(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】抗原特異的T細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220225BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220225BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220225BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220225BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220225BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220225BHJP
A61K 47/66 20170101ALI20220225BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C07K16/46
C07K16/28
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17 Z
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K47/66
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019553936
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 CN2018081084
(87)【国際公開番号】W WO2018177371
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-11-27
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511180112
【氏名又は名称】タイペイ・メディカル・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】TAIPEI MEDICAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】チャン、クォシャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、イジュウ
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ミカエル
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/204966(WO,A1)
【文献】特表2014-529402(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102250245(CN,A)
【文献】特表2004-538331(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104592391(CN,A)
【文献】特表2016-525551(JP,A)
【文献】特表2008-502588(JP,A)
【文献】Thakur A., 'Activated T cells from umbilical cord blood armed with anti-CD3 x anti-CD20 bispecific antibody mediate specific cytotoxicity against CD20+ targets with minimal allogeneic reactivity: a strategy for providing antitumor effects after cord blood transplants.',Transfusion, 2012, vol. 52, no. 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5/00-5/28
C12N15/00-15/90
C07K16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体(BsAb)によりT細胞への末梢血単核細胞(PBMC)の分化及び/又は増殖を誘導する方法であって、
前記PBMCを前記BsAbと共に培地中で培養することで、前記PBMCをT細胞に分化させることを含み、
前記BsAbは、
抗腫瘍抗原scFv及び抗CD3 Fabを含み、前記抗腫瘍抗原scFvは、配列番号69、77、84、90、96、102、108、114又は120のアミノ酸配列からなり、前記抗CD3 Fabは、抗CD3 VL-Ckドメイン及び抗CD3 VH-CH1ドメインからなり、前記抗CD3 VL-Ckドメインは、配列番号67のアミノ酸配列からなり、前記抗CD3 VH-CH1ドメインは、配列番号68のアミノ酸配列からなる、方法。
【請求項2】
前記培地は、IL2、IL7、TGF-β又はそれらの組み合わせからなる群より選択されるサイトカインをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地は、IL2、IL7及びTGF-βの組み合わせを含み、
前記方法によって形成されたT細胞は、制御性T細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法によって調製されるT細胞。
【請求項5】
抗腫瘍抗原scFv及び抗CD3 Fabを含む二重特異性抗体であって、
前記抗腫瘍抗原scFvは、配列番号69、77、84、90、96、102、108、114又は120のアミノ酸配列からなり、前記抗CD3 Fabは、抗CD3 VL-Ckドメイン及び抗CD3 VH-CH1ドメインからなり、前記抗CD3 VL-Ckドメインは、配列番号67のアミノ酸配列からなり、前記抗CD3 VH-CH1ドメインは、配列番号68のアミノ酸配列からなる、二重特異性抗体。
【請求項6】
がんに罹患している被験体を治療するための医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、請求項4に記載のT細胞又は請求項5に記載のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞を含む、がんに罹患している被験体を治療する医薬組成物。
【請求項7】
前記マウスOKT3 T細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)をマウスOKT3モノクローナル抗体と共に培地中で培養することにより調製される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記請求項4に記載のT細胞又は前記修飾されたマウスOKT3 T細胞は、請求項5に記載のBsAbによって修飾され、
前記修飾は、前記請求項4に記載のT細胞又は前記修飾されたマウスOKT3 T細胞を請求項5に記載のBsAbの存在下で培地中で培養することにより行われる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記培地は、Il-2、IL-7及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるサイトカインをさらに含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記培地は、抗CD28抗体をさらに含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記がんは、EGFR
+、PSMA
+又はPD-L1
+がんである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記がんは、膀胱がん、胆道がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸癌、大腸癌、食道がん、上皮がん、胃がん、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠腫、リンパ系の造血器腫瘍、肝がん、非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、肺がん、リンパ腫、腸がん、黒色腫、骨髄性白血病、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、卵巣がん、腎細胞がん、脾臓がん、扁平上皮がん、甲状腺がん又は甲状腺濾胞がんである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記乳がんは、トリプルネガティブ乳がんである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項4に記載のT細胞又は請求項5に記載のBsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞、及び請求項5に記載のBsAbを含む、医薬品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年3月19日に出願された米国出願第62/478,280号の優先権を主張し、内容が参照により全て本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、がんの治療に関する。具体的には、本開示は、抗原特異的T細胞及びがんの成長及び転移を抑制するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
T細胞は、希少な細胞集団であり、末梢血において、5-10%のCD4+T細胞のみが見られる。T細胞の増殖は、サイトカイン(例えば、IL-2、IL-4、及びIL-5)の刺激及び抗CD28抗体により促進され得る。しかし、増殖のレベルは、臨床応用、例えば、活性化されたT細胞の数を増加させてヒトに戻す応用(例えば、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法)には十分ではない。
【0004】
T細胞を活性化する又はT細胞の分化を誘導する1つの方法は、抗CD3抗体を使用してCD3によって媒介されるシグナル伝達経路を活性化することである。今まで、CD3抗原複合体を介したヒトT細胞の活性化は、マウス抗ヒトIgG2a抗ヒト(OKT3)モノクローナル抗体を使用して行われた。このようなT細胞の活性化は、コンカナバリンA(Con A)と同等のマイトジェン応答を誘導することにより引き起こされる。しかし、非ヒト由来モノクローナル抗体(例えば、マウスOKT3 Ab)の主な懸念の1つは、レシピエントに対する免疫原性であり、場合によっては危険なアレルギー反応を引き起こす恐れがある。マウスOKT3 Abによって活性化されたヒトT細胞は、表面にマウスタンパク質断片が必然的に存在し、これにより、レシピエントに潜在的な脅威を与える。
【0005】
上記の状況に鑑みて、当分野において、マウスOKT3抗体を代替可能な免疫原性の低い抗体、及びマウスOKT3抗体を使用せずにヒトT細胞を活性化する改良した方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、本開示のBsAbによって分化、増殖したT細胞、及びがんの治療におけるその使用を提供する。
【0007】
したがって、本開示の第1の態様は、T細胞の分化及び/又は増殖を誘導する方法を提供する。各T細胞は、その表面に抗腫瘍抗原部分及び抗CD3部分を有する。この方法は、末梢血単核細胞(PBMC)と二重特異性抗体(BsAb)とを培地中で培養することで、PBMCをT細胞に分化させることを含む。各BsAbは、T細胞の抗腫瘍抗原部分に対応する腫瘍抗原結合部位及びT細胞の抗CD3部分に対応するCD3結合部位を含み、かつBsAbは、マウスOKT3抗体ではない。
【0008】
本開示の実施形態によれば、各BsAbは、一本鎖可変断片(scFv)、抗原結合断片(Fab)、F(ab')2又はIgGの構造を有する。
【0009】
本開示の実施形態によれば、各BsAbの腫瘍抗原結合部位は、上皮成長因子受容体(EGFR)、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、又は前立腺特異的膜抗原(PSMA)のいずれかに結合する。
【0010】
本開示の任意の実施形態によれば、上記培地は、IL2、TGF-β及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるサイトカインをさらに含み得る。好ましい実施形態において、上記培地は、IL2及びTGF-βの両方を含み、このように形成したT細胞は、制御性T細胞である。
【0011】
本開示の実施形態によれば、各BsAbにおいて、腫瘍抗原結合部位は、配列番号69、77、84、90、96、102、108、114又は120のいずれかと少なくとも90%の同一性を有する腫瘍抗原scFvを含み、CD3結合部位は、配列番号67と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 VL-Ckドメイン及び配列番号68と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 VH-CH1ドメインを含む。
【0012】
本開示の実施形態によれば、各BsAbにおいて、腫瘍抗原結合部位は、配列番号70、78、85、91、97、109又は121のいずれかと少なくとも90%の同一性を有する抗腫瘍抗原scFvを含み、CD3結合部位は、配列番号66又は79と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 scFvを含む。
【0013】
本開示の実施形態によれば、各BsAbにおいて、腫瘍抗原結合部位は、配列番号64、75、82、88、94、100、106、112又は118と少なくとも90%の同一性を有する抗腫瘍抗原VL-Ckドメイン、及び配列番号65、76、83、89、95、101、107、113又は119と少なくとも90%の同一性を有する抗腫瘍抗原VH-CH1ドメインを含み、CD3結合部位は、配列番号66又は79と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 scFvを含む。
【0014】
本開示の実施形態によれば、各BsAbにおいて、腫瘍抗原結合部位は、配列番号73、80、86、92、98、104、110、116又は122と少なくとも90%の同一性を有する抗腫瘍抗原VL-Ckドメイン、及び配列番号74、81、87、93、99、105、111、117又は123と少なくとも90%の同一性を有する抗腫瘍抗原VH-CH1-Fcドメインを含み、CD3結合部位は、配列番号71と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 VL-Ckドメイン、及び配列番号72と少なくとも90%の同一性を有する抗CD3 VH-CH1-Fcドメインを含む。
【0015】
実際には、本発明の方法により調製された抗原特異的T細胞を上述したヒト化BsAbと混合した混合物をがんの治療を必要とする被験体に投与することができる。
【0016】
したがって、本開示の第3の態様は、がんを治療するための医薬品キットを提供する。上記医薬品キットは、本発明の方法に従って分化、増殖されたT細胞、及び本開示のヒト化BsAbを含む。
【0017】
本開示の第4の態様は、がんに罹患している被験体を治療する方法を提供する。この方法は、有効量の上記方法により調製されたT細胞又は有効量の本発明のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞を被験体に投与するステップを含む。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、マウスOKT3 T細胞は、培地中で本発明のBsAbと共に培養されることにより、その表面に本開示のBsAbを備えるように修飾される。さらに、必要に応じて、上記培地は、IL-2、IL-7及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるサイトカインをさらに含み得る。
【0019】
好ましくは、本開示のT細胞は、1x104から1x107細胞/Kg(被験体の体重)の量で被験体に投与される。投与量は、単回用量又は複数回のより少ない用量で投与することができる。
【0020】
がん、好ましくはEGFR、PSMA又はPD-L1の発現が陽性であるがんは、本発明の方法によって治療可能である。本発明の方法によって治療可能ながんの例は、膀胱がん、胆道がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸癌、大腸癌、食道がん、上皮がん、胃がん、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠腫、リンパ系の造血器腫瘍、肝がん、非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、肺がん、リンパ腫、腸がん、黒色腫、骨髄性白血病、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、卵巣がん、腎細胞がん、脾臓がん、扁平上皮がん、甲状腺がん及び甲状腺濾胞がんを含むがこれらに限定されない。
【0021】
本開示の特定の実施形態によれば、上記がんは、トリプルネガティブ乳がんである。本開示の別の特定の実施形態によれば、上記がんは、悪性膵臓がんである。
【0022】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の付随する説明に記載される。本発明の他の特徴及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面を参照してよりよく理解されるであろう。
【0024】
【
図1】本開示のBsAbの構造の概略図である。
図1(A)は、抗抗原Fab/抗CD3 scFvである。
図1(B)は、抗CD3 Fab/抗抗原scFvである。
図1(C)は、抗CD3 scFv/抗抗原scFvである。
図1(D)は、抗抗原ノブ(knob)/抗CD3ホール(hole)である。
【
図2A】本開示のBsAbを用いてワンステップ増殖、分化及び/又は修飾により調製された抗原特異的T細胞を使用して被験体を治療する概略図である。
【
図2B】本開示のBsAbを用いてワンステップ修飾により調製されたマウスOKT3 T細胞を使用して被験体を治療する概略図である。
【
図3】本開示のBsAbを発現するためのDNA構築物の概略図である。
【
図4】実施例1.2のBsAbの非還元条件(左側)及び還元条件(右側)でのSDS-PAGE分析の結果を示す。
【
図5】実施例1.2のBsAbのフローサイトメトリー分析を示す。
【
図6】本開示の実施例2のマウスOKT3抗体及びBsAbにより誘導されたT細胞の分化及び増殖を示す。
【
図7】本開示の一実施形態に係る増殖したT細胞の表面上の抗抗原断片のフローサイトメトリー分析である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る、前立腺がん細胞株LNCaPに対するマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図9】本開示の一実施形態に係る、腫瘍細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞の結合を示す写真である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る、種々のエフェクター細胞:標的化細胞(E/T比)でそれぞれマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞から分泌されたサイトカインのレベルを示す棒グラフである。
【
図11】本開示の一実施形態に係る、種々のE/T比でのLNCaP細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2のBsAbでさらに修飾された実施例2のT細胞の細胞毒性分析を示す線グラフである。
【
図12】本開示の一実施形態に係る、種々のE/T比でのそれぞれマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2のBsAbでさらに修飾された実施例2のT細胞から分泌されたサイトカインのレベルを示す棒グラフである。
【
図13】本開示の一実施形態に係る、悪性膵臓細胞株MIA PaCa-2及びトリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞株MDA-MB-231に対する、マウスOKT3 T細胞、実施例2のT細胞又は抗CD3 Fab/抗PD-L1scFv BsAbでさらに修飾された実施例2のT細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図14A】本開示の一実施形態に係る、MIA PaCa-2細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図14B】本開示の一実施形態に係る、MDA-MB-231細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図15】本開示の一実施形態に係る、T細胞表面に残った実施例1.2のBsAbの残存量の時間経過を示す。
【
図16】本開示の一実施形態に係る、前立腺がん細胞株LNCaPに対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2のBsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図17】本開示の一実施形態に係る、それぞれマウスOKT3 T細胞及び実施例1のBsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞から分泌されたサイトカインのレベルを示す棒グラフである。
【
図18】本開示の一実施形態に係る、前立腺腫瘍細胞(LNCaP細胞)に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2のBsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図19A】本開示の一実施形態に係る、HT29細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図19B】本開示の一実施形態に係る、それぞれマウスOKT3 T細胞及び実施例1の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞から分泌されたサイトカインのレベルを示す棒グラフである。
【
図20】本開示の一実施形態に係る、HT29細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図21A】本開示の一実施形態に係る、LNCaP細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図21B】本開示の一実施形態に係る、それぞれマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞から分泌されたサイトカインのレベルを示す棒グラフである。
【
図22】本開示の一実施形態に係る、LNCaP細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図23】本開示の一実施形態に係る、悪性膵臓細胞株MIA PaCa-2及びトリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞株MDA-MB-231に対する、マウスOKT3 T細胞及び抗CD3 Fab/抗PD-L1scFv BsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞の細胞毒性分析を示す。
【
図24A】本開示の一実施形態に係る、MIA PaCa-2細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図24B】本開示の一実施形態に係る、MDA-MB-231細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞のそれぞれの結合を示す写真である。
【
図25】本開示の一実施形態に係る、修飾OKT3 T細胞又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理された動物の定量化された蛍光強度を示す。
【
図26】本開示の一実施形態に係る、試験動物の異なる器官における修飾OKT3 T細胞又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞の分布様式を示す。
【
図27A】本開示の一実施形態に係る、実施例1.2のBsAb、マウスOKT3 T細胞、又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理された腫瘍のサイズ変化を示す線グラフである。
【
図27B】本開示の一実施形態に係る、実施例1.2のBsAb、マウスOKT3 T細胞、又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理された試験動物の体重変化を示す線グラフである。
【
図27C】本開示の一実施形態に係る、実施例1.2のBsAb、マウスOKT3 T細胞、又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理された腫瘍の重量を示す。
【
図28】本開示の一実施形態に係る、実施例1.2のBsAb、マウスOKT3 T細胞、又は実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理された腫瘍の免疫組織化学(IHC)染色及びH&E染色の写真である。
【
図29A】本開示の一実施形態に係る、マウスOKT3、及び抗PSMA Fab/抗CD3 scFv又は抗PSMA scFv/抗CD3 scFvによって分化したT細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図29B】本開示の一実施形態に係る、それぞれマウスOKT3、及び抗CD3 Fab/抗PSMA scFv又は抗PSMA scFv/抗CD3 scFvによって分化したT細胞の増殖を示す。
【
図30】本開示の一実施形態に係る、OKT3 T細胞、又は抗CD3 Fab/抗PSMA scFv若しくは抗PSMA scFv/抗CD3 scFvを有するT細胞に備える2種類の抗体断片のフローサイトメトリー分析を示す。
【
図31】本開示の一実施形態に係る、LNCaP細胞に対するマウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞のそれぞれの細胞毒性を示す。
【
図32】本開示の一実施形態に係る、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv BsAb及び抗PSMA scFv/抗CD3 scFvによるCD4
+FoxP3
+制御性T細胞の誘導を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明として意図されており、本実施例を構築又は利用できる唯一の形態を表すことを意図していない。この明細書では、実施例の機能と、実施例を構築及び操作するための一連の手順について説明する。ただし、同じ又は同等の機能及び手順は、異なる例で実現できる。
【0026】
I.定義
本明細書において、用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片(望ましい生物学的活性を示し、即ち、タンパク質及び/又は他の分子の複雑な混合物中の標的抗原を優先的に認識してこの抗原に特異的に結合する限り)を含む。
【0027】
本明細書において、用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、特定の方法による抗体の調製を必要とするものとして構築されるべきではない。ポリクローナル抗体は、典型的に異なるエピトープに向けられる異なる抗体を含むのに対して、各モノクローナル抗体は、それぞれ抗原上の単一の決定基(即ち、エピトープ)に向けられる。本開示のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法又は組換えDNA法によって調製され得る。本明細書のモノクローナル抗体には、具体的に「キメラ」抗体又は「組換え」抗体が含まれる。重鎖及び/又は軽鎖の一部は、特定の種に由来する抗体、又は抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は同種であり、重鎖及び/又は軽鎖の残りの部分は、他の種に由来する抗体、他の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体、又はこれらの抗体の断片(望ましい生物学的活性を示す限り)における対応する配列と同一又は同種である。
【0028】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は、超可変領域残基が、所望の特異性、親和性を有するマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種由来の超可変領域残基によって置換されている、ヒト免疫グロブリンである。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。一般には、ヒト化抗体は、少なくとも1つ(典型的には2つ)の可変ドメインを実質的にすべて含み、FR領域のすべて又は実質的にすべてはヒト免疫グロブリン配列である。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を任意に含んでもよい。
【0029】
用語「二重特異性抗体(BsAb)」とは、少なくとも2つの異なる抗原に対する特異性を有する抗体を指す。好ましい実施形態において、本開示のBsAbは、2つの抗原結合部位を有し、1つが腫瘍抗原(例えば、EGFR、PD-L1、HER2、PSMAなど)に向けられ、もう1つがT細胞受容体(例えば、CD3)に向けられる。
【0030】
用語「リンカー」及び「ペプチドリンカー」は、本開示において互換的に使用され、2つのポリペプチドを接続するための天然又は合成アミノ酸残基を有するペプチドを指す。例えば、ペプチドリンカーは、VHとVLを結合して一本鎖可変断片(例えば、scFv)を形成するか、又はscFvを完全長抗体に接続して本開示のBsAbを形成するために用いられ得る。好ましくは、上記リンカーは、長さが少なくとも5アミノ酸残基(例えば、5~100アミノ酸残基、好ましくは、10~30アミノ酸残基)のペプチドである。scFvにおけるリンカーは、長さが少なくとも5アミノ酸残基、好ましくは15~20アミノ酸残基のペプチドである。好ましくは、上記リンカーは、(GnS)mの配列を含み、ここで、Gがグリシンであり、Sがセリンであり、n及びmがそれぞれ独立して1~4である。一実施例において、上記リンカーは、(G2S)4の配列を含む。他の実施例において、上記リンカーは、(G4S)3の配列を含む。
【0031】
用語「がん」及び「腫瘍」は、本開示において互換的に使用され、好ましくは、典型的には、細胞増殖が制御されないことを特徴とする哺乳動物、特にヒトの生理学的状態を指す。この点で、がんには、転移がん及び/又は薬剤耐性がんが含まれる。がんは、好ましくは、αvβ3、α5β1、癌胎児性抗原(CEA)、細胞毒性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4)、CD3、CD19、CD20、CD30、CD50、CIAX、cMuc1、ED-B、上皮成長因子受容体(EGFR)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、エリスロポエチン産生肝細胞A3(EPHA3)、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)、gpA33、Globo-H、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、HER3、インスリン様成長因子1受容体(IGF1R)、OC183B2、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Ley、MET、腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72)、テネイシン、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、VEGFR-2,及び/又はVEGFR-3の発現レベルの増加を示すがんである。したがって、本開示によって治療可能ながん又は腫瘍は、乳房がん、肺がん、結腸がん、結腸直腸がん、脾臓がん、腎臓がん、肝臓がん、膀胱がん、頭頸部がん、卵巣がん、前立腺がん、脳がん、膵臓がん、皮膚がん、骨がん、血液がん、胸腺がん、子宮がん、精巣がん、子宮頸部及びニューロンである。より具体的には、上記がんは、膀胱がん、胆道がん、骨がん、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸癌、大腸癌、食道がん、上皮がん、胃がん、消化管間質腫瘍(GIST)、神経膠腫、リンパ系の造血器腫瘍、肝がん、非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、白血病、肺がん、リンパ腫、腸がん、黒色腫、骨髄性白血病、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、卵巣がん、腎細胞がん、脾臓がん、扁平上皮がん、甲状腺がん又は甲状腺濾胞がんからなる群より選択される。一実施例において、上記がんは、悪性膵臓がんである。他の実施例において、上記がんは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)である。
【0032】
本明細書において、用語「有効量」とは、がんの治療に関して所望の治療結果を達成するために、必要な投与量で、かつ必要な期間に有効な量を指す。
【0033】
用語「投与される」、「投与する」又は「投与」は、本明細書において互換的に使用され、本開示のBsAb、本開示のBsAbにより分化及び増殖したT細胞、又はそれらの組み合わせのいずれかを直接投与することを意味する。
【0034】
用語「被験体」又は「患者」とは、本開示の組成物及び/又は方法で治療可能なヒト種を含む動物を指す。用語「被験体」又は「患者」は、性別が特に示されていない限り、男性と女性の両方の性別を指すことを意図している。また、用語「被験体」又は「患者」は、がんの治療から利益を得る可能性のある哺乳動物を含む。用語「被験体」又は「患者」の例は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及びニワトリを含むが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、上記患者は、ヒトである。
【0035】
本明細書では、用語「同一」又は「パーセント同一性」とは、最も一致するように比較及び整列された場合、2以上の配列又はサブ配列が同じであるか、又は特定の割合のアミノ酸残基が同じであることを意味する。パーセント同一性を決定するために、配列は最適な比較目的のために整列される(例えば、ギャップは、第2アミノ酸配列との最適な整列のために、第1アミノ酸配列の配列に隙間を導入することができる)。次に、対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基が比較される。第1配列の位置が第2配列の対応する位置と同じアミノ酸残基で占められている場合、分子はその位置で同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、配列によって共有される同一の位置の数の関数である(即ち、%同一性=同一位置の数/位置の総数(例えば、重なり位置)×100)。特定の実施形態において、2つの配列は、長さが同じである。
【0036】
本明細書では、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈からそうでないことが明確に示されていない限り、複数の指示対象を含むように使用される。
【0037】
II.発明の説明
本開示の第1の態様は、抗原特異的T細胞、特に、本開示の組替え二重特異性抗体(BsAb)によって活性化(又は誘導分化)されたT細胞を提供する。これらのT細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)から変換された表面に特異的抗腫瘍抗原及び抗CD3断片を保持するT細胞である。これによって、このような抗原特異的T細胞は、腫瘍細胞(悪性腫瘍細胞及びトリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞を含む)により強く結合することで、腫瘍細胞の成長及び転移を抑制することができる。
【0038】
1.本開示のBsAb
抗体は、IgG、IgA、IgE、IgM、及びIgDを含むタンパク質の免疫グロブリンクラスに属する。血清中に見られる最も豊富な免疫グロブリンはIgGである。IgGは、4本の鎖(2本の軽鎖及び2本の重鎖)を有し、各軽鎖は2つのドメインを有し、各重鎖は4つのドメインを有する。抗原結合部位は、可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)ドメイン、並びに定常軽鎖(CL)及び定常重鎖(CH1)ドメインを含む断片抗原結合(Fab)領域に位置する。重鎖のCH2及びCH3ドメイン領域は、結晶化可能断片(Fc)領域と呼ばれる。従って、完全長抗体重鎖は、N末端からC末端の方向でVH、CH1、ヒンジ領域(HR)、CH2及びCH3から構成されるポリペプチド(VH-CH1-HR-CH2-CH3と略される)である。完全長抗体軽鎖は、N末端からC末端の方向でVL及びCLから構成されるポリペプチド(VL-CLと略される)である。ここで、CLは、κ(カッパ)又はλ(ラムダ)であり得る。IgGは、2本の重鎖を有するヘテロ四量体であると考えられている。上記2本の重鎖は、CLドメインとCH1ドメインの間、及び2本の重鎖のヒンジ領域の間にあるジスルフィド結合(-S-S-)を介して結合される。
【0039】
上記「定義」に記載のように、BsAbは、異なる抗原に対して特異性を有するAbを指す。したがって、本開示のBsAbは、2つの異なる抗原(腫瘍抗原及びCD3抗原)と結合可能な配列を含むように設計された組換えAbである。したがって、本開示の各BsAbは、抗腫瘍抗原配列及び抗CD3配列を含む。本開示において、異なる組換えBsAbは、開発され、BsAbの抗原に対応する表面部分に持つ抗原特異的T細胞への単核細胞の分化及び/又は増殖を誘導するために使用される。
【0040】
図1は、本開示で適用されるBsAbsの概略構造を示す。
【0041】
いくつかの実施形態において、本開示のBsAbは、単量体の二価二重特異性抗体である。このBsAbにおいて、腫瘍抗原(即ち、抗腫瘍抗原Fab)に対するVH-CH1ドメイン及び軽鎖VL-Ckは、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)から構成される抗CD3 scFv(scFv)(VH-VLと略される)に融合される(
図1A)。他の実施形態において、上記単量体の二価BsAbは、構造的には、CD3に対するVH-CH1ドメイン及び軽鎖VL-Ckから構成される抗CD3 Fabを含む。上記抗CD3 Fabは、ペプチドリンカーを介して腫瘍抗原に対するscFvに融合される(
図1B)。他の実施形態において、本開示の単量体の二価BsAbは、抗腫瘍抗原scFv及び抗CD3 scFvから構成され、2つの上記scFvは、ペプチドリンカーを介して結合される(
図1C)。別の実施形態において、本開示のBsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール(knob into hole)」の構造を有し、第1重鎖のCH3ドメインにおけるノブは、いくつかのアミノ酸側鎖を代替的なアミノ酸側鎖で置換することにより形成され、第2重鎖のCH3ドメインにある対応位置におけるホールは、適切なアミノ酸側鎖を代替的なアミノ酸側鎖で置換することにより形成される。「ノブ・イントゥ・ホール」BsAb構造の模式図を
図1Dに示す。ノブ・イン・ホール技術は、当業者に周知であり、本開示のBsAbの形成に容易に適用することができる。
【0042】
本発明のBsAbをコードするDNAは、既知の抗体に由来し、それらの遺伝子をクローン化し、融合することにより、所望のヒト化BsAbのDNA構築物を形成する。詳細な調製方法は実施例に記載される。
【0043】
このようにして、T細胞のCD3及び腫瘍抗原と結合するための結合部位を有する組換えBsAbは形成される。上記腫瘍抗原は、PSMA、EGFR、PD-L1、CEA、FAP、EpCAM、HER2及びVCAM-1からなる群より選択される。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、抗PSMA/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗PSMA/抗CD3 BsAbは、配列番号65のVH-CH1ドメイン及び配列番号64のVL-Ckドメインを含むPSMA結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗PSMA/抗CD3 BsAbは、配列番号69の抗PSMA scFvを含むPSMA結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗PSMA/抗CD3 BsAbは、配列番号70の抗PSMA scFvを含むPSMA結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗PSMA/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有し、そのCD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、PSMA結合部位は、配列番号73のVL-Ckホールドメイン及び配列番号74のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0045】
いくつかの実施形態によれば、抗EGFR/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗EGFR/抗CD3 BsAbは、配列番号75のVH-CH1ドメイン及び配列番号76のVL-Ckドメインを含むEGFR結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗EGFR/抗CD3 BsAbは、配列番号77の抗EGFR scFvを含むEGFR結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位とを含む。別の実施例において、抗EGFR/抗CD3 BsAbは、配列番号78の抗EGFR scFvを含むEGFR結合部位、並びに配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、EGFR/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有し、そのCD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、EGFR結合部位は、配列番号80のVL-Ckホールドメイン及び配列番号81のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0046】
いくつかの実施形態によれば、抗PD-L1/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗PD-L1/抗CD3 BsAbは、配列番号83のVH-CH1ドメイン及び配列番号82のVL-Ckドメインを含むPD-L1結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗PD-L1/抗CD3 BsAbは、配列番号84の抗PD-L1 scFvを含むPD-L1結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗PD-L1/抗CD3 BsAbは、配列番号85の抗PD-L1 scFvを含むPD-L1結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗PD-L1/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、PD-L1結合部位は、配列番号86のVL-Ckホールドメイン及び配列番号87のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0047】
いくつかの実施形態によれば、抗HER2/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗HER2/抗CD3 BsAbは、配列番号89のVH-CH1ドメイン及び配列番号88のVL-Ckドメインを含むHER2結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗HER2/抗CD3 BsAbは、配列番号90の抗HER2 scFvを含むHER2結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗HER2/抗CD3 BsAbは、配列番号91の抗HER2 scFvを含むHER2結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗HER2/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、HER2結合部位は、配列番号92のVL-Ckホールドメイン及び配列番号93のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0048】
いくつかの実施形態によれば、抗FAP/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗FAP/抗CD3 BsAbは、配列番号95のVH-CH1ドメイン及び配列番号94のVL-Ckドメインを含むFAP結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗FAP/抗CD3 BsAbは、配列番号96の抗FAP scFvを含むFAP結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗FAP/抗CD3 BsAbは、配列番号97の抗FAP scFvを含むFAP結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗FAP/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、FAP結合部位は、配列番号98のVL-Ckホールドメイン及び配列番号99のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0049】
いくつかの実施形態によれば、抗EpCAM MOC31/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗EpCAM MOC31/抗CD3 BsAbは、配列番号101のVH-CH1ドメイン及び配列番号100のVL-Ckドメインを含むEpCAM MOC31結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗EpCAM MOC31/抗CD3 BsAbは、配列番号102の抗EpCAM MOC31 scFvを含むEpCAM MOC31結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗EpCAM MOC31/抗CD3 BsAbは、配列番号103の抗EpCAM MOC31 scFvを含むEpCAM MOC31結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗EpCAM MOC31/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、EpCAM MOC31結合部位は、配列番号104のVL-Ckホールドメイン及び配列番号105のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0050】
いくつかの実施形態によれば、抗EpCAM MT201/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗EpCAM MT201/抗CD3 BsAbは、配列番号107のVH-CH1ドメイン及び配列番号106のVL-Ckドメインを含むEpCAM MT201結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗EpCAM MT201/抗CD3 BsAbは、配列番号108の抗EpCAM MT201 scFvを含むEpCAM MT201結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗EpCAM MT201/抗CD3 BsAbは、配列番号109の抗EpCAM MT201 scFvを含むEpCAM MT201結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗EpCAM MT201/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、EpCAM MT201結合部位は、配列番号110のVL-Ckホールドメイン及び配列番号111のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0051】
いくつかの実施形態によれば、抗CEA/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗CEA/抗CD3 BsAbは、配列番号113のVH-CH1ドメイン及び配列番号112のVL-Ckドメインを含むCEA結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗CEA/抗CD3 BsAbは、配列番号114の抗CEA scFvを含むCEA結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗CEA/抗CD3 BsAbは、配列番号115の抗CEA scFvを含むCEA結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗CEA/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、CEA結合部位は、配列番号116のVL-Ckホールドメイン及び配列番号117のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0052】
いくつかの実施形態によれば、抗VCAM1/抗CD3 BsAbは調製される。一実施例において、抗VCAM1/抗CD3 BsAbは、配列番号119のVH-CH1ドメイン及び配列番号118のVL-Ckドメインを含むVCAM1結合部位、並びに配列番号66の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。他の実施例において、抗VCAM1/抗CD3 BsAbは、配列番号120の抗VCAM1 scFvを含むVCAM1結合部位、並びに配列番号68のVH-CH1ドメイン及び配列番号67のVL-Ckドメインを含むCD3結合部位を有する。別の実施例において、抗VCAM1/抗CD3 BsAbは、配列番号121の抗VCAM1 scFvを含むVCAM1結合部位、及び配列番号79の抗CD3 scFvを含むCD3結合部位を有する。さらなる実施例において、抗VCAM1/抗CD3 BsAbは、「ノブ・イントゥ・ホール」構造を有する。この構造において、CD3結合部位は、配列番号71のVL-Ckノブドメイン及び配列番号72のVH-CH1ノブドメインを含み、VCAM1結合部位は、配列番号122のVL-Ckホールドメイン及び配列番号123のVH1-CH1ホールドメインを含む。
【0053】
本開示のさらなる実施形態によれば、ヒト化OKT3抗CD3 VH及びCLは調製される。これらの配列(表39~42)は、本開示に記載の関連する抗腫瘍抗原配列と融合して、所望のBsAbを形成することができる。
【0054】
2.本発明のBsAbによる抗原特異的T細胞の活性化
本開示のBsAbは、本開示の抗原特異的T細胞への単核細胞(例えば、末梢血単核細胞)の分化及び増殖の誘導に用いられる。したがって、本開示の一態様は、表面に抗腫瘍抗原部分及び抗CD3部分を含む抗原特異的T細胞の調製に関する。
【0055】
したがって、本開示は、T細胞の分化及び/又は増殖を誘導するための方法を含む。この方法は、被験体から採取された末梢血単核細胞(PBMC)を本開示の二重特異性抗体(BsAb)と共に培地に培養することにより、PBMCをT細胞に分化させ、このように分化したT細胞を増殖させることを含む。各BsAbは、各T細胞上の抗腫瘍抗原部分に対応する腫瘍抗原結合部位、及び各T細胞上の抗CD3部分に対応するCD3結合部位を含み、且つBsAbは、マウスOKT3抗体ではない。
【0056】
PBMCは、当業者に知られている任意の方法(例えば、等密度遠心分離(Ficoll-Paque))を使用して、被験体の新鮮な血液から分離され得る。これは、血液中の異なる成分は、密度が異なるので、それに基づいて分離できるためである。
【0057】
T細胞の分化及び増殖を達成するために、分離されたPBMCを本開示の任意のBsAbと共に正常培地中で十分な時間(例えば、少なくとも7日間、例えば、7、8、9、10、11、12、13及び14日間、好ましくは少なくとも14日間)培養する。いくつかの実施形態において、7日間の培養後、CD3+ T細胞の数が増える。他の実施形態において、引き続き14日間培養してCD3+ T細胞の数は3倍増加する。さらに、必要に応じて、培地は、サイトカイン、例えば、IL-2、IL-7及びそれらの組み合わせを含み得る。
【0058】
本開示の実施形態によれば、調製されたT細胞は、それぞれの表面にBsAbの抗腫瘍抗原に対応する抗腫瘍抗原部分、及びBsAbの抗CD3に対応する抗CD3部分を含む。いくつかの実施例において、調製されたT細胞は、それぞれの表面に抗PSMA及び抗CD3部分を含む。他の実施例において、調製されたT細胞は、それぞれの表面に抗EGFR及び抗CD3部分を含む。別の実施例において、調製されたT細胞は、それぞれの表面に抗PD-L1及び抗CD3部分を含む。
【0059】
本開示のさらなる実施形態によれば、PBMCを本開示のBsAbと共に少なくとも7日間培養することにより、末梢由来制御性T細胞が調製される。T細胞の表面に細胞マーカーFoxP3が現れる。この場合には、培地は、サイトカイン、IL-2に加えて、抗CD 28抗体をさらに含む。
【0060】
本開示の実施形態によれば、本開示の抗原特異的T細胞(末梢由来制御性T細胞を含む)は、腫瘍細胞に対するより強い結合親和性を示すだけではなく、より高いレベルのサイトカイン(IL-2、IFN-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリンを含むが、これらに限定されない)を産生する。したがって、これらのT細胞は、マウスOKT3 Abによって活性化されたT細胞と比較して、腫瘍細胞(悪性がん細胞及びTNBC細胞を含む)に対してより高いレベルの細胞毒性を示す。
【0061】
3.がんの治療方法
3.1 抗原特異的T細胞を用いるがんの治療
本開示の他の態様は、がんの治療方法を提供する。この方法では、セクション2で説明した抗原特異的T細胞を使用し、有効量のT細胞そのもの又はBsAbでさらに修飾されたT細胞をがんに罹患している被験体に投与することにより、がん細胞の成長を抑制又は阻害する。
【0062】
図2Aは、本発明の方法の概略図である。被験体の新鮮な血液からPBMCを分離した後、ワンステップ増殖及び分化により処理することにより、分化したT細胞に、それぞれBsAbの抗腫瘍抗原及び抗CD3に対応する部分を備えさせる。具体的には、ワンステップ増殖及び分化処理は、PBMCを本開示のBsAbと共に培地中で、十分な数の所望のT細胞が産生されるまで、少なくとも7日間、より好ましくは少なくとも14日間培養することを含む。さらに、必要に応じて、産生された抗原特異的T細胞をBsAbによってさらに修飾してもよい。この場合には、本発明の抗原特異的T細胞を本開示のBsAbと共にインキュベートする。このようなステップは、「ワンステップ増殖、分化及び修飾」と呼ばれ、
図2Aに示される。
【0063】
いくつかの実施形態において、有効量の抗原特異的T細胞(即ち、BsAbでさらに修飾されていない)を被験体に直接投与してがんを治療する。他の実施形態において、有効量のBsAbでさらに修飾された抗原特異的T細胞を被験体に投与してがんを治療する。
【0064】
被験体に投与されるT細胞の量は、約1x104から1x107細胞/Kg(被験体の体重)である。特定の実施形態において、被験体に投与されるT細胞の量は、約1x105から1x106細胞/Kg(被験体の体重)である。投与量は、単回用量又は複数回のより少ない用量で投与することができる。
【0065】
3.2 本発明のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞を用いるがんの治療
いくつかの実施形態において、セクション2で上述した抗原特異的T細胞の代わりに、本開示のBsAbでさらに修飾されたマウスOKT3 T細胞(即ち、マウスOKT3 AbでPBMCを活性化させることで得られたT細胞)を使用してがんを治療する。
図2Bは、マウスOKT3 T細胞を本開示のBsAbで修飾してから被験体に投与する以外、
図2Aと同様である。
図2Aと同様に、修飾は、マウスOKT3 T細胞を本開示のBsAbと共に培養することにより達成され、これによって、マウスOKT3 T細胞にBsAbの抗腫瘍抗原及び抗CD3を備えさせる。
【0066】
本開示の実施形態によれば、少なくとも500ng(例えば、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、及び3,000ng)の本開示のBsAbは、所望の本開示のBsAbの抗腫瘍抗原がT細胞の表面に発現されるようにマウスOKT3 T細胞(例えば、3x105個の細胞)を修飾するのに十分である。いくつかの実施例において、マウスOKT3 T細胞を本開示の抗PSMA/抗CD3 BsAbでさらに修飾する。さらなる実施例において、本開示の抗PSMA/抗CD3 BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のマウスOKT3 T細胞と比較して、レベルがより高いサイトカイン(IL-2、IFN-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリンを含むが、これらに限定されない)を産生することができる。従って、これらの修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のマウスOKT3 T細胞と比較して腫瘍細胞(悪性がん細胞及びTNBC細胞)に対してより高いレベルの細胞毒性を示す。
【0067】
本開示のBsAb、抗原特異的T細胞、及び修飾されたマウスOKT3 T細胞は、BsAb又はT細胞を所望の作用部位に効果的に送達可能な経路(例えば、経口、経鼻、経肺、経皮(例えば、受動的又はイオン導入送達);又は非経口、例えば、直腸、デポ、皮下、静脈内、筋肉内、鼻腔内、小脳内、点眼液又は軟膏)により哺乳動物、好ましくはヒトに投与され得る。理解され得るように、選択されたがん治療薬、投与経路、並びに患者体内で所望の応答を誘発するBsAb、T細胞及び/又はそれらの組み合わせの能力だけではなく、緩和しようとする疾患の病状又は重症度、年齢、性別、患者の体重、患者の状態、治療されている病的状態の重症度、患者に施される併用薬物治療及び特別食などの要因、並びに当業者に知られている他の要因のため、本開示の投与量は、患者ごとに異なり、担当医の裁量で決定される。投与計画は、治療反応を改善するために調整されてもよい。治療的有効量は、がん治療薬の毒性又は有害作用よりも治療上有益な効果を上回る量でもある。好ましくは、BsAb、T細胞又はそれらの組み合わせは、がん細胞の成長が抑制されるような投与量で一定の時間投与される。
【0068】
本発明は、限定ではなく実証の目的で提供される以下の実施形態を参照して、より具体的に説明される。
【0069】
実施例
材料及び方法
【0070】
細胞及び動物
本開示において、ヒトTリンパ球細胞株Jurkat T細胞(CD3+)、ヒト前立腺腺がん細胞株LNCaP(PSMA+/PD-L1+)、ヒト結腸腺がん細胞株HT-29(EGFR+)、悪性膵臓細胞株MIA PaCa-2(PD-L1+)、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞株MDA-MB-231(EGFR+/PD-L1+)、及びExpi293細胞が使用された。
【0071】
一般には、37℃、5%CO2でHT-29、MIA PaCa-2及びMDA-MB-231細胞を、10%ウシ胎児血清(HyClone, Logan, UT)、100U/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシンをサプリメントとして含有するダルベッコ改変イーグル培地(Sigma, St Louis, MO, USA)中で増殖させた。Jurkat T及びLNCaP細胞を同じサプリメントを含有するRPMI-1640中で培養した。37℃、5%CO2でExpi293細胞をExpi293TM発現培地中で維持した。
【0072】
SCIDマウス(6-8週齢)は、国立実験動物センター(Taipei, Taiwan)から入手した。すべての動物実験は、規程に従って行われ、台北医科大学(Taipei, Taiwan)の実験動物施設及び病理コア委員会(Pathology Core Committee)によって承認された。
【0073】
組換えBsAbの調製
本開示のBsAbの調製では、抗腫瘍抗原(例えば、抗PSMA、抗EGFR、抗PD-L1など)及び抗CD3をコードする核酸を、全遺伝子合成により他のDNA配列(例えば、シグナルペプチド、IRES、リンカーなど)に移植して融合することで所望の構造物を得た。
【0074】
次いで、調製されたDNA構築物を37℃、8%CO2で培養することによりExpi293細胞(7.5x107細胞/25.5mL;トランスフェクションのために30μgの核酸を添加)中で増幅させた。6日後に培地を収集し、Ni-アフィニティークロマトグラフィーにより収集された培地からBsAbを精製した。PierceTM BCA Protein Assay kitを使用して濃度を確定した。
【0075】
ヒト化OKT3 VH及びVLの調製
相補性決定領域(CDR)を移植するためのヒトフレームワーク配列を選択するために、本発明者らは、IgBLASTプログラムによりOKT3のVH及びVL配列と、国立生物工学情報センターのデータベースにおけるヒト生殖細胞系列の免疫グロブリンの可変領域及び結合領域の配列とを比較した。IGHV1-46^03/IGHJ4は、OKT3 VHの可変/結合領域と最も相同性が高く、IGKV1-39^01/IgKJ4は、OKT3 VLの可変/結合領域と最も相同性が高いことが分かった。ヒト化OKT3 VHを構築するために、Kabatらの基準(Sequences of Proteins of Immunological Interest. 5th ed. Bethesda, MD: U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health; 1991:103-511)に従ってCDRを決定し、同様にOKT3 VHの2つの残基(Thr71及びLys73)をIGHV1-46^03/IGHJ4に移植した。ヒト化OKT3 VLを構築するために、 Kabatらの基準に従ってCDRを決定し、同様にOKT3 VLの1つの残基(Tyr71)をIGKV1-39^01/IgKJ4に移植した。全遺伝子合成によりヒト化OKT3 VH及びVLセグメントを構築した。
【0076】
精製BsAbの分析
BsAbを還元又は非還元条件下で10% SDS-PAGEゲルで電気泳動した後、クーマシーブルーで染色した。
【0077】
T細胞の分化
CD8+ T細胞
健康被験体の血液から分離された末梢血単核細胞(PBMC)又はナイーブCD8+ T細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、2x106細胞/mLの濃度でAIM-V培地に再懸濁させた。次いで、懸濁細胞をBsAb(1-1,000ng/mL)及びヒト化IL-2(3,000IU/mL)と共に37℃、5%CO2下で所定時間培養した。それぞれ7日目及び14日目に一部のT細胞を収集し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0078】
CD4+ T細胞
CD4+ T細胞の分化は、PBMCを1x106細胞/mLの濃度でAIM-V培地に再懸濁させ、BsAb(1-1,000 ng/mL)、ヒト化IL-2(2,000IU/mL)及びIL-7(20IU/mL)の存在下で培養する以外、CD8+ T細胞の分化と同様であった。
【0079】
制御性T細胞
制御性T細胞の分化は、PBMC又はナイーブCD4 T細胞を1x106細胞/mLの濃度でAIM-V培地に再懸濁させ、BsAb(1-1,000ng/mL)、抗CD28抗体(100ng/mL)、ヒト化IL-2(2,000IU/mL)及びD-マンノース(25mM)の存在下で培養する以外、CD8+ T細胞の分化と同様であった。
【0080】
フローサイトメーター分析
腫瘍特異的抗原の認識及び/又は標的化
BsAb(1μg/mL)をLNCaP(PSMA+/PD-L1+)、HT-29(EGFR+)、MDA-MB-231(EGFR+/PD-L1+)、MIA PaCa-2(PD-L1+)又はJurkat(CD3+)細胞(3x105細胞)と共に4℃で60分間インキュベートした後、マウス抗ヒスチジン抗体(1μg/mL)及びFITC標識ヤギF(ab)2抗マウス免疫グロブリン二次抗体(1μg/mL)と共に4℃で培養した。FACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, Mountain View, CA, USA)により蛍光を測定し、Flowjo(Tree Star Inc., San Carlos, CA, USA)により分析した。
【0081】
T細胞分化
分化したT細胞(3x105細胞)をFITC標識結合抗ヒトCD3抗体(1μg/mL)、FITC標識結合抗ヒトCD4抗体(1μg/mL)、FITC標識結合抗ヒトCD8抗体(1μg/mL)又はPE結合抗ヒトFoxP3抗体と4℃で混合した。冷PBSで洗浄した後、FACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, Mountain View, CA, USA)により生細胞の蛍光を測定し、Flowjo(Tree Star Inc., San Carlos, CA, USA)により分析した。
【0082】
T細胞の表面に残ったBsAbの量
T細胞又は実施例1のBsAbを備えるT細胞(3x105細胞)を20%FCSを含有する培地中で培養し、それぞれ0、24、48及び72時間目に収集した。PBSで洗浄した後、収集されたT細胞をマウス抗ヒスチジン抗体(1μg/mL)及びFITC標識ヤギF(ab)2抗マウス免疫グロブリン二次抗体(1 μg/mL)と4℃で混合した。FACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, Mountain View, CA, USA)により生細胞の蛍光を測定し、Flowjo(Tree Star Inc., San Carlos, CA, USA)により分析した。
【0083】
細胞毒性アッセイ
腫瘍細胞(104細胞/ウェル)を96ウェルプレートに接種し、37℃、5%CO2で24時間培養した。次いで、分化したT細胞(例えば、実施例2のT細胞)又はOKT3 T細胞を3:1、5:1又は10:1のE/T比で腫瘍細胞に加え、16時間引き続き培養した。次いで、細胞を収集し、CytoTox96(登録商標)非放射性細胞毒性キットにより上清を分析して各分化したT細胞の細胞毒性を評価した。
【0084】
ELISA
市販のELISAキットにより製造業者の説明に従って分化したT細胞から分泌されたIL-2、INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリンのレベルを測定した。簡単に言えば、実施例2のT細胞又はOKT3 T細胞で処理された腫瘍細胞の上清を集取し、96ウェル(100μL/ウェル)に接種し、36℃のインキュベータ中で1.5時間インキュベートした。洗浄緩衝液で洗浄した後、抗体(100μL/ウェル)を加え、混合物をインキュベータに戻し、36℃で引き続き1時間インキュベートした。洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(100μL/ウェル)を加え、さらに30分間インキュベートした。洗浄した後、テトラメチルベンジジン(TMB)(100μL/ウェル)を加え、暗所で混合物を36℃で15分間インキュベートした。次いで、停止液(100μL/ウェル)を加え、マイクロプレートリーダーで各ウェルの吸光度(405nm)を測定した。
【0085】
EGFR+腫瘍を持つSCIDマウスの生体内イメージング
SCIDマウスの背部にそれぞれHT-29(EGFR+)細胞(2x106細胞/100μL)を注射して腫瘍の形成を誘導した。腫瘍をサイズが約80-100mm3になるまで14-17日間成長させた後、抗EGFR/抗CD3 BsAbでさらに修飾されたNIR797標識OKT3 T細胞(107細胞)を動物に静脈内注射した。注射後の4時間目及び24時間目に、それぞれIVISスペクトル光学イメージングシステム(励起波長:745nm、放射波長:840nm;Perkin- Elmer, Inc., MA, USA)によりペントバルビタールで麻酔したマウスを撮影した。マウスを安楽死させた後、腫瘍及び器官(心臓、肺、腎臓、肝臓、胃、筋肉、骨、ボウル、腸、膵臓及び血液を含む)を回収し、IVISスペクトル光学イメージングシステムにより分析した。
【0086】
EGFR+腫瘍を持つSCIDマウスの治療
SCIDマウスの背部にそれぞれHT-29(EGFR+)細胞(2x106細胞/100μL)を注射して腫瘍の形成を誘導した。腫瘍をサイズが約30-50mm3になるまで10-14日間成長させた後、抗EGFR/抗CD3 BsAbでさらに修飾されたNIR797標識T細胞(107細胞/マウス)を動物に静脈内注射した。治療期間中に、各マウスに対して体重及び腫瘍のサイズ(長さx幅x高さx1/2)を週に2回測定した。マウスを安楽死させた後、腫瘍を解剖し、H&E染色又は抗CD3 Abによる免疫染色により分析した。
【0087】
統計分析
【0088】
ノンパラメトリックMann-Whitney検定を使用してJMP 9.0ソフトウェア(SAS Institute,Inc.,Cary,NC)で平均値間の差の統計的有意性を推定した。細胞毒性アッセイ及び生体内毒性アッセイにおけるP値<0.05、及び治療におけるP値<0.01は、統計的に有意であると考えられる。
【0089】
実施例1:ヒト化抗腫瘍/抗CD3抗体の調製及び特性評価
1.1抗腫瘍/抗CD3 BsAbの調製
本実施例において、
図3に示されるDNA構築物を用いてそれぞれ
図1に示される構造を有する組換えヒト化二重特異性Abを調製した。抗腫瘍Fab/抗CD3 scFv BsAbである場合、構築物は順にIgGシグナルペプチド(LS)、抗腫瘍VL-CK(例えば、抗EGFR VL-CK)、内部リボソーム進入部位(IRES)、抗腫瘍VH-CH1(例えば、抗EGFR VH-CH1)、リンカーペプチド(L)、及び抗CD3 VH-VLを含む(
図3(A))。抗CD3 Fab/抗腫瘍scFv BsAbである場合、構築物は順にLS、抗CD3 VL-CK、IRES、LS、抗CD3 VH-CH1、リンカーペプチド(L)、及び抗腫瘍VH-VLを含む(
図3(B))。抗腫瘍scFv/抗CD3 scFv BsAbである場合、構築物は順にLS、抗腫瘍VL-VH、リンカーペプチド(L)、及び抗CD3 VH-VLを含む(
図3(C))。抗CD3ノブ/抗腫瘍ホールBsAbである場合、抗CD3ノブ構築物は順にLS、抗CD3 VL-CK、IRES、LS及び抗CD3 VH-CH1-ノブFcを含み、抗腫瘍ホール構築物は順にLS、抗腫瘍VL-CK、IRES、LS及び抗腫瘍VH-CH1-ホールFcを含む。(
図3(D))。
【0090】
従って、抗CD3、抗腫瘍抗原(即ち、抗PSMA、抗EGFR、抗PD-L1、抗HER2、抗FAP、抗EpCAM(MOC31)、抗EpCAM(MO201)、抗CEA、及び抗VCAM-1)を含むBsAbを調製した。本発明のBsAbの成分、それぞれの核酸及びアミノ酸配列を表1から36に示す。BsAbは、Expi-293TM発現システムにより調製され、各BsAbの収率は100mg/L以上であり、組み立て精度は95%以上であった。
【0091】
表1:抗PSMA Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0092】
表2:抗CD3 Fab/抗PSMA scFv BsAbの成分及び配列
【0093】
表3:抗PSMA scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0094】
表4:抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbの成分及び配列
【0095】
表5:抗EGFR Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0096】
表6:抗CD3 Fab/抗EGFR scFv BsAbの成分及び配列
【0097】
表7:抗EGFR scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0098】
表8:抗CD3ノブ/抗EGFRホールBsAbの成分及び配列
【0099】
表9:抗PD-L1 Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0100】
表10:抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbの成分及び配列
【0101】
表11:抗PD-L1 scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0102】
表12:抗CD3ノブ/抗PD-L1ホールBsAbの成分及び配列
【0103】
表13:抗HER2 Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0104】
表14:抗CD3 Fab/抗HER2 scFv BsAbの成分及び配列
【0105】
表15:抗HER2 scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0106】
表16:抗CD3ノブ/抗HER2ホールBsAbの成分及び配列
【0107】
表17:抗FAP Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0108】
表18:抗CD3 Fab/抗FAP scFv BsAbの成分及び配列
【0109】
表19:抗FAP scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0110】
表20:抗CD3ノブ/抗FAPホールBsAbの成分及び配列
【0111】
表21:抗EpCAM MOC31 Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0112】
表22:抗CD3 Fab/抗EpCAM MOC31 scFv BsAbの成分及び配列
【0113】
表23:抗EpCAM MOC31 scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0114】
表24:抗CD3ノブ/抗EpCAM MOC31ホールBsAbの成分及び配列
【0115】
表25:抗EpCAM MT201 Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0116】
表26:抗CD3 Fab/抗EpCAM MT201 scFv BsAbの成分及び配列
【0117】
表27:抗EpCAM MT201 scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0118】
表28:抗CD3ノブ/抗EpCAM MT201ホールBsAbの成分及び配列
【0119】
表29:抗CEA Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0120】
表30:抗CD3 Fab/抗CEA scFv BsAbの成分及び配列
【0121】
表31:抗CEA scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0122】
表32:抗CD3ノブ/抗CEAホールBsAbの成分及び配列
【0123】
表33:抗VCAM1 Fab/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0124】
表34:抗CD3 Fab/抗VCAM1 scFv BsAbの成分及び配列
【0125】
表35:抗VCAM1 scFv/抗CD3 scFv BsAbの成分及び配列
【0126】
表36:抗CD3ノブ/抗VCAM1ホールBsAbの成分及び配列
【0127】
1.2抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv、及び抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbの特性評価
図4は、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗EGFR Fab/抗CD3 scFv及び抗CD3Fab/抗PD-L1scFv BsAbのSDS-PAGE分析を示す。これらは、還元条件下で約95kDaのFab断片から構成され流。一方、非還元条件下で170kDaの抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAb及び50kDaの抗PSMAscFv/抗CD3 scFvがそれぞれ観察された。SDS PAGEには、陽性対照として抗EGFR抗体であるアービタックスを含んだ。
【0128】
本実施例において、フローサイトメトリーによりBsAbの二機能活性を調べた。結果を
図3に示す。
【0129】
抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv及び抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbは、それぞれCD3陽性T細胞(即ち、Jurkat T細胞)及びPSMA陽性前立腺がん細胞(即ち、LNCaP細胞)に結合可能である。抗EGFR Fab/抗CD3 scFvは、EGFR陽性がん細胞(即ち、HT29細胞)を特異的に認識可能である。抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvは、CD3陽性T細胞(即ち、Jurkat T細胞)及びPD-L1陽性前立腺がん細胞(即ち、LNCaP細胞)を特異的に認識可能である。
図5のデータから、実施例1の抗体は、異なる2種類の抗原を有することが確認された。
【0130】
1.3ヒト化OKT3抗腫瘍/抗CD3 BsAbの調製
本実施例において、「材料及び方法」セクションに記載の手順に従って組換えヒト化OKT3 VH及びVL配列を調製した。ヒト化OKT3 VH、VLアミノ酸配列及びそれぞれのCDRは表37及び38に提供される。
【0131】
表37:ヒト化OKT3 VH及びそのCDRのアミノ酸配列
【0132】
表38:ヒト化OKT3 VL及びそのCDRのアミノ酸配列
【0133】
ヒト化OKT3 VH及びVL配列を表1から36に記載の抗腫瘍配列に融合することにより、所望のヒト化OKT3抗腫瘍/抗CD3 BsAbを構築することができる。抗腫瘍Fab/抗CD3 scFvを構築するためのヒト化OKT3 抗CD3 scFvの配列は、表39に提供される。抗CD3 Fab/抗腫瘍scFvを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 VL-Ck及びVH-CH1の配列は、表40に提供される。抗腫瘍scFv/抗CD3 scFvを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 scFvの配列は、表41に提供される。抗CD3ノブ/抗腫瘍ホールを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 VLノブ及びVHノブの配列は、表42に提供される。
【0134】
表39:抗腫瘍Fab/抗CD3 scFvを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 scFvの配列
【0135】
表40:抗CD3 Fab/抗腫瘍scFvを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 VL-Ck及びVH-CH1の配列
【0136】
表41:抗腫瘍scFv/抗CD3 scFvを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 scFvの配列
【0137】
表42:抗CD3ノブ/抗腫瘍ホールを構築するためのヒト化OKT3抗CD3 VLノブ及びVHノブの配列
【0138】
実施例2:実施例1のBsAbによって分化したCD3
+/CD8
+細胞の増殖及び特性評価
実施例1のBsAbを備えるT細胞を調製するために、健康被験体の血液から末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、サイトカインIL2、マウスモノクローナル抗体OKT3又はサイトカインIL2、及びの実施例1.2のBsAb(即ち、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv、及び抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAb)を含有する培地中で培養することで分化させた。培養された細胞をそれぞれ7日目及び14日目に収集し、FITC結合抗CD3、抗CD4及び抗CD8抗体を用いてフローサイトメーターにより分析した。定量結果を表43及び
図6にまとめる。
【0139】
表43におけるデータは、実施例1.2のヒトBsAbがCD3
+/CD8
+細胞へのPBMCの分化の誘導においてマウスOKT3と同程度に有効であることを示している。さらに、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv BsAbで誘導された細胞以外、実施例1.2のBsAbで誘導されたCD3
+細胞群は、培養の7日後に80%を超え、14日後に90%を超え、18後にCD3
+/CD
8+細胞の総数は約4-5倍になった(
図6)。
【0140】
表43:実施例1.2のOKT3又はBsAbによるCD3
+/CD
8+細胞へのPBMCの分化の誘導
分化したT細胞に実施例1.2のBsAbを備えているか否かを確認するために、増殖したT細胞の表面上にある抗抗原断片(例えば、抗PSMA及び抗CD3)をFITC結合ヤギ抗ヒトFab抗体を用いてフローサイトメーターで分析した。結果を
図7に示す。
【0141】
図72におけるデータにより、実施例1.2のBsAbと共に14日間培養されたPBMCは、表面に実施例1.2のBsAbの抗PSMA断片を備えることにより、PSMA特異的T細胞への分化に成功したことが確認された。
【0142】
実施例3:がん細胞に対する実施例2のT細胞の影響
3.1実施例2のT細胞の細胞毒性の影響
それぞれマウスOKT3及び実施例1.2のBsAbによって分化したCD3
+/CD8
+T細胞のLNCaP(PSMA
+)細胞におけるがん細胞死滅効果を、CytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega, G1780)を用いて製造業者の説明に従って評価した。結果を表44及び
図8に示す。
【0143】
3:1、5:1、10:1のE/T比(標的化細胞に対するエフェクター細胞の比)で、約8.4%、11.6%、及び19.3%のLNCaP細胞は、それぞれマウスOKT3で修飾されたCD3
+/CD8
+ T細胞によって死滅することが発見された。約65%、87%及び97%のLNCaP細胞は、同じE/T比で抗PSMAFab/抗CD3scFv BsAbを備えるT細胞によって死滅した。同様の改善された細胞毒性の効果は、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv、及び抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbを備えるT細胞においても見られた(
図8)。
【0144】
撮影分析から分かるように、腫瘍細胞と接触すると、かなりの実施例2のT細胞(又は実施例1の抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv若しくは抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbを備えるT細胞)はLNCaP細胞の表面に特異的に結合するのに対して、マウスOKT3によって分化したT細胞は、8時間のインキュベーション後でもほとんど結合していなかった(
図9)。
【0145】
表44:それぞれマウスOKT3及び実施例1.2のBsAbによって分化したT細胞の細胞毒性の影響
3.2 実施例2のT細胞のがん細胞死滅効果の特性評価
実施例2のT細胞(又は実施例1のBsAbを備えるCD3
+/CD8
+ T細胞)の細胞死滅効果をさらに分析するために、これらのT細胞から分泌されたサイトカインを収集し、ELSAにより分析した結果、IL-2、INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリンのレベルは、マウスOKT3によって分化したT細胞よりも顕著に高いことを示した(
図10)。
【0146】
3.3 実施例1.2のBsAbでさらに修飾された実施例2のT細胞によるがん細胞死滅効果の増強
本実施例において、実施例1.2のBsAbを3:1、5:1及び10:1のE/TE/T比で実施例2のT細胞の培地に加え、18時間インキュベートした後、混合物をPSMA
+がん細胞(即ち、LNCaP細胞)に加えた。がん細胞死滅効果を実施例3.1と同様に細胞毒性アッセイにより評価し、LNCaP細胞から採取された上清におけるサイトカインのレベルをELSAにより分析した。結果を
図11及び12に示す。
【0147】
図11に示すように、実施例1.2のBsAbでさらに修飾された実施例2のT細胞は、はるかに高い細胞死滅効果を示し、0:1のE/TE/T比で死滅効果が90%以上である一方、マウスOKT3によって分化したT細胞は、同じE/TE/T比でわずか約20%のレベルであった。予想通り、各サイトカイン(IL-2、INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリン)のレベルも対照群(即ち、マウスOKT3によって分化したT細胞)よりもはるかに高かった(
図12)。
【0148】
3.4 悪性膵臓がん又はトリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する実施例1の抗CD3/抗PD-L1 BsAbを備えるT細胞の影響
悪性膵臓がん及びトリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、死亡率が高く、治癒可能性が極めて限られている。本実施例において、悪性膵臓細胞株MIA PaCa-2及びTNBC細胞株MDA-MB-231を用いて、これら2つの悪名高いがんに対する実施例1.2の抗CD3/抗PD-L1 BsAbを備えるT細胞の影響を調べた。
【0149】
悪性膵臓がん細胞において、実施例1.2の抗CD3/抗PD-L1 BsAbを備えるT細胞は、対照T細胞(即ち、マウスOKT3によって分化したT細胞)と比較して、はるかに高い細胞毒性効果を示した。このT細胞が実施例1.2の抗CD3/抗PD-L1 BsAbでさらに修飾された場合、死滅効果はさらに増強された。実施例1.2の抗CD3/抗PD-L1 BsAbを備えるT細胞のがん死滅効果は、TNBC細胞においてより顕著であり、3:1の低いE/T比であってもほぼ100%の死滅効果を示した。それに対して、T細胞は、同じE/T比でたった10%の死滅効果を示した(
図13)。
【0150】
撮影分析から分かるように、マウスOKT3によって分化したT細胞は、ほとんどMIA PaCa-2及びMDA-MB-231細胞に結合していない。実施例1.2の抗CD3/抗PD-L1 BsAbでさらに修飾されたT細胞とインキュベートした後、かなりのMIA PaCa-2及びMDA-MB-231細胞はアポトーシスになった(
図14A、14B)。
【0151】
3.5 T細胞の表面に残ったBsAbの量に対する時間の影響
実施例1.2の抗PSMA/抗CD3 BsAbを血清と共に異なる期間(即ち、0、24、48及び72時間)インキュベートした後、フローサイトメトリー分析によりT細胞の表面に残ったBsAbの残存量を評価した。結果を
図15に示す。
【0152】
T細胞の表面上のBsAbの量は、時間の経過とともに減少し、4つタイプ又は構造のBsAbのうち、抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbは、分解による影響が最も少なく、72時間後にも約47%のBsAbがT細胞の表面に残っていた一方、T細胞の表面に残った抗PSMA scFv/抗CD3 scFvのレベルは15%に減少した。
【0153】
実施例4:実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞の影響
実施例1から4の発見の通り、マウスOKT3によって分化したT細胞は、がん細胞に対する低結合親和性及び低サイトカイン分泌レベルのため、がん死滅効果において実施例2のT細胞(即ち、実施例1のBsAbが運ばれたT細胞)ほど効果的ではなかった。従って、本実施例において、マウスOKT3 T細胞を実施例1.2のBsAbと共にインキュベートすることで修飾した後、がん細胞に対する細胞毒性効果を評価した。
【0154】
4.1 実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞
マウスOKT3 T細胞を修飾するために、約3x105のマウスOKT3 T細胞を異なる量(8、24、120、600及び3,000ng)の実施例1.2の抗PSMA/抗CD3 BsAbと混合した後、フローサイトメトリーにより分析した。結果は、実施例1.2のBsAbをマウスOKT3 T細胞の表面に被覆するのに、約600ngの実施例1.2のBsAbが十分であることを示した(データは示していない)。
【0155】
4.2 PSMA
+細胞に対する実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞の影響
予想通り、実施例1のBsAb(抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv及び抗CD3ノブ/抗PSMAホール)で修飾されたマウスOKT3によって分化したT細胞は、修飾される前と比較して、LNCaP細胞(PSMA
+)に対するがん細胞死滅能力が顕著に増強された。E/T比が10:1である場合、抗PSMA Fab/抗CD3 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、ほぼ100%の細胞死滅効果を示した(
図16)。実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞から分泌されたサイトカイン(IL-2、INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリン)のレベルは、未修飾の対照T細胞と比較して顕著に増加した(
図17)。
【0156】
撮影分析から分かるように、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv、抗PSMA scFv/抗CD3 scFv又は抗CD3ノブ/抗PSMAホールBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のOKT3 T細胞と比較して、LNCaP細胞の表面により特異的に結合する(
図18)。
【0157】
4.3 EGFR+細胞に対する実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞の影響
本実施例において、マウスOKT3 T細胞を実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFv BsAbで修飾した後、分析によりそのEGFR+がん細胞(即ち、HT29細胞)の死滅能力を調べた。
【0158】
実施例5.1の発見結果と同様に、実施例1.2の抗EGFR Fab/抗CD3 scFv BsAbで修飾された後、マウスOKT3 T細胞は、強化された細胞毒性効果(10:1のE/T比で約50%の細胞死滅効果)(
図19A)、及び向上したサイトカイン(INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリン)のレベル(
図19B)を示した。
【0159】
撮影分析から分かるように、抗EGFR Fab/抗CD3 scFv BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のOKT3 T細胞と比較して、HT29細胞の表面により特異的に結合する(
図20)。
【0160】
4.4 PD-L1+細胞に対する実施例1.2のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞の影響
本実施例において、マウスOKT3 T細胞を実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾した後、分析によりPD-L1+がん細胞(即ち、LNCaP細胞)の死滅能力を評価した。
【0161】
実施例5.1及び5.2の発見結果と同様に、実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾された後、マウスOKT3 T細胞は、強化された細胞毒性効果(10:1のE/T比で約92%の細胞死滅効果)(
図21A)、及び向上したサイトカイン(INF-γ、TNF-α、グランザイムB及びパーフォリン)のレベル(
図21B)を示した。
【0162】
撮影分析から分かるように、抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のOKT3 T細胞と比較して、LNCaP細胞の表面により特異的に結合する(
図22)。
【0163】
4.5 悪性膵臓がん細胞及びTNBC細胞に対する実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFvで修飾されたマウスOKT3 T細胞の影響
本実施例において、実施例3.4と同様の手順に従って、悪性膵臓がん細胞株MIA PaCa-2(PD-L1+細胞)及びTNBC細胞(MDA-MB-231細胞)を用いて実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞のがん死滅効果を調べた。
【0164】
悪性膵臓がん細胞において、実施例1の抗CD3Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、対照T細胞(即ち、未修飾のマウスOKT3 T細胞)と比較して、はるかに高い細胞毒性効果(約40%のがん細胞が死滅した)を示した。TNBC細胞において、がん死滅効果はより高くなり、3:1の低いE/T比でもほぼ80%のがん細胞が死滅した。それに対し、対照T細胞は、同じ比でわずか20~30%の死滅効果を示した(
図23)。
【0165】
撮影分析から分かるように、抗CD3 Fab/抗PD-L1 scFv BsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、未修飾のOKT3 T細胞と比較して、MIA PaCa-2細胞(
図24A)及びMDA-MB-231細胞の表面に特異的に結合し(
図24B)、これによって、がん細胞のアポトーシスが増強された。
【0166】
実施例5:実施例1のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞の生体内影響
実施例1のBsAbがマウスOKT3 T細胞の標的化効果を改善できるか否かを研究するために、マウスOKT3 T細胞を実施例1.2の抗EGFR/抗CD3 BsAbで修飾すると同時に、蛍光指示薬NIR797で標識した。次いで、修飾及び標識されたマウスOKT3 T細胞をIV注射により異種EGFR
+腫瘍(HT29細胞)を有するSCIDマウスに注射し、IVISイメージングシステムを用いて4時間目及び24時間目にライブ写真を撮った。24時間後に動物を安楽死させ、腫瘍自体及び器官(心臓、肺、腎臓、脾臓、肝臓、胃、筋肉、骨、大腸、小腸、膵臓、血液)を回収し、IVISイメージングシステムにより分析した。結果を
図25及び26に示す。
【0167】
図25の写真は、未修飾のマウスOKT3 T細胞で処理した動物と比較して、修飾されたOKT3 T細胞で処理した動物体内の蛍光強度が主に腫瘍部位に集中していることを示した。この結果から明らかであるように、実施例1のBsAbで修飾されたマウスOKT3 T細胞は、確かに腫瘍を標的としており、これによって、腫瘍部位での蛍光強度が増強した。
さらに、修飾されたT細胞は、EGFR
+腫瘍自体に集中している以外、生体内の分布様式が正常な健康動物と同様であった(
図26)。
【0168】
さらに、修飾されたマウスOKT3 T細胞で処理した後、腫瘍のサイズ及び重量は顕著に抑制され(
図27A及び
図27C)、動物の体重は25日間の治療の間にわずかに減少した(
図27B)。
【0169】
動物から採取された腫瘍を免疫組織化学(IHC)染色及びH&E染色によりさらに分析した。結果を
図28に示す。マウスOKT3 T細胞は、主に腫瘍の隣接領域に集中していることが観察された。
【0170】
実施例6:実施例2のT細胞と実施例4の修飾されたマウスOKT3細胞の比較的研究
本実施例において、実施例1.2のBsAb(即ち、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv及び抗PSMA scFv/抗CD3 scFv)及びマウスOKT3で誘導されたT細胞の分化及び増殖を比較した。結果を
図29から32に示す。
【0171】
図29Aに示すように、実施例1.2のBsAb(即ち、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv及び抗PSMA scFv/抗CD3 scFv)及びマウスOKT3は、いずれもCD3
+細胞へのPBMCの分化を誘導することができ、且つ95%以上の細胞をCD3
+細胞に分化させた。CD4
+ T細胞へのPBMCの分化においては、実施例1.2のBsAb(即ち、抗PSMA Fab/抗CD3 scFv及び抗PSMA scFv/抗CD3 scFv)は、マウスOKT3よりも効果的であった。具体的には、実施例1.2のBsAbで処理した後、90%以上のPBMCがCD4
+細胞に分化したのに対して、マウスOKT3で処理した後、約75%のPBMCのみがCD4
+細胞に分化した。さらに、実施例1.2のBsAbで誘導されたT細胞の増殖比もマウスOKT3で誘導されたT細胞よりも高かった(
図29B)。フローサイトメトリー分析により、マウスOKT3 Abで誘導されたT細胞と同様に、OKT3 T細胞の表面に現れることが確認された。実施例1.2のBsAbのそれぞれに運ばれる2種類の抗体断片は、実施例1.2のBsAbで誘導されたT細胞の表面にも現れた(
図30)。
【0172】
マウスOKT3 T細胞及び実施例2のT細胞の細胞毒性についての研究は、
図31に提供される。示されるように、OKT3 T細胞は、PSMA
+細胞(LNCaP細胞)を死滅させることができないのに対して、実施例2のT細胞(又は実施例1のBsAbで誘導されたT細胞)は、少なくとも50%の細胞毒性を示し、実施例1.2のBsAbでさらに修飾されると、T細胞の細胞毒性は、さらに向上する。例えば、抗CD3 Fab/抗PSMA scFvによって分化したT細胞の細胞毒性は、E/T比が5:1及び10:1である場合、それぞれ51.32%及び60.97%であり、抗CD3 Fab/抗PSMA scFvでさらに修飾されることで、E/T比が5:1及び10:1である場合、細胞毒性は、約78.15%及び81.75%に高くなった。同様の観察は、抗PSMA scFv/抗CD3 scFvによって誘導されたT細胞においてもが見られた。
【0173】
実施例7:実施例1.2のBsAbによる制御性T細胞のワンステップ分化、増殖
本実施例において、実施例1.2のBsAbを用いて制御性T細胞を誘導して形成した。簡単に言えば、健康被験体の血液からPBMCを分離し、実施例1.2の抗CD3 Fab/抗PSMA scFv又は抗PSMA scFv/抗CD3 scFvと共に7日間培養し、必要に応じて培地にはIL2、TGF-β及び抗CD28抗体も含まれた。次いで、分化したT細胞を回収してフローサイトメトリーにより分析した。結果を
図32に示す。
【0174】
上記のデータは、抗CD3 Fab/抗PSMA scFv BsAb及び抗PSMA scFv/抗CD3 scFvは、それぞれ約19.3%(
図32A)及び7.2%(
図32B)のCD4
+FoxP3
+制御性T細胞の形成を誘導できることを示している。
【0175】
実施形態の上記の説明が単なる例として与えられており、当業者によって様々な変更がなされ得ることが理解されるだろう。上記の明細書、実施例及びデータは、本発明の例示的な実施形態の構造及び使用の完全な説明を提供する。本発明の様々な実施形態が、ある程度具体的に、又は1又は複数の個々の実施形態を参照して、上述されているが、当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、開示された実施形態に多数の変更を行うことができる。
【配列表】