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  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図1
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図2
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図3A
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図3B
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図3C
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図4
  • 特許-車両の制御装置及び車両の制御方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/16 20060101AFI20220224BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
F16H61/16
F16H61/662
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020559878
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2019045109
(87)【国際公開番号】W WO2020121742
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018234836
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 聡光
(72)【発明者】
【氏名】李 宗桓
(72)【発明者】
【氏名】本間 知明
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-266288(JP,A)
【文献】特開平11-159609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00
F16H 61/00
F16H 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置された無段変速機と、を有する車両の制御方法であって、
アクセルペダルの踏込み状態に関わらず、エアコンがオンになると前記無段変速機の変速領域であって前記無段変速機の入力回転速度が所定回転速度未満になる変速領域の使用を禁止することと、
前記無段変速機の入力回転速度が前記所定回転速度以上になる変速領域においては、前記エアコンがオンの場合の変速線の設定と、前記エアコンがオフの場合の変速線の設定とを同じ設定にして変速線を選択することと、
を含む車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP3-204470Aには、エアコンオン時とエアコンオフ時とで、トルクコンバータのロックアップクラッチのロックアップ点を異ならせる電子制御式自動変速機が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
エアコンがオンの場合、つまりエアコン装置が作動状態の場合は、エンジン回転速度が低下する。このためこの場合は、エンジンストールを防止すべく、車速に応じて設定されたロックアップ点を高車速側に移動させることが考えられる。このようにロックアップ点を変更すると、コースト走行時にロックアップが早めに解除され易くなる。その一方で、エアコンがオンの場合はエンジンのアイドル回転速度を上昇補正する場合がある。
【0004】
このため、ドライバがアクセルペダルを踏んでいない、つまりコースト走行意図があるロックアップ解除状態においては、エアコンがオンの場合に、エンジン回転速度がタービン回転速度を上回ってしまう虞がある。結果、コースト走行意図があるにも関わらず、ドライブ走行状態となってしまう虞がある。また、ドライバがアクセルペダルを軽く踏んでいる低アクセル開度状態、且つロックアップ解除状態においては、エンジン回転速度がタービン回転速度を大きく上回ってしまい、予想以上の駆動力が駆動輪に伝達されてしまう虞がある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、コースト走行意図があるロックアップ解除状態において、意図せぬ走行状態となることを抑制するとともに、運転性が低下する頻度を抑制することを目的とする。
【0006】
本発明のある態様の車両の制御装置は、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置された無段変速機と、を有する車両の制御装置であって、エアコンがオンになると前記無段変速機の変速領域であって前記無段変速機の入力回転速度が所定回転速度未満になる変速領域の使用を禁止する制御部を有する。前記制御部は、前記無段変速機の入力回転速度が前記所定回転速度以上になる変速領域においては、前記エアコンがオンの場合の変速線選択条件と、前記エアコンがオフの場合の変速線選択条件とを同じ条件にして変速線を選択する。
【0007】
本発明の別の態様によれば、上記車両の制御装置に対応する車両の制御方法が提供される。
【0008】
これらの態様によれば、所定回転速度未満の変速領域の使用を禁止することで、トルクコンバータの出力回転を引き上げることができる。このため、コースト走行意図があるロックアップ解除状態において、トルクコンバータの入力回転が出力回転を上回り、意図せぬ走行状態となることを抑制できる。
【0009】
また、これらの態様によれば、全変速領域でいたずらにダウンシフトをするわけではなく、所定回転速度以上の変速領域においては通常と同じ変速をする。このため、全変速領域でダウンシフトする場合と比較して、運転性が低下する頻度も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、車両の要部を示す図である。
図2図2は、実施形態の制御の一例をフローチャートで示す図である。
図3A図3Aは、ハイリミットの説明図の第1図である。
図3B図3Bは、ハイリミットの説明図の第2図である。
図3C図3Cは、ハイリミットの変形例の説明図である。
図4図4は、実施形態の制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図5図5は、変形例の制御の一例をフローチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、車両100の概略構成図である。車両100は、エンジン1と、自動変速機3と、オイルポンプ5と、駆動輪6と、制御装置としてのコントローラ10と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン、軽油等を燃料とする内燃機関であり、走行用駆動源として機能する。エンジン1は、コントローラ10からの指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
エンジン1は、発生させたトルクを駆動輪6に伝達して車両100を走行させるとともに、発生させたトルクの一部をベルト11などを介してエアコン用の圧縮機12、補機13に伝達可能となっており、これらを駆動できる。
【0015】
補機13は、エンジン1の動力により駆動される。補機13は、オルタネータであり、オルタネータが発電すべき電力量は、車両100の使用電力量が増加すると、バッテリ充電電圧等により定まる所定の電圧範囲内で発電電流が増加することにより増加する。
【0016】
補機13は例えば、パワーステアリング用のオイルポンプやエンジン1のウォータポンプ等であってもよく、複数の補機の組み合わせが補機13とされてもよい。この場合、補機毎にプーリを介してベルト11からエンジン1の動力を伝達するように構成することができる。
【0017】
電磁クラッチ14は、ベルト11、圧縮機12間の動力伝達を断接する。電磁クラッチ14は、車室内の空調を行うエアコンをONにするためのエアコンスイッチ(以下、A/C_SWと言う)15がONになると締結され、OFFになると解放される。
【0018】
自動変速機3は、トルクコンバータ2と、締結要素31と、バリエータ30と、油圧コントロールバルブユニット40(以下では、単に「バルブユニット40」ともいう。)と、オイル(作動油)を貯留するオイルパン32と、を備える。
【0019】
トルクコンバータ2は、エンジン1と駆動輪6の間の動力伝達経路上に設けられる。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。また、トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ2aを締結することで、エンジン1からの駆動力の動力伝達効率を高めることができる。
【0020】
締結要素31は、トルクコンバータ2とバリエータ30の間の動力伝達経路上に配置される。締結要素31は、図示しない前進クラッチ及び後進ブレーキを備える。締結要素31は、コントローラ10からの指令に基づき、オイルポンプ5の吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧されたオイルによって制御される。締結要素31としては、例えば、ノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。
【0021】
バリエータ30は、締結要素31と駆動輪6との間の動力伝達経路上に配置され、車速やアクセル開度等に応じて変速比Ratioを無段階に変更する。バリエータ30は、プライマリプーリ30aと、セカンダリプーリ30bと、両プーリ30a,30bに巻き掛けられたベルト30cと、を備える。プーリ圧によりプライマリプーリ30aの可動プーリとセカンダリプーリ30bの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルト30cのプーリ接触半径を変化させることで、変速比Ratioを無段階に変更する。なお、プライマリプーリ30aに作用するプーリ圧及びセカンダリプーリ30bに作用するプーリ圧は、オイルポンプ5からの吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧される。バリエータ30は、無段変速機に相当する。
【0022】
バリエータ30のセカンダリプーリ30bの出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル7が接続される。ディファレンシャル7には、ドライブシャフト8を介して駆動輪6が接続される。
【0023】
オイルポンプ5は、エンジン1の回転がベルトを介して伝達されることによって駆動される。オイルポンプ5は、例えばベーンポンプによって構成される。オイルポンプ5は、オイルパン32に貯留されるオイルを吸い上げ、バルブユニット40にオイルを供給する。バルブユニット40に供給されたオイルは、各プーリ30a,30bの駆動や、締結要素31の駆動、自動変速機3の各要素の潤滑などに用いられる。
【0024】
コントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ10は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。具体的には、コントローラ10は、自動変速機3を制御するATCU、シフトレンジを制御するSCU、エンジン1の制御を行うECU等によって構成することもできる。なお、本実施形態における制御部とは、コントローラ10の後述する制御を実行する機能を仮想的なユニットとしたものである。
【0025】
コントローラ10には、エンジン1の回転速度Ne(=トルクコンバータ2の入力側の回転速度)を検出する第1回転速度センサ51、トルクコンバータ2の出力側の回転速度(タービン回転速度Nt)を検出する第2回転速度センサ52、締結要素31の出力回転速度(=プライマリプーリ30aの回転速度Npri)を検出する第3回転速度センサ53、セカンダリプーリ30bの回転速度Nsecを検出する第4回転速度センサ54、車速VSPを検出する車速センサ55、バリエータ30のセレクトレンジ(前進、後進、ニュートラル及びパーキングを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ56、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ57、ブレーキの踏力を検出する踏力センサ58等、からの信号が入力される。コントローラ10は、入力されるこれら信号に基づき、エンジン1及び自動変速機3の各種動作を制御する。
【0026】
コントローラ10が行う制御には、電磁クラッチ14の制御も含まれる。コントローラ10には、A/C_SW15からの信号等も入力される。
【0027】
ところで、エアコンがオンの場合は、エンジン回転速度Neが低下する。このためこの場合は、エンジンストールを防止すべく、車速VSPに応じて設定されたトルクコンバータ2のロックアップ点を高車速側に移動させることが考えられる。このようにロックアップ点を変更すると、コースト走行時にロックアップが早めに解除され易くなる。その一方で、エアコンがオンの場合はエンジン1のアイドル回転速度を上昇補正する場合がある。
【0028】
このため、ドライバがアクセルペダルを踏んでいない、つまりコースト走行意図があるロックアップ解除状態においては、エアコンがオンの場合に、エンジン回転速度Neがトルクコンバータ2のタービン回転速度Ntを上回ってしまうことが懸念される。結果、コースト走行意図があるにも関わらず、ドライブ走行状態となってしまうことが懸念される。また、ドライバがアクセルペダルを軽く踏んでいる低アクセル開度状態、且つロックアップ解除状態においては、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを大きく上回ってしまい、予想以上の駆動力が駆動輪に伝達されてしまうことが懸念される。
【0029】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ10が次に説明する制御を行う。
【0030】
図2は、コントローラ10が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ10は、本フローチャートの処理を行うように構成されることで、制御部を有した構成とされる。
【0031】
ステップS1で、コントローラ10は、エアコンがONか否かを判定する。エアコンがONか否かは、A/C_SW15がONか否かを判定することにより判定できる。ステップS1で否定判定であれば、処理は一旦終了する。ステップS1で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0032】
ステップS2で、コントローラ10は、ハイリミットを設定する。ハイリミットは、バリエータ30の入力回転速度である回転速度Npriが所定回転速度Npri1未満になる変速領域の使用を禁止するための変速制限であり、このような変速制限によりバリエータ30の変速比Ratioのハイリミットが結果的に行われる。
【0033】
所定回転速度Npri1は、コースト走行意図があるロックアップ解除状態において、エアコンがONの場合にエンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回らないようにするための値であり、予め設定される。変速領域は、車速VSPと回転速度Npriに応じて予め設定される。ハイリミットについてはさらに後述する。
【0034】
コントローラ10は、エアコンがONか否かによりハイリミットを設定することで、ロックアップクラッチ2aの状態に関わらず、また、アクセルペダルの踏込み状態に関わらず、所定回転速度Npri1未満の変速領域の使用を禁止する。これにより、これらの状態になる前から、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回らないように事前に準備しておくことができる。ステップS2の後には、処理は一旦終了する。
【0035】
図3A図3Bはハイリミットの説明図である。図3Aは、エアコンがOFFの場合の変速マップを示し、図3Bは、エアコンがONの場合の変速マップを示す。
【0036】
バリエータ30は、変速マップに基づき変速される。変速マップには、変速線がアクセル開度APO毎に設定されており、バリエータ30の変速は、アクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。図3A図3Bでは、変速線としてコースト線Cと、アクセル開度APOが低開度(例えば1/8)の場合の変速線SH1と、アクセル開度APOが高開度(例えば8/8)の場合の変速線SH2とを例示する。
【0037】
変速マップでは、バリエータ30の動作点が、車速VSPと回転速度Npriとに応じて示される。変速マップにおいて、バリエータ30の変速比Ratioは、動作点と変速マップの零点を結ぶ線の傾きで示される。
【0038】
図3Aに示すように、エアコンがOFFの場合、バリエータ30の変速は、変速比Ratioを最小にして得られる最ハイ線Hと、変速比Ratioを最大にして得られる最ロウ線Lとの間で行うことができる。最ハイ線Hと最ロウ線Lとの間の領域は、バリエータ30の変速が可能な変速領域を構成する。
【0039】
図3Bに示すように、エアコンがONの場合、バリエータ30の変速は、最ハイ線Hと最ロウ線Lとの間で、且つハイリミット線HL以上の変速領域で行われる。ハイリミット線HLは、回転速度Npriを所定回転速度Npri1にして得られる変速線であり、エアコンがONの場合はハッチングで示すように、所定回転速度Npri1未満の変速比Ratioの使用が禁止される。
【0040】
動作点がハッチング領域に含まれた状態でエアコンがONになり、所定回転速度Npri1未満の変速領域の使用が禁止された場合、回転速度Npriは、その際の車速VSPにおいて回転速度Npri1に設定される。これにより、動作点がハイリミット線HL上に移動し、変速比Ratioが大きくなるので、回転速度Npriが高まり、タービン回転速度Ntが引き上げられる。結果、コースト走行意図があるロックアップ解除状態であっても、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回らないようにすることができる。
【0041】
所定回転速度Npri1以上の変速領域において、アクセル開度APOに応じて選択されるコースト線C、変速線SH1、変速線SH2は、図3Aに示す場合と同じとなっている。このため、コントローラ10は、所定回転速度Npri1以上の変速領域においては、エアコンがオンの場合の変速線選択条件と、エアコンがオフの場合の変速線選択条件とを同じ条件にして変速線を選択する。
【0042】
つまり、コントローラ10は、全変速領域でいたずらにダウンシフトをするわけではなく、所定回転速度Npri1以上の変速領域においては通常と同じ変速をする。このため、全変速領域でダウンシフトする場合と比較して、運転性が低下する頻度も抑制される。
【0043】
図3Cは、ハイリミットの変形例の説明図である。図3Cでは、所定変速比Ratio1以下の変速領域を制限するように、車速VSPに応じて制限回転速度である所定回転速度Npri1を変化させている。つまり、ハイリミット線HLは例えば、この例に示すように車速VSPに応じて所定回転速度Npri1を可変にして設定することもできる。但しこの場合、低車速域では回転速度Neが低くなり過ぎてしまう場合もあり得る一方で、高車速域では余分に回転速度Neを制限し過ぎることもある。このため、ハイリミットを行うにあたっては、図3Bに示すように、車速VSPに関係なく所定回転速度Npri1を一定の回転速度閾値として設定することが好ましい。
【0044】
図4は、図2に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。図4では、アクセル開度APOがゼロで、ロックアップクラッチ2aが解放状態の場合、つまり、コースト走行意図があるロックアップ解除状態の場合を示す。図4では、エンジン1のフューエルカット(F/C)が行われていないF/C停止状態の場合を示す。図4では、バリエータ30の動作点が所定回転速度Npri1未満の変速領域にある場合に、エアコンがONになる場合を示す。
【0045】
タイミングT1では、A/C_SW15がONになる。このため、ハイリミットが設定されることにより、回転速度Npriが所定回転速度Npri1に設定されて変速比Ratioが大きくなる。結果、回転速度Npriが上昇し始めることから、タービン回転速度Ntが引き上げられ始め、タイミングT2で所定回転速度Npri1よりも高い回転速度Nt1になる。
【0046】
タイミングT3では、A/C_SW15がOFFになる。このため、ハイリミットが解除されることにより、回転速度Npriがコースト線C上の回転速度に設定されて変速比Ratioが小さくなる。結果、回転速度Npriが低下し始めることから、タービン回転速度Ntが引き下げられ始め、タイミングT4でコースト線C上の回転速度に応じたタービン回転速度Ntに戻る。
【0047】
回転速度Nt1は、エアコンON時の上昇補正されたエンジン1のアイドル回転速度よりも高くなっている。このため、タービン回転速度Ntが回転速度Nt1になることにより、コースト走行意図があるロックアップ解除状態であっても、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回る事態が防止される。
【0048】
次に、本実施形態の主な作用効果を説明する。
【0049】
コントローラ10は、ロックアップクラッチ2aを有するトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2の下流に配置されたバリエータ30と、を有する車両100の制御装置を構成する。コントローラ10は、エアコンがオンになるとバリエータ30の変速領域であって回転速度Npriが所定回転速度Npri1未満になる変速領域の使用を禁止する。コントローラ10は、回転速度Npriが所定回転速度Npri1以上の変速領域においては、エアコンがオンの場合の変速線選択条件と、エアコンがオフの場合の変速線選択条件とを同じ条件にして変速線を選択する。
【0050】
このような構成によれば、所定回転速度Npri1未満の変速領域の使用を禁止することで、トルクコンバータ2の出力回転つまりタービン回転速度Ntを引き上げることができる。このため、コースト走行意図があるロックアップ解除状態において、トルクコンバータ2の入力回転が出力回転を上回り、意図せぬ走行状態となることを抑制できる。
【0051】
また、このような構成によれば、全変速領域でいたずらにダウンシフトをするわけではなく、所定回転速度Npri1以上の変速領域においては通常と同じ変速をする。このため、全変速領域でダウンシフトする場合と比較して、運転性が低下する頻度も抑制できる。
【0052】
ハイリミットは、少なくともロックアップ解除状態で有効な一方、エアコンがONのときに、ロックアップ状態からロックアップ解除状態にロックアップクラッチ2aが状態遷移して、ロックアップ解除状態になる場合もある。
【0053】
このような事情に鑑み、コントローラ10は、ロックアップクラッチ2aの状態に関わらず、所定回転速度Npri1未満の変速領域の使用を禁止する。
【0054】
このような構成によれば、エアコンがONのときはロックアップ状態であっても事前にハイリミットを行うことにより、その後、ロックアップクラッチ2aがロックアップ解除状態に状態遷移した場合であっても、意図せぬ走行状態となることを抑制できる。
【0055】
ハイリミットは、少なくともアクセル開度APOがゼロ(コースト状態)又は低開度のときに有効な一方、エアコンがONのときに、アクセル開度APOが高開度から低開度へ状態遷移して、アクセル開度APOがゼロ又は低開度になる場合もある。
【0056】
このような事情に鑑み、コントローラ10は、アクセルペダルの踏込み状態に関わらず、所定回転速度Npri1未満の変速領域の使用を禁止する。
【0057】
このような構成によれば、エアコンがONのときはアクセル開度APOが高開度のときであっても事前にハイリミットを行うことにより、その後、アクセル開度APOがゼロ又は低開度へ状態遷移した場合であっても、意図せぬ走行状態となることを抑制できる。
【0058】
コントローラ10は、次に説明する制御を行うように構成されてもよい。
【0059】
図5は、変形例の制御の一例をフローチャートで示す図である。図5に示すフローチャートは、ステップS1の代わりにステップS1´が設けられている点以外、図2に示すフローチャートと同じである。このためここでは、主にステップS1´について説明する。
【0060】
ステップS1´で、コントローラ10は、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回る可能性がある条件が成立したか否かを判定する。当該条件は、そのような可能性があることが検知に現れる条件であり、エアコンのオンオフ検知のほか、例えばトルクコンバータ2の入出力回転検知や、補機13のオンオフつまり作動停止検知や、作動中の補機13の負荷増減検知を含む。
【0061】
トルクコンバータ2の入出力回転検知について説明すると、トルクコンバータ2の入力回転が出力回転を上回る場合には、トルクコンバータ2の実際の入出力回転の差とその微分値(変化率)とに有意な変化が現れる。このため、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回る可能性はこれらに基づき、トルクコンバータ2の入力回転が出力回転を上回る可能性として検知できる。
【0062】
補機13のオンオフ検知と、作動中の補機13の負荷増減検知については、補機13の作動や負荷の増加に応じてエンジン1のアイドル回転速度が上昇補正される場合に、補機13の作動や負荷の増加をエンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回る可能性がある条件として検知できる。
【0063】
つまり、コースト走行意図があるロックアップ解除状態において、エンジン1に何らかの負荷がかかる部品があれば、複数の部品の影響が組み合わされる場合を含め、その負荷がかかることを検知することにより、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntを上回る可能性がある条件として検知できる。
【0064】
このようにトルクコンバータ2の入力回転が出力回転を上回る可能性のある条件が成立すると、ハイリミットを設定するように構成した場合でも、コントローラ10は、意図せぬ走行状態となることを抑制でき、運転性が低下する頻度も抑制できる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0066】
本願は2018年12月14日に日本国特許庁に出願された特願2018-234836に基づく優先権を主張し、この出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5