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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】3-オキソアジピン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/50 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
C12P7/50
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2016573623
(86)(22)【出願日】2016-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2016086668
(87)【国際公開番号】W WO2017099209
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2015241996
(32)【優先日】2015-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 匡平
(72)【発明者】
【氏名】河村 健司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正照
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-000059(JP,A)
【文献】特公昭51-028710(JP,B1)
【文献】国際公開第2009/151728(WO,A2)
【文献】西村圭、ほか,「微生物代謝を用いたリグニン由来低分子化合物からのβ-ケトアジピン酸(KA)の生産」,日本農芸化学会大会講演要旨集,2012年03月05日,Vol.2012,P.3C23a04,ISSN 2186-7976
【文献】西村圭、ほか,「リグニン低分子化合物からの発酵法による新規なポリマー原料の生産」,日本農芸化学会大会講演要旨集,2011年03月05日,Vol.2011,P.3C29p19,ISSN 2186-7976
【文献】SONG, Y.-J.,"Characterization of aromatic hydrocarbon degrading bacteria isolated from pine litter.",KOR. J. MICROBIOL. BIOTECHNOL.,2009年12月,Vol.37, No.4,pp.333-339,ISSN 1598-642X
【文献】POLEN, T. et al.,"Toward biotechnological production of adipic acid and precursors from biorenewables.",J. BIOTECHNOL.,2013年08月20日,Vol.167, No.2,pp.75-84,ISSN 0168-1656
【文献】HARWOOD, C.S. et al.,"The beta-ketoadipate pathway and the biology of self-identity.",ANNU. REV. MICROBIOL.,1996年,Vol.50,pp.553-590,ISSN 0066-4227
【文献】TADASA, K.,"Degradation of eugenol by a microorganism.",AGRIC. BIOL. CHEM.,1977年,Vol.41, No.6,pp.925-929,ISSN 0002-1369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラチア(Serratia属微生物、コリネバクテリウム(Corynebacterium属微生物、ハフニア(Hafnia属微生物、バチルス(Bacillus属微生物、エシェリシア(Escherichia属微生物、シュードモナス(Pseudomonas属微生物、アシネトバクター(Acinetobacter属微生物、アルカリゲネス(Alcaligenes属微生物、シムウェリア(Shimwellia属微生物、プラノミクロビウム(Planomicrobium属微生物、ノカーディオイデス(Nocardioides属微生物、ヤローウィア(Yarrowia属微生物、キュプリアビダス(Cupriavidus属微生物、ロドスポリジウム(Rhodosporidium属微生物、ストレプトミセス(Streptomyces属微生物、ミクロバクテリウム(Microbacterium属微生物、サッカロミセス(Saccharomyces属微生物およびエルシニア(Yersinia属微生物からなる群から選択される、脂肪族化合物を代謝して3-オキソアジピン酸を生産する能力を有する少なくとも1種の微生物を培養する工程を含む、3-オキソアジピン酸の製造方法であって、前記少なくとも1種の微生物を培養する培地が、該微生物が単一炭素源として生育に利用可能な脂肪族化合物を含む、製造方法。
【請求項2】
セラチア(Serratia属微生物、コリネバクテリウム(Corynebacterium属微生物、ハフニア(Hafnia属微生物、バチルス(Bacillus属微生物、エシェリシア(Escherichia属微生物、シュードモナス(Pseudomonas属微生物、アシネトバクター(Acinetobacter属微生物、アルカリゲネス(Alcaligenes属微生物、シムウェリア(Shimwellia属微生物、プラノミクロビウム(Planomicrobium属微生物、ノカーディオイデス(Nocardioides属微生物、ヤローウィア(Yarrowia属微生物、キュプリアビダス(Cupriavidus属微生物、ロドスポリジウム(Rhodosporidium属微生物、ストレプトミセス(Streptomyces属微生物、プラノミクロビウム(Planomicrobium属微生物、及びロドスポリジウム(Rhodosporidium属微生物からなる群から選択される、3-オキソアジピン酸の生産能を有する少なくとも1種の微生物を培養する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セラチア(Serratia属微生物が、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthicaセラチア・グリメシイ(Serratia grimesiiセラチア・フィカリア(Serratia ficariaセラチア・フォンチコラ(Serratia fonticolaセラチア・オドリフェラ(Serratia odorifera、セラチア・エントモフィラ(Serratia entomophilaまたはセラチア・ネマトジフィラ(Serratia nematodiphilaである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記セラチア(Serratia属微生物が、セラチア・プリムシカ(Serratia plymuthicaセラチア・グリメシイ(Serratia grimesiiまたはセラチア・フィカリア(Serratia ficariaである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記コリネバクテリウム(Corynebacterium属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicumコリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilumコリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicumまたはコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenesである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記ハフニア(Hafnia属微生物がハフニア・アルベイ(Hafnia alveiである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記バチルス(Bacillus属微生物が、バチルス・マガテリウム(Bacillus magateriumバチルス・バディウス(Bacillus badiusまたはバチルス・メガテリウム(Bacillus megateriumである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記バチルス(Bacillus属微生物が、バチルス・マガテリウム(Bacillus magateriumまたはバチルス・バディウス(Bacillus badiusである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エシェリシア(Escherichia属微生物が、エシェリシア・コリ(Escherichia coliまたはエシェリシア・ファーグソニー(Escherichia fergusoniiである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記シュードモナス(Pseudomonas属微生物が、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putidaシュードモナス・フラギ(Pseudomonas fragiシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescensシュードモナス・レプチリボラ(Pseudomonas reptilivora、またはシュードモナス・アゾトフォルマンス(Pseudomonas azotoformansである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記アシネトバクター(Acinetobacter属微生物がアシネトバクター・ラジオレジステンス(Acinetobacter radioresistensである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリゲネス(Alcaligenes属微生物がアルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalisである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記シムウェリア(Shimwellia属微生物がシムウェリア・ブラッタエ(Shimwellia blattaeである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記プラノミクロビウム(Planomicrobium属微生物がプラノミクロビウム・オケアノコイテス(Planomicrobium okeanokoitesである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
前記ノカーディオイデス(Nocardioides属微生物がノカーディオイデス・アルバス(Nocardioides albusである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記ヤローウィア(Yarrowia属微生物がヤローウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolyticaである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
前記キュプリアビダス(Cupriavidus属微生物がキュプリアビダス・ネカトル(Cupriavidus necatorである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項18】
前記ロドスポリジウム(Rhodosporidium属微生物がロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloidesである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
前記ストレプトミセス(Streptomyces属微生物がストレプトミセス・オリバセウス(Streptomyces olivaceusである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
前記ミクロバクテリウム(Microbacterium属微生物がミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilumである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記サッカロミセス(Saccharomyces属微生物がサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiaeである、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記エルシニア(Yersinia属微生物がエルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeriである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記微生物を培養する培地が脂肪族化合物を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記微生物を培養する培地が、糖類、コハク酸、2-オキソグルタル酸およびグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記微生物を、フェルラ酸、p-クマル酸からなる群から選択される少なくとも1種の誘導物質を含む培地で培養する、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用した3-オキソアジピン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-オキソアジピン酸(別名:β-ケトアジピン酸、IUPAC名:3-oxohexanedioic acid)は、炭素数6、分子量160.12のジカルボン酸である。3-オキソアジピン酸は多価アルコールと重合することでポリエステルとして、また多価アミンと重合することでポリアミドの原料として用いることができる。また、3-オキソアジピン酸の末端にアンモニアを付加してラクタム化することで、単独でもポリアミドの原料になり得る。
【0003】
3-オキソアジピン酸は、土壌細菌や真菌などの微生物がカテコールやプロトカテク酸を始めとする芳香族化合物を、より炭素数の少ない化合物へと酵素的に分解する過程で生成する。この分解経路は一般的にβ-ケトアジピン酸経路(β-ketoadipate
pathway)として知られている。
【0004】
微生物を利用した3-オキソアジピン酸の製造方法に関連する報告としては、遺伝子破壊により3-オキソアジピン酸の分解能を消失させたPseudomonas putida KT2440を用いて芳香族化合物であるバニリン酸及び/又はプロトカテク酸から3-オキソアジピン酸を発酵生産する方法が開示されている(特許文献1)。また、スクシニル-CoAとアセチル-CoAを出発原料とした天然には存在しない微生物によるアジピン酸を製造する方法の過程で、アジピン酸生合成経路の中間体として3-オキソアジピン酸(3-オキソアジペート)が生成しうるとの報告がある(特許文献2、図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-000059号公報
【文献】WO2009/151728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1ではリグニンの分解で生じ得る芳香族化合物である、バニリン酸及び/またはプロトカテク酸を原料として3-オキソアジピン酸を発酵生産する方法が開示されているが、脂肪族化合物を原料とした3-オキソアジピン酸の発酵生産については開示されていない。また、一般的に化学分解で得られるリグニン分解物中には多種多様な芳香族化合物が混在しており、リグニン分解物を原料として3-オキソアジピン酸を製造する場合には、バニリン酸及び/またはプロトカテク酸以外の微生物が代謝できない成分が培養液中に大量に残留してしまう。そのため3-オキソアジピン酸の分離が困難となるだけでなく、原料の利用効率も低いことが課題であった。
【0007】
特許文献2には、アジピン酸を製造できるように人為的に改良した微生物において、製造対象であるアジピン酸の中間体として3-オキソアジピン酸(3-オキソアジペート)が生成しうることについての記載はあるが、一方で、実際に微生物の代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸が製造できるかどうかの検証はなされておらず、特許文献2の記載に従ってスクシニル-CoAとアセチル-CoAを出発原料として3-オキソアジピン酸を製造できるかどうかは定かでなかった。
【0008】
そこで本発明では、糖などの微生物が利用しやすい脂肪族化合物から微生物の代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、代謝経路を利用して脂肪族化合物から3-オキソアジピン酸を製造することができる微生物が自然界に存在することを見出し、以下の本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の(1)~(29)を提供する。
【0011】
(1 セラチア(Serratia属微生物、コリネバクテリウム(Corynebacterium属微生物、ハフニア(Hafnia属微生物、バチルス(Bacillus属微生物、エシェリシア(Escherichia属微生物、シュードモナス(Pseudomonas属微生物、アシネトバクター(Acinetobacter属微生物、アルカリゲネス(Alcaligenes属微生物、シムウェリア(Shimwellia属微生物、プラノミクロビウム(Planomicrobium属微生物、ノカーディオイデス(Nocardioides属微生物、ヤローウィア(Yarrowia属微生物、キュプリアビダス(Cupriavidus属微生物、ロドスポリジウム(Rhodosporidium属微生物、ストレプトミセス(Streptomyces属微生物、ミクロバクテリウム(Microbacterium属微生物、サッカロミセス(Saccharomyces属微生物およびエルシニア(Yersinia属微生物からなる群から選択される、脂肪族化合物を代謝して3-オキソアジピン酸を生産する能力を有する少なくとも1種の微生物を培養する工程を含む、3-オキソアジピン酸の製造方法であって、前記少なくとも1種の微生物を培養する培地が、該微生物が単一炭素源として生育に利用可能な脂肪族化合物を含む、製造方法。
【0012】
(2) Serratia属微生物、Corynebacterium属微生物、Hafnia属微生物、Bacillus属微生物、Escherichia属微生物、Pseudomonas属微生物、Acinetobacter属微生物、Alcaligenes属微生物、Shimwellia属微生物、Planomicrobium属微生物、Nocardioides属微生物、Yarrowia属微生物、Cupriavidus属微生物、Rhodosporidium属微生物、Streptomyces属微生物、Planomicrobium属微生物、及びRhodosporidium属微生物からなる群から選択される、3-オキソアジピン酸の生産能を有する少なくとも1種の微生物を培養する工程を含む、(1)に記載の方法。
【0013】
(3) 前記Serratia属微生物が、Serratia plymuthica、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaである、(1)または(2)に記載の方法。
【0014】
(4) 前記Serratia属微生物が、Serratia plymuthica、Serratia grimesiiまたはSerratia ficaria、である、(3)に記載の方法。
【0015】
(5) 前記Corynebacterium属微生物が、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoacidophilum、Corynebacterium acetoglutamicumまたはCorynebacterium ammoniagenesである、(1)または(2)に記載の方法。
【0016】
(6) 前記Hafnia属微生物がHafnia alveiである、(1)または(2)に記載の方法。
【0017】
(7) 前記Bacillus属微生物が、Bacillus magaterium、Bacillus badiusまたはBacillus megateriumである、(1)または(2)に記載の方法。
【0018】
(8) 前記Bacillus属微生物が、Bacillus magateriumまたはBacillus badiusである、(7)に記載の方法。
【0019】
(9) 前記Escherichia属微生物が、Escherichia coliまたはEscherichia fergusoniiである、(1)または(2)に記載の方法。
【0020】
(10) 前記Pseudomonas属微生物が、Pseudomonas putida、Pseudomonas fragi、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas reptilivora、またはPseudomonas azotoformansである、(1)または(2)に記載の方法。
【0021】
(11) 前記Acinetobacter属微生物がAcinetobacter radioresistensである、(1)または(2)に記載の方法。
【0022】
(12) 前記Alcaligenes属微生物がAlcaligenes faecalisである、(1)または(2)に記載の方法。
【0023】
(13) 前記Shimwellia属微生物がShimwellia blattaeである、(1)または(2)に記載の方法。
【0024】
(14) 前記Planomicrobium属微生物がPlanomicrobium
okeanokoitesである、(1)または(2)に記載の方法。
【0025】
(15) 前記Nocardioides属微生物がNocardioides albusである、(1)または(2)に記載の方法。
【0026】
(16) 前記Yarrowia属微生物がYarrowia lipolyticaである、(1)または(2)に記載の方法。
【0027】
(17) 前記Cupriavidus属微生物がCupriavidus necatorである、(1)または(2)に記載の方法。
【0028】
(18) 前記Rhodosporidium属微生物がRhodosporidium
toruloidesである、(1)または(2)に記載の方法。
【0029】
(19) 前記Streptomyces属微生物がStreptomyces olivaceusである、(1)または(2)に記載の方法。
【0030】
(20) 前記Microbacterium属微生物がMicrobacterium
ammoniaphilumである、(1)に記載の方法。
【0031】
(21) 前記Planomicrobium属微生物がPlanomicrobium
okeanokoitesである、(1)または(2)に記載の方法。。
【0032】
(22) 前記Rhodosporidium属微生物がRhodosporidium
toruloidesである、(1)または(2)に記載の方法。
【0033】
(23) 前記Saccharomyces属微生物がSaccharomyces cerevisiaeである、(1)に記載の方法。
【0034】
(24) 前記Yersinia属微生物がYersinia ruckeriである、(1)に記載の方法。
【0035】
(25) 前記微生物を培養する培地が脂肪族化合物を含む、(1)~(24)のいずれか1項に記載の方法。
【0036】
(26) 前記微生物を培養する培地が、該微生物が単一炭素源として生育に利用可能な脂肪族化合物を含む、(1)~(25)のいずれか1項に記載の方法。
【0037】
(27) 前記微生物を培養する培地が、糖類、コハク酸、2-オキソグルタル酸およびグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種の炭素源を含む、(1)~(26)のいずれか1項に記載の方法。
【0038】
(28) 前記微生物を、フェルラ酸、p-クマル酸からなる群から選択される少なくとも1種の誘導物質を含む培地で培養する、(1)~(27)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、微生物の代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の3-オキソアジピン酸の製造方法は、3-オキソアジピン酸の生産能を有する微生物を培養する工程を含むことを特徴とする。より詳しくは、3-オキソアジピン酸の生産能を有する微生物を培養することによって、該微生物の代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造することを特徴とする。
【0041】
本発明の方法で用いられる、3-オキソアジピン酸の生産能を有する微生物としては、以下の微生物から選択される。
・Serratia属微生物
・Corynebacterium属微生物
・Pseudomonas属微生物
・Bacillus属微生物
・Hafnia属微生物
・Escherichia属微生物
・Acinetobacter属微生物
・Alcaligenes属微生物
・Shimwellia属微生物
・Planomicrobium属微生物
・Nocardioides属微生物
・Yarrowia属微生物
・Cupriavidus属微生物
・Rhodosporidium属微生物
・Streptomyces属微生物
・Microbacterium属微生物
・Planomicrobium属微生物
・Rhodosporidium属微生物
・Saccharomyces属微生物
・Yersinia属微生物。
【0042】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するSerratia属微生物の具体例としては、Serratia plymuthica、Serratia grimesii、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia odorifera、Serratia entomophilaまたはSerratia nematodiphilaが挙げられる。Serratia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについては明らかではないが、Serratia属微生物は排出する余剰汚泥を低減させた排水処理方法に利用されていることもあり(特開2002-18469号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0043】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するCorynebacterium属微生物の具体例としては、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoacidophilum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium ammoniagenesが挙げられる。Corynebacterium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Corynebacterium属微生物は排出する余剰汚泥を低減させた排水処理方法に利用されていることもあり(特開2002-18469号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物ではあるものの通常の物質生産での代謝経路とは異なった複雑な代謝経路も併せて有しており、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0044】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するPsuedomonas属微生物の具体例としては、Pseudomonas putida、Pseudomonas fragi、Pseudomonas fluorescens、Pseudomonas reptilivora、Pseudomonas azotoformansが挙げられる。Psuedomonas属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Psuedomonas属微生物は芳香族炭化水素系溶剤、石油系炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤などを分解することが知られていることもあり(特開2010-130950号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0045】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するBacillus属微生物の具体例としては、Bacillus magaterium、Bacillus badiusが挙げられる。Bacillus属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Bacillus属微生物は有機性廃棄物の発酵時に発生する悪臭物質の脱臭に利用されていることもあり(特開2001-120945)、物質生産に一般的に利用される微生物ではあるものの通常の物質生産での代謝経路とは異なった複雑な代謝経路も併せて有しており、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0046】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するHafnia属微生物の具体例としては、Hafnia alveiが挙げられる。Hafnia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Hafnia属微生物はテレフタル酸含有廃液の分解微生物のテレフタル酸分解速度向上に利用されていることもあり(特開平10-52256号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0047】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するEscherichia属微生物の具体例としては、Escherichia coli、Escherichia fergusoniiが挙げられる。Escherichia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Escherichia属は炭化水素分解能や重金属耐性を有することが知られていることもあり(Bioresource Technology,2011,102,19,9291-9295参照)、物質生産に一般的に利用される微生物ではあるものの通常の物質生産での代謝経路とは異なった複雑な代謝経路も併せて有しており、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0048】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するAcinetobacter属微生物の具体例としては、Acinetobacter radioresistensが挙げられる。Acinetobacter属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Acinetobacter属はベンゼンや燃料油、潤滑油などの鉱物油類を分解し環境浄化に用いられることが知られていることもあり(特開2013-123418号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0049】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するAlcaligenes属微生物の具体例としては、Alcaligenes faecalisが挙げられる。Alcaligenes属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Alcaligenes属はピレンなどの多環芳香族化合物の分解に用いられることが知られていることもあり(特開2003-70463号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0050】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するShimwellia属微生物の具体例としては、Shimwellia blattaeが挙げられる。Shimwellia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Shimwellia属は放射性ラドン濃度の高い場所でも生息していることもあり(Radiation Protection and Environment,2014,37,1,21-24参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0051】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するPlanomicrobium属微生物の具体例としては、Planomicrobium okeanokoitesが挙げられる。Planomicrobium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Planomicrobium属はディーゼル油を分解することが知られていることもあり(Journal of Basic Microbiology, Volume 53, Issue 9, pages 723-732)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0052】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するNocardioides属微生物の具体例としては、Nocardioides albusが挙げられる。Nocardioides属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Nocardioides属は難分解性の芳香族化合物の分解に用いられていることもあり(特開2003-250529号公報参照)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0053】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するYarrowia属微生物の具体例としては、Yarrowia lipolyticaが挙げられる。Yarrowia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Yarrowia属は油脂及び脂肪酸の分解に用いられていることもあり(特開2015-192611)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0054】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するCupriavidus属微生物の具体例としては、Cupriavidus necatorが挙げられる。Capriavidus属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについては明らかではないが、Capriavidus属はベンゼン、トルエン、キシレン等の石油製品由来の炭化水素類を分解することや(特開2007-252285号公報参照)、金属耐性を有することが知られていることもあり(Antonie van Leeuwenhoek,2009,96,2,115-139)、Capriavidus属微生物は、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0055】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するRhodosporidium属微生物の具体例としては、Rhodosporidium toruloidesが挙げられる。Rhodosporidium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Rhodosporidium属はディーゼル油を分解することが知られていることもあり(Research Jounal of Environmental Toxicoligy 5 (6): 369-377, 2011)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0056】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するStreptomyces属微生物の具体例としては、Streptomyces olivaceusが挙げられる。Streptomyces属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Streptomyces属はポリヒドロアルカノエート系樹脂の分解に用いられていることもあり(WO05/045017)、物質生産に一般的に利用される微生物ではあるものの通常の物質生産での代謝経路とは異なった複雑な代謝経路も併せて有しており、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0057】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するMicrobacterium属微生物の具体例としては、Microbacterium ammoniaphilumが挙げられる。Microbacterium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Microbacterium属はリグニン含有廃液の処理方法に用いられていることもあり(特開2009-72162)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0058】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するPlanomicrobium属微生物の具体例としては、Planomicrobium okeanokoitesが挙げられる。Planomicrobium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Planomicrobium属はベンゼンやその誘導体の生分解に用いられていることもあり(Res Microbiol. 2006 Sep;157(7):629-36)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0059】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するRhodosporidium属微生物の具体例としては、Rhodosporidium toruloidesが挙げられる。Rhodosporidium属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Rhodosporidium属はディーゼルオイルの生分解に用いられていることもあり(Research Journal of Environmental Toxicology5.6 (Nov/Dec 2011): 369-377)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0060】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するSaccharomyces属微生物の具体例としては、Saccharomyces cerevisiaeが挙げられる。Saccharomyces属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Saccharomyces属はアゾ染料であるメチルレッドを分解することもあり(Chemosphere. 2007 Jun;68(2):394-400)、物質生産に一般的に利用される微生物ではあるものの通常の物質生産での代謝経路とは異なった複雑な代謝経路も併せて有しており、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0061】
3-オキソアジピン酸の生産能を有するYersinia属微生物の具体例としては、Yersinia ruckeriが挙げられる。Yersinia属微生物が代謝経路を利用して3-オキソアジピン酸を製造しうるメカニズムについても明らかではないが、Yersinia属は農薬の生分解に関わっていることもあり(Revista Internacional de Contaminacion Ambiental; Vol 26, No 1 (2010); 27-38)、物質生産に一般的に利用される微生物とは異なった複雑な代謝経路を有し、該代謝経路に基づき3-オキソアジピン酸を生成することが推定される。
【0062】
前記微生物は、いずれも自然界に存在する微生物として公知のものであり、土壌等の自然環境から単離することができる。また、ATCC等の微生物分与機関から購入することもできる。
【0063】
前記微生物は、3-オキソアジピン酸の生産性が増大するように公知の手法にしたがって遺伝子を組換えたものであってもよく、また、人為的変異手段により変異させたものであってもよい。
【0064】
前記微生物が3-オキソアジピン酸の生産能を有することの確認は、培養液の上清を適当な分析手法、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)、高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析計(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)などを用いて培養液上清に含まれる3-オキソアジピン酸を検出することで確認することができる。そして本発明では、20時間培養して得られる培養液上清中に1.0mg/L以上の3-オキソアジピン酸を生産できる微生物を、3-オキソアジピン酸の生産能を有する微生物として使用することが好ましい。
【0065】
本発明では、前記微生物を、用いる微生物に好適な培地、例えば、通常の微生物が代謝し得る脂肪族化合物を炭素源として含有する培地、好ましくは液体培地中において培養する。ここで、本発明における「代謝」とは、微生物が細胞外から取り入れた、あるいは細胞内で別の化学物質より生じたある化学物質が、酵素反応により別の化学物質へと変換されることを指す。使用される微生物が代謝しうる炭素源の他には、窒素源、無機塩および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を程よく含有した培地を用いる。上記栄養源を含有していれば天然培地、合成培地のいずれでも利用できる。なお、前記微生物は公知であり、培養方法も、用いる培地も公知であるので、各微生物についての公知の培地及び培養方法を用いて培養することができる。
【0066】
前記微生物が炭素源として代謝しうる脂肪族化合物としては、グルコース、シュクロース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、糖蜜、セルロース含有バイオマス糖化液、更には酢酸、コハク酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸等の有機酸、メタノール、エタノール、プロパノールなどの一価アルコール類、およびグリセリン、エチレングリコール、プロパンジオールなどの多価アルコール類、炭化水素、脂肪酸、油脂などが挙げられる。微生物が代謝しうる脂肪族化合物であれば上記化合物のいずれでもよいが、微生物が単一炭素源として生育に利用可能な脂肪族化合物が好ましい。このような脂肪族化合物の例としては、例えばグルコース、キシロース、グリセロール、コハク酸、酢酸が挙げられる。さらに好ましくは、有機酸と糖類、あるいは有機酸とアルコール類、あるいは2種類以上の有機酸を併せて代謝させることで効率よく3-オキソアジピン酸を製造することができる。この場合、代謝される脂肪族化合物のどちらか一方は微生物が細胞外から取り入れたものでもよく、細胞内で別の化学物質より生じたものでもよい。このような組み合わせにおける有機酸と糖類の例としては、例えばコハク酸とグルコースやコハク酸とキシロースが挙げられ、有機酸とアルコール類の例としては、例えばコハク酸とグリセロールが挙げられ、2種類以上の有機酸の例としては、例えばコハク酸と酢酸が挙げられる。なお、代謝し得る脂肪族化合物の濃度としては、培養する微生物を維持可能な濃度であれば特に限定されず、各微生物について公知の濃度を採用し得るが、通常、培地全体に対して、通常、5g/L~300g/L程度、特に10g/L~150g/L程度である(2種類以上の脂肪族化合物が含まれる場合には合計濃度)。
【0067】
前記微生物の培養に用いる窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。窒素源は、単独で用いることも2種以上を組み合わせて用いることも可能であり、無機窒素源と有機窒素源を組み合わせて用いることも可能である。なお、窒素源の濃度としては、培養する微生物を維持可能な濃度であれば特に限定されず、各微生物について公知の濃度を採用し得るが、通常、0.1g/L~50g/L程度、特に0.5g/L~10g/L程度である(2種類以上の窒素源が含まれる場合には合計濃度)。
【0068】
前記微生物の培養に用いる無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。これらの無機塩類の濃度としては、なお、無機塩類の濃度としては、培養する微生物を維持可能な濃度であれば特に限定されず、各微生物について公知の濃度を採用し得るが、各無機塩類のそれぞれについて、通常、1g/L~50g/L程度、特に5g/L~20g/L程度である。
【0069】
3-オキソアジピン酸を製造するための前記微生物の培養条件は、前記成分組成の培地、培養温度、撹拌速度、pH、通気量、植菌量、培養時間などを、使用する生産菌の種類および外部条件などに応じて、適宜調節あるいは選択して設定することができる。培養温度としては、10℃~50℃程度、特に20℃~40℃程度、pHとしては、3~9程度、特に、5~7程度、培養時間としては、1時間~200時間程度、特に24時間~150時間程度を例示することができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、液体培養において発泡がある場合には、鉱油、シリコーン油および界面活性剤などの消泡剤を適宜培地に配合することができる。
【0070】
上記に示した培地および培養条件であれば、前記微生物を用いた培養により3-オキソアジピン酸を製造することができるが、3-オキソアジピン酸を製造するために必要な代謝経路を活性化した状態で前記微生物を培養することで、より効率的に3-オキソアジピン酸を製造することができる。前記代謝経路を活性化する方法は特に限定されないが、例えば、培地に誘導物質を添加することで3-オキソアジピン酸を製造するための代謝経路中の酵素遺伝子(群)の発現を誘導する方法、遺伝子改変技術により酵素遺伝子(群)のコーディング領域および/またはその周辺の機能性領域を改変する方法、酵素遺伝子(群)のコピー数を増加させる方法、副生成物の生合成経路中の酵素遺伝子機能を破壊する方法などが挙げられるが、誘導物質により3-オキソアジピン酸を製造するための代謝経路中の酵素遺伝子(群)の発現を誘導する方法が好ましい。
【0071】
本発明に用いる誘導物質としては、3-オキソアジピン酸の製造に必要な代謝経路が活性化される物質であれば特に限定されないが、例えば、通常3‐オキソアジピル-CoAを中間体としてより炭素数の少ない化合物へと代謝される、芳香族化合物あるいは炭素数6以上の脂肪族化合物を用いることができる。炭素数6以上の脂肪族化合物として好ましくは、炭素数6以上のジカルボン酸を用いることができる。このような化合物の例は、例えばKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)などのデータベースを用いて知ることができるが、具体的には、安息香酸、cis,cis-ムコン酸、テレフタル酸、プロトカテク酸、カテコール、バニリン、クマル酸、フェルラ酸、アジピン酸、フェニルアラニン、フェネチルアミンなどが挙げられ、好ましい例としては、安息香酸、カテコール、プロトカテク酸、アジピン酸が挙げられる。
【0072】
上記の誘導物質は3-オキソアジピン酸製造に用いる微生物に応じて単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。誘導物質の濃度は、特に限定されず、適宜設定可能であるが、通常、1mg/L~10g/L程度、特に3mg/L~1g/L程度である(2種以上の誘導物質が用いられる場合にはその合計濃度)。
【0073】
前記微生物の培養物中に生産された3-オキソアジピン酸の単離は、蓄積量が適度に高まった時点で培養を停止し、その培養物から、発酵生産物を採取する一般的な方法に準じて行うことができる。具体的には、例えば、遠心分離、ろ過などにより菌体を分離したのち、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、活性炭処理、結晶化、膜分離、蒸留などにより、3-オキソアジピン酸を培養物から単離することができる。より具体的には、好ましい回収方法として、培養物を逆浸透膜やエバポレーターなどを用いた濃縮操作により水を除去して3-オキソアジピン酸の濃度を高めた後、冷却結晶化や断熱結晶化により3-オキソアジピン酸および/または3-オキソアジピン酸の塩の結晶を析出させ、遠心分離やろ過などにより3-オキソアジピン酸および/または3-オキソアジピン酸の塩の結晶を得る方法、培養物にアルコールを添加して3-オキソアジピン酸エステルとした後、蒸留操作により3-オキソアジピン酸エステルを回収後、加水分解により3-オキソアジピン酸を得る方法等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。3-オキソアジピン酸の塩は、たとえばNa塩、K塩、Ca塩、Mg塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。
【実施例
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
参考例1 3-オキソアジピン酸の準備
微生物が生産した3-オキソアジピン酸の定量分析に使用する当該物質の標品は化学合成により準備した。
【0076】
まず、コハク酸モノメチルエステル13.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)に超脱水テトラヒドロフラン1.5L(和光純薬株式会社製)を加え、攪拌しながらカルボニルジイミダゾール16.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した。この懸濁液にマロン酸モノメチルエステルカリウム塩15.6g(0.1mol)および塩化マグネシウム9.5g(0.1mol)を添加し、窒素雰囲気下1時間室温で攪拌した後、40℃で12時間攪拌した。反応終了後、室温下、1mol/L塩酸を0.05L加え、酢酸エチルにより抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:5)で分離精製することで、純粋な3-オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル13.1gを得た。収率70%。
【0077】
得られた3-オキソヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル5g(0.026mol)にメタノール26mL(国産化学株式会社製)を加え、攪拌しながら5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液12mLを添加し、室温で一晩攪拌した。反応終了後、5mol/Lの塩酸12mLを添加し、酢酸エチル100mL(和光純薬株式会社製)により抽出した。ロータリーエバポレーターで濃縮後、アセトン/石油エーテルで再結晶することで、純粋な3-オキソアジピン酸2gを得た。収率47%。
【0078】
3-オキソアジピン酸のH-NMRスペクトル:
H-NMR(400MHz、DO):δ2.62(t、2H)、δ2.88(t、2H)、δ3.73(s、1H)。
【0079】
実施例1 脂肪族化合物を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
[微生物培養]
以下の表1に示した微生物(いずれの微生物も微生物分与機関より購入。購入先は株名に記載。)の3-オキソアジピン酸の生産能を調べた。トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/Lに誘導物質として安息香酸、cis,cis-ムコン酸、テレフタル酸、プロトカテク酸、カテコール、アジピン酸、フェニルアラニンおよびフェネチルアミンをそれぞれ2.5mMとなるように添加しpH7に調製した培地5mLに、それぞれの微生物を一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。その培養液に10mLの0.9%塩化ナトリウムを加え、菌体を遠心分離したのち上清を完全に取り除くことで菌体を洗浄する操作を3回行ったのち、菌体を1mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液0.5mLを、脂肪族化合物を炭素源とする以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で20時間振とう培養した(本培養)。本培養液より菌体を遠心分離した上清を、LC-MS/MSにて分析した。
【0080】
本培養の培地組成:
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
グリセロール10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0081】
[3-オキソアジピン酸の定量分析]
LC-MS/MSによる3-オキソアジピン酸の定量分析は以下の条件で行った。
・HPLC:1290Infinity(Agilent Technologies社製)
カラム:Synergi hydro-RP(Phenomenex社製)、長さ100mm、内径3mm、粒径2.5μm
移動相:0.1%ギ酸水溶液/メタノール=70/30
流速:0.3mL/分
カラム温度:40℃
LC検出器:DAD(210nm)
・MS/MS:Triple-Quad LC/MS(Agilent Technologies社製)
イオン化法:ESI ネガティブモード。
【0082】
培養上清中に蓄積した3-オキソアジピン酸の濃度は表1のとおりで、いずれの微生物も3-オキソアジピン酸の生産能を有することを確認することができた。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例2 単一の脂肪族化合物を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
S.plymuthica NBRC102599、C.glutamicum ATCC13826およびP.fragi NBRC3458それぞれを、本培養における単一炭素源としてコハク酸、グルコース、グリセロールのいずれか1つを10g/L含む他は実施例1と同様の条件にて培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。微生物3株についての結果をそれぞれ表2から4に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
参考例2 単一の脂肪族化合物を用いた生育試験
S.plymuthica NBRC102599、C.glutamicum ATCC13826およびP.fragi NBRC3458それぞれを、培養における単一炭素源として表5から7に示す脂肪族化合物のいずれか1つを10g/L含む生育試験用培地に一白金耳植菌し、30℃で振とう培養した。培養開始から2日後に培養液の濁度(McFarland units)をデンシトメーターDEN-1B(ワケンビーテック株式会社製)を用いて測定した。同時にコントロールとして炭素源を添加しない培養を行い、コントロールの濁度との差分を求めた。微生物3株についての結果をそれぞれ表5から7に示す。
【0089】
生育試験用培地組成(S.plymuthicaおよびP.fragi):
炭素源10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
pH6.5。
【0090】
生育試験用培地組成(C.glutamicum):
炭素源10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
ビオチン0.03mg/L
チアミン塩酸塩1mg/L
プロトカテク酸1mg/L
pH6.5。
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
実施例3 2種類の脂肪族化合物を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
S.plymuthica NBRC102599、C.glutamicum ATCC13826およびP.fragi NBRC3458それぞれを、本培養における炭素源として表8から10に示す脂肪族化合物2種をそれぞれ10g/L含む他は実施例1と同様の条件にて培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。同時にコントロールとしてコハク酸のみを炭素源とした培養を行い、コントロールの3-オキソアジピン酸蓄積濃度との差分を求めた。微生物3株についての結果をそれぞれ表8から10に示す。
【0095】
【表8】
【0096】
【表9】
【0097】
【表10】
【0098】
実施例4 単一の誘導物質を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
S.plymuthica NBRC102599、C.glutamicum ATCC13826およびP.fragi NBRC3458それぞれを、表11から13に示す化合物を誘導物質として2.5mM含む培地、もしくは誘導物質を含まない培地を用いて前培養を行い、本培養において炭素源としてコハク酸およびグルコースをそれぞれ10g/L含む培地を用いた他は実施例1と同様の条件にて培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。微生物3株についての結果をそれぞれ表11から13に示す。
【0099】
【表11】
【0100】
【表12】
【0101】
【表13】
【0102】
実施例5 3-オキソアジピン酸の製造例
実施例1で3-オキソアジピン酸の生産能を有する微生物であることが確認できたSerratia plymuthica NBRC102599を、LB培地5mLに一白金耳植菌し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液2mLをトリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、安息香酸2.5mM、カテコール2.5mM、cis,cis-ムコン酸2.5mM、テレフタル酸2.5mM、プロトカテク酸2.5mM、アジピン酸2.5mM、フェニルアラニン2.5mM、フェネチルアミン2.5mM、pH7からなる培地100mLに添加し、十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。前培養液を200mLの0.9%塩化ナトリウムで実施例1と同様に3回洗浄したのち、菌体を10mLの0.9%塩化ナトリウムに懸濁した。懸濁液10mLを実施例1と同様の本培養の培地100mLに添加し、30℃で20時間振とう培養した(本培養)。本培養液より菌体を遠心分離した上清を、実施例1と同様にLC-MS/MSにて分析した結果、培養上清中に蓄積した3-オキソアジピン酸の濃度は260mg/Lであった。
【0103】
次に本培養の上清を減圧濃縮し、3-オキソアジピン酸の濃度が2200mg/Lの濃縮液を12mL得た。この濃縮液を、分取装置を連結したHPLCに注入し、3-オキソアジピン酸の標品と一致する溶出時間の画分を採取した。この作業を10回繰り返し、培養液中の不純物が除去された3-オキソアジピン酸水溶液を得た。なお、3-オキソアジピン酸の採取に用いた分取HPLCは以下の条件にて行った。
【0104】
HPLC:SHIMADZU 20A(株式会社島津製作所製)
カラム:Synergi hydro-RP(Phenomenex社製)、長さ250mm、内径10mm、粒径4μm
移動相:5mM ギ酸水溶液/アセトニトリル=98/2
流速:4mL/分
注入量:1mL
カラム温度:45℃
検出器:UV-VIS(210nm)
分取装置:FC204(Gilson社製)。
【0105】
続いて3-オキソアジピン酸水溶液を減圧濃縮し、22mgの結晶を得た。結晶をH-NMRで分析した結果、得られた結晶が3-オキソアジピン酸であることを確認できた。
【0106】
比較例1 3-オキソアジピン酸の生産能を有さない微生物
表14に示した微生物の3-オキソアジピン酸の生産能を確認するべく、実施例1と同様の条件で微生物培養し、3-オキソアジピン酸の定量分析をした結果、培養上清中に3-オキソアジピン酸は検出されなかった。
【0107】
【表14】
【0108】
比較例2 炭素源を添加しない培養
表1に示した微生物を、脂肪族化合物(コハク酸、グルコース、グリセロール)を炭素源として含まない組成の培地を用いた他は実施例1と同様の条件で培養し、3-オキソアジピン酸の定量分析をした結果、培養上清中に3-オキソアジピン酸は検出されなかった。本結果より、実施例1で定量できた3-オキソアジピン酸は脂肪族化合物が微生物により代謝された結果生成したものであることを確認できた。
【0109】
実施例6 様々な微生物を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表15に示した微生物(いずれも微生物分与機関より購入。購入先は株名に記載。)を対象に、誘導物質として、前培養培地にフェルラ酸、p-クマル酸、安息香酸、cis,cis-ムコン酸、プロトカテク酸およびカテコールをそれぞれ2.5mMとなるように添加した以外は実施例1と同様の条件で前培養および菌体洗浄を行った。洗浄後の懸濁液0.5mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。
【0110】
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
グリセロール10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0111】
培養上清中に蓄積した3-オキソアジピン酸酸の定量分析を行った結果をそれぞれ表15に示す。これらの結果から、いずれの微生物も3-オキソアジピン酸の生産能を有することを確認することができた。
【0112】
【表15】
【0113】
実施例7 誘導物質を添加しない3-オキソアジピン酸生産試験
表16に示した微生物を対象に、実施例6で用いた誘導物質を添加しなかった以外は実施例6と同様の条件で前培養および菌体洗浄を行った。洗浄後の懸濁液0.5mLを以下に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。
【0114】
コハク酸10g/L
グルコース10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0115】
培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした結果をそれぞれ表16に示す。
【0116】
これらの結果から、表16に示した微生物は誘導物質を添加せずに前培養を行った場合でも3-ヒドロキシアジピン酸の生産能を有することを確認することができた。
【0117】
【表16】
【0118】
実施例8 p-クマル酸又はフェルラ酸を誘導物質として用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表17に示した微生物を対象に、実施例6で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、p-クマル酸又はフェルラ酸をそれぞれ0.5mMとなるように添加した以外は実施例6と同様の条件で前培養および菌体洗浄を行った。洗浄後の懸濁液0.5mLを実施例7に示した組成の培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした結果をそれぞれ表17に示す。これらの結果から、p-クマル酸又はフェルラ酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合でも、添加しなかった場合と比べて、3-オキソアジピン酸の生産量が向上することがわかった。
【0119】
【表17】
【0120】
実施例9 様々な濃度のフェルラ酸を誘導物質として用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表18に示した属微生物を対象に、実施例6で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、フェルラ酸を表18に示した濃度になるよう実施例7の前培養培地に添加し、前培養を行った。実施例7と同様の条件で本培養を行い、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表18に示す。これらの結果から、フェルラ酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合でも、3-オキソアジピン酸の生産量が向上することがわかった。
【0121】
【表18】
【0122】
実施例10 様々な濃度のp-クマル酸を誘導物質として用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表19に示した微生物を対象に、実施例6で誘導物質として前培養培地に添加した物質の中から、p-クマル酸を表19に示した濃度になるよう実施例7の前培養培地に添加し、前培養を行った。実施例7と同様の条件で本培養を行い、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表19に示す。これらの結果から、p-クマル酸のみを誘導物質として前培養培地に添加した場合も、3-オキソアジピン酸の生産量が向上することがわかった。
【0123】
【表19】
【0124】
参考例3 糸状菌由来セルラーゼ(培養液)の調製方法
糸状菌由来セルラーゼ(培養液)は、次の方法で調製した。
【0125】
[前培養]
コーンスティープリカー(CSL)5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、100mLを500mLバッフル付き三角フラスコに張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE-MとTween80を、それぞれ0.01%(w/vol)添加した。この前培養培地に、トリコデルマ・リーセイATCC66589を1×10個/mLになるように植菌し、28℃の温度で72時間、180rpmで振とう培養し、前培養とした(振とう装置:TAITEC社製 BIO-SHAKER BR-40LF)。
【0126】
[本培養]
コーンスティープリカー(CSL)5%(w/vol)、グルコース2%(w/vol)、セルロース(旭化成ケミカルズ社製、商品名:アビセル)10%(w/vol)、酒石酸アンモニウム0.37%(w/vol)、硫酸アンモニウム0.14%(w/vol)、リン酸二水素カリウム0.2%(w/vol)、塩化カルシウム二水和物0.03%(w/vol)、硫酸マグネシウム七水和物0.03%(w/vol)、塩化亜鉛0.02%(w/vol)、塩化鉄(III)六水和物0.01%(w/vol)、硫酸銅(II)五水和物0.004%(w/vol)、塩化マンガン四水和物0.0008%(w/vol)、ホウ酸0.0006%(w/vol)、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物0.0026%(w/vol)となるように蒸留水に添加し、2.5Lを5L容撹拌ジャー(ABLE社製、DPC-2A)容器に張り込み、121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、これとは別に、それぞれ121℃の温度で15分間オートクレーブ滅菌したPE-MとTween80を、それぞれ0.1%添加し、あらかじめ前記の方法で液体培地で前培養したトリコデルマ・リーセイATCC66589を250mL接種した。その後、28℃の温度で87時間、300rpm、通気量1vvmの条件で振とう培養を行い、遠心分離後、上清を膜ろ過(ミリポア社製の“ステリカップ-GV”、材質:PVDF)した。この前述の条件で調整した培養液を糸状菌由来セルラーゼとして、以下の参考例に使用した。
【0127】
参考例4 セルラーゼ濃度の測定
水溶液中のセルラーゼ濃度はブラッドフォード法によって測定した酵素液中のタンパク質濃度(mg/mL)の値を基準とした。タンパク質の濃度は、ブラッドフォード法による測定キット(Quick Start Bradford Protein Assay、Bio-Rad社製)を使用して測定した。
【0128】
参考例5 セルロース含有バイオマス由来糖化液の作製
バガス乾燥重量1kgに対し、バイオマス仕込み量5%で30gの苛性ソーダを混合し、90℃、3時間反応させアルカリ処理バガスを作製した。アルカリ処理バガスをスクリュープレスで固液分離し、含水率60%の固液分離固体を得た。
【0129】
得られた固液分離固体を固形分濃度5%で再度懸濁し、参考例3で作製した糸状菌由来セルラーゼを参考例4で示す測定によりタンパク量8mg/g-バガスで加水分解を行い、糖化液を得た。加水分解条件としては、40℃、pH7.0、反応時間24時間とした。得られた糖化液をスクリューデカンタで固形分を除去し、回収した糖化液を、孔径0.22μmの精密ろ過膜を用いて全量濾過後、さらに得られた透過液を限外ろ過膜によるろ過処理を行った。限外ろ過膜は、TMUS10k(Toray Membrane USA社製、材質:ポリビニリデンフルオライド、分画分子量:10,000)を用いた。限外ろ過は、平膜ろ過ユニット“SEPA-II”(GEオスモニクス製)を用い、膜面線速度20cm/秒、ろ過圧3MPaの条件下で非透過側から回収される液量が0.6Lになるまでろ過処理を行い、透過側に糖化液を得た。
【0130】
得られた糖化液を分離膜(Synder社製、NFW(材質:ピペラジンポリアミド、分画分子量300~500))による濾過処理を行った。濾過処理は膜面線速度20cm/秒、ろ過圧3MPaの条件下で非透過側の濃縮倍率が12倍までろ過処理を行い、透過側に糖化液を得た。
【0131】
得られた糖化液をエバポレーターで濃縮し、グルコース100g/L、キシロース22.3g/L、クマル酸0.5g/L、フェルラ酸0.06g/Lの糖化液を作製した。また、糖化液は最終pHが7となるように、6N水酸化ナトリウムを用いて調整した。
【0132】
実施例11 セルロース含有バイオマス由来糖化液を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表20に示した微生物を対象に、参考例5で作製したセルロース含有バイオマス由来糖化液を炭素源として用いた3-オキソアジピン酸生産試験を行った。
【0133】
セルロース含有バイオマス由来糖化液を用いて以下に示した組成となるように調整した前培養培地5mLに、それぞれの微生物を十分懸濁するまで30℃で振とう培養した(前培養)。続いて実施例6と同様の条件で菌体洗浄を行った。洗浄後の懸濁液0.5mLを、セルロース含有バイオマス由来糖化液を用いて以下に示した組成となるように調整した本培養培地5mLに添加し、30℃で48時間振とう培養した。比較として、p-クマル酸およびフェルラ酸を含まない炭素源を前培養および本培養に用いた他は、上記と同様の条件で培養を行った。培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした結果を表20に示す。これらの結果から、p-クマル酸およびフェルラ酸を含むセルロース含有バイオマス由来糖化液を用いて培養した場合でも、p-クマル酸およびフェルラ酸を含まない炭素源を用いた場合と比較して、3-オキソアジピン酸の生産量が向上することがわかった。
【0134】
前培養の培地組成
グルコース5g/L
キシロース1.1g/L
p-クマル酸25mg/L
フェルラ酸3mg/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0135】
本培養の培地組成
グルコース50g/L
キシロース11g/L
p-クマル酸250mg/L
フェルラ酸30mg/L
コハク酸10g/L
硫酸アンモニウム1g/L
リン酸カリウム50mM
硫酸マグネシウム0.025g/L
硫酸鉄0.0625mg/L
硫酸マンガン2.7mg/L
塩化カルシウム0.33mg/L
塩化ナトリウム1.25g/L
Bactoトリプトン2.5g/L
酵母エキス1.25g/L
pH6.5。
【0136】
【表20】
【0137】
実施例12 2種類の炭素源を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表21および表22に示した微生物を対象に、実施例6と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表21および表22に示した化合物をそれぞれ10g/L含む培地にて実施例6と同様の条件にて培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表21および表22に示す。これらの結果から、2種類の炭素原を用いて培養しても、3-オキソアジピン酸を効率よく生産できることがわかった。
【0138】
【表21】
【0139】
【表22】
【0140】
実施例13 様々な濃度の2種類の炭素源を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表23および表24に示した微生物を対象に、実施例6と同様の培地を用いて前培養を行ったのち、炭素源として表23および表24に示した濃度の化合物をそれぞれ含む培地にて実施例6と同様の条件にて48~120時間培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表23および表24に示す。これらの結果から、炭素源の添加割合を変更しても、3-オキソアジピン酸を生産できることがわかった。
【0141】
【表23】
【0142】
実施例14 単一の炭素源を用いた3-オキソアジピン酸生産試験
表24および表25に示した微生物を対象に、実施例7と同様の培地を用いて誘導物質を添加しない前培養を行ったのち、炭素源としてコハク酸、グルコース、グリセロールのいずれか1種類を10g/L含む培地にて実施例7と同様の条件にて培養し、培養上清中の3-オキソアジピン酸の定量分析をした。結果をそれぞれ表24に示す。さらに、同様の実験について、前培養培地のみ誘導物質を添加した実施例6の条件に変更して行った。3-オキソアジピン酸の生産量について表25に示す。これらの結果から、単一の炭素源を用いた場合でも、3-オキソアジピン酸を生産できること、また、単一の炭素源を用いた場合も、誘導物質を前培養培地に添加することで、3-オキソアジピン酸の生産量が向上することがわかった。
【0143】
【表24】
【0144】
【表25】
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明によれば、微生物を利用して3-オキソアジピン酸を製造することができる。得られた3-オキソアジピン酸は各種ポリマー原料として利用することができる。