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特許7029576化合物及びその製造方法、並びに、複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】化合物及びその製造方法、並びに、複合材料
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/00 20060101AFI20220224BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20220224BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C01G25/00
C01G41/00 Z
C01G39/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021549561
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014478
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2020106688
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】秋次 宏二
(72)【発明者】
【氏名】磯部 敏宏
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167924(WO,A1)
【文献】特開2020-121895(JP,A)
【文献】特開2019-151839(JP,A)
【文献】特開昭62-138314(JP,A)
【文献】磯部敏宏 ほか,O-3 負の熱膨張率を有するリン酸硫酸ジルコニウムの合成とそのメカニズム,第28回無機リン化学討論会講演要旨集,日本,日本無機リン化学会,2019年09月13日,pp.42-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
C01B 25/45
C01G 25/00
C01G 41/00
C01G 39/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物。
【請求項2】
組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物。
【請求項3】
負の熱膨張率を示すことを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項4】
負の熱膨張率を示すことを特徴とする請求項2記載の化合物。
【請求項5】
30℃~100℃に加熱した際、100℃体積は、30℃体積に対して0.15%~2.0%収縮することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
30℃~200℃に加熱した際、200℃体積は、30℃体積に対して1.0%~3.0%収縮することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の化合物。
【請求項7】
30℃~300℃に加熱した際、300℃体積は、30℃体積に対して1.0%~3.0%収縮することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の化合物からなる粉末を圧縮してなる成形体であって、体積抵抗率が2000Ω・cm以上である成形体
【請求項9】
請求項1~7の何れか1項に記載の化合物からなる粉末であって、圧力63MPaで圧縮して成形体とした際に体積抵抗率が2000Ω・cm以上となる粉末
【請求項10】
請求項1~7の何れか1項に記載の化合物からなる粉末であって、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が0.05μm以上100μm以下である粉末
【請求項11】
請求項1~7の何れか1項に記載の化合物からなる粉末であって、BET比表面積が1m/g以上50m/g以下である粉末
【請求項12】
請求項1~7の何れか1項に記載の化合物からなる粉末であって、表面処理化合物により表面処理された粉末
【請求項13】
前記表面処理化合物が、シランカップリング剤である、請求項12に記載の粉末
【請求項14】
請求項1~の何れか1項に記載の化合物または請求項9~12の何れか1項に記載の粉末が、正熱膨張材料と混合、又は/及び正熱膨張材料に分散された複合材料。
【請求項15】
請求項1~の何れか1項に記載の化合物の製造方法であって、
少なくとも、Zr原料と、リン原料と、硫酸と、水と、必要に応じて上記組成式のMの原料とを含む混合物を水熱処理して水熱処理後混合物を得、前記水熱処理後混合物を固液分離および洗浄して洗浄後混合物を得、前記洗浄後混合物を乾燥させて乾燥後混合物を得、前記乾燥後混合物を300~1000℃の温度で焼成することを特徴とする化合物の製造方法。
【請求項16】
請求項12又は13に記載の粉末の製造方法であって、
少なくとも、Zr原料と、リン原料と、硫酸と、水と、必要に応じて上記組成式のMの原料とを含む混合物を水熱処理して水熱処理後混合物を得、前記水熱処理後混合物を固液分離および洗浄して洗浄後混合物を得、前記洗浄後混合物を乾燥させて乾燥後混合物を得、前記乾燥後混合物を300~1000℃の温度で焼成し、その後、表面処理化合物を用いて表面処理を行うことを特徴とする粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度が上昇すると体積が小さくなる負の熱膨張率を示す新規化合物及びその製造方法、並びに、該新規化合物を用いた複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や光学機器、燃料電池やセンサなどの精密さが要求される技術分野では、例えば複数の素材を組み合せてデバイスを構成する際、各素材間の熱膨張率差によって、位置ずれ、界面剥離、断線などが生じると、深刻な問題となる場合がある。そのため、熱膨張の制御技術が要求されている。熱膨張制御技術の一つとして、負の熱膨張率を有する材料(「負熱膨張材料」とも称する)を組み合わせて、全体の熱膨張率を制御する技術が注目されている。
【0003】
多くの物質は温度が上昇すると、熱膨張によって体積が増大する。これに対して、温めると逆に体積が小さくなる特性を備えた負熱膨張材料が希に存在する。
但し、負熱膨張材料と言っても、一般的には、ある特定の温度域でのみ負熱膨張を示し、それ以外の温度領域では、正の熱膨張を示す材料がほとんどである。
【0004】
負熱膨張材料としては、例えばβ-ユークリプタイト、タングステン酸ジルコニウム(ZrW)、リン酸タングステン酸ジルコニウム(ZrWO(PO)、ZnCd1-x(CN)、マンガン窒化物、ビスマス・ニッケル・鉄酸化物等が知られている。
【0005】
また、特許文献1には、新たな負熱膨張材料として、Bi1-xSbNiO(ただし、xは0.02≦x≦0.20である)が開示されている。
【0006】
特許文献2には、新たな負熱膨張材料として、Zr2-a12+δ(Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Crから選択される少なくとも1種であり、aは0≦a<2であり、xは0.4≦x≦1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表されることを特徴とする化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-48071号公報
【文献】WO2019/167924 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、上述のような負熱膨張材料が利用されており、より優れた低熱膨張性が求められている。また、部材の小型化に伴って配線の細線化が進行しているため、より高い絶縁性も求められている。
【0009】
さらにまた、前記特許文献2に開示された負熱膨張材料は、室温から500℃の範囲で負の熱膨張率を示し、硫黄の含有量(x)が大きいほど、特に100~180℃において負の熱膨張率を示し、低密度化をも実現できる材料であるため、有用な材料として注目されている。
他方、特定の用途では、特に室温から100℃、或いは室温から200℃、或いは室温から300℃の温度領域において負の熱膨張率を示す材料が求められている。例えば、樹脂材料の熱膨張率を制御する場合においては、正熱膨張材料としての樹脂材料に負熱膨張材料を加えて熱膨張率を調整する際、当該樹脂材料の融点若しくはガラス転移温度が低い場合には、室温から100℃、或いは室温から200℃、或いは室温から300℃の温度領域において負の熱膨張率を示す負熱膨張材料が求められる。
【0010】
そこで本発明は、従来とは異なる組成からなる、負の熱膨張率を示す化合物であって、且つ、絶縁抵抗が高い新たな化合物を提供せんとするものである。
さらに好ましくは、絶縁抵抗が高く、さらには、特に室温から100℃、或いは室温から200℃、或いは室温から300℃の温度領域において、特に優れた負の熱膨張率を示す新たな化合物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題解決のため、本発明は、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物(「本化合物1」と称する)を提案する。
【0012】
本発明はまた、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物(「本化合物2」と称する)を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提案する本化合物1,2はいずれも、負の熱膨張率を示す。よって、正の熱膨張率を示す材料(「正熱膨張材料」と称する)と混合して混合物である複合材料の熱膨張率の制御を行うことができる。また、本化合物1,2はいずれも、絶縁抵抗性に優れているため、絶縁抵抗性が求められる技術分野において有効に利用することができる。
【0014】
さらに本発明が提案する本化合物1は、特に室温から100℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示す。よって、室温から100℃の温度領域における熱膨張率の制御に好適に用いることができる。例えば正熱膨張材料と混合して得られる複合材料の室温から100℃の温度領域での熱膨張率の制御を実施することができる。
【0015】
また、本発明が提案する本化合物2は、特に室温から200℃及び室温から300℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示す。よって、室温から200℃及び室温から300℃の温度領域における熱膨張率の制御に好適に用いることができる。例えば正熱膨張材料と混合して得られる複合材料の室温から200℃及び室温から300℃の温度領域での熱膨張率の制御を実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<本化合物1>
以下、本発明の実施形態の一例に係る化合物(「本化合物1」と称する)について詳細に説明する。
【0018】
本化合物1は、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、0≦b<2.00、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物である。
【0019】
本化合物1の組成式において、bがb=0の場合、Zr2.0012.00+δ(式中、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物となる。他方、bが0<b<2.00の場合は、Zrサイトの一部がMで置換された化合物となる。
【0020】
本化合物1の組成式において、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される1種又は2種以上の組み合わせであるのが好ましい。
Zr2.0012.00+δ(式中、0<Y<0.30、Z≧2.00)におけるZrサイトの一部がこれらの元素Mで置換された化合物は、ZrサイトがZrのみからなる当該化合物と同様に、負の熱膨張率を示し、かつ、高絶縁抵抗性を実現することができる。
【0021】
本化合物1の組成式中、M元素の量(原子比)を示す「b」は、0以上かつ2.00未満であることが好ましく、中でも0以上或いは1.50未満、その中でも0以上或いは1.00以下、その中でも0以上或いは0.80以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
本化合物1の組成式中、S(硫黄)の量(原子比)を示す「Y」は、0よりも大きくかつ0.30未満であることが好ましく、中でも0.10以上或いは0.30未満、その中でも0.15以上或いは0.30未満、その中でも0.20以上或いは0.30未満であるのがさらに好ましい。
【0023】
さらに、P(リン)の量(原子比)を示す「Z」は、2.00以上であるのが好ましく、中でも2.40を超えることがさらに好ましい。他方、3.50以下であるのが好ましく、その中でも3.00以下、その中でも2.80以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
また、本化合物1の組成式中の「δ」は、電荷中性条件を満たすように定まる値であり、通常は-2.50以上1.00以下である。中でも-2.00以上或いは0.50以下、その中でも-1.50以上或いは0.00以下、その中でも-1.50以上或いは-0.50以下、その中でも-1.33を超える或いは-0.80未満である場合がある。尚、「電荷中性条件」は完全に中性でなくてもよく、化合物として許容される範囲での酸素欠損や酸素過剰の組成は許容するものとする。
【0025】
酸素を除く各元素量、すなわち、Zr、M、S及びPの量は、全量溶解してICP-OESにより測定することができる。また、酸素量の厳密な測定は困難であることから、酸素を除く元素の化学比から電気的中性として推定される組成比を用いるものとする。
【0026】
化合物1に存在する結晶相としては、α-ZrSP12相(ICDDカード番号:04-017-0937又は/及びICDDカード番号:00-038-0489)を挙げることができ、この結晶が主相であること、すなわち、化合物1をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析して得られるX線回折パターンにおいて、この結晶に由来するピーク強度が最も高いことが好ましい。つまり、一部に他の結晶相が含まれていてもよい。
【0027】
<本化合物2>
以下、本発明の実施形態の他例に係る化合物(「本化合物2」と称する)について詳細に説明する。
【0028】
本化合物2は、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、0≦b<2.00、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物である。
【0029】
本化合物2の組成式において、bがb=0の場合、Zr2.0012.00+δ(式中、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物となる。他方、bが0<b<2.00の場合は、Zrサイトの一部がMで置換された化合物となる。
【0030】
本化合物2の組成式において、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される1種又は2種以上の組み合わせであるのが好ましい。
Zr2.0012.00+δ(式中、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00)におけるZrサイトの一部がこれらの元素Mで置換された化合物は、ZrサイトがZrのみからなる当該化合物と同様に、負の熱膨張率を示し、かつ、高絶縁抵抗性を実現することができる。
【0031】
本化合物2の組成式中、M元素の量(原子比)を示す「b」は、0以上かつ2.00未満であることが好ましく、中でも0以上或いは1.50未満、その中でも0以上或いは1.00以下、その中でも0以上或いは0.80以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
本化合物2の組成式中、S(硫黄)の量(原子比)を示す「Y」は、0.30以上かつ1.00以下であることが好ましく、中でも0.30以上或いは0.80以下、その中でも0.30以上或いは0.50以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
さらに、P(リン)の量(原子比)を示す「Z」は、2.00より大きい必要がある。他方、3.50以下であるのが好ましく、その中でも3.00以下、その中でも2.80以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
また、本化合物2の組成式中の「δ」は、電荷中性条件を満たすように定まる値であり、通常は-2.50以上1.00以下である。中でも-2.00以上或いは0.50以下、その中でも-1.50以上或いは0.00以下、その中でも-1.50以上或いは-0.50以下、その中でも-1.33を超える或いは-0.80未満である場合がある。尚、「電荷中性条件」は完全に中性でなくてもよく、化合物として許容される範囲での酸素欠損や酸素過剰の組成は許容するものとする。
【0035】
酸素を除く各元素量、すなわち、Zr、M、S及びPの量は、全量溶解してICP-OESにより測定することができる。また、また、酸素量の厳密な測定は困難であることから、酸素を除く元素の化学比から電気的中性として推定される組成比を用いるものとする。
【0036】
化合物2に存在する結晶相としては、α-ZrSP12相(ICDDカード番号:04-017-0937又は/及びICDDカード番号:00-038-0489)を挙げることができ、この結晶が主相であること、すなわち、化合物2をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析して得られるX線回折パターンにおいて、この結晶に由来するピーク強度が最も高いこと、が好ましい。つまり、一部に他の結晶相が含まれていてもよい。
【0037】
<表面処理>
本化合物1,2はいずれも、表面処理をされたものであってもよい。
本化合物1,2はいずれも、所定の表面処理化合物により表面処理されたものであることにより、絶縁性、耐薬品性が向上し、樹脂に対する濡れ性向上に寄与する。
【0038】
前記表面処理化合物としては、表面処理剤としてのシランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤などの他、有機カルボン酸、有機アミンといった有機化合物、さらには、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどの無機化合物のいずれも使用可能である。
【0039】
特に、表面処理化合物としてシランカップリング剤を表面処理剤として用いることにより、本発明の化合物を構成する成分の絶縁性の向上、成分溶出防止や、樹脂と混合した場合の濡れ性の向上に対して有意な効果を示す。
【0040】
表面処理剤としての前記シランカップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系、アルキル系等の各種のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
表面処理剤としての前記カルボン酸としては、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等を挙げることができる。
【0042】
表面処理剤としての前記アミンとしては、脂肪族アミン等を挙げることができる。特に炭素数6以上18以下、とりわけ炭素数10以上18以下である脂肪族アミンが好適に使用可能である。具体的には、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどを挙げることができる。
【0043】
<D50>
本化合物1,2はいずれも、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が0.05μm以上100μm以下であるのが好ましい。
本化合物1,2のD50が0.05μm以上であれば、例えば樹脂など基材への分散性が良好となることから好ましく、100μm以下であれば、成形体の平滑性が良好になることから好ましい。
かかる観点から、本化合物1,2のD50は0.1μm以上であるのがより好ましく、中でも0.5μm以上、その中でも1μm以上であるのがさらに好ましい。一方、50μm以下であるのがより好ましく、中でも40μm以下、その中でも30μm以下であるのがさらに好ましい。
【0044】
<BET比表面積>
本化合物1,2はいずれも、BET比表面積が1m/g以上50m/g以下であるのが好ましい。
本化合物1,2のBET比表面積が1m/g以上であれば、例えば成形体の平滑性が良好になることから好ましく、50m/g以下であれば、例えば樹脂など基材への分散性が良好となることから好ましい。
かかる観点から、本化合物1,2のBET比表面積は2m/g以上であるのがより好ましく、中でも5m/g以上、その中でも10m/g以上、さらにその中でも15m/g以上であるのがさらに好ましい。一方、45m/g以下であるのがより好ましい。
【0045】
<体積抵抗率>
本化合物1,2は、体積抵抗率を2000Ω・cm以上とすることができる。
体積抵抗率は、絶縁性が求められる用途の場合は高い方が望ましい。
かかる観点から、本化合物1,2の体積抵抗率は10000Ω・cm以上であるのがより好ましく、中でも100000Ω・cm以上、その中でも1000000Ω・cm以上であるのがさらに好ましい。
【0046】
<負の熱膨張率>
本化合物1,2は、負の熱膨張率を示す。例えば30℃~100℃の温度領域、30℃~200℃の温度領域、30℃~300℃の温度領域などにおいて負の熱膨張率を示す。
【0047】
中でも、本化合物1は、特に30℃~100℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示す。具体的には、30℃~100℃に加熱した際、100℃体積が30℃体積に対して0.15%~2.0%収縮することができる。中でも0.15%~1.0%、その中でも0.15%~0.70%、さらにその中でも0.15%~0.45%収縮するのがさらに好ましい。
なお、上記各範囲の下限値は0.15%であるが、下限値は0.20%であるのが好ましく、0.25%であることがさらに好ましい。
【0048】
他方、本化合物2は、特に30℃~200℃の温度領域及び30℃~300℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示す。
具体的には、30℃~200℃に加熱した際、200℃体積が30℃体積に対して1.0%~3.0%収縮することができる。中でも1.0%~2.0%、その中でも1.1%~2.0%、さらにその中でも1.1%~1.5%収縮するのがさらに好ましい。なお、当該各範囲の下限値は1.0%であるが、下限値は1.05%であるのが好ましく、1.1%であることがさらに好ましい。
また、30℃~300℃に加熱した際、300℃体積が30℃体積に対して1.0%~3.0%収縮することができる。中でも1.0%~2.0%、その中でも1.1%~2.0%、さらにその中でも1.1%~1.5%収縮するのがさらに好ましい。
なお、上記各範囲の下限値は1.0%であるが、下限値は1.05%であるのが好ましく、1.1%であることがさらに好ましい。
【0049】
<製造方法>
次に、本化合物1,2の製造方法について説明する。但し、本化合物1,2の製造方法が次に説明する製造方法に限定される訳ではない。
【0050】
本化合物1,2の製造方法の一例として、少なくとも、Zr原料と、リン原料と、硫酸と、水と、必要に応じて上記組成式のMの原料(「M原料」と称する)とを含む混合物を水熱処理して水熱処理後混合物を得、前記水熱処理後混合物を固液分離および洗浄して洗浄後混合物を得、前記洗浄後混合物を乾燥させて乾燥後混合物を得、前記乾燥後混合物を300~1000℃の温度で焼成することを特徴とする化合物の製造方法を挙げることができる。
以下、この製造方法について順次説明する。
【0051】
Zr原料としては、例えばオキシ塩化ジルコニウム乃至その水和物、塩化ジルコニウム乃至その水和物、オキシ酢酸ジルコニウム乃至その水和物、酢酸ジルコニウム乃至その水和物、硫酸ジルコニウム乃至その水和物、オキシ硝酸ジルコニウム乃至その水和物、硝酸ジルコニウム乃至その水和物、炭酸ジルコニウム乃至その水和物、炭酸ジルコニウムアンモニウム乃至その水和物、炭酸ジルコニウムナトリウム乃至その水和物、炭酸ジルコニウムカリウム乃至その水和物、などを用いることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0052】
リン原料としては、リン酸(HPO)やリン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸アンモニウム(NH(PO)、ピロリン酸、ポリリン酸を用いることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0053】
M原料としては、元素Mを含む化合物、例えば元素Mの硫酸塩乃至その溶液、塩化物塩乃至その溶液、硝酸塩、酢酸塩、酸化物、ポリ酸乃至その塩などを挙げることができる。例えば、MがTiである場合、硫酸チタン(IV)溶液(Ti(SO))、塩化チタン(IV)溶液(TiCl)を挙げることができ、MがCeである場合は、硫酸セリウム(Ce(SO))、塩化セリウム(CeCl)を挙げることができ、MがSnである場合は、第一塩化スズ、第二塩化スズ、硫酸スズ、酸化スズ(SnO)を挙げることができ、MがMnである場合は、二酸化マンガン(MnO)を挙げることができ、MがWである場合は、三酸化タングステン(WO)、パラタングステン酸アンモニウム((NH10(H1242))を挙げることができ、MがMoである場合は、三酸化モリブデン(MoO)、七モリブデン酸六アンモニウム((NHMo24)、モリブデン酸二アンモニウム((NHMoO)挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。なお、上記化合物は無水物として記載しているが、水和物も含まれる。
【0054】
必要に応じてS(硫黄)原料として、例えば硫酸アンモニウム、硫黄粉末などを配合することもできる。
【0055】
Zr原料と、リン酸と、必要に応じてM原料と、硫酸と、水とを混合し、撹拌して得られた水溶液(混合物)を水熱処理して水熱処理後混合物を得るようにすればよい。
この際、リン原料(P原料)とZr原料は、P/Zrモル比を目的とする化合物と同一とするか、またはリン原料を多めにしてもよい。
【0056】
水熱処理の方法としては、例えば、水溶液(混合物)を密封可能な容器に入れて、100~230℃に加熱して圧力が掛かった状態で3時間~3日間静置するようにして水熱処理すればよい。
【0057】
次に、前記水熱処理後混合物を固液分離及び洗浄して洗浄後混合物を得るようにすればよい。すなわち、固液分離後、さらに水を加えて固液分離する方法または通水洗浄などの方法により洗浄すればよい。この際、必要に応じて洗浄を繰り返すのが好ましい。
この洗浄によって、余分なS成分を洗浄することができる。
【0058】
次に、前記洗浄後混合物を乾燥させて乾燥後混合物を得るようにすればよい。
この際、例えば、前記洗浄後混合物を、その品温が60~150℃となるように加熱して乾燥させればよい。但し、乾燥方法は適宜採用すればよい。
なお、例えばアズワン製ETTAS定温乾燥器などのボックス型乾燥機を使用した場合、乾燥装置の設定温度と品温はほぼ同じ温度になることを確認している。
【0059】
次に、前記乾燥後混合物を焼成して本化合物を製造すればよい。
この際、前記乾燥後混合物の焼成は、その品温が300~1000℃、中でも400℃以上或いは1000℃以下、その中でも400℃以上或いは800℃以下を1~24時間保持するように焼成すればよい。
なお、例えば光洋サーモシステム製KBF1150℃シリーズの電気炉などのボックス型電気炉を使用した場合、焼成装置の設定温度すなわち炉内温度と品温はほぼ同じ温度になることを確認している。
【0060】
また、表面処理を実施する場合には、前記焼成後必要に応じて、解砕または粉砕を実施した後、表面処理を実施してもよい。
当該表面処理は、前述の表面処理化合物を用いて表面処理すればよい。
当該表面処理の具体的方法は、本化合物1,2と表面処理化合物とを乾式混合してもよいし、湿式混合してもよい。
湿式混合は、水、水と水溶性有機溶媒を水への溶解度の範囲内で混ぜた混合溶媒、又は、有機溶媒などを用いて実施することができる。
【0061】
但し、本化合物1,2の製造方法は、上記製造方法に限定するものではない。
【0062】
<用途>
本化合物1,2は、負熱膨張材料として、正の熱膨張率を有する材料(正熱膨張材料)と混合することで、換言すると、正熱膨張材料中に負熱膨張材料を分散させることで、熱膨張率が制御された複合材料を形成することができる。
【0063】
正熱膨張材料としては、例えば樹脂材料、金属材料、セラミックス材料を挙げることができる。
【0064】
<語句の説明>
本明細書において「α~β」(α,βは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含する。
また、「α以上」(αは任意の数字)或いは「β以下」(βは任意の数字)と表現した場合、「αより大きいことが好ましい」或いは「β未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例
【0065】
本発明は、以下の実施例により更に説明する。但し、以下の実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0066】
<実施例1>
ZrClO・8HOとリン酸(HPO)とを、それぞれ0.8mol/Lになるように蒸留水に溶解させた後混合し、続いて、これらの水溶液各20mlと6mlの98%HSOとを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を雰囲気温度として110℃を設定した熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0067】
<実施例2>
ZrClO・8HOとリン酸(HPO)とを、それぞれ0.8mol/Lになるように蒸留水に溶解させた後混合し、続いて、これらの水溶液各20mlと4.5mlの98%HSOとを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0068】
<参考例1>
ZrClO・8HOとNHPOとを、それぞれ0.8mol/Lになるように蒸留水に溶解させ、続いて、これらの水溶液各20mlと6mlの98%HSOとを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
その後、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、180℃で2日間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理後、取り出したテフロン(登録商標)容器内には白い沈殿物が生成されていた。この沈殿物を含んだ溶液を蒸発皿に流し込み、約100℃のヒータ上で加熱して余分な水分を蒸発させた。蒸発皿ごと300℃の電気炉で12時間更に乾燥させた。その後、300℃(品温)で乾燥したサンプルを、さらに電気炉を用いて500℃(品温)で4時間焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0069】
<参考例2>
焼成温度を700℃(品温)とした以外、参考例1と同様に化合物(サンプル)を得た。
【0070】
<実施例3>
ZrClO・8HOを0.8mol/Lに調製した水溶液20mlと、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)を1.1mol/Lに調製した水溶液20mlとを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOとを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0071】
<実施例4>
ZrClO・8HOを0.8mol/Lに調製した水溶液20mlと、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlとを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0072】
<実施例5>
実施例1と同じ手順により得られた化合物(サンプル)5gに対して、表面処理化合物として、シランカップリング剤3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン0.21gを加え、ミキサー(大阪ケミカル製フォースミルFM-1)で2分間混合した後、140℃1時間の条件で熱処理して化合物(サンプル)を得た。
【0073】
<実施例6>
実施例3と同じ手順により得られた化合物(サンプル)5gに対して、表面処理化合物として、シランカップリング剤としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを0.20g加え、ミキサーで2分間混合した後、140℃1時間の条件で熱処理して化合物(サンプル)を得た。
【0074】
<実施例7>
実施例3と同じ手順より得られた化合物(サンプル)5gに対して、表面処理化合物として、シランカップリング剤としてのヘキシルトリメトキシシランを0.19g加え、ミキサー4で2分間混合した後、140℃1時間の条件で熱処理して化合物(サンプル)を得た。
【0075】
<実施例8>
ZrClO・8HOを0.72mol/Lに調製した水溶液20mlに、30%硫酸チタン溶液1.28gを添加して混合し、そこへリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0076】
<実施例9>
ZrClO・8HOを0.64mol/Lに調製した水溶液20mlに、30%硫酸チタン溶液2.56gを添加して混合し、そこへリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0077】
<実施例10>
ZrClO・8HOを0.72mol/Lに調製した水溶液20mlに、CeCl・7HOを0.61g添加して混合し、そこへリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0078】
<実施例11>
ZrClO・8HOを0.64mol/Lに調製した水溶液20mlに、CeCl・7H2Oを1.22g添加して混合し、そこへリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlを混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0079】
<実施例12>
リン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlにタングステン酸アンモニウムパラ5水和物1.57gを添加し、これを、ZrClO・8HOを0.72mol/Lに調製した水溶液20mlに添加混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の雰囲気の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0080】
<実施例13>
リン酸二水素アンモニウム(NHPO)を0.9mol/Lに調製した水溶液20mlに七モリブデン酸六アンモニウム4水和物0.90gを添加し、これを、ZrClO・8HOを0.72mol/Lに調製した水溶液20mlに添加混合し、続いて、この水溶液に6mlの98%HSOを混合し、90分間スターラーを用いて攪拌した。
次に、攪拌した後の水溶液(混合物)を、テフロン(登録商標)製の密閉容器に注ぎ、耐圧ステンレス製外筒にセットした。そして、この外筒にセットした容器を熱風循環オーブンに入れて加熱し、130℃で12時間、その状態を保持して水熱処理を行った。
水熱処理を行った後、固液分離、上澄み液の除去、さらに水を加えて固液分離を繰り返す洗浄を行った後、蒸発皿に流し込み、固形分を110℃の熱風乾燥機で加熱して乾燥させた。
乾燥した粉末を電気炉に入れて、500℃(品温)を4時間保持するように焼成して化合物(サンプル)を得た。
【0081】
(組成分析)
作製した化合物(サンプル)の組成(原子比)を、ICP-OES(Inductivity Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)を用いて分析した。
【0082】
=ICP-OES=
・使用したICP-OES装置:700シリーズ、ICP-OES(アジレント・テクノロジー株式会社)
【0083】
(D50)
作製した化合物(サンプル)を、純水中に入れて超音波を照射して(40W、3分間)分散させた後、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラック(商品名)MT-3300EXII(型番)」)により、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50を測定した。
【0084】
(BET比表面積)
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製「Macsorb(HM model-1201)」)を用いて、JIS R 1626:1996(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)の「6.2流動法の(3.5)一点法」に準拠して、作製した化合物(サンプル)のBET比表面積(SSA(BET))の測定を行った。その際、キャリアガスであるヘリウムと、吸着質ガスである窒素の混合ガスを使用した。また脱気条件は300℃×10分間とした。
【0085】
(体積抵抗率)
作製した化合物(サンプル)を、三菱ケミカルアナリテック社製粉体抵抗測定システムMCP-PD51型を用いて圧力63MPaで圧縮し、四端子法に従い体積抵抗率を測定した。この装置の測定上限を超えた試料は、別途圧力63MPaで圧縮したペレットを作製し、三菱ケミカルアナリテック社製高抵抗計ハイレスタUX/MCP―HT800を用いて測定した。
【0086】
(熱膨張率)
作製した化合物(サンプル)の格子体積の膨張率を次の方法を用いて測定した。
下記の粉末X線回折装置に多目的試料高温装置ユニットを取り付け、30℃、100℃においてX線回折パターンを測定した。測定は目標温度に到達後10分間静置後に開始した。
得られたX線回折パターンと解析ソフトウェア(PDXL2)を用いて結晶構造を精密化し、各温度における格子定数を算出した。格子定数から格子体積を算出した。
表には、30~100℃の格子体積膨張率、すなわち、30℃時の格子体積(「30℃体積」と称する)を基準として、100℃時の格子体積(「100℃体積」と称する)の変化した割合、すなわち((30℃体積-100℃体積)/30℃体積)×100を体積膨張率(%)として算出して、示した。
同様に、30~200℃の格子体積膨張率及び30~300℃の格子体積膨張率を算出して表に示した。
【0087】
[高温XRD]
・使用装置:Ultima IV((株)リガク)
・雰囲気:Air
・管電流/管電圧:40kV/40mA
・ターゲット:Cu
・ステップ幅:0.02°
・測定範囲(走査速度):10~80°(4°/min)
・測定温度:30℃、100℃、200℃、300℃
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W,Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される本化合物1、並びに、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される本化合物2はいずれも、負の熱膨張率を示し、且つ、絶縁抵抗性に優れていることが分かった。
【0091】
上記実施例1,2,5で得られた化合物は、X線回折において得られた回折パターンにおいて、α-ZrSP12相(ICDDカード番号:00-038-0489)を主相として存在していることが確認された。
上記実施例3、4、6-13及び参考例で得られた化合物は、X線回折において得られた回折パターンにおいて、α-ZrSP12相(ICDDカード番号:04-017-0937)を主相として存在していることが確認された。
【0092】
負の熱膨張率に関しては、本化合物1、2はいずれも、30~100℃、30~200℃、30~300℃の温度領域において負の熱膨張率を示すことが分かった。
中でも、本化合物1は、室温(30℃)から100℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示すことが分かった。
例えば実施例1,2、5、9は、参考例1、2に比べて、Sの量(Y)が少なく、且つ、Pの量が多いという特徴を有している。これら実施例1,2、5、9は、30℃から100℃の温度領域において、より優れた負の熱膨張率を示すことが確認された。これは、Sの原子比(Y)が0.30未満であり、且つ、Pの原子比(Z)が2.00以上であることにより、化合物としての構造が安定し、室温(30℃)から100℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示すものと推察される。
【0093】
他方、本化合物2は、室温(30℃)から200℃の温度領域及び室温(30℃)から300℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示すことが分かった。
例えば実施例3,4、6-8、10-13は、参考例1、2に比べて、Sの量(Y)が少なく、且つ、Pの量が多い一方、実施例1、2に比べると、Sの量(Y)が多く、且つ、Pの量が多いという特徴を有している。そして、これら実施例3,4、6-8、10-13は、30℃から200℃の温度領域及び30℃から300℃の温度領域において、より優れた負の熱膨張率を示すことが確認された。これは、Sの原子比(Y)が0.30以上1.00以下であり、且つ、Pの原子比(Z)が2.00より大きいことにより、室温から200℃の温度領域及び室温から300℃の温度領域において、顕著に優れた負の熱膨張率を示すものと推察される。
【0094】
なお、組成式:Zr2.0012.00+δ(式中、0<Y<0.30、Z≧2.00)及びZr2.0012.00+δ(式中、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00)で示される化合物に関しては、前記特許文献2(WO2019/167924 A1)に開示された知見などから、そのZrサイトの一部が、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moなどの元素で置換された化合物も、前記化合物同様に、負の熱膨張率を示し、かつ、高絶縁抵抗性を実現することができると推察することができる。
【要約】
負の熱膨張率を示し、且つ絶縁抵抗が高い新たな化合物を提供する。
組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0<Y<0.30、Z≧2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物、又は、組成式Zr2.00-b12.00+δ(式中、Mは、Ti、Ce、Sn、Mn、Hf、Ir、Pb、Pd、Cr、W、Moから選択される少なくとも1種であり、0≦b<2.00、0.30≦Y≦1.00、Z>2.00、δは電荷中性条件を満たすように決まる値)で表される化合物である。