IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エン・ベー・ベカルト・ソシエテ・アノニムの特許一覧

<>
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図1
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図2
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図3
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図4
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図5
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図6
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図7
  • 特許-無鉛パテンティングプロセスおよび設備 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】無鉛パテンティングプロセスおよび設備
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/573 20060101AFI20220224BHJP
   C21D 9/64 20060101ALI20220224BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C21D9/573 102
C21D9/64
C21D9/52 104
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019536530
(86)(22)【出願日】2018-01-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2018050388
(87)【国際公開番号】W WO2018130498
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】17151117.3
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502385850
【氏名又は名称】エンベー ベカルト ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】NV Bekaert SA
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ メスプロント
(72)【発明者】
【氏名】ティム ブルギマン
(72)【発明者】
【氏名】フランキー ベエンス
(72)【発明者】
【氏名】ジャン オルヴォエット
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー ラフェイル
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0361536(US,A1)
【文献】特開平05-195083(JP,A)
【文献】米国特許第06228188(US,B1)
【文献】特開昭54-062920(JP,A)
【文献】特開昭62-202029(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101967548(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52-9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤの所定の温度範囲への制御冷却の方法であって、前記予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤは、2.8mmより大きい直径を有し、前記方法は、
a)1つまたは複数の第1の冷媒槽を通る1つまたは複数の個別の経路に沿って前記チールワイヤを案内するステップであって、前記1つまたは複数の第1の冷媒槽は、浴液を含み、前記浴液は、水と前記スチールワイヤの周りの気体又は蒸気膜の安定性を向上させるための安定化添加物とを含み、前記浴液および前記チールワイヤは、各個別の経路に沿った各スチールワイヤ自体の周りに蒸気膜を作成する、ステップ、
b)前記チールワイヤを冷却するために、1つまたは複数の個別の経路に沿った特定の長さLにわたり、前記チールワイヤに向かって、前記1つまたは複数の第1の冷媒槽の内部に浸入した衝突液体を向けるステップであって、前記衝突液体は、前記蒸気膜の厚さを減少させるかまたは前記蒸気膜を不安定化させ、それにより1つまたは複数の個別の経路に沿った前記長さLにわたる冷却の速度を増加させる、ステップ、
c)空気中でさらに冷却されるように、前記1つまたは複数の第1の冷媒槽から、1つまたは複数の個別の経路に沿って前記チールワイヤを案内するステップ、
d)空気中での前記さらなる冷却後、1つまたは複数の第2の冷媒槽を通る1つまたは複数の個別の経路に沿って前記チールワイヤを案内するステップ
を含み、前記チールワイヤは、オーステナイトからパーライトへの冷却変態を受ける、方法。
【請求項2】
前記衝突液体は、各個別の経路に沿った前記チールワイヤ自体のそれぞれの下に浸入するか、または前記衝突液体は、その個別の経路に沿った前記チールワイヤのいくつかの下に部分的に浸入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つもしくは複数の第1の冷媒槽および/または前記1つもしくは複数の第2の冷媒槽の長さは、調整可能である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の冷媒槽は、前記スチールワイヤの周りの前記蒸気膜が前記衝突液体によって影響を受ける前記スチールワイヤの長さに沿った前記第1の冷媒槽のスチールワイヤを分離する仕切壁を設けられ、それにより、第1のスチールワイヤ上の衝突液体は、第2のスチールワイヤの周りの前記蒸気膜に影響を与えない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記衝突液体の強度は、各個別のスチールワイヤまたは数のスチールワイヤために個々に設定および/または制御される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の冷媒槽は、固定された長さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記衝突液体は、前記第1の冷媒槽の前記浴液と同じ化学組成を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突液体は、流量制御システムによって連続的に再循環および制御される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つまたは複数のセンサは、前記スチールワイヤの1つまたは2つ以上の磁気応答を測定することによりオーステナイトからパーライトへの相変態の開始を検出して、ループにおいて前記第1の冷媒槽における前記衝突液体を制御するためのフィードバックを提供するために設けられる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤのそれぞれの前記直径は、2.8mm~20mmの範囲である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
オーステナイトからパーライトへの前記冷却変態は、前記チールワイヤが前記第1の冷媒槽と前記第2の冷媒槽との間の空気中で冷却されるときにまる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記スチールワイヤのそれぞれは、オーステナイト化温度より高く予め加熱され、かつ400℃~650℃の所定の温度に冷却される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤの所定の温度範囲への制御冷却のための設備であって、
a)第1の冷媒槽であって、水と前記スチールワイヤの周りの気体または蒸気膜の安定性を向上させるための安定化添加物とを含む浴液を含有するために設けられる第1の冷媒槽、
b)個別の経路に沿った各スチールワイヤに向かって衝突液体を噴出するように適合されている、前記第1の冷媒槽の内部に浸された1つまたは複数の衝突液体生成器、
c)第2の冷媒槽であって、浴液を含有するために設けられ、前記浴液は、水と前記スチールワイヤの周りの気体または蒸気膜の安定性を向上させるための安定化添加物とを含み、前記第2の冷媒槽は、前記第1の冷媒槽からその間の空隙によって分離される、第2の冷媒槽、
d)個別の経路に沿って、その後、前記第1の冷媒槽、前記空隙および前記第2の冷媒槽を通して、前記チールワイヤを連続的に案内するための案内手段
を含む設備。
【請求項14】
前記第1の冷媒槽、前記衝突液体生成器および前記空隙は、各個別の経路に沿って固定された長さを有する、請求項13に記載の設備。
【請求項15】
前記第1の冷媒槽および/または前記第2の冷媒槽の各個別の経路に沿った長さは、調整可能である、請求項13記載の設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールワイヤの無鉛パテンティングのための方法および設備に関する。
【背景技術】
【0002】
スチールワイヤの熱処理は、通常、製造プロセスにおいて重要な役割を果たす。ワイヤ製作における第1のステップは、ワイヤロッドを望ましい中間直径に引き抜くことから開始される。この加工硬化の段階において、引き抜かれたワイヤは、さらなる塑性変形を可能にするためにパテンティングプロセスによってパーライトに熱処理される。その後、パテンティングされたスチールワイヤは、より細い寸法である第2の中間寸法または最終直径のいずれかに引き抜かれる。パテンティングは、炭素スチールワイヤをオーステナイト相まで、一般に800℃を超えるまで加熱することと、その後、オーステナイトの略等温分解が完了するのに十分な期間保持される選択された温度にワイヤを冷却することとを含む。温度は、通常、500℃~680℃の範囲であり、一般に、微細パーライト組織を提供することを意図する。
【0003】
熱間圧延によってインゴットまたはビレットから作られるスチールワイヤロッドは、制御冷却を受けた後、圧延状態で実使用に適用される。熱間圧延された直後に高炭素ロッドを冷却して優れた冷間加工性を有するように、英国特許第1276738号明細書は、高炭素ロッドを温水槽に浸すことを記載した。この文献で開示されている、5.5mm~6.5mmのワイヤロッド直径を有するスチールワイヤロッドを熱処理する方法は、600℃~1100℃の温度に維持されたワイヤロッドを、界面活性剤を含有する温水槽に浸すことを含む。水は、45℃より高い温度で保持され、したがってワイヤロッド表面上で均一に蒸気膜が生成され、それによりワイヤロッドの冷却速度を制御する。この熱処理方法の要点は、ワイヤロッド表面上で均一に蒸気膜を生成させて、パーライト変態が終了するまでのある期間にわたってこの状態を維持することである。このような方法は、水平コンベヤ上のうず巻コイルで搬送される高温圧延ロッドの直接冷却で使用されるときにさまざまな利点を有する。この方法は、他の直径を有するワイヤの処理のためにあまり適さないかまたは信頼できないとみなされる。
【0004】
国際公開第2007/023696号パンフレットは、11.0mmより大きい直径を有するルーズコイル状の圧延ワイヤロッドの直接熱処理方法に関する。コイル状の圧延ワイヤロッドは、冷媒に浸漬するかまたは冷媒流れにさらすことによって冷却される。
【0005】
1.5~5.0mmで変えることができる望ましい中間直径を有する引き抜かれたワイヤの熱処理について、欧州特許第0216434号明細書は、オーステナイト温度まで予め加熱されたスチールワイヤの制御冷却の別の方法を開示している。ワイヤは、少なくとも80℃の略純水を含有する冷媒槽を通して連続的に搬送され、マルテンサイト化またはベイナイト化させることなくパーライトに冷却をもたらすために槽に浸漬される。ワイヤは、略純水の連続的な非乱流にワイヤを接触させることにより、その全浸漬長さに沿って均一かつ安定した膜沸騰冷却にさらされる。水パテンティングされたワイヤは、優れた引抜性記録を有する十分に均一なパーライト微細構造を特徴とする。
【0006】
欧州特許出願公開第0524689A1号明細書は、2.8mmより小さい直径を有する少なくとも1本のスチールワイヤをパテンティングするプロセスを開示している。冷却は、1つまたは複数の水冷期間中の水中における、および1つまたは複数の空冷期間中の空気中における膜沸騰によって交互に行われる。水冷期間は、空冷期間の直後に続き、その逆も同じである。水中での冷却速度が速い一方、空気中での冷却速度が非常に遅い。水中での冷却速度の速さは、2.8mmより小さい直径を有するワイヤに深刻な危険をもたらす。水中冷却セクション間の空気中での冷却は、スチールワイヤの冷却を減速させるために実行される。水冷期間の数、空冷期間の数および各水冷期間の長さは、マルテンサイトまたはベイナイトの形成を回避するように選択される。
【0007】
「Forced water cooling of thick steel wires」という名称の国際公開第2014/118089A1号パンフレットは、5mmより大きい直径を有する直線状のスチールワイヤに対する強制冷却プロセスを開示している。冷媒槽の内部に浸入した衝突液体は、加熱されたスチールワイヤの冷却速度を加速するためにスチールワイヤに向けられる。冷媒槽のこの「強制」冷却帯の後に、乱されていない(これは、ワイヤの周りの沸騰膜上に衝突液体がないことを意味する)沸騰膜がワイヤをさらに冷却する冷却帯が続く。
【0008】
パテンティングプロセス、すなわち冷却または変態ステップは、非常に重要であり、上記の多くの従来の試みは、オーステナイト化されたスチールワイヤのパーライトへの冷却変態に影響を与える目的のために行われた。しかしながら、結果として得られたスチールワイヤは、一貫性のない引抜性などの特性のばらつきおよび多数の好ましくない金属構造のための往々にして予想外の脆性挙動をさらに示すことがある。パテンティングされたワイヤの厳密な金属組織は、後続の伸線中のワイヤ破断の有無を決定するだけでなく、その最終直径でのワイヤの機械的特性もおおむね決定する。変態状態は、マルテンサイトまたはベイナイトがスチールワイヤ表面上の非常に局所的な点でも回避されるようでなければならない。他方では、パテンティングされたスチールワイヤの金属組織は、あまり軟らかすぎてはならず、すなわち、それは、あまりにも粗いパーライト組織またはあまりにも多いフェライトの量を示してはならず、なぜなら、そのような金属組織がスチールワイヤの望ましい極限引張強さを決してもたらさないためである。金属組織およびスチールワイヤの引張強さを適切に制御することができる、信頼性が高く費用効果が優れているパテンティングプロセスは、スチールワイヤ、特により大きい直径のスチールワイヤのためにさらに必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、経時的により安定である、2.8mmより大きい直径を有するスチールワイヤをパテンティングするためのプロセスを提供することである。適切な金属微細構造、すなわちマルテンサイトまたはベイナイト点のない微細パーライト組織を有する、2.8mmより大きい直径のパテンティングされたスチールワイヤを得ることが本発明の別の目的である。異なる直径および鋼組成を有する複数のスチールワイヤの微細構造および引張特性を微調整するのに好適であるプロセスを提供することが本発明のさらに別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤの所定の温度範囲への制御冷却の方法である。予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤは、2.8mmより大きい直径を有する。その方法は、以下のステップを含む。
a)1つまたは複数の第1の冷媒槽を通る1つまたは複数の個別の経路に沿って1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤを案内するステップ。1つまたは複数の第1の冷媒槽は、浴液を含む。浴液は、水と安定化添加物とを含む。好ましくは、浴液は、80℃より高い温度を有する。浴液および複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤは、各個別の経路に沿った各スチールワイヤ自体の周りに蒸気膜を作成する。
b)1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤを冷却するために、1つまたは複数の個別の経路に沿った特定の長さLにわたり、1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤに向かって、1つまたは複数の第1の冷媒槽の内部に浸入した衝突液体を向けるステップ。衝突液体は、蒸気膜の厚さを減少させるかまたは蒸気膜を不安定化させ、それにより1つまたは複数の個別の経路に沿った長さLにわたる冷却の速度を増加させる。
c)空気中でさらに冷却されるように、1つまたは複数の第1の冷媒槽から1つまたは複数の個別の経路に沿って1つまたは複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤを案内するステップ。
d)空気中でのさらなる冷却後、1つまたは複数の第2の冷媒槽を通る1つまたは複数の個別の経路に沿って1つまたは複数の予め加熱された略直線状のスチールワイヤを案内するステップ。
本方法において、1つまたは複数の略直線状のスチールワイヤは、オーステナイトからパーライトへの冷却変態を受ける。
【0011】
2.8mmより大きい直径を有するスチールワイヤは、パテンティングにおいて最初に急速冷却する必要がある。そのような急速冷却は、第1の冷媒槽での強制冷却により、本発明の方法において実行される。国際公開第2014/118089A1号パンフレットのように、強制冷却は、予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤに向かって、冷媒槽の内部に浸入した衝突液体を向けることによって実現される。衝突液体は、蒸気膜の厚さを減少させるかまたは蒸気膜を不安定化させ、それにより冷却の速度を増加させる。国際公開第2014/118089A1号パンフレットのように、本発明の方法は、スチールワイヤの周りの乱されていない蒸気膜によるスチールワイヤのさらなるより遅い冷却を含む(かつ必要とする)。これは、非強制冷却と呼ぶことができ、ワイヤは、液体を通り抜ける。本発明の方法において、(強制冷却がスチールワイヤに適用される)第1の冷媒槽と、(ワイヤの冷却がスチールワイヤの周りの乱されていない蒸気膜により、したがって非強制冷却により実行される)第2の冷媒槽との間でスチールワイヤが空気を通り抜ける。本発明の方法における空隙により、強制冷却で作成される乱流は、国際公開第2014/118089A1号パンフレットと異なり、非強制冷却(これは、ワイヤの周りの蒸気膜が乱されない液体での冷却である)に影響を与えない。国際公開第2014/118089A1号パンフレットにおいて、冷媒槽の乱流は、意図せずに、非強制冷却帯において管理されていない方法で蒸気膜に影響を与える。パーライトへの変態過程中、恒温変態が好ましく、なぜなら、冷却の速度が正確である必要があるためである。非強制冷却帯においてスチールワイヤの周りの蒸気膜が管理されていない方法で影響を受けるとき、それは、冷却の速度が変わることを意味する。したがって、冷却の状態は、第2の冷却帯で安定せず、パテンティングされたワイヤの品質は、経時的に一定でなく、許容できない可能性もある。したがって、本発明の方法は、2.8mmより大きい直径のために、オーステナイトからパーライトへのスチールワイヤのより信頼性が高くかつより安定した変態が得られるという利益を有する。
【0012】
本発明は、第1の冷媒槽の強制冷却による急速初期冷却と、第2の液体冷媒槽での乱流を防ぐ空隙の提供による安定した変態過程とに焦点を当てている。欧州特許出願公開第0524689A1号明細書も膜沸騰による2つのセクション間の空冷を提供しているが、空冷の理由が全く異なる。なぜなら、欧州特許出願公開第0524689A1号明細書の空冷は、冷却の速度を低下させるために提供され、他の場合、スチールワイヤは、パーライトの代わりにマルテンサイトに連続的に変態するであろうからである。
【0013】
本発明において、制御冷却方法は、1つまたは複数の略直線のスチールワイヤに関する。これらのスチールワイヤは、個別の経路に沿って第1の冷媒槽を通過する。換言すれば、第1の冷媒槽の経路は、略直線状である。したがって、各スチールワイヤの経路は、十分に画定されている。通常、第1の冷媒槽は、長方形の形状を有し得、スチールワイヤの経路は、長方形の形状である第1の冷媒槽の一辺と略平行である。これは、スチールワイヤ上の蒸気膜に向かって、第1の冷媒槽の内部に浸入した衝突液体を向けることを可能にする。例えば、衝突液体は、スチールワイヤ(または蒸気膜)に向かって個別の経路に沿ってスチールワイヤの下から到来し得る。したがって、蒸気膜が不安定化され得るか、または蒸気膜の厚さが減少する。
【0014】
本発明によると、1つまたは複数の予め加熱されたスチールワイヤは、オーステナイトからパーライトへの制御冷却変態処理を受ける。1つまたは複数のスチールワイヤは、オーステナイト化温度より高く予め加熱され、かつオーステナイトからパーライトへの変態を可能とするために好ましくは400℃~650℃の所定の温度範囲、より好ましくは約580℃の温度に冷却される。
【0015】
1つまたは複数の第1の冷媒槽は、浴液を含む。浴液は、水と安定化添加物とを含む。安定化添加物は、スチールワイヤの周りの気体/蒸気膜の安定性を向上させるために提供される。安定化添加物は、石鹸などの界面活性剤、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの安定化ポリマーおよび/またはアルカリポリアクリレートもしくはポリアクリル酸ナトリウムなどのポリマー焼入剤を含み得る。添加剤は、スチールワイヤの周りで気体膜の厚さおよび安定性を増加させるのに使用される。
【0016】
好ましくは、第1の冷媒槽の浴液の温度は、80℃~100℃に設定される。第1の冷媒槽の浴液の温度は、好ましくは、80℃より高い、例えば85℃、最も好ましくは90℃より高い、例えば約95℃である。水温が高いほど、スチールワイヤの周りの気体膜の安定性がより高くなる。
【0017】
好ましくは、衝突液体は、第1の冷媒槽の浴液と同じ化学組成を有する。
【0018】
好ましくは、第2の冷媒槽の浴液の組成は、第1の冷媒槽の浴液の組成と同じである。より好ましくは、第1の冷媒槽および第2の冷媒槽の浴液は、循環ポンプによって連続的に循環され、共通の中間貯蔵容器は、第1の冷媒槽および第2の冷媒槽から出て、かつ第1の冷媒槽および第2の冷媒槽に再循環される浴液のために使用される。このように、第1の冷媒槽および第2の冷媒槽の浴液の組成の均質性が改善され、結果としてより安定した冷却システムになる。
【0019】
好ましくは、衝突液体の強度は、各個別のスチールワイヤまたは複数のスチールワイヤのサブセットのために個々に設定および/もしくは制御され得、または設定および/もしくは制御される。衝突液体の強度を設定および/または制御することにより、スチールワイヤの周りの蒸気膜を乱す強度が変更され、それによりスチールワイヤの冷却の速度を変更する。このように、パラメータは、各ワイヤを最適に冷却および変態するように設定することができ、変態過程の信頼性も改善する。衝突液体の強度は、例えば、衝突液体を発生させる噴流に向けた流量制御によって制御することができる。このために、適切な流れ制御システムを使用することができる。本発明において、好ましくは、冷却速度は、噴流の前の圧力によって冷媒流れを調節することによって調整される。より好ましくは、各スチールワイヤの冷却速度は、異なる冷却スキームおよび望ましい引張強さが異なるワイヤに対して実現できるように別々の制御アクチュエータによって個々に制御される。
【0020】
本発明によると、個別のスチールワイヤの冷却は、オーステナイトからパーライトへの変態が生じる位置を変えることができるように良好に制御され得る。冷却スキームを調整することにより、例えば第1の冷媒槽において衝突液体を提供する衝突噴流への流量を選択することにより、個別のスチールワイヤの変態を第1の冷媒槽、第1の冷媒槽と第2の冷媒槽との間の空隙領域または第2の冷媒槽において生じさせることができる。異なる直径および鋼組成を有するスチールワイヤの引張強さは、これによって微調整され得る。
【0021】
好ましい方法において、オーステナイトからパーライトへの冷却変態は、予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤが第1の冷媒槽と第2の冷媒槽との間の空気中で冷却されるときに実質的に始まる。
【0022】
衝突液体の流量は、好ましくは、蒸気膜の望ましい不安定化または蒸気膜の厚さの減少をもたらすために慎重に最適化する必要がある。多くの冷却またはパテンティング施設の場合のように冷水および衝突液体で分離されたシステムを使用する代わりに、好ましくは、本発明によると、衝突液体および第1の冷媒槽の液体の化学組成は、同じである。これは、2つの大きい利点をもたらす。一方は、非常に低い設備費(同じタンクおよび冷却液の使用)である。他方は、ワイヤのコアと表面との間の温度勾配を減少させることであり(冷水との直接接触ではなく、より安定した蒸気膜が得られる)、より均一なパテンティングされた組織に寄与する。
【0023】
好ましい実施形態において、1つもしくは複数の第1の冷媒槽および/または1つもしくは複数の第2の冷媒槽の長さは、調整可能である。このように、パテンティングされたスチールワイヤの微細構造を最適化および安定化するために、さらなる微調整能力が本発明の方法に提供される。
【0024】
好ましい実施形態において、スチールワイヤの周りの蒸気膜が衝突流体によって影響を受けるスチールワイヤの全長に沿った第1の冷媒槽のスチールワイヤを分離する仕切壁が設けられ、それにより、第1のスチールワイヤ上の衝突流体は、第2のスチールワイヤの周りの蒸気膜に影響を与えない。それは、衝突液体の強度が、隣接するスチールワイヤからの衝突液体の強度によって影響を受けることなく、個別のスチールワイヤのために設定され得ることも意味する。このような実施形態は、特に異なる直径および/または異なる合金のスチールワイヤが同時にパテンティングされるとき、品質のさらなる相乗的改善およびスチールワイヤのパテンティングの安定性を提供する。
【0025】
好ましい実施形態において、各個別の経路に沿った長さLにわたる冷却の速度は、衝突液体の流量によって制御される。
【0026】
好ましい実施形態において、第1の冷媒槽は、固定された長さを有する。
【0027】
好ましくは、衝突液体は、各個別の経路に沿った予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤ自体のそれぞれの下に浸入するか、または衝突液体は、その個別の経路に沿った複数の予め加熱されかつ略直線状であるスチールワイヤのいくつかの下に部分的に浸入する。
【0028】
好ましくは、第1の冷媒槽は、越流式である。より好ましくは、衝突液体は、各個別の経路に沿ったスチールワイヤ自体の下の、冷媒槽の内部に浸された穴からの複数の噴流によって提供される。スチールワイヤの下に噴流を有する利点は、噴流によって妨げられることなく、スチールワイヤに簡単に到達しかつそれを配置できることである。
【0029】
浸された穴からの複数の噴流は、好ましくは、蒸気膜に向かって直線的に、例えば蒸気膜上に効果的な衝撃をもたらすように、すなわち蒸気膜を不安定化するかまたは蒸気膜の厚さを減少させ、さらにスチールワイヤの冷却速度を増加させるように1つまたは複数のワイヤに垂直に向けられるように適合される。
【0030】
好ましくは、衝突液体は、流量制御システムにより、例えば、ポンプを使用して連続的に再循環および制御される。より好ましくは、1つまたは複数のセンサは、スチールワイヤの1つまたは2つ以上の磁気応答を測定し、および閉ループにおいて適応し、第1の冷媒槽における衝突液体を制御するためのフィードバックを提供するために設けられる。これは、国際公開第2014/118089A1号パンフレットで開示されているような可変強制冷却長さを使用する概念では、不可能でないとしても極めて困難であろう。
【0031】
本発明による制御冷却を受けるスチールワイヤは、2.8mm~20mmの直径を有することができる。例えば、スチールワイヤの直径は、3.5mm~20mmまたは6.5mm~13.5mmの範囲である。
【0032】
本発明の第2の態様は、1つまたは複数の予め加熱されたスチールワイヤの所定の温度範囲への制御冷却のための設備である。本設備は、以下を含む。
a)第1の冷媒槽。第1の冷媒槽は、水と安定化添加物、例えば安定化ポリマーとを含む浴液を含有するために設けられる。好ましくは、浴液温度を調整する、より好ましくは80℃より高い温度に調整するための手段が提供される、
b)個別の経路に沿った各スチールワイヤに向かって衝突液体を噴出するように適合されている、第1の冷媒槽の内部に浸された1つまたは複数の衝突液体生成器、
c)第2の冷媒槽。第2の冷媒槽は、水と安定化添加物、例えば安定化ポリマーとを含む浴液を含有するために設けられる。好ましくは、浴液温度を調整する、より好ましくは80℃より高い温度に調整するための手段が提供される。第2の冷媒槽は、第1の冷媒槽からその間の空隙によって分離される。好ましくは、空隙は、0.1~2mの長さを有する、
d)個別の経路に沿って、その後、第1の冷媒槽、空隙および第2の冷媒槽を通して、1つまたは複数の予め加熱されたスチールワイヤを連続的に案内するための案内手段。
好ましくは、設備は、本発明の第1の態様の任意の実施形態のような方法を実施するために設けられる。
【0033】
本発明による設備は、低い投資コストおよび低い運転コストという利点を有する。従来の水空気パテンティング設備を本発明による強制水冷設備に適応させることは、非常に容易である。本発明による設備は、それぞれ同じ直径を有する複数の予め加熱されたスチールワイヤだけでなく、異なる直径を有する複数の予め加熱されたスチールワイヤを冷却するためにも適用され、それは、第1の冷媒槽において個々に流量を調整することにより、かつ/または各個別の経路に沿った第2の冷媒槽の長さを調整することにより実現することができる。
【0034】
好ましくは、第1の冷媒槽、衝突液体生成器および空隙は、各個別の経路に沿って固定された長さを有する。
【0035】
好ましくは、第1の冷媒槽および/または第2の冷媒槽の長さは、調整可能である。
【0036】
好ましくは、設備は、1つまたは複数の衝突液体生成器の強度を制御するための手段を含む。このために、流量制御システムを好ましくは第1の冷媒槽の外側に設けることができる。流量制御を有するポンプをこのために使用することができる。あるいは、流量は、1つまたは複数の弁またはオリフィスによって制御することができる。
【0037】
好ましくは、第1の冷媒槽は、越流式である。
【0038】
好ましくは、第2の冷媒槽は、越流式である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明による好ましい水空気パテンティング概念を示す。
図2】本発明による冷却プロセスの実行についての概略図を与える。
図3】異なるルーチンによる加熱されたスチールワイヤの冷却曲線を示す。
図4】冷却速度に対する流量の影響を示す。
図5】本発明の例による、異なる流量で強制冷却を受けるスチールワイヤの冷却曲線を示す。
図6】本発明の例による、異なる流量で強制冷却を受けるスチールワイヤの引張強さを示す。
図7】本発明の別の例による、異なる流量で強制冷却を受けるスチールワイヤの冷却曲線を示す。
図8】本発明の別の例による、異なる流量で強制冷却を受けるスチールワイヤの引張強さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明による好ましい水空気パテンティング冷却方法および設備が図1に概略的に示されている。第1の冷媒槽(CB1)における衝突液体による冷却長さは、固定され、冷却速度は、噴流の前の圧力によって冷媒流れを最適化することによって調整される。短い空隙(AG)は、第1の冷媒槽(CB1)と第2の冷媒槽(CB2)とを分離するために設けられる。第2の冷媒槽(CB2)の長さは、調整可能である。第1の冷媒槽の長さ、強制冷却のための噴流の流量および空隙領域の長さは、マルテンサイトまたはベイナイトの形成を回避するように選択される。
【0041】
好ましくは、図1に示されるように、スチールワイヤの周りの蒸気膜が衝突液体によって影響を受けるスチールワイヤの長さに沿った第1の冷媒槽のスチールワイヤを分離する仕切壁が第1の冷媒槽に設けられ、それにより、第1のスチールワイヤ上の衝突液体は、第2のスチールワイヤの周りの蒸気膜に影響を与えない。好ましくは、図1に示されるように、各個別の経路に沿った第1の冷媒槽、衝突液体生成器および空隙は、固定された長さを有し、第2の冷媒槽の長さは、調整可能である。
【0042】
図2は、本発明による1つの略直線状のスチールワイヤの制御冷却を概略的に示す。図2に示されるように、スチールワイヤ10は、約1000℃の温度Tを有する炉12から案内される。ワイヤ走行速度は、ワイヤの直径によって調整することができ、例えば約20m/分である。炉12の直接下流に越流式の第1の冷媒槽14が位置する。第1の冷媒槽の内部に浸された中空板(すなわち穿孔板)22の穴20からの複数の噴流16が衝突液体を形成し、その流量は、第1の冷媒槽の外側の循環ポンプおよび制御システム18によって制御される。穴20からの圧力下の衝突液体は、スチールワイヤ10に向かって噴出する。図2に示されるように、第1の長さLは、炉12の出口から離れた衝突液体までの距離である。第2の長さLは、第1の冷媒槽における強制冷媒冷却プロセス(強制冷媒冷却長さ)のために使用される長さを示す。次いで、スチールワイヤ10は、第1の冷媒槽から案内されて、図2で示されるLの長さを有する空隙領域にさらされる。その後、スチールワイヤ10は、さらに冷却されるように第2の冷媒槽17に案内される。第2の冷媒槽17のスチールワイヤ10の浸漬長さは、Lとして示される。長さLは、スチールワイヤ10の直径および望ましい引張強さに応じて可変であり得る。
【0043】
図3は、いわゆるTTT曲線(温度-時間-変態)における異なる冷却曲線を示す。時間は、横座標で示され、温度は、縦座標を形成する。Sは、オーステナイト(A)からパーライト(P)への変態の開始を示す曲線であり、Eは、この変態の終了を示す曲線である。一例として、越流水槽で膜沸騰によって冷却されるスチールワイヤは、冷却曲線1’の破線に従う。冷却曲線1’の破線は、曲線SおよびEの「ノーズ」に到達しない。曲線1~4は、国際公開第2014118089号パンフレットに記載のプロセスを示し、曲線1は、強制水冷処理の期間における冷却進展を示し、曲線2は、「柔らかい」従来の水空気パテンティングプロセスにおける次の段階を示し、曲線3は、変態中の冷却曲線であり、曲線4は、変態後の段階においてさらなる冷却が空気中で生じることを示す。上の2つの状況と比較すると、本発明による冷却曲線の例は、曲線a~cによって示されている。曲線aは、冷却速度が流量で調整される第1の冷媒槽および第1の冷媒槽続く空隙において生じた冷却を示す。曲線bは、変態中の冷却曲線であり、蒸気膜を乱すことなく第2の冷媒槽で生じさせることができる。曲線cは、空気中における変態の後を示す冷却曲線である。冷却曲線a~cは、スチールワイヤの冷却スキームを変えることによって変更することができる。
【0044】
異なる直径を有するスチールワイヤの冷却速度は、流量を調整することにより、適切に最適化することができる。冷却時間対流量の試験は、750℃から500℃に冷却された6mmの直径を有するプローブによって実行された。試験は、1m/h~16m/hの範囲のいくつかの流量で実施され、その結果は、図4に示されている。1.15m/hから15.3m/hへの流量の増加により、冷却時間を11.4秒から5.1秒に減少させることができる。それは、流量の増加により冷却時間を大きく減少させ得る、すなわち冷却速度を加速させ得ることを示す。
【0045】
流量を調整することにより、スチールワイヤのオーステナイトからパーライトへの変態の開始点を制御することができる。変態は、第1の冷媒槽(CB1)、空隙領域(AG)または第2の冷媒槽(CB2)で開始させることができる。
【0046】
図5に示される例として、6.5mmの直径および0.62重量%の炭素含有量を有するスチールワイヤが950℃から冷却される。加熱されたスチールワイヤは、炉から第1の冷媒槽(CB1)に直ちに案内され、その後、空隙領域(AG)にさらされ、第2の冷媒槽(CB2)が続く。3m/h、9m/h、12m/hおよび15m/hの異なる流量でのスチールワイヤの温度対冷却時間がそれぞれ測定され、冷却曲線は、図5の曲線A、B、CおよびDとしてそれぞれ示される。本明細書において、流量が異なること以外には同じ冷却設備装置が利用されている。強制冷却の長さは、160cmであり、空隙領域の長さは、65cmであり、第2の冷媒槽の長さは、200cmである。流量が、曲線Aで示されるように3m/hで設定されるとき、変態は、第2の冷媒槽において約580℃の温度で始まる。より多い流量、すなわち9m/h、12m/hおよび15m/hを使用すると、変態は、第1の冷媒槽において500℃~550℃の温度で始まり、空隙領域において続く。
【0047】
結果的に、冷却速度および冷却プロセスは、冷却されたスチールワイヤの微細構造体およびそれによるスチールワイヤの極限引張強さを決定する。6.5mmの直径および0.62重量%の炭素含有量を有するスチールワイヤの引張強さが流量の関数として図6に示される。3m/h、9m/h、12m/hおよび15m/hの強制冷却速度で冷却されたスチールワイヤは、それぞれ1012N/mm、997N/mm、1077N/mmおよび1151N/mmの引張強さ(Rm)を有する。したがって、スチールワイヤの引張強さは、第1の冷媒槽における強制冷却中の流量を選択することによって調整され得る。
【0048】
別の例が図7に示される。3.6mmの直径および0.70重量%の炭素含有量を有するスチールワイヤが950℃から冷却される。加熱されたスチールワイヤは、炉から第1の冷媒槽(CB1)に直ちに案内され、その後、空隙領域(AG)にさらされ、第2の冷媒槽(CB2)が続く。3m/h、9m/h、11m/hおよび14m/hの異なる流量でのスチールワイヤの温度対冷却時間がそれぞれ測定され、冷却曲線は、図7の曲線A、B、CおよびDとしてそれぞれ示される。本明細書において、流量が異なること以外には同じ冷却設備装置が利用されている。強制冷却の長さは、160cmであり、空隙領域の長さは、65cmであり、第2の冷媒槽の長さは、120cmである。速度が、曲線Aで示されるように3m/hで設定されるとき、変態は、第2の冷媒槽において560℃よりわずかに高い温度で始まる。より多い流量、すなわち9m/h、11m/hおよび14m/hを使用すると、変態は、第1の冷媒槽において約500℃の温度で始まり、空隙領域において続く。
【0049】
結果的に、冷却速度および冷却プロセスは、冷却されたスチールワイヤの微細構造体およびそれによるスチールワイヤの極限引張強さを決定する。3.6mmの直径および0.70重量%の炭素含有量を有するスチールワイヤの引張強さが流量の関数として図8に示される。3m/h、9m/h、11m/hおよび14m/hの強制冷却速度で冷却されたスチールワイヤは、それぞれ1084N/mm、1094N/mm、1164N/mmおよび1252N/mmの引張強さ(Rm)を有する。それは、スチールワイヤの引張強さが第1の冷媒槽における強制冷却中の流量を選択することによって調整され得ることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8