥がある場合でも、反射層13の欠陥の位置が補正位置から移動せず、欠陥補正処理ができる。
【0058】
そして、外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14により反射層13をシンチレータ層12に押し付けていることにより、反射層13がシンチレータ層12に対して移動せず、つまり反射層13の欠陥の位置が移動しないことを確認した。
【0059】
確認方法としては、油性ペンを用いてXマークをつけた反射層13を用いて、図1のような放射線検出器10のモジュールを作成し、このモジュールに対して60度と-20度の温度サイクルを30サイクル繰り返し、Xマークの座標変化を確認する方法をとった。その結果、Xマークの座標変化は確認できなかった。
【0060】
外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14によりシート状の反射層13をシンチレータ層12に押し付けていることにより、反射層13がシンチレータ層12に対して移動せず、つまり反射層13の欠陥の位置が移動しないことが示された。
【0061】
そして、固定体16でシート状の反射層13を防湿体14に固定していること、外側の大気圧と内側の圧力との差圧で変位した防湿体14によりシート状の反射層13をシンチレータ層12に押し付けていることの相乗作用により、反射層13がシンチレータ層12に対して移動せず、反射層13の一部に黒点やむらなどによる欠陥がある場合でも、反射層13の欠陥の位置が補正位置から移動せず、欠陥補正処理ができる。
【0062】
なお、固定体16は、粘着層に限らず、接着層でもよく、あるいは機械的な固定手段でもよい。
【0063】
また、反射層13は、固定体16を用いず、防湿体14の内面に形成された反射面でもよい。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10 放射線検出器
11 基板であるアレイ基板
12 シンチレータ層
13 反射層
14 防湿体
16 固定体
24 光電変換素子
図1
図2
図3
図4