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特許7029755リチウムイオン二次電池用正極ペースト、正極の製造方法、及び正極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極ペースト、正極の製造方法、及び正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220225BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220225BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220225BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019089205
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020184490
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】永橋 直也
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185229(JP,A)
【文献】国際公開第2013/150937(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217408(WO,A1)
【文献】特開2015-043257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、導電材と、バインダーと、溶媒と、を含むリチウムイオン二次電池用正極ペーストであって、
前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、
前記正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上である、
リチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項2】
前記正極ペーストの固形成分に対する前記導電材の比率が0.8質量%以上1.0質量%以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項3】
前記正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上90質量%以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの外径が8nm以上12nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブのアスペクト比が30以上250以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項6】
前記正極活物質の粒径(メジアン径D50)が5μm以上30μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極ペースト。
【請求項7】
正極活物質と、導電材と、バインダーと、溶媒と、を含む正極ペーストを準備する工程と、
前記正極ペーストを正極集電体の表面に塗工して乾燥する工程と、を備えるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法であって、
前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、
前記正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上である、
リチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項8】
正極活物質と導電材とを少なくとも含むリチウムイオン二次電池用正極であって、
前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、
前記正極活物質の表面の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブで被覆されている、
リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項9】
前記正極活物質の表面を被覆している前記カーボンナノチューブの前記正極活物質の表面積に占める割合が30%以上90%以下である、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極ペースト、正極の製造方法、及び正極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、リチウムイオン二次電池の正極に用いる導電材にカーボンナノチューブを用いる技術が開示されている。特許文献1に開示されている技術では、直径が0.5~10nm、長さが10μm以上のカーボンナノチューブを導電材として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-221672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池の正極を作製する際は、正極ペーストを正極集電体に塗工して形成するが、近年、リチウムイオン二次電池の高容量化に伴い正極(正極ペースト)に含まれる導電材の量が低下してきている。
【0006】
しかしながら、正極に含まれる導電材の量が低下すると正極の抵抗が増加するという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、正極に含まれる導電材の量が低下した場合であっても、正極の抵抗の増加を抑制することが可能なリチウムイオン二次電池用正極ペースト、正極の製造方法、及び正極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極ペーストは、正極活物質と、導電材と、バインダーと、溶媒と、を含む。前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、前記正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上である。
【0009】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、正極活物質と、導電材と、バインダーと、溶媒と、を含む正極ペーストを準備する工程と、前記正極ペーストを正極集電体の表面に塗工して乾燥する工程と、を備える。前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、前記正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上である。
【0010】
本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極は、正極活物質と導電材とを少なくとも含む。前記導電材は、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを含み、前記正極活物質の表面の少なくとも一部は、前記カーボンナノチューブで被覆されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、塗工不良の発生を抑制することが可能なリチウムイオン二次電池用正極ペースト、正極の製造方法、及び正極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極を説明するための模式図である。
図2】本発明のメカニズムを説明するための図である(短いカーボンナノチューブを用いる理由)。
図3】正極活物質の表面を被覆しているカーボンナノチューブの状態を説明するための模式図である。
図4】本発明のメカニズムを説明するための図である(高い固形成分濃度とする理由)。
図5】本発明のメカニズムを説明するための図である(外径が細いカーボンナノチューブを用いる理由)。
図6】本発明のメカニズムを説明するための図である(外径が細いカーボンナノチューブを用いる理由)。
図7】実施例と比較例を説明するための表である。
図8】実施例と比較例の放電レート特性を示す表である。
図9】実施例1と比較例3の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極を説明するための模式図である。図1に示すように、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用の正極1は、正極集電体10の上に正極合剤層11が形成されている。正極合剤層11は、正極活物質12、導電材13、分散剤(不図示)、及びバインダー14を含んでいる。本実施の形態では、導電材13としてカーボンナノチューブを用いている。図1に示すように、正極活物質12の表面の少なくとも一部は、カーボンナノチューブ13で被覆されている。
【0014】
正極集電体10は、金属箔や金属板で構成されている。正極集電体10には、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
【0015】
正極活物質12は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、アルミ酸リチウム(LiAlO)等を用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、アルミ酸リチウム(LiAlO)を任意の割合で混合したNCA系の材料を用いてもよい。一例を挙げると、LiNi0.8Co0.15Al0.05を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を用いてもよい。
【0016】
正極活物質の粒径は、例えば5~30μm(メジアン径D50)である。なお、正極活物質はこれらの材料に限定されることはなく、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であればどのような材料であってもよい。
【0017】
導電材13にはカーボンナノチューブを用いることができる。本実施の形態では、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを用いることができる。また、本実施の形態では、外径が8nm以上12nm以下のカーボンナノチューブを用いてもよい。また、アスペクト比が30以上250以下のカーボンナノチューブを用いてもよい。本実施の形態にかかる正極では、正極活物質12の表面の一部をカーボンナノチューブ13が被覆しているが、このとき、正極活物質12の表面積に占めるカーボンナノチューブ13の割合が30%以上90%以下とすることが好ましい。
【0018】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
バインダー14には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0019】
本実施の形態において、正極合剤層11の密度は3.2~3.8g/cmである。また、正極合剤層11の膜厚は、45~95μmとすることができる。
【0020】
次に、本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極ペーストについて説明する。本実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極ペーストは、正極活物質12、導電材13、分散剤、バインダー14、及び溶媒を含む。正極活物質12、導電材13、分散剤、及びバインダー14については上述した材料と同様の材料を用いることができる。溶媒には、例えば、NMP(N-メチルピロリドン)等を用いることができる。
【0021】
本実施の形態にかかる正極ペーストにおいても、導電材13としてカーボンナノチューブを用いている。このとき用いるカーボンナノチューブとしては、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のものを用いることができる。また、本実施の形態では、外径が8nm以上12nm以下のカーボンナノチューブを用いてもよい。また、アスペクト比が30以上250以下のカーボンナノチューブを用いてもよい。
【0022】
更に、本実施の形態にかかる正極ペーストは、正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上、好ましくは80質量%以上90質量%以下である。また、正極ペーストの固形成分に対する導電材(カーボンナノチューブ)の比率は0.8質量%以上1.0質量%以下である。本実施の形態では、リチウムイオン二次電池の高容量化を考慮して、正極ペーストの固形成分に対する導電材(カーボンナノチューブ)の比率を低くしている。
【0023】
また、本実施の形態では、正極ペーストに含まれるカーボンナノチューブとして、外径が細く(12nm以下)、長さが短い(アスペクト比が30以上250以下)カーボンナノチューブを用いている。例えば、外径が12nmの場合は、アスペクト比が30以上250以下のカーボンナノチューブの長さは0.36~3μmである。例えば、外径が8nmの場合は、アスペクト比が30以上250以下のカーボンナノチューブの長さは0.24~2μmである。
【0024】
また、本実施の形態では、固形成分濃度が高い正極ペーストを用いている。本実施の形態ではこのような条件の正極ペーストを用いることで、正極に含まれる導電材の量が低下した場合であっても、正極の抵抗の増加を抑制することができる。以下、本発明のメカニズムについて詳細に説明する。
【0025】
図2は、本発明のメカニズムを説明するための図であり、本発明において短いカーボンナノチューブを用いている理由を説明するための図である。図2の左図に示すカーボンナノチューブ(CNT)113のように、カーボンナノチューブ113の長さが長い場合は、カーボンナノチューブ113が糸まり状に凝集する。このため、長いカーボンナノチューブ113を用いた場合は特殊な分散処理が必要となり、製造コストが高くなる。また、分散処理を行ったとしても、カーボンナノチューブ113の繊維同士が複雑に絡み合っている場合は、糸まり状の凝集を解くことが困難となる。
【0026】
これに対して、図2の右図に示すカーボンナノチューブ13のように、短いカーボンナノチューブ13を用いた場合は、カーボンナノチューブ13が糸まり状に凝集することを抑制することができる。このような理由から、本実施の形態では長さの短いカーボンナノチューブ13を用いている。
【0027】
図3は、正極活物質の表面を被覆しているカーボンナノチューブの状態を示す模式図である。図3の左図は短いカーボンナノチューブ13を用いた場合(本発明)を示しており、図3の右図は長いカーボンナノチューブ113を用いた場合を示している。
【0028】
図3の右図に示すように、長いカーボンナノチューブ113を用いた場合は、正極活物質12の表面を被覆するカーボンナノチューブ113が不均一になる。一方、図3の左図に示すように、短いカーボンナノチューブ13を用いた場合は、正極活物質12の表面を被覆するカーボンナノチューブ13を均一にすることができる。このような理由からも、本実施の形態では長さの短いカーボンナノチューブ13を用いている。
【0029】
一方で、長さの短いカーボンナノチューブ13を用いた場合は、長さの長いカーボンナノチューブ113を用いた場合よりも正極合剤層11内の導電パスが短くなるため、正極の抵抗が増加する。本実施の形態では、このような正極の抵抗の増加を抑制するために、長さの短いカーボンナノチューブ13を用いた場合であっても正極合剤層11内の導電パスが長くなるようにしている。具体的には、正極ペーストの固形成分濃度を高くし、また外径の細いカーボンナノチューブを用いている。以下、この理由について詳細に説明する。
【0030】
図4は、本発明のメカニズムを説明するための図であり、正極ペーストの固形成分濃度を高くする理由を説明するための図である。図4の上図に示すように、正極ペースト115の固形成分濃度が低い場合は、正極ペースト115の溶剤の量が多いため、正極ペースト115に含まれるカーボンナノチューブ13が動きやすい状態となっている。このため、正極ペースト115を塗工した後、正極ペースト115を乾燥する際にカーボンナノチューブ13が動いてしまい、正極活物質12の表面をカーボンナノチューブ13で均一に被覆することができない。
【0031】
一方、図4の下図に示すように、正極ペースト15の固形成分濃度が高い場合は、正極ペースト15に含まれるカーボンナノチューブ13が動きにくい状態となっている。このため、正極ペースト15を塗工した後、正極ペースト15を乾燥する際にカーボンナノチューブ13の流動を抑制することができ、正極活物質12の表面をカーボンナノチューブ13で均一に被覆することができる。このように、正極活物質12の表面をカーボンナノチューブ13で均一に被覆することで、正極合剤層11における導電パスを長くすることができる。したがって、短いカーボンナノチューブ13を用いた場合であっても、正極の抵抗の増加を抑制することができる。
【0032】
図5図6は、本発明のメカニズムを説明するための図であり、外径が細いカーボンナノチューブを用いる理由を説明するための図である。本実施の形態では、長さの短いカーボンナノチューブ13を用いた場合であっても正極合剤層11内の導電パスが長くなるように、外径の細いカーボンナノチューブを用いている。図5のグラフに示すように、カーボンナノチューブの外径が細くなると、カーボンナノチューブの単位質量当たりの本数が増加する。図5では、カーボンナノチューブの長さが0.4μmの場合と5μmの場合の、カーボンナノチューブの外径とカーボンナノチューブの単位質量当たりの本数との関係を示している。図5に示すように、カーボンナノチューブの長さが0.4μmの場合と5μmの場合の両方において、カーボンナノチューブの外径が細くなるほど、カーボンナノチューブの単位質量当たりの本数が増加している。
【0033】
図6は、外径が8nm、12nm、20nmのカーボンナノチューブの状態を示すシミュレーション結果である。図6に示すように、カーボンナノチューブの外径が細いほど、カーボンナノチューブの数が増加している。本実施の形態では、外径が12nm以下のカーボンナノチューブを用いることで、カーボンナノチューブの単位質量当たりの本数を多くすることができる。よって、正極合剤層11における導電パスを長くすることができる。したがって、短いカーボンナノチューブ13を用いた場合であっても、正極の抵抗の増加を抑制することができる。
【0034】
次に、正極ペーストおよび正極の製造方法について説明する。
正極ペーストを作製する際は、まず、カーボンナノチューブと分散剤(例えば、ポリビニルピロリドン)とを溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)に加えて、超音波ホモジナイザーを用いて分散させる。カーボンナノチューブには、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを用いる。
【0035】
その後、分散処理後のスラリーにバインダー(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を添加して、ホモディスパーで攪拌してCNT分散液を調整する。
【0036】
また、所定の量の正極活物質に溶媒(例えば、N-メチルピロリドン)を添加して、予め粒子表面を湿潤させる。その後、調整したCNT分散液を正極活物質に添加し、ホモディスパーで攪拌して正極ペーストを作製する。
【0037】
リチウムイオン二次電池用正極を作製する際は、上述のようにして作製した正極ペーストを正極集電体(アルミ箔など)の表面に塗工して乾燥することで作製する。
【0038】
なお、上述した正極ペースト、及び正極の作製方法は一例であり、本実施の形態では上記以外の方法を用いてもよい。
【0039】
以上で説明したように、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池用正極ペーストに含まれる導電材として、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを用いている。また、このとき、正極ペーストの固形成分濃度が80質量%以上となるようにしている。
【0040】
このように外径が12nm以下のカーボンナノチューブを用いることで、カーボンナノチューブの単位質量当たりの本数を多くすることができる。よって、正極合剤層11における導電パスを長くすることができる。また、正極ペーストの固形成分濃度を80質量%以上とすることで、正極ペーストを乾燥する際にカーボンナノチューブの流動を抑制することができるので(図4参照)、正極活物質の表面をカーボンナノチューブで均一に被覆することができる。よって、正極合剤層中においてカーボンナノチューブの導電パスが維持されるので、正極の抵抗の増加を抑制することができる。
【0041】
更に本実施の形態では、外径が12nm以下でアスペクト比が250以下のカーボンナノチューブを導電材として用いているので、導電材の添加量が少ない場合(具体的には、正極ペーストの固形成分に対する導電材の比率が0.8質量%以上1.0質量%以下)であっても、正極ペーストに十分な構造粘性を付与することができる。したがって、リチウムイオン二次電池用正極を作製する際に、塗工不良の発生を抑制することができる。
【0042】
なお、正極ペーストのチキソ性(粘度)は、カーボンナノチューブの条件(外径、アスペクト比、固形成分に対する比率)を変えることでコントロールすることができる。
【実施例
【0043】
次に、本発明の実施例について説明する。
以下の方法を用いて、実施例1~3、及び比較例1~7にかかるサンプルを作製した(図7を参照)。
【0044】
<実施例1>
導電材としてカーボンナノチューブ(平均外径12nm、平均繊維長10μm)が5質量部、分散剤としてポリビニルピロリドン(平均分子量40,000)が1質量部となるように調整し、96質量部のN-メチルピロリドン(溶媒)に加え、超音波ホモジナイザー(超音波工業製)を用いて出力1000Wで10分間分散させてCNTスラリーを作製した。
【0045】
上述のようにして得られた黒色光沢を有する粘稠スラリー(CNTスラリー)をサンプリングし、N-メチルピロリドンで約10000倍に希釈した後、ガラス基板上にスピンコートし、乾燥させて塗膜を作製した。このようにして作製した塗膜を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて観察したところ、塗膜中のカーボンナノチューブの繊維長は平均で0.4μmであった。本実施例では、このようにして求めたカーボンナノチューブの長さを、正極中の実際のカーボンナノチューブの長さとした。なお、このときのカーボンナノチューブのアスペクト比は、33(=400/12)であった。
【0046】
その後、分散液の最終的な固形成分が、カーボンナノチューブとして2.4質量部、バインダー(PVdF(KFポリマー#1120、クレハ製))として1.8質量部、分散剤として0.5質量部となるように調整した。そして、調整後のCNTスラリーをホモディスパー(2.5型、羽根径φ40、プライミクス製)で2,500回転、10分間攪拌することで、CNT分散液を作製した。
【0047】
その後、正極ペーストの最終的な固形成分濃度が83質量部となるように、98.6質量部の正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05)にN-メチルピロリドンを添加してあらかじめ正極活物質の粒子の表面を湿潤させた。その後、導電材として0.8質量部、バインダーとして0.6質量部、分散剤として0.02質量部の割合となるように上述のCNT分散液を調整した。そして、調整後のCNT分散液を正極活物質に添加して、ホモディスパーで2,500回転、10分間攪拌することで正極ペーストを作製した。
【0048】
上述のようにして作製した正極ペーストを、PETフィルム上、及びアルミ箔上に70μmの厚さとなるように塗工して乾燥させた。アルミ箔上に塗工した電極を50μm角に切り出し、厚さが50μmとなるように圧延処理して正極を作製した。また、銅箔上に黒鉛を厚さ100μmとなるように塗工・乾燥させて負極を作製した。そして、このようにして作製した正極と負極とを用いてパウチ型セル(リチウムイオン二次電池)の組み立てを行った。電解液としては、30%のエチレンカーボネートと70%のエチルメチルカーボネートの溶液を使用した。また、支持塩として1mol/LのLiPFを用いた。
【0049】
上述のようにして作製したサンプル(正極ペースト、正極、リチウムイオン二次電池)を実施例1とした。
【0050】
<実施例2>
実施例2では、導電材として外径が8nmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、実施例2では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、50(=400/8)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は85質量部とした。
【0051】
<実施例3>
実施例3では、導電材として外径が12nm、長さが3μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、実施例3では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、250(=3000/12)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は80質量部とした。
【0052】
<比較例1>
比較例1では、導電材として外径が8nm、長さが5μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、比較例1では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、625(=5000/8)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は75質量部とした。
【0053】
<比較例2>
比較例2では、導電材として外径が12nm、長さが5μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、比較例2では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、417(=5000/12)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は75質量部とした。
【0054】
<比較例3>
比較例3では、導電材として外径が12nm、長さが3.6μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、比較例3では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、300(=3600/12)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は76質量部とした。
【0055】
<比較例4>
比較例4では、導電材として外径が14nm、長さが0.4μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、比較例4では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、29(=400/14)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は80質量部とした。
【0056】
<比較例5>
比較例5では、導電材として外径が16nm、長さが0.4μmのカーボンナノチューブを使用した。これ以外は実施例1と同様である。なお、比較例5では、カーボンナノチューブのアスペクト比は、25(=400/16)であった。また、正極ペーストの固形成分濃度は80質量部とした。
【0057】
比較例1~3では、導電材として長さが長いカーボンナノチューブ(3.6~5μm)を使用した。また、比較例4~5では、導電材として外径が太いカーボンナノチューブ(14~16nm)を使用した。
【0058】
<比較例6>
比較例6では、導電材としてカーボンブラック(CB)を使用した。このとき使用したカーボンブラックの量は0.8%とした。これ以外は実施例1と同様である。また、正極ペーストの固形成分濃度は80質量部とした。
【0059】
<比較例7>
比較例7では、導電材としてアセチレンブラック(AB)を使用した。このとき使用したアセチレンブラックの量は4%とした。これ以外は実施例1と同様である。また、正極ペーストの固形成分濃度は70質量部とした。
【0060】
以上のようにして作製した実施例1~3、及び比較例1~7にかかるサンプルに対して、正極ペーストの粘度、正極ペーストの沈降性、正極活物質に対するカーボンナノチューブの被覆性、正極の塗膜抵抗、直流抵抗Rs、反応抵抗Rctを評価した。
【0061】
正極ペーストの粘度は、レオメータ(アントンパール社製MCR-302、コーンプレートCP-50-1)を使用し、25℃、せん断速度10-2-1~103-1の条件で測定した。正極ペーストの沈降性は、X線等価装置(島津製作所、inspeXio SMX-225CT)を使用して、ペースト混合10分後のペースト中における沈降層の有無及び容器底面からの高さより評価した。沈降性に優れるペーストは10分後も容器底部にコントラストが確認されず、沈降していないものと判断した。正極活物質に対するカーボンナノチューブの被覆性は、作製した正極を電子顕微鏡で観察することで評価した。正極の塗膜抵抗、直流抵抗Rs、及び反応抵抗Rctは次のようにして評価した。
【0062】
PETフィルム上に塗工した正極に対して、四端子法(Loresta-GP、三菱化学アナリテック製)を用いて抵抗測定を実施して塗膜抵抗の値を得た。また、インピーダンスアナライザー(ソーラトロン製)を使用して、パウチ型セルのインピーダンス測定を実施した。そして、等価回路解析(解析ソフト:ZView、スクリブナーアソシエイツ製)を用いてインピーダンスの直流抵抗成分と反応抵抗成分の切り分けを行った。
【0063】
ここで、直流抵抗成分は、電子伝導の成分(オームの法則に従う)に対応しており、正極合剤層中における導電ネットワーク(導電パス)の形成状態を示す指標として用いることができる。つまり、直流抵抗が低いほど、正極合剤層中において導電ネットワーク(導電パス)が多く形成されていることを意味する。
【0064】
また、反応抵抗成分は、電極表面における化学反応の活性状態(換言すると、電極表面における活性サイト数)に対応している。つまり、反応抵抗が低いほど、正極合剤層中における活性サイトの数が多いことを意味する。
【0065】
以上のようにして評価した結果を図7の表に示す。
図7の表に示すように、実施例1~実施例3では、正極ペーストの粘度が全体的に高い値となった。したがって、実施例1~実施例3にかかる正極ペーストでは、十分な構造粘性が得られた。正極ペーストの粘度は、正極ペーストの固形成分濃度に関連していると考えられる。例えば、実施例2の正極ペーストの固形成分濃度は85%であり、この場合の正極ペーストの粘度は35000(mPa・s)と高い値を示した。一方、正極ペーストの固形成分濃度が低い比較例1~3、7では、正極ペーストの粘度が測定不可能となるか、または低い値を示した。
【0066】
また、実施例1~実施例3では、正極ペーストの沈降性も良好であった。したがって、実施例1~実施例3にかかる正極ペーストを用いることで、塗工不良の発生を抑制することができるといえる。
【0067】
更に実施例1~実施例3では、正極ペーストの被覆性も良好であった。図9に、実施例1と比較例3の電子顕微鏡写真を示す。図9に示すように、比較例3ではカーボンナノチューブが長い(3.6μm)ために、正極活物質の表面をカーボンナノチューブで均一に被覆することができなかった。これに対して実施例1では、短いカーボンナノチューブ(0.4μm)を用いたため、正極活物質の表面をカーボンナノチューブで均一に被覆することができた。
【0068】
また、図7の表に示すように、実施例1~実施例3では、正極の塗膜抵抗、直流抵抗Rs、及び反応抵抗Rctが全体的に低い値となった。直流抵抗Rsが低減した理由としては、正極活物質の表面をカーボンナノチューブが均一に被覆しており、このため正極合剤層中において十分な導電パスが形成されたからであると推定される。また、反応抵抗Rctが低減した理由としては、正極活物質の表面をカーボンナノチューブが均一に被覆することで、電子供給が良好となり、反応サイト数が増加して、単位面積当たりの電流量が減少(電流密度が低下)したためであると推定される。また、電極面積が増加して電極表面における電荷移動反応が促進されることも反応抵抗が低下したことに寄与していると推定される。
【0069】
実施例1~実施例3、及び比較例3~7にかかるサンプルに対して、電池の放電レート特性を評価した。図8に、実施例1~実施例3、及び比較例3~7にかかるサンプルの放電レート特性を示す。なお、放電レート特性の評価には、充放電制御装置(東洋システム製、TOSCAT3200)を使用した。
【0070】
図8の表では、0.2Cの放電容量を100%とした場合の各サンプルにおける放電レートを示している。つまり、この値が高いほど、放電レート特性が良好であることを示している。また、図8の表では、電流値が1C~3Cの場合の放電レート特性を示している。ここで電流値が「1C」とは、電池を1時間で満充電できる電流値である。また、電流値が「2C」とは、電池を0.5時間(30分)で満充電できる電流値である。すなわち、電流値は1C<2C<3Cの関係になる。
【0071】
図8の表に示すように、電流値が1Cの場合は、実施例1~実施例3、及び比較例3~7にかかるサンプルにおいて放電レート特性が高い値を示した。一方、電流値が2C、3Cになるにつれて、各々のサンプルにおいて放電レート特性が低下した。このとき、比較例3~7にかかるサンプルでは、実施例1~実施例3にかかるサンプルと比べて、放電レート特性の低下が大きかった。換言すると、電流値が2C、3Cの場合は、実施例1~実施例3にかかるサンプルの放電レートは、比較例3~7にかかるサンプルの放電レートと比べて高い値を示した。特に、電流値が3Cの場合は、実施例と比較例とで放電レート特性の差が大きくなった。この理由は、正極合剤層中の抵抗値(直流抵抗、反応抵抗)が低下したためであると推察される。
【0072】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 正極
10 正極集電体
11 正極合剤層
12 正極活物質
13 導電材
14 バインダー
15 正極ペースト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9