IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浙江大学の特許一覧 ▶ 浙江皇馬科技股▲分▼有限公司の特許一覧

特許70297391,2-ジクロロ-t-ブタンから2-メチルアリルクロリドを製造する方法
<>
  • 特許-1,2-ジクロロ-t-ブタンから2-メチルアリルクロリドを製造する方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】1,2-ジクロロ-t-ブタンから2-メチルアリルクロリドを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20220225BHJP
   C07C 21/067 20060101ALI20220225BHJP
   C07C 17/383 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/067
C07C17/383
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020542830
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2018109598
(87)【国際公開番号】W WO2019153774
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】201810134166.0
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】520224960
【氏名又は名称】浙江皇馬科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG HUANGMA TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Zhangzhen New Industry District Shangyu Shaoxing, Zhejiang 312363 China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】陳 志栄
(72)【発明者】
【氏名】尹 紅
(72)【発明者】
【氏名】王 新栄
(72)【発明者】
【氏名】金 一豊
(72)【発明者】
【氏名】趙 興軍
(72)【発明者】
【氏名】董 楠
(72)【発明者】
【氏名】張 美軍
(72)【発明者】
【氏名】余 淵栄
(72)【発明者】
【氏名】張 月江
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-224530(JP,A)
【文献】特開昭61-286339(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105669359(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 21/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジクロロ-t-ブタン及び水酸化ナトリウム水溶液を原料として、精留塔内で反応させた後、塩化水素を除去し、精留塔の塔頂から生成物である2-メチルアリルクロリドを精留する工程を含み、
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は10~20質量%であり、水酸化ナトリウム水溶液と1,2-ジクロロ-t-ブタンの質量比は1.6~3.5:1である、
ことを特徴とする1,2-ジクロロ-t-ブタンから2-メチルアリルクロリドを製造する方法。
【請求項2】
前記精留塔の塔頂で2-メチルアリルクロリドと水の共沸物を冷却分層して2-メチルアリルクロリドを得る工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記精留塔は複合型精留塔であり、該複合型精留塔の下部は棚段塔で、上部は充填塔であり、塔頂に内部還流凝縮器が設けられ、底部には熱源を供給するための再沸器が設けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複合型精留塔の下部の棚段塔の段数は10~20であり、上部の充填塔は10~20段の理論段を有する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記棚段塔のトレイがシーブトレイ、バブルキャップトレイ又はフロートバルブトレイであり、前記充填塔の充填物は、規則充填物又は不規則充填物である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記水酸化ナトリウム水溶液を複合型精留塔の下部棚段塔の1番目のトレイから添加し、1,2-t-ブチルクロリドを複合型精留塔の下部棚段塔の中部の5番目~15番目のトレイから添加する、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記塔頂の内部還流の還流比を1~5に制御する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成反応分野に属し、有機物の脱塩化水素反応に関し、特に1,2-ジクロロ-t-ブタンから脱塩化水素により2-メチルアリルクロリドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2-メチルアリルクロリドは、重要な有機合成中間体であり、医薬、農薬、香料モノマー、高分子材料等の分野に広く用いられている。
【0003】
2-メチルアリルクロリドは、通常、イソブチレンと塩素ガスとを気相塩素化反応させて得られる。例えば、DE3402446、CN1030407、CN1288119、CN101182279、CN202044960ではいずれもイソブチレンの気相塩素化反応を用いて2-メチルアリルクロリドを製造する方法が報告されている。
【0004】
塩素化反応過程においては各種副反応が発生し、反応生成物の主生成物である2-メチルアリルクロリド以外に、通常、一定量のt-ブチルクロリド、イソクロチルクロリド、1,2-ジクロロ-t-ブタン、3,3’-ジクロロイソブチレン等の副産物を含んでいる。そのうち、1,2-ジクロロ-t-ブタン、3,3’-ジクロロイソブチレンはいずれもポリ塩化副産物であり、直接適用できる用途がなく、有害廃棄物として処理する必要がある。塩素化反応液の分離過程において、ポリ塩化物は、一般的に高沸点成分として多塔式連続精留の最後の塔の塔底から排出される。
【0005】
最も簡単な分離プロセスは、2塔式連続精留であり、第1塔の塔頂から低沸点成分を分離し、第2塔の塔底から高沸点成分を分離する(『年産1000トンのt-ブチルクロリドの工業化生産技術』,南京梅山化工総場,1995)。
【0006】
CN1288119では、5塔プロセスを用い、第5塔の塔底から高沸点成分を排出することが記載されている。
【0007】
しかしながら、いずれの先行技術文献にも高沸点成分を有効に利用するという課題については言及されていない。
【発明の概要】
【0008】
高沸点成分を有効に利用するという課題に対して、本発明者らは、高沸点成分から1,2-ジクロロ-t-ブタンを分離した後に、1,2-ジクロロ-t-ブタンを水酸化ナトリウム水溶液と反応させて2-メチルアリルクロリドを製造する方法を提案する。この方法では、廃物の利用を実現できるだけではなく、反応選択率が高い。
【0009】
本発明の1,2-ジクロロ-t-ブタンから2-メチルアリルクロリドを製造する方法は、1,2-ジクロロ-t-ブタン及び水酸化ナトリウム水溶液を原料として、精留塔内で反応させた後、塩化水素を除去し、精留塔の塔頂から生成物である2-メチルアリルクロリドを精留する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は10~20質量%であり、水酸化ナトリウム水溶液と1,2-ジクロロ-t-ブタンの質量比は、1.6~3.5:1であることが好ましい。
【0011】
前記精留塔の塔頂で2-メチルアリルクロリドと水の共沸物を冷却分層して2-メチルアリルクロリドを得ることが好ましい。
【0012】
前記精留塔は複合型精留塔であり、該複合型精留塔の下部は棚段塔で、上部は充填塔であり、塔頂に内部還流凝縮器が設けられており、底部には熱源を供給するための再沸器が設けられていることが好ましい。
【0013】
前記複合型精留塔の下部の棚段塔の段数は10~20であり、上部の充填塔は10~20段の理論段を有することが好ましい。
【0014】
前記棚段塔のトレイはシーブトレイ、バブルキャップトレイ又はフロートバルブトレイであり、前記充填塔の充填物は規則充填物又は不規則充填物であることが好ましい。
【0015】
前記水酸化ナトリウム水溶液を複合型精留塔の下部棚段塔の1番目のトレイから添加し、1,2-t-ブチルクロリドを複合型精留塔の下部棚段塔の中部の5番目~15番目のトレイから添加することが好ましい。
【0016】
前記塔頂の内部還流の還流比は1~5に制御することが好ましい。
【0017】
本発明者らが、鋭意研究の結果、以下のことを見い出した。すなわち、アルカリの存在で、1,2-ジクロロ-t-ブタンの第3級炭素原子上の塩素原子は1-位上の塩素原子よりも脱離反応が生じやすく、脱離した塩化水素が水酸化ナトリウムと反応して塩化ナトリウムを生成し、反応生成物が2-メチルアリルクロリド(即ち、3-クロロ-2-メチル-1-プロペン)となる。しかし、形成された2-メチルアリルクロリドは、すぐにアルカリ反応系から離れなければ、加水分解、エーテル化反応が進行して2-メチルアリルアルコール及び2-メチルアリルエーテルを形成するため、反応選択率が低下する。このために、本発明では、反応精留法(精留塔内で反応)を用いて脱離反応を行い、生成物の沸点が反応物よりも約30℃低く、かつ水とともに二成分系共沸を形成する特徴を利用した。生成物である2-メチルアリルクロリドを即時反応系から取り出すことにより、脱離反応の選択率を大幅に向上させ、二成分系共沸物を冷却した後に分層する。このときの有機相は、生成物である2-メチルアリルクロリドである。本研究により、脱離反応に一定の滞留時間が必要であることをさらに見い出したことから、本発明では棚段塔を脱離反応の反応器として用いる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、反応精留により1,2-ジクロロ-t-ブタンと水酸化ナトリウム水溶液とを塩化水素脱離反応させることによって2-メチルアリルクロリドを得ることができ、反応選択率が高く、副産物である1,2-ジクロロ-t-ブタンを生成物である2-メチルアリルクロリドに転化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る複合型反応精留装置及びその反応プロセスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例を参照しながら、本発明の技術的解決手段をさらに説明する。
【0021】
本発明に必要な1,2-ジクロロ-t-ブタン原料の分離過程は以下の通りである。
【0022】
20段の理論段を有する連続精留塔の中部に高沸点成分(1,2-ジクロロ-t-ブタン 約80質量%、3,3’-ジクロロイソブチレン 約20質量%)を連続的に添加し、塔頂の還流比を約1.0に制御し、塔頂から投入量の79.8質量%を占める1,2-ジクロロ-t-ブタンを収集する(含有量:99.8質量%以上)。塔底からは3,3’-ジクロロイソブチレンを得る(含有量:約99質量%)。
【0023】
図1に示すように、本発明に係る複合型精留塔は、底部に蒸気熱源としての再沸器が設けられており、下部は棚段塔である。水酸化ナトリウム水溶液が複合型精留塔の下部棚段塔の1番目のトレイから添加され、1,2-t-ブチルクロリドが複合型精留塔の下部棚段塔の中部の5番目~15番目のトレイから添加される。上部は、充填塔であり、塔頂に還流凝縮器が設置されており、水を冷源とし、複合型塔頂から精留された2-メチルアリルクロリドと水との共沸物を凝縮器により冷却した後に分層器に導入する。ここで、有機相が2-メチルアリルクロリドであり、複合型精留塔の塔底部から塩水を排出する。
【0024】
実施例1
図1に示す複合型精留塔(該塔の下部に20段のシーブトレイを有し、上部に理論段数10の不規則充填物を有する)の下部の1番目のトレイに濃度20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加し、15番目のトレイに1,2-ジクロロ-t-ブタンを連続的に添加した。水酸化ナトリウム水溶液と1,2-ジクロロ-t-ブタンの質量比は1.6とし、塔頂の還流比を5に制御し、塔頂から出た蒸気を凝縮した後に分層器によって分層した。上層の有機相の量は、1,2-ジクロロ-t-ブタン投入量の71.2質量%であり、ガスクロマトグラフ分析により、有機相中の2-メチルアリルクロリドの含有量は99.3質量%、収率は99.2質量%であることが確認された。塔底から排出されたのは塩水であり、有機物の含有量は0.04質量%未満であった。
【0025】
実施例2
図1に示す複合型精留塔(該塔の下部に10段のフロートバルブトレイを有し、上部に理論段数20の規則充填物を有する)の下部の1番目のトレイに濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加し、5番目のトレイに1,2-ジクロロ-t-ブタンを連続的に添加した。水酸化ナトリウム水溶液と1,2-ジクロロ-t-ブタンの質量比は3.5とし、塔頂の還流比を1に制御し、塔頂から出た蒸気を凝縮した後に分層器によって分層した。上層の有機相の量は、1,2-ジクロロ-t-ブタン投入量の71.1質量%であり、ガスクロマトグラフ分析により、有機相中の2-メチルアリルクロリドの含有量は99.2質量%、収率は99.0質量%であることが確認された。塔底から排出されたのは塩水であり、有機物の含有量は0.05質量%未満であった。
【0026】
実施例3
図1に示す複合型精留塔(該塔の下部に15段のバブルキャップトレイを有し、上部に理論段数15の規則充填物を有する)の下部の1番目のトレイに濃度15%の水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加し、10番目のトレイに1,2-ジクロロ-t-ブタンを連続的に添加した。水酸化ナトリウム水溶液と1,2-ジクロロ-t-ブタンの質量比は2.6とし、塔頂の還流比を3に制御し、塔頂から出た蒸気を凝縮した後に分層器によって分層した。上層の有機相の量は、1,2-ジクロロ-t-ブタン投入量の約71.3質量%であり、ガスクロマトグラフ分析により、有機相中の2-メチルアリルクロリドの含有量は99.6質量%、収率は99.6質量%であることが確認された。塔底から排出されたのは塩水であり、有機物の含有量は0.03質量%未満であった。
図1