(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】強酸性接着ポリマーを含む接着性歯科材料
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20220225BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20220225BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20220225BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/62
A61K6/887
(21)【出願番号】P 2016139187
(22)【出願日】2016-07-14
【審査請求日】2019-07-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-06
(32)【優先日】2015-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ノーバート モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】トルステン ボック
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】ドリス ポスピーク
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ シュターケ
(72)【発明者】
【氏名】ブリジット ボイト
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】鳥居 福代
【審判官】穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-046397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K6/00-6/90
CA/Biosis/Medline/Embase(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDream III)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤、接着コーティング材料、接着複合セメント、充填コンポジット、またはセメントとしての使用のためのラジカル重合性歯科材料であって、該ラジカル重合性歯科材料は、
強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサブチル]アクリル酸のエチルエステルまたは2,4,6-トリメチルフェニルエステル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピルもしくはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシエチルもしくはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルから選択される少なくとも1つのラジカル重合性の酸基含有モノマー、および
メタクリル酸p-クミルフェノキシエチレングリコール(CMP-1E)、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)と2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、TMX-UDMA(HEMAとメタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)との混合物と、ジイソシアン酸α,α,α‘,α‘-テトラメチル-m-キシリレン(TMXDI)との付加生成物)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1]デカン(TCDMA)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAのジメタクリレート、3個のエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレート2-[4-(3-メタクリロイルオキシエトキシエチル)フェニル]-2-[4-(3-メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-プロパン)(SR-348C)、トリエチレングリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレートまたはグリセロールトリメタクリレート(GTMA)、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、およびマレイン酸無水物から選択される少なくとも1つの他のラジカル重合性モノマーを含有し、該ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、1,000g/mol~200,000g/molの数平均分子量を有し、
ここで、該オリゴマーまたはポリマーにおける、該強酸性ホスホン酸基に対する重合性基の割合は、60mol%までであり、ここで、該オリゴマーまたはポリマーは、
(メタ)アクリル酸3-(ジメトキシホスホリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-[ジ(トリメチルシリル)ホスホリル]プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジメトキシホスホリル)エチル、(メタ)アクリル酸2-[ジ(トリメチルシリル)ホスホリル]エチル、2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸メチルエステルおよび2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸エチルエステルから選択される少なくとも1つの重合性ホスホネート誘導体のラジカル重合、その後、水またはメタノールとの反応により該ホスホン酸基を放出すること、または
該重合性ホスホネート誘導体の少なくとも1つ、ならびに(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、およびメタクリル酸2-アセトアセトキシエチルから選択される少なくとも1つのコモノマーを含むモノマー混合物のラジカル重合、その後、水またはメタノールとの反応により該ホスホン酸基を放出すること
により調製される、ラジカル重合性歯科材料。
【請求項2】
前記ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、1,000g/mol~100,000g/molの数平均分子量を有する、請求項1に記載の歯科材料。
【請求項3】
前記ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、少なくとも1つの重合性基を有し、該重合性基は、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、およびアリル基から選択される、請求項1または2に記載の歯科材料。
【請求項4】
前記オリゴマーまたはポリマーにおける、前記強酸性ホスホン酸基に対する重合性基の割合は、60mol%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項5】
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項6】
光開始剤、またはペルオキシドもしくはヒドロペルオキシドと合わせた光開始剤を含む、請求項5に記載の歯科材料。
【請求項7】
少なくとも1つの有機粒子充填剤もしくは無機粒子充填剤、またはこれらの組み合わせをさらに含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項8】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)0.1重量%~30重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.01重量%~10重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~40重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)0重量%~70重量%
の、充填剤(単数または複数)、ならびに必要に応じて、
f)0重量%~70重量%の、溶媒
を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項9】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)2重量%~20重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)5重量%~20重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)5重量%~50重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)
1重量%~
60重量%
の、充填剤(単数または複数)、ならびに必要に応じて、
f)0重量%~50重量%の、溶媒
を含有する、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項10】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)0.1重量%~30重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.01重量%~10重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
e)0重量%~20重量%の、充填剤(単数または複数)、および
f)0重量%~70重量%の、溶媒
を含有する、接着剤または接着コーティング材料として使用するための、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項11】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)2重量%~20重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)5重量%~20重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)5重量%~50重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
e)0重量%~20重量%の、充填剤(単数または複数)、および
f)10重量%~50重量%の、溶媒
を含有する、接着剤または接着コーティング材料として使用するための、請求項10に記載の歯科材料。
【請求項12】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)0.1重量%~30重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.01重量%~10重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~60重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)10重量%~70重量%の、充填剤(単数または複数)
を含有する、接着複合セメントまたは充填コンポジットとして使用するための、請求項8に記載の歯科材料。
【請求項13】
それぞれ前記材料の総質量に基づいて、
a)2重量%~20重量%の、前記強酸性ホスホン酸基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、
b)0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)2重量%~15重量%の、前記ラジカル重合性の酸基含有モノマー(単数または複数)、
d)5重量%~40重量%の、前記他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)40重量%~70重量%の、充填剤(単数または複数)
を含有する、接着複合セメントまたは充填コンポジットとして使用するための、請求項12に記載の歯科材料。
【請求項14】
損傷した歯を修復するための口内治療用途のための、請求項1~13のいずれか1項に記載の歯科材料。
【請求項15】
歯科用修復物の口腔外での製造または修復のための材料としての、請求項1~13のいずれか1項に記載の歯科材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸性接着ポリマーを含有し、そして歯科用接着剤、コーティング材料、充填コンポジットおよびセメントとして特に適切である、歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合によって硬化可能である歯科材料は通常、重合性有機マトリックスおよび1つまたはより多くの充填剤を含有する。ほとんどの場合、モノマーと、開始剤と、安定剤と、顔料と、さらなる添加剤との混合物が、重合性有機マトリックスとして使用される(J.Viohl,K.Dermann,D.Quast,S.Venz,Die Chemie zahnaerztlicher Fuellungskunststoffe[The chemistry of dental filling plastics],Carl Hanser Verlag,Munich-Vienna 1986,21-27)。このような材料は、熱ラジカル重合、レドックスにより開始されるラジカル重合、または光により誘導されるラジカル重合によって、硬化し得る。酸性モノマーもまた、歯科材料の調製のために、次第に使用されるようになっている。これらは、その材料に自己エッチング特性を与え、そして自然の歯の物質への接着を改善する。
【0003】
ジメタクリレートの混合物が、通常、レジンとして使用される(A.Peutzfeldt,Resin composites in dentistry:the monomer systems,Eur.J.Oral Sci.105(1997)97-116;J.W.Nicolson,H.M.Anstice,The chemistry of modern dental filling materials,J.Chem.Ed.76(1999)1497-1501;J.W.Stansburry,Curing dental resins and composites by photopolymerization,J.Esthet.Dent.12(2000)300-308;N.Moszner,T.Hirt,New Polymer-Chemical Developments in Clinical Dental Polymer Materials:Enamel-Dentin Adhesives and Restorative Composites,J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.50(2012)4369-4402を参照のこと)。
【0004】
接着剤の場合、ビスアクリルアミドがしばしば、架橋剤として使用され、そして酸基含有メタクリレートが大抵、接着モノマーとして使用される(N.Moszner,U.Salz,J.Zimmermann,Chemical aspects of self-etching enamel-dentin adhesives:A systematic review,Dent.Mat.21(2005)895-910)。架橋性ジメタクリレートの例は、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,4,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、デカンジオール-1,10-ジメタクリレート、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1]デカンおよびジメタクリル酸トリエチレングリコール(TEGDMA)である。
【0005】
歯科材料において市場で使用されている酸モノマーは、リン酸二水素メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素2-メタクリロイルオキシエチル、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリト酸、2-[4-ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサブチル]アクリル酸エチルエステル(EAEPA)および2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸である。酸性基は、歯の構造の表面をエッチングしてすり減らし得、これは、この歯の構造への、機械的に改善された基材接着をもたらすことが公知である。さらに、酸基は、ぞうげ質/エナメル質表面のCa2+陽イオンにイオン結合し得、これもまた、この歯の構造への改善された接着をもたらす。
【0006】
酸性モノマーに加えて、酸性基を有する有機ポリマーもまた、歯科材料の調製のために通常使用される。これらは主として、グラスアイオノマーセメントの調製のために使用される。これらは、このポリマーの酸性基と、イオン放出充填剤成分との間での、イオン反応によって硬化する、歯科用セメントである。欧州特許第0 323 120号は、一方ではイオン硬化反応のためのイオン性基を有し、他方では光硬化性基を有する、ポリマーを含むグラスアイオノマーセメントを開示する。これらのイオン性基は、カルボキシル基である。
【0007】
欧州特許第0 796 607号は、メタクリル酸-(5-ノルボルネン-2-エンド/エキソ-メチル)エステルと、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-5-エン-2,3-エンド/エキソ-ジカルボン酸ビス(テトラヒドロピラン-2-イル)エステルとの開環メタセシス重合(ROMP)、その後、テトラヒドロピラン保護基の切断による、官能基化された弱酸性のポリカルボン酸の調製を開示する。これらのポリカルボン酸は、種々の基材への高い接着により特徴付けられ、そしてグラスアイオノマーセメントの調製のために特に適切である。
欧州特許第0 951 896号は、メタクリレート基に加えてカルボキシル基を有する酸性オリゴマーを含有する、歯科材料を開示する。これらの材料は、一方では、酸性オリゴマーとイオン放出充填剤との間の酸-塩基反応によって、そして他方では、ラジカル重合によって、硬化する。
【0008】
欧州特許出願公開第2 633 847号は、アクリル酸と、イタコン酸無水物(これもまた、カルボキシル基を有する)との、弱酸性コポリマーを含む、グラスアイオノマーセメントを開示する。
米国特許第3,872,047号は、極性基と非極性基とを有するポリマーの、アルコール中の溶液を含む、歯科用プライマーを開示する。これらの極性基は、金属含有表面に結合すると記載されている。これらの非極性基は、ラジカル重合性であり、そしてこのプライマーの層に塗布される歯科用修復材料と反応し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第0323120号明細書
【文献】欧州特許第0796607号明細書
【文献】欧州特許第0951896号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2633847号明細書
【文献】米国特許第3872047号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】J.Viohl,K.Dermann,D.Quast,S.Venz,Die Chemie zahnaerztlicher Fuellungskunststoffe[The chemistry of dental filling plastics],Carl Hanser Verlag,Munich-Vienna 1986,21-27
【文献】A.Peutzfeldt,Resin composites in dentistry:the monomer systems,Eur.J.Oral Sci.105(1997)97-116
【文献】J.W.Nicolson,H.M.Anstice,The chemistry of modern dental filling materials,J.Chem.Ed.76(1999)1497-1501
【文献】J.W.Stansburry,Curing dental resins and composites by photopolymerization,J.Esthet.Dent.12(2000)300-308
【文献】N.Moszner,T.Hirt,New Polymer-Chemical Developments in Clinical Dental Polymer Materials:Enamel-Dentin Adhesives and Restorative Composites,J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.50(2012)4369-4402
【文献】N.Moszner,U.Salz,J.Zimmermann,Chemical aspects of self-etching enamel-dentin adhesives:A systematic review,Dent.Mat.21(2005)895-910
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ラジカル重合性歯科材料であって、強酸性基を有する少なくとも1つのラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーを含有し、該ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、1,000g/mol~200,000g/molの数平均分子量を有する、ラジカル重合性歯科材料。
(項目2)
上記強酸性基はホスホン酸基である、上記項目に記載の歯科材料。
(項目3)
上記ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、1,000g/mol~100,000g/molの数平均分子量を有する、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目4)
上記ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、少なくとも1つの重合性基を有し、該重合性基は、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、およびアリル基、から選択される、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目5)
上記ポリマーにおける、上記強酸性基に対する重合性基の割合は、60mol%である、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目6)
上記ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、少なくとも1つのコモノマーを含み、該コモノマーは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、およびメタクリル酸2-アセトアセトキシエチルから選択される、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目7)
少なくとも1つのさらなるラジカル重合性モノマーを含有し、該さらなるラジカル重合性モノマーは、好ましくは、単官能性または多官能性の(メタ)アクリレート、単官能性または多官能性の(メタ)アクリレートの混合物、あるいは単官能性(メタ)アクリレートと二官能性(メタ)アクリレートとの混合物である、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目8)
少なくとも1つのラジカル重合性の酸基含有モノマーを含有する、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目9)
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有し、該開始剤は、好ましくは、光開始剤であるか、またはペルオキシドもしくはヒドロペルオキシドと合わせた光開始剤である、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目10)
少なくとも1つの有機粒子充填剤もしくは無機粒子充填剤、またはこれらの組み合わせをさらに含有する、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目11)
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~30重量%、そして特に好ましくは2重量%~20重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~40重量%、好ましくは2重量%~30重量%、そして特に好ましくは5重量%~20重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%、好ましくは1重量%~60重量%、そして特に好ましくは5重量%~50重量%の、ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)0重量%~70重量%、好ましくは20重量%まで(接着剤)、または10重量%~70重量%(接着セメント)の、充填剤(単数または複数)、ならびに必要に応じて、
f)0重量%~70重量%、好ましくは0重量%~60重量%、そして特に好ましくは0重量%~50重量%の、溶媒
を含有する、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目12)
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~30重量%、そして特に好ましくは2重量%~20重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%、好ましくは2重量%~30重量%、そして特に好ましくは5重量%~20重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%、好ましくは1重量%~60重量%、そして特に好ましくは5重量%~50重量%の、ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
e)0重量%~20重量%の、充填剤(単数または複数)、および
f)0重量%~70重量%、好ましくは5重量%~60重量%、そして特に好ましくは10重量%~50重量%の、溶媒
を含有する、接着剤または接着コーティング材料として使用するための、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目13)
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~30重量%、そして特に好ましくは2重量%~20重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%、好ましくは2重量%~20重量%、そして特に好ましくは2重量%~15重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)0重量%~60重量%、好ましくは0重量%~50重量%、そして特に好ましくは5重量%~40重量%の、ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)10重量%~70重量%、好ましくは20重量%~70重量%、そして特に好ましくは40重量%~70重量%の、充填剤(単数または複数)
を含有する、接着複合セメントまたは充填コンポジットとして使用するための、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目14)
損傷した歯を修復するための口内用途のため、あるいは歯科用接着剤、コーティング材料、充填コンポジットまたはセメントとしての口内治療用途のための、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
(項目15)
歯科用修復物の口腔外での製造または修復のための材料としての、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料の使用。
(項目16)
歯科用修復物の口腔外での製造または修復のための、上記項目のいずれか1項に記載の歯科材料。
摘要
少なくとも1つの、強酸性基を有するラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーを含有する、ラジカル重合性歯科材料であって、このラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーは、1,000g/mol~200,000g/molの数平均分子量を有する。
本発明の目的は、歯の構造、すなわち、歯のエナメル質およびぞうげ質への、高く、長期にわたる接着によって特徴付けられる、歯科材料を提供することである。これらの歯科材料はさらに、高い貯蔵安定性を有し、これは、活性を失うことなく、これらの歯科材料の輸送および保存を可能にする。
【0012】
この目的は、本発明によって、少なくとも1つの、強酸性基を有するラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマー、好ましくは、ホスホン酸基を有するラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーを含有する、歯科材料によって、達成される。本発明による歯科材料は、異なる酸性ラジカル重合性ポリマーの混合物を含有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
オリゴマーまたはポリマーとは、好ましくは1,000g/mol~200,000g/mol、特に好ましくは10,000g/mol~100,000g/molの数平均分子量を有する化合物を意味する。以下において、これらの化合物は、その分子量とは無関係に、一様に、酸性ポリマーまたはポリマーと称される。
【0014】
本発明によれば、強酸性基とは、特にホスホン酸基を意味する。他の酸性基は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸一水素基およびリン酸二水素基である。酸性ポリマーは、異なる型の酸基を含み得る。ホスホン酸基を専ら有する酸性ポリマーが好ましい。
【0015】
これらの強酸性基は、歯の構造の表面をエッチングし得、これによってすり減らし得、これは、この歯の構造への機械的に改善された接着をもたらす。さらに、これらの酸基は、ぞうげ質/エナメル質の表面のCa2+陽イオンとイオン結合し得、これもまた、接着の改善をもたらす。本発明の範囲内で、強酸性基を有するポリマーが、対応する量の酸性モノマーと比較して、歯の構造へのかなり高い接着をもたらすこと、すなわち、匹敵する濃度の酸基の場合、歯の構造への歯科材料のかなり良好な接着が達成されることが、驚くべきことに見出された。
【0016】
本発明によって使用される酸性ポリマーは、ラジカル重合性である。すなわち、これらは、少なくとも1つのラジカル重合性基を含む。好ましいラジカル重合性基は、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基およびアリル基であり、特に好ましいものは、メタクリル基およびアリル基である。この酸性ポリマーは、異なる型の重合性基を含み得る。1つの型の重合性基を有する酸性ポリマーが好ましい。これらの酸性ポリマーの重合性基は、ラジカル重合中に、これらのポリマーをポリマーネットワークに共有結合させる。
【0017】
このポリマー中の重合性基の割合は、これらの強酸性基に対して好ましくは60mol%であり、特に好ましくは、存在する酸基に対して5mol%~30mol%が、重合性基である。
【0018】
ホスホン酸基を有する酸性重合性ポリマーであって、10,000g/mol~100,000g/molの数平均分子量を有し、そしてメタクリル基および/またはアリル基を重合性側鎖基として有するものが、特に好ましい。
【0019】
これらの重合性酸性ポリマーは、公知の合成方法を使用して調製され得る。従って、規定された分子量を有するホモポリマーは、ラジカル重合または制御されたラジカル重合の方法を用いて、対応する酸モノマーまたはそのエステルから出発して、調製され得る。これらの酸モノマーまたはそのエステルは、1つのモノマー分子あたり、1つまたはより多くの酸基またはエステル基を含み得る。エステルに加えて、他の酸誘導体(すなわち、酸基が放出され得る誘導体)が使用され得る。いかなる遊離酸基もその誘導体も含まないモノマーの場合、これらの酸基は、その重合後の時点で、適切な反応において(例えば、加水分解によって)放出される。
【0020】
ホスホン酸基の場合、同様のエステルに結合したホスホン酸ジアルキル基またはホスホン酸ジシリル基を有する(メタ)アクリレートが、モノマー酸誘導体として特に適切である。これらのモノマーの重合後、これらのホスホン酸基は、容易に放出され得、ホスホン酸ジシリル基の場合、例えば、水またはメタノールとの簡単な反応によって、放出され得る。好ましい重合性ホスホネート誘導体は、例えば、(メタ)アクリル酸3-(ジメトキシホスホリル)プロピル、(メタ)アクリル酸3-[ジ(トリメチルシリル)ホスホリル]プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-メトキシホスホリル)エチル、(メタ)アクリル酸2-[ジ(トリメチルシリル)ホスホリル]エチル、2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸メチルエステルおよび2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸エチルエステルである。
【0021】
これらの酸基含有モノマーに加えてコモノマーを含むモノマー混合物を使用することによって、統計コポリマーが容易に得られる。好ましいコモノマーは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロ-フルフリルおよび(メタ)アクリル酸イソボルニル、ならびにメタクリル酸2-アセトアセトキシエチルである。
【0022】
コモノマーをポリマー鎖に組み込むことによって、ポリマー特性(例えば、湿潤挙動または溶解度)に、目的の様式で影響を与えることが可能である。例えば、極性基(例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)を有するコモノマーの組み込みは、水またはアルコールへの溶解度を改善し、一方で、非極性基(例えば、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ベンジルまたはメタクリル酸テトラヒドロフルフリル)を有するコモノマーの組み込みは、アセトンまたは酢酸エチルへの溶解度を改善する。
【0023】
酸基含有逐次コポリマーまたはブロックコポリマーはまた、制御されたラジカル重合の方法を使用して、または対応する酸モノマー誘導体の逐次アニオン重合およびその後の酸基の放出によって、得られ得る。
【0024】
重合性基の挿入は、好ましくは、適切に官能基化された重合性モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アリルアルコール、N-(メチル)-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(5-ヒドロキシペンチル)-メタクリルアミドまたはメタクリル酸グリシジル)を用いて得られる酸基含有ポリマーの反応によって、行われる。
【0025】
具体例は、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステルの、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いるラジカルホモ重合、およびその後の、メタクリル酸グリシジル(GMA)とのワンポット反応でのポリマー類似反応(polymer-analogous reaction):
【化1】
である。
【0026】
ポリマー類似反応とは、基材としてのポリマーが、その重合度を保存しながら(すなわち、モノマー構築ブロックの数を変化させずに)反応する、例えば、そのポリマー構造を他には変化させずに(分解なし、かつ架橋なしで)、そのポリマーの官能基を反応させて他の基を形成することによる、反応を意味する。
【0027】
ここで反応する酸基の割合は、好ましくは、そのポリマー中の重合性基の割合が、ホスホン酸基に対して60mol%までであるように、特に好ましくは、存在するホスホン酸基に対して5mol%~30mol%が、重合性基であるように、選択される。
【0028】
あるいは、これらの重合性基はまた、コモノマー成分のポリマー類似反応によって挿入され得る。ポリマー類似反応による重合性基の挿入のためには、OH基含有モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルまたはアリルアルコール)が特に適切であり、ここで形成されるポリマーのOH基は、メタクリル酸2-イソシアナトエチルとポリマー類似反応を起こし得る。
【0029】
これの具体例は、2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステルとメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)との、開始剤としてAIBNを用いるラジカル共重合、その後、そのOH基とメタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)とのポリマー類似反応(または部分反応)、ブロミドトリメチルシリル(TMSBr)、次いでメタノールとの反応によるエステル基の切断:
【化2】
である。
【0030】
あるいは、本発明によるポリマーはまた、最初に、イソシアネート基含有モノマー(例えば、メタクリル酸2-イソシアナトエチル)がラジカルホモ重合するように、調製され得る。次いで、このホモポリマーは、ヒドロキシル基含有メタクリレート(例えば、HEMA)およびヒドロキシル基含有ホスホン酸ジメチルエステル(例えば、2-ヒドロキシエチル-ホスホン酸ジメチルエステル)、好ましくは、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)と2-ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチルエステルとの混合物と、ポリマー類似反応を起こす。第三の工程において、それらのホスホン酸基が、例えば、ホスホネート基とTMSBr、次いでメタノールとの反応によって、放出される。
【0031】
本発明により使用される酸性ポリマーは、好ましくはポリ(メタ)アクリレートであり、特に好ましくは、上記酸性モノマーと必要に応じてコモノマーとのラジカル重合、および必要に応じてその後のポリマー類似反応によって得られ得る、ポリ(メタ)アクリレートである。これらのポリ(メタ)アクリレートは、酸性基およびラジカル重合性側鎖基を有する。
【0032】
これらの酸性ポリマーは、一方では、歯の構造の所望の基材接着を確実するために充分な数の遊離酸基をポリマー分子1個あたりに含むこと、および他方では、酸性ポリマーが硬化中に歯科材料のポリマーネットワークに共有結合し得るために充分な数の重合性基が存在することによって、特徴付けられる。
【0033】
本発明による酸性ポリマーは、アルコール(例えば、エタノール)およびアセトンに、またはアルコールまたはアセトンの水性混合物に、非常に可溶性である。さらに、これらは、ラジカル重合性モノマーと充分に混合し得、そして良好なラジカル共重合性を示し得る。これらは歯科材料に、歯の構造(すなわち、エナメル質およびぞうげ質)への良好な接着を与え、従って、重要な接着成分である。
【0034】
さらに、本発明によるポリマーは、良好なフィルム形性特性によって特徴付けられる。これは、歯科用接着剤における使用の場合に特に有利である。フィルム形成は、塗布されるときにその接着剤の均一な層の形成を確実にし、そしてその技術的耐性を改善する。例えば、良好なフィルム形成は、その溶媒が圧縮空気を吹き付けられるときに、液体接着層が損傷されるか、または完全に除去されさえする危険性を、低下させる。
【0035】
本発明による酸性ポリマーは、接着性歯科材料(例えば、接着剤、セメントまたはコーティング材料)の調製のために特に適切である。
【0036】
本発明によれば、少なくとも1つのラジカル重合性モノマーをさらに含有する歯科材料が好ましい。本発明による強酸性接着ポリマーは、従来の歯科用モノマーとの良好な適合性を有し、そして重合すると非常に良好な接着特性および機械特性を有する材料を生成する、安定な混合物を生成することが示された。本発明による歯科材料は、安定性を有し、これは、安全な輸送および安全な保存を可能にする。
【0037】
さらなるラジカル重合性モノマーまたはラジカル重合性モノマーの混合物として、(メタ)アクリレートが好ましく、単官能性(メタ)アクリレートと多官能性(メタ)アクリレートとの混合物が特に好ましく、そして単官能性(メタ)アクリレートと二官能性(メタ)アクリレートとの混合物が非常に特に好ましい。モノ(メタ)アクリレートとは、1個のラジカル重合性基を有する化合物を意味し、二官能性(メタ)アクリレートおよび多官能性(メタ)アクリレートとは、2個またはより多く、好ましくは2個~4個のラジカル重合性基を有する化合物を意味する。全ての場合において、メタクリレートは、アクリレートより好ましい。
【0038】
好ましい単官能性または多官能性の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルまたは(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2-アセトアセトキシエチル、メタクリル酸p-クミルフェノキシエチレングリコール(CMP-1E)、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)と2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの付加生成物)、TMX-UDMA(HEMAとメタクリル酸ヒドロキシプロピル(HPMA)との混合物と、ジイソシアン酸α,α,α‘,α‘-テトラメチル-m-キシリレン(TMXDI)との付加生成物)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1]デカン(TCDMA)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート(例えば、3個のエトキシ基を有するビスフェノールAジメタクリレート2-[4-(3-メタクリロイルオキシエトキシエチル)フェニル]-2-[4-(3-メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-プロパン)(SR-348C)、または2,2-ビス[4-(2-(メタ)アクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールもしくはテトラエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリトリトール、およびグリセロールジ(メタ)アクリレートアセテート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、または1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートもしくはグリセロールトリメタクリレート(GTMA)である。
【0039】
N-一置換またはN-二置換のアクリルアミド(例えば、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドまたはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド)、あるいはN-一置換メタクリルアミド(例えば、N-エチルメタクリルアミドまたはN-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド)、およびN-ビニル-ピロリドンまたはアリルエーテルが、さらに好ましい。これらのモノマーは、低い粘度および高い加水分解安定性により特徴付けられ、そして希釈モノマーとして特に適切である。
【0040】
架橋ピロリドン(例えば、1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン)または市販のビスアクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミドもしくはエチレンビスアクリルアミド)、またはビス(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタンもしくは1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン(これは、対応するジアミンから、(メタ)アクリル酸クロリドとの反応により合成され得る))もまた、好ましい。これらのモノマーは、高い加水分解安定性により特徴付けられ、そして架橋モノマーとして特に適切である。
【0041】
特に好ましいモノマーは:CMP-1E、ビス-GMA、UDMA、TMX-UDMA、TCDMA、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAのジメタクリル酸エステル、SR-348c、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸グリセロール、ジメタクリル酸1,10-デカンジオール、あるいはトリメタクリル酸グリセロール(GTMA)、およびN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパンである。さらに好ましいモノマーは、無水マレイン酸である。
【0042】
本発明によれば、歯のエナメル質およびぞうげ質への最適な接着は、酸性ポリマーを酸性モノマーと合わせることによって達成され得ることが、驚くべきことに見出された。従って、本発明による歯科材料はまた、好ましくは、1つまたはより多くの酸基含有ラジカル重合性モノマー(接着モノマー;酸性モノマー)を含有する。カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸一水素基またはリン酸二水素基を有する、ラジカル重合性のオリゴマーまたはポリマーもまた、酸性モノマーと合わせて、非常に適切である。しかし、ホスホン酸基を有する酸性ポリマーもまた、ここで非常に特に好ましい。少なくとも1つの酸性ポリマーおよび少なくとも1つの酸性モノマーに加えて、少なくとも1つの非酸性モノマーをさらに含有する材料が、特に有利である。
【0043】
好ましい酸基含有モノマーは、重合性のカルボン酸、ホスホン酸、リン酸エステルおよびスルホン酸である。
【0044】
好ましいカルボン酸は、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシンおよび4-ビニル安息香酸である。
【0045】
好ましいホスホン酸モノマーは、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチルペンチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸のエチルエステルおよび2,4,6-トリメチルフェニルエステルである。
【0046】
好ましい酸性重合性リン酸エステルは、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピルまたはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシエチルまたはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルである。
【0047】
好ましい重合性スルホン酸は、ビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸、または3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸である。
【0048】
特に好ましい酸モノマーは、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサブチル]アクリル酸のエチルエステルまたは2,4,6-トリメチルフェニルエステル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシプロピルまたはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素2-メタクリロイルオキシエチルまたはリン酸二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルである。
【0049】
本発明による歯科材料はまた、好ましくは、ラジカル重合のための開始剤、特に好ましくは、光開始剤を含有する。
【0050】
ベンゾフェノン、ベンゾインおよびその誘導体、またはα-ジケトンもしくはその誘導体(例えば、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジル)は、ラジカル光重合の開始のために好ましい。ショウノウキノンおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンは、特に好ましく使用され、そしてα-ジケトンは、還元剤としてのアミン(例えば、4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルエステル、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、N,N-ジメチル-sym-キシリジンまたはトリエタノールアミン)と合わせて、特に好ましく使用される。Norrish I型光開始剤(とりわけ、アシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド)、モノアシルトリアルキルゲルマニウム化合物またはジアシルジアルキルゲルマニウム化合物(例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムまたはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム)もまた、特に適切である。有利なことに、これらの異なる光開始剤の混合物(例えば、ショウノウキノンおよび4-ジメチル-アミノ-安息香酸エチルエステルと合わせた、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム)もまた使用され得る。
【0051】
熱開始剤(例えば、アゾ化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル)またはペルオキシド(例えば、過酸化ジベンゾイル)、ならびにベンゾピナコールおよび2,2’-ジアルキルベンゾピナコール)が、熱硬化のための開始剤として好ましい。
【0052】
好ましくは、レドックス開始剤の組み合わせ(例えば、過酸化ベンゾイルと、N,N-ジメチル-sym-キシリジンまたはN,N-ジメチル-p-トルイジンとの組み合わせ)が、室温で行われる重合のための開始剤として使用される。さらに、ペルオキシドまたはヒドロペルオキシドと、還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレート、チオ尿素またはスルフィン酸)とからなるレドックス系もまた、特に適切である。
【0053】
光重合性の歯科材料は、好ましくは、この歯科材料の全ての構成要素を含む1つの混合物の形態で、存在する。これらは、開始剤として排他的に光開始剤を含有し、そして光の照射により硬化し得る。
【0054】
光開始剤に加えて、二重硬化歯科材料は、ペルオキシド、好ましくはヒドロペルオキシドを、酸化剤としてさらに含有する。二重硬化材料は、好ましくは、2つの別々の混合物の形態で存在する。なぜなら、そうでなければ、尚早な効果が起こるからである。ここで第一の混合物は、好ましくは、(ヒドロ)ペルオキシドを含有し、そして第二の混合物は、好ましくは、チオ尿素誘導体を含有する。このチオ尿素誘導体は、還元剤(促進剤)として働く。これらの混合物はまた、それぞれ、触媒ペーストおよび促進剤ペーストと呼ばれる。これに関して、1つの混合物はまた、1つの成分または1つの構成要素のみからなり得る。
【0055】
二重硬化材料の硬化は、触媒ペーストと促進剤ペーストとを混合することによって、達成され得る。その組成は、これらのペーストが混合された後の数分間(いわゆる加工時間)にわたって、依然として加工可能なままであるが、この加工の後には迅速に硬化するように、調節される。この加工時間および硬化時間は、主として、例えば(ヒドロ)ペルオキシドおよびチオ尿素誘導体の型および濃度によって、ならびに必要に応じて、さらなる成分(例えば、遷移金属レドックス触媒および阻害剤)の添加によって、調節され得る。
【0056】
一般に、レドックス開始剤系によって活性化される重合は、光重合よりかなりゆっくりと進行する。これに対応して、二重硬化材料の場合には、過剰量が容易に除去され得、放射線により活性化される光重合は、過剰量が除去された後に開始される。
【0057】
さらに、本発明による歯科材料はまた、好ましくは、少なくとも1つの有機粒子充填剤、または特に好ましくは、無機粒子充填剤、あるいはこれらの混合物を含有する。この充填剤は、好ましくは、機械特性を改善するため、および粘度を適合させるために、添加される。酸化物をベースとする非晶質球状材料(例えば、SiO2、ZrO2ならびにTiO2、またはSiO2、ZrO2、ZnOおよび/もしくはTiO2の混合酸化物)、ナノ粒子充填剤または微細充填剤(例えば、発熱性シリカまたは沈降シリカ(10nm~1,000nmの重量平均粒子サイズ))、ならびにミニフィラー(例えば、石英、ガラスセラミックまたはX線不透過性ガラス粉末(例えば、ケイ酸アルミニウムバリウムガラスもしくはケイ酸アルミニウムストロンチウムガラス)(0.01μm~10μm、特に好ましくは0.01μm~1μm、非常に特に好ましくは0.2μm~1μmの重量平均粒子サイズ))が、充填剤として好ましい。さらに好ましい充填剤は、X線不透過性充填剤(例えば、三フッ化イッテルビウム、またはナノ粒子状酸化チタン(V)もしくは硫酸バリウム、またはSiO2の、酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合酸化物(10nm~1,000nmの重量平均粒子サイズ))である。本発明による歯科材料は、好ましくは、いかなるイオン放出充填剤も含まず、特に、いかなるCa2+放出ガラスもAl3+放出ガラスも含まない。
【0058】
充填剤粒子と架橋重合マトリックスとの間の結合を改善するために、SiO2ベースの充填剤は、メタクリレート官能基化シラン(例えば、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)で表面修飾され得る。非シリケート充填剤(例えば、ZrO2またはTiO2)の表面修飾のためには、官能基化酸性ホスフェート(例えば、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシ)もまた使用され得る。
【0059】
所望の意図される用途に依存して、本発明による歯科材料はまた、好ましくは、溶媒(特に、水、エタノール、またはこれらの混合物)を含有し得る。
【0060】
必要に応じて、本発明により使用される組成物はまた、さらなる添加剤(とりわけ、安定剤(例えば、重合安定剤)、矯味矯臭剤、染料、殺菌活性成分、フッ素イオン放出添加剤、蛍光染料、蛍光剤、可塑剤および/またはUV吸収剤)を含有し得る。
【0061】
本発明によれば、以下の組成を有する歯科材料が特に好ましい:
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~30重量%、そして特に好ましくは2重量%~20重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~40重量%、好ましくは2重量%~30重量%、そして特に好ましくは5重量%~20重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%、好ましくは1重量%~60重量%、そして特に好ましくは5重量%~50重量%の、他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)0重量%~70重量%、好ましくは、その用途に依存して、0重量%~20重量%(接着剤)、または10重量%~70重量%(接着セメント)、特に好ましくは、その用途に依存して、1重量%~15重量%(接着剤)または15重量%~60重量%(接着セメント)の充填剤(単数または複数)。
【0062】
接着剤または接着コーティング材料として使用するための歯科材料はまた、好ましくは、さらに:
f)0重量%~70重量%、好ましくは0重量%~60重量%、そして特に好ましくは0重量%~50重量%の、溶媒(好ましくは、水)
を含有する。
【0063】
接着剤または接着コーティング材料として使用するための歯科材料は、好ましくは、以下の組成を有する:
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは1重量%~30重量%、そして特に好ましくは2重量%~20重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%、好ましくは2重量%~30重量%、そして特に好ましくは5重量%~20重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~80重量%、好ましくは1重量%~60重量%、そして特に好ましくは5重量%~50重量%の、他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
e)0重量%~20重量%の、充填剤(単数または複数)、および
f)0重量%~70重量%、好ましくは5重量%~60重量%、そして特に好ましくは10重量%~50重量%の、溶媒(好ましくは、水)。
【0064】
接着複合セメントまたは充填コンポジットとして使用するための歯科材料は、好ましくは、以下の組成を有する:
a)0.1重量%~30重量%、好ましくは0.5重量%~20重量%、そして特に好ましくは1重量%~10重量%の、少なくとも1つの酸性ポリマー、
b)0.01重量%~10重量%、好ましくは0.1重量%~3.0重量%、そして特に好ましくは0.5重量%~3.0重量%の、開始剤(単数または複数)、
c)1重量%~30重量%、好ましくは2重量%~20重量%、そして特に好ましくは2重量%~15重量%の、酸性ラジカル重合性モノマー(単数または複数)、
d)1重量%~60重量%、好ましくは0重量%~50重量%、そして特に好ましくは5重量%~40重量%の、他のラジカル重合性モノマー(単数または複数)、および
e)10重量%~70重量%、好ましくは20重量%~70重量%、そして特に好ましくは40重量%~70重量%の、充填剤(単数または複数)。
【0065】
他に示されない限り、全ての量は、これらの材料の総質量に対してである。個々の量の範囲は、別々に選択され得る。
【0066】
記載された物質からなる歯科材料が、特に好ましい。さらに、個々の物質が各場合に、上記好ましい物質および特に好ましい物質から選択される、材料が好ましい。
【0067】
本発明による歯科材料は、接着剤および接着コーティング材料、充填コンポジットおよびセメントとして、特に適切である。
【0068】
これらの歯科材料は、主として、歯科医による、損傷した歯を修復するための口内用途のため、すなわち、例えば、接着剤または接着セメント、充填コンポジット、コーティングおよび前装材料(臨床材料)としての治療用途のために、適切である。しかし、これらはまた、口腔外で、例えば、歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジ(技術材料))の調製または修復において使用され得る。
【0069】
本発明は、実施形態の実施例によって、以下により詳細に説明される。
【実施例】
【0070】
実施形態の実施例
実施例1:
重合性基を有する強酸性接着ポリマーの合成
a)2-[4-(ジメトキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチルエステル(DMPAME)とメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)とのラジカル重合:
【化3】
【0071】
2.463gの開始剤2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)を、磁気撹拌子を入れてセプタムを備え付けた、加熱した500mlのSchlenkフラスコに入れた。不活性化操作(排気して窒素でフラッシュ)を3回行った後に、300gの溶媒混合物エタノール/水(1/1 vol./vol.)、ならびに35.137gのHEMAおよび7.986gのホスホン酸エステルDMPAMEを、このセプタムを通して注入した。従って、この溶液中の主成分(educt)濃度は、15質量%であった。次いで、この反応混合物を完全に脱気し、このSchlenkフラスコを窒素ガス流でフラッシュし、そして予め加熱した水浴に浸漬させることによって、重合反応を開始させた。この溶液を65℃で5時間撹拌し、そしてこの反応が終わった後に得られた、透明な、中度に粘性の混合物を、水中で48時間透析し、そして純粋なエタノール中でさらに12時間、室温で透析した。このために、再生セルロース(MW1000Da)からなる透析膜を使用した。次いで、この方法で精製した生成物溶液を濃縮乾固させ、そして減圧乾燥オーブン内室温で、減圧下で1週間乾燥させた。39.541g(87.2%)の収量を達成することができた。GPCによる分子量の決定は:Mn:56,000g/mol、Mw:248,000g/molを与えた。その組成を、その生成物の1H-NMRスペクトルから計算した。決定された組成は:91/9mol%/mol%(HEMA/DMPAME)であった。
【0072】
b)OH基とメタクリル酸2-イソシアナトエチル(IEMA)との部分ポリマー類似反応:
【化4】
【0073】
5.0316gの、工程a)で得られたポリマー、および0.1gのヒドロキノンを、磁気撹拌子を入れてセプタムを備え付けた、加熱した250mlのSchlenkフラスコ内に秤量した。この固体混合物を不活性にした後に、溶媒として70gのジメチルスルホキシドを、このセプタムを介して窒素雰囲気下で添加した。この混合物の溶解度を改善するために、この時点ですでに、その油浴を50℃に加熱しておいた。全ての成分が溶解したら、0.221gのジラウリル酸ジブチルスズおよび1.629gのIEMAもまた、このセプタムを介して注意深く滴下により添加した。従って、この溶液中の主成分濃度は、10質量%であった。この淡黄色の透明な反応混合物を、連続窒素気流下50℃で48時間撹拌し、そしてこの合成の終了後に、エタノール中で120時間、室温で透析した。濃縮した生成物溶液を、減圧下室温で1週間乾燥させた。5.645g(84.7%)の収量を達成することができた。GPCによる分子量の決定は:Mn:65,000g/mol、Mw:253,000g/molを与えた。1H NMR分光法により決定された組成は:61/9/30mol%/mol%/mol%(HEMA/DMPAME/IEMA反応生成物)であった。
【0074】
c)ブロミドトリメチルシリル(TMSBr)およびメタノールとの逐次反応によるホスホン酸基の脱保護:
【化5】
【0075】
4.350gの、先の工程b)から得られた乾燥ターポリマーを、磁気撹拌子およびセプタムを備える100mlのSchlenkフラスコに入れ、そして不活性化操作を3回行った。次いで、53gのDMFを窒素雰囲気下で添加した(この溶液の開始濃度は最大30質量%)。このポリマーが完全に溶解した後に、TMSBr(1.194g)を添加し、そしてこの淡黄色の透明な混合物を、不活性ガス下30℃で5時間撹拌した。この反応の終了後、55mlのメタノールを添加し、そして同様に、30分間撹拌した。この揮発性のメタノールおよびTMSBrを、減圧下で除去し、同時に、0.02gのBHTを添加し、そして残りの生成物溶液を、エタノール中で120時間透析した。この方法でDMFを除去した生成物溶液を濃縮乾固させ、そして減圧乾燥オーブン内室温で、減圧下で1週間乾燥させた。ホスホン酸およびメタクリレート基含有ターポリマーの、4.423g(85.4%)の収量を達成することができた。得られたターポリマーは、水性アルコール中への非常に良好な溶解度を有する。GPCによる分子量の決定は:Mn:44,500g/mol、Mw:143,000g/molを与えた。この生成物の得られた31Pスペクトルは、リンシグナルの、31.52ppm(ホスホン酸エステル)から23.64ppm(ホスホン酸)へのシフトを示した。1H-NMRスペクトルからの組成の計算は:61/9/30mol%/mol%/mol%(HEMA/ホスホン酸/IEMA反応生成物)を与えた。
【0076】
実施例2:
実施例1から得られた強酸性接着ポリマーをベースとする接着剤および接着調査
接着調査のために、以下の接着剤を調製した(表1):
【表1】
1)実施例1から得られたターポリマー、
2)ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、
3)ジメタクリル酸デカン-1,10-ジオール(D
3MA)、
4)リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDAP)、
5)Aerosil(登録商標)200(Evonik)、比表面積200m
2/g、
6)ショウノウキノン(A:1.80重量%およびB:1.88重量%)と、4-ジメチル-安息香酸エチルエステル(A:1.0重量%およびB:1.05重量%)と、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(A:1.0重量%およびB:1.05重量%)との混合物。
【0077】
ぞうげ質接着を調査するために、ウシの歯を、ぞうげ質とプラスチックとが同一面になるように、プラスチックシリンダーに包埋した。上記組成の接着剤の層を、小さいブラシ(マイクロブラシ)で塗布し、この接着剤をこの歯の構造の上でおよそ20秒間動かし、エアブロワで短時間吹き付けて溶媒を除去し、そしてLEDランプ(Bluephase,Ivoclar Vivadent)で10秒間、光に露出した。ラジカル硬化性の歯科用コンポジット材料のシリンダー(Tetric(登録商標)EvoCeram;Ivoclar Vivadent AG)を、この接着剤層上で重合させた。次いで、これらの試験片を水中で24時間、37℃で貯蔵し、そして接着剪断強度を、ISO指針「ISO 2003-ISO TR 11405:Dental Materials Guidance on Testing of Adhesion to Tooth Structure」に従って決定した(表2)。実施例1から得られたターポリマーを含む接着剤Aについての結果は、このポリマーを含まない接着剤Bと比較して、ぞうげ質への接着強度の有意な改善を示す。
【表2】
1)接着剤AおよびBにおける酸基の濃度。接着剤Aについては、ターポリマーおよびMDPAの酸基に基づき、そして接着剤Bについては、MDPAの酸基に基づく。