(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】薄ガラス積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 17/10 20060101AFI20220225BHJP
B32B 3/02 20060101ALI20220225BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B32B17/10
B32B3/02
C03C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2017181498
(22)【出願日】2017-09-21
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】村重 毅
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】岸 敦史
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254624(JP,A)
【文献】特開2015-017016(JP,A)
【文献】国際公開第2010/104039(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/10
B32B 3/02
C03C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルムと、該光学フィルムの少なくとも上方に配置された薄ガラスとを備え、
該光学フィルムが、偏光板、位相差板または等方性フィルムであり、
該薄ガラスの厚みが、30μm~150μmであり、
該薄ガラスの端面の少なくとも一部が、下方外側に延びる斜面、および/または曲面から構成されている、
薄ガラス積層体。
【請求項2】
前記薄ガラスの上方端において、端面の少なくとも一部が、前記下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている、請求項1に記載の薄ガラス積層体。
【請求項3】
前記薄ガラスの端面の少なくとも一部が、前記下方外側に延びる斜面から構成され、
該薄ガラスの上面と、該下方外側に延びる斜面とのなす角θ
1が、90°より大きく140°以下である、
請求項1または2に記載の薄ガラス積層体。
【請求項4】
前記薄ガラスが、その端面の少なくとも一部に、前記曲面として、外側に凸となる上向き曲面を有し、
該上向き曲面が、該曲面で(曲面の高さh1)×3/4となる箇所における接面Aと、薄ガラスの上面とのなす角θ
2が90°より大きくなる、曲面である、
請求項1に記載の薄ガラス積層体。
【請求項5】
前記角θ
2が、90°より大きく140°以下である、請求項4に記載の薄ガラス積層体。
【請求項6】
前記薄ガラスが、その端面の少なくとも一部に、前記曲面として、外側に凸となる下向き曲面をさらに有する、請求項4または5に記載の薄ガラス積層体。
【請求項7】
前記薄ガラスの端面の少なくとも一部が、前記下方外側に延びる斜面および/または前記曲面と垂直面とから構成される、請求項1から6のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項8】
前記薄ガラスにおいて、前記端面が前記下方外側に延びる斜面または前記曲面から構成されている部分の高さH1が、前記薄ガラスの厚みに対して、0.1%以上である、請求項1から7のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項9】
前記端面が前記下方外側に延びる斜面または前記曲面から構成されている部分の高さH1と、前記端面が前記垂直面から構成されている部分の高さH2との比(H1:H2)が、1:9~9.99:0.01である、請求項7または8に記載の薄ガラス積層体。
【請求項10】
前記薄ガラスの端面の算術平均表面粗さRaが、150nm以下である、請求項1から9のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項11】
前記薄ガラスの端面の10点平均粗さRzが、500nm以下である、請求項1から10のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項12】
前記光学フィルムは薄ガラスからはみ出すようにして配置される、請求項1から11のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項13】
断面視において、前記光学フィルムと前記薄ガラスとに生じる段差が、200μm以下である、請求項1から12のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項14】
前記光学フィルムが、偏光板である、請求項1から13のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項15】
前記光学フィルムが、透明導電層を有する、請求項1から14のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項16】
前記薄ガラスと前記光学フィルムとが、接着剤を介して積層されている、請求項1から15のいずれかに記載の薄ガラス積層体。
【請求項17】
薄ガラスと光学フィルムとを積層して積層体Aを形成し、該積層体Aを所定のサイズに切断した後、切断して得られた積層体Bの端面をポリシングにより研磨することを含む、
請求項1から16のいずれかに記載の薄ガラス積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄ガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像表示装置を構成する部材、例えば、表示素子の基板、有機EL素子の封止材、前面保護板等に、ガラス材と光学フィルム等の樹脂フィルムとから構成されるガラス積層体が用いられている。近年、画像表示装置は、軽量薄型化が進んでおり、また、フレキシブル化が求められる傾向にあり、より薄いガラス材から構成されたガラス積層体を用いることが要求されている。元来、ガラス材はその脆弱性に起因してハンドリング性が悪いため、薄型化に伴い、その問題は顕著となっている。特に、ガラス材を最表層に配置して構成されるガラス積層体においては、屈曲させた際(特に、ガラス材側を凸にして屈曲させた際)に割れが生じやすいという問題がある。これはガラスを曲げた際にくさび型の凹みがあるとそこに応力が集中するためであることが一般的に知られている。しかし、このくさび型の凹みは小さくすることが出来たとしても、完全な平滑面を得ることは原理的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、薄ガラス端面の平滑性に加え端面の形状により、薄ガラスの曲げによる破損が防止され、屈曲耐久性に優れる薄ガラス積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の薄ガラス積層体は、樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも上方に配置された薄ガラスとを備え、該薄ガラスの厚みが、30μm~150μmであり、該薄ガラスの端面の少なくとも一部が、下方外側に延びる斜面、および/または曲面から構成されている。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの上方端において、端面の少なくとも一部が、上記下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの端面の少なくとも一部が、上記下方外側に延びる斜面から構成され、該薄ガラスの上面と、該下方外側に延びる斜面とのなす角θ1が、90°より大きく140°以下である。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスが、その端面の少なくとも一部に、上記曲面として、外側に凸となる上向き曲面を有し、該上向き曲面が、該上向き曲面が、該曲面で(曲面の高さh1)×3/4となる箇所における接面Aと、薄ガラスの上面とのなす角θ2が90°より大きくなる、曲面である。
1つの実施形態においては、上記角θ2が、90°より大きく140°以下である。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスが、その端面の少なくとも一部に、上記曲面として、外側に凸となる下向き曲面をさらに有する。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの端面の少なくとも一部が、上記斜面および/または上記曲面と垂直面とから構成される。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスにおいて、上記端面が上記下方外側に延びる斜面または上記曲面から構成されている部分の高さH1が、上記薄ガラスの厚みに対して、0.1%以上である。
1つの実施形態においては、上記端面が上記下方外側に延びる斜面または上記曲面から構成されている部分の高さH1と、上記端面が上記垂直面から構成されている部分の高さH2との比(H1:H2)が、1:9~9.99:0.01である。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの端面の算術平均表面粗さRaが、150nm以下である。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの端面の10点平均粗さRzが、500nm以下である。
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムは薄ガラスからはみ出すようにして配置される。
1つの実施形態においては、断面視において、上記樹脂フィルムと上記薄ガラスとに生じる段差が、200μm以下である。
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムが、光学フィルムである。
1つの実施形態においては、上記光学フィルムが、偏光板である。
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムが、透明導電層を有する。
1つの実施形態においては、上記薄ガラスと上記樹脂フィルムとが、接着剤を介して積層されている。
本発明の別の局面によれば、上記薄ガラス積層体の製造方法が提供される。この製造方法は、薄ガラスと樹脂フィルムとを積層して積層体Aを形成し、該積層体Aを所定のサイズに切断した後、切断して得られた積層体Bの端面をポリシングにより研磨することを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、端面の少なくとも一部が斜面または曲面から構成されていることにより、薄ガラスが破損し難く、屈曲耐久性に優れる薄ガラス積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面斜視図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面斜視図である。
【
図4】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。
【
図5】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面斜視図である。
【
図6】本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.薄ガラス積層体の全体構成
本発明の薄ガラス積層体は、樹脂フィルムと、該樹脂フィルムの少なくとも上方に配置された薄ガラスとを備え、該薄ガラスは、該薄ガラスの端面の少なくとも一部が、下方外側に延びる斜面および/または曲面から構成されている。本発明の薄ガラス積層体は、薄ガラスの端面の少なくとも一部において、下方外側に延びる斜面または曲面を有することにより、薄ガラスが破損し難く、屈曲耐久性に優れる。これは、薄ガラス積層体を屈曲させた際、下方外側に延びる斜面または曲面により、薄ガラス積層体に加えられた力が分散され、局所的な負荷が低減されるためであると考えられる。またこの効果は端面が曲面を含む場合により顕著となる。以下、
図1~
図6を用いて、本発明の薄ガラス積層体の代表的な構成を具体的に説明する。
【0009】
図1は、本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面斜視図である。
図2は、
図1に示す薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。この実施形態による薄ガラス積層体100は、樹脂フィルム10と、樹脂フィルム10の少なくとも一方の面(上方)に配置された薄ガラス20とを備える。薄ガラス20は、薄ガラス20の端面の少なくとも一部において下方外側に延びる斜面21を含む。1つの実施形態においては、薄ガラス20と樹脂フィルム10とは、任意の適切な接着剤または粘着剤を介して積層され得る(図示せず)。また、樹脂フィルム10の薄ガラス20が配置される面においては、その全面が薄ガラス20に覆われていることが好ましい(すなわち、樹脂フィルム10の端部と薄ガラス20の端部とが一致することが好ましい)。なお、本明細書において、便宜上、薄ガラス積層体100の薄ガラス20側(紙面上側)を上方とし、樹脂フィルム10側(紙面下側)を下方とするが、これは、薄ガラス積層体の使用方法を限定するものではない。
【0010】
薄ガラス20の上面23と下方外側に延びる斜面21とのなす角θ1は、好ましくは90°より大きく、より好ましくは90°より大きく150°以下であり、より好ましくは90°より大きく140°以下であり、さらに好ましくは92°~140°である。このような範囲であれば、上記本発明の効果はより顕著となる。上記薄ガラスは、傾斜の異なる複数の下方外側に延びる斜面を有していてもよい。1つの実施形態においては、薄ガラスは下方内側に延びる斜面をさらに有していてもよい(図示せず)。例えば、薄ガラス20の下方端において、端面の少なくとも一部に下方内側に延びる斜面が形成されていてもよい。薄ガラスの下面と下方内側に延びる斜面とのなす角θ1’は、好ましくは90°より大きく、より好ましくは90°より大きく150°以下であり、より好ましくは92°~140°である。
【0011】
図3は、本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面斜視図である。
図4は、
図3に示す薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。この実施形態による薄ガラス積層体100’において、薄ガラス20は、薄ガラス20の端面の少なくとも一部において曲面22を含む。曲面22は、図示例のように、外側に凸となるように構成されることが好ましい。また、薄ガラス20の端面を構成する曲面は、曲率が一定な曲面であってもよく、任意の曲率で規定される曲面の集合であってもよい(曲率の異なる複数の曲面を有していてもよい)。以下、本明細書において、断面視が一定曲率の連続1曲線で構成される曲面を「1曲面」と称する。したがって、「任意の曲率で規定される曲面の集合」は、「1曲面の集合」と言い換えることができる。
【0012】
1つの実施形態においては、薄ガラス20は、その端面の少なくとも一部に、曲面22で(曲面22の高さh1)×3/4となる箇所(曲面22の下端辺22bを基準として、高さがh1×3/4となる箇所)における接面Aと、薄ガラスの上面23とのなす角θ2が、90°より大きい曲面(以下、このような曲面を「上向き曲面」という)を有する。角θ2は、好ましくは90°より大きく150°以下であり、より好ましくは90°より大きく140°以下であり、さらに好ましくは92°~140°である。このような範囲であれば、本発明の効果は顕著となる。
【0013】
図5は、本発明の1つの実施形態による薄ガラス積層体の概略断面図である。
図6は、
図5に示す薄ガラス積層体の端部の拡大断面図である。この実施形態による薄ガラス積層体100’’において、薄ガラス20は、薄ガラス20の端面の少なくとも一部において上向き曲面22と、下向き曲面24とを含む。下向き曲面24とは、曲面24で(曲面24の高さh1’)×1/4となる箇所(曲面24の下端辺24bを基準として、高さがh1’×1/4となる箇所)における接面Bと薄ガラスの下面25とのなす角θ
3が、90°より大きい曲面を意味する。角θ
3は、好ましくは90°より大きく150°以下であり、より好ましくは92°~140°である。このような範囲であれば、屈曲耐性を維持することができる。下向き曲面もまた、外側に凸となることが好ましい。
【0014】
1つの実施形態においては、
図1~6に示すように、薄ガラス20の上方端において、端面の少なくとも一部が、下方外側に延びる斜面21または曲面22(好ましくは上向き曲面)から構成されている。このような実施形態においては、上記下方外側に延びる斜面21または曲面22の上端辺21a、22aは、薄ガラス上面23に接する。このような構成であれば、脆弱、かつ、屈曲時により大きな力を受ける部分である薄ガラス上方端において、局所的な負荷が低減され、より破損し難い薄ガラス積層体とすることができる。
【0015】
1つの実施形態においては、
図1~6に示すように、薄ガラス20は、その端面の少なくとも一部において、下方外側に延びる斜面および/または曲面と垂直面25とから構成される。なお、垂直面25とは、樹脂フィルム10の上面23に対して略垂直な面を意味し、垂直面25と上面23のなす角は、好ましくは85°~95°であり、より好ましくは85°~90°である。これはガラスの厚みが薄いため許容されるものである。1つの実施形態においては、
図1および3に示すように、薄ガラス20の上方において、端面が下方外側に延びる斜面21または上向き曲面22から構成され、下方において、端面が垂直面25から構成される。別の実施形態においては、
図5に示すように、薄ガラス20は、上方から順に、上向き曲面22、垂直面25および下向き曲面24を有する。薄ガラスの端面が下方外側に延びる斜面または曲面と垂直面とを含んで構成されていれば、ガラス材の量を不要に減らすことなく、下方外側に延びる斜面または曲面を形成することの効果が発揮され、より屈曲耐久性に優れる薄ガラス積層体を得ることができる。なお、樹脂フィルムは薄ガラスからはみ出す若しくは引っ込むように配置されていてもよく、この場合、断面視において、樹脂フィルムと薄ガラスとに段差が生じるが、当該段差は小さいことが好ましい。樹脂フィルムと薄ガラスとに生じる段差は、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。
【0016】
薄ガラス(および薄ガラス積層体)の平面視形状は、任意の適切な形状であり得る。 薄ガラスの平面視において、隣り合う辺のなす角は直角であってもよく、直角でなくてもよい。また、隣り合う辺は、曲線により連結されていてもよい。また、薄ガラスの平面視形状は、直線により規定されていてもよく、任意の適切な曲率を有する曲線により規定されていてもよく、直線および曲線から規定されていてもよい。薄ガラスは円形であってもよい。これは本発明の端面が好ましい範囲であればガラスの屈曲耐性は面の形状に拘束されるものでは無いからである。
【0017】
本発明においては、薄ガラスの全周において、上記のように端面が下方外側に延びる斜面または曲面(好ましくは、上向き曲面)を有していてもよく、薄ガラスの周囲の一部において、上記のように端面が下方外側に延びる斜面または曲面(好ましくは、上向き曲面)を有していてもよい。また、薄ガラス積層体が矩形状の場合、その4辺において、上記のように端面が下方外側に延びる斜面または曲面(好ましくは、上向き曲面)を有していてもよく、向かい合う1組の辺において、上記のように下方外側に延びる斜面または曲面(好ましくは、上向き曲面)を有していてもよい。向かい合う1組の辺において端面が下方外側に延びる斜面または曲面(好ましくは、上向き曲面)を有する場合、その辺は、屈曲される辺であることが好ましい。また、薄ガラス20は、1端面において、下方外側に延びる斜面および曲面の両方を有していてもよい。
【0018】
薄ガラスにおいて、下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている部分の高さH1は、薄ガラスの厚みに対して、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。1つの実施形態においては、H1の上限は100%である。別の実施形態においては、H1は、好ましくは100%未満であり、より好ましくは99.9%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、さら好ましくは80%以下である。このような範囲であれば、破損し難い薄ガラス積層体を得ることができる。「端面が下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている部分の高さH1」とは、下方外側に延びる斜面および曲面の高さの合計を意味する。なお、端面が下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている部分以外の部分は、端面が垂直面から構成されている部分であり得る。
【0019】
端面が下方外側に延びる斜面または曲面から構成されている部分の高さH1と、端面が垂直面から構成されている部分の高さH2(すなわち、薄ガラスの厚みからH1を差し引いた高さ)との比(H1:H2)は、好ましくは1:9~10:0であり、より好ましくは1:9~9.99:0.01であり、より好ましくは2:8~9:1であり、さらに好ましくは4:6~6:4である。このような範囲であれば、破損し難い薄ガラス積層体を得ることができる。
【0020】
上記曲面の曲率半径は、好ましくは50μm~1500μmであり、より好ましくは50μm~1000μmである。このような範囲であれば、破損し難い薄ガラス積層体を得ることができる。上記曲面は一義的に決まる場合もあれば任意の曲率の集合により構成されてもよい。
【0021】
上記曲面(1曲面)を構成する曲線を含む扇形の中心角αは、好ましくは5°~95°であり、より好ましくは10°~90°であり、さらに好ましくは30°~90°である。このような範囲であれば、破損し難い薄ガラス積層体を得ることができる。
【0022】
上記薄ガラスの厚みは、好ましくは30μm~150μmであり、最も好ましくは50μm~100μmである。このような範囲であれば、薄ガラスの物性(硬度、CTE、バリア性等)を損なうことなく、フレシキブル性に優れる薄ガラス積層体を得ることができる。
【0023】
上記樹脂フィルムの厚みは、用途に応じて、任意の適切な厚みに設定され得る。樹脂フィルムの厚みは、例えば、10μm~500μmであり、好ましくは30μm~200μmである。
【0024】
上記樹脂フィルムの厚みと、薄ガラスの厚みとの比(樹脂フィルムの厚み/薄ガラスの厚み)の下限は、好ましくは0.2以上である。このような範囲であれば、薄ガラスの飛散を防止することができる。上記樹脂フィルムの厚みと、薄ガラスの厚みとの比(樹脂フィルムの厚み/薄ガラスの厚み)の上限は、好ましくは5以下である。このような範囲であれば、薄ガラスを凸として曲げた際にもガラス表面に掛かる応力を許容できる。樹脂フィルムの厚みと、薄ガラスの厚みとの比(樹脂フィルムの厚み/薄ガラスの厚み)は、より好ましくは0.3~3である。このような範囲であれば、薄ガラス積層体をハンドリングする際に薄ガラスが割れた場合にも、薄ガラスの破損を防止することができる。
【0025】
上記薄ガラス積層体は、任意の適切なその他の層を含み得る。例えば、薄ガラスの樹脂フィルムとは反対側の面に、任意の適切なその他の層が配置される。このような層としては、厚みが100μm以下の層が挙げられ、具体例としては、薄ガラス表面への異物付着、汚染を防ぐために一時的に配置される保護フィルムが挙げられる。また、ガラスの表面には、透明電極や反射防止層、防汚層などの機能層含んでも好い。機能層の厚みは、好ましく1μm以下である。
【0026】
1つの実施形態において、上記薄ガラス積層体は、薄ガラスの樹脂フィルムとは反対側の面に、その他の層を配置せずに構成される(すなわち、薄ガラスを最表層にして構成される)。薄ガラスを最表層に位置して構成される薄ガラス積層体は、薄ガラスが破損しやすい傾向にあり、特に、薄ガラス側を凸にして屈曲した場合に容易に割れる傾向があるが、本発明の薄ガラス積層体は、薄ガラスが最表層に位置して構成されていても、屈曲耐久性に優れる。
【0027】
B.薄ガラス
上記薄ガラスの形状は、代表的には、板状である。薄ガラスは、組成による分類によれば、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスが挙げられる。上記薄ガラスのアルカリ金属成分(例えば、Na2O、K2O、Li2O)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0028】
上記薄ガラスの波長550nmにおける全光線透過率は、好ましくは90%以上である。上記薄ガラスの波長550nmにおける屈折率ngは、好ましくは1.4~1.6である。
【0029】
上記薄ガラスの平均熱膨張係数は、好ましくは10ppm℃-1~0.5ppm℃-1あり、さらに好ましくは7ppm℃-1~0.5ppm℃-1ある。
【0030】
上記薄ガラスの密度は、好ましくは2.3g/cm3~3.0g/cm3あり、さらに好ましくは2.3g/cm3~2.7g/cm3ある。
【0031】
上記薄ガラスの端面の算術平均表面粗さRaは、好ましくは150nm以下であり、より好ましくは130nmであり、さらに好ましくは110nm以下である。上記薄ガラスの端面の算術平均表面粗さRaの下限は、例えば、10nm以上である。
【0032】
上記薄ガラスの端面の10点平均粗さRzは、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。上記薄ガラスの端面の10点平均粗さRzの下限は、例えば、200nm以上である。
【0033】
上記薄ガラスの成形方法は、任意の適切な方法が採用され得る。代表的には、上記薄ガラスは、シリカやアルミナ等の主原料と、芒硝や酸化アンチモン等の消泡剤と、カーボン等の還元剤とを含む混合物を、1400℃~1600℃の温度で溶融し、薄板状に成形した後、冷却して作製される。上記薄ガラスの薄板成形方法としては、例えば、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法等が挙げられる。これらの方法によって板状に成形された薄ガラスは、薄板化したり、平滑性を高めたりするために、必要に応じて、フッ酸等の溶剤により化学研磨されてもよい。
【0034】
上記薄ガラスは、市販のものをそのまま用いてもよく、あるいは、市販の薄ガラスを所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販の薄ガラスとしては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」または「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA-35」、日本電気硝子社製「OA-10」、ショット社製「D263」または「AF45」等が挙げられる。
【0035】
C.樹脂フィルム
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムとして、光学フィルムが用いられる。光学フィルムとしては、例えば、偏光板(偏光機能を有する光学フィルム)、位相差板、等方性フィルム等が挙げられる。樹脂フィルムは、単層構成であってもよく、多層構成であってもよい。
【0036】
上記樹脂フィルムを構成する材料としては、任意の適切な材料が用いられる。上記樹脂フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、アセテート系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0037】
上記樹脂フィルムの23℃における弾性率は、好ましくは1.5GPa~10GPaであり、より好ましくは1.8GPa~9GPaであり、さらに好ましくは1.8GPa~8GPaである。このような範囲であれば、薄ガラスを保護する効果が高く、破損し難い薄ガラス積層体を得ることができる。なお、本発明における弾性率は、引っ張り試験により、測定することができる。
【0038】
1つの実施形態においては、樹脂フィルムは透明導電層を有する。透明導電層付き樹脂フィルムは、樹脂フィルム上に透明導電層を配置して構成される。該透明導電層としては、例えば、金属酸化物層、金属層、導電性高分子を含む層、金属ナノワイヤを含む層、金属メッシュから構成される層等が挙げられる。
【0039】
D.保護フィルム
1つの実施形態においては、上記薄ガラスの外側表面に保護フィルムが配置される。当該保護フィルムは、一時的に薄ガラスを保護し、薄ガラスに異物等が付着することを防止する。保護フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、ナイロン、セロファン、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0040】
E.薄ガラス積層体の製造方法
1つの実施形態において、上記薄ガラス積層体は、薄ガラスと樹脂フィルムとを積層して積層体Aを形成し、該積層体Aを所定のサイズに切断した後、切断して得られた積層体Bの端部(端面)を研磨して得られ得る。
【0041】
1つの実施形態において、上記積層体Aは、上記樹脂フィルムと上記薄ガラスとを、接着剤を介して、積層することにより形成される。上記接着剤としては、任意の適切な接着剤が用いられる。上記接着剤としては、例えば、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基等の環状エーテル基を有する樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂等を含む接着剤が挙げられる。好ましくは、紫外線硬化型の接着剤が用いられる。
【0042】
別の実施形態においては、上記積層体Aは、樹脂溶液を薄ガラス上に塗工することにより形成され得る。
【0043】
上記積層体Aの切断方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。切断方法としては、例えば、フルバック、UVレーザー、ウォータージェット、エンドミル等を用いて切断する方法が挙げられる。
【0044】
上記積層体Bの端面のクラック長は、好ましくは10μm~300μmであり、より好ましくは10μm~200μmである。クラック長とは、積層体Bを上面から見た際のクラックの端面に垂直方向の長さ成分の最大値を意味する。
【0045】
上記積層体Bの端面の研磨方法としては、ポリシングが好ましく採用される。ポリシングとは、研磨布を積層体Bの端面に押しつけて相対運動させ、研磨布を相対運動させる際に被加工面に遊離砥粒を含むスラリーを供給して、該端面を研磨する方法である。本発明においては、ポリシングを行うことにより、上記で説明したような、下方外側に延びる斜面および/または曲面を有する端面を形成することができる。
【0046】
好ましくは、別の板ガラスまたは樹脂板に積層体Bを挟み込んだ状態で、積層体Bの端面の研磨処理を行う。このようにすれば、薄ガラス表面においては、ガラス面側においては研磨布の押し込みによりスラリーが薄ガラス上部に侵入し、薄ガラスの樹脂フィルム側においては、研磨布による押し込み効果が小さくすることができ、上記で説明したような、下方外側に延びる斜面および/または曲面を有する端面を良好に形成することができる。
【0047】
ポリシニングに用いる研磨布としては、ナイロンブラシが好ましく用いられる。ブラシの直径は、好ましくは0.1mm~0.5mmであり、より好ましくは0.1mm~0.3mmである。
【0048】
遊離砥粒としては、例えば、酸化セリウム、酸化シリコン、酸化インジウムなどを用いることが出来る。とりわけ酸化セリウムを用いることがガラスのシリコン成分とセリウムが置換反応も起こすためガラスを溶解させつつ切削できるため好ましい。上記遊離砥粒の粒径は1μm~5μm程度が好ましい。
【0049】
ポリシング時の研磨量は、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。目標とする研磨量が多すぎると、所望とする形状の薄ガラス積層体が得られないおそれがあり、例えば、ナイロンブラシにより樹脂層とガラスの界面が剥離するなどの不具合が生じるおそれがある。
【0050】
上記積層体Bをポリシングして得られた薄ガラス積層体において、ガラス部分の算術平均粗さRaは、好ましくは150nm以下であり、より好ましくは130nmであり、さらに好ましくは110nm以下である。当該ガラス部分の算術平均粗さRaの下限は、例えば、10nm以上である。また、当該ガラス部分の10点平均粗さRzは、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは400nm以下である。当該ガラス部分の10点平均粗さRzの下限は、例えば、200nm以上である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。実施例および比較例における評価方法は以下のとおりである。
【0052】
[製造例1]薄ガラス/樹脂フィルム積層体(積層体A)の作製
100μm厚の薄ガラス(日本電気硝子社製、商品名「OA-10」)に、樹脂フィルムを接着剤(エポキシ系のUV硬化型接着剤、厚み:10μm)を介して積層して、薄ガラス/樹脂フィルム積層体(積層体A)を作製した。樹脂フィルムとしては、厚みが5μmの偏光子と、厚みが40μmのアクリル系フィルムとを積層して構成されたフィルムを用いた。また、当該樹脂フィルムは、アクリル系フィルムが薄ガラスに対向するようにして、積層した。
【0053】
[実施例1]
上記積層体Aをダイシング装置(ショーダテクトロン社製、商品名「CCM-550A型」)により切断し積層体Bを得た。切断条件は、サンプルの両端部を固定した状態で、200mm径のダンヤモンド砥粒刃番手♯325の刃物を用い、回転数3000rpm、速度40mm/minにて切断(サイズ:60mm×120mm)した。
次いで、積層体Bを15枚積層し、その上下を厚み500μmの板ガラス(60mm×120mm)で挟み、ポリシング装置(ショーダテクトロン社製、商品名「BPM-380C」)を用いて、周辺部4辺を端面処理し、薄ガラス積層体を得た。
当該端面処理においては、直径0.2mmのナイロンブラシから成る6インチ径のロールを回転(回転速度900rpm、ブラシ当て量:5mm)させ、研磨液を供給しながら、当該ナイロンブラシにより、端面を研磨した。研磨液としては、水中に酸化セリウムの粒子(粒径:2μm~3μm)を含む研磨液を用いた。最終研磨量は100μmとした。
【0054】
[実施例2]
積層体Aの薄ガラス表面に表面保護フィルム(日東電工社製、RP207)を貼り合せた後、実施例1と同様に切断、ポリシング処理を施して、薄ガラス積層体を得た。
【0055】
[比較例1]
積層体AをUVレーザー(波長355nm、パルス幅15ps、速度1000mm/s、スキャン回数100回)にて切断して、薄ガラス積層体を得た。
【0056】
[比較例2]
積層体Aを裁断機で荒切りした後、15枚積層させ回転切削刃(MISUMI社製、XALシリーズ超硬スクエアエンドミル2枚刃/刃長3Dタイプ )にて端面処理して、薄ガラス積層体を得た。切削条件は切り込み量を0.5mm、回転数25000rpm、速度1500mm/sとして加工行った。
【0057】
[比較例3]
積層体Aをダイシング装置(ショーダテクトロン社製、CCM-550A型)により切断して、薄ガラス積層体を得た。切断条件は、サンプルの両端部を固定した状態で、200mm径のダンヤモンド砥粒刃番手♯325の刃物を用い、回転数3000rpm、速度40mm/minにて切断した。
【0058】
[評価]
実施例および比較例で得られた薄ガラス積層体(実施例2は、保護フィルムを剥離した後の薄ガラス積層体)を以下の評価に供した。結果を表1に示す。
(1)形状評価
薄ガラス積層体の断面をSEMにて観察し、端面形状(薄ガラス上方に形成された曲面の有無;曲面の曲率;曲面で(曲面の高さh1)×3/4となる箇所における接面Aと、薄ガラスの上面とのなす角θ2)を測定した。なお、比較例1~3の薄ガラス積層体は、薄ガラスの端面に曲面が形成されておらず、上面と垂直面とのなす角度は90°であった。
また、AFMにより、薄ガラス端面の算術平均表面粗さRaおよび算術平均表面粗さRaを測定した(視野:50μm□)。
(2)曲げ強度
薄ガラス積層体(サイズ:60mm×110mm)について、長辺側を屈曲させるようにして2点曲げ試験を行い割れた際の2点間の距離を測定した。2点間の距離とは、長辺方向一方端と他方端との距離であり、薄ガラス積層体を、長さ方向中央部を起点に屈曲させた際に、屈曲させるにつれて短くなる距離を意味する。また、2点間の距離が狭い程、曲げ強度が高いことを意味する。
【0059】
【0060】
表1から明らかなように、薄ガラスの端面に所定の曲面を形成することにより、屈曲耐久性に優れる薄ガラス積層体を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 樹脂フィルム
20 薄ガラス
100 薄ガラス積層体