(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】質量分析のためのイオン輸送装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220224BHJP
【FI】
G01N27/62 X
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017168502
(22)【出願日】2017-09-01
【審査請求日】2020-07-21
(32)【優先日】2016-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ケネス・アール・ニュートン
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-149539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0276584(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0142698(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0108539(US,A1)
【文献】特表2010-508535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔内径を有する管腔を備えるイオン入口区域であって、前記管腔は、管腔入口
および管腔出口を備えている、イオン入口区域と、
孔内径を有する孔を備える主毛細管区域であって、前記孔は、孔出口を備えている、主毛細管区域と、
を備えるイオン輸送装置であって、
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域は、前記管腔が前記孔に連通し、かつ前記イオン入口区域および前記主毛細管区域が前記管腔入口から前記孔出口に延在するイオン輸送経路を画定するように、配置されており、
前記管腔内径は、前記孔内径の最大値よりも小さい最大値を有して
おり、
前記イオン入口区域は前記主毛細管区域に取外し可能に取り付けられたキャップから構成され、前記キャップが前記管腔を有し、さらに前記管腔出口に連通する凹部を備え、前記主毛細管区域が前記凹部内に延在する、
イオン輸送装置。
【請求項2】
前記管
腔は、前記主毛細管区域に
向かう方向において拡大区域に移行する縮小区域を備え、前記管腔内径が前記管腔入口と前記主毛細管区域との間の箇所において最小値を有す
る、請求項1に記載のイオン輸送装置。
【請求項3】
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域は、
前記主毛細管区域が、連続的に互いに隣接して配置された複数のチューブセグメントを備えること、
および
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域が長軸に沿ったそれぞれの長さを有し、前記イオン入口区域の長さが前記主毛細管区域の長さよりも短いこと
、
からなる群から選択された構成を有している、請求項1または
請求項2に記載のイオン輸送装置。
【請求項4】
厚みを有する壁を備え、前記壁は、前記厚みを貫通する開口を備えており、前記イオン入口区域および前記主毛細管区域の少なくとも一方は、前記壁に取り付けられている
、請求項1~
請求項3のいずれか
1つに記載のイオン輸送装置。
【請求項5】
前記開口における前記主毛細管区域と前記壁との間の間隙、および前記間隙内に配置された密封要
素を備える、請求項4に記載のイオン輸送装置。
【請求項6】
前記イオン入口区域が尖った形状部を有し、該尖った形状部において、前記イオン入口区域の外径が前記主毛細管区域に向かう方向において増大する
、請求項1~
請求項5のいずれか
1つに記載のイオン輸送装置。
【請求項7】
第1のチャンバと、
前記第1のチャンバの圧力よりも低い圧力まで減圧されるように構成された第2のチャンバと、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバを分離する壁であって、厚みを有しており、該厚みを貫通する開口を備えている壁と、
請求項1~
請求項3のいずれか
1つに記載のイオン輸送装置
と、
を備え、
前記イオン輸送装置は、前記壁に流体密封の状態で配置されており、
前記イオン入口区域および
前記主毛細管区域の少なくとも一方が前記開口内に延在しており、
前記管腔入口が前記第1のチャンバに連通しており、
前記孔出口が前記第2のチャンバに連通している
、
イオン輸送システム。
【請求項8】
請求項7に記載のイオン輸送システムと、
前記第1のチャンバ内においてイオンを生成するように構成された大気圧イオン化装置と、
前記第2のチャンバを密閉する真空ハウジングと、
前記真空ハウジング内に配置された質量分析器と、
を備える、質量分析(MS)システム。
【請求項9】
イオンを輸送するための方法であって、
第1のチャンバと第2のチャンバとの間に、前記第2のチャンバが前記第1のチャンバの圧力よりも低い圧力を有するように、差圧を生成するステップであって、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバは、壁によって分離されており、
イオン輸送装置が、前記壁を貫通しており、イオン入口区域および主毛細管区域を備えており、
前記イオン入口区域は、管腔に通じる入口を備えており、
前記主毛細管区域は、前記管腔に連通して出口に通じる孔を備えており、
前記管腔は、管腔径を有しており、前記孔は、前記管腔径よりも大きい孔径を有して
おり、
前記イオン入口区域は前記主毛細管区域に取外し可能に取り付けられたキャップから構成され、前記キャップが前記管腔を有し、さらに管腔出口に連通する凹部を備え、前記主毛細管区域が前記凹部内に延在する、
ステップと、
前記第1のチャンバにおいてイオンを生成するステップと、
前記イオンを前記入口内に引き込むステップと、
前記イオンを前記入口から前記管腔を通して前記孔内に、さらに前記孔を通して前記出口に輸送するステップと、
前記イオンを前記出口から前記第2のチャンバ内に放出するステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、イオン源から質量分析器にイオンを輸送するのに有用なイオン輸送装置であって、特に大気圧インターフェイスに利用されるとよい、イオン輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)によって試料を分析するプロセスにおいて、MSシステムは、最初、検体イオンを生成するために試料をイオン化させる。次いで、MSシステムは、該イオンを質量分析器内に輸送し、質量分析器が、イオンの種々の質量電荷(m/z)比に基づき、該イオンを分析する。イオン検出器は、検出された各m/z比におけるイオンの存在度を測定する。次いで、MSシステムは、イオン検出器から出力された信号を処理し、試料(例えば、化合物、異性体、元素、など)の成分に関する定量的かつ定性的情報をもたらす質量(m/z)スペクトルを生成する。
【0003】
質量分析器は、制御された高真空環境下、例えば、10-6トールから10-9トールの環境下で操作される。いくつかのMSシステムでは、(試料のイオン化が行われる)イオン源も真空圧下で操作される。他のMSシステム、例えば、液体クロマトグラフィー(LC)機器に連結されたMSシステム(LC-MSシステム)では、イオン源は、大気圧またはその近傍で操作される。大気圧イオン化(API)源を利用するMSシステムは、API源と(質量分析器および他の装置が配置されている)MSシステムの減圧領域との間にインターフェイスを必要とする。インターフェイスは、イオンが生成される大気圧領域をイオンが処理される減圧領域から有効に隔離し、同時に生成されたイオンを減圧領域に効率的に輸送する経路をもたらす必要がある。
【0004】
イオンをAPI源からMSシステムの第1の真空領域に輸送するために、多くの場合、毛細管チューブが利用される。毛細管チューブは、小さい内側孔を有し、その内径は、1mmの数分の一から数mmの範囲内にある。毛細管チューブは、API源と第1の真空領域との境界を貫通し、これによって、チューブの入口は、API源のイオン化領域に露出し、チューブの出口は、第1の真空領域に露出する。API源のイオンおよびガスは、チューブの入口内に引き込まれ、チューブ孔を通って輸送され、チューブ出口から第1の真空領域内に放出される。イオン光学機器が、該イオンをMSシステム内にさらに案内し、最終的に質量分析器に導く。毛細管チューブは、金属であるとよい。代替的に、毛細管チューブは、ガラスであってもよく、該ガラスは、チューブの入口が比較的高電圧レベルにあり、チューブの出口が比較的低電圧レベルに維持されることを可能にするために、電気的抵抗特性(被膜またはバルク抵抗)を有するとよい。この場合、イオンは、チューブ孔を通って効率的に輸送される。何故なら、毛細管チューブ内のイオンへのガス抗力が、毛細管チューブの内部電場の存在によるイオンへの(電気的)イオン移動力を著しく超えるからである。
【0005】
しかし、毛細管チューブは、長時間の使用後に、例えば、イオン拡散および空間電荷反発によって汚染される傾向にあり、浄化または交換が周期的に必要とされる。汚染の大半は、毛細管チューブの長さの最初の3-10mm、すなわち、その入口端に生じることが分かっている。浄化または交換は、毛細管チューブへのアクセスを必要とするが、多くの場合、このアクセスのために、MSシステムによって維持されている真空を解除させる必要がある。従って、汚染した毛細管の浄化または交換は、MSシステムの操作において著しい稼働停止時間を必要とすることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、汚染の問題により効果的に対処する毛細管式イオン輸送装置が必要とされている。また、液滴の蒸発および液滴からのイオンの脱溶媒和を改良する毛細管式イオン輸送装置が必要とされている。さらに、真空界面において生じる超音速膨張を注意深く制御し、付随するガス噴流の冷却およびイオンクラスター化の可能性を低減させる毛細管式イオン輸送装置が必要とされている。真空内への出口速度の低減は、真空チャンバ内においてより安定したガス流れを生じさせ、より安定した信号レベルを生成するのに役立つことになる。また、イオンの捕捉および伝達を改良し、汚染を低減させるように毛細管入口近くのガス流れを変化させ、該位置における電場の形状を変化させるように修正された、インターフェイスの高圧側における毛細管入口形状を有する、毛細管式イオン輸送装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題の全てまたは一部および/または当業者によって知られている他の問題に対処するために、本開示は、以下の実施例において例示的に説明する方法、プロセス、システム、器具、機器、および/または装置を提供する。
【0008】
一実施形態によれば、イオン輸送装置は、管腔内径を有する管腔を備えるイオン入口区域であって、該管腔が管腔入口を備えている、イオン入口区域と、孔内径を有する孔を備える主毛細管区域であって、該孔が孔出口を備えている、主毛細管区域と、を備え、イオン入口区域および主毛細管区域は、管腔が孔に連通するように互いに隣接して配置されており、イオン入口区域および主毛細管区域は、管腔入口から孔出口に延在するイオン輸送経路を画定しており、管腔内径は、孔内径よりも小さくなっている。
【0009】
他の実施形態によれば、イオン輸送システムは、第1のチャンバと、第1のチャンバの圧力よりも低い圧力まで減圧されるように構成された第2のチャンバと、第1のチャンバおよび第2のチャンバを分離する壁であって、厚みを有し、該厚みを貫通する開口を備えている、壁と、請求項1に記載のイオン輸送装置と、を備え、イオン輸送装置は、壁に流体密封の状態で配置されており、イオン入口区域および主毛細管区域の少なくとも一方は、開口内に延在しており、管腔入口は、第1のチャンバに連通し、孔出口は、第2のチャンバに連通している。
【0010】
他の実施形態によれば、質量分析(MS)システムは、本明細書に開示される実施形態のいずれかに記載のイオン輸送システムと、第1のチャンバ内においてイオンを生成するように構成された大気圧イオン化装置と、第2のチャンバを密閉する真空ハウジングと、真空ハウジング内に配置された質量分析器と、を備えている。
【0011】
他の実施形態によれば、イオンを輸送するための方法は、第1のチャンバと第2のチャンバとの間に、第1のチャンバがある圧力を有し、第2のチャンバが第1のチャンバの圧力よりも低い圧力を有するように、圧力差を生成するステップであって、第1のチャンバおよび第2のチャンバは、壁によって分離されており、イオン輸送装置が、壁を貫通しており、イオン入口区域および主毛細管区域を備えており、イオン入口区域は、管腔に通じる入口を備えており、主毛細管区域は、管腔に連通して出口に通じる孔を備えており、管腔は、管腔直径を有しており、孔は、管腔直径よりも大きい孔直径を有している、ステップと、イオンを入口内に引き込むステップと、イオンを入口から管腔を通して孔内に、さらに孔を通して出口に輸送するステップと、イオンを出口から第2のチャンバ内に放出するステップと、を含んでいる。
【0012】
本発明の他の装置、器具、システム、方法、特徴、および利点は、以下の図面および詳細な説明を考察すれば、当業者にとって明らかになるだろう。このような追加的システム、方法、特徴、および利点の全てが、本明細書に含まれ、本発明の範囲内に包含され、添付の請求項によって保護されることが意図されている。
【0013】
本発明は、以下の図面を参照することによって、良好に理解されるだろう。図面の構成部品は、必ずしも縮尺通りではなく、代わって、本発明の原理を説明する場合に誇張されている。図面において、同様の参照番号は、種々の図面を通して対応する部品を指すものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本明細書に開示されている実施形態によるイオン輸送装置が設けられている質量分析(MS)システムの例の概略図である。
【
図2】一実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面斜視図である。
【
図3】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面斜視図である。
【
図4】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面斜視図である。
【
図5】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面斜視図である。
【
図6】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面立面図である。
【
図7】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面立面図である。
【
図8】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面立面図である。
【
図9】他の実施形態によるイオン輸送装置の例の略断面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に用いられる「大気圧」という用語は、正確に760トールまたは一気圧(1atom)に制限されず、一般的に760トールを中心とする範囲(例えば、100トールから900トールの範囲)を含んでいる。
【0016】
本明細書に用いられる「真空」または「真空圧」という用語は、一般的に、少なくとも大気圧よりも一桁低い圧力を指している。例えば、真空圧は、10-9トール以下に至るまでの亜大気圧を含んでいる。
【0017】
当業者にとって明らかなように、密閉空間または真空チャンバを種々の圧力範囲に減圧させるために、種々の形式の真空ポンプが用いられてもよい。例えば、真空チャンバを「粗(rough)」真空レベル、例えば、約10-3トールまで真空引きするために、粗引き(roughing)」ポンプ(またはバッキング(backing)ポンプ)が用いられるとよい。粗引きポンプは、典型的には、大部分が機械的な構造を有しており、その例として、制限されるものではないが、スクロールポンプ、回転翼ポンプ、ダイヤフラムポンプ、ルーツブロワー(容積移送ローブ)ポンプ、などが挙げられる。より高レベルの真空(より低圧)、例えば、10-9トール以下に至るまでの真空を達成するために、高真空ポンプが用いられている。高真空ポンプの例として、制限されるものではないが、ターボ分子ポンプおよびスパッタイオンポンプが挙げられる。粗引きポンプは、真空ポンプダウンの第1の段階として、および/または高真空ポンプを粗真空環境または高真空環境から隔離するために、高真空ポンプと併せて用いられてもよい。
【0018】
図1は、本明細書に開示される一実施形態によるイオン輸送装置104が設けられている質量分析(MS)システム100の例の概略図である。しかし、MSシステムは、イオン輸送装置104の操作環境の一つの非排他的な例にすぎない。より一般的に、イオン輸送装置104は、イオンが比較的高圧(例えば、大気圧)に保持された領域から比較的低圧(例えば、真空圧)に保持された他の領域に伝達されるどのようなシステムに利用されてもよい。MSシステムの種々の形式、それらの操作原理、およびそれらの構成要素は、当業者に広く知られている。従って、ここでは、本明細書に開示されるイオン輸送装置104のMSシステムとの関連を明らかにするために、
図1に示されているMSシステム100の例について手短に説明することにする。
【0019】
図示の例では、MSシステム100は、真空ハウジング112に結合された大気圧イオン化(API)源108を備えている。真空ハウジング112内には、質量分析器116および他のイオン処理構成要素が配置されている。従って、API源108は、略大気圧下で試料120をイオン化するように構成されているが、質量分析器116は、通常の方法によって高真空(極めて低圧)下で操作される必要がある。イオン輸送装置104は、以下にさらに説明するように、イオン124および中性ガス分子(または原子)がAPI源108から真空ハウジング112内に入る経路をもたらすものである。
【0020】
API源108は、第1のチャンバ128を備えている。第1のチャンバ128は、本実施形態では、試料120からイオン124を生成するイオン化チャンバである。API源108は、APIイオン化装置132も備えている。APIイオン化装置132は、試料120を大気圧下でイオンすることができるどのような装置であってもよい。APIイオン化装置の例として、制限されるものではないが、スプレー式装置(エレクトロスプレーイオン化(ESI)装置、サーモスプレーイオン化装置、など)、大気圧化学イオン化(APCI)装置、大気圧フォトイオン化(APPI)装置、大気圧レーザー脱離イオン化(AP-LDI)装置、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化(AP-MALDI)装置、などが挙げられる。従って、この実施形態によれば、
図1に概略的に示されているイオン124は、APIイオン化装置132からの放出物を代表するものであり、該放出物は、イオン124に加え、蒸発によってより多くのイオンを生成することができる検体および非分析マトリックス材料を含む液滴、および試料120を噴霧化するためにおよび/または試料120をAPIイオン化装置132に運ぶために用いられるガス分子または原子を含んでいる。用いられるAPIイオン化装置132の形式にもよるが、試料120は、当初、流体または固体の形態でもたらされるようになっている。例えば、試料120は、試料源からAPIイオン化装置132に向かってまたはAPIイオン化装置132内に流れるようになっていてもよい。いくつかの実施形態では、試料源は、液体クロマトグラフィー(LC)機器または他の形式の分析分離機器の産出物であってもよい。他の例として、試料120は、固体ターゲット面上に供給され、APIイオン化装置132によって該表面から脱離されるようになっていてもよい。API源108は、排出ポート136をさらに備えているとよく、イオン化プロセス中、排出ポート136を通って、ガスおよび蒸気が第1のチャンバ128から取り除かれるようになっているとよい。
【0021】
真空ハウジング112は、必要に応じて、1つまたは複数の真空チャンバを備えている。これらの真空チャンバは、MSシステム100を質量分析器116を作動させるのに必要な超低圧(高真空)に真空引きするために、かつ質量分析器116による最終的な質量分析の前にイオン124への処理を行なうために用いられる中間装置を収容するために、必要である。図示の例では、真空ハウジング112は、第2のチャンバ140、第3のチャンバ144,および第4のチャンバ148を備えている。実施形態によっては、これらよりも少ない真空チャンバまたは多い真空チャンバが設けられてもよいことを理解されたい。チャンバ140,144,148は、チャンバ140,144,148の各々において特定レベルの真空を維持するように構成された(下向き矢印によって概略的に示されている)真空システムに連通するそれぞれのポート152,156,160を備えている。典型的には、チャンバ140,144,148は、継続的に低くなる圧力に保持されており(真空システムによって維持されており)、質量分析器116を密閉する最終的な(第3の)チャンバ144が、MSシステム100によって得られる最低圧(最高真空)に維持されている。
【0022】
図示の例では、イオンガイド164が第3のチャンバ144内に配置されており、質量分析器116およびイオン検出器168は、第4のチャンバ148内に配置されている。イオンガイド164は、どのような形式のもの、例えば、(概略的に示されている)線形多重極イオンガイド、イオンファンネル、衝突セル、質量フィルタ、または他の形式の質量分析装置、などであってもよい。質量分析器116は、どのような形式のもの、例えば、四重極質量分析器、飛行時間型(TOF)分析器、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)セル、磁気セクター、電気セクター、静電イオントラップ、などであってもよい。イオン検出器168は、どのような形式のもの、例えば、電子乗算器、フォト乗算器、ファラディーカップ、などであってもよい。当業者にとって明らかなように、MSシステム100の意図された使用および操作に必要とされる多くの他の形式のイオン光学機器が、チャンバ128,140,144,148内に設けられていてもよい。
【0023】
互いに隣接するチャンバ128,140,144,148は、それぞれの壁172,176,180によって分離されている。イオン輸送装置104は、壁172の厚みを貫通して形成された開口184内に延在しており、または該開口184を貫通している。従って、イオン輸送装置104の入口188は、第1チャンバ128に連通しており、イオン輸送装置104の出口192は、第2のチャンバ140に連通している。イオン輸送装置104は、壁172に流体密封の状態で取り付けられており、これによって、イオン輸送装置104の内部通路は、イオンがAPI源108から真空ハウジング112内に移動する唯一の経路をもたらすことになる。イオン輸送装置104は、ガス伝導バリアとして機能するように構成されている。ガス伝導バリアは、イオン輸送装置103を通るガスの流れを制限し、大気圧の第1のチャンバ128と減圧された第2のチャンバ140との間の差圧を効果的に維持するものである。互いに隣接するチャンバを分離する他の壁(例えば、壁176,180)は、ガス伝導バリア、スキマーコーン、イオン光学機器、などとして機能するとよい開口(例えば、開口194,196)を備えている。
【0024】
イオンおよびガスは、第1のチャンバ128と第2のチャンバ140との間の差圧の影響によってイオン輸送装置104を通って流れる。いくつかの実施形態では、イオン輸送装置104は、その入口端および出口端に電極(例えば、電気的伝導要素または電気的抵抗要素)を備えている。これらの電極間に加えられた電圧が、イオンをイオン輸送装置104を通して強制的に送る電場を生成する。いくつかの実施形態では、イオン輸送装置104は、イオンおよび液滴がイオン輸送装置104を通って移動する間に液滴の蒸発およびイオンの脱溶媒和を促進する加熱装置198を備えている。
【0025】
以下、イオン輸送装置104の実施形態のさらに詳細な例について、
図2-9を参照して説明する。これらの実施形態は、比較的高圧環境(例えば、
図1に基いて前述したAPI源108のような大気圧環境)から低圧(減圧)環境(例えば、
図1に基づいて前述した真空ハウジング112のような真空環境)へのイオン伝達を、汚染が低減されるように改良するものである。いくつかの実施形態では、
図2-8に示されているように、イオン輸送装置104の入口端部分は、取外し可能である。イオン入口区域またはイオン入口構造とも呼ばれる取外し可能な入口端部分は、汚染の殆どまたは全てが生じると予期される長さを有している。従って、イオン輸送装置104からの汚染の除去は、入口端部分を浄化または交換のために取り外することしか必要とせず、イオン輸送装置104の残りの部分を設置されたまま残すことができる。さらに、イオン輸送装置104は、入口端部分の取外しが、イオン輸送装置104が設置されている機器(例えば、
図1に基づいて概略的に説明したMSシステム100)の真空システムを停止する必要がなくまたはその操作パラメータを変化させる必要がないように、構成されているとよい。従って、このような実施形態は、イオン輸送装置104内の汚染を除去するプロセスによって生じる機器の試料処理能力の低減を最小限に抑えることができる。
【0026】
図2は、一実施形態によるイオン輸送装置204の例の略断面斜視図である。一般的に、イオン輸送装置204は、長軸Lに沿ってある長さを有しており、入口端206と軸方向において反対側の出口端210とを備えている。関連する機器(例えば、
図1に示されているMSシステム100)内に設置されたとき、入口端206は、第1のチャンバ(例えば、
図1に示されている第1のチャンバ128)内に配置されるかまたは該第1のチャンバに面することになり、出口端210は、壁272によって第1のチャンバから分離された第2のチャンバ(例えば、
図1に示されている第2のチャンバ140)内に配置されるかまたは該第2のチャンバに面することになる。イオン輸送装置204の典型的な使用では、第2のチャンバは、第1のチャンバよりも低い圧力下に維持されている。例えば、前述したように、第1のチャンバは、大気圧(または略大気圧)下にあるとよく、第2のチャンバは、真空下にあるとよい。
【0027】
イオン輸送装置204は、入口端206に位置するイオン入口区域(または入口端部分)214と、長軸Lに沿ってイオン入口区域214から出口端210に延在する主毛細管区域218と、を備えている。イオン入口区域214および主毛細管区域218の一方または両方は、壁272の厚みを通って延在する開口284内に延在しているとよく、または(図示されている実施形態におけるように)イオン入口区域214および主毛細管区域218の一方は、開口284を完全に貫通しているとよい。イオン入口区域214は、イオン入口区域214の中実部分(本体)を通って形成された管腔222(または第1の管腔または第1の孔)を備えている。管腔222は、長軸Lに沿って管腔入口288から管腔出口226に延在している。主毛細管区域218は、主毛細管区域218の中実部分(本体)を通して形成された毛細管孔230(または第2の孔または第2の管腔)を備えている。毛細管孔230は、長軸Lに沿って孔入口234から孔出口292に延在している。イオン入口区域214および主毛細管区域218は、管腔出口226が孔入口234に連通し、管腔出口226および孔出口234が長軸Lに沿って互いに真っ直ぐ並んで向き合うように、互いに隣接して配置されている。
【0028】
いくつかの実施形態では、イオン入口区域214は、以下にさらに説明するように、主毛細管区域218から取外し可能になっている。他の実施形態では、イオン入口区域214は、単一片構造体として主毛細管区域218と一体に形成されており、または接着、接合、融合、溶着、などによって、取外し不能に主毛細管区域218に一体に接合されている。いずれの場合にも、イオン入口区域214および主毛細管区域218は、管腔入口288から孔出口292に延在するイオン輸送経路を画定している。管腔入口288は、イオン輸送装置204の流入口または入口を画定しており、孔出口292は、イオン輸送装置204の流出口または出口を画定しており、管腔222および毛細管孔230は、協働してイオン輸送装置204の全内部通路を画定している。関連する機器内に設置されたとき、第1のチャンバ内のイオンおよびガスが、管腔入口288内に引き込まれ、管腔222および毛細管孔230を通って移動し、孔出口292から第2のチャンバ内に放出される。いくつかの実施形態では、イオン入口区域214は、以下にさらに説明するように、主毛細管区域218から取外し可能になっているかまたは主毛細管区域218と一体になっており、イオン輸送装置204の全体的な幾何学的形状は、毛細管チューブの幾何学的形状として検討されているとよい。
【0029】
図示されているように、管腔222の内径は、毛細管孔230の内径よりも小さくなっている。この構成によって、内部通路の内径は、長軸Lに沿って(少なくとも)一点において増大している。本実施形態では、この内径は、イオン入口区域214(管腔出口226)と主毛細管区域218(孔入口234)との境界において増大している。この構成によって、内径が増大する箇所において、ガスを音速にまで加速させることもある。管腔入口288におけるガス流速も、著しく増大する。この増大したガス流速は、第1のチャンバ内におけるイオン輸送装置204の前方のより大きい領域からイオンを捕捉するのに役立つことになる。さらに、この増大したガス流速に起因して、イオン輸送装置204の内側のイオンの電荷密度が減少し、イオン移動装置204の内側のイオンの滞留時間も減少する。この構成およびこれによって可能になる流れ挙動の結果として、イオン輸送装置204内の(イオン入口区域214および主毛細管区域218の両方における)イオンおよび中性粒子による汚染が低減されることになる。
【0030】
いくつかの実施形態では、管腔222の内径および/または毛細管孔230の内径は、それぞれの長さに沿って一定であるとよい。他の実施形態では、管腔の内径および/または毛細管孔230の内径は、それぞれの長さに沿って徐々に変化するかまたは1つまたは複数の段によって段階的に変化するようになっていてもよい。内径が変化する実施形態では、内径の最大値または平均値は、管腔222および毛細管孔230のそれぞれの内径を比較するために基準として役立つことになる。例えば、管腔222の内径の最大値は、毛細管孔230の内径の最大値よりも小さくなっているとよい。代替的に、管腔222のその長さに沿った内径の平均値は、毛細管孔230のその長さに沿った内径の平均値よりも小さくなっているとよい。
【0031】
イオン輸送装置204の典型的な実施例(例えば、典型的な流速および圧力における実施例)では、管腔222および毛細管孔230のそれぞれの内径は、1mmの数分の一から数mmの範囲内にある。1つの非制限例では、管腔222の内径は、0.25mmから0.6mmの範囲内にあるとよく、毛細管孔230の内径は、0.5mmから1mmの範囲内にあるとよい。一般的に、管腔入口288から孔出口292へのイオン輸送装置204の全軸長は、壁272を通るイオン輸送経路をもたらすのに十分であるように、かつ十分な量のイオン脱溶媒和および液滴蒸発が生じるように設定されている。また、軸長は、内径と関連して、イオン輸送装置204の伝導度が第1の真空チャンバに与えられる利用可能なポンピング速度と適合するように、調整されるとよい。典型的には、イオン輸送装置204の長さは、数10mmから数100mmの範囲内、例えば、90mmから180mmの範囲内にある。
【0032】
管腔入口288を取り囲むイオン入口区域214の入口端または入口面は、図示されているように、丸い形状を有している。代替的に、イオン入口区域214の入口端または入口面は、イオン入口区域214の外径が主毛細管区域218に向う方向において増大するより鋭利なまたはより尖った形状を有していてもよい。より尖った形状は、ガス流れを管腔入口288の近くに導き、イオン移動を増大させ、汚染を低減させるのに役立つことになる。さらに、より尖った形状は、より高い半径方向(内方)電場を生じさせ、これによって、イオンをイオン輸送装置204の入口(管腔入口288)の方に導くのに役立つことになる。加えて、もしインターフェイスがシステムのこの部分に乾燥ガスの逆流を供給するようになっていたなら、尖った形状は、同一位置におけるガス速度の半径方向(内方)成分を増大させることになる。これらの2つの効果の組合せによって、管腔入口288の前方の領域から管腔222内へのイオン伝達が増大する。より多くのイオンを管腔222内に導くことによって、より少ないイオン(および液滴)しかイオン入口区域214の前面に堆積せず、これによって、汚染効果を低減させることができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、図示されているように、イオン入口区域214および主毛細管区域218は、互いに物理的に分離された構成部品である。これによって、主毛細管区域218を取り外すことなく、イオン入口区域214を稼働部位から取り外すことができる。従って、主毛細管区域218を浄化または交換することなく、イオン入口区域214を別体の構成部品として容易に浄化または交換することができる。前述したように、多くの用途において、汚染の殆どは、イオン輸送装置の入口端領域(例えば、軸長の最初の3-10mmの領域)内において生じる。従って、イオン輸送装置204の内部通路から汚染の殆どまたは全てを除去するのに必要なことは、イオン入口区域214を取り外すことだけである。従って、イオン入口区域214の軸長は、主毛細管区域218の軸長よりも短くなっているとよく、汚染の殆どまたは全てが生じると予期される長さにわたって延在していれば十分である。非制限的な例として、イオン入口区域214の軸長は、3-10mmの範囲内にあるとよい。イオン入口区域214の長さがイオン入口区域214の内部通路の全長のわずかな部分なので、第1のチャンバと減圧された第2のチャンバとの間の差圧を維持するのに十分低いガス伝導を有するように、主毛細管区域218を設計することができる。その結果、イオン入口区域214が存在しなくても、イオン輸送装置204のガス伝導の増大が十分に制限され、イオン入口214は、真空システムを停止させることなく、イオン入口区域214を取り外すことができる。これは、前述したように有利である。
【0034】
いくつかの実施形態では、図示されているように、イオン入口区域214は、別の構成部品として構成された場合、主毛細管区域218と取外し可能に係合されるように構成されているとよい。図示されている実施形態では、イオン入口区域214は、エンドキャップとして構成されている。このような構成では、管腔222は、大径の凹部またはソケット238に繋がっている。凹部238は、主毛細管区域218の入口端を受け入れるのに十分大きくなっている。
図2に具体的に示されている実施形態では、イオン入口区域214は、壁272の高圧側に隣接しており、主毛細管区域218は、壁272の開口284を貫通し、イオン入口区域214の凹部238内に延在している。イオン入口区域214のエンドキャップ形状は、管腔222が貫通する管腔区域と凹部238が貫通する隣接するスリーブ区域とを備え、主毛細管区域218がスリーブ区域に挿入されるように、特徴付けられているとよい。
【0035】
イオン入口区域214および主毛細管区域218は、任意の適切な手段によって互いに対してかつ壁272に対して適所に固定されているとよい。イオン入口区域214および主毛細管区域218は、互いに取り付けられているとよく、および/またはイオン入口区域214および主毛細管区域218の一方または両方が、(図示されない)適切な取付構成部品を用いることによって、壁271に取り付けられているとよい。イオン輸送装置204は、壁272の開口284内に配置されているとよく、イオン入口区域214および主毛細管区域218は、管腔出口226が1つまたは複数の密封界面を設けることによって、流体密封または実質的に流体密封の形態で孔入口234に連通するように、互いに隣接して配置されているとよい。図示されている実施形態では、例えば、密封要素(例えば、Oリング)242が、主毛細管区域218と壁272との間の開口284の環状間隙内およびイオン入口区域214と壁272との間の軸方向間隙内に配置されているとよい。
【0036】
一般的に、イオン入口区域214および主毛細管区域218は、電気的伝導材料(例えば、金属、金属合金、伝導性プラスチック、など)または電気的絶縁材料(例えば、ガラス、融解シリカ、他のセラミック、金属酸化物、金属窒化物、ポリマー、など)から構成されているとよい。前述したように、イオン入口区域214の入口端および出口端またはその近傍に電圧源を連結させることによって、イオン輸送装置204の長さに沿って軸方向電場を生成すると望ましい。この目的のために、イオン入口区域214および主毛細管区域218は、もし絶縁材料から構成されていたなら、イオン入口区域214および主毛細管区域218の外面に電極(伝導要素または絶縁要素)として機能する外側伝導被膜または電気的絶縁被膜を備えているとよい。抵抗被膜は、例えば、米国特許第7,064,322号にさらに記載されているように、カーボンインク、サーメットインク、金属インク、伝導プラスチックインク、またはポリマーインクのような抵抗インクから形成されているとよい。この文献の内容の全てが、参照することによってここに含まれるものとする。代替的に、利用される絶縁材料は、電圧の印加に応じて電場を生成することができるバルク抵抗を有していてもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、イオン入口区域214および主毛細管区域218の一方は、電気的伝導材料から構成され、他方は、電気的絶縁材料から構成されているとよい。例えば、イオン入口区域214は、金属材料(金属または金属合金)から構成されているとよく、主毛細管区域218は、ガラスから構成されているとよい。金属材料を利用することによって、イオン入口区域214の特徴部の製造が容易になる。ガラスまたは他の絶縁材料から構成される場合、主毛細管区域218は、孔入口234の近くに位置する第1の伝導要素または抵抗要素と、孔出口292の近くに位置する第2の抵抗要素とを備えているとよく、これによって、第1の抵抗要素および第2の抵抗要素は、それぞれの電圧源によって独立して指定アクセス可能である。第1の抵抗要素は、イオン入口区域214に電気的に相互接続されるとよい。
【0038】
主毛細管区域218は、図示されているような一体構造であるとよい。代替的に、主毛細管区域218は、例えば、必要に応じて包囲スリーブおよび密封要素を設けることによって流体密封または実質的に流体密封形態を維持しながら連続的に互いに隣接して配置される複数のチューブセグメントを備えるように、その長さに沿って軸方向に分割されていてもよい。セグメント形態にある主毛細管区域218の設置は、製造上の検討事項、例えば、チューブ材料、アスペクト比(長さ/直径)、孔形状、などに基いているとよい。チューブセグメントは、それぞれの電圧源に独立して指定アクセス可能であり、これによって、必要に応じて、高度に制御された軸方向電圧勾配をもたらすことができる。
【0039】
図2に示されている実施形態では、管腔222および毛細管孔230の内径は、それらの軸長に沿って一定である。すなわち、管腔222および毛細管孔230は、直線状の円筒として形作られている。この場合、イオン輸送装置204の全内部通路の内径が一度だけ、すなわち、管腔222から毛細管孔230への移行部において、増大している(例えば、段階的に増大している)。前述したように、ガスは、この移行部において音速にまで加速することもある。
図2に具体的に示されている実施形態では、管腔222の内径は、毛細管孔230の内径よりもわずかに小さくなっているとよい。この構成によって、超音波膨張は、孔出口292においてのみ生じる。毛細管孔230は、ガス伝導およびガス流れを(イオン入口区域214を真空システムを停止することなく取り外すことができる)安全操作範囲内に制限するように、寸法決めされている。
【0040】
図3は、他の実施形態によるイオン輸送装置304の例の略断面斜視図である。
図2のイオン輸送装置204と同様、イオン輸送装置304は、管腔322を有するイオン入口区域314を備えている。イオン入口区域314は、管腔322に連通する毛細管孔330を有する主毛細管区域318に隣接して配置されている。毛細管孔330は、管腔322の内径よりも大きい内径を有している。イオン輸送装置304は、その毛細管孔330が
図2のイオン輸送装置204の毛細管孔230よりも著しく大きいという点において異なっている。加えて、イオン輸送装置304の毛細管孔330の内径と管腔322の内径との差は、
図2のイオン輸送装置204の管腔222の内径と毛細管孔230の内径との差よりも著しく大きくなっている。
図3の実施形態における管腔322の内径と
図2の実施形態における管腔222の内径とは、同一または実質的に同一であってもよいし、または異なっていてもよい(すなわち、いずれかの実施形態の管腔が、他の実施形態の管腔よりも大きくてもよいし、または小さくてもよい)。
図3のイオン輸送装置304の構成では、ガスの圧力降下および膨張の殆どは、管腔322において生じる。この場合、ガス流れは、管腔322から毛細管孔330への移行部の下流において十分に超音速になる可能性があり、イオン輸送装置304から主真空環境(例えば、第2のチャンバ)内に出るときに超音速になることもあり、または超音速にならないこともある。いくつかの実施形態では、毛細管孔330の内径は、イオン入口区域314を取り外した後、ガス流れに対して著しい伝導性制限をもたらさない程度に大きくなっているとよい。しかし、このような場合、比較的大きな毛細管孔330を有する主毛細管区域318は、主真空環境内に出るまでにイオンに対して脱溶媒和に十分な時間を与えることができる効果的な輸送チューブとして機能することができる。さらに、他の実施形態では、主毛細管区域318は、任意選択的に液滴の蒸発を促進するために加熱されてもよい。他の態様に関して、イオン輸送装置304は、
図2のイオン輸送装置204と同一または同様に構成されているとよい。
【0041】
図4は、他の実施形態によるイオン輸送装置404の例の略断面斜視図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置404は、管腔422を有するイオン入口区域414を備えている。イオン入口区域414は、管腔422に連通する毛細管孔430を有する主毛細管区域418に隣接して配置されている。毛細管孔430は、管腔422の内径よりも大きい内径を有している。本実施形態では、主毛細管区域418は、その軸長に沿って連続的に配置された複数の別個の毛細管チューブ区域またはセグメントを備えている。毛細管孔430の内径は、イオン輸送装置404の出口端に向かって毛細管チューブセグメントごとに順次増大している。例えば、図示されている実施形態では、主毛細管区域418は、第1の孔区域430Aを有する第1の毛細管チューブセグメント418A、第2の孔区域430Bを有する第2の毛細管チューブセグメント418B、第3の孔区域430Cを有する第3の毛細管チューブセグメント418C、および第4の孔区域430Dを有する第4の毛細管チューブセグメント418Dを備えている。第1の孔区域430Aの内径は、管腔422の内径よりも大きく、第2の孔区域430Bの内径は、第1の孔区域430Aの内径よりも大きく、第3の孔区域430Cの内径は、第2の孔区域430Bの内径よりも大きく、第4の孔区域430Dの内径は、第3の孔区域430Cの内径よりも大きくなっている。本実施形態では、毛細管孔430の内径は、段階的に変化(増大)している。内径の各段階的増大によって、互いに隣接する毛細管チューブセグメント418A-418D間の界面が区別されることになる。
【0042】
図示されている実施形態は、一例として4つの毛細管チューブセグメント418A-418Dを設けている。しかし、毛細管チューブセグメントの数は、他の実施形態において4つより多くてもよいし、または4つより少なくてもよい。毛細管チューブセグメント418A-418Dの数、毛細管チューブセグメント418A-418Dのそれぞれの軸長、および孔区域430A-430Dのそれぞれの内径は、長さに沿っておよび主毛細管区域418の出口において所望の圧力降下、温度、流量を達成するように、必要に応じて設定されるとよい。主毛細管区域418のセグメント化構成によって、このような条件の微調整が可能になる。具体的には、毛細管チューブセグメント418A-418Dのそれぞれの直径および長さは、ガス速度、圧力、および温度の制御を望ましく達成するように調整されるとよい。1つの可能な望ましい目的は、多セグメント管腔の長さにわたって圧力を徐々に減少させ、これによって、真空システム内への最終的出口において、もはや超音速膨張が生じないようにすることである。これは、イオンクラスタが生じる傾向を低減させる利点をもたらし、かつ第1の真空チャンバ内の乱流を低減させることになる。
【0043】
主毛細管区域418は、各毛細管チューブセグメント(または区域)418A-418Dが隣接する毛細管チューブセグメント(または区域)418A-418Dに連続的に移行する一体構造であるとよい。他の実施形態では、主毛細管区域418は、毛細管チューブセグメント418A-418Dが互いに隣接して配置されているが、物理的に別個のセグメントである多セグメント構造を有していてもよい。互いに隣接する毛細管チューブセグメント418A-418Dは、互いに直接当接している。毛細管チューブセグメント418A-418Dの外面と包囲構造(例えば、イオン入口区域414,壁272,必要に応じて、アセンブリに付設される包囲スリーブ)との間に適切な密封要素をもたらすことによって、流体密封環境が維持されるとよい。多セグメント構造は、例えば、主毛細管区域418の長さに沿って内径を容易に変更することができるので、実際面において望ましい。加えて、個別の毛細管チューブ区域(セグメント)418A-418Dは、それぞれの電圧源に独立して指定アクセス可能である。これは、主毛細管区域418おいて流れ状態から独立して電場を微調整することができるので望ましい。
【0044】
いくつかの実施形態では、イオン入口区域414は、第1の毛細管チューブセグメントと見なされてもよい。換言すれば、イオン輸送装置404によってもたらされる一連のチューブセグメントの第1の毛細管チューブセグメントが、イオン入口構造として機能するようになっていてもよい。イオン入口区域414(または第1の毛細管チューブセグメント)は、エンドキャップ構造を有していてもよいし、または有していなくてもよく、取外し可能になっていてもよいし、または取り外し可能になっていなくてもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、イオン入口区域414の管腔422は、管腔422の内径が増大する(例えば、段階的に増大する)1つ又は複数の移行部を備えていてもよい。
【0046】
図5は、他の実施形態によるイオン輸送装置504の例の略断面斜視図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置504は、管腔522を有するイオン入口区域514を備えている。イオン入口区域514は、管腔522に連通する毛細管孔530を有する主毛細管区域518に隣接して配置されている。毛細管孔530は、管腔522の内径よりも大きい内径を有している。
図4のイオン輸送装置404と同様、本実施形態では、毛細管孔530の内径は、出口端に向う軸方向において拡大(増大)し、これによって、毛細管孔530の内径は、孔出口におけるよりも孔入口において大きくなっている。イオン輸送装置504は、毛細管孔530が段階的ではなく徐々に(またはなめらかに、または連続的に)拡大する点において異なっている。この幾何学的形状によって、圧力降下およびガス流量は、毛細管孔530の軸長に沿って徐々に変化し、これによって、出口端において所望の条件を得ることができる。ガス流は、毛細管孔530内において超音速になり、イオン輸送装置504を出るときに亜音速に移行することもある。内径の拡大(または膨張)は、曲線関数、例えば、二次関数に基づくものであってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、図示されているように、イオン入口区域514の管腔522は、毛細管孔530に向う軸方向において徐々に拡大し、管腔522の内径が管腔出口におけるよりも管腔入口において大きくなっているとよい。代替的に、管腔522の内径は、他の実施形態におけるように、一定であってもよい。いずれの場合にも、イオン入口区域514は、イオン輸送装置504の最初の圧力降下および伝導性制限を果たし、毛細管孔530の拡大形状は、所望の出口条件(例えば、マッハ数、圧力、温度、流速、など)を達成するように、流れの条件をなめらかに調整することを可能にする。いずれの場合にも、管腔出口から孔入口への移行は、事実上連続的であるとよい。すなわち、管腔出口の直径は、管腔出口の直径と等しくなっているかまたは実質的に等しくなっているとよく、または移行部は、(
図2,3の実施形態と同様)、いくらか急峻になっていてもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、図示されているように、管腔522は、縮小区域を備えているとよい。この縮小区域は、管腔入口で始まり、いくらかの軸方向距離を経た後、管腔に向う方向において拡大区域に移行する。この場合、管腔内径は、管腔入口と管腔出口との間の箇所において最小値を有しており、該箇所は、典型的には、管腔出口よりも管腔入口の近くに位置している。この最初の縮小区域は、管腔入口に引き込まれるイオンの量を増大させるのに有用である。
【0049】
図4の実施形態におけるように、主毛細管区域518は、一体構造であってもよく、または多セグメント構造を有していてもよい。同様に、セグメント化された場合、イオン入口区域514は、第1の毛細管チューブセグメントとして設けられてもよい。さらに、イオン入口区域514(または第1の毛細管チューブセグメント)は、エンドキャップ構成を有していてもよいし、または有していなくてもよく、かつ取外し可能になっていてもよいし、取外し可能になっていなくてもよい。
【0050】
図6は、他の実施形態によるイオン輸送装置604の例の略断面立面図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置604は、管腔622を有するイオン入口区域614を備えている。イオン入口区域614は、管腔622に連通する毛細管孔630を有する主毛細管区域618に隣接して配置されている。毛細管孔630は、管腔622の内径よりも大きい内径を有している。本実施形態では、主毛細管区域618は、多セグメント構造を有している。多セグメント構造では、複数の物理的に別個の毛細管チューブセグメント618A-618Dが、主毛細管区域618の軸長に沿って連続的に配置されている。隣接する毛細管セグメント618A-618Dは、互いに直接当接しているとよい。
図4の実施形態におけるように、毛細管孔630の内径は、イオン輸送装置604の出口端の方向において軸長に沿って段階的に順次増大しており、これは、本実施形態では、セグメントの連続配置に基いて実施されている。従って、図示されているように、主毛細管区域618は、第1の孔区域630Aを有する第1の毛細管チューブセグメント618A、第2の孔区域630Bを有する第2の毛細管チューブセグメント618B、第3の孔区域630Cを有する第3の毛細管チューブセグメント618C、および第4の孔区域630Dを有する第4の毛細管チューブセグメント618Dを備えている。第1の孔区域630Aの内径は、管腔622の内径よりも大きく、第2の孔区域630Bの内径は、第1の孔区域630Aの内径よりも大きく、第3の孔区域630Cの内径は、第2の孔区域630Bの内径よりも大きく、第4の孔区域630Dの内径は、第3の孔区域630Cの内径よりも大きくなっている。
【0051】
他の実施形態では、毛細管孔630の内径(または毛細管孔630および管腔622の両方の内径)は、
図5の実施形態におけるように、徐々に大きくなるようになっていてもよい。
【0052】
図6にも示されているように、主毛細管区域618(または主毛細管区域618およびイオン入口区域614の両方)は、スリーブまたは他の包囲構造698によって包囲されているとよい。包囲構造698は、
図2に関して前述したように、密封要素を互いに隣接する構造間の間隙に配置することによって、流体密封界面をもたらすように構成されているとよい。追加的または代替的に、概略的に示されている包囲構造698の全てまたは一部は、前述したように、主毛細管区域618(または主毛細管区域618およびイオン入口区域614)と熱接触する加熱装置であってもよい。加熱装置は、当業者にとって明らかなように、適切な電源646によって動力供給される1つまたは複数の加熱要素(例えば、電気抵抗加熱要素)を備えているとよい。これに関連して、「熱接触」という用語は、加熱装置(またはその一部)が、(典型的には、電源646に操作可能に関連付けられた回路の制御によって)流体温度を所望のレベルに維持するのに効果的な量および率で熱を主毛細管区域619に伝達することができるように、適切に配置されていることを意味している。
【0053】
図7は、他の実施形態によるイオン輸送装置704の例の略断面立面図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置704は、管腔722を有するイオン入口区域714を備えている。イオン入口区域714は、管腔722に連通する毛細管孔730を有する主毛細管区域718に隣接して配置されている。毛細管孔730は、管腔722の内径よりも大きい内径を有している。本実施形態では、主毛細管区域718内または主毛細管区域718上において、第1の伝導要素または抵抗要素750が主毛細管区域718の入口端またはその近くに配置されており、第2の伝導要素または抵抗要素754が出口端またはその近くに配置されている。第1の伝導要素または抵抗要素750は、第1の電圧源758に電気的連通して配置されているとよく、第2の伝導要素または抵抗要素754は、第2の電圧源762に電気的連通して配置されているとよい。比較的高い電圧ポテンシャルが第1の伝導要素または抵抗要素750に印加され、比較的低い電圧ポテンシャルが第2の伝導要素または抵抗要素754に印加され、これによって、主毛細管区域718の長さにわたってポテンシャル差をもたらし、その結果、イオン輸送装置704を通るイオンの輸送を助長するようになっているとよい。第1の伝導要素または抵抗要素750は、イオン入口区域714に電気的に相互接続されているとよい。イオン入口区域714へのポテンシャルを利用し、イオンをイオン輸送装置704の入口に吸引するようになっているとよい。
【0054】
図8は、他の実施形態によるイオン輸送装置804の例の略断面立面図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置804は、管腔822を有するイオン入口区域814を備えている。イオン入口区域814は、管腔822に連通する毛細管孔830を有する主毛細管区域818に隣接して配置されている。毛細管孔830は、管腔822の内径よりも大きい内径を有している。管腔822は、イオン輸送装置804の入口として機能する管腔入口888から内部管腔出口826に延在している。毛細管孔830は、管腔出口826に連通する内部孔入口834からイオン輸送装置894の出口として機能する孔出口892に延在している。本実施形態では、イオン入口区域814は、テーパ形状を有している。すなわち、イオン入口区域814は、イオン入口区域814の外径(すなわち、イオン入口区域814の外面866の外径)が主毛細管区域818に向う方向において増大する尖った形状を有している。このテーパ形状または尖った形状は、前述したような利点をもたらす。
図8に具体的に示されている実施形態では、(主毛細管区域818から取外し可能になっているかまたは一体の)イオン入口区域814は、テーパ部分がイオン入口区域814を構成する本体の残りと一体になるように構成されている。しかし、他の実施形態では、テーパ部分は、(より小さい)イオン入口区域814またはその周りに嵌合する別部分であってもよい。
【0055】
図9は、他の実施形態によるイオン輸送装置904の例の略断面立面図である。他の実施形態におけるように、イオン輸送装置904は、管腔922を有するイオン入口区域914を備えている。イオン入口区域914は、管腔922に連通する毛細管孔930を有する主毛細管区域918に隣接して配置されている。毛細管孔930は、管腔922の内径よりも大きい内径を有している。管腔922は、イオン輸送装置904の入口として機能する管腔入口988から内部管腔出口926に延在している。毛細管孔930は、管腔出口926に連通する内部孔入口934からイオン輸送装置904の出口として機能する孔出口992に延在している。本実施形態では、イオン輸送装置904は、単一品または一体構造を有しており、イオン入口区域914は、本開示において前述したように、主毛細管区域918と一体になっているかまたは連続している。すなわち、イオン入口区域914および主毛細管区域918は、物理的に分離した構成部品ではない。いくつかの実施形態では、図示されているように、イオン入口区域914と主毛細管区域918との間(従って、管腔出口926と孔入口934との間)の界面または移行部は、例えば、内径の特徴のある変化によって区別されるように、特徴付けられているとよい(例えば、管腔922の小さい内径が毛細管孔930の大きい内径に段状に拡大されているとよい)。他の実施形態では、管腔922および毛細管孔930のそれぞれの内径は、
図5に示されているように徐々に変化するようになっていてもよく、管腔922から毛細管孔930への移行部における内径の変化は、
図9に示されているほど急峻になっていなくてもよい。後者の場合、イオン入口区域914は、単一品のイオン輸送装置904の入口端部分または入口端領域と見なされる。他の実施形態におけるように、イオン入口区域914および主毛細管区域918のそれぞれの軸長および管腔922および毛細管孔930のそれぞれの形状は、汚染を低減させ、かつイオン輸送装置904を通る流れ挙動を最適化するように構成されている。
【0056】
本明細書に開示されているイオン輸送装置の追加的な実施形態が、
図1-9に図示かつ記載されている実施形態の2つ以上の特徴部の組合せを備えていてもよい。
【0057】
本開示は、本明細書に開示されているイオン輸送装置を備えるイオン輸送システムにさらに関する。イオン輸送システムは、第1のチャンバ、第1のチャンバの圧力よりも低い圧力にまで減圧されるように構成された第2のチャンバ、および第1および第2のチャンバを分離する壁を備えているとよい。壁は、その厚みを貫通する開口を備えている。イオン輸送装置は、流体密封の状態で壁に配置されており、イオン輸送装置のイオン入口区域および/または主毛細管区域が開口内に延在しているかまたは開口を貫通している。イオン輸送装置の管腔入口は、第1のチャンバに連通し、イオン輸送装置の孔出口は、第2のチャンバに連通している。
図1は、第1のチャンバ128、第2のチャンバ140、およびイオン輸送装置104を備えるイオン輸送システムの例を示しており、イオン輸送装置104は、第1のチャンバ128内にまたは第1のチャンバ128に面して配置された入口188と、第2のチャンバ140内にまたは第2のチャンバ140に面して配置された出口192と、を備えている。
【0058】
本開示は、本明細書に開示されているイオン輸送システムを備える分析機器、特に、質量分析器(MS)システムにさらに関する。MSシステムは、第1のチャンバ内においてイオンを生成するように構成された大気圧イオン化装置と、第2のチャンバを密閉する真空ハウジングと、真空ハウジング内に配置された質量分析器と、を備えているとよい。
図1は、前述したMSシステム100の例を示している。
【0059】
[例示的実施形態]
本明細書に開示されている主題によって もたらされる例示的実施形態として、制限されるものではないが、以下のものが挙げられる。
【0060】
1.管腔内径を有する管腔を備えるイオン入口区域であって、管腔が管腔入口および管腔出口を備えている、イオン入口区域と、孔内径を有する孔を備える主毛細管区域であって、孔は、孔入口および孔出口を備えている、主毛細管区域と、を備えるイオン輸送装置であって、イオン入口区域および主毛細管区域は、管腔出口が流体密封の状態で孔入口に連通し、かつイオン入口区域および主毛細管区域が管腔入口から孔出口に延在するイオン輸送経路を画定するように、互いに隣接して配置されており、管腔内径は、孔内径より小さくなっている、イオン輸送装置。
【0061】
2.管内径は、0.25mmから0.6mmの範囲内にあり、孔内径は、0.5mmから1.0mmの範囲内にある、実施形態1に記載のイオン輸送装置。
【0062】
3.管腔は、管内径が一定であること、管腔が徐々に拡大し、管腔内径が管腔出口において管腔入口におけるよりも大きいこと、管腔が段階的に拡大し、管腔内径が管腔出口において管腔入口におけるよりも大きいこと、および管腔が、管腔出口に向う方向において拡大区域に移行する縮小区域を備え、管腔内径は、管腔入口と管腔出口との間の箇所において最小値を有する、ことからなる群から選択された構成を有している、実施形態1または2に記載のイオン輸送装置。
【0063】
4.孔は、孔内径が一定であること、孔が徐々に縮小し、孔内径が孔出口において孔入口におけるよりも大きいこと、および孔が段階的に拡大し、孔内径が孔出口において孔入口よりも大きい、ことから選択された構成を有している、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0064】
5.主毛細管区域が、連続的に互いに隣接して配置された複数のチューブセグメントを備えている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0065】
6.イオン入口区域および主毛細管区域は、長軸に沿ったそれぞれの長さを有しており、イオン入口区域の長さは、主毛細管区域の長さよりも短くなっている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0066】
7.イオン入口区域は、電気的伝導材料から構成されている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0067】
8.主毛細管区域は、電気的伝導材料、電気的絶縁材料、バルク電気抵抗を有する電気的絶縁材料、および表面電気抵抗を有する電気的絶縁材料からなる群から選択された組成を有している、実施形態7に記載のイオン輸送装置。
【0068】
9.主毛細管区域は、孔入口の近くにおける第1の抵抗要素および孔出口の近くにおける第2の抵抗要素を備えており、第1の抵抗要素および第2の抵抗要素は、それぞれの電圧源に独立して指定アクセス可能になっている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0069】
10.第1の抵抗要素は、イオン入口区域に電気的に相互接続されている、実施形態9に記載のイオン輸送装置。
【0070】
11.主毛細管区域と熱接触して配置された加熱装置を備える、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0071】
12.厚みを有する壁を備え、該壁は、厚みを貫通する開口を備えており、イオン入口区域および主毛細管区域の少なくとも一方が、該壁に取り付けられている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0072】
13.開口における主毛細管区域と壁との間の間隙および間隙内に配置された密封要素、イオン入口区域と主毛細管区域との間の間隙および間隙内に配置された密封要素、および 上記の両方からなる群から選択された密封インターフェイスを備える、実施形態12に記載のイオン輸送装置。
【0073】
14.イオン入口区域は、尖った形状部を有しており、該尖った形状部において、イオン入口区域の外径は、主毛細管区域に向かう方向において増大している、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0074】
15.イオン入口区域は、主毛細管区域に取外し可能に取り付けられたキャップから構成されており、該キャップは、管腔を備えている、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
【0075】
16.キャップは、管腔出口に連通する凹部を備えており、主毛細管区域は、凹部内に延在するようになっている、実施形態15に記載のイオン輸送装置。
【0076】
17.第1のチャンバと、第1のチャンバの圧力よりも低い圧力まで減圧されるように構成された第2のチャンバと、第1のチャンバおよび第2のチャンバを分離する壁であって、厚みを有しており、該厚みを貫通する開口を備えている、壁と、先行する実施形態のいずれか1に記載のイオン輸送装置であって、イオン輸送装置は、壁に流体密封の状態で配置されており、イオン入口区域および主毛細管区域の少なくとも一方は、開口内に延在しており、管腔入口が第1のチャンバに連通しており、孔出口が第2のチャンバに連通している、イオン輸送装置と、を備える、イオン輸送システム。
【0077】
18.第2のチャンバは。真空ポンプに連通するように構成されたポートを備えている、実施形態17に記載のイオン輸送システム。
【0078】
19.実施形態17または18に記載のイオン輸送システムと、第1のチャンバ内においてイオンを生成するように構成された大気圧イオン化装置と、第2のチャンバを密閉する真空ハウジングと、真空ハウジング内に配置された質量分析器と、を備える、質量分析(MS)システム。
【0079】
20.イオンを輸送するための方法であって、第1のチャンバと第2のチャンバとの間に、第2のチャンバが第1のチャンバの圧力よりも低い圧力を有するように、差圧を生成するステップであって、第1のチャンバおよび前記第2のチャンバは、壁によって分離されており、イオン輸送装置が、壁を貫通しており、イオン入口区域および主毛細管区域を備えており、イオン入口区域は、管腔に通じる入口を備えており、主毛細管区域は、管腔に連通して出口に通じる孔を備えており、管腔は、管腔径を有しており、孔は、管腔径よりも大きい孔径を有している、ステップと、第1のチャンバにおいてイオンを生成するステップと、イオンを入口内に引き込むステップと、イオンを入口から管腔を通して孔内に、さらに孔を通して出口に輸送するステップと、イオンを出口から第2のチャンバ内に放出するステップと、を含む、方法。
【0080】
「連通する(communicate)」および「~に連通している(in ・・・communication with~)」(例えば、第1の構成部品は、第2の構成部品に「連通する」または「連通している」)のような用語は、本明細書において、2つ以上の構成部品または要素間の構造的関係、機能的関係、機械的関係、電気的関係、信号関係、光学的関係、磁気的関係、電磁気的関係、イオン関係、または流体的関係を示すために用いられていることを理解されたい。従って、1つの構成部品が、第2の構成部品に連通するという記載は、追加的な構成部品が第1および第2の構成部品間に存在する可能性、および/または追加的な構成部品が第1および第2の構成部品に操作可能に関連付けられるかまたは係合される可能性を排除することを意図するものではない。
【0081】
本発明の種々の態様または細部は、本発明の範囲から逸脱することなく、変更されてもよいことを理解されたい。さらに、前述の説明は、例示のみを目的とし、制限することを目的とするものではない。本発明は、請求項によって定義される。
なお、出願当初の請求項は以下のとおりであった。
[請求項1]
管腔内径を有する管腔を備えるイオン入口区域であって、前記管腔は、管腔入口を備えている、イオン入口区域と、
孔内径を有する孔を備える主毛細管区域であって、前記孔は、孔出口を備えている、主毛細管区域と、
を備えるイオン輸送装置であって、
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域は、前記管腔が前記孔に連通し、かつ前記イオン入口区域および前記主毛細管区域が前記管腔入口から前記孔出口に延在するイオン輸送経路を画定するように、配置されており、
前記管腔内径は、前記孔内径の最大値よりも小さい最大値を有している、
イオン輸送装置。
[請求項2]
前記管腔および前記孔は、
前記管腔内径が0.25mmから0.6mmの範囲内にあること、
前記管腔内径が一定であること、
前記管腔が前記主毛細管区域に向う方向において徐々に拡大すること、
前記管腔が前記主毛細管区域に向う方向において段階的に拡大すること、
前記管腔が、前記主毛細管区域に向う方向において拡大区域に移行する縮小区域を備え、前記管腔内径が前記管腔入口と前記主毛細管区域との間の箇所において最小値を有すること、
前記孔内径が0.5mmから1.0mmの範囲内にあること、
前記孔内径が一定であること、
前記孔が前記孔出口に向かう方向において拡大すること、および
前記孔が前記孔出口に向かう方向において段階的に拡大すること、
からなる群から選択された構成を有している、請求項1に記載のイオン輸送装置。
[請求項3]
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域は、
前記主毛細管区域が、連続的に互いに隣接して配置された複数のチューブセグメントを備えること、
前記イオン入口区域および前記主毛細管区域が長軸に沿ったそれぞれの長さを有し、前記イオン入口区域の長さが前記主毛細管区域の長さよりも短いこと、
前記イオン入口区域が電気的伝導材料から構成されること、
前記イオン入口区域が、電気的伝導材料から構成され、前記主毛細管区域が、電気的伝導材料、電気的絶縁材料、バルク電気抵抗を有する電気的絶縁材料、および表面電気抵抗を有する電気的絶縁材料からなる群から選択された組成を有すること、
前記主毛細管区域が、前記孔入口の近くにおける第1の抵抗要素および前記孔出口の近くにおける第2の抵抗要素を備え、前記第1および第2の抵抗要素が、それぞれの電圧源に独立して指定アクセス可能であること、および
前記主毛細管区域が、前記孔入口の近くにおける第1の抵抗要素および前記孔出口の近くにおける第2の抵抗要素を備え、前記第1の抵抗要素および前記第2の抵抗要素が、それぞれの電圧源に独立して指定アクセス可能であり、前記第1の抵抗要素が、前記イオン入口区域に電気的に相互接続されること、
からなる群から選択された構成を有している、請求項1または2に記載のイオン輸送装置。
[請求項4]
厚みを有する壁を備え、前記壁は、前記厚みを貫通する開口を備えており、前記イオン入口区域および前記主毛細管区域の少なくとも一方は、前記壁に取り付けられている、先行する請求項1~3のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
[請求項5]
前記開口における前記主毛細管区域と前記壁との間の間隙、および前記間隙内に配置された密封要素、
前記イオン入口区域と前記主毛細管区域との間の間隙、および前記間隙内に配置された密封要素、および
上記の両方からなる群から選択された密封インターフェイスを備える、請求項4に記載のイオン輸送装置。
[請求項6]
前記イオン入口区域は、
前記イオン入口区域が尖った形状部を有し、該尖った形状部において、前記イオン入口区域の外径が前記主毛細管区域に向かう方向において増大すること、
前記イオン入口区域が前記主毛細管区域に一体化されること、および
上記の両方
からなる群から選択される構成を有している、先行する請求項1~5のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
[請求項7]
前記イオン入口区域は、
前記イオン入口区域が尖った形状部を有し、該尖った形状部において、前記イオン入口区域の外径が前記主毛細管区域に向かう方向において増大すること、
前記イオン入口区域が前記主毛細管区域に取外し可能に取り付けられたキャップから構成され、前記キャップが前記管腔を有すること、
前記イオン入口区域が前記主毛細管区域に取外し可能に取り付けられたキャップから構成され、前記キャップが前記管腔を有し、さらに前記管腔出口に連通する凹部を備え、前記主毛細管区域が前記凹部内に延在すること、および
上記の2つ以上の組合せ
からなる群から選択された構成を有してる、請求項1~5のいずれか1に記載のイオン輸送装置。
[請求項8]
第1のチャンバと、
前記第1のチャンバの圧力よりも低い圧力まで減圧されるように構成された第2のチャンバと、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバを分離する壁であって、厚みを有しており、該厚みを貫通する開口を備えている壁と、
先行する請求項1~7のいずれか1に記載のイオン輸送装置であって、前記イオン輸送装置は、前記壁に流体密封の状態で配置されており、イオン入口区域および主毛細管区域の少なくとも一方が前記開口内に延在しており、管腔入口が前記第1のチャンバに連通しており、孔出口が前記第2のチャンバに連通している、イオン輸送装置と、
を備える、イオン輸送システム。
[請求項9]
請求項8に記載のイオン輸送システムと、
第1のチャンバ内においてイオンを生成するように構成された大気圧イオン化装置と、
第2のチャンバを密閉する真空ハウジングと、
前記真空ハウジング内に配置された質量分析器と、
を備える、質量分析(MS)システム。
[請求項10]
イオンを輸送するための方法であって、
第1のチャンバと第2のチャンバとの間に、前記第2のチャンバが前記第1のチャンバの圧力よりも低い圧力を有するように、差圧を生成するステップであって、
前記第1のチャンバおよび前記第2のチャンバは、壁によって分離されており、
イオン輸送装置が、前記壁を貫通しており、イオン入口区域および主毛細管区域を備えており、
前記イオン入口区域は、管腔に通じる入口を備えており、
前記主毛細管区域は、前記管腔に連通して出口に通じる孔を備えており、
前記管腔は、管腔径を有しており、前記孔は、前記管腔径よりも大きい孔径を有している、
ステップと、
前記第1のチャンバにおいてイオンを生成するステップと、
前記イオンを前記入口内に引き込むステップと、
前記イオンを前記入口から前記管腔を通して前記孔内に、さらに前記孔を通して前記出口に輸送するステップと、
前記イオンを前記出口から前記第2のチャンバ内に放出するステップと、
を含む、方法。
【符号の説明】
【0082】
204 イオン輸送装置
206 入口端
210 出口端
214 イオン入口区域
218 主毛細管区域
222 管腔
226 管腔出口
230 毛細管孔
238 凹部
271 壁
272 壁
284 開口
288 管腔入口