(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼及びその形成物品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220224BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2018502633
(86)(22)【出願日】2016-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2016067323
(87)【国際公開番号】W WO2017013180
(87)【国際公開日】2017-01-26
【審査請求日】2019-05-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-12
(32)【優先日】2015-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グッルバリ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルソン, クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】シェ-ルデル, アレクサンデル アレイダ アントーニウス
(72)【発明者】
【氏名】オフェイ, カーク アンガー
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-230495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%(wt%)で
C 最大0.030;
Si 最大0.8;
Mn 最大2.0;
Cr 29.0から31.0;
Ni 5.0から9.0;
Mo 4.0未満;
W 4.0未満;
N 0.28から0.4;
Cu 最大2.0;
S 最大0.02;
P 最大0.03;
を含み、残部がFe及び不可避不純物であり、
Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼。
【請求項2】
重量%(wt%)で
C 最大0.020;
Si 最大0.8;
Mn 最大2.0;
Cr 29.0から31.0;
Ni 5.0から9.0;
Mo 4.0未満;
W 4.0未満;
N 0.28から0.4;
Cu 最大2.0;
S 最大0.01;
P 最大0.02;
を含む、請求項1に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項3】
Mnが0.5から1.5wt%である、請求項1又は2に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項4】
Siが0.010から0.50wt%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項5】
Niが5.5から8.5wt%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む形成物品。
【請求項7】
前記物品が管である、請求項
6に記載の形成物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、尿素製造のためのプラントにおける使用に適した耐食性二相ステンレス鋼(フェライト系オーステナイト合金)に関する。本開示はまた、前記二相ステンレス鋼から作製されている物品及び二相ステンレス鋼の使用にも関する。更に、本開示は、尿素の製造のための方法、前記二相ステンレス鋼から作製されている一又は複数の部品を備えた尿素の製造のためのプラント、及び尿素の製造のための既存のプラントを改良する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は、フェライト系オーステナイト合金を指す。このような合金は、フェライト相とオーステナイト相を含む微細構造を有する。これに関する引用文献には、国際公開第95/00674号及び米国特許第7347903号が含まれる。本明細書に記載される二相ステンレス鋼は、耐食性が高く、したがって、例えば尿素製造プラントの高腐食環境において使用することができる。
【0003】
尿素及びその製造
尿素(NH
2CONH
2)は、尿素プラントの尿素合成区間において、高温(典型的には150℃~250℃)及び高圧(典型的には12~40MPa)で、アンモニアと二酸化炭素から製造することができる。この合成においては、二つの連続する反応工程が起こると考えることができる。第一の工程では、カルバミン酸アンモニウムが形成され、次の工程では、このカルバミン酸アンモニウムは尿素を提供するように脱水される。第一の工程(i)は発熱を伴い、第二の工程は、吸熱平衡反応(ii)として表すことができる。
【0004】
典型的な尿素製造プラントでは、上記反応は尿素合成区間で実施され、尿素を含む水溶液が得られる。一又は複数の後続の濃縮区間において、この溶液は濃縮されて最終的に溶液ではなく融解状態の尿素が得られる。この融成物には更に、顆粒化、造粒、ペレット化又は圧縮成形といった一又は複数の仕上げ工程が実施される。
【0005】
剥離方法による尿素の調製に頻繁に使用される方法は、二酸化炭素除去方法であり、これは例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A27, 1996, pp 333-350に記載されている。この方法では、合成区間に続いて一又は複数の回収区間がある。合成区間は、反応器、剥離器、凝縮器、及び必ずしも必要ではないが好ましくは、動作圧が12~18MPaの範囲、例えば13~16MPaであるスクラバーを含む。
【0006】
合成区間では、尿素反応器を出た尿素溶液が剥離器に供給され、変換されていない大量のアンモニア及び二酸化炭素が尿素水溶液から分離される。
【0007】
このような剥離器は、シェルアンドチューブ式熱交換器とすることができ、この場合、尿素溶液がチューブ側の上部に供給され、尿素の合成に使用される二酸化炭素が剥離器の下部に加えられる。シェル側において、溶液を加熱するために流れが加えられる。尿素溶液は熱交換器の下部から出され、一方蒸気相は剥離器の上部から出される。前記剥離器を出る蒸気は、アンモニア、二酸化炭素、不活性ガス、及び少量の水を含有する。
【0008】
前記蒸気は、典型的には、横型又は縦型とすることができる水中式凝縮器又は流下膜式熱交換器で凝縮される。横型の水中式熱交換器は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A27, 1996, pp 333-350に記載されている。形成された溶液は、凝縮されたアンモニア、二酸化炭素、水及び尿素を含み、凝縮されていないアンモニア、二酸化炭素及び不活性蒸気と共に再循環される。
【0009】
処理条件は、高温且つ濃縮されたカルバメート溶液により高腐食性である。腐食を防止するために、典型的に受動的空気の形態の酸素が、受動的剤として尿素プロセスに添加されている。すなわち、酸素の一部は、鋼中のクロムと一緒に、設備のステンレス鋼の表面上に保護クロム酸化物層を形成する。
【0010】
過去には、尿素は、設備を製造し、ステンレス鋼から作製されていても、受動的空気が添加されていても、非常に迅速に腐食し、早期の交換される傾向があることや、酸素の存在により、本質的に危険な状況を提示するという意味で、腐食は、問題を提示した。これは、特に、設備、即ち、前述の腐食性条件の影響を受けるその関連部品を、二相ステンレス鋼、より具体的には、国際公開第95/00674号に記載されるいわゆるスーパー二相ステンレス鋼(Safurex(登録商標)の商品名で販売されている)から作製することにより解決された。酸素と二相鋼の組み合わせが、受動的に必要な酸素の量の大幅に減少及び受動的腐食のレベルの低減を可能にしたため、このスーパー二相ステンレス鋼のクロム含有量は増加した。したがって、カルバメート環境、例えば、尿素の製造のためのプラントで使用されるスーパー二相ステンレス鋼は、非常に良好に作動するが、高温、すなわち温度が200℃より高い、例えば205℃である場合、受動的腐食のレベルは所望よりも高くなりうる。したがって、例えばHP(高圧)ストリッパのようなより高い温度で操作される尿素の製造のためのプラントの特定の設備の寿命を増加させる、より高い耐腐食性を有する二相ステンレス鋼の必要性が依然と存在する。
【0011】
更に、二相ステンレス鋼の使用の別の問題は、元の微細構造、即ち二相ステンレス鋼が鋼製造業者によって製造されたときに有していた微細構造が、二相ステンレス鋼を例えば溶接により更に加工するときに変化しうることである。二相ステンレス鋼の微細構造安定性は組成に依拠し、複雑な部品を製造するときには、適切な耐食性及び十分な機械的特性を確保するために、加工中に微細構造が安定である材料を有することが重要である。したがって、安定した微細構造を有する二相ステンレス鋼の必要性も存在する。
【0012】
従って、尿素の製造のためのプラントにおいて使用される二相ステンレス鋼材料、特に、剥離管(剥離器の管)のような、高温及び腐食性流体に曝される部品の更なる改良の必要性が依然として存在する。
【0013】
したがって、特に、例えば剥離管中のような高温でカルバメートを含む流体に曝されたときに、改善された受動的腐食速度を有する耐腐食性材料を提供すること、それにより、剥離管の寿命を延ばし、同時に、剥離器の材料の十分な構造安定性、より具体的には、熱交換器管をチューブシートに接続する溶接部の熱影響部における構造安定性を有することが望まれる。
【発明の概要】
【0014】
一又は複数の前述の希望に取り組むために、本開示は、一態様において、
重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼を提供する。
【0015】
本開示において、用語「カルバメート」及び「カルバミン酸アンモニウム」は、区別せずに使用される。カルバメートとしては、カルバミン酸アンモニウムが好まれる。
【0016】
加えて、本開示は、カルバメート環境における二相ステンレス鋼の使用であって、二相ステンレス鋼が重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、使用に関する。
【0017】
更に、本開示は、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼の形成物品及び尿素の製造のためのプラントにおける上記又は下記で定義されるようなステンレス鋼の使用に関する。
【0018】
本開示はまた、尿素を製造するための方法であって、設備の少なくとも一の部品が上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼から作製されている方法と、上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼を含む一又は複数の部品を含む尿素の製造のためのプラントにも関する。
【0019】
更に、本開示はまた、尿素の製造のための既存のプラントを改良する方法及び上記又は下記に記載されるような二相ステンレス鋼を使用することによって尿素プラントの受動的腐食速度を減少させるための方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼に関する。
【0021】
したがって、例えば、本開示は、重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼に関する。
【0022】
広義には、本開示は、高圧及び高温でカルバメートに曝露される領域について、上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼でより良好な耐食性が得られるという賢明な洞察に基づいている。したがって、前記二相ステンレス鋼は、高温(約180℃超)で、熱交換チューブの一部及び/又は例えば剥離器中の管のような濃カルバミン酸アンモニウムに曝される部品を製造するのに特に有用である。国際公開第95/00674号に記載されているようなスーパー二相ステンレス鋼は、180℃を超える温度までカルバメート溶液(無酸素でも)において優れた耐食性を有するにもかかわらず、二相ステンレス鋼の受動的腐食速度は、特に約180℃以上の温度(剥離器管でみられる)で改善の余地を残す。上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼は、これらの極限温度で著しく低い受動的腐食速度を示す。二相ステンレス鋼の利点の一つは、剥離器、特に熱交換管の耐用年数を改善することである。
【0023】
本開示はまた、カルバメート環境、例えばカルバミン酸アンモニウム環境における、上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼の使用であって、二相ステンレス鋼が重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、使用にも関する。
【0024】
したがって、例えば、本開示は、カルバメート環境、例えばカルバミン酸アンモニウム環境における、上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼の使用であって、二相ステンレス鋼が重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、使用にも関する。
【0025】
本発明者は、上記又は下記で定義したような二相ステンレス鋼から剥離器管を製造することにより、プロセスへの酸素の添加をほぼゼロにし、依然として、尿素プラントの全ての部品及び剥離器管において低い受動的腐食速度を有することができるという驚くべき発見に至った。更に、本発明者は、二相ステンレス鋼を開発するために使用された、ステンレス鋼の腐食を評価するために従来使用されている試験(127℃で実施される硫酸第二鉄-硫酸試験溶液を用いたシュトライヒャー試験など)は、尿素プラント内の特定の設備(剥離器管)における実際に観察される腐食と相関しないことも発見した。したがって、二相ステンレス鋼の受動的腐食速度の更なる改善は、剥離器管のような特定の設備にみられる実際のプロセス条件を模擬する高圧オートクレーブにおける腐食試験によってのみ可能であった。
【0026】
二相ステンレス鋼の基本組成は、一般的に、上記又は下記で定義したとおりであり、各合金元素の機能は以下で更に説明される。
【0027】
炭素(C)は、本開示では不純物元素と考慮され、フェライト及びオーステナイト相の両方において限定された溶解性を有する。この限定された溶解性とは、カーバイドの沈殿が高過ぎる割合で存在し、結果として耐食性が低下する危険を意味する。したがって、C含有量は、最大で0.030重量%、例えば最大で0.020重量%、例えば最大で0.017重量%、例えば最大で0.015重量%、例えば最大で0.010重量%に制限されなければならない。
【0028】
シリコン(Si)は、製鋼において脱酸素添加剤として使用される。しかしながら、高すぎるSi含有量は、中間相の沈殿を生じる傾向を増大させ、Nの溶解性を低下させる。このために、Si含有量は最大0.8重量%、例えば最大0.5重量%、例えば0.05から0.50重量%の範囲、例えば0.1から0.5重量%に制限されなければならない。
【0029】
マンガン(Mn)はNの溶解性を上昇させるため、且つオーステナイトを安定させると考えられていることから合金元素としてNiを置換するために添加される。しかしながら、Mnは構造安定性に悪影響を及ぼすことがあり、したがって、含有量は、最大で2.0重量%、例えば最大で1.5%、例えば0.5から1.5重量%の範囲である。
【0030】
クロム(Cr)は、大部分の種類の腐食に対する耐性を得るのに最も能動的な元素である。尿素合成において、Cr含有量は耐食性にとって非常に重要であり、したがって可能な限り高くあるべきである。しかしながら、高クロム含有量と良好な構造安定性との間にはバランスがある。したがって、本開示において、十分な耐食性を獲得し、構造安定性を保証するために、Cr含有量は29.0から31.0重量%の範囲であるべきである。したがって、Cr含有量は、29.0から約31.0wt%、例えば29.00から30.00wt%である。
【0031】
ニッケル(Ni)は、主にオーステナイト安定化要素として使用される。Niの利点は、それが構造の安定性に悪影響を及ぼさないことである。Ni含有量が5重量%未満である場合、熱処理中に窒化クロムが形成されうるため、構造安定性を確保するためには少なくとも5.0重量%のNi含有量が必要である。しかしながら、Niはアンモニウムと強固な錯体を形成しうるため、Ni含有量をできるだけ少なく保つ必要がある。したがって、Ni含有量は、5.0から9.0重量%の範囲、例えば5.5から8.5重量%、例えば5.5から7.5重量%でなければならない。
【0032】
モリブデン(Mo)は、二相ステンレス鋼の不動態を向上させるために使用される。しかしながら、Moの高すぎる含有量は、金属間層の沈殿のリスクを含む。したがって、Moは4.0重量%未満である。タングステン(W)は、孔食及び間隙腐食に対する耐性を向上させる。しかしながら、高すぎるWの含有量は、特にCr及びMbの高い含有量と組み合わさると、中間相の沈殿を生じるリスクを高める。したがって、Wは4.0重量%未満である。可能な限り良好な腐食特性を得るためには、Mo+Wの含有量は、シグマ相に対する感度を不当に高くすることなく、可能な限り高くあるべきである。Mo+Wの含有量が4.0重量%を超える場合、シグマ相の駆動力が高くなりすぎて、シグマ相なしの部品を製造することが困難となる。しかしながら、本開示によれば、W+Moが3.0重量%よりも高い場合、二相ステンレス鋼は剥離器管内の腐食がさらに少なくなることが示された。したがって、Mo+W含有量は、3.0wt%より多く4.0wt%未満である。更に、W+Moの含有量が3.0wt%より多く4.0wt%未満である場合、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼は、例えば最大0.5重量%、例えば最大0.05重量%のように、僅かな量のシグマ相を含有し、例えば、実質的にシグマ相を含まない。シグマ相は、二相ステンレス鋼に脆化を引き起こし、それによって耐食性を低下させるので、避けるべきである。
【0033】
窒素(N)は、強力なオーステナイト形成物であり、オーステナイトの再構築を強化する。加えて、Nは、オーステナイト相及びフェライト相におけるCr及びMo及びNiの分布に影響する。したがって、Nの含有量が高まると、オーステナイト相のCr及びMoの相対的なシェアが増大する。これは、腐食に対するオーステナイトの耐性が上昇すること、及び構造安定性が維持されつつ二相ステンレス鋼中のCrとMoの含有量が高まることを意味する。それ故、Nの含有量は少なくとも0.25重量%であるべきである。しかしながら、窒素の溶解度は制限されており、高すぎるレベルの窒素は、窒化クロムを形成するリスクを増大させ、これは次に耐食性に影響を及ぼす。したがって、Nは0.45重量%超であるべきではない。したがって、N含有量は、0.25から0.45wt%、例えば0.28から0.40wt%である。
【0034】
銅(Cu)は本開示において任意選択的要素であり、もし含まれる場合、硫酸のような酸環境における一般的な耐食性を改善する。しかしながら、Cuの高い含有量は、孔食及び隙間腐食に対する耐性を低下させる。したがって、Cuの含有量は、最大2.0重量%、例えば最大1.0重量%、例えば最大0.8重量%に制限されなければならない。
【0035】
硫黄(S)は、易溶な硫化物の形成により耐食性に悪影響を与える。したがって、Sの含有量は、最大0.02重量%、例えば最大0.01重量%に制限されなければならない。
【0036】
リン(P)は一般的な不純物元素である。リンは、およそ0.03重量%超の量で存在する場合、例えば、熱間延性、溶接性及び耐食性に悪影響を及ぼしうる。合金中のPの量は、最大0.03重量%、例えば最大0.02重量%に制限されなければならない。
【0037】
用語「最大」が使用されるとき、当業者であれば、別の数字が特に言及されていない限り、範囲の下限が0重量%であることを理解するであろう。したがって、C、Si、Mn、Cu、S及びPに関して、それらは任意選択的要素であるため、下限は0重量%である。
【0038】
加えて、加工性、例えば熱間加工性、被削性を改善するために、製造プロセス中に上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼にその他要素が任意選択的に添加されてもよい。そのような要素の例は、限定するものではないが、Ti、Nb、Hf、Ca、Al、Ba、V、Ce及びBである。添加される場合、これらの要素は合計で最大0.5重量%の量で添加される。任意選択的に、例えば、一定量の定義された要素C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、W、N、Cu、S及びPと残量のFe+不可避不純物を含む上記又は下記で定義されるような合金が、前記量の前記定義された要素と、例えば加工性のために添加されるような、最大0.5重量%の添加される任意選択的要素、例えば、Ti、Nb、Hf、Ca、Al、Ba、V、Ce及びBと残量のFe+不可避不純物とから成ることが可能である。
【0039】
上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼における残量のものはFe及び不可避不純物である。不可避不純物の例は、意図して添加されていない要素及び化合物であるが、例えば二相ステンレス鋼の製造のために使用される材料において不純物として通常生じるため、完全には避けることができない。
【0040】
本開示による二相ステンレス鋼のフェライト含有量は、耐食性のために重要である。したがって、フェライト含有量は、好ましくは、30~70体積%の範囲、例えば30~60体積%の範囲、例えば30~55体積%の範囲、例えば40~60体積%の範囲である。
【0041】
上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼は、従来の方法、即ち鋳込み、続いて熱間加工及び/又は冷間加工並びに任意選択的に追加の熱処理により製造されうる。上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼はまた、例えば熱間等静圧圧縮成形法(HIP)により粉末生成物として生成することもできる。
【0042】
上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼は、良好な耐食性が設備に必要とされるその他の用途にも使用されうる。二相ステンレス鋼の可能な用途のいくつかの例には、硝酸環境、メラミン製造、紙及びパルプ産業における使用、例えば白液環境での使用が意図されるプロセス化学成分における建築材料として、及び溶接ワイヤ材料としての使用が含まれる。鋼は、例えばシームレスチューブ、溶接チューブ、フランジ、カップリング及びシートメタルの製造に使用することができる。
【0043】
本開示は、二相ステンレス鋼を含む形成物品にも関し、一実施形態によれば、前記物品は、例えば、尿素製造プラント用の剥離器管又は尿素製造プラント内の剥離器の液体分配器のような管である。本開示はまた、尿素合成プロセスにおける、上記及び下記に記載される実施形態のいずれか一つにおいて、上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼の使用に関する。上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼のこの使用は、高圧尿素合成セクションの一又は複数の部分のような、例えばカルバメート溶液と接触と接触する部分の前記プロセスで使用される設備の一又は複数の部分の腐食を低減するためである。
【0044】
本開示の更に別の態様は、カルバメート溶液と接触する部分のような、設備部分の少なくとも一が、上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼から製造される尿素を製造するための方法を提供することである。カルバメート溶液は、0.1ppm(重量で)未満、例えば0.04ppm未満の酸素含有量を有することができる。
【0045】
本開示の別の態様は、尿素の製造のためのプラントであって、一又は複数の上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼を含む部品を含むプラントを提供することである。一実施態様によれば、一又は複数の剥離器管は、上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼を含むか、又はそれから作製されている。更なる実施態様によれば、プラントは剥離器を含む高圧尿素合成セクションを含み、剥離器は、上記又は下記で定義されるような二相ステンレス鋼を含む少なくとも一の液体分配器を含む。前記二相ステンレス鋼は、液体分配器、レーダーコーン、(制御)バルブ及びエジェクタから成る群より選択される一又は複数の成分を含む尿素の製造のための既存のプラントを改良する方法であって、一又は複数の剥離器管が上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼を含む剥離器管に置き換えられることを特徴とする方法に使用することができる。該方法は、少なくとも一の剥離器管を上記又は下記に定義されるような二相ステンレス鋼を含む剥離器管で置き換えることにより、尿素プラントの腐食速度を低減させるための方法においても使用することができる。
【0046】
本開示はまた、以下の番号付与された、限定されない実施態様を含む。
【0047】
実施態様1.0.カルバメート環境における二相ステンレス鋼の使用であって、二相ステンレス鋼が重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、使用。
【0048】
実施態様1.1.カルバメート環境における二相ステンレス鋼の使用であって、二相ステンレス鋼が重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、使用。
【0049】
実施態様1.2.Mnが0.5から1.5重量%である、実施態様1.0又は1.1に記載の二相ステンレス鋼の使用。
【0050】
実施態様1.3.Siが0.010から0.50重量%である、実施態様1.0、1.1又は1.2に記載の二相ステンレス鋼の使用。
【0051】
実施態様1.4.Niが5.5から8.5重量%、例えば5.5から7.5重量%である、実施態様1.0から1.3のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼の使用。
【0052】
実施態様1.5.Nが0.28から0.40重量%である、実施態様1.0から1.4のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼の使用。
【0053】
実施態様1.7.カルバミン酸アンモニウム溶液と接触する高圧尿素合成セクションの一又は複数の部品の腐食を低減するための尿素合成プロセスにおける、実施態様1.0から1.6のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼の使用。
【0054】
実施態様1.8.管、尿素製造のためのプラント用の剥離器管又は尿素製造のためのプラント用の剥離器管用の液体分配器である、実施態様1.0から1.6のいずれか一つに定義されるような二相ステンレス鋼を含む形成物品。
【0055】
実施態様1.9.少なくとも一の部品が、実施態様1.0から1.6のいずれか一つに定義されるような二相ステンレス鋼から作製されている尿素製造のための方法であって、好ましくは、カルバミン酸アンモニウムを形成し、カルバミン酸アンモニウムを脱水させて尿素を提供することを含む方法。
【0056】
実施態様1.10.実施態様1.0から1.6のいずれか一つに定義されるような二相ステンレス鋼を含む一又は複数の部品を含む、尿素の製造のためのプラント。
【0057】
実施態様1.11.前記一又は複数の部品が剥離器管である、実施態様1.10に記載のプラント。
【0058】
実施態様1.12.剥離器を含む高圧尿素合成セクションを含み、剥離器が、実施態様1.0から1.6のいずれか一つの実施態様に下記に定義されるような二相ステンレス鋼を含む、実施態様1.10又は1.11に記載のプラント。
【0059】
実施態様1.13.液体分配器、レーダーコーン、(制御)バルブ及びエジェクタから成る群より選択される一又は複数の成分を含む尿素の製造のための既存のプラントを改良する方法であって、一又は複数の剥離器管が実施態様1.0から1.6のいずれか一つに定義されるような二相ステンレス鋼を含む剥離器管に置き換えられることを特徴とする方法。
【0060】
実施態様1.14.少なくとも一の剥離器管を実施態様1.1から1.6のいずれか一つに定義されるような二相ステンレス鋼を含む剥離器管で置き換えることにより、尿素プラントの受動的腐食率を低減させるための方法。
【0061】
実施態様2.0.重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼。
【0062】
実施態様2.1.重量%(wt%)で
と、残量のFe及び不可避不純物とを含み、Mo+Wの含有量が3.0超であるが4.0未満である、二相ステンレス鋼。
【0063】
実施態様2.2.Mnが0.5から1.5重量%である、実施態様2.0又は2.1に記載の二相ステンレス鋼。
【0064】
実施態様2.3.Siが0.010から0.50重量%である、実施態様2.0、2.1又は2.2に記載の二相ステンレス鋼。
【0065】
実施態様2.4.Niが5.5から8.5重量%、例えば5.5から7.5重量%である、実施態様2.0から2.3のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼。
【0066】
実施態様2.5.Nが0.28から0.40重量%である、実施態様2.0から2.4のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼。
【0067】
実施態様2.6.6.Mnが0.5から1.5重量%であり、Siが0.010から0.50重量%であり、Niが5.5から8.5重量%であり、Nが0.28から0.40重量%である、実施態様2.0に記載の二相ステンレス鋼。
【0068】
実施態様2.7.実施態様2.0から2.6のいずれか一つに記載の二相ステンレス鋼を含む形成物品。
【0069】
本開示は、以下の非限定的な実施例によってさらに示される。
【実施例】
【0070】
表1は、実施例で使用される二相ステンレス鋼の組成を示す。試験に使用される物品は、熱間鍛造、熱間圧延、冷間圧延、次いで熱処理された270kgのビレットから製造された。
【0071】
オートクレーブに使用による腐食試験
試料を、約1200℃までの熱間加温、中間温度(約1100℃)の冷間圧延(室温)と1070℃での最終焼鈍により製造された5mmのストリップから切断した。試験に使用したサンプルは、約20×10×3mmの寸法を有するクーポンの形態を有していた。全ての表面を機械加工し、湿式粉砕により仕上げた。
【0072】
二相ステンレス鋼の耐食性を酸素非含有のカルバメート溶液中で評価した。カルバメート溶液の組成を、尿素プラントにおける剥離器熱交換器管に通常みられるよりもさらに悪い条件をシミュレートするように選択した。試験中の温度は210℃であった。腐食速度は酸素非含有カルバメート溶液中で14日間曝露した後に計算した。その結果を表3に示す。表から分かるように、チャージ1及び2は、より低い腐食速度によって示される比較チャージ3~5よりも優れた耐食性を有する。
【0073】
曝露には以下の手順を使用した。超純水及びエタノールを用いてオートクレーブを慎重に洗浄した。クーポン(ストリップ)をアセトン及びエタノール中で洗浄し、計量し、クーポンの寸法を測定した。次いで、これらをテフロン試料保持器に取り付けた。
【0074】
水及び尿素をオードクレーブに添加した。次いで、オートクレーブを窒素でパージし、酸素及び他の気体を除去した。次いで、オートクレーブにアンモニアを添加した。
【0075】
表2に記載される温度プロファイルに従って、翌日に加熱を開始した。順序はオーバーシューティングを避けるように設計されている。試験片を210℃で14日間曝露させた。
【0076】
機械的試験
引張試験、衝撃試験及び硬度測定により機械的特性を評価した。5mmの冷間圧延され、アニーリングされたストリップを引張試験及び硬度測定に使用した。11mmの熱間圧延されたストリップを衝撃試験に使用した。ストリップは上記の方法で製造した。
【0077】
ISO6892-1:2009に従って、引張試験は室温で実施した。
【0078】
衝撃試験の試験片は標準V-ノッチ試験片(SSV1)であった。試験はISO14556に従って実施した。試験は、二つの温度、室温及び-35℃で実施した。
【0079】
硬度測定は、5mmのストリップから採取した長い試料のクロスカット表面上で実施した。ストリップの中央で測定を行った。ビッカース硬さ試験を10kg(HV10)のロードを用いて実施した。
【0080】
オーステナイトスペーシング測定を、高度測定に使用したのと同じ試験片上で実施した。推奨されるプラクティスDNV-RP-F112、セクション7(2008年10月)に従って、測定を実施した。
【0081】