(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】油脂含有食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/007 20060101AFI20220224BHJP
A23L 9/20 20160101ALN20220224BHJP
【FI】
A23D9/007
A23L9/20
(21)【出願番号】P 2017116271
(22)【出願日】2017-06-13
【審査請求日】2020-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2016119004
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】特許業務法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
(72)【発明者】
【氏名】奥田 瑛史
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 正治
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/044854(WO,A1)
【文献】特開昭64-029487(JP,A)
【文献】特開昭64-023850(JP,A)
【文献】特開昭64-023849(JP,A)
【文献】製品カタログ「FLORITE R フローライト R」,富田製薬株式会社,2012年 6月, [online], [令和3年2月19日検索],インターネット<URL: http://www.tomitaph.co.jp/products/data/catalog/florite.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D,A23L,C01B
CAPlus/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャイロライト型ケイ酸カルシウムを
0.5~1質量%添加することを特徴とする油脂含有食品の保形性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸カルシウムを含有する油脂含有食品及びその製造方法に関する。
【0002】
また本発明は、ケイ酸カルシウムを添加することによる油脂含有食品の保形性向上方法、及びケイ酸カルシウムを含有することを特徴とする油脂含有食品用保形性向上剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ホイップクリーム等の油脂含有食品は、形状(例えば、クリームによる花形のデコレーション)の変化が生じやすいという課題を有する。
従来、ホイップクリームの保形性を維持するために、増粘多糖類等を安定剤に使用することが行われている。例えば、安定剤として、ヒドロキシプロピルセルロースを使用することが知られており、モノグリセリン脂肪酸エステルやジグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどの乳化剤と併用して使用することが知られている(特許文献1、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第3806605号
【文献】欧州特許第354356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように特定の増粘多糖類等を使用することを特徴とする技術は、併用する増粘多糖類等の種類によっては効果が得られなかったり、使用する増粘多糖類等の種類が限定されていることから幅広い物性の食品を調製できなかったりする。
そこで本発明は、上記のような課題を有さない、保形性が向上した油脂含有食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、油脂含有食品にケイ酸カルシウムを0.05~10質量%含有させることにより、油脂含有食品の保形性を向上させることができるという知見を得た。
【0007】
すなわち本発明は、以下のケイ酸カルシウムを含有する油脂含有食品に関する。
項1.ケイ酸カルシウムを0.05~10質量%含有することを特徴とする油脂含有食品。
項2.ケイ酸カルシウムを0.05~10質量%添加することを特徴とする油脂含有食品の製造方法。
項3.ケイ酸カルシウムを0.05~10質量%添加することを特徴とする油脂含有食品の保形性向上方法。
項4.ケイ酸カルシウムを含有することを特徴とする油脂含有食品用保形性向上剤。
項5.項4に記載の油脂含有食品用保形性向上剤を含有する油脂含有食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂含有食品の保形性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂含有食品において使用される油脂としては、食用油脂であれば特に制限されず、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、米油、コーン油、サフラワー油、椿油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、ココナッツ油、キャノーラ油、小麦胚芽油、エゴマ油、シソ油等の植物性油脂;乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂;及びこれらを加工した食用油脂等を挙げることができる。融点の低い油脂を使用して調製した油脂含有食品は保形性が特に低くなるが、本発明によれば融点の低い油脂を使用した場合であっても保形性の高い油脂含有食品を調製することができる。
【0010】
本発明の油脂含有食品における油脂の含量は、通常5~90質量%であり、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0011】
本発明が対象とする油脂含有食品は、上記の油脂を含有し、保形性が求められるものであれば特に制限されず、例えば、加工油脂類、乳製品類及びその代替品、ソース類、ルウ類、チョコレート類、畜肉水産加工食品類等が挙げられる。
【0012】
本発明にいう「加工油脂類」は、例えば、油脂を主成分として加工されるマーガリン、ファットスプレッド、バター、ショートニング等が挙げられる。
本発明にいう「乳製品類その代替品」は、例えば、乳原料を用いて調製されるホイップクリーム、アイスクリーム、ソフトクリーム、チーズ、ヨーグルト等の乳製品類はもとより、乳原料を用いず調製される合成クリームや、チーズ様食品が挙げられる。
本発明にいう「ソース類」としては、例えば、ホワイトソース、クリームソース、マヨネーズ等が挙げられる。
本発明にいう「ルウ類」としては、例えば、カレールウ、ハヤシルウ、シチュールウ等が挙げられる。
本発明にいう「チョコレート類」としては、例えば、スイートチョコレート、ブラックチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート等が挙げられる。
本発明にいう「畜肉水産加工食品類」としては、例えば、つくね、ハンバーグ、ミートボール、ミートローフ、テリーヌ、ソーセージ、ウインナー、餃子、しゅうまい、肉饅頭、魚肉ソーセージ、つみれ等が挙げられる。
【0013】
ケイ酸カルシウムとは二酸化ケイ素と酸化カルシウムが結合した化合物である。本発明で使用するケイ酸カルシウムは、食品に使用できるものであれば特に制限されず、食品添加物公定書(第8版)に記載の基準を満たすものを使用できる。本発明においては、好ましくはジャイロライト型結晶構造を有するケイ酸カルシウム(ジャイロライト型ケイ酸カルシウム)を使用することが望ましい。市販のジャイロライト型ケイ酸カルシウムとしては、例えば「フローライト PS-10」(富田製薬株式会社製)が挙げられる。
【0014】
本発明では、油脂含有食品にケイ酸カルシウムを通常0.01~10質量%、好ましくは0.05~2質量%、より好ましくは0.1~1.5質量%、更に好ましくは0.5~1質量%含有させることにより、保形性が向上した油脂含有食品を調製することができる。ケイ酸カルシウムの含量が0.01質量%を下回ると保形性の向上効果を十分に得られない場合があり、10質量%を上回ると食感のざらつきが生じる場合がある。
【0015】
本発明の油脂含有食品の製造方法は、油脂含有食品中のケイ酸カルシウムの含量が上記の範囲になるようにケイ酸カルシウムを添加する以外は特に制限されず、対象とする油脂含有食品の公知の製造方法に従って調製できる。
【0016】
また、本発明は、ケイ酸カルシウムを含有する油脂含有食品用保形性向上剤に関する。前記保形性向上剤の剤形、併用成分、及び前記保形性向上剤におけるケイ酸カルシウムの含量は特に制限されない。また、油脂含有食品における前記保形性向上剤の添加量は特に制限されないが、油脂含有食品中のケイ酸カルシウムの含量が上記の範囲になるように前記保形性向上剤を添加することが好ましい。
【0017】
さらに本発明によれば、例えばルウ類のように食品原料として利用される油脂含有食品ではなく、そのまま喫食される油脂含有食品を対象とする場合、油脂含有食品に好ましい食感を付与することができる。例えば、乳製品類及びその代替品、ソース類等を対象とする場合、油脂含有食品の食感のなめらかさが向上する。また、例えば、畜肉水産加工食品等を対象とする場合、油脂含有食品の食感の弾力が向上する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0019】
実験例1 合成クリームの調製
表1及び2の処方に従って油脂含有食品として合成クリームを調製した。具体的には、パーム油にその他の原料(粉体)を添加し、室温(20℃)にて10分間撹拌した。その後、容器(直径70mm、高さ25mm)に充填し、20℃にて24時間静置した。
【0020】
【表1】
(※1)「パインデックス♯1」(松谷化学工業株式会社製)
(※2)「フローライト PS-10」(富田製薬株式会社製)
(※3)「Aerosil 200FAD」(日本エアロジル株式会社製)
(※4)「パインフロー」(松谷化学工業株式会社製)
(※5)「Cavamax W6」(三菱化学フーズ株式会社製)
(※6)「KCフロックW-300G」(日本製紙株式会社製)
【0021】
【0022】
上記で調製した合成クリームの保形性を評価した。具体的には、下記<保形性の評価方法>に記載の条件により、合成クリームの最大応力(N/cm2)を測定した。結果を表3に示す。
<保形性の評価方法>
被験試料を直径70mm、高さ25mmの容器に充填し、テクスチャーアナライザー(テクスチャーアナライザーTA-XT-2i[Stable Micro Systems社製])を使用して、直径11mm、高さ40mmのステンレス製のプランジャーを用いて、20℃、圧縮速度1mm/s、クリアランス10mmの条件で最大応力(N/cm2)を測定する。この時の最大応力(N/cm2)の数値が高いほど、保形性が高いと評価する。
【0023】
また、上記で調製した合成クリームの食感について、下記評価基準に基づき官能評価を行なった。結果を表3に示す。
○:比較例1-1を比べて、食感のなめらかさが優れている。
△:比較例1-1と同等の食感を有する。
×:比較例1-1と比べて、食感のなめらかさが劣っている。
【0024】
【0025】
ケイ酸カルシウムの代わりに、微粒二酸化ケイ素、デキストリン類(デキストリン、顆粒デキストリン、シクロデキストリン)又はセルロースを使用した比較例1-2~1-19は、比較例1-1と比べて飛躍的な最大応力(N・cm2)の増加は見られず、保形性の向上は確認できなかった。また、ケイ酸カルシウムの代わりにデキストリン類又はセルロースを使用した比較例1-4~1-19は、比較例1-1と比べて食感のなめらかさが劣り、ざらつきを有する食感であった。
一方、ケイ酸カルシウムを含有する実施例1-1及び1-2では、ケイ酸カルシウム含量が少量にもかかわらず、比較例1-1と比べて飛躍的に最大応力(N・cm2)が増大し、保形性の向上が確認された。また、実施例1-1及び1-2は、食感にざらつきがなく、比較例1-1と比べて食感のなめらかさが優れていた。
【0026】
実験例2 ハンバーグの調製
表4の処方に従い、油脂含有食品としてハンバーグを調製した。具体的には、全原料を混合し、成型(80g/個)した後、180℃で片面1分間ずつ焼成し、90℃のスチームでハンバーグの中心温度が80℃になるまで加熱した。その後、室温(20℃)にて1時間静置した。
【0027】
【表4】
(※7)「サンライク(登録商標) ブイヨンベース(ビーフ)」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
(※8)「サンライク(登録商標) ビーフエンハンサーVF-173」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
(※9)「サンライク(登録商標) スパイスミックス BW-1」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
(※10)「アートフレッシュ(登録商標) NO.101」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)
【0028】
上記で調製したハンバーグを喫食し、官能評価を行なった。
また、上記で調製したハンバーグの保形性を評価した。具体的には、加熱前後のハンバーグの高さを測定し、下記(式1)により、ハンバーグの保形率(%)を算出した。
(式1)
保形率(%)=加熱後のハンバーグの高さ(mm)/加熱前のハンバーグの高さ(mm)×100
この時の保形率(%)が高いほど、保形性が高いと評価する。結果を表4に示す。
【0029】
ケイ酸カルシウムを含有する実施例2は、ケイ酸カルシウムを含有しない比較例2と比べて保形率が高く、保形性の向上が確認された。また、実施例2は、比較例2と比べて弾力のある食感を有していた。