(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】疾患および障害の治療方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220225BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220225BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220225BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220225BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61K45/00
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020078745
(22)【出願日】2020-04-28
(62)【分割の表示】P 2017538342の分割
【原出願日】2016-01-20
【審査請求日】2020-05-27
(32)【優先日】2015-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510140663
【氏名又は名称】ランケナー インスティテュート フォー メディカル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、サニル
(72)【発明者】
【氏名】マリン、ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】プレンダーガスト、ジョージ、シー.
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06048702(US,A)
【文献】Dig. Dis. Sci., (2012), 57, [7], p.1813-1821, Author manuscript, available in PMC 2013.06.01
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性障害の治療および/または予防のための医薬組成物であって、抗Bin1抗体またはその抗原結合フラグメントを含
み、前記神経変性障害はタウノパチーであり、および前記抗Bin1抗体またはその抗原結合フラグメントは、Bin1のMyc結合ドメインに免疫学的に特異的である、医薬組成物。
【請求項2】
請求項
1記載の医薬組成物において、前記タウノパチーは、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症症候群、嗜銀顆粒性認知症、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、拳闘家認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、ダウン症候群、前頭側頭認知症、染色体17に連鎖したパーキンソニズム、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、ハレルフォルデン・スパッツ病、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン・ピック病、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン病、ピック病、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、進行性皮質下グリオーシス、進行性核上性麻痺、亜急性硬化性全脳炎、散発性大脳皮質基底核症候群、および神経原線維型老年認知症から選択される、医薬組成物。
【請求項3】
請求項
1記載の医薬組成物において、前記タウノパチーはアルツハイマー病である、医薬組成物。
【請求項4】
請求項
1記載の医薬組成物において、前記抗Bin1抗体は、モノクローナル抗体99Dまたはモノクローナル抗体99Dの抗原結合フラグメントである、医薬組成物。
【請求項5】
請求項1記載の医薬組成物において、前記抗Bin1抗体またはその
抗原結合フラグメントは、キメラ抗体、単鎖可変ドメイン、二重特異性抗体、minibody、Fab、Fab'、F(ab')、およびF(v)、scFv、またはscFv-Fcである、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1記載の医薬組成物において、前記抗Bin1抗体またはその
抗原結合フラグメントは、配列ID番号:2に免疫学的に特異的である、医薬組成物。
【請求項7】
請求項1記載の医薬組成物であって、さらに少なくとも1つの抗炎症薬を含む、医薬組成物。
【請求項8】
神経変性障害の治療のための製剤の製造における抗Bin1抗体またはその抗原結合フラグメントの使用
であって、前記神経変性障害はタウノパチーであり、および前記抗Bin1抗体またはその抗原結合フラグメントは、Bin1のMyc結合ドメインに免疫学的に特異的である、使用。
【請求項9】
請求項
8記載の使用において、前記タウノパチーは、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症症候群、嗜銀顆粒性認知症、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、拳闘家認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、ダウン症候群、前頭側頭認知症、染色体17に連鎖したパーキンソニズム、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、ハレルフォルデン・スパッツ病、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン・ピック病、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン病、ピック病、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、進行性皮質下グリオーシス、進行性核上性麻痺、亜急性硬化性全脳炎、散発性大脳皮質基底核症候群、および神経原線維型老年認知症から選択される、使用。
【請求項10】
請求項
8記載の使用において、前記タウノパチーはアルツハイマー病である、使用。
【請求項11】
請求項
8記載の使用において、前記抗Bin1抗体は、モノクローナル抗体99Dまたはモノクローナル抗体99Dの抗原結合フラグメントである、使用。
【請求項12】
請求項
8記載の使用において、前記抗Bin1抗体またはその
抗原結合フラグメントは、キメラ抗体、単鎖可変ドメイン、二重特異性抗体、minibody、Fab、Fab'、F(ab')、およびF(v)、scFv、またはscFv-Fcである、使用。
【請求項13】
請求項
8記載の使用において、前記抗Bin1抗体またはその
抗原結合フラグメントは、配列ID番号:2に免疫学的に特異的である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願書類は、35 U.S.C.§119(e)のもと、2015年1月20日に提出された米国仮特許出願第62/105,358号の優先権を請求するものである。前述の出願書類は、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は免疫療法の分野に関する。具体的には、本発明は抗Bin1抗体の投与により疾患および障害を治療する新規組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸(結腸)と関連した炎症性腸疾患(IBD)の一形態であり、先進国におけるその頻度は20世紀中頃から増加している(Danese et al.(2011) N. Engl. J. Med., 365:1713-25)。IBDの発症率および有病率が最も高かったのは北欧および北米で、アジアで最も低かった。西洋化した環境および生活様式はIBDの発症と関連しており、喫煙、脂肪および糖分の高い食事、薬物の使用、ストレス、および高い社会経済的状態と関連している。UCの発症率は年間1.2~20.3/100,000人であり、その有病率は年間7.6~246.0/100,000症例である(Danese et al.(2011) N. Engl. J. Med., 365:1713-25)。UC患者は大腸癌を発症する平均リスクがはるかに高い(Eaden et al.(2001) Gut 48:526-35)。大腸癌のリスクは30年のUCで18%の高さである。大腸癌のリスク上昇は、一部、炎症により誘導されるバリア機能の消失のためである。今のところ、USの病原因子は不明である。UCは複雑な多因子疾患と考えられており、自己免疫、改変マイクロバイオーム、粘膜バリアの障害、および粘膜免疫および遺伝的要因はこの疾患において重要な役割を果たすと仮定されてきた(Danese et al.(2011) N. Engl. J. Med., 365:1713-25)。
【0004】
UCは、細胞の密着結合(TJ)に依存する腸バリアの欠損と関連している(Das et al.(2012) Virchows Arch.460:261-70)。TJを向上させ、バリア機能を改善するために標的とすることができる遺伝子およびタンパク質を特定することで、UCの新しい治療戦略が見つかる可能性がある。TJ機能は一般にIBDの疾患修飾因子としての役割を果たす。マウスのTJが損傷しても腸疾患を引き起こすのに十分ではないが、粘膜の免疫反応を誘発し、これが誘発されると免疫介在性大腸炎の発症が加速し、重症度が増す可能性がある(Su et al.(2009) Gastroenterology 136:551-63)。管腔抗原または感染性細菌が間質に入らないようにすることで、TJは無秩序な炎症を阻害する。実際、選択的に腸透過性を決定することができるため、TJは腸生理学および病態生理学に強く影響する(Madara, J.L.(1998) Annu.Rev. Physiol., 60:143-59)。
【0005】
今のところ、UCを効果的に予防する強力な薬物または治療法はない。潰瘍性大腸炎では炎症性サイトカイン、TNF-α、およびIFN-γが上昇している。現在、大腸炎の治療では抗炎症薬および免疫抑制剤(例えば、TNFα阻害薬)が処方されるが、日和見感染のリスクなどの副作用、および特定個人での有効性欠如は治療の質を制限する(Yapal et al.(2007) Ann.Gastroenterology 20:48-53)。したがって、大腸炎を予防するさらなる免疫療法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点に従い、それを必要とする患者の炎症性疾患を阻害、治療、および/または予防する方法を提供する。前記方法は、Bin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントの投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメント、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する組成物の投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がさらに、少なくとも1種類の他の治療薬の投与、またはBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントを同時におよび/または連続的に用い、炎症性腸疾患を治療、阻害、または予防する方法を有する。
【0007】
本発明の別の観点に従い、それを必要とする患者の大腸癌を阻害、治療、および/または予防する方法を提供する。前記方法は、Bin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントの投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメント、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する組成物の投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がさらに、少なくとも1種類の他の治療薬の投与、またはBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメントを同時におよび/または連続的に用い、大腸癌を治療、阻害、または予防する方法を有する。
【0008】
本発明の別の観点に従い、それを必要とする患者の神経変性障害、特にタウオパチーを阻害、治療、および/または予防する方法を提供する。前記方法は、Bin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1種類の抗体または抗体フラグメントの投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1つの抗体または抗体フラグメント、および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する組成物の投与を有する。特定の実施形態では、前記方法がさらに、少なくとも1種類の他の治療薬の投与、またはBin1に対して免疫学的に特異的な、少なくとも1種類の抗体または抗体フラグメントを同時におよび/または連続的に用い、神経変性障害を治療、阻害、または予防する方法を有する。
【0009】
上記疾患の1つを阻害、治療、および/または予防する組成物も提供される。前記組成物は、少なくとも1つのBin1抗体および少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する。前記組成物はさらに、眼疾患の治療に用いる少なくとも1つの他の薬物を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1A~1Gは、大腸炎のマウスモデルにおいて抗Bin1抗体が保護するマウス結腸の画像を示している。
図1A:正常なマウス結腸。
図1B:3% DSSを与えたマウスの結腸。
図1C:IgG(0.1mg/マウス)を投与し、続いて3% DSSを与えたマウス結腸。
図1D:IgG(0.5mg/マウス)を投与し、続いて3% DSSを与えたマウス結腸。
図1E:抗Bin1抗体(0.1mg/マウス)を投与し、続いて3% DSSを与えたマウス結腸。
図1Fおよび1G:Bin1抗体(0.5mg/マウス)を投与し、続いて3% DSSを与えたマウス結腸。
【
図2】
図2A~2Fは、抗Bin1抗体が結腸のリンパ濾胞を保護することを示している。
図2A:正常な結腸と限局したリンパ濾胞。
図2B~2D:DSSを与える前にDSSのみを与えた(
図2B)またはIgGを処理した(
図2Cおよび2D)マウス。結腸のリンパ濾胞は小さいことが認められる。
図2Eおよび2F:抗Bin1抗体を処理し、後でDSSを与えたマウスは、結腸のリンパ濾胞が無変化であった。
【
図3】
図3Aおよび3Bは、抗Bin1抗体を処理したCaco-2細胞が、IgG対照と比較して短絡電流が増加したことを示している。Bin1を処理したCaco-2細胞にTPAを処理した場合、7日目(
図3A)および11日目(
図3B)に短絡電流の変化はなかった。***p<0.0001、ANOVAにより判定。
【
図4】
図4は、Bin-1抗体処理後のCaco-2細胞のクローディン発現を示している。矢印は、抗Bin1モノクローナル抗体で処理したクローディン-2、-3、および-7のダウンレギュレーションを示している。
【
図5】
図5A~5Cは、サイトカイン処理したCaco-2細胞の電気生理学的特徴を示している。抗Bin1抗体を処理したCaco-2細胞をサイトカインTNF-αおよびIFN-γ存在下でインキュベートすると、抵抗性が高く(
図5A)、短絡回路が得られ(
図5B)、マンニトールの流動性が低くなった(
図5C)。
【
図6】
図6は、サイトカイン曝露後の抗Bin1抗体処理Caco-2細胞におけるクローディン発現を示している。クローディン-2、-3、および-7は抗Bin1抗体を処理するとダウンレギュレートされた。
【
図7】
図7は、抗Bin1抗体を処理してもHT29B6細胞のキヌレニン発現レベルが上昇しないことを示している。前記サイトカインIFN-γおよびIFN-γとTNF-αの併用によりHT29B6細胞のキヌレニン値が上昇するが、抗Bin1抗体はキヌレニン発現値を上昇させない。
【
図8】
図8Aおよび8Bは、抗Bin1抗体処理により細胞培養でタウの発現が減少することを示している。抗Bin1抗体(0.05mg/ml)処理したHEK 293 T-REx(商標)細胞は、低用量のテトラサイクリン(1ug/ml、
図8A)または高用量のテトラサイクリン(10ug/ml、
図8B)によりタウを誘導後、全タウおよびリン酸化タウの発現が少なかった。
【
図9】
図9A~9Dは、顕微鏡で判断すると、抗Bin1抗体処理により細胞培養でタウの発現が減少することを示している。未処理のHEK 293 T-REx(商標)細胞(
図9A)、テトラサイクリン(1ug/ml)処理し、タウを誘導したHEK 293 T-REx(商標)細胞(
図9B)、IgG(0.05mg/ml)およびテトラサイクリン(1ug/ml)処理したHEK 293 T-REx(商標)細胞(
図9C)、およびBin1 mAb(0.05mg/ml)およびテトラサイクリン(1ug/ml)処理したHEK 293 T-REx(商標)細胞(
図9D)を検討した。核はDAPI染色し、タウはCy3(プローブDA9抗体)で染色した。
【
図10】
図10Aおよび10Bは、健康ドナーおよびAD患者の血清を用い、HEK 293 T-REx(商標)細胞のタウ発現をプロービングしたことを示している。健康ドナー(
図10A)およびAD患者(
図10B)の血清を用い、HEK 293 T-REx(商標)細胞のタウ発現を検討した。抗Bin1抗体処理したHEK細胞は、健康または罹患状態の血清をプロービングした際、タウオリゴマーレベルが低かった。
【
図11】
図11は、タウの抗Bin1抗体処理は、細胞シグナル伝達タンパク質を変化させることを示している。抗Bin1抗体処理し、タウを発現したHEK 293 T-REx(商標)細胞は、ウエスタンブロット法で判断すると、PP2Aサブユニットa、PP2Aサブユニットc、pGSK3β、p38MAPKの発現が変化し、Bin1の発現が少なくなっていた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記Bin1遺伝子は、膜およびアクチンの動態、細胞極性、ストレスシグナル伝達、および小胞輸送に関与する、BAR(Bin/Amphiphysin/Rvs)アダプタータンパク質ファミリーをコードする(Prendergast et al.(2009) Biochim.Biophys.Acta, 1795:25-36)。マウスモデルの前記Bin1遺伝子の減弱は、上皮バリア機能の向上と関連して、硫酸デキストランナトリウム(DSS)により誘導される実験的大腸炎の重症度を低下させた(Chang et al.(2012) Dig.Dis.Sci., 57:1813-21)。本明細書では、大腸炎モデルにおける遺伝子減弱のフェノコピー効果に対するBin1モノクローナル抗体(mAb)の影響を検討した。炎症性腸疾患、大腸癌、および神経変性疾患の治療に用いられる、Bin1タンパク質を標的とした新規治療が提供される。
【0012】
本発明は、炎症性腸疾患を抑制、予防、および/または治療する組成物および方法を提供する。前記方法は、少なくとも1種類の抗Bin1抗体を被験者に投与する工程を有する。前記「炎症性腸疾患」は、消化管の炎症性活動(炎症)、特に大腸および/または小腸の炎症状態により特徴付けられる障害または疾患を指す。炎症性腸疾患は、下痢を伴うことが多い、腹痛の再発により特徴付けられる不確定な病因を持つ慢性状態であることが多い。炎症性腸疾患の例には、これに限定されるものではないが、クローン病(限局性腸炎、限局性回腸炎、または肉芽腫性回大腸炎とも呼ばれる)、大腸炎(例えば、潰瘍性大腸炎、未定型大腸炎、リンパ球性大腸炎、虚血性大腸炎、空置大腸に発生した腸炎(diversion colitis)、顕微鏡的大腸炎、感染性大腸炎、またはコラーゲン蓄積大腸炎)、ベーチェット症候群、小腸および/または近位腸の特発性炎症、およびIBD関連下痢を含む。特定の実施形態では、前記「炎症性腸疾患」が潰瘍性大腸炎(UC)またはクローン病である。本発明の方法は、さらに、治療される炎症性腸疾患に対する少なくとも1種類の他の治療薬の投与を有する。炎症性腸疾患の治療薬の例には、これに限定されるものではないが、抗炎症薬、TNFα阻害薬(例えば、モノクローナル抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ、およびゴリムマブ)、受容体融合タンパク質(例えば、エタネルセプト)、ステロイド、アミノサリチル酸塩(例えば、バルサラジド、メサラジン、オルサラジン、スルファサラジン)、および免疫調節薬または免疫抑制剤(例えば、アザチオプリン、微量栄養素(例えば、亜鉛、ベルベリン))を含む。被験者に投与される薬物は、少なくとも1種類の薬学的に許容される基剤を有する組成物に含まれてもよい。1種類以上の薬物が投与される場合(例えば、抗Bin1抗体と追加治療薬など)、前記薬物は(前後に)連続しておよび/または同時に(併用)投与してもよい。前記薬物は同じ組成物または別の組成物で投与してもよい。
【0013】
本発明は、癌を抑制、予防、および/または治療する組成物および方法を提供する。前記方法は、少なくとも1種類の抗Bin1抗体を被験者に投与する工程を有する。特定の実施形態では、前記癌が大腸癌である。大腸癌は、結腸癌または腸癌とも呼ぶことができ、結腸、直腸、および/または虫垂の癌性増殖を含む。本発明の方法は、さらに、治療される癌に対する少なくとも1種類の他の治療薬の投与を有する。例えば、前記方法は、さらに、少なくとも1種類の化学療法薬の投与および/または抗癌治療(例えば、放射線療法および/または癌細胞または腫瘍を除去する手術(例えば、切除)を有する。被験者に投与される薬物は、少なくとも1種類の薬学的に許容される基剤を有する組成物に含まれてもよい。1種類以上の薬物が投与される場合(例えば、抗Bin1抗体と追加化学療法薬など)、前記薬物は(前後に)連続しておよび/または同時に(併用)投与してもよい。前記薬物は同じ組成物または別の組成物で投与してもよい。
【0014】
化学療法薬は、抗癌活性を示す化合物であり、および/または細胞に有害である(例えば、毒素)。適切な化学療法薬には、これに限定されるものではないが、毒素(例えば、サポリン、リシン、アブリン、臭化エチジウム、ジフテリア毒素、および緑膿菌外毒素)、タキサン、アルキル化剤(例えば、テモゾロマイド、クロランブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メクロレタミン、メルファラン、およびウラシル・マスタードなどのナイトロジェンマスタード;チオテパなどのアジリジン;ブスルファンなどのメタンスルホン酸エステル;カルムスチン、ロムスチン、およびストレプトゾシンなどのニトロソウレア;白金錯体(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、オルマプラチン、チオプラチン、サトラプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ヘプタプタチン、イプロプラチン、トランスプラチン、およびロバプラチン);マイトマイシン、プロカルバジン、ダカルバジン、およびアルトレタミンなどの生体還元性アルキル化剤;DNA鎖切断剤(例えば、ブレオマイシン);トポイソメラーゼII阻害剤(例えば、アムサクリン、メノガリル、アモナフィド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、N,N-ジベンジルダウノマイシン、エリプチシン、ダウノマイシン、ピラゾロアクリジン、イダルビシン、ミトキサントロン、m-AMSA、ビサントレン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、デオキシドキソルビシン、エトポシド(VP-16)、リン酸エトポシド、オキサントラゾール、ルビダゾン、エピルビシン、ブレオマイシン、およびテニポシド);DNA副溝結合剤(例えば、プリカマイシン);代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサートおよびトリメトレキサートなどの葉酸拮抗薬);フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、CB3717、アザシチジン、シタラビン、およびフロキシウリジンなどのピリミジン拮抗薬;メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチンなどのプリン拮抗薬;アスパラギナーゼ;およびヒドロキシウレアなどのリボヌクレオチド還元酵素阻害剤);アントラサイクリン;チューブリン相互作用薬(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびパクリタキセル(Taxol(商標)));および抗体(例えば、HER2抗体(例えば、トラスツズマブ))を含む。
【0015】
放射線療法は、x線、ガンマ線、ニュートロン、プロトン、などの照射源から標的癌細胞への高エネルギー放射酸の使用を指す。放射線は、外部照射するか、または放射性物質を内部に投与することができる。化学放射線療法では、化学療法と放射線療法を併用する。
【0016】
本発明は、神経変性疾患を抑制、予防、および/または治療する組成物および方法を提供する。前記方法は、少なくとも1種類の抗Bin1抗体を被験者に投与する工程を有する。神経変性疾患の例には、これに限定されるものではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、レヴィー小体病、筋萎縮性側索硬化症、プリン病、およびハンチントン病を含む。特定の実施形態では、前記神経変性疾患がタウノパチーである。本明細書で用いるとおり、「タウノパチー」は、主にリン酸化または高リン酸化タウタンパク質の異常蓄積から成る、神経原線維変化により特徴付けられる神経変性疾患を指す。タウタンパク質の異常リン酸化は多くの神経変性疾患で認められる。タウノパチーの例は、Leeらが示している(Ann.Rev. Neurosci.(2001) 201:1121-1159)。タウノパチーの例には、これに限定されるものではないが、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン認知症症候群、嗜銀顆粒性認知症、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、拳闘家認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化、ダウン症候群、前頭側頭認知症、染色体17に連鎖したパーキンソニズム、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、ハレルフォルデン・スパッツ病、筋緊張性ジストロフィー、ニーマン・ピック病、神経原線維変化を伴う非グアム型運動ニューロン病、ピック病、ハンチントン病、脳炎後パーキンソン症候群、プリオンタンパク質脳アミロイド血管障害、進行性皮質下グリオーシス、進行性核上性麻痺、亜急性硬化性全脳炎、散発性大脳皮質基底核症候群、および神経原線維型老年認知症を含む。特定の実施形態では、前記タウノパチーがアルツハイマー病である。
【0017】
本発明の方法は、さらに、治療される神経変性疾患に対する少なくとも1種類の他の治療薬の投与を有する。例えば、前記方法は、さらに、少なくとも1種類の他の治療薬の投与を有する。神経変性疾患治療薬の例には、これに限定されるものではないが、コリンエステラーゼ阻害薬(例えば、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)およびN-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)拮抗薬(例えば、アマンタジン、メマンチン)を含む。被験者に投与される薬物は、少なくとも1種類の薬学的に許容される基剤を有する組成物に含まれてもよい。1種類以上の薬物が投与される場合(例えば、抗Bin1抗体と追加治療薬など)、前記薬物は(前後に)連続しておよび/または同時に(併用)投与してもよい。前記薬物は同じ組成物または別の組成物で投与してもよい。
【0018】
本明細書で上述のとおり、本発明の方法(および組成物)は、被験者に対してBin1(bridging integrator 1、抗Bin1抗体)に免疫学的に特異的な少なくとも1種類の抗体または抗体フラグメントを投与する工程を有する。特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体がヒトBin1に免疫学的に特異的である。ヒトBin1およびそのイソ型/変異型のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、GenBank遺伝子ID番号:274で示される。ヒトBin1の典型的なアミノ酸配列(451アミノ酸)は、
である。
【0019】
特定の実施形態では、Bin1のアミノ酸配列が、配列ID番号:1と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、99%、または100%の相同性または同一性を有する。
【0020】
特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体がBin1のエクソン13によりコードされたスプライスイソ型に免疫学的に特異的である(例えば、DuHadaway et al.(J. Cell Biochem.(2003) 88:635-642を参照)。特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体がBin1のMyc結合ドメインに免疫学的に特異的である(例えば、配列ID番号:1のアミノ酸270~383)である。特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体が、以下の配列(または配列内のエピトープ)[323~356]と少なくとも90%、95%、97%、99%、または100%の相同性または同一性を有するアミノ酸配列と免疫学的に特異的である。
【0021】
特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体は米国特許第6,048,702号に報告された抗Bin1モノクローナル抗体であり、前記抗Bin1抗体の説明はこの参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、前記抗Bin1抗体は抗Bin1モノクローナル抗体99Dである(米国特許第6,048,702号に報告され、抗Bin1抗体、特に99Dについてはこの参照により本明細書に組み込まれる)。ハイブリドーマ分泌モノクローナル抗体99Dは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC HB-12580)に預けている。
【0022】
本発明の抗体は、天然であるか、合成であるか、または修飾したものであってもよい(例えば、組み換え技術により作られた抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、ラクダ科抗体など)。前記抗体は、少なくとも1種類の精製タグを有してもよい。特定の実施形態では、前記抗体が抗体フラグメントである。抗体フラグメントには、これに限定されるものではないが、単一ドメイン(Dab、例えば、単鎖可変軽鎖または重鎖ドメイン)、Fab、Fab'、F(ab')2、およびF(v)を含む免疫グロブリンフラグメント;およびこれに限定されるものではないが、scFv、scFv2、scFv-Fc、minibody、diabody、triabody、およびtetrabodyを含むこれらの免疫グロブリンフラグメントの(例えばリンカーを介した)融合体を含む。前記抗体は、少なくとも1種類の抗体または抗体フラグメントを有するタンパク質(例えば、融合タンパク質)としてもよい。本発明の特定の実施形態では、前記抗体がFc領域を有する。本発明の特定の実施形態では、前記抗体がモノクローナル抗体を有する。
【0023】
また本発明は、免疫グロブリンを模倣した合成タンパク質も含む。例には、これに限定されるものではないが、Affibody(商標)分子(Affibody、Bromma、Sweden)、darpins(設計されたアンキリン反復タンパク質、Kawe et al.(2006) J. Biol.Chem., 281:40252-40263)、およびpeptabodies(Terskikh et al.(1997) PNAS 94:1663-1668)を含む。
【0024】
本発明の抗体は、さらに修飾されていてもよい。例えば、前記抗体はヒト化してもよい。特定の実施形態では、前記ハイブリッド抗体(またはその一部)が抗体または抗体フラグメント定数の骨格に挿入される。例えば、本発明の抗体の前記可変軽鎖ドメインおよび/または可変重鎖ドメインを別の抗体構成に挿入してもよい。組み換え技術により抗体を生成する方法は、当該分野で周知である。実際、特定の抗体および抗体フラグメント構成物には市販のベクターが利用できる。
【0025】
本発明の抗体は、他の成分と結合/連結していてもよい。例えば、前記抗体は、少なくとも1種類の検出剤、画像化剤、造影剤、または治療用化合物(例えば、上記参照)と操作により結合してもよい(例えば、選択的にリンカーを介した共有結合)。本発明の抗体は、少なくとも1種類の精製タグ(例えば、Hisタグ)を有してもよい。
【0026】
本発明の抗体分子は、当該分野で既知の様々な方法により調整可能である。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体は、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al. eds.に説明されたとおり調整可能である。抗体は化学的架橋、ハイブリッドハイブリドーマ技術、および細菌または酵母細胞などの宿主細胞に発現された組み換え抗体フラグメントの発現により調整可能である。本発明の1つの実施形態では、前記抗体分子が、宿主細胞で組み換え抗体または抗体フラグメントを発現することにより生成される。前記抗体をコードした核酸分子は、発現ベクターに挿入されるか、宿主細胞に導入されてもよい。次に、得られた抗体分子を単離し、発現系から精製される。前記抗体は、選択的に精製タグを有し、これにより前記抗体を精製することができる。
【0027】
本発明の抗体分子の純度は、当業者に既知の標準的方法により評価することができ、これに限定されるものではないが、ELISA、免疫組織化学検査、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、サイズ交換クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、ウェスタンブロッティング、表面プラスモン共鳴および質量分析を含む。
【0028】
少なくとも1種類の抗Bin1抗体を有する組成物も本発明に含まれる。特定の実施形態では、前記組成物は、少なくとも1つの抗Bin1抗体または抗体フラグメントおよび少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する。前記組成物は、さらに、治療される疾患または障害を阻害、治療、および/または予防する、少なくとも1種類の他の治療用化合物を有してもよい(例えば、上記)。代わりに、少なくとも1種類の他の治療用化合物は、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体とは別の組成物に含まれてもよい。また本発明は、少なくとも1種類の抗Bin1抗体または抗体フラグメントを有する第1の組成物、および治療される疾患または障害を阻害、治療、および/または予防する、少なくとも1種類の他の治療用化合物を有する第2の組成物を有するキットを含む。前記第1および第2の組成物は、さらに、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体を有する。
【0029】
上記に説明したとおり、本発明の組成物は、炎症性腸疾患、神経変性疾患、および/または大腸癌の治療に有用である。前記組成物の治療有効量は、前記被験者に投与されてもよい。用量、方法、および投与時間は、本明細書に提供された教示を考え、当業者が容易に決定することができる。
【0030】
本明細書で説明された抗体は、薬学的製剤として患者に投与される。本明細書で使用する「患者」の用語は、ヒトまたは動物被験者を指す。これらの抗体は、指示された疾患または障害の治療を目的とした医師のガイドラインのもと、治療に利用してもよい。
【0031】
本発明の抗体分子を有する薬学的製剤は、水、緩衝食塩水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、オイル、界面活性剤、懸濁剤、またはその適切な混合物など、許容できる媒体(例えば、薬学的に許容される担体)を投与するため、便利に製剤化してもよい。選択した媒体中の薬物濃度は変化する可能性があり、前記媒体は前記薬学的製剤の望みの投与経路により選択することができる。従来の媒体または薬物が投与される薬物と適合しない場合を除き、前記薬学的製剤での使用は検討される。
【0032】
特定患者への投与に適した本発明の抗体の用量および投与方法は、前記抗体が投与される患者の年齢、性別、体重、全身の医学的状態、および特定の状態およびその重症度を考慮し、医師が決定することができる。前記医師は、前記抗体の投与経路、前記抗体と併用される薬学的担体、および前記抗体の生物学的活性を検討してもよい。
【0033】
適切な薬学的製剤の選択は、選択された投与方法によって決まる。例えば、本発明の抗体は、望みの組織またはその周辺領域に直接注射することにより投与してもよい。この場合、薬学的製剤は、標的組織と適合する媒体に分散された抗体分子を有する。
【0034】
また、抗体は非経口的に、血流への静注、または皮下、筋肉内、または腹腔内注射により投与してもよい。非経口注射用の薬学的製剤は当該分野で既知である。非経口注射が前記抗体の投与方法として選択される場合、確実に十分な量の分子が標的細胞に到達し、生物学的作用を発揮するような手順をとる必要がある。前記抗体の親油性、または送達される薬学的製剤は、前記分子が標的部位に到達することができるように、増量する必要がある。さらに、十分な数の分子が前記標的細胞に到達するように、前記抗体は細胞を標的とする担体で送達する必要がある。分子の親油性を上昇させる方法は当該分野で既知である。これに限定されるものではないが、Fabフラグメント、Dab、scFv、またはdiabodyを含む小分子の形態の前記抗体を投与する場合、これに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)またはアルブミン結合抗体またはペプチドなどの第2の(担体)分子に結合し、血中での保持時間を延長してもよい。
【0035】
薬学的担体との詳細な混合物に活性成分として本発明の化合物を含む薬学的組成物は、従来の薬学的配合技術により調整可能である。前記担体は、例えば、静脈内、経口、または非経口など、投与に望ましい製剤形態により、様々な形態をとることができる。経口投与剤形での前記抗体の調製では、例えば、(例えば、懸濁液、エリキシル剤、および液剤などの)経口液体製剤の場合は水、グリコール、オイル、アルコール、香料、保存料、着色料など;または(例えば、粉末、カプセル、および錠剤などの)経口固体製剤の場合はデンプン、糖、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤などの担体など、有用な薬学的媒体をすべて利用することができる。投与が簡便であるため、錠剤およびカプセルは症例の固体薬学的担体が明らかに利用される、最も有利な経口投与担体である。望ましい場合、錠剤は標準的な技術により糖コーティングまたは腸溶性コーティングとすることができる。非経口投与では、前記担体は、通常、例えば溶解を助けるため、または保存の目的で、他の成分を介して滅菌水を有する。注射可能な懸濁液を調整することもでき、この場合、適切な液体担体、懸濁剤などを利用することができる。
【0036】
本発明の薬学的製剤は、投与を簡便にし、用量を均一とするため、投与量単位で製剤化することができる。本明細書で用いる投与量の単位形態は、治療を受ける患者に適した薬学的製剤の物理学的な離散単位を指す。各投与量は、選択された薬学的担体と関連した望みの作用を生じるために計算された量の活性成分を含む必要がある。適切な投与量単位を決定する方法は、当業者に周知である。
【0037】
投与量単位は患者の体重に比例して増減してもよい。特定の病的状態を軽減するために適した濃度は、当該分野で周知の投与量濃度曲線の計算から決定することができる。
【0038】
本発明によれば、抗Bin1抗体分子の投与に適した投与量単位は、動物モデルにおける抗体分子の毒性評価により決定することができる。様々な濃度の抗体薬学的製剤を前記疾患または障害のマウスモデルに投与することができ、最少および最大投与量は前記結果および治療結果としての副作用に基づき決定することができる。適切な投与量単位は、他の標準的薬物と併用した前記抗体分子投与の有効性を評価することでも決定可能である。抗Bin1抗体の投与量単位は、個々にまたは他の治療との併用で決定することができる。
【0039】
前記抗Bin抗体を有する薬学的製剤は、前記病的症状が軽減または改善するまで、適切な間隔、例えば、少なくとも1日2回以上で投与することができ、この後前記投与量を維持用量まで減量することができる。特定の症例において適切な間隔は、通常、患者の状態に依存する。
【0040】
本発明の方法はさらに、本発明の組成物を投与後、前記被験者の疾患または障害をモニタリングし、前記方法の有効性をモニタリングする工程を有する。
【0041】
定義
以下の定義は、本発明の理解を促すために提供される。
【0042】
単数系の「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかにそうでないことを示していない限り、複数の言及も含む。
【0043】
化合物または薬学的組成物の「治療有効量」は、特定の障害または疾患の症状を予防、阻害、治療、または軽減するために有効な量を指す。本明細書における眼疾患の治療は、前記眼疾患、その症状、またはその疾病素質を治癒、軽減、および/または予防することを指す。
【0044】
「薬学的に許容される」は、連邦または州政府の規制当局により承認されているか、米国薬局方、または他の一般的に認識されている、動物、特にヒトに使用される薬局方に掲載されていることを示す。
【0045】
「担体」は、例えば、本発明の活性物質が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、補助剤、または溶媒を指す。薬学的に許容される担体は、水、および石油、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油など、動物、植物、または合成由来のものを含むオイルなどの滅菌液体とすることができる。水または水性滅菌溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液は、好ましくは担体、特に注射用溶液として利用される。適切な薬学的担体は、例えば、E.W. Martinの「Remington's Pharmaceutical Sciences」に説明されている。
【0046】
「抗体」または「抗体分子」は、特異的抗原に結合する抗体およびそのフラグメントを含む免疫グロブリンである。本明細書に用いるとおり、抗体または抗体分子は未処理の免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を融合したものを意図する。
【0047】
本明細書に用いるとおり、「免疫学的に特異的な」の用語は、1もしくはそれ以上のタンパク質のエピトープまたは対象化合物に結合するが、抗原性生物学的分子の混合物を含むサンプルにおいて、実質的に他の分子を認識し、結合することのない、タンパク質/ポリペプチド、特に抗体を指す。
【0048】
本明細書に用いるとおり、「予防する」の用語は、状態を発生するリスクがあるが、結果として被験者が前記状態を発生する可能性が低下する、被験者の予防的治療を指す。
【0049】
本明細書に用いる「治療する」の用語は、患者の状態の改善(例えば、1もしくはそれ以上の症状)、前記状態の進行遅延など、疾患に苦しむ患者に利益を与えるすべてのタイプの治療を指す。
【0050】
本明細書に用いるとおり、「宿主」、「被験者」、および「患者」の用語は、ヒトなどの哺乳類を含む動物を指す。
【0051】
本明細書に用いるとおり、「免疫抑制剤(immunosuppressantおよびimmunosuppressive agent)」の用語は、免疫反応またはそれと関連する症状を抑制する化合物または組成物を含む。免疫抑制剤には、これに限定されるものではないが、プリン類似体(例えば、アザチオプリン)、メトトレキサート、シクロスポリン(例えば、シクロスポリンA)、シクロホスファミド、レフルノミド、ミコフェノール酸塩(ミコフェノール酸モフェチル)、ステロイド(例えば、グルココルチコイド、コルチコステロイド)、メチルプレドニゾン、プレドニゾン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、クロラムブシル、CD20拮抗薬(例えば、リツキシマブ、オクレリズマブ、ベルツズマブ、またはオファツムマブ)、アバタセプト、TNF拮抗薬(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト)、マクロライド(例えば、ピメクロリムス、タクロリムス(FK506)、およびシロリムス)、デヒドロエピアンドロステロン、レナリドミド、CD40拮抗薬(例えば、抗CD40L抗体)、アベチムスナトリウム、BLys拮抗薬(例えば、抗BLyS(例えば、ベリムマブ)、ダクチノマイシン、ブシラミン、ペニシラミン、レフルノミド、メルカプトプリン、ピリミジン類似体(例えば、シトシンアラビノシド)、ミゾリビン、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、フェニルアラニンマスタード、ブスルファン、およびシクロホスファミド)、葉酸拮抗薬(例えば、アミノプテリンおよびメトトレキサート)、抗生物質(例えば、ラパマイシン、アクチンマイシンD、マイトマイシンC、プラマイシン、およびクロラムフェニコール)、ヒトIgG、抗リンパ球グロブリン(ALG)、抗体(例えば、抗CD3抗体(OKT3)、抗CD4抗体(OKT4)、抗CD5抗体、抗CD7抗体、抗IL-2受容体(例えば、ダクリズマブおよびバシリキシマブ)、抗α/βTCR抗体、抗ICAM-1抗体、ムロモナブ-CD3、抗IL-12抗体、アレムツズマブ、および免疫毒素抗体)、およびその誘導体および類似体を含む。
【0052】
本明細書に用いるとおり、「抗炎症薬」は炎症性疾患またはそれに伴う症状の治療に用いられる化合物を指す。抗炎症薬には、これに限定されるものではないが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、例えば、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、メチルサリチル酸、ジフルニサル、インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ケトロラク、カルプロフェン、フェノプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、メトトレキサート、セレコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブ、およびニメスリド)、コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン、ベタメサゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメサゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、およびフルチカゾン)、ラパマイシン、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、β拮抗薬、抗コリン剤、メチルキサンチン、金注射(例えば、アウロチオマレイン酸ナトリウム)、スルファサラジン、およびダプソンを含む。
【0053】
以下の例は、本発明の様々な実施形態を説明するために提供される。この例はいかなる方法でも本発明を制限する意図はない。
【実施例】
【0054】
本明細書では大腸炎のDSSモデル(Chang et al.(2012) Dig.Dis.Sci., 57:1813-21)を用い、前記Bin1 mAbの有効性を評価した。簡単には、前記DSSモデルでは、マウスに飲用水として3%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS、MW 36~50kDa)を投与した。抗Bin1抗体(モノクローナル99D)を投与したマウスは、対照マウスと比較して、DSS誘導大腸炎により組織学的に保護された。マウスIgG注射の有無にかかわらず、DSS処理マウスの結腸粘膜に重度の病変が観察され、粘膜および粘膜下部位への好中球およびリンパ球の浸潤は高レベルであり、粘膜の腺窩構造が消失していた(
図1B-E)。対照的に、高用量の抗Bin1抗体投与マウスは、未処理の対照と同様、結腸粘膜はより正常であった(
図1F-G)。表1は、マウスから得られ、組織的に染色した組織の縦断的評価により決定した、各群の結腸浸食度をまとめている。
【0055】
【0056】
腸管のバリア欠損は除き、大腸炎の主な特徴は固有層へのリンパ球および好中球動員を伴う炎症である。リンパ濾胞として出現する腸管関連リンパ系組織(GALT)は、結腸の独特の炎症現象と内腔抗原サンプリングに関与する。組織学的評価では、DSSのみまたはDSS+非特異的マウスIgGを投与したマウスの結腸のリンパ濾胞に破裂があることが明らかとなった。リンパ球および好中球は、炎症性の移動と一致した粘膜層で同様に認められた。しかし、DSS+抗Bin1抗体を投与したマウスではリンパ濾胞は未変化であった(
図2)。これらの所見は、抗Bin1抗体の投与がおそらくはバリア機能を直接改善することにより、前記リンパ濾胞を保護し、炎症を制限することを示している。
【0057】
モノクローナル抗体99Dは、Bin1エクソン13によりコードされたC末端Myc結合ドメイン内のエピトープを認識する。代わりに、このエクソンはすべての細胞タイプに発現された2つのタンパク質イソ型にスプライスされるため、99Dは結腸上皮細胞に発現された2つのBin1イソ型の1つのみを認識する(DuHadaway et al., (2003) J. Cell.Biochem., 88:635-42)。対照的に、モノクローナル抗体2F11は、Bin1エクソン7および8でコードされたN末端BARドメイン内のエピトープを認識する(DuHadaway et al., (2003) J. Cell.Biochem., 88:635-42)。そのように、2F11は「pan-イソ型」抗Bin1 mAbである。前記99Dおよび2F11 mAbsは、ヒトおよびマウスBin1をいずれも認識する。しかし、99Dとは異なり、2F11は99Dのように大腸炎を予防しない。そのため、以下に示す研究では、99Dを用いてTJパラメータの機能的効果を検討したが、2F11は発現解析のみに使用した。
【0058】
抗Bin1抗体の細胞作用および機能的メカニズムを評価するため、十分な報告があるヒト結腸上皮細胞培養モデルCaco-2を用いた。コフルエンスでは、Caco-2細胞層が効率的なバリア機能を持つ機能的TJを形成する。分化型Caco-2細胞では(維持培地でコフルエンス11日目)、細胞を99D抗体とインキュベートした場合、ウエスタンブロットで2F11により検出すると、Bin1発現の低下が認められた。この結果は、99Dが結腸細胞のBin1の遺伝的減弱を表現型模写していることを示している。
【0059】
UCは、細胞TJの異常漏出により生じる腸管バリア機能欠損により特徴付けられ、この場合、TJは疾患修飾因子として作用すると考えられる。上皮細胞では、TJsは尖端(内腔)および側底(間質)液コンパートメントを分ける役割を果たすため、傍細胞拡散の選択的透水性バリアとして機能する。TJsは上皮組織を規定し、occludinおよび前記クローディンにより形成し、これが構築されることで、上皮細胞間の細胞間隙における分子の流れをコントロールする傍細胞バリアが確立する。クローディンはZO-1などのTJ複合体の細胞内足場タンパク質と相互作用する。特に、クローディン-2は、TJs間の小分子カチオンの特異的透過性に作用する傍細胞チャネルを形成する上で重要な役割を果たす。前記Caco-2細胞モデルは、99Dの傍細胞透過性およびTJタンパク質(クローディン)発現に対するin vitro作用を検討するために使用した。炎症刺激を模倣するため、ホルボールエステル12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)を用い細胞を短時間(4時間)インキュベートした。コンフルエントなCaco-2細胞培養は、炎症性刺激の存在下または非存在下、11日間99DまたはIgGで処理した。コンフルエンスにより誘導した分化期間中、99Dにより処理したCaco-2細胞層は、傍細胞の抵抗性に可変性の変化を示したが、短絡電流に対する作用は一定で、TPAの阻害作用に対抗する(
図3)。
【0060】
マウスIgGまたは99D mAbの未処理または処理Caco-2細胞層において、前記TJタンパク質、クローディン-2、-3、および-7の定常状態値を比較した。99D処理により、分析したすべてのクローディン値が低下した(
図4)。TPAに曝露した細胞では、分析したクローディンすべての発現が強く上昇していることが認められた。
【0061】
TNF-αおよびIFN-γは、UCに関与する炎症誘発性サイトカインである。抗Bin1抗体の有無によりこれらのサイトカインがどのようにCaco-2細胞に影響するかを判断するため、試験を行った。サイトカインに曝露した場合、抗Bin1抗体を事前に処理したCaco-2細胞層は抵抗が有意に高くなった(
図5A)。これらの細胞層の漏出度は放射性標識したD-マンニトールにより決定した。抗Bin1抗体処理し、サイトカインを曝露させたCaco-2細胞層は、サイトカイン処理したCaco-2細胞層のみ(高漏出度)と比較し、マンニトールの漏出度が低かった(
図5C)。この実験は、抗Bin1抗体存在下では、炎症性サイトカイン曝露後に細胞TJsが損なわれることはないことを証明している。前記サイトカイン曝露後、前記クローディンタンパク質の発現も分析した。クローディン-3、-4、および-7値およびoccludinの発現にサイトカイン投与間で変化はなかった。ただし、クローディン-1、-2、および-5はサイトカイン曝露による変化はなかった。抗Bin1抗体は、前記サイトカイン曝露後のこれらのタンパク質の低下を予防した(
図6)。
【0062】
インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ1(IDO1)はヘム含有酵素であり、ホルミルキヌレニンへのトリプトファンの異化代謝における律速段階を触媒する。IDO活性は組織微小環境において炎症反応の特徴を調節し、発癌作用をサポートする(Prendergast et al.(2010) Am. J. Pathol., 176:2082-7)。IDOはTエフェクター細胞の機能を抑制し、T制御性細胞の分化を助け、癌における免疫回避のメディエーターと考えられる。一部の細胞では、Bin1の消失によりIDO1の発現が増加する(Muller et al.(2005) Cancer Res., 65:8065-8)。Bin1の減少によりIDO1が増加するか否かを検討するため、HT29B6細胞(ヒト結腸上皮細胞株)を抗Bin1抗体処理した。IDO1の増加はキヌレニン発現値を分析することでモニターした。HT29 B6細胞を抗Bin1抗体によりインキュベートした場合、キヌレニン値は増加しなかった(
図7)。この結果は、抗Bin1抗体処理はIDO1を誘導しないため、腫瘍微小環境に優位に働くことはないことを証明した。これらの結果を考慮し、前記抗Bin1抗体を大腸炎および大腸癌の治療に用いることができる。
【0063】
痴呆のもっとも一般的な原因であるアルツハイマー病(AD)は、主に高齢者が罹患する、原因不明の進行性神経変性脳疾患である。今のところ、ADを予防または治療する有効な薬物はない(Zhu et al.(2006) Clin.Interv.Aging 1:143-154)。ADは、病理学的には、アミロイドベータ(Aβ)の細胞外沈着および神経原線維変化およびそれ以外は微小管が関連したタンパク質であるタウの過リン酸化フィラメントから成る神経網により特徴付けられる。Aβは見かけ上AD発症の開始因子であるが、異常タウタンパク質も重要な役割を果たしていることはますます明確になってきている。インスリンシグナル伝達カスケードの障害は可溶性Aβがタウリン酸化を誘導する経路に関与し、さらに、ADのインスリンシグナル調節不全を治療することが治療アプローチになる可能性があることを示している(Tokutake et al.(2012) J. Biol.Chem., 287:35222-35233)。
【0064】
これに限定されるものではないが、前頭側頭認知症、ピック病、拳闘家認知症、大脳皮質基底核変性症、および進行性核上麻痺を含むいくつかの神経変性疾患にタウ沈着がみられる。これらの疾患では、集合的にはタウノパチーと呼ばれる異常タウが主な病理的特徴である。家族性痴呆を引き起こすタウの変異が特定されたことで、神経変性疾患の原因となっているのはタウの異常のみであることが証明された。タウはアルツハイマー病(AD)にも大きく関与している(Wolfe, M.S.(2009) J. Biol.Chem., 284: 6021-6025)。
【0065】
ADの原因は、遺伝的危険因子と環境的危険因子の複雑な相互作用の影響を受ける。アミロイド前駆体タンパク質、プレセニリン1および2遺伝子の変異は、早期発症型家族性ADと関連していた。さらに、アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子は遅発性ADの感受性多型であり、高齢集団では最も多くみられるADタイプ、かつ最も多くみられる痴呆である。APOE ε4対立遺伝子はADの発症リスクを上昇させるが、ADの原因として必要でも十分でもなく、APOEの遺伝子検査は明確な予測因子と解釈することはできない(Cassidy et al.(2008) Alzheimers Dement.4:406-413)。
【0066】
様々な集団を対象とした多数の全ゲノム連鎖研究(GWAS)から、BIN1は散発性アルツハイマー病(AD)に関与していた(Seshadri et al.(2010) JAMA 303:1832-1840)。BIN1は、ADの遺伝的決定要因としても同定されている(Lambert et al.(2011) Neurobiol.Aging 32:756.e11-5)。全ゲノム連鎖研究を用いたメタアナリシスでも、ADと関連したBin1遺伝子座で多重変異体が同定された(Hu et al.(2011) PLoS One 6:e16616)。さらに、BIN1発現レベルは疾患の進行に関与し、発現率が高いと発症年齢が遅延した(Karch et al.(2012) PLoS One 7:e50976)。BIN1の転写レベルはAD脳で増加し、BIN1の約28kb上流で挿入された新規の3bp対立遺伝子が同定され、これがin vitroでの転写活性を上昇させることが同定された(Chapuis et al.(2013) Mol.Psychiatry 18:1225-34)。タウおよびBIN1はヒト神経芽細胞腫細胞およびマウス脳に共存して相互作用し、BIN1はタウの病状を調節することで、ADリスクに介在する可能性がある(Chapuis et al.(2013) Mol.Psychiatry 18:1225-34)。
【0067】
BIN1のイソ型は少なくとも15種類知られており、最も長いイソ型(iso1)を含め、多くは脳に発現しているが、iso1は脳特異的で軸索起始部およびランビエ絞輪に限局している。BIN1のこの最長のイソ型の量は、年齢をマッチさせた対照群と比較し、AD脳で有意に減少しており、より小さなBIN1イソ型が有意に増加している(Holler et al.(2014) J, Alzheimers Dis., 42:1221-1227)。さらに、BIN1は神経原線維変化(NFT)の病状の程度と有意に関連していたが、びまん性または老人斑、またはアミロイド-βペプチドの量とは有意に関連していなかった。BIN1は、これもNFTの病状を主な特徴とする別のヒト疾患、筋緊張性ジストロフィーで異常発現することが知られている。これらのデータは、BIN1がNFT病状の調節因子およびタウの病状を特徴とする他のヒト疾患としてADに関与していることを示している。
【0068】
Bin1の発現はAD時に増加し、Bin1はタウを調節することでADリスクに介在する。タウを発現するHEK293 T-REx(商標)細胞に抗Bin1抗体を処理した。タウは異なる抗体を用いてプロービングし、全タウおよびリン酸化タウの発現を測定した。特に、全タウおよびリン酸化タウはADで増加している(Sjogren et al.(2001) J. Neurol.Neurosurg.Psychiatry 70:624-630)。DA9およびタウ5抗体を用いてプロービングした場合、全タウの発現はBin1処理タウ発現HEK細胞で減少することが分かった。リン酸化タウレベルも、PHF1抗体によるプロービングで判定すると、抗Bin1抗体処理後に低下した(
図8)。抗Bin1抗体がタウの発現を減少させたことを確認するため、タウの発現を蛍光顕微鏡検査によりモニターした。明るい赤色蛍光を発光する未処理細胞と比較し、抗Bin1抗体処理HEK 293 T-REx(商標)細胞では蛍光強度が低くなることが分かった(
図9)。これらの研究は、抗Bin1抗体を用いてタウの発現を抑制し、ADなどのタウノパチーを予防/治療できることを証明している。
【0069】
加齢はADの発症率を上昇させることが知られている。しかし、タウオリゴマーの毒性型がいつ脳で形成されるのかは不明である。健康ドナー(40代中頃)およびAD患者の血清を用い、HEK 293 T-REx(商標)細胞のタウ発現を検討した。抗Bin1抗体処理したHEK細胞は、健康または罹患状態の血清を検討した場合、タウオリゴマー値が低かった(
図10)。前記研究では、さらに、抗Bin1抗体がタウの発現を抑制することが示されている。
【0070】
抗Bin1抗体2F11を用いたウエスタンブロット実験では、タウ存在下ではBin1タンパク質が増加するが、その発現は抗Bin1抗体99Dの処理により減少することが示された。タウのリン酸化はタウキナーゼとホスファターゼ活性とのバランスにより調節される。この平衡状態の崩壊はタウの異常リン酸化に由来するため、タウの凝集に関与する可能性がある(Martin et al.(2013) Ageing Res.Rev., 12:39-49)。タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)は、脳のSer/Thrホスファターゼ活性の大部分の原因となる大きな酵素ファミリーである。PP2Aは、構造的役割を果たすAサブユニットと触媒的役割を果たすCサブユニット、および制御的役割を果たすBサブユニットで構成される、二量体コア酵素から成る。本明細書では、抗Bin1抗体がPP2Aサブユニットcの発現を低下させると判断された。また、抗Bin1抗体は、IgG処理HEK細胞と比較し、p38MAPKの発現を減少させる(
図11)。
【0071】
最後に、タウタンパク質を過剰発現したトランスジェニックマウスでは、リチウムの注入によりGSK3βのリン酸化が増加する(Muyllaert et al.(2008) Genes Brain Behav., 7:57-66)。本明細書では、抗Bin1抗体の投与により、未投与の対照と比較し、GSK3βのリン酸化が増加した(
図11)。
【0072】
本発明が関与する本技術の状態をより詳細に説明するため、前述の明細書に数件の出版物および特許文書が引用されている。これらの各引用の開示は、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0073】
本発明の特定の好適な実施形態が説明され、具体的に上記に例示されているが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではないことは意図されるものである。以下の請求項に示されるとおり、本発明の範囲および精神から離れずに、様々な変形形態が可能である。
【0074】
【配列表】