(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】熱線遮蔽粒子分散液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20220224BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220224BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220224BHJP
C09D 7/45 20180101ALI20220224BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20220224BHJP
C01G 19/00 20060101ALI20220224BHJP
C09K 23/14 20220101ALI20220224BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20220224BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/45
C09D5/32
C01G19/00 A
B01F17/14
B01F17/52
C09K3/00 105
(21)【出願番号】P 2017130830
(22)【出願日】2017-07-04
【審査請求日】2020-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高谷 愛
(72)【発明者】
【氏名】中川 猛
(72)【発明者】
【氏名】田崎 和樹
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-091953(JP,A)
【文献】特開2017-025117(JP,A)
【文献】特開2017-117632(JP,A)
【文献】特開2009-072985(JP,A)
【文献】特開2003-327917(JP,A)
【文献】特開2007-320780(JP,A)
【文献】特開2007-056264(JP,A)
【文献】特開2011-219611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C01G 19/00
C09K 3/00,23/14,23/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱線遮蔽性能を有するITO粒子と水を60質量%以上含む溶媒と分散剤を含む熱線遮蔽粒子分散液であって、
前記ITO粒子がBET比表面積が20m
2/g以上であって、Lab表色系においてL値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有し、前記分散液100質量%に対して1~90質量%含まれ、
前記溶媒が前記熱線遮蔽粒子分散液からこの分散液より加熱残分を除いた成分であって、前記分散液100質量%に対して6.1~99.0質量%含まれ、
前記分散剤がリン酸エステル系分散剤、ポリグリセリン系分散剤、ポリビニルピロリドン系分散
剤及びポリアクリレート系分散剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の分散剤であり、
前記分散剤が前記ITO粒子を100質量部とするとき前記分散剤の有効成分で0.05~80質量部含まれることを特徴とする熱線遮蔽粒子分散液。
【請求項2】
ITO粒子濃度0.3質量%の前記熱線遮蔽粒子分散液を光路長1mmのガラスセルに入れて測定をしたときにヘーズ5%以下、波長1200nm透過率60%以下、可視光透過率が85%以上である請求項1記載の熱線遮蔽粒子分散液。
【請求項3】
熱線遮蔽性能を有するITO粒子と水を60質量%以上含む溶媒と分散剤とを混合して熱線遮蔽粒子分散液を製造する方法であって、
前記ITO粒子がBET比表面積が20m
2/g以上/gであって、Lab表色系においてL値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有し、
前記溶媒が前記熱線遮蔽粒子分散液からこの分散液より加熱残分を除いた成分であり、
前記分散剤がリン酸エステル系分散剤、ポリグリセリン系分散剤、ポリビニルピロリドン系分散
剤及びポリアクリレート系分散剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の分散剤であり、
前記分散液100質量%に対して前記ITO粒子を1~90質量%、前記溶媒を6.1~99.0質量%それぞれ含むように、かつ前記分散剤を前記ITO粒子を100質量部とするとき前記分散剤の有効成分で0.05~80質量部含むように混合することを特徴とする熱線遮蔽粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の熱線遮蔽粒子分散液或いは請求項3記載の方法により製造された熱線遮蔽粒子分散液を用いて熱線遮蔽用塗料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建材等の透明部分に塗布する熱線遮蔽用塗料に用いられる熱線遮蔽粒子分散液及びその製造方法に関する。更に詳しくはITO粒子が水分散した熱線遮蔽粒子分散液及びその製造方法に関するものである。本明細書において、熱線とは赤外線をいい、ITOとはインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide)をいう。
【背景技術】
【0002】
従来、熱線遮蔽用塗料に用いられる熱線遮蔽粒子分散液として、溶剤系分散液が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、この溶剤系分散液が、BET比表面積が40m2/g以上であって、濃青色の色調を有するITO粉末を蒸留水、トリエチレングリコール-2-エチルヘキサノエート、無水エタノール、リン酸ポリエステル、2-エチルヘキサン酸、2,4-ペンタンジオンの混合液に入れて分散させることにより調製されることが示される。この分散液によれば、ITO粒子濃度0.7~1.2質量%の分散液を光路長1mmのガラスセルに入れて測定をしたときに日射透過率60%以下、可視光透過率が85%以上、ヘーズ0.5%以下であるとされる。
【0003】
また溶媒中に、平均粒子径が3~60nmであって微粒子全体の重量の0.5~10重量%の有機配位子が配位しているITO微粒子(a)を0.1~50重量%含み、構造単位中に酸素、窒素、硫黄のいずれかを含有し重量平均分子量が10,000~200,000の高分子化合物であってこの高分子化合物を膜とした際にシート抵抗が1×107Ω/□以下である導電性高分子(b)を0.001~5重量%含むことを特徴とする透明導電膜用塗工液が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2の実施例9~10には、クエン酸を配位子に有する平均粒子径9.6nmのITO微粒子に水を添加した後、重量平均分子量が100,000のポリチオフェン系ポリマー/イソプロパノール分散液を添加混合して透明導電膜用塗工液(実施例9:(a)成分1.5重量%、(b)成分0.05重量%、実施例10:(a)成分1.5重量%、(b)成分0.15重量%)を調製することが記載され、この調製した透明導電膜用塗工液をポリカーボネートフィルム基材に塗工し、透明導電膜を形成したところ、これらの透明導電膜は塗工膜の基材への密着性が高く、光線透過率88.5%(実施例9)、86.0%(実施例10)、ヘイズ3.5%(実施例9)、4.9%(実施例10)、シート抵抗750Ω/□(実施例9)、670Ω/□(実施例10)であり、透明導電膜として十分に高い光学特性と導電特性を有することが記載されている。
【0004】
また少なくとも2個以上の極性官能基を有する分子において1又は2個の極性官能基が遊離形であり、他の少なくとも1個以上の極性官能基は保護基で保護されている分子からなる分散剤で被覆されている、有機溶媒分散性粒子が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この特許文献3の有機溶媒分散性粒子は安定に水に分散させることが可能であって、特許文献3の実施例1~4には、クロロホルムに懸濁させた酸化鉄にDMSO溶液を添加して撹拌してクロロホルム分散性の磁性ナノ粒子(有機溶媒分散性粒子)を得た後、塩化水素溶液(実施例1)、水酸化ナトリウム溶液(実施例2)、メチルアミン-メタノール溶液(実施例3)又はヒドラジン1水和物(実施例4)を加えて激しく撹拌し、水相に磁性ナノ粒子を移動させることにより、水分散性を有する磁性ナノ粒子水溶液が得られることが記載されている。
【0005】
更に二酸化クロム、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、三酸化二クロムのような1次粒子の数平均粒径が0.01~10μmの金属酸化物粒子(A)、水性液体(B)及びリン原子含有化合物である凝集防止剤(C)を含んでなる金属酸化物粒子分散体が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この特許文献4には、凝集防止剤(C)として、リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、リン酸エステル、ホスホン酸、ジホスホン酸、トリホスホン酸、テトラホスホン酸、ペンタホスホン酸、モノホスホン酸、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸、ジホスフィン酸、モノホスフィン酸又はこれらの塩が示され、金属酸化物粒子(A)と凝集防止剤(C)との含有重量比(A:C)が100:0.01~50であることが示される。この金属酸化物粒子分散体によれば、分散安定性(凝集防止性)に優れるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-116623号公報(請求項1、請求項2、段落[0045]~段落[0053])
【文献】特開2015-003942号公報(請求項1、段落[0151]~段落[0154])
【文献】特開2008-127241号公報(請求項1、段落[0021]、段落[0043]~段落[0051])
【文献】特開2011-219611号公報(請求項1、請求項3、請求項5、請求項6、段落[0001]、段落[0002]、段落[0009])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される分散液は、日射透過率60%以下、可視光透過率が85%以上、ヘーズ0.5%以下であり、高い透明性を備えているけれども、溶剤系分散液であるため、分散液の製造過程、使用過程、廃液処理過程で環境や人体に配慮する必要がある問題点があった。特許文献2に示される透明導電膜用塗工液は、水系分散液であるため、特許文献1の問題点は解消されるが、分散液が単純なITO微粒子と水とを混合してなる分散液ではなく、ITO微粒子全体を有機配位子を配位させる必要があり、また導電性高分子と混合する煩わしさがあった。
【0008】
特許文献3に示される磁性ナノ粒子水溶液は、水系分散液であるため、特許文献1の問題点は解消されるが、ナノ粒子の分散剤の保護基を脱離するための煩わしい工程を必要とした。特許文献4に示される金属酸化物粒子分散体は、水系分散液であるため、特許文献1の問題点は解消されるが、金属酸化物粒子に酸化クロムや酸化鉄のような磁性粒子を用いて水性塗料や水性インクのための意匠性印刷や磁性インクの用途に供されるため、熱線を遮蔽する用途には適しない。
【0009】
本発明の目的は、熱線カット効果に優れ、高い可視光線透過率と透明性を有する熱線遮蔽粒子分散液を提供することにある。本発明の別の目的は、簡便な方法で、熱線遮蔽粒子分散液を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、熱線遮蔽性能を有するITO粒子と、水を60質量%以上含む溶媒と、分散剤を含む熱線遮蔽粒子分散液であって、前記ITO粒子がBET比表面積が20m2/g以上であって、Lab表色系においてL値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有し、前記分散液100質量%に対して1~90質量%含まれ、前記溶媒が前記熱線遮蔽粒子分散液からこの分散液より加熱残分を除いた成分であって、前記分散液100質量%に対して6.1~99.0質量%含まれ、前記分散剤がリン酸エステル系分散剤、ポリグリセリン系分散剤、ポリビニルピロリドン系分散剤及びポリアクリレート系分散剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の分散剤であり、前記分散剤が前記ITO粒子を100質量部とするとき前記分散剤の有効成分で0.05~80質量部含まれることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に係る発明であって、ITO粒子濃度0.3質量%の前記熱線遮蔽粒子分散液を光路長1mmのガラスセルに入れて測定をしたときにヘーズ5%以下、波長1200nm透過率60%以下、可視光透過率が85%以上である熱線遮蔽粒子分散液である。
【0012】
本発明の第3の観点は、熱線遮蔽性能を有するITO粒子と水を60質量%以上含む溶媒と分散剤とを混合して熱線遮蔽粒子分散液を製造する方法であって、前記ITO粒子がBET比表面積が20m2/g以上/gであって、Lab表色系においてL値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有し、前記溶媒が前記熱線遮蔽粒子分散液からこの分散液より加熱残分を除いた成分であり、前記分散剤がリン酸エステル系分散剤、ポリグリセリン系分散剤、ポリビニルピロリドン系分散剤及びポリアクリレート系分散剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の分散剤であり、前記分散液100質量%に対して前記ITO粒子を1~90質量%、前記溶媒を6.1~99.0質量%それぞれ含むように、かつ前記分散剤を前記ITO粒子を100質量部とするとき前記分散剤の有効成分で0.05~80質量部含むように混合することを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の観点は、第1又は第2の観点の熱線遮蔽粒子分散液或いは第3の観点の方法により製造された熱線遮蔽粒子分散液を用いて熱線遮蔽用塗料を製造する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の熱線遮蔽粒子分散液は、水系分散液であるため、特許文献1に示される溶剤系分散液と比較して、分散液の製造過程、使用過程、廃液処理過程での環境や人体への影響が軽微である。また特許文献2に示される水系分散液は、導電性高分子を含むため、透明性と導電性を有するが、熱線遮蔽性に劣る。また特許文献3及び4に示される水系分散液は、分散する粒子が磁性粒子であって粒子の分散性又は凝集防止性を有するが、熱線遮蔽性に劣る。これに対して、第1の観点の熱線遮蔽粒子分散液は、BET比表面積が20m2/g以上あって、Lab表色系においてL値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有するITO微粒子と、60質量%以上の水を含む所定量の溶媒と、ITO粒子に対して所定量含有する所定の分散剤とを混合してなるため、水系分散液であるにも拘わらず、溶剤系分散液と同程度の熱線カット効果に優れ、高い可視光線透過率と透明性を有する。
【0015】
本発明の第2の観点の熱線遮蔽粒子分散液は、ITO粒子濃度0.3質量%の前記熱線遮蔽粒子分散液を光路長1mmのガラスセルに入れて測定をしたときにヘーズ5%以下、波長1200nm透過率60%以下、可視光透過率が85%以上であるため、熱線カット効果に優れ、高い可視光線透過率と透明性を有する。
【0016】
本発明の第3の観点の製造方法では、特許文献2のようにITO微粒子全体を有機配位子を配位させる工程を要することなく、また特許文献3のようにナノ粒子の分散剤の保護基を脱離する工程を要することなく、BET比表面積が20m2/g以上の所定のITO微粒子と、60質量%以上の水を含む溶媒と、所定の分散剤とを、分散液又はITO粒子に対して、所定の含有量で混合するという簡便な方法で熱線遮蔽粒子分散液を製造することができる。
【0017】
本発明の第4の観点の熱線遮蔽用塗料の製造方法によれば、第1又は第2の観点の熱線遮蔽粒子分散液或いは第3の観点の方法により製造された熱線遮蔽粒子分散液を用いて熱線遮蔽用塗料が得られ、この塗料で塗膜を形成すれば、熱線カット効果に優れ、高い可視光線透過率と透明性を有する塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
〔熱線遮蔽粒子分散液〕
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液は、熱線遮蔽性能を有するITO粒子と水を60質量%以上含む溶媒と分散剤を含む。このITO粒子は、BET比表面積が20m2/g以上、好ましくは40~75m2/gであって、Lab表色系においてL値50以下、好ましくはL値30以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有する。BET法比表面積が20m2/g未満であると、ITO粒子濃度0.3質量%の熱線遮蔽粒子分散液を光路長1mmのガラスセルに入れて測定(以下、光路長1mmの測定という。)をしたときにヘーズが高くなり膜の透明性が低くなる。ヘーズを低くするためにITO粒子の膜中の含有量を減少させると、熱線遮蔽性能が悪化する。BET比表面積が20m2/g未満では、ITO粒子が大きくなり過ぎ、透明性及びヘーズを低くすることができない。好ましいBET法比表面積である75m2/gを超えると、所定の分散剤の添加量でITO粒子を混合した場合、ITO粒子の分散が不十分となり、かえってヘーズが悪くなり易い。BET比表面積は柴田科学社の装置(SA-1100)を用いて測定される。このITO粒子は、Lab表色系において、L値50以下、a<0、b<0の青色又は濃い青色を帯びた色調を有することにより、熱線遮蔽性能に優れる。上記L値、a、bはスガ試験機社のカラーコンピュータ(SM-T)を用いて測定される。ITO粒子は、熱線遮蔽粒子分散液100質量%に対して1~90質量%、好ましくは5~60質量%含まれる。1質量%未満では、ITO粒子の濃度が低すぎて、ITO粒子の分散が十分に進まない。また90質量%を超えると、分散液が高粘度になり分散が進まない。
【0020】
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の溶媒は、水を60質量%以上、好ましくは90~100質量%含む。水は、蒸留水、イオン交換水等の純水である。水以外に含まれる溶媒としては、炭素数が1~3のアルコールが好ましい。具体的には、このアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等が挙げられる。本実施形態のアルコールは、1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。この溶媒は熱線遮蔽粒子分散液からこの分散液より加熱残分を除いた成分であって分散液100質量%に対して6.1~99.0質量%、好ましくは28.0~91.0質量%含まれる。溶媒の含有量が6.1質量%未満では、分散液の粘度が高すぎてITO粒子が分散しない。99.0質量%を超えると、溶媒以外の他の成分の添加量が減少し、他の成分を含む効果を発揮しない。ここで、加熱残分とは、JIS K5601-1-2(塗料成分試験方法-第1部:通則-第2節:加熱残分)に準拠して求められる成分をいい、本実施形態では、ITO粒子と分散剤の有効成分を合算した成分をいう。水の含有量が60質量%未満では、アルコールの含有量が相対的に増加し、分散液が揮発し易くなる。
【0021】
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液の分散剤は、水溶性の水系分散剤であって、リン酸エステル系分散剤、ポリグリセリン系分散剤、ポリビニルピロリドン系分散剤、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物系分散剤及びポリアクリレート系分散剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の分散剤である。このような分散剤は商業的に入手することができ、例えば、リン酸エステル系分散剤としては、プライサーフA212C、プライサーフA208N、プライサーフA219B、プライサーフM208F(以上、第一工業製薬社製)、ディスパロンAQ-330、ディスパロンAQ-320、(以上、楠元化成社製)、ソルスパース41000(ルーブリゾール社製)、DISPERBYK・110、DISPERBYK・111(以上、ビックケミー(BYK)社製)、フォスファノールRE・610、フォスファノールML-200、フォスファノールML-220、フォスファノールBH-650、フォスファノールRA-600、フォスファノールRD・510Y、フォスファノールRD・720N、フォスファノールRS-610、フォスファノールRS-710(以上、東邦化学工業社製)、ライトエステルP-1M、ライトエステルP-2M(以上、共栄社化学社製)、アデカコールPS-440E、アデカコールPS-810E、アデカコールTS-230E(以上、ADEKA社製)、リン酸エチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル等が例示される。ポリグリセリン系分散剤としては、SYグリスターMCA-750、SYグリスターML-750、SYグリスターMM-750(以上、阪本薬品工業社製)、ポエム J-0021、J-0381V(以上、理研ビタミン株式会社)等が例示される。ポリビニルピロリドン(PVP)系分散剤としては、ピッツコールK-30L、ピッツコールK-50、ピッツコール K-85(第一工業製薬社製)、ポリビニルピロリドンK-30W(日本触媒社製)等が例示される。ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン縮合物系分散剤としては、アデカプルロニックL-64、アデカプルロニックL-71、アデカプルロニックL-101(以上、ADEKA社製)等が例示される。ポリアクリレート系分散剤としては、DESPERBYK-2013、DESPERBYK-2015、DESPERBYK-191、DESPERBYK-194N(ビックケミー社製)等が例示される。
【0022】
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液におけるITO粒子に対する分散剤の含有割合は、ITO粒子を100質量部とするとき分散剤がその有効成分で0.05~80質量部、好ましくは1~60質量部である。ここで、分散剤の有効成分とは分散に寄与する成分を意味し、加熱成分からITO粒子成分を除いた量と同等の成分(分散剤を加熱硬化した後の固形分)である。分散剤の有効成分の含有割合が下限値の0.05質量部未満では、ITO粒子が均一に分散せず、上限値の80質量部を超えると、分散剤は水などの溶媒に比べ高粘度となるため、分散剤の添加量が多すぎると分散初期から高粘度となり、分散が進まない。また、ITO粒子の枯渇凝集を生じる不具合がある。
【0023】
〔熱線遮蔽粒子分散液の製造〕
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液は、上記水を60質量%以上含む溶媒と上記分散剤の混合して分散剤水溶液を調製し、この分散剤水溶液に上記ITO粒子を添加し、撹拌することにより製造される。撹拌は室温の分散剤水溶液にITO粒子を添加する。これによりITO粒子は一次粒子の形態で均一に分散し透明な分散液となる。攪拌機としては、ビーズミル、ペイントシェーカー、自転・公転ミキサー等が挙げられる。分散液100質量%に対してITO粒子を0.3~90質量%、溶媒を6.1~99.7質量%それぞれ含むように、かつ分散剤をITO粒子を100質量部とするとき分散剤の有効成分で0.05~80質量部含むように混合することにより、熱線遮蔽粒子分散液が製造される。
【0024】
〔熱線遮蔽用塗料の製造〕
本実施形態の熱線遮蔽粒子分散液を用いて熱線遮蔽用塗料を製造することができる。例えば、水性UV硬化樹脂と重合開始剤とイオン交換水を混合し、重合開始剤を完全に溶解させた後、その溶液に本実施形態で得られた分散液を混合することにより、熱線遮蔽用塗料を製造することができる。
【実施例】
【0025】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。以下に示す実施例34、35及び実施例46、47、48は実施例ではなく、参考例である。
【0026】
〔9種類のITO粒子〕
本発明の実施例1~50及び比較例1~7に用いられる9種類のITO粒子を表1に示す。表1には、BET比表面積が20~40m2/g未満で、Lab表色系におけるL値が40~50、a<0、b<0で、色調が濃青色であるITO粒子をNo.M-1~No.M-3で示し、BET比表面積が40m2/g以上、Lab表色系におけるL値が20~30、a<0、b<0で、色調が濃青色であるITO粒子をNo.S-1~No.S-5で示す。本発明の範囲外のBET比表面積が20m2/g未満で、Lab表色系におけるL値が70、aが-3.0、bが-5.0で、色調が薄青色のITO粒子をNo.Lで示す。
【0027】
【0028】
〔11種類の分散剤〕
本発明の実施例1~50及び比較例1~7に用いられる11種類の分散剤を表2に示す。表2から明らかなように、リン酸エステル系分散剤として、No.1a:ディスパロンAQ-320(楠元化成社製)、No.1b:ソルスパース41000(ルーブリゾール社製)、No.1c:プライサーフA212C(第一工業製薬社製)、No.1d:リン酸エチル(東京化成工業社製)を用いた。ポリグリセリン系分散剤として、No.2:SYグリスターMCA-750(坂本薬品工業社製)を用いた。ポリビニルピロリドン系分散剤として、No.3:ピッツコール K-30L(第一工業製薬社製)を用いた。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物系分散剤として、No.4a:アデカプルロニックL-64(ADEKA社製)、No.4b:アデカプルロニックL-101(ADEKA社製)を用いた。ポリアクリレート系分散剤として、No.5:DESPERBYK-2013(ビックケミー社社製)を用いた。比較のため、本発明の分散剤でない分散剤として、No.6:縮合ナフタレンスルホン酸アンモニウム塩系分散剤のローマPWA-40K(サンノブコ社製)及びNo.7:スルホコハク酸ナトリウム塩系分散剤のNuosperse2006(エレメンティス社製)を用いた。
【0029】
【0030】
<実施例1>
ITO粒子として、No.S-3のITO粒子を用い、分散剤として、No.1aのディスパロンAQ-320(楠元化成社製)を用いた。この分散剤を室温のイオン交換水と混合して分散剤水溶液を調製し、この分散剤水溶液に上記No.S-3のITO粒子を添加し、撹拌機であるビーズミルにて分散し、熱線遮蔽粒子分散液を得た。このときITO粒子を100質量部とするときの分散剤の含有割合は0.05質量部であり、分散液100質量%に対するITO粒子の含有割合は20質量%であり、溶媒中の水の含有割合は100質量%であり、溶媒の含有割合は分散液100質量%に対して79.99質量%であった。この熱線遮蔽粒子分散液の内容を表3に示す。
【0031】
<実施例2~50、比較例1~7>
表1及び表2に示す種類のITO粒子と分散剤の中から、以下の表3~表5に示すように、実施例2~50と比較例1~7のITO粒子及び分散剤をそれぞれ選定した。また実施例1と同じ撹拌機を用いて、表3~表5に示すようにITO粒子を100質量部とするときの分散剤の含有割合、分散液100質量%に対するITO粒子の含有割合、溶媒中の水の含有割合及び分散液100質量%に対する溶媒の含有割合を決めた。実施例29では、溶媒のうち40質量%をエタノール、残りの60質量%を水とした。また実施例50では、分散剤としてNo.2とNo.3の双方を用いた。No.2の分散剤:No.3の分散剤の質量比は2:1であった。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
<比較試験と評価>
実施例1~50及び比較例1~7で得られた熱線遮蔽粒子分散液を試料として、各試料のヘーズ、波長1200nmの透過率及び可視光透過率を以下の方法で測定した。これらの測定結果を表3~表5に示す。
【0036】
(1)ヘーズ
各試料中のITO粒子の濃度が0.3質量%になるようにイオン交換水で試料を希釈し、この希釈した分散液をヘーズコンピュータ(スガ試験機社製 HZ-2)により、JIS規格(JIS K 7136)に従って測定した。
【0037】
(2)波長1200nmの透過率及び可視光透過率
ヘーズを測定した試料と同様に試料を希釈した分散液を光路長1mmのガラスセルに入れ、積分球式分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 UH4150)により、JIS規格(JIS R 3106)に従って、波長1200nmの透過率及び可視光透過率を測定した。
【0038】
表5から明らかなように、比較例1では、No.LのITO粒子を用い、そのBET値が18.0m2/gと小さくL値が70.0と大きかったため、ヘーズが11.2%と高く、可視光線透過率も82.3%と低く、十分な透明性が得られなかった。
【0039】
比較例2及び比較例3では、分散剤としてNo.6及びNo.7の本発明の分散剤以外の分散剤を使用したため、ITO粒子が均一に分散せず、分散液の評価ができなかった。
【0040】
比較例4では、分散剤として本発明の分散剤を用いても、その分散剤がITO粒子に対して0.001質量%と少な過ぎて、ITO粒子の分散が十分に進まず、ヘーズが5.8%と高く、可視光線透過率も84.5%と低く、十分な透明性が得られなかった。
【0041】
比較例5では、分散剤として本発明の分散剤を用いても、その分散剤がITO粒子に対して90質量部と多過ぎると、分散液が高粘度になり過ぎてITO粒子の分散が進まないため、良好な分散液にならず、ヘーズが6.11%と高く、可視光線透過率が83.3%と低く、十分な透明性が得られなかった。
【0042】
比較例6では、分散液に対して、ITO粒子が0.5質量%と少な過ぎ、ITO粒子が十分に分散せず分散液の評価ができなかった。
【0043】
比較例7では、分散液に対して、ITO粒子が93質量%と多過ぎ、かつ溶媒が6.07質量%と少な過ぎたため、高粘度となり分散液の評価ができなかった。
【0044】
これに対して、表3及び表4から明らかなように、実施例1~50では、第1の観点及び第3の観点に規定する要件を備えたITO粒子、溶媒及び分散剤を用いて分散するため、高い透明性と、熱線遮蔽性能を有する熱線遮蔽粒子分散液を作製することができる。このときITO粒子はNo.S-1~No.S-5の種類のものを用いると、より優れた熱線遮蔽性能を持たせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱線遮蔽粒子分散液は、自動車、建材等の透明部分に塗布する熱線遮蔽用塗料に利用することができる。