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特許7029421ハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220224BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20220224BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220224BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220224BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C09D1/00
C04B41/85 C
C09D7/65
C09D7/61
F01N3/022 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019036272
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139080
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】児玉 優
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178722(JP,A)
【文献】国際公開第2009/014200(WO,A1)
【文献】特開2018-178048(JP,A)
【文献】特開2002-105610(JP,A)
【文献】特表2014-521578(JP,A)
【文献】特開2011-206764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C04B
F01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において0.1~15質量%含むハニカム構造体用コーティング材。
【請求項2】
前記第1のセラミックスファイバーの沈降体積が1.8~5.0mL/gであり、前記第2のセラミックスファイバーの沈降体積が0.7~1.8mL/gである請求項1に記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項3】
前記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、前記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18である請求項1又は2に記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項4】
更に、高分子が分散したコロイド状酸化物を含む請求項1~3のいずれかに記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項5】
前記高分子がラテックスである請求項4に記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項6】
前記コロイド状酸化物がコロイダルシリカである請求項4に記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項7】
更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含む請求項1~6のいずれかに記載のハニカム構造体用コーティング材。
【請求項8】
軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料において0.1~15質量%含むハニカム構造体の外周コーティング。
【請求項9】
前記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、前記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18である請求項8に記載のハニカム構造体の外周コーティング。
【請求項10】
更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含む請求項8又は9のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティング。
【請求項11】
厚さが0.05~4.0mmである請求項8~10のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティング。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティングを有する外周コーティング付きハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体に関する。とりわけ、ハニカム構造体の外周コーティングの靭性を向上させつつ、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制するハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス中の窒素酸化物(NOx)や一酸化炭素(CO)等の有害物質浄化用の触媒をつける担体や排ガス中の微粒子状物質(Particulate Matter:以下PM)を捕集するためのフィルターとして、耐熱性セラミックスでできたハニカム構造体を使用している。セラミックスハニカム構造体は、隔壁が薄く、高気孔率のため機械的強度が小さい。そのため、強度を補い、破損を防ぐことを目的として、研削して一定の径に揃えたハニカム構造体(セル構造体)の外周に、セラミックス粉末を含むスラリー(以下コーティング材)を塗布、乾燥または焼成して外壁を設けている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0003】
フィルターに使用されるハニカム構造体は、例えば、炭化珪素(SiC)等からなる多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有している。このようなハニカム構造体において、それぞれ隣接したセルの端部を、交互に(市松模様状に)目封止することにより、PMを捕集可能なフィルターが得られる。
【0004】
即ち、こうして目封止したハニカム構造体において、一方の端部から所定のセル(流入セル)に排ガスを流入させると、当該排ガスは、多孔質の隔壁を通過して、隣接したセル(流出セル)に移動してから、排出される。そして、排ガスが隔壁を透過する際に、隔壁が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
【0005】
こうしたフィルターの破損を防止するための対策として、フィルター全体を1つのハニカム構造体として製造するのではなく、複数のハニカム形状のセグメント(ハニカムセグメント)を接合してフィルター用のハニカム構造体とすることが提案されている。具体的には、複数のハニカムセグメントを、弾性率が低く変形し易い接合材で一体的に接合したセグメント構造とすることで、再生時にハニカム構造体に作用する熱応力を分散、緩和して、耐熱衝撃性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-269388号公報
【文献】特許第2604876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなハニカム構造体の外壁(すなわちコーティング)を形成するためのコーティング材の靱性を向上するため、主原料のひとつとして、ファイバーを添加する手段は知られている。この場合、直径が細くアスペクト比が大きいファイバーが好適に用いられるが、このようなファイバーはWHOファイバーに定義され、人体に吸引しやすいという欠点があり、安全性に課題を有する。破壊靱性には劣るものの、より安全性が高い繊維系が太くアスペクト比の小さい、すなわちWHOファイバーを含まないファイバーを使用する必要がある。
【0008】
また、ハニカム構造体の外周コーティングの靭性を向上させるにはコーティングの厚さを増やすことが考えられるが、乾燥によるヒビ割れが生じやすくなるリスクがある(例えば、従来の外周コーティングでは厚さ0.25mm以上で乾燥によるクラックの発生が顕著になる傾向がある)。
【0009】
そこで、コーティング材にファイバーを添加することで乾燥クラックを抑制することができるが、この方策も以下のような問題点がある。
【0010】
まず、ファイバーを添加した場合、コーティング材のスラリーの流動性が低下し、外周コーティング表面が荒れたり、ファイバーが詰まったりして、生産性が低下するという問題点がある。また、ファイバーの繊維長が長すぎると、塗布したときにファイバーが一方向に配向してしまい、クラックの抑制効果が十分に得られないという問題点がある。最後に、ファイバーを添加した場合、レーザーに対して発色性のある炭化珪素(SiC)の比率が相対的に低下し、レーザー印字の発色性が低下するという問題点がある。
【0011】
本発明は上記問題を勘案してされたものであり、ハニカム構造体の外周コーティングの靭性を向上させつつ、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制するハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の軸方向の平均長さを有する2種類のセラミックスファイバーをコーティング材に併用することで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において0.1~15質量%含むハニカム構造体用コーティング材。
(2)前記第1のセラミックスファイバーの沈降体積が1.8~5.0mL/gであり、前記第2のセラミックスファイバーの沈降体積が0.7~1.8mL/gである(1)に記載のハニカム構造体用コーティング材。
(3)前記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、前記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18である(1)又は(2)に記載のハニカム構造体用コーティング材。
(4)更に、高分子が分散したコロイド状酸化物を含む(1)~(3)のいずれかに記載のハニカム構造体用コーティング材。
(5)前記高分子がラテックスである(4)に記載のハニカム構造体用コーティング材。
(6)前記コロイド状酸化物がコロイダルシリカである(4)に記載のハニカム構造体用コーティング材。
(7)更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含む(1)~(6)のいずれかに記載のハニカム構造体用コーティング材。
(8)軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において0.1~15質量%含むハニカム構造体の外周コーティング。
(9)前記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、前記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18である(8)に記載のハニカム構造体の外周コーティング。
(10)更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含む(8)又は(9)のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティング。
(11)厚さが0.05~4.0mmである(8)~(10)のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティング。
(12)(8)~(11)のいずれかに記載のハニカム構造体の外周コーティングを有する外周コーティング付きハニカム構造体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハニカム構造体の外周コーティングの靭性を向上させつつ、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制するハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明におけるハニカム構造体の一例を示す図である。
図2】コーティング材中のセラミックスファイバーと乾燥クラックの関係を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体用コーティング材、ハニカム構造体の外周コーティング及び外周コーティング付きハニカム構造体の実施の形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0016】
(1.ハニカム構造体)
図1には、本発明の一実施形態のハニカム構造体を模式的に示す斜視図が記載されている。図示のハニカム構造体100は外周側壁102と、外周側壁102の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで平行に延び、第一底面104が開口して第二底面106に目封止部を有する複数の第1セル108と、外周側壁102の内側に配設され、第一底面104から第二底面106まで平行に延び、第一底面104に目封止部を有し、第二底面106が開口する複数の第2セル110とを備える。また、図示のハニカム構造体100においては、第1セル108及び第2セル110を区画形成する多孔質の隔壁112を備えており、第1セル108及び第2セル110が隔壁112を挟んで交互に隣接配置されており、両底面は市松模様を形成する。図示の実施形態に係るハニカム構造体100においては、すべての第1セル108が第2セル110に隣接しており、すべての第2セル110が第1セル108に隣接している。しかしながら、必ずしもすべての第1セル108が第2セル110に隣接していなくてもよく、必ずしもすべての第2セル110が第1セル108に隣接していなくてもよい。セル108、110の数、配置、形状等及び隔壁112の厚さ等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。
【0017】
ハニカム構造体の材質については特に制限はないが、多数の細孔を有する多孔質体であることが必要であるため、通常は、炭化珪素、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料のセラミックスからなる焼結体、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が好適に用いられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、ハニカム構造体100が炭化珪素を、ハニカム構造体全体の50質量%以上含有していることを意味する。ハニカム構造体100が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカム構造体100が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造体全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造体100が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造体100が炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造体全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0018】
ハニカム構造体のセル形状は特に限定されないが、中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0019】
また、ハニカム構造体の外形としては、特に限定されないが、底面が円形の柱状(円柱形状)、底面がオーバル形状の柱状、底面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40~500mmが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体の外形が円筒状の場合、その底面の半径が50~500mmであることが好ましい。
【0020】
ハニカム構造体の隔壁の厚さは、0.15~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.175~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.15mmより薄いと、ハニカム構造体の強度が低下することがあり、0.50mmより厚いと、ハニカム構造体をフィルターとして用いた場合に、圧力損失が大きくなることがある。なお、この隔壁の厚さは、軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0021】
また、ハニカム構造体を構成する隔壁の気孔率は、30~70%であることが好ましく、製造の容易さの点で40~65%であることが更に好ましい。30%より小さいと、圧力損失が増大することがあり、70%より大きいと、ハニカム構造体が脆くなり欠落し易くなることがある。
【0022】
また、多孔質の隔壁の平均細孔径は、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることが更に好ましい。5μmより小さいと、フィルターとして用いた場合に、粒子状物質の堆積が少ない場合でも圧力損失が増大することがあり、30μmより大きいと、ハニカム構造体が脆くなり欠落し易くなることがある。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0023】
ハニカム構造体のセル密度も特に制限はないが、5~63セル/cm2の範囲であることが好ましく、31~54セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0024】
このようなハニカム構造体は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の底面から他方の底面まで貫通し流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、このようなハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体に用いる場合には、成形又は焼成後に、ハニカム成形体(ハニカム構造体)の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、上記コーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。なお、本実施形態のハニカム構造体においては、例えば、ハニカム構造体の外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、本実施形態のコーティング材からなる外周コーティングのみが配設されるものであり、一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更に本実施形態のコーティング材からなる外周コーティングが積層された、二層構造の外周壁が形成される。
【0025】
なお、ハニカム構造体は、隔壁が一体的に形成された一体型のハニカム構造体に限定されることはなく、例えば、図示は省略するが、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって流体の流路となる複数のセルが区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体(以下、「接合型ハニカム構造体」ということがある)であってもよい。
【0026】
また、ハニカム構造体は、複数のセルのうちの所定のセルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とが、目封止部によって目封止されたものであってもよい。このようなハニカム構造体は、排ガスを浄化するフィルター(ハニカムフィルター)として用いることができる。なお、このような目封止部は、外周コーティングが形成された後に配設されたものであってもよいし、外周コーティングが形成される前の状態、即ち、ハニカム構造体を作製する段階で配設されたものであってもよい。
【0027】
なお、このような目封止部は、従来公知のハニカム構造体の目封止部として用いられるものと同様に構成されたものを用いることができる。
【0028】
また、本実施形態のハニカム構造体に用いられるハニカム構造体は、隔壁の表面及び隔壁の細孔の内部の少なくとも一方に、触媒が担持されたものであってもよい。このように、本実施形態のハニカム構造体は、触媒を担持した触媒体や、排ガスを浄化するための触媒を担持した触媒担持フィルター(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルター(以下、「DPF」ともいう))として構成されたものであってもよい。
【0029】
触媒の種類については特に制限なく、ハニカム構造体の使用目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、上記DPFとして用いる場合には、排ガス中の煤等を酸化除去するための酸化触媒や、排ガス中に含まれるNOX等の有害成分を除去するNOx選択還元触媒(SCR)やNOx吸蔵還元触媒等を挙げることができる。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0030】
焼成ハニカム構造体のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とすることができる。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は例えば以下のように製造することができる。各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。
【0031】
次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたハニカム構造体を作製する。ハニカム構造体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁を形成してもよい。
【0032】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0033】
接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚さが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0034】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダー、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダーとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を挙げることができる。
【0035】
(2.ハニカム構造体用コーティング材)
本実施形態のハニカム構造体用コーティング材は、軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において0.1~15質量%含む。ここで、「無機原料中において」とは、コーティング材が有機原料を含む場合には当該有機原料を除いた骨材(すなわち無機原料)における質量%を計算することをいう。セラミックスファイバーの材質としては、例えばアルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)、ムライト(3Al23・2SiO2)、アルミナシリケート(xAl23.ySiO2)等が挙げられる。
【0036】
このような本実施形態のコーティング材は、ハニカム構造体の外周面に塗布して、乾燥又は乾燥した後に焼成することにより外周コーティングを形成する場合、高い靭性が得られるだけでなく、クラックの発生を効果的に抑制できる。その理由として、セラミックスファイバーを添加することで破壊靱性が増し、仮に衝撃によりヒビが生じても伸展しにくく、ピンホールを生じにくくなる。
ピンホールとは、外部からの振動や衝撃、打撃によりコーティング材表面に微小な穴やハガレが生じ、コーティング材の下のハニカム構造体が露出した状態を指す。ここで、セラミックスファイバーの繊維長が長すぎると塗布したときにセラミックスファイバーが一方向に配向してしまい、クラックの抑制効果が十分に得られないので、長繊維長と短繊維長のセラミックスファイバーを組み合わせることで、短繊維は配向しにくいため、コーティングの厚さを増しても、乾燥クラックを抑制することができる。そのため、繊維長の比較的に長い、軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーと繊維長の比較的に短い、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを併用することが肝要である。
【0037】
具体的には、図2に示されるように、コーティング材にセラミックスファイバーが含まれない場合、各方向からクラックが入りやすいが(図2(A))、セラミックスファイバーを含むことでクラックの発生を抑制する効果が得られる。ただし、長繊維長の第1のセラミックスファイバーのみを使用すると塗布したときにセラミックスファイバーが一方向に配向してしまい、クラックの抑制効果が十分に得られないので、(図2(B))、長繊維長と短繊維長のセラミックスファイバーを組み合わせることで、短繊維は配向しにくいため、特定方向からの乾燥クラックを抑制することができる。(図(C))。
【0038】
また、上記2種類のセラミックスファイバーを併用することによる別の効果として、繊維長さ分布がブロードになり、流動性が得られ、コーティング材をスムーズに塗布することが可能となる。これに対して、従来技術のような、単一の繊維長のセラミックスファイバーのみを含むコーティング材だと、コーティング材スラリーの流動性が低下し、塗布の抜け、ムラが生じやすい。
【0039】
本実施形態のハニカム構造体用コーティング材は、軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において、1~10質量%含む。第1のセラミックスファイバーの含有量が1%未満だと、靭性が不足し、ピンホールが生じる恐れがある。セラミックスファイバーの含有量が10質量%を超えると、コーティング材の塗布性が低下する恐れがある。
【0040】
本実施形態のハニカム構造体用コーティング材は、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において、0.1~15質量%含む。第2のセラミックスファイバーの含有量が0.1%未満だと、コーティング材の塗布性が低下する恐れがあり、第のセラミックスファイバーの含有量が15質量%を超えると、バーコードリーダーの読み取り性が低下したり、塗布性が低下する恐れがある。
【0041】
また、上記2種類のセラミックスファイバーを併用する効果をより一層向上させるために、上記第1のセラミックスファイバーの沈降体積が1.8~5.0mL/gであり、上記第2のセラミックスファイバーの沈降体積が0.7~1.8mL/gであることが好ましい。2種類のセラミックスファイバーの沈降体積の上記範囲にすることにより、ハニカム構造体の破壊靱性が更に向上し、また乾燥クラックの発生を更に抑制することができる。この観点から、上記第1のセラミックスファイバーの沈降体積が2.0~4.0mL/gであり、上記第2のセラミックスファイバーの沈降体積が1.0~1.8mL/gであることがより好ましい。
沈降体積の測定は、所定質量の試料とイオン交換水をメスシリンダー等に入れ、十分に攪拌したのち静置し、セラミックスファイバーの沈降体積を読み取る。試料の質量と読み取った体積から、単位質量当たりの沈降体積を算出する。
【0042】
また、上記2種類のセラミックスファイバーを併用する効果をより一層向上させるために、上記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、上記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18であることが好ましい。2種類のセラミックスファイバーの長軸短軸比を上記範囲にすることにより、ハニカム構造体の破壊靱性が更に向上し、また乾燥クラックの発生を更に抑制することができる。
長軸短軸比の測定については、長軸はSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定し、平均値を求める。短軸もSEMを用いて測定し、平均値を求める。測定した長軸を短軸で割り、長軸短軸比を算出する。
【0043】
また、本実施形態において、ハニカム構造体用コーティング材は、高分子が分散したコロイド状酸化物を含むことが好ましい。高分子が分散したコロイド状酸化物を含むことで、乾燥時におけるコーティング材の収縮を抑制することができ、クラックの発生を更に抑制することができる。
【0044】
この観点から、高分子としてはラテックス、コロイド状酸化物としてはコロイダルシリカを採用することが更に好ましい。このようなコロイダルシリカは、コーティング材の接着剤として機能するものであり、コーティング材によってハニカム構造体の外周に外周コーティングを形成した場合に、ハニカム構造体との接着性を良好なものとすることができる。
【0045】
なお、コロイダルシリカの含有量は、コーティング材の20~35質量%であることが好ましく、25~30質量%であることが更に好ましい。このように構成することによって、コーティング材を塗布する際の塗工性及び粘性を良好にすることができ、且つ、形成された外周コーティングが衝撃等によりハニカム構造体から剥離しないように確実に接着することができる。
【0046】
コロイダルシリカとしては、例えば、分散しているシリカ粒子の平均粒子径が10~30nmであることが好ましく、また、15~25nmであることが更に好ましい。平均粒子径は、コロイダルシリカの比表面積と密度から算出する。
【0047】
また、コーティング材は、更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含むことが好ましい。すなわち、コーティング材が上記第1及び第2のセラミックスファイバーを含む場合、コーティング材においてレーザーに対する発色性の高い成分(例えば炭化珪素(SiC))の比率が低下するので、発色が行われない部位とのコントラストが不十分で視認性が低い場合がある。そのため、印字(マーキング)を読み取ることが困難な場合がある。そこで、酸化チタン、窒化アルミニウムのような、レーザー発色効果のある成分を添加することで、レーザーによって発色した場所と発色していない場所とのコントラストを強化することが好ましい。特に、白色原料かつレーザー発色効果のある酸化チタンがより好ましい。酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を含む場合、上記効果を得るため、含有量の下限を0.1質量%とする。一方、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種の含有量が10質量%を超えるとそれ以上レーザー発色効果の向上が期待しにくく、乾燥クラックの懸念が高まるので、含有量の上限を10質量%とする。なお、ここでの含有量は前述と同様、無機原料中における含有量を示すものである。
【0048】
また、本明細書において、レーザーによる「印字」という場合には、文字による印字に限定されることはなく、文字以外の図形、記号、模様、及び、バーコード等の識別情報等の標識を表示することを意味するものとする。
【0049】
本実施形態のコーティング材は、上記第1及び第2のセラミックスファイバーが、分散媒によって分散されたスラリーの状態として構成されている。
【0050】
本実施形態のコーティング材に用いられる分散媒については、上記第1及び第2のセラミックスファイバーを分散させることが可能な液体であればよく、水を好適に用いることができる。
【0051】
分散媒の量については特に制限はないが、コーティング材を、ハニカム構造体(担体)の外周面に塗布して外周コーティングを形成する際に、十分な塗工性及び粘性を有するように調製される量であることが好ましい。具体的には、15~30質量%であることが好ましく、20~25質量%であることが更に好ましい。
【0052】
更に、本実施形態のコーティング材は、有機バインダーや粘土等を更に含有してもよい。例えば、有機バインダーとしては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、バイオポリマーを挙げることができ、粘土としては、ベントナイト、モンモリロナイトを挙げることができる。
【0053】
本実施形態のコーティング材は、上記コロイダルシリカやその他の添加材を、分散媒とともに混合してスラリー状又はペースト状に調製することによって製造することができる。
【0054】
また、コーティング材の粘度を、回転式粘度計を用いて測定した。羽根型ローターを用いて、回転速度が2.0(1/s)のときのせん断応力値(Pa)を測定した。コーティング材は、そのせん断応力値が20~250Paに調製されたものであることが好ましく、30~200Paに調製されたものであることが更に好ましく、50~150Paに調製されたものであることが特に好ましい。このように構成することによって、ハニカム構造体の外周面の塗布が容易になる。例えば、粘度が20Pa未満では、コーティング材の流動性が高すぎて、コーティング材を塗布した場合に、コーティング材が流れてしまい、十分な厚さの外周コーティングを形成することが困難になることがある。特に、外周コーティングが薄くなってしまうと、レーザーによって印字した場合に、発色が薄くなってしまうことがある。一方、粘度が250Paを超えると、流動性及び濡れ性が悪化し、塗工性が悪化することがある。また、形成した外周コーティングに、クラックの発生や、剥離等の不具合が発生し易くなることもある。
【0055】
このようなコーティング材は、ハニカム構造体の外周面の少なくとも一部に塗布し、乾燥或いは乾燥した後に焼成することにより、上記第1、第2のセラミックスファイバーを含む外周コーティングを形成することができる。
【0056】
(3.ハニカム構造体の外周コーティング)
本発明のハニカム構造体の外周コーティングは、軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料において0.1~15質量%含む。
【0057】
すなわち、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体の外周面に、これまでに説明した、本発明のコーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、本発明のハニカム構造体の外周コーティングを得ることができる。この場合、ハニカム構造体のコーティングの高い靭性が得られるだけでなく、クラックの発生を効果的に抑制できる。
【0058】
また、外周コーティングの組成の別の実施態様は前述と同様である。すなわち、上記第1のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が12~50であり、上記第2のセラミックスファイバーの長軸短軸比(長軸/短軸)が7~18であることが好ましい。また、更に、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種を0.1~10質量%含むことが好ましい。
【0059】
まず、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、炭化珪素(SiC)からなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、炭化珪素(SiC)粉末等の原料粉末を混合して調合し、水を加え、混合・混練することによって坏土を調製する。なお、この坏土には、必要に応じて、バインダー、界面活性剤、及び造孔材等を更に加えてもよい。
【0060】
次に、得られた坏土を、口金を付けた押出成形機を用いて押出成形してハニカム成形体を得、得られたハニカム成形体を乾燥する。
【0061】
次に、ハニカム成形体を所定の温度で焼成することによって、多孔質の隔壁を有し、この隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。なお、ハニカム構造体として、セルの開口部に目封止部が配設されたものを製造する場合には、ハニカム成形体、或いは、ハニカム構造体を作製した段階で目封止を行ってもよい。
【0062】
例えば、セルの開口部を目封止して目封止部を形成する方法としては、まず、ハニカム構造体(或いは、ハニカム成形体)の一方の底面において、一部のセルの開口部にマスクをし、その底面を、目封止部を形成するための目封止材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止材を挿入し、目封止部を形成する。なお、目封止部を形成するための目封止材は、セラミックス原料、界面活性剤、水、焼結助剤等を混合して、必要に応じて気孔率を高めるために造孔材を添加してスラリー状にし、その後、ミキサー等を使用して混練することにより得ることができる。
【0063】
その後、ハニカム構造体の他方の底面において、上記一方の底面においてマスクをしなかったセル(上記一部のセル以外のセル)の開口部にマスクをし、その底面を、上記目封止材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止材を挿入し、目封止部を形成する。
【0064】
セルの開口部をマスクする方法について特に制限はないが、例えば、フィルター用ハニカム構造体の底面全体に粘着性フィルムを貼着し、その粘着性フィルムを部分的に孔開けする方法等を挙げることができる。例えば、フィルター用ハニカム構造体の底面全体に粘着性フィルムを貼着した後に、目封止部を形成したいセルに相当する部分のみをレーザーにより孔を開ける方法等を好適例として挙げることができる。粘着性フィルムとしては、ポリエステル、ポリエチレン、熱硬化性樹脂等の樹脂からなるフィルムの一方の表面に粘着剤が塗布されたもの等を好適に用いることができる。
【0065】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面に外周壁が形成された状態で作製された場合には、その外周面を研削し、外周壁を取り除いた状態とすることが好ましい。このようにして外周壁を取り除いたハニカム構造体の外周に、後の工程にて、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。また、外周面を研削する場合には、外周壁の一部を研削して取り除き、その部分に、コーティング材によって外周コーティングを形成してもよい。
【0066】
また、上記したハニカム構造体の作製とは別に、ハニカム構造体の外周コーティングを形成するためのコーティング材を調製する。コーティング材は、少なくとも、上記第1及び第2のセラミックスファイバーがこれまでに説明した所定の含有割合となるように混合して、スラリー状又はペースト状とすることによって調製することができる。
【0067】
上記原料を混合してコーティング材を調製する場合には、例えば、2軸回転式の縦型ミキサーを用いて調製することができる。
【0068】
また、コーティング材には、コロイダルシリカ、有機バインダー、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダーは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。有機バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が好適なものとして挙げられる。また、粘土としては、ベントナイト、モンモリロナイト等の粘鉱物が好適なものとして挙げられる。更に、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の分散剤を加えてもよい。
【0069】
先に作製したハニカム構造体の外周面に、コーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、外周コーティングを形成する。このように構成することによって、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0070】
コーティング材の塗工方法としては、例えば、ハニカム構造体を回転台の上に載せて回転させ、コーティング材をブレード状の塗布ノズルから吐出させながらハニカム構造体の外周部に沿うように塗布ノズルを押し付けて塗布する方法を挙げることができる。このように構成することによって、コーティング材を均一な厚さで塗布することができる。また、形成した外周コーティングの表面粗さが小さくなり、外観に優れ、且つ熱衝撃によって破損し難い外周コーティングを形成することができる。
【0071】
なお、ハニカム構造体の外周面が研削されて、外周壁が取り除かれたものの場合には、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。一方、ハニカム構造体の外周面に外周壁が存在する、或いは、一部の外周壁が取り除かれている場合には、部分的にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよいし、勿論、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。
【0072】
塗布したコーティング材(即ち、未乾燥の外周コーティング)を乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、乾燥クラック防止の観点から、必要により室温にて乾燥させた後、電気炉にて400~700℃で10分以上保持することで水分及び有機物を除去する方法を好適に用いることができる。
【0073】
また、ハニカム構造体のセルの開口部が予め目封止されていない場合には、外周コーティングを形成した後に、セルの開口部に目封止を行ってもよい。
【0074】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面にレーザーを照射することによって、コーティング材に含まれる炭化珪素粉末が発色するため、得られたハニカム構造体の外周コーティングに、レーザー光を照射して、製品情報等を印字(マーキング)してもよい。
【0075】
レーザーによるマーキングの際に使用するレーザー光としては、例えば、炭酸ガス(CO2)レーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーを好適例として挙げることができる。レーザー光を照射するレーザーの条件については、使用するレーザーの種類に応じて適宜選択することができるが、例えば、CO2レーザーを用いた場合には、出力15~25W、スキャンスピード400~600mm/sでマーキングすることが好ましい。このようにマーキングすることによって、照射部分が、黒色から緑色のような暗色を呈するように発色し、非照射部分との発色によるコントラストが極めて良好なものとなる。
【0076】
ハニカム構造体に触媒を担持する場合には、上記レーザーによる印字を行った後でも、印字部分が劣化することがなく、触媒の担持後でも、上記印字を良好に判読することができる。なお、触媒の担持方法については特に制限はなく、従来のハニカム構造体の製造方法にて行われている触媒担持の方法に準じて行うことができる。
【0077】
本実施形態におけるハニカム構造体の外周コーティングの厚さは0.05~4.0mmであることが好ましい。外周コーティングの厚さが0.05mm未満であるとハニカム構造体が露出したり、外周コーティングにピンホールが発生する恐れがあり、外周コーティングの厚さが4.0mmを超えると寸法公差から外れたり、圧損が上昇する恐れがある。
【0078】
(4.外周コーティング付きハニカム構造体)
本発明の外周コーティング付きハニカム構造体は、本発明のハニカム構造体の外周コーティングを有する。当該外周コーティングを形成するコーティング材の組成、当該外周コーティングの組成及び当該外周コーティングの形成手段は前述と同様である。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(ハニカム構造体の作製)
焼成後の組成が炭化珪素:金属珪素=80:20となるように混合した珪素-炭化珪素原料粉末に、成形助剤、造孔剤、及び水を加え、混合・混練して坏土を調製した。得られた坏土を押出成形し、縦42mm、横42mm、高さ141mmの直方体状未焼成ハニカム成形体を作製し、このハニカム成形体を乾燥、焼成してハニカムセグメントを作製した。
【0081】
次に、16個のハニカムセグメントについて、各ハニカムセグメントの両底面全体にPET製のマスク(厚さ70μm)の粘着面を貼り付けた。次いで、ハニカムセグメントの側面に、厚さが1mmとなるように炭化珪素(SiC)粉及びバインダーを含有するペースト状の接合材を塗布して塗布層を形成した。次に、このハニカムセグメント上に、上記塗布層と側面が接するように別のハニカムセグメントを載置した。その後、この工程を繰り返し、縦4個×横4個に組み合わせた合計16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製した。その後、外部から圧力を加えた後、140℃で2時間乾燥させて、ハニカムセグメントが接合されたハニカム構造体を得た。その後、各ハニカムセグメントからマスクを剥がした。
【0082】
なお、得られたハニカム構造体は、その外周面を研削して外周壁を除去した。このハニカム構造体(外周壁を除去した後)は、直径が165mmで長さが141mmの円柱状で、気孔率が41%(低気孔率ハニカム)、隔壁厚さ0.30mm、セル密度が46セル/cm2である。
【0083】
骨材として炭化珪素40質量%、コロイダルシリカ25質量%、アルミナ2質量%、コージェライト15質量%の組成を有し、更には一部の例について表1に記載される第1及び第2のセラミックスファイバー、WHOセラミックスファイバーはアルミナとシリカの比率が72:28の結晶質アルミナファイバーを骨材に対して所定割合含むコーティング材を調製し、上記したハニカム構造体の作製にて作製したハニカム構造体の外周面に、その厚さが0.5mm及び2.0mmとなるように塗布した後、熱風乾燥機を用いて120℃で60分乾燥させた後、電気炉にて600℃で30分熱処理して外周コーティングを形成した。コーティング材を塗布する際の作業しやすさ(コート性)、乾燥・熱処理の間に外周コーティングにクラックの発生の有無(乾燥クラック)、外周コーティングのピンホールの有無(破壊靭性)を以下のように評価し、結果を表1に示す。
表1において、「第1のセラミックスファイバー」の軸方向の平均長さが150μmであり、長軸短軸比が25である。「第2のセラミックスファイバー」の軸方向の平均長さが60μmである。
【0084】
(ピンホール)
製品出荷時と同様の梱包形態(両底面を専用のプラスチックトレイで保護して、段ボール梱包、パレット積みし、全体をシュリンク巻)で、振動試験(ASTMレベルII:陸送2500km相当)を実施した。製品(N=18~24pcs.)の外周コーティング材にピンホールが生じていないかを目視で判定した。ピンホールが生じていないものを「OK」とし、生じたものを「NG」とした。
【0085】
(ピン押し強度測定)
厚さ0.5mmのコーティング材表面をφ1mmのピンで荷重をかけ、破壊したときの加重から応力値を計算する。ピン押し強度はコーティング材強度と相関するものである。
【0086】
(4点曲げ許容歪)
コーティング材を乾燥させたバルク体から12mm×16mm×70mmの試験片を作成し、外部支点間距離60mm、内部支点間距離20mm、クロスヘッド速度0.5mm/minで荷重を加える。荷重を加え、最大曲げ応力を記録してから、完全に破断するまでの変位を4点曲げ許容歪とした。
【0087】
(乾燥クラック)
量産品の生産に用いる外周コーティング装置を用いて、ハニカム構造体の外周部に厚さが0.5mm及び2.0mmとなるようにコーティング材を塗布した。コーティング材を塗布した外周コーティング付きハニカム構造体を5個以上作成し、熱風乾燥機を用いて120℃で60分乾燥させる。それぞれの厚さで外周コーティング材表面に乾燥クラックが生じているかを目視で確認した。乾燥クラックの発生率が0%であれば「○」、乾燥クラックの発生率が20%以下であれば「△」、乾燥クラックの発生率が20%を超える場合は「×」とした。
【0088】
(コート性)
量産品の生産に用いる外周コーティング装置を用いて、ハニカム構造体の外周部に厚さが0.5mmとなるようにコーティング材を塗布した。その際に、外周コーティングに、塗布の抜け、及びムラが生じないものを「良好」とし、塗布の抜け、及びムラが少し生じるものの、外周コーティングの塗布が可能であるものを「可」とし、塗布の抜け、及びムラが著しく生じるものを「不可」とした。
【0089】
各実施例及び比較例について評価した結果を表1に示す。なお、比較例1及び2については、厚さ0.5mmの外周コーティングの作成が不可であったため、厚さ0.1mmのときの応力値が参考値として記載されている。「0.1mm:6N」とは外周コーティングの厚さが0.1mmのとき応力値の測定値が6Nであることを意味し、「0.1mm:4N」とは外周コーティングの厚さが0.1mmのときの応力測定値が4Nであることを意味する。「振動試験 ピンホール発生」の欄で「-」と表示される例は当該指標が評価されていなかったことを意味する。
【0090】
【表1】
【0091】
(考察)
表1から、軸方向の平均長さが80~200μmの第1のセラミックスファイバーを無機原料中において1~10質量%と、軸方向の平均長さが50~70μmの第2のセラミックスファイバーを無機原料中において0.1~15質量%含むことで、ハニカム構造体の外周コーティングの靭性を向上させつつ、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制することができることが分かった。更に、コーティング材のコート性も向上したことが分かった。
【0092】
また、実施例1と同様の骨材、及び第1、第2のセラミックスファイバーの組成を有するコーティング材として、表2に記載されるコロイダルシリカを含むものを調製し、上記したハニカム構造体の作製にて作製したハニカム構造体の外周面に、その厚さが0.5mm及び2.0mmとなるように塗布した後、熱風乾燥機を用いて120℃で60分乾燥させた後、電気炉にて600℃で30分熱処理して外周コーティングを形成した。その際に、コロイダルシリカはラテックスがあるものと、ラテックスがないものの、2種類を使用した。前記乾燥・熱処理の間に外周コーティングにクラックの発生の有無を前述の方法(乾燥クラック評価)で評価した。乾燥クラックの発生率が0%であれば「○」、乾燥クラックの発生率が20%以下であれば「△」、乾燥クラックの発生率が20%を超える場合は「×」とした。評価結果は表2に示される。なお、表2中のコロイダルシリカの「質量%」は、セラミックスファイバーを除く骨材(炭化ケイ素、アルミナ、コージェライト、コロイダルシリカ)100%中に占めるコロイダルシリカの質量%を意味する。
【表2】
【0093】
(考察)
表2から、高分子が分散したコロイド状酸化物を含むことで、乾燥クラックを更に抑制することができることが分かった。
【0094】
更に、実施例と同様の骨材を有し、表3に示される第1、第2のセラミックスファイバー質量%を有するコーティング材(第1、第2のセラミックスファイバーの組成は実施例と同様である)として、表3に記載される酸化チタンを含むものを調製し、上記したハニカム構造体の作製にて作製したハニカム構造体の外周面に、その厚さが0.5mm及び2.0mmとなるように塗布した後、熱風乾燥機を用いて120℃で60分乾燥させた後、電気炉にて600℃で30分熱処理して外周コーティングを形成した。この乾燥・熱処理の間に外周コーティングにクラックの発生の有無を前述の方法で評価した。乾燥クラックの発生率が0%であれば「○」、乾燥クラックの発生率が20%以下であれば「△」、乾燥クラックの発生率が20%を超える場合は「×」とした。更にレーザー印字読み取り性を以下のように評価し、結果を表3に示される。
なお、比較例6のみ、第1、第2のセラミックスファイバーを含まない。
【0095】
(読み取りグレード評価)
ハニカム構造体の外周面に、CO2レーザーマーカーを用いて出力20W、スキャンスピード500mm/sの条件で、2Dバーコードのレーザー印字を行い、レーザーによって発色した印字部分と、非照射部分とのコントラストを、ISO/IEC15415に適合したバーコードリーダーを用いた読み取り試験(印字読み取り試験)で評価した。印字及び読み取り試験は10個以上実施した。評価は以下の基準で実施した。なお、下記基準における「読み取りグレード」は、ISO/IEC15415の規格によるものである。
読み取りグレードA:コントラストが良好で、印字部分を良好に判読可能。
読み取りグレードB~D:印字部分の判読が可能。
読み取りグレードF:印字部分と非照射部分とのコントラストが悪く、判読が困難。
なお、表3の読み取りグレード「A-B」は、複数個評価した結果、グレードAとグレードBがあったことを示す。
【0096】
【表3】
【0097】
(考察)
表3から、酸化チタンを0.1~10質量%含むことで、レーザー印字読み取り性が向上したことが分かった。添加量が10質量%を超えると、印字性の向上効果は頭打ちになるので、添加量を10.0質量%以下に抑えて乾燥クラックの発生を抑制する。したがって、酸化チタン及び窒化アルミニウムから選択される少なくとも1種の添加量は0.1~10.0質量%であることが好ましく、0.5質量%~5.0質量%であることがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0098】
100 ハニカム構造体
102 外周側壁
104 第一底面
106 第二底面
108 第1セル
110 第2セル
112 隔壁
図1
図2