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特許7029533車両の発進プロセスを制御する方法及び走行ダイナミックシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】車両の発進プロセスを制御する方法及び走行ダイナミックシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/18 20120101AFI20220224BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20220224BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20220224BHJP
【FI】
B60W30/18
B60W30/02 300
B60W30/188
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020529535
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018074177
(87)【国際公開番号】W WO2019105618
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】102017011114.6
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596055475
【氏名又は名称】ヴアブコ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】WABCO GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 友子
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】リュルフィング・ラルフ-カルステン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・デートレフ
(72)【発明者】
【氏名】カムピング・ルッパート
(72)【発明者】
【氏名】レンツ・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ムンコ・トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ゼーレント・シュテファン
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19850978(DE,A1)
【文献】特開2002-211377(JP,A)
【文献】特開2000-240482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60K 17/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の発進プロセスを制御する方法において、少なくとも、
a)制御シーケンス(R)を作動して、制御シーケンス信号(SR)をセットする工程と、
b)最大エンジン駆動モーメント(M4_max)を定義する工程と、
c)発進プロセスに関する走行要求を検知した場合に、
c1)制御シーケンスが停止している場合に規定される標準的なクラッチ接続プロセス時間長(tcs)よりも長いクラッチ接続プロセス時間長(tc)によってクラッチ・変速機ユニット(6)を駆動する工程と、
c2)駆動される車輪(4a,4b)の車輪速度(n4a,n4b)を検出して、少なくとも被動軸(9)に対する出力駆動モーメント(M9)を設定することにより、駆動される車輪(4a,4b)の車輪スリップ(ms)を制御する工程と、
c3)車輪スリップ(ms)と走行速度(v)に応じて、最大エンジン駆動モーメント(M4_max)を改めて定義する工程と、
d)駆動力(Fa)の最大値(Fa,max)及び/又は限界粘着係数(μ_tres)及び/又は限界走行速度(v_tres)に到達した場合に、坂道で車輪の回転を伴うスリップが発生することがないように発進プロセスの制御シーケンス(R)を停止して、制御シーケンス信号(SR)をリセットする工程と、
を有する方法。
【請求項2】
前記の駆動される車輪(4a,4b)の車輪速度(n4a,n4b)と駆動されない車輪(3)の車輪速度(n3)の測定及び駆動モーメント(9)の設定による駆動される車輪(4a,4b)の車輪スリップ(ms)の制御が、少なくとも1つのクラッチ・変速機ユニット(6)を駆動する工程(St4)を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のクラッチ・変速機ユニット(6)を駆動する場合に、出力駆動モーメント(M9)を設定するために、時間(t)又は駆動される車輪(4a,4b)の車輪速度(n4)に応じたランプ関数に基づき、クラッチ(6a)が投入されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記の制御シーケンス(R)の作動後に、クラッチ・変速機ユニット(6)がクラッチ(6a)を解除することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記の車輪スリップ(ms)の制御の前に、
a1)車両(1)の駆動される車輪(4a,4b)の車輪ブレーキ(14a,14b)に制御シーケンス用ブレーキ圧(PR)を加える工程が規定されるとともに、
前記の駆動される車輪の車輪スリップ(ms)を制御する工程c2)の後に、
c2a)駆動される車輪(4a,4b)の車輪ブレーキ(14a,14b)に対するブレーキ圧(P)を低減する工程が規定される、
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記の駆動される車輪(4a,4b)の車輪ブレーキ(14a,14b)に制御シーケンス用ブレーキ圧(PR)を加える前に、駆動される車輪(4a,4b)が停止状態となるように、ブレーキ圧(P)が増大されることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
工程c2)において、被動軸(9)に対する出力駆動モーメント(M9)の設定が、少なくとも1つのクラッチ・変速機ユニット(6)の駆動によって行なわれることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記の出力駆動モーメント(M9)の設定により車輪スリップ(ms)を制御する場合に、クラッチ・変速機ユニット(6)に加えて、エンジン(5)が駆動されることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記の出力駆動モーメント(M9)の設定により車輪スリップ(ms)を制御する場合に、クラッチ・変速機ユニット(6)に加えて、駆動される車輪(4a,4b)のブレーキ圧(P)が制御されることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記の駆動される車輪(4a,4b)のブレーキ圧(P4a,P4b)の制御が、が、時間(t)又は車輪速度(n4a,n4b)に応じて実行されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第一の駆動される車輪(4a)において、より大きなスリップ(ms)を検出した場合に、同じ車軸の他方の駆動される車輪(4b)におけるブレーキ圧(P)が低下されることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記の制御シーケンス(R)の作動が、運転者により作動信号(S2)が入力された場合に実行されることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記の制御シーケンス(R)の作動が、検出された車両状態データに応じた判定基準(K1)である
発進プロセスに関する運転者要求が出現することと、
車輪スリップ(ms)が、定義された車輪スリップ限界値(ms_max)よりも大きいことと、
粘着係数(μ)が小さいことと
中の少なくともつが満たされた場合に実行されることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
走行路(2)に伝達可能な駆動力(Fa)が、最も時間的に近い制動プロセスのスリップ(ms)又は最も時間的に近い制動・加速プロセスのスリップ(ms)に基づき算出されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記の発進プロセスを制御する工程c2)において、最大粘着係数(μ_tres)を生じさせるスリップ(ms)を設定するために、保存された粘着係数対スリップ曲線が用いられることを特徴とする請求項1から14までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記の最大エンジン駆動モーメント(M4_max)を定義する工程b)及び/又は最大エンジン駆動モーメント(M4_max)を改めて定義する工程c3)において、駆動される車輪(4a,4b)の軸荷重データを用いるとともに、駆動軸(Ha)に既知の駆動モーメントを投入した場合に発生するスリップ(ms)を検出することによって、駆動される車輪(4a,4b)と走行路(2)の間の粘着係数(μ)が算出されることを特徴とする請求項1から15までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
前記の制御シーケンス信号(SR)をセットする場合の限界値(μ_tres,v_tres)が制御シーケンス信号(SR)をセットしない場合の限界値よりも小さいことを特徴とする請求項1から16までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
制御シーケンス(R)を停止して、制御シーケンス信号(SR)をリセットするための限界値(μ_tres,v_tres)が限界粘着係数(μ_tres)及び/又は限界走行速度(v_tres)であることを特徴とする請求項1から17までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法によって、車両(1)の発進プロセスを開ループ制御又は閉ループ制御するための走行ダイナミックシステム(7)において、
車両(1)の駆動される車輪(4a,4b)の車輪速度信号(n4a,n4b)を出力する車輪回転数センサー(15a,15b)と、
アクセルペダル信号(S3)と車輪速度信号(n4a,n4b)を受信して、車両(1)の駆動ユニット(5,6)に要求信号(S4,S5)を出力する走行ダイナミック制御機器(16)であって、少なくとも前記の工程a),c),c1),c2),c3),d)を実行するように構成された走行ダイナミック制御機器(16)と、
を有する走行ダイナミックシステム。
【請求項20】
前記の走行ダイナミック制御機器(16)が、変速機制御機器(11)への変速機制御要求信号(S4)の出力及び/又はエンジン制御ユニット(10)へのエンジンモーメント要求信号(S5)の出力を実行するように構成されていることを特徴とする請求項19に記載の走行ダイナミックシステム(7)。
【請求項21】
前記の走行ダイナミック制御機器(16)が、ブレーキ制御機器(12)にATC要求信号(S6)を出力するように構成されていることを特徴とする請求項19又は20に記載の走行ダイナミックシステム(7)。
【請求項22】
駆動される車輪(4a,4b)の車輪ブレーキ(14a,14b)が常用ブレーキの一部及び/又は駐車ブレーキであることを特徴とする請求項19から21までのいずれか一つに記載の走行ダイナミックシステム(7)。
【請求項23】
前記の車輪回転数センサー(15a,15b)が能動的な車輪回転数センサー(15a,15b)であることを特徴とする請求項19から22までのいずれか一つに記載の走行ダイナミックシステム(7)。
【請求項24】
前記の駆動される車輪(4a,4b)のブレーキ圧(P4a,P4b)の制御が、ブレーキ圧(P4a,P4b)の低減によってなされることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項25】
前記の制御シーケンス(R)の作動が、操作機器(18)の操作によってなされることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項26】
車両(1)が商用車(1)であることを特徴とする請求項19に記載の走行ダイナミックシステム(7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の発進プロセスを制御する方法及び走行ダイナミックシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
発進プロセスは、特に、摩擦係数が小さい走行路において問題となる。即ち、氷や雪などの不利な天候条件では、車両を慎重に発進しても、早い時点で駆動軸の車輪に大きなスリップが発生する。
【0003】
それでも、車輪の回転時に安全な発進プロセスを実現可能にするために、駆動される車輪のスリップを測定して、そのスリップに応じた車輪の制動及び/又はエンジン出力の低減を行なって、スリップを抑制するトラクションスリップ制御システム(ASR,ATC)が周知である。
【0004】
更に、そのために個々の車輪への駆動モーメントの配分に介入するディファレンシャルロックが周知である。
【0005】
しかし、周知のトラクションスリップ制御システムによって、発進プロセス時の全ての問題が解決されるわけではなく、特に、粘着係数が小さい場合、更に不安定性又はトラクション低下が発生する可能性が有ることが分かった。
【0006】
即ち、周知のシステムでは、雪や氷を土台とした場合に、それを融解させる車輪回転数に到達した場合に制御介入が行なわれ、そのことは、水の膜を生じさせるために、粘着係数の更なる低下を引き起こすこととなる。
【0007】
更に、周知のシステムは、粘着係数が小さい場合に運転者の要求に反して低下させた駆動モーメントを駆動輪に伝えて、過剰なスリップを事前に防止する予防措置を講じていない。
【0008】
特許文献1は、測定した車輪速度の代わりに、測定した車両加速度に基づき車輪速度を検出するトラクション制御システムを記載している。長く持続し過ぎる加速度が検出された場合、エンジンモーメントが低減される。
【0009】
特許文献2により、自動車の駆動輪におけるスリップを低減するためのエンジン回転数制御及びアンチスリップ制御方法が周知である。その場合、所定のスリップ条件を低減させるために、低下したエンジン出力モーメントに応じてイグニッションタイミングを時間的に遅らせている。
【0010】
特許文献3は、車輪スリップ制御システムが発生する信号に基づき変速機におけるクラッチ連結を制御する、車輪スリップ制御システムと自動変速機を備えた自動車の駆動系統を制御する方法を記載しており、その信号は、車両の車輪と道路表面の間の摩擦係数及び/又は実際のエンジン回転数を表す。
【0011】
特許文献4は、運転者の制動指令と関係無く車両の車輪にブレーキ圧を供給するために、動的な車両状態の出現を決定して、走行する車両の車輪にブレーキ圧を供給する方法を提示している。
【0012】
その場合、ブレーキ圧を駆動輪に選択的に供給するために、電子制御ユニットによって制御される調整器が二重ブレーキ弁と駆動輪の間に配備されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第6182002号明細書
【文献】ドイツ特許公開第69507405号明細書
【文献】欧州特許第1125783号明細書
【文献】欧州特許第1730006号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のことから、本発明の課題は、特に、粘着係数が小さい場合に、良好な牽引力と共に安全な発進プロセスを実現可能とするように、車両の発進プロセスを制御する方法及び走行ダイナミックシステムを改善構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、独立請求項に基づく方法及び走行ダイナミックシステムによって解決される。従属請求項は、有利な改善構成を記載している。
【0016】
本発明による走行ダイナミックシステムは、特に、本発明による方法を実行するものと規定される。更に、本発明による方法は、特に、本発明による走行ダイナミックシステムを採用又は使用するものと規定される。
【0017】
本発明は、第一のスリップ又は不安定性の発生前に、事前に緩やかな発進プロセスを設定するとの考えに基づいている。そのために、特に、車両を発進させるのに十分であると同時に、車輪に特記すべきスリップを引き起こさないエンジンモーメントを決定する。このエンジンモーメントの決定時に、特に、車両の重量、走行路の勾配、駆動系統における摩擦損失、要求される車両加速度などの要素を含めることができる。
【0018】
有利には、本発明による方法によって、駆動輪から走行路に伝達される駆動力が制限されて、有利には、スリップが、周知のトラクションスリップ制御システムの場合よりも小さい値に制御される。
【0019】
有利な実行構成では、クラッチ制御の取り込みが行なわれる。それは、エンジン制御のために計算された最大駆動モーメントにも関連し、それに応じてクラッチ接続プロセス中にクラッチ連結モーメントを制限して、それにより、駆動輪における過剰なスリップの防止を支援している。
【0020】
更に、有利な改善構成では、ブレーキ圧を駆動又は制御することができる。即ち、発進時に、先ずは車輪ブレーキを投入した後、閉ループ制御又は開ループ制御の形態により解除することができる。この場合、駆動輪の車輪ブレーキにおいて、制御シーケンス用ブレーキ圧を設定することができる。有利な実行構成では、制御シーケンスの作動前にスリップしていることを示す車輪が停止状態にまで制動される。
【0021】
車輪のスリップの検出は、車輪速度の測定によって行なわれる。有利には、例えば、一回転未満の車輪の回転時においても、能動的な車輪回転数センサーを用いた測定が規定される。しかし、車輪速度として、例えば、駆動輪の車輪回転数を受動的な車輪回転数センサーによって測定することもできる。
【0022】
制御シーケンス用ブレーキ圧を設定する実行構成では、そのブレーキ圧は、発進プロセスの期間中、最初は維持し続けられる。それによって、最大粘着係数を発生させた後、粘着係数を大きく低下させるスリップを上回った場合に、制御がスリップを再び低減させる前に車輪速度の速い上昇が起こることが防止される。そのため、駆動輪の駆動力とスリップのより高い制御品質が実現される。有利には、発進プロセスの期間中、制御シーケンス用ブレーキ圧が緩慢に低減される。
【0023】
そのため、車輪スリップに応じた粘着係数又は伝達可能な力を記述する粘着係数対スリップ曲線において、有利には、最大値を上回ってしまうのではなく、適合した、有利には、最適な粘着係数での発進プロセスが設定される。従って、従来のASR又はATCと比べて、緩慢な発進プロセスが設定されるが、それは、高い安定性と良好な牽引力により行なわれる。従来のASR制御、小さい粘着係数及び遅い車両速度では、場合によっては、スリップが速く上昇し過ぎた場合に、静止摩擦又は回転摩擦が滑り摩擦に移行する可能性が有る。
【0024】
走行路の粘着係数(摩擦係数)は、最も時間的に近い制動プロセス又は最も時間的に近い制動・加速プロセスに基づき、或いは、それに代わって、実際の発進プロセス時に発生するスリップに基づき検出するか、さもなければ、小さい値として推定することができる。被動軸又は車両の駆動輪において、小さい駆動モーメントが設定され、そのために、エンジンモーメント及び/又はクラッチ・変速機ユニットが、有利には、ランプ形誘導又はランプ関数を可能にする関数の曲線に基づき、例えば、時間又は駆動輪の車輪速度に応じて駆動される。
【0025】
発進プロセス時に、制御シーケンスの停止時に規定される標準的なクラッチ接続プロセス時間長よりも長いクラッチ接続プロセス時間長によるクラッチ・変速機ユニットの駆動が行なわれ、更に、この標準的なクラッチ接続プロセス時間長は、固定的に規定するか、さもなければ、例えば、学習するか、或いは先行して実行したクラッチ接続プロセスから学習することもできる。
【0026】
粘着係数の決定は、特に、本発明による発進プロセスを制御する方法の自動的又は自律的な作動も可能にする。
【0027】
例えば、限界走行速度及び/又は限界粘着係数の限界値に到達した場合に、場合によっては、限界スリップに応じても、制御シーケンスが終了されて、制御シーケンス信号がリセットされ、その結果、発進プロセスの制御シーケンスの後に、例えば、通常のトラクションスリップ制御が実行される。
【0028】
そのため、この発進プロセスを制御する方法は、トラクションスリップ制御方法に統合するか、或いは第一の工程として、その制御方法に前置又は取り込むことができる。
【0029】
更に、例えば、前後方向加速度センサー及び/又は地図素材によって検出される検出走行路勾配を走行状態データに取り込むことができる。そのため、発進プロセス制御の第一の工程において検出された駆動モーメント及び/又はブレーキ圧が、走行路勾配及び/又は検出された、或いは既知の車両重量を考慮して実現される。
【0030】
制御シーケンスの作動は、様々な実行構成に基づき、運転者による作動によって、即ち、運転者が、例えば、作動手段を操作し、それにより目的通り緩やか発進プロセスを選択した場合に開始することができる。それに加えて、或いはそれに代わって、そのような車両状態又は走行路状態を検出した場合にも、そのことを選択することができ、そのために、例えば、検出された粘着係数(摩擦係数)、車両重量、走行路勾配が取り入れられる。
【0031】
制御シーケンスが作動している場合、車両重量又は駆動軸の荷重と、土台に対して検出又は仮定されたタイヤの粘着係数と、走行路勾配とに応じて、制御シーケンスの停止時における最大エンジン駆動モーメントよりも小さい最大エンジン駆動モーメントが定義される。
【0032】
更に、制御シーケンスの停止時の最大エンジン駆動モーメントよりも小さい、この定義されたエンジン駆動モーメントにクラッチ接続制御を同様に関連付けることができる。そのために、制御シーケンスの停止時における標準的なクラッチ接続プロセス時間長に関する値よりも大きな値がクラッチ接続プロセス時間長に関して設定され、この値は、場合によっては、車両重量と粘着係数、或いは粘着係数などの前に述べたパラメータに応じて算出される。
【0033】
それに加えて、有利には、場合によっては依然として回転する車輪が停止状態にまで制動された後、制御シーケンス信号をセットすることによって、駆動輪のブレーキに対して制御シーケンス用ブレーキ圧が加えられる。
【0034】
そのため、駆動輪が走行路に加える駆動力が、低減されて、制御シーケンスの停止時よりも緩慢に上昇される。
【0035】
本発明による制御シーケンスに基づかない発進プロセスの持続的に粘着係数を低下させる初期の大きなスリップが防止される。それにも関わらず、粘着係数が低下するような大きなスリップが発生しても、本発明による制御シーケンスに基づかない場合よりも、そのスリップが小さくなるとともに、粘着係数の低下が小さくなる。特に、粘着係数が小さい場合に、並びに、特に、土台として雪又は氷が有る場合に、本発明による制御シーケンスによって、走行路に伝達可能な駆動力が増大する。
【0036】
そのため、本発明に基づく一つの実現形態がエンジンモーメントを制限するだけで実現可能である。第一の拡張形態は、有利には、クラッチ接続制御を取り込んだ形態である。第二の拡張形態は、有利には、ブレーキ制御を更に取り込んだ形態である。
【0037】
以下において、幾つかの実行構成に関する添付図面に基づき本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】走行路上における本発明の一つの実行構成による走行ダイナミックシステムを備えた車両の模式図
図2】本発明の一つの実行構成による装置を備えた車両の模式図
図3】本発明の一つの実行構成による方法のフローチャート図
図4】粘着係数対スリップ曲線のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1では、商用車1が、水平線Aに対して勾配角度αを有する走行路2上に停車している。そのため、車両1は、停車状態に有り、即ち、走行速度vは0であり、更に、駆動されない前車軸Vaの車輪3と駆動される後車軸Haの後輪4aは停止している、即ち、車輪速度n3及びn4a,n4bは0である。走行路2は、例えば、滑る氷又は雪のために、小さい粘着係数(摩擦係数)μを有する。
【0040】
図4では、横座標にスリップ値msがプロットされ、縦座標に粘着係数μがプロットされ、その左側の別の座標には、タイヤから伝達可能な車輪力Fa、即ち、制動力及び加速力がプロットされている。そのため、従来の発進プロセスでは、回転する後輪4a,4bにおいて、標準的な車輪力Fa-1の伝達だけを可能にするスリップms=1が発生する。それに対して、本発明によると、この実行構成では、目標スリップms(Fa,max)において、即ち、停車状態ではなく、幾らかのスリップ時において最大限に伝達可能な力Faが実現され、その後、目標スリップms(Fa,max)から右において、粘着係数対スリップ曲線の不安定な分岐HSKAが始まるが、本発明では、有利には、この分岐を取らない。
【0041】
商用車1は、エンジンとクラッチ・変速機ユニット6を備えており、その結果、エンジン5、クラッチ・変速機ユニット6及び被動軸9によって、駆動系統が形成され、その系統を介して、後輪4a,4bが駆動される。この場合、クラッチ・変速機ユニット6は、リンク機構を形成するために投入又は挿入されるとともに、エンジン5から後輪4a,4bを切り離すために解除されるクラッチ6aを備えている。
【0042】
エンジン5は、エンジン制御機器10によって制御され、それに対応して、クラッチ・変速機ユニット6は、変速機制御機器11によって駆動される。更に、ブレーキ制御機器12が配備され、この機器は、ここでは単に示唆されている、商用車のブレーキシステム13において、様々な課題及び様々な制動制御システムを実現し、この場合、特に、後輪4a及び4bの後輪ブレーキ14a及び14bを駆動するとともに、二つの後輪4a,4bにおける車輪回転数センサー15a,15bから車輪速度信号を、ここでは、特に、車輪速度信号n4a及びn4bを受信する。この場合、有利には、能動的な車輪回転数センサー15a,15bを採用することができ、そのため、このセンサーは、単に受動的に後輪4a,4bと一緒に回転する標識ディスクの磁気信号を検出するのではなく、能動的な信号検出によって、例えば、3km/時の非常に遅い走行速度v又はそれに対応する遅い車輪速度においても、より精確に車輪速度を検出する。上記の制御機器10,11,12が走行ダイナミック制御機器16と一緒に協力して動作することと、これらの制御機器10,11,12により駆動されるシステムとが走行ダイナミックシステム7を構成する。
【0043】
図2のブロック接続図では、本発明による方法を実行する走行ダイナミック制御機器16は、別個のユニットとして表示されているが、特に、別の制御機器の中の一つ、特に、ブレーキ制御機器12に統合することができる。この走行ダイナミック制御機器16は、発進プロセスを制御する方法を実行し、そのために、様々な実行形態に基づき様々な信号を受信して、様々な制御信号を出力することができる。
【0044】
一般的に、この走行ダイナミック制御機器16は、イグニッション又はイグニッション信号S1により作動されるが、制御シーケンスは開始されない。更に、一つの実行構成では、運転者が能動的に操作し、それによって作動信号S2を走行ダイナミック制御機器16に出力して、それにより走行ダイナミック制御機器16を作動させる操作機器18を商用車1のダッシュボードに配備することができる。更に、この走行ダイナミック制御機器16は、アクセルペダル19の操作時に、アクセルペダル制御機器20が出力するアクセスペダル信号S3を受信する。この走行ダイナミック制御機器16は、更に、車輪速度信号n4a,n4bも受信して、変速機要求信号S4を変速機制御機器11に出力し、それに対応して、エンジンモーメント要求信号S5をエンジン制御機器10に出力するとともに、ATC要求信号S6をブレーキ制御機器12に出力する。
【0045】
この場合、前記の信号は、特に、車両に統合されたCANバスを介して伝送することができ、その結果、例えば、車輪速度信号n4a,n4bは、周知の手法でブレーキ制御機器12により読み取られて、CANバスを介して車両内の別のシステムに提供することができ、そのため、ここでは、走行ダイナミック制御機器16にも提供することができる。
【0046】
この場合、走行ダイナミック制御機器16は、特に、別の制御機器に、特に、ブレーキ制御機器12に統合することができる。その機器は、更に、例えば、FDR制御又はESP制御などの別の走行ダイナミック制御を実行する、一般的にブレーキ制御機器及びそれ以外の制御機器に追加して車両に配備された走行ダイナミックコントロール制御機器に統合することができる。
【0047】
更に、この走行ダイナミック制御機器16は、有利には、車輪回転数信号n4a,n4bに追加して、測定された走行速度信号v及び/又は例えば、ブレーキ制御機器12からABS基準速度として提供される走行速度信号vも受信し、その結果、その信号から、後輪4a及び4bのダイナミックな粘着係数μdも検出することができるか、或いは、場合によっては、信号として、それらの車輪のスリップをCANバスを介して直に受信することもできる。更に、この走行ダイナミック制御機器16は、有利には、車両重量mと、事前に測定された、或いは、例えば、推定して提供される駆動軸の軸荷重とを受信する。
【0048】
以下において、走行ダイナミック制御機器16と上記の構成要素を備えた走行ダイナミックシステム7を用いて、図3のフローチャート図に基づき、発進プロセスを制御する方法を説明する。
【0049】
工程St1での始動後、次に、工程St2において、特に、イグニッションが作動された場合に、即ち、イグニッション信号Sの出現時に、並びに、有利には、例えば、検出された車両状態データを含むことができる判定基準K1、例えば、
発進プロセスに関する運転者要求が出現することと、
車輪のスリップmsが、定義された車輪のスリップ限界値ms_maxよりも大きいことと、
粘着係数μが小さいことと、
から成るグループの中の一つ又は複数を満たす場合にも、本方法が実行される。
【0050】
そのため、工程St3において、制御シーケンスRが開始されて、制御シーケンス信号SRがセットされる、即ち、SR=1となる。
【0051】
次に、工程St4以降において、本発明による方法の異なる実行構成が実現可能であり、その際、ブレーキ圧制御を実行することができるが、ブレーキ圧制御を実行しない実行構成も実現可能である。
【0052】
第一の実行構成では、二つの後輪ブレーキ14a及び14bに関するブレーキ圧P4a及びP4bを先ずは同じに設定して、工程St4において、最大限に許容されるエンジン駆動モーメントM4_maxを定義することができる。そして、工程St5において、当初の車輪スリップ(ms)が増大した場合に、ブレーキ圧が別個に制御される。そのため、この場合、基本的に、駆動される後輪4a,4bの回転をそれぞれ制動によって別個に制御するASR又はトラクションスリップ制御の始動が行なわれる。
【0053】
しかし、それに代わって、例えば、第一の後輪4aで、より大きな車輪スリップmsが発生した場合に、即ち、n4a>n4bの場合に、他方の後輪4bにおけるブレーキ圧Pを低減することもできる。そのため、それを工程St5で行なうことができる。従って、この場合、均等なスリップ発生を実現するとともに、伝達される駆動力FAを増大させるために、回転する、或いはより大きなスリップを示す後輪(ここでは、4a)が制動されるのではなく、他方の後輪4b(ここでは、4b)におけるブレーキ圧Pが低減される。それは、特に、左右方向ディファレンシャルロックに対する代替手段として構成することもできる。
【0054】
各後輪4a,4bを別個にASR制御する実行構成とそれぞれスリップがより小さい方の車輪においてブレーキ圧Pを低下させる実行構成のこれら二つの実行構成を組わせることもできる。
【0055】
一つの実行構成では、工程St6において、例えば、限界走行速度v_tres及び/又は限界粘着係数μ_tresなどの限界値に到達した場合に、制御シーケンスが停止されて、制御シーケンス信号SRがリセットされる、即ち、SR=0となり、本方法が工程St7において終了するか、さもなければ、本制御が改めて進行する、即ち、この場合、工程St2の前にリターンする。
【0056】
そのため、有利な実行構成では、本制御が、最大値Fa,maxの前に、図4の第一の安全な分岐において全体として実行される。即ち、例えば、限界粘着係数μ_tresとなるまでの粘着係数及び/又は限界走行速度v_tresの到達前において、発進プロセスを実行することができ、それに続いて、発進プロセスの制御シーケンスが終了されて、例えば、従来のASR又はATCによる走行が実行される。そのため、確かに多少緩慢な発進プロセスが実現されて、本制御が最大値Fa,maxの周囲では実行されず、従って、本発明では、不安定な分岐をとることがなく、そのため、例えば、坂道で、車輪の回転を伴うスリップが発生し得ない形態が保証される。
【符号の説明】
【0057】
1 車両、特に、商用車
2 走行路
3 前輪
4a,4b 駆動される後輪
5 エンジン
6 例えば、自動変速機のためのクラッチ・変速機ユニット
7 走行ダイナミックシステム
9 被動軸
10 エンジン制御機器
11 変速機制御機器
12 ブレーキ制御機器
13 ブレーキシステム
14a,14b 駆動される後輪の車輪ブレーキ
15a,15b 後輪4a,4bにおける車輪回転数センサー
16 走行ダイナミック制御機器
18 操作機器
19 アクセルペダル
20 アクセルペダル制御機器
S1 イグニッション信号
S2 作動信号
S3 アクセルペダル信号
S4 変速機制御要求信号
S5 エンジンモーメント要求信号
S6 ATC要求信号
α 走行路の勾配、走行路勾配
μ 車輪3,4a,4bに対する走行路2の静止粘着係数(摩擦係数)
μd 車輪3,4a,4bに対する走行路2の動粘着係数
A 水平線
E クラッチ接続プロセス
Fa 駆動力
Fa,max 最大限に伝達可能な力
Ha 後車軸
HSKA 不安定な分岐
K1 判定基準
ms 後輪4a,4bの車輪スリップ
ms(Fa,max) 目標スリップ
M4 エンジン駆動モーメント
M4_max 最大エンジン駆動モーメント
M9 出力駆動モーメント
n3 前輪3の車輪速度
n4a,n4b 後輪4a,4bの車輪速度
P ブレーキ圧
P4a,P4b 二つの後輪ブレーキに関するブレーキ圧
R 制御シーケンス
PR 制御シーケンス用ブレーキ圧
SR 制御シーケンス信号
tc クラッチ接続プロセス時間長
tcs 標準的なクラッチ接続プロセス時間長
t 時間
v 走行速度
Va 前車軸
v_tres 限界走行速度
μ_tres 限界粘着係数
図1
図2
図3
図4