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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220225BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B10/00 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018012699
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019129899
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512239206
【氏名又は名称】株式会社木幡計器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】金田 浩由紀
(72)【発明者】
【氏名】木幡 巌
(72)【発明者】
【氏名】中家 崇厳
(72)【発明者】
【氏名】輪地 惣一
【審査官】樋口 祐介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-121484(JP,A)
【文献】特開2016-163659(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0320916(US,A1)
【文献】特開昭61-075229(JP,A)
【文献】特開2016-093227(JP,A)
【文献】特表2005-501667(JP,A)
【文献】特表2004-508070(JP,A)
【文献】米国特許第4447235(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/06-5/22
A61M1/00-1/38
A61M11/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸腔内気圧の測定装置であって、前記測定装置には第1接続口、第2接続口、及び側管口を有する三方活栓が接続されており、前記第1接続口には留置針が接続されており、前記第2接続口には胸腔内の気体の排出を行うための排気装置が接続されており、前記側管口には前記測定装置が接続されており、次に記載する第1信号および第2信号の少なくとも一方を発することを特徴とする測定装置。
(1)第1信号:大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第1所定陰圧値よりも高いときに発せられる信号
(2)第2信号:大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第2所定陰圧値よりも低いときに発せられる信号
【請求項2】
前記第1所定陰圧値および第2所定陰圧値がマイナス30cmHO以上、マイナス3cmHO以下の範囲にある請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記第1および第2信号の少なくとも一方が、音である請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記第1および第2信号の少なくとも一方が、光である請求項1~3のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記大気圧に対する胸腔内気圧が差圧センサにより測定され、該差圧センサのサンプリング間隔が30msec以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項6】
大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第3所定陰圧値(但し前記第1所定陰圧値および前記第2所定陰圧値より低い値)よりも低いときに第3信号を発する請求項1~5のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記大気圧に対する胸腔内気圧のグラフ、および、前記第1所定陰圧値または前記第2所定陰圧値を表わす直線が重ねて表示される表示部を有する請求項1~6のいずれか一項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、専ら胸腔内の気圧を測定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気胸とは、胸壁の内面を覆う側壁胸膜や肺を覆う臓側胸膜に開いた穴から胸腔内に空気が流入して貯留し、肺が虚脱(小さく萎縮)した状態になる症状をいう。穴が開く原因によって、自然気胸、外傷性気胸、医原性気胸の3つに大別されるが、最も多いのが自然気胸であり、肺胞の一部が嚢胞化したものや胸膜直下にできた嚢胞が破れ吸気が胸腔に漏れる(気漏)ことにより発症する。
【0003】
胸腔とは、肋骨、胸椎、胸骨、及び横隔膜で囲まれた、ヒトや動物の体内空間のことであり、胸腔空間内の圧力を胸腔内圧という。本発明者らの経験によると、胸腔内は陰圧(大気圧より-4~-10cmHO)に保たれており、これによって肺は拡張方向に引っ張られ、肺自体の弾性(縮む力)と均衡が取れて膨張状態を保持している。しかし、気胸になると、胸腔内圧が高まる方向に変化して陰圧が保持できなくなり、その結果、肺が膨らむことができなくなって萎縮する。
【0004】
気胸の診療では、多くの場合に胸腔ドレナージが行われる。胸腔ドレナージとは、胸腔内に貯まった体液(血液、膿、滲・漏出液等)及び空気を体外に排出するためのものである。この胸腔ドレナージ内には水封部があり、患者の胸腔から排出される空気は気泡となってこの水封部を通過して外部に排出されるようになっている。
【0005】
気胸の検出方法として気漏の発生に伴って、胸腔ドレナージの水封部に生じる気泡を医療従事者が目視で観察する方法が一般的に行われているが、あくまでも定性的な方法に過ぎない。この目視観察という不確かさを回避するために、水封室と吸引源又は伝動吸引ポンプとの間の圧力を測定し、その圧力変動に基づいて気泡の発生を検出して患者の気漏を発見・診断する装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-136104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、胸腔ドレナージは入院を要する治療であり、処置に際してはドレナージ・チューブが肋間神経を圧迫することなどによる強い疼痛があり、また体動が制限されることなどもあり、患者にとっては苦痛が大きい。胸腔ドレナージは気漏が止まっている場合にはその必要性は低くなるが、必要性の有無を正確に判断することは処置前には困難である。
【0008】
また、気胸の診断として現在行える客観的評価として、胸部レントゲンやCTがあるが、これらは静止画像であり、1回の撮影だけでは気漏が継続状態であるか否かの動的所見を得ることができず、時間経過後の画像の比較により気漏を推測するというものである。気漏の判断方法として、胸腔内圧を測定することも考えられるが、胸腔ドレナージの実施下ではドレーンバッグの観察により可視的な判断は可能であるが、胸腔ドレナージを行っていない状態で簡便に胸腔内圧を測定することができない。
【0009】
本発明は、以上のような従来の課題や医療現場からの要望を考慮してなされたものであり、簡便に胸腔内の気圧を測定し、また医師の技量や経験に依らず胸腔内の気圧状態を容易に把握し得る測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討する中で、まず、胸腔内圧が生理的な状態では陰圧(測定環境における大気圧に対して、例えばマイナス8cmHO前後)であり、この範囲の空気圧を測定することは、工業用や研究用途で利用される高速サンプリング(例:10msec)で、且つ高精度(例:0.5%F.S.)の気体圧力測定機器を用いることにより行えると考えた。そして、胸腔内圧をリアルタイムで測定することができれば、気漏の有無を即時に判定できると考え、生理的に正常な胸腔内圧であるのか、あるいは高いのか、逆に低いのかを測定できると考えるに至った。
【0011】
さらに本発明者らは検討を進め、胸腔医療の現場において気体圧力測定機器に関する習熟度に依存せずに使用できる気体圧力測定機器を提供することについても検討した。
【0012】
[1]上記課題を解決し得た本発明の一つの態様は、胸腔内気圧の測定装置であって、次に記載する第1信号および第2信号の少なくとも一方を発することを特徴とする測定装置である。
(1)第1信号:大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第1所定陰圧値よりも高いときに発せられる信号
(2)第2信号:大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第2所定陰圧値よりも低いときに発せられる信号
【0013】
通常の気体圧力測定機器は、最も一般的には気圧表示窓にデジタル表示により気圧値が示され、気体圧力測定機器の使用者は、その表示を目視することにより患者の胸腔内気圧を把握し得る。医師は、患者の胸腔内気圧が好ましい値となるように胸腔内の気体を排気する施術を行う。しかし、気体圧力測定機器を注視しつつ、並行して排気の施術を行うことは効率性や安全性の観点から改善の余地がある。また、未熟練の医師にとっては排気の終了タイミングをどのようにするか、分かりにくい場合もある。
【0014】
上記項[1]に記載の測定装置によれば、医師が排気の施術に注力しているときであっても、測定装置から発せられる第1信号や第2信号(例えば音や光)の種類の切り替わりによって胸腔内気圧が所定陰圧値よりも高いか低いかを即座に把握することができる。
【0015】
その他、上記課題を解決し得た本発明の態様は例えば下記項[2]~[7]のものである。
[2]前記第1所定陰圧値および第2所定陰圧値がマイナス30cmHO以上、マイナス3cmHO以下の範囲にある項[1]に記載の測定装置。
[3]前記第1および第2信号の少なくとも一方が、音である項[1]または[2]に記載の測定装置。
[4]前記第1および第2信号の少なくとも一方が、光である項[1]~[3]のいずれか一項に記載の測定装置。
[5]前記大気圧に対する胸腔内気圧が差圧センサにより測定され、該差圧センサのサンプリング間隔が30msec以下である項[1]~[4]のいずれか一項に記載の測定装置。
[6]大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値であるが第3所定陰圧値(但し前記第1所定陰圧値および前記第2所定陰圧値より低い値)よりも低いときに第3信号を発する項[1]~[5]のいずれか一項に記載の測定装置。
[7]前記大気圧に対する胸腔内気圧のグラフ、および、前記第1所定陰圧値または前記第2所定陰圧値を表わす直線が重ねて表示される表示部を有する項[1]~[6]のいずれか一項に記載の測定装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の胸腔内気圧の測定装置は、医師が排気の施術に注力しているときであっても、測定装置から発せられる第1信号や第2信号(例えば音や光)の有無や第1信号や第2信号の特徴の切り替わりによって胸腔内気圧が第1または第2所定陰圧値よりも高いか低いかを即座に把握することができる。そのため、医師が施術そのものに注力することができるため、施術を効率的かつ安全に行うことができる。また、施術に求められる熟練の程度が低くなるため、当該施術の普及が高まるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態にかかる測定装置の概略斜視図。
図2】本発明の実施の形態にかかる測定装置のシステムブロック図。
図3】本発明の実施の形態にかかる測定装置の表示部に表示されるグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0019】
本発明の実施の形態における測定装置は、胸腔内気圧の測定装置であって次の第1信号および第2信号の少なくとも一方を発することを特徴とする測定装置である。
【0020】
(第1信号)
第1信号は、大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第1所定陰圧値よりも高いときに発せられる信号である。大気圧に対する胸腔内気圧が第1所定陰圧値よりも高いか低いかを判断するため、本発明の実施の形態における測定装置は胸腔内気圧と大気圧との圧力差を取得する。差圧が負の値でれば胸腔内気圧は大気圧よりも低い(陰圧状態)である。この第1信号は大気圧に対する胸腔内気圧が第1所定陰圧値を下回れば発信されなくなるが、第1信号が発信されている限りは、大気圧に対する胸腔内気圧は正常値よりもまだ高いと判断することができる。
【0021】
本発明において「大気圧」は、測定装置周辺の気圧であり、天候や使用する場所の標高によっても変動し得るものである。
【0022】
(第2信号)
第2信号は、大気圧に対する胸腔内気圧(以下、単に「胸腔内気圧」と記載する場合がある)が、負の値である第2所定陰圧値よりも低いときに発せられる信号である。第2所定陰圧値は、上述の第1所定陰圧値と同じ値であってもよいし異なる値であってもよい。この第2信号は胸腔内気圧が第2所定陰圧値を下回れば発信されるので、第2信号の発信が始まれば、胸腔内気圧が正常値に入ったと判断することができる。
【0023】
(施術中の信号変化)
肺気胸である患者の胸腔内気圧は高め(場合によっては大気圧より高い陽圧)であり、第1所定陰圧値より高い値である。したがって、医師が胸腔内気体の排気の施術を開始する時点では測定装置は第1信号を発している。排気の施術が進むにつれて胸腔内気圧は減少し、第1所定陰圧値以下になったときに第1信号は止まる。また、胸腔内気圧が第2所定陰圧値よりも低くなると測定装置から第2信号が発せられる。医師は、この信号変化を察知することにより、胸腔内気圧が正常化されたことや排気の停止タイミングの参考とすることができ、排気施術を効率的かつ安全に行うことができる。
【0024】
(第1所定陰圧値・第2所定陰圧値)
第1所定陰圧値および第2所定陰圧値は、第1信号・第2信号の発信/停止の閾値となる値であり、測定装置の使用前に予め設定される値である。第1所定陰圧値および第2所定陰圧値は、医学的見地から定められる不変値として測定装置に準備されていてもよいが、測定対象者の年齢や病状等によって値を設定できる仕様となっていることが好ましく、更には、医学的見地から定められる一つ又は複数の推奨値として測定装置に準備されており、かつ測定の都度値を変更できる仕様となっていることがより好ましい。
【0025】
第1所定陰圧値および第2所定陰圧値は、マイナス30cmHO以上、マイナス3cmHO以下の範囲にあることが好ましい。マイナス30cmHO以上とすることにより肺が縮みやすくなるため患者にとって排気が楽になり、マイナス3cmHO以下とすることにより肺が膨らみ易いため吸気が楽になるためである。下限値は、より好ましくはマイナス20cmHO、さらに好ましくはマイナス15cmHOである。上限値は、より好ましくはマイナス4cmHO、さらに好ましくはマイナス5cmHOである。いずれにしても第1所定陰圧値および第2所定陰圧値はマイマスの値(陰圧)であり、これは気胸特有の事象であり、測定装置としても気胸特有の構成となっている。
【0026】
本発明の実施の形態における胸腔内気圧の測定装置は、第1信号および第2信号の少なくとも一方を発するものであるから、例えば第2信号を使用せず、第1信号の発信により使用することができるものである。例えば、第1信号の有無により胸腔内気圧が第1所定陰圧値より高いかどうかが判る。反対に、第1信号を使用せず、第2信号の発信の有無により使用することもできる。
【0027】
第1所定陰圧値と第2所定陰圧値は互いに同じ値であってもよいし異なる値であってもよい。
(A)第1所定陰圧値と第2所定陰圧値とが同じ値である場合には、排気施術の進行により胸腔内気圧が第1所定陰圧値より小さくなったとき、第1信号が停止すると同時に第2信号が発信される。
【0028】
(B)第1所定陰圧値が第2所定陰圧値よりも高い場合には、排気施術の進行により胸腔内気圧が第1所定陰圧値より小さくなったとき第1信号が停止して第1信号も第2信号も無い無信号の状態となり、さらに胸腔内気圧が第2所定陰圧値より低くなったとき第2信号が発信される。
【0029】
(C)第2所定陰圧値が第1所定陰圧値よりも高い場合には、排気施術の進行により第1信号が発信されている状態からスタートし、胸腔内気圧が第2所定陰圧値より低くなったとき第1信号と第2信号が重畳して発信されている状態となり、最後に胸腔内気圧が第1所定陰圧値より小さくなったとき第1信号が停止して第2信号のみが発信される状態へと変化する。
【0030】
上記(B)の場合、医師は「無信号状態」を「第2信号」への移行前期として把握することができ、上記(C)の場合は、「第1信号と第2信号の重畳状態」を「第2信号」への移行前期として把握することができるため、医師は排気の停止を行うタイミングをより適格に予測することができる。これらの場合、第1所定陰圧値と第2所定陰圧値との間の移行前期となる区間は信号機で言えば黄色に該当する区間であり、第1所定陰圧値と第2所定陰圧値との差は、好ましくは1~4cmHO程度、より好ましくは1.5~3cmHO程度とする。
上記(B)の場合、「無信号状態」となる区間(第1所定陰圧値と第2所定陰圧値との間の区間)に第4信号が発信されるようにすることもできる。第4信号は、第1信号や第2信号と同様、音や光により信号を構成することが可能である。
【0031】
(測定装置の構成例)
図1は、本発明の実施の形態にかかる測定装置の概略斜視図である。図1に示されるように、測定装置1は留置針部2に接続されている胸腔内気圧測定ポート3と、大気に開放されている大気圧測定ポート4とを備えている。また測定装置1は胸腔内気圧と大気圧との差圧を表示するための液晶表示部5と、第1信号と第2信号の少なくとも一方の信号を発するための信号発信部6とを備えている。図1は、信号発信部6が一つ設けられている例について示しているが、第1信号発信部6aと第2信号発信部6b(図2)が個別に設けられていてもよい。
【0032】
(測定装置における信号処理例)
本発明の測定装置に上記の機能を発揮させるための具体的手段は多数存在するが、そのうちの一例について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる測定装置1のシステムブロック図である。
【0033】
図2に示されるように、上述の胸腔内気圧測定ポート3と、大気に開放されている大気圧測定ポート4は、差圧センサ7に接続されている。差圧センサ7には、胸腔内気圧測定ポート3から導入される気体と、大気圧測定ポート4から導入される気体が隔膜(ダイヤフラム:図示せず)によって隔てられており、この隔膜のたわみ量に応じた応力がゲージ抵抗(ピエゾ抵抗:図示せず)に負荷され、負荷応力の変化に応じてピエゾ抵抗の電気抵抗率が変化する。この変化率をアナログデジタル変換(AD変換)して得られるデジタル信号が差圧センサ7から出力される。このデータは制御部(中央演算素子:CPU)8に供給される。本発明の実施の形態にかかる測定装置1がこのようなMEMS(MICRO ELECTRO MECHANICAL SYSTEM)の方式を採っているためにサンプリング間隔が非常に短い差圧センシングが可能であるため、大気圧との差圧が重要である胸腔内気圧をリアルタイムで測定する装置として適している。差圧センサ7のサンプリング間隔は30msec以下であることが好ましく、より好ましくは25msec以下、さらに好ましくは20msec以下である。
【0034】
差圧センサ7から出力される差圧データは制御部8の指示により液晶表示部5に送られる。制御部8は、差圧データが第1所定陰圧値よりも大きいか小さいか、差圧データが第2所定陰圧値よりも大きいか小さいか監視しており、差圧データが上記した所定の条件を満たすと第1信号発信部6aおよび/または第2信号発信部6bから音や光の信号が発信される。音の信号を出す場合は、第1信号発信部6aおよび/または第2信号発信部6bは例えばスピーカーである。音の種類のバリエーションは、例えば、音の高低の変化、音の大きさの変化、音と音の時間間隔の変化等、様々適用することができる。光の信号を出す場合は、第1信号発信部6aおよび/または第2信号発信部6bは例えばLED、白熱灯、有機EL等の光源素子を用いる。光の種類のバリエーションとしては、光の強度、光の色、パルス光の間隔等、様々適用することができる。その他、第1信号発信部6aおよび/または第2信号発信部6bから出す情報としては、一方を音、他方を光とする方法や、一方を音または光、他方は無信号とする(第1所定陰圧値、第2所定陰圧値のいずれか一方のみを設定する)方法もある。医師が測定装置1を注視することなく胸腔内気体の排気処置に集中して取り組む観点からは、第1信号発信部6a、第2信号発信部6bは音を発することが好ましい。
【0035】
制御部8には入力部9、メモリ10が接続されている。入力部9はキーボタンで構成され、基本設定やデータ入力などを行う。メモリ10は、時系列の差圧データや第1および/または第2所定陰圧値などの情報を記憶するものである。制御部8には、さらに所定陰圧値設定部11が接続されており、所定陰圧値を変更する場合に用いる。所定陰圧値設定部11は、ダイヤル式であってもよいし「UP(上がる)」と「DOWN(下がる)」の2ボタンの構成となっていてもよい。所定陰圧値の変更は、入力部9はキーボタンによっても行えるのが好ましい。
【0036】
本発明の実施の形態にかかる測定装置は、大気圧に対する胸腔内気圧が、負の値である第3所定陰圧値(但し第1所定陰圧値および第2所定陰圧値より低い値)よりも低いときに第3信号を発することが好ましい。胸腔内気圧は負圧となることが正常ではあるが過度に負圧にすることは避けるべきである。通常の施術では第1所定陰圧値および第2所定陰圧値の少なくとも一方の設定で十分であるが、第3所定陰圧値を設定しておけば、万一過度に胸腔内気圧を下げてしまった場合でも第3信号を察知することにより排気施術を中止することができる。第3信号は、安全性のために発せられるものであるから、第1信号或いは第2信号よりも人間の注意を引く程度が大きいもの(音であればより大きな音量、光であればフラッシュするか大きな光量となる信号、或いは音と光の同時発信信号)を用いることが好ましい。
【0037】
制御部8には、第1信号発信部6aおよび/または第2信号発信部6bとは別に更に第3信号専用の第3信号発信部(例えば発音部12)を設けることもできる。発音部12により胸腔内の気圧の異常(第3所定陰圧値以下となる場合)を合成音やアナウンス音で知らせることができる。
【0038】
第3信号の設定範囲としては、下限値は安全のためマイナス40cmHOとするのが好ましく、より好ましくはマイナス35cmHO、さらに好ましくはマイナス30cmHOである。上限値は、第1所定陰圧値および第2所定陰圧値が設定される範囲に重複しないよう、好ましくはマイナス12cmHO、より好ましくはマイナス15cmHO、さらに好ましくはマイナス18cmHOである。
【0039】
図3は、本発明の実施の形態にかかる測定装置の液晶表示部5に表示される表示内容の一例であるグラフを示すものである。本発明の実施の形態にかかる測定装置は、大気圧に対する胸腔内気圧を液晶表示部5に数字で表わしてもよいが、図3に示すように、横軸を時間(例えば秒)、縦軸を大気圧に対する胸腔内気圧とするグラフにより表示することも好ましく実施可能である。この際、図3に示すように当該グラフに重ねて、第1所定陰圧値または第2所定陰圧値を表わす直線を重ねて表示すれば、胸腔内気圧の現状を把握し易く、医師は予見性を持ちつつ施術を行うことができる。なお、グラフの曲線が示す一つの山は、患者の1回の呼吸に対応している。
【0040】
なお、胸腔内の気体の排出を行うための装置には特に限定はなく種々のものを用いることができるが、例えば先に示した図1のようにシリンジ13を用いて排気することができる。シリンジ13と留置針部2との間には第1三方活栓14と第2三方活栓15が接続されており、第1三方活栓14には本発明の実施の形態にかかる測定装置1が接続されており、第2三方活栓15にはシリンジ13が接続されている。第1三方活栓14と第2三方活栓15の働きにより、シリンジ13により胸腔内の気体の排出を行っている際には測定装置1を縁切りしてもよいが、胸腔内気圧を時々刻々と測定するために、留置針部2、測定装置1、および第2三方活栓15の三方を全て開放しておくことが好ましい。
【0041】
図1に示しているように測定装置1と第1三方活栓14との間に疎水滅菌フィルタ16を設けることが好ましい。患者の胸腔内に貯まった気体が滅菌されていない状態で直接測定装置1に流れるのを防止する、或いは患者の体液をブロックするためである。
【符号の説明】
【0042】
1 測定装置
2 留置針部
3 胸腔内気圧測定ポート
4 大気圧測定ポート
5 液晶表示部
6 信号発信部
6a 第1信号発信部
6b 第2信号発信部
7 差圧センサ
8 制御部
9 入力部
10 メモリ
11 所定陰圧値設定部
12 発音部
13 シリンジ
14 第1三方活栓
15 第2三方活栓
16 疎水滅菌フィルタ
図1
図2
図3