(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】複列自動調心ころ軸受および飛出し止め治具
(51)【国際特許分類】
F16C 23/08 20060101AFI20220224BHJP
F16C 19/40 20060101ALI20220224BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
F16C23/08
F16C19/40
F16C43/04
(21)【出願番号】P 2017160074
(22)【出願日】2017-08-23
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017003895
(32)【優先日】2017-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼古 一将
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴志
(72)【発明者】
【氏名】井上 靖之
(72)【発明者】
【氏名】堀 径生
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-207517(JP,A)
【文献】特開2013-44374(JP,A)
【文献】特開2004-245251(JP,A)
【文献】特開2004-108429(JP,A)
【文献】特開2001-65574(JP,A)
【文献】特開2005-61594(JP,A)
【文献】特開2007-100937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 23/08,19/38,33/58,35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状である複列自動調心ころ軸受であって、
前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なり、
前記内輪および前記外輪のいずれか一方または両方における幅面に取付孔が設けられ、この取付孔に、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止する飛出し止め治具を取付可能であることを特徴とする複列自動調心ころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記取付孔はねじ孔である複列自動調心ころ軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複列自動調心ころ軸受において、風力発電装置の主軸の支持に用いられる複列自動調心ころ軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記各列のころをそれぞれ保持する保持器を備え、各保持器は、各列のころの軸方向内側の端面を案内する環状の円環部と、この円環部から軸方向に延び且つ円周方向に沿って定められた間隔置きに設けられた複数の柱部とを備え、これら柱部間に前記ころを保持するポケットが設けられ、アキシアル荷重を受ける列のころを保持する一方の保持器は、前記柱部の外径面が基端側から先端側に向かうに従って半径方向内方に傾斜する傾斜角度を有する複列自動調心ころ軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記各ころは、ころ転動面にDLC被膜を有する複列自動調心ころ軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記各ころは、ころ転動面の端部にクラウニングを有する複列自動調心ころ軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記内輪は、この内輪の外周面における前記2列のころ間に設けられ前記2列のころを案内する中つばと、前記外周面の両端にそれぞれ設けられ各列のころの軸方向外側の端面に臨む小つばとを備え、前記内輪は、前記各小つばのうち、アキシアル荷重を受ける列のころの軸方向外側の端面に臨む小つばに、前記ころを軸受内に挿入する入れ溝を備えた複列自動調心ころ軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記内輪と前記外輪の幅方向寸法が同一である、複列自動調心ころ軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受において、前記内輪の一端における幅面と、前記外輪の他端における幅面のみに前記取付孔が設けられている、複列自動調心ころ軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項
9のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受をハウジングに組み込む方法であって、前記飛出し止め治具により、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止した状態で前記ハウジングに組み込む複列自動調心ころ軸受の組込方法。
【請求項11】
内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なる複列自動調心ころ軸受における、前記内輪および前記外輪の少なくともどちらか一方の幅面に設けられた取付孔に取り付けられる飛出し止め治具であって、
前記内輪および前記外輪の軸受幅方向同じ側の幅面にそれぞれ当てられる当て材と、前記取付孔に挿入されて、前記当て材を前記内輪および前記外輪のうちの前記取付孔が設けられた軌道輪に固定する固定具とを有する飛出し止め治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受幅方向に並ぶ2列のころに不均等な荷重が負荷される用途、例えば風力発電装置や産業機械の主軸を支持する軸受等に適用される複列自動調心ころ軸受、および飛出し止め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の主軸を支持する軸受には、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重の他に、風力によるアキシアル荷重が作用する。主軸支持用の軸受が
図16に示すような複列自動調心ころ軸受41である場合、内輪42と外輪43との間に介在する2列のころ44,45のうち、主にアキシアル荷重Faに対して後ろ側となる一方の列のころ45だけがアキシアル荷重Faを受ける。つまり、一方の列のころ45がラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受けるのに対し、他方の列のころ44はほぼラジアル荷重だけを受ける。このため、アキシアル荷重を受ける列のころ45は、ラジアル荷重だけを受ける列のころ44と比べて接触面圧が大きくなり、ころ45の転動面および外輪43の軌道面43aの表面損傷や摩耗が生じやすく、転がり寿命が短い。よって、アキシアル荷重を受けるころ45の列の転がり寿命により、軸受全体の実質寿命が決定される。
【0003】
上記課題に対して、
図17に示す複列自動調心ころ軸受51のように、内輪52と外輪53との間に介在する2列のころ54,55の長さL1,L2を互いに異ならせることで、アキシアル荷重を受ける列のころ55の負荷容量を、アキシアル荷重を殆ど受けない列のころ54の負荷容量よりも大きくすることが提案されている(特許文献1)。各列のころ54,55の負荷容量が適切な大きさとなるようにころ長さL1,L2を設定することにより、各列のころ54,55の転がり寿命がほぼ同じになり、軸受全体の実質寿命を向上させることができる。
【0004】
また、
図18に示す複列自動調心ころ軸受61のように、内輪62と外輪63との間に介在する2列のころ64,65の接触角θ1,θ2を互いに異ならせ、接触角θ2が大きい方のころ65で大きなアキシアル荷重を受けられるようにし、かつ接触角θ1が小さい方のころ65で大きなアキシアル荷重を受けられるようにした提案がされている(特許文献2)。各列のころ64,65の負荷容量が適切な大きさとなるように接触角θ1,θ2を設定することにより、各列のころ64,65の転がり寿命がほぼ同じになり、軸受全体の実質寿命を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/050038号パンフレット
【文献】米国特許第2014/0112607号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図17のように左右の列でころ54,55の形状が互いに異なる複列自動調心ころ軸受51や、
図18のように左右の列のころ64,65の接触角θ1,θ2が互いに異なる複列自動調心ころ軸受61は、軸受幅方向の重心と軸受幅方向の中心位置とが一致しない。このため、バランスが悪く、軸受組立時や他の装置への組込時に、勝手に調心動作を行うことがあり、取扱いに注意を払う必要がある。例えば
図19に示すように、内輪2と外輪3とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪3の幅面3b,3cよりも内輪2の幅面2d,2cが軸受幅方向に飛び出す。ころ4,5は内輪2と共に動作する。
図19は左右の列のころ4,5の接触角θ1,θ2が互いに異なる複列自動調心ころ軸受1を示すが、左右の列でころの形状が互いに異なる複列自動調心ころ軸受も同様の動作をする。
【0007】
クレーンを用いて行う複列自動調心ころ軸受の組立時や他の装置への組込時に、前記の勝手な調心動作を防ぐには、内輪と外輪の両方をクレーンで吊るす方法や、内輪および外輪の片方または両方に錘を取り付けてバランスをとる方法等がある。しかし、前者の方法は作業に手間がかかり、後者の方法は安定性に欠けるという問題がある。このため、一般的には、特別の対策をとることなく、単に複列自動調心ころ軸受が調心動作をしないように作業者が注意を払いながら慎重に作業をしていた。
【0008】
この発明の目的は、アキシアル荷重およびラジアル荷重を受け、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用する用途で用いるのに適し、軸受組立時や他の装置に組み込む際に、勝手に調心動作を行うことを防止できる複列自動調心ころ軸受を提供することである。
この発明の他の目的は、複列自動調心ころ軸受を安全にかつ効率良く他の装置に組み込むことができる組込方法を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、複列自動調心ころ軸受の組立時や他の装置への組込時に用いることで、複列自動調心ころ軸受の内輪と外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止することができる飛出し止め治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の複列自動調心ころ軸受は、内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であって、
前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なり、
前記内輪および前記外輪のいずれか一方または両方における幅面に取付孔が設けられ、この取付孔に、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止する飛出し止め治具を取付可能であることを特徴とする。
【0010】
この複列自動調心ころ軸受は、2列のころの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なっているため、各列のころの負荷容量が異なる。この複列自動調心ころ軸受を、アキシアル荷重およびラジアル荷重が作用する条件下で用いる場合、負荷容量が大きい方のころでアキシアル荷重のほぼすべてとラジアル荷重の一部を負担させ、負荷容量が小さい方のころでラジアル荷重の残りを負担させる。このような分担割合で2列のころでアキシアル荷重とラジアル荷重を分担して負担することにより、両列のころの接触面圧を均等にすることができる。これにより、軸受全体で大きな負荷容量を確保すると共に、軸受全体の実質寿命を向上することができる。
【0011】
この複列自動調心ころ軸受の組立時や他の装置への組込時には、内輪および外輪のうちのどちらか一方に設けられた取付孔に飛出し止め治具を取り付ける。この状態では、内輪と外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことが防止されるので、軸受組立作業や組込作業を安全にかつ効率良く行うことができる。
【0012】
この発明において、前記取付孔はねじ孔であるとよい。
取付孔がねじ孔であると、飛出し止め治具を容易にかつ堅固に取り付けることができる。
【0013】
この複列自動調心ころ軸受は、風力発電装置の主軸の支持に適する。
風力発電装置の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受には、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重、および風力によるアキシアル荷重が作用する。軸受幅方向に並ぶ2列のころのうち片方のころ列はラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受け、もう片方の列のころは殆どラジアル荷重だけを受ける。その場合、アキシアル荷重を受ける列のころは負荷容量が大きい方のころとし、殆どラジアル荷重だけを受ける列のころは負荷容量が小さい方のころとすることで、左右各列のころの接触面圧をほぼ均等にすることができる。
【0014】
前記各列のころをそれぞれ保持する保持器を備え、各保持器は、各列のころの軸方向内側の端面を案内する環状の円環部と、この円環部から軸方向に延び且つ円周方向に沿って定められた間隔置きに設けられた複数の柱部とを備え、これら柱部間に前記ころを保持するポケットが設けられ、アキシアル荷重を受ける列のころを保持する一方の保持器は、前記柱部の外径面が基端側から先端側に向かうに従って半径方向内方に傾斜する傾斜角度を有するものであってもよい。
前記定められた間隔は、設計等によって任意に定める間隔である。
【0015】
このように、アキシアル荷重を受ける列のころを保持する一方の保持器が、前記柱部の外径面が基端側から先端側に向かうに従って半径方向内方に傾斜する傾斜角度を有する場合、保持器のポケット面がころの最大径位置を抱えることができる。これにより、アキシアル荷重を受ける列のころの姿勢安定性が損なわれることがなく、また前記ころの組込性も容易に行うことが可能となる。
【0016】
前記各ころは、ころ転動面にDLC被膜を有するものであってもよい。
前記DLCは、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon)の略称である。
この場合、ころ転動面、内輪および外輪の各軌道面の摩耗が生じ難くなり、前記DLC被膜が無いものより、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0017】
前記各ころは、ころ転動面の端部にクラウニングを有するものであってもよい。この場合、エッジ応力の緩和を図ることができる。
【0018】
前記内輪は、この内輪の外周面における前記2列のころ間に設けられ前記2列のころを案内する中つばと、前記外周面の両端にそれぞれ設けられ各列のころの軸方向外側の端面に臨む小つばとを備え、前記内輪は、前記各小つばのうち、アキシアル荷重を受ける列のころの軸方向外側の端面に臨む小つばに、前記ころを軸受内に挿入する入れ溝を備えてもよい。このような入れ溝を備えたため、アキシアル荷重を受ける列のころの軸受内への組込性をさらに向上させることができる。
【0019】
この発明の複列自動調心ころ軸受の組込方法は、前記複列自動調心ころ軸受をハウジングに組み込む方法であって、前記飛出し止め治具により、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止した状態で前記ハウジングに組み込む。
この組込方法によると、複列自動調心ころ軸受を、安全にかつ効率良くハウジングに組み込むことができる。
【0020】
この発明の飛出し止め治具は、内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なる複列自動調心ころ軸受における、前記内輪および前記外輪の少なくともどちらか一方の幅面に設けられた取付孔に取り付けられる。
この飛出し止め治具は、前記内輪および前記外輪の軸受幅方向同じ側の幅面にそれぞれ当てられる当て材と、前記取付孔に挿入されて、前記当て材を前記内輪および前記外輪のうちの前記取付孔が設けられた軌道輪に固定する固定具とを有する。
【0021】
この飛出し止め治具を用いると、複列自動調心ころ軸受の内輪と外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことが防止されるので、複列自動調心ころ軸受の軸受組立作業や組込作業を安全にかつ効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の複列自動調心ころ軸受は、内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であって、前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なり、前記内輪および前記外輪のいずれか一方または両方における幅面に取付孔が設けられ、この取付孔に、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止する飛出し止め治具を取付可能であるため、アキシアル荷重およびラジアル荷重を受け、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用する用途で用いるのに適し、軸受組立時や他の装置に組み込む際に、勝手に調心動作を行うことを防止できる。
【0023】
この発明の複列自動調心ころ軸受の組込方法は、前記複列自動調心ころ軸受をハウジングに組み込む方法であって、前記飛出し止め治具により、前記内輪と前記外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、前記外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止した状態で前記ハウジングに組み込むため、複列自動調心ころ軸受を安全にかつ効率良くハウジングに組み込むことができる。
【0024】
この発明の飛出し止め治具は、内輪と外輪との間に、軸受幅方向に並んで2列にころが介在し、前記外輪の軌道面が球面状であり、前記2列のころは外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、前記2列のころは、それぞれの形状および接触角のいずれか一方または両方が互いに異なる複列自動調心ころ軸受における、前記内輪および前記外輪の少なくともどちらか一方の幅面に設けられた取付孔に取り付けられる飛出し止め治具であって、前記内輪および前記外輪の軸受幅方向同じ側の幅面にそれぞれ当てられる当て材と、前記取付孔に挿入されて、前記当て材を前記内輪および前記外輪のうちの前記取付孔が設けられた軌道輪に固定する固定具とを有するため、複列自動調心ころ軸受の組立時や他の装置への組込時に用いることで、複列自動調心ころ軸受の内輪と外輪とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪の幅面よりも前記内輪の幅面が軸受幅方向に飛び出すことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】この発明の一実施形態にかかる複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図2】同複列自動調心ころ軸受のころの形状を誇張して表した説明図である。
【
図3】この発明の一実施形態にかかる飛出し止め治具の分解斜視図である。
【
図4】
図1に示す複列自動調心ころ軸受の取付孔に
図3に示す飛出し止め治具を取り付けた状態を示す断面図である。
【
図5】
図4に示す複列自動調心ころ軸受をワイヤで吊り下げた状態を示す部分図である。
【
図6】この発明の他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受のころのクラウニング等を示す拡大断面図である。
【
図8】同ころのストレート長さとPV値との関係を示す図である。
【
図9】同ころのストレート長さと軸受寿命との関係を示す図である。
【
図10】この発明のさらに他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受のころのDLC被膜等を示す拡大断面図である。
【
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受の内輪の入れ溝等を示す拡大断面図である。
【
図12】同内輪の入れ溝等を軸方向から見た端面図である。
【
図13】この発明のさらに他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図14】風力発電装置の主軸支持装置の一例の一部を切り欠いて表した斜視図である。
【
図16】従来の一般的な複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図17】第1の提案例の複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図18】第2の提案例の複列自動調心ころ軸受の断面図である。
【
図19】複列自動調心ころ軸受の内輪と外輪とが正対する状態に対して互いに傾いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る複列自動調心ころ軸受の断面図である。この複列自動調心ころ軸受1は、内輪2と外輪3との間に軸受幅方向に並ぶ左右2列のころ4,5が介在している。外輪3の軌道面3aは球面状であり、左右各列のころ4,5は外周面が外輪3の軌道面3aに沿う断面形状である。言い換えると、ころ4,5の外周面は、外輪3の軌道面3aに沿った円弧を中心線C1,C2回りに回転させた回転曲面である。内輪2には、左右各列のころ4,5の外周面に沿う断面形状の複列の軌道面2a,2bが形成されている。左右各列のころ4,5は、それぞれ保持器6,7により保持されている。
【0027】
左列用の保持器6は、左列のころ4の軸方向内側の端面を案内する環状の円環部32と、この円環部32から軸方向に延び且つ円周方向に沿って定められた間隔置きに設けられた複数の柱部33とを備え、これら柱部間に、前記ころ4を保持するポケットPtが設けられている。右列用の保持器7は、右列のころ5の軸方向内側の端面を案内する環状の円環部34と、この円環部34から軸方向に延び且つ円周方向に沿って定められた間隔置きに設けられた複数の柱部35とを備え、これら柱部間に、前記ころ5を保持するポケットPtが設けられている。
【0028】
内輪2の外周面の両端には、つば(小つば)8,9がそれぞれ設けられている。内輪2の外周面の中央部、すなわち左列のころ4と右列のころ5間に、中つば10が設けられている。内輪2はつば無しのものであってもよい。外輪3は、外周面における左右のころ列間に環状の油溝11を有し、この油溝11から内周面に貫通する油孔12が、円周方向の1箇所または複数箇所に設けられている。
【0029】
この実施形態の場合、左右各列のころ4,5は、中心線C1,C2に沿った長さL1,L2が互いに同じで、最大径D1
max,D2
maxも互いに同じであり、かつ左右各列のころ4,5は、いずれも非対称ころとされている。非対称ころとは、最大径D1
max,D2
maxの位置がころ長さの中央から外れた非対称形状のころである。
図1の例では、左列のころ4の最大径D1
maxの位置はころ長さの中央よりも右側にあり、右列のころ5の最大径D2
maxの位置はころ長さの中央よりも左側にある。
【0030】
また、左列のころ4の接触角θ1よりも、右列のころ5の接触角θ2の方が大きく設定されている。左右各列のころ4,5を前述の非対称ころとすることで、最大径の位置がころ長さの中央にある対称ころ(図示せず)に対して、ころ4,5の位置を変えずに、接触角θ1,θ2を変えることができる。ころ長さの中央から最大径の位置までの距離を調整することで、最適の接触角を設定することができる。
図1の例では、左列のころ4よりも右列のころ5の方が、前記距離が大きく設定されている。
【0031】
各列のころ4,5の接触角θ1,θ2を成す作用線S1,S2は、軸受中心軸O上の調心中心点Pで互いに交わる。これにより、外輪3の軌道面3aに沿って、内輪2およびころ4,5が調心動作することが可能となる。調心中心点Pの軸受幅方向位置は、前記中つば8の軸受幅方向の中心位置Qよりも、接触角θ1が小さい方のころ4の側にずれている。なお、前記作用線S1,S2は、ころ4,5と内輪2および外輪3との接触部に働く力の合成力が作用する線である。
【0032】
図2に示すように、左右各列のころ4,5のうちのいずれか一方または両方のころの転動面13にクラウニングを設けてもよい。クラウニングを設けることで、転動面13の中央部13aよりも両端部13b及び13cの曲率径を小さくする。クラウニングの形状は、例えば対数曲線とする。対数曲線以外に、直線、単一の円弧または複数の円弧を組み合わせた形状であってもよい。このようにころ4,5の転動面13の両端にクラウニングを設けることにより、ころ4,5の転動面13における滑り速度が大きい両端部13b及び13cの面圧が下がり、PV値(面圧×滑り速度)の絶対値が抑えられ、摩擦を低減することができる。特に、アキシアル荷重を受ける
図1の右列のころ5にクラウニングを設けるのが好ましい。
【0033】
図1に示す複列自動調心ころ軸受1は、上記のように、左右各列のころ4,5の接触角θ1,θ2が互いに異なるため、軸受幅方向の重心(図示せず)と軸受幅方向の中心位置Qとが一致せず、バランスが悪い。このため、複列自動調心ころ軸受1の組立時や他の装置への組込時に、勝手に調心動作を行う可能性がある。そこで、内輪2および外輪3の幅面2c,3bにおける周方向の3箇所以上に、調心動作を防止するための飛出し止め治具(
図2参照)を取付可能な取付孔15,16が設けられている。これらの取付孔15,16は、内輪2および外輪3の軸受幅方向の両側の幅面2c,2d,3b,3cのうち、径方向に広い方の幅面2c,3bに設けるとよい。この実施形態では、取付孔15,16はねじ孔である。
【0034】
図3は、この発明の一実施形態にかかる飛出し止め治具の分解斜視図である。この飛出し止め具17は、当て材18と固定具19とからなる。当て材18は細長形状の板材であって、長手方向の一方端に厚さ方向に貫通する固定具挿通孔18aが設けられている。固定具19はボルトからなり、当て材18の固定具挿通孔18aに挿通可能で、かつねじ部19aをねじ孔からなる前記取付孔15,16に螺合可能である。
【0035】
図4に示すように、飛出し止め具17は複列自動調心ころ軸受1の取付孔15,16に取り付けられる。すなわち、内輪2および外輪3の軸受幅方向同じ側の幅面2c,3c(または幅面2d,3b)に当て材18を当て、この当て材18を固定具19によって内輪2または外輪3に固定する。その固定方法は、当て材18の固定具挿通孔18aと内輪2または外輪3の取付孔15,16の周方向および径方向の位置を一致させた状態で、固定具19を軸受幅方向の外側から固定具挿通孔18aに挿通し、そのねじ部19aを取付孔15,16に螺合させる。取付孔15,16がねじ孔であり、固定具19がボルトであると、飛出し止め治具17を容易にかつ堅固に取り付けることができる。
【0036】
図4のように、複列自動調心ころ軸受1の取付孔15,16に飛出し止め具17を取り付けると、飛出し止め具17の当て材18が内輪2および外輪3の幅面2c,3c(または幅面2d,3b)に当接することで、内輪2と外輪3とが正対する状態に対して互いに傾くことが防止される。言い換えると、外輪3の幅面3b,3cよりも内輪2の幅面2d,2cが軸受幅方向に飛び出すことが防止される。複列自動調心ころ軸受1は、取付孔15,16に飛出し止め具17を取り付けた状態でハウジング70に組み込まれる。ハウジング70に複列自動調心ころ軸受1が組み込まれ後、取付孔15,16から飛出し止め具17が外される。
【0037】
図4の例では、内輪2および外輪3の両方の取付孔15,16に飛出し止め具17がそれぞれ取り付けられているが、片方の取付孔15,16にだけ飛出し止め具17を取り付けてもよい。この複列自動調心ころ軸受1は、調心中心点Pに対して軸受幅方向の中心位置Qが図の右側に位置しているため、外輪3に対して内輪2およびころ4,5が、外輪3の軌道面3aに沿って軸受幅方向に回転しようとする力が作用しやすい。このため、片方の取付孔15,16にだけ飛出し止め具17を取り付ける場合、前記力を受けるように外輪3の取付孔16に飛出し止め具17を取り付けるのが望ましい。
【0038】
この実施形態では、複列自動調心ころ軸受1の取付孔15,16がねじ孔とされ、飛出し止め具17の固定具19がボルトとされているが、これに限定されない。取付孔15,16および固定具19は、当て材18を内輪2または外輪3に固定することができる構成であればよい。例えば、取付孔15,16がピン孔で、固定具19がピン孔に固定状態に挿入されるピンであってもよい。
【0039】
この複列自動調心ころ軸受1の組立や他の装置への組込に際しては、
図5に示すように、複列自動調心ころ軸受1を軸受中心軸Oが上下方向となる姿勢にし、外輪3の油孔12にピン71を挿入し、このピン71にワイヤ72を引っ掛けて吊り下げる。このとき、取付孔15,16に飛出し止め具17が取り付けられていると、内輪2と外輪3とが、正対する状態に対して互いに傾いて、外輪3の幅面3b,3cよりも内輪2の幅面2d,2cが軸受幅方向に飛び出すことが防止される。このため、複列自動調心ころ軸受1の軸受組立作業や組込作業を安全にかつ効率良く行うことができる。
【0040】
この構成の複列自動調心ころ軸受1は、アキシアル荷重およびラジアル荷重を受け、左右のころ列に互いに大きさが異なる荷重が作用する用途、例えば風力発電装置の主軸支持軸受として用いられる。その場合、旋回翼に近い側(フロント側)に左列のころ4が位置し、遠い側(リア側)に右列のころ5が位置するように、複列自動調心ころ軸受1を設置する。これにより、接触角θ2が大きい右列のころ5が、アキシアル荷重のほぼすべてとラジアル荷重の一部を負担し、接触角θ1が小さい左列のころ4が、ラジアル荷重の残りを負担する。
【0041】
ころ4,5の接触角θ1,θ2を適切に設定することにより、左右各列のころ4,5が持つ負荷容量に応じた比率で荷重を分担させることができる。その結果、左右各列のころ4,5の面圧が均等になる。これにより、軸受全体で大きな負荷容量を確保すると共に、軸受全体の実質寿命を向上させることができる。
【0042】
この実施形態の複列自動調心ころ軸受1は、2列のころ4,5のそれぞれの形状および接触角θ1,θ2の両方が互いに異なっているが、形状および接触角のいずれか一方だけが異なる複列自動調心ころ軸受にもこの発明を適用できる。互いに異なる形状とは、ころ長さの違い、最大径の違い、対称ころと非対称ころの違い等である。
【0043】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0044】
<傾斜角度付きの保持器7Aについて>
他の実施形態に係る複列自動調心ころ軸受を
図6と共に説明する。
この複列自動調心ころ軸受1は、傾斜角度付きの保持器7Aを備えている。同
図6に示す右列用の一方の保持器7Aは、アキシアル荷重を受ける列のころ5を保持する保持器である。この保持器7Aは、柱部35Aの外径面35Aaが基端側から先端側に向かうに従って半径方向内方に傾斜する傾斜角度βを有する。この傾斜角度βは、軸受中心軸Oに対する角度である。保持器7Aの傾斜角度βは、零よりも大きく、前記ころ5の最大径角α2以下の範囲(0<β≦α2)に設定されている。前記最大径角α2は、軸受中心軸Oに垂直な平面に対する、右列のころ5の最大径D2
maxとなる位置の傾き角である。
【0045】
この例の右列用の保持器7Aにおける、柱部35Aの内径面は、傾斜面部35Abと、この傾斜面部35Abに繋がる平坦面部35Acとを有する。傾斜面部35Abは、柱部35Aの内径面の基端側から同内径面の軸方向中間付近まで延び、基端側から軸方向中間付近に向かうに従って半径方向内方に傾斜する傾斜角度γを有する。この傾斜角度γも軸受中心軸Oに対する角度であり、傾斜角度γは傾斜角度β以上(γ≧β)となるように設定されている。この例では、傾斜角度γは傾斜角度βよりも数度大きく設定されている。但し、この関係(γ≧β)に限定されるものではない。平坦面部35Acは、傾斜面部35Abの先端縁から軸方向に延びる軸受中心軸Oに平行な平坦面である。なお左列用の保持器6は、柱部33の外径面および内径面が、傾斜角度を有しない、換言すれば、軸受中心軸Oに対して平行である。
【0046】
右列用の保持器7Aが前述のような傾斜角度βを有するため、保持器7Aのポケット面がころ5の最大径位置を抱えることができる。これにより、アキシアル荷重を受ける列のころ5の姿勢安定性が損なわれることがなく、またころ5の組込性も容易に行うことが可能となる。
【0047】
<クラウニングCwについて>
図7に示すように、左右各列のころ4,5は、それぞれころ転動面13の端部13b及び13cにクラウニングCwを有するものであってもよい。この例のクラウニングCwは、ころ転動面13の端部13b及び13cをころ転動面13の基準Rよりも小さくすることで、ドロップ量を大きくする複合Rクラウニングが適用されている。クラウニングCwを設けないころ中央部13aの長さLs(以下、「ストレート長さ」)は、ころ全長L1(L2)の50%~70%、好ましくは60%とするとよい。
【0048】
図8は、風車主軸受用の複列自動調心ころ軸受に平均的な風荷重が負荷したときのPV値(面圧×滑り速度)と、ストレート長さとの関係を示す図である。
図9は、同ストレート長さと軸受寿命との関係を示す図である。
図8より、ストレート長さは短ければ短い程、PV値が低下することが分かるが、
図9より、ストレート長さがころ全長の60%より小さいと、クラウニングを付与しない場合(ストレート長さ=100%)と比べて、寿命低下率が5%を超えることが分かる。したがって、ストレート長さは、ころ全長の60%であることが好ましい。
各列のころ4,5がこのようなクラウニングCw(
図5)を有する場合、エッジ応力の緩和を図ることができる。なお前記複合Rクラウニングに代えて、ころ転動面13の端部13b及び13cが対数曲線で表現される対数クラウニングにしてもよい。
【0049】
<DLC被膜について>
図10に示すように、各列のころ4,5は、ころ転動面13にDLC被膜14を有するものであってもよい。この例のDLC被膜14は、基材であるころ4,5との密着性が高い多層構造が採用されている。DLC被膜14は、表面層36と、中間層37と、応力緩和層38とを有する。表面層36は、炭素供給源として固体ターゲットのグラファイトのみを使用し、水素混入量を抑えたDLCを主体とする膜である。中間層37は、表面層36と前記基材との間に形成される、少なくともCrまたはWを主体とする層である。応力緩和層38は、中間層37と表面層36との間に形成される。
【0050】
中間層37は、組成の異なる複数の層を含む構造であり、
図10では37a~37cの三層構造を例示している。例えば、基材の表面にCrを主体とする層37cを形成し、その上にWを主体とする層37bを形成し、その上にWおよびCを主体とする層37aを形成する。
図10では三層構造を例示したが、中間層37は、必要に応じて、これ以下または以上の数の層を含むものであっても良い。
【0051】
応力緩和層38に隣接する層37aは、他方で隣接する層37bの主体となる金属と、炭素とを主体することで、中間層37と応力緩和層38との間の密着性を向上できる。例えば、層37aがWとCとを主体とする場合、Wを主体とする中間層37b側からCを主体とする応力緩和層38側に向けて、Wの含有量を減少させ、一方、Cの含有量を増加させる(組成傾斜)ことで、より密着性の向上が図れる。
【0052】
応力緩和層38は、Cを主体とし、その硬度が中間層37側から表面層36側へ連続的または段階的に上昇する傾斜層である。具体的には、UBMS法においてグラファイト製ターゲットを用い、基材に対するバイアス電圧を連続的または段階的に上昇させて成膜することで得られるDLC傾斜層である。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(SP2)とダイヤモンド構造(SP3)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。
【0053】
表面層36は、応力緩和層38の延長で形成されるDLCを主体とする膜であり、特に、構造中の水素含有量を低減したDLC膜である。水素含有量を低減させたことで、耐摩耗性が向上する。このようなDLC膜を形成するためには、例えばUBMS法を用いて、スパッタリング処理に用いる原料およびスパッタリングガス中に水素および水素を含む化合物を混入させない方法を用いる。
【0054】
応力緩和層38および表面層36の成膜法に関して、UBMS法を用いる場合を例示したが、硬度を連続的または段階的に変化させることができる成膜法であれば、その他公知の成膜法を採用することができる。中間層37と、応力緩和層38と、表面層36とを含む多層の膜厚の合計が0.5μm~3.0μmとすることが好ましい。膜厚の合計が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣り、膜厚の合計が3.0μmを超えると剥離し易くなるので好ましくない。
なお、この例では、各ころ4,5の外周面のみにDLC被膜14を設けているが、さらに各ころ4,5の両端面にDLC被膜14を設けても良い。特に、中つば10(
図6)に案内される各ころ4,5の一端面にDLC被膜14を設けた場合、各ころ4,5の前記一端面が摩耗し難くなり、ころ4,5の耐摩耗性をより高め得る。
【0055】
<入れ溝20について>
図11に示すように、内輪2は、各小つば8,9(
図6)のうち、アキシアル荷重を受ける列のころ5の軸方向外側の端面に臨む小つば9に、前記ころ5を軸受内に挿入する入れ溝20を備えてもよい。
図12に示すように、内輪2の前記小つば9の円周方向一箇所に、円弧形状の入れ溝20が設けられている。この入れ溝20の円弧20aの曲率半径は、挿入すべきころ5(
図11)の最大径に応じて適宜設定されている。内輪2にこのような入れ溝20を備えた場合、アキシアル荷重を受ける列のころ5の軸受内への組込性をさらに向上させることができる。
【0056】
図13に示すように、右列用の一方の保持器7Aにおける、柱部35Aの外径面35Aaの傾斜角度βが、零よりも大きく、右列のころ5の最大径角α2以下の範囲に設定され、且つ、柱部35Aの内径面35Adの傾斜角度γが外径面35Aaの傾斜角度βと同一に設定されていてもよい。この例の傾斜角度βは、最大径角α2以下で最大径角α2に略近い角度に設定されている。また柱部35Aの内径面35Adは、傾斜面部のみから成り、前述の平坦面部が設けられていない。
【0057】
この
図13の構成によれば、保持器7Aが前述のような傾斜角度βを有するため、保持器7AのポケットPt面がころ5のピッチ円直径付近でより確実に維持され、軸受運転時に保持器7AのポケットPt面がころ5の最大径位置を円滑に且つ確実に抱えることができる。また、ころ5の組込性もより容易に行うことができる。
【0058】
図14、
図15は、風力発電装置の主軸支持装置の一例を示す。支持台21上に旋回座軸受22(
図15)を介してナセル23のケーシング23aが水平旋回自在に設置されている。ナセル23のケーシング23a内には、軸受ハウジング24に設置された主軸支持軸受25を介して主軸26が回転自在に設置され、主軸26のケーシング23a外に突出した部分に、旋回翼となるブレード27が取り付けられている。主軸26の他端は、増速機28に接続され、増速機28の出力軸が発電機29のロータ軸に結合されている。ナセル23は、旋回用モータ30により、減速機31を介して任意の角度に旋回させられる。
【0059】
主軸支持軸受25は、図示の例では2個並べて設置してあるが、1個であっても良い。この主軸支持軸受25に、前記いずれかの実施形態の複列自動調心ころ軸受1が用いられる。その場合、ブレード27から遠い方の列にラジアル荷重とアキシアル荷重の両方がかかるので、ブレード27から遠い方の列のころとして、接触角θ2が大きい方のころ5を用いる。ブレード27に近い方の列には主にラジアル荷重のみがかかるので、ブレード27に近い方の列のころとして、接触角θ1が小さい方のころ4を用いる。
【0060】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1…複列自動調心ころ軸受
2…内輪
2c,2d…幅面
3…外輪
3a…軌道面
3b,3c…幅面
4,5…ころ
6,7,7A…保持器
8,9…小つば
10…中つば
13…ころ転動面
14…DLC被膜
15,16…取付孔
17…飛出し止め治具
18…当て材
19…固定具
20…入れ溝
26…主軸
32,34…円環部
33,35,35A…柱部
70…ハウジング
θ1,θ2…接触角
Cw…クラウニング