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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】射出成形組成物のためのバインダー
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20220224BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220224BHJP
   G04B 37/22 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
C08L23/06
C08K5/20
G04B37/22 V
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021004864
(22)【出願日】2021-01-15
(62)【分割の表示】P 2019528447の分割
【原出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2021073341
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】16203041.5
(32)【優先日】2016-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス,パブロ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523799(JP,A)
【文献】特開2014-218082(JP,A)
【文献】国際公開第2010/106949(WO,A1)
【文献】特表2003-526693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼金属粉末78体積%及びバインダー22体積%を有する成形された金属部品の製造のために意図された射出成形組成物用のバインダーであって、体積%で、
HDポリエチレンを28%
ポリプロピレンを4%
エチレン及びメタクリル酸の共重合体を4.5%
イソブチルメタクリル酸エステルのポリマー樹脂を8.5%
n-ブチル及びイソブチルメタクリル酸エステルのポリマー樹脂を1%
カルナウバワックスを9%
パラフィンワックスを31%
N,N’-エチレン-ビス(ステアルアミド)を14%
を含むバインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形のためのバインダー組成物及び成形された金属部品の製造のために意図された射出成形組成物(供給物質)に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾品と腕時計業界のため、医療用装置、エレクトロニクス、テレフォニー、工具、マシンカッティングインサートのような技術的なアプリケーションのため、そして、消費者向け製品の業界のための硬質材の製造において、粉末冶金技術が実装されている。得られる合成された無機物質は、金属や金属合金の性質にかかわらず、ここでは「金属」と呼ぶ。基本原料どうしは、概して言えば、本来異なり、少なくとも、一方では、金属粉末、そして、他方では、樹脂剤や塑性物質のような有機バインダーを含有する。これらは、射出成形することができ、すべての原料の混合物で作られた部品に対して良好な機械的強度を与えることができる。この混合物には他の添加剤が含まれていてもよい。また、これらの原料どうしのテクスチャーは、固体、粉末、液体又はペーストのように異なっていることができる。また、混合物の構造は、特に、樹脂の補助的な成分が重合反応を経る場合に(これに限定されない)、作成されているときに変化することがある。
【0003】
粉末冶金による金属成分の製造プロセス全体は、少なくとも以下のステップを有する。- 原料を用意するステップ
- 原料を混合、及び/又は必要であれば同時に2つ(又はそれより多く)前置混合するステップ
- 均質化こね混ぜを行うステップ
- 粒状化するステップ
- 特に、緊急のチャンバ、作るために均質化し粒状化するステップによって得られた所定量の粉末又は供給物質ペレットを、特に、プレスチャンバーにおいて、プレスするステップ
このプレスするオペレーションは、特に、均質化と粒状化するステップによって得られたこの所定量の粉末又は供給物質ペレットを加熱する手段を有するねじインジェクター内にて、圧力の下で、射出成形によって行うことができる。
- 混合物の特定の構成物質の燃焼及び/又は溶解のための炉においてデバインドするステップ
- 仕上がり部品にその最終的なコヒーレンシーを与える焼結プロセスのためにデバインドした後に中間部品を熱処理するステップ
この熱処理は、寸法的な収縮を発生させて、最終的な寸法を有する部品を得ることを可能にする。
- 部品の表面仕上げ処理をするステップ
【0004】
本発明の特定の目的は、収縮係数が制御されており複雑な形を有し品質が非常に複製可能であるような金属部品を作るために、金属を得る粉末冶金混合を促進する射出成形のための組成物のための最適化されたバインダーを提案することである。
【0005】
焼結可能な金属粉末と有機ポリマーバインダーを含有している成型された金属部品の製造のための熱可塑性物質(供給物質)が既に知られている。この有機ポリマーバインダーは、本質的に、ポリオキシメチレンと、ポリオキシメチレンとポリオクソランの共重合体との混合物によって作られている。このような物質(供給物質)は、例えば、商品名Catamold(登録商標)を用いてBASF社によって販売されている。
【0006】
しかし、これらの供給物質には多くの課題があることが明らかになった。例えば、射出成形のためには流動性が不十分であることである。これによって、この手段によって作ることができる部分の複雑さを制約してしまい、高コストな機械的な再機械加工オペレーションを必要とすることがある。そして、割れや層化を発生させるという成型部品の機械的強度の課題を発生させ、これは、特に、部品の形が重要である場合に課題となる。また、それらは、特に、デバインドするステップにおいて有機相を除去するために、硝酸のような攻撃的な物質を用いる必要性によって発生する環境上の問題の原因となる。
【0007】
スイス特許CH707572によって、ポリマーベース、ワックス及び/又はパーム油の混合物、及び界面活性剤を含有する射出成形組成物のためのバインダーが知られている。このようなバインダー組成物を用いて、2つの別個の順次的ステップにてデバインドが行われる。すなわち、溶媒を用いる部分的デバインドをする第1のデバインドステップと、その後の熱的デバインドする第2のデバインドステップである。第1のデバインドステップの間に、溶媒に溶けるバインダー成分、すなわち、ワックスと界面活性剤の混合物及びアクリル樹脂、が取り除かれる。実際上、このオペレーションは、中間部品と適切な溶媒を含有する炉内にてバッチごとに実行される。そして、そのバッチはバッチ炉内に配置され、ここで、一般的には中間部品を約600℃の温度まで加熱することによって化学的デバインドステップにおいて溶けなかったバインダー成分が取り除かれる。デバインドが行われると、すなわち、有機元素が取り除かれると、この時点においてのみ、約1200℃の温度まで加熱することによって、部品が同じ炉内で焼結する。
【0008】
このバッチ製造技術は、良好な結果を与えるが、連続するバッチを扱うということは、既存の設備では満足するような生産速度を達成することはできないということを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、前記課題が発生しない射出成形組成物のためのバインダーであって、特に、供給物質の均質性と流動性を改善するものを提供することを目的とする。これによって、複雑な形を有する金属部品を製造し、生産サイクルタイムを短縮し、機械的な仕上げプロセスの必要性を抑えたりなくしたりし、最後に、有機バインダーを取り除くための環境に悪影響を与える物質を用いる必要性をなくして、これを単純な熱処理によって取り除くことができる無公害性の溶媒に置き換える。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、本発明は、射出成形組成物のためのバインダーに関し、これは、
- ポリマーベースを45~50体積%、
- ワックスの混合物又はワックスとパーム油の混合物を34体積%以上、
- 界面活性剤を11~16体積%
含有し、前記ポリマーベースは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びアクリル樹脂に加えて、エチレン及びメタクリル酸又はアクリル酸の共重合体、無水マレイン酸を含有するエチレン共重合体、又はこれらの共重合体の混合物を含有し、前記バインダー成分の各量の合計は、100体積%を超えず、好ましくは、100体積%である
【0011】
これらの特徴の結果、熱的デバインドステップを短縮することができ、例えば、コンベヤーベルト炉を用いることができ、したがって、焼結オペレーションの前にデバインドが完全に終わっていることを確実にしつつ、生産速度を最適化することができる。このように、コンベヤーベルト炉タイプの設備を用いることによって、同じ設備内にて熱的デバインドステップと焼結ステップを連続的に組み合わせることができる。これによって、部品の生産速度を上げ、同時に、製造コストを下げることができる。また、このバインダー組
成物は、傷がない複雑な形の部品の射出成形を可能にするような粘性を有する。
【0012】
好ましくは、本発明のバインダーは、前記共重合体の1つ又はそれらの混合物を4~5体積%、ポリエチレンを25~30体積%、ポリプロピレンを3~5体積%、そして、アクリル樹脂を8~10体積%含有する。
【0013】
好ましくは、前記エチレン及びメタクリル酸又はアクリル酸の共重合体は、メタクリル酸又はアクリル酸のコモノマーを3~10重量%含有し、前記エチレンと無水物の共重合体は、融点が100~110℃であるエチレンと無水マレイン酸の統計(ランダム)共重合体、又は融点が130~134℃であるHDポリエチレンと変性無水物の共重合体である。
【0014】
好ましくは、前記アクリル樹脂は、50000~220000の分子量及び0.21~0.83の固有粘度を有しており、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル及びN-メタクリル酸ブチルの重合体、メタクリル酸イソブチル、N-メタクリル酸ブチル及びメタクリル酸メチルの共重合体、又はこれらの重合体及び/又は共重合体の混合物からなる群から選ばれる。「固有粘度」は、サイズが50のキャノン-フェンスケ粘度計を用いて20℃で測定された50mlの塩化メチレンにおける0.25gの重合体を含有する溶液の粘性を意味する。
【0015】
好ましくは、前記ワックスの混合物は、カルナウバワックスとパラフィンワックスを含有し、又は前記ワックスの混合物は、カルナウバワックスとパーム油を含有する。
【0016】
別の好ましい特徴によると、界面活性剤は、N,N’-エチレンビスステアルアミド、ステアリン酸及びパルミチン酸(ステアリン)の混合物、又はこれらの要素の混合物である。
【0017】
有利な特徴によると、前記界面活性剤と前記アクリル樹脂は、イソプロピルアルコール及び/又はテレビンに溶ける。
【0018】
本発明は、さらに、金属粉末を70~80体積%及びバインダーを20~30体積%含有する成形された金属部品の製造のために意図された射出成形組成物(供給物質)に関し、前記バインダーは、
- ポリマーベースを45~50体積%、
- ワックスの混合物又はワックスとパーム油の混合物を35体積%以上、及び
- 界面活性剤を11~16体積%
含有し、前記ポリマーベースは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びアクリル樹脂に加えて、エチレン及びメタクリル酸又はアクリル酸の共重合体、無水マレイン酸を含有するエチレン共重合体、又はこれらの共重合体の混合物を含有する。バインダー成分の各量の合計は、100体積%を超えず、好ましくは、100体積%である。
【0019】
特定の特徴によると、射出成形組成物の金属粉末は、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム及びルテニウムのような貴金属粉末、タングステン金属粉末、ステンレス鋼粉末、チタン金属粉末、又はこれらの金属粉末の混合物からなる群から選ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の例を用いて本発明について詳細に説明する。なお、これに限定されない。
【0021】
バインダーのポリマー部分は、約150℃の温度でステンレス鋼粉末(典型的には、316L鋼粉末)と混合され、前置混合物を作る。この前置混合物にワックスと界面活性剤
が加えられ、再び温度が約180℃まで上げられて、一種の均質的なペーストを形成する。そして、このペーストに対して粉砕と周囲温度までの冷却が同時に行われて、粉末を形成する。そして、この粉末は、カレンダーに供給され、ここで前置混合物が切断され粒状化される。この最後のステップの成果物は、既知技術による射出成形による成形部品の製造に用いるために供給物質を形成するように維持される。
【0022】
具体的には、この例において、以下の体積組成を有する46.5kgの(316L)ステンレス鋼金属粉末(78体積%)及び3.5kgのバインダー(約22体積%)を用いた。
- HDポリエチレンを28%
- ポリプロピレンを4%
- エチレン及びメタクリル酸の共重合体(例えば、DuPont社による「Nucrel(商標)」のようなタイプのメタクリル酸を6.5重量%)を4.5%
- 195000の分子量を有するイソブチルメタクリル酸エステルのポリマー樹脂(例えば、Lucite Internationalによる「Elvacite(商標)2045」のようなタイプ)を8.5%
- 165000の分子量を有するn-ブチル及びイソブチルメタクリル酸エステルのポリマー樹脂(例えば、Lucite Internationalによる「Elvacite(商標)2046」のようなタイプ)を1%
- カルナウバワックスを9%
- パラフィンワックス(例えば、Alpha Wax BVによる「Carisma 56T(商標)」のよう
なタイプ)を31%
- N,N’-エチレン-ビス(ステアルアミド)を14%