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特許7029342モールド金型、樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】モールド金型、樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/26 20060101AFI20220224BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20220224BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20220224BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B29C45/26
B29C45/02
B29C45/56
H01L21/56
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018078311
(22)【出願日】2018-04-16
(65)【公開番号】P2019181872
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000144821
【氏名又は名称】アピックヤマダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英雄
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 高志
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/159743(WO,A1)
【文献】特表2003-500833(JP,A)
【文献】特開2002-009096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップが搭載されたワークを支持する第一の金型と、チップ搭載部分に対向してキャビティ凹部が形成された第二の金型と、前記キャビティ凹部にモールド樹脂を圧送りするトランスファ機構とを備えたモールド金型であって、
前記第二の金型には、前記キャビティ凹部を形成する前記ワークをクランプするクランパと、前記クランパに囲まれて配置され、第一コイルばねにより付勢されて型閉じ状態でチップ表面に常時押し当てられるチップ押さえ駒と、前記チップ押さえ駒の周囲に配置されチェイスとの間に第二コイルばねを介して相対移動可能に支持されたキャビティ駒と、を備え、
前記トランスファ機構の動作に伴って、チップ表面に押し当てられた前記チップ押さえ駒に対する前記キャビティ駒位置を、樹脂圧の高まりにより前記第二コイルばねの付勢に抗してキャビティ容積を拡大させた位置と型閉じの進行によりキャビティ容積を縮小した位置との間で相対移動させてモールド樹脂を加圧成形することを特徴とするモールド金型。
【請求項2】
前記キャビティ駒の少なくともランナゲート側の一部の前記チップ押さえ駒に対する相対移動を規制する規制部を備え、チップ表面に押し当てられた前記チップ押さえ駒に対して前記少なくとも一部のキャビティ駒がキャビティ容積を縮小させた位置で前記トランスファ機構の動作に伴ってモールド樹脂を前記キャビティ凹部内に充填させ、樹脂圧によりキャビティ容積を拡大した位置へ移動させて前記規制部により前記少なくとも一部のキャビティ駒のキャビティ容積を拡大する方向への移動が規制されると更なる型閉じ動作により当該キャビティ駒が再度キャビティ容積を縮小させた位置へ相対移動させる請求項1記載のモールド金型。
【請求項3】
前記第二の金型には、チェイスに対して前記チップ押さえ駒が第一コイルばねにより付勢支持されており、前記キャビティ駒が第二コイルばねにより付勢支持されており、前記キャビティ駒が樹脂圧により前記第二コイルばねの付勢に抗して押し戻された際にストッパーにより移動規制されて前記チップ押さえ駒に対して相対移動する請求項1又は請求項2記載のモールド金型。
【請求項4】
前記キャビティ駒は、型閉じ動作により前記チップ押さえ駒に押し当てられた前記チップの下面高さに相対移動し、樹脂圧により前記チップの上面高さ位置まで相対移動する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のモールド金型。
【請求項5】
前記チップ押さえ駒にはチップに対向してチップ押さえ駒が各々配置されている請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のモールド金型。
【請求項6】
前記第一の金型と第二の金型による型閉じ動作によりモールド金型内に減圧空間が形成される請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のモールド金型。
【請求項7】
前記第二の金型の前記キャビティ凹部を含むクランプ面には、フィルムが吸着保持され、当該フィルムを介して前記チップ押さえ駒によりチップ表面に押し当てられる請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のモールド金型。
【請求項8】
前記クランパには、前記キャビティ凹部内より溢れ出したモールド樹脂を収容するオーバーフローキャビティが設けられている請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のモールド金型。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のモールド金型を備えた樹脂モールド装置。
【請求項10】
チップが搭載されたワークに対してチップ露出させてトランスファ成形する樹脂モールド方法であって、
モールド金型を型閉じし、キャビティ側部を形成するクランパによりワークをクランプする工程と、
キャビティ底部を形成するチップ押さえ駒が第一コイルばねにより付勢されてチップ表面に押し当てたまま当該チップ押さえ駒の周囲に配置されチェイスとの間に設けられた第二コイルばねにより付勢されたキャビティ駒がキャビティ容積を縮小した位置へ相対移動させる工程と、
トランスファ機構を作動させて溶融したモールド樹脂をキャビティ内に圧送りする工程と、
前記キャビティ内に満充填された樹脂圧により前記キャビティ駒が前記第二コイルばねの付勢に抗してキャビティ容積を拡大させた位置へ退避させてモールド樹脂を充填する工程と、
前記キャビティ駒のキャビティ容積を拡大させた位置への移動を規制したまま前記モールド金型の型閉じ動作を行い、前記キャビティ駒を型閉じの進行によりキャビティ容積を縮小した位置へ相対移動させてキャビティ内樹脂を加圧しキャビティ外へ押し出す工程と、
を含むことを特徴とする樹脂モールド方法。
【請求項11】
前記キャビティ駒をチップ下面高さ位置である第一位置に相対移動させてモールドする請求項10記載の樹脂モールド方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板上に複数のチップが搭載されたワークを、チップ表面を露出させて樹脂モールドするモールド金型、樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年AI技術の普及にともなって、TSV配線されたシリコン基板上にGPU(Graphics Processing Unit)のようなプロセッサユニットやその周囲にHBM(High Bandwidth Memory)を近接して配置し、チップ間を高密度配線で接続するSIP(System In Package)構造製品や同様の構成のFPGA(Field-Programmable Gate Array)に関する製品が開発されている。例えば、GPUやFPGAやHBMなどの半導体チップは、φ300mmのインターポーザとしてのウエハ上に多数搭載されており、これらの高さが異なる半導体チップ(以下単に「チップ」という)を、回路の保護や外部の周辺回路との接続を容易にするために、パッケージモールドして提供したいというニーズがある。
【0003】
この場合、GPUは、例えば20×30mmのように実装面積が大きく、極めて多数の素子が含まれ、HBMは多層に積層されていることで極めて多数の記憶素子が配置されており、これらが高周波信号で動作するため各々大量の発熱が発生する。このため、樹脂モールドにあたっては、各チップの表面を露出させて熱放散性を確保した状態で樹脂モールドする必要がある。また、各チップの高さが異なることから機械的なストレスに弱く歪みやすいという課題もある。
【0004】
また、基板上に複数のチップがフリップチップ接続されたマトリクス配置で搭載されたワークをモールドアンダーフィルする場合、モールド樹脂は隙間の大きい場所から流れ込むため、フリップチップ接続されたチップと基板間や樹脂流動方向に対して直交方向のチップ間の隙間のような部分にはモールド樹脂が充填し難い。
【0005】
モールド金型について樹脂充填性を改良する技術として、クランパによりワークをクランプしてキャビティ駒を後退位置でモールド樹脂をキャビティ内に充填した後、型閉じ動作によりキャビティ駒のクランパに対する相対位置を移動させて余剰樹脂を押し戻すTCM(Transfer Compression Mold)及び板厚調整機構を併用したモールド金型(特許文献1:特開2013-28087号公報)、チップ表面をクランプ用駒で押さえたまま加圧用駒をチップ表面と同じ高さでトランスファ機構によりポットからキャビティ内に溶融したモールド樹脂を充填し、上型及び下型の型開閉動作を繰り返すことで加圧用駒によりキャビティ内の樹脂を加圧するモールド金型等が提案されている(特許文献2:WO2015/159743号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-28087号公報
【文献】WO2015/159743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、チップと対向位置にあるキャビティ駒の隙間が狭小の場合に樹脂が流れ難くなり、チップ上面等に樹脂がのり難くなるのを防止する為、樹脂注入時はキャビティ駒を上昇させてキャビティ空間を広くさせる事で樹脂流動を良くして狭小部に樹脂を充填させる技術が存在するが、チップ露出には適していなかった。
また、特許文献2のように、モールド金型の型開閉動作を繰り返す場合には、プレス装置を高精度に位置制御する必要があり、装置構成が複雑化高度化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に述べるいくつかの実施形態に適用される開示は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、チップの表面を確実に露出させてかつ樹脂充填性を高めてモールド可能なモールド金型、樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法を提供することにある。
【0009】
以下に述べるいくつかの実施形態に関する開示は、少なくとも次の構成を備える。即ち、チップが搭載されたワークを支持する第一の金型と、チップ搭載部分に対向してキャビティ凹部が形成された第二の金型と、前記キャビティ凹部にモールド樹脂を圧送りするトランスファ機構とを備えたモールド金型であって、前記第二の金型には、前記キャビティ凹部を形成する前記ワークをクランプするクランパと、前記クランパに囲まれて配置され、第一コイルばねにより付勢されて型閉じ状態でチップ表面に常時押し当てられるチップ押さえ駒と、前記チップ押さえ駒の周囲に配置されチェイスとの間に第二コイルばねを介して相対移動可能に支持されたキャビティ駒と、を備え、前記トランスファ機構の動作に伴って、チップ表面に押し当てられた前記チップ押さえ駒に対する前記キャビティ駒位置を、樹脂圧の高まりにより前記第二コイルばねの付勢に抗してキャビティ容積を拡大させた位置と型閉じの進行によりキャビティ容積を縮小した位置との間で相対移動させてモールド樹脂を加圧成形することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、第一の金型と第二の金型でワークをクランプすると、チップ押さえ駒がチップ表面に常時押し当てられるので、トランスファ機構を作動させて溶融したモールド樹脂をキャビティ内に充填してもチップの表面を確実に露出させて成形することができる。
トランスファ機構の動作に伴って、チップ表面に押し当てられたチップ押さえ駒に対するキャビティ駒位置を樹脂圧によりキャビティ容積を縮小させた位置とキャビティ容積を拡大した位置との間で相対移動させてモールド樹脂を加圧成形するので、先ずアンダーフィルモールドを優先させ、その後樹脂流動性を高めてチップ間の隙間を埋めるように樹脂充填性を高めて加圧成形することができる。
【0011】
前記キャビティ駒の少なくともランナゲート側の一部の前記チップ押さえ駒に対する相対移動を規制する規制部を備え、チップ表面に押し当てられた前記チップ押さえ駒に対して前記少なくとも一部のキャビティ駒がキャビティ容積を縮小させた位置で前記トランスファ機構の動作に伴ってモールド樹脂を前記キャビティ凹部内に充填させ、樹脂圧によりキャビティ容積を拡大した位置へ移動させて前記規制部により前記少なくとも一部のキャビティ駒のキャビティ容積を拡大する方向への移動が規制されると更なる型閉じ動作により当該キャビティ駒が再度キャビティ容積を縮小させた位置へ相対移動させるようにしてもよい。
これにより、キャビティ駒の少なくともランナゲート側の一部がチップ押さえ駒に対する相対移動が規制されたキャビティ容積を拡大させた位置から更なる型閉じ動作により当該キャビティ駒が再度キャビティ容積を縮小させた位置へ相対移動させることで、トランスファ成形以上に樹脂圧を高めて加圧成形でき、ボイドを可及的に減らしてチップ間の隙間やチップと基板の隙間等モールド樹脂が充填し難い領域まで充填することができる。特に、チップ押さえ駒以外のキャビティ容積を縮小することで最終的にアンダーフィルモールドと同じ高さにすることができるため、アンダーフィルモールドの樹脂充填性を向上しつつ成形品の使用樹脂量を減らすこともできる。
【0012】
前記第二の金型には、チェイスに対して前記チップ押さえ駒が第一コイルばねにより付勢支持されており、前記キャビティ駒が第二コイルばねにより付勢支持されており、前記キャビティ駒が樹脂圧により前記第二コイルばねの付勢に抗して押し戻された際にストッパーにより移動規制されて前記チップ押さえ駒に対して相対移動するのが好ましい。
これにより、金型クランプによるチップ押さえ駒のチップに対する押圧力の強まりを第一コイルばねにより逃がすことができるので、ワークに対して過度の機械的なストレスが作用することはない。
また、キャビティ駒は樹脂圧が作用すると第二コイルばねが撓んでチップ押さえ駒に対する相対位置が変化するので、キャビティ容積を可変とすることができる。よって、キャビティ駒がキャビティ容積を拡大させた状態でモールド樹脂をキャビティ凹部内に受け入れ、ストッパーにより可動位置が規制されると更なる型閉じ動作によりチップ押さえ駒に対して相対位置が下方に移動してキャビティ容積を縮小させて通常のトランスファ成形に比べて高い樹脂圧を作用させて加圧成形することができる。
【0013】
前記キャビティ駒は、型閉じ動作により前記チップ押さえ駒に押し当てられた前記チップの下面高さに相対移動し、樹脂圧により前記チップの上面高さ位置まで相対移動することが好ましい。
これにより、トランスファ機構を作動させてキャビティ凹部内にモールド樹脂を充填する際に、キャビティ駒の位置を相対移動させることで、フリップチップ接続されたチップのモールドアンダーフィルを優先して行うことができ、樹脂圧が加わるとキャビティ凹部内の空間を広げて隙間にモールド樹脂を充填し易くすることができる。
また、キャビティ駒の最終型閉じ位置をチップの上面高さ位置より下方に抑えると、通常のトランスファ成形より高い加圧力で樹脂圧を作用させることができるのでボイドを可及的に減らし、しかも無駄な樹脂量を減らして樹脂モールドすることができる。
【0014】
前記チップ押さえ駒は、複数のチップに対向してチップ押さえ駒が各々配置されていてもよい。これにより、チップ押さえ駒が対向するチップ毎にチップ表面を押さえることで、確実に露出成形することができる。
【0015】
前記第一の金型と前記第二の金型による型閉じ動作によりモールド金型内に減圧空間が形成されることが好ましい。これにより、キャビティ凹部内に充填されるモールド樹脂に混入する気泡を減圧吸引により除去して成形品質を高めることができる。
【0016】
前記第二の金型の前記キャビティ凹部を含むクランプ面には、フィルムが吸着保持され、当該フィルムを介して前記チップ押さえ駒によりチップ表面に押し当てられることが好ましい。これにより、チップ押さえ駒がチップに押し当てられる際にフィルムを緩衝材としてチップ面を保護することができるうえに、クランパ、チップ押さえ駒及びキャビティ駒が型閉じ動作により相対移動しキャビティ凹部の容積が変化しても、モールド樹脂が漏れることは無く、金型メンテナンスを容易化することができる。
【0017】
前記クランパには、前記キャビティ凹部内より溢れ出したモールド樹脂を収容するオーバーフローキャビティが設けられていてもよい。
これにより、キャビティ凹部内に充填されるモールド樹脂が加圧されてオーバーフローすることでモールド樹脂の未充填エリアを可及的に無くして成形品質を向上させることができる。
【0018】
樹脂モールド装置においては、上述したいずれかに記載のモールド金型を備えることで、チップの表面を確実に露出させると共に樹脂充填性を高める成形することで成形品質を高めかつ生産性を向上させることができる。
【0019】
チップが搭載されたワークに対してチップ露出させてトランスファ成形する樹脂モールド方法であって、モールド金型を型閉じし、キャビティ側部を形成するクランパによりワークをクランプする工程と、キャビティ底部を形成するチップ押さえ駒がチェイスに対して第一コイルばねにより付勢されてチップ表面に押し当てたまま当該チップ押さえ駒の周囲に配置され前記チェイスとの間に設けられた第二コイルばねにより付勢されたキャビティ駒がキャビティ容積を縮小した位置へ相対移動させる工程と、トランスファ機構を作動させて溶融したモールド樹脂をキャビティ内に圧送りする工程と、前記キャビティ内に満充填された樹脂圧により前記キャビティ駒が前記第二コイルばねの付勢に抗してキャビティ容積を拡大させた位置へ退避させてモールド樹脂を充填する工程と、前記キャビティ駒のキャビティ容積を拡大させた位置への移動を規制したまま前記モールド金型の型閉じ動作を行い、前記キャビティ駒を型閉じの進行によりキャビティ容積を縮小した位置へ相対移動させてキャビティ内樹脂を加圧しキャビティ外へ押し出す工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
上述した樹脂モールド方法を用いれば、トランスファ機構を作動させて溶融したモールド樹脂をキャビティ内に充填してもチップの表面を確実に露出させて成形することができるうえに、キャビティ駒がキャビティ容積を縮小した第一位置でアンダーフィルモールドを優先させ、その後キャビティ駒がキャビティ容積を拡大する第二位置へ退避させて樹脂流動性を高めてチップ間の隙間を埋めるように樹脂充填性を高めて加圧成形することができる。
また、キャビティ駒を再度第一位置へ相対移動させてキャビティ内樹脂を加圧してキャビティ外へ押し出すことにより、通常のトランスファ成形より高い加圧力で樹脂圧を作用させることができるので、ボイドを可及的に減らし、しかも最終成形品に無駄な樹脂量を減らして樹脂モールドすることができる。
よって、チップが搭載されたワークに対してアンダーフィルモールドを伴ってチップ露出させてトランスファ成形することができる。
【0021】
前記キャビティ駒をチップ下面高さ位置である第一位置に相対移動させてモールドすることにより、アンダーフィルモールドの樹脂充填性を向上させることができ、かつ最終成形品に無駄な樹脂量を減らして樹脂モールドすることができる。
【発明の効果】
【0022】
上記モールド金型、樹脂モールド装置及び樹脂モールド方法を用いれば、チップの表面を確実に露出させて樹脂充填性を高めてモールドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第一実施例に用いられる成形前のワークの平面図及び正面図、並びに成形後のワークの正面図である。
図2】第一実施例に係るモールド金型の部分断面図である。
図3図2に続くモールド金型の部分断面図である。
図4図3に続くモールド金型の部分断面図である。
図5図4に続くモールド金型の部分断面図である。
図6図5に続くモールド金型の部分断面図である。
図7図6に続くモールド金型の部分断面図である。
図8図7に続くモールド金型の部分断面図である。
図9】上型の部分平面図である。
図10】下型の部分平面図である。
図11】第二実施例に用いられるキャビティ凹部を含む上型面の拡大平面図である。
図12】第二実施例に係るモールド金型の部分断面図である。
図13図12に続くモールド金型の部分断面図である。
図14図13に続くモールド金型の部分断面図である。
図15図14に続くモールド金型の部分断面図である。
図16図15に続くモールド金型の部分断面図である。
図17図16に続くモールド金型の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明を実施するための一実施形態について添付図面に基づいて詳細に説明する。尚、モールド金型というときは、モールドベースに各々支持された上型及び下型を指し示すものとし、型開閉機構(プレス装置)を除いたものを指し示すものとする。また、樹脂モールド装置をいうときは、モールド金型とこれを開閉する型開閉機構(電動モータ及びねじ軸、トグルリンク機構等のプレス装置;図示せず)を少なくとも備えた装置で、さらに自動化のためには樹脂搬送装置またはワーク搬送装置、成形後のワーク搬出装置を備える装置である。トランスファ成形の場合ポットに挿入されたプランジャを作動させるトランスファ機構、更には型閉じした際に金型内に減圧空間を形成する減圧機構等を備えているものとする。以下、モールド金型の構成を中心に説明するものとする。また、ワークWは、プロセッサやHBMなどの半導体チップが多数搭載されたインターポーザ基板(半導体ウエハ、樹脂基板等)の他、MEMSチップ等が搭載されたインターポーザ基板(半導体ウエハ、樹脂基板等)を樹脂モールドする場合を想定している。モールド金型は、一例として下型が可動型で上型が固定型として説明するが、上型が可動型で下型が固定型であっても良く、双方が可動型であってもよい。
【0025】
ワークWは、基板KとチップTより構成され、チップTは基板Kに電気的に接続(フリップチップ接続等)されている。チップTは半導体チップの他、MEMSチップ等の機能部品も含まれる。露出が必要なチップTとして上述した半導体チップやMEMSチップ等を例示したが、これらに限定されるわけではなく例えば放熱板や撮像素子の表面を露出させる場合であっても適応可能である。チップTは露出が必要な基板Kの搭載部品全体を指し示すものとする。このため、チップTは必ずしもフリップチップ接続されているわけではない。
尚、以下ではフィルムFを用いてチップTを挟み込んで成形する場合について説明をするが、フィルムFは必ずしも必要な部材ではなく、省略しても良い。
【0026】
[第一実施例]
図1はワークWとして100mm×300mmの短冊状ストリップ基板(矩形基板)を用いてモールドアンダーフィルを行う場合について例示する。
図1Aに示すように、基板K上にはチップTがマトリクス配置で実装されている。図1Bに示すように、チップTは、基板K上に形成された端子接続部にはんだバンプを介してフリップチップ接続されている。
図1Cに成形後のワークWを示す。マトリクス配置された各チップTはモールドアンダーフィルされかつチップ間の隙間までモールド樹脂Rによりモールドされている。図1では5行の例だが、図2以降省略して3行の例を示す。なお、行および列は一例であってこれに限定されるものではない。
【0027】
次にモールド金型1の構成例について図2並びに図9及び図10を参照して説明する。図2において、上型3(第二の金型)には、チップ搭載部分に対向してキャビティ凹部4が形成されている。下型2(第一の金型)には、チップTが搭載されたワークWが支持され、キャビティ凹部4にモールド樹脂Rを圧送りするトランスファ機構5が設けられている。
【0028】
先ず下型2の構成について説明する。図示しない下型ベース上には、下型チェイス2aが設けられている。下型チェイス2aには、下型インサート2b及び下型センターインサート2cが支持されている。下型センターインサート2cには、ポット孔(貫通孔)が形成された筒状のポット2dが組み付けられている(図2では1つのポット2dが描かれているが、紙面に垂直方向に複数本存在する。)。ポット2d内にはプランジャ5aが挿入されており、プランジャ5aはトランスアファ機構5により昇降移動するようになっている。プランジャ5aは、例えばトランスファ機構5に備えたコイルばねによりフローティング支持されている。尚、プランジャ5aは、コイルばねによる支持に替えて油圧均等圧回路により支持されていてもよい。
【0029】
また、下型インサート2bには、ワークWを載置するワーク載置部2eが彫り込まれている。ワークWは、ワーク載置部2eに載置されると吸着保持されるようになっていてもよい。尚、ワークWは、ワーク載置部2e又は下型インサート2b上に載置されたままクランプ爪等により位置決めされるようにしてもよい。下型チェイス2aの外周縁部には、環状のシール材2fが設けられている。シール材2fは後述する上型チェイス3aとの間で挟み込まれてシールすることでモールド金型1内に閉鎖空間が形成される。また下型チェイス2aには、閉鎖空間に接続する吸引路2gが設けられており、図示しない吸引機構に接続されている。上型3と下型2間のシール2fが接触した状態で、図示しない吸引機構を作動することでモールド金型1内に減圧空間が形成されるようになっている。下型2の平面レイアウトの一例を図10に示す。ワークWは、ワーク載置部2eに載置され、下型センターインサート2cの側面を位置決めガイドとして搭載される。尚、図示しない位置決めピンをワーク外周の孔に挿入させて位置決めするようにしても良い。
【0030】
次に上型3の構成について説明する。図2において、図示しない上型ベースには、上型チェイス3aが設けられている。上型チェイス3aには、上型クランパ3bが第三コイルばね3c(第三付勢手段)により吊り下げ支持されている。上型クランパ3bは、下型2のワーク載置部2eに載置されたワークW(基板Kの外周)をクランプする。上型クランパ3bのキャビティ底部に対応する部分には貫通孔3dが設けられている。貫通孔3d内には、型閉じ状態でチップ表面に常時押し当てられるチップ押さえ駒3eと、チップ押さえ駒3eの周囲に上型キャビティ駒3fが相対移動可能に挿入されている。チップ押さえ駒3eはチップTに対向して各々配置されている。これら、上型クランパ3b、チップ押さえ駒3e及び上型キャビティ駒3fとでキャビティ凹部4が形成されている。
【0031】
具体的には、支持板3gには上型キャビティ駒3fが吊り下げ支持されている。支持板3gは上型チェイス3aに対して第二コイルばね3h(第二付勢手段)により吊り下げ支持されている。また、支持板3gの下面には支持ブロック3iが一体に支持されており、支持ブロック3iには吊り下げピン3jの上端部が係止して吊り下げられている。吊り下げピン3jの垂下した下端部にはチップ押さえ駒3eが連結されている。吊り下げピン3jは、支持ブロック3i内に弾発して設けられた第一コイルばね3k(第一付勢手段)によりピン頭部(上端部)が押し下げられた状態で吊り下げ支持されている。よって、支持板3gは、第二コイルばね3hが伸びた状態で上型チェイス3aの底面(第一ストッパー3m)より離間して吊り下げ支持されている。また、チップ押さえ駒3eは、第一コイルばね3kの弾発により支持ブロック3iの下端面(第二ストッパー3n)より離間して吊り下げ支持されている。上型キャビティ駒3fの可動範囲は、チップ押さえ駒3eの可動範囲に比べて狭くなっている。即ち、支持板3gが上型チェイス3aの底部に規制される可動範囲が、チップ押さえ駒3eがストッパー3mに規制される可動範囲より狭くなっている。
【0032】
このように、型閉じにおけるチップ押さえ駒3eのチップTに対する押圧力の強まりを第一コイルばね3kの撓みにより吸収するので、ワークWに対して過度の機械的なストレスが作用することはない。更に後述するフィルムFを介してのクランプのため、更に機械的なストレスが少ない。
また、上型キャビティ駒3fは樹脂圧が作用すると第二コイルばね3hが撓んで樹脂圧を吸収することでチップ押さえ駒3eに対する相対位置が変化するので、キャビティ容積を可変とすることができる。
よって、上型キャビティ駒3fがキャビティ容積を拡大させた状態でモールド樹脂Rをキャビティ凹部4内に受け入れ、上型キャビティ駒3fが第一ストッパー3mにより可動位置が規制されると更なる型閉じ動作によりチップ押さえ駒3eに対して下方に相対移動してキャビティ容積を縮小させて通常のトランスファ成形に比べて高い樹脂圧を作用させて加圧成形することができる。
【0033】
図2において、上型クランパ3bの外壁面と上型チェイス3aの内壁面との間にはシール材3pが設けられている。また上型チェイス3aには、吸引路3tが設けられており、図示しない吸引機構に接続されている。型閉じ状態で、吸引機構を作動することでモールド金型1内に減圧空間が形成されるようになっている。また、上型クランパ3bのクランプ面には、下型センターインサート2cに対する位置に、上型カル3q及び上型ランナゲート3r(樹脂路)が彫り込まれている(図9参照)。図9に示すように、上型ランナゲート3rの先端部は、キャビティ凹部4(上型キャビティ駒3fの外周縁部)に接続されている。
【0034】
キャビティ凹部4及びこれに接続する樹脂路を含む上型クランプ面には、フィルムFが吸着保持されている。フィルムFは長尺状に連なるフィルムであっても、短冊状に切断されたフィルム(枚葉フィルム)であってもいずれでもよい。フィルムFは例えば厚さ50μm程度で耐熱性を有する離型フィルムが用いられる。離型フィルムは、金型面より容易に剥離するものであって、柔軟性、伸展性を有するもの、例えば、PTFE、ETFE、PET、FEPフィルム、フッ素含浸ガラスクロス、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニリジン等を主成分とした単層又は複層膜が好適に用いられる。これにより、チップTの表面を覆って高さのばらつきを吸収すると共にチップ表面ヘのモールド樹脂Rの浸入を防いで露出成形することができる。
【0035】
また、フィルムFは、水分等を通さず湿気や空気を逃がす濾過膜状の多孔質フィルム、例えばポアフロン(商標名)、マイクロポーラスフィルム等であってもよい。また、多孔質フィルムの場合には、モールド樹脂Rの浸入を許さずに空気を逃がすことができるので、減圧環境下でモールド樹脂Rに混入したエアや発生したガスを逃がすことで成形品質を高めることができる。
【0036】
次に、ワークWを用いた樹脂モールド動作について図2乃至図8を参照して説明する。図2は、モールド金型1を型開きした状態を示す。上型3の上型クランプ面にはフィルムFが吸着保持されている。下型2のポット2d内には固形樹脂(樹脂タブレット)が供給され、ワークWがワーク載置部2eに位置決めされて支持されている。ワークW及びモールド樹脂Rは、図示しないローダー等により同時に搬入してもよいし、個別に搬入してもよい。また、支持板3g及びチップ押さえ駒3eは、可動範囲の下端位置に吊り下げ支持された状態にある。
【0037】
図3はモールド金型1の型閉じ動作が進行し、上型3に対して下型2が上動し、上型チェイス3aと下型チェイス2aとでシール材2fをクランプした状態を示す。図示しない吸引機構による吸引動作により、閉鎖空間が形成されたモールド金型1内に吸引路2g,3tよりエア吸引を行って減圧空間が形成される。また、型閉じの進行と共にチップ押さえ駒3eがフィルムFを介してチップTの表面に押し当てられる。
【0038】
図4は、下型2が更に上動し型閉じが進んだ状態を示す。上型クランパ3bがフィルムFを介してワークW(基板K外周)及び下型インサート2bと当接してクランプする。また、チップ押さえ駒3eはチップTに対する押圧力が強まるが、第一コイルばね3kが撓むためチップTに過度のストレスが作用することはない。これにともない、上型キャビティ駒3fの下端部の高さがチップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置まで相対的に下がる。これにより、キャビティ内の樹脂注入高さはチップTの有無に係わらず略同一の高さにすることができる。
【0039】
この状態で、図5に示すように、トランスファ機構5が作動してプランジャ5aが上昇し、ポット2d内で加熱溶融したモールド樹脂Rを上型カル3q及び上型ランナゲート3rを通じてキャビティ凹部4内に圧送りする。モールド金型1は、図示しないヒータにより加熱されている。このとき、モールド樹脂Rは、上型キャビティ駒3fの下端部の高さがチップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置(第一位置)にあるため、チップの有無に係わらずゲート側より順次注入される。図5は未だキャビティ凹部4にモールド樹脂Rが満充填になっていない状態を示す。尚、下型2の上動は一旦停止しているが、継続して上昇しても良い。第一位置の高さはチップTの端子(はんだバンプ)の高さとしたが、樹脂がバンプ以外を流れる力よりもバンプ間を通過する力が大きい場合は、バンプに流れ難くなる為、第一位置の高さは更に狭く設定しバンプに優先的に流れるようにしても良い。
【0040】
次に図6に示すように、トランスファ機構5によりキャビティ凹部4内がモールド樹脂Rで満たされるため、トランスファ動作の樹脂圧が高まり、上型キャビティ駒3f及びこれを支持する支持板3gが樹脂圧により第二コイルばね3hの付勢に抗して上方に押し戻される。そして、支持板3gが第一ストッパー3m(上型チェイス3aの底面)に当接する位置(第二位置)まで押し戻される。
次に図7に示すように下型2の更なる上動により上型クランパ3bが第3コイルバネ3cの付勢に抗して押上げる。下型インサート2bに搭載されたワークWが上昇し、チップ押さえ駒3eを押し上げるが、キャビティ駒3fは固定されたまま上昇できない。結果として上型キャビティ駒3fがチップ押さえ駒3eに対して相対的に下方に移動してモールド樹脂Rを押圧する。このとき、キャビティ容積の縮小により溢れ出したモールド樹脂Rは、樹脂路(上型ランナゲート3r、上型カル3q)を介してプランジャ5aを押し下げてポット2d内に戻される。或いはキャビティ容積の縮小によりモールド樹脂Rを上型クランパ3bに設けられた図示しないオーバーフローキャビティへ溢れ出させてもよい。
【0041】
これにより、チップT間の狭い隙間に対しても樹脂圧を高めて充填性を向上させることができる。このとき、チップ押さえ駒3eによるチップTに対する押圧力が強まるが、第一コイルばね3kが撓むためチップTに過度のストレスが作用することはない。上型キャビティ駒3fの下端面の高さは、チップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置(第一位置)でもよいし、チップTの表面でもよい。この状態で、下型2の上動は停止し、樹脂圧を維持したままモールド樹脂Rを加熱硬化され、保圧させる。
尚、チップ押さえ駒3eは第二ストッパー3nに突き当たることがないので、チップTに作用する押圧力の強まりは、第一コイルばね3kの撓みにより吸収される。また、上型クランパ3bを吊り下げ支持する第三コイルばね3cは、下型2が上動し続ける間は押し縮められて撓み続ける。
【0042】
次に図8に示すように、モールド動作が完了すると、モールド金型1を型開きして、上型3のクランプ面に吸着保持されたフィルムFを剥がして交換する。また、ワークW及び不要樹脂は、下型2のクランプ面に残存しているため、図示しないアンローダー等により搬出される。
【0043】
以上説明したように、上型3と下型2とでワークWをクランプすると、チップ押さえ駒3eがチップ表面に常時押し当てられるので、トランスファ機構5を作動させて溶融したモールド樹脂Rをキャビティ内に充填してもチップTの表面を確実に露出させて成形することができる。
また、モールド金型1を型閉じ動作を行いチップ表面に押し当てられたチップ押さえ駒3eに対し、上型キャビティ駒3fをキャビティ容積を縮小させた第一位置でトランスファ機構5の作動によりモールド樹脂Rがキャビティに注入され、上型キャビティ駒3fの高さがチップTのアンダーフィル高さと略同じになっているため、モールド樹脂Rがゲートからその周囲の隙間に向かって順次充填され、キャビティ凹部4内に満充填することができる。
また、上型キャビティ駒3fの相対移動が規制され更なる型閉じ動作により当該上型キャビティ駒3fを、再度キャビティ容積を縮小させた第一位置へ相対移動させることでモールド樹脂Rを加圧成形するので、トランスファ成形以上に樹脂圧を高めて加圧成形でき、ボイドを可及的に減らしてチップT間の隙間やチップTと基板Kの隙間等樹脂が充填し難い領域まで充填することができる。特に、チップ押さえ駒3e以外のキャビティ容積を縮小することで最終的にアンダーフィルモールドと同じ高さにすることができるため、モールド樹脂Rの充填性を向上しつつ使用樹脂量を減らすこともできる。
【0044】
[第二実施例]
次に、ワークWとして、例えばφ300mmの円形状キャリア基板(半導体ウェハ)を用いてモールドアンダーフィルを行うモールド金型について例示する。上型3の平面図(図11A)に対応するように、チップTの一例として、例えば20×30mmサイズのGPUとその周りにHBMが近接して配置された半導体チップが円形キャリア基板Kに多数搭載されたFPGA用基板である。チップTは、基板K上に形成された端子接続部にはんだバンプを介してフリップチップ接続されている(図12参照)。
実施例1ではマトリクスに配置したチップTで、各チップT間にキャビティ駒を配置することができたが、実施例2では各チップ間が狭く隣合わせに配置しているためチップT間にはキャビティ駒は配置できない。
【0045】
次にモールド金型1の構成例について図11及び図12を参照して説明する。第一実施例に係るモールド金型1と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとする。尚、図12乃至図17図は模式図であり、上型3のチップ押さえ駒3eの周囲(特に上型ランナゲートと反対側)に存在する上型キャビティ駒3fが説明上必要とされない限り正確に図示されていない。
図12において、上型3(第二の金型)には、チップ搭載部分に対向してキャビティ凹部4が形成されている。また、下型2(第一の金型)にはチップTが搭載されたワークWが支持され、キャビティ凹部4にモールド樹脂Rを圧送りするトランスファ機構5が設けられている。
【0046】
先ず下型2の構成について説明する。図12において、図示しない下型ベース上には、下型チェイス2aが設けられている。下型チェイス2aには、第一下型インサート2b1,第二下型インサート2b2及び下型センターインサート2cが支持されている。下型センターインサート2cには、ポット孔(貫通孔)が形成された筒状のポット2dが組み付けられている(図12では1つのポット2dが描かれているが、紙面に垂直方向に複数本存在してもよい。)。ポット2d内にはプランジャ5aが挿入されており、プランジャ5aはトランスアファ機構5により昇降移動するようになっている。プランジャ5aは、例えばトランスファ機構5に備えたコイルばねによりフローティング支持されている。尚プランジャ5aは、コイルばねによる支持に替えて油圧均等圧回路により支持されていてもよい。
【0047】
また、第一下型インサート2b1にはワークWが載置される。第二下型インサート2b2及び下型センターインサート2cの上端面は第一下型インサート2b1より高く形成されており、第一下型インサート2b1の上面にワークWが搭載される。ワークWは、第一下型インサート2b1に載置されると吸着保持されるようになっていてもよい。また、ポット2dの上端部には、フランジ状のワーク押さえ部2d1が形成されており、円形状のワークWを押さえて第一下型インサート2b1の上面で位置決めするようになっている。ワーク押さえ部2d1は、樹脂路(下型ランナゲート)を兼用してもよい。尚、ワークWは、下型インサート2b上に載置されたままクランプ爪等により位置決めされるようにしてもよい。下型チェイス2aには、シール材2fが設けられている。シール材2fは後述する上型チェイスとの間で挟み込まれて金型内に閉鎖空間が形成される。また下型チェイス2aには、吸引路2gが設けられており、図示しない吸引機構に接続されている。型閉じ状態で、吸引機構を作動することで金型内に減圧空間が形成されるようになっている。
【0048】
次に上型3の構成について説明する。図12において、図示しない上型ベースには、上型チェイス3aが設けられている。上型チェイス3aには、上型クランパ3bが第三コイルばね3c(第三付勢手段)により吊り下げ支持されている。上型クランパ3bは、下型2の第一下型インサート2b1に載置されたワークW(基板Kの外周)及び第二下型インサート2b2の上面をクランプする。上型クランパ3bのキャビティ凹部4を形成する固定キャビティ駒3sの下面部は、モールド樹脂Rを加圧する加圧キャビティ部3b2であり、加圧キャビティ部3b2の外側はクランパ内キャビティ凹部3b1である。クランパ内キャビティ凹部3b1には図示しないオーバーフローキャビティを形成しても良い。
【0049】
図11Aに示すように上型クランパ3bのキャビティ底部に対応する部分には貫通孔3dが設けられている。貫通孔3d内には、型閉じ状態でチップ表面に常時押し当てられるチップ押さえ駒3eと、チップ押さえ駒3eの周囲に上型キャビティ駒3fが相対移動可能に挿入されている。チップ押さえ駒3eはチップTに対向して各々配置されている。これら、上型クランパ3b、チップ押さえ駒3e及び上型キャビティ駒3fとでキャビティ凹部4が形成されている。尚、図11Aではチップ押さえ駒3eを囲むエリアがすべて上型キャビティ駒3fとなっているが、図11Bに示すように、チップ押さえ駒3eに対して相対移動可能な上型キャビティ駒3fはランナゲート側の少なくとも樹脂流動に必要な一部に設けられ、他は固定キャビティ駒3sの加圧キャビティ部3b2となっていてもよい。これら、上型クランパ3b、チップ押さえ駒3e及び上型キャビティ駒3fと加圧キャビティ部3b2とでキャビティ凹部4が形成されている。
【0050】
図12において、上型チェイス3aの底面には、固定キャビティ駒3sが支持固定されている。固定キャビティ駒3sには第一吊り下げピン3j1が貫通孔に挿入されており、ピン下端部にはチップ押さえ駒3eが固定キャビティ駒3sの下面側に吊り下げ支持されている。また、第一吊り下げピン3j1の上端部と上型チェイス3aの底面との間には第一コイルばね3k(第一付勢手段)が弾発して設けられている。
同様に固定キャビティ駒3sには第二吊り下げピン3j2が貫通孔に挿入されており、ピン下端部には上型キャビティ駒3fが固定キャビティ駒3sの下面側に吊り下げ支持されている。図12では、上型キャビティ駒3fはキャビティ凹部4内にモールド樹脂Rが最初に流れるゲート側の一部のみを図示しており、チップ押さえ駒3eまでの上型キャビティ駒3fの一部だけを図示している。また、第二吊り下げピン3j2の上端部と上型チェイス3aの底面との間には第二コイルばね3h(第二付勢手段)が弾発して設けられている。
【0051】
よって、上型キャビティ駒3fは、固定キャビティ駒3sの底面(第一ストッパー3m)より離間して吊り下げ支持されている。また、チップ押さえ駒3eは、固定キャビティ駒3sの下端面(第二ストッパー3n)より離間して吊り下げ支持されている。上型キャビティ駒3fの可動範囲は、チップ押さえ駒3eの可動範囲に比べて広くなっている。即ち、上型キャビティ駒3fが第一ストッパー3mに規制される可動範囲が、チップ押さえ駒3eが第二ストッパー3nに規制される可動範囲より広くなっている。
【0052】
このように、型閉じにおけるチップ押さえ駒3eの押圧力の強まりを第一コイルばね3kの撓みにより吸収するので、ワークWに対して過度の機械的なストレスが作用することはない。さらにフィルムFを介してチップTをクランプするため、機械的なストレスが少ない。
また、上型キャビティ駒3fは樹脂圧が作用すると第二コイルばね3hが撓んで樹脂圧を吸収することでチップ押さえ駒3eに対する相対位置が変化するので、キャビティ容積を可変とすることができる。
よって、上型キャビティ駒3fがキャビティ容積を拡大させた状態でモールド樹脂Rをキャビティ凹部4内に受け入れ、上型キャビティ駒3fが第一ストッパー3mにより可動位置が規制されると更なる型閉じ動作によりチップ押さえ駒3eに対して下方に相対移動してキャビティ容積を縮小させて通常のトランスファ成形に比べて高い樹脂圧を作用させて加圧成形することができる。
【0053】
図12において、上型クランパ3bの外壁面と上型チェイス3aの内壁面との間にはシール材3pが設けられている。また上型チェイス3aには、吸引路3tが設けられており、図示しない吸引機構に接続されている。型閉じ状態で、吸引機構を作動することでモールド金型1内に減圧空間が形成されるようになっている。また、上型クランパ3bのクランプ面には、下型センターインサート2cに対する位置に、上型カル3q及び上型ランナゲート3r(樹脂路)が彫り込まれている。上型ランナゲート3rの先端部は、上型キャビティ駒3fの外周部に接続されている。キャビティ凹部4及びこれに接続する樹脂路を含む上型クランプ面には、フィルムFが吸着保持されている。フィルムFは長尺状に連なるフィルムであっても、短冊状に切断されたフィルムであってもいずれでもよいのは第一実施例と同様である。
【0054】
次に、ワークWを用いた樹脂モールド動作について図12乃至図17に基づいて説明する。
図12は、モールド金型1を型開きした状態を示す。上型3の上型クランプ面にはフィルムFが吸着保持されている。ワークWは第一下型インサート2b1の上面に位置決めされて支持される。図13に示すように、ワークWは下型センターインサート2cと第二下型インサート2b2に外周縁部を囲まれた状態で第一下型インサート2b1の上面に載置され、ポット2dのワーク押さえ部2d1をワークW(基板K)の上面に重ね合わせることにより位置決めされる。また、ポット2d内には固形樹脂(モールド樹脂R:樹脂タブレット)が供給される。ワークW及びモールド樹脂Rは、図示しないローダー等により同時に搬入してもよいし、個別に搬入してもよい。また、上型キャビティ駒3f及びチップ押さえ駒3eは、可動範囲の下端位置に吊り下げ支持された状態にある。このとき、上型チェイス3aの吸引路3t及び下型チェイス2aの吸引路2gより吸引動作を開始してもよい。
【0055】
図14はモールド金型1の型閉じ動作が進行し、上型3に対して下型2が上動し、上型チェイス3aと下型チェイス2aとでシール材2fをクランプした状態を示す。図示しない吸引機構により吸引動作により閉鎖空間が形成されたモールド金型1内に吸引路2g,3tより各々エア吸引を行って減圧空間が形成される。また、型閉じ動作の進行と共にチップ押さえ駒3eがフィルムFを介してチップTの表面に押し当てられる。
【0056】
また、下型2が更に上動し型閉じが進むと、上型クランパ3bがフィルムFを介してワークW(基板K外周)及び下型クランプ面(第一下型インサート2b1及び第二下型インサート2b2)と当接してクランプする。また、チップ押さえ駒3eはチップTに対する押圧力が強まるが、第一コイルばね3kが撓むためチップTに過度のストレスが作用することはない。これにともない、図14に示すように、上型キャビティ駒3fの下端部の高さがチップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置まで相対的に下がる。
【0057】
この状態で、トランスファ機構5が作動してプランジャ5aが上昇し、ポット2d内で溶融したモールド樹脂Rを上型カル3q及び上型ランナゲート3r及びワーク押さえ部2d1との間の樹脂路を通じてキャビティ凹部4内に圧送りする。このとき、モールド樹脂Rは、上型キャビティ駒3fの下端部の高さがチップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置(第一位置)にあるため、チップの有無に係わらずゲート側より順次注入される。図14は未だキャビティ凹部4に未充填の状態を示す。尚、下型2の上動は一旦停止しているが、継続して上昇しても良い。
【0058】
次に図15に示すように、トランスファ機構5によるトランスファ動作が完了し、キャビティ凹部4内がモールド樹脂Rで満たされるため、トランスファ動作により樹脂圧が高まり、上型キャビティ駒3fが樹脂圧により第二コイルばね3hの付勢に抗して上方に押し戻される。そして、上型キャビティ駒3fが第一ストッパー3m(固定キャビティ駒3sの底面)に当接する位置(第二位置)まで押し戻され、本図ではチップTの上面より上に位置しても良い実施例を示している。図16に示すように下型2の更なる上動により上型キャビティ駒3f及び固定キャビティ駒3sの加圧キャビティ部3b2がチップ押さえ駒3eに対して相対的に下方に移動してモールド樹脂Rを押圧する。このとき、キャビティ容積の縮小により溢れ出したモールド樹脂Rは、樹脂路(上型ランナゲート3r及びワーク押さえ部2d1、上型カル3q)を介してプランジャ5aを押し下げてポット2d内に戻される。或いはキャビティ容積の縮小によりモールド樹脂Rは上型クランパ3bに設けられたオーバーフローキャビティへ溢れ出すようにしてもよい。実施例1では最終的にバンプの高さに樹脂厚が成形されたが、実施例2ではチップTの表面まで樹脂厚が成形される例である。図17は他の実施例で、実施例1と同様に、キャビティ凹部4内のチップ押さえ駒3e以外はすべて上型キャビティ駒3fの実施例である。
【0059】
これにより、チップT間の狭い隙間に対しても樹脂圧を高めて充填性を向上させることができる。このとき、チップ押さえ駒3eによるチップTに対する押圧力が強まるが、第一コイルばね3kが撓むためチップTに過度のストレスが作用することはない。上型キャビティ駒3fの下端面の高さは、チップTの端子(はんだバンプ)の高さ位置(第一位置)でもよいし、チップ表面でもよい。この状態で、下型2の上動は停止し、樹脂圧を維持したままモールド樹脂Rを加熱硬化及び保圧させる。
尚、チップ押さえ駒3eは第二ストッパー3nに突き当たることがないので、チップTに作用する押圧力の強まりは、第一コイルばね3kの撓みにより吸収される。また、上型クランパ3bを吊り下げ支持する第三コイルばね3cは、下型2とクランプしたときから下型2が上動し続ける間は押し縮められて撓み続ける。
【0060】
モールド動作が完了すると、モールド金型1を型開きして、上型3のクランプ面に吸着保持されたフィルムFを剥がして交換する。また、ワークW及び不要樹脂は、下型2のクランプ面に残存しているため、図示しないアンローダー等により搬出される。
【0061】
以上説明したように、上型3と下型2とでワークWをクランプすると、チップ押さえ駒3eがチップ表面に常時押し当てられるので、トランスファ機構5を作動させて溶融したモールド樹脂Rをキャビティ内に充填してもチップTの表面を確実に露出させて成形することができる。
また、モールド金型1の型閉じ動作を行いチップ表面に押し当てられたチップ押さえ駒3eに対し、上型キャビティ駒3fをキャビティ容積を縮小させた第一位置からトランスファ機構5の作動に伴ってキャビティ容積を拡大させた第二位置へ相対移動させてランナゲートからその周囲の隙間へ向かってモールド樹脂Rの充填を促しながらキャビティ凹部4内に充填することができる。
また、上型キャビティ駒3fの相対移動が規制され更なる型閉じ動作により当該上型キャビティ駒3fを再度キャビティ容積を縮小させた第一位置へ相対移動させることでモールド樹脂Rを加圧成形するので、トランスファ成形以上に樹脂圧を高めて加圧成形でき、ボイドを可及的に減らしてチップT間の隙間やチップTと基板Kの隙間等樹脂が充填し難い領域まで充填することができる。特に、チップ押さえ駒3e以外のキャビティ容積を縮小することで最終的にアンダーフィルモールドと同じ高さにすることができるため、モールド樹脂Rの充填性を向上しつつ使用樹脂量を減らすこともできる。
【0062】
上述した実施例では、トランスファ機構5は、下型2に設けられていたが、上型3に設けられていてもよい。またキャビティ凹部4は上型3に設けられていたが下型2に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
W ワーク T チップ K 基板 R モールド樹脂 F フィルム1 モールド金型 2 下型 2a 下型チェイス 2b 下型インサート 2b1 第一下型インサート 2b2 第二下型インサート 2c 下型センターインサート 2d ポット 2d1 ワーク押さえ部 2e ワーク載置部 2f,3p シール材 2g,3t 吸引路 3 上型 3a 上型チェイス 3b 上型クランパ 3b1 クランパ内キャビティ凹部 3b2 加圧キャビティ部 3c 第三コイルばね 3d 貫通孔 3e チップ押さえ駒 3f 上型キャビティ駒 3f1 固定キャビティ駒 3f2 可動キャビティ駒 3g 支持板 3h 第二コイルばね 3i 支持ブロック 3j 吊り下げピン 3j1 第一吊り下げピン 3j2 第二吊り下げピン 3k 第一コイルばね 3m 第一ストッパー 3n 第二ストッパー 3q 上型カル 3r 上型ランナゲート 3s 固定キャビティ駒 4 キャビティ凹部 5 トランスファ機構 5a プランジャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17