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特許7029549プライマー付き熱可塑性樹脂材及び樹脂-樹脂接合体
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  • 特許-プライマー付き熱可塑性樹脂材及び樹脂-樹脂接合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】プライマー付き熱可塑性樹脂材及び樹脂-樹脂接合体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220224BHJP
   B29C 65/02 20060101ALI20220224BHJP
   B29C 65/40 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B29C65/02
B29C65/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020559593
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2020029649
(87)【国際公開番号】W WO2021024979
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019144424
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020092437
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和男
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 臣二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】新林 良太
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-310810(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013185(WO,A1)
【文献】特開2017-132894(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116879(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094633(WO,A1)
【文献】特開2011-037150(JP,A)
【文献】特開2014-240185(JP,A)
【文献】特開2016-199008(JP,A)
【文献】特開2018-130952(JP,A)
【文献】特開2017-190380(JP,A)
【文献】特開2005-255927(JP,A)
【文献】特開2014-218633(JP,A)
【文献】特開平03-239744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-65/82
C09J 1/00-201/10
C08J 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂材と、前記熱可塑性樹脂材に積層された1層又は複数層のプライマー層とを有し、
前記プライマー層の少なくとも1層が、フィルムに由来する層であり、
前記フィルムに由来する層が、前記プライマー層の熱可塑性樹脂材と反対側の最表面に積層されており、
前記フィルムに由来する層が、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で、下記(4)を触媒存在下で重付加反応させて得られるフィルムから形成されてなる、プライマー付き熱可塑性樹脂材。
(4)2官能エポキシ化合物と2官能フェノール化合物の組み合わせ
【請求項2】
前記フィルムに由来する層が、前記熱可塑性樹脂材に直接に接する層である、請求項1に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
【請求項3】
前記プライマー層が、前記フィルムに由来する層と前記熱可塑性樹脂材との間に熱硬化性樹脂を含む組成物から形成されてなる熱硬化性樹脂層を有する、請求項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
【請求項5】
請求項1に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法であって、
前記フィルムを前記熱可塑性樹脂材上に配置し、フィルムに由来する層を形成する、プライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層と、他の熱可塑性樹脂材を溶着させてなる、樹脂-樹脂接合体。
【請求項7】
前記他の熱可塑性樹脂材が、請求項1~の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材であって、それぞれのプライマー層を溶着させてなる、請求項に記載の樹脂-樹脂接合体。
【請求項8】
前記他の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体と、請求項1~の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体とが同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である、請求項又はに記載の樹脂-樹脂接合体。
【請求項9】
請求項の何れか1項に記載の樹脂-樹脂接合体の製造方法であって、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層に、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、他の熱可塑性樹脂材を溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
【請求項10】
請求項の何れか1項に記載の樹脂-樹脂接合体の製造方法であって、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層に、射出成形法で、他の熱可塑性樹脂材を射出溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂材と、他の熱可塑性樹脂材との間に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で、下記(4)を触媒存在下で重付加反応させて得られるフィルムを前記熱可塑性樹脂材、及び前記他の熱可塑性樹脂材と直接接するように挟み、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、前記熱可塑性樹脂材と、前記他の熱可塑性樹脂材とを溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
(4)2官能エポキシ化合物と2官能フェノール化合物の組み合わせ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同種又は異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着する用途に好適なプライマー付き熱可塑性樹脂材およびその製造方法、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材を用いた樹脂-樹脂接合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び低コスト化等の観点より、自動車部品、医療機器、家電製品等、各種分野の部品を樹脂化して樹脂成形品とすることが頻繁に行われている。また、樹脂成形品の高生産性化等の観点より、樹脂成形品を予め複数に分割して成形し、これらの分割成形品を互いに接合する手段が採られることが多い。
【0003】
このような樹脂よりなる分割成形品を互いに接合する手段として、機械的接合、接着剤接合、溶着が使用されている。このうち、溶着は特に信頼性が高く生産性有用な接合法である。溶着は、樹脂部材を加熱する方法によって様々な方法があり、具体的には、超音波溶着や振動溶着、熱溶着、熱風溶着、誘導溶着、射出溶着等がある。
【0004】
溶着は、一般的に、同種の熱可塑性樹脂材の接合に用いられる接合法であるが、接合強度は溶着法や樹脂の種類によっては十分に発現できない場合がある。溶着時の母材の破損の影響で、例えば元々の母材強度の5~8割程度であることが多い。このため溶着法の改良が行われている。
【0005】
同種の熱可塑性樹脂材の接合に関し、例えば、特許文献1には、ポリプロピレンを予めコロナ放電処理することにより、ポリプロピレン同士を接合する技術が開示されている。
【0006】
また、溶着は、溶解パラメータ(以下SP値)が近い異種の熱可塑性樹脂材の接合に用いることもできる。
異種の熱可塑性樹脂材の接合に関し、例えば、特許文献2、3には、熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体と、前記成形体の熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂の間に、官能基を有する熱可塑性シート材と強化繊維束を介在させて超音波溶着する技術が開示されている。また、特許文献4には、被溶着部材の間に中間層を挿入して、この中間層を超音波共振体ホーンに固定して振動させることによって両被溶着部材を超音波溶着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-126823号公報
【文献】特開2017-202667号公報
【文献】特開2017-206014号公報
【文献】特開2008-284862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の同種の熱可塑性樹脂材の接合では、特許文献1の方法でも十分な接合強度を確保することができていない。
【0009】
また、溶着の強度は、接合界面の分子拡散による分子の絡み合いと結晶化で発現される。このため従来、溶着は、異種の熱可塑性樹脂材の接合では、十分な接合強度が得られないという問題があった。
【0010】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、同種の熱可塑性樹脂材又は異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着する用途に好適なプライマー付き熱可塑性樹脂材及びその関連技術を提供することを課題とする。前記関連技術とは、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材を用いた樹脂-樹脂接合体及びその製造方法、を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
なお、本明細書において、接合とは、物と物を繋合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。接着とは、テ-プや接着剤の様な有機材(熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。溶着とは、被着材である熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、接触加圧と冷却により分子拡散による絡み合いと結晶化で接合状態とすることを意味する。
【0012】
(プライマー付き熱可塑性樹脂材)
〔1〕 熱可塑性樹脂材と、前記熱可塑性樹脂材に積層された1層又は複数層のプライマー層とを有し、前記プライマー層の少なくとも1層が、フィルムに由来する層である、プライマー付き熱可塑性樹脂材。
〔2〕 前記フィルムに由来する層が、フィルムから形成されてなる層、前記フィルムを粉砕してなる粉体塗料からなる層、前記粉体塗料を後乳化してなるエマルジョンの乾燥物からなる層、又は前記粉体塗料を非危険物溶媒に溶解した溶液の乾燥物からなる層である、〔1〕に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
〔3〕 前記フィルムに由来する層が、前記熱可塑性樹脂材に直接に接する層である、〔1〕又は〔2〕に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
〔4〕 前記フィルムに由来する層が、重合型組成物の重合物からなるフィルムから形成されてなり、前記重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔5〕 前記フィルムに由来する層が、重合型組成物の重合物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、を含むフィルムから形成されてなり、前記重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する、〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔6〕 前記フィルムに由来する層が、重合型組成物の重合物と、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含むフィルムから形成されてなり、前記重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物である、〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔7〕 前記フィルムに由来する層が、重合型組成物の重合物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含むフィルムから形成されてなり、前記重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物である、〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔8〕 前記重合型組成物が、前記(4)を含有し、かつ、前記(4)のジオールが2官能フェノール化合物である、〔4〕~〔7〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
〔9〕 前記プライマー層が、前記フィルムに由来する層と前記熱可塑性樹脂材との間に熱硬化性樹脂を含む組成物から形成されてなる熱硬化性樹脂層を有する、請求項〔1〕、〔2〕、〔4〕~〔8〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
〔10〕 前記熱硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔9〕に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材。
【0013】
(プライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法)
〔11〕 〔1〕に記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法であって、フィルムを前記熱可塑性樹脂材上に配置し、フィルムに由来する層を形成する、プライマー付き熱可塑性樹脂材の製造方法。
【0014】
(樹脂-樹脂接合体)
〔12〕 〔1〕~〔10〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層と、他の熱可塑性樹脂材を溶着させてなる、樹脂-樹脂接合体。
〔13〕 前記他の熱可塑性樹脂材が、〔1〕~〔10〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材であって、それぞれのプライマー層を溶着させてなる、〔12〕に記載の樹脂-樹脂接合体。
〔14〕 前記他の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体と、〔1〕~〔10〕の何れかに記載のプライマー付き熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体とが同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である、〔12〕又は〔13〕に記載の樹脂-樹脂接合体。
【0015】
(樹脂-樹脂接合体の製造方法)
〔15〕 〔12〕~〔14〕の何れかに記載の樹脂-樹脂接合体の製造方法であって、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層に、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、他の熱可塑性樹脂材を溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
〔16〕 〔12〕~〔14〕の何れかに記載の樹脂-樹脂接合体の製造方法であって、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材のプライマー層に、射出成形法で、他の熱可塑性樹脂材を射出溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
〔17〕 熱可塑組成樹脂材と、他の熱可塑性樹脂材との間に、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物からなるフィルム、前記重合物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、を含むフィルム、及び前記重合物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含むフィルムのいずれかを挟み、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、前記熱可塑組成樹脂材と、前記他の熱可塑性樹脂材とを溶着する、樹脂-樹脂接合体の製造方法。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同種の熱可塑性樹脂材又は異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着する用途に好適なプライマー付き熱可塑性樹脂材及びその関連技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態におけるプライマー付き熱可塑性樹脂材の構成を示す説明図である。
図2】本発明の他の実施形態におけるプライマー付き熱可塑性樹脂材の構成を示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態における樹脂-樹脂接合体の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のプライマー付き熱可塑性樹脂材およびその関連技術について詳述する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、本明細書において、重合型組成物とは、特定の2官能の化合物の組み合わせを、触媒存在下で重付加反応することにより、若しくは、特定の単官能のモノマーのラジカル重合反応により、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する組成物を意味する。重合型組成物は、重合すると架橋構造による3次元ネットワークを構成する熱硬化性樹脂とは異なり、架橋構造による3次元ネットワークを構成せず、熱可塑性を有する。
【0019】
[プライマー付き熱可塑性樹脂材]
本実施形態のプライマー付き熱可塑性樹脂材1は、図1に示すように、熱可塑性樹脂材2と、前記熱可塑性樹脂材に積層された1層又は複数層のプライマー層3とを有する積層体である。本発明において、前記プライマー層3の少なくとも1層は、フィルムに由来する層31である。
前記フィルムに由来する層31は、重合型フェノキシ樹脂を含む組成物から形成されてなる層であることが好ましい。重合型フェノキシ樹脂とは、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とが触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する。
【0020】
本発明において、前記プライマー層とは、後述する図3に示すように、熱可塑性樹脂材2と、もう一方の接合対象物である他の熱可塑性樹脂材5を接合一体化して樹脂-樹脂接合体を得る際に、熱可塑性樹脂材2と他の熱可塑性樹脂材5との間に介在し、熱可塑性樹脂材2の他の熱可塑性樹脂材5に対する接合強度を向上させる層を意味するものとする。
【0021】
本発明は、前記他の熱可塑性樹脂材5が、前記熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂材である場合に、熱可塑性樹脂材2と他の熱可塑性樹脂材5を強固に溶着する用途に好適である。また、本発明は、前記他の熱可塑性樹脂材5が、前記熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂材である場合、一般に、熱可塑性樹脂材2と他の熱可塑性樹脂材5とのSP値は離れていることが多いが、そのような異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着する用途に特に好適である。
ここで、本明細書において、「同種の熱可塑性樹脂」とは、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体が同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である熱可塑性樹脂を意味する。また、「異種の熱可塑性樹脂」とは、「同種の熱可塑性樹脂」以外の熱可塑性樹脂を意味し、具体的には、共通する単量体が存在しない熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体が異なる熱可塑性樹脂、又は最大含有量を占める単量体が同一であり、かつ少なくとも一方の最大含有量を占める単量体の含有量が70質量%未満である熱可塑性樹脂を意味する。
【0022】
<熱可塑性樹脂材2>
熱可塑性樹脂材2の形態は特に限定されず、塊状でもフィルム状でもよい。
熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されるものではない。
熱可塑性樹脂として、例えば、ポリプロピレン(PP、SP値:8.0(J/cm1/2)、ポリアミド6(PA6、SP値:12.7-13.6(J/cm1/2)、ポリアミド66(PA66、SP値:13.6(J/cm1/2)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンスルファイド(PPS、SP値:19.8(J/cm1/2)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC、SP値:9.7(J/cm1/2)、ポリブチレンテレフタレート(PBT、SP値:20.5(J/cm1/2)等が挙げられる。なかでも、本発明の効果を得る観点から、ポリプロピレン及び変性ポリフェニレンエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
ここで、溶解パラメータ(SP値)とは、ヒルデブランドによって導入された正則溶液論により定義された、材料間の相互作用の程度の数値予測を提供する値(δ)である。
SP値の算出法は種々提案されているが、例えば、Fedors(Polym.Eng.Sci.1974年、14巻,p147)によって提案された手法、下記式(1)を用いて求めることができる。
δ=(ΣEcoh/ΣV)1/2 ・・・(1)
ここで、δは溶解パラメータ(J0.5/cm1.5)、Ecohは凝集エネルギー密度(J/mol)、Vはモル分子容(cm/mol)を表し、Σは原子団ごとに与えられているこれらの数値を、モノマーを構成する原子団すべてについて和を取る意味である。原子団ごとのEcohやVの数値は、例えば“Properties of Polymers, Third completely revised edition”のTable7.3等に挙げられている。
【0024】
<プライマー層3>
プライマー層は、熱可塑性樹脂材2の上に積層されてなる。
【0025】
〔フィルムに由来する層31〕
前記のように、プライマー層の少なくとも1層は、フィルムに由来する層31である。フィルムに由来する層31は、フィルムから形成されてなる層であってもよく、前記フィルムを粉砕してなる粉体塗料からなる層であってもよく、前記粉体塗料を後乳化してなるエマルジョンの乾燥物からなる層であってもよく、前記粉体塗料を非危険物溶媒に溶解した溶液の乾燥物からなる層であってもよいが、フィルムから形成されてなる層が好ましい。
【0026】
フィルムに由来する層31は、例えば、フィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムは、重合型組成物の重合物からなるフィルムであってもよく、重合型組成物の重合物を含むフィルムであってもよいが、重合型組成物の重合物を含むフィルムが好ましい。前記フィルムが重合型組成物の重合物を含むことで、熱可塑性樹脂材2の表面が凹凸形状を有する場合でも、前記フィルムを熱可塑性樹脂材2の表面形状に追随させることができ、フィルムに由来する層31の厚みを均一にすることができる。
具体的には、前記フィルムは、溶剤に溶解した前記重合型組成物の重合物を含む組成物を離型フィルム上に乾燥後の厚さが1~100μmのフィルム状になるように塗布した後、室温~40℃の環境下で放置し溶剤を揮発させることにより、前記組成物のフィルム状重合物を形成することができる。フィルムに由来する層31は、得られたフィルムの離型フィルムとは反対側の面を前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、前記フィルムから離型フィルムを剥がし、加熱圧着することにより形成することができる。或いは溶着させる熱可塑性樹脂材2と他の熱可塑性樹脂材5との間に離型フィルムを剥がしたフィルムを挟んでそのまま溶着させてもよい。
【0027】
前記粉体塗料については、前記フィルムを粉砕したものを前記熱可塑性樹脂材2の上に厚さが1~100μmとなるように積層することにより、フィルムに由来する層31を形成することができる。また、前記エマルジョンについては、前記粉体塗料状プライマーを、乳化剤を用いて後乳化し、それを前記熱可塑性樹脂材2の上に乾燥後の厚さが1~100μmとなるように塗布、乾燥すればフィルムに由来する層31を形成することができる。
【0028】
また、前記フィルムに由来する層31は、前記粉体塗料を非危険物溶媒に溶解した溶液を前記熱可塑性樹脂材2の上に乾燥後の厚さが1~100μmとなるように塗布し、前記溶媒を揮発、乾燥させることで形成することができる。
前記非危険物溶媒としては、特に限定されるものではないが、引火点のない溶媒が好ましい。例えば、テトラヒドロフルフリルアルコール:水=75:25(質量比)の混合溶液等が挙げられる。
【0029】
前記フィルムに由来する層31は前記重合型組成物を重合させてなる樹脂を5~100質量%含むことが好ましく、10~70質量%含むことがより好ましく、15~40質量%含むことがさらに好ましい。
【0030】
前記重合型組成物は、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有することが好ましく、下記(4)を含有することがより好ましく、なかでも2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物の組み合わせを含有することがさらに好ましい。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【0031】
(1)における2官能イソシアネート化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
(2)における2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物との配合量比は、アミノ基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
(3)における2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物との配合量比は、チオール基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
(4)における2官能エポキシ化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
(5)における2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物との配合量比は、カルボキシ基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
(6)における2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物との配合量比は、チオール基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
【0032】
前記フィルムとして、例えば、下記フィルム(A)~(D)を例示することができる。中でも、本発明の効果を得る観点から、フィルム(B)及びフィルム(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
フィルム(A):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物からなるフィルム。
フィルム(B):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物、及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルを含むフィルム。
フィルム(C):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物、及び熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含むフィルム。
フィルム(D):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテル、及び熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含むフィルム。
【0033】
前記熱可塑性樹脂材2上に、プライマー層3としてフィルムに由来する層31が積層されていることにより、前記熱可塑性樹脂材2上に、同種の熱可塑性樹脂材又は異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着することができる。特に、前記フィルムに由来する層31は、前記熱可塑性樹脂材2に直接に接する層であることが好ましい。
なお、前記フィルムとしては、前記熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と同種又は類似の熱可塑性樹脂を含むものを選択することが好ましい。例えば、前記熱可塑性樹脂材2がポリオレフィンの場合、前記重合型組成物の重合物と無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含むフィルムを用いることにより、より強固な溶着が可能となる。また、前記熱可塑性樹脂材2が変性ポリフェニレンエーテルの場合、前記重合型組成物の重合物と変性ポリフェニレンエーテルを含むフィルムを用いることにより、より強固な溶着が可能となる。
【0034】
前記プライマー層3を、前記フィルムに由来する層31を含む複数層で構成することもできる。前記プライマー層3が複数層からなる場合、必須となるフィルムに由来する層31が、前記熱可塑性樹脂材2と反対側の最表面となるように積層することが好ましい。
【0035】
(フィルムに由来する層A)
フィルムに由来する層Aは、前記フィルム(A)から形成される。
フィルム(A)は、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する重合型組成物を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン-トリフェニルホスフィン等のリン系化合物等が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。ここで、本明細書では、常温とは5~35℃を指し、好ましくは15~25℃である。
具体的に例えば、フィルムに由来する層Aは、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する重合型組成物の重合物からなるフィルム(A)を前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Aは、フィルム(A)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0036】
フィルム(A)は、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物のラジカル重合反応で得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。また光硬化の場合は紫外線や可視光を照射して重合反応を行う。
具体的には、フィルムに由来する層Aは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物の重合物からなるフィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Aは、フィルム(A)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0037】
(2官能イソシアネート化合物)
前記2官能イソシアネート化合物は、イソシアナト基を2個有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)またはその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等のジイソシアネート化合物が挙げられる。なかでもプライマーの強度の観点から、TDIやMDI等が好ましい。
【0038】
(ジオール)
前記ジオールは、ヒドロキシ基を2個有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類が挙げられる。なかでもプライマーの強靭性の観点から、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が好ましい。
【0039】
(2官能アミノ化合物)
前記2官能アミノ化合物は、アミノ基を2個有する化合物であり、例えば、2官能の脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられ、芳香族ジアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。なかでもプライマーの強靭性の観点から、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン等が好ましい。
【0040】
(2官能チオール化合物)
前記2官能チオール化合物は、分子内にメルカプト基を2つ有する化合物であり、例えば、2官能2級チオール化合物の1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) BD1」)が挙げられる。
【0041】
(2官能エポキシ化合物)
前記2官能エポキシ化合物は、1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂や1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、同「jER(登録商標)834」、同「jER(登録商標)1001」、同「jER(登録商標)1004」、同「jER(登録商標) YX-4000」等が挙げられる。その他2官能であれば特殊な構造のエポキシ化合物でも使用可能である。これらのうち、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(2官能カルボキシ化合物)
前記2官能カルボキシ化合物としては、カルボキシ基を2つ有する化合物であればよく、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。なかでもプライマーの強度や強靭性の観点から、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸等が好ましい。
【0043】
(単官能ラジカル重合性モノマー)
前記単官能ラジカル重合性モノマーは、エチレン性不飽和結合を1個有するモノマーである。例えば、スチレンモノマー、スチレンのα-,o-,m-,p-アルキル,ニトロ,シアノ,アミド,エステル誘導体、クロルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどのスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。前記化合物のうち、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。なかでもプライマーの強度や強靭性の観点から、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、フェノキシエチル(メタ)アクリレートのうちの一種、または2種以上の組み合わせが好ましい。
ラジカル重合性モノマーを含有する組成物は、ラジカル重合反応を十分に進行させ、所望のフィルムに由来する層を形成させるため、溶剤や、必要に応じて着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、前記組成物の溶剤以外の含有成分中、前記単官能ラジカル重合性モノマーが主成分であることが好ましい。前記主成分とは、前記単官能ラジカル重合性モノマーの含有率が50~100質量%であることを意味する。前記含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
ラジカル重合反応のための重合開始剤としては、例えば、公知の有機過酸化物や光開始剤等が好適に用いられる。有機過酸化物にコバルト金属塩やアミン類を組み合わせた常温ラジカル重合開始剤を使用してもよい。有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートに分類されるものが挙げられる。光開始剤としては、紫外線から可視線で重合開始できるものを使用することが望ましい。
ラジカル重合反応は、反応化合物等の種類にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。また光硬化の場合は紫外線や可視光を照射して重合反応を行う。
【0044】
(フィルムに由来する層B)
フィルムに由来する層Bは、前記フィルム(B)から形成される。
フィルムに由来する層Bを形成するフィルム(B)は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応については、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する重合型組成物との混合物を重付加反応させた重合物を含むフィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Bは、フィルム(B)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0045】
フィルムに由来する層Bを形成するフィルム(B)は、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物を、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルの溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物と、の混合物を加熱してラジカル重合反応させた重合物を含むフィルム(B)を前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Bは、フィルム(B)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0046】
(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)
無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、無水マレイン酸でグラフト変性されたポリプロピレンである。化薬アクゾ社製カヤブリッド002PP、002PP-NW、003PP、003PP-NW、三菱ケミカル社製Modicシリーズ等がある。
また無水マレイン酸で機能化させたポリプロピレン添加剤としてBYK社製SCONA TPPP2112GA、TPPP8112GA、TPPP9212GAを併用してもよい。
【0047】
(変性ポリフェニレンエーテル)
前記変性ポリフェニレンエーテルとしては公知のものが使用できる。
変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルにポリスチレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレンをブレンドしたもので、SABIC社製NORYLシリーズ(PPS/PS):731,7310,731F,7310F、旭化成ケミカルズ社製ザイロンシリ-ズ(PPE/PS,PP/PPE,PA/PPE,PPS/PPE,PPA/PPE)、三菱エンジニアリングプラスチックス社製エピエースシリーズ、レマロイシリーズ(PPE/PS,PPE/PA)がある。
【0048】
前記フィルムに由来する層Bを形成するフィルムを得る際に使用する前記(1)~(7)の合計量は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルを100質量部としたとき、5~100質量部であることが好ましく、5~60質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。
【0049】
(フィルムに由来する層C)
フィルムに由来する層Cは、前記フィルム(C)から形成される。
フィルムに由来する層Cを形成するフィルム(C)は、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応については、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Cは、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する重合型組成物と、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂との混合物を重付加反応させた重合物を含むフィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Cは、フィルム(C)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0050】
フィルムに由来する層Cを形成するフィルム(C)は、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物を、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物と、の混合物を加熱してラジカル重合反応させた重合物を含むフィルム(C)を前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Cは、フィルム(C)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0051】
(フィルムに由来する層D)
フィルムに由来する層Dは、フィルム(D)から形成される。
フィルムに由来する層Dを形成するフィルム(D)は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させた後、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と混合して得ることができる。または、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させた後、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと混合して得ることもできる。または、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることがきる。重付加反応については、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する重合型組成物との混合物を重付加反応させた重合物を含むフィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Dは、フィルム(D)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から形成してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0052】
フィルムに由来する層Dを形成するフィルムは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物を、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、フィルム(A)の場合と同様である。
具体的には、フィルムに由来する層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する重合型組成物と、の混合物を加熱してラジカル重合させた重合物を含むフィルムを前記熱可塑性樹脂材2の上に配置し、形成することができる。前記フィルムに由来する層Dは、フィルム(D)を原料としたエマルジョン、粉体塗料等から作製してもよい。また、前記粉体塗料は、非危険物溶媒に溶解して用いてもよい。
【0053】
なお、前記重合型組成物の重合物を含むフィルムを得る際に生じる反応の仕方は、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと2官能エポキシ樹脂の反応、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは変性ポリフェニレンエーテルと2官能フェノール化合物との反応など、多岐にわたり、かつ、その組み合わせに基づく具体的態様を包括的に表現することもできない。よって、前記重合型組成物の重合物を含むフィルムを構造又は特性により直接特定することは不可能又は非実際的といえる。
【0054】
〔熱硬化性樹脂層32〕
プライマー層3を、前記フィルムに由来する層31を含む複数層で構成する場合、図2に示すように、プライマー層3は、フィルムに由来する層31と熱可塑性樹脂材2との間に、熱硬化性樹脂を含む組成物から形成されてなる熱硬化性樹脂層32を含むこともできる。
なお、前記熱硬化性樹脂を含む組成物は、前記熱硬化性樹脂の硬化反応を十分に進行させ、所望の熱硬化性樹脂層を形成させるため、溶剤や、必要に応じて着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、前記組成物の溶剤以外の含有成分中、前記熱硬化性樹脂が主成分であることが好ましい。前記主成分とは、前記熱硬化性樹脂の含有率が40~100質量%であることを意味する。前記含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0055】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂層32は、これらの樹脂のうちの1種単独で形成されていてもよく、2種以上が混合されて形成されていてもよい。あるいはまた、熱硬化性樹脂層32を複数層で構成し、各層を異なる種類の熱硬化性樹脂を含む組成物で形成することもできる。
【0056】
前記熱硬化性樹脂のモノマーを含む組成物により、熱硬化性樹脂層32を形成するコーティング方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スプレー塗布法、浸漬法等が挙げられる。
【0057】
なお、本実施態様で言う熱硬化性樹脂は、広く、架橋硬化する樹脂を意味し、加熱硬化タイプに限られず、常温硬化タイプや光硬化タイプも包含するものとする。前記光硬化タイプは、可視光や紫外線の照射によって短時間での硬化も可能である。前記光硬化タイプを、加熱硬化タイプ及び/又は常温硬化タイプと併用してもよい。前記光硬化タイプとしては、例えば、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)LC-760」、同「リポキシ(登録商標)LC-720」等のビニルエステル樹脂が挙げられる。
【0058】
(ウレタン樹脂)
前記ウレタン樹脂は、通常、イソシアネート化合物のイソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応によって得られる樹脂であり、ASTM D16において、「ビヒクル不揮発成分10wt%以上のポリイソシアネートを含む塗料」と定義されるものに該当するウレタン樹脂が好ましい。前記ウレタン樹脂は、一液型であっても、二液型であってもよい。
【0059】
一液型ウレタン樹脂としては、例えば、油変性型(不飽和脂肪酸基の酸化重合により硬化するもの)、湿気硬化型(イソシアナト基と空気中の水との反応により硬化するもの)、ブロック型(ブロック剤が加熱により解離し再生したイソシアナト基と水酸基が反応して硬化するもの)、ラッカー型(溶剤が揮発して乾燥することにより硬化するもの)等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い容易性等の観点から、湿気硬化型一液ウレタン樹脂が好適に用いられる。具体的には、昭和電工株式会社製「UM-50P」等が挙げられる。
【0060】
二液型ウレタン樹脂としては、例えば、触媒硬化型(イソシアナト基と空気中の水等とが触媒存在下で反応して硬化するもの)、ポリオール硬化型(イソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応により硬化するもの)等が挙げられる。
【0061】
前記ポリオール硬化型におけるポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、フェノール樹脂等が挙げられる。
また、前記ポリオール硬化型におけるイソシアナト基を有するイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;2,4-もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)又はその混合物、p-フェニレンジシソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やその多核体混合物であるポリメリックMDI等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族イソシアネート等が挙げられる。
前記ポリオール硬化型の二液型ウレタン樹脂における前記ポリオール化合物と前記イソシアネート化合物の配合比は、水酸基/イソシアナト基のモル当量比が0.7~1.5の範囲であることが好ましい。
【0062】
前記二液型ウレタン樹脂において使用されるウレタン化触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン、ジメチルエーテルアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジプロピレン-トリアミン、N-メチルモルフォリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ジメチルアミノエトキシエタノール-トリエチルアミン等のアミン系触媒;ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンジマレエート等の有機錫系触媒等が挙げられる。
前記ポリオール硬化型においては、一般に、前記ポリオール化合物100質量部に対して、前記ウレタン化触媒が0.01~10質量部配合されることが好ましい。
【0063】
(エポキシ樹脂)
前記エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂である。
前記エポキシ樹脂の硬化前のプレポリマーとしては、例えば、エーテル系ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、エステル系の芳香族エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、エーテル・エステル系エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。これらのうち、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、同「jER(登録商標)1001」等が挙げられる。
ノボラック型エポキシ樹脂としては、具体的には、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製「D.E.N.(登録商標)438(登録商標)」等が挙げられる。
【0064】
前記エポキシ樹脂に使用される硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物、フェノール樹脂、チオール類、イミダゾール類、カチオン触媒等の公知の硬化剤が挙げられる。前記硬化剤は、長鎖脂肪族アミン又は/及びチオール類との併用により、伸び率が大きく、耐衝撃性に優れるという効果が得られる。
前記チオール類の具体例としては、後述する官能基含有層を形成するためのチオール化合物として例示したものと同じ化合物が挙げられる。これらの中でも、伸び率及び耐衝撃性の観点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) PE1」)が好ましい。
【0065】
(ビニルエステル樹脂)
前記ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル化合物を重合性モノマー(例えば、スチレン等)に溶解したものである。エポキシ(メタ)アクリレート樹脂とも呼ばれるが、前記ビニルエステル樹脂には、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂も包含するものとする。
前記ビニルエステル樹脂としては、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものも使用することができ、また、具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-802」、同「リポキシ(登録商標)R-804」、同「リポキシ(登録商標)R-806」等が挙げられる。
【0066】
前記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、イソシアネート化合物と、ポリオール化合物とを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリルモノマー(及び、必要に応じて水酸基含有アリルエーテルモノマー)を反応させて得られるラジカル重合性不飽和基含有オリゴマーが挙げられる。具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-6545」等が挙げられる。
【0067】
前記ビニルエステル樹脂は、有機過酸化物等の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
前記有機過酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類等が挙げられる。これらをコバルト金属塩等と組み合わせることにより、常温での硬化も可能となる。
前記コバルト金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、水酸化コバルト等が挙げられる。これらの中でも、ナフテン酸コバルト又は/及びオクチル酸コバルトが好ましい。
【0068】
(不飽和ポリエステル樹脂)
前記不飽和ポリエステル樹脂は、ポリオール化合物と不飽和多塩基酸(及び、必要に応じて飽和多塩基酸)とのエステル化反応による縮合生成物(不飽和ポリエステル)を重合性モノマー(例えば、スチレン等)に溶解したものである。
前記不飽和ポリエステル樹脂としては、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものも使用することができ、また、具体的には、昭和電工株式会社製「リゴラック(登録商標)」等が挙げられる。
【0069】
前記不飽和ポリエステル樹脂は、前記ビニルエステル樹脂についてと同様の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
【0070】
〔プライマー層3の作用〕
プライマー層3は、熱可塑性樹脂材の表面に形成される。
プライマー層3によって、接合対象である他の熱可塑性樹脂材との優れた接合性が付与され得る。数ヶ月間の長期にわたって、前記の接合性を維持し得るプライマー付き熱可塑性樹脂材を得ることもできる。
また、プライマー層3により熱可塑性樹脂材の表面が保護され、汚れの付着や酸化等の変質を抑制することができる。
【0071】
[樹脂-樹脂接合体4]
図3に示すように、本発明の樹脂-樹脂接合体4は、プライマー付き熱可塑性樹脂材1のプライマー層3と、他の熱可塑性樹脂材5を溶着させてなる。他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂は、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂材2と同種であってもよく、異種であってもよい。
【0072】
プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂と他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂とが同種であっても、熱可塑性樹脂にフィラーや繊維が含有されていたり、熱可塑性樹脂が他の熱可塑性樹脂とのブレンド物であったりすると、プライマー付き熱可塑性樹脂材1と他の熱可塑性樹脂材5との接合強度が不十分となる場合がある。しかし、本発明によれば、プライマー付き熱可塑性樹脂材1と他の熱可塑性樹脂材5とを強固に溶着することができる。
【0073】
プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂と他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂とが同種である場合、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体の割合は、いずれも70質量%以上であり、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、さらに好ましくは85~100質量%である。
【0074】
プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂がフィラー及び繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する場合、その含有量は好ましくは5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。前記含有量が前記範囲内であるとプライマー付き熱可塑性樹脂材1と他の熱可塑性樹脂材5との接合強度を高めることができる。
【0075】
また、プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂が、主たる熱可塑性樹脂と従たる熱可塑性樹脂のブレンド物である場合、従たる熱可塑性樹脂の含有率は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。前記含有率が前記範囲内であるとプライマー付き熱可塑性樹脂材1と他の熱可塑性樹脂材5との接合強度を高めることができる。
なお、前記含有率は下記式により求めることができる。
含有率(質量%)=[B/(A+B)]×100
(式中、Aはプライマー付き熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂のうち主たる熱可塑性樹脂の質量(g)であり、Bはプライマー付き熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂及び/又は他の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂のうち従たる熱可塑性樹脂の質量(g)である。)
【0076】
本発明は、前記他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂と前記プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂とが異種である場合でも、他の熱可塑性樹脂材5とプライマー付き熱可塑性樹脂材1とを強固に溶着することができる。さらに、前記他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂のSP値と、前記プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂のSP値とが離れている場合でも、他の熱可塑性樹脂材5とプライマー付き熱可塑性樹脂材1とを強固に溶着することができる。
【0077】
前記プライマー層の厚さ(乾燥後の厚さ)は、プライマー付き熱可塑性樹脂材1及び他の熱可塑性樹脂材5の材質や接合部分の接触面積にもよるが、優れた接合強度を得る観点から、1μm~500μmであることが好ましく、より好ましくは3μm~100μm、さらに好ましくは5μm~70μmである。また、フィルムに由来する層の厚さ(乾燥後の厚さ)は、好ましくは1~60μmである。
なお、前記プライマー層が複数層の場合、プライマー層の厚さ(乾燥後の厚さ)は、各層合計の厚さとする。
【0078】
樹脂-樹脂接合体4を製造する方法としては、プライマー付き熱可塑性樹脂材1のプライマー層3に超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、他の熱可塑性樹脂材を溶着する方法や、プライマー付き熱可塑性樹脂材1のプライマー層3の上に、射出成形によって他の熱可塑性樹脂材を成形する方法が挙げられる。
前記他の熱可塑性樹脂材5として、本発明のプライマー付き熱可塑性樹脂材1と同一構成のプライマー付き熱可塑性樹脂材を用い、それぞれのプライマー層を溶着させてもよい。この場合、両者の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂は、同種であってもよく、異なっていてもよい。
【0079】
また、プライマーを有さない熱可塑性樹脂材と、他の熱可塑性樹脂材との間に、前記フィルム(A)~(D)のいずれかを挟み、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、熱可塑性樹脂材と、他の熱可塑性樹脂材とを溶着させることもできる。さらに、プライマーを有さない熱可塑性樹脂材上に前記フィルム(A)~(D)のいずれかを配置し、該フィルム上に射出成形によって他の熱可塑性樹脂材を成形してもよい。
【0080】
プライマー付き熱可塑性樹脂材1を構成する熱可塑性樹脂と他の熱可塑性樹脂材5を構成する熱可塑性樹脂とは、同種であってもよく、異種であってもよいが、強固に溶着する観点から、同種であることが好ましい。
【0081】
フィルムとしては、本発明の効果を得る観点から、前述のフィルム(B)及びフィルム(D)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【実施例
【0082】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0083】
<試験片用熱可塑性樹脂材>
以下に示す表1の条件で、射出成形機(住友重機械工業株式会社製 SE100V)を使用して、引張試験のための試験片用熱可塑性樹脂材(幅10mm、長さ45mm、厚さ3mm):タルク入りPP樹脂、ガラス繊維入りPP樹脂、炭素繊維入りPP樹脂、タフセレン変性PP樹脂、m-PPE樹脂を得た。
【0084】
【表1】
【0085】
(フィルム形成用の組成物-1の作製)
フラスコに無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱ケミカル株式会社製 Modic(登録商標)ER321P):5g、キシレン:95gを仕込み、撹拌しながら125℃に昇温して溶解した。次に、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製 jER(登録商標)1001)(ビスフェノールA型エポキシ樹脂 分子量約900):1.01g、ビスフェノールA:0.24g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.006gをフラスコ中に投入し、125℃で30分間撹拌し、前記2官能エポキシ樹脂とビスフェノールAとの重付加反応を行い、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、及び前記2官能エポキシ樹脂とビスフェノールAとの重合物(熱可塑性エポキシ樹脂)を含む組成物-1(以下、単に組成物-1ともいう)を得た。
【0086】
(フィルム形成用の組成物‐2の作製)
フラスコに変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製 NOLYL731):7.0g、キシレン:95gを仕込み、撹拌しながら125℃に昇温して溶解した。次に、メタクリル酸:1.0g、メタクリル酸メチル:1.0g、スチレン:1.0gを混合したモノマー混合物に有機過酸化物触媒(日油株式会社製 パーブチル(登録商標)O):0.1gを混合したものを滴下し、撹拌しながら125℃で30分間撹拌し、前記モノマーのラジカル重合を行い、メタクリル樹脂と変性ポリフェニレンエーテルとを含む組成物-2(以下、単に組成物-2ともいう)を得た。
【0087】
(溶着フィルムの作成)
組成物-1を、離型フィルム上に乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、空気中に常温(23℃)で30分間放置することによって溶剤を揮発させ、該離型フィルム上にフィルム(以下、組成物-1フィルムともいう)を形成した。
【0088】
組成物-2を、離型フィルム上に乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、空気中に常温(23℃)で30分間放置することによって溶剤を揮発させ、該離型フィルム上にフィルム(以下、組成物-2フィルムともいう)を形成した。
【0089】
<実施例1~5>
表2-1に記載の熱可塑性樹脂材と、他の熱可塑性樹脂材との間に、離型フィルム付き組成物-1フィルムから離型フィルムを剥がした組成物-1フィルムを挟み、接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片1~5(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0090】
〈実施例6〉
120℃乾燥炉中で前記試験片用熱可塑性樹脂材のPP(CF40質量%)の片面に離型フィルムを剥がした組成物-1フィルムを配置し、前記PPの片面に組成物-1フィルムを圧着し、フィルムに由来する層が形成されたPP(CF40質量%)(以下、PP-1ともいう)を得た。
次に前記PP-1の組成物-1フィルム面と、前記試験片用熱可塑性樹脂材のPP(CF40質量%)の片面とを接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片6(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0091】
〈実施例7〉
120℃乾燥炉中で前記試験片用熱可塑性樹脂材のm-PPEの片面に離型フィルムを剥がした組成物-2フィルムを圧着し、フィルムに由来する層が形成されたm-PPE(以下、m-PPE-1ともいう)を得た。
次に前記m-PPE-1の組成物-2フィルム面と前記試験片用熱可塑性樹脂材のm-PPEの片面とを接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片7(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0092】
(引張りせん断強度)
試験片1~7について、常温(23℃)で1日間放置後、ISO19095 1-4に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製 万能試験機オートグラフ「AG-IS」;ロードセル10kN、引張速度10mm/min、温度23℃、50%RH)にて、引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を下記表2-1及び表2-2に示す。
【0093】
【表2-1】
【0094】
【表2-2】
【0095】
<比較例1~6>
表3に記載の熱可塑性樹脂材Aと熱可塑性樹脂材Bとを、接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着を試みたが、いずれも溶着できなかった。
【0096】
【表3】
【0097】
<実施例8>
表4に記載のPP(GF40質量%)と、タフセレン変性PPとの間に、離型フィルムを剥がした組成物-1フィルムを挟み、接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片8(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0098】
(引張りせん断強度)
前記試験片8について、実施例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【0099】
<比較例7>
表4に記載のPP(GF40質量%)とタフセレン変性PPとを、接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0100】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係るプライマー付き熱可塑性樹脂材は、他の熱可塑性樹脂材と接合一体化されて、例えば、ドアサイドパネル、ボンネットルーフ、テールゲート、ステアリングハンガー、Aピラー、Bピラー、Cピラー、Dピラー、クラッシュボックス、パワーコントロールユニット(PCU)ハウジング、電動コンプレッサー部材(内壁部、吸入ポート部、エキゾーストコントロールバルブ(ECV)挿入部、マウントボス部等)、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の自動車用部品や、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン、スマートウォッチ、大型液晶テレビ(LCD-TV)、屋外LED照明の構造体等として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0102】
1 プライマー付き熱可塑性樹脂材
2 熱可塑性樹脂材
3 プライマー層
31 フィルムに由来する層
32 熱硬化性樹脂層
4 樹脂-樹脂接合体
5 他の熱可塑性樹脂材

図1
図2
図3