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特許7029404有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス用材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220224BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 417/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 413/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 407/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 491/048 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 491/14 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20220224BHJP
   C07D 495/04 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
C07D401/14
C07D403/14
C07D417/14
C07D413/14
C07D407/14
C07D491/048
C07D491/14
C07D471/04 103S
C07D471/04 103
C07D495/04 105A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018547514
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036111
(87)【国際公開番号】W WO2018079211
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2016211454
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308014846
【氏名又は名称】メルク パテント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 信也
(72)【発明者】
【氏名】杉野 元昭
(72)【発明者】
【氏名】谷 邦夫
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/104118(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0034938(US,A1)
【文献】国際公開第2016/152855(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/065073(WO,A1)
【文献】特開2011-166070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H01L 51/50 ー 51/56
H05B 33/26
C07D 401/14
C07D 403/14
C07D 417/14
C07D 413/14
C07D 407/14
C07D 491/048
C07D 491/14
C07D 471/04
C07D 495/04
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、発光層を含む複数の有機機能層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機機能層が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(式中、Lは、少なくとも一つのアリール環又はヘテロアリール環を表し、キナゾリニル基及びA 1 との連結部位以外の部位に置換基としてアリール環、ヘテロアリール環、アルキル基、シアノ基又は-C(=O)N(CH 3 2 基を有してもよい。
11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、下記に示す含窒素ヘテロアリール環基を表し、かつ、Lと連結しない置換基のうち、前記含窒素ヘテロアリール環基を表さないものはアルキル基、又はアリール基を表す。
1は、少なくとも一つの5員又は6員のヘテロアリール環基を表し、置換基としてアリール環、ヘテロアリール環を有してもよい。
前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基である。)
【請求項2】
前記R11、前記R12、前記R13、前記R14、前記R15、又は前記R16が、Lと連結する請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記R11~R16のうち、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、トリアジン環、アザジベンゾフラン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、キナゾリン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、及びピラゾール環から選ばれる置換基である請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層と、前記陰極との間に前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層を有する請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記陰極が、銀を主成分としており、
前記有機機能層が、前記陰極に隣接して設けられている請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記陰極の厚さが、15nm以下である請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記陰極の透過率が、50%以上であり、かつ
当該陰極のシート抵抗が、25Ω以下である請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記有機機能層として、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物及び電子注入材料を含有する前記有機機能層を有する請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層、電子注入材料を含有する電子注入層及び前記陰極の順に積層されていること特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス用材料。
【化2】
(式中、Lは、少なくとも一つのアリール環又はヘテロアリール環を表し、キナゾリニル基及びA 1 との連結部位以外の部位に置換基としてアリール環、ヘテロアリール環、アルキル基、シアノ基又は-C(=O)N(CH 3 2 基を有してもよい。
11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、下記に示す含窒素ヘテロアリール環基を表し、かつ、Lと連結しない置換基のうち、前記含窒素ヘテロアリール環基を表さないものはアルキル基、又はアリール基を表す。
1は、少なくとも一つの5員又は6員のヘテロアリール環基を表し、置換基としてアリール環、ヘテロアリール環を有してもよい。
前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機エレクトロルミネッセンス用材料に関する。より詳しくは、駆動電圧及び耐久性が改善された有機エレクトロルミネッセンス素子等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極とで挟んだ構成を有する。これに、電界を印加することにより、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子を発光層内で再結合させることで励起子(エキシトン)を生成させる。このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・リン光)を利用した発光素子である。また、有機EL素子は、電極と電極の間を厚さが僅かサブミクロン程度である有機材料の膜で構成する全固体素子であり、数V~数十V程度の電圧で発光が可能であることから、次世代の平面ディスプレイや照明への利用が期待されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス用材料(以下、有機EL用材料ともいう。)は、絶縁性の有機分子であることから、陽極と陰極から直接ドーパントに電子と正孔を注入することができない(いわゆるオーム則に従う電荷注入ができない)。
すなわち、陽極と発光層の間のエネルギー障壁が大きいために、直接正孔注入できず、この絶縁物である有機物に電荷を注入・輸送するためには、超薄膜(100nm以下)にすることと、エネルギー障壁を小さくすることが必要である。
したがって、陽極と発光層の間に、中間のエネルギーを持つ薄膜の正孔注入輸送層が必要となる。また、電子側にも同じように、電子注入・輸送層が必要である。
さらに、電荷は有機分子のπ共役部位間をホッピング移動することが大原則であるため、全ての有機EL材料はベンゼンやピリジンなどを代表とする芳香族化合物を組み合わせた化学構造を持つ化合物が採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
具体的には、図1で示すように陰極から有機分子のLUMOエネルギー準位に電子が注入され、アニオンラジカルが形成されると考えられている。アニオンラジカルは不安定であるため隣接する分子に電子を受け渡す。この過程を連続的に繰り返すと、あたかも電子だけが模式図の右側から中央に移動しているように見える。このように、有機EL素子を低電圧で駆動させるには、特に、電子輸送材料に、電子ホッピングが速い材料が求められている。
例えば、特許文献2には、窒素含有芳香族化合物を用いることが記載されているが、さらに性能を向上させることができる化合物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-166070号公報
【文献】国際公開第2013/161602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、駆動電圧及び耐久性が改善された有機エレクトロルミネッセンス素子及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる有機エレクトロルミネッセンス用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、特定構造の化合物を有機機能層に含有することで電子ホッピングの速度を向上させることができ、駆動電圧及び耐久性の改善につながることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.陽極と、発光層を含む複数の有機機能層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記有機機能層が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Lは、少なくとも一つのアリール環又はヘテロアリール環を表し、キナゾリニル基及びA 1 との連結部位以外の部位に置換基としてアリール環、ヘテロアリール環、アルキル基、シアノ基又は-C(=O)N(CH 3 2 基を有してもよい。
11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、下記に示す含窒素ヘテロアリール環基を表し、かつ、Lと連結しない置換基のうち、前記含窒素ヘテロアリール環基を表さないものはアルキル基、又はアリール基を表す。
1は、少なくとも一つの5員又は6員のヘテロアリール環基を表し、置換基としてアリール環、ヘテロアリール環を有してもよい。
前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基である。)
【0012】
.前記R11、前記R12、前記R13、前記R14、前記R15、又は前記R16が、Lと連結する第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0013】
.前記R11~R16のうち、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、トリアジン環、アザジベンゾフラン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、キナゾリン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環及びピラゾール環から選ばれる置換基である第1項又は2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
.前記発光層と、前記陰極との間に前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層を有する第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
.前記陰極が、銀を主成分としており、前記有機機能層が、前記陰極に隣接して設けられている第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
.前記陰極の厚さが、15nm以下である第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
.前記陰極の透過率が、50%以上であり、かつ
当該陰極のシート抵抗が、25Ω以下である第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
.前記有機機能層として、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物及び電子注入材料を含有する前記有機機能層を有する第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
.前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層、電子注入材料を含有する電子注入層及び前記陰極の順に積層されていること特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
11.下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス用材料。
【0021】
【化2】
【0022】
(式中、Lは、少なくとも一つのアリール環又はヘテロアリール環を表し、キナゾリニル基及びA 1 との連結部位以外の部位に置換基としてアリール環、ヘテロアリール環、アルキル基、シアノ基又は-C(=O)N(CH 3 2 基を有してもよい。
11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、下記に示す含窒素ヘテロアリール環基を表し、かつ、Lと連結しない置換基のうち、前記含窒素ヘテロアリール環基を表さないものはアルキル基、又はアリール基を表す。
1は、少なくとも一つの5員又は6員のヘテロアリール環基を表し、置換基としてアリール環、ヘテロアリール環を有してもよい。
前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基である。)
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、駆動電圧及び耐久性が改善された有機エレクトロルミネッセンス素子及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる有機エレクトロルミネッセンス用材料を提供することができる。
【0024】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる一般式(1)で表される構造を有する化合物は、分子内に窒素原子を含有する芳香族複素環を有することで、電子ホッピングの速度向上に寄与することを見いだした。
つまり、分子内に、N原子含有の芳香族縮合複素環を導入することにより、分子間相互作用を大きくして、電子ホッピングを強化した。
これは、広い電子雲を有する縮合環を利用したπ-π相互作用と、N原子の不対電子とπ電子間のn-π相互作用の両方を活用して、電子ホッピングを速くすることを達成できたものと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】電荷の輸送・注入機構を示す模式図
図2】有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図
図3】表示部Aの模式図
図4】画素の回路図
図5】パッシブマトリクス方式フルカラー表示装置の模式図
図6】照明装置の概略図
図7】照明装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、発光層を含む複数の有機機能層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機機能層が、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することを特徴とする。前記一般式(1)中、Lは、アリール環又はヘテロアリール環を表す。R11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、含窒素ヘテロアリール環基を表す。Aは、5員又は6員のヘテロアリール環基を表す。この特徴は、下記の本発明の実施態様に共通する技術的特徴である。
【0027】
本発明の実施態様としては、前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0028】
また、前記R11、前記R12、前記R13、前記R14、前記R15が、又は前記R16が、Lと連結することが本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0029】
また、前記R11~R16のうち、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、トリアジン環、アザジベンゾフラン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、キナゾリン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環及びピラゾール環から選ばれる置換基であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0030】
また、前記発光層と、前記陰極との間に前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層を有することが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0031】
また、前記陰極が、銀を主成分としており、前記有機機能層が、前記陰極に隣接して設けられていることが、陰極の膜質を向上させることができるため好ましい。
【0032】
また、前記陰極の厚さが、15nm以下であることが、光透過率を向上させる観点から好ましい。
【0033】
また、前記陰極の透過率が、50%以上であり、かつ当該陰極のシート抵抗が、25Ω以下であることが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0034】
また、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物及び電子注入材料を含有する前記有機機能層を有することが、分子間の相互作用がより強まるため好ましい。
【0035】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層、電子注入材料を含有する電子注入層及び前記陰極の順に積層されていることが、分子間の相互作用がより強まるため好ましい。
【0036】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス用材料は、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することが、本発明の効果発現の観点から好ましい。
【0037】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0038】
《一般式(1)で表される構造を有する化合物》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、発光層を含む複数の有機機能層と、陰極とをこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記有機機能層が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有するものである。
【0039】
【化3】
【0040】
式中、Lは、少なくとも一つのアリール環又はヘテロアリール環を表し、キナゾリニル基及びA 1 との連結部位以外の部位に置換基としてアリール環、ヘテロアリール環、アルキル基、シアノ基又は-C(=O)N(CH 3 2 基を有してもよい。
11~R16は、水素原子又は置換基を表し、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、下記に示す含窒素ヘテロアリール環基を表し、かつ、Lと連結しない置換基のうち、前記含窒素ヘテロアリール環基を表さないものはアルキル基、又はアリール基を表す。
1は、少なくとも一つの5員又は6員のヘテロアリール環基を表し、置換基としてアリール環、ヘテロアリール環を有してもよい。
前記含窒素ヘテロアリール環基が、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基である。
Lが表すアリール環(基)としては、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)が挙げられる。
また、Lが表すヘテロアリール環(基)としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4-トリアゾール-1-イル基、1,2,3-トリアゾール-1-イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す。)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等が挙げられる。
【0041】
一般式(1)で表される構造を有する化合物の代表構造の一部分を以下に示すが、多数の共鳴構造を有していることがわかる。つまり、分子内に多様な分極構造(+、-)が存在する。本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物は、下記パーツを二つ以上有する場合もあるので、更に多様な分極構造を有する。多数の共鳴構造を持つため、異なる構造の分子が多数存在することとなり、マクロでは乱雑な膜を形成しているが、ミクロの分子間相互作用が強まる。
これは、分子間で+電荷と-電荷が強く相互作用し、更に分子間スタックを強化する。
つまり、エントロピー効果が高まるため、有機機能層内の膜質変動を抑制することができ、駆動時の電圧上昇を抑制することができる。
以上より、本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物は、(I)π-π相互作用、(II)n-π相互作用、(III)分子内分極を利用した静電相互作用の三つを
利用して、分子間相互作用を強化し、電子ホッピングを速くすることを達成したものと考えている。
【0042】
【化4】
【0043】
また、剛直な縮合環を導入することで、ガラス転移点の上昇も起こり、更に、上記に記載した多数の共鳴構造を有することから、エントロピー効果により有機機能層内における膜質変動も抑制することができ、駆動時の電圧上昇を抑えることを達成した。
さらには、上記記載のように、多様な分子内分極を有することから、電子注入材料(フッ化リチウム(LiF)、フッ化カリウム(KF)、リチウムキノラート錯体(LiQ)等)との相互作用も大きく、電子注入材料と併用することで、電子注入材料から本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物へ電子供与し、更なる低電圧駆動が可能となる。
【0044】
さらに、違う観点からも、国際公開第2013/161602号に記載しているように、銀を主成分とする電極に対しても有用である。これは、上記特許文献に記載しているように、窒素含有の本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物と銀原子の相互作用が強いことに加えて、多様な分子内分極を有することから銀原子との相互作用も強まるためである。
これにより、さらに銀原子の拡散距離が減少し、銀の凝集を抑えることができ、銀を主成分とした電極の均一膜を達成することもできる。これは、銀原子との相互作用が強い窒素原子を多く含むことが好ましい。
なお、本発明における「主成分」とは、膜又は層中の50質量%以上含有されていることを表し、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含有されていることを表す。
【0045】
また、一般式(1)中、前記含窒素ヘテロアリール環基は、ピラジン環、トリアジン環、ピリミジン環、アザジベンゾフラン環、アザジベンゾチオフェン環、アザカルバゾール環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、キナゾリン環、キノキサリン環、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾキノリン環及びベンゾイソキノリン環のうちから選ばれるヘテロ環基であることが、多数の共鳴構造を有する点から好ましい。
【0046】
また、R11、R12、R13、R14、R15、又はR16は、Lと連結することが好ましい。
【0047】
また、R11~R16のうち、Lと連結しない置換基のうち少なくとも一つが、トリアジン環、アザジベンゾフラン環、アザカルバゾール環、アザジベンゾチオフェン環、キナゾリン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環及びピラゾール環から選ばれる置換基であることが、多数の共鳴構造を有する点から好ましい。
【0048】
本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物は、有機エレクトロルミネッセンス用材料として用いることも好ましい。
【0049】
《一般式(1)で表される構造を有する化合物の合成例》
本発明の一般式(1)で表される構造を有する化合物の合成方法について、例示化合物M-51を例に説明する。
【0050】
【化5】
【0051】
(中間体1の合成)
窒素雰囲気下で、35.3gのピコリノニトリルをメタノール500mLに溶解し、65.5gのナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液を、滴下し室温で2時間撹拌したのち、氷冷下で6時間撹拌した。さらに氷冷下で酢酸41mLを滴下し1時間撹拌した。その後、反応液にアントラニル酸49.3gを添加し加熱還流を12時間行った。反応液を室温まで冷却し、析出した固体を濾取し、メタノールで洗浄し、中間体1を37.9g得た(収率50%)。
【0052】
(中間体2の合成)
20gの中間体1をトルエン140mLに溶解し、12.9gの三塩化リンを加え、さらに13.0gのN,N-ジメチルアニリンを加え、加熱還流を3時間行った。反応液に炭酸カリウム水溶液を加え、弱アルカリ性とし、塩化メチレンで抽出した。有機相は水洗したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去して得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間体2を11.7g得た(収率54%)。
【0053】
(例示化合物M-51の合成)
窒素雰囲気下、6.5gの中間体2、3.6gの中間体3、炭酸カリウム7.5g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム1.5g、をジオキサン150mLと水45mLからなる混合溶媒中で加熱還流を7時間行った。反応液を塩化メチレンで抽出し、有機相は水洗したのち、無水硫酸マグネシウムで乾燥し減圧下で溶媒を留去して得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、例示化合物M-51を2.7g得た(収率51%)。
H-NMR(CDCl,400MHz):8.93(d,2H),8.79(d,2H),8.42-8.39(m,3H),8.27(d,2H),8.14(dd,2H),7.99-7.84(m,5H),7.68-7.64(m,2H),7.44-7.42(m,2H).
【0054】
《一般式(1)で表される構造を有する化合物及び参考例とされる化合物の具体例》
一般式(1)で表される構造を有する化合物及び参考例とされる化合物の具体例を以下に示す。これらの化合物は一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
【化6】
【0056】
【化7】
【0057】
【化8】
【0058】
【化9】
【0059】
【化10】
【0060】
【化11】
【0061】
【化12】
【0062】
【化13】
【0063】
【化14】
【0064】
【化15】
【0065】
【化16】
【0066】
【化17】
【0067】
【化18】
【0068】
《有機EL素子の構成層》
本発明の有機EL素子の構成層について説明する。本発明の有機EL素子において、陽極と陰極との間に挟持される各種有機機能層の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(i)陽極/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
【0069】
更に、発光層ユニットは複数の発光層の間に非発光性の中間層を有していてもよく、該中間層が電荷発生層であるようなマルチフォトンユニット構成であってもよい。この場合、電荷発生層としては、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO、CuGaO、SrCu、LaB、RuO等の導電性無機化合物層や、Au/Bi等の2層膜や、SnO/Ag/SnO、ZnO/Ag/ZnO、Bi/Au/Bi、TiO/TiN/TiO、TiO/ZrN/TiO等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン類、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられる。
本発明の有機EL素子における発光層としては白色発光層であることが好ましく、これらを用いた照明装置であることが好ましい。
本発明の有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0070】
《有機機能層》
本発明の有機EL素子は、陽極と、発光層を含む複数の有機機能層と、陰極とをこの順に有する。すなわち、本発明に係る有機機能層は、陽極と陰極の間に位置することを特徴とする。
本発明の有機EL素子は、複数の有機機能層を有し、当該有機機能層は、発光層を含んでいる。発光層は一つであっても複数であってもよい。
【0071】
また、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物及び電子注入材料を含有する有機機能層を有することが好ましい。すなわち、電子注入層に一般式(1)で表される構造を有する化合物が含まれていることも好ましい。
また、一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する前記有機機能層、電子注入材料を含有する電子注入層及び前記陰極の順に積層されていることも好ましい。
【0072】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極又は電子輸送層及び正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
発光層の層厚の総和は特に制限はないが、膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加することを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、好ましくは2nm~5μmの範囲に調整され、更に好ましくは2~200nmの範囲に調整され、特に好ましくは5~100nmの範囲に調整される。
【0073】
発光層の作製には、後述する発光ドーパントやホスト化合物を用いて、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett法))等を挙げることができる。)等により成膜して形成することができる。
本発明の有機EL素子の発光層には、発光ドーパント(リン光発光性ドーパントや蛍光発光性ドーパント等)化合物と、ホスト化合物とを含有することが好ましい。
【0074】
(1)発光性ドーパント
発光性ドーパント(発光ドーパント、ドーパント化合物、単にドーパントともいう。)について説明する。
発光性ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパント、蛍光性化合物、蛍光発光性化合物ともいう。)、リン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光性化合物、リン光発光性化合物等ともいう。)を用いることができる。
【0075】
(1.1)リン光ドーパント
リン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明で用いられるリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0076】
リン光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こって発光ホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こり、リン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0077】
(1.2)蛍光ドーパント
蛍光ドーパントとしては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等や、レーザー色素に代表される蛍光量子収率が高い化合物が挙げられる。
【0078】
[従来公知のドーパントとの併用]
本発明に用いられる発光ドーパントは、複数種の化合物を併用して用いてもよく、構造の異なるリン光ドーパント同士の組み合わせや、リン光ドーパントと蛍光ドーパントを組み合わせて用いてもよい。
ここで、発光ドーパントとして、従来公知の国際公開第2013/061850号に記載の化合物を好適に用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0079】
[ホスト化合物]
本発明に用いることができるホスト化合物(発光ホスト、発光ホスト化合物ともいう。)は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であり、かつ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0080】
本発明に用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、又は、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0081】
本発明に用いることができる公知のホスト化合物としては正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
また、本発明においては、従来公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、従来公知の化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0082】
また、本発明に用いられるホスト化合物としては、低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(重合性ホスト化合物)でもよく、このような化合物を1種又は複数種用いても良い。
【0083】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物が挙げられる。
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報等である。
【0084】
《陰極》
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものも用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
特に、銀を主成分として構成されていることが好ましく、銀を主成分とする合金は、例えば、銀マグネシウム(AgMg)、銀銅(AgCu)、銀パラジウム(AgPd)、銀パラジウム銅(AgPdCu)、銀インジウム(AgIn)などが挙げられる。
【0085】
銀を主成分とする合金を用いる陰極は、必要に応じて複数の層に分けて積層された構成であってもよい。
陰極の膜厚は、通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。銀を主成分とする合金を用いる場合は、膜厚が、15nm以下であることが好ましく、4~12nmの範囲内であることが好ましい。膜厚が当該範囲内であることにより、膜が吸収又は反射する光の成分を低減することができ、光透過率を維持することができ、かつ層の導電性も確保できる。
【0086】
前述のとおり、陰極が銀を主成分とする場合、一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機機能層に隣接することが好ましい。
一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する有機機能層は、陰極に隣接していることが好ましく、当該有機機能層上に陰極を形成する場合であっても、陰極上に当該有機機能層を形成してもよい。更には、有機機能層上に陰極を形成し、さらに当該陰極上に有機機能層を形成し、陰極を2層の有機機能層で挟持する構成であってもよい。
【0087】
有機機能層の上部に、銀を主成分とする陰極を成膜する際、陰極を構成する銀原子が有機機能層に含有されている一般式(1)で表される構造を有する化合物と相互作用し、有機機能層表面上での銀原子の拡散距離が減少し、特異箇所での銀の凝集(マイグレーション)を抑制することができる。
すなわち、銀原子は、まず銀原子と親和性のある原子を有する有機機能層表面上で2次元的な核を形成し、それを中心に2次元の単結晶層を形成するという層状成長型(Frank-van der Merwe:FM型)の膜成長によって成膜されるようになる。
【0088】
なお、一般的には、有機機能層表面において付着した銀原子が表面を拡散しながら結合して3次元的な核を形成し、3次元的な島状に成長するという島状成長型(Volumer-Weber:VW型)での膜成長により、島状に成膜しやすいと考えられる。
しかし、本発明においては、有機機能層に含有されている一般式(1)で表される構造を有する化合物により、島状成長が抑制され、層状成長が促進されると推察される。
したがって、薄い膜厚でありながらも均一な膜厚の陰極が得られるようになる。その結果、その薄い膜厚により光透過性を保ちつつも、導電性が確保された透明電極とすることができる。
【0089】
また、陰極の上部に有機機能層を成膜した場合、陰極を構成する銀原子が有機機能層に含有されている銀原子と親和性のある原子と相互作用し、運動性が抑制されるものと考えられる。これによって、陰極の表面平滑性が良化することで乱反射を抑制することができ、透過率を向上することが可能である。
このような相互作用によって、熱や温度といった物理刺激に対する陰極の膜質変化が抑制され、耐久性を向上させることができたものと推測している。
【0090】
陰極は、銀を主成分とする合金の他、一般的な電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法で薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.(本明細書において「Ω/sq.」は、単に「Ω」とも表現する。)以下が好ましく、特に25Ω以下であることが好ましい。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合であり、陰極の透過率は、50%以上であることが好ましい。
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で作製した後に、後述する陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0091】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、前述のとおり、一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有することも好ましい。広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層若しくは複数層を設けることができる。さらに、後述する電子注入層に含まれる材料も含有する電子注入輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、電子輸送層の構成材料としては、従来公知の化合物の中から任意のものを選択し併用することも可能である。
【0092】
電子輸送層に用いられる従来公知の材料(以下、電子輸送材料という。)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の多環芳香族炭化水素、複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボリン誘導体、又は、該カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の少なくとも一つが窒素原子で置換されている環構造を有する誘導体、ヘキサアザトリフェニレン誘導体等が挙げられる。
更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引性基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も電子輸送材料として用いることができる。
これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0093】
また、8-キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも電子輸送材料として用いることができる。
また、n型-Si、n型-SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0094】
電子輸送層は電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett法)等を挙げることができる。))等により、薄膜化することで形成することが好ましい。
【0095】
電子輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5~5000nm程度、好ましくは5~200nmである。この電子輸送層は上記材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよい。
また、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントをドープして用いてもよい。
【0096】
本発明の有機EL素子の電子輸送層の形成に好ましく用いられる従来公知の電子輸送材料の一例として、国際公開第2013/061850号に記載の化合物を好適に用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0097】
《注入層:電子注入層(陰極バッファー層)、正孔注入層》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、陽極と発光層又は正孔輸送層の間、及び陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させてもよい。
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機機能層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0098】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体バッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体層等が挙げられる。
【0099】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウム、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウム、フッ化セシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm~5μmの範囲が好ましい。
【0100】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記のごとく有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11-204258号公報、同11-204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0101】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げた、カルバゾール誘導体、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン環を構成する炭素原子のいずれか一つが窒素原子で置き換わったものをいう。)を含有することが好ましい。
【0102】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の層厚としては、好ましくは3~100nmであり、更に好ましくは5~30nmである。
【0103】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
【0104】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノフェニル;N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(3-メチルフェニル)-〔1,1′-ビフェニル〕-4,4′-ジアミン(TPD);2,2-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)プロパン;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′-テトラ-p-トリル-4,4′-ジアミノビフェニル;1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン;ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′-ジフェニル-N,N′-ジ(4-メトキシフェニル)-4,4′-ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノジフェニルエーテル;4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N-トリ(p-トリル)アミン;4-(ジ-p-トリルアミノ)-4′-〔4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4-N,N-ジフェニルアミノ-(2-ジフェニルビニル)ベンゼン;3-メトキシ-4′-N,N-ジフェニルアミノスチルベン;N-フェニルカルバゾール、更には米国特許第5061569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4-308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが三つスターバースト型に連結された4,4′,4″-トリス〔N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0105】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、p型-Si、p型-SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0106】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
【0107】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
正孔輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種又は2種以上からなる1層構造であってもよい。
【0108】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
本発明においては、このようなp性の高い正孔輸送層を用いることが、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0109】
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、ITO、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。
また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0110】
また、導電性有機化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等の湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0111】
《支持基板》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0112】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等のフィルムを挙げることができる。
【0113】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が0.01g/m・24h以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/m・24h・atm以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/m・24h以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
【0114】
ガスバリアー層を形成する材料としては、水分や酸素等の素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機機能層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0115】
ガスバリアー層の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0116】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し収率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子収率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を、蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0117】
《有機EL素子の作製方法》
有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層(電子注入層)/陰極からなる素子の作製方法について説明する。
まず、適当な基板上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10~200nmの膜厚になるように形成させ、陽極を作製する。
次に、この上に素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極バッファー層等の有機化合物を含有する薄膜を形成させる。
【0118】
薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう。)等により成膜して形成することができる。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法等があるが、精密な薄膜が形成可能で、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・to・ロール方式適性の高い方法が好ましい。また、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。
【0119】
本発明に用いられる発光ドーパント等の有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0120】
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50~200nmの範囲の膜厚になるように形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
また、順序を逆にして、陰極、陰極バッファー層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
本発明の有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0121】
《封止》
本発明に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0122】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。
また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等から形成されたものを挙げることができる。
金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブデン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる1種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0123】
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
更には、ポリマーフィルムは、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10-3mL/m・24h・atm以下、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が、1×10-3g/m・24h以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0124】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0125】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0126】
また、有機機能層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に当該電極と有機機能層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、当該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
更に、当該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0127】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0128】
《保護膜、保護板》
有機機能層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜、又は前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、又は保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0129】
《光取り出し》
有機EL素子は空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7~2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15~20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げるためである。
【0130】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(基板と外界間を含む。)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)等がある。
【0131】
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、又は基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(基板と外界間を含む。)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明はこれらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度又は耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0132】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど外部への取り出し効率が高くなる。
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5~1.7程度であるので、低屈折率層は屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。また、更に1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0133】
全反射を起こす界面若しくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は回折格子が一次の回折や二次の回折といったいわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間若しくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0134】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0135】
回折格子を導入する位置としては前述のとおり、いずれかの層間若しくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。
このとき、回折格子の周期は媒質中の光の波長の約1/2~3倍程度が好ましい。
回折格子の配列は正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0136】
《集光シート》
本発明の有機EL素子は基板の光取り出し側に、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、又はいわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10~100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
【0137】
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。
プリズムシートの形状としては、例えば、基材に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
また、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
【0138】
《用途》
本発明の有機EL素子は、電子デバイス、表示装置、ディスプレイ、各種発光装置として用いることができる。発光装置として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではない。特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
【0139】
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよい。素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
【0140】
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図7.16において、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合には、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/mでのCIE1931表色系における色度がX=0.33±0.07、Y=0.33±0.1の領域内にあることをいう。
【0141】
《表示装置》
本発明の有機EL素子は、表示装置に用いることもできる。表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
【0142】
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として電圧2~40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が-の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0143】
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0144】
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
図2は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
【0145】
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B、表示部Aと制御部Bとを電気的に接続する配線部C等を有する。
制御部Bは表示部Aと配線部Cを介して電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線ごとの画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
【0146】
図3はアクティブマトリクス方式による表示装置の模式図である。
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部Cと複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図3においては、画素3の発光した光(発光光L)が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。
【0147】
配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。
発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
【0148】
次に、画素の発光プロセスを説明する。図4は画素の回路を示した概略図である。
画素は、有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色及び青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
【0149】
図4において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
【0150】
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
【0151】
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
すなわち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
【0152】
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
【0153】
図5は、パッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図5において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した表示装置が得られた。
【0154】
<照明装置>
本発明の有機EL素子は、照明装置に用いることもできる。
本発明の有機EL素子は、共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよい。このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
また、本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、パッシブマトリクス方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。または、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を2種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
【0155】
例えば、複数の発光材料を用いる場合、複数の発光色を同時に発光させて、混色することで白色発光を得ることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色及び青色の三原色の三つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した二つの発光極大波長を含有したものでもよい。
【0156】
また、本発明の有機EL素子の形成方法は、発光層、正孔輸送層又は電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよい。他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法及び印刷法等で、例えば、電極膜を形成でき、生産性も向上する。
この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
【0157】
[照明装置の一態様]
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図6及び図7に示すような照明装置を形成することができる。
図6は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子(照明装置内の有機EL素子101)はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、照明装置内の有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図7は、照明装置の断面図を示し、図7において、105は陰極、106は有機機能層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
本発明の有機EL素子を用いることにより、発光効率が向上した照明装置が得られた。
【実施例
【0158】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り、「質量部」又は「質量%」を表す。
[実施例1]
(有機EL素子の作製)
<有機EL素子1-1の作製>
50mm×50mm、厚さ0.7mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を150nmの厚さで成膜し、パターニングを行った後、このITO透明電極を付けた透明基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った後、この透明基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を、各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0159】
真空度1×10-4Paまで減圧した後、HAT-CN(1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル)の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒でITO透明電極上に蒸着し、層厚10nmの正孔注入輸送層を形成した。
【0160】
次いで、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔注入層上に蒸着し、層厚40nmの正孔輸送層を形成した。ホスト化合物としてCBP(4,4′-Bis(carbazol-9-yl)biphenyl)、発光ドーパントとしてIr(ppy)を、それぞれ90%、10%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚30nmの発光層を形成した。
【0161】
その後、比較1化合物とLiQ(8-hydroxyquinolinato lithium)をそれぞれ50%、50%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0162】
さらに、LiQを膜厚2nmで形成した後に、アルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成した。
【0163】
上記素子の非発光面側を、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下で、缶状ガラスケースで覆い、電極取り出し配線を設置して、有機EL素子1-1を作製した。
【0164】
【化19】
【0165】
<有機EL素子1-2~1-66の作製>
電子輸送層(1)、(2)及び電子注入層に含有させる化合物等を表1及び表2に示すように変えた以外は有機EL素子1-1と同様の方法で有機EL素子1-2~1-66を作製した。
【0166】
(評価)
(1)相対駆動電圧の測定
作製した各有機EL素子について、各有機EL素子の透明電極側(すなわち透明基板側)と、対向電極側(すなわち陰極側)との両側での正面輝度を測定し、その和が1000cd/mとなるときの電圧を駆動電圧(V)として測定した。なお、輝度の測定には、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ製)を用いた。
上記で得られた駆動電圧を下記式に当てはめて、有機EL素子1-1の駆動電圧に対する、各有機EL素子の相対駆動電圧を求めた。
相対駆動電圧(%)=(各有機EL素子の駆動電圧/有機EL素子1-1の駆動電圧)×100
得られた数値が小さいほど、好ましい結果であることを表す。
【0167】
(2)高温保存下での相対駆動電圧変化の測定
上記作製した有機EL素子を、温度80℃で、2.5mA/cmの定電流条件下で発光させ、発光開始直後の駆動電圧と、開始100時間後の駆動電圧を測定した。
【0168】
得られた高温保存前と保存後の駆動電圧を比較して、駆動電圧の変化量(高温保存前の駆動電圧から高温保存後の駆動電圧を差し引いた値)を求めた。
上記で得られた駆動電圧の変化量を下記式に当てはめて、有機EL素子1-1の駆動電圧変化量に対する、各有機EL素子の駆動電圧変化量の相対値を高温保存下での相対駆動電圧変化として求めた。
高温保存による相対駆動電圧変化量(%)=(各有機EL素子の駆動電圧変化量/有機EL素子1-1の駆動電圧変化量)×100
【0169】
(3)色ずれ
作製した各有機EL素子について、初期の発光スペクトルを測定して、CIE色度座標のx値及びy値を求めた。更に、駆動後(輝度が50%となった時の)発光スペクトルから、x値及びy値を求めた。この初期と駆動後のx値及びy値の差を、色度座標上の距離から求めて、有機EL素子1-1の素子の距離を100として相対値で示した。
【0170】
【表1】
【0171】
【表2】
【0172】
[実施例2]
(有機EL素子の作製)
50mm×50mm、厚さ0.7mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を150nmの厚さで成膜し、パターニングを行った後、このITO透明電極を付けた透明基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った後、この透明基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を、各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0173】
真空度1×10-4Paまで減圧した後、HAT-CN(1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル)の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒でITO透明電極上に蒸着し、層厚10nmの正孔注入輸送層を形成した。
【0174】
次いで、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔注入層上に蒸着し、層厚40nmの正孔輸送層を形成した。
【0175】
ホスト化合物としてCBP、発光ドーパントとしてIr(ppy)を、それぞれ90%、10%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚30nmの発光層を形成した。
【0176】
その後、比較2化合物とKFをそれぞれ85%、15%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0177】
この後、銀を蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、膜厚13nmの陰極を形成した。
【0178】
上記素子の非発光面側を、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下で、缶状ガラスケースで覆い、電極取り出し配線を設置して、有機EL素子2-1を作製した。
【0179】
【化20】
【0180】
<有機EL素子2-2~2-42の作製>
電子輸送層の化合物を、表3に記載のとおりに変更した。また、銀とマグネシウムを陰極に使用する場合は、銀とマグネシウムをそれぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.01nm/秒で共蒸着し、膜厚を表3に記載のとおりに変更した以外は有機EL素子2-1と同様にして有機EL素子2-2~2-42を作製した。
【0181】
(評価)
(1)相対駆動電圧の測定
作製した各有機EL素子について、各有機EL素子の透明電極側(すなわち透明基板側)と、対向電極側(すなわち陰極側)との両側での正面輝度を測定し、その和が1000cd/mとなるときの電圧を駆動電圧(V)として測定した。なお、輝度の測定には、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ製)を用いた。
【0182】
上記で得られた駆動電圧を下記式に当てはめて、有機EL素子2-1の駆動電圧に対する、各有機EL素子の相対駆動電圧を求めた。
相対駆動電圧(%)=(各有機EL素子の駆動電圧/有機EL素子2-1の駆動電圧)×100
得られた数値が小さいほど、好ましい結果であることを表す。
【0183】
(2)高温保存下での相対駆動電圧変化の測定
上記作製した有機EL素子を、温度80℃で、2.5mA/cmの定電流条件下で発光させ、発光開始直後の駆動電圧と、開始100時間後の駆動電圧を測定した。
【0184】
得られた高温保存前と保存後の駆動電圧を比較して、駆動電圧の変化量(高温保存前の駆動電圧から高温保存後の駆動電圧を差し引いた値)を求めた。
上記で得られた駆動電圧の変化量を下記式に当てはめて、有機EL素子2-1の駆動電圧変化量に対する、各有機EL素子の駆動電圧変化量の相対値を高温保存下での相対駆動電圧変化として求めた。
高温保存による相対駆動電圧変化量(%)=(各有機EL素子の駆動電圧変化量/有機EL素子2-1の駆動電圧変化量)×100
【0185】
【表3】
【0186】
[実施例3]
(有機EL素子の作製)
50mm×50mm、厚さ0.7mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウム・スズ酸化物)を150nmの厚さで成膜し、パターニングを行った後、このITO透明電極を付けた透明基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った後、この透明基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を、各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0187】
真空度1×10-4Paまで減圧した後、HAT-CN(1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル)の入った蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒でITO透明電極上に蒸着し、層厚10nmの正孔注入輸送層を形成した。
【0188】
次いで、α-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)を蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔注入層上に蒸着し、層厚40nmの正孔輸送層を形成した。
【0189】
ホスト化合物としてCBP、発光ドーパントとしてIr(ppy)を、それぞれ90%、10%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚30nmの発光層を形成した。
【0190】
その後、Alqを蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、層厚30nmの電子輸送層を形成した。
【0191】
その後、比較3化合物とLiQをそれぞれ50%、50%の体積%になるように蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、層厚2nmの電子注入層を形成した。
【0192】
この後、銀とマグネシウムをそれぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.01nm/秒で共蒸着し、膜厚8nmの陰極を形成した。
【0193】
上記素子の非発光面側を、純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下で、缶状ガラスケースで覆い、電極取り出し配線を設置して、有機EL素子3-1を作製した。
【0194】
【化21】
【0195】
<有機EL素子3-2~3-20の作製>
電子輸送層の化合物と、銀とマグネシウムの比率及び陰極の膜厚を、表4に記載のとおりに変更した以外は有機EL素子3-1と同様にして有機EL素子3-2~3-20を作製した。
【0196】
(評価)
(1)相対駆動電圧の測定
作製した各有機EL素子について、各有機EL素子の透明電極側(すなわち透明基板側)と、対向電極側(すなわち陰極側)との両側での正面輝度を測定し、その和が1000cd/mとなるときの電圧を駆動電圧(V)として測定した。なお、輝度の測定には、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ製)を用いた。
【0197】
上記で得られた駆動電圧を下記式に当てはめて、有機EL素子3-1の駆動電圧に対する、各有機EL素子の相対駆動電圧を求めた。
相対駆動電圧(%)=(各有機EL素子の駆動電圧/有機EL素子3-1の駆動電圧)×100
得られた数値が小さいほど、好ましい結果であることを表す。
【0198】
(2)高温保存下での相対駆動電圧変化の測定
上記作製した有機EL素子を、温度80℃で、2.5mA/cmの定電流条件下で発光させ、発光開始直後の駆動電圧と、開始100時間後の駆動電圧を測定した。
【0199】
得られた高温保存前と保存後の駆動電圧を比較して、駆動電圧の変化量(高温保存前の駆動電圧から高温保存後の駆動電圧を差し引いた値)を求めた。
上記で得られた駆動電圧の変化量を下記式に当てはめて、有機EL素子3-1の駆動電圧変化量に対する、各有機EL素子の駆動電圧変化量の相対値を高温保存下での相対駆動電圧変化として求めた。
高温保存による相対駆動電圧変化量(%)=(各有機EL素子の駆動電圧変化量/有機EL素子3-1の駆動電圧変化量)×100
【0200】
【表4】
【0201】
以上より、本発明の有機EL素子は、比較例の有機EL素子よりも相対駆動電圧が低く、高温保存下での相対駆動電圧変化も小さいことから耐久性が優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明の有機EL素子は、電子デバイス、表示装置、ディスプレイ、各種発光装置に用いることができる。発光装置として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス用材料は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる。
【符号の説明】
【0203】
1 ディスプレイ
3 画素
5 走査線
6 データ線
7 電源ライン
10 有機EL素子
11 スイッチングトランジスタ
12 駆動トランジスタ
13 コンデンサー
101 照明装置内の有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機機能層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤
A 表示部
B 制御部
C 配線部
L 発光光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7