(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220224BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220224BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220224BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220224BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20220224BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01B1/06 A
H01B1/10
C01B25/14
(21)【出願番号】P 2021505792
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2020033441
(87)【国際公開番号】W WO2021049415
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2019165781
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
(72)【発明者】
【氏名】筑本 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】小形 曜一郎
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-024874(JP,A)
【文献】特開2019-102263(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131725(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173940(WO,A1)
【文献】特開2013-149599(JP,A)
【文献】特開2005-228570(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0028104(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
H01B 1/06
H01B 1/10
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα1線を用いたX線回折測定において2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察され、2θ=24.4°以上26.4°以下の範囲に回折ピークBが観察され、
前記ピークAの強度をI
Aとし、前記ピークBの強度をI
Bとしたとき、I
Bに対するI
Aの比であるI
A/I
Bの値が、
0.006以上2.0以下であり、
リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素、及び酸素(O)元素を含む、硫化物固体電解質。
【請求項2】
前記ハロゲン(X)元素が塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素のうちの少なくとも一種である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
ハロゲン化リチウムの水和物を含む請求項1ないし3のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項5】
CuKα1線を用いたX線回折測定において2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察され、2θ=24.4°以上26.4°以下の範囲に回折ピークBが観察され、
前記ピークAの強度をI
Aとし、前記ピークBの強度をI
Bとしたとき、I
Bに対するI
Aの比であるI
A/I
Bの値が、
0.006以上2.0以下であり、
ハロゲン化リチウムの水和物を含む硫化物固体電解質。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質と、活物質とを含む、電極合剤。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の固体電解質、又は請求項6に記載の電極合剤を含む固体電解質層。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の固体電解質、又は請求項6に記載の電極合剤を含む固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫化物固体電解質に関する。また本発明は、硫化物固体電解質を含有する電極合剤及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化を図ることができ、しかも製造コスト及び生産性に優れたものとすることができるばかりか、セル内で直列に積層して高電圧化を図れるという特徴も有している。
【0003】
固体電池に用いる固体電解質の一つとして、硫化物固体電解質が検討されている。しかし硫化物固体電解質を含む固体電池は、これに対して充放電を行うと、活物質と硫化物固体電解質との間の反応抵抗が高くなり、リチウムイオンの移動が制限され、結果として電池特性が低下するという問題点がある。この理由は、活物質と硫化物固体電解質とが反応することに起因して、それらの界面に抵抗層が形成されるからであると考えられている。この問題に対して、例えば特許文献1においては、正極活物質の表面を特定の化合物で被覆することにより、反応抵抗の上昇を抑制することが試みられている。特許文献2においては、硫化物固体電解質材料の表面に自らが酸化されてなる酸化物層を形成して高抵抗部位の生成を抑制することが試みられている。特許文献3には、複数の酸化物系リチウムイオン伝導体粒子の間にハロゲン化リチウム類を存在する領域を有するイオン伝導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】US2018/219229A1
【文献】JP2012-94445A
【文献】WO2018/131181A
【発明の概要】
【0005】
しかし特許文献1に記載の技術では、正極活物質の表面を被覆する化合物として、ニオブ酸リチウム、チタン酸リチウム、ランタンジルコン酸リチウム、タンタル酸リチウム及びタングステン酸リチウムといった高価な物質を使用している。特許文献2では、酸化層を形成するための大気中への曝露の際に極力水分を避けなければならず、しかも乾燥工程をも必要とする。したがって前記文献に記載の技術は経済的に有利とはいえず、現実的ではない。
【0006】
したがって本発明の課題は、良好な電池特性を得ることが可能な硫化物固体電解質を提供することにある。
【0007】
本発明は、CuKα1線を用いたX線回折測定において2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察され、2θ=24.4°以上26.4°以下の範囲に回折ピークBが観察され、
前記ピークAの強度をIAとし、前記ピークBの強度をIBとしたとき、IBに対するIAの比であるIA/IBの値が、2.0以下である、硫化物固体電解質を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0008】
また本発明は、CuKα1線を用いたX線回折測定において2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察され、2θ=24.4°以上26.4°以下の範囲に回折ピークBが観察され、
前記ピークAの強度をIAとし、前記ピークBの強度をIBとしたとき、IBに対するIAの比であるIA/IBの値が、2.0以下である、硫化物固体電解質と、活物質とを含む、電極合剤を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、前記の固体電解質、又は前記の電極合剤を含む固体電解質層を提供するものである。
【0010】
更に本発明は、前記の固体電解質、又は前記の電極合剤を含む固体電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた固体電解質のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図2】
図2は、実施例7で得られた固体電解質のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図3】
図3は、実施例8で得られた固体電解質のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図4】
図4は、比較例4で得られた固体電解質のXRD測定結果を示すチャートである。
【
図5】
図5は、比較例5で得られた固体電解質のXRD測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の固体電解質は硫化物固体電解質を含むものである。また本発明の固体電解質はリチウムイオン伝導性を有するものである。リチウムイオン伝導性は、以下に述べる方法を用いて測定する。固体電解質を、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で、セラミックス製の筒(直径10mm)内に、一軸加圧成形した。成形した固体電解質の上下両面に電極として、直径10mmの硬質クロムめっきしたSUS製パンチで挟み、M6サイズのボルトとナットで、締め付けトルク6N・mで4点固定し、固体電解質の厚み0.4mm~1.0mmのイオン導電率測定用サンプルを作製する。サンプルのイオン導電率を、ソーラトロン社製周波数応答測定装置1260Aを用いて測定する。測定は、温度25℃、周波数0.1Hz~1MHzの条件下、交流インピーダンス法によって行う。
【0013】
本発明の固体電解質に含まれる硫化物固体電解質は、その構成元素として硫黄を含んでいる。本発明の固体電解質のリチウムイオン伝導性は、硫化物固体電解質に起因するものである。リチウムイオン伝導性を有する硫化物固体電解質は、当該技術分野において種々のものが知られているところ、本発明においては、それら種々の硫化物固体電解質を特に制限なく用いることができる。特に硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びハロゲン(X)元素を含むものであることが、活物質との間の反応抵抗を低減させる点から有利である。ハロゲン元素としては、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素のうちの少なくとも一種を用いることが、活物質との反応抵抗の一層の低減の点から有利である。かかる硫化物固体電解質は、リチウム元素、リン元素、硫黄元素及びハロゲン元素以外の元素を含有していてもよい。例えば、リチウム元素の一部を他のアルカリ金属元素に置き換えたり、リン元素の一部を他のプニクトゲン元素に置き換えたり、硫黄元素の一部を他のカルコゲン元素に置き換えたりすることができる。
【0014】
本発明の固体電解質は、これを、CuKα1線を用いたX線回折(以下「XRD」ともいう。)測定に付したときに2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察されるものである。この角度範囲に回折ピークAが観察される固体電解質は、活物質との間の反応抵抗が従来の固体電解質よりも低くなることが本発明者の検討の結果判明した。したがって、本発明の固体電解質を含む固体電池は、放電容量が高いものとなり、また放電のレート特性が良好なものとなる。XRD測定の詳細は、後述する実施例において述べる。
【0015】
以上の有利な効果を一層顕著なものとする観点から、本発明の固体電解質は、これがリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及び塩素(Cl)元素を含有する場合には、例えば2θ=21.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAが観察されることが好ましく、特に21.5°以上23.7°以下、とりわけ22.5°以上23.5°以下の範囲に回折ピークAが観察されることが好ましい。一方、本発明の固体電解質がリチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及び臭素(Br)元素を含有する場合には、2θ=20.0°以上23.5°以下の範囲に回折ピークAが観察されることが好ましく、特に20.5°以上23.3°以下、とりわけ21.5°以上23.0°以下の範囲に回折ピークAが観察されることが好ましい。
【0016】
本発明者が検討した結果、上述した角度範囲に観察される回折ピークは、硫化物に由来するものではないことが判明した。本発明者が更に検討を推し進めたところ、上述した角度範囲に観察される回折ピークは、ハロゲン化リチウムの水和物に由来するものであることが判明した。具体的には、ハロゲン化リチウムの水和物における(010)、(001)又は(200)に由来する回折ピークであることが判明した。この観点から、本発明の固体電解質は、ハロゲン化リチウムの水和物及び硫化物の双方を含むものであることが好ましい。したがって本発明の固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、ハロゲン(X)元素及び酸素(O)元素を含むものであることが好ましい。
【0017】
ハロゲン化リチウムの水和物及び硫化物を含む固体電解質を用いることで、良好な電池特性を得ることができる理由は完全には解明されていない。一方、本発明者は、硫化物固体電解質と活物質との反応抵抗の低減が前記効果の一つの要因と考えている。具体的には、硫化物固体電解質と活物質との間でのリチウムイオンの授受の障壁が、ハロゲン化リチウムの水和物によって低減するからではないかと考えているが、本発明の範囲はこの理論に拘束されない。
【0018】
硫化物固体電解質が、リチウム元素、リン元素、硫黄元素及びハロゲン元素を含むものであることが好ましいことは先に述べたとおりであるところ、硫化物固体電解質に含まれているハロゲン元素の種類と、ハロゲン化リチウムの水和物に含まれているハロゲン元素の種類とは、同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。ハロゲン化リチウムの水和物に含まれているハロゲン元素は、例えば塩素、臭素及びヨウ素から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、ハロゲン化リチウムの水和物に含まれている水和水の数は1でもよく、あるいは2以上でもよい。本発明者の検討の結果、一水和物を用いることによって満足すべき結果が得られることが確認されている。
【0019】
本発明の固体電解質は、CuKα1線を用いたXRD測定に付したとき、上述した角度範囲に加えて、2θ=24.4°以上26.4°以下の範囲に回折ピークBが観察されることも好ましい。このような固体電解質は、活物質との間の反応抵抗が一層低くなる。その結果、本発明の固体電解質を含む固体電池は、放電容量が一層高いものとなり、また放電のレート特性が一層良好なものとなる。これらの効果を一層顕著なものとする観点から、本発明の固体電解質は、例えば2θ=24.8°以上26.2°以下の範囲に回折ピークBが観察されることが更に好ましく、特に25.0°以上25.8°以下の範囲、とりわけ25.2°以上25.6°以下の範囲に回折ピークが観察されることが好ましい。
【0020】
本発明の固体電解質に回折ピークA及び回折ピークBの双方が観察される場合、回折ピークAの強度をIAとし、回折ピークBの強度をIBとしたとき、IBに対するIAの比であるIA/IBの値が、2.0以下であると、活物質との間の反応抵抗が低くなるので好ましい。この観点から、IA/IBの値は、例えば0より大きいことが好ましい。また、IA/IBの値は、例えば1.5以下であることが好ましく、1.0以下であることが更に好ましく、0.5以下であることが一層好ましく、0.1以下であることがより一層好ましい。
【0021】
本発明の固体電解質において、回折ピークA及び回折ピークBが観察されるようにするために、例えば硫化物固体電解質を、含水雰囲気下に所定時間にわたって曝露する方法を採用することができる。この方法を採用することによって、雰囲気中の水と硫化物固体電解質とが反応してハロゲン化リチウムの水和物が生成し、結果として、硫化物固体電解質とハロゲン化リチウムの水和物とを含む固体電解質が得られる。硫化物固体電解質の含水雰囲気下での曝露の条件は、温度が例えば〔露点-30〕℃での曝露の場合、例えば、15時間以上85時間以下であることが好ましく、20時間以上80時間以下であることが更に好ましく、24時間以上72時間以下であることが一層好ましい。含水雰囲気下に置く硫化物固体電解質は、含水雰囲気と接触する前での含水率が、5質量%以下に制御されていることが好ましい。
【0022】
硫化物固体電解質を含水雰囲気下で曝露すると、ハロゲン化リチウムの水和物が生成することに加えてハロゲン化リチウムの無水物、炭酸リチウム、及び未同定物質が生成することを本発明者は確認している。これらの生成物のうち、ハロゲン化リチウムの水和物が、硫化物固体電解質と活物質との間の反応抵抗の低減に最も寄与することを本発明者は確認している。
【0023】
本発明の固体電解質において、上述した角度範囲に回折ピークが観察されるようにするための別の手法として、硫化物固体電解質と、結晶水を有する化合物とを混合する方法が挙げられる。この方法によれば、結晶水を有する化合物から放出された水が、硫化物固体電解質と反応してハロゲン化リチウムの水和物が生成し、結果として、硫化物固体電解質とハロゲン化リチウムの水和物とを含む固体電解質が得られる。ハロゲン化リチウムの水和物を確実に生成させる観点から、硫化物固体電解質と、結晶水を有する化合物との混合は、粉砕を伴うことが有利である。粉砕には例えばボールミルやビーズミルなど公知の粉砕手段を用いることができる。
【0024】
結晶水を有する化合物に特に制限はなく、硫化物固体電解質の特性を損なわない限りにおいて種々のものを用いることができる。有機化合物の含水塩は、一般的な有機化合物の含水塩であれば特に限定されない。例えばカルボン酸含水塩が挙げられる。カルボン酸含水塩としては、例えば、蟻酸含水塩、酢酸含水塩、プロピオン酸含水塩、酪酸含水塩、吉草酸含水塩、カプロン酸含水塩、エナント酸含水塩、カプリン酸含水塩、ペラルゴン酸含水塩、ラウリン酸含水塩、ミリスチン酸含水塩、パルミチン酸含水塩、ステアリン酸含水塩、エイコ酸含水塩、ベヘン酸含水塩、モンタン酸含水塩、トリアコンタン酸含水塩などの直鎖飽和脂肪酸;1,2-ヒドロキシステアリン酸含水塩などの脂肪酸誘導体;シュウ酸含水塩、フマル酸含水塩、マレイン酸含水塩、コハク酸含水塩、グルタル酸含水塩、アジピン酸含水塩、ピメリン酸含水塩、スベリン酸含水塩、アゼライン酸含水塩、セバシン酸含水塩、ウンデカン二酸含水塩、ドデカン二酸含水塩等の脂肪族ジカルボン酸;グリコール酸含水塩、乳酸含水塩、ヒドロキシ酪酸含水塩、酒石酸含水塩、リンゴ酸含水塩、クエン酸含水塩、イソクエン酸含水塩、メバロン酸含水塩等のヒドロキシ酸;安息香酸含水塩、テレフタル酸含水塩、イソフタル酸含水塩、オルソフタル酸含水塩、ピロメット酸含水塩、トリメリット酸含水塩、キシリレンジカルボン酸含水塩、ナフタレンジカルボン酸含水塩などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。一方、無機化合物の含水塩は、一般的な無機化合物の含水塩であれば特に限定されない。例えば、ハロゲン化物の水和物、酸化物の水和物、窒化物の水和物、炭化物の水和物、ホウ化物の水和物などが挙げられ、中でもこれらの水和物がアルカリ金属を含有することが好ましく、特にハロゲン化物の水和物がアルカリ金属を含有することが好ましい。これらの化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。硫化物固体電解質と、結晶水を有する化合物との混合比率は、反応抵抗を低減し得る程度の量のハロゲン化リチウムの水和物が生成するように調整すればよい。なお、結晶水を有する化合物と混合される硫化物固体電解質は、該化合物と混合される前での含水率が、5質量%以下に制御されていることが好ましい。
【0025】
本発明の固体電解質において、上述した角度範囲に回折ピークが観察されるようにするための別の手法として、上述した、含水雰囲気下での硫化物固体電解質の曝露と、結晶水を有する化合物との混合とを組み合わせた方法を採用してもよい。
【0026】
本発明の固体電解質は、上述したとおりハロゲン化リチウムの水和物を含むものである。本発明の固体電解質がハロゲン化リチウムの水和物を含むか否かは、固体電解質の熱重量測定において重量減少が観察されるか否かによって判断することができる。具体的には、25℃から400℃まで加熱したときに重量減少が観察される場合には、その重量減少は、ハロゲン化リチウムの水和物からの水の脱離に起因すると判断される。このことをもって、固体電解質中にハロゲン化リチウムの水和物が含まれていたと判断する。熱重量測定において前記の温度範囲における重量減少率が好ましくは2.7%以上11.0%以下、更に好ましくは4.0%以上10.0%以下、一層好ましくは6.0%以上8.0%以下であると、固体電解質と活物質との間の反応抵抗が更に一層低くなるので好ましい。熱重量測定は、昇温速度10℃/minで行う。雰囲気はArとする。測定には、例えばMAC science社製のTG-DTA2000SAを用いることができる。
【0027】
本発明において用いられる特に好ましい硫化物固体電解質は、活物質との間の反応抵抗を一層低減させる観点から、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む材料である。アルジロダイト型結晶構造とは、化学式:Ag8GeS6で表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は立方晶に属する結晶構造を有することが、活物質との反応抵抗の更に一層の低減の観点から特に好ましい。
【0028】
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む硫化物固体電解質においては、それに含まれるハロゲン(X)元素として、例えば、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素のうちの少なくとも一種の元素を用いることができる。イオン伝導性の向上の観点から、ハロゲン元素として塩素元素及び臭素元素を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0029】
アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む硫化物固体電解質は、例えば、組成式(I):LiaPSbXc(Xは、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、ヨウ素(I)元素のうち少なくとも一種である。)で表される化合物であることが、イオン伝導性の一層の向上の観点から特に好ましい。Xは、塩素(Cl)元素及び臭素(Br)元素のうちの1種又は2種であることが好ましい。
【0030】
前記組成式(I)において、リチウム元素のモル比を示すaは、好ましくは3.0以上6.5以下、更に好ましくは3.5以上6.3以下、更に一層好ましくは4.0以上6.0以下である。aがこの範囲であれば、室温(25℃)近傍における立方晶系アルジロダイト型結晶構造が安定であり、リチウムイオンの伝導性を高めることができる。
【0031】
前記組成式(I)においてbは、化学量論組成に対してLi2S成分がどれだけ少ないかを示す値である。室温(25℃)近傍におけるアルジロダイト型結晶構造が安定であり、リチウムイオンの伝導性が高くなる観点から、bは、好ましくは3.5以上5.5以下、更に好ましくは4.0以上5.3以下、更に一層好ましくは4.2以上5.0以下である。
【0032】
前記組成式(I)においてcは、好ましくは0.1以上3.0以下、更に好ましくは0.5以上2.5以下、更に一層好ましくは1.0以上1.8以下である。
【0033】
また、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む硫化物固体電解質は、例えば、組成式(II):Li7-dPS6-dXdで表される化合物であってもよい。組成式(II)で表される組成は、アルジロダイト型結晶相の化学量論組成である。組成式(II)において、Xは、組成式(I)と同義である。
【0034】
前記組成式(II)においてdは、好ましくは0.4以上2.2以下、更に好ましくは0.8以上2.0以下、更に一層好ましくは1.2以上1.8以下である。
【0035】
更に、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む硫化物固体電解質は、例えば、組成式(III):Li7-d-2ePS6-d-eXdで表される化合物であってもよい。式(III)で表される組成を有するアルジロダイト型結晶相は、例えば、式(II)で表される組成を有するアルジロダイト型結晶相とP2S5(五硫化二リン)との反応により生成する。反応式は以下のとおりである。
Li7-dPS6-dXd+y/3P2S5
→Li7-d-2ePS6-d-eXd+2y/3Li3PS4
【0036】
前記反応式に示すように、組成式(III)で表されるアルジロダイト型結晶相とともに、Li3PS4相が生成する。また、微量のLiX相(Xは、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素、ヨウ素(I)元素のうち少なくとも一種である。)が生成する場合がある。組成式(III)において、X及びdは、組成式(II)と同義である。
【0037】
組成式(III)において、eは、組成式(II)で表される化学量論組成からのLi2S成分のずれを示す値である。eは、好ましくは、-0.9以上(-d+2)以下、更に好ましくは、-0.6以上(-d+1.6)以下、更に一層好ましくは、-0.3以上(-d+1.0)以下である。
【0038】
組成式(I)、(II)又は(III)において、Pの一部が、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiのうちの少なくとも1種又は2種以上の元素で置換されていてもよい。この場合、組成式(I)は、Lia(P1-yMy)SbXcとなり、組成式(II)は、Li7-d(P1-yMy)S6-dXdとなり、組成式(III)は、Li7-d-2e(P1-yMy)S6-d-eXdとなる。Mは、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiから選択される1種又は2種以上の元素である。yは、好ましくは、0.01以上0.7以下、更に好ましくは、0.02以上0.4以下、更に一層好ましくは、0.05以上0.2以下である。
【0039】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を有するか結晶相を含む否かは、例えば、XRD測定により確認することができる。すなわち、CuKα1線を用いたX線回折装置(XRD)により測定されるXRD測定において、アルジロダイト型構造の結晶相は、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、25.19°±1.00°、29.62°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°、51.70°±1.00°に特徴的なピークを有する。更に、例えば、2θ=54.26°±1.00°、58.35°±1.00°、60.72°±1.00°、61.50°±1.00°、70.46°±1.00°、72.61°±1.00°にも特徴的なピークを有する。一方、硫化物固体電解質がアルジロダイト型構造の結晶相を含まないことは、上述したアルジロダイト型構造の結晶相に特徴的なピークを有しないことで確認できる。
【0040】
硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を有するとは、硫化物固体電解質が少なくともアルジロダイト型構造の結晶相を有することを意味する。本発明においては、硫化物固体電解質が、アルジロダイト型構造の結晶相を主相として有することが好ましい。「主相」とは、硫化物固体電解質を構成するすべての結晶相の総量に対して最も割合の大きい相を指す。よって、硫化物固体電解質に含まれるアルジロダイト型構造の結晶相の含有割合は、硫化物固体電解質を構成する全結晶相に対して、例えば60質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であることが更に好ましい。結晶相の割合は、例えばXRDにより確認できる。
【0041】
本発明の硫化物固体電解質は、粒子の集合体としての粉末からなる。本発明の硫化物固体電解質は、イオン伝導性の向上の観点から、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が例えば0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましく、0.5μm以上であることが一層好ましい。一方、体積累積粒径D50は、例えば20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが一層好ましい。硫化物固体電解質の体積累積粒径D50が0.1μm以上であることによって、硫化物固体電解質からなる粉末全体の表面積が過度に増えることが抑制され、抵抗増大及び活物質との混合が困難になるといった不具合の発生を効果的に抑制することができる。他方、硫化物固体電解質の体積累積粒径D50が20μm以下であることによって、例えば本発明の硫化物固体電解質に他の硫化物固体電解質を組み合わせて用いたときに、当該他の硫化物固体電解質の隙間等に、本発明の硫化物固体電解質が入りやすくなる。そのことに起因して、硫化物固体電解質どうしの接触点が増えるとともに接触面積が大きくなり、イオン伝導性の向上を効果的に図ることができる。
【0042】
本発明の硫化物固体電解質は、例えば硫化物固体電解質層を構成する材料や、活物質を含む硫化物固体電解質層を構成する電極合剤として使用できる。具体的には、正極活物質を含む正極層を構成する正極合剤、又は負極活物質を含む負極層を構成する負極合剤として使用できる。したがって、本発明の硫化物固体電解質は、固体電解質層を有する電池、いわゆる固体電池に用いることができる。より具体的には、リチウム固体電池に用いることができる。リチウム固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でもリチウム二次電池に用いることが好ましい。なお、「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0043】
前記の固体電池は、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間に位置する固体電解質層とを有し、本発明の硫化物固体電解質を有する。電池の形状としては、例えば、ラミネート型、円筒型及び角型等を挙げることができる。
【0044】
本発明の硫化物固体電解質層は、例えば該硫化物固体電解質、バインダー及び溶剤を含むスラリーを基体上に滴下し、ドクターブレードなどで擦り切る方法、基体とスラリーを接触させた後にエアーナイフで切る方法、スクリーン印刷法等で塗膜を形成し、その後加熱乾燥を経て溶剤を除去する方法等で製造することができる。あるいは、本発明の硫化物固体電解質の粉末をプレス成形した後、適宜加工して製造することもできる。本発明における固体電解質層には、本発明の硫化物固体電解質以外に、その他の固体電解質が含まれていてもよい。本発明における固体電解質層の厚さは、典型的には5μm以上300μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の硫化物固体電解質を含む固体電池における正極合剤としては、例えば、リチウム二次電池の正極活物質として使用されているものを適宜使用可能である。正極活物質としては、例えばスピネル型リチウム遷移金属化合物や、層状構造を備えたリチウム金属酸化物等が挙げられる。正極活物質の粒子は、その表面に、硫化物固体電解質と正極活物質との反応抵抗を低減させ得る被覆層を有していてもよい。尤も本発明によれば、活物質の粒子の表面に被覆層を形成しなくても硫化物固体電解質と活物質との間の反応抵抗を低下させることが可能なので、活物質の粒子の表面に積極的に被覆層を形成することを要しない。正極合剤は、正極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【0046】
本発明の硫化物固体電解質を含む固体電池における負極合剤としては、例えば、リチウム二次電池の負極活物質として使用されている負極合剤を適宜使用可能である。負極活物質としては例えば、リチウム金属、人造黒鉛、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などの炭素材料、ケイ素、ケイ素化合物、スズ、並びにスズ化合物などが挙げられる。負極合剤は、負極活物質のほかに、導電助剤を始めとするほかの材料を含んでいてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0048】
〔実施例1ないし4〕
(1)硫化物固体電解質の製造
Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8の組成となるように、Li2S粉末と、P2S5粉末と、LiCl粉末と、LiBr粉末とを、全量で75gになるように秤量した。これらの粉末を、ボールミルを用いて粉砕混合して混合粉末を得た。混合粉末を焼成して、前記の組成の焼成物を得た。焼成は管状電気炉を用いて行った。焼成の間、電気炉内に純度100%の硫化水素ガスを1.0L/minで流通させた。焼成温度は500℃に設定し4時間にわたり焼成を行った。焼成物を乳鉢及び乳棒を用いて解砕し、引き続き湿式ビーズミルで粉砕し、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質を、〔露点-30〕℃の大気雰囲気下に24時間曝露して、LiCl・H2O及びLiBr・H2Oを生成させ、目的とする硫化物固体電解質を得た。実施例2~4については曝露時間を、それぞれ48時間、64時間及び72時間に設定した以外は実施例1と同様にして目的とする硫化物固体電解質を得た。
【0049】
実施例1で得られた硫化物固体電解質のXRD測定結果を
図1に示す。図には示していないが、実施例2ないし4で得られた硫化物固体電解質についても、実施例1と同様のXRD測定結果が得られたことを本発明者は確認した。XRD測定の条件は以下のとおりである。
装置:株式会社リガク製全自動多目的X線回折装置SmartLab
管電圧:40kV
管電流:30mA
X線源:CuKα1
入射光学素子:コンフォーカルミラー(CMF)
入射側スリット構成:コリメータサイズ1.4mm×1.4mm
受光側スリット構成:平行スリットアナライザ0.114deg、受光スリット20mm
検出器:シンチレーションカウンター
スキャン軸:2θ/θ
測定範囲:2θ=20deg~40deg
ステップ幅:0.01deg
スキャンスピード:1deg/分
光学系:集中法
入射モノクロメータ:ヨハンソン型
非曝露ホルダ
最大強度:5000カウント以上
ピーク強度の解析は、PDXL2(バージョン2.8.4.0)にて実施した。XRDデータをPDXL2で読み込み、「データ処理」-「自動」、「ピークサーチ」-「σカット値3.00」として「計算・確定」した。その後、「ピークリスト」に掲載される「2θ(deg)」及び「高さ(counts)」をそれぞれ「ピーク位置」、「ピーク強度」とした。ただし、後述するピーク位置に存在するピークが、複数ピークでピーク分解された場合は、単一ピークになるように編集(「ピークを削除」や「ピークを追加」)して、「情報」-「最適化」のダイアログで、「バックグラウンドを精密化する」のチェックボックスは外して最適化を「実行」する。その後、「ピークリスト」に掲載された結果を採用する。
【0050】
また、得られた硫化物固体電解質について熱重量測定を行った。測定にはMAC science社製のTG-DTA2000SAを用いた。昇温速度は10℃/minとし、雰囲気はArとした。
【0051】
(2)正極合剤の製造
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2を60部、硫化物固体電解質を37部、及び導電性炭素材料を3部用い、これらを混合して正極合剤を作製し、これを正極層とした。
【0052】
(3)負極合剤の製造
金属グラファイト粉末を64部と硫化物固体電解質を36部とを混合して負極合剤を作製し、これを負極層とした。
【0053】
(4)固体電池の製造
正極層、固体電解質層、及び負極層をこの順で重ねて加圧成型し固体電池を作製した。
【0054】
〔比較例1〕
実施例1で製造した硫化物固体電解質そのもの、すなわち曝露しないものを硫化物固体電解質として用いた。その後は実施例1と同様とした。
【0055】
〔評価〕
実施例1ないし4及び比較例1について、以下の方法で0.1C放電容量、5C放電容量及び放電容量維持率を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0056】
〔0.1C放電容量、5C放電容量及び放電容量維持率〕
実施例及び比較例の固体電池について、電池を充放電する環境温度を25℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、充放電できるように準備し、電池温度が環境温度になるように静置した。1mAを1Cとして電池の充放電を行った。0.1Cの電流値で4.5Vまで定電流定電圧充電し、次いで0.1Cで2.5Vまで定電流放電する充放電を3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を測定した。
次に電池を0.2Cの電流値で4.5Vまで定電流定電圧充電し、次いで5Cで2.5Vまで定電流放電したときの放電容量を測定し、この値を5C放電容量とした。5C放電容量を3サイクル目の放電容量で除して得られた値を5C放電容量維持率(%)とした。5C放電容量維持率をレート特性の尺度とした。温度は25℃とした。
【0057】
【0058】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた硫化物固体電解質を用いた固体電池は、比較例で得られた硫化物固体電解質を用いた固体電池に比べて放電容量が高く、またレート特性に優れたものであることが判る。
【0059】
なお、比較例で得られた硫化物固体電解質に対し、実施例1ないし4と同様にしてXRD測定を行ったところ、2θ=20.0°以上24.0°以下の範囲に回折ピークAは観察されなかった。
【0060】
〔参考例1及び2、実施例5及び6、並びに比較例2及び3〕
本参考例等は、本発明の硫化物固体電解質を用いた固体電池が、粒子の表面に被覆層を形成して反応抵抗の低減を図った正極活物質を用いた固体電池と同様の性能を発揮することを確認することを目的としたものである。
リチウム含有複合酸化物を含むコア粒子と、前記コア粒子の表面に形成されたNbを含む被覆層とを含む表面被覆正極活物質を準備した。なお、コア粒子には、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2で表されるリチウム含有複合酸化物を用いた。前記表面被覆正極活物質と、比較例1の硫化物固体電解質とを用いて正極合剤を得た。その後は実施例1と同様にして固体電池を得た(参考例1)。
また、実施例1及び比較例1の硫化物固体電解質と、被覆層を有しない正極活物質とを用いて正極合剤を得た。その後は実施例1と同様にして固体電池を得た(実施例5及び比較例2)。
更に、参考例1、実施例5及び比較例2において、負極活物質として用いたグラファイトに代えてSiを用いて固体電池を得た(参考例2、実施例6及び比較例3)。詳細には、Si粉末を47.5部、硫化物固体電解質を47.5部、及び導電性炭素材料を5部用い、これらを混合して負極合剤を作製し、これを負極層とした。
このようにして得られた各固体電池について、以下の方法で0.1C放電容量、5C放電容量及び放電容量維持率を測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0061】
〔0.1C放電容量、5C放電容量及び放電容量維持率〕
参考例1、実施例5及び比較例2の固体電池については、実施例1ないし4並びに比較例1と同様にして放電容量及び放電容量維持率を測定した。参考例2、実施例6及び比較例3の固体電池については、電池を充放電する環境温度を60℃となるようにセットした環境試験機内に電池を入れ、充放電できるように準備し、電池温度が環境温度になるように静置した。3mAを1Cとして電池の充放電を行った。0.1Cの電流値で4.5Vまで定電流定電圧充電し、次いで0.1Cで2.5Vまで定電流放電する充放電を3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を測定した。
次に電池を0.2Cの電流値で4.3Vまで定電流定電圧充電し、次いで5Cで2.5Vまで定電流放電したときの放電容量を測定し、この値を5C放電容量とした。5C放電容量を3サイクル目の放電容量で除して得られた値を5C放電容量維持率とした。5C放電容量維持率をレート特性の尺度とした。温度は60℃とした。
【0062】
【0063】
表2に示す結果から明らかなとおり、実施例5と参考例1とを比較すると両者は概ね同様の充放電特性を示すことが判る。また、負極活物質の種類が実施例5及び参考例1と異なるのみで他の点は同じである実施例6と参考例2とを比較しても、両者は概ね同様の充放電特性を示すことが判る。このことは、本発明の硫化物固体電解質を用いれば、高価な材料である表面被覆正極活物質を用いなくても、該表面被覆正極活物質を用いた場合と同様の高い性能が発揮されることを意味している。
【0064】
〔実施例7〕
Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8の組成となるように、Li2S粉末と、P2S5粉末と、LiCl粉末と、LiBr粉末とを、全量で75gになるように秤量した。これらの粉末を、ボールミルを用いて粉砕混合して混合粉末を得た。混合粉末を焼成して、前記の組成の焼成物を得た。焼成は管状電気炉を用いて行った。焼成の間、電気炉内に純度100%の硫化水素ガスを1.0L/minで流通させた。焼成温度は500℃に設定し4時間にわたり焼成を行った。焼成物を乳鉢及び乳棒を用いて解砕し、引き続き湿式ビーズミルで粉砕し、硫化物固体電解質を得た。
【0065】
得られた硫化物固体電解質と、LiBr・H2Oとを、Ar雰囲気下で混合し、目的とする硫化物固体電解質を得た。LiBr・H2Oの添加量は、硫化物固体電解質とLiBr・H2Oとの合計量に対して10質量%とした。これら以外は実施例6と同様にして固体電池を作製した。
【0066】
〔実施例8並びに比較例4及び5〕
硫化物固体電解質とLiBr・H2Oとの合計量に対するLiBr・H2Oの添加量の割合を表3に示すとおりとする以外は、実施例7と同様にして固体電池を作製した。
【0067】
実施例7及び8並びに比較例4及び5で得られた硫化物固体電解質のXRD測定結果を
図2ないし5に示す。また、実施例7及び8並びに比較例4及び5で得られた固体電池の0.1C放電容量を測定した。更に、実施例7及び8並びに比較例4及び5で得られた固体電池の5C放電容量及び放電容量維持率を測定した。それらの結果を表3に示す。測定方法は、上述した実施例5と同じである。
【0068】
【0069】
表3に示す結果から明らかなとおり、実施例7及び8で得られた硫化物固体電解質を用いた固体電池は、比較例4及び5で得られた固体電池に比べて0.1C及び5Cでの放電容量が高く、且つ放電容量維持率も高いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、良好な電池特性を得ることが可能な硫化物固体電解質が提供される。