IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社住化分析センターの特許一覧

特許7029252水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法
<>
  • 特許-水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法 図1
  • 特許-水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法 図2
  • 特許-水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法 図3
  • 特許-水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法 図4
  • 特許-水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法及び水素ガスの品質管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20220224BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
G01N1/00 101T
G01N1/22 L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017166874
(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公開番号】P2019045242
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390000686
【氏名又は名称】株式会社住化分析センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】長谷 郁枝
(72)【発明者】
【氏名】内原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 知信
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114463(JP,A)
【文献】特表2011-505006(JP,A)
【文献】特開2007-192704(JP,A)
【文献】特表2016-536608(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0223510(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0310419(US,A1)
【文献】特開2015-102473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0186331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
H01M 8/00 - 8/2495
F17C 1/00 -13/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する減圧ユニットと、固体捕集剤を含む固体捕集サンプラーとを備え
前記固体捕集サンプラーは、酸成分用固体捕集サンプラー、塩基成分用固体捕集サンプラー、およびアルデヒド成分用固体捕集サンプラーのうち少なくとも1つである、水素ガス分析用キット(ただし、安全弁が設けられており端部が大気開放された配管の当該安全弁と前記端部との間に、逆止弁が設けられたものを除く)。
【請求項2】
前記高圧の水素ガスは14MPa~90MPaである、請求項1に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項3】
前記減圧ユニットが減圧器を備えており、前記減圧器は一つで前記高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する、請求項1に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項4】
前記減圧ユニットが、外部電源を必要としない構成である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項5】
記固体捕集サンプラーに当たる光を遮る遮光部を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項6】
水素ガス中の不純物の濃縮装置をさらに備える請求項1~のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項7】
前記減圧ユニットによって減圧された水素ガスの成分を分析する水素ガス分析装置をさらに備える請求項1~のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項8】
前記水素ガス分析装置は、連続式及びバッチ式のうち少なくとも一方で分析する装置である、請求項に記載の水素ガス分析用キット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キットを用いて1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む、水素ガス分析方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の水素ガス分析用キットを用いて1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む、水素ガスの品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガスを減圧して分析する水素ガス分析用キット、水素ガス分析方法、水素ガスの品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車に供給される水素ガスは、燃料電池性能の低下を最小限に抑えるため、その水素ガス中の各種不純物の最大濃度がISO等によって規定されている。
【0003】
このため、水素ステーションに貯蔵されている水素ガスおよび水素ステーションから供給される水素ガスの品質を管理することが必要であり、水素ガス中の各種不純物の濃度を測定する必要がある。
【0004】
水素ガスをサンプリングする方法として、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1には、水素ステーションから燃料電池自動車等に供給される水素ガスを高圧ガスボンベ内にサンプリングする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-114463号公報(2016年6月23日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、分析機器がある場所まで、高圧ガスボンベに注入された水素ガスを運ぶ必要がある。高圧ガスの取り扱いは容易ではない。そこで、より容易に水素ガスを分析できる技術が求められている。
【0007】
本願発明は、前記の課題を鑑みてなされた発明であり、その目的は、高圧の水素ガスをより容易にサンプリング及び/又は分析するための、水素ガス分析用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
【0009】
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する減圧ユニットを備える。
【0010】
本発明の一態様に係る水素ガス分析方法は、本発明の一態様に係る水素ガス分析キットを用いて1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む。
【0011】
本発明の一態様に係る水素ガスの品質管理方法は、本発明の一態様に係る水素ガス分析キットを用いて1MPa以上の高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、より容易に高圧の水素ガスをサンプリング及び/又は分析できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る水素ガス分析用キットが備える減圧ユニットの構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る水素ガス分析用キットの構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る水素ガス分析用キットが備える捕集装置の斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る水素ガス分析用キットが備える捕集装置における水素ガスの流れの説明図である。
図5】本発明の一実施形態に係る水素ガス分析用キットが備える濃縮装置の構成と当該濃縮装置における水素ガスの流れの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0015】
<水素ガス分析用キット>
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、1MPa以上の高圧の水素ガス(以下、「高圧水素ガス」ともいう。)を1MPa未満に減圧する高圧水素ガス減圧ユニットを備える。高圧水素ガス減圧ユニットによって分析対象の水素ガスを1MPa未満に減圧できるので、より容易かつ安全に水素ガスを取り扱うことができる。例えば、トランク、ボックス等の収納容器に格納して運ぶことも容易であり、また、運搬の容易な分析用の捕集装置、分析装置を用いればオンサイトで捕集、分析することも可能である。
【0016】
〔減圧ユニット〕
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備える減圧ユニットは、1MPa以上の高圧水素ガスを1MPa未満まで減圧するための機器一式である。例えば、減圧ユニットは、減圧器を備えていてもよい。また、減圧ユニットは、減圧器以外の構成を備えていてもよい。例えば、入口弁、パージ弁、安全弁、出口弁、レセプタクル等の構成を減圧ユニットは備えていてもよい。また、外部電源を必要としない構成とすれば、水素ディスペンサーの近くでも使用できる。
【0017】
(減圧器)
減圧器は1MPa以上の高圧水素ガスを1MPa未満まで減圧するための機器である。減圧する対象の高圧の水素ガスは1MPa以上であればよく、14MPa~90MPaであってもよい。例えば、自動車のタンクに70MPaの水素ガスを充填する水素ステーションの供給圧力は82~83MPaであるものが多く、35MPaの水素ガスを充填する水素ステーションの供給圧力は40MPaものが多い。よって、水素ステーションで供給されている水素ガスを分析する場合、減圧器は、35MPa~83MPa、35MPa~40MPa、70MPa~83MPaといった高圧の水素ガスを減圧するものであることがより好ましい。また、昇圧後の蓄圧器は、水素ステーションの供給圧力と同程度の圧力で充填されているものもあるが、自動車のタンクに水素ガスを供給する場合は、圧力の異なる複数の蓄圧器を利用して、低い圧力から段階的に水素ガスを供給する場合もある。そのため、蓄圧器には例えば20MPaや40MPaで充填されていることがある。そこで、減圧器により減圧する対象の高圧の水素ガスは20MPa~40MPaであってもよい。当該減圧器によれば、例えば、水素ディスペンサーでの水素品質に異常があった場合等に、蓄圧器直下、圧縮機直下、カードル直下等から噴出される水素ガスを分析することが好ましい場合があり、このような場合に好適に用いることができる。
【0018】
また、減圧後の水素ガスの圧力は1MPa未満であればよいが、例えば、0.2MPa~0.99MPaの範囲までに減圧してもよく、0.6MPa~0.8MPaの範囲までに減圧することがより好ましい。このような圧力にまで減圧することで、後述の捕集、分析をより容易に行なうことができる。また、例えば、0.1MPa等のように0.2MPa以下まで減圧する場合や1MPa未満を精密に調圧する場合には減圧ユニットの下流で別の減圧器を用いて減圧してもよい。
【0019】
また、減圧器は一つで上述した高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧できることが好ましい。例えば、1段階で14MPa~90MPaという高圧水素ガスを1MPa未満に減圧することで、水素ステーションで供給される水素ガスの分析をより容易に行えるからである。減圧器は従来公知のものを採用してもよく、市販品としては、例えば、ヤマト産業株式会社製HIR-3SWシリーズ等が挙げられる。
【0020】
(入口弁)
入口弁は、水素ガスを減圧器に導入するための弁である。入口弁は減圧器に接続可能なものであればよい。入口弁としては、従来公知のものを採用してもよく、市販品として、例えば、ヤマト産業株式会社製HVシリーズ等が挙げられる。
【0021】
(パージ弁)
パージ弁は、減圧ユニット中の配管内を清掃するために通気した水素ガスを外部へ放出する弁である。また、減圧によって体積が増加した水素ガスのうち、分析に用いない等の不要な水素ガスを減圧ユニット外部に放出するために用いてもよい。パージ弁は、ガスの外部からの逆流を防ぐための逆止弁を有していてもよい。パージ弁は従来公知のものを採用してもよく、市販品として、例えば、株式会社フジキン製FUND-91Gシリーズ等が挙げられる。
【0022】
(安全弁)
安全弁は、減圧ユニットの内圧が高い場合、または減圧器に異常が発生した場合にガスを外部へ放出するための弁である。安全弁は、一定圧まで耐えて、一定圧を超した場合に、ガスを外部へ解放して危険を回避する役割を果たす。安全弁は、ガス外部からの逆流を防ぐための逆止弁を有していてもよい。安全弁としては、従来公知のものを採用してもよく、市販品としては、例えば、株式会社武井製作所製08F41等が挙げられる。
【0023】
(出口弁)
出口弁は、減圧された水素ガスを減圧ユニット外へ放出するための弁である。換言すれば、使用者は出口弁から減圧された水素ガスを回収できる。使用者は用途に応じて、捕集サンプラー、分析装置などに当該減圧された水素ガスを供給すればよい。出口弁としては、従来公知のものを採用してもよく、市販品としては、例えば、株式会社フジキン製FUND-91Gシリーズ等が挙げられる。
【0024】
(レセプタクル)
レセプタクルは、減圧対象の水素ガスを供給する機器の供給口と入口弁とを接続するための機器である。レセプタクルは水素ステーションの水素ガス供給口のディスペンサーと減圧ユニットの入口弁とを接続するものであることが好ましい。より容易に水素ガスステーションの水素ガスを減圧ユニットに導入できる。レセプタクルは従来公知のものを採用してもよい。
【0025】
〔水素ガス捕集装置〕
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、水素ガス捕集装置(以下、「捕集装置」と称する。)をさらに備えていてもよい。減圧ユニットにより1MPa未満にされているため、分析対象の水素ガスをより容易に捕集できる。捕集装置は水素ガスを捕集できるものであればよく、後述する好ましい一態様のものでもよく、減圧後の水素ガスを直接導入し、保存できる容器であってもよい。減圧後のガスを直接導入して保存する容器の場合、容器に捕集した水素ガスをバッチ式の分析装置に導入し、分析および測定することが可能である。また、遠隔の施設での分析および測定が必要な場合は、簡易に持ち運べるよう、容器のサイズは小型であることがより好ましい。
【0026】
以下、捕集装置として好ましい一態様について説明する。なお、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、捕集装置を備えておらず、別途用意された捕集装置を用いてもよい。別途捕集装置を用意する場合にも、以下に説明する態様がより好ましい。
【0027】
捕集装置は固体捕集サンプラー、露点計、酸素濃度計、それらを連結する連結具を含んでもよい。
【0028】
(固体捕集サンプラー)
固体捕集サンプラーは固体捕集剤を含むものである。固体捕集サンプラーは、分析対象の成分に応じて適宜選択すればよく、例えば、酸成分用固体捕集サンプラー、塩基成分用固体捕集サンプラー、アルデヒド成分用固体捕集サンプラーが挙げられる。本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備える固体捕集サンプラーは1種でもよく、2種以上でもよい。
【0029】
(酸成分用固体捕集サンプラー)
酸成分用固体捕集サンプラーは、酸成分を捕集するための固体捕集剤を含む固体捕集サンプラーである。酸成分としては、例えば、有機酸、ハロゲン化物、無機酸が挙げられ、有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸等が挙げられ、ハロゲン化物としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、塩素、臭化水素等が挙げられ、無機酸としては、例えば、硝酸、硫酸等が挙げられる。酸成分を捕集するための固体捕集剤としては、捕集対象の成分に応じて適宜選択すればよく、例えば、無機塩基及び有機塩基等が挙げられる。また、無機塩基としては、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物等をあげることができ、有機塩基としては、例えば、アミン、アンモニウム化合物等を挙げることができる。また、国際公開公報第2010/067464号パンフレットに記載のカラムも酸成分用固体捕集サンプラーとして使用できる。
【0030】
(塩基成分用固体捕集サンプラー)
塩基成分用固体捕集サンプラーは、塩基成分を捕集するための固体捕集剤を含む固体捕集サンプラーである。塩基成分としては、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アルカノールアミンなどの塩基そのもの、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の塩基性の塩等が挙げられる。塩基成分を捕集するための固体捕集剤としては、捕集対象の成分に応じて適宜選択すればよく、例えば、無機酸及び有機酸等が挙げられる。無機酸としては、例えば、硫酸、リン酸等が挙げられ、有機酸としてはメタンスルホン酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。また、国際公開公報第2010/067464号パンフレットに記載のカラムも塩基成分用固体捕集サンプラーとして使用できる。
【0031】
(アルデヒド成分用固体捕集サンプラー)
アルデヒド成分用固体捕集サンプラーは、アルデヒド成分を捕集するための固体捕集剤を含む固体捕集サンプラーである。アルデヒド成分としては、アルデヒド化合物であればよく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。アルデヒド成分を捕集するための固体捕集剤としては、捕集対象の成分に応じて適宜選択すればよく、例えば、アルデヒド類、ケトン類の捕集用固体サンプラーの2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)含浸カートリッジ、特許第4101463号に記載のカルボニル化合物捕集剤等が挙げられる。
【0032】
(露点計)
捕集装置は、露点計を備えることがより好ましい。露点計によって水素ガス中の水分量も測定できる。捕集装置が備える露点計は、水素ガス中の水分量を測定できるものであればよく、水素に対して防爆構造を有しているものがより好ましい。
【0033】
(酸素濃度計)
捕集装置は、酸素濃度計を備えることがより好ましい。酸素濃度計によって水素ガス中の酸素濃度も測定できる。捕集装置が備える酸素濃度計は、水素ガス中の酸素濃度を測定できるものであればよく、水素に対して防爆構造を有しているものがより好ましい。
【0034】
(連結具)
捕集装置は、前述した固体捕集サンプラー、露点計、酸素濃度計であって、当該ユニットが備えるもの同士を、互いに連結するための連結具を備えることがより好ましい。これにより、捕集装置を一体化して運搬できる。
【0035】
連結具の一態様は、固体捕集サンプラー等を連結できるものであればよい。例えば、固体捕集サンプラー等を連結した状態でそのまま水素ガスの捕集ができる形態がより好ましい。このような形態の連結具の場合、連結具には固体捕集サンプラー等と連結される他の器具が接続されていてもよく、別に用意する他の器具を連結可能な構成が設けられていてもよい。当該他の器具としては、例えば、減圧器、圧力計、及び流量計等が挙げられる。また、連結具は固体捕集サンプラー等を互いに並列で連結するものであってもよく、直列で連結するものであってもよい。
【0036】
捕集装置は、上述した固体捕集サンプラー等以外のサンプラー、計測機器等の機器を備えてもよく、連結具は、これらの機器同士及び/又はこれらの機器同士と固体捕集サンプラー等とを連結するものであってもよい。
【0037】
捕集装置は、固体捕集サンプラー等が予め連結具に連結された態様で提供されてもよい。このとき、サンプリングをするときに、固体捕集サンプラーを連結具に取り付ける必要がない。これは、固体捕集サンプラーに水素ガス以外の不純物が混入する機会が最小限に抑えられているともいえる。このため、水素ガスの各成分のより正確な捕集・分析をすることができる。
【0038】
(遮光部)
捕集装置は、遮光部を備えることがより好ましい。遮光部は固体捕集サンプラーに外部の光が当らないよう遮蔽するためのものである。これにより、水素ガスのより精度の高い分析が可能になる。なお、本発明の一態様においては、捕集装置が遮光部を備えず、分析を行なう環境が遮光されていてもよい。例えば、減圧された水素ガスを用いて遮光された環境(屋内等)で濃縮したり、分析したりする方法も本発明の一態様である。ただし、捕集を水素ステーション等の屋外で行なうことを鑑みれば、捕集装置が遮光部を備えることがより好ましい。
【0039】
遮光部の一態様は、固体捕集サンプラーが遮光されていればよい。例えば、捕集装置の筐体の壁面を遮蔽性の材料で構成してもよい。また、固体捕集サンプラー自体それぞれの周りを遮光部材で覆ってもよい。
【0040】
〔水素ガス中の不純物の濃縮装置〕
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、水素ガス中の不純物の濃縮装置を備えていてもよい。減圧ユニットにより1MPa未満にされているため、分析対象の水素ガス中の不純物をより容易に濃縮できる。水素ガス分析装置の感度によっては、水素ガスを分析装置に導入する前に、水素ガス中の不純物を濃縮することは特に有用である。例えば、濃縮装置によって濃縮された水素ガスを分析装置に直接導入してもよい。また、濃縮装置によって濃縮された水素ガスを、上述したタンク、小型の容器等の収納容器を捕集装置として捕集して、分析装置に導入してもよい。
【0041】
以下、濃縮装置として好ましい一態様について説明する。なお、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、濃縮装置を備えておらず、別途用意された濃縮装置を用いてもよい。別途濃縮装置を用意する場合にも、以下に説明する態様がより好ましい。
【0042】
濃縮装置は、シリカ膜を備えることがより好ましい。水素ガスをシリカ膜に供給すると、水素ガスの分子サイズは、シリカ膜の細孔の直径より小さいので、シリカ膜を透過する。水素ガスに含まれていた、シリカ膜の細孔の直径より分子サイズが大きい不純物はシリカ膜を透過しない。よって、シリカ膜を透過しなかったガス中で、不純物が濃縮される。以下では、シリカ膜に供給する水素ガスを「試料ガス」、シリカ膜を透過した水素ガスを「透過ガス」、シリカ膜を透過しなかったガスを「濃縮ガス」とも称する。
【0043】
ここで説明する態様の濃縮装置は、シリカ膜に比べて高価であり、かつシリカ膜に比べて取扱いの難しいパラジウム膜を必要としない。また、組成の複雑なゼオライト膜を必要としない。よって、従来よりも簡便な構成で、水素ガス中の不純物を濃縮することができる。また、シリカ膜は、パラジウム膜より高い耐久性を有するため、水素ガス中の不純物の濃縮キットを長期間使うことができる。また、シリカ膜はパラジウム膜よりも低温で性能を発揮するので、より簡便な加熱器具を用いた不純物濃縮が可能である。よって、持ち運びが容易であり、通常の貨物として輸送することができる。
【0044】
(不純物)
本態様に係る濃縮装置において、濃縮の対象とする不純物は、試料ガス中に含まれる水素ガス以外の不純物を指す。不純物は例えば、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタン等の炭化水素類、硫化水素等の硫黄化合物、塩化水素等のハロゲン化合物である。より好ましくは、不純物は、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、硫化水素である。これらの不純物は、一般的な可搬型装置では感度不足で測定できない成分であるが、本態様に係る濃縮キットにより濃縮することで、一般的な可搬型装置で測定を行うことが可能である。これらの例のうち、一種のみを濃縮の対象としてもよく、複数種を濃縮の対象としてもよい。
【0045】
(濃縮)
不純物の濃縮率とは、濃縮ガスに含まれる不純物の濃度が、試料ガスに含まれる不純物の濃度の何倍になったか、それぞれのガスを同じ温度、圧力、体積にして比較した値を指す。濃縮率は、分析に用いる機器等に応じて適宜設定すればよく、例えば10倍~1000倍が好ましい。不純物の濃縮率が前記の範囲内であれば、一般的な可搬型分析装置の感度で、不純物の濃度が、ISO14687-2等の規格による最大不純物濃度未満の濃度であっても、十分に評価することが可能である。
【0046】
(シリカ膜)
本明細書中において「シリカ膜」とは、シリカからなる膜を指す。なお、シリカ膜には、本発明の一態様の目的に反しない範囲内で、シリカ以外の成分が含まれていてもよい。シリカ膜は、水素ガスを透過させ、分析対象の不純物のうち、少なくとも1種を透過させないシリカ膜であればよい。
【0047】
シリカ膜の細孔の直径は、好ましくは0.29nm~0.37nm、より好ましくは0.29nm~0.32nmの範囲内である。シリカ膜の細孔の直径が前記の範囲内であることにより、ISO14687-2等の規制対象の不純物のいずれかを細孔の大きさに応じて、好適に濃縮することが可能である。
【0048】
シリカ膜の厚みは特に限定されないものの、好ましくは100nm~1000nmの範囲内である。シリカ膜が1000nm以下であれば十分な透過性が得られ、シリカ膜が100nm以上とすることでシリカ膜を緻密に形成できる。
【0049】
シリカ膜の製造方法は、特に限定されない。例えば、CVD法、又はゾルゲル法により、シリカ基材にシリカを堆積することで、細孔の直径が所望の範囲内であるシリカ膜を製造すればよい。また、シリカ膜として、例えば、市販されているeSep-HydrogenSepを用いることもできる。
【0050】
〔水素ガス分析装置〕
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、水素ガス分析装置を備えていてもよい。水素ガス分析装置は、水素ガスに含まれる成分を分析する装置である。減圧ユニットにより1MPa未満にされているため、水素ガスに含まれる成分の分析がより容易になる。なお、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、水素ガス分析装置を備えておらず、別途用意された水素ガス分析装置を用いてもよい。別途水素ガス分析装置を用意する場合にも、以下に説明する態様がより好ましい。
【0051】
水素ガス分析装置は従来公知の装置を採用してもよい。例えば、分光計、質量分析計、センサ、検知管等を用いることができる。また、水素ガス分析装置の分析様式は連続式でもバッチ式でもよい。従来公知の連続式の分析装置としては、例えば、水分計、酸素濃度系、赤外分光光度計が挙げられる。従来公知のバッチ式の分析装置としては、例えば、IC(イオンクロマトグラフィー)、LC(液体クロマトグラフィー)、GC(ガスクロマトグラフィー)が挙げられる。バッチ式の分析装置を使用する場合であって、上述の固体捕集サンプラーを備える水素ガス捕集装置を用いる態様においては、水素ガスを通過させた後の酸成分用固体捕集サンプラー、塩基成分用固体捕集サンプラー、アルデヒド成分用固体捕集サンプラーを回収して抽出等を行い、水素ガス分析装置に供すればよい。また、GCの中でも、ポータブルGCを用いることがより好ましい。持ち運びが容易で、現場での分析が可能になるためである。この場合、水素ガス分析装置は減圧ユニットと直接接続されていてもよく、濃縮装置と接続されていてもよい。
【0052】
〔その他の構成〕
本発明に係る水素ガス分析用キットの提供方法の態様として、既に組み立てられた装置を提供してもよく、組み立てるための部品を提供して、使用者が組み立てる態様にしてもよい。
【0053】
本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、他の器具を含んでもよい。例えば、それぞれの装置を接続するための工具を含んでもよい。また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットには、水素ガス分析用キットを製造するための手順及び/又は水素ガス分析用キットを用いて高圧水素ガスを減圧しサンプリングするための手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能なディスク又はCD-ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0054】
〔水素ガス分析用キットの実施形態〕
次に、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットの一実施形態について図1図5を用いて説明する。
【0055】
(減圧ユニット10の構成)
まず、図1を用いて、減圧ユニット10の構成について説明する。図1は減圧ユニット10の構成を模式的に示す図である。減圧ユニット10は、レセプタクル6、入口弁1、減圧器2、パージ弁3、安全弁4及び出口弁5を備えている。なお、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットの提供方法の態様として、減圧ユニット10に組み立てられたものを提供してもよく、組み立てるための部品を提供して、使用者が組み立てる態様にしてもよい。
【0056】
図1に示すように減圧ユニット10は、レセプタクル6、入口弁1、減圧器2、パージ弁3、安全弁4、及び出口弁5がこの順に接続されることで形成されている。入口弁1、減圧器2、パージ弁3、安全弁4、及び出口弁5は、それぞれ上述した市販品である。レセプタクル6は、分析対象の水素ガスの受け口として対象ガス供給口と入口弁1とを接続している。対象ガス供給口の形状が定まっている場合には、レセプタクル6の形状を当該注ぎ口の形状に基づいて決定してもよい。
【0057】
(減圧ユニット10の動作)
次に、減圧ユニット10の動作について説明する。
【0058】
まず、図1に示すように、分析対象の水素ガスをレセプタクル6から導入する。例えば、対象の水素ガスを供給するディスペンサーと、レセプタクル6とを接続することで、水素ガスをスムーズに減圧ユニット10内へ導入できる。分析対象の水素ガスを導入する前に、減圧ユニット10内を当該水素ガスで清掃する目的で導入してもよい。
【0059】
レセプタクル6から入口弁1を通って、減圧ユニット10内に導入された分析対象の水素ガスは、減圧器2によって減圧される。減圧される前の水素ガスは1MPa以上の高圧ガスであり、減圧器2によって1MPa未満に減圧される。
【0060】
減圧ユニット10内を清掃する目的で水素ガスを導入した場合、当該水素ガスはパージ弁3から減圧ユニット10外へ放出される。
【0061】
安全弁4はユニットの内圧が高くなった場合、または減圧器2に異常が生じた場合に減圧ユニット10内のガスを速やかに放出する。また、減圧されて体積が増えたことにより発生する余分な水素ガスは、安全弁4より速やかに減圧ユニット10外へ放出される。
【0062】
減圧された水素ガスは出口弁5を通過して減圧ユニット10と接続されている外部ユニットへ導入される。外部ユニットとは、例えば、捕集装置、濃縮装置、水素ガス分析装置が挙げられる。なお、図1中の矢印はガスの流れを示している。
【0063】
(水素ガス分析用キット400の構成)
次に、図2を用いて水素ガス分析用キット400の構成について説明する。図2は水素ガス分析用キット400の構成を模式的に示す図である。水素ガス分析用キット400は、減圧ユニット10、捕集装置100、濃縮装置200、及び水素ガス分析装置300を備えている。なお、本発明に係る水素ガス分析用キットの提供方法の態様として、水素ガス分析用キットに組み立てられたものを提供してもよく、組み立てるための部品を提供して、使用者が組み立てる態様にしてもよい。なお、捕集装置100、濃縮装置200、及び水素ガス分析装置300は、水素ガス分析用キット400に同梱されていてもよく、使用者が任意の装置を別途用意してもよい。
【0064】
図2では、減圧ユニット10、捕集装置100、濃縮装置200及び水素ガス分析装置300が互いに接続されている構成を示している。どのユニットと装置との間を接続するかはこのような形態に限定されず、目的や装置の種類に応じて、ユニットと装置との間を接続すればよい。
【0065】
〔捕集装置100〕
(捕集装置100の構成)
捕集装置100について図3及び図4を用いて説明する。捕集装置100は、遮光部25、フレーム26(連結具)、酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32、露点計18及び酸素濃度計20を備えている。なお、本発明に係る水素ガス分析用キットの提供方法の態様として、捕集装置100に組み立てられたものを提供してもよく、組み立てるための部品を提供して、使用者が組み立てる態様にしてもよい。
【0066】
図3に示すように、捕集装置100は、フレーム26に、酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32、露点計18及び酸素濃度計20が接続されることで形成されている。酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32、露点計18及び酸素濃度計20は、それぞれ、前述した固体捕集サンプラー等の一態様である。捕集装置100の説明において「固体捕集サンプラー等」は、酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32、露点計18及び酸素濃度計20を指す。
【0067】
また、フレーム26には圧力調整器14、圧力計15、及び流量計16が接続されている。圧力調整器14、圧力計15、及び流量計16は本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備えていてもよく、使用者が別途用意したものを接続してもよい。また、フレーム26には、注入口12、排気口24が設けられている。
【0068】
注入口12は、捕集装置100内と外部との接続口であり、分析対象の水素ガスの受け口である。分析対象の水素ガスは注入口12を介して、捕集装置100内に導入される。分析対象の水素ガスからの注ぎ口の形状が定まっている場合には、注入口12の形状を当該注ぎ口の形状に基づいて決定してもよい。
【0069】
圧力調整器14は、捕集装置100内に導入されて、固体捕集サンプラー等に導入される前の水素ガスの圧力を調整するものである。固体捕集サンプラー等の仕様等に応じて、適宜水素ガスの圧力は調整される。
【0070】
圧力計15は、圧力調整器14による調整後の圧力の値を測定するためのものである。圧力計15は配管(一部の配管は図示せず)を介して5つの流量計16と接続されている。
【0071】
流量計16は、固体捕集サンプラー等に導入される水素ガスの流量を測定するものである。流量計16は固体捕集サンプラー等の数と同じ数の5個設けられており、5個の流量計は一つずつ、配管を介して固体捕集サンプラー等と接続されている。流量計16の具体例は特に限定されず、従来公知の様々な流量計を採用でき、例えば、面積流量計、オリフィス流量計等を用いることができる。
【0072】
排気口24は、捕集装置100内と外部との接続口であり、捕集装置100内を通過した水素ガスを外部に排出するための開口部である。固体捕集サンプラー等を通過した水素ガスが通る配管が一本の配管に合流した上で、排気口24に接続されている。
【0073】
遮光部25は捕集装置100の筐体の天面を遮蔽部材で構成することにより形成されている。なお、本実施形態では説明の簡単のために図3に示すように当該天面のみを覆う形態の遮光部としているが、遮光部は捕集装置の筐体の全壁面に設けられていることがより好ましい。
【0074】
以上のように、捕集装置100は、高圧ガスボンベ及び電源を必要としない。従って、小型で軽量に構成することが可能であり、容易に持ち運びでき、省スペースでサンプリングできる。
【0075】
(捕集装置100の動作)
次に、捕集装置100の動作について説明する。
【0076】
まず、図4に示すように、分析対象の水素ガスを注入口12から導入する。例えば、減圧ユニット10の出口弁5、または出口弁5を連結する連結管を注入口12に接続して、捕集装置100内に減圧された水素ガスを注入する。また、流量は、固体捕集サンプラー等の種類等に応じて、所望の流量となるように適宜調整すればよく、固体捕集サンプラー等毎に流量は異なっていてもよい。また、測定対象の水素ガスを、サンプリングを目的として導入する前に、捕集装置100内のガスを当該水素ガスで置換する目的で導入してもよい。なお、酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32については、それぞれに接続されている配管を清浄するために、それぞれの固体捕集サンプラーに通気させずに測定対象の水素ガスを適宜パージすることがより好ましい。固体捕集サンプラー内を通気させると当該水素ガス中の不純物を捕集する可能性があるからである。例えば、バイパスラインを用いて、それぞれの固体捕集サンプラーの上流側の直前に分岐を設け、固体捕集サンプラーを跨いで排気ラインに当該バイパスラインを接続すればよい。
【0077】
注入口12から捕集装置100内に注入された水素ガスは、流量計16を通って各固体サンプラー等に流れていく。この間、水素ガスの圧力は、圧力計15で適宜確認されながら、圧力調整器14によって適宜調整される。そして、各固体捕集サンプラー等に流れ込む水素ガスの流量は流量計16によって確認される。
【0078】
次に、露点計18及び酸素濃度計20において、それぞれ、水素ガス中の水分濃度及び酸素濃度が測定される。また、酸成分用固体捕集サンプラー28、塩基成分用固体捕集サンプラー30、アルデヒド成分用固体捕集サンプラー32では、それぞれ、水素ガス中の酸成分、塩基成分、及びアルデヒド成分が捕集される。
【0079】
各固体捕集サンプラー等を通過した水素ガスは、排気口24から捕集装置100の外部に排出される。
【0080】
〔濃縮装置200〕
(濃縮装置200の構成)
濃縮装置200の構成について、図5を用いて説明する。濃縮装置200は、シリカ膜211、及び容器213を備えている。なお、濃縮装置の提供方法の態様として、濃縮装置200に組み立てられたものを提供してもよく、組み立てるための部品を提供して、使用者が組み立てる態様にしてもよい。
【0081】
濃縮装置200は、容器213の内部に管状のシリカ膜211が収まった、二重管構造となっている。
【0082】
容器213は、シリカ膜211を包み込んでいる。容器213には、試料ガス導入口218及び濃縮ガス排出口220が設けられている。試料ガス導入口218は、容器213内に試料ガスを導入するための口である。シリカ膜211と容器213の内壁とは密着しておらず、試料ガス導入口218から導入された試料ガスは容器213の内側とシリカ膜211の外壁との間に滞留する構造となっている。また、濃縮ガス排出口220は、容器213の内側とシリカ膜211の外壁との間のガスを抜き出すための排出口である。試料ガス導入口218及び濃縮ガス排出口220の形状は特に限定されず、例えば、それぞれに連結される部材の形状に基づいて決定すればよい。また、容器213の材料は、特に限定されないものの、気体を透過させず、加熱しても問題のない材料により製造される。そのような材料として、ステンレス鋼等が挙げられる。また、容器213の形状は、特に限定されず、例えば、箱状、筒状等であり得る。
【0083】
本態様においては、シリカ膜211は管状である。なお、濃縮装置のシリカ膜の形状はこの形状に限定されない。例えば、両端が解放された管状、板状であってもよい。また、管状である場合、U字状等に折り曲げられた形状としてもよい。その場合、両端から、シリカ膜を透過したガスを回収したり、シリカ膜にガスを導入したりできる。より多くの試料ガスを処理するために、シリカ膜の表面積を大きくすることが好ましい。シリカ膜の表面積を大きくするために、例えば、管状のシリカ膜の本数を多くしてもよく、管状のシリカ膜の長さを長くしてもよい。シリカ膜の表面積を大きくするために、例えばシリカ膜を表面が波打った管状にしてもよい。また、製造が容易であることから、シリカ膜は管状であることが好ましい。
【0084】
シリカ膜211は一方の末端217が容器213に密着しており、末端217と容器213との間は、気密に封じられている。末端217と容器213との間の気密性を高めるために、Oリング等のシール部材を用いてもよい。他方の末端216には透過ガス排出口219が形成されており、シリカ膜211を透過したガスを透過ガス排出口219から回収できる。また、容器213には、シリカ膜211の透過ガス排出口219から排出された透過ガスを外部で回収できるように開口部が設けられている。この開口部の縁とシリカ膜211の透過ガス排出口219側の末端である末端216の外壁とは密着し、気密に封じられている。末端216と容器213との間の気密性を高めるために、Oリング等のシール部材を用いてもよい。
【0085】
なお、濃縮装置200は、シリカ膜211等が予め容器213内に収まった態様で提供されてもよい。このとき、不純物の濃縮をするときに、シリカ膜211を容器213に取り付ける作業を行なう必要がない。これは、シリカ膜211及び容器213の内部に水素ガス以外の気体が混入する機会が最小限に抑えられているともいえる。このため、水素ガス中の不純物をより正確に分析することができる。
【0086】
試料ガス導入口218は、試料ガス導入管231につながっている。試料ガス導入管231には、流量制御機221が設けられている。末端216は透過ガス排出管232につながっている。透過ガス排出管232には、流量制御機222が設けられている。濃縮ガス排出口220は、濃縮ガス排出管233につながっている。濃縮ガス排出管233には、流量制御機223が設けられている。また、透過ガス排出管232及び濃縮ガス排出管233には、透過ガス又は濃縮ガスの逆流を防ぐために、逆止弁が設けられていてもよい。
【0087】
試料ガス導入管231、透過ガス排出管232、及び濃縮ガス排出管233は、気体を通さない材質で管状に形成されたものであればよく、特に限定されない。例えば、ステンレス鋼、銅でできた管を用いればよい。そのような連結管としては、例えば、SUS316、SUS304等が挙げられ、内面がコーティングされていても良い。
【0088】
流量制御機221~223は、例えば、流量制御バルブ、容積ポンプ等である。そのような流量制御機としては、例えば、マスフローコントローラ、ニードルバルブ、ダイアフラムポンプ等が挙げられる。
【0089】
加熱装置214はシリカ膜211を加熱するための装置である。加熱装置214としては、例えば、恒温槽、オーブン、マントルヒーター、リボンヒーター等を用いることができる。また、加熱装置214は、濃縮装置が備えていてもよく、濃縮装置が備えず、使用者が別に用意する形態であってもよい。
【0090】
(濃縮装置200の動作)
水素ガス貯蔵源から供給され、減圧ユニット10により減圧された水素ガスは、試料ガス導入管231を通り、流量制御機221により適宜流量を調節されて、試料ガス導入口218から、容器213内に導入される。試料ガス導入口218から導入する試料ガスの試料ガス流量は、分析の目的等に応じて適宜設定すればよい。
【0091】
容器213内に導入された試料ガスは、管状のシリカ膜211に接触する。不純物を含まない水素ガスは、シリカ膜211を透過し、シリカ膜の内部215に入る。シリカ膜211の内部215に入った水素ガスは、末端216の透過ガス排出口219から、透過ガス排出管232を通って、容器213の外部へと排出される。なお、図5では、ガスの流れを、矢印で示している。
【0092】
試料ガスに含まれていた不純物のうちの少なくとも一種は、シリカ膜211を透過できないため、シリカ膜の内部215に入らず、容器213内で移動し、濃縮ガス排出口220から、濃縮ガス排出管233を通って、容器213の外部へと排出される。これにより、不純物のうちの少なくとも一種が濃縮されたガスを得ることができる。なお、試料ガスに本態様に係る不純物が含まれていなかった場合、不純物は当然排出も濃縮もされない。
【0093】
水素ガスのシリカ膜211への透過を促進するため、シリカ膜211は加熱装置214により加熱される。シリカ膜211を加熱することで、水素ガスがシリカ膜211を透過する速度をより早くすることができる。シリカ膜211の温度は、好ましくは20℃~600℃、より好ましくは20℃~350℃、さらに好ましくは20℃~150℃に加熱される。シリカ膜の温度を、前記の範囲内にすることで、シリカ膜の透過性能を維持しつつ、より簡便な加熱装置でキットを構成することができる。また、本態様においては、シリカ膜を用いていることで、パラジウム膜を用いた場合と比べ、低い膜の温度で濃縮を行うことが可能である。そのため、引火性のある水素ガスの分析に、安全に用いることができる。
【0094】
透過ガス、又は、濃縮ガスは、それぞれ流量制御機222又は223により、適切な流量及び流圧へと制御される。
【0095】
以下、濃縮ガス排出口220から出る濃縮ガスの流量を濃縮ガス流量と称する。また、試料ガス導入口218から導入される試料ガスの流量を試料ガス流量と称する。試料ガス流量と濃縮ガス流量との比を調節することにより、不純物の濃縮率を制御することができる。
【0096】
透過ガス排出管232はダイアフラムポンプ等を用いて減圧してもよい。試料ガス及び濃縮ガスと、透過ガスとの圧力差を大きくすることで、より高い不純物の濃縮効果を得ることができる。
【0097】
また、濃縮装置200を用いて得た濃縮ガスを採取用の容器に採取して、該採取用の容器を離れた場所に設置してある測定機器の所まで運んで、後の測定を行ってもよい。
【0098】
〔水素ガス分析装置300〕
水素ガス分析装置300としては、上述した様々な分析装置を採用できる。連続して水素ガスを供給して測定する水素ガス分析装置300を用いる場合には、減圧ユニット10に直接接続してもよく、濃縮装置200に接続してもよい。また、バッチ式で水素ガスを供給して測定する水素ガス分析装置300を用いる場合には捕集装置100で捕集した後に水素ガス分析装置300を用いてもよく、濃縮装置200を用いて得た濃縮ガスを採取用の容器に採取して水素ガス分析装置300に供してもよい。
【0099】
<水素ガス分析方法>
本発明の一態様に係る水素ガス分析方法は、水素ガス分析用キットを用いて1MPa以上の高圧水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む。
【0100】
例えば、減圧ユニット10によって減圧した後、所望の分析装置を用いて分析すればよい。1MPa未満に減圧されているためより容易に分析できる。分析装置についての説明は、上述した本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備えてもよい水素ガス分析装置について行なった説明に準じる。
【0101】
<水素ガスの品質管理方法>
本発明の一態様に係る水素ガスの品質管理方法は、水素ガス分析用キットを用いて1MPa以上の高圧水素ガスを1MPa未満に減圧する工程を含む。
【0102】
水素ガス分析用キットを用いて水素ガスを減圧した後は、例えば、本発明の一態様に係る水素ガス分析方法を行なった後に、分析結果に応じて、品質を適宜評価し、管理すればよい。品質の評価、管理は、水素ガスの使用目的に応じて適宜行なえばよい。例えば、燃料電池自動車に供給する水素ガスの品質管理を行なう場合には、ISO等の規定に基づいてもよい。
【0103】
〔付記事項〕
以上のように、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが減圧する高圧の水素ガスは、14MPa~90MPaであることがより好ましい。
【0104】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備える、前記減圧ユニットは、減圧器を備えており、前記減圧器は一つで前記高圧の水素ガスを1MPa未満に減圧することがより好ましい。
【0105】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、水素ガス捕集装置をさらに備えることが好ましい。
【0106】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、前記水素ガス捕集装置が、固体捕集剤を含む固体捕集サンプラーを備えることがより好ましい。
【0107】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、前記水素ガス捕集装置は前記固体捕集サンプラーに当たる光を遮る遮光部を備えることが好ましい。
【0108】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、前記水素ガス中の不純物の濃縮装置をさらに備えることが好ましい。
【0109】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットは、前記減圧ユニットによって減圧された水素ガスの成分を分析する水素ガス分析装置をさらに備えることが好ましい。
【0110】
また、本発明の一態様に係る水素ガス分析用キットが備える、前記水素ガス分析装置は、連続式及びバッチ式のうち少なくとも一方で分析する装置であることが好ましい。
【0111】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、例えば、水素ステーションのディスペンサーから高圧水素ガスを減圧して安全にサンプリング又は/及び分析することができる。
【符号の説明】
【0113】
2 減圧器
10 減圧ユニット
100 捕集装置
200 濃縮装置
400 水素ガス分析用キット
図1
図2
図3
図4
図5