(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-22
(45)【発行日】2022-03-03
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/88 20060101AFI20220224BHJP
A61F 2/90 20130101ALI20220224BHJP
A61F 2/915 20130101ALI20220224BHJP
【FI】
A61F2/88
A61F2/90
A61F2/915
(21)【出願番号】P 2021571402
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2021029676
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020136261
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520305513
【氏名又は名称】正林 康宏
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】正林 康宏
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/145596(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125320(WO,A1)
【文献】特表2013-517913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0024205(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/88
A61F 2/90
A61F 2/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波線状パターンを有し且つ軸線方向に並んで配置される複数の波線状パターン体と、軸線周りに配置され且つ隣り合う前記波線状パターン体を接続する複数の接続要素と、を備え、縮径された状態でカテーテルに挿入されるステントであって、
前記波線状パターンは、第1脚部、第2脚部及び第3脚部と、前記第1脚部の一方の第1端部と前記第2脚部の一方の第1端部とを連結する第1頂部と、前記第2脚部の他方の第2端部と前記第3脚部の一方の第1端部とを連結する第2頂部とを備える複数の波形単位により形成され、前記第3脚部の他方の第2端部は、軸線周りに隣り合う前記波形単位の前記第1脚部の他方の第2端部と接続されており、
前記接続要素の一方の第1端部は、軸線方向において隣り合う一方の前記波形単位の前記第1頂部に接続され、前記接続要素の他方の第2端部は、軸線方向に隣り合う他方の前記波形単位の前記第1脚部の前記第2端部と接続される、
ステント。
【請求項2】
前記波形単位の前記第2頂部は、前記ステントのカテーテルへの挿入方向において遠位側に突出するように形成される、
請求項1に記載のステント。
【請求項3】
前記第3脚部と、軸線周りに隣り合う前記波形単位の前記第1脚部とは、その間にスリットが形成されるように、それぞれの端部同士において連結されている、
請求項1又は2に記載のステント。
【請求項4】
軸線方向に対して垂直な径方向から視たときに、前記波線状パターン体の前記波線状パターンの環方向は、前記径方向に対して傾斜している、
請求項1~3までのいずれか一項に記載のステント。
【請求項5】
前記第1脚部の長さと前記第2脚部の長さとを足した長さは、前記第3脚部の長さよりも長い、
請求項4に記載のステント。
【請求項6】
前記第1脚部の長さと前記第2脚部の長さとを足した長さは、前記第3脚部の長さよりも短い、
請求項4に記載のステント。
【請求項7】
前記接続要素の長さは、前記第2脚部の長さよりも短く、
軸線方向に対して垂直な径方向から視たときに、前記波線状パターン体の前記波線状パターンの環方向は、前記径方向と略一致している、
請求項1~3までのいずれか一項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔を拡張するために生体の管腔構造内に留置されるステントに関する。
【背景技術】
【0002】
血管、気管、腸などの管腔構造を有する生体器官において、これらに狭窄症が生じた場合、狭窄部内腔を拡張することによって病変部位の開通性を確保するために、網状円筒形のステントは使用される。上述した生体器官は、局所的に屈曲やテーパー構造(すなわち、内腔断面径が軸線方向に局所的に異なる管状構造)を有することが多い。そのような複雑な血管構造に柔軟に適合できる形状追従性(conformability)の高いステントは、望まれている。また、近年では、脳血管治療へステントを適用することも行われている。脳血管系は、生体の管状器官の中でも複雑な構造を有する。脳血管系には、屈曲した部位やテーパー構造を有する部位が多数存在する。そのため、ステントは、特に高い形状追従性を必要とする。
【0003】
ステントの構造は、一般的に、オープンセルタイプとクローズドセルタイプとの2種類に大別される。オープンセル構造のステントは、その長手軸線方向に非常に柔軟な力学特性を発揮するため、形状追従性が高く、屈曲した管状器官に留置するステントの構造として有効とされてきた。しかし、このようなオープンセル構造のステントでは、屈曲時にステントのストラットの一部がフレア状にステントの径方向外側に飛び出す恐れがあるため、ステントを留置した際に血管等の生体の管状器官の組織を損傷させる危険性がある。一方、クローズドセル構造のステントとして、オープンセル構造のステントでは困難であった術中のステントの再留置を部分的に可能にしたものや、術中のステントの完全な再留置を可能にしたものがある。
【0004】
上述したクローズドセル構造のステントは、オープンセル構造のステントのようにステントのストラットがステントの径方向外側に飛び出す恐れはないが、構造上、形状追従性に欠ける傾向がある。
このような課題を解決するために、クローズドセル構造のステントでありながら高い柔軟性を発揮する技術として、螺旋状のステントが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のステントは、展開状態において、波線状パターンを有する螺旋状の環状体と、隣り合う環状体を接続するコイル状要素とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステントの軸線方向(軸線方向、中心軸線方向)及び径方向(軸線方向に対して垂直な方向)の2種類の力学的柔軟性は、形状追従性の高いステントの実現に重要とされている。ここで、軸線方向の柔軟性は、軸線方向に沿った屈曲に対する剛性又は屈曲のしやすさを意味し、軸線方向に沿って柔軟に屈曲させて生体の管状器官の屈曲部位に適応させるために必要な特性である。一方、径方向の柔軟性は、軸線方向に対して垂直な方向の拡縮に対する剛性又は拡縮のしやすさを意味し、生体の管状器官の管腔構造の外壁の形状に沿ってステントの半径を柔軟に変化させてステントを管腔構造の外壁に密着させるために必要な特性である。
【0007】
上述した特許文献1のように、波線状パターンを有する螺旋状の環状体とこれらを接続するコイル状要素とを備えたステントは、従来のクローズドセルタイプのステントに比べて高い形状追従性を有している。しかし、特許文献1のステントのセル構造では、屈曲の半径がある程度小さくなると、いわゆる「キンク」と呼ばれる現象が生じる。キンクとは、ステントの断面が潰れて略楕円形になることをいう。屈曲した管状器官内に留置したステントにキンクが生じると、管状器官の内壁とステントとの隙間に血栓が溜まり、管状器官内の血液等の液体の流れを阻害する可能性がある。そのため、ステントには、形状追従性だけでなく、屈曲させた場合に断面の形状が円形に保たれるようにすることが求められている。以下の説明では、ステントを屈曲させたときに、断面の形状が円形に保たれる程度を「開存性」という。
【0008】
本発明の目的は、屈曲に対して高い開存性を有するステントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、波線状パターンを有し且つ軸線方向に並んで配置される複数の波線状パターン体と、軸線周りに配置され且つ隣り合う前記波線状パターン体を接続する複数の接続要素と、を備え、縮径された状態でカテーテルに挿入されるステントであって、前記波線状パターンは、第1脚部、第2脚部及び第3脚部と、前記第1脚部の一方の第1端部と前記第2脚部の一方の第1端部とを連結する第1頂部と、前記第2脚部の他方の第2端部と前記第3脚部の一方の第1端部とを連結する第2頂部とを備える複数の波形単位により形成され、前記第3脚部の他方の第2端部は、軸線周りに隣り合う前記波形単位の前記第1脚部の他方の第2端部と接続されており、前記接続要素の一方の第1端部は、軸線方向において隣り合う一方の前記波形単位の前記第1頂部に接続され、前記接続要素の他方の第2端部は、軸線方向に隣り合う他方の前記波形単位の前記第1脚部の前記第2端部と接続されるステントに関する。
【0010】
上記発明において、前記波形単位の前記第2頂部は、前記ステントのカテーテルへの挿入方向において遠位側に突出するように形成されてもよい。
【0011】
上記発明において、前記第3脚部と、軸線周りに隣り合う前記波形単位の前記第1脚部とは、その間にスリットが形成されるように、それぞれの端部同士において連結されてもよい。
【0012】
上記発明において、軸線方向に対して垂直な径方向から視たときに、前記波線状パターン体の前記波線状パターンの環方向は、前記径方向に対して傾斜していてもよい。
【0013】
上記発明において、前記第1脚部の長さと前記第2脚部の長さとを足した長さは、前記第3脚部の長さよりも長くてもよい。
【0014】
上記発明において、前記第1脚部の長さと前記第2脚部の長さとを足した長さは、前記第3脚部の長さよりも短くてもよい。
【0015】
上記発明において、前記接続要素の長さは、前記第2脚部の長さよりも短く、軸線方向に対して垂直な径方向から視たときに、前記波線状パターン体の前記波線状パターンの環方向は、前記径方向と略一致していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈曲に対して高い開存性を有するステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態のステント10の構成を示す側面図である。
【
図2】ステント10を仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図4A】ステント10を拡径した状態を示す側面図である。
【
図4B】マーカー100を設けたステント10の側面図である。
【
図5A】ステント10における第2頂部19の突出方向を説明する図である。
【
図5B】ステント10における第2頂部19の突出方向を説明する図である。
【
図5C】ステント10における第2頂部19の突出方向を説明する図である。
【
図6】拡径したステント10を略U字形に屈曲させた場合の各部の形状を示す図である。
【
図7】ステント10の各領域におけるセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【
図8】屈曲させたステント10の領域S1における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【
図9】比較例1のステント20を仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図11】屈曲させたステント20の背側の領域における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【
図12】比較例2のステント30を仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図14】屈曲させたステント30の背側の領域における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【
図15A】比較例1のステント30の開存性を説明する図である。
【
図15B】比較例2のステント30の開存性を説明する図である。
【
図15C】実施形態のステント30の開存性を説明する図である。
【
図16】第2実施形態のステント10Aを仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図17】ステント10Aを縮径した状態を示す展開図である。
【
図18】拡径したステント10Aを略U字形に屈曲させた場合の形状を示す図である。
【
図19】第1変形形態のステント10Aを仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図20A】第2変形形態の波形単位14の部分拡大図である。
【
図20B】第2変形形態の波形単位14の部分拡大図である。
【
図20C】第2変形形態の波形単位14の部分拡大図である。
【
図21】第3変形形態のステント10Cの第1の構成を示す展開図である。
【
図22】第3変形形態のステント10Cの第2の構成を示す展開図である。
【
図23】第4変形形態のステント10Dを仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図24】第5変形形態のステント10Eを仮想的に平面状に展開した展開図である。
【
図25】第6変形形態のステント10Fを仮想的に平面状に展開した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るステントの実施形態について説明する。なお、本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。また、図面においては、部材の断面を示すハッチングを適宜に省略する。
本明細書等において、形状、幾何学的条件、これらの程度を特定する用語、例えば、「平行」、「方向」等の用語については、その用語の厳密な意味に加えて、ほぼ平行とみなせる程度の範囲、概ねその方向とみなせる範囲を含む。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のステント10の構成を示す側面図である。
図2は、
図1に示すステント10を仮想的に平面状に展開した展開図である。
図3は、
図2に示すステント10の部分拡大図である。
図4Aは、
図1に示すステント10を拡径した状態を示す側面図である。
図4Bは、マーカー100を設けたステント10の側面図である。
図4Cは、マーカー100の断面図である。
図5A~
図5Cは、ステント10における第2頂部19の突出方向を説明する図である。
【0020】
図1に示すように、ステント10は略円筒形状である。ステント10の周壁は、ワイヤ状の材料で囲まれた合同な形状を有する複数のセルが周方向に敷き詰められたメッシュパターンの構造を有している。
図2では、ステント10の構造の理解を容易にするために、ステント10を平面状に展開した状態を示している。また、
図2では、メッシュパターンの周期性を示すために、仮想的に、実際の展開状態よりもメッシュパターンを繰り返した形で示している。本明細書において、ステント10の「周壁」とは、ステント10の略円筒構造の円筒の内部と外部とを隔てる部分を意味する。「セル」とは、開口又は隔室ともいい、ステント10のメッシュパターンを形成するワイヤ状の材料で囲まれた部分をいう。「ストラット」とは、上記ワイヤ状の材料からなる各脚部15~17、接続要素12(後述)等をいう。
【0021】
ステント10の材料としては、材料自体の剛性が高く、生体適合性が高い材料が好ましい。このような材料としては、例えば、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、アルミニウム、モリブデン、マンガン、タンタル、タングステン、ニオブ、マグネシウム、カルシウム又はこれらを含む合金が挙げられる。ステント10は、特にニッケルチタン(Ni-Ti)合金のような超弾性特性を有した材料から形成されていることが好ましい。
図1に示すステント10は、上記材料からなる略円筒形状の細径チューブをレーザ加工することにより作製することができる。
【0022】
また、ステント10の材料として、PE、PP等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリエーテル、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂材料を用いることもできる。更に、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリεカプロラクトン等の生分解性樹脂(生分解性ポリマー)を用いることもできる。これらの中でも、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、マグネシウム又はこれらを含む合金が望ましい。合金としては、Ni-Ti合金、Cu-Mn合金、Cu-Cd合金、Co-Cr合金、Cu-Al-Mn合金、Au-Cd-Ag合金、Ti-Al-V合金、マグネシウムとZr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、Mn等との合金等が挙げられる。ステント10の材料としては、上記以外にも、非生分解性樹脂を用いることができる。このように、ステント10は、生体適合性を有するものであれば、どのような材料で形成してもよい。
【0023】
また、ステント10は、薬剤を含んでいてもよい。ここで、ステント10が薬剤を含むとは、薬剤が溶出し得るように、ステント10が薬剤を放出可能に担持していることをいう。薬剤は限定されないが、例えば、生理活性物質を用いることができる。生理活性物質としては、内膜肥厚を抑制する薬剤、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症剤、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド及びカロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、インターフェロン等が挙げられ、これらの薬剤の複数を用いることもできる。
【0024】
特に、再狭窄を予防する内膜肥厚を抑制する薬剤が好ましく、内膜肥厚を抑制する薬剤として、内皮細胞の増殖を阻害しない血管内膜肥厚抑制作用を有する薬剤が挙げられる。このような薬剤として、例えば、アルガトロバン(Argatroban;(2R,4R)-4-メチル-1-[N2-((RS)-3-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-8-キノリンスルホニル)-L-アルギニル]-2-ピペリジンカルボン酸(特開2001-190687号公報;国際公開第WO2007/058190号パンフレット))、キシメラガトラン(Ximelagatran)、メラガトラン(Melagatoran)、ダビガトラン(Dabigatran)、ダビガトラン・エテキレート(Dabigatran etexilate)、ラパマイシン、エベロリムス、バイオリムス A9、ゾタロリムス、タクロリムス、パクリタキセル、スタチン等が挙げられる。
【0025】
薬剤をステント10に含ませるには、例えば、ステント10の表面を薬剤で被覆すればよい。この際、ステント10の表面を直接薬剤で被覆してもよいし、薬剤をポリマー中に含ませ、このポリマーを用いてステント10を被覆してもよい。また、ステント10に薬剤を貯蔵するための溝や孔部等をリザーバーとして設け、その中に薬剤あるいは薬剤とポリマーを混合したものを貯蔵してもよい。貯蔵するためのリザーバーは、例えば、特表2009-524501号公報に記載されている。この際に用いるポリマーとしては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素樹脂、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、アクリルゴム、天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソブレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体等のガラス転移温度(Tg)が、-100~50℃の柔軟性ポリマーやポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸-ε-カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸-トリメチレンカーボネート)、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸等の生分解性ポリマーが挙げられる。ポリマーと薬剤との混合は、例えば、薬剤をポリマー中に分散させることにより行い、国際公開第WO2009/031295号パンフレットの記載に従って行うことができる。ステント10に含ませた薬剤は、ステント10を介して患部に送達され、そこで徐放される。
また、ステント10の表面を、ダイヤモンドライクカーボン(DLC,F-DLC)等の炭素系材料により被覆してもよい。
【0026】
図1に示すステント10を、例えば、超弾性合金チューブから作製する場合、径が2~3mm程度のチューブをレーザ加工し、この後、径方向に引き延ばす加工を行い、5mm程度の径とする。
図2は、2mm径のチューブをレーザ加工した後、引き延ばしを行っていない状態のステント10を仮想的に平面状に展開した状態を示している。また、
図4Aは、
図1に示すステント10を、5mm径まで拡径した状態を示している。ステント10は、
図4Aに示す状態から半径方向に縮径され、カテーテル(不図示)の内腔に収納される。カテーテルに収納されたステント10を外部に押し出すと、
図4Aに示すような形状が回復される。ステント10を、超弾性合金や形状記憶合金のような弾性材料等で形成することにより、上記のような形状回復の機能を得ることができる。なお、ステント10の作製は、レーザ加工に限定されるものではなく、例えば、切削加工等の他の方法によって作製することも可能である。
【0027】
ステント10において、軸線方向LDの両端側にマーカー100を設けてもよい。
図4Bは、
図4Aに示す拡径したステント10の軸線方向LDの両端側にマーカー100を設けた構成を示している。マーカー100は、血管等の管状器官内において、ステント10の位置を確認するための目印となる部材であり、放射線不透過の材料により形成される。マーカー100は、
図4Cに示すように、ステント10の先端部110と、この先端部110の外側に設けられたコイル状バネ120と、から構成されている。ステント10の先端部110の先端は、コイル状バネ120から突出している。コイル状バネ120としては、X線等の放射線が不透過で且つコイル状に成形可能な材料であることが好ましい。コイル状バネ120の素材としては、例えば、プラチナ-イリジウム(Pt-Ir)合金が挙げられる。
【0028】
コイル状バネ120とステント10の先端部110との接合方法としては、溶接、UV接着、銀ロウの浸潤等の医療機器の接合に使用されている接合方法であれば、特に制限されない。
溶接の方法としては、コイル状バネ120とステント10の先端部110とを溶接で溶かし込んで接着固定する方法と、ステント10の先端部110において、コイル状バネ120から突出している領域を溶かして、コイル状バネ120の移動を規制する方法と、が挙げられる。
【0029】
UV接着の場合、医療グレードの放射線硬化ポリマーを使って、コイル状バネ120をステント10の先端部110に固定する。その手順としては、液剤の硬化ポリマーをステント10の先端部110に塗り、そこにコイル状バネ120を被せた後、それらに放射線を当てて液剤の硬化ポリマーの硬化を促して、コイル状バネ120をステント10の先端部110に固定する。
銀ロウの浸潤の場合、コイル状バネ120をステント10とは異なる材料から形成し、例えば銀ロウ等をコイル状バネ120の上から染み込ませて、コイル状バネ120をステント10の先端部110に固定する。
【0030】
図1~
図3に示すように、第1実施形態のステント10は、軸線方向(長手軸線方向、中心軸線方向)LDに並んで配置される複数の環状体(波線状パターン体)11と、軸線方向LDに隣り合う環状体11同士を接続する複数の接続要素12と、を備えている。後述するように、ステント10を軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体11の環方向CDは、径方向RDに対して傾斜している。径方向RDに対して環状体11の環方向CDが傾斜する角度+θは、例えば30~60度である。
【0031】
図2に示すように、環状体11は、複数の波形単位14により形成される波線状パターンを有する。環状体11において、複数の波形単位14は、環方向CDに沿って接続されている。
図3に示すように、波形単位14は、第1脚部15、第2脚部16、第3脚部17、第1頂部18及び第2頂部19により構成されている。第1脚部15は、軸線方向LDに略平行に配置された脚部である。第2脚部16は、環方向CDに略平行に配置された脚部である。第1実施形態のステント10は、軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体11の環方向CDは、径方向RDに対して角度+θだけ傾斜している。環状体11が径方向RDに対して角度+θだけ傾斜している形態において、波形単位14の第1脚部15の長さL1と第2脚部16の長さL2とを足した長さは、第3脚部17の長さL3よりも長くなる。
【0032】
図3に示すように、第1脚部15の一方の第1端部15aと、第2脚部16の一方の第1端部16aとは、第1頂部18により連結されている。第2脚部16の他方の第2端部16bと、第3脚部17の一方の第1端部17aとは、第2頂部19により連結されている。第3脚部17の他方の第2端部17bは、環方向CD(軸線周り)に隣り合う波形単位14の第1脚部15の他方の第2端部15bと接続されている。
【0033】
波形単位14において、第2脚部16と第3脚部17とを連結する第2頂部19は、環方向CDに隣り合う波形単位14のいずれにも連結されていない。また、波形単位14の第3脚部17と、軸線周りに隣り合う波形単位14の第1脚部15とは、その間にスリットSが形成されるように、それぞれの端部同士(第2端部17bと第2端部15b)において連結されている。第1実施形態のステント10は、
図3に示すように、軸線方向LDにおいて隣り合う2つの波形単位14と、これら2つの波形単位14を軸線方向LDにおいて接続する2つの接続要素12(後述)によりセルが形成されている。このセルは、基本的にはクローズドセル構造であるが、各波形単位14において、第2頂部19は、略V字形の自由端となる。そのため、第1実施形態のステント10は、クローズドセル構造の一部が局所的にオープンセル構造となるように形成されている。後述するように、ステント10が拡径された際に、第2脚部16と第3脚部17とは、自由端である第2頂部19を中心として、互いに離れる方向に変形する。
【0034】
図2に示すように、複数の接続要素12は、環状体11の環方向CDに沿って等間隔で配置されている。各接続要素12は、中心軸線周りに螺旋状に延びている。
図3に示すように、接続要素12の一方の第1端部12aは、軸線方向LDにおいて隣り合う一方の波形単位14の第1頂部18に接続されている。すなわち、接続要素12の第1端部12aは、波形単位14aの第1頂部18において、第1脚部15の第1端部15aと、第2脚部16の第1端部16aと、に接続されている。また、接続要素12の他方の第2端部12bは、軸線方向LDに隣り合う他方の波形単位14bの第3脚部17の第2端部17bと、この波形単位14bと軸線周りに隣り合う波形単位14cの第1脚部15の第2端部15bと、に接続されている。なお、
図3では、上記説明のために、一部の波形単位14に「14a」、「14b」、「14c」の符号を付している。
【0035】
ここで、第1実施形態のステント10において、波形単位14の第2頂部19が突出する方向について説明する。
図5Aは、仮想的に平面状に展開したステント10の全体を示す図である。
図5Aでは、ステント10を収納したカテーテル(不図示)を操作する施術者から視たときに、ステント10の軸線方向LDにおいて施術者に近い側を近位側LD1とし、施術者から離れた側を遠位側LD2としている。また、
図5Aでは、環状体11及び接続要素12を簡略化して描いている。
【0036】
ステント10は、血管等の管状器官内に留置されるが、場合によっては、別の場所に再留置されることがある。その場合、ステント10は、一旦カテーテルに再収納される。
図5Aにおいて、ステント10を再収納する方向は、遠位側LD2から近位側LD1側に向けた方向となる。
図5Bは、ステント10の軸線方向LDの中央から近位側LD1の端部までの拡大図である。また、
図5Cは、ステント10の軸線方向LDの中央から遠位側LD2の端部までの拡大図である。
【0037】
図5B及び
図5Cに示すように、ステント10の環状体11を形成する波形単位14において、第2頂部19は、ステント10のカテーテルへの挿入方向(LD2からLD1)において、いずれも遠位側LD2に突出するように形成されている。上記構成によれば、ステント10をカテーテルに再収納した際に、自由端となる第2頂部19の略V字形の突端がカテーテルの挿入口と対向しないため、ステント10をカテーテルに容易に再収納することができる。
【0038】
次に、第1実施形態のステント10を屈曲させたときの開存性について説明する。
図6は、拡径したステント10(
図4A参照)を略U字形に屈曲させた場合の各部の形状を示す図である。
図7は、
図6に示すステント10の各領域におけるセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
図7の中段の図は、引っ張り、圧縮のいずれの力も作用していない無負荷状態(
図4Aの状態)のセル40を示している。
図8は、
図6に示す屈曲させたステント10の領域S1における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
図8では、上段にストラット50の断面を模式的に円で描いている。この円は、一つのストラット50に作用する応力を説明するために描いたものであり、実際のストラットの断面とは異なる。
【0039】
図6に示すように、拡径したステント10を略U字形に屈曲させると、屈曲した部分の背側(外側)の領域S1ではセル40が引っ張られた状態となる。このとき、領域S1に作用する応力は、
図7の上段に示すように、セル40を構成する各ストラット50の接続点aにおいて、矢印51及び52の方向となる。そのため、
図8に示すように、領域S1の連続したセル40は、矢印53の方向に引き延ばされるように変形する。すなわち、
図8において、点線で示す無負荷状態のセル40のストラット50は、実線で示すように、矢印53の方向に引き延ばされるように変形(移動)する。このとき、ストラット50を断面方向から視てみると、
図8の上段に示すように、ストラット50は、矢印54に示すように二方向に回るように変形する。ここで、
図8の上段に示す矢印54で示す方向は、
図8の下段に示す矢印53の方向に対応する。
【0040】
一方、
図6において、屈曲した部分の腹側(内側)の領域S2では、セル40が圧縮された状態となる。このとき、領域S2に作用する応力は、
図7の下段に示すように、セル40のストラット50の接続点aにおいて、矢印55~57の方向となる。そのため、図示していないが、領域S2の連続したセル40は、ストラット50の間隔が狭くなる方向に引き延ばされるように変形する。
【0041】
次に、比較例1、比較例2及び第1実施形態の各ステントの応力に対する変形について説明する。
図9は、比較例1のステント20を仮想的に平面状に展開した展開図である。
図10は、
図9に示すステント20の部分拡大図である。
図11は、屈曲させたステント20の背側の領域における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
図11は、屈曲させた比較例1のステント20の背側の領域における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【0042】
図9に示すように、比較例1のステント20は、軸線方向LDに並んで配置される複数の環状体21と、軸線方向LDに隣り合う環状体21を接続する接続要素22と、を備えている。比較例1のステント20を軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体21の環方向CDは、径方向RDと略一致している。
【0043】
図10に示すように、比較例1のステント20は、略V字形状のV字要素23を周方向に複数接続して形成される波線状パターンを有する。V字要素23は、2つの脚部24を頂部25で連結して形成されている。V字要素23において、頂部25は、軸線方向LDにおいて同じ方向に向いており、周方向において隣り合うV字要素23の脚部24同士が接続されることにより、波線状パターンは形成されている。
【0044】
各接続要素22の長手方向の2つの端部22a、22bは、それぞれ軸線方向LDにおいて隣り合う2つV字要素23を接続している。接続要素22の一方の端部22aは、軸線方向LDに隣り合うV字要素23であって、波線状パターンに沿って隣り合う2つのV字要素23のそれぞれの脚部24と接続している。また、接続要素22の他方の端部22bは、軸線方向LDに隣り合うV字要素23の頂部25と接続している。このように、比較例1のステント20は、すべての頂部25が接続要素22と接続されている。そのため、比較例1のステント20は、自由端のないクローズドセル構造を有している。
【0045】
比較例1のステント20を実施形態のステント10(
図4参照)と同様に拡径し、略U字形に屈曲させると、背側の領域ではセル40が引っ張られた状態となる。このとき、背側の領域の連続したセル40は、
図11に示すように、矢印55の方向に斜めに変形する。すなわち、
図11において、点線で示す無負荷状態のセル40のストラット50は、実線で示すように変形(移動)することになる。このとき、ストラット50を断面方向から見てみると、
図11の上段に示すように、ストラット50は、矢印56の一方向に回るように変形する。
【0046】
ここで、
図11の上段に示す矢印56で示す方向は、
図11の下段に示す矢印55の方向に対応する。このように、比較例1のステント20において、屈曲した部分の背側の領域では、セル40の変形が小さく、且つ、ストラット50を断面方向から視たときに変形する方向も一方向のみとなる。そのため、比較例1のステント20において、背側の領域に作用する応力を吸収するための変形量は、実施形態のステント10よりも小さくなる。すなわち、比較例1のステント20では、屈曲した部分に作用する応力により、背側の領域に潰れが発生しやすいことになる。比較例1のステント20において、屈曲した部分の腹側の領域についても同様であり、屈曲した部分に作用する応力により、潰れが発生しやすい構造となっている。
【0047】
図12は、比較例2のステント30を仮想的に平面状に展開した展開図である。
図13は、
図12に示すステント30の部分拡大図である。
図14は、屈曲させたステント30の背側の領域における連続したセル40の状態を仮想的に平面状に展開した場合の模式図である。
【0048】
図12に示すように、比較例2のステント30は、軸線方向LDに並んで配置される複数の環状体31と、軸線方向LDに隣り合う環状体31を接続する接続要素32と、を備えている。比較例2のステント30を軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体31の環方向CDは、径方向RDに対して傾斜している。
【0049】
図13に示すように、比較例2のステント30は、略V字形状のV字要素33を環方向CDに複数接続して形成される波線状パターンを有する。V字要素33は、2つの脚部34を頂部35で連結して形成されている。V字要素33において、頂部35は、軸線方向LDにおいて同じ方向に向いており、環方向CDにおいて隣り合うV字要素33の脚部34同士が接続されて、波線状パターンは形成されている。
【0050】
各接続要素32の長手方向の2つの端部32a、32bは、それぞれ軸線方向LDにおいて隣り合う2つV字要素33を接続している。接続要素32の一方の端部32aは、軸線方向LDに隣り合うV字要素33であって、環方向CDに沿って延びる波線状パターンに沿って隣り合う2つのV字要素33のそれぞれの脚部34と接続している。また、接続要素32の他方の端部32bは、軸線方向LDに隣り合うV字要素33の頂部35と接続している。このように、比較例2のステント30は、すべての頂部35が接続要素32と接続されている。そのため、比較例2のステント30は、自由端のないクローズドセル構造を有している。
【0051】
比較例2のステント30を実施形態のステント10(
図4A参照)と同様に拡径し、略U字形に屈曲させると、背側の領域ではセルが引っ張られた状態となる。このとき、背側の領域の連続したセルは、
図14に示すように、矢印57の方向に斜めに変形する。すなわち、
図14において、点線で示す無負荷状態のセルのストラット50は、実線で示すように変形(移動)することになる。このとき、ストラット50を断面方向から見てみると、
図14の上段に示すように、ストラット50は、矢印58の一方向に回るように変形する。
【0052】
ここで、
図14の上段に示す矢印58の方向は、
図14の下段に示す矢印57の方向に対応する。このように、比較例2のステント30において、屈曲した部分の背側の領域では、セルの変形が小さく、且つ、ストラット50を断面方向から視たときに変形する方向も一方向のみとなる。そのため、比較例2のステント30において、背側の領域に作用する応力を吸収するための変形量は、実施形態のステント10よりも小さくなる。すなわち、比較例2のステント30では、屈曲した部分に作用する応力により、背側の領域に潰れが発生しやすいことになる。比較例2のステント30において、屈曲した部分の腹側の領域についても同様であり、屈曲した部分に作用する応力により、潰れが発生しやすい構造となっている。
【0053】
次に、比較例1、比較例2及び実施形態の各ステントの開存性について説明する。
図15A~
図15Cは、それぞれ比較例1、比較例2及び実施形態の各ステントの開存性を説明する図である。
図15A~
図15Cは、比較例1、比較例2及び実施形態のそれぞれのステントを同一の径となるまで拡径し、略U字形に屈曲させたときの断面形状を示している。
図15A~
図15Cの上段は、破線で示す曲がりの中心部分での断面形状を示している。
図15A~
図15Cの下段は、ステントを略U字形に屈曲させたときの外観を示している。
【0054】
図15Aに示す比較例1のステント20及び
図15Bに示す比較例2のステント30は、いずれも断面が略楕円形に潰れるキンクが発生しており、屈曲に対して開存性が低いことが明らかとなった。これは、比較例1のステント20及び比較例2のステント30では、屈曲による応力に対して、各セルが一方向にしか変形しないためと考えられる。一方、
図15Cに示す実施形態のステント10は、断面の潰れが少なく、屈曲に対して高い開存性を有することが明らかとなった。これは、実施形態のステント10では、屈曲による応力に対して、各セルが二方向に変形するためと考えられる。
【0055】
上述したように、第1実施形態のステント10は、波線状パターンを形成する複数の波形単位14に自由端(第2頂部19)を備えているため、ステント10を屈曲させたときに、自由端に接続された2つの脚部が互いに離れる方向に移動して、セル全体を二方向に変形させることができる。したがって、実施形態のステント10は、屈曲に対して高い開存性を有している。
【0056】
第1実施形態のステント10は、カテーテルへの挿入方向において、自由端となる第2頂部19が遠位側に突出するように形成されている。本構成によれば、ステント10をカテーテルに再収納した際に、自由端となる第2頂部19の略V字形の突端が、カテーテルの挿入口と対向しないため、ステント10をカテーテルに容易に再収納することができる。
【0057】
第1実施形態のステント10において、波形単位14の第3脚部17と、軸線周りに隣り合う波形単位14の第1脚部15とは、その間にスリットSが形成されるように、端部同士において連結されている。そのため、第1実施形態のステント10は、第1脚部15に連結された第3脚部17と、この第3脚部17と第2頂部19で連結された第2脚部16とを、より大きく変形させることができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のステント10Aについて説明する。第2実施形態の説明及び図面において、第1実施形態と同等の部材等には、第1実施形態と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
図16は、第2実施形態のステント10Aを仮想的に平面状に展開した展開図である。
図17は、ステント10Aを縮径した状態を示す展開図である。
図18は、拡径したステント10Aを略U字形に屈曲させた場合の形状を示す図である。
【0060】
図16に示すように、第2実施形態のステント10Aにおいて、接続要素12の長さL4は、第2脚部16の長さL2よりも短く設定されている。具体的には、接続要素12の長さL4は、L4/L2の値において、例えば、0.7~0.9程度となるように設定されている。接続要素12の長さL4及び第2脚部16の長さL2は、最短距離(直線距離)で測定される。
【0061】
また、第2実施形態のステント10Aにおいて、複数の波形単位14は、径方向RDに沿って接続されている。すなわち、第2実施形態のステント10Aを軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体11の環方向CDは、径方向RDと略一致している。
【0062】
第2実施形態のステント10Aにおいて、接続要素12の長さL4は、第2脚部16の長さL2よりも短く設定されている。本構成によれば、軸線方向LDにおいて隣接する波形単位14同士の間隔が短くなるため、軸線方向LDの単位長さ当たりの波形単位14の数を増やすことができる。このように、波形単位14の数が増えると、軸線方向LDの単位長さ当たりの表面積が増えるため、ステント10Aの血管保持性能をより向上させることができる。
【0063】
第2実施形態のステント10Aにおいて、複数の波形単位14は、径方向RDに沿って接続されている。そのため、ステントの加工時に、レーザ加工を施した細径チューブを仕上がり径まで拡径する工程において、ストラット内に作用する応力は、径方向RDに均一に伝達される。このように、ストラット内に作用する応力が径方向RDに均一に伝達されると、応力の局所的な不均一によるストラットの捻じれ等が起こりにくくなるため、円周方向において、より均等な拡張形状を得ることができる。また、第2実施形態のステント10Aにおいては、複数の波形単位14を径方向RDに沿ってパターニングできるため、加工性にも優れている。
【0064】
第2実施形態のステント10Aにおいて、波形単位14の基本的な構造は、第1実施形態と同じである。すなわち、
図17に示すように、波形単位14において、第2頂部19の略V字形の突端は、ステント10Aのカテーテル(不図示)への挿入方向(LD2からLD1)において、いずれも遠位側LD2に突出するように形成されている。そのため、第2実施形態のステント10Aにおいても、第1実施形態と同様に、カテーテルに容易に再収納することができる。また、第2実施形態のステント10Aは、
図17に示すように、縮径した状態において、第2頂部19が接続要素12と重なりにくいため、拡径時にステント10Aをより均等に展開させることができる。
【0065】
なお、第2実施形態のステント10Aにおいても、
図18に示すように、略U字形の屈曲させたときに、自由端となる第2頂部19に接続された2つの脚部16、17が互いに離れる方向に移動して、セル全体を二方向に変形させることができるため、屈曲に対して高い開存性を有している。
【0066】
以上、本発明に係るステントの実施形態について説明したが、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の技術的範囲内に含まれる。また、実施形態に記載した効果は、本開示から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、実施形態に記載したものに限定されない。なお、上述の実施形態及び後述する変形形態は、適宜に組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0067】
図19は、第1変形形態のステント10Bを仮想的に平面状に展開した展開図である。第1変形形態のステント10Bは、環状体11の環方向CDが径方向RDに対して傾斜する方向が第1実施形態のステント10と相違する。具体的には、第1変形形態のステント10Bを、軸線方向LDに対して垂直な径方向RDに視たときに、環状体11の環方向CDは、径方向RDに対して角度-θだけ傾斜している。
図19に示すように、環状体11が径方向RDに対して角度-θだけ傾斜している形態において、波形単位14の第1脚部15の長さL1と第2脚部16の長さL2とを足した長さは、第3脚部17の長さL3よりも短くなる。
図19に示すように、環状体11の環方向CDが径方向RDに対して傾斜する方向は、第1実施形態のステント10(
図2参照)と逆であってもよい。本構成においても、第1実施形態のステント10と同様の効果を得ることができる。なお、第1変形形態の構成は、第2実施形態のステント10Aにも適用することができる。
【0068】
図20A~
図20Cは、第2変形形態の波形単位14の部分拡大図である。第1及び第2実施形態において、接続要素12と波形単位14との接続部分には、
図20A~
図20Cに示すような接続形状を適用することができる。
図20A~
図20Cは、
図2に示す波形単位14の領域A1又はA2のいずれかの接続部分に適用可能な形状を示している。以下、
図2の領域A1に示す接続部分を例として説明する。領域A1は、接続要素12の第1端部12aと、波形単位14の第1脚部15の第2端部15b及び第3脚部17の第2端部17bとが接続される部分である。
【0069】
図20Aに示す接続形状において、接続要素12の第1端部12aは、第3脚部17の第2端部17bの側に接続されている。
図20Bに示す接続形状において、接続要素12の第1端部12aは、第1脚部15の第2端部15bの側に接続されている。
図20Cに示す接続形状において、接続要素12の第1端部12aは、第1脚部15の第2端部15bと第3脚部17の第2端部17bとの間に接続されている。第2変形形態の各図に示す接続形状は、例えば、ステントを屈曲させたときの力の伝達、内部及び表面に作用する応力の状態に応じて適宜に選択することができる。
【0070】
図21及び
図22は、第3変形形態のステント10Cを仮想的に平面状に展開した展開図である。
図21は、第3変形形態のステント10Cの第1の構成を示す展開図である。
図21に示すように、第3変形形態のステント10Cの第1の構成において、軸線方向LDに隣り合う環状体11を接続する接続要素12は、略S字形の波線状パターンとなるように形成されている。
図22は、第3変形形態のステント10Cの第2の構成を示す展開図である。
図22に示すように、第3変形形態のステント10Cの第2の構成において、軸線方向LDに隣り合う環状体11を接続する接続要素12は、略S字形の波線状パターンが2回連続するように形成されている。第2の構成の接続要素12において、略S字形の波線状パターンが3回以上連続する構成としてもよい。第3変形形態の各図に示す接続要素12の形状は、例えば、ステントを屈曲させたときの力の伝達、内部及び表面に作用する応力の状態に応じて適宜に選択することができる。
【0071】
図23は、第4変形形態のステント10Dを仮想的に平面状に展開した展開図である。
図23に示すように、波形単位14を構成する第1脚部15、第2脚部16及び第3脚部17と、環状体11同士を接続する接続要素12は、ストラットの太さ(例えば、最大径)がそれぞれ異なっていてもよい。
図23のステント10Dは、より柔軟性を高めるために、第1脚部15、第2脚部16及び第3脚部17の太さに対して、接続要素12の太さを細くした例を示している。第1脚部15、第2脚部16、第3脚部17及び接続要素12におけるストラットの太さは、ステントを屈曲させたときの力の伝達、内部及び表面に作用する応力の状態に応じて適宜に選択することができる。なお、第4変形形態のステント10Dにおいては、接続要素12を細くする例について示したが、ストラットの太さを変更するのは、第1脚部15、第2脚部16、第3脚部17及び接続要素12のいずれか一つ又は複数であってもよい。
【0072】
図24は、第5変形形態のステント10Eを仮想的に平面状に展開した展開図である。
図24に示すように、第5変形形態のステント10Eは、径方向RDの2つの接続点(×)の間に、接続要素帯L12が2つ設けられている。
図24において、2つの接続点(×)は、略円筒形状のステント10Dの周方向における仮想的な接続位置を示している。また、接続要素帯L12は、環方向CDに沿って配置された複数の接続要素12の列を示している。第5変形形態のステント10Eは、径方向RDの2つの接続点(×)の間に、接続要素帯L12が2つ設けられている。そのため、第5変形形態のステント10Eは、径方向RDの2つの接続点(×)の間に、接続要素帯L12が1つ設けられている構成(例えば、
図2参照)に比べて、ステントの表面積、セル密度を増加させることができる。なお、
図24に示すステント10Eにおいて、径方向RDの2つの接続点(×)の間に、接続要素帯L12を3つ以上設けた構成としてもよい。
【0073】
図25は、第6変形形態のステント10Fを仮想的に平面状に展開した展開図である。
図25は、ステント10Fの軸線方向LDの略中央から近位側LD1の端部までの範囲を示している。
図25に示すように、ステント10Fは、近位側LD1の端部にマーカー保持部13を備えている。マーカー保持部13は、マーカー130(後述)を保持する部分である。なお、
図25においては、ステント10Fの近位側LD1の端部にマーカー保持部13を3つ設けた例を示すが、マーカー保持部13の数は、
図25の例に限定されない。
【0074】
マーカー保持部13は、長手方向の中心部分に沿ってスリット13aが形成されている。スリット13aは、カシメ加工によりマーカー130の略中央部分と締結される部分である。なお、
図25に示す3つのマーカー保持部13のうち、左端のマーカー保持部13は、マーカー130が締結される前の状態を示している。
【0075】
第6変形形態のステント10Fに用いられるマーカー130は、略円筒形に形成されている。マーカー130においては、一方の端部に略半円形の頭部131が形成され、他方の端部に開口部132が形成されている。ステント10Fの近位側LD1に保持されるマーカー130において、頭部131は、ステント10Fをカテーテル(不図示)に再収納する際の挿入方向(LD2からLD1)に位置している。マーカー130は、第1実施形態で説明したマーカー100(
図4B参照)と同じく、放射線不透過の材料により形成される。
【0076】
図25に示すように、ステント10Fのマーカー保持部13に、マーカー130を開口部132側から差し込み、カシメ加工を施すことにより、ステント10Fのマーカー保持部13とマーカー130とを締結することができる。図示していないが、ステント10Fの軸線方向LDの略中央から遠位側LD2の端部までの範囲についても、
図25と同様に構成されている。
【0077】
第6変形形態の構成によれば、ステント10Fをカテーテルに再収納する際に、マーカー130の挿入方向となる側に略半円形の頭部131が位置しているため、カテーテルにステント10Fをより容易に再収納することができる。
【符号の説明】
【0078】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F ステント
11 環状体(波線状パターン体)
12 接続要素
12a 第1端部
12b 第2端部
14 波形単位
15 第1脚部
15a 第1端部
15b 第2端部
16 第2脚部
16a 第1端部
16b 第2端部
17 第3脚部
17a 第1端部
17b 第2端部
18 第1頂部
19 第2頂部
100 マーカー
【要約】
屈曲に対して高い開存性を有するステントを提供すること。
複数の波線状パターン体11と、複数の接続要素12と、を備えたステント10であって、前記波線状パターンは、第1脚部15、第2脚部16及び第3脚部17と、第1脚部15の第1端部15aと第2脚部16の第1端部16aとを連結する第1頂部18と、第2脚部16の第2端部16bと第3脚部17の第1端部17aとを連結する第2頂部19とを備える複数の波形単位14により形成され、第3脚部17の第2端部17bは、軸線周りに隣り合う波形単位14の第1脚部15の第2端部15bと接続されており、接続要素12の第1端部12aは、軸線方向において隣り合う一方の波形単位14の第1頂部18に接続され、接続要素12の第2端部12bは、軸線方向に隣り合う他方の波形単位14の第1脚部15の第2端部15bと接続される。