(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20220224BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20220224BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220224BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220224BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220224BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220224BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20220224BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220224BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220224BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20220224BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220224BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220224BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220224BHJP
B22F 9/30 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
H01B1/00 E
H01B5/14 B
H01B13/00 503C
B22F1/00 K
B22F1/102
B22F7/04 D
H05K1/09 A
H05K3/10 D
H05K3/12 610B
B82Y30/00
B82Y40/00
B22F9/30 Z
(21)【出願番号】P 2017234968
(22)【出願日】2017-12-07
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 由紀
(72)【発明者】
【氏名】岡本 和樹
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-150543(JP,A)
【文献】特表2010-504409(JP,A)
【文献】特開2014-034690(JP,A)
【文献】特開昭63-278983(JP,A)
【文献】特開2018-080233(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060084(WO,A1)
【文献】特開2015-131991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B22F 1/00-1/02、7/04、9/30
B82Y 30/00、40/00
H01B 1/00、1/22、5/14、13/00
H05K 1/09、3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面修飾銀ナノ粒子(A)と分散媒(B)とを含むインクジェット印刷用のインクであって、
前記(A)が、銀ナノ粒子の表面がアミンを含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾銀ナノ粒子であり、
前記(A)の含有量(銀元素換算)が、前記インク全量の30重量%以上であり、
前記(B)が、(b-1)第2級アルコー
ルと(b-2)炭化水素とを含有し、
前記(b-1)と(b-2)との含有量の比(前者/後者(重量比))が50/50~95/5であり、前記(b-1)と(b-2)の合計含有量が、前記(B)全量の70重量%以上である
インク。
【請求項2】
前記(b-1)における第2級アルコー
ルが脂環式第2級アルコー
ルである、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記(A)における保護剤が、アミンとして、総炭素数6以上の脂肪族モノアミン(1)と、総炭素数5以下の脂肪族モノアミン(2)及び/又は総炭素数8以下の脂肪族ジアミン(3)とを含む、請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
120℃で30分間焼結して得られる焼結体の体積抵抗率が15μΩcm以下である、請求項1~
3の何れか1項に記載のインク。
【請求項5】
基板上に、請求項1~
4の何れか1項に記載のインクを、インクジェット印刷法により塗布する工程、及び焼結する工程を含む、電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
基板上に、請求項1~
4の何れか1項に記載のインクの焼結体を備えた、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷法により電子部品を製造する用途に用いられるインクに関する。
【背景技術】
【0002】
回路、配線、電極等の電子部品の製造は、従来、エッチング法により行われていた。しかし、工程が煩雑でありコストが嵩むことが問題であった。そこで、これに代わる方法として、印刷法によって導電性物質を基板上に付着させることにより、直接形成する方法が検討されている。
【0003】
導電性物質として、例えば、バルク銀の融点は962℃の高温であるが、ナノサイズの銀粒子(銀ナノ粒子)は100℃程度の温度で相互に融着するため、これを利用すれば、耐熱性の低い汎用プラスチック基板上に導電性に優れた電子部品を形成することができる。しかし、銀ナノ粒子は、凝集し易いことが問題である。
【0004】
特許文献1には、銀ナノ粒子の表面をアミンを含む保護剤で被覆することで凝集が抑制されることが記載され、当該表面修飾銀ナノ粒子を、例えばn-オクタン、デカリン、テトラデカン等の炭化水素10~50重量%と、例えばn-ブタノール、シクロヘキサンメタノール等のアルコール50~90重量%とを含む分散媒に分散させて得られるインクは、銀ナノ粒子の分散安定性に優れ、印刷法により直接電子部品を形成する用途に好適に使用できること、前記インクを焼結することにより優れた導電性を有する焼結体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載のインクは、酸素の不存在下では経時安定的に分散状態を維持することができるが、酸素と接触することにより分散性が徐々に低下し、銀ナノ粒子の凝集が進行することがわかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、インクジェット印刷法により電子部品を製造する用途に用いられるインク(導電性インク)であって、酸素の存在下でも銀ナノ粒子の分散性を長期安定的に維持することができ、焼結により、導電性に優れた焼結体が得られるインクを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記インクを用いる電子デバイスの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記インクの焼結体を備えた電子デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、アミンを含む保護剤で被覆された銀ナノ粒子をアルコールと炭化水素とを含む分散媒に分散させて得られるインクは、銀が酸素と接触することで活性化され、アルコールの酸化反応を促進する触媒として作用すること、前記アルコールとして第1級アルコールを使用する場合、第1級アルコールは酸化されてアルデヒドとなり、当該アルデヒドは、銀ナノ粒子の保護剤としてのアミンと容易に反応してイミンを形成するため、保護剤としてのアミンの減少が引き起こされ、それにより銀ナノ粒子の分散性が低下するが、第2級又は第3級アルコールを使用すると、これらは酸化され難く、また、酸化された場合もケトンとなり、ケトンはアルデヒドと比較してアミンとの反応性が低いため、銀ナノ粒子の保護剤としてのアミンの減少を抑制することができ、銀ナノ粒子の分散性を長期安定的に維持することができること、当該インクは焼結により優れた導電性を有する焼結体を形成することを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
尚、本明細書において、「ナノ粒子」とは、一次粒子の大きさ(平均一次粒子径)が、1000nm未満である粒子を意味する。また、粒子径は、動的光散乱法により求められる。更に、本明細書中の沸点は常圧下(760mmHg)での値である。
【0010】
すなわち、本発明は、表面修飾銀ナノ粒子(A)と分散媒(B)とを含むインクジェット印刷用のインクであって、
前記(A)が、銀ナノ粒子の表面がアミンを含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾銀ナノ粒子であり、
前記(A)の含有量(銀元素換算)が、前記インク全量の30重量%以上であり、
前記(B)が、(b-1)第2級アルコール及び/又は第3級アルコールと、(b-2)炭化水素とを含有し、前記(b-1)と(b-2)の合計含有量が、前記(B)全量の70重量%以上
であるインクを提供する。
【0011】
本発明は、また、前記(b-1)における第2級アルコール及び/又は第3級アルコールが、脂環式第2級アルコール及び/又は脂環式第3級アルコールである、前記のインクを提供する。
【0012】
本発明は、また、前記(A)における保護剤が、アミンとして、総炭素数6以上の脂肪族モノアミン(1)と、総炭素数5以下の脂肪族モノアミン(2)及び/又は総炭素数8以下の脂肪族ジアミン(3)とを含む、前記のインクを提供する。
【0013】
本発明は、また、前記(B)における(b-1)と(b-2)との含有量の比(前者/後者(重量比))が50/50~95/5である、前記のインクを提供する。
【0014】
本発明は、また、120℃で30分間焼結して得られる焼結体の体積抵抗率が15μΩcm以下である、前記のインクを提供する。
【0015】
本発明は、また、基板上に、前記のインクを、インクジェット印刷法により塗布する工程、及び焼結する工程を含む、電子デバイスの製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、基板上に、前記のインクの焼結体を備えた、電子デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインクは分散安定性に優れ、酸素の存在下でも、長期に亘って銀ナノ粒子の凝集を抑制することができる。そのため、インクジェット印刷用途に用いた場合、良好な吐出性を長期安定的に有し、ノズル口に付着して飛行曲がり(設定した射出角度とは異なる角度で射出されること)が発生したり、ノズル口が目詰まりして射出不能となったりすることがなく、精度良く印刷することができる。また、本発明のインクは、基材表面に塗布後、焼結することにより(低温焼結であっても)、優れた導電性を有する焼結体を形成する。そのため、本発明のインクは、インクジェット印刷法を使用して、プラスチック基板上に電子部品(例えば、回路、配線、電極等)を製造する用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[インクジェット印刷用インク]
本発明のインクは、表面修飾銀ナノ粒子(A)と分散媒(B)とを含むインクジェット印刷用のインクであって、
前記(A)が、銀ナノ粒子の表面がアミンを含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾銀ナノ粒子であり、
前記(A)の含有量(銀元素換算)が、前記インク全量の30重量%以上であり、
前記(B)が、(b-1)第2級アルコール及び/又は第3級アルコールと、(b-2)炭化水素とを含有し、前記(b-1)と(b-2)の合計含有量が、前記(B)全量の70重量%以上であることを特徴とする。
【0019】
(表面修飾銀ナノ粒子(A))
本発明における表面修飾銀ナノ粒子(A)は、銀ナノ粒子の表面が、アミンを含む保護剤で被覆された構成、より詳細には、銀ナノ粒子表面にアミンの非共有電子対が電気的に配位した構成を有する。そのため、本発明における表面修飾銀ナノ粒子(A)は、銀ナノ粒子同士の間隔を確保することができ、凝集を抑制することができる。すなわち、本発明における表面修飾銀ナノ粒子(A)は、分散性に優れる。
【0020】
前記表面修飾銀ナノ粒子(A)は、銀ナノ粒子部と、これを被覆する表面修飾部(すなわち、銀ナノ粒子を被覆している部分であって、アミンを含む保護剤により形成されている部分)から成り、前記表面修飾部の割合は、銀ナノ粒子部の重量の例えば1~20重量%程度(好ましくは、1~10重量%)である。尚、表面修飾銀ナノ粒子における銀ナノ粒子部と表面修飾部の各重量は、例えば、表面修飾銀ナノ粒子を熱重量測定に付し、特定温度範囲における減量率から求めることができる。
【0021】
前記表面修飾銀ナノ粒子(A)における、銀ナノ粒子部の平均一次粒子径は、例えば0.5~100nm、好ましくは0.5~80nm、より好ましくは1~70nm、さらに好ましくは1~60nmである。
【0022】
前記表面修飾銀ナノ粒子(A)としては、後述の製造方法で得られる表面修飾銀ナノ粒子を使用することが好ましい。
【0023】
(分散媒(B))
本発明における分散媒(B)は、前記表面修飾銀ナノ粒子(A)を分散する分散媒である。分散媒(B)は、少なくとも、(b-1)第2級アルコール及び/又は第3級アルコールと、(b-2)炭化水素とを含有する。前記(b-1)と前記(b-2)は、それぞれ、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。尚、前記(b-1)、(b-2)は、それぞれ単独では、常温、常圧下で液体であっても、また固体であってもよいが、これらを共に含有する分散媒(B)は、常温、常圧下で液体の分散媒(液体分散媒)である。
【0024】
本発明のインクは、分散媒(B)として前記(b-1)と前記(b-2)とを組み合わせて含有するため、上記表面修飾銀ナノ粒子(A)の分散性、及び分散安定性に優れる。それは、前記(b-1)は酸化され難く、また、酸化された場合はケトンとなるが、当該ケトンはアミンとの反応性が低いため、銀ナノ粒子の保護剤としてのアミンの減少を抑制することができ、銀ナノ粒子同士の凝集を抑制する作用を有する銀ナノ粒子の表面修飾部の損失を抑制することができるためである。
【0025】
分散媒(B)における前記(b-1)と前記(b-2)との含有量の比(前者/後者(重量比))は、例えば50/50~95/5、好ましくは60/40~90/10、特に好ましくは65/35~85/15、最も好ましくは70/30~80/20である。前記(b-1)の含有量が上記範囲を下回ると、塗膜の平滑性が低下する傾向がある。その他、低温焼結性が低下する傾向がある。一方、前記(b-2)の含有量が上記範囲を下回ると、射出安定性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明における分散媒(B)は、前記(b-1)と前記(b-2)以外にも、他の分散媒を1種又は2種以上含有していても良いが、前記(b-1)と前記(b-2)との合計含有量は(B)全量の70重量%以上であり、好ましくは75重量%以上、特に好ましくは80重量%以上である。従って、他の分散媒の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、(B)全量の30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。他の分散媒の含有量が上記範囲を上回ると、増粘により射出性が低下したり、銀ナノ粒子が凝集し易くなり、分散性が低下する傾向がある。
【0027】
また、本発明における分散媒(B)は、第1級アルコールを含有していても良いが、第1級アルコールの含有量は、前記(B)全量の30重量%以下であり、好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは15重量%以下である。第1級アルコールは、酸化されるとアルデヒドとなり、当該アルデヒドは、銀ナノ粒子の保護剤としてのアミンと反応してイミンを形成するため、保護剤としてのアミンが減少することにより分散性が低下する。そのため、第1級アルコールの含有量が上記範囲を上回ると、インクの分散性を長期安定的に維持することが困難となるため好ましくない。
【0028】
(b-1:第2級アルコール、第3級アルコール)
前記(b-1)における第2級アルコール及び第3級アルコールには、それぞれ、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、及び芳香族アルコールが含まれるが、なかでも表面修飾銀ナノ粒子(A)の分散性に優れる点で、脂環式アルコール(すなわち、脂環構造を有するアルコール)が好ましい。従って、前記(b-1)における第2級アルコールとしては脂環式第2級アルコールが好ましく、第3級アルコールとしては脂環式第3級アルコールが好ましい。
【0029】
前記(b-1)の沸点は、例えば75℃以上、好ましくは130℃以上、特に好ましくは170℃以上、最も好ましくは180℃以上であり、特に前記表面修飾銀ナノ粒子(A)を高濃度に含有する場合(例えば、前記(A)の含有量(銀元素換算)がインク全量の45重量%以上である場合)等は、185℃以上が好ましく、更に好ましくは190℃以上である。また、沸点の上限は、例えば300℃、好ましくは250℃、特に好ましくは220℃である。沸点が75℃以上であると、印刷時温度における揮発を抑制することができ、優れた射出安定性が得られる。また、沸点が300℃以下であると、低温焼結の場合にも速やかに揮発して、優れた導電性を有する焼結体が得られる、すなわち低温焼結性に優れる。一方、沸点が75℃を下回ると、印刷中にインクの流動性が低下してインクジェットヘッドのノズル口にインクが固化して付着しやすくなり、特に間欠的に射出を行う場合に、射出が不安定となり、飛行曲がりにより所望のパターンを精度良く印字することが困難となったり、ノズル口が目詰まりして射出不能となったりする恐れがある。
【0030】
脂環式第2級アルコールとしては、例えば、シクロヘキサノール、2-エチルシクロヘキサノール、1-シクロヘキシルエタノール、3,5-ジメチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、2,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、3,4,5-トリメチルシクロヘキサノール、2,3,4-トリメチルシクロヘキサノール、4-(tert-ブチル)-シクロヘキサノール、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノール、2-イソプロピル-5-メチル-シクロヘキサノール(=メントール)等の、置換基を有していてもよいシクロヘキサノールや、対応するシクロヘプタノールが好ましく、特に、炭素数1~3のアルキル基を有するシクロヘキサノール若しくはシクロヘプタノールが好ましく、とりわけ、炭素数1~3のアルキル基を有するシクロヘキサノールが好ましい。
【0031】
脂環式第3級アルコールとしては、例えば、1-メチルシクロヘキサノール、4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサノール、2-シクロヘキシル-2-プロパノール、2-(4-メチルシクロヘキシル)-2-プロパノール等の、6~7員環(特に、シクロヘキサン環)構造を有する第3級アルコールが好ましい。
【0032】
前記(b-1)としては、とりわけ、第2級アルコール(特に、脂環式第2級アルコール)を少なくとも含有することが、表面修飾銀ナノ粒子(A)の初期分散性に優れ、且つ優れた分散性を長期安定的に維持することができる点で好ましい。第2級アルコールの含有量は、前記(b-1)全量の、例えば60~100重量%であることが好ましく、下限は、より好ましくは70重量%、特に好ましくは80重量%、最も好ましくは90重量%である。
【0033】
(b-2:炭化水素)
前記(b-2)には脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、及び芳香族炭化水素が含まれる。本発明においては、なかでも、表面修飾銀ナノ粒子(A)の分散性に特に優れる点で脂肪族炭化水素及び/又は脂環式炭化水素が好ましい。
【0034】
前記(b-2)の沸点は、(b-1)と同様の理由から、例えば130℃以上であることが好ましく、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは190℃以上であり、特に前記表面修飾銀ナノ粒子(A)を高濃度に含有する場合(例えば、前記(A)の含有量(銀元素換算)がインク全量の45重量%以上である場合)等は、200℃以上が好ましく、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上、最も好ましくは270℃以上である。また、沸点の上限は、例えば300℃である。
【0035】
前記脂肪族炭化水素としては、例えば、n-デカン、n-ドデカン、n-トリデカン、n-テトラデカン、n-ペンタデカン、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-ノナデカン等の炭素数10以上(例えば、10~20)、なかでも、炭素数12以上(例えば12~20、好ましくは12~18)、とりわけ、炭素数15以上(例えば15~20、好ましくは15~18)の鎖状脂肪族炭化水素が好ましい。
【0036】
前記脂環式炭化水素としては、例えば、シクロヘキサン類、シクロヘキセン類、テルペン系6員環化合物、シクロヘプタン、シクロヘプテン、シクロオクタン、シクロオクテン、シクロデカン、シクロドデセン等の単環化合物;ビシクロ[2.2.2]オクタン、デカリン等の多環化合物が挙げられる。
【0037】
前記シクロヘキサン類には、例えば、エチルシクロヘキサン、n-プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、sec-ブチルシクロヘキサン、tert-ブチルシクロヘキサン等の6員環に炭素数2以上(例えば、2~5)のアルキル基を有する化合物;ビシクロヘキシル等が含まれる。
【0038】
前記テルペン系6員環化合物には、例えば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン等が含まれる。
【0039】
本発明のインクジェット印刷用インクは、上記表面修飾銀ナノ粒子(A)、分散媒(B)以外にも、例えば、分散剤、表面エネルギー調整剤、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、粘着性付与材(例えば、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、石油樹脂、ゴム状弾性体等)等の添加剤を必要に応じて含有することができる。
【0040】
(インクの製造方法)
本発明のインクは、例えば、銀化合物と、アミンを含む保護剤とを混合して、前記銀化合物とアミンを含む錯体を生成させる工程(錯体生成工程)、前記錯体を熱分解させる工程(熱分解工程)、及び、必要に応じて反応生成物を洗浄する工程(洗浄工程)を経て表面修飾銀ナノ粒子(A)を製造し、得られた表面修飾銀ナノ粒子(A)と分散媒(B)を混合する工程(インクの調製工程)を経て製造することができる。
【0041】
(錯体生成工程)
錯体生成工程は、銀化合物と、アミンを含む保護剤とを混合して、前記銀化合物とアミンを含む錯体を生成させる工程である。前記銀化合物としては、加熱により容易に分解して、金属銀を生成する化合物を使用することが好ましい。このような銀化合物としては、例えば、ギ酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀、マロン酸銀、安息香酸銀、フタル酸銀等のカルボン酸銀;フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀;硫酸銀、硝酸銀、炭酸銀等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、銀含有率が高く、且つ、還元剤無しに熱分解することができ、インクに還元剤由来の不純物が混入しにくい点で、シュウ酸銀が好ましい。
【0042】
保護剤として使用するアミンはアンモニアの少なくとも1つの水素原子が炭化水素基で置換された化合物であり、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンが含まれる。また、前記アミンはモノアミンであっても、ジアミン等の多価アミンであってもよい。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
前記アミンとしては、なかでも、下記式(a-1)で表され、式中のR
1、R
2、R
3が同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基(R
1、R
2、R
3が共に水素原子である場合は除く)であり、総炭素数が6以上であるモノアミン(1)、下記式(a-1)で表され、式中のR
1、R
2、R
3が同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基(R
1、R
2、R
3が共に水素原子である場合は除く)であり、総炭素数が5以下であるモノアミン(2)、及び下記式(a-2)で表され、式中のR
4~R
7は同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基であり、R
8は2価の炭化水素基であり、総炭素数が8以下であるジアミン(3)から選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、特に、前記モノアミン(1)と、モノアミン(2)及び/又はジアミン(3)とを併せて含有することが好ましい。
【化1】
【0044】
前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基が含まれるが、なかでも脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基が好ましく、特に脂肪族炭化水素基が好ましい。従って、上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、ジアミン(3)としては、脂肪族モノアミン(1)、脂肪族モノアミン(2)、脂肪族ジアミン(3)が好ましい。
【0045】
また、1価の脂肪族炭化水素基には、アルキル基及びアルケニル基が含まれる。1価の脂環式炭化水素基には、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が含まれる。更に、2価の脂肪族炭化水素基には、アルキレン基及びアルケニレン基が含まれ、2価の脂環式炭化水素基には、シクロアルキレン基及びシクロアルケニレン基が含まれる。
【0046】
R1、R2、R3における1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基等の炭素数1~20程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等の炭素数2~20程度のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の炭素数3~20程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロへキセニル基等の炭素数3~20程度のシクロアルケニル基等を挙げることができる。
【0047】
R4~R7における1価の炭化水素基としては、例えば、上記例示のうち、炭素数1~7程度のアルキル基、炭素数2~7程度のアルケニル基、炭素数3~7程度のシクロアルキル基、炭素数3~7程度のシクロアルケニル基等を挙げることができる。
【0048】
R8における2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘプタメチレン基等の炭素数1~8のアルキレン基;ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2~8のアルケニレン基等を挙げることができる。
【0049】
上記R1~R8における炭化水素基は、種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-4アルコキシ基、C6-10アリールオキシ基、C7-16アラルキルオキシ基、C1-4アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-4アルコキシカルボニル基、C6-10アリールオキシカルボニル基、C7-16アラルキルオキシカルボニル基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、複素環式基等]を有していてもよい。また、前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0050】
モノアミン(1)は、銀ナノ粒子の表面に吸着することにより、銀ナノ粒子が凝集して肥大化することを抑制する、すなわち、銀ナノ粒子に高分散性を付与する機能を有する化合物であり、例えば、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第一級アミン;イソヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、tert-オクチルアミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第一級アミン;シクロヘキシルアミン等のシクロアルキル基を有する第一級アミン;オレイルアミン等のアルケニル基を有する第一級アミン等;N,N-ジプロピルアミン、N,N-ジブチルアミン、N,N-ジペンチルアミン、N,N-ジヘキシルアミン、N,N-ジペプチルアミン、N,N-ジオクチルアミン、N,N-ジノニルアミン、N,N-ジデシルアミン、N,N-ジウンデシルアミン、N,N-ジドデシルアミン、N-プロピル-N-ブチルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第二級アミン;N,N-ジイソヘキシルアミン、N,N-ジ(2-エチルヘキシル)アミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第二級アミン;トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等の直鎖状アルキル基を有する第三級アミン;トリイソヘキシルアミン、トリ(2-エチルヘキシル)アミン等の分岐鎖状アルキル基を有する第三級アミン等が挙げられる。
【0051】
上記モノアミン(1)のなかでも、アミノ基が銀ナノ粒子表面に吸着した際に他の銀ナノ粒子との間隔を確保できるため、銀ナノ粒子同士の凝集を防ぐ効果が得られ、且つ焼結時には容易に除去できる点で、総炭素数6~18(総炭素数の上限は、より好ましくは16、特に好ましくは12である)の直鎖状アルキル基を有するアミン(特に、第一級アミン)が好ましく、とりわけ、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン等が好ましい。
【0052】
モノアミン(2)は、モノアミン(1)に比べると炭化水素鎖が短いので、それ自体は銀ナノ粒子に高分散性を付与する機能は低いが、前記モノアミン(1)より極性が高く銀原子への配位能が高いため、錯体形成促進効果を有する。また、炭化水素鎖が短いため、低温焼結においても、短時間(例えば30分間以下、好ましくは20分間以下)で銀ナノ粒子表面から除去することができ、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0053】
モノアミン(2)としては、例えば、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert-ペンチルアミン等の、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5の第一級アミン;N,N-ジメチルアミン、N,N-ジエチルアミン、N-メチル-N-プロピルアミン、N-エチル-N-プロピルアミン等の、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5の第二級アミン等を挙げることができる。
【0054】
モノアミン(2)としては、なかでも、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert-ペンチルアミン等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5(好ましくは、総炭素数4~5)の第一級アミンが好ましく、とりわけn-ブチルアミン等の直鎖状アルキル基を有する総炭素数2~5(好ましくは、総炭素数4~5)の第一級アミンが好ましい。
【0055】
ジアミン(3)の総炭素数は8以下(例えば、1~8)であり、前記モノアミン(1)より極性が高く銀原子への配位能が高いため、錯体形成促進効果を有する。また、前記ジアミン(3)は、錯体の熱分解工程において、より低温且つ短時間での熱分解を促進する効果があり、ジアミン(3)を使用すると表面修飾銀ナノ粒子の製造をより効率的に行うことができる。さらに、ジアミン(3)を含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾銀ナノ粒子は、極性の高い分散媒中において優れた分散安定性を発揮する。さらに、前記ジアミン(3)は、炭化水素鎖が短いため、低温焼結でも、短時間(例えば30分間以下、好ましくは20分間以下)で銀ナノ粒子表面から除去することができ、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0056】
前記ジアミン(3)としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン等の、式(a-2)中のR4~R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン;N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、N,N’-ジエチル-1,4-ブタンジアミン、N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン等の式(a-2)中のR4、R6が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R5、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン;N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、N,N-ジエチル-1,4-ブタンジアミン、N,N-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン等の式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン等を挙げることができる。
【0057】
これらのなかでも、前記式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基であるジアミン[特に、式(a-2)中のR4、R5が直鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であり、R8が直鎖状アルキレン基であるジアミン]が好ましい。
【0058】
式(a-2)中のR4、R5が同一又は異なって直鎖状又は分岐鎖状アルキル基であり、R6、R7が水素原子であるジアミン、すなわち第一級アミノ基と第三級アミノ基を有するジアミンは、前記第一級アミノ基は銀原子に対して高い配位能を有するが、前記第三級アミノ基は銀原子に対する配位能が乏しいため、形成される錯体が過剰に複雑化することが防止され、それにより、錯体の熱分解工程において、より低温且つ短時間での熱分解が可能となる。これらのなかでも、低温焼結において短時間で銀ナノ粒子表面から除去できる点から、総炭素数6以下(例えば、1~6)のジアミンが好ましく、総炭素数5以下(例えば、1~5)のジアミンがより好ましい。
【0059】
本発明におけるアミンとして、モノアミン(1)と、モノアミン(2)及び/又はジアミン(3)とを併せて含有する場合において、これらの使用割合は、特に限定されないが、アミン全量[モノアミン(1)+モノアミン(2)+ジアミン(3);100モル%]を基準として、下記範囲であることが好ましい。
モノアミン(1)の含有量:例えば5~65モル%(下限は、好ましくは10モル%、特に好ましくは20モル%、最も好ましくは30モル%である。また、上限は、好ましくは60モル%、特に好ましくは50モル%である)
モノアミン(2)とジアミン(3)の合計含有量:例えば35~95モル%(下限は、好ましくは40モル%、特に好ましくは50モル%である。また、上限は、好ましくは90モル%、特に好ましくは80モル%、最も好ましくは70モル%である)
【0060】
さらに、モノアミン(2)とジアミン(3)を共に使用する場合、モノアミン(2)とジアミン(3)の各含有量は、アミン全量[モノアミン(1)+モノアミン(2)+ジアミン(3);100モル%]を基準として、下記範囲であることが好ましい。
モノアミン(2):例えば5~65モル%(下限は、好ましくは10モル%、特に好ましくは20モル%、最も好ましくは30モル%である。また、上限は、好ましくは60モル%、特に好ましくは50モル%である)
ジアミン(3):例えば5~50モル%(下限は、好ましくは10モル%である。また、上限は、好ましくは40モル%、特に好ましくは30モル%である)
【0061】
モノアミン(1)を上記範囲で含有することにより、銀ナノ粒子の分散安定性が得られる。モノアミン(1)の含有量が上記範囲を下回ると、銀ナノ粒子が凝集し易くなる傾向がある。一方、モノアミン(1)の含有量が上記範囲を上回ると、焼結温度が低い場合は短時間で銀ナノ粒子表面からアミンを除去することが困難となり、得られる焼結体の導電性が低下する傾向がある。
【0062】
前記モノアミン(2)を上記範囲で含有することにより、錯体形成促進効果が得られる。また、焼結温度が低くても短時間でアミンを銀ナノ粒子表面から除去することが可能となり、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0063】
前記ジアミン(3)を上記範囲で含有することにより、錯体形成促進効果及び錯体の熱分解促進効果が得られやすい。また、ジアミン(3)を含む保護剤で被覆された構成を有する表面修飾銀ナノ粒子は、極性の高い分散媒中において優れた分散安定性を発揮する。
【0064】
本発明においては、銀原子への配位能が高いモノアミン(2)及び/又はジアミン(3)を用いると、それらの使用割合に応じて、モノアミン(1)の使用量を減量することができ、焼結温度が低くても短時間で銀ナノ粒子表面からアミンを除去することが可能となり、導電性に優れた焼結体が得られる。
【0065】
本発明において保護剤として使用するアミンには上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、及びジアミン(3)以外にも他のアミンを含有していても良いが、保護剤に含まれる全アミンに占める上記モノアミン(1)、モノアミン(2)、及びジアミン(3)の合計含有量の割合は、例えば60~100重量%が好ましく、下限は、特に好ましくは80重量%、最も好ましくは90重量%である。すなわち、他のアミンの含有量は、40重量%以下が好ましく、特に好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。
【0066】
前記アミン[特に、モノアミン(1)+モノアミン(2)+ジアミン(3)]の使用量は特に限定されないが、原料の前記銀化合物の銀原子1モルに対して、1~50モル程度が好ましく、特に好ましくは2~50モル、最も好ましくは6~50モルである。前記アミンの使用量が上記範囲を下回ると、錯体の生成工程において、錯体に変換されない銀化合物が残存しやすくなり、銀ナノ粒子に十分な分散性を付与することが困難となる傾向がある。
【0067】
本発明においては、銀ナノ粒子の分散性をさらに向上させることを目的に、保護剤として、更に、脂肪族モノカルボン酸を1種又は2種以上使用しても良い。
【0068】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸;オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、エイコセン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸を挙げることができる。
【0069】
これらのなかでも、炭素数8~18の飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン(特に、オクタン酸、オレイン酸等)が好ましい。前記脂肪族モノカルボン酸のカルボキシル基が銀ナノ粒子表面に吸着した際に、炭素数8~18の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素鎖が立体障害となることにより他の銀ナノ粒子との間隔を確保することができ、銀ナノ粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。
【0070】
前記脂肪族モノカルボン酸の使用量としては、銀化合物の銀原子1モルに対して、例えば0.05~10モル程度、好ましくは0.1~5モル、特に好ましくは0.5~2モルである。前記脂肪族モノカルボン酸の使用量が、上記範囲を下回ると、安定性向上効果が得られにくい。一方、前記脂肪族モノカルボン酸を過剰に使用しても分散安定性向上効果は飽和する一方で、低温焼結で除去することが困難となる傾向がある。
【0071】
アミンを含む保護剤と銀化合物との反応は、分散媒の存在下又は不存在下で行われる。前記分散媒としては、例えば、炭素数3以上のアルコールを使用することができる。
【0072】
前記炭素数3以上のアルコールとしては、例えば、n-プロパノール(沸点:97℃)、イソプロパノール(沸点:82℃)、n-ブタノール(沸点:117℃)、イソブタノール(沸点:107.89℃)、sec-ブタノール(沸点:99.5℃)、tert-ブタノール(沸点:82.45℃)、n-ペンタノール(沸点:136℃)、n-ヘキサノール(沸点:156℃)、n-オクタノール(沸点:194℃)、2-オクタノール(沸点:174℃)等が挙げられる。これらのなかでも、後に行われる錯体の熱分解工程の温度を高く設定できること、得られる表面修飾銀ナノ粒子の後処理での利便性の点で、炭素数4~6のアルコールが好ましく、特に、n-ブタノール、n-ヘキサノールが好ましい。
【0073】
また、分散媒の使用量は、銀化合物100重量部に対して、例えば120重量部以上、好ましくは130重量部以上、より好ましくは150重量部以上である。尚、分散媒の使用量の上限は、例えば1000重量部、好ましくは800重量部、特に好ましくは500重量部である。
【0074】
アミンを含む保護剤と銀化合物との反応は、常温(5~40℃)で行うことが好ましい。前記反応には、銀化合物へのアミンの配位反応による発熱を伴うため、上記温度範囲となるように、適宜冷却しつつ行ってもよい。
【0075】
アミンを含む保護剤と銀化合物との反応時間は、例えば30分~3時間程度である。これにより、銀-アミン錯体が得られる。
【0076】
(熱分解工程)
熱分解工程は、錯体生成工程を経て得られた銀-アミン錯体を熱分解して、表面修飾銀ナノ粒子を形成する工程である。銀-アミン錯体を加熱することにより、銀原子に対するアミンの配位結合を維持したままで銀化合物が熱分解して銀原子を生成し、次に、アミンが配位した銀原子が凝集して、アミン保護膜(これは、銀ナノ粒子相互間の再凝集を防止する役割を果たすものである)で被覆された銀ナノ粒子が形成されると考えられる。
【0077】
前記熱分解は、分散媒の存在下で行うことが好ましく、分散媒としては上述のアルコールを好適に使用することができる。また、熱分解温度は、表面修飾銀ナノ粒子が生成する温度であればよく、銀-アミン錯体がシュウ酸銀-アミン錯体である場合には、例えば80~120℃程度、好ましくは95~115℃、特に好ましくは100~110℃である。表面修飾銀ナノ粒子の表面修飾部の脱離を防止する観点から、前記温度範囲内のなるべく低温で行うことが好ましい。熱分解時間は、例えば10分~5時間程度である。
【0078】
また、銀-アミン錯体の熱分解は、空気雰囲気下や、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0079】
(洗浄工程)
銀-アミン錯体の熱分解反応終了後、過剰の保護剤(例えば、アミン)が存在する場合は、これを除去するために、デカンテーションを行うことが好ましく、必要に応じて2回以上繰り返し行ってもよい。
【0080】
デカンテーションは、例えば、懸濁状態の表面修飾銀ナノ粒子を洗浄剤で洗浄し、遠心分離により表面修飾銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去する方法により行われる。前記洗浄剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等の、炭素数1~4(好ましくは1~2)の直鎖状又は分岐鎖状アルコールを1種又は2種以上使用することが、表面修飾銀ナノ粒子の沈降性が良好であり、洗浄後、遠心分離により効率よく洗浄剤を分離・除去することができる点で好ましい。また、デカンテーション終了後の表面修飾銀ナノ粒子は、乾燥・固化することなく、湿潤状態のままで後述のインクの調製工程へ供することが、表面修飾銀ナノ粒子の再凝集を抑制することができ、高分散性を維持することができる点で好ましい。
【0081】
(インクの調製工程)
インクの調製工程は、上記工程を経て得られた表面修飾銀ナノ粒子(A)(好ましくは、湿潤状態の表面修飾銀ナノ粒子(A))と分散媒(B)と、必要に応じて添加剤とを混合して、本発明のインクを得る工程である。前記混合には、例えば、自公転式撹拌脱泡装置、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル、ビーズミル等の一般的に知られる混合用機器を使用することができる。また、各成分は、同時に混合してもよいし、逐次混合してもよい。
【0082】
各成分の配合割合は、下記組成のインクが得られる範囲において、適宜調整することができる。
【0083】
本発明のインク全量(100重量%)における、表面修飾銀ナノ粒子(A)の含有量(銀元素換算)は30重量%以上であり、例えば30~70重量%程度が好ましい。下限は、より高膜厚の塗膜若しくは焼結体が得られる点で、特に好ましくは35重量%である。上限は、インクジェットヘッドノズルからの射出安定性の観点から、より好ましくは65重量%、特に好ましくは60重量%である。
【0084】
本発明のインクにおける、表面修飾銀ナノ粒子(A)の含有量(銀元素換算)は、分散媒(B)100重量部に対して、例えば45重量部以上、好ましくは50重量部以上、特に好ましくは55重量部以上である。上限は、インクジェットヘッドのノズルからの射出安定性の観点から、例えば230重量部、好ましくは180重量部である。
【0085】
本発明のインク全量(100重量%)における、分散媒(B)の含有量は、例えば60重量%未満、好ましくは58重量%以下、特に好ましくは55重量%以下、最も好ましくは50重量%以下である。下限は、例えば35重量%、好ましくは37重量%である。本発明のインクは、分散媒(B)を前記範囲で含有することにより、インクジェットヘッドのノズルからの射出安定性を良好に維持することが可能となる。
【0086】
本発明のインクに含まれる分散媒(B)全量(100重量%)における(b-1)の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば50~85重量%、好ましくは55~80重量%、特に好ましくは60~75重量%、最も好ましくは60~70重量%である。
【0087】
本発明のインクに含まれる分散媒(B)全量(100重量%)における(b-2)の含有量(2種以上含有する場合はその合計含有量)は、例えば5~45重量%、好ましくは10~40重量%、特に好ましくは15~30重量%、最も好ましくは15~25重量%である。
【0088】
また、本発明のインク全量(100重量%)における、表面修飾銀ナノ粒子(A)と分散媒(B)の合計含有量の占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0089】
また、本発明のインク全量(100重量%)における、表面修飾銀ナノ粒子(A)と(b-1)と(b-2)の合計含有量の占める割合は、例えば70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0090】
本発明のインクの粘度(25℃、せん断速度10(1/s)における)は、例えば20mPa・s以下(例えば、2~20mPa・s)であり、好ましくは3~15mPa・s、特に好ましくは5~15mPa・sである。尚、インクの粘度(mPa・s)は、落球式粘度計(例えば、Lovis2000M)又は回転粘度計(例えば、BM型)を用いて測定することができる。
【0091】
本発明のインクは、上述の分散媒(B)を含有するため、イミン含有量の経時による上昇を極めて低く抑制することができる。すなわち、表面修飾銀ナノ粒子(A)の表面修飾部を構成するアミンの経時による減少を極めて低く抑制することができる。そのため、本発明のインクは分散安定性に優れる。
【0092】
また、本発明のインクは、上述の分散媒(B)を含有するため、表面修飾銀ナノ粒子(A)の分散安定性に優れ、良好な射出性を長期に亘って安定的に維持することができる。また、本発明のインクは、低温焼結性に優れ、低温焼結により導電性に優れた焼結体が得られる。そのため、本発明のインクはインクジェット印刷用に好適に使用することができる。
【0093】
[電子デバイスの製造方法]
本発明の電子デバイスの製造方法は、基板上に、本発明のインクをインクジェット印刷法により塗布する工程、及び焼結する工程を含む。これにより、本発明のインクの焼結体(好ましくは、本発明のインクの焼結体からなる、回路、配線、電極等の電子部品)を備えた、電子デバイスが得られる。
【0094】
本発明の電子デバイスの製造方法では、本発明のインクを使用するため、低温で焼結が可能であり、焼結温度は、例えば150℃以下(焼結温度の下限は、例えば60℃であり、より短時間で焼結可能な点で100℃が好ましい)、特に好ましくは130℃以下、最も好ましくは120℃以下である。焼結時間は、例えば0.5~3時間、好ましくは0.5~2時間、特に好ましくは0.5~1時間である。
【0095】
本発明のインクを使用すれば、低温焼結でも(例えば、120℃で30分のような、低温で短時間の焼結でも)、銀ナノ粒子の焼結が十分に進行する。その結果、優れた導電性を有する(体積抵抗率は、例えば15μΩcm以下、好ましくは13μΩcm以下、より好ましくは12μΩcm以下、更に好ましくは10μΩcm以下)焼結体が得られる。尚、焼結体の導電性(若しくは、体積抵抗率)は実施例に記載の方法で測定できる。
【0096】
本発明のインクを使用すれば上記の通り低温焼結が可能であるので、基板としては、ガラス製基板、ポリイミド系フィルム等の耐熱性プラスチック基板の他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のポリエステル系フィルムや、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムのような耐熱性の低い汎用プラスチック基板も好適に用いることができる。
【0097】
本発明の電子デバイスの製造方法により得られる電子デバイスには、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等が含まれる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
尚、実施例及び比較例で使用の分散媒は以下の通りである。
DL-メントール、沸点212℃、東京化成工業(株)製試薬
3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、沸点196.5℃、東京化成工業(株)製試薬
3,5-ジメチルシクロヘキサノール、沸点185℃、東京化成工業(株)製試薬
1-シクロヘキシルエタノール、沸点189℃、東京化成工業(株)製試薬
2-エチルシクロヘキサノール、沸点79℃、東京化成工業(株)製試薬
1-メチルシクロヘキサノール、沸点168℃、東京化成工業(株)製試薬
シクロヘキサンメタノール、沸点181℃、東京化成工業(株)製試薬
n-ヘキサデカン、沸点287℃、東京化成工業(株)製試薬
n-ペンタデカン、沸点271℃、東京化成工業(株)製試薬
【0099】
調製例1(表面修飾銀ナノ粒子の調製)
錯体生成工程
硝酸銀(和光純薬工業(株)製)とシュウ酸二水和物(和光純薬工業(株)製)から、シュウ酸銀(分子量:303.78)を得た。
500mLフラスコに前記シュウ酸銀20.0g(65.8mmol)を仕込み、これに、n-ブタノール30.0gを添加し、シュウ酸銀のn-ブタノールスラリーを調製した。
このスラリーに、30℃で、n-ブチルアミン(分子量:73.14、(株)ダイセル製)57.8g(790.1mmol)、n-ヘキシルアミン(分子量:101.19、東京化成工業(株)製)40.0g(395.0mmol)、n-オクチルアミン(分子量:129.25、商品名「ファーミン08D」、花王(株)製)38.3g(296.3mmol)、n-ドデシルアミン(分子量:185.35、商品名「ファーミン20D」、花王(株)製)18.3g(98.8mmol)、及びN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン(分子量:102.18、広栄化学工業(株)製)40.4g(395.0mmol)のアミン混合液を滴下した。
滴下後、30℃で2時間撹拌して、シュウ酸銀とアミンの錯形成反応を進行させ、白色物質(シュウ酸銀-アミン錯体)を得た。
【0100】
熱分解工程
シュウ酸銀-アミン錯体の形成後に、反応液温度を30℃から105℃程度(詳細には、103~108℃)まで昇温し、その後、前記温度を保持した状態で1時間加熱して、シュウ酸銀-アミン錯体を熱分解させて、濃青色の表面修飾銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。
【0101】
洗浄工程
冷却後、得られた懸濁液にメタノール200gを加えて撹拌し、その後、遠心分離により表面修飾銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去し、再度、メタノール60gを加えて撹拌し、その後、遠心分離により表面修飾銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。このようにして、湿潤状態の表面修飾銀ナノ粒子を得た。
【0102】
実施例1
調製例1で得られた湿潤状態の表面修飾銀ナノ粒子に、分散媒としてDL-メントール/n-ヘキサデカン(75/25(重量比))を、銀濃度が37重量%となるように加えて撹拌し、インク(1)を得た。
【0103】
得られたインク(1)を、スピンコート法により無アルカリガラス板上に塗布し、塗膜を形成した。形成された塗膜を、ホットプレートを使用して、120℃、30分間の条件で速やかに焼結し、1.0μm厚の焼結体を得た。得られた焼結体の体積抵抗率を4端子法により測定したところ、11.4μΩcmと良好な導電性を示した。
更に、得られた直後のインク(1)をシリンジフィルター(孔径:0.2μm)を用いたろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
得られたインク(1)を5℃で23日間保管後、同様の方法でろ過したところ、15mL以上ろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
更にまた、得られたインク(1)20mLをフラスコに入れ、50℃で9時間撹拌して、分散安定性の加速試験を実施した。加速試験前後のインク(1)中のアミン濃度をそれぞれ分析したところ、試験前のドデシルアミンは33mmol/kg、試験後のドデシルアミンは32mmol/kgであり、試験の前後でドデシルアミン濃度に変化はなかった。また、加速試験後のインク(1)をGC/MS分析に付したところ、イミンは確認されなかった。
【0104】
実施例2
分散媒として、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))を使用した以外は実施例1と同様にしてインク(2)を得た。
インク(1)に代えて、得られたインク(2)を使用した以外は実施例1と同様にして、1.0μm厚の焼結体を得た。得られた焼結体の体積抵抗率は9.6μΩcmであり、良好な導電性を示した。
また、得られた直後のインク(2)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
更に、得られたインク(2)を5℃で21日間保管後、同様の方法でろ過したところ、15mL以上ろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
【0105】
実施例3
分散媒を3,5-ジメチルシクロヘキサノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))に変更した以外は実施例1と同様にしてインク(3)を得た。
インク(1)に代えて、得られたインク(3)を使用した以外は実施例1と同様にして、1.0μm厚の焼結体を得た。得られた焼結体の体積抵抗率は14.6μΩcmであり、良好な導電性を示した。
また、得られた直後のインク(3)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
更に、得られたインク(3)を5℃で23日間保管後、同様の方法でろ過したところ、15mL以上ろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
【0106】
実施例4
分散媒を1-シクロヘキシルエタノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))に変更した以外は実施例1と同様にしてインク(4)を得た。
インク(1)に代えて、得られたインク(4)を使用した以外は実施例1と同様にして、1.0μm厚の焼結体を得た。得られた焼結体の体積抵抗率は7.2μΩcmであり、良好な導電性を示した。
また、得られた直後のインク(4)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
更に、得られたインク(4)を5℃で20日間保管後、同様の方法でろ過したところ、15mL以上ろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
【0107】
実施例5
分散媒を2-エチルシクロヘキサノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))に変更した以外は実施例1と同様にしてインク(5)を得た。
インク(1)に代えて、得られたインク(5)を使用した以外は実施例1と同様にして、1.0μm厚の焼結体を得た。得られた焼結体の体積抵抗率は12.6μΩcmであり、良好な導電性を示した。
また、得られた直後のインク(5)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
更に、得られたインク(5)を5℃で25日間保管後、同様の方法でろ過したところ、15mL以上ろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
【0108】
実施例6(参考例とする)
分散媒を1-メチルシクロヘキサノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))に変更した以外は実施例1と同様にしてインク(6)を得た。
得られた直後のインク(6)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、10mLろ過可能であった。
更に、得られたインク(6)を5℃で20日間保管後、同様の方法でろ過したところ、10mLろ過可能であり、分散安定性は良好であった。
【0109】
比較例1
分散媒をシクロヘキサンメタノール/n-ペンタデカン(75/25(重量比))に変更した以外は実施例1と同様にしてインク(7)を得た。
得られた直後のインク(7)を、実施例1と同様のろ過試験に付したところ、15mL以上ろ過可能であった。
また、得られた直後のインク(7)中のアミン濃度を分析しところ、ドデシルアミンは21mmol/kg、イミンは2mmol/kgであった。
このインク(7)を5℃で16日間保管後、同様の方法でろ過したところ、5mLでろ過できなくなった。
5℃で16日間保管した後のインク(7)のアミン濃度を分析すると、ドデシルアミンは11mol/kg、イミンは10mol/kgであり、初期に比べてドデシルアミンは減少し、イミンは増加していた。
また、得られたインク(7)[ドデシルアミンを15mmol/kg、イミンを7mmol/kg含む]を50mLフラスコに入れ、50℃で9時間撹拌して分散安定性の加速試験を実施した。加速試験後のインク(7)中のアミン濃度を分析すると、ドデシルアミンは6mmol/kg、イミンは16mmol/kgであり、初期に比べてドデシルアミンは減少し、イミンは増加していた。