(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】cAMPの増加をメカニズムとする有機酸血症における神経障害治療薬剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20220225BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20220225BHJP
A61K 31/7076 20060101ALI20220225BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20220225BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220225BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20220225BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K31/196
A61K31/7076
A61K31/55
A61K31/455
A61K31/137
A61P7/00
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2018546353
(86)(22)【出願日】2017-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2017037507
(87)【国際公開番号】W WO2018074463
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2016203955
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】松本 志郎
(72)【発明者】
【氏名】江良 択実
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 文夫
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-514630(JP,A)
【文献】特表2009-536950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/33-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Forskolin,GW9508,NECA,SKF77434,nicotinamide, dobutamine,db-cAMPのいずれかを有効成分とし,cAMPを増加させることにより,
メチルマロン酸血症を治療ないし予防することを特徴とするメチルマロン酸血症のための医薬組成物。
【請求項2】
さらに,Forskolin,GW9508,NECA,SKF77434,nicotinamide, dobutamineのいずれかを有効成分とし,CREBを活性化する請求項1に記載のメチルマロン酸血症のための医薬組成物。
【請求項3】
db-cAMPを有効成分とし,cAMPを増加させることにより,
プロピオン酸血症を治療ないし予防することを特徴とするプロピオン酸血症のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,cAMPの増加をメカニズムとする有機酸血症における神経障害の治療薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸血症とは,代謝酵素の異常により,生体内において有機酸が過剰に蓄積する疾患である。有機酸血症では,有機酸の過剰蓄積により,代謝性アシドーシスや高アンモニア血症,低血糖などが起こり,これらの結果,急性期においては呼吸障害や意識障害が,慢性期には食欲不振や嘔吐などの症状が生じる。また,有機酸血症は,根治的な治療が困難であり,致死率が高いことでも知られている。
【0003】
有機酸血症の治療方法として,食事療法や薬物療法,透析,移植などが挙げられる。
食事療法は,有機酸代謝物の原因物質となりうるタンパク質やイソロイシン,バリン,メチオニンなどのアミノ酸を制限した食事をとる治療法である。食事療法は,有機酸血症の原因である,有機酸の蓄積を抑制しうるものではあるが,これを完全に防ぐことはできない。そのため,慢性期における症状安定を目的として行われる有効な治療方法であるものの,根治的な治療ではない。
一方,薬物療法においては,アンモニアを解毒するアルギニン,カルバグル,また,有機酸と結合し,排泄を促すカルニチン塩酸塩が使用される。薬物療法は,慢性期のみならず,急性期における症状悪化時にも用いられる治療法である。また,血中からの有機酸の除去を目的として,血液透析と合わせて行われることも多い。これら薬物療法ならびに透析,いずれにおいても,症状悪化時の速やかな有機酸の除去をなしうるものの,原因となる有機酸の蓄積を完全に排除しうるものではないため,根治的な治療ではない。
【0004】
これらに比して,肝臓移植は,有機酸血症における唯一の救命法として実施されてきた。また,肝臓移植のみでは,神経症状がゆっくりと進行し,神経学的後遺症ならびに腎障害が高率で合併することが明らかとなってきたことから,最近では,肝臓移植と腎臓移植を同時に行う肝腎同時移植が,先進的治療として海外で実施されている。
これら移植治療と透析技術の向上により,有機酸血症における治療成績は向上し,致死率も確実に低下している。しかしながら,この肝腎同時移植においても,髄液中の有機酸濃度は正常化しないことや,重篤な神経障害が残ってしまうことが報告されている。すなわち,移植治療によって致死率が低下した一方,生存例において神経障害が完治しないことから,神経障害が患者のQOLを低下させる原因となっている。
これらの事情から,有機酸血症における神経障害に対する治療法の開発が,強く望まれている。
【0005】
一方,cAMPは,細胞内においてセカンドメッセンジャーとして機能する細胞内シグナル伝達物質である。
cAMPの存在や機能などについては,古くから知られているものの,有機酸血症との関連性については明らかでなかった。一方,cAMPと神経障害については,これを示唆する技術が散見される(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2004/045592号パンフレット
【文献】国際公開2007/133749号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には,神経発生を増大させるための組成物および方法に関する技術が開示されている。また,特許文献2には,末梢神経障害を治療および予防するための方法等に関する技術が開示されている。
これら先行技術については,cAMPの調整やcAMPモジュレーターなどが開示されており,中枢神経障害や末梢神経障害とcAMPの関連性を示唆するものではある。
しかしながら,神経障害といっても,これをもたらす疾患により,その発生原因は様々であり,また,これら先行技術において,有機酸血症における神経障害について開示も示唆もない。加えて,有機酸血症の神経障害において,cAMP調整をメカニズムとした治療は行われておらず,有効な治療薬も存在しないのが現状である。
【0008】
このような事情から発明者らは,有機酸血症の中でも,特に致死率が高く,長期予後も不良であるメチルマロン血症に着目し研究を開始した。
メチルマロン血症の病因は,メチルマロニルCoAからサクシニルCoAへの代謝を触媒する酵素であるメチルマロニルCoAムターゼ(MCM)の欠損,もしくは,MCMの補酵素であるビタミンB12(コバラミン)の代謝異常に大別される。これらの欠損もしくは代謝異常により,ミトコンドリア内のプロピオニルCoAおよびメチルマロニルCoAが蓄積し,これらに由来するメチルマロン酸が増加して細胞機能を害し,重篤な臓器障害をきたすと考えられていた。しかし,そのメカニズムの詳細は,不明であった。
【0009】
上記事情を背景として本発明では,メチルマロン血症における神経障害に関するメカニズムを明らかにするとともに,得られた知見に基づいた有機酸血症における神経障害の新たな治療薬等の開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは,鋭意研究の結果,メチルマロン血症をはじめとする有機酸血症において,神経細胞内におけるcAMP濃度の低下が神経障害の原因であることを見出し,cAMPの補充を行うことで有機酸血症における神経障害を治療,防止する薬剤等の発明を完成させたものである。
【0011】
すなわち,発明者らは,メチルマロン血症患者の末梢血リンパ球からiPS細胞を樹立し,これを神経細胞へと分化させ検討を行ったところ,下記の事実を明らかにした。かかる事実から,cAMPを補充することにより,有機酸血症における神経障害を治療,防止しうることを明らかにしたものである。
(1) メチルマロン血症由来神経細胞において,神経細胞障害を特異的に回復させる6つの化合物を発見した。
(2) これら6つの化合物は全て,細胞内のcAMPを増加させる,もしくは,下流分子であるCREBを活性化させるという,共通の作用を有していた。
(3) メチルマロン血症由来神経細胞におけるcAMP濃度を測定したところ,健常者由来神経細胞と比較して,顕著に,その濃度が低下していることが確認された。
(4) また,メチルマロン血症患者由来iPS細胞において,cAMP濃度の低下はみられないことから,メチルマロン血症患者神経細胞への分化により,このcAMP濃度低下が起こることが確認された。
(5) メチルマロン血症由来神経細胞において,培養液中にcAMPを添加することにより,細胞生存率およびミトコンドリア機能が,健常者由来神経細胞の90%程度にまで回復することが分かった。同様の効果が,プロピオン酸血症においても確認された。
(6) メチルマロン血症由来神経細胞において,cAMPの減少は,Adenylate cyclaseの活性低下が原因として引き起こされていることが確認された。加えて,cAMPを基質とするCREBの活性は阻害されておらず,Adenylate cyclase由来のcAMPを補完することにより,CREBがリン酸化されており,これをメカニズムの一つとして治療効果が発揮されていることが確認された。
(7) メチルマロン酸投与により作製を行ったインビボモデルにおいて,cAMPを補完する薬剤投与により,痙攣による発作回数および持続時間の抑制効果,ならびに生存率の向上効果が確認された。
【0012】
本発明は,下記の構成からなる。
本発明の第一の構成は,有機酸血症において,cAMPを増加させることにより,神経障害を治療ないし予防することを特徴とする神経障害治療用薬剤である。
【0013】
本発明の第二の構成は,さらに,CREBを活性化させることを特徴とする第一の構成に記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第三の構成は,有機酸血症が,Adenylate cyclaseの活性を低下させる有機酸血症であることを特徴とする第一又は第二の構成に記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第四の構成は,有機酸血症が,メチルマロン酸血症,プロピオン酸血症のいずれか又は複数から選択されることを特徴とする第一又は第二の構成に記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第五の構成は,cAMPの増加が,Forskolin,GW9508,NECA,SKF77434,nicotinamide, dobutamine,db-cAMPのいずれかによりなされることを特徴とする第一から第四の構成いずれかに記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第六の構成は,cAMPの増加が,Adenylate cyclaseの活性低下を抑制または防止することによりなされることを特徴とする第三の構成に記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第七の構成は,神経障害の治療ないし予防により,延命効果を高めることを特徴とする第一から第六の構成いずれかに記載の神経障害治療用薬剤である。
本発明の第八の構成は,第一ないし第七の構成いずれかに記載の神経障害治療用薬剤を用いて,有機酸血症における神経障害を治療ないし予防する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により,メチルマロン血症における神経障害に関するメカニズムが明らかになるとともに,この知見に基づいた有機酸血症における神経障害の新たな治療薬等の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】スクリーニング実験系の妥当性をグラフで検討した図
【
図2】ジブチル-cAMPのメチルマロン酸血症患者由来神経前駆細胞への保護作用
【
図3】正常iPS細胞由来神経前駆細胞(201B7 NPCs)とメチルマロン酸患者iPS細胞由来神経前駆細胞(B47 NPCs)における細胞内cAMP濃度を比較した図
【
図4】フォルスコリン添加による細胞内cAMP産生能を比較した図
【
図5】メチルマロン酸患者iPS細胞由来神経前駆細胞(B42 NPCs)において細胞内cAMP濃度へのメチルマロン酸添加の影響を調べた図
【
図6】メチルマロン酸患者iPS細胞由来神経前駆細胞(B42 NPCs)において各条件における各タンパクの発現量を調べた図
【
図7】メチルマロン酸血症簡易神経障害モデルにおいて,cAMP上昇候補薬投与前後における発作回数を比較検討した結果を示した図
【
図8】メチルマロン酸血症簡易神経障害モデルにおいて,cAMP上昇候補薬投与前後における発作総持続時間を比較検討した結果を示した図
【
図9】致死的メチルマロン酸発作モデルにおいて,cAMP上昇候補薬投与有無における生存率を比較検討した結果を示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の神経障害治療用薬剤等について説明を行う。
【0017】
発明者らは,メチルマロン血症患者の末梢血リンパ球を用いて,メチルマロン血症患者由来iPS細胞の樹立ならびに安定的維持培養法の確立,メチルマロン血症患者由来iPS細胞の神経細胞への分化,これらの実験技術を初めて確立したものである。
【0018】
発明者らは,これら一連の実験技術を用いて,下記の事実を明らかにした。かかる事実から,cAMPを補充することにより,有機酸血症における神経障害を治療,防止しうることを明らかにしたものである。
(1) メチルマロン血症由来神経細胞において,神経細胞障害を特異的に回復させる6つの化合物を発見した。
(2) これら6つの化合物は全て,細胞内のcAMPを増加させる,もしくは,下流分子であるCREBを活性化させるという,共通の作用を有していた。
(3) メチルマロン血症由来神経細胞におけるcAMP濃度を測定したところ,健常者由来神経細胞と比較して,顕著に,その濃度が低下していることが確認された。
(4) また,メチルマロン血症患者由来iPS細胞において,cAMP濃度の低下はみられないことから,メチルマロン血症患者神経細胞への分化により,このcAMP濃度低下が起こることが確認された。
(5) メチルマロン血症由来神経細胞において,培養液中にcAMPを添加することにより,細胞生存率およびミトコンドリア機能が,健常者由来神経細胞の90%程度にまで回復することが分かった。同様の効果が,プロピオン酸血症においても確認された。
(6) メチルマロン血症由来神経細胞において,cAMPの減少は,Adenylate cyclaseの活性低下が原因として引き起こされていることが確認された。加えて,cAMPを基質とするCREBの活性は阻害されておらず,Adenylate cyclase由来のcAMPを補完することにより,CREBがリン酸化されており,これをメカニズムの一つとして治療効果が発揮されていることが確認された。
(7) メチルマロン酸投与により作製を行ったインビボモデルにおいて,cAMPを補完する薬剤投与により,痙攣による発作回数および持続時間の抑制効果,ならびに生存率の向上効果が確認された。
【0019】
本発明の神経障害治療用薬剤は,有機酸血症において,cAMPを増加させることにより,神経障害を治療ないし予防することを特徴とする。また,神経障害の治療態様として,例えば,痙攣発作回数の減少,痙攣持続時間の減少,延命効果を高めるなどが挙げられる。
有機酸血症とは,代謝酵素の異常により,生体内において有機酸が過剰に蓄積する疾患として定義され,典型的には,メチルマロン酸血症,プロピオン酸血症などが挙げられる。
本発明における神経障害治療用薬剤は,有機酸血症における神経障害患部において,cAMPの増加を達成しうる化合物,ないしこれを有効成分として含む組成物として定義される。また,本発明の趣旨に鑑み,かかる化合物は,そのままの化学構造でcAMPの増加を達成してもよいし,生体内における代謝等を受けて化合物の構造を変化させ,患部においてcAMPの増加を達成する,いわゆるDDS化された化合物とすることもできる。このような化合物として例えば,cAMPの細胞透過性を高めた化合物であるdb-cAMPを用いることができる。
【0020】
本発明の神経障害治療用薬剤は,cAMPの増加に加え,CREB(cAMP response element binding protein)をさらに活性化させてもよい。これにより,有機酸血症の神経障害のメカニズムに,より適した薬剤となりうるため,神経障害における治療効果の向上が期待できる。このような化合物として,例えば,Forskolin((3R,4aR,5S,6S,6aS,10S,10aR,10bS)-6,10,10b-trihydroxy-3,4a,7,7,10a-pentamethyl-1-oxo-3-vinyldodecahydro-1H-benzo[f]chromen-5-yl acetate),GW9508(3-(4-(((3-(Phenoxy)phenyl)methyl)amino)phenyl)propanoic acid),NECA(5'-N-Ethylcarboxamidoadenosine 1-(6-Amino-9H-purin-9-yl)-1-deoxy-N-ethyl-β-D-ribofuranuronamide),SKF77434(3-allyl-1-phenyl-1,2,4,5-tetrahydro-3-benzazepine-7,8-diol),nicotinamide(pyridine-3-carboxamide),dobutamineなどが挙げられる。
【0021】
本発明の神経障害治療用薬剤の剤形について,特に限定する必要はなく,種々の剤形を用いることができる。典型的には,錠剤やカプセル剤,散剤などの経口摂取用製剤の形態を取ることができ,その他,注射用製剤や経皮吸収型製剤などの形態をとることもできる。
【実施例】
【0022】
<<I.実験材料ならびに実験方法>>
<1.患者由来の末梢血リンパ球の調整方法>
(1) 患者は,熊本大学医学部附属病院小児科外来の受診患者のなかで,本研究の対象となる有機酸血症(メチルマロン酸血症ならびにプロピオン酸血症)の患者を対象とした。既に,酵素診断ならびに遺伝子診断にて確定している新生児重症型を対象とした。対象患者への説明・同意は,熊本大学生命科学研究部における倫理委員会の許可を得た同意書を用いた。
(2) 同意が得られた患者から,小児科外来処置室内にて,患者血液を3mL採取した。この血液を,バキュテイナリンパ球分離用採血管(CPT)(BDカタログ番号 362753)に無菌的に移し替え,医学部臨床研究棟5Fに移動した。
(3) バキュテイナリンパ球分離用採血管(CPT)を20℃,2000g/30分にて遠心分離し,単核球層を吸引して,新しい滅菌スピッツにバイオフード内で無菌的に移動した。
(4) 新しい滅菌スピッツに,滅菌リン酸緩衝液20mLを加えて撹拌し,更に2000g/20分遠心して,上清を除去した。
(5) 単核球ペレットを,バンバンカーhRM(カタログ番号 CS-07-001)500μLに懸濁して,-80℃保存した。
【0023】
<2.患者由来iPS細胞の樹立方法>
(1) 保存単核球細胞は,液体窒素内に保管のうえ,熊本大学発生医学研究棟へ輸送した。
(2) 保存チューブを37℃の恒温槽で溶解した。完全に溶解してしまう前に,D-PBS 9.5mLを加えて撹拌した。
(3) 溶解後,100xg/10分,10℃で遠心分離し,上清を除去した。さらに,D-PBSを12mL加えて,100xg/10分,18℃で遠心して,上清を除去した。
(4) 単核球培地(PBMC-CM: PBMC培地 100mL+SCF stock solution 100mL +FLT-3 stock solution 100mL+TPO stock solution 100mL +IL6 stock solution)を5mL添加し,懸濁した。懸濁液について,トリパンブルー染色により生細胞数をカウントした。
(5) PBMC-CM培地を用いて5×105cells/wellの割合で懸濁し,24ウェルプレートに0.5mL/wellの濃度で播種した。播種後,37℃,5%CO2のインキュベーターで培養を行い,翌日から3日間連続で培地交換を行った。
(6) 細胞数カウント用のウェルに,トリプシンを加えて剥離し,細胞数をカウントした。
(7) PBMC-C培地にMOI=5相当のベクター溶液を調整し,各ウェルへ添加した。感染後2日間は連日,培地交換した。
(8) 感染2日目に,マイトマイシン処理したマウス胎児線維芽細胞(MEF)を,6well plateに1×106cell/wellとなるように播種し,37℃,5%CO2で培養した。
(9) 感染3日目に,感染細胞をピペッティングにて剥離し,6well plateに準備したMEF上に重層し(1×105cell/well),37℃,5%CO2インキュベーター内で培養した。
(10) 感染4日目から6日目には,PBMC培地にて全培地交換を連日実施した。
(11) 感染7日目には,6well plateの1wellあたり,培地2mLのうち1mLを除去して,1mLのヒトiPS培地(DMEM/F12 500mL+NEAA 5mL+200mM L-Glutamine 6.25mL+KSR 125mL+0.1M 2Mercaptoethanol/PBS 500μL +5ng/mL rhbFGF)を1mLずつ添加して,37℃,5% CO2インキュベーターにて培養を継続した。
(12) 感染8日目から21日目には,ヒトiPS培地にlカルニチン溶液(エルカルチンFF注)を500nM濃度となるように添加し,このFFiPS培地を用いて,全培地交換を連日実施して,1日2回観察を行った。
(13) iPSコロニーをピックアップして,総計50クローンを樹立した。樹立した患者由来iPS細胞は,以降にて疾患由来iPS細胞として用いた。
(14) 樹立したクローンはすべて,アルカリフォスファターゼ(AP100R-1) Nanog(SAB-103A-1),OCT4 (SAB-105A-1),TRA1-60(SAB-100A-1),SSEA-3(SAB 102A-1)を用いて,陽性を確認した。また,樹立したすべてのクローンでは,ヒトiPS細胞未分化マーカーの発現を確認した(Human iPS cell indentification primer set ABP SC IPSHRES)。
【0024】
<3.疾患由来iPS細胞の維持培養法>
樹立された疾患特異的iPS細胞は,細胞増殖力が弱く,維持培養不能であった。そのため,本疾患のミトコンドリア機能を部分的に回復すると報告されているカルニチンを標準培養液に添加して培養を行ったところ,維持培養が可能であることを新たに見出した。よって,以下の培養法を用いて維持培養が可能となった。
【0025】
(1) 継代日に合わせて,マイトマイシンC処理をしたMEF(3x105cell/60mm well)の培養を前もって行った。
(2) 疾患由来iPS細胞において,コロニーが十分大きくなったウェルを選び,PBSで2回洗浄した。細胞乖離液(Trypsin 0.25g, 10mg/mL Collagenase IV, KSR 20mL, 1M CaCl2/PBS 100μL, PBS 70mL)を500μL/60mm well添加し,37℃,5%CO2インキュベーターで5分間インキュベートした。
(3) 培地を2mL添加し,細胞を剥離した。細胞懸濁液15mLを,コニカルチューブに移し,培地5mLを加え,170xg/5分遠心した。
(4) 上清を吸引し,新しいFFiPS培地(カルニチン添加培地)に懸濁し,MEF上に播種して,37℃,5%CO2インキュベーターにて培養を行った。
(5) 未分化マーカーを5継代ごとに確認した。
【0026】
<4.疾患由来iPS細胞の神経前駆細胞への誘導方法>
ハイスループットな創薬スクリーニングに適した神経細胞の誘導法を,数種の方法で試みた。その結果,以下の方法が適していることがわかった。
【0027】
(1) 分化誘導には,GIBCO Neural Induction Methodを用いた。初期誘導として,Neural Induction Medium(NIM: Neuralobasal Medium 490mL+GIBCO Neural Induction Supplement 10mL)を用いた。また,維持培養液として,Neural Expansion Medium(NEM: Neurobasal medium 49mL+Advanced DMEN/F12 49mL+GIBCO Neural Induction Supplement 2mL)を用いた。
(2) 70-80%コンフルエントのiPS細胞を,分化誘導に用いた。
(3) 24時間経過した後の培養液を吸引して,接着しなかった細胞をすべて除去した。この作業の後,NIM培養液を加えて培養を継続した。培養液は,48時間毎に交換した。
(4) 7日目付近のNSC(P)を,以下のように継代した。
・まず,Geltrex matrix をコートした培養皿を用意し,NIMを培養皿から除去した。
・除去後,2mLのPBSで培養皿を洗浄した。洗浄後,1mLの乖離液を加えて5分間インキュベートした。
・乖離液を15mLコニカルチューブに集め,培養皿の洗いこみをPBS1mLで行い,コニカルチューブに集めた。収集後,5mLのピペットで3回パイペットした。
・パイペット後,細胞溶液を100μmのセルストレイナー(FALCON)でろ過した。ろ過した細胞を,300g 4分遠心した。上清を吸引して,3mLxwellの量のPBSで懸濁して,300xg 4分遠心した。さらに,上清を吸引して,NEMで懸濁した。
・細胞は2 × 105から4 × 105 cells/mLになるように播種した。また,細胞懸濁液にY27632を5μMになるように加えた。
・24時間後に培養液を除去して,新しいNEM培養液に交換した。
(5) 以降のスクリーニングには,このNeural Progenitor cell (NPCs)を用いた。
【0028】
<<II.スクリーニング系の確立>>
<1.薬物スクリーニング候補・化合物リスト>
本スクリーニング実験においては,SIGMA-Aldrichより販売されており,作用機序が判明している440種類の化合物からなる化合物ライブラリー(商品名:シグマ・プチスクリーニング2014)を用いた。本実験例に用いた化合物ライブラリーを,下記表に示す。
【0029】
【0030】
<2.スクリーニング方法>
[スクリーニング系1:皮膚繊維芽細胞を用いた外因性メチルマロン酸およびプロピオン酸毒性を軽減する化合物のスクリーニング系]
(1) 健常児および患者由来線維芽細胞を前培養した。培養した細胞を,80%コンフルエントの状態で,5×103cell/wellの割合にて,96well collagen coated dishへ播種した。播種後,5% CO2インキュベーターにて,24時間,前培養した。
(2) 200μM濃度のメチルマロン酸溶液を,DMEM/F12/10% FBS培地に加えて,培養を行った。プロピオン酸については400μM濃度とし,同様の操作を行った。
(3) 各wellに5μM濃度となるよう,各化合物を加えた。比較対象には,DMSOを加えた。
(4) 24時間後,WST-8法を用いて,450nmフィルターによる吸光度の測定を行った。
【0031】
[スクリーニング系:皮膚線維芽細胞を用いた内因性代謝障害を改善する化合物のスクリーニング系]
(1) スクリーニング系1と同様の方法で行った。すなわち,健常児および患者由来線維芽細胞を前培養した。培養した細胞を,80%コンフルエントの状態で,5×103cell/wellの割合にて,96well collagen coated dishへ播種した。播種後,5% CO2インキュベーターにて,24時間,前培養した。
(2) 各wellに5μM濃度となるよう,各化合物を加えた。
(3) 24時間後,WST-8法を用いて,450nmフィルターによる吸光度の測定を行った。
【0032】
[スクリーニング系3:疾患特異的iPS細胞から誘導した神経前駆細胞(NPCs)を用いた外因性神経毒性を軽減する治療化合物のスクリーニング系]
(1) NPCsは,上記分化誘導法(I-3)を用いて,培養した。
(2) 96well geltrex-coated dish(GIBCO)に,1×105cell/wellになるようにNPCsを播種した。播種後,5%CO2インキュベーターにて,37℃で24時間,培養を行った。
(3) 24時間後,培養液中に100μM濃度となるようにメチルマロン酸を加えた。プロピオン酸の場合は200μM濃度となるように培養液上清に加えた。
(4) 化合物を5μM濃度となるように各wellに加えた。比較対象にはDMSOを加えた。
(5) 24時間後,WST-8法を用いて,吸光度の測定を行った。
【0033】
[スクリーニング系4:疾患特異的iPS細胞から誘導した神経前駆細胞(NPCs)を用いた内因性代謝機能障害を改善する化合物のスクリーニング系]
(1) スクリーニング系3と同様の方法にて行った。すなわち,NPCsは,上記分化誘導法(I-3)を用いて,培養した。
(2) 96well geltrex-coated dish(GIBCO)に,1×105cell/wellになるようにNPCsを播種した。播種後,5%CO2インキュベーターにて,37℃で24時間,培養を行った。
(3) 各化合物を5μM濃度となるように,各wellに加えた。比較対象にはDMSOを加えた。
(4) 24時間後,WST-8法を用いて,吸光度の測定を行った。
【0034】
<3.スクリーニング系のValidation結果>
(1) 本スクリーニング系についての妥当性を検証した。
(2) スクリーニング実験においては,96wellプレートを用いて検討を行っており,スクリーニング実験の目的は,有機酸毒性を軽減する化合物のスクリーニングである。このことから,1列目および12列目の0%コントロールにはメチルマロン酸(もしくはプロピオン酸)を添加しないwellとし,2列目から11列目を毒性試験に用いた。その結果を表2,
図1に示す。
(3) 表2より,CV値<10%,S/B比>3,S/N比>80,Z-factor>0.5が得られ,適正なスクリーニング系であると判定された。
(4) よって,本スクリーニング系は適切な実験系として,以降の実験例で化合物のスクリーニングに用いた。
【0035】
【0036】
<<III.実験例>>
<実験例1.各化合物における神経細胞障害への影響>
(1) 表1に示す各化合物を用いて,各化合物が神経細胞障害へどのような影響を及ぼすかを調べた。
(2) 結果を表3に示す。
・表3について概略を説明すると,ヒートマップにより統計処理を行っており,ネガティブコントロール(96ウェルの第1列ならびに第12列)を平均化してマイナス1,ポジティブコントロール(不図示)を平均化してプラス1とし,それぞれの薬剤データについて,マイナス1からプラス1の間の値で標準化を行い,実験を3回以上繰り返して,再現性が高く,薬効を示した薬剤データについて○で囲っている。
・この結果から,患者由来細胞では6種類の化合物が,神経細胞障害を疾患特異的に回復させた。これらの化合物はForskolin,GW9508,NECA,SKF77434,nicotinamide, dobutamineであった。
(3) また,これらの化合物のすべては,細胞内のcAMPを増加させ,下流のkey regulatorであるCREBの活性化作用を有するといった共通の作用があることが分かった。
【0037】
【0038】
<実験例2.患者由来神経前駆細胞を用いた2次スクリーニング>
(1) 実験例1の結果より,cAMPがメチルマロン酸血症に対する治療効果を示す可能性が示唆された。これより,cAMPが,メチルマロン酸血症患者由来神経前駆細胞(以下,MMA患者由来神経前駆細胞)に保護効果があるか否かを調べた。
(2) MMA患者由来神経前駆細胞を1×10
4cell/wellになるように96well-plate (Gelatin coat)に24時間培養し,db-cAMPを0, 500nM, 1μM,10μM,500μMとなるように添加し,24時間培養後,WST8法にて吸光度を測定した。
(3) 結果を
図2に示す。培養上清に加えたcAMP濃度に比例して,細胞保護効果が認められた。この効果は,最大で正常対象の9割程度回復させることが分かった。
【0039】
<実験例3.患者由来神経細胞と正常神経細胞のcAMP比較実験>
(1) 実験例1ならびに実験例2の結果から,疾患特異的に細胞内cAMP濃度が低下することが,本疾患の病態である可能性が示唆された。よって,cAMPのメチルマロン酸血症由来神経細胞に対する細胞保護効果が,メチルマロン酸血症に特異的であるかどうかを調べる目的で細胞内cAMP濃度を測定した。
【0040】
(2) 細胞内cAMP濃度の測定には,Enzo CO. のcAMP complete ELISA kit(ADI-900-163)を用いた。
(3) 測定を行うにあたり,細胞の前処理を行った。
・培養皿から細胞を剥離し,細胞数を数えて,遠心を行った。遠心後,上清を吸引し,0.1M HCL液に1x106/cell/mLとなるように懸濁した。細胞数が明らかな細胞の場合は,これら一連の作業を省略し,細胞が接着したまま0.1M HClを培養皿上に直接入れた。
・懸濁後,10分間,室温でインキュベートした後,600g/5分 遠心を行った。この上清について,cAMPの測定を行うまで,-80度で保存した。
(4) 測定については,下記一連の工程を経て測定を行った。
・ 中和液(Neutralizing Regent)を,TA(total activity)とブランク以外のwellに50μLずつ入れた。
・続いて,100μLのスタンダード希釈液を,NBS(non specific binding)とB0(0pmol/mL standard)に加えた。また,50μLのスタンダード希釈液を,NBSのwellに加えた。さらに,#1から#5の基準希釈系列を,100μLずつ加えた。
・ サンプルを,100μLずつ各wellに加えた。
・ 50μLずつ,青(blue conjugate)溶液を,TA(total activity)とブランク以外に入れた。
・ 50μLずつ,黄色(yellow antibody)を,ブランク,TA,NSB以外に入れた(ブランク:透明,TA:透明,NSB:青,サンプルとスタンダードは緑)。
・ プレートをシールし,2時間,室温にてシェイカー上でインキュベートを行った。
・ インキュベート後,すべてのウェルを吸引して,Washing溶液400μLで合計3回洗浄を行い,最後にキムタオル上で乾燥させた。
・ TAのウェルに5μLの青(blue conjugate)溶液を加えた。
・ 200μLのsubstrate solution を加え,1時間室温に静置した後,50μLのstop solution を加え,405nmの吸光度を測定した。
【0041】
(5)
図3に結果を示す。
図3において, 201B7 NPCsは正常iPS細胞由来神経前駆細胞,B42NPCsはメチルマロン酸患者iPS細胞由来神経前駆細胞,これらそれぞれの細胞内cAMP濃度を示す。
(6) メチルマロン酸由来神経細胞内cAMP濃度と正常神経細胞内cAMP濃度の比較を行った結果,メチルマロン酸由来神経細胞内では顕著にcAMP濃度が減少していることが分かった。
【0042】
(7) これまでの一連の実験の結果,メチルマロン酸血症患者由来神経前駆細胞内ではcAMP濃度が減少しており,cAMPを補充することで細胞機能が回復することが示された。このことは,cAMPの低下が,本疾患特異的な病態をあらわしており,更にcAMPの補充治療が根本的な治療となる可能性を示唆するものである。
【0043】
<実験例4.メチルマロン酸血症患者のcAMP産生能試験>
(1) メチルマロン酸血症患者由来神経前駆細胞におけるcAMP産生能を測定した。
(2) 具体的には,正常iPS細胞およびMMA由来iPS細胞からNeural Progenitor cell (NeuP)を誘導した。これらの細胞にForskorin (FSK)10μmol/lの濃度で添加し,24時間後の細胞内cAMP濃度を測定した。
(3)
図4に結果を示す。検討の結果,メチルマロン酸血症由来NPCsは,Forskorinに対する反応性の低下が認められ,cAMPの産生能が低下していることが示唆された。
【0044】
<実験5.シグナル阻害試験>
(1) cAMPを介したシグナル伝達はよく知られており,これらの経路を阻害する薬物ライブラリーを用いた阻害実験を行った。結果の生データを表4に示す。
(2) この結果,下記のことが分かった。
・ cAMP産生阻害剤は,メチルマロン酸の細胞障害を増悪させた。
・ cAMP分解阻害剤は,メチルマロン酸の細胞障害を改善させた。
・ ERK阻害は,メチルマロン酸の細胞障害を増悪させた。
・ CREB阻害は,メチルマロン酸の細胞障害を改善させた。
(3) また,アゴニストと阻害剤を用いた実験から,下記のことが分かった。
・ ERKを活性化し,CREBを阻害すると細胞毒性は増悪する。
・ CREBを阻害した状態で,cAMPを添加しても,細胞保護効果は得られない。
(4) 以上の結果より,メチルマロン酸の細胞障害(毒性)は,細胞内cAMPの産生低下により引き起こされており,これは慢性的なcAMPの産生能の低下による細胞機能障害であり,かつ,db-cAMPの治療効果はCREBを介して発揮されていることを示した。
【0045】
【0046】
<実験6.メチルマロン酸によるAdenylate cyclase阻害実験>
cAMPは,Adenylate cyclaseによりATPから産生されている。これより,メチルマロン酸が,Adenylate cyclaseを阻害するかについて調べた。
【0047】
1.メチルマロン酸血症患者iPS細胞由来神経前駆細胞(B42NPCs)に対し,最終濃度が50μMと100μMのメチルマロン酸を加えた培養液で培養を行い,24時間後のcAMP濃度を測定した。
【0048】
2.結果を
図5ならびに
図6に示す。なお,
図6におけるタンパク発現解析は,既存のウエスタンブロッティング法に基づいて実施した。
(1) 培養液中のメチルマロン酸濃度が多いほど,cAMP産生力は低下することが示された(
図5)。
(2) 一方,Adenylate cyclase,CREBの総タンパク発現量は,メチルマロン酸の添加の有無にかかわらず一定であった(
図6)。
(3) また,MMA存在下であっても,cAMPを添加した場合,リン酸化CREBの発現が増加しており,CREBのリン酸化(活性化)は阻害されていないことが分かった。
(4) これらより,MMA添加によるcAMP生低下は,Adenylate cyclaseの活性低下に起因することが示された。
【0049】
以上の結果から,メチルマロン酸の細胞障害(毒性)は,Adenylate cyclaseの活性低下により,細胞内cAMP濃度が減少することで引き起こされることを,発明者らは明らかとしたものである。加えて,かかるメカニズムは,慢性的なcAMPの産生能の低下による細胞機能障害を引き起こすものであり,かつ,cAMPの治療効果は,CREBを介して発揮されていることが示された。
【0050】
<実験7.痙攣を指標としたin vivoによる試験>
メチルマロン酸血症簡易神経障害モデルとして,メチルマロン酸投与マウスを用いた。このモデルにおいて,メチルマロン酸投与により起こる痙攣を指標に,候補薬の評価を行った。
【0051】
1.4週齢C57BL/6Jマウスに,1mg/kg/dose1のメチルマロン酸溶液を1日1回皮下投与し,6週齢目に評価を実施した。
2.候補薬剤として,db-cAMP(30mg/kg/dose)ならびにPDE4阻害剤(1mg/kg/day)の皮下投与を行い,投与前後における痙攣発作回数ならびに総持続時間を計測し,比較検討を行った。なお,投与前については30分間コントロールとしての測定を行い,投与後においては,15から45分,55から85分,90から120分,それぞれ3回30分間の測定を行った。
【0052】
3.結果を
図7,8に示す。
(1) 候補薬投与により,発作回数は,いずれの測定区間においても減少していた。
(2) 同様に,候補薬投与により,総持続時間は,いずれの測定区間においても短くなっていた。
4.これらの結果より,in vivoにおいても,cAMP濃度上昇を促すことにより,メチルマロン血症における神経障害が抑制されることが示された。
【0053】
<実験8.生存率を指標としたin vivoによる試験>
致死的メチルマロン酸発作モデルを用いて,生存率を指標に候補薬投与の評価を行った。
【0054】
1.8週齢のC57BL/6Jマウスに,500μMのメチルマロン酸溶液を20ml/kgとなるよう腹腔内投与し、致死的メチルマロン酸発作モデルを作製した。
2.メチルマロン酸投与1日後,2日後,3日後に,候補薬剤としてdb-cAMP(10μg/kg/dose)の皮下投与を行い,投与群と非投与群における生存率の比較を行った。
3.結果を
図9に示す。
(1) 非投与群において,メチルマロン酸投与1日後では35.3%,2日以降では14.7%の生存率であった。
(2) 一方,投与群においては,メチルマロン酸投与1日後で85.0%,2日以降で75.0%の生存率であり,非投与群と比較して有意に高い生存率を示した(p<0.001)。
4.これらの結果より,db-cAMPの投与を介したcAMP濃度上昇の促進により、メチルマロン酸症由来の発作による生命予後を著しく改善することが示された。