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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20220224BHJP
   F16H 1/16 20060101ALI20220224BHJP
   F16H 55/24 20060101ALI20220224BHJP
   F16C 23/06 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B62D5/04
F16H1/16 Z
F16H55/24
F16C23/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018059314
(22)【出願日】2018-03-27
(65)【公開番号】P2019171922
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】大岩 博之
(72)【発明者】
【氏名】南 光晴
(72)【発明者】
【氏名】鍋倉 司樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷 俊邦
(72)【発明者】
【氏名】中園 孔明
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199177(JP,A)
【文献】特開2016-23760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00-5/32
F16H 1/16
F16H 55/24
F16C 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングラックを駆動する回転軸に設けられたウォームホイールと、
前記ウォームホイールと噛合うウォームギヤが形成されたウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトを回転駆動するモータと、
前記ウォームシャフトの前記モータ側とは反対側の端部を回転可能に支持するベアリングと、
前記ベアリングを回転中心軸と直交する面内における所定の可動範囲内で移動可能に収容するベアリングホルダと、
前記ベアリングを前記ウォームギヤが前記ウォームホイールに押圧される側に付勢する付勢手段と
を備えるステアリング装置であって、
前記ウォームシャフトは、前記ウォームホイールの駆動時に、転舵方向に応じて前記付勢手段による付勢方向に対してそれぞれ傾斜した第1の方向及び第2の方向への反力を受け、
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングの前記回転中心軸から見て前記第1の方向と前記第2の方向との中間の領域において前記ベアリング側へ突出した突出部が形成され
前記ベアリングホルダの周方向における前記突出部の中央部が、前記ベアリング側が凸となる凸曲面となっていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記ベアリングが前記ベアリングホルダに対して前記第1の方向に変位した際に、前記ベアリングを前記第1の方向と実質的に正対する方向に押圧する第1の押圧手段と、
前記ベアリングが前記ベアリングホルダに対して前記第2の方向に変位した際に、前記ベアリングを前記第2の方向と実質的に正対する方向に押圧する第2の押圧手段とを備えること
を特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
ステアリングラックを駆動する回転軸に設けられたウォームホイールと、
前記ウォームホイールと噛合うウォームギヤが形成されたウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトを回転駆動するモータと、
前記ウォームシャフトの前記モータ側とは反対側の端部を回転可能に支持するベアリングと、
前記ベアリングを回転中心軸と直交する面内における所定の可動範囲内で移動可能に収容するベアリングホルダと、
前記ベアリングを前記ウォームギヤが前記ウォームホイールに押圧される側に付勢する付勢手段と
を備えるステアリング装置であって、
前記ウォームシャフトは、前記ウォームホイールの駆動時に、転舵方向に応じて前記付勢手段による付勢方向に対してそれぞれ傾斜した第1の方向及び第2の方向への反力を受け、
前記ベアリングホルダは、前記ベアリングの前記回転中心軸から見て前記第1の方向と前記第2の方向との中間の領域において前記ベアリング側へ突出した突出部が形成され、
前記ベアリングホルダの周方向における前記突出部の両端部に、前記ベアリングの外周面部を前記突出部の突端側へ案内する凹曲面状の案内面部を形成したこと
を特徴とするステアリング装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられるステアリング装置において、アシストトルクを電動モータにより付与する電動パワーステアリング装置が普及している。
このような電動パワーステアリング装置において、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオンギヤが設けられたピニオンシャフトを、モータにより駆動するピニオンアシスト式のものが知られている。
ピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置において、減速ギヤ列としてピニオンシャフトに設けられたウォームホイールと、このウォームホイールと噛合うウォームギヤが形成されかつモータの出力軸に接続されたウォームシャフトとを有するものが知られている。
ウォームシャフトには、ウォームホイールとの噛合い箇所のバックラッシュが適切となるように、適度な予圧を与えるため、これをウォームホイール側に付勢するばね要素等の付勢手段が設けられる。
【0003】
上述した電動パワーステアリング装置のウォームシャフトの付勢、ウォームギヤの予圧に関する従来技術として、例えば特許文献1には、ギヤのバックラッシュを調整しつつ操舵フィーリングを向上するため、ウォームシャフト端部の軸受を保持するハウジングに、円弧状に形成した弾性部材を設け、弾性部材で軸受をウォームホイール側に向かって付勢すると共に、軸受がウォームシャフトを保持した状態でウォームホイールから離間する方向に移動するとき、弾性部材が拡径変形または縮径変形することで、軸受をウォームホイール側に向かって付勢することが記載されている。
【0004】
また、ウォームギヤがウォームホイールから受ける反力は、ウォームホイールの回転軸に対する直交平面に対しウォームシャフトの回転軸が傾斜した状態でウォームホイールと噛合うことに起因して、回転方向(転舵方向)によって方向が異なることから、特許文献2には、ギヤのバックラッシュを調整しつつ操舵フィーリングを向上するため、ホルダ部材におけるコイルばねの付勢力の方向が、ウォームシャフトが一方側に回転したときにウォームホイールから受ける反力の方向と、ウォームシャフトが他方側に回転したときにウォームホイールから受ける反力の方向との間に位置するように設けられる構成とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-221891号公報
【文献】特開2016-182888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ウォームシャフトがウォームホイールから受ける反力の方向は、回転方向に応じて異なることから、右転舵時と左転舵時とでは中立位置からのウォームシャフトの変位方向が異なり、ウォームシャフトの軸方向からこれらの軌跡を重ねて見た場合、実質的に中立位置において屈曲したV字状となる。
しかし、例えば右転舵から直ちに左転舵にステアリングを切り返した場合には、ウォームシャフトが中立位置を通るV字状の軌跡を通らずに、右転舵時の位置から左転舵時の位置へ直線的に移動する挙動を示す場合がある。
また、転舵した状態から直進状態へ舵角を切り戻す場合にも、舵角を切り増した際の軌跡とは異なった軌跡を通って中立位置に戻る場合がある。
このような場合、ウォームギヤとウォームホイールとの噛合い箇所において一時的に予圧が不足してバックラッシュが過大となり、異音が発生したり、操舵フィーリングが悪化することが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、ウォームギヤ部のバックラッシュを適切に維持可能なステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、ステアリングラックを駆動する回転軸に設けられたウォームホイールと、前記ウォームホイールと噛合うウォームギヤが形成されたウォームシャフトと、前記ウォームシャフトを回転駆動するモータと、前記ウォームシャフトの前記モータ側とは反対側の端部を回転可能に支持するベアリングと、前記ベアリングを回転中心軸と直交する面内における所定の可動範囲内で移動可能に収容するベアリングホルダと、前記ベアリングを前記ウォームギヤが前記ウォームホイールに押圧される側に付勢する付勢手段とを備えるステアリング装置であって、前記ウォームシャフトは、前記ウォームホイールの駆動時に、転舵方向に応じて前記付勢手段による付勢方向に対してそれぞれ傾斜した第1の方向及び第2の方向への反力を受け、前記ベアリングホルダは、前記ベアリングの前記回転中心軸から見て前記第1の方向と前記第2の方向との中間の領域において前記ベアリング側へ突出した突出部が形成され、前記ベアリングホルダの周方向における前記突出部の中央部が、前記ベアリング側が凸となる凸曲面となっていることを特徴とするステアリング装置である。
これによれば、第1の方向又は第2の方向への反力により変位したウォームシャフトが中立位置へ戻る際に、ベアリングホルダの突出部がベアリングを案内することによって、ウォームシャフトの軌跡を安定化させることができる。
このため、切り戻し時や切り返し時であっても、ウォームギヤとのウォームホイールとの噛合い箇所に適切な予圧を与え、適度なバックラッシュを維持することによって、操舵フィーリングの悪化や異音の発生を防止することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記ベアリングが前記ベアリングホルダに対して前記第1の方向に変位した際に、前記ベアリングを前記第1の方向と実質的に正対する方向に押圧する第1の押圧手段と、前記ベアリングが前記ベアリングホルダに対して前記第2の方向に変位した際に、前記ベアリングを前記第2の方向と実質的に正対する方向に押圧する第2の押圧手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置である。
これによれば、第1の方向又は第2の方向への反力により変位したウォームシャフトが中立位置へ戻る際に、第1の押圧手段又は第2の押圧手段がベアリングを中立位置へ押し戻すことによって、ウォームシャフトが移動する軌跡をさらに安定化させることができる。
【0009】
請求項3に係る発明は、ステアリングラックを駆動する回転軸に設けられたウォームホイールと、前記ウォームホイールと噛合うウォームギヤが形成されたウォームシャフトと、前記ウォームシャフトを回転駆動するモータと、前記ウォームシャフトの前記モータ側とは反対側の端部を回転可能に支持するベアリングと、前記ベアリングを回転中心軸と直交する面内における所定の可動範囲内で移動可能に収容するベアリングホルダと、前記ベアリングを前記ウォームギヤが前記ウォームホイールに押圧される側に付勢する付勢手段とを備えるステアリング装置であって、前記ウォームシャフトは、前記ウォームホイールの駆動時に、転舵方向に応じて前記付勢手段による付勢方向に対してそれぞれ傾斜した第1の方向及び第2の方向への反力を受け、前記ベアリングホルダは、前記ベアリングの前記回転中心軸から見て前記第1の方向と前記第2の方向との中間の領域において前記ベアリング側へ突出した突出部が形成され、前記ベアリングホルダの周方向における前記突出部の両端部に、前記ベアリングの外周面部を前記突出部の突端側へ案内する凹曲面状の案内面部を形成したことを特徴とするステアリング装置である。
これによれば、ベアリングが突出部に乗り上げる際のフリクションを低下させてベアリングの動きをスムースとし、上述した効果をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、ウォームギヤ部のバックラッシュを適切に維持可能なステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を適用したステアリング装置の実施形態の構成を模式的に示す図である。
図2実施形態のステアリング装置におけるウォームギヤとウォームホイールとの噛合い部をウォームギヤの径方向から見た図である。
図3実施形態のステアリング装置におけるウォームシャフトの先端部の支持部をウォームギヤの軸方向から見た図である。
図4実施形態のステアリング装置の調心機構の構成を示す断面図である。
図5実施形態のステアリング装置の調心機構をウォームギヤ側から見た外観斜視図である。
図6】本発明の比較例であるステアリング装置の調心機構における転舵時のベアリングの挙動を示す模式図である。
図7実施形態のステアリング装置の調心機構における転舵時のベアリングの挙動を示す模式図である。
図8】本発明を適用したステアリング装置の参考例の調心機構における転舵時のベアリングの挙動を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態
以下、本発明を適用したステアリング装置の実施形態について説明する。
実施形態のステアリング装置1は、例えば乗用車等の自動車に設けられ、操舵輪である前輪を操向するものである。
実施形態のステアリング装置1は、パワーアシスト機構としてピニオンアシスト式の電動パワーステアリング装置を備えている。
【0014】
図1は、実施形態のステアリング装置の構成を模式的に示す図である。
ステアリング装置1は、ステアリングホイール10、ステアリングシャフト20、インターミディエートシャフト21、ピニオンシャフト22、ラック軸30、ラックハウジング40、タイロッド50、ハウジング60、トルクセンサ70、アクチュエータユニット80、電動パワーステアリング制御ユニット(EPS ECU)90等を有して構成されている。
【0015】
ステアリングホイール10は、ドライバが回動させることによって操舵操作を入力する円環状の操作部材である。
ステアリングホイール10は、車両の車室内において、運転席と対向して配置されている。
【0016】
ステアリングシャフト20は、一方の端部がステアリングホイール10に取り付けられた回転軸であって、ステアリングホイール10の回転動作を、車幅方向の並進運動に変換するラックアンドピニオン機構に伝達する回転軸である。
ステアリングシャフト20のステアリングホイール10側とは反対側の端部には、インターミディエートシャフト21、ピニオンシャフト22が順次接続されている。
ステアリングシャフト20とインターミディエートシャフト21との間、及び、インターミディエートシャフト21とピニオンシャフト22との間には、各軸が屈曲した状態で回転を伝達可能なユニバーサルジョイント(カルダンジョイント)23,24がそれぞれ設けられている。
ピニオンシャフト22の先端部には、ラック軸30のラックギヤ31と噛み合ってラック軸30を駆動するピニオンギヤが形成されている。
【0017】
ラック軸30は、長手方向(軸方向)が車幅方向に沿うように配置された柱状の部材である。
ラック軸30は、車体に対して車幅方向に並進可能に支持されている。
ラック軸30の一部には、ピニオンシャフト22のピニオンギヤと噛合うラックギヤ31が形成されている。
ラック軸30は、ステアリングシャフト20の回転に応じて、ピニオンギヤによってラックギヤ31が駆動され、車幅方向に沿って並進(直進)する。
ラックギヤ31は、車幅方向において、左右いずれか一方(通常は運転席側)にオフセットして配置される。
例えば、車両が右側前席を運転席とするいわゆる右ハンドル車である場合には、ラックギヤ31は、中立時における中央よりも右側にオフセットして配置される。
【0018】
ラックハウジング40は、ラック軸30を車幅方向に沿って相対変位可能に支持しつつ収容する実質的に円筒状の部材である。
ラックハウジング40の両端部には、ラックブーツ41が設けられている。
ラックブーツ41は、ラックハウジング40に対するタイロッド50の相対変位を許容しつつ、ラックハウジング40内へのダスト等の異物の侵入を防止する部材である。
ラックブーツ41は、例えばエラストマー等の樹脂系材料によって、可撓性を有する蛇腹筒状に形成されている。
【0019】
タイロッド50は、ラック軸30の端部とハウジング60のナックルアーム61とを連結し、ハウジング60をラック軸30の並進方向の動きと連動させてキングピン軸回りに回動させる軸状の連動部材である。
タイロッド50の車幅方向内側の端部は、ボールジョイント51を介して、タイロッド30の端部に揺動可能に連結されている。
タイロッド50の車幅方向外側の端部は、ボールジョイント52を介して、ハウジング60のナックルアーム61に連結されている。
タイロッド50とボールジョイント52との接続部には、トーイン調整用のターンバックル機構が設けられる。
【0020】
ハウジング(ナックル)60は、車輪Wを車軸回りに回転可能に支持するハブベアリングを収容する部材である。
ハウジング60は、車軸に対して前方側又は後方側に突き出して形成されたナックルアーム61を有する。
ハウジング60は、所定の回転中心軸であるキングピン軸回りに回動可能に支持されている。
キングピン軸は、例えば、車両のフロントサスペンションがマクファーソン式ストラット式である場合には、ストラットトップマウントのベアリング中心と、ハウジング60下部とトランスバースリンク(ロワアーム)とを接続するボールジョイントの中心とを結んだ仮想軸である。
ハウジング60は、タイロッド50を介してラック軸30により車幅方向に押し引きされることにより、キングピン軸回りに回動し、車輪Wを転舵させる。
【0021】
トルクセンサ70は、ピニオンシャフト22に作用しているトルクを検出するセンサである。
トルクセンサ70は、ピニオンシャフト22におけるアクチュエータユニット80よりもインターミディエートシャフト21側の部分に設けられる。
トルクセンサ70の出力は、電動パワーステアリング制御ユニット90に伝達される。
【0022】
アクチュエータユニット80は、ピニオンシャフト22を回転駆動して、手動運転時におけるパワーアシストや、自動運転時における操舵動作を行う駆動装置である。
アクチュエータユニット80は、モータ81、ギヤボックス82等を有して構成されている。
モータ81は、ステアリングシャフト20に与えられる駆動力を発生する電動アクチュエータである。
モータ81は、回転方向及び出力トルクを、電動パワーステアリング制御ユニット90によって制御されている。
ギヤボックス82は、モータ81の回転出力を減速(トルク増幅)してピニオンシャフト22に伝達する減速ギヤ列を備えている。
ギヤボックス82の構成については、後に詳しく説明する。
【0023】
電動パワーステアリング制御ユニット90は、モータ81に対して回転方向及び出力トルクの指令値を与える制御装置である。
電動パワーステアリング制御ユニット90は、車両の手動運転時においては、トルクセンサ70のトルク入力方向及び検出トルク値に基づいて、モータ81に与えられる指令値を設定する。
また、車両の自動運転時においては、電動パワーステアリング制御ユニット90は、図示しない自動運転制御装置から与えられる指令に基づいて、モータ81に与えられる指令値を設定する。
【0024】
以下、アクチュエータユニット80のギヤボックス82の構成をより詳細に説明する。
ギヤボックス82は、減速ギヤ列として、モータ81の出力軸に取り付けられたウォームギヤ110、及び、ピニオンシャフト22に取り付けられたウォームホイール120を有する。
図2は、ウォームギヤとウォームホイールとの噛合い部をウォームギヤの径方向から見た図である。
図3は、ウォームシャフトの先端部の支持部をウォームギヤの軸方向から見た図である。
実施形態において、ウォームギヤ110の中心軸を含む平面と、ウォームホイール120の中心軸と直交する平面とは、所定の角度だけ傾斜して配置されている。
【0025】
ウォームギヤ110は、円柱状の回転軸であるウォームシャフト111の中間部に形成されている。
ウォームギヤ110はウォームシャフト111に固定され、ウォームシャフト111とともにその中心軸回りに回転する。
ウォームシャフト111の一方の端部(図2における右側)は、モータ81の出力軸に接続され、モータ81により駆動される。
ウォームシャフト111のモータ81側の端部は、ベアリング112によって支持されている。
ベアリング112の外輪は、ギヤボックスケース82aに組み込まれ、実質的に拘束されている。
ギヤボックスケース82aは、例えば、アルミニウム系合金等の金属材料によって概形を鋳造した後、所定の機械加工を施して形成されている。
ウォームシャフト111の他方(反モータ81側)の端部は、以下説明する調心機構200によって、ギヤボックスケース82aに対して中心軸と直交する平面に沿って相対変位可能に支持されている。
【0026】
図4は、実施形態のステアリング装置の調心機構の構成を示す断面図である。
図4(a)は、調心機構をウォームシャフト111の回転中心軸で切って見た断面図である。
図4(b)は、図4(a)のb-b部矢視断面図である。
調心機構200は、ベアリング210、ベアリングホルダ220、スプリング230、ホルダケース240、Oリング250等を有して構成されている。
【0027】
ベアリング210は、ウォームシャフト111の突端部に設けられたジャーナル部113を回転可能に支持するものである。
ベアリング210として、例えば、単列の深溝玉軸受を用いることができる。
【0028】
ベアリングホルダ220は、ベアリング210を収容するカップ状の部材である。
ベアリングホルダ220は、例えば、樹脂系材料をインジェクション成型することにより、一体に形成されている。
ベアリングホルダ220は、筒状部221、端面部222、スプリング係止部223、溝部224、突起225、ガイド部226等を有して構成されている。
【0029】
筒状部221は、内部にベアリング210が収容される実質的に円筒状の部分である。
筒状部221の内径は、ベアリング210の外径に対して大きく設定され、筒状部221の内周面は、ベアリング210の外輪の外周面と対向して配置されている。
ベアリング210は、筒状部221の内径側において、中心軸と直交する面内でベアリングホルダ220に対して相対変位可能となっている。
【0030】
端面部222は、筒状部221のウォームギヤ110側とは反対側の端部に設けられ、ウォームシャフト111の中心軸と直交する平面に沿って配置された平板状の部分である。
端面部222の中央部には、ウォームシャフト111の突端部を収容する円形の開口が設けられている。
【0031】
スプリング係止部223は、スプリング230の一部が係止される部分である。
スプリング係止部223は、筒状部221の周上における一部に設けられている。
スプリング係止部223は、筒状部221の中心からみて、スプリング230による予圧力Fp(図3参照)の作用方向側(ウォームギヤ120側)に配置されている。
【0032】
溝部224は、ベアリングホルダ220の外周面における端面部222近傍の領域に形成された周方向溝である。
溝部224は、実質的に矩形状の溝断面形状を有し、筒状部221の周方向に沿って全周にわたって連続して形成されている。
溝部224には、Oリング250が収容される。
【0033】
突起225は、端面部222の一部から、モータ81側とは反対側に突出して形成されている。
突起225は、ホルダカバー240の開口243に挿入され、ホルダカバー240に対するベアリングホルダ220の相対回転を規制する位置決め手段として機能する。
【0034】
ガイド部226は、ベアリングホルダ220の筒状部221の内周面におけるベアリング210の外周面と対向する箇所から、内径側(ベアリング210側)に張り出して形成された突出部である。
ガイド部226は、スプリング230による付勢方向(ベアリング210の中心軸から見てスプリング係止部223が設けられた方向)とは反対側に設けられている。
ガイド部226の詳細な形状については、後に詳しく説明する。
【0035】
スプリング230は、ベアリング210を、ウォームギヤ110がウォームホイール120に押し付けられる方向に付勢して予圧を与える付勢手段である。
スプリング230として、例えば、ばね鋼からなる線材をベアリング210の外径側で巻き回したコイルばね(巻きばね)を用いることができる。
スプリング230は、周上における一部が、ベアリングホルダ220のスプリング係止部223に係止されている。
スプリング230の周上におけるスプリング係止部223側とは反対側の一部は、ベアリング210の外輪の外周面と加圧接触(押圧)するように配置されている。
スプリング230は、その弾性力によって、ベアリング210をスプリング係止部223側へ付勢し、この付勢力によってウォームギヤ110とウォームホイール120との噛合い箇所に予圧を与えるようになっている。
【0036】
ホルダケース240は、ベアリングホルダ220を収容するカップ状の部材である。
ホルダケース240は、例えば、金属板による板金加工により形成される。
ホルダケース240は、モータ81及びウォームホイール120との相対的な位置関係が実質的に固定された状態で、ギヤボックスケース82aに固定される。
【0037】
ホルダケース240は、筒状部241、端面部242を有する。
筒状部241は、実質的に円筒状に形成されている。
筒状部241の内周面は、ベアリングホルダ220の筒状部221の外周面と間隔を隔てて対向して配置されている。
【0038】
端面部242は、筒状部241のモータ81側とは反対側の端部に設けられている。
端面部242は、ウォームシャフト111の中心軸と実質的に直交する平面にほぼ沿って延在する平板状となっている。
端面部242には、ベアリングホルダ220の突起225が挿入される開口243が形成されている。
開口243の周縁部には、筒状部241側とは反対側に突出したフランジが形成されている。
【0039】
Oリング250は、例えばゴム系材料等の弾性を有する材料によって形成され、実質的に円形の断面形状を有する環状の部材である。
Oリング250は、ベアリングホルダ220の溝部224に周方向にわたって嵌め込まれている。
この状態でOリング250は、一部がベアリングホルダ220の外周面から張り出している。
Oリング250は、ベアリングホルダ220をホルダケース240に挿入した際に、その弾性力によってベアリングホルダ220を保持する機能を有する。
【0040】
上述したウォームギヤ110は、図2に示す噛合い位置Pmにおいて、ステアリングの右切り時、左切り時で別の歯面に反力Fr、Flの入力を受ける。
ここで、ウォームシャフト111は、荷重入力時にベアリング112の中心Cbを支点として回動するものと仮定する。
この場合、荷重入力位置(噛合い位置Pm)と支点(中心Cb)とのオフセット量から、右切り時、左切り時のモーメントスパンMSr、MSlが異なることにより、分力が異なることになる。
分力方向に影響を与える主な因子として、荷重点(噛合い位置Pm)とベアリング112の中心Cbとのオフセット量、ウォームシャフト111のねじれ角、ウォームシャフト111の軸距離などがあげられる。
【0041】
図3に示すように、ウォームシャフト111の軸方向から見た場合、右切り時の反力Frと、左切り時の反力Flとは、いずれもウォームホイール120からウォームシャフト111が遠ざかる方向ではあるが、角度が相互に傾斜する方向に作用する。
スプリング230による予圧力Fpは、反力Fr,Flそれぞれの作用方向に沿った直線の中間に配置される直線に沿って、ウォームシャフト111をウォームホイール120に近づける方向に作用する。
【0042】
以下、上述した実施形態の効果を、以下説明する本発明の比較例と対比して説明する。
なお、比較例及び後述する参考例において、上述した実施形態と実質的に共通する箇所については、同じ符号を付して説明を省略する。
比較例のステアリング装置は、実施形態におけるベアリングホルダ220のガイド部226を省略したものである。
【0043】
図6は、本発明の比較例であるステアリング装置の調心機構における転舵時のベアリングの挙動を示す模式図である。
なお、図6においては、理解を容易とするために、ベアリング210の外周面とベアリングホルダ220の内周面との間隔を誇張して図示している。(後述する図7図8において同じ)
ステアリングが中立状態にある場合には、ベアリング210の中心軸は、中立位置P0に位置している。
スプリング230は、この中立位置P0において、ウォームギヤ110とウォームホイール120との予圧が適正となるようにウォームシャフト111を、図6における上方に付勢している。
【0044】
中立状態からステアリングを右方向に転舵すると、ウォームギヤ110が歯面から受ける反力Frによって、ベアリング210の中心軸は、軌跡T1に沿って、実質的に直線状に右切り時の位置Prまで変位する。
一方、中立状態からステアリングを左方向に転舵すると、ウォームギヤ110が歯面から受ける反力Flによって、ベアリング210の中心軸は、軌跡T2に沿って、実質的に直線状に左切り時の位置Plまで変位する。
【0045】
右切り状態から中立位置へ切り戻す際、及び、左切り状態から中立位置へ切り戻す際には、理想的には、ベアリング210の中心軸の位置は、軌跡T3,T4に沿って直線状に中立位置P0に戻ることが好ましい。
しかし、実際には軌跡T1とは乖離しかつ屈曲、湾曲した軌跡T5に沿って中立位置P0に戻る場合がある。
また、例えば右切り状態から左切り状態へ切り返す状況では、右切り時の位置Prから左切り時の位置Plへ、中立位置P0を通ることなく直線的な軌跡T6に沿って移動する場合がある。
なお、図6乃至8において、各軌跡T1乃至T6は、理解を容易とするために、実際のベアリング210の中心軸の移動距離に対して誇張して図示している。
比較例においては、このようにベアリング210の中心軸が移動する軌跡にばらつきがある結果、予圧の不足により噛合い状態が悪化して異音が発生したり、操舵フィーリングが悪化する場合があり、さらにこのような現象の再現性も乏しいという問題がある。
【0046】
これに対し、実施形態においては、中立位置P0から見て予圧方向とは反対側に、ベアリングホルダ220の内周面を突出させたガイド部226を有する。
ベアリングホルダ220の周方向におけるガイド部226の中央部226aは、ベアリング210側が凸となる凸曲面となっている。
中央部226aにおける突端部(最もベアリングホルダ220の内径側に位置する部分)は、ベアリング210の中心軸の中立位置P0から見て、予圧方向とは反対側に配置されている。
また、ベアリングホルダ220の周方向におけるガイド部226の両端部226b(中央部226aを挟んだ領域)は、ベアリング210の外周面とほぼ沿った曲率を有し、ベアリング210側が凹んだ凹曲面となっている。
【0047】
実施形態においては、ベアリング210が右切り時の位置Prにある状態からステアリングを切り戻した場合には、ベアリング210の外周面がベアリングホルダ220の筒状部221の内周面に沿って図7における時計回り方向に滑りながら、ガイド部226に接触した際に、ガイド部226の表面形状に沿って中心軸が中立位置P0側へ移動するよう案内される。
また、左切り状態から切り戻す場合にも実質的に同様の挙動を示す。
これによって、ステアリングを転舵状態から切り戻す場合のベアリング210の中心軸の軌跡T3,T4が、切り増す場合の軌跡T1,T2に近づきかつ安定する。
また、ステアリングを右転舵から左転舵、あるいは左転舵から右転舵へ切り返す状況であっても、一旦中立位置P0の近傍を通過することになる。
これによって、ウォームギヤ110とウォームホイール120との噛合い位置における予圧を適正に維持し、異音の発生や操舵フィーリングの悪化を防止することができる。
【0048】
以上説明したように、実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)右切り時、左切り時の反力Fr、Flによりウォームシャフト111が移動し、ベアリング210の中心軸が右切り時の位置Pr、左切り時の位置Plに移動した後、スプリング230の付勢力により中立位置P0に戻る際に、ベアリング210の外周面がガイド部226の表面に沿ってベアリング210を移動させ、ベアリング210を案内することによって、ウォームシャフト111が移動する軌跡を安定化させることができる。
このため、反力の大きさや作用方向が変化する切り戻し時や切り返し時であってもウォームギヤ110とウォームホイール120との噛合い箇所に適切な予圧を与え、適度なバックラッシュを維持することによって、操舵フィーリングの悪化や異音の発生を防止することができる。
(2)ベアリングホルダ220の周方向におけるガイド部226の両端部226bを凹曲面としたことによって、ベアリング210がガイド部226に乗り上げる際のフリクションを低下させてベアリング210の動きをスムースとし、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0049】
参考例
次に、本発明を適用したステアリング装置の参考例について説明する。
図8は、参考例のステアリング装置の調心機構における転舵時のベアリングの挙動を示す模式図である。
参考例においては、実施形態のガイド部226に代えて、ベアリングホルダ220の筒状部221の内周面とベアリング210の外周面との間に、一対のガイド部260、270を設けたことを特徴とする。
ガイド部260,270は、例えば、ベアリングホルダ220の端面部222から、モータ81側に突出したタブ状に形成することができる。
ガイド部260,270は、例えば弾性を有する樹脂系材料によって、ベアリングホルダ220と一体に形成することができる。
ガイド部260,270は、ベアリング210の中心軸が右切り時の位置Pr、左切り時の位置Plに変位した際に、ベアリング210の外輪の外周面を中立位置P0側に押し戻す方向に押圧する押圧手段である。
【0050】
図8に示すように、ガイド部260は、ベアリング210の中心軸が中立位置P0から右切り時の位置Prに移動した際に、ベアリング210の外周面と当接する箇所に設けられている。
ガイド部270は、ベアリング210の中心軸が中立位置P0から左切り時の位置Plに移動した際に、ベアリング210の外周面と当接する箇所に設けられている。
ガイド部260,270において、ベアリング210の外周面と当接する面部は、ベアリング210の軸方向から見た形状が円弧状となる凹曲面として形成されている。
【0051】
ガイド部260,270は、ベアリング210の外周面と当接した際に、その接触荷重によってベアリングホルダ220の筒状部221の内周面に近接する方向にたわむとともに、弾性力によって生じる反力によって、ベアリング210を中立状態へ押し戻す効果を発揮する。
【0052】
以上説明した参考例においても、右切り時、左切り時の反力Fr、Flにより、ベアリング210の中心軸が右切り時の位置Pr、左切り時の位置Plに移動した際に、それぞれガイド部260、270がたわんで発生した弾性力でベアリング210を中立位置側へ押し戻すことによって、上述した実施形態の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0053】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)パワーステアリング装置やその電動パワーアシスト機構、ウォームシャフトの調心機構等の構成は、上述した実施形態の構成に限らず適宜変更することができる。
例えば、実施形態の電動パワーアシスト機構は、一例としてピニオンシャフトを駆動するピニオンアシスト式のものであったが、本発明は、例えばコラムアシスト式等の他種の電動パワーアシスト機構を有するステアリング装置であっても、ウォームギヤ及びウォームホイールを用いるものである限り適用することが可能である。
(2)実施形態のような突起状のガイド部と、参考例のような押圧手段を有するガイド部とを、同一のベアリングホルダ内にともに設ける構成としてもよい。
(3)参考例において、ガイド部(押圧手段)はそれ自体の弾性によってベアリングの復元力を発生させる構成となっているが、例えばコイルばね等のばね要素でガイド部を付勢する構成としてもよい。


【符号の説明】
【0054】
1 ステアリング装置 10 ステアリングホイール
20 ステアリングシャフト 21 インターミディエートシャフト
22 ピニオンシャフト 23 ユニバーサルジョイント
24 ユニバーサルジョイント 30 ラック軸
31 ラックギヤ 40 ラックハウジング
41 ラックブーツ 50 タイロッド
51 ボールジョイント 52 ボールジョイント
60 ハウジング 61 ナックルアーム
70 トルクセンサ 80 アクチュエータユニット
81 モータ 82 ギヤボックス
90 電動パワーステアリング制御ユニット
110 ウォームギヤ 111 ウォームシャフト
112 ベアリング 113 ジャーナル部
120 ウォームホイール
200 調心機構 210 ベアリング
220 ベアリングホルダ 221 筒状部
222 端面部 223 スプリング係止部
224 溝部 225 突起
226 ガイド部 226a 中央部
226b 両端部 230 スプリング
240 ホルダケース 241 筒状部
242 端面部 243 開口
250 Oリング 260 ガイド部
270 ガイド部
T1~T6 ベアリング中心軸の軌跡
P0 ベアリング中心軸の中立位置
Pr ベアリング中心軸の右切り時の位置
Pl ベアリング中心軸の左切り時の位置
Pm 噛合い位置 Fp 予圧力
Fr 右切り時反力 Fl 左切り時反力
MSr 右切り時のモーメントスパン
MSl 左切り時のモーメントスパン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8