(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】シリカ熱反射板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/22 20060101AFI20220224BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220224BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20220224BHJP
H01L 21/324 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
H01L21/22 501F
C23C14/06 R
C23C14/14 D
H01L21/324 G
(21)【出願番号】P 2021098990
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020218603
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】丸子 智弘
(72)【発明者】
【氏名】石黒 好裕
(72)【発明者】
【氏名】松村 尊信
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕也
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-148315(JP,A)
【文献】特開2000-150396(JP,A)
【文献】特開平11-340157(JP,A)
【文献】特開2001-102319(JP,A)
【文献】特開2001-168047(JP,A)
【文献】特開平07-078779(JP,A)
【文献】特開2004-031846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/22
C23C 14/06
C23C 14/14
H01L 21/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ板と、
該シリカ板の内部に配置されて該シリカ板によって外周囲が完全に覆われてなり、かつ、該シリカ板の一方の表面に入射した赤外線を反射する反射体と、を有するシリカ熱反射板であって、
前記シリカ板は、第1シリカ板と第2シリカ板とが対向して配置されて周縁部同士が周縁に沿って環状に連続して接合された合わせ板の構造を有し、
前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板の外側板面は全面にわたって平坦面であり、
該合わせ板の構造は、前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板の対向し合う面の間に設けられ、かつ、前記第1シリカ板側及び前記第2シリカ板側の少なくとも一方に前記周縁部同士の接合部によって密閉されているキャビティと、該キャビティ内に収容された第3シリカ板と、を有し、
前記反射体は、薄膜、板又は箔であり、
かつ、該反射体の周縁に囲まれる全面が反射面であり、
前記反射体の少なくとも反射面を含む表面層は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることを特徴とするシリカ熱反射板。
【請求項2】
前記第3シリカ板は、前記第1シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面又は前記第2シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面のうち少なくとも一方の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、
該薄膜は、前記第3シリカ板の表面側から順に、下地膜と、前記反射面を含む表面層としての反射膜と、を有する積層膜であり、
前記下地膜は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、
前記反射膜は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることを特徴とする請求項1に記載のシリカ熱反射板。
【請求項3】
前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、
該薄膜は、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面側又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面側から順に、下地膜と、前記反射面を含む表面層としての反射膜と、を有する積層膜であり、
前記下地膜は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、
前記反射膜は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることを特徴とする請求項1に記載のシリカ熱反射板。
【請求項4】
前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面と前記第3シリカ板の表面とに挟まれる位置又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面と前記第3シリカ板の表面とに挟まれる位置の少なくともいずれか一方の位置に、前記反射体が配置されており、
該反射体が、板又は箔であり、かつ、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることを特徴とする請求項1に記載のシリカ熱反射板。
【請求項5】
前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板は、前記第3シリカ板に対して肉厚方向に圧縮応力をかけていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のシリカ熱反射板。
【請求項6】
前記第3シリカ板は、前記第1シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面又は前記第2シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面のうち少なくとも一方の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、
該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることを特徴とする請求項1に記載のシリカ熱反射板。
【請求項7】
前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、
該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることを特徴とする請求項1に記載のシリカ熱反射板。
【請求項8】
前記反射体の厚さは、0.01μm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載のシリカ熱反射板。
【請求項9】
前記周縁部同士の接合部は、表面活性化接合部であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一つに記載のシリカ熱反射板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、半導体・電子部品の分野で、ウエハ、基板等を高温で熱処理する種々の熱処理装置の熱反射板として利用でき、高反射率を有することから熱処理装置の省エネルギー化が可能であり、また、汚染を抑制することが可能なシリカ熱反射板に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの製造または処理工程においては、半導体ウエハに各種の性質を付与するため熱処理作業が行われている。例えば、半導体ウエハを高純度石英製の炉芯管に収納し、炉芯管内の雰囲気を制御して、熱処理作業が行われる。この熱処理工程に使用される熱処理装置では、炉内の高温維持と炉床部への熱放散を防止するため、炉内と炉床との間に炉開口部を塞ぐように保温体(蓋体)が設けられている。
【0003】
このような保温体としては、熱処理室の開口部を閉塞し、互いに離間して積層され、かつ熱処理室に露出する石英板を有する保温体があり、石英板は表面が平滑で気泡がなく、石英板の内部に金薄膜が形成されていて、金薄膜は、金蒸着により形成されたという特徴がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、石英管を中心に通すための孔及び石英ロッドを通すための孔を有する石英板の上に、白金(Pt)及び酸化物(SiOやPbOなど)の混合物に有機物を加えてペースト状にしたものをスクリーン印刷により塗布し、これを焼き固めることにより抵抗発熱体よりなる例えば厚さ5~10ミクロンの反射面を形成する技術の開示がある(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
縦型熱処理炉の断熱構造体が、複数本の支柱と、これら支柱に上下方向に所定間隔で設けられた複数枚の反射性を有する遮熱板とから構成されている技術の開示がある(例えば、特許文献3を参照。)。特許文献3によれば、遮熱板は、反射膜と、この反射膜の表面を被覆する透明石英層とから形成されている。この遮熱板を形成する一つの方法としては、透明石英層を形成する円形の一対の透明石英板を用い、その一方の透明石英板の片方の面に反射膜を設け、この反射膜をもう一方の透明石英板との間で挟み込み、両透明石英板の周縁部を溶接して密封および一体化する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001‐102319号公報
【文献】特開平9‐148315号公報
【文献】特開平11-97360号公報
【文献】特開2019‐217530号公報
【文献】特許4172806号公報
【文献】特許6032667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では反射膜として金薄膜が用いられているが、金の融点は1064℃であり、1500℃以上の熱処理時に、溶融したり、膜がめくれあがったり、縮小したりする問題があり、実用上耐熱性に問題があった。
【0008】
特許文献2では、反射板兼ヒーターとしての利用のため、中央に石英管でヒーター導通箇所を設けているが、当構造によって一部輻射熱を遮蔽しきれない箇所が発生する。より高い省エネルギー化のためには、反射面積率を多く取り、尚且つ反射板をより薄くし、熱容量を下げる必要がある。
【0009】
特許文献3では、石英板で挟み込み、溶接を行う手法がとられているが、熱の影響を受けるため、薄膜で実施する際には膜が剥がれてしまう問題が生じる。さらに内部を真空に保つことは難しく、高温使用時の内圧上昇によって薄膜が破損するリスクは避けられない。また透明石英を流し込み作製する手法においても、金属薄膜に実施する場合は熱的、物理的ダメージを避けることはできない。
【0010】
本開示は、従来手法よりも反射面積率をより多く確保することができ、熱容量が小さく省エネルギー化が可能で、高反射率を有し、炉内の汚染が抑制され、長寿命のシリカ熱反射板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoを含む表面層を反射面とする反射体を、第1シリカ板と第2シリカ板による合わせ板の構造を有するシリカ板に設けたキャビティ内に配置するとともに、前記合わせ板とは別の第3シリカ板を前記キャビティ内に配置することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るシリカ熱反射板は、シリカ板と、該シリカ板の内部に配置されて該シリカ板によって外周囲が完全に覆われてなり、かつ、該シリカ板の一方の表面に入射した赤外線を反射する反射体と、を有するシリカ熱反射板であって、前記シリカ板は、第1シリカ板と第2シリカ板とが対向して配置されて周縁部同士が周縁に沿って環状に連続して接合された合わせ板の構造を有し、前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板の外側板面は全面にわたって平坦面であり、該合わせ板の構造は、前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板の対向し合う面の間に設けられ、かつ、前記第1シリカ板側及び前記第2シリカ板側の少なくとも一方に前記周縁部同士の接合部によって密閉されているキャビティと、該キャビティ内に収容された第3シリカ板と、を有し、前記反射体は、薄膜、板又は箔であり、かつ、該反射体の周縁に囲まれる全面が反射面であり、前記反射体の少なくとも反射面を含む表面層は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第3シリカ板は、前記第1シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面又は前記第2シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面のうち少なくとも一方の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、前記第3シリカ板の表面側から順に、下地膜と、前記反射面を含む表面層としての反射膜と、を有する積層膜であり、前記下地膜は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記反射膜は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることが好ましい。第3シリカ板に積層膜が成膜されることで、接合工程中に反射膜へ不純物が入ることを抑制することができ、反射体をシリカ板内に簡易に配置することができ、生産性に優れたシリカ熱反射板とすることができる。また、第3シリカ板の両面に積層膜が成膜されていると、シリカ熱反射板の表裏を気にすることなく使用することができる。
【0013】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面側又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面側から順に、下地膜と、前記反射面を含む表面層としての反射膜と、を有する積層膜であり、前記下地膜は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記反射膜は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることが好ましい。前記第1シリカ板のキャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板のキャビティ内の表面上に反射体を形成しているため、薄膜周縁からの膜の腐食及び膜の剥がれが生じにくい。
【0014】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面と前記第3シリカ板の表面とに挟まれる位置又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面と前記第3シリカ板の表面とに挟まれる位置の少なくともいずれか一方の位置に、前記反射体が配置されており、該反射体が、板又は箔であり、かつ、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることが好ましい。キャビティ内に反射体としての板又は箔が収容された状態となっており、板又は箔の腐食が生じにくい。さらに、周縁部同士の接合部に、板又は箔に起因する剥がす方向の応力がかかりにくい。
【0015】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第1シリカ板及び前記第2シリカ板は、前記第3シリカ板に対して肉厚方向に圧縮応力をかけていることが好ましい。反射体を対向する第1シリカ板、第2シリカ板又は第3シリカ板に密着させることができ、反射膜とシリカ板が部分的に接触することで発生する干渉縞をより抑制することができる。また、昇降温に伴う反射膜の剥離を物理的に抑制することができ、反射板を長持ちさせることができる。
【0016】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第3シリカ板は、前記第1シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面又は前記第2シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面のうち少なくとも一方の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることが好ましい。Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であるときは、反射体として形成した薄膜が単層膜であってもよい。
【0017】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることが好ましい。Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であるときは、反射体として形成した薄膜が単層膜であってもよい。
【0018】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記反射体の厚さは、0.01μm以上5mm以下であることが好ましい。反射体による輻射熱の反射効率を保持しつつ、シリカ熱反射板の熱容量を小さくすることができる。
【0019】
本発明に係るシリカ熱反射板では、前記周縁部同士の接合部は、表面活性化接合部であることが好ましい。一般的な溶接手法よりも接合幅を短くすることで、より輻射熱を炉内へ反射させることができる。また、反射体である薄膜が接合プロセスによる熱的、物理的ダメージを受けにくい。また、接合部における接合強度が高められており、シリカ熱反射板はより長寿命となり、また耐食性が高まり、炉への汚染が抑制される。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、従来手法よりも反射面積率をより多く確保することで高反射率を有し、熱容量が小さく省エネルギー化が可能で、高反射率を有し、炉内の汚染が抑制されており、長寿命のシリカ熱反射板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るシリカ熱反射板の一例を示す平面概略図である。
【
図20】A-A断面の第10例を示す概略図である。
【
図22】実施例1の反射体の反射率を示すグラフである。
【
図23】1000℃における物質が放射する黒体放射の波長と放射量との関係を示すグラフである。
【
図24】実施例2の反射体の反射率を示すグラフである。
【
図25】実施例3の反射体の反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0023】
[反射体が薄膜である形態]
図1、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係るシリカ熱反射板について説明する。本実施形態に係るシリカ熱反射板100は、シリカ板1と、シリカ板1の内部に配置されてシリカ板1によって外周囲が完全に覆われてなり、かつ、シリカ板1の一方の表面に入射した赤外線を反射する反射体5とを有する。
図2においては、上から下に向かう方向が赤外線の入射方向である。シリカ板1は、第1シリカ板1aと第2シリカ板1bとが対向して配置されて周縁部同士が周縁に沿って環状に連続して接合された合わせ板の構造を有し、合わせ板の構造は、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの対向し合う面の間に設けられ、かつ、第1シリカ板1a側に周縁部同士の接合部2によって密閉されているキャビティ12と、キャビティ12内に収容された第3シリカ板9と、を有し、反射体5は、薄膜であり、反射体5の少なくとも反射面を含む表面層は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなる。
図2では、反射体5が積層膜である形態が示されており、下地膜3の上に反射面を含む表面層としての反射膜4が形成されている。
【0024】
図2及び
図3において、第1シリカ板1aと第2シリカ板1bとは、周縁部同士の接合部2によって、合わせ板の構造を形成している。周縁部同士の接合部2は、
図1に示すように、シリカ板1の周縁に沿って環状に連続している。
図1では、周縁部同士の接合部2は、第2シリカ板1bを透視して第1シリカ板1aと第2シリカ板1bとの境界部としてみることができ、グレーの領域として図示した。合わせ板の構造とすることで、シリカ板1を薄くできるので、熱容量を小さくすることができる。
【0025】
反射体5を正面に見たシリカ板1の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形又は正方形であり、円形が好ましい。円形の直径は、例えば、5~50cmである。周縁部同士の接合部2の環状形状の幅は、例えば0.5~20mmである。シリカ板1の肉厚は0.1~20mmであることが好ましく、0.2~10mmであることがより好ましい。第1シリカ板1aの肉厚は0.05~10mmであることが好ましく、0.5~1.5mmであることがより好ましい。第2シリカ板1bの肉厚は0.05~10mmであることが好ましく、0.5~1.5mmであることがより好ましい。
【0026】
シリカ板1は、結晶性シリカ板又は非晶質シリカ板である形態を包含する。シリカ板1の不純物濃度は、100ppm以下、好ましくは90ppm以下である。
【0027】
キャビティ12は、第1シリカ板1a側に設けられた形態、第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両側に設けられた形態及び第2シリカ板1b側に設けられた形態がある。
図2及び
図3ではキャビティ12が、第1シリカ板1a側に設けられた形態を示している。この形態では、第1シリカ板1aの一方の表面に凹部が設けられており、第2シリカ板1bは凹部がない平板であり、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの合わせ板の構造とすることで、キャビティ12は、第1シリカ板1a側のみに設けられる。その結果、キャビティ12は、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの対向し合う面の間に設けられ、かつ、第1シリカ板1a側に周縁部同士の接合部2によって密閉されている。
図4~
図11に示した形態についても、キャビティ12は、第1シリカ板1a側のみに設けられている。
【0028】
図12及び
図13では、キャビティ12が、第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両側にわたって設けられた形態を示している。この形態では、第1シリカ板1aの一方の表面に凹部が設けられており、第2シリカ板1bの一方の表面に凹部が設けられており、凹部同士が合わさるように、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの合わせ板の構造とする。その結果、キャビティ12は、第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けられる。
図14~
図17に示した形態についても、キャビティ12は、第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けられる。
【0029】
キャビティ12が、第2シリカ板1b側に設けられた形態は図示していないが、例えば、
図4~
図7に示す形態において、第1シリカ板1a側に設けたキャビティ12の代わりに、第2シリカ板1b側にキャビティ12を設け、反射体5として積層膜が成膜された第3ガラス板3を
図4~
図7に示す形態と同じ向きでキャビティ12内に収容した形態が例示される。この形態では、第1シリカ板1aは凹部がない平板であり、第2シリカ板1bの一方の表面に凹部が設けられており、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの合わせ板の構造とすることで、キャビティ12は、第2シリカ板1b側のみに設けられる。その結果、キャビティ12は、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bの対向し合う面の間に設けられ、かつ、第2シリカ板1b側に周縁部同士の接合部2によって密閉されている。
【0030】
キャビティ12の高さ(
図2及び
図3では、上下方向の長さ)は、0.1μm~5mmであることが好ましく、0.1μm~1mmであることがより好ましい。キャビティ12は、第1シリカ板1a側にのみ凹部を設ける形態、第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に凹部を設ける形態及び第2シリカ板1b側にのみ凹部を設ける形態の3態様がある。いずれの形態でも、凹部によって、第1シリカ板1aの周縁部及び/又は第2シリカ板1bの周縁部に土手部11が形成される。
図2~
図11、
図18、
図19の形態では、第1シリカ板1aに形成された土手部11の天面は、向い合せに配置される第2シリカ板1bの平板部分と接合され、周縁部同士の接合部2が形成される。
図12~
図17、
図20、
図21の形態では、第1シリカ板1aと第2シリカ板1bの土手部11の天面同士が接合され、周縁部同士の接合部2が形成される。また、第2シリカ板1bに形成された土手部11の天面は、向い合せに配置される第1シリカ板1aの平板部分と接合され、周縁部同士の接合部2が形成されてもよい。凹部は、例えばエッチング法などによって形成することができる。
【0031】
本実施形態に係るシリカ熱反射板100では、
図2及び
図3に示すように、第1シリカ板1aは、周縁部に設けられた土手部11と土手部11で取り囲まれてキャビティ12を構成する凹部とを有し、第2シリカ板1bは、平板状であることが好ましい。第1シリカ板1aのみに凹部を設けることで、シリカ板内にキャビティ12を簡易な構造で設けることができる。このような形態を有するシリカ熱反射板は、
図2及び
図3の他、
図4~
図11に例示されたシリカ熱反射板101~104がある。
【0032】
本実施形態に係るシリカ熱反射板100では、
図2及び
図3に示すように、第3シリカ板9は、キャビティ12内に収容される。反射体5が密閉空間であるキャビティ12内にあるため、炉内の汚染がさらに抑制され、また、炉からの反応ガスの影響を受けにくくすることができる。さらに、周縁部同士の接合部2に、反射体5に起因する剥がす方向の応力がかかりにくい。
【0033】
反射体5を正面に見た第3シリカ板9の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形又は正方形であり、円形が好ましい。円形の直径は、例えば、4~49cmである。第3シリカ板9の輪郭の形状は、キャビティ12と合同又は相似の形状であることが好ましい。第3シリカ板9の肉厚は0.01~5mmであることが好ましく、0.1~1.5mmであることがより好ましい。第3シリカ板9は、表裏面が平行関係にある平板であることが好ましい。
【0034】
第3シリカ板9は、結晶性シリカ板又は非晶質シリカ板である形態を包含する。第3シリカ板9の不純物濃度は、100ppm以下、好ましくは90ppm以下である。
【0035】
(第3シリカ板に反射体としての薄膜が形成されている形態)
図2及び
図3、又は、
図12及び
図13に示すように、第3シリカ板9は、第2シリカ板1bの表面と向かい合わせとなる表面上に反射体5として形成した薄膜を有し、薄膜は、第3シリカ板9の表面側から順に、下地膜3と、反射面を含む表面層としての反射膜4と、を有する積層膜であり、下地膜3は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、反射膜4は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることが好ましい。なお、第2シリカ板1bの表面とは、合わせ板の構造の合わせ面側の表面である。
図2及び
図3では、キャビティ12を第1シリカ板1a側のみに設けた形態を図示し、
図12及び
図13では、キャビティ12を第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けた形態を図示したが、キャビティ12を第2シリカ板1b側のみに設けた形態としてもよい(不図示。)
【0036】
図2及び
図3では、第3シリカ板9が第2シリカ板1bの表面と向かい合わせとなる表面上に反射体5として形成した薄膜を有する形態を示したが、
図4及び
図5に示すように、第3シリカ板9が第1シリカ板1aの表面と向かい合わせとなる表面上に反射体5として形成した薄膜を有する形態であってもよい。なお、第1シリカ板1aの表面とは、合わせ板の構造の合わせ面側の表面である。第3シリカ板9に積層膜が成膜されることで、反射体5をシリカ板1内に簡易に配置することができ、生産性に優れたシリカ熱反射板とすることができる。
図4及び
図5では、キャビティ12を第1シリカ板1a側のみに設けた形態を図示したが、キャビティ12を第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けた形態、又は、キャビティ12を第2シリカ板1b側のみに設けた形態としてもよい(いずれも不図示。)
【0037】
また、
図6及び
図7、又は、
図14及び
図15に示すように、第3シリカ板9が第1シリカ板1aの表面と向かい合わせとなる表面上及び第2シリカ板1bの表面と向かい合わせとなる表面上の両方に反射体5として形成した薄膜を有する形態であってもよい。第3シリカ板9の両面に積層膜が成膜されていると、シリカ熱反射板の表裏を気にすることなく使用することができる。
図6及び
図7では、キャビティ12を第1シリカ板1a側のみに設けた形態を図示し、
図14及び
図15では、キャビティ12を第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けた形態を図示したが、キャビティ12を第2シリカ板1b側のみに設けた形態としてもよい(不図示。)
【0038】
反射体5が薄膜であり、薄膜が積層膜である場合は、反射体5の少なくとも反射面を含む表面層は、反射膜4に対応する。積層膜である反射体5は、第3シリカ板9の少なくとも一方の表面に形成されている。積層膜である反射体5は、第3シリカ板9の表裏面の一方の面の表面積に対して50~100%の面積で形成されていることが好ましく、80~100%の面積で形成されていることがより好ましい。反射体5の膜厚は、10~1500nmであることが好ましく、20~400nmであることがより好ましい。
【0039】
下地膜3は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることが好ましい。このような金属又は合金は、融点が高く、かつ、シリカ板との密着性に優れている。下地膜3は、例えば、スパッタ膜、塗布膜、CVD、蒸着等で得られる薄膜であることが好ましい。Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金としては、これらの元素のいずれか一種を最多質量にて含む合金であることが好ましく、より好ましくはTa、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiを50質量%以上含有する合金、さらに好ましくは60質量%以上含有する合金、最も好ましくは70質量%以上含有する合金であり、例えば、Ta‐Mo系合金、Ta‐Cr系合金又はCr‐Co系合金である。下地膜3の膜厚は、5~500nmであることが好ましく、10~100nmであることがより好ましい。下地膜3は反射膜4の密着性を向上させる。
【0040】
反射膜4は下地膜3の表面に堆積していることが好ましい。反射膜4は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることが好ましい。このような金属又は合金は、融点が高く、かつ、赤外線の反射率が高い。また下地膜3との反応性が少ない。反射膜4は、例えば、スパッタ膜、塗布膜、CVD、蒸着等で得られる薄膜であることが好ましい。Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金としては、これらの元素のいずれか一種を最多質量にて含む合金であることが好ましく、より好ましくはIr、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoを50質量%以上含有する合金、さらに好ましくは60質量%以上含有する合金、最も好ましくは70質量%以上含有する合金であり、例えば、Ir‐Pt系合金、Ir‐Rh系合金又はPt‐Ru系合金である。反射膜4の膜厚は、5~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。
【0041】
積層膜としたときの下地膜3と反射膜4の好適な組み合わせとしては、下地膜3/反射膜4は、Ta膜/Ir膜、Mo膜/Ir膜などである。積層膜の膜厚は、10~1500nmであることが好ましく、20~400nmであることがより好ましい。
【0042】
(第1シリカ板又は第2シリカ板に反射体としての薄膜が形成されている形態)
本実施形態に係るシリカ熱反射板104,107では、
図10及び
図11、又は、
図16及び
図17に示すように、第1シリカ板1aのキャビティ12内の表面上に反射体5として形成した薄膜を有し、薄膜は、第1シリカ板1aのキャビティ12内の表面側から順に、下地膜3と、反射面を含む表面層としての反射膜4と、を有する積層膜であり、下地膜3は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co又はNiからなるか、又は、Ta、Mo、Ti、Zr、Nb、Cr、W、Co及びNiから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、反射膜4は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなり、前記下地膜と前記反射膜とが異なる組成を有していることが好ましい。第1シリカ板のキャビティ内の表面上に反射体を形成しているため、薄膜周縁からの膜の腐食及び膜の剥がれが生じにくい。
【0043】
図10及び
図11では、第1シリカ板1aが凹部を有し、第2シリカ板1bが平板であり、キャビティ12が、第1シリカ板1a側のみに形成されている形態を示した。また、
図16及び
図17では、第1シリカ板1a及び第2シリカ板1bが凹部を有し、キャビティ12が、第1シリカ板1a側と第2シリカ板1b側の両側にわたって形成されている形態を示した。
【0044】
図10及び
図11、又は、
図16及び
図17では、第1シリカ板1aのキャビティ12内の表面上に反射体5として薄膜を形成した形態を示したが、
図8及び
図9に示すように、キャビティ12内の第2シリカ板1bの表面上に反射体5として薄膜を形成してもよい。この形態では、平板状の第2シリカ板1bの表面上に反射体を形成しているため、薄膜の形成が容易であり、生産性に優れる。
【0045】
本実施形態では、反射体5としての薄膜は、キャビティ12内の第1シリカ板1aの表面上及び第2シリカ板1bの表面上の両方に形成すべきではない。両方に反射体5としての薄膜を形成すると、シリカ熱反射板の表面及び裏面の両方ともに下地膜3側が外側に配置されるため、反射率を高めることが難しい場合がある。
【0046】
第1シリカ板又は第2シリカ板に反射体としての薄膜が形成されている形態において、反射体5としての薄膜については、第3シリカ板に反射体としての薄膜が形成されている形態の反射体と同様である。
【0047】
[反射体としての板が中板と共にキャビティに配置されている形態]
本実施形態に係るシリカ熱反射板108では、
図18及び
図19に示すように、キャビティ12内の、第1シリカ板1aの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置及び第2シリカ板1bの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置の両方に、反射体8がそれぞれ配置されており、反射体8が、板であり、かつ、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか、又は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなることが好ましい。なお、第1シリカ板1aの表面とは、合わせ板の構造の合わせ面側の表面である。第2シリカ板1bの表面とは、合わせ板の構造の合わせ面側の表面である。キャビティ12内に反射体8としての板が収容された状態となっており、板の腐食が生じにくい。さらに、周縁部同士の接合部2に、板に起因する剥がす方向の応力がかかりにくい。
【0048】
図18及び
図19では、反射体8が、キャビティ12内の、第1シリカ板1aの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置及び第2シリカ板1bの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置の両方にそれぞれ配置された形態を示したが、キャビティ12内の、第1シリカ板1aの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置だけに配置された形態又は第2シリカ板1bの表面と第3シリカ板9の表面とに挟まれる位置だけに配置された形態であってもよい。
【0049】
図18及び
図19では、キャビティ12を第1シリカ板1a側のみに設けた形態を図示したが、
図20及び
図21に示すように、キャビティ12を第1シリカ板1a側及び第2シリカ板1b側の両方に設けた形態であってもよい。さらに、キャビティ12を第2シリカ板1b側のみに設けた形態としてもよい(不図示。)
【0050】
板である反射体8は、凹部の底面の全面積に対して50~100%の面積で形成されていることが好ましく、80~100%の面積で形成されていることがより好ましい。
【0051】
[反射体としての箔が中板と共にキャビティに配置されている形態]
反射体としての板が中板と共にキャビティに配置されている形態において、板の代わりに箔を配置してもよい。箔は、複数の破片を重ねて反射面積を確保してもよい。
【0052】
反射体が薄膜、板又は箔のいずれの形態においても、本実施形態に係るシリカ熱反射板100~109では、第1シリカ板及び第2シリカ板は、第3シリカ板に対して肉厚方向に圧縮応力をかけていることが好ましい。反射体の表面を、対向する第1シリカ板、第2シリカ板又は第3シリカ板に密着させることができ、反射膜とシリカ板が部分的に接触することで発生する干渉縞をより抑制することができる。また、昇降温に伴う反射膜の剥離を物理的に抑制することができ、反射板を長持ちさせることができる。圧縮応力は、例えば、第3シリカ板の厚さをキャビティの厚さよりも厚くすることで、発生させることができる。キャビティの厚さに対して、第3シリカ板の厚さを100%超101%以下とすることが好ましく、100%超100.02%以下とすることがより好ましい。なお、本実施形態では、上記の圧縮応力がかかっていない形態も包含する。このような形態としては、例えば、キャビティの高さ(キャビティの底面から天面までの距離、例えば
図2で説明すると上下方向の長さ)から第3シリカ板の厚さと反射体の厚さの合計厚さを差し引いた値、すなわちキャビティ内の高さ方向の隙間がある形態である。この隙間は200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。キャビティ内の高さ方向の隙間が200μmを超えると、大気圧によるシリカ板の変形が大きくなり、その結果、接合部付近に掛かる応力が大きくなり、結合部の割れが生じるおそれがある。
【0053】
[反射体として形成した薄膜がMo膜又はMoを含む合金膜である形態1]
本実施形態に係るシリカ熱反射板では、前記第3シリカ板は、前記第1シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面又は前記第2シリカ板の表面と向かい合わせとなる表面のうち少なくとも一方の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることが好ましい。Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であるときは、反射体として形成した薄膜が単層膜であってもよい。本実施形態に係るシリカ熱反射板は、
図2、
図4、
図6、
図12又は
図14において、積層膜である反射体5をMo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜に置換した構造を有する。なお、本実施形態に係るシリカ熱反射板の赤外線の入射方向は、上から下に向かう方向又は下から上に向かう方向のいずれでもよい。
【0054】
[反射体として形成した薄膜がMo膜又はMoを含む合金膜である形態2]
本実施形態に係るシリカ熱反射板では、前記第1シリカ板の前記キャビティ内の表面上又は前記第2シリカ板の前記キャビティ内の表面上に前記反射体として形成した薄膜を有し、該薄膜は、Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であることが好ましい。Mo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜であるときは、反射体として形成した薄膜が単層膜であってもよい。本実施形態に係るシリカ熱反射板は、
図8、
図10又は
図16において、積層膜である反射体5をMo膜又はMoを50質量%以上含む合金膜に置換した構造を有する。なお、本実施形態に係るシリカ熱反射板の赤外線の入射方向は、上から下に向かう方向又は下から上に向かう方向のいずれでもよい。
【0055】
本実施形態に係るシリカ熱反射板100~109では、反射体の厚さは、0.01μm以上5mm以下であることが好ましく、0.02μm以上2mm以下であることがより好ましい。反射体による高い反射効率を保持しつつ、シリカ熱反射板100~109の熱容量を小さくすることができる。反射体の厚さが0.01μm未満であると反射効率の保持が難しくなり、5mmを超えると反射体の熱量が大きくなりすぎる場合がある。そして、反射体が薄膜である場合、積層膜の膜厚は10nm以上1500nm以下であることが好ましく、20nm以上400nm以下であることがより好ましい。反射体が板である場合、板厚は0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。反射体が箔である場合、箔の厚さは3μm以上2.0mm以下であることが好ましく、8μm以上1.0mm以下であることがより好ましい。
【0056】
本実施形態に係るシリカ熱反射板100~109では、周縁部同士の接合部2は、表面活性化接合部であることが好ましい。比較的低温での接合が可能な為、反射膜に熱的、物理的ダメージが無く接合することが可能であり、また、内部を真空に保ったまま接合することで接合部における接合強度が高められており、シリカ熱反射板100~109はより長寿命となり、また耐食性が高まり、炉内の汚染が抑制される。表面活性化接合部とは、接合し合う部位の少なくとも一方を表面活性化状態とした後、接合部位同士を、押圧をかけて合わせることにより原子レベルで表面組織を一体化して接合した部位をいう。接合し合う部位の両方を表面活性化状態とした後、接合部位同士を、押圧をかけて合わせることがより好ましい。シリカ板同士の接合では、シリコン皮膜を製膜した後、表面活性化状態とし、その後、接合部位同士を、押圧をかけて合わせることとしてもよい。表面活性化接合部には、常温活性化接合部とプラズマ活性化接合部とがある。常温活性化接合部には、例えば、高速原子ビームを用いて表面活性化して接合した接合部、Si等の活性金属を用いてナノ密着層を形成して表面活性化して接合した接合部、イオンビームを用いて表面活性化して接合した接合部がある。プラズマ活性化接合部には、例えば、酸素プラズマを用いて表面活性化して接合した接合部、窒素プラズマを用いて表面活性化して接合した接合部がある。周縁部同士の接合部2を表面活性化接合部とすることで、接合部におけるリークを低減でき、例えば、キャビティ内を真空に保つことで高温時の内圧上昇によるシリカ板の破損を防ぐことができる。表面活性化接合部を形成する方法については、例えば、特許文献4~6を参照できる。
【0057】
本実施形態に係るシリカ熱反射板100~109では、キャビティ12内の圧力は、大気圧未満の減圧となっていることが好ましい。キャビティ12内の圧力は、10-2Pa以下であることがより好ましい。熱処理時にキャビティ12の内圧が高まることを抑制することができ、炉内の汚染をより抑制することができる。また、高温時の反射膜の劣化を抑制できる。
【0058】
図2、
図10、
図12及び
図16においては、赤外線の入射方向は上から下に向かう方向である。
図4及び
図8においては、赤外線の入射方向は下から上に向かう方向である。
図6、
図14、
図18及び
図20においては、赤外線の入射方向は上から下に向かう方向又は下から上に向かう方向のいずれでもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0060】
(実施例1)
図10に示したシリカ熱反射板を作製する。まず、外周300mm、厚み1.2mmのシリカ板2枚を準備し、それぞれ第1シリカ板、第2シリカ板とした。また、外周284.5mm、厚み0.3mmのシリカ板を1枚準備し、第3シリカ板とした。次に、第1シリカ板の外周から幅7.75mmを第2シリカ板との接合部として残し、それ以外の箇所についてはエッチングを行い、深さ1μmのキャビティのための凹部を設けた。次に、第1シリカ板の凹部の底面に下地膜としてTaをスパッタリング法によって50nm成膜し、下地膜の上に反射膜としてIrをスパッタリング法によって150nm成膜し、反射体を形成した。次に、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 型式:UV-3100PC)を用いて反射体の反射率を測定した。測定した結果を
図22に示す。測定は、反射体の表面に測定のための光を直接当てて行った。また、(数1)を用いて1000℃における物質が放射する黒体放射の波長と放射量の関係を算出した。算出結果を
図23に示す。
【数1】
但し、hはプランク定数(6.62607015×10
-34J・s)、k
Bはボルツマン定数(1.380649×10
-23J/K)、cは光速度(299792458m/s)、λは波長(nm)である。
図23の結果、1000℃において輻射熱を反射することが必要であり、波長が2000nm~2600nmで放射量が多いことが確認できる。また、
図22の結果、1000℃のときに本実施例における反射体では2000nm以上の波長において90%以上の反射率を有することが確認できた。次に、反射体を形成した第1シリカ板の凹部に第3シリカ板を設置し、第3シリカ板を第1シリカ板の凹部に設置した状態を保ちながら第1シリカ板と平板状の第2シリカ板を接合するために、真空度10
-2Pa以下の真空中で、高速原子ビームを第1シリカ板の接合部に照射して表面活性化し、第1シリカ板に第2シリカ板を押し付けることでシリカ熱反射板を作製した。
【0061】
(実施例2)
図10に示したシリカ熱反射板の変形例として、第1シリカ板1aの凹部の底面に下地膜3を成膜せずに、直接、Mo膜を成膜したシリカ熱反射板を作製する。まず、外周300mm、厚み1.2mmのシリカ板2枚を準備し、それぞれ第1シリカ板、第2シリカ板とした。また、外周284.5mm、厚み0.3mmのシリカ板を1枚準備し、第3シリカ板とした。次に、第1シリカ板の外周から幅7.75mmを第2シリカ板との接合部として残し、それ以外の箇所についてはエッチングを行い、深さ1μmのキャビティのための凹部を設けた。次に、第1シリカ板の凹部の底面にMoをスパッタリング法によって200nm成膜し、反射体を形成した。次に、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 型式:UV-3100PC)を用いて反射体の反射率を測定した。測定した結果を
図24に示す。測定は、反射体の表面に測定のための光を直接当てて行った。また、
図24の結果、1000℃のときに本実施例における反射体では2000nm以上の波長において80%以上の反射率を有することが確認できた。次に、反射体を形成した第1シリカ板の凹部に第3シリカ板を設置し、第3シリカ板を第1シリカ板の凹部に設置した状態を保ちながら第1シリカ板と平板状の第2シリカ板を接合するために、真空度10
-2Pa以下の真空中で、高速原子ビームを第1シリカ板の接合部に照射して表面活性化し、第1シリカ板に第2シリカ板を押し付けることでシリカ熱反射板を作製した。
【0062】
(実施例3)
(反射体がPt箔である形態)
図18に示したシリカ熱反射板の変形例として、第2シリカ板1bと第3シリカ板9との間には反射体としてPt箔を配置せず、第1シリカ板1aと第3シリカ板9との間にのみPt箔を配置したシリカ熱反射板を作製する。まず、外周300mm、厚み1.2mmのシリカ板2枚を準備し、それぞれ第1シリカ板、第2シリカ板とした。また、外周284.5mm、厚み0.3mmのシリカ板を1枚準備し、第3シリカ板とした。次に、第1シリカ板の外周から幅7.75mmを第2シリカ板との接合部として残し、それ以外の箇所については切削加工を行い、深さ0.5mmのキャビティのための凹部を設けた。次に、第1シリカ板の凹部の底面に、外周284mm、厚み100μmのPt箔を配置し、反射体を形成した。次に、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製 型式:UV-3100PC)を用いて反射体の反射率を測定した。測定した結果を
図25に示す。測定は、反射体の表面に測定のための光を直接当てて行った。また、
図25の結果、1000℃のときに本実施例における反射体では2000nm以上の波長において80%以上の反射率を有することが確認できた。次に、反射体を配置した第1シリカ板の凹部に第3シリカ板を設置し、第3シリカ板を第1シリカ板の凹部に設置した状態を保ちながら第1シリカ板と平板状の第2シリカ板を接合するために、真空度10
-2Pa以下の真空中で、高速原子ビームを第1シリカ板の接合部に照射して表面活性化し、第1シリカ板に第2シリカ板を押し付けることでシリカ熱反射板を作製した。
【符号の説明】
【0063】
100~109 シリカ熱反射板
1 シリカ板
1a 第1シリカ板
1b 第2シリカ板
2 周縁部同士の接合部
3 下地膜
4 反射膜
5 反射体
6 支柱部
7 支柱部を含む接合部
8 反射体
9 第3シリカ板
11 土手部
12 キャビティ
【要約】 (修正有)
【課題】反射面積率をより多く確保でき、熱容量が小さく省エネルギー化可能、高反射率、炉内の汚染抑制、長寿命のシリカ熱反射板を提供する。
【解決手段】シリカ熱反射板100は、シリカ板1とシリカ板の内部に配置された赤外線を反射する反射体5とを有する。シリカ板は、第1シリカ板1aと第2シリカ板1bとが対向して配置されて周縁部同士が周縁に沿って環状に連続して接合された合わせ板の構造をする。合わせ板の構造は、密閉されているキャビティ12とキャビティ内に収容された第3シリカ板9とを有する。反射体は、薄膜、板又は箔であり、反射体の少なくとも反射面を含む表面層は、Ir、Pt、Rh、Ru、Re、Hf又はMoからなるか又はIr、Pt、Rh、Ru、Re、Hf及びMoから選ばれる少なくともいずれか1種を含む合金からなる。
【選択図】
図2