(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】システム同定装置及びシステム同定方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220224BHJP
【FI】
G05B23/02 P ZHV
(21)【出願番号】P 2017094099
(22)【出願日】2017-05-10
【審査請求日】2020-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】長村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】八田羽 謙一
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-073707(JP,A)
【文献】特開2015-224919(JP,A)
【文献】杉浦文音 ほか,ヒステリシス特性を考慮したリチウムイオン二次電池のモデリング,第57回自動制御連合講演会,日本,2014年11月10日,p.1439-1442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線形要素と非線形要素とを含むシステムを同定するシステム同定装置であって、
前記システムに対して入力される、第1入力と、前記第1入力との間に所定の関係を有する第2入力とを生成する生成部と、
前記システムから、前記第1入力に対応する第1出力と、前記第2入力に対応する第2出力とを取得する取得部と、
前記非線形要素が前記入力に対して斉次なシステムである場合に、前記第1出力と前記第2出力との差分信号に基づいて、前記システムの前記線形要素を同定する制御部と
を備え
、
前記所定の関係が以下の式
【数1】
によって表され、u1は前記第1入力を表す関数であり、u2は前記第2入力を表す関数であり、tは時刻であり、αは実数であり、dは斉次性の次数であるシステム同定装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記差分信号において前記非線形要素に係る出力が消去されるように、前記第1入力と前記第2入力とを生成する、請求項
1に記載のシステム同定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記線形要素の同定結果に基づいて、前記非線形要素を同定する、請求項
1又は2に記載のシステム同定装置。
【請求項4】
線形要素と非線形要素とを含むシステムを同定する
システム同定装置が実行するシステム同定方法であって、
前記システム同定装置が、前記システムに対して入力される、第1入力と前記第1入力との間に所定の関係を有する第2入力とを生成するステップと、
前記システム同定装置が、前記システムから、前記第1入力に対応する第1出力と、前記第2入力に対応する第2出力とを取得するステップと、
前記システム同定装置が、前記非線形要素が前記入力に対して斉次なシステムである場合に、前記第1出力と前記第2出力との差分信号に基づいて、前記システムの前記線形要素を同定するステップと
を含
み、
前記所定の関係が以下の式
【数2】
によって表され、u1は前記第1入力を表す関数であり、u2は前記第2入力を表す関数であり、tは時刻であり、αは実数であり、dは斉次性の次数である、システム同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システム同定装置及びシステム同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線形要素と非線形要素とを含むシステムを同定する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
システムに含まれる線形要素と非線形要素とが同時に同定される場合、それぞれの要素が個別に同定される場合と比較して、互いの要素が影響を及ぼしうる。線形要素と非線形要素とが互いに影響を及ぼすことによって、システム同定の精度が向上されにくい。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、システム同定の精度を向上させうるシステム同定装置及びシステム同定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の観点に係るシステム同定装置は、
線形要素と非線形要素とを含むシステムを同定するシステム同定装置であって、
前記システムに対して入力される、第1入力と前記第1入力との間に所定の関係を有する第2入力とを生成する生成部と、
前記システムから、前記第1入力に対応する第1出力と、前記第2入力に対応する第2出力とを取得する取得部と、
前記第1出力と前記第2出力との差分信号に基づいて、前記システムの前記線形要素を同定する制御部と
を備える。
【0007】
上記課題を解決するために、第2の観点に係るシステム同定方法は、
線形要素と非線形要素とを含むシステムを同定するシステム同定方法であって、
前記システムに対して入力される、第1入力と前記第1入力との間に所定の関係を有する第2入力とを生成するステップと、
前記システムから、前記第1入力に対応する第1出力と、前記第2入力に対応する第2出力とを取得するステップと、
前記第1出力と前記第2出力との差分信号に基づいて、前記システムの前記線形要素を同定するステップと
を含む。
【発明の効果】
【0008】
第1の観点に係るシステム同定装置によれば、システム同定の精度が向上されうる。
【0009】
第2の観点に係るシステム同定方法によれば、システム同定の精度が向上されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るシステム同定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】入力の例を示すグラフである。(A)第1入力(B)第2入力。
【
図4】一実施形態に係るシステム同定方法の例を示すフローチャートである。
【
図5】バッテリのモデルを近似する等価回路の一例を示す回路図である。
【
図6】バッテリのモデルを近似する等価回路の一例を示す回路図である。
【
図7】バッテリのSOC-OCV特性の一例を示すグラフである。
【
図8】システム同定の例を示すグラフである。(A)入力(B)線形要素に係る出力(C)非線形要素に係る出力。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示されるように、一実施形態に係るシステム同定装置1は、線形要素22と非線形要素24とを含む対象システム2に入力を与え、対象システム2から出力を取得する。対象システム2の入力及び出力はそれぞれ、u(t)及びy(t)で表されるものとする。システム同定装置1は、制御部10と、記憶部12と、生成部14と、取得部16とを備える。
【0012】
制御部10は、システム同定装置1の各構成部と接続され、各構成部を制御する。制御部10は、例えばプロセッサとして構成されてよい。制御部10は、記憶部12に、各構成部を動作させるためのプログラム等を格納してよい。
【0013】
記憶部12は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部12は、制御部10のワークメモリとして機能してよい。記憶部12は、制御部10に含まれてよい。
【0014】
生成部14は、対象システム2に与える入力を生成する。入力は、信号として表されるものとする。入力を表す信号は、入力信号ともいう。生成部14は、例えばプロセッサとして構成されてよく、制御部10に含まれてもよい。
【0015】
取得部16は、対象システム2からの出力を取得する。出力は、信号として表されるものとする。出力を表す信号は、出力信号ともいう。取得部16は、例えばプロセッサとして構成されてよく、制御部10に含まれてもよい。
【0016】
対象システム2は、入力信号に応じた出力信号を生成する。u(t)で表される入力信号は、システム同定装置1から入力され、線形要素22及び非線形要素24のそれぞれに入力される。線形要素22及び非線形要素24はそれぞれ、入力信号に応じた信号を出力する。線形要素22及び非線形要素24のそれぞれから出力された信号は、加算され、y(t)で表される出力信号となり、システム同定装置1に出力される。
【0017】
対象システム2において、u(t)に対する線形要素22の応答を表すy
L(t)は、以下の式(1)で表されるものとする。
【数1】
G(p)は、伝達関数である。pは、微分オペレータである。
【0018】
対象システム2において、u(t)に対する非線形要素24の応答を表すy
n(t)は、以下の式(2)及び式(3)で表されるものとする。
【数2】
x(t)は、対象システム2の状態変数である。f(・)及びg(・)は、所定の関数である。
【0019】
対象システム2の出力信号を表すy(t)は、以下の式(4)で表されるものとする。
【数3】
【0020】
本実施形態に係るシステム同定装置1は、u(t)とy(t)とに基づいて、G(p)で表される伝達関数を推定しうる。
【0021】
非線形要素24は、入力に対して斉次なシステムであるものとする。式(2)及び式(3)によって表されるシステムが入力に対して斉次なシステムである場合、以下の式(5)が成り立つものとする。
【数4】
α及びdは、実数である。dは、斉次性の次数ともいう。
【0022】
入力に対して斉次なシステムは、入力に対応する変数の次数が同じ次数となっている多項式で表されてよい。入力に対応する変数の次数が同じ次数となっている多項式は、斉次多項式ともいう。例えば、システムを表す多項式の各項にuが含まれ、u2等の他の次数の項が含まれない場合、システムは、d=1の入力斉次なシステムであるといえる。システムを表す多項式の各項にu2が含まれ、u又はu3等の他の次数の項が含まれない場合、システムは、d=2の入力に対して斉次なシステムであるといえる。
【0023】
入力に対して斉次なシステムの応答は、2つの異なる入力に対する応答の差分をとることによって、消去されうる。例えば、u1(t)で表される第1入力と、u2(t)で表される第2入力とが対象システム2に入力されると仮定する。第2入力は、第1入力との間に所定の関係を有するものとする。対象システム2にu1(t)が入力されるときの対象システム2からの出力である第1出力は、y1(t)で表されるものとする。対象システム2にu2(t)が入力されるときの対象システム2からの出力である第2出力は、y2(t)で表されるものとする。
【0024】
u
1(t)とu
2(t)との間に成り立つ所定の関係は、以下の式(6)で表される関係であるものとする。
【数5】
【0025】
式(6)が成り立つ場合、u
1(t)及びu
2(t)はそれぞれ、
図2(A)及び
図2(B)に例示されるようなグラフとなりうる。
図2(A)において、u
1(t)は、時刻(t)が0から1までの範囲で定義され、0から1までの値をとる。
図2(B)において、u
2(t)は、時刻(t)が0から1/α
dまでの範囲で定義され、0からα
dまでの値をとる。つまり、u
2(t)は、u
1(t)に対して、1/α
d倍の時間軸と、α
d倍の値とを有する。
【0026】
対象システム2にu
1(t)が入力されるときの非線形要素24に含まれる状態変数は、x
1(t)で表されるものとする。対象システム2にu
2(t)が入力されるときの非線形要素24に含まれる状態変数は、x
2(t)で表されるものとする。x
1(t)及びx
2(t)について、以下の式(7)が成り立つものとする。
【数6】
【0027】
非線形要素24にu
1(t)が入力されるときの非線形要素24からの出力は、y
n,1(t)で表されるものとする。非線形要素24にu
2(t)が入力されるときの非線形要素24からの出力は、y
n,2(t)で表されるものとする。式(6)及び式(7)が成り立つ場合、y
n,1(t)とy
n,2(t)との間には、以下の式(8)で表される関係が成り立つ。
【数7】
【0028】
線形要素22にu1(t)が入力されるときの線形要素22からの出力は、yL,1(t)で表されるものとする。y1(t)は、yL,1(t)とyn,1(t)との和である。線形要素22にu2(t)が入力されるときの線形要素22からの出力は、yL,2(t)で表されるものとする。y2(t)は、yL,2(t)とyn,2(t)との和である。
【0029】
以下の式(9)で表される差分信号が計算されうる。
【数8】
【0030】
図3に示されるように、y
2(t)の時間軸は、y
1(t)の時間軸に対して1/α
d倍となっている。式(9)は、y
2(t)の時間軸がy
1(t)の時間軸に合わせるように伸縮されることを示している。
【0031】
式(8)が成り立つ場合、式(9)からy
n,1(t)の項とy
n,2(t)の項とが消去される。つまり、入力に対して斉次なシステムである非線形要素24に係る出力が消去される。非線形要素24に係る出力が消去される結果、以下の式(10)で表されるように、線形要素22の出力だけで表される関係が導かれる。
【数9】
【0032】
式(10)は、以下の式(11)のようにも表されうる。
【数10】
G’(p)は、G(p)のpとして、α
dpを代入したものである。つまり、G’(p)=G(α
dp)である。
【0033】
システム同定装置1は、式(6)に基づいて第1入力及び第2入力を生成し、各入力に応じた出力の差分信号を計算しうる。システム同定装置1は、差分信号と第1入力とを式(11)に適用することによって、G(p)で表される伝達関数を計算しうる。
【0034】
システム同定装置1は、例えば
図4のフローチャートに示される処理によって、対象システム2を同定しうる。
【0035】
システム同定装置1は、生成部14によって第1入力(u1(t))を生成し、第1入力を対象システム2に印加する(ステップS1)。システム同定装置1は、制御部10によって、第1入力を記憶部12に格納してよい。
【0036】
システム同定装置1は、取得部16によって、第1入力に応じた対象システム2からの第1出力(y1(t))を取得する(ステップS2)。取得部16は、第1出力を、所定のサンプリング時刻で、N回にわけて取得するものとする。Nは、適宜決められうる数である。所定のサンプリング時刻は、等間隔で設定されてよいし、異なる間隔で設定されてよい。取得部16は、第1出力をN回にわけて取得することによって、N個のデータからなるデータセットを取得する。第1出力のデータセット(Y1)は、Y1=y1(tk)で表されるものとする。kは、N以下の自然数である。tkは、k回目にデータを取得した時刻である。システム同定装置1は、制御部10によって、第1出力のデータセットを記憶部12に格納してよい。
【0037】
システム同定装置1は、ステップS1の処理とステップS2の処理とを並行して実行し、N個のデータを取得するまで処理を繰り返す。システム同定装置1は、N個のデータを取得後、ステップS3に進む。
【0038】
システム同定装置1は、生成部14によって第2出力(u2(t))を生成し、第2入力を対象システム2に印加する(ステップS3)。生成部14は、u1(t)とu2(t)との関係が式(6)を満たすように、ステップS1で生成した第1入力に基づいて、第2入力を生成する。生成部14は、非線形要素24に係る出力が消去されるように、第1入力と第2入力とを生成するともいえる。第1出力と第2出力との間に成り立つ所定の関係は、非線形要素24に係る出力が消去されるように定められる関係であるともいえる。システム同定装置1は、制御部10によって、第2入力を記憶部12に格納してよい。
【0039】
システム同定装置1は、取得部16によって、第2入力に応じた対象システム2からの第2出力(y2(t))を取得する(ステップS4)。取得部16は、第2出力を、所定のサンプリング時刻で、N回にわけて取得するものとする。Nは、第1出力を取得した回数と同じ数とされる。所定のサンプリング時刻は、第1出力を取得したサンプリング時刻に基づいて設定される。第1出力の各データを取得したサンプリング時刻がtkである場合、第2出力を取得するサンプリング時刻は、tk/αdに設定される。第2出力のデータセット(Y2)は、Y2=y2(tk/αd)で表されるものとする。kは、N以下の自然数である。システム同定装置1は、制御部10によって、第2出力のデータセットを記憶部12に格納してよい。
【0040】
システム同定装置1は、ステップS3の処理とステップS4の処理とを並行して実行し、N個のデータを取得するまで処理を繰り返す。システム同定装置1は、N個のデータを取得後、ステップS5に進む。
【0041】
システム同定装置1は、制御部10によって、第1出力のデータセット(Y1)と第2出力のデータセット(Y2)との差分信号を算出する(ステップS5)。制御部10は、1~Nの各kについて、y1(tk)とy2(tk/αd)との差を計算し、e(tk)で表される差分信号を算出する。つまり、制御部10は、e(tk)=y1(tk)-y2(tk/αd)を計算して、差分信号を算出する。
【0042】
システム同定装置1は、制御部10によって、差分信号と第1出力とに基づいて伝達関数を算出し、対象システム2の線形要素22を同定する(ステップS6)。伝達関数は、パラメータ(θ)によってパラメトライズされる場合、G^(p,θ)で表されるものとする。この場合、制御部10は、以下の式(12)及び式(13)によって示される評価関数(J(θ))を最小化するパラメータ(θ)を同定することによって、伝達関数を同定しうる。
【数11】
【0043】
システム同定装置1は、制御部10によって、ステップS6の処理で同定した線形要素22と、第1出力とに基づいて、非線形要素24を同定する(ステップS7)。制御部10は、第1出力のデータセットから、同定した線形要素22に対応する応答成分を消去したデータセットを生成し、当該データセットと第1出力とに基づいて非線形要素24を同定してよい。言い換えれば、制御部10は、y1(t)-G^(p)u1(t)の計算結果とu1(t)とに基づいて非線形要素24を同定してよい。
【0044】
制御部10は、線形要素22の同定結果と第2出力とに基づいて、非線形要素24を同定してもよい。制御部10は、第2出力のデータセットから、同定した線形要素22に係る出力を消去したデータセットを生成してよい。制御部10は、線形要素22に係る出力を消去したデータセットと第2出力とに基づいて非線形要素24を同定してよい。言い換えれば、制御部10は、y2(t)-G^(p)u2(t)の計算結果とu2(t)とに基づいて非線形要素24を同定してよい。
【0045】
システム同定装置1は、ステップS7の処理の後、
図4のフローチャートの処理を終了してよいし、ステップS1に戻って処理を繰り返してもよい。
【0046】
本実施形態に係るシステム同定装置1は、複数の入力信号を入力し、各入力信号に応じた出力信号に基づいて、システムを同定しうる。複数の入力信号が所定の関係を有することによって、システム同定の精度が向上されうる。対象システム2の非線形要素24が入力に関する斉次多項式で表される場合、システム同定装置1は、対象システム2の出力から非線形要素24に係る出力を消去しやすくなる。対象システム2の出力から非線形要素24に係る出力が消去されるように所定の関係が定められる場合、システム同定装置1は、対象システム2の出力から非線形要素24に係る出力を消去しやすくなる。
【0047】
システム同定において、非線形要素24を含むシステムの同定は、線形要素22のみを含むシステムの同定よりも複雑となることがある。非線形要素24を含むシステムの同定精度は、線形要素22のみを含むシステムの同定精度よりも低くなることがある。システム同定装置1は、非線形要素24に係る出力が消去された出力信号に基づいて線形要素22を同定することによって、非線形要素24を含む出力信号に基づいて同定する場合と比較して、線形要素22の同定精度を向上しうる。システム同定装置1は、精度よく同定した線形要素22に基づいて非線形要素24を同定することによって、非線形要素24の同定精度を向上しうる。
【0048】
システムを同定する際に、システムの状態変数等の値が初期値として仮定されうる。状態変数の真値と仮定された初期値との間の差異が大きい場合、非線形要素24に係る出力の誤差が大きくなりうる。非線形要素24に係る出力の誤差が大きい場合、非線形要素24を含むシステムの同定の精度は、さらに低くなりうる。システム同定装置1は、状態変数の真値と仮定された初期値との間の差異が大きい場合でも、非線形要素24に係る出力を消去することによって、線形要素22の同定精度を向上しうる。
【0049】
[バッテリのパラメータ推定]
本実施形態に係るシステム同定装置1は、対象システム2がバッテリである場合、バッテリのパラメータ推定装置として機能しうる。以下、対象システム2がバッテリであるものとする。入力信号は、バッテリの充放電電流に対応する。この場合、生成部14は、電流を出力可能な電源装置として構成されてよいし、電源装置の電流を制御するように構成されてよい。出力信号は、バッテリの端子電圧に対応する。この場合、取得部16は、電圧センサとして構成されてよいし、電圧センサからバッテリの端子電圧の測定値を取得するように構成されてよい。
【0050】
バッテリの内部状態は、バッテリのヒステリシス特性と、バッテリの開回路電圧と、バッテリに対する充放電電流に応じて発生する過電圧とを含むモデルによって表されうる。開回路電圧は、OCV(Open Circuit Voltage)ともいう。OCVは、バッテリの電気化学的平衡状態における電極間の電位差である。OCVは、バッテリに充放電電流が流れない場合におけるバッテリの端子電圧に対応する。過電圧は、バッテリの内部インピーダンスで生じる電圧降下の大きさに対応する。
【0051】
バッテリの内部状態を表すモデルは、
図5及び
図6で示されるようなバッテリ等価回路で近似されうる。バッテリ等価回路で近似されたモデルは、バッテリモデルともいう。
図5において、バッテリの内部インピーダンスは、カウエル型回路で近似されている。
図6において、バッテリの内部インピーダンスは、フォスタ型回路で近似されている。
【0052】
図5及び
図6において、バッテリ等価回路に入力される充放電電流は、u(t)として示される。u(t)が付された矢印は、バッテリを充電する電流の向きを表す。バッテリを充電する電流が流れる場合、u(t)は正の値となるものとする。バッテリから放電電流が流れる場合、u(t)は負の値となるものとする。u(t)に対応して内部インピーダンスで生じる過電圧は、η(t)と表される。
【0053】
図5及び
図6において、バッテリ等価回路の端子電圧は、y(t)として示される。y(t)が付された矢印の先端側の端子は、バッテリの正極端子に対応するものとする。y(t)は、バッテリのOCVと過電圧との和で表される。
【0054】
バッテリのOCVは、電圧源201で表される。電圧源201が出力する電圧は、OCVが時刻(t)の関数であることを示すようにOCV(t)で表される。OCVは、バッテリの充電率の関数として表されうる。バッテリの充電率は、SOC(State Of Charge)ともいう。SOCとOCVとの間の関係は、SOC-OCV特性といわれる。SOC-OCV特性は、例えば
図7に示されるグラフで表されうる。
図7の横軸及び縦軸はそれぞれ、SOC及びOCVを示す。SOC-OCV特性は、予め実験等によって求められうる。SOCがx
ch(t)と表される場合、
図7に示されるような特性は、静的な非線形関数fOCV(・)を用いて、式(14)のように表されうる。
【数12】
【0055】
x
ch(t)は、バッテリの満充電容量(Full Charge Capacity)を表すCを用いて、式(15)のように表される。
【数13】
【0056】
SOC-OCV特性は、ヒステリシス特性を有することがある。ヒステリシス特性を有するSOC-OCV特性は、充電時の特性と放電時の特性とが異なる。充電時のOCVと放電時のOCVとの差は、ヒステリシス電圧として表されうる。バッテリがヒステリシス特性を有する場合、電圧源201が出力する電圧は、ヒステリシス電圧を表すh(t)とOCV(t)との和となる。
【0057】
バッテリがヒステリシス特性を有する場合、バッテリ等価回路の端子電圧を表すy(t)は、式(16)のように表される。
【数14】
【0058】
ヒステリシス電圧は、例えばPlettによるヒステリシスモデルによれば、式(17)のように表される。
【数15】
γは、ヒステリシス電圧の減衰速度を指定する正数である。mは、ヒステリシス電圧の最大値を表す。Plettによるヒステリシスモデルについては、例えば、以下の文献が参照されうる。
G. L. Plett: “Extended Kalman filtering for battery management systems of LiPB-based HEV battery packs Part 2. Modeling and identification”, Journal of Power Sources 134 (2004) 262-276
【0059】
過電圧は、バッテリの内部インピーダンスとバッテリの充放電電流とで表される。内部インピーダンスが線形システムの伝達関数としてG
η(p)で表される場合、過電圧は、以下の式(18)のように表される。
【数16】
【0060】
内部インピーダンスが
図5に示されるカウエル型回路で近似される場合、G
η(p)は、以下の式(19)、式(20)及び式(21)で表される。
【数17】
ここで、nは自然数である。R
0、R
d及びτ
dは、バッテリのパラメータである。
【0061】
図5及び
図6に示されるバッテリ等価回路で近似されるバッテリのモデルは、システム同定装置1の同定対象となる対象システム2と対応づけられうる。バッテリのOCVとヒステリシス電圧との和は、対象システム2の非線形要素24に対応づけられうる。バッテリのモデルのうち、非線形要素24に対応づけられる要素は、バッテリ非線形要素ともいう。バッテリの過電圧は、対象システム2の線形要素22に対応づけられうる。バッテリのモデルのうち、線形要素22に対応づけられる要素は、バッテリ線形要素ともいう。式(19)~(21)に含まれるR
0、R
d及びτ
dは、線形要素22に含まれる伝達関数をパラメトライズするパラメータ(θ)に含まれうる。
【0062】
バッテリ非線形要素は、以下の式(22)及び式(23)のように表されうる。
【数18】
【0063】
式(22)によれば、バッテリ非線形要素は、α>0においてd=1の入力(u(t))に対して斉次なシステムであるといえる。本実施形態に係るシステム同定装置1は、例えば
図4のフローチャートに示される処理によって、端子電圧のデータからバッテリ非線形要素の応答を消去しうる。バッテリ非線形要素の応答が消去されることによって、システム同定装置1は、バッテリ線形要素である過電圧の応答を用いて、G
η(p)を同定しうる。
【0064】
以下、バッテリのモデルのパラメータを同定するシミュレーションの例が説明される。
【0065】
システム同定装置1は、生成部14によってu
1(t)とu
2(t)とを生成し、バッテリのモデルに入力する。u
1(t)は、
図8(A)のグラフに例示される信号であるものとする。u
2(t)は、
図8(A)に例示されるu
1(t)に対して式(6)の関係が成り立つ信号であるものとする。
【0066】
システム同定装置1は、取得部16によってバッテリのモデルから出力を取得する。バッテリのモデルの出力は、
図8(B)に示される過電圧(η)と、
図8(C)に示されるOCVと、ヒステリシス電圧とを含む。システム同定装置1は、実際には、出力から直接過電圧、OCV、及びヒステリシス電圧を分けて取得できない。
図8(B)及び
図8(C)に示される過電圧及びOCVの波形は、シミュレーションの結果として取得されうる。
【0067】
図8(B)に示されるように、u
1(t)に対応する出力であるy
1(t)に含まれる過電圧(η)の波形(実線)と、u
2(t)に対応する出力であるy
2(t/α
d)に含まれる過電圧(η)の波形(破線)とは、異なっている。一方で、
図8(C)に示されるように、y
1(t)に含まれるOCVの波形と、y
2(t/α
d)に含まれるOCVの波形とは一致している。図示されていないが、y
1(t)に含まれるヒステリシス電圧の波形と、y
2(t/α
d)に含まれるヒステリシス電圧の波形とは、OCVの波形と同様に、一致している。つまり、非線形要素24に係る出力は、y
1とy
2とで一致する。
【0068】
システム同定装置1は、
図8(B)及び
図8(C)に例示された波形を含む出力に基づいて、差分信号を算出しうる。非線形要素24に係る出力がy
1とy
2とで一致することから、差分信号は、非線形要素24に係る出力を含まない。つまり、本実施形態に係るシステム同定装置1及びシステム同定方法によれば、非線形要素24に係る出力が消去されうることがシミュレーションによって確認された。
【0069】
非線形要素24に係る出力が消去された後、線形要素22に係る出力に基づいて、過電圧に係るパラメータが同定されうる。シミュレーションでは、例えば、式(19)に含まれるR0の推定値の平均がR0の真値と一致することが確かめられた。
【0070】
本実施形態に係るシステム同定装置1は、バッテリのパラメータ推定装置として、電気自動車又はハイブリッド電気自動車等の車両に用いられてよい。
【0071】
本開示に係る実施形態について諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部およびステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 システム同定装置
10 制御部
12 記憶部
14 生成部
16 取得部
2 対象システム
22 線形要素
24 非線形要素