(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】窒化ホウ素ナノチューブの精製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220224BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220224BHJP
【FI】
C01B21/064 M
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019548538
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(86)【国際出願番号】 US2017063729
(87)【国際公開番号】W WO2018102423
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-11-19
(32)【優先日】2016-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516318891
【氏名又は名称】ビイエヌエヌティ・エルエルシイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシャティンスキ,トーマス・ジイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョーダン,ケヴィン・シイ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,マイケル・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】ホイットニー,アール・ロイ
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴンス,ジョナサン・シイ
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521240(JP,A)
【文献】特開昭51-006198(JP,A)
【文献】特表2003-505332(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0074832(US,A1)
【文献】米国特許第08734748(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0069758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)から不純物を取り除くための精製方法であって、前記精製方法は、
前記BNNT材料を、
500~650℃で水蒸気を含む不活性ガス雰囲気又は酸素リッチな雰囲気中で第1期間加熱
、又は500~650℃で酸素供給原料および水の存在下で第1期間加熱した後に水素供給原料を含有するガスの存在下に置き、ホウ素不純物を取り除く
第1の工程と、
前記BNNT材料を、
650~800℃で水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中で第2期間加熱し、窒化ホウ素不純物を取り除く
第2の工程と、
前記第1の工程と前記第2の工程との後に、前記BNNT材料を、
500~650℃で水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中で第3期間加熱して、酸化ホウ素不純物を取り除く
第3の工程と、
を含むことを特徴とする窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項2】
前記第1期間
は0.16~12時間であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項3】
前記第2期間
は1~12時間であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項4】
前記第3期間
は0.16~1時間であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項5】
前記第1期間、前記第2期間、及び前記第3期間
は、時間量が同じであることを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項6】
前記BNNT材料をベーク期間の間、ベーク温度にてプリベークし、炭素不純物を取り除くことを更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項7】
前記ベーク温度
は400~500℃であり、前記ベーク期間
は0.5~3時間であることを特徴とする、請求項
6に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項8】
前記プリベークは、
前記第1の工程と前記第2の工程との前に生じることを特徴とする、請求項
6に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項9】
前記BNNT材料は、オゾンを含む環境でプリベークされることを特徴とする、請求項
6に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項10】
前記不活性ガスは窒素であることを特徴とする、請求項
1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項11】
前記不活性ガスは窒素であり、前記窒素ガス中の水蒸気の量は、乾燥窒素ガスを使用し、前記乾燥窒素ガスを
、30~100℃の温度の飽和水蒸気条件に通すことにより制御されることを特徴とする、請求項
1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【請求項12】
前記第1~第3の工程において、前記BNNT材料は、0.1~12気圧の圧力を有する雰囲気で加熱されることを特徴とする、請求項1に記載の窒化ホウ素ナノチューブ精製方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2016年11月29日に出願された、米国特許仮出願番号第62/427,506号に対する優先権の利益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本開示は、合成後そのままの窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)材料を精製して不純物、より具体的には、ホウ素、非晶質窒化ホウ素(a-BN)、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)、及び炭素系化合物の不純物を取り除くことに関する。
【背景技術】
【0003】
BNNTには多数の用途が存在する。BNNTの特有の性質は、合成後そのままのBNNT材料中の不純物により、いくぶんか低下する場合がある。高温法又は高温高圧法により合成されるBNNTは典型的には、高品質なBNNTであり、即ち、壁の数が1~10個の範囲となり(大部分は二重壁及び三重壁である)、長さと直径の比が、典型的には10,000:1又はそれ以上であり、BNNTは触媒非含有であり、BNNTは、ほぼ欠陥を有さない非常に高い結晶性である(長さ100直径当たり、欠陥は1個未満)。しかし、ホウ素の小粒子である、a-BN及びh-BN(h-BNナノケージ及びh-BNナノシートを含む)が存在する場合がある。これらの小粒子は典型的に、スケールが10分の1ナノメートル(nm)であるが、製造工程に応じて、これより小さく、又は大きくなり得る。合成条件に応じて、これらの小粒子は、合成後そのままの材料の質量の5~95%を占め得る(合成条件によっては、この範囲を超える不純物がもたらされ得る)。これらの不純物は、分散剤中でのBNNT材料の分散との干渉、BNNT表面積の低下、強度の低下、複合材料中での界面相互作用の低下、及び、ホウ素粒子の場合、BNの化学的性質との干渉を含む、いくつかの欠点を有する。他のBNNT合成法が既知であるが、それらは、相当の不純物の影響を受ける、合成後そのままのBNNT材料を生成する。
【0004】
合成後そのままのBNNT材料のBNNT精製に利用可能な現代の方法はほとんど存在せず、利用可能な方法は、著しい欠点を有している。利用可能な方法は多くの場合、1種類のみの不純物(例えばホウ素粒子)を取り除き、かつ/又は、その方法は、BNNTそれ自体を多く損傷する、かつ/若しくは取り除き、最終のBNNT収率が10%未満となる。精製方法によっては、合成後そのままのBNNTを音波処理により分散させ、合成後そのままのBNNT材料の高アスペクト比を犠牲にし、遠心分離を続ける。これらの方法でもまた、上清中で、10%未満の収率の精製BNNTが生成され得る。このような収率では、大量の製造が非常に非効率的になってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、BNNTに悪影響を及ぼすことなく不純物を取り除く、合成後そのままのBNNT材料の精製が必要とされている。
【0006】
本明細書にて開示するように、ホウ素粒子、非晶質窒化ホウ素(a-BN)、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)ナノケージ、h-BNナノシート、及び炭素系化合物の不純物を、BNNTを損傷することなく、合成後そのままのBNNTから取り除くことができる。精製方法は段階的に実施することができ、各段階は、目標の不純物を取り除くように設計されている。合成後そのままのBNNT材料に応じて、いくつかの実施形態では、1つ以上の段階が必要でない場合がある。同様に、特定の合成後そのままのBNNT材料、及び不純物の相対量に応じて、本明細書で開示したもの以外の順序で、段階を実施することができる。
【0007】
いくつかの実施形態において、BNNT材料の精製方法は、(1)不活性ガス及び水素供給原料の存在下において、BNNT材料を第1温度まで、第1期間加熱してホウ素不純物を取り除くことと、(2)BNNT材料を第2温度で第2期間加熱して、窒化ホウ素不純物を取り除くことと、(3)BNNT材料を第3温度で第3期間加熱して、酸化ホウ素不純物を取り除くことと、を含む。ホウ素不純物を取り除くために、温度は約500~650℃であるのが好ましい場合があり、合成後そのままの材料はチャンバ内で、所定の時間、好ましくは約0.16~12時間、その温度で保持され得る。いくつかの実施形態において、不活性ガスは窒素を含んでよい、又は、窒素から構成されていてよい、又は、窒素から本質的に構成されていてよい。いくつかの実施形態において、水素供給原料は、水蒸気及び水素ガスのうち少なくとも1つであってよい。いくつかの実施形態において、窒素ガス中の水蒸気の量は、例えば、乾燥窒素ガスを使用して、その乾燥窒素ガスを30~100℃の温度の飽和水蒸気条件に通すことにより制御することができる。窒化ホウ素不純物を取り除くために、温度を第2温度、好ましくは約650~800℃まで上げてよく、第2期間は好ましくは、約0.16~12時間である。酸化ホウ素不純物を取り除くために、温度を第3温度、好ましくは約500~650℃まで下げてよく、第3期間は好ましくは、約0.16~12時間である。温度、期間、並びに水素ガス流及び圧力パラメーターは、特定の実施形態に応じて、及び所与の合成後そのままのBNNT材料に関して変化し得ることが、当業者により理解されるべきである。操作パラメータは特定の実施形態、及び合成後そのままのBNNT材料に対して最適化されることができ、それ故、本明細書にて開示した実施形態から離れる場合がある。
【0008】
炭素不純物は、いくつかの合成後そのままのBNNT材料に存在する場合がある。いくつかの実施形態において、精製方法は、BNNT材料をプリベークして炭素不純物を取り除くことを含み得る。プリベーク温度は、好ましくは約400~500℃であり得、プリベーク期間は約0.5~3時間であり得る。いくつかの実施形態において、プリベークは、オゾンを含む環境で生じ得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、BNNT材料の精製方法は、(1)酸素リッチな環境で、BNNT材料を第1温度まで第1期間加熱してホウ素不純物を取り除くことと、(2)BNNT材料を第2温度で第2期間加熱して、窒化ホウ素不純物を取り除くことと、(3)BNNT材料を第3温度で第3期間加熱して、酸化ホウ素不純物を取り除くことと、を含む。いくつかの実施形態において、BNNT材料は、0.1~1.0気圧の圧力を有する環境で加熱される。第1温度は、好ましくは約500~650℃であり得、第1期間は好ましくは、約0.16~12時間であり得る。第2温度は、好ましくは約650~800℃であり得、第2期間は約0.16~12時間であり得る。第3温度は、好ましくは約500~650℃であり得、第3期間は約0.16~12時間であり得る。
【0010】
温度、期間、及び酸素パラメーターは、特定の実施形態に応じて、及び所与の合成後そのままのBNNT材料に関して変化し得ることが、当業者により理解されるべきである。操作パラメータは特定の実施形態、及び合成後そのままのBNNT材料に対して最適化されることができ、それ故、本明細書にて開示した実施形態から離れる場合がある。全実施形態において、全ての段階が必要であり得るとは限らず、本明細書で記載される実施形態に記載したもの以外の順序で、段階を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】比較的多量のh-BNナノシート領域からの、合成後そのままのBNNT材料の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図3】比較的多量のh-BNナノケージの領域からの、炭素のレース状格子上における、合成後そのままのBNNT材料のTEM画像を示す。
【
図4】BNNTを有する、h-BNナノケージのTEM画像を示す。
【
図5】ホウ素粒子及びa-BNが取り除かれ、h-BNナノケージ及びh-BNナノシートのほとんどが取り除かれた、精製BNNT材料の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図6】合成後そのままのBNNT「パフボール」、及び精製BNNT「パフボール」を示す。
【
図7】イソプロピルアルコールに分散した、部分的に精製したBNNT材料(左)、及び、精製BNNT材料(右)を示す。
【
図8】凍結乾燥により粉末にした、部分的に精製したBNNT材料を示す。
【
図9】マットとして回収した、部分的に精製したBNNTを示す。
【
図10】バッキ-ペーパーにした、ほぼ完全に精製したBNNT材料を示す。
【
図11】本アプローチに従った精製方法の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
合成後そのままのBNNTを精製するための精製方法として実装され得る段階を、本明細書に記載する。段階は、本明細書で示すもの以外の順序でも実施されてよく、いくつかの段階は、特定の合成後そのままのBNNT材料には必要でない場合がある。合成後そのままのBNNT材料の潜在的な変化を考慮すると、いくつかの実施形態は、本アプローチから逸脱することなく、本明細書にて開示した例示的範囲の外にある様々な精製方法条件を用い得ることもまた、理解されなければならない。
【0013】
高温法により合成したものなどの高品質BNNTは、ほとんど欠陥を有さず、触媒不純物がなく、1~10個の壁を有し(分布のピークは二重壁である)、より多くの壁が急激に減少する。BNNTの直径は典型的には、1.5~6nmの範囲であるが、この範囲を超えて拡大してもよい。BNNTの長さは典型的には、数百ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲であるが、この範囲を超えて拡大してもよい。高温法により合成したBNNTは、典型的にはバルク材料の約50%を占め、ホウ素、a-BN、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシートの不純物を有し得る。これらの不純物は典型的には、サイズが数十ナノメートル又はそれ未満であるが、特にh-BNナノシートの場合は、この範囲を超えて拡大してよい。高温法の製造パラメーターを調整して、a-BN、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシート不純物と比較して、ホウ素純度を高く、又は低くすることができる。本明細書にて開示した装置及び方法は、本明細書で明確に述べられる場合を除いて、特定の質のBNNT材料に限定されることを意図するものではないことが理解されなければならない。
【0014】
高温法での、合成後そのままのBNNT材料の密度は、典型的には1リットル当たり0.5グラム(0.5g/L)であるが、50%以上は容易に変化する。「タップ密度」というこの値を、h-BNに関する密度2,100g/Lと比較することができる。
図1は、高温法を使用して合成した、BNNT材料11の写真を示す。合成後そのままのBNNT材料11は、
図1に示すように「パフボール」又は「コットンボール」の外観を有し、BNNT材料11は典型的には、定規12により示されるように、数センチメートル~数十センチメートルのスケールである。いくつかの実施形態において、合成後そのままのBNNT材料は、BNNT材料のフローパターンを、回収時のままに維持する配置で回収され得る。回収の形態は、本明細書で記載される精製方法に影響を及ぼし得ない。いくつかの実施形態において、BNNT材料11は、容易にコンパクトになることができる。
【0015】
合成後そのままのBNNT材料のTEM画像を、
図2及び3に示す。BNNT21及びBNNT31は長い繊維を形成するが、不純物22及び不純物32(ホウ素、a-BN、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシートを含む)は、画像においては、材料の塊として確認することができる。レース状炭素格子33は、精製方法中に、合成後そのままのBNNT材料を支持してTEM画像を作成するために存在する。
図4は、BNNT41中にあるh-BNナノケージ42の拡大画像を示す。
【0016】
試験においては、BNNTの精製は、約200℃及び約1800psiにて生じることが示され、このことは、それぞれの汚染性ホウ素及び窒化ホウ素種を揮発されるボレートに進化させるための活性化温度を、BNNTを損傷することなく、圧力を増加させた状態で低下させることができることを示唆している。しかし、より安全な大気オプションが利用可能であるため、高温及び高圧での操作は、好ましくない。温度、圧力、及び反応種の濃度の増加により、BNNTの精製を段階的に行うことができ、ほとんどの場合は、1つの不純物種を各段階で取り除く。例えば、炭素は、取り除くためには最も低いエネルギー論を必要とし、これにホウ素、a-BN、h-BNナノシート、h-BNナノケージ、そしてチューブ状h-BNが続く。a-BN及びh-BNナノケージは、合成後そのままの材料の組成に応じて、大部分の実施形態においてほぼ同時、又は同様の条件で取り除くことができる。特定の実施形態に関して所望される場合、これらの段階は、異なる順序で実施することができることが理解されなければならない。
【0017】
いくつかの実施形態において、精製方法は、a-BN、h-BN(h-BNナノケージ及びh-BNナノシートを含む)、並びにホウ素を、合成後そのままのBNNT材料から取り除く個別の段階を含む。合成後そのままのBNNT材料が、精製方法全体の間中、同じチャンバ内に保持されるように、段階を連続的に実施し、断続されないようにすることができる。別の実施形態において、1つ以上の段階を、異なるチャンバ内で、又は、介在材料の操作若しくは他の精製方法を用いて、個別に実施してよい。いくつかの実施形態において、任意の段階は、合成後そのままのBNNT材料から炭素、及び炭素系化合物(例えば炭化水素)を取り除くことを含んでよい。合成後そのままのBNNT材料はあらゆる炭素又は炭素系化合物を有しない場合があるため、この工程は「任意」である。しかし、例えば、合成後そのままの材料が、炭化水素を含有する溶液中での音波処理などの、炭素系化合物を用いて処理されている場合、組成物はBNNT材料中に存在する残留炭化水素を有する。他の予精製操作により、合成後そのままのBNNT材料に、炭素(及び/又は他の)不純物が同様に、含まれるようになり得る。いくつかの実施形態において、空気、乾燥窒素、及び真空中で、炭素系化合物を含有する材料を炭素系化合物の沸点を上回る温度まで加熱することにより、炭素系化合物の除去を少なくとも部分的に達成することができる。いくつかの実施形態において、BNNT材料を、酸素含有環境において炭素が熱分解して二酸化炭素に発展する点である、約400℃を上回る温度まで加熱する。しかし、炭素系化合物の沸点を超えて加熱することにより、BNNTに付着した炭素系化合物、又は水素に結合していない炭素系化合物が取り除かれない場合がある。いくつかの実施形態において、炭素又は炭素系化合物を含有するBNNT材料を、約450~500℃まで加熱する。いくつかの実施形態において、炭化水素のみが取り除かれ、ホウ素及びh-BN材料は特定の段階で影響を受けないのであれば、BNNT材料を400~450℃まで加熱してよい。存在する炭素及び/又は炭化水素の量に応じて、BNNT材料を約30分~3時間加熱してよいが、いくつかの実施形態では、より長い、又はより短い期間が適切であり得る。当業者は、所与の実施形態及び/又は合成後そのままのBNNT材料に対する、プリベーク時間の最適化方法を理解するであろう。いくつかの実施形態において、20~150cfmのガス流量で、300mg/時又はそれ以上のオゾン出力を有する大きな部屋で、標準的なオゾン生成器を使用してきれいな空気を供給されるなどによりオゾンが存在する空気中に、炭素及び/又は炭化水素が存在するBNNT材料を、配置することができる。オゾンは、典型的には30分~3時間以内に、存在する炭素及び炭化水素を酸化することができるが、いくつかの実施形態では、より長い、又はより短い期間が適切であり得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、合成後そのままのBNNT材料の精製方法は、ホウ素粒子を取り除く段階を含む。ホウ素は、酸素ガスなどの酸素供給原料、及び水の存在下において、約450℃を超える温度において、ボレート(BO3、BO4、B2O3など)の準安定状態に進行する。加熱期間は、チャンバ、BNNT材料、及び実施形態に応じて変化するが、一般に約0.12~12時間であり得る。ボレートは加熱後、水素供給原料無しで、BNNTサンプル上に固体残留物として保持され得る。水蒸気、水素ガス、又はカチオン種に分解する化学物質、及び水素ガスなどの水素供給原料を含有する炉チャンバを通して流れたガスは、サンプルが水素添加されると、酸化ホウ素化合物を(BxOxHx)ホウ酸(ホウ酸水素)に転換する。当業者が理解していなければならないとおり、ボレートが最も加水分解されるため、ホウ酸の昇華速度が最大化され得る。
【0019】
いくつかの実施形態において、窒素ガスに加えて水蒸気ガスを有する、好ましくは酸素非含有又は極小の酸素含有の環境においてBNNT材料を加熱することにより、ホウ素粒子を取り除くことができる。いくつかの実施形態において、窒素ガス及び水蒸気を、約500℃~約650℃の温度で、合成後そのままのBNNT材料を通して流してよい。加熱期間は、チャンバ、BNNT材料、及び実施形態に応じて変化するが、一般に約0.12~12時間であり得る。水蒸気中の酸素は、ホウ素粒子を酸化ホウ素化合物に転換し、その後酸化ホウ素化合物を揮発性ホウ酸に転換するのに十分である。流れる窒素ガス及び水蒸気は続いて、BNNT材料からホウ酸を取り除く。いくつかの実施形態において、約550℃の温度が好ましい。いくつかの実施形態において、気体酸素を有さない、又は少量の気体酸素を有し、かつ多量の水蒸気(即ち、相対質量で測定すると、約30~90%)を有する窒素ガス環境(即ち、約0.1~1気圧)での制御加熱による、合成後そのままのBNNT材料の精製。窒素ガス流量は典型的には、BNNT材料1グラム当たり1~100cfphであるが、この範囲を超えて拡大してもよい。窒素、水、及び酸素含有量並びに流量は、所与の実施形態、及び/又は特定の合成後そのままのBNNT材料に対して最適化することができることが、当業者により理解されるべきである。
【0020】
いくつかの実施形態において、窒素ガス中の水蒸気の量は、まず、その領域に乾燥窒素ガスを充填し、約30℃~約120℃の温度で飽和水蒸気条件に通し、その後、窒素ガス-水蒸気混合物を高温領域に流すことにより制御することができる。いくつかの実施形態において、飽和水蒸気をまず、約80~100℃まで加熱する。いくつかの実施形態において、500~650℃環境に供給された窒素と水蒸気の温度は、120℃~200℃であり、水蒸気が、水蒸気に対する窒素中での飽和圧力を上回るように、水が系に注入される。いくつかの実施形態において、ホウ素粒子及び関連するボレートを取り除くための時間は、10分未満であり得る(特に、水蒸気量が比較的多い、即ち50重量%を超える場合)が、特に水蒸気の量が少ない、即ち20重量%未満である場合、12時間以上まで拡大してよい。いくつかの実施形態において、BN材料を更に酸化することなく、進化したボレートを取り除くには、大容量下(例えば、湿潤ガス流で示される温度の上限において、BNNT材料1グラム当たり約100cfph)においては10分から、湿潤ガスの低流量下(例えば、示す温度の低範囲においては、BNNT材料1グラム当たり1~10cfph)では数時間の範囲の時間がかかる場合がある。
【0021】
いくつかの実施形態において、かつ、好ましくはホウ素粒子が取り除かれてから、温度を約650~800℃まで上げて、窒化ホウ素化合物を取り除くことができる。加熱により、窒化ホウ素化合物を酸化ホウ素、ホウ酸、及び窒素ガスの様々な形態に転換することができる。いくつかの実施形態において、温度を約700℃まで上げる。加熱期間は、チャンバ、BNNT材料、及び実施形態に応じて変化するが、一般に約0.12~12時間であり得る。いくつかの実施形態において、他の変数の中でも、一般に流量及び水蒸気量に応じて、BNNT材料を1~12時間加熱する。精製方法は所与の実施形態、及び/又は特定の合成後そのままのBNNT材料に対して最適化可能であることが、当業者により理解されるべきである。
【0022】
得られる酸化ホウ素を、この段階の間に揮発性ホウ酸に転換することができ、次いで、水蒸気含有窒素ガスを流すことで、この精製方法から取り除くことができる。所与のBNNT材料供給原料に対して最適化した温度及び水蒸気圧を用いて、a-BNをまず、ホウ酸に転換することができ、次いで、h-BNナノケージ及びh-BNナノシートを含むh-BN粒子の縁を、ホウ酸に転換することができる。BNNTは最終的にホウ酸に転換し、通常、精製方法パラメータは、この段階の間におけるBNNTの損失を最小化するように最適化される。具体的に言えば、加熱期間、温度、及び水蒸気含量を変化させて、BNNTの損失を回避する、又は最小化することができる。また、BNNTの多くが、a-BN、h-BNナノシート、及びh-BNナノケージを含むh-BNの粒子で終了する。h-BNナノシートを含むh-BN粒子の縁が転換されると、h-BNの全粒子が次に、ゆっくりと転換され、BNNTの末端がホウ酸に転換し始める。当業者は時間、温度、及び水蒸気濃度の条件を調整して、合成後そのままのBNNT材料の条件を説明することができることが理解されなければならない。例えば、供給原料の条件に対して化学反応を合わせる当業者は、比較的少量の粒子不純物22を含む、
図2のTEM画像に示す、合成後そのままのBNNT材料を精製するための好ましい条件は、多量の粒子不純物32を含む、
図3のTEM画像に示す、合成後そのままのBNNT材料を精製するための好ましい条件とは異なり得ることを理解するであろう。最小で10℃の温度変化は、合成後そのままのBNNT材料の供給原料の所与の条件に関する精製方法からの精製BNNTの収率に、著しい影響を及ぼし得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、合成後そのままのBNNT材料の精製方法は、残留酸化ホウ素をホウ酸に転換し、揮発させて、精製BNNTに影響を及ぼすことなく除去されるように、温度を約500~650℃まで下げる工程を含む。本工程での時間は、他の因子の中でも特に、実施形態における流量及び水蒸気の量に応じて、最短10分(0.16時間)であってよく、又は1時間まで拡大してよい。全体的に、加熱期間はチャンバ、BNNT材料、及び実施形態に応じて変化するが、一般に約0.12~12時間であり得る。いくつかの実施形態において、温度を約550℃に設定することができる。いくつかの実施形態において、残留酸化ホウ素は、酸化ホウ素を再導入しないように、酸素非含有環境、又は低酸素環境(即ち、気体の酸素が1重量%未満)で取り除かれるのが好ましい。
【0024】
逆に、いくつかの実施形態において、精製方法にいくらか、ただし典型的には空気中に見出される量を超えずに、酸素ガスを導入するのが望ましい場合がある。こうすることにより、最適な収率のための時間、温度、及び水蒸気圧が変化する。高温水蒸気の存在下において酸素ガスを添加することにより、BNNTにより強力に作用し、これにより、酸化ホウ素を、ホウ酸を含むボレートに転換するためには、いくらかの水蒸気又は水素ガスが必要であるものの、より少量の水蒸気が必要とされ得る。いくつかの実施形態において、酸素がBNNTを酸化ホウ素化合物(BO3、BO4、B2O3など)に急速に転換しないように、酸素の濃度及び温度を、注意深く制御する。いくつかの実施形態において、低温でのみ水蒸気を含有する窒素ガスの最終工程は、これ以上行うことなく酸化ホウ素をきれいに取り除くために必要であり得る。
【0025】
いくつかの実施形態において、反応時間を早めるために、各精製工程における圧力を上げてよい。いくつかの実施形態において、圧力を下げてもよい。例えば、精製方法は0.1~12気圧で、及び100気圧を超えて実施してよい。加圧された系を高温で操作することにより、更なる安全性及び操作の必要条件を有し得、これらは大気圧で操作することにより回避可能であることが、当業者により理解されるべきである。
【0026】
図5は、不純物52(ホウ素粒子、a-BN、h-BNナノシート、及びh-BNナノケージ)の大部分が取り除かれた、精製BNNT材料51のSEMを示す。精製度合いは、実施形態毎に変化し得ることが理解されなければならない。
図6は、合成後そのままのBNNT「パフボール」61、及び精製BNNT「パフボール」62を示す。精製した、合成後そのままのBNNT「パフボール」62は典型的には、白色で厚みがあるように見え、少量の材料が存在する場合にのみ、半透明の青色に見える。これを、典型的には灰白色であり、それほど半透明でない、合成後そのままのBNNT材料「パフボール」61と比較する。もちろん、外見は合成法に応じて変化する。合成後そのままのBNNT「パフボール」61を通過しない光と、精製BNNT「パフボール」を輝かせる光との違いを、
図6に示す。合成後そのままのBNNT供給原料の特徴に応じて、BNNT材料(BNNT、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシートを含む)の収率(50~80%)は、典型的にはホウ素除去後に観察され、BNNT材料の収率(10~40%)は、典型的には、本明細書における精製方法を利用した場合に、酸化ホウ素を取り除いた後で観察される。合成後そのままのBNNT材料の質を高めると、収率は更に増加する場合がある。当業者は、BNNT合成及びBNNT精製の両方に関して、最適化を通して高収率を得ることができることを理解すべきである。
【0027】
精製BNNT材料は、軽度の音波処理により、例えば短鎖及び長鎖アルコール、酸性水溶液、高分子溶液などの、様々な分散剤に十分に分散する。分散後、精製BNNTは、数日間の設定後に大部分が残ったままとなり得る。対照的に、合成後そのままの材料の分散は、典型的にはホウ素粒子の存在により決定され、数日間分散したままとはならない。
図7は、イソプロピルアルコールに分散し、僅かに沈殿した「部分的に」精製したBNNT材料71(材料はホウ素精製段階を通過した)の容器、及び、イソプロピルアルコールに分散した「完全に」精製したBNNT材料72(材料はホウ素及び窒化ホウ素精製段階を通過した)の容器を示す。「完全に」精製したBNNT材料72は、「部分的に」精製したBNNT材料71に比べて、十分分散したままであることが確認可能である。
【0028】
いくつかの実施形態において、部分的に精製したBNNTを作製するのが望ましい場合がある。例えば、ホウ素粒子、並びにa-BN、より小さいh-BNナノケージ、及びh-BNナノシートの小粒子を取り除くことは、特定のBNNT用途に対しては十分であり得る。いくつかの精製段階における加熱時間の短縮、及び/又は温度低下により、この結果をもたらすことが可能である。例えば、約700℃で約6時間、窒化ホウ素化合物の除去精製方法を実施するのではなく、この段階を、約650℃で約1時間で打ち切ってよい。酸化ホウ素の除去工程は、酸化ホウ素が十分に存在する場合に実施してよいが、この段階もまた、いくつかの実施形態において打ち切ってよい。いくつかの実施形態において、BNNT、h-BNナノケージ、及びh-BNナノシートの収率は、約50~約70%の範囲であり得る。得られる、部分的に精製したBNNT材料は分散剤に十分分散し得るが、沈殿時間は、数日の代わりに数時間まで短縮することができる。
図8は、後で、メチルアルコール-水混合物中に分散され凍結乾燥し、他の乾燥材料及び液体(エポキシなど)と速やかに混合可能な粉末81を作製する、部分的に精製したBNNT材料となるように処理される、合成後そのままのBNNT材料の例を示す。
図9は、濾過膜92にまたがるマット91に形成された、BNNT粉末の例を示す。
図10は、h-BNナノケージ及びh-BNナノシートが存在する、部分的に精製した材料のバッキ-ペーパー101を示す。当業者により理解されるように、精製度合いは変化し得る。精製方法を調整して、特定の用途のための、合成後そのままの材料の収率を最大化することができる。
【0029】
図11は、本アプローチに従った精製方法の一実施形態を示す。上述のとおり、各段階における特定の操作パラメータは、特定の実施形態、所望の結果、合成後そのままのBNNT出発材料、及び、BNNT材料の予精製操作などに応じて変化し得る。いくつかの実施形態は、任意のプリベーク段階S1101から開始することができる。プリベーク段階において、合成後そのままのBNNT材料(疑義を避けるために明記すれば、これは合成後に更に処理され得る)を、ベーク期間の間ベーク温度にてベークし、炭素又は炭素含有化合物を取り除くことができる。プリベーク温度は、好ましくは約400~500℃であり得、プリベーク期間は約0.5~3時間であり得る。いくつかの実施形態において、プリベークは、オゾンを含む環境で生じ得る。ホウ素除去段階S1103は、不活性ガス中にて、第1温度で第1期間、水蒸気と共にBNNT材料を加熱し、ホウ素を取り除くことを伴う。ホウ素不純物を取り除くために、第1温度は約500~650℃であるのが好ましく、合成後そのままの材料はチャンバ内で所与の時間、好ましくは約0.16~12時間、その温度で維持される。いくつかの実施形態において、不活性ガスは窒素を含んでよい、又は、窒素から構成されていてよい、又は、窒素から本質的に構成されていてよい。いくつかの実施形態において、水素供給原料は、水蒸気及び水素ガスのうち少なくとも1つであってよい。いくつかの実施形態において、例えば、乾燥窒素ガスを使用して、その乾燥窒素ガスを30~120℃の温度の飽和水蒸気条件に通すことにより、窒素ガス中の水蒸気の量を制御してよい。あるいは、酸素系ホウ素除去段階S1104を使用してよい。酸素リッチな環境において、BNNT材料を第1温度まで、第1期間加熱して、ホウ素を取り除くことができる。酸素リッチな段階の第1温度は、好ましくは約500~650℃であり得、第1期間は好ましくは、約0.16~12時間であり得る。ホウ素の除去後、BN除去段階S1105を実施してよい。段階S1105において、温度を第2の温度まで、第2期間の間上げ、BN化合物を取り除くことができる。窒化ホウ素不純物を取り除くために、温度を第2温度、好ましくは約650~800℃まで上げてよく、 第2期間は好ましくは、約0.16~12時間である。酸化ホウ素は段階S1106で取り除くことができ、この段階において、温度は第3温度まで第3期間の間低下し、加熱によりBO化合物を取り除く。酸化ホウ素不純物を取り除くために、温度を第3温度、好ましくは約500~650℃まで下げてよく、第3期間は好ましくは、約0.16~12時間である。精製方法は、
図11に示す順序で実施される必要はないことが理解されなければならない。例えば、工程S1105は工程S1103の前に実施してよい。また、当業者は、段階が、本アプローチを逸脱することなく、本明細書で記載される好ましい操作範囲の外で操作されてよいことを理解すべきである。
【0030】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明する目的のものだけであり、アプローチを制限することを意図するものではない。文脈上別途明記しない限り、本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形も同様に含むことを意図する。本明細書中で使用する場合、用語「を含む(comprises)」及び/又は「を含む(comprising)」は、言及した特徴、整数、工程、操作、元素、及び/又は構成成分の存在を明記するものの、1つ以上の他の特徴、整数、工程、操作、元素、構成成分、及び/又はこれらの群の存在又は追加を除外するものではないことが更に理解されよう。
【0031】
本アプローチは、本アプローチの精神又は本質的特徴を逸脱することなく、他の特定の形態で実施可能である。開示された実施形態はそれ故、全ての点を、限定的なものではなく例示的なものとして考慮することができ、本アプローチの範囲は、前述の説明ではなく出願における特許請求の範囲により示されており、特許請求の範囲における意味及び等価な範囲内に収まる全ての変化はそれ故、特許請求の範囲に包含されることを意図する。様々な可能性が利用可能であり、本アプローチの範囲は本明細書で記載される実施形態に限定されないことを、当業者は理解すべきである。