(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】植毛品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 189/00 20060101AFI20220225BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220225BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20220225BHJP
C09J 7/50 20180101ALI20220225BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C09D189/00 ZNA
C09D5/00 D
C09J201/00
C09J7/50
C07K14/435
(21)【出願番号】P 2018011516
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】竹本 昌己
(72)【発明者】
【氏名】平田 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 基裕
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148797(JP,A)
【文献】特表2018-527404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/171001(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0056256(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108359406(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C07K 14/435
B05D 1/14、3/10
B32B 5/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クモ糸フィブロインを含む接着性向上剤。
【請求項2】
粉末状である、請求項1に記載の接着性向上剤。
【請求項3】
基材、接着剤層、及び、前記基材と前記接着剤層の間に接着性向上剤を備え、
前記接着性向上剤がクモ糸フィブロインを含み、
前記接着剤層にパイルが植毛されている、植毛品。
【請求項4】
基材上に、クモ糸フィブロインを含む接着性向上剤を定着させる工程と、
前記接着性向上剤の上に接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層にパイルを植毛する工程と、を含む、植毛品の製造方法。
【請求項5】
前記接着性向上剤を定着させる工程が、接着性向上剤を付着した基材を加熱加圧する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植毛品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の基材の表面に、接着剤を介してパイル(短繊維)を付着させた製品は、植毛品とも呼ばれ、住宅業界、自動車業界等で内装に利用されている。植毛は、断熱、消音、乱反射防止、結露防止、摩擦制動等の目的で実施される。また、このような基材の表面にパイルを植毛する方法としては、静電植毛法、ファイバーコーティング法等が知られている。
【0003】
静電植毛法は、接着剤を塗布した基材の表面にパイルを付着させる際、基材付近およびパイルを収容したパイル供給容器の上部に設置された電極に高電圧をかける。具体的には、下部のパイル供給容器内のパイルを電気力線で浮遊させて基材の表面に付着させる方法、パイルを基材の表面に向けてその上方から散布するように落下させて付着させる方法等が知られている。
【0004】
ファイバーコーティング法では、接着剤を塗布した基材に向けて、パイルを散布ガンから吹き付けて植毛する方法である(例えば、特許文献1、2参照。)。ファイバーコーティング法で得られた植毛品は、パイルが基材の表面に対して傾斜した状態で植毛されている。
【0005】
基板の表面に植毛する際に使用する接着剤と基板との相性がよくない場合には、一般的に、接着性向上剤(プライマー)が使用される(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-117646号公報
【文献】特開2004-16966号公報
【文献】特開2005-288742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、接着性向上剤を使用する場合には、基材に塗布した接着性向上剤を約30分間乾燥させた後に、接着剤を塗布して植毛を実施する必要があり、植毛品を短時間で効率的に製造することが困難であるという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、植毛品の製造方法において、作業時間を短縮可能な新たな接着性向上剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1] クモ糸フィブロインを含む接着性向上剤。
[2] 粉末状である、[1]に記載の接着性向上剤。
[3] 基材、接着剤層、及び、上記基材と上記接着剤層の間に接着性向上剤を備え、上記接着性向上剤がクモ糸フィブロインを含み、上記接着剤層にパイルが植毛されている、植毛品。
[4] 基材上に、クモ糸フィブロインを含む接着性向上剤を定着させる工程と、上記接着性向上剤の上に接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、上記接着剤層にパイルを植毛する工程と、を含む、植毛品の製造方法。
[5] 上記接着性向上剤を定着させる工程が、接着性向上剤を付着した基材を加熱加圧する工程を含む、[4]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植毛品の製造方法において、作業時間を短縮可能な新たな接着性向上剤を提供できる。また、本発明によれば、植毛品の製造方法における接着性向上剤の乾燥工程を省略することができ、より短時間で植毛品を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一実施形態は、クモ糸フィブロインを含む接着性向上剤である。
【0012】
(クモ糸フィブロイン)
クモ糸フィブロインは、天然クモ糸タンパク質、及び天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチド(人工クモ糸タンパク質)からなる群より選ばれるクモ糸ポリペプチドを含有していてもよい。
【0013】
天然クモ糸タンパク質としては、例えば、大吐糸管しおり糸タンパク質、横糸タンパク質、及び小瓶状腺タンパク質が挙げられる。大吐糸管しおり糸は、結晶領域と非晶領域(無定形領域とも言う。)からなる繰り返し領域を持つため、高い応力と伸縮性を併せ持つ。クモ糸の横糸は、結晶領域を持たず、非晶領域からなる繰り返し領域を持つという特徴を有する。横糸は、大吐糸管しおり糸に比べると応力は劣るが、高い伸縮性を持つ。
【0014】
大吐糸管しおり糸タンパク質は、クモの大瓶状腺で産生され、強靭性に優れるという特徴を有する。大吐糸管しおり糸タンパク質としては、例えば、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する大瓶状腺スピドロインMaSp1及びMaSp2、並びに二ワオニグモ(Araneus diadematus)に由来するADF3及びADF4が挙げられる。ADF3は、ニワオニグモの2つの主要なしおり糸タンパク質の一つである。天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、これらのしおり糸タンパク質に由来するポリペプチドであってもよい。ADF3に由来するポリペプチドは、比較的合成し易く、また、強伸度及びタフネスの点で優れた特性を有する。
【0015】
横糸タンパク質は、クモの鞭毛状腺(flagelliform gland)で産生される。横糸タンパク質としては、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)に由来する鞭毛状絹タンパク質(flagelliform silk protein)が挙げられる。
【0016】
天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドは、組換えクモ糸タンパク質であってよい。組換えクモ糸タンパク質としては、天然型クモ糸タンパク質の変異体、類似体又は誘導体等が挙げられる。このようなポリペプチドの好適な一例は、大吐糸管しおり糸タンパク質の組換えクモ糸タンパク質(「大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチド」ともいう。)である。
【0017】
フィブロイン様タンパク質である大吐糸管しおり糸由来のタンパク質としては、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。ここで、式1中、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、nは2~20、好ましくは4~20、より好ましくは8~20、更に好ましくは10~20、更により好ましくは4~16、更によりまた好ましくは8~16、特に好ましくは10~16の整数であってよい。また(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更により好ましく、100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。mは2~300の整数を示す。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。大吐糸管しおり糸由来のタンパク質の具体例としては、配列番号1及び配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。
【0018】
横糸タンパク質に由来するタンパク質としては、例えば、式2:[REP2]oで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式2中、REP2はGly-Pro-Gly-Gly-Xから構成されるアミノ酸配列を示し、Xはアラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)及びバリン(Val)からなる群から選ばれる一つのアミノ酸を示す。oは8~300の整数を示す。)を挙げることができる。具体的には配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分的な配列(NCBIアクセッション番号:AAF36090、GI:7106224)のリピート部分及びモチーフに該当するN末端から1220残基目から1659残基目までのアミノ酸配列(PR1配列と記す。)と、NCBIデータベースから入手したアメリカジョロウグモの鞭毛状絹タンパク質の部分配列(NCBIアクセッション番号:AAC38847、GI:2833649)のC末端から816残基目から907残基目までのC末端アミノ酸配列を結合し、結合した配列のN末端に開始コドン、His10タグ及びヒンジ配列からなるアミノ酸配列が付加されたものである。
【0019】
クモ糸フィブロイン、すなわちクモ糸フィブロインに主成分として含まれるタンパク質は、例えば、当該タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0020】
クモ糸フィブロインに主成分として含まれるタンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手した構造タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
【0021】
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とするタンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0022】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、目的とするタンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0023】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0024】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0025】
原核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(例えば、特開2002-238569号公報を参照)等を挙げることができる。
【0026】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0027】
真核生物を宿主とする場合、目的タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0028】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0029】
タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0030】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0031】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0032】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0033】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0034】
発現させたタンパク質の単離、精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0035】
また、タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてタンパク質の不溶体を回収する。回収したタンパク質の不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法によりタンパク質の精製標品を得ることができる。当該タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0036】
クモ糸フィブロインは、粉末状(凍結乾燥粉末等)、又は繊維状(紡糸して得られる繊維等)のいずれであってもよい。粉末状のクモ糸フィブロインは、用途に応じたメッシュサイズの篩いを用いて、適切な粒子径を有する粉末を選別してもよい。
【0037】
接着性向上剤は、クモ糸フィブロインのみからなっていてもよく、任意の添加剤を加えた組成物であってもよい。任意の添加剤としては、例えば、クモ糸フィブロインの安定化剤、溶剤、他のフィブロインが挙げられる。
【0038】
溶剤は、クモ糸フィブロインを分散又は溶解できるものであればよく、基材の表面全体にわたってより均一に塗布又は散布させることができる成分である。溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール等の第一級アルコール、2-プロパノール等の第二級アルコール、tert-ブチルアルコール等の第三級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジクロロメタンが挙げられる。
【0039】
他のフィブロインは、例えば、絹フィブロイン、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。クモ糸フィブロインと他のフィブロインを併用する場合、他のフィブロインの割合は、例えば、クモ糸フィブロイン100質量部に対して、40質量部以下、30質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
【0040】
絹糸は、カイコガ(Bombyx mori)の幼虫である蚕の作る繭から得られる繊維(繭糸)である。一般に、1本の繭糸は、2本の絹フィブロインと、これらを外側から覆うニカワ質(セリシン)とから構成される。絹フィブロインは、多数のフィブリルで構成される。絹フィブロインは、4層のセリシンで覆われる。実用的には、精錬により外側のセリシンを溶解して取り除いて得られる絹フィラメントが、衣料用途に使用されている。一般的な絹糸は、1.33の比重、平均3.3decitexの繊度、及び1300~1500m程度の繊維長を有する。絹フィブロインは、天然若しくは家蚕の繭、又は中古若しくは廃棄のシルク生地を原料として得られる。
【0041】
絹フィブロインは、セリシン除去絹フィブロイン、セリシン未除去絹フィブロイン、又はこれらの組み合わせであってもよい。セリシン除去絹フィブロインは、絹フィブロインを覆うセリシン、及びその他の脂肪分などを除去して精製したものである。このようにして精製した絹フィブロインは、好ましくは、凍結乾燥粉末として用いられる。セリシン未除去絹フィブロインは、セリシンなどが除去されていない未精製の絹フィブロインである。
【0042】
接着性向上剤は、粉末状であってもよい。接着性向上剤が粉末状である場合、粉末状のクモ糸フィブロインのみからなっていてもよく、粉末状の添加剤を加えた組成物であってもよい。粉末状の接着性向上剤であると、手作業で散布することにより基材の表面に付着させることができ、その使用量を容易に調節することも可能である。
【0043】
接着性向上剤は、繊維状であってもよい。接着性向上剤が繊維状である場合、繊維状のクモ糸フィブロインのみからなっていてもよい。繊維状の接着性向上剤であると、基材の表面に途切れることなく連続して接着性向上剤を配置することが可能である。
【0044】
(植毛品の製造方法)
本発明の第二実施形態は、植毛品の製造方法である。本実施形態に係る植毛品の製造方法は、基材上に接着性向上剤を定着させる工程と、定着した接着性向上剤の上に接着剤を塗布する工程と、塗布した接着剤の上に植毛を施す工程と、を含む。
【0045】
基材の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;金属、ゴム又はセラミックであってもよい。また、基材は、繊維、繊維から作製した織布、不織布又は編布であってもよい。
【0046】
植毛に使用されるパイルは、一般的に当業界で知られているものであればよく、例えば、ナイロン、ポリエステル製のパイルであってもよい。パイルの長さは、0.1~10mm、0.01~100mm、0.02~50mm、0.05~30mm、0.1~10mm、0.3~5mm、0.5~3mm、又は0.08~2mmであってもよい。パイルの繊度は、0.1~10デシテックス、0.01~100デシテックス、0.05~50デシテックス、0.1~30デシテックス、0.5~20デシテックス、1~10デシテックス、2~7デシテックス、又は2~4デシテックスであってもよい。
【0047】
基材上に接着性向上剤を定着させる工程は、接着性向上剤を基材の表面上に付着させた後に、加熱加圧することにより、基材の表面上に接着性向上剤を定着させる工程である。接着性向上剤は、基材の表面に向けて上空から散布してもよく、刷毛やスプレーを用いて配置してもよい。その後、プレス機を用いて加熱条件下、接着性向上剤が付着した基材を加圧することにより実施される。加熱加圧する時間は、10秒~5分、15秒~1分、又は20秒~40秒であってもよい。接着性向上剤は、基材の表面(植毛される領域)の少なくとも50%の範囲に定着されていればよい。接着性向上剤は、基材の表面の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%の範囲に形成されていることが好ましく、基材の表面全面(植毛される領域)にわたって接着性向上剤層を形成していることがより好ましい。
【0048】
接着性向上剤の付着量は、25~150g/m2であってもよい。
【0049】
定着した接着性向上剤の上に接着剤を塗布する工程は、基材上に定着した接着性向上剤の上に、接着剤を塗布して接着剤層を形成させる工程である。
【0050】
接着剤は、一般的に当業界で知られているものであればよく、例えば、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、又はシリコン系接着剤であってもよい。また、接着剤は、湿気硬化性1液型接着剤、2液混合型接着剤、エマルジョン型接着剤、又はホットメルト型接着剤であってもよい。
【0051】
塗布した接着剤の上に植毛を施す工程は、前工程で形成された接着剤層に、植毛方法により、パイルを接着させる工程である。植毛方法は、一般的に当業界で知られている方法であってよく、静電植毛法、又はファイバーコーティング法であってもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
1.クモ糸フィブロイン(PRT410)の製造
(1)構造タンパク質発現株の作製
ネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する組換えフィブロイン(以下、「PRT410」ともいう。)を設計した。
【0054】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ネフィラ・クラビペス由来のフィブロインのアミノ酸配列に対して、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施したアミノ酸配列を有し、さらにN末端に配列番号4で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)を付加されている。
【0055】
次に、PRT410をコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイトを、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。当該核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組み換えて発現ベクターを得た。
【0056】
(2)タンパク質の発現
PRT410をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換された大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)に、OD
600が0.005となるように添加した。培養液の温度を30℃に保ち、OD
600が5になるまでフラスコ内で培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【表1】
【0057】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターに、OD600が0.05となるように添加した。培養液の温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。なお、消泡剤として、アデカノールLG-295S((株)ADEKA製)を使用した。
【0058】
【0059】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)水溶液を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質(PRT410)を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存したPRT410に相当するサイズのバンドの出現により、PRT410の発現を確認した。
【0060】
(3)構造タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質(PRT410)を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
【0061】
3.植毛品の製造
以下のとおり、実施例1、比較例1及び2の植毛品を製造した。
【0062】
実施例1
(1)基材の製造
ポリプロピレン(PP)(製品名:AZ864、住友化学(株)製)を射出成形して得た板(厚さ:3mm)を74mm×74mmの大きさに裁断し、基材を得た。
(2)接着性向上剤の定着
得られた基材上に、クモ糸フィブロインPRT410(64g/m2に相当する0.35g)を100メッシュの篩いを用いて付着させた。その後、プレス機(商品名:H300-01、アズワン(株)製)を用いて、180℃(型の温度:130℃(実測値))、25kg/cm2で30秒間加熱加圧して、クモ糸フィブロインを基材の表面に定着させ、室温に冷却した。
(3)接着剤層の形成
得られた基材のクモ糸フィブロインPRT410を定着させた面に、接着剤(商品名:ヨドゾールAA76S、ヘンケルジャパン(株)製)をエアースプレーガンを用いて、膜厚が200μmとなるように塗布した。
(4)植毛層の形成
簡易静電植毛実験装置(商品名:GT100、(株)グリーンテクノ製)を用いて、出力電圧20000Vの条件下、ナイロンパイル(太さ:3.3デシテックス、長さ:1mm、(株)中部パイル工業所製)を接着剤層に植毛した。植毛後、80℃の乾燥炉内で30分間、接着剤を乾燥させ、パイルが200g/m2で植毛された植毛品を得た。
【0063】
比較例1
接着性向上剤を定着させる工程以外は、実施例1と同様にして、比較例1の植毛品を製造した。比較例1では、クモ糸フィブロインの加熱加圧による定着に代えて、エアスプレーガンを用いて、プライマー(商品名:ヨドゾール65K2K、ヘンケルジャパン(株)製)を膜厚10μm以下となるように塗布した後、80℃の乾燥炉内で30分間、プライマーを乾燥させた。
【0064】
比較例2
接着性向上剤を定着させる工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の植毛品を製造した。
【0065】
4.接着性の評価
接着性の評価は、JIS D0202:1988(自動車部品の塗膜通則の碁盤目付着性試験)及びJIS K 5600-5-6:1999(付着性(クロスカット法))に記載の方法に準拠して実施した。
得られた実施例1、比較例1及び2の各植毛品に、カッターナイフで縦横11本ずつの切込みを施し、2mm×2mmのマス目を100個形成させた。その後、植毛されたパイルにセロハン粘着テープを貼り、一気に引っ張り、剥離させた。そのとき、接着剤層が剥離したマス目の数を計数した。
【0066】
結果を表3に示す。実施例1と比較例1では、接着剤層が剥離したマス目の数が同程度であったことから、実施例1は比較例1と同程度の接着性向上効果を有することが明らかとなった。また、プライマーを備えていない比較例2では、カッターナイフで切り込みを施した時点で、ほとんどの接着剤層が剥離した。
【表3】
【配列表】