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特許7029574コーティングされた平鋼生産物を製造する方法及びコーティングされた平鋼生産物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】コーティングされた平鋼生産物を製造する方法及びコーティングされた平鋼生産物
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20220224BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220224BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220224BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20220224BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/38
C22C18/00
C23C2/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021516743
(86)(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2018076110
(87)【国際公開番号】W WO2020064096
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ティーセン,リカルト・ヘオルヘ
(72)【発明者】
【氏名】アーニッヒ,マヌエラ
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ヤン-ヘンドリク
(72)【発明者】
【氏名】リンケ,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】フェヒテ-ハイネン,ライナー
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2524970(EP,A1)
【文献】国際公開第2016/177420(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/38
C22C 18/00
C23C 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の防食被覆が施された最高強度の平鋼生産物を製造する方法であって、
a)(重量%で)
C0.1~0.5%、
Mn1.0~3.0%
Si0.7~2.5%
Cr0.05~1%、
P0.020%以下、
S0.005%以下、
N0.008%以下、
並びに所望により下記の元素の1つ又は複数
Al0.01~1.5%、
Mo0.05~0.5%、
B0.0004~0.001%、
並びに所望により合計量0.001~0.3%のV、Ti、Nb、及び残部としての鉄と不可避不純物、からなる鋼を含む熱間圧延された平鋼生産物を提供するために、
b)熱間圧延された平鋼生産物を酸洗及び冷間圧延する工程であって、前記熱間圧延された平鋼生産物が少なくとも37%減厚される、工程、
c)前記冷間圧延された平鋼生産物を前記鋼のA3温度を上回る保持ゾーン温度THZに2段階で加熱する工程であって、まず200~400℃の転換温度TWまで5~50K/sの第1加熱速度Theta_H1で、及び前記転換温度TWを超えると前記保持ゾーン温度THZまで2~10K/sの第2加熱速度Theta_H2で前記加熱が行われる、工程、
d)前記平鋼生産物を、水素3~7体積%、及び残部としての水蒸気で湿らせた窒素及び不可避不純物から構成される炉内雰囲気中で5~15sの継続時間tHZにわたって前記保持ゾーン温度THZに保持する工程であって、前記炉内雰囲気の露点が-22℃~0℃である、工程、
e)前記平鋼生産物を、前記保持ゾーン温度THZから前記平鋼生産物の前記鋼のA3温度を150℃より下回らない温度TLKに冷却する工程であって、前記THZからTLKに冷却する工程の継続時間が最小50s、及び最大300sである、工程、
f)前記平鋼生産物を、前記温度TLKから少なくとも30K/sの冷却レートThetaQで、マルテンサイト開始温度TMSとTMSを175℃より下回らない温度との間の冷却停止温度TABに冷却する工程、
g)前記平鋼生産物を、10~60sの継続時間にわたって前記冷却停止温度TABに保持する工程、
h)前記平鋼生産物を、最大80K/sの加熱レートThetaB1で450~500℃の処理温度TBに熱する工程、及び所望により前記平鋼生産物を前記処理温度TBに等温保持する工程であって、前記熱する工程及び所望による等温保持する工程の全処理時間tBTが10~1000sである、工程、
i)前記平鋼生産物を亜鉛系の防食被覆で溶融浴コーティングする工程、
j)前記コーティングされた平鋼生産物を500~565℃の温度で10s~60sの継続時間にわたって所望により焼戻しする工程、
k)前記コーティングされた平鋼生産物を少なくとも5K/sの冷却レートThetaB2で室温に冷却する工程、を少なくとも包含する方法。
【請求項2】
前記溶融浸漬コーティングは、2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物から構成される溶融浴中で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炉内雰囲気の前記露点が-22℃~-5℃であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)の前記平鋼生産物の加熱、及び/又は工程d)の保持がラジアント・チューブ・ファーネスで行われることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
金属の防食被覆が施された最高強度の平鋼生産物において、(重量%で)
C0.1~0.5%、
Mn1.0~3.0%
Si0.7~2.5%
Cr0.05~1%、
P0.020%以下、
S0.005%以下、
N0.008%以下、
並びに所望により下記の元素の1つ又は複数
Al0.01~1.5%、
Mo0.05~0.5%、
B0.0004~0.001%、
並びに所望により合計量0.001~0.3%のV、Ti、Nb、及び残部としての鉄と不可避不純物、からなる鋼を含む鋼基材を含み、
前記平鋼生産物は、
-残留オーステナイト5~20体積%、
-ベーナイト5面積%未満、
-フェライト10面積%未満、
-少なくとも75面積%が焼戻しされたマルテンサイトである少なくとも80面積%のマルテンサイト、を含む組織を有し、前記平鋼生産物は前記防食被覆と前記鋼基材との間の境界層において、以下の関係式:
1.7≦[(Si+Mn)/Cr]_GS≦15
によるSi及びMnの合計量とCrの比率を有し、
かつ前記Si+Mnの合計量とCrの比率が前記境界層では前記母材より小さく、それにより:
[(Si+Mn)/Cr]_GS<[(Si+Mn)/Cr]_GW
であり、ここで、[(Si+Mn)/Cr]_GSは、前記境界層における重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計量と重量%でのCr含有量の比率であり、
[(Si+Mn)/Cr]_GWは、前記母材における重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計量と重量%でのCr含有量の比率であり、
前記境界層は、前記防食層と前記母材との間にあって亜鉛含有量と鉄含有量とが重量%
で同じ値の位置から前記母材の300nmの深さまで達する層であり、
前記平鋼生産物は、前記母材と前記境界層との間に
[(Si+Mn)/Cr]_GS<0.6*[(Si+Mn)/Cr]_GW
の濃度勾配を有し、前記防食被覆が亜鉛系防食被覆であることを特徴とする、最高強度平鋼生産物。
【請求項6】
少なくとも600MPaの引張強度Rm、少なくとも400MPaの降伏強度Rp02、及び少なくとも7%の伸びA80を有することを特徴とする、請求項5に記載の平鋼生産物。
【請求項7】
少なくとも25%の穴広がり率、引張強度と穴広がり率の少なくとも20,000MPa*%の積、及び/又はSEP1931による球衝撃試験によるステージ1の前記鋼基材上での前記防食被覆の非常に良好な密着性を有することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の平鋼生産物。
【請求項8】
前記金属の防食被覆は、2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物から構成されることを特徴とする、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項9】
前記金属の防食被覆は、1~2重量%のAl、1~2重量%のMg、残部亜鉛及び不可避不純物から構成されることを特徴とする、請求項8に記載の平鋼生産物。
【請求項10】
前記金属の防食被覆は、1重量%以下のAl、残部亜鉛及び不可避不純物を含有することを特徴とする、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項11】
前記鋼基材のTi含有量が前記鋼基材のN含有量の3.42倍より多いこと、又は前記鋼基材のNb含有量が前記鋼基材の前記N含有量の3.42倍より多いことを特徴とする、請求項5~請求項10のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項12】
前記平鋼生産物は、前記防食被覆と前記鋼基材との間の前記境界層において、Si及びMnの合計量とCrの比率[(Si+Mn)/Cr]_GSが最大13であることを特徴とする、請求項5~請求項11のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【請求項13】
前記平鋼生産物は、前記防食被覆と前記鋼基材との間の前記境界層において、Si及びMnの合計量とCrの比率[(Si+Mn)/Cr]_GSが最小2.5であることを特徴とする、請求項5~請求項12のいずれか1項に記載の平鋼生産物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、金属コーティングが施された最高強度(hochstfest)の平鋼生産物を製造する方法及びコーティングされた平鋼生産物に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中で平鋼生産物と言う場合、これは鋼帯、鋼板、又は鋼帯及び鋼板から製作された鋼片などの裁断片と解される。本明細書中で金属コーティングと言う場合、これは特に金属保護被覆及び金属防食被覆と解される。
【0003】
最高強度鋼は、材料の強度を高める、例えばケイ素、マンガン、クロムなどの合金元素の割合が高いことを特徴とする。最高強度鋼を、例えば自動車製造において使用するために、材料の腐食を防止するべく表面仕上げ層(oberflachenveredelnde Schicht)が必要となることがしばしばある。表面仕上げ層は、例えば電解によって、又は火炎コーティング(Feuerbeschichten)とも呼ばれる溶融浸漬コーティングによって設けることができる。防食のための特に重要な技術は、火炎コーティングによって設けられる亜鉛系のコーティングである。
【0004】
火炎コーティングによって最高強度鋼を製作する場合、防食層と、母材とも呼ぶことができる鋼基材との間の遷移部の領域においてケイ素、マンガン、クロムが富化される(anreichern)。本明細書中で防食層と鋼基材又は母材との間の境界層と解されるのは、防食層と母材との間にあって亜鉛含有量と鉄含有量とが重量%で同じ値の位置から母材の300nmの深さまで達する層である。境界層においてケイ素、マンガン、クロムの元素の1つ又は複数を富化することは、コーティングされた平鋼生産物の使用特性に悪影響を及ぼす。例えば母材上の防食層の密着性が悪化する。さらにコーティングされた平鋼生産物の成形性(Umformbarkeit)も制限される。
【0005】
火炎コーティング設備によるケイ素、マンガン、又はクロムで合金化されるコーティングされた最高強度鋼の製作は、被覆の密着性とコーティングされた平鋼生産物の成形性に問題を生じることから、この鋼はこれまで電解による亜鉛めっきしかされていない。
【0006】
欧州特許第2540854号明細書から、質量%で、C0.15~0.30%、Si0.01~1.8%、Mn1.5~3.0%、P0.05%以下、S0.005%以下、Al0.005~0.05%、N0.005%以下を含有し、選択的に、さらに、Ti0.001~0.10%、Nb0.001~0.10%、V0.01~0.50%、B0.0001~0.005%、Cu0.01~0.50%、Ni0.01~0.50%、Mo0.01~0.50%、及びCr0.01~0.50%から1つ又は複数の元素を含み、かつ少なくとも90%の焼戻しマルテンサイトを含有する表層軟質部を有する超高強度の冷延鋼板が知られている。鋼板は、引張強度が1270MPa以上である。表層部を軟質にするために、鋼板は、30℃の高露点雰囲気中700~800℃で15~60分間脱炭される。高露点雰囲気中での比較的長時間の脱炭焼鈍は、脱炭された延性の端縁層を生ぜしめ、続いてこの端縁層がコーティング処理される。
【0007】
米国特許出願公開第2016/230259号明細書から、質量%で、C0.08~0.20%、Si0.0~3.0%、Mn0.5~3.0%、P0.001~0.10%、S0.200%以下、Al0.01~3.00%を含有する溶融浸漬コーティングされた鋼板が知られている。鋼板は脱炭して焼鈍される。3~25体積%の水素及び0.070%以下の水蒸気を含有する雰囲気中で焼鈍した場合、鋼板内部に5μm以下の厚さの酸化層が形成される。その際、鋼帯は、表面の的確な酸化を達成するために直火型加熱炉内で的確に加熱される。この鉄、マンガン、及びケイ素のみからなる酸化層の欠点は、クロムを欠くことと、酸化層の厚さが5μm以下であることの結果として金属被覆の密着性が悪くなり得るということである。さらに、軟質の脱炭された良好に成形可能なフェライト層とより硬く脆い酸化層との間に局所的成形性の悪化が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】欧州特許第2540854号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/230259号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上を背景として、本発明の課題は、鋼基材上の金属コーティングの良好な密着性とコーティングされた平鋼生産物の良好な成形性を保証する、火炎コーティング設備によりコーティングされる最高強度の平鋼生産物を製造する方法を提供することである。
【0010】
さらに、鋼基材上の金属コーティングの良好な密着性と良好な成形特性とを有する、最高強度のコーティングされた平鋼生産物が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
方法に関して、上記課題は、最高強度のコーティングされた平鋼生産物の製造時に少なくとも請求項1に記載された工程が実行されることによって解決された。
【0012】
平鋼生産物に関して、上記課題は、少なくとも請求項5に記載された特徴を有する生産物によって解決された。
【0013】
本発明は、主要合金元素であるケイ素、マンガン、クロムを境界層に分布させることが防食被覆の密着性に重要な影響を及ぼすという知見にもとづいている。これは特に亜鉛系の防食被覆に当てはまる。ケイ素、マンガン、クロムは、強力な酸化物形成物質である。理論的にケイ素はマンガンより高い酸素親和性を有し、マンガンはクロムより高い酸素親和性を有し、クロムは鉄より高い酸素親和性を有する。したがって境界層において観察される元素のそれぞれの割合に依存して、まずマンガン酸化物の前、及びクロム酸化物の前にケイ素酸化物が形成されると予想され得る。これは理論上しか達成可能でない平衡状態と、すべての相が純粋相として存在し、混合相の形成が不可能であるという理想的な条件とを想定した場合であり、反応速度論及び拡散プロセスは考慮されない。
【0014】
境界層におけるケイ素、マンガン、クロムの分布は、大きく相違して現れ得ることと、例えば設定温度及び全雰囲気などの製造パラメータによって分散に影響を及ぼし得ることがわかった。
【0015】
本発明による金属保護被覆が施された最高強度の平鋼生産物を製造する方法は、少なくとも以下の工程を包含する。
【0016】
a)(重量%で)
C0.1~0.5%、
Mn及びSiからなる群より選択される少なくとも1つの元素であって、
Mn含有量が1.0~3.0%であり、Si含有量が0.7~2.5%である、元素、
Cr0.05~1%、
P0.020%以下、
S0.005%以下、
N0.008%以下、
並びに所望により下記の元素の1つ又は複数
Al0.01~1.5%、
Mo0.05~0.5%、
B0.0004~0.001%、
並びに所望により合計量0.001~0.3%のV、Ti、Nb、及び残部としての鉄と不可避不純物、からなる鋼を含む熱間圧延された平鋼生産物を提供するために、
b)熱間圧延された平鋼生産物を酸洗及び冷間圧延する工程であって、熱間圧延された平鋼生産物が少なくとも37%減厚される、工程、
c)冷間圧延された平鋼生産物を鋼のA3温度を上回る保持ゾーン温度THZに2段階で加熱する工程であって、まず200~400℃の転換温度TWまで5~50K/sの第1加熱速度Theta_H1で、及び転換温度TWを超えると保持ゾーン温度THZまで2~10K/sの第2加熱速度Theta_H2で加熱が行われる、工程、
d)平鋼生産物を、水素3~7体積%、及び残部としての水蒸気で加湿した窒素及び不可避不純物を含有する炉内雰囲気中で5~15sの継続時間tHZにわたって保持ゾーン温度THZに保持する工程であって、炉内雰囲気の露点が-22℃~0℃である、工程、
e)平鋼生産物を、保持ゾーン温度THZから平鋼生産物の鋼のA3温度を150℃より下回らない温度TLKに冷却する工程であって、THZからTLKに冷却する工程の継続時間が最小50s、及び最大300sである、工程、
f)平鋼生産物を、温度TLKから少なくとも30K/sの冷却レートThetaQで、マルテンサイト開始温度TMSとTMSを175℃より下回らない温度との間の冷却停止温度TABに冷却する工程、
g)平鋼生産物を、10~60sの継続時間にわたって冷却停止温度TABに保持する工程、
h)平鋼生産物を、最大80K/sの加熱レートThetaB1で450~500℃の処理温度TBに熱する工程、及び所望により平鋼生産物を処理温度TBに等温保持する工程であって、熱する工程及び所望による等温保持する工程の全処理時間tBTが10~1000sである、工程、
i)平鋼生産物を亜鉛系の防食被覆で溶融浴コーティングする工程、
j)コーティングされた平鋼生産物を500~565℃の温度TGAで10s~60sの継続時間tGAにわたって所望により焼戻しする工程、
k)コーティングされた平鋼生産物を少なくとも5K/sの冷却レートThetaB2で室温に冷却する工程。
【0017】
工程a)において、従来の鋳造法及び熱間圧延法によって製作された熱間圧延平鋼生産物が提供される。工程a)において提供された熱間圧延平鋼生産物はコーティングされず、すなわちこの熱間圧延平鋼生産物は、金属防食被覆を有していない。コーティングされない平鋼生産物は、鋼基材、又は工程i)で設けられる金属防食被覆のための母材をなす。コーティングされない平鋼生産物は、以下に詳しく説明する組成の鋼を含む、特に以下に詳しく説明する組成の鋼からなる。
【0018】
本発明による平鋼生産物の鋼の炭素含有量は、0.1~0.5重量%である。炭素(C)は、オーステナイトの形成及び安定化に影響を及ぼす。マルテンサイトを形成するために行われる急冷中、及び次の焼鈍時に、場合によって存在する残留オーステナイトがCによって安定化される。さらに、C含有量は、工程f)における冷却レートThetaQでの冷却中に形成されるマルテンサイトの強度と、工程k)における冷却レートThetaB2での最後の冷却中に形成されるマルテンサイトの強度に対して大きく影響する。オーステナイトを安定化する、及び強度を高める作用を保証するために、C含有量は少なくとも0.1重量%であるべきである。好ましい一実施形態では、オーステナイトを安定化する、及び強度を高める炭素の作用を特に効果的に利用できるようにするために、C含有量は少なくとも0.12重量%である。C含有量が増加するにつれて、マルテンサイト開始温度が次第に低い温度に変化し、それによりC含有量が過度に高い場合にはマルテンサイトを形成できないか、又はマルテンサイトを過度に少ない割合でしか形成できない可能性がある。さらに、炭素含有量が増加するにつれて平鋼生産物の溶接性が悪化する。十分な割合のマルテンサイトの形成と良好な溶接性を確保するために、本発明による平鋼生産物の鋼のC含有量は最大0.5重量%、好ましくは最大0.4重量%に制限される。
【0019】
本発明による平鋼生産物の鋼は、マンガン又はケイ素を含有するか、あるいはマンガンとケイ素を含有する。
【0020】
本発明による平鋼生産物の鋼がマンガンと、あるいはマンガン及びケイ素と合金化される場合、マンガン含有量は1.0~3.0重量%である。マンガン(Mn)は鋼の焼入れ性に影響を及ぼし、冷却中の不都合なパーライト形成を回避することに寄与する。この前提条件は、工程f)における100K/s未満の冷却レートでの急冷後にマルテンサイトと残留オーステナイトとからなる適切な組織の形成を可能にする。パーライトの発生を確実に回避するために、本発明による平鋼生産物の鋼は少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも1.9重量%のMnを含有する。過度に高いMn濃度は溶接性に悪影響を及ぼすとともに、凝固中に生じる組織における化学的不均質性として強度の偏析が生じる危険を高めるので、Mn含有量は最大3.0重量%、好ましくは最大2.7重量%に制限される。さらに、過度に高いマンガン含有量は防食被覆と鋼基材との間の境界層においてマンガンを強度に富化せしめ、それに伴い密着性を悪化させる。この理由からもMn含有量は最大3.0重量%、好ましくは最大2.7重量%に制限される。
【0021】
本発明による平鋼生産物の鋼がケイ素と、あるいはケイ素及びマンガンと合金化される場合、ケイ素含有量は0.7~2.5重量%、好ましくは少なくとも0.9重量%である。ケイ素(Si)は、セメンタイトの形成を抑えることに寄与する。セメンタイトが形成される場合、炭素がカーバイドの形で結合される。セメンタイトの形成を抑えることによって、残留オーステナイトの安定化、及びそれに伴い伸びの向上に寄与する遊離炭素が利用可能になる。この作用は、部分的にアルミニウムを添加合金化する(Zulegieren)ことによっても達成することができる。Si含有量が過度に高い場合、防食被覆と母材との間の境界層においてケイ素を富化することができるが、このことは防食被覆の密着性を悪化させる。
【0022】
良好な密着性を保証するために、Si含有量は最大2.5重量%、特に2.5重量%未満に制限される。好ましい一実施形態では、付加的に、熱間圧延鋼帯製造中に生じ得る赤スケールの生成の危険を低減するために、Si含有量が最大1.5重量%に制限される
本発明による平鋼生産物の鋼のクロム含有量は0.05~1重量%である。クロム(Cr)は、強度を高めることに寄与するとともに、パーライトの有効なインヒビタである。さらに防食被覆と母材との間の境界層におけるCrの富化は密着性を向上させる。良好な密着特性を保証するために、Cr含有量は少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%である。1.0重量%より高い含有量では、Crは著しい粒界酸化の危険性を高め、そのことが溶接性及び表面品質に悪影響を及ぼす。著しい粒界酸化を回避するために、Cr含有量が最大1.0重量%に制限される。好ましい一実施形態では、コスト上の理由からCr含有量が最大0.6重量%に制限されるが、これは付加的に粒界酸化の危険を最小限に抑えることにも寄与する。
【0023】
所望により本発明による平鋼生産物の鋼中に0.01~1.5重量%のアルミニウム(Al)を含有することができる。Alは、脱酸するため、及び場合によって存在する窒素を結合するために用いることができる。Alは、セメンタイトを抑制するためにも使用することができる。Alを加えることによって、鋼のオーステナイト化温度が高くなる。より高い焼鈍温度に調整可能である場合、Alを1.5重量%まで添加合金化することができる。アルミニウムは、完全にオーステナイト化するために必要な焼鈍温度を高め、Al含有量が1.5重量%を上回る場合には完全なオーステナイト化を困難にするので、本発明による平鋼生産物の鋼のAl含有量は、最大1.5重量%、好ましくは最大1.0重量%に制限される。好ましい一実施形態では、オーステナイト化温度を制限するためにAl含有量が最大0.1重量%、特に0.01~0.1重量%に制限される。
【0024】
燐(P)、硫黄(S)、窒素(N)は本発明による平鋼生産物の機械的加工特性に悪影響を及ぼすことから、本発明による平鋼生産物における燐、硫黄、窒素の含有はなるべく回避されるべきである。燐(P)は溶接性に不都合な影響を及ぼすことから、P含有量は最大0.02重量%、好ましくは0.02重量%未満であるべきである。硫黄(S)は、比較的高い濃度ではMnS、又は(Mn,Fe)Sを生成せしめ、このことは伸びに悪影響を及ぼす。そのためS含有量は、最大0.005重量%、好ましくは0.005重量%未満に制限される。
【0025】
窒素(N)は、固溶した形のみならず、例えばチタン、ニオブ、又はバナジウムを組み合わせた窒化物として鋼を脆化し、このことが成形性に悪影響を及ぼし得ることから、N含有量は最大0.008重量%、好ましくは0.008重量%未満に制限されるべきである。
【0026】
所望により、本発明による平鋼生産物の鋼は0.05~0.5重量%の含有量のモリブデン(Mo)を含有することができる。Moはパーライト形成の抑制を促進し、この目的で鋼中に少なくとも0.05重量%含有され得る。コスト上の理由から、Mo含有量は最大0.5重量%、特に0.5重量%未満に制限される。
【0027】
所望により、本発明による平鋼生産物の鋼は、0.0004~0.001重量%の含有量のホウ素(B)を含有することができる。ホウ素は、相境界に偏析し、相境界の動きを阻止する。このことは細粒組織の形成を支援し、それにより平鋼生産物の機械的特性が改善される。機械的特性を改善するために、ホウ素が少なくとも0.0004重量%の含有量で添加合金化され得る。ホウ素を添加合金化する場合、Nを結合するのに十分なTi又はNbが利用可能でなければならず、そのことが有害な窒化ホウ素の生成を阻止する。窒化ホウ素の生成を阻止するために、N含有量の3.42倍を超えるチタン含有量が選択されるか、又はN含有量の3.42倍を超えるニオブ含有量が選択されるならば有利であることがわかった。Bの好ましい作用は0.001重量%の含有量で飽和されるため、鋼は最大0.001重量%のBを含有する。
【0028】
所望により、本発明による平鋼生産物の鋼は、1つ又は複数の合金中微量元素を合計量0.001~0.3重量%の含有量で含有することができる。ここでは合金中微量元素は、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)の元素と解される。その際、チタン若しくはニオブ、又は両者の組み合わせを使用することが好ましい。合金中微量元素は、炭素とともにカーバイドを形成することができ、カーバイドは、非常に微細に分布した析出物の形で硬度を高めることに寄与し得る。合金中微量元素の含有量が全体で少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.005重量%の場合に、オーステナイト化中に粒界及び相境界を凍結させる析出物が生じ得る。しかし同時に、原子の形の、残留オーステナイトを安定化させるために有利な炭素がカーバイドとして結合される。原子の形で存在する炭素によって残留オーステナイトの十分な安定化を保証するために、合金中合金元素の濃度が最大0.3重量%、好ましくは最大0.2重量%の合計量でなければならない。
【0029】
本明細書中で合金含有量及び組成に関して記載される場合、特に明記しない限り、これは重量又は質量に関連する。
【0030】
工程b)において、熱間圧延された平鋼生産物がまず従来の仕方で酸洗され、続いて冷間圧延される。冷間圧延によって、平鋼生産物は少なくとも37%、特に37%を超えて減厚される。減厚は、平鋼生産物の第1冷間圧延の通過前の初期厚さと最後の冷間圧延の通過後の最終厚さとの差に関連する。少なくとも37%の減厚をする冷間圧延は、材料の機械的均質化をもたらし、冷間圧延された状態で平均粒径が30μm未満の特に細粒の組織を生ぜしめる。冷間圧延によって調整された非常に細粒の組織は、次のオーステナイト化する焼鈍のために、オーステナイト粒を形成する複数の核生成箇所を提供し、その結果、オーステナイトも非常に細粒になる。冷間圧延時に好ましくは少なくとも42%の減厚に調整される場合に細粒化作用を強化することができる。さらに、冷間圧延中に行われる材料の機械的均質化によって、さらなる工程での防食被覆と鋼基材との間の境界層におけるSi、Mn、Crの的確な比率の調整が容易になる。
【0031】
冷間圧延された平鋼生産物は、工程c)において、オーステナイトへの完全な組織変態を可能にするために鋼のAr温度を上回る、保持ゾーン温度とも呼ぶことができる焼鈍温度THZに熱せられる。鋼のA3温度は分析に依存し、以下の経験式から推測することができる:
A3[℃]=910-15.2%Ni+44.7%Si+31.5%Mo-21.1%Mn-203√%C
ここで、%C=鋼の重量%でのC含有量、%Ni=鋼の重量%でのNi含有量、%Si=鋼の重量%でのSi含有量、%Mo=鋼の重量%でのMo含有量、%Mn=鋼の重量%でのMn含有量である。
【0032】
好ましい一実施形態では、運転コストを節約するために保持ゾーン温度THZが最大950℃に制限され得る。
【0033】
THZへの加熱は2段階で行われる。その際、平鋼生産物がまず200~400℃の転換温度(Wendetemperatur)TWに達するまで5~50K/sの加熱速度Theta_H1で熱せられる。転換温度T_Wを超えると、加熱は、保持ゾーン温度THZに達するまで2~10K/sの加熱速度Theta_H2で行われる。その際、第1加熱速度Theta_H1は第2加熱速度Theta_H2と不同である。好ましい一実施形態ではTheta_H2はTheta_H1より小さい。
【0034】
好ましい一実施形態では、平鋼生産物は連続式炉で熱せられる。特に好ましい一実施形態では、平鋼生産物は、セラミック放射管を装備した炉で熱せられ、これは特に900℃を超えるストリップ温度に達するために有利である。これに加えて、燃焼のために必要な酸素割合が材料と接触することによる酸化物層の形成と結びついた鋼表面の不都合な高酸化が間接的加熱によって回避される。その際、閉じたバーナ内でガス混合物が燃焼し、この場合、熱伝達は放射によって行われる。この種の炉はラジアント・チューブ・ファーネス又はRTFとも呼ばれる。
【0035】
平鋼生産物は、工程d)において、5~15sの保持継続時間tHZにわたり保持ゾーン温度THZに保持される。オーステナイト粗粒の形成と不規則なオーステナイト成長、それに伴い平鋼生産物の成形性への悪影響を回避するために、保持継続時間tHZは15秒を超えるべきでない。保持継続時間は、オーステナイトへの完全な変態とオーステナイトにおける均一なC分布を得るために少なくとも5s続くべきである。
【0036】
平鋼生産物が保持される雰囲気は、3~7体積%の水素を含有する。雰囲気の残部は、水蒸気で加湿した窒素と不可避不純物で構成され、窒素割合は93~97体積%となることが求められ、すべての成分の合計量は100体積%となる。本明細書中で炉の雰囲気組成に関する記載は合計量100体積%となる雰囲気組成に関連する。したがって保持中の雰囲気は、特に3~7体積%の水素と、残部としての水蒸気で湿らされた窒素及び不可避不純物とからなる。雰囲気中の水蒸気の割合は露点により制御される。露点は、-22℃~0℃の値、好ましくは最大-5℃の値、特に-22℃~-5℃の値、特に好ましくは少なくとも-20°及び/又は最大-15℃の値、特に-20℃~-15℃の値に調整される。露点によって、境界層における元素Si、Mn、及びCrの濃度推移を制御し、境界層における元素Si、Mn、及びCrの濃度プロファイルを得ることができる。
【0037】
水蒸気割合は、露点に対して示される。その際、露点はガス体積中の水が凝縮する温度に相当する。露点の値が低い場合、ガス混合物中の水割合は小さい。露点が上昇するにつれて、ガス混合物中の水割合が増加する。炉内雰囲気中の加湿されたガス混合物は、焼鈍中の拡散の促進との組み合わせにより、まず母材の表面において鉄より高い酸素親和性の元素であるMn、Si、Crを富化させる。マンガンと鉄のサイズ差が小さいことによりMnは鉄の格子においてCr又はSiより速く拡散する。クロムは、Mnよりいくらかゆっくりと拡散するのに対して、ケイ素はかなりゆっくりと拡散する。富化は、工程d)における焼鈍中に元素が母材から拡散することを妨害する。この拡散は、特にMnについて顕著に現れるが、Siについても観察される。これに対してCrは、酸化物の形成によって表面近くで不動態化する。したがって、Crは、母材の表面下300nmまでの領域において富化される。しかしガス混合物の露点が-22℃未満であるか、又は母材の表面下300nmまでの領域におけるCrより高い酸素親和性の元素であるMn及びSiの過剰供給量が多すぎる場合、Crも表面から拡散し、このことが防食被覆の密着性及び成形性に悪影響を及ぼす。
【0038】
好ましい一実施形態では、工程d)における炉内雰囲気中、特に保持中の水蒸気割合が0.070体積%より多く、特に好ましくは少なくとも0.080体積%である。典型的には炉内雰囲気中の水蒸気割合は、最大1.0体積%、好ましくは最大0.8体積%である。
【0039】
ガス組成の制御は、例えば自動化されたシステムを用いて行うことができる。そのために、乾燥したガス割合と湿ったガス割合とを混合することができ、水蒸気のキャリアガスとして窒素が使用される。水蒸気で加湿した窒素の焼鈍炉への送り込みは、例えばデフレクタロールの下方で行うことができる。この場合、平鋼生産物が焼鈍処理される焼鈍炉は縦型又は横型に設計することができる。焼鈍プロセス中、ストリップが炉を通って案内される。いわゆるデフレクタロールにより、縦型炉において例えば平鋼生産物の運動方向が下から上へ、及びその逆に変更される。
【0040】
工程d)における焼鈍中、-22℃~0℃の露点で本発明による焼鈍時間、焼鈍温度、及び雰囲気組成を遵守することによって、工程i)の実行後にコーティングされた平鋼生産物における元素Si、Mn、Crが、防食被覆と鋼基材との間の境界層でSi及びMnの合計量とCrの比率:
1.7≦[(Si+Mn)/Cr]_GS≦15
を有することが保証され、ここで、Si:境界層における重量%でのSi含有量;Mn:境界層における重量%でのMn含有量;Cr:境界層における重量%でのCr含有量である。
【0041】
本発明の知見は、境界層における高いSi含有量とMn含有量がコーティング性を悪化させるのに対して、Crは悪影響を及ぼさず、それどころか上記の比率を遵守した場合に防食被覆の密着性に好ましい影響を及ぼすということである。境界層において酸化物形成元素であるSi、Mn、Crの比率を遵守することにより、防食被覆の優れた密着性と並んでコーティングされた平鋼生産物の良好な成形性も得られる。
【0042】
工程d)における焼鈍中に-22℃~0℃の露点で本発明による焼鈍時間、焼鈍温度、及び雰囲気組成を遵守することによって、元素Si、Mn、Crが境界層において濃度勾配:
[(Si+Mn)/Cr]_GS<[(Si+Mn)/Cr]_GW
を有することがさらに保証され、ここで、[(Si+Mn)/Cr]_GS:境界層における重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計量と重量%でのCr含有量の比率、
[(Si+Mn)/Cr]_GW:母材中の重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計量と重量%でのCr含有量の比率である。
【0043】
この場合、母材の元素含有量は、典型的には、鋼基材の厚さの1/3のところにある位置に関連する。
【0044】
[(Si+Mn)/Cr]_GSの[(Si+Mn)/Cr]_GWに対する濃度勾配を調整することによって、防食被覆の密着性とコーティングされた平鋼生産物の成形性とを改善することができる。
【0045】
好ましい一実施形態では、工程c)における平鋼生産物の加熱及び/又は工程d)における保持がラジアント・チューブ・ファーネスで行われる。セラミック放射管を装備した炉では、燃焼すべきガス混合物が閉じたバーナ内で燃やされ、熱伝達が放射によって行われるので、酸素含有燃焼ガスは平鋼生産物と接触しない。それによって、コーティングされていない平鋼生産物の表面の脱炭及び表面の高酸化、並びに覆いかぶさる酸化物層の形成を低減、好ましくは回避することができる。
【0046】
工程e)において、平鋼生産物が温度TLKに冷却される。冷却は、工程d)の保持が終わってから始まる。特に冷却は保持の直後、及びそれに伴い遅くとも15sの最大保持継続時間の経過後に始まる。フェライトの形成を回避するために、温度TLKは、平鋼生産物の鋼のA3温度を150℃より下回らない。THZからTLKへの冷却の継続時間は、最小50s、及び最大300sである。工程e)において行われた冷却をコントロールされた、かつ低速の冷却と呼ぶこともできる。
【0047】
工程f)において、平鋼生産物が温度TLKからさらに冷却停止温度TABに冷却される。TLKからTABへの冷却は、少なくとも30K/sの冷却レートThetaQで行われる。この冷却を高速冷却と呼ぶこともできる。冷却レートThetaQは、フェライトの形成及びベーナイトの形成を回避するために少なくとも30K/sである。冷却は、120K/s以下で行われることが好ましく、これは例えば最新のガスジェット冷却を用いることによって達成することができる。
【0048】
冷却停止温度TABは、マルテンサイト開始温度TMS、すなわちマルテンサイト変態が開始する温度と、TMSを175℃より下回らない温度との間である。すなわち:
(TMS-175℃)≦TAB≦TMS
となる。
【0049】
マルテンサイト開始温度は、以下の式を用いて推測することができる:
TMS[℃]=539℃+(-423%C-30.4%Mn-17.7%Ni-12.1%Cr-11%Si-7%Mo)℃/重量%
ここで、%C=重量%での鋼のC含有量、%Mn=重量%での鋼のMn含有量、%Ni=重量%での鋼のNi含有量、%Cr=重量%での鋼のCr含有量、%Si=重量%での鋼のSi含有量、%Mo=重量%での鋼のMo含有量である。
【0050】
工程g)において、平鋼生産物が10~60秒の保持時間tQにわたって冷却停止温度TABに保持される。その際、tQは、組織、特にマルテンサイト割合の調整のためのパラメータとして使用される。平鋼生産物を10~60sにわたって温度TABに保持することによって、小さいパケット値(Paketgrosse)及び小さいランセット幅(Lanzettenbreite)の非常に微細なマルテンサイト構造に調整することができる。このマルテンサイト構造は、次の熱する処理工程において拡散距離を短くし、それにより残留オーステナイトの的確な局所的安定化が可能になる。
【0051】
工程h)において、残留オーステナイトを過飽和マルテンサイトからの炭素で富化するために、平鋼生産物が最大80K/sの加熱レートThetaB1で450~500℃の処理温度TBに熱せられる。カーバイドの形成と残留オーステナイトの分解は、この工程のための10~1000sの全処理時間を遵守することによって回避される。
【0052】
これに加えて、処理温度TBが後続の溶融浸漬コーティング処理に合わせて調整される。TBは450~500℃であり、同時に亜鉛系溶融浴への浸漬のために適した温度である。炭素の十分な再分布を保証するために加熱は、最大80K/s、特に80K/s未満の加熱レートで行われる。好ましい一実施形態では、加熱を、例えば放射管を用いて、又はブースタを用いて実現することができる。
【0053】
炭素の十分な再分布を保証するために、全処理時間tBTは、最小10s及び最大1000sである。全処理時間tBTは、熱するために必要とされる時間tBRと平鋼生産物が所望により等温保持される時間tBIとから構成される。
【0054】
工程i)において、平鋼生産物がコーティング処理、特に溶融浸漬コーティングされる。その際、平鋼生産物は亜鉛系の溶融浴組成のコーティング浴を通過する。その際、溶融浴の温度は450~500℃であることが好ましい。適当な溶融浴組成は、例えば2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物を含有し得、特に2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物からなり得る。さらに別の好ましい実施形態では、適当な溶融浴組成は、例えば1重量%以下のAl、残部亜鉛及び不可避不純物を含有し得、特に1重量%以下のAl、残部亜鉛及び不可避不純物からなり得る。特に好ましい一実施形態では、溶融浴組成は、1~2重量%のAl、1~2重量%のMg、残部亜鉛及び不可避不純物を含有し得、特に1~2重量%のAl、1~2重量%のMg、残部亜鉛及び不可避不純物からなり得る。コーティング処理によって、平鋼生産物の少なくとも片側において平鋼生産物に防食被覆が設けられる。
【0055】
工程i)の直ぐ次に、平鋼生産物が所望による工程j)においてガルバニーリング処理され得る。このために、500~565℃の温度TGAで10s~60sの継続時間tGAにわたり焼戻しされる。
【0056】
工程k)において、コーティングされた平鋼生産物が少なくとも5K/s、好ましくは5K/sを超える冷却レートThetaB2で室温に冷却される。本明細書中で本発明による方法の経過において、工程k)における第2急冷によって形成されたマルテンサイトは焼戻しされないマルテンサイトと呼ばれる。第1急冷によるオーステナイト化後に生じ、工程h)において熱せられるマルテンサイトは、焼戻しマルテンサイトとも呼ばれる。
【0057】
好ましい一実施形態では、平鋼生産物がさらなる工程において、特に工程e)からk)を通過する雰囲気組成を、工程d)の保持プロセスの炉内雰囲気に適合させることができる。したがって、少なくとも1つのさらなる工程において、3~7体積%の水素と、残部として水蒸気で、好ましくは少なくとも0.070体積%、特に好ましくは少なくとも0.080体積%、さらに好ましくは最大1.0体積%、特に好ましくは最大0.8体積%の水蒸気で加湿した窒素及び不可避不純物を含有する雰囲気に調整される。
【0058】
好ましい一実施形態では、金属防食被覆が施された最高強度の平鋼生産物を製造する本発明による方法はさらなる工程を包含せず、それに伴いa)からk)に挙げた工程しか包含しない。
【0059】
本発明による生産物は、(重量%で)C0.1~0.5%、Mn及びSiからなる群より選択される少なくとも1つの元素であって、Mn含有量が1.0~3.0%であり、Si含有量が0.7~2.5%である元素、Cr0.05~1%、P0.020%以下、S0.005%以下、N0.008%以下、並びに所望によりAl0.01~1.5%、Mo0.05~0.5%、B0.0004~0.001%の元素の1つ又は複数、並びに所望により合計量0.001~0.3%のV、Ti、Nb、及び残部としての鉄と不可避不純物、からなる鋼を含む、好ましくはその鋼からなる鋼基材を含む。
【0060】
鋼基材は、残留オーステナイト5~20体積%、ベーナイト5面積%未満、フェライト10面積%未満、及び少なくとも75面積%が焼戻しされ、25面積%未満が焼戻しされないマルテンサイトである少なくとも80面積%のマルテンサイトを含む組織を有する。好ましい一実施形態では、本発明による生産物の組織は、残留オーステナイト5~20体積%、ベーナイト5面積%未満、フェライト10面積%未満、及び残部としてのマルテンサイトからなり、全組織におけるマルテンサイト割合は少なくとも80面積%であり、そのうちの少なくとも75面積%が焼戻しされたマルテンサイトであり、25面積%未満が焼戻しされないマルテンサイトである。
【0061】
求められる強度を達成するために、高いマルテンサイト割合に調整される。延性には焼戻しされたマルテンサイトの割合によって影響を及ぼすことができる。組織中に存在するマルテンサイトの全割合は焼戻しされたマルテンサイトと焼戻しされないマルテンサイトとから構成され、焼戻しされないマルテンサイトがないということが可能である。
【0062】
特に明記されない限り、本明細書中で残留オーステナイトの組織割合に関する記載は体積%で示され、例えばマルテンサイト、フェライト、ベーナイトなどの他の組織構成要素は面積%で示される。
【0063】
組織は、特に細粒であり、好ましくは30μmの平均粒径を有する。組織構造が微細であるため、組織検査は走査型電子顕微鏡(REM)で少なくとも5000倍に拡大して行われることが望ましい。残留オーステナイトを定量するのに適した手法として、ASTM E975によるX線回折(XRD)による検査が望ましい。
【0064】
本発明による生産物は、さらに、金属保護被覆、好ましくはZn系の防食被覆を備える。適当な防食被覆は、2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物を含有し、特に防食被覆は、2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部Zn及び不可避不純物からなる。特に好ましい一実施形態では、防食被覆は1~2重量%のAl、1~2重量%のMg、残部亜鉛及び不可避不純物を有し、特に防食被覆は、1~2重量%のAl、1~2重量%のMg、残部亜鉛及び不可避不純物からなる。これに代わる好ましい一実施形態では、防食被覆は、1重量%以下のAl、残部亜鉛及び不可避不純物を有し、特に防食被覆は、1重量%以下のAl、残部亜鉛及び不可避不純物からなる。
【0065】
本発明によるコーティングされた平鋼生産物は、防食被覆と鋼基材との間の境界層において、以下の関係式:
1.7≦[(Si+Mn)/Cr]_GS≦15
によるSi及びMnの合計量とCrの比率が少なくとも1.7、最大15であり、
Si:境界層における重量%でのSi含有量、Mn:境界層における重量%でのMn含有量、Cr:境界層における重量%でのCr含有量である。
【0066】
本発明の知見は、境界層における高いSi含有量及びMn含有量がコーティング性に悪影響を及ぼすのに対して、Crは悪影響を及ぼさず、それどころか上記の比率を遵守した場合に、防食被覆の密着性に好ましい影響を及ぼすということである。検査は、境界層におけるSi及びMnを富化した場合に防食被覆の密着性が悪化するのに対して、クロムも富化された状態では密着性が格段に改善されることを示した。しかし、Crの付加は、これが粒界酸化に悪影響を及ぼすことによって、及び経済性を考えて最大1.0重量%、好ましくは最大0.6重量%に制限されるのに対して、Si及び/又はMnは、求められる機械的特性を達成するための最低限の含有量が必要である。しかし境界層におけるSi及び/又はMnの比較的強度の富化はそこに局所的に著しい酸化物形成をもたらす。この酸化物は、溶融浸漬コーティングに問題を引き起こし、その結果として母材上での防食被覆の不十分な密着性をもたらす。しかしSi+Mnの合計量とCrの比率が最大15、好ましくは最大13である場合には密着性欠如の危険が少ない。Si+Mnの合計量とCrの比率が少なくとも1.7、好ましくは最小2.5である場合にも同様に密着性欠如の危険が少ない。
【0067】
境界層におけるSi+Mnの合計量とCrの比率が最大15、好ましくは最大13のCr富化は、コーティングされた平鋼生産物の成形性にも好ましい影響を及ぼす。これは、CrがSi酸化物及びMn酸化物の形成を妨げることに由来する。Si酸化物及びMn酸化物は、脆い性質を有し、それによって成形時に亀裂の形成が促進される。境界層における酸化物形成元素Si、Mn、Crの比率を厳守することによって、鋼を例えば1180MPa以上の非常に高い引張強度と、25%を超える穴広げ率に調整することさえできる。
【0068】
本発明によれば、境界層におけるSi+Mnの合計量とCrの比率は母材におけるより小さい。したがって、コーティングされた平鋼生産物は、境界層と鋼基材又は母材との間に以下の関係式で表すことができる濃度勾配を有する:
[(Si+Mn)/Cr]_GS<[(Si+Mn)/Cr]_GW
ここで、[(Si+Mn)/Cr]_GS:境界層における重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計と重量%でのCr含有量の比率、
[(Si+Mn)/Cr]_GW:母材における重量%でのSi含有量及び重量%でのMn含有量の合計と重量%でのCr含有量の比率である。
【0069】
母材の元素含有量の記載は、典型的には鋼基材の厚さの1/3のところの組成である。
【0070】
[(Si+Mn)/Cr]_GSが[(Si+Mn)/Cr]_GWより小さいことによって、平鋼生産物が鋼基材上の金属コーティングの良好な密着性、及び成形特性を有することが保証される。この効果は、[(Si+Mn)/Cr]_GSが0.9[(Si+Mn)/Cr]_GWより小さく、特に好ましくは0.6[(Si+Mn)/Cr]_GWより小さい場合に特に確実に達成することができる。
【0071】
コーティングされた平鋼生産物は、好ましくは少なくとも600MPaの引張強度Rm、少なくとも400Mpaの降伏強度Rp02、及び少なくとも7%、特に7%を超える伸びA80を有する。典型的には、引張強度は950~1500MPaに達する。降伏強度値は、典型的には少なくとも700MPaである。その際、降伏強度は、それぞれ達成した引張強度未満である。典型的には降伏強度は950Mpa未満である。さらに、コーティングされた平鋼生産物は、防食被覆の優れた密着性、殊にSEP1931による球衝撃試験(Kugelschlagtest)により検出されたステージ1の鋼基材上密着性、及び非常に良好な成形性を有する。成形性の尺度として、例えば穴広げ率が考慮され得る。穴広げ率は、典型的には少なくとも25%である。引張強度と穴広げ率との積も成形性の尺度として考慮することができる。好ましい一実施形態では、引張強度と穴広げ率との積は少なくとも20,000MPa%、好ましくは少なくとも25,000MPa%である。
【0072】
引張強度、降伏強度、及び伸びをDIN EN ISO6892、試験片形状2により、密着性をSEP1931による球衝撃試験KSTを用いて、及び穴広げ率をISO16630に従い決定した。境界層及び境界層に隣接する領域における元素分布は、グロー放電発光分析法(Glow Discharge Optical Emission Spectroscopy、省略形GDOES)により行うことができる。このために、例えばLeco社のGDOES測定装置を使用することができる。GDOESによって、層厚に沿う層構造における元素の定量を行うことが可能である。したがってGDOESにより、それぞれZn含有量及びFe含有量の曲線プロファイルの交点を、この交点から母材中300nmのところに延在する境界層の始点として考慮することで境界層の始まりを検出することができる。
【0073】
別の好ましい実施形態では、本発明による平鋼生産物は、上記の本発明による方法で製造される。
【発明を実施するための形態】
【0074】
以下、本発明を実施例にもとづいて詳しく説明する。
【0075】
試験のために表1に示される組成の7つの溶融物A~Gを作製し、これらの7つの溶融物から従来の仕方で厚さ1.8~2.5mmの熱延鋼帯を11個作製した。その際、溶融物C、E、F、Gは、本発明による鋼組成の設定値に相当し、これに対して溶融物A及びBではSi含有量が過度に少なく、溶融物DではSi含有量が過度に少なく、Al含有量が過度に高い。
【0076】
熱延鋼帯を従来の仕方で酸洗し、表2に示される製造パラメータでさらに処理した。その際、熱延鋼帯をそれぞれ表2に示された冷延加工度「KWG」で冷延鋼帯へ圧延し、冷延鋼帯を、それぞれ第1の比較的高速の加熱レート「ThetaH1」で転換温度「TW」に加熱し、次いで第2の比較的低速の加熱レート「ThetaH2」で保持ゾーン温度「THZ」とし、この保持ゾーン温度で5~15sの継続時間「tHZ」にわたり冷延鋼帯を露点「TP」雰囲気で保持した。その後、冷延鋼帯をまず50~300sの期間「tLK」内で低速で中間温度「TLK」へ冷却し、次いでこの中間温度「TLK」から冷却レート「ThetaQ」で冷却停止温度「TAB」へ高速で急冷し、この温度で冷延鋼帯を10~60sの継続時間「tQ」にわたり保持した。続いて、平鋼生産物を最大80K/sの加熱レート「ThetaB1」で処理温度「TB」に熱した。平鋼生産物を処理温度で保持しなかった。続いて平鋼生産物にその他の点では従来の仕方で行われる溶融浸漬コーティングを以下の組成の溶融浴中で行った:2重量%以下のAl、2重量%以下のMg、残部亜鉛及び不可避不純物。最後に溶融物A~Fの平鋼生産物を少なくとも5K/sの冷却レート「ThetaB2」で室温に急冷した。溶融浸漬コーティングの後に溶融物Gの平鋼生産物を、まず温度TGAで継続時間tGAにわたり焼戻しし、焼戻し後に初めて少なくとも5K/sの冷却レートで室温に急冷した。
【0077】
実験A1~G12の平鋼生産物から試験片を採取し、組織を検査して機械的特性を調べた。試験片名の欄のアルファベットは、試験片材料を構成する表1の溶融物を示す。組織検査の結果を表3に示し、機械的特性の試験結果を表4に示す。その際、「MA」は、全組織に対する焼戻しされたマルテンサイトの割合、「M」は全組織に対する焼戻しされないマルテンサイトの割合、「F」はフェライトの割合、「B」はベーナイトの割合、「RA」は残留オーステナイトの割合を示す。
【0078】
1/3t位置の横断面、すなわち鋼基材の板厚の1/3のところで採取した断面の組織検査を行った。断面は走査型電子顕微鏡(REM)による検査用に前処理し、3%ナイタールエッチングで処理した。組織構造が微細であるため、組織を5000倍に拡大してREM観察することによって特徴を調べた。ASTM E975によるX線回折(XRD)によって残留オーステナイトの定量を行った。断面試験片の他に採取した別の試験片について境界層と、境界層に隣接する領域における元素分布のGDOES検査を行った。母材の元素含有量の検出を1/3t位置における燃焼分析ICP-OES(inductively coupled plasma optical emission spectrometry)によって行った。DIN EN ISO6892:2009、試験片形状2により、平鋼生産物の中心で採取された長尺試験片で機械的特性である降伏強度「Rp02」、引張強度「Rm」、及び伸び「A80」の試験を行った。亜鉛系防食被覆の密着性をSEP1931によるKSTとして検出し、ISO16630に従って穴広げ率を検出した。
【0079】
実験は、本発明により作製された試験片C4、C5、E8、F10が[(Si+Mn)/Cr]_GSの比率が最大15の非常に低い値を有することを示す。同時に、これらの試験片は防食被覆の1.5未満の優れた密着性と、25%を超える非常に良好な穴広げ率とを示す。これと比較して、同じ強度クラスであるが[(Si+Mn)/Cr]_GSの値が15より大きい鋼の試験片は、より劣る成形性及びより劣る被覆密着性を示す。試験片E9は、ガス混合物中の窒素の水蒸気による加湿が少なすぎ、それに伴い露点が低すぎる場合に、引張強度と穴広げ率の積(引張率穴広げ率)のまだ十分な値を達成することが可能ではあるが、防食被覆の密着性が損なわれることを示す。実験A1、B2、F11の試験片では、焼鈍した材料における降伏点(Streckgrenze)と引張強度との差の増加により、引張強度穴広げ率の積について十分な値に達しないことがわかる。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】