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特許7029391CLOSTRIDIUM細菌の病原性又は毒性の抑制又は低減
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】CLOSTRIDIUM細菌の病原性又は毒性の抑制又は低減
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/44 20060101AFI20220224BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220224BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20220224BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
A61K33/44
A61P39/02
A61P31/04
A61K47/36
A61K9/50
A61K47/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018517542
(86)(22)【出願日】2016-09-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2016073526
(87)【国際公開番号】W WO2017060178
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】15306577.6
(32)【優先日】2015-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507246969
【氏名又は名称】ダ・ボルテラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・ギュンツブール,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルコックス,マーク
(72)【発明者】
【氏名】チルトン,キャロライン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-520467(JP,A)
【文献】国際公開第2008/021378(WO,A1)
【文献】特表2008-540602(JP,A)
【文献】Y.Wang et al.,Tolevamer Potassium Sodium,Drug of the Future,2007年,vol.32, No6,pp.501-505
【文献】B.K.Puri,The potential use of cholestyramine to reduce the risk of developing Clostridium difficile-associated diarrhoea in patients receiving long-term intravenous ceftriaxone,Medical Hypotheses,2015年,vol.84,pp.78-80
【文献】Mohaqna D.S. Et al.,Clays as dietary supplements for swine:A review,Journal of Animal Science and Biotechnology,2015年,Vol.6, No.38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において、Clostridium属の細菌による毒素の生成を抑制若しくは遅延する、及び/又はClostridium属の細菌の芽胞の発芽を抑制若しくは遅延する、及び/又はClostridium属の細菌の芽胞形成を抑制若しくは遅延するために使用するための吸着剤であって、活性炭である吸着剤。
【請求項2】
Clostridium属の細菌がClostridium difficileである、請求項1記載の吸着剤。
【請求項3】
哺乳動物がヒトである、請求項1又は2記載の吸着剤。
【請求項4】
哺乳動物がClostridiumに感染した、又はClostridiumを保菌する、又はClostridiumによる感染のリスクにある、ヒトである、請求項記載の吸着剤。
【請求項5】
Clostridium difficileの蔓延のあいだに、疾患の伝播を防ぐために吸着剤が対象へ予防的に投与される、請求項1~のいずれか一項記載の吸着剤。
【請求項6】
Clostridium difficileの蔓延のあいだに患者が感染した場合にClostridium difficile感染症の重症度及び/又は負荷を低減するために、該蔓延のあいだに吸着剤が対象へ予防的に投与される、請求項1~のいずれか一項記載の吸着剤。
【請求項7】
Clostridium difficileの蔓延のあいだ及び/又は蔓延後に、該蔓延の全体的な深刻度を低減するために吸着剤が対象へ投与される、請求項1~のいずれか一項記載の吸着剤。
【請求項8】
哺乳動物において、Clostridium difficileによる毒素の生成を遅延若しくは抑制するために、又はClostridium difficileの芽胞形成若しくは芽胞の発芽を遅延若しくは抑制するために使用するための、活性薬剤としての活性炭を含む組成物。
【請求項9】
哺乳動物が、Clostridium difficileに感染した、又はClostridium difficile感染症のリスクにある、ヒト又は非ヒト動物である、請求項記載の組成物。
【請求項10】
活性炭がカラギーナンと混合される、請求項1~のいずれか一項記載の吸着剤又は組成物。
【請求項11】
活性炭が、
- カラギーナンと混合された活性炭を含有するコア、及び
- 小腸の下部で活性炭が製剤から遊離されるようにコアの周囲に形成された外部コーティングの層
を含む製剤中に存在する、請求項10記載の吸着剤又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、Clostridium細菌の病原性又は毒性を低減又は抑制するための吸着剤の使用に関する。本発明は、任意の哺乳動物又は環境において使用され得、特にClostridium difficileの病原性又は毒性を抑制するのに有効である。
【背景技術】
【0002】
Clostridium difficileは、関心事となる細菌性病原体の特定のサブセットである芽胞形成細菌に属する。細菌性芽胞(内生胞子)は、環境ストレスに応答して細菌により形成される、休眠中の非再生構造である。ひとたび環境条件が好ましくなれば、芽胞は発芽して細菌が増殖する。病原菌の場合、ヒト宿主における発芽の結果、疾患が引き起こされ得る。Clostridium difficileなどの芽胞の発芽は、芽胞が増殖性細菌を生じさせ、これが次いで成長及び増加することができるプロセスである。細菌性芽胞は、放射線、乾燥、温度、飢餓及び化学薬品を含む多くの薬剤及び環境条件に対して極めて耐性がある。様々な因子に対するこの自然耐性は、標準的な洗浄剤、殺菌剤及び滅菌プロセスでは細菌が根絶されない、病院、他の保健センター及び食品製造施設などの主要な環境において、芽胞が何カ月ものあいだ存続することを可能とする。食品製造の場合、芽胞の存在は、単純な食品の腐敗から食物が媒介する病原体の伝播及び食中毒に亘る重大な結果を有し得る。
【0003】
Clostridium属のメンバーは、グラム陽性、芽胞形成、偏性好気生菌である。ヒト疾患を引き起こす例示的な種として、C. perfringens、C. tetani、C. botulinium、C. sordellii及びC. difficileが挙げられるが、これらに限定されない。Clostridiaは、破傷風、ガス壊疽、ボツリヌス中毒症及び偽膜性腸炎を含む多様なヒト疾患に関連し、食中毒の原因因子になる可能性があるる。特に関心事となるのは、Clostridium difficileによって引き起こされる疾患である。Clostridium difficileは、Clostridium difficile感染症(CDI)とも呼ばれるClostridium difficile関連疾患(CDAD)を引き起こし、世界中でここ10年以内に症例数は10倍増加してきており、現在は高毒性且つ薬物耐性の株がエンデミックになっている。
【0004】
Clostridium difficileは共生の腸溶性細菌であり、そのレベルは、正常な腸管内菌叢によって抑えられる。しかしながら、この細菌はC. difficile関連疾患(CDAD)の原因因子であり、CDAD、偽膜性腸炎の最も重篤な症状の主原因として同定されている。CDADは、軽い下痢から重篤な血性下痢、偽膜性腸炎、中毒性巨大結腸症そして死に亘る広い範囲の症候に関連する。CDADの発症に対する主たる危険因子は、Clostridium difficileの過剰成長を可能とする、正常な腸管内細菌の微生物叢を崩壊させる抗生物質の使用である。クリンダマイシンはCDADに関連する第1の主要抗生物質の1つであるが、フルオロキノロン、リンコサミド、β-ラクタム(ペニシリン類、セファロスポリン類及びカルバペネム類(単独投与又はβ-ラクタマーゼ阻害剤と一緒に投与の)を含む)及び多くの他のクラスのメンバーを含むほぼ全ての抗生物質で処置した後に、この疾患は引き起こされる。抗生物質処置後、CDADになるオッズ比が増加することを記載している、しっかりした文献がある。アメリカ疾病管理予防センター(US CDC)の最近の通達では、「抗生物質を使用している人々は当該薬物の使用中及び翌月のあいだ、7~10倍C. difficile[感染]になりやすい」と述べられている。最近本発明者らは、とりわけ保健施設でのC. difficile蔓延(outbreak)の場合に、潜在的な抗生物質使用のないCDADの症例が多く報告されていることも見出している。
【0005】
CDADは、病院環境において最大の関心事であり、死亡率が特に高い高齢の患者のあいだでは特に関心事となる。米国における死亡率は、1999年の人口百万あたり5.7から2004年の百万あたり23.7に上昇している。一般的な集団でのC. difficileの保菌率(colonization rates)は3%までであるが、入院で劇的に、保菌率は25%までに上昇する。特に関心事となるのは、新しいエンデミック株の出現である。特に関連性の高い例として、毒素A(TcdA)及び毒素B(TcdB)生成の増加や、二成分毒素と呼ばれる毒素のさらなる生成を示す高毒性BI/NAP1(リボタイプ027としても公知)株が挙げられる。リボタイプ027の高毒素株などの株の高芽胞形成特性は、前記問題に有意に寄与する。
【0006】
C. difficileの毒素産生株によって生成される2種の主要毒素であるTcdA及びTcdBは、主要なC. difficile毒性因子としてそれらが最初に認識されて以降、集中的に研究されている。C. difficile毒素A(TcdA)及びB(TcdB)は、「毒素産生エレメント」又は「病原性ローカス」として公知の19.6キロベース領域の一部を共に形成する、2つの別異であるが密接に関連する(closely linked)遺伝子によってエンコードされる。TcdA及びTcdB遺伝子及びタンパク質は相同性が高く、それらの遺伝子は複製により生じた可能性が高い。毒素A及びBは、ほとんどのC. difficile毒素産生株において同時に生成され、それらはClostridium difficileの病原性の原因となる。それら毒素は指数増殖期のあいだに生成され始め、通常は培養の36から72時間のあいだで、細菌が静止期に達した際に細菌から遊離される。細菌内に存在する毒素は、超音波処理によって、又はフレンチプレス細胞破砕装置の使用によって、より早期に遊離されることができる。
【0007】
初期の研究で、毒素レベルと、偽膜性腸炎の発症及び下痢の継続期間との間の直接的な関連性が立証された(Burdon, D. W., R. H. George, G. A. Mogg, Y. Arabi, H. Thompson, M. Johnson, J. Alexander-Williams, and M. R. Keighley. 1981. Faecal toxin and severity of antibiotic-associated pseudomembranous colitis(糞便毒素と、抗生物質関連偽膜性腸炎の重症度). J. Clin. Pathol. 34:548-551.)。TcdAに対するモノクローナル抗体での、疾患に対する保護を示す純粋隔離群のマウスにおける研究から、C. difficile関連疾患におけるTcdAの役割についての、より直接的な証拠が得られている(Corthier, G., M. C. Muller, T. D. Wilkins, D. Lyerly, and R. L'Haridon. 1991. Protection against experimental pseudomembranous colitis in gnotobiotic mice by use of monoclonal antibodies against Clostridium difficile toxin A(Clostridium difficile毒素Aに対するモノクローナル抗体の使用による、純粋隔離群のマウスにおける実験的偽膜性腸炎に対する保護). Infect. Immun. 59:1192-1195.)。アニオン性高分子量ポリマーでのC. difficile毒素の中和で、当該生物に曝された実験用ハムスターの80%が保護されたことも最近示されている(Kurtz, C. B., E. P. Cannon, A. Brezzani, M. Pitruzzello, C. Dinardo, E. Rinard, D. W. Acheson, R. Fitzpatrick, P. Kelly, K. Shackett, A. T. Papoulis, P. J. Goddard, R. H. Barker, Jr., G. P. Palace, and J. D. Klinger. 2001. GT160-246, a toxin binding polymer for treatment of Clostridium difficile colitis(Clostridium difficile性腸炎の処置のための毒素結合ポリマー). Antimicrob. Agents Chemother. 45:2340-2347.)。
【0008】
TcdA及びTcdBの、疾患に対するそれぞれの寄与及び役割は良くわかっていない。初期の研究では、液体貯溜、炎症、及び細胞損傷を含む偽膜性腸炎の特徴を、動物モデルにおいてTcdAで誘導できることが示唆されていた(D. M. Lyerly et al, Infect. Immun 54:70-76, 1986)。
【0009】
しかしながら、この結果はその後いくつかの報告において問題視されている。実際に、初期の研究ではTcdAが存在しない限りTcdBは疾患を起こすことができないことが認められていた(Lyerly, D. M., K. E. Saum, D. K. MacDonald, and T. D. Wilkins. 1985. Effects of Clostridium difficile toxins given intragastrically to animals(動物の胃内に与えられたClostridium difficile毒素の効果). Infect. Immun. 47:349-352)。天然のTcdA-TcdB+株が、臨床分離株から同定されることがあり(Sambol, S. P., M. M. Merrigan, D. Lyerly, D. N. Gerding, and S. Johnson. 2000. Toxin gene analysis of a variant strain of Clostridium difficile that causes human clinical disease(ヒト臨床疾患を引き起こすClostridium difficileの変異株の毒素遺伝子分析). Infect. Immun. 68:5480-5487.)、C. difficile関連疾患におけるTcdBの役割を特徴づけるのに有効となっている。興味深いことに、これらの株は疾患を引き起こすことができ、広汎性偽膜性腸炎のある場合には、TcdA欠損株により引き起こされる疾患で患者が死亡する(Alfa, M. J., A. Kabani, D. Lyerly, S. Moncrief, L. M. Neville, A. Al-Barrak, G. K. Harding, B. Dyck, K. Olekson, and J. M. Embil. 2000. Characterization of a toxin A-negative, toxin B-positive strain of Clostridium difficile responsible for a nosocomial outbreak of Clostridium difficile-associated diarrhea(Clostridium difficileの院内蔓延関連下痢の原因であるClostridium difficileの毒素A陰性、毒素B陽性株の特性解析). J. Clin. Microbiol. 38:2706-2714)。さらに最近、TcdA及びTcdBの双方ともが前記疾患において重要な役割を果たすことが示唆されており(S. A. Kuehne, S. T. Cartman, J. T. Heap, M. L. Kelly, A. Cockayne and N.P. Minton. 2010. The role of toxin A and toxin B in Clostridium difficile infection(Clostridium difficile感染症における毒素A及び毒素Bの役割). Nature 467:711-713, 2010)、さらにまた、いくつかの動物モデルにおける実験に基づき十分に裏付けられた他の2つの報告で、Clostridium difficileの毒性及び疾患への寄与における主たる因子はTcdBであることが示唆されている(D. Lyras, J.R. O’Connor, P.M. Howarth, S.P. Sambol, G.P. Carter, T. Phumoonna, R. Poon, V. Adams, G. Vedantam, S. Johnson, D.N. Gerding, J.I. Rood. 2009. Toxin B is essential for virulence of Clostridium difficile(毒素Bは、Clostridium difficileの毒性に必須である). Nature 458:1176-1179. 10.1038/nature07822.)。
【0010】
CDADの処置のための第一の治療選択肢は、現行の抗菌処置すべての中止と、それに続くバンコマイシン又はメトロニダゾールのいずれかの適切な使用である。両薬剤とも通常は経口投与されるが、メトロニダゾールは静脈内に投与され得、重症の場合、バンコマイシンは結腸内に、経鼻胃管で又はバンコマイシン停留浣腸として、を含む他の多くの経路を介しても投与され得る。CDADの処置に使用すべきものとして報告されている追加の抗生物質としては、フィダキソマイシン、フシジン酸、リファマイシン及びその類似体、テイコプラニン及びバシトラシンが挙げられるが、バンコマイシン又はメトロニダゾールを上回る、一次感染を治す特定の有効性を示すものはない。しかしながら、CDADで最も脅威となる問題の一つは、頻繁な疾患の再発である。事実、バンコマイシン又はメトロニダゾールでの処置後、3カ月以内での疾患の再発は症例の25~30%において観察される。しかし、もしも既に患者が以前のCDADエピソード(症状出現)を経験していれば再発率はより高く(約40%)、これは再発の度毎にさらに高くなっていくため、第5回目又は第6回目のCDADエピソード後には再発が不可避となってしまい、糞便マイクロバイオーム移植(Fecal Microbiome Transplant:FMT)以外の他の処置選択肢は残されていない。再発の率は、フィダキソマイシンでの処置後に15%対25%と有意に低下し、(T. J. Louie, M.A. Miller, K.M. Mullane, K. Weiss, A. Lentnek, Y. Golan, S. Gorbach, P. Sears, Y.K. Shue, OPT-80-003 Clinical Study Group(臨床試験群). 2011. N Engl J Med 364:422-31)、これが最近の本抗生物質の使用への多大な関心の基礎となっている。バンコマイシン及びメトロニダゾールでのCDADの処置後の高い再発率の主要因子は、腸内微生物叢に対するそれらの甚大な破壊効果であり、バンコマイシン及びメトロニダゾールよりもフィダキソマイシンは作用のスペクトルが狭いという事実が、その使用後に観察される低再発率に寄与し得ると考えられる。任意の加害的な抗菌性処置を中断することに加えて、アヘン剤又はロペラミドなどの逆蠕動剤の使用は、それらがC. difficile毒素のクリアランスを低減する可能性があり、毒素で媒介される結腸傷害を増悪させ得るので避けるべきである。
【0011】
単独使用剤として、又は抗菌薬と併用して用いられる代替療法は、以下の手法、すなわち、抗生物質により媒介される微生物叢の破壊を防止し、ネイティブな消化管微生物集団を再樹立する試み、C. difficile毒素のレベルの低下、又は免疫系の刺激などの、一つまたはいくつかを目標とする。したがって、代替CDAD療法は抗生物質と併用したSaccharomyces boulardii又はLactobacillus acidophilusの供給を含むが、説得力のある結果になっていない。他の治療選択肢が全て失敗に終わっている重症の場合は外科手術が採用され、結腸切除の率は低い(症例の3%まで)ものの、高死亡率(60%まで)を伴う。近年の非常に成功した選択肢は、85%を超える治癒率を得ることを可能とする糞便マイクロバイオーム移植(FMT)に存し(Hamilton MJ, Weingarden AR, Sadowsky MJ, et al. Standardized Frozen Preparation for Transplantation of Fecal Microbiota for Recurrent Clostridium difficile Infection(再発性Clostridium difficile感染症に対する糞便微生物叢の移植用の標準化凍結検体). Am J Gastroenterol. 2012;107:761-767. doi: 10.1038/ajg.2011.482)、FMT原理に基づく新規な治療的選択肢が速やかに生み出されている。
【0012】
Clostridium difficile関連疾患(CDAD)又はClostridium difficile感染症(CDI)は、病院における抗生物質関連下痢の同定可能な主原因である(Cohen S, Gerding D, Johnson S, et al. Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults(成人でのClostridium difficile感染症に対する診療ガイドライン): the Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA)により2010年に更新. Infect Control Hosp Epidemiol 2010; 31:431-55. ; Kelly CP. Current strategies for management of initial Clostridium difficile infection(初期Clostridium difficile感染症の管理のための現在の手法). J Hosp Med 2012; 7:S5-10)。米国だけで、CDADは1年当たり500,000名を超える患者で、1年当たり29,000までの死亡数が報告されている(Rupnik M, Wilcox MH, Gerding DN. Clostridium difficile infection: new developments in epidemiology and pathogenesis(Clostridium difficile感染症:疫学及び病因論における新しい動き). Nat Rev Microbiol 2009; 7:526-36., Lessa et al. Burden of Clostridium difficile Infection in the United States(米国におけるClostridium difficile感染症の負担). N Engl J Med 2015; 372:825-834)。毎年の保健負担は、米国で30億ドルを超えると見積もられている(Kachrimanidou M, Malisiovas N. Clostridium difficile infection: A comprehensive review(Clostridium difficile感染症:包括的レビュー). Crit Rev Microbiol 2012; 37:178-87.)。最近の研究で、CDADはメチシリン耐性Staphylococcusaureusよりも25%多く、院内感染の原因になることが報告された(Voelker R. Increased Clostridium difficile virulence demands new treatment approach(Clostridium difficileの毒性増加で、新しい処置手法が求められる). J Am Med Assoc 2010; 303:2017-9.)。重症の症候及び死亡に至るCDAD進行の速度は上昇している(Valiquette L, Low DE, Pepin J, McGeer A. Clostridium difficile infection in hospitals: a brewing storm(病院におけるClostridium difficile感染症:嵐の気配). Can Med Assoc J 2004; 171:27-9.)。
【0013】
芽胞形成細菌に関連する疾患、特にClostridium属のメンバーによって引き起こされるもの、とりわけClostridium difficile感染症に関連する疾患を予防及び治療する、新しく且つ有効な薬剤及び処置に対する差し迫った必要性がある。この必要性は、多くの広域抗生物質(β-ラクタム及びキノロン抗生物質を含む)に対するClostridium difficileの不応性、及び抵抗性が出現してエピソードが再発する頻度に鑑み特に急を要する。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、Clostridium関連疾患を治療又は予防するための組成物及び方法に関する。本発明はさらに詳細には、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、Clostridium細菌の病原性を抑制する吸着剤の使用に関する。本発明はとりわけ、吸着剤が、Clostridiumの毒素の生成及び遊離、芽胞形成及び芽胞発芽を阻害することによってClostridium細菌の毒性を効果的に変化させることができ、これらの細菌の病原性の効果的な中和がもたらされるという、本発明者らによる予想外の知見に端を発する。
【0015】
本発明の目的はしたがって、哺乳動物においてClostridium関連疾患を処置する使用のための吸着剤に関する。
【0016】
本発明の特定の目的は、哺乳動物においてClostridium関連疾患を予防する使用のための吸着剤に関する。
【0017】
本発明のさらなる目的は、Clostridium属の細菌の病原性を抑制する使用のための吸着剤に関する。
【0018】
本発明は、Clostridium属の細菌の病原性を抑制するための方法であって、前記細菌を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0019】
本発明は、哺乳動物においてClostridium関連疾患を処置するための方法であって、前記哺乳動物を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0020】
本発明は、哺乳動物においてClostridium関連疾患を予防するための方法であって、前記哺乳動物を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0021】
本発明は、哺乳動物においてClostridium関連疾患の重症度及び死亡率を低減するための方法であって、前記哺乳動物を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0022】
本発明は、Clostridium属の細菌による毒素の生成を抑制若しくは遅延する、又はClostridium属の細菌の芽胞の発芽を抑制若しくは遅延する、及び/又はClostridium属の芽胞形成を細菌抑制若しくは遅延する、吸着剤の使用にも関する。
【0023】
好ましい実施形態によれば、吸着剤は活性炭であり、及び/又は細菌はClostridium difficileである。また、好ましい実施形態では、本発明は哺乳動物においてインビボで使用され、吸着剤は経口投与され、好ましくは吸着剤が消化管内に、特に小腸の下部に、特に回盲接合部(ilea-caecal junction)において遊離される製剤を用いて投与される。好ましくは、製剤は下部回腸(late ileum)において、すなわち、盲腸及び結腸の手前で吸着剤を遊離する。本発明は、ヒト又は非ヒト動物などの任意の哺乳動物において使用され得、治療的又は予防的環境において使用され得る。本発明は、病院などの任意の環境におけるClostridium芽胞の、及び/又はClostridium関連疾患の混入又は伝播を防止するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】吸着剤で処理されたBHIブロスにおける48時間培養後のC. difficile細菌のカウント数、芽胞のカウント数及び毒素力価。C. difficile株リボタイプ001、027及び078についての平均カウント数。
図2】吸着剤で処理された糞便スラリーブロスにおける48時間培養後のC. difficile細菌のカウント数、芽胞のカウント数及び毒素力価。C. difficile株リボタイプ001、027及び078ついての平均カウント数。
図3】吸着剤で処理された消化管モデルブロスにおける48時間培養後のC. difficile細菌のカウント数、芽胞のカウント数及び毒素力価。C. difficile株リボタイプ001、027及び078ついての平均カウント数。
図4】活性炭とインキュベーションした後のリボタイプ027株についてのBHIブロスにおけるC. difficile毒素力価の測定。
図5】活性炭とインキュベーションした後のリボタイプ078株についてのBHIブロスにおけるC. difficile毒素力価の測定。
図6】活性炭とインキュベーションした後のリボタイプVA-11 REA J株についてのBHIブロスにおけるC. difficile毒素力価の測定。
図7】活性炭とインキュベーションした後のC. difficile株リボタイプ001、027及び078についての糞便スラリーブロスにおけるC. difficile発芽の測定。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、Clostridium関連疾患を治療又は予防するための、及びインビトロ、エクスビボ又はインビボでClostridium細菌の病原性を抑制する、組成物及び方法に関する。本発明は、とりわけ、吸着剤が、Clostridium細菌の毒素の生成及び遊離、芽胞形成及び/又は芽胞発芽を阻害することによってClostridium細菌の毒性を効果的に変化させることができ、これらの細菌の病原性の効果的な中和、並びにこのような細菌によって引き起こされる状態又は疾患の強力な予防及び/又は治療がもたらされるという、予想外の知見に端を発する。
【0026】
吸着剤及び製剤
吸着剤の用語は、吸着剤表面と吸収されるべき基質との間の典型的には物理化学的結合によって、当該基質を吸収することができる任意の化合物又は物質を表す。吸着剤は、特異的であっても非特異的であってもよい。本発明において使用するために好ましい吸着剤は、医薬又は獣医学での応用につきヒト又は動物において使用するために最も好適な医薬品等級吸着剤である。
【0027】
本発明での使用に好適な吸着剤の例として、活性炭; ベントナイト、カオリン、モンモリロナイト、アタパルジャイト、ハロイサイト、ラポナイトなどを含む粘土;コロイドシリカ(たとえば、Ludox(登録商標)AS-40)、メソポーラスシリカ(MCM41)、ヒュームドシリカ、ゼオライトなどを含むシリカ;タルク;コレステラミン(cholesteramine)など;ポリスチレンスルホネートなど;モノ及びポリスルホン化樹脂;さらにはBACTEC(登録商標)樹脂などの細菌学的試験に使用されるものなどの他の樹脂が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0028】
好ましい吸着剤は、医薬品等級の活性炭(Chemviron、Cabot、Norit、Merck又は他の供給元)である。特定の実施形態では、吸着剤は活性炭であり、より好ましくは、1000m2/g超、優先的には1200m2/g超、優先的には1400m2/g超、優先的には1600m2/g超、さらに好ましくは1800m2/g超の、特有の表面積を有する活性炭である。好ましい実施形態では、活性炭は植物起源のものである。好ましい実施形態では、活性炭は200より大きい、好ましくは250より大きい、より好ましくは400より大きい、又はさらには600より大きいモラセスナンバーによって特徴付けられる。好ましい実施形態では、活性炭は、20g/100gより大きい、好ましくは30g/100gより大きい、又はさらにより好ましくは35g/100gより大きいメチレンブルー吸着を呈する。
【0029】
本発明の方法において用いられる吸着剤の量は、処置すべき宿主/材料並びに吸着剤の全体的能力、吸着力及び選択性に応じて変更してよい。典型的には、吸着剤の量は、Clostridium細菌の病原性を抑制するのに十分な量、又は治療効果、たとえば消化管の終末部において、とりわけ結腸における芽胞及び/若しくは細菌により遊離される毒素の量の治療上有意な低減、又は細菌の成熟、すなわち環境における芽胞の生成及びさらなる放出(shedding)の有意な遅延などを生じさせるのに十分な量である。
【0030】
本発明において使用するための吸着剤は、任意の許容でき且つ好適な組成物にて製剤化され得る。このような好適な組成物は、経口デリバリー、直腸デリバリー、局所投与、粘膜投与、吸入などのための製剤を含む。特定の実施形態では、吸着剤は、ヒト又は動物への投与に好適な医薬組成物に製剤化される。より好ましくは、吸着剤は、腸内で、又は腸内細菌と接触して、特に消化管において、さらに具体的には腸の下部、すなわち、下部回腸、盲腸及び/又は結腸において吸着剤を遊離するように調合された経口製剤に製剤化される。
【0031】
吸着剤の腸内デリバリーに好適な製剤の例は、国際公開第2006/122835号パンフレット及び国際公開第2007/132022号パンフレットに記載されている。好ましい実施形態では、吸収剤は、カラギーナンと、好ましくはペレットの形態で(国際公開第2011/104275号パンフレットにおいて提案されるように)製剤化される。このような製剤はコアを形成でき、これは吸着剤が腸の下部において、すなわち、下部回腸、盲腸及び/又は結腸において遊離されるように、コーティングの層で被覆されてもよい。
【0032】
カラギーナンは、紅藻から抽出される直鎖硫酸化多糖の天然に存在するファミリーである。カラギーナンは、反復するガラクトース及び3,6-アンヒドロガラクトース(3,6-AG)単位(両方とも硫酸化及び非硫酸化の)で構成される高分子量多糖である。それらの単位は、交互のアルファ1-3及びベータ1-4グリコシド結合によって結合される。カラギーナンの3つの基本タイプ、すなわち、カッパ、イオタ、及びラムダカラギーナンが市販されおり、これらはガラクトース単位上のエステル硫酸基の数及び位置が異なっている。本発明において使用するためのカラギーナンは、カッパ、イオタ及びラムダカラギーナン、及びこれらの混合物から選択されることができる。本実施形態の一態様において、吸着剤はカッパ-カラギーナンと混合される。特定の実施形態では、混合物は、活性炭及びカッパ-カラギーナンを含む。
【0033】
好ましくは、カラギーナンの量は、吸着剤のカラギーナンとの混合物の重量に対して約5%と約25%の間、より好ましくは約10%と約20%の間である。本発明の特有の実施形態によれば、カラギーナンの量は混合物の約15重量%である。たとえば、混合物は総混合物の重量に対して85%の吸着剤及び15%のカラギーナンを含有してもよい。
【0034】
本発明の特定の実施形態によれば、活性炭とカラギーナンの混合物が前記重量比で提供される。
【0035】
コア(又はペレット)は、当業者に公知の好適な任意の手段により生成され得る。とりわけ、前記コアを生成するために造粒技術が適用される。たとえば、コアは前記比で吸着剤とカラギーナンを混合し、水などの溶媒を添加して湿式造粒を進め、その後押出球形化又はワンポットペレット化によって得ることができる。残存水はすべて、たとえば、得られたペレットを従来の技術を用いて乾燥することにより除去されることができる。
【0036】
1つの実施形態では、コア、又はペレットの平均湿潤粒径は、250~3000μm、とりわけ250~1000μm、とりわけ300~3000μm(500~3000μmなど)、とりわけ300~1000μm(500~1000μmなど)、とりわけ500~1000μm、とりわけ500~700μmの範囲にある。
【0037】
コア組成物はさらに、抗粘着剤、結合剤、充填剤、希釈剤、香料、着色剤、滑沢剤、流動促進剤、防腐剤、吸着剤及び/又は甘味料などの従来の賦形剤を含むことができる。このような賦形剤の量は変更できるが、典型的にはペレットの0.1~50重量%の範囲内にある。
【0038】
先に論じたように、本発明の好ましい製剤は、吸着剤を含むコアを含み、場合により(possibly)カラギーナンが追加されており、このコアは腸の下部、すなわち、下部回腸、盲腸及び/又は結腸で吸着剤が遊離されるようにコーティングの層で被覆されている。
【0039】
これに関し、好ましい実施形態では、吸着剤は、
-吸着剤及びカラギーナンを含有するコア、並びに
-小腸の下部で吸着剤が製剤から遊離されるようにコアの周囲に形成される外部コーティングの層
を含む製剤として使用される。
【0040】
好適なコーティングの例として、pH依存性腸溶性ポリマー、アゾポリマー、ジスルフィドポリマー、及び多糖、とりわけアミロース、ペクチン(たとえば、ペクチン酸カルシウム又はペクチン酸亜鉛などの二価カチオンと架橋したペクチン)、コンドロイチン硫酸及びグアーガムが挙げられる。代表的なpH依存性腸溶性ポリマーとしては、セルロースアセテートトリメリテート(cellulose acetate trimellitate)(CAT)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベースのアニオン性コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマー(1:1の比)、メタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマー(1:2の比)、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)及びシェラック樹脂が挙げられる。特に好ましいポリマーとしては、シェラック、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベースのアニオン性コポリマー、並びにメタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマー(1:2の比)が挙げられる。理想的には、ポリマーは、6.0以上、好ましくは6.5以上のpHで溶解する。好適なコーティングは、上述のポリマー及びコポリマーを混合することによって得ることもできる。
【0041】
特定の実施形態では、製剤は、コアと外部pH依存性層との間に位置する、さらなる中間コーティングを含む。中間コーティングは、pH依存性ポリマー、pH非依存性水溶性ポリマー、pH非依存性不溶性ポリマー、及びこれらの混合物を含めた様々なポリマーから形成されることができる。このようなpH依存性ポリマーの例として、シェラック型ポリマー、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベースのアニオン性コポリマー、メタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)が挙げられる。pH非依存性水溶性ポリマーの例として、PVP又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)若しくはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの高分子量セルロースポリマーが挙げられる。pH非依存性不溶性ポリマーの例として、エチルセルロースポリマー又はアクリル酸エチル-メタクリル酸メチルコポリマーが挙げられる。
【0042】
特定の実施形態では、本発明は、
-吸着剤(好ましくは活性炭)のカラギーナン(好ましくはカッパ-カラギーナン)との混合物を含むコア、
-HPMC、エチルセルロース、及びEudragit(登録商標)L30D-55などのメタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマーとEudragit(登録商標)NE30Dなどのアクリル酸エチル-メタクリル酸メチルコポリマーとの混合物(たとえば1:9~9:1、好ましくは2:8~3:7の混合比)からなる群から選択される中間コーティング、並びに
-Eudragit(登録商標)FS30Dなどの、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベースのアニオン性コポリマーの外層
を含む製剤を使用する。
【0043】
特有の実施形態では、製剤は、85%活性炭、及び15% Gelcarin GP911(カッパ-カラギーナン)を含むコア、並びにEudragit(登録商標)FS30D又はEudragit(登録商標)L30D55(Evonik, Darmstadt, Germany)でのコーティングを含む。
【0044】
使用の方法
本発明は、吸着剤の使用に基づく、Clostridium関連疾患を治療若しくは予防するための、又はClostridium細菌の病原性を抑制するための組成物及び方法に関する。いくつかの活性化合物の副作用を、腸において当該活性化合物の残量を隔絶することにより低減又は回避するのに、吸着剤が当技術分野で使用されている。たとえば、抗生物質と一緒に投与される徐放製剤での吸着剤は、腸の下部に残る抗生物質を隔絶することができ、これにより不適切な抗生物質で誘導される腸内毒素症(dysbiosis)、抗生物質耐性菌の生成及び関連又は誘発的障害を回避する。驚くべきことに、さらに試験を行うことによって、本発明者らは現在、吸着剤がClostridium細菌のまさしく病原性に対する効果を有し得ることを発見している。実施例で例証されているように、吸着剤に曝された培地中で培養されたClostridium細菌、及びたとえば培養のあいだに吸着剤に曝されたClostridium細菌は、毒素生成及び/又は遊離、芽胞形成並びに発芽の強い抑制により測定されるように、それらの毒性を失う。それらが、いくつかの株は特に毒性であるClostridium difficileの病原性を抑制する能力を示すので、前記結果は特に注目すべきである。
【0045】
本発明はしたがって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、Clostridium細菌又はそれらの直接的な環境を吸着剤に曝すことによって、Clostridium細菌の毒性を抑制するための方法に関する。
【0046】
本発明は、吸着剤を哺乳動物へ投与することによりClostridium関連疾患を処置するための方法にも関する。
【0047】
本発明は、吸着剤を哺乳動物へ投与することによりClostridium関連疾患を予防するための方法にも関する。
【0048】
Clostridium関連疾患は、Clostridium細菌の感染又は保菌によって引き起こされるか又はこれに結びつく、任意の状態又は疾患を表す。C. difficilecanなどのClostridium細菌による感染に関連する疾患は、軽度から生命を危うくするものまであり得る。軽度な場合の障害としては、数日のあいだ1日に3回以上の水様下痢、腹部痛又は圧痛が挙げられる。より重症のC. difficile感染の障害としては、毎日15回までの水様下痢、重症の腹部痛、食欲減退、発熱、便中の血液若しくは膿、又は体重減少が挙げられる。
【0049】
本発明は特に、Clostridium属の細菌による毒素の生成を抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌を吸着剤に曝すことを含む方法に関する。
【0050】
本発明は特に、Clostridium属の細菌による毒素の生成を抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌の環境、たとえばその成長環境を、吸着剤に曝すことを含む方法に関する。
【0051】
本発明は、Clostridium属の細菌の芽胞の発芽を抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0052】
本発明は、Clostridium属の細菌の芽胞の発芽を抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌の環境、たとえばその成長環境を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0053】
本発明は、Clostridium属の細菌の芽胞形成を抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌を吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0054】
本発明は、Clostridium属の細菌の芽胞形成抑制又は遅延するための方法であって、インビトロ、エクスビボ又はインビボで、このような細菌の環境、たとえばその成長環境を、吸着剤に曝すことを含む方法にも関する。
【0055】
「処置」の用語は本発明に関連して、状態又は感染の治療的又は予防的処置のいずれかを表す。「治療的」の用語は特に、現存する状態の処置を示し、状態又はその症候の程度、発症、重症度、罹患率及び/又は継続期間の抑制、低減又は遅延を含む。「予防的」の用語は、Clostridium関連疾患の発症から対象を保護するための、疾患又は感染が引き起こされる前の当該対象の処置を表す。「処置」の用語は特に、Clostridium関連疾患を有する対象を、たとえば当該疾患を抑制するため、又はその程度、継続期間、重症度、罹患率若しくは症候を低減するために処置することを含む。「処置」の用語は、Clostridium細菌に曝された、又はClostridiumによる感染のリスクにある対象を、当該対象におけるClostridium関連疾患の発症を阻害又は低減又は回避するために処置することも含む。本発明はまた、Clostridium芽胞の汎発及び/又はClostridium関連障害を防止又は低減するのにも使用され得る。
【0056】
「環境」の用語は本発明に関連して、細菌の成長の環境を表す。細菌がインビボで培養される際には、この用語は培養培地又は成長培地を言うことができる。この用語はさらに、細菌が存在し、成長及び増殖できる、哺乳動物体液(腸液又は結腸液など)を言うことができる。この用語はさらに、Clostridium細菌を保菌し得る、人体の任意のコンパートメントを言うことができる。
【0057】
「病原性を抑制」又は「毒性を抑制」の用語は、少なくとも細菌の病原性/毒性の低減を表す。好ましくは、これらの用語は、たとえば毒素の遊離、芽胞形成又は芽胞発芽により測定されるような、病原性/毒性の実質的な、少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも50%以上の低減を示す。実施例に示すように、本発明に係る処置は、Clostridiumからの毒素遊離を検出レベル未満に抑制でき、芽胞形成又は芽胞発芽を2桁(すなわち、100倍)以上低減できるので、このような細菌を低病原性に、さらには非病原性にもする。
【0058】
本発明の目的はしたがって、Clostridium細菌の病原性又は毒性を抑制する方法であって、前記細菌、又はそれらの直接的な環境を、インビトロ、エクスビボ又はインビボで吸着剤に曝すことを含む方法にある。このような方法は、実験室又は任意の環境において、とりわけインビボで、Clostridium細菌の毒性をコントロールするのに使用されてもよい。このような方法は、哺乳動物においてインビボでClostridium関連疾患を回避するのに使用されることもできる。
【0059】
特定の実施形態では、病原性又は毒性の抑制は、Clostridium細菌の発生(development)を鈍化することによってもたらされる。別の実施形態では、病原性又は毒性の抑制は、Clostridium細菌の増殖を鈍化することによってもたらされる。さらなる実施形態では、病原性又は毒性の抑制はClostridium細菌の発達(progression)を鈍化することによってもたらされる。別の実施形態では、病原性又は毒性の抑制は、Clostridium細菌のライフサイクルを鈍化することによってもたらされる。別の実施形態では、病原性又は毒性の抑制は、感染の進展の鈍化によってもたらされる。さらなる実施形態では、病原性又は毒性の抑制は、感染の症候の進展の鈍化によってもたらされる。
【0060】
本発明はしたがって、
-Clostridium細菌の発生、
-Clostridium細菌の増殖、
-Clostridium細菌の発達、
-Clostridium細菌のライフサイクル、
-Clostridium細菌による感染の進展、又は
-Clostridium細菌による感染の症候の進展
を鈍化するための方法であって、
それを必要とする対象へ有効量の吸着剤を投与することを含む方法にも関する。
【0061】
本発明は、
-Clostridium細菌の発生、
-Clostridium細菌の増殖、
-Clostridium細菌の発達、
-Clostridium細菌のライフサイクル、
-Clostridium細菌による感染の進展、又は
-Clostridium細菌による感染の症候の進展
を鈍化するための方法であって、それを必要とする対象へ有効量の吸着剤を投与することを含む方法における使用のための吸着剤にも関する。
【0062】
本発明の目的はしたがって、Clostridium細菌の発生を緩慢化するための方法にも関する。この方法のおかげで、この細菌によって引き起こされる感染の発症が鈍化され、これはいくつかの点で、とりわけ感染に対抗する免疫系及び/又は医療のためにより猶予を与えるために好都合である。本発明の方法は、腸内微生物叢が再組織化してClostridium細菌を拒絶するためのさらなる時間も提供する。細菌の緩慢化された発生の結果、感染の症候軽減又は感染の症候の全体的な抑制までもがもたらされ得る。
【0063】
本発明に関連して、Clostridium細菌の鈍化は、その細胞ライフの各相及び発生において起こり得る。本発明はしたがって、対象の消化管に存在する増殖性細菌及び/又は芽胞の数を低減するための方法を提供する。結果的に起こる低減は、対象により排出されて環境を汚染させる潜在性があり、環境を同じくしている他の対象での当該疾患のさらなる発現を潜在的に刺激する可能性がある細菌及び/又は芽胞の数も、結果として低減し得る。
【0064】
本発明の1つの実施形態では、吸着剤は他の任意の処置と独立に投与される。本発明の目的はしたがって、患者の微生物叢の任意の誘導された破壊がなくても、Clostridium細菌のライフサイクル全体での成長及び/又は発達を防止することである。このように、特定の態様では、本発明はClostridium細菌のライフサイクル全体での成長及び/又は発達を防止又は鈍化するための方法であって、それを必要とする対象へ吸着剤を投与することを含み、その患者は同時に抗生物質で処置されていない方法を提供する。本発明に関連して、「患者は同時に抗生物質で処置されていない」という表現は、吸着剤が投与される日、及び場合により、吸着剤が投与される日の前に抗生物質を投与されない患者を言う。別の実施形態では、吸着剤の投与と同日に抗生物質が投与されないことに加えて、吸着剤の投与前の1~30日、たとえば吸着剤の投与前の1~25日など、1~20日など、1~15日など、1~10日など、1~9日、1~8日、1~7日、1~6日、1~5日、1~4日、1~3日又は1~2日などに、患者が抗生物質の処置を受けなかった。別の実施形態では、吸着剤の投与と同日に抗生物質が投与されないことに加えて、吸着剤の投与後の1~30日、たとえば吸着剤の投与後の1~25日など、1~20日など、1~15日など、1~10日など、1~9日、1~8日、1~7日、1~6日、1~5日、1~4日、1~3日又は1~2日などに、患者が抗生物質の処置を受けなかった。
【0065】
本発明の目的は、Clostridium細菌の病原性又は毒性を抑制する方法であって、前記細菌の環境をインビトロ、エクスビボ又はインビボで吸着剤に曝すことを含む方法にも存する。このような方法は、実験室又は任意の環境において、とりわけインビボで、Clostridium細菌の毒性をコントロールするのに使用されてもよい。このような方法は、哺乳動物においてインビボでClostridium関連疾患を回避するのに使用されることもできる。
【0066】
特定の実施形態では、疾患の伝播を防止、及びCDADの負担又は重症度又は罹患率又は死亡率を低減するのに、対象が蔓延に冒されていれば、すなわちClostridiumに感染されれば、吸着剤がClostridium difficileの蔓延のあいだに予防的に対象へ投与される。
【0067】
別の特定の実施形態では、患者の環境において芽胞形成及び芽胞の放出を防止するのに、Clostridium difficile感染症のエピソード後に吸着剤は対象へ投与され、したがって、患者の環境におけるさらなる感染のリスクを低減し、病院、療養所(nursing homes)などを含む保健施設において、又は他の任意の生活環境において蔓延を予防する。
【0068】
別の実施形態では、Clostridium difficile感染症の重症度を低減するために、吸着剤は対象へ投与される。
【0069】
別の実施形態では、Clostridium difficile感染症後の患者の回復を加速するために、吸着剤は対象へ投与される。
【0070】
別の実施形態では、Clostridium difficile感染症の再発、すなわち、同じか又は別の株による新規なClostridium difficile感染症エピソードの発生を、前回のClostridium difficile感染症エピソード終了後90日までの期間に防止するために、吸着剤は対象へ投与される。
【0071】
本発明は、たとえば保健施設において、Clostridium difficileの蔓延のあいだ及び/又は蔓延後に、芽胞形成及び芽胞の放出を防止し、蔓延の全体的な深刻度を低減するのに、対象を処置すべく使用されてもよい。
【0072】
本発明は、Clostridium difficileの病原性を変えることにより回復を早め再発の機会を低減するために、Clostridium difficile感染症後に対象を処置すべく使用されることができる。
【0073】
本発明はまた、Clostridium difficileに接触するリスクにある対象、たとえばCDADの患者と接触する医療職員、又はCDADに冒された及び/若しくはClostridiumに感染した患者の家族のメンバーを処置するのに特に好適である。
【0074】
本発明は、抗生物質を摂取している患者、50超又は好ましくは65超、又はより一層好ましくは75超の患者、最近の入院歴がある患者などといった、CDADのリスクにある患者において、CDAD発生を防止するか、又はCDADエピソード(本発明での初期の処置にかかわらずエピソードが発生した場合)の重症度を低減するため適切に使用されることができる。
【0075】
本発明はさらに、新規抗生物質治療、新規入院又は新規免疫抑制治療よりも前の年々にCDADの以前のエピソードがあった患者などといった、CDADのリスクが高い患者において使用されることができる。
【0076】
本発明はさらに、Clostridium、特にClostridium difficileを既に保菌する患者において、CDADの任意の発現を防止し、細菌の病原性を低減するのに使用されることができる。
【0077】
本発明のさらなる態様及び利点は、以下の例示的実験セクションに開示される。
実施例
【0078】
実施例1:活性炭は、BHIブロスにおいてC. difficileによる芽胞形成及び毒素の生成を遅延及び抑制する
5mLのBHI(ブレインハートインフュージョン)ブロスを、活性炭(0.05g/mLの濃度の、植物起源の医薬品等級活性炭)を伴って又は伴わずに2時間インキュベーションし、一方5mLのBHIブロスを活性炭製剤を伴わずに2時間インキュベーションする。各サンプルの半分を遠心分離及び0.22μmフィルターを用いて濾過するが、残りの半分は遠心分離及び濾過しない。遠心分離/0.22μmフィルターでの濾過で、活性炭とインキュベーションしたサンプル中の活性炭を除去する。
【0079】
以下の表に、4つの条件を要約する。
【0080】
【表1】

「コントロール」群では、培養BHIブロスは処理されていない。
「回転後コントロール」群では、培養ブロスは遠心分離/濾過されるのみである。
「活性炭」群では、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、活性炭はまだサンプル中に存在する。
「回転後活性炭」ブロスにおいて、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、遠心分離/濾過によってサンプルから活性炭が除去される。
【0081】
全てのブロスは次いで一晩、前還元され、溶存酸素を除去してC. difficile接種前に嫌気性培養条件とする。
【0082】
C. difficileは、CCEYL寒天又はColumbia血液寒天上で48時間、嫌気的に成育される。先に記載したように処理された、前還元されたブロスに、プレートからの成長物(growth)を接種して37℃で嫌気的にインキュベーションする。48時間後に、1mLのアリコートを遠心分離して、上清を毒素試験用に取り出す。加えて、アリコート(500μL)を増殖性細菌及び芽胞算出用に採取する。72時間後に、追加のアリコートを芽胞形成分析用に採取する。増殖性細菌及び芽胞集団を、CCEYL寒天の接種及び位相差鏡検法によって48及び72時間に算出する。
【0083】
毒素試験は、以下のように実施される。試験用のサンプルをPBSで希釈する(10倍連続希釈)。希釈されていない(すなわち、培養上清)及び希釈されたサンプルを、Vero細胞単層に二重反復で添加する。C. sordellii抗毒素を用いて中和することにより作用の特異性を調べる。BHIブロス中のC. difficileリボタイプ027の培養上清を、陽性技術コントロール(毒素力価:約4RU)として使用する。48時間後に、細胞ラウンディングを顕微鏡によって調べる。単層の80%にラウンディングが観察されれば陽性と考えられる。陽性の、希釈されていないサンプルが1の力価とされ、陽性1:10希釈サンプルが2の力価、等々とされる。サンプル取りは2つの別々の単層上で反復される(技術反復)。
【0084】
寒天算出は、以下のように実施される。サンプルをペプトン水で(アルコールショックを伴って又は伴わずに)希釈し(10倍連続希釈)、C. difficile総数及び芽胞カウント数(アルコールショック後)をBrazier’s CCEYL寒天上で算出した。各希釈液(20μL)を4分の1寒天板上へ播種してコロニー(20~100cfu/希釈の間)を48時間後に計数する。
【0085】
位相差鏡検法は、以下のように実施される。70μL培養液を鏡検スライド上に載置し、50℃で熱固定する。70μLの溶融Wilkins-Chalgren寒天とカバーガラスを用いてサンプルをオーバーレイする。寒天が乾燥すれば、百分率明相(phase bright)芽胞、暗相(phase dark)芽胞及び増殖性細菌を求める(少なくとも3つの異なる視野から三重に100エンティティをカウントする)。
【0086】
前記プロセスを、リボタイプ001、027及び078として公知であるC. difficileの3つの株につき反復する。
【0087】
図1は、先に説明したように活性炭で処理した又は処理しなかったBHIブロスにおける培養48時間後の、C. difficile細菌及び芽胞のカウント数を示す。図1には、各サンプルにおける培養48時間後の毒素力価も示す。
【0088】
図1は、活性炭でのBHIブロスの処理が効果的に、C. difficile細菌の病原性を抑制したことを示す。より具体的には、ブロスが活性炭で前処理された2群では、芽胞のカウント数に少なくとも1ログの実質的な低減(すなわち、>90%の減少)が観察された。さらに、ブロスが活性炭で前処理された2群では、毒素力価の非常に顕著な低減(2単位を超える差で、すなわち、少なくとも100倍)が早くも処置後48時間後に測定された。注目すべきことに、Clostridium difficile細菌接種の前、ブロスを活性炭に一時的にしか曝さなかった回転後活性炭群でも、このような効果は観察された。これらの結果は、培養培地を活性炭に曝すことは、Clostridium difficileの芽胞形成及びこれによる毒素の生成及び遊離を遅延又は抑制したことを示し、Clostridium difficileの毒性の非常に顕著な喪失を立証している。
【0089】
実施例2:活性炭は、糞便スラリーブロスにおいてC. difficileによる芽胞形成及び毒素の生成を遅延及び抑制する
Freeman, J., O'Neill, F. J., and Wilcox, M. H. Effects of cefotaxime and desacetylcefotaxime upon Clostridium difficile proliferation and toxin production in a triple-stage chemostat model of the human gut(ヒト消化管の三段階ケモスタットモデルにおける、セフォタキシム及びデスアセチルセフォタキシムのClostridium difficile増殖及び毒素生成に対する効果). Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2003; 52: 96-102に記載のように、健康なドナーからプールされた糞便の10%スラリーを、前還元された消化管モデルブロスにて生成する。
【0090】
5mLの本糞便スラリーブロスを、活性炭(0.05g/mLの濃度の、植物起源の医薬品等級活性炭)を伴って又は伴わずに2時間インキュベーションする。各サンプルの半分を遠心分離及び0.22μmフィルターを用いて濾過するが、残りの半分は遠心分離及び濾過しない。遠心分離/0.22μmフィルターでの濾過で、活性炭とインキュベーションしたサンプル中の活性炭を除去する。
【0091】
以下の表に、4つの条件を要約する。
【0092】
【表2】

「コントロール」群では、培養糞便スラリーブロスは処理されていない。
「回転後コントロール」群では、培養ブロスは遠心分離/濾過されるのみである。
「活性炭」群では、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、活性炭はまだサンプル中に存在する。
「回転後活性炭」ブロスにおいて、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、遠心分離/濾過によってサンプルから活性炭が除去される。
【0093】
実験は、実施例1に示す操作方法で行なわれる。
【0094】
図2は、先に記載したように活性炭で処理した又は処理しなかった糞便スラリーブロスにおける培養48時間後の、C. difficile細菌及び芽胞のカウント数を示す。図2には、各サンプルにおける培養48時間後の毒素力価も示す。
【0095】
図2は、活性炭での糞便スラリーブロスの処理が効果的に、C. difficile細菌の病原性を抑制したことを示す。より具体的には、糞便スラリーブロスが活性炭で前処理された2群では、芽胞のカウント数に少なくとも2ログの実質的な低減(すなわち、>99%の低減)が培養の48時間後に観察された。さらに、糞便スラリーブロスが活性炭で前処理された2群では、毒素力価の非常に顕著な低減(1単位を超える差で、すなわち、少なくとも10倍)が早くも処置後48時間に測定された。注目すべきことに、Clostridium difficile細菌接種の前、糞便スラリーブロスを活性炭に一時的にしか曝さなかった回転後活性炭群でも、このような効果は観察された。これらの結果は、糞便スラリーブロスを活性炭に曝すことは、Clostridium difficileによる芽胞形成及び毒素遊離を遅延又は抑制したことを示し、Clostridium difficileの毒性の非常に顕著な喪失を立証している。
【0096】
実施例3:活性炭は、消化管モデルブロスにおいてC. difficileによる芽胞形成及び毒素の生成を遅延又は抑制する
【0097】
5mLの前還元された消化管モデルブロス(GMブロス)(Freeman, J., O'Neill, F. J., and Wilcox, M. H. Effects of cefotaxime and desacetylcefotaxime upon Clostridium difficile proliferation and toxin production in a triple-stage chemostat model of the human gut(ヒト消化管の三段階ケモスタットモデルにおける、セフォタキシム及びデスアセチルセフォタキシムのClostridium difficile増殖及び毒素生成に対する効果). Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2003; 52: 96-102.)を、活性炭(0.05g/mLの濃度の、植物起源の医薬品等級活性炭)を伴って又は伴わずに2時間インキュベーションする。各サンプルの半分を遠心分離及び0.22μmフィルターを用いて濾過するが、残りの半分は遠心分離及び濾過しない。遠心分離/0.22μmフィルターでの濾過で、活性炭とインキュベーションしたサンプル中の活性炭を除去する。
【0098】
以下の表に、4つの条件を要約する。
【0099】
【表3】

「コントロール」群では、培養GMブロスは処理されていない。
「回転後コントロール」群では、培養ブロスは遠心分離/濾過されるのみである。
「活性炭」群では、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、活性炭はまだサンプル中に存在する。
「回転後活性炭」ブロスにおいて、培養ブロスは活性炭を伴って2時間インキュベーションされ、遠心分離/濾過によってサンプルから活性炭が除去される。
【0100】
実験は、実施例1に示す操作方法で行なわれる。
【0101】
図3は、先に記載したように活性炭で処理した又は処理しなかった消化管モデルブロスにおける培養48時間後の、C. difficile細菌及び芽胞のカウント数を示す。図3には、各サンプルにおける培養48時間後の毒素力価も示す。
【0102】
図3は、活性炭での処理が効果的に、C. difficile細菌の病原性を抑制したことを示す。より具体的には、GMブロスが活性炭で前処理された2群では、芽胞のカウント数に少なくとも1ログの実質的な低減(すなわち、>90%の低減)が観察された。さらに、GMが活性炭で前処理された2群では、毒素力価の非常に顕著な低減(2単位を超える差で、すなわち、少なくとも100倍)が培養の48時間後に測定された。注目すべきことに、Clostridium difficile細菌接種の前、活性炭に一時的にしか曝さなかった回転後活性炭群でも、このような効果は観察された。これらの結果は、GMを活性炭に曝すことは、Clostridium difficileによる芽胞形成及び毒素遊離を遅延又は抑制したことを示し、Clostridium difficileの毒性の非常に顕著な喪失を立証している。
【0103】
実施例4:活性炭は、3種の異なるC. difficile株用のBHIブロスにおいて毒素の生成を遅延又は抑制する
【0104】
BHI培地のアリコートを調製及び前還元する。活性炭(0.05g/mLの濃度の、植物起源の医薬品等級活性炭)を、C. difficile接種の3時間前;C. difficile接種と同時;又は接種3、6時間後、の異なる時点で成長培地に添加する。次いで、C. difficile接種後6、24及び48時間に毒素力価を測定した。コントロール群の成長培地においては、活性炭をインキュベーションしない。
【0105】
成育、接種及び毒素力価の測定は、実施例1に示す操作方法で行なわれる。
【0106】
図4、5及び6は、活性炭での処理が効果的に、C. difficile細菌の病原性を抑制したことを示す。より具体的には、ブロスが活性炭で処理された群の全てで、毒素の力価に少なくとも1単位、毒素の力価の差が4単位までの、実質的な低減が示されている。
【0107】
これらのデータは、環境を活性炭に予め曝すことで、Clostridium細菌の保菌又は毒性が効果的に防止されることを示す。特に、細菌の接種3時間前に、培地を活性炭に曝すと、接種後48時間でも培地中に実質的に毒素は検出されず、接種された細菌が非病原性となったことを示している。
【0108】
同様に、細菌の接種と同時又は接種後最初の6時間以内に培地を活性炭に曝すと、接種後48時間でも培地中に実質的に毒素が検出されない。これらの結果からさらに、活性炭がClostridium関連疾患を効果的に処置できることが確認される。
【0109】
実施例5:活性炭は、3種の異なるC. difficile株用のBHIブロスにおいて芽胞の発芽を遅延又は抑制する
【0110】
8mLのBHIブロスを、活性炭(0.05g/mLの濃度の、植物起源の医薬品等級活性炭)を伴って又は伴わずに2時間インキュベーションし(回転後AC群)、一方8mLのBHIブロスを活性炭製剤を伴わずに2時間インキュベーションする(コントロール群)。活性炭とインキュベーションしたサンプルを次いで、遠心分離及び0.22μmフィルターを用いて濾過する。遠心分離/0.22μmフィルターでの濾過で、活性炭とインキュベーションしたサンプル中の活性炭を除去する。
【0111】
C. difficile芽胞調製物(約10CFU/mL)を各アリコートに接種し、37℃で嫌気的にインキュベーションする。24及び48時間に500μLのサンプルを採取し、寒天及び位相差鏡検法によって増殖性細菌及び芽胞を算出する。寒天及び位相差鏡検法での算出は、実施例1に示す操作方法で行なわれる。
【0112】
図7は、培養の24時間及び48時間後のC. difficile芽胞の物理的状態を示す。明相細胞は、未発芽の芽胞に該当する。暗相細胞は、発芽中の芽胞に該当する。増殖性細胞は、芽胞の発芽後の成熟細菌に該当する。
【0113】
図7に示すように、C. difficileの3種の株につき活性炭でブロスが処理された群では、芽胞を接種した後24時間及び48時間の双方で増殖性細胞の数が少ない。したがって、接種前に活性炭でブロスを処理した群で、明相状態(すなわち、未発芽の芽胞)にある細胞集団の占有率がより高い。
【0114】
これらのデータは、環境を活性炭に予め曝すことがClostridium細菌の芽胞の発芽を効果的に遅延させたことを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7