(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】TiCl4又はスポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/02 20060101AFI20220224BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20220224BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C01G23/02 D
C22B5/04
C22B34/12 102
(21)【出願番号】P 2018051349
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】志賀 裕一
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-223877(JP,A)
【文献】特開2004-169139(JP,A)
【文献】特開2003-212544(JP,A)
【文献】特開平09-286618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/02
C22B 5/04
C22B 34/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiCl
4の製造方法であって、
塩化反応炉においてTiCl
4を生成する工程と、
前記生成したTiCl
4を蒸留する工程と、
前記蒸留したTiCl
4を沈降分離し、不純物を沈降させる工程と、
を含むTiCl
4の製造方法
であって、
前記不純物が少なくともZrCl
4
を含み、
蒸留後且つ沈降分離前のZrCl
4
濃度が50質量ppb~200質量ppbであり、沈降分離後のZrCl
4
濃度が7質量ppb以下である、TiCl
4
の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のTiCl
4の製造方法であって、
前記沈降させる工程が、沈降槽の温度を-10℃~30℃に保持することを含む、TiCl
4の製造方法。
【請求項3】
請求項1~
2いずれか1項に記載のTiCl
4の製造方法であって、
沈降槽の送出口の位置が、沈降槽の底部から5cm以上である、TiCl
4の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のTiCl
4
の製造方法であって、
前記沈降槽内の液面レベルを沈降槽の底部から50cm以上を維持する、TiCl
4
の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載のTiCl
4の製造方法を工程として含むスポンジチタンの製造方法であって、
前記TiCl
4をマグネシウムにより還元し、スポンジチタンを得る工程をさらに含む
スポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiCl4又はスポンジチタンの製造方法に関する。より具体的には、純度を向上させたTiCl4又はスポンジチタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TiCl4は、金属チタンの材料、酸化チタン、又は電子材料の原料など、幅広く使用されている。TiCl4は、チタン鉱物とコークスと塩素ガスとを反応炉に投入することにより生成される。この段階で得られる粗TiCl4は、他の不純物が含まれている。そこで、蒸留精製設備に送ることで、不純物成分を除去している。特許文献1では、蒸留精製設備に送る前の、粗TiCl4をストレージタンクに一旦貯蔵させている間、静止状態の下、未溶解の不純物の沈降が促進されることが開示されている。
【0003】
蒸留精製後は、液体状のTiCl4として出荷され、酸化チタンやスポンジチタン等の原料として使用することができる。スポンジチタンは、更にチタンインゴット等に加工され、更には、スパッタリングターゲット等に加工され、半導体部品の製造に使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スポンジチタンを製造する場合、スポンジチタン1tを得るためにはTiCl4を4t要するため、TiCl4に含まれる不純物は全量スポンジチタンに取り込まれると4倍に濃化する。故に、TiCl4に含まれる不純物の低減は、スポンジチタンの品位向上に必要不可欠である。従って、TiCl4を製造する段階で、極力不純物を低下させることが望ましい。ZrCl4とTiCl4は沸点が異なるため、上記蒸留精製により、ZrCl4の含有量を低下させることができる。
【0006】
しかし、蒸留精製後も、依然として微量のZrCl4は混在してしまう。特に半導体の分野においては、更に高い純度が要求されている。従って、ZrCl4を更に減少させる必要がある。その一方で、既存の設備を大幅に変更すると初期コストがかかることになる。そこで、本発明は、蒸留精製後のTiCl4において簡便な方法で更にZrCl4を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討したところ、蒸留精製後のTiCl4を貯蔵しているタンクの温度が特定温度範囲にある場合、タンクの底部に、沈降物が生じているのを見出した。当該沈降物の成分分析したところZrCl4が含まれていた。そこで、TiCl4からZrCl4の沈降分離という方法で、更に低減させることができると本発明者らは考えた。
【0008】
以上の知見に基づいて、本発明は以下の発明を包含する。
(発明1)
TiCl4の製造方法であって、
塩化反応炉においてTiCl4を生成する工程と、
前記生成したTiCl4を蒸留する工程と、
前記蒸留したTiCl4を沈降分離し、不純物を沈降させる工程と、
を含むTiCl4の製造方法。
(発明2)
発明1に記載のTiCl4の製造方法であって、
前記不純物が少なくともZrCl4を含み、
蒸留後且つ沈降分離前のZrCl4濃度が10質量ppb~200質量ppbであり、沈降分離後のZrCl4濃度が7質量ppb以下である、TiCl4の製造方法。
(発明3)
発明1~2いずれか1つに記載のTiCl4の製造方法であって、
前記沈降させる工程が、沈降槽の温度を-10℃~30℃に保持することを含む、TiCl4の製造方法。
(発明4)
発明1~3いずれか1つに記載のTiCl4の製造方法であって、
沈降槽の送出口の位置が、沈降槽の底部から5cm以上である、TiCl4の製造方法。
(発明5)
発明1~4いずれか1つに記載のTiCl4の製造方法を工程として含むスポンジチタンの製造方法であって、
前記TiCl4をマグネシウムにより還元し、スポンジチタンを得る工程をさらに含む
スポンジチタンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、一側面において、蒸留工程の後で沈降分離を行う。これにより、蒸留工程後のTiCl4の純度を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態における本発明の方法を実施するための設備を示す。
【
図2】一実施形態における本発明の方法を実施するための沈降分離槽を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0012】
1.TiCl
4
の製造方法
一実施形態において、本発明は、TiCl4の製造方法を提供する。前記方法は、少なくとも以下の工程を含む:
(A) 塩化反応炉においてTiCl4を生成する工程、
(B) 前記生成したTiCl4を蒸留する工程、
(C) 前記蒸留したTiCl4を沈降分離し、不純物を沈降させる工程。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0013】
(1)塩化反応炉においてTiCl
4
を生成する工程
チタン材料は、クロール法によって製造されるのが一般的である。
図1に示すように、クロール法では、塩化反応炉(100)において、チタン鉱石、コークス(130)、及び塩素ガス(140)を投入して、粗TiCl
4が生じる。上述のように、TiCl
4は、沸点が低いため、粗TiCl
4は、塩化反応炉では気体状態である。そして、気化した粗TiCl
4は、気流に乗って、コンデンサ(110)等に送られる。
【0014】
コンデンサ等に送られた粗TiCl4は、いったん冷却され、液体状態になる。冷却の手段としては、伝熱流体及び熱交換器を利用して、粗TiCl4ガスの熱を伝熱流体に移動させてもよい。
【0015】
また、気化した粗TiCl4以外にも、他の塩化物(例えば、ZrCl4)やコークスの微粉等が気流に乗って一緒にコンデンサに送られる。従って、この時点では不純物が大量に含まれている状態となる。液体状態になった粗TiCl4は、一旦貯蔵タンクにて、貯蔵することができる。
【0016】
(2)TiCl
4
を蒸留する工程
貯蔵された粗TiCl4は、純度を向上させる目的で、蒸留塔(120)へ送ることができる。蒸留塔へ送る手段としては、特に限定されないが、ポンプ及び配管を利用してもよい。蒸留塔に送った後、TiCl4の沸点に応じて適切な温度で加熱を行い、気化したTiCl4を回収することができる。そして、回収したTiCl4を冷却して液化することができる。蒸留工程は1回だけ実施してもよいし、複数回実施してもよい。
【0017】
(3)TiCl
4
を沈降分離する工程
一実施形態において、本発明は、上記蒸留工程の後で、TiCl4を沈降分離する工程を含むことができる。沈降分離は、液体の比重より大きい比重の固体粒子が流体中に分散しているとき、重力の作用によって粒子が次第に落下していく現象に依拠した技術である。
【0018】
更なる一実施形態においては、TiCl4の液温を特定温度範囲に制御した状態において、TiCl4からZrCl4が析出し固体となって、沈降することを利用することができる。
【0019】
蒸留工程を経ることでTiCl4中に含まれる不純物は、質量ppbレベルまで低下する。従って、従来は、すでに質量ppbレベルまで低下させた状況において、不純物が固体として析出して沈降分離を行うことが可能であるとは考えられていなかった。
【0020】
(3-1)沈降分離槽の構造及び条件
図2は、一実施形態における沈降分離を行う槽(200)の構造を示す。導入口(240)を通して、TiCl
4液を槽内へ導入することができる。
【0021】
槽内の温度(あるいは、TiCl4液の温度)は、特に限定されないが、-10℃~30℃に調整してもよい(より好ましくは5℃以下)。-10℃未満になると、TiCl4の融点(-24℃)に近い温度となって、粘性が増大しハンドリングが、しにくくなるためである。また、30℃超になると、ZrCl4の析出量が減少するおそれがあり、その結果、ZrCl4の沈降する量が減少するおそれがある。
【0022】
沈降槽(200)の送出口の位置(210)は、沈降槽の底部から5cm以上とするのが好ましい。5cm未満になると、沈降した不純物(230)をTiCl4とともに送出する可能性があるからである。送出口の位置の上限については特に限定されないが、少なくともTiCl4の液面より下になる位置が更に好ましい。
【0023】
沈降槽からの送液量については、1~20L/minが好ましい。この範囲内であると高純度のTiCl4をより効率よく送液できる。1L/min未満だと、送液の効率が不足しがちである。一方で、20L/minを超えると、沈降した不純物をTiCl4とともに送出する可能性があるからである。
【0024】
また、沈降槽からTiCl4を送るにつれて、TiCl4の液面の位置(220)は低下することになる。しかし、沈降槽内の液面レベルが、沈降槽の底部から50cm以上を維持することが好ましい。50cm未満になると、沈降した不純物が混入しやすくなるからである。上限値については、特に限定されないが、典型的には、沈降槽の高さ未満である。
【0025】
(3-2)沈降分離による効果
上記沈降分離により、TiCl4に混入された不純物の量を更に低減させることができる。例えば、不純物がZrCl4の場合には、蒸留後且つ沈降分離前のZrCl4濃度が10質量ppb~200質量ppbである一方で、沈降分離後のZrCl4濃度を7質量ppb以下に低減することができる。
【0026】
2.スポンジチタンの製造方法
一実施形態において、本発明は、スポンジチタンの製造方法を提供する。
前記方法は、以下の工程を含む。
(a) 塩化反応炉においてTiCl4を生成する工程と、
(b) 前記生成したTiCl4を蒸留する工程と、
(c) 前記蒸留したTiCl4を沈降分離し、不純物を沈降させる工程と、
(d) 前記TiCl4をマグネシウムにより還元し、スポンジチタンを得る工程。
【0027】
上記(a)~(c)は、それぞれ、上述した(A)~(C)と同じ又は類似の方法で実施することができる。
【0028】
上記(d)については、公知の方法で実施することができる。例えば、還元反応容器(150)の中に溶融マグネシウムを投入し、更にTiCl4を投入してもよい。これにより、TiCl4側の塩素は、Mgと反応してMgCl2を形成することができる。その一方で、TiCl4の塩素が除去されることで、スポンジチタンが還元反応容器中に生成される。スポンジチタンは回収され、不純物の多い周辺部を除去して、製品として出荷することができる。また、スポンジチタンは、更に粉砕され、チタンインゴット等に鋳造されてもよい。
【実施例】
【0029】
(実施例1)(沈降分離前後のZrCl4濃度とTiCl4液の温度との関係)
塩素化反応及び蒸留工程を経たTiCl4液をタンクに貯蔵した。そして、タンクの底部から高さ1cm付近のTiCl4液を回収した。そして、回収したTiCl4液を、温度-10℃(発明例1)、5℃(発明例2)、30℃(発明例3)、40℃(発明例4)で沈降分離した。
そして、沈降分離前後での、沈降槽のTiCl4液中に含まれるZr濃度を測定した(そして、ZrCl4濃度に換算した)。Zr濃度の測定は、ICP-MS(メーカー名:(株)日立ハイテクサイエンス製 型番:SPQ9700)を採用した。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
沈降分離前は、TiCl4液中に含まれるZrCl4濃度は少なくとも50質量ppbであった。その後、適切な温度で沈降分離させることで、ZrCl4を減少させることができた。特に温度が30℃以下で、著しくZrCl4濃度を減少させることができた。
【0032】
(実施例2)(沈降物の化学分析)
上記実施例1の発明例2で得た沈降物を化学分析に供した。
より具体的には、沈降物を回収し、ろ過し、そして、化学分析を行った。分析方法としてICP-OES(日立ハイテクサイエンス製 型式SPS3000)を採用した。各元素について含有量を算出した後、特定の化合物の含有量に換算した。分析結果を以下に示す。
【0033】
【0034】
上記表に示すように、沈降物の大半は、ZrCl4が占めた。従って、TiCl4液から、不純物としてのZrCl4を分離できたことを示す。
【0035】
(実施例3)(沈降分離後のZrCl4濃度と、送出口の高さとの関係)
TiCl4液を5℃で沈降分離し、沈降分離槽の送出口からTiCl4液をポンプで送り出した。この際に、タンク底部から送出口までの距離を変化させた。該距離は、5cm(発明例5)、10cm(発明例6)、20cm(発明例7)とした。そして、送出口を経て回収されたTiCl4液中に含まれるZr濃度を測定した(そして、ZrCl4濃度に換算した)。Zr濃度の測定は、実施例1と同じ分析方法及び分析機器を使用した。結果を表3に示す。
【0036】
【0037】
タンク底部から送出口までの距離が少なくとも5cm以上離れている場合には、送出口経由で回収されるTiCl4液のZrCl4濃度が7質量ppb以下であった。
【0038】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
【符号の説明】
【0039】
100 塩化反応炉
110 コンデンサ
120 蒸留塔
130 チタン鉱石及びコークス
140 塩素ガス
150 還元反応容器
200 沈降分離槽
210 送出口
220 TiCl4の液面
230 沈降した不純物
240 沈降分離槽導入口