(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】車両のシート制御装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/50 20060101AFI20220225BHJP
B60N 2/10 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B60N2/50
B60N2/10
(21)【出願番号】P 2017188791
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真壁 俊介
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-007834(JP,A)
【文献】特開2016-196225(JP,A)
【文献】特開2016-097904(JP,A)
【文献】特開2013-010492(JP,A)
【文献】特開2004-210053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0129372(US,A1)
【文献】特開2007-314163(JP,A)
【文献】特開2010-235068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/50
B60N 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において傾斜角度を調整可能に設けられたシートと、
自動運転中に前記車両の走行状態を判断して前記シートの傾斜角度を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
カーブが連続する場合、最初のカーブの進入時に
おいて前記シートの傾斜角度の制御開始を遅らせる、
車両のシート制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記車両がカーブへ進入すると各カーブにおける傾斜角度の制御を実施し、
連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせる、
請求項1記載の車両のシート制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および前記車両の傾き具合に応じて、前記シートに着座した乗員の上体に作用する車幅方向の加速度を減らすように、通常の傾斜角度の制御を実施し、
連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングの遅れによる制御不足を補うように、通常より大きく傾斜角度を制御する、
請求項1または2記載の車両のシート制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および前記車両の傾き具合に応じて、各カーブの走行期間中に傾斜角度を調整する制御を実施し、
連続カーブの最初のカーブにおいては、各カーブの走行期間中での累積的な傾斜角度が、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせていない場合のものに近づくように、傾斜角度を大きく制御する、
請求項1から3のいずれか一項記載の車両のシート制御装置。
【請求項5】
連続する前記カーブは、左右へ切り返すカーブである、
請求項1から4のいずれか一項記載の車両のシート制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車といった車両において、シートの傾斜角度を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の自動車は、ナビゲーション装置と、シート傾動機構と、シート制御システムと、を有する。そして、シート制御システムは、ナビゲーション装置からの情報により、カーブへの進入に応じてシートを傾斜させる。
これにより、シートの傾斜度がカーブに応じて調整され、シートに着座した乗員に対して上体を車幅方向へ倒す加速度が作用し難くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように自動車といった車両では、カーブを走行する際に、シートに着座した乗員に対して上体を車幅方向へ倒す加速度が作用し難くなるようにするものが提案されている。
このような技術は、自動運転の制御により車両を移動させる場合において、好適に利用できると考えられる。たとえば自動運転では、車両に乗車した乗員が操作する場合よりも急激に操舵するように制御を実施することが考えらせれる。このような場合でも、上述した技術を組み合わせることにより、乗員に対して上体を急激に大きく倒すような加速度が作用し難くできる。車両の限界性能において操舵されたとしても、乗員の上体がシート上で大きく倒れないようにすることも可能であると考えられる。
【0005】
しかしながら、このようなシート傾斜制御が高度に実施された場合、乗員に対しては上体を大きく倒すような力が作用しなくなり、乗員がカーブを走行していることを認識しないまま車両がカーブを通過してしまうことが考えられる。
そして、乗員は、たとえば左右へ切り返すカーブが連続する場合において二つ目以降のカーブへの進入の際に初めて左右に振られて初めて、左右へ切り返す連続カーブを走行中であることを認識する可能性がある。
このように既に左右へ切り返す連続カーブに進入した後にそれを走行中であることを認識した場合、乗員が状況を理解できない可能性がある。
また、左右へ切り返す連続カーブでは、次のカーブへの切り返しの際にシートが左右へ大きく切り替えて制御されることになるので、シート傾斜制御が高度に実施されたとしても、乗員の上体が左右に振れることを避けることはできない。
【0006】
このように車両では、連続するカーブを走行する場合であっても、シートの傾斜を適切に制御することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両のシート制御装置は、車両において傾斜角度を調整可能に設けられたシートと、自動運転中に前記車両の走行状態を判断して前記シートの傾斜角度を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、カーブが連続する場合、最初のカーブの進入時に前記シートの傾斜角度の制御開始を遅らせる。
【0008】
好適には、前記制御部は、前記車両がカーブへ進入すると各カーブにおける傾斜角度の制御を実施し、連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせる、とよい。
【0009】
好適には、前記制御部は、各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および前記車両の傾き具合に応じて、前記シートに着座した乗員の上体に作用する車幅方向の加速度を減らすように、通常の傾斜角度の制御を実施し、連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングの遅れによる制御不足を補うように、通常より大きく傾斜角度を制御する、とよい。
【0010】
好適には、前記制御部は、各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および前記車両の傾き具合に応じて、各カーブの走行期間中に傾斜角度を調整する制御を実施し、連続カーブの最初のカーブにおいては、各カーブの走行期間中での累積的な傾斜角度が、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせていない場合のものに近づくように、傾斜角度を大きく制御する、とよい。
【0011】
好適には、連続する前記カーブは、左右へ切り返すカーブである、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、自動運転中にカーブが連続する場合、シートの傾斜角度の制御開始を、最初のカーブの進入時において遅らせる。よって、最初のカーブの進入時に、乗員の上体が左右に振れることになる。
たとえば、車両がカーブへ進入すると各カーブにおける傾斜角度の制御を実施し、連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせる。これにより、最初のカーブでは、制御の開始タイミングを遅らせた分に相当する非常に短い期間において、乗員の上体に対して左右に倒すような加速度が作用する。
これにより、乗員は、連続するカーブに車両が進入する際に上体が振れて、連続カーブにこれから進入することを把握できる。連続カーブにこれから進入することを、乗員に知らせることができる。
しかも、制御開始を遅らせるだけなので、最初のカーブでの制御においてもシートの傾斜角度の制御が実施される。その結果、最初のカーブにおいても乗員の上体は進入時に左右に少し振れるだけであり、カーブの走行期間中にわたって上体が左右に大きく振れてしまうことはない。
このように、本発明では、連続するカーブを走行する場合であっても、最初の進入の際にそのことを乗員に把握させることができる。しかも、連続するカーブの走行中においても、シートの傾斜を適切に制御し続けて、乗員の上体がシートに対して大きく倒れてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車および走行する道路の一例の模式的な説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車に搭載されるシート制御装置の構成の説明図である。
【
図3】
図3は、
図2のシート制御部による処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、単独のカーブを走行する場合での、シートの傾斜角度の制御状態の説明図である。
【
図5】
図5は、
図4において、シートの傾斜角度の制御状態を示す模式的なタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、
図1の連続カーブにおける、シートの傾斜角度の制御状態を示す模式的なタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1および走行する道路の一例の模式的な説明図である。
図1では、自動車1が進行する道路の前方には、連続するカーブとして左右へ切り返すカーブS12~S14が連続している。この場合、自動車1は、たとえば自動運転による制御または乗員の操作により加速し、減速し、左右へ操舵されて、左右へ切り返す連続カーブに沿って走行することになる。
連続するカーブとしては、このほかにも途中で曲率が変化するカーブなどが考えられる。これらのカーブでは、一連の連続するカーブを通過する際に操舵方向や操舵量が変化する。なお、道路の形状としては短い直線区間を間に挟んで2つのカーブが連続する場合にも、操舵としては連続的になることがある。この場合でも操舵は、時間的に連続して切り替えてなされることになる。
また、左右へ切り返す連続カーブでは、操舵方向が切り替えされることになる。
【0016】
ところで、自動運転の制御により自動車1を移動させる場合、自動車1に乗車した乗員が操作する場合よりも急激に操舵するように制御が実施される可能性がある。この場合、乗員に対して上体を左右に大きく倒すような加速度が作用する可能性がある。
この対策のために、後述するシート2を車幅方向に沿って左右へ移動させるように制御することが考えられる。適切な角度にシート2が制御されることにより、乗員に対しては上体を大きく倒すような力が作用し難くなる。乗員がカーブを走行していることを認識しないまま、自動車1がカーブを通過してしまうようにできると考えられる。
しかしながら、単独のカーブではなく
図1のように左右へ切り返すカーブが連続している場合、たとえば二つ目以降のカーブへの進入の際にシート2が左右に大きく動くように制御されるため、乗員がカーブを走行中であることを認識することになる。乗員の上体が左右に振れることを避けることはできない。
そして、このように左右へ切り返す連続カーブに既に進入した後にシート2の制御による動きによりカーブの走行中であることを認識した場合、乗員はその状況を正確に理解できない可能性がある。
このように自動車1では、左右へ切り返す連続カーブを走行する場合であっても、シート2の傾斜を適切に制御することが求められている。
【0017】
図2は、
図1の自動車1に搭載されるシート制御装置10の構成の説明図である。
図2のシート制御装置10は、車外カメラ11、加速度センサ12、姿勢センサ13、タイマ14、シート2の傾斜角度の駆動機構15、駆動モータ16、およびこれらが接続されるマイクロコンピュータ17、を有する。
マイクロコンピュータ17は、たとえばECU(Electric Control Unit)として自動車1に設けられるものでよい。マイクロコンピュータ17は、たとえば図示外の記憶部に記憶されたプログラムを読み込んで実行する。これにより、マイクロコンピュータ17に、シート制御部18が実現される。
また、
図2には、シート2、自動運転のための自動運転制御部21、操舵装置22、制動装置23、駆動装置24、が図示されている。
【0018】
操舵装置22は、乗員によるハンドル操作などに基づいて、自動車1のタイヤの向きを制御し、自動車1の進行方向を制御する。
【0019】
制動装置23は、乗員によるブレーキ操作などに基づいて、自動車1を減速または停止させる。
【0020】
駆動装置24は、乗員によるアクセル操作などに基づいて、自動車1を加速させる。
【0021】
自動運転制御部21は、自動車1の走行を制御する。たとえば目的地までの移動経路に基づいて、操舵装置22、制動装置23および駆動装置24を制御して、自動車1を走行させる。
【0022】
車外カメラ11は、自動車1の前方などの周囲を撮像するカメラである。車外の撮像画像には、自動車1が走行する道路などが撮像され得る。
【0023】
加速度センサ12は、走行状態に応じて自動車1に作用する加速度を検出する。特に、車幅方向に沿った左右方向に作用する加速度を検出する。
【0024】
姿勢センサ13は、走行状態に応じた自動車1の姿勢を検出する。特に、左右方向への自動車1の傾きを検出する。
【0025】
タイマ14は、時間を計測する。タイマ14は、制御に使用するタイミングなどを計測できる。
【0026】
シート2の傾斜角度の駆動機構15は、円弧形状の湾曲レール19、湾曲レール19と接するローラ20、を有する。
湾曲レール19は、たとえばシート2と一体的に設けられ、車幅方向に沿って設けられる。
これにより、シート2は、左右方向で傾斜することができる。シート2は、自動車1において傾斜角度を調整可能に設けられる。
【0027】
駆動モータ16は、ローラ20を駆動する。ローラ20が回転することにより、湾曲レール19とともにシート2は左右方向に傾斜した状態に制御される。
【0028】
シート制御部18は、自動運転中に自動車1の走行状態を判断し、それに応じた傾斜角度にシート2を制御する。
たとえば、自動運転制御部21からの今後の制御に関する情報に基づいて自動車1がカーブへ進入すると判断した場合、シート制御部18は、そのカーブを通過し終えるまで、シート2の傾斜角度の制御を実行する。
【0029】
次に、シート制御部18による、シート2の傾斜角度の制御処理について説明する。
図3は、
図2のシート制御部18による処理の一例を示すフローチャートである。
シート制御部18は、
図3の処理を繰り返し実行する。
【0030】
シート2の傾斜角度の制御において、シート制御部18は、まず、カーブへの進入の有無を判断する(ステップST1)。シート制御部18は、自動運転制御部21からの進路情報に基づいて、これを判断すればよい。
直後にカーブへ進入しない場合、シート制御部18は、
図3の処理を終了する。
【0031】
直後にカーブへ進入する場合、シート制御部18は、更に左右への切り返しが生じる連続したカーブであるか否かを判断する(ステップST2)。
たとえば単発のコーナ、または曲率が途中で変化する長いカーブなどの場合、基本的に左右への切り返しが生じ難い。この場合、シート制御部18は、左右への切り返しが生じないと判断する。
【0032】
左右への切り返しが生じる連続したカーブの場合、シート制御部18は、さらにその連続した複数のカーブの最初のカーブへの進入であるか否かを判断する(ステップST3)。
【0033】
そして、左右への切り返しが生じない場合、または連続した複数のカーブの最初のカーブへの進入ではない場合、シート制御部18は、シート2の左右方向への傾斜角度を、カーブの曲がり具合および自動車1の傾き具合に応じて制御する通常のシート2の傾斜角度の制御を実行する(ステップST4)。
シート制御部18は、自動車1の傾きを解消するように、さらにシート2に着座した乗員の上体の上体に作用する車幅方向の加速度を減らすように、シート2の傾斜角度を制御する。
また、シート制御部18は、直後のカーブの曲がり具合を考慮して、シート2の傾斜角度を制御してよい。
【0034】
図4の処理が繰り返し実行されることにより、シート2に着座した乗員の上体は、シート2から倒れてはみ出さないように制御され得る。
各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および自動車1の傾き具合に応じて、各カーブの走行期間中に傾斜角度が調整される。
この場合、乗員は上体を支えるように力を入れたりすることなく、直線道路を走行している場合と同様の姿勢で、シート2に着座し続けることができる。
【0035】
これに対し、左右への切り返しが生じる連続した複数のカーブについての最初のカーブへ進入する場合、シート制御部18は、単に乗員を支えるだけでなく、乗員に対して左右への切り返しが生じる連続カーブへ進入し始めることを把握させるための制御を実施する。
具体的には、シート制御部18は、まず、通常のシート2の傾斜角度の制御によるシート2の傾斜角度を仮想的に演算し、カーブに進入し始めてからの累積的な角度の値を演算する(ステップST5)。
次に、シート制御部18は、タイマ14により計測される時間に基づいて、予め設定されたたとえば数十ミリ秒の遅延時間の経過を待って(ステップST6)、シート2の傾斜角度の制御を開始する(ステップST7)。
【0036】
連続カーブの最初のカーブに進入し始めた後に
図4の処理が繰り返し実行されることにより、累積的な角度の値は増加してゆく。また、タイマ14の計測時間も遅延時間に近づいてゆく。
そして、
図4の処理を繰り返し実行している間にタイマ14の計測時間が遅延時間より大きくなると、シート制御部18は、傾斜角度の累積値に基づいて、シート2の傾斜角度を制御する。なお、この際、突然に大きく傾斜角度が変更されないように係数やリミット値を設けてもよい。
これにより、連続カーブの最初のカーブでは、シート2の傾斜角度の制御は、通常より遅れたタイミングから開始される。また、制御が開始された後は、通常の制御と比べて傾斜角度の制御開始タイミングが遅れたことによる制御不足を補うように、通常より大きくシート2の傾斜角度を制御する。
左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいては、そのカーブの走行期間中での累積的な傾斜角度が、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせていない場合のものに近づくように、通常より大きく傾斜角度が制御される。
【0037】
図4は、単独のカーブを走行する場合での、シート2の傾斜角度の制御状態の説明図である。
図4の単独のカーブを走行する場合、直進区間S1においては、自動車1もシート2も左右に傾いていない。乗員は、シート2の真上に着座している。
その後、左曲がりのカーブの区間S2に自動車1が進入すると、自動車1はカーブの外側である右側に傾く。また、シート2に着座した乗員の上体には、カーブの外側である右側へ傾ける加速度が作用する。
シート制御部18は、
図3のステップST4の通常のカーブでの傾斜角度の制御を繰り返し実行することにより、自動車1の傾きを打ち消し、乗員の上体に対して倒すように加速度が作用しなくなるように、シート2の傾斜角度を制御し続ける。
その後、自動車1は、左曲がりのカーブを抜けて、再び直進区間S3に進入する。自動車1もシート2も左右に傾かなくなる。その状態で、乗員は、シート2の真上に着座する。
【0038】
図5は、
図4において、シート2の傾斜角度の制御状態を示す模式的なタイミングチャートである。
図5の横軸は時間である。
図5の縦軸は、シート2の傾斜方向および傾斜量である。上側は左側への傾斜であり、下側は右側への傾斜である。
図5に示すように、直進区間S1およびS3では、シート2は、傾斜した状態に制御されない。
その間のカーブの区間S2において、シート2の傾斜角度は制御される。シート2の傾斜角度は、カーブに進入し始めてから自動車1の姿勢が安定するまでの期間で段階的に増加し、自動車1の姿勢が安定すると所定の角度に維持され、カーブから脱出し始めてから自動車1の姿勢が安定するまでの期間で段階的に減少している。
これにより、カーブの区間S2において、乗員は、シート2に真上から着座した状態に維持され得る。
【0039】
次に、
図1のように複数の連続したカーブに進入して走行する場合について説明する。
図6は、
図1の連続カーブにおける、シート2の傾斜角度の制御状態を示す模式的なタイミングチャートである。横軸および縦軸は、
図5と同様である。
区間S11は、連続カーブの直前の直線区間である。区間S12は、連続カーブの最初のカーブの区間である。区間S13は、連続カーブの二番目のカーブの区間である。区間S14は、連続カーブの三番目のカーブの区間である。区間S15は、連続カーブを通過した後の直線区間である。
この場合、シート制御部18は、連続する複数のカーブの区間において、シート2の傾斜角度を左右方向で切り替えるように、シート2の傾斜角度を制御する。
最初の右カーブの区間S12では、シート2を右側へ傾斜させ、二番目の左カーブの区間S13では、シート2を左側へ傾斜させ、三番目の右カーブの区間S14では、シート2を再び右側へ傾斜させている。
また、最初の右カーブの区間S12では、
図3のステップST5からST7による最初のカーブの制御処理により、シート2の傾斜角度の制御の開始タイミングを遅延時間Delayで遅らせている。また、その後のシート2の傾斜角度の制御では、点線で示す通常の場合より大きな傾斜角度で制御している。
そして、
図6において点線による仮想の累積的な傾斜角度の制御の面積S(img)と、実線による実際の累積的な傾斜角度の制御の面積S(act)とは、同じになるように制御される。
【0040】
以上のように、本実施形態では、自動運転中に左右へ切り返すカーブが連続する場合、シート2の傾斜角度の制御開始を、最初のカーブの進入時において遅らせる。よって、最初のカーブの進入時に、乗員の上体が左右に振れることになる。
たとえば、自動車1がカーブへ進入すると各カーブにおける傾斜角度の制御を実施し、左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせる。これにより、最初のカーブでは、制御の開始タイミングを遅らせた分に相当する非常に短い期間において、乗員の上体に対して左右に倒すような加速度が作用する。
これにより、乗員は、左右へ切り返す連続カーブに自動車1が進入する際に上体が振れて、連続カーブにこれから進入することを把握できる。連続カーブにこれから進入することを、乗員に知らせることができる。
しかも、制御開始を遅らせるだけなので、最初のカーブでの制御においてもシート2の傾斜角度の制御が実施される。その結果、最初のカーブにおいても乗員の上体は進入時に左右に少し振れるだけであり、カーブの走行期間中にわたって上体が左右に大きく振れてしまうことはない。
このように、本発明では、左右へ切り返す連続カーブを走行する場合であっても、最初の進入の際にそのことを乗員に把握させることができる。しかも、左右へ切り返す連続カーブの走行中においても、シート2の傾斜を適切に制御し続けて、乗員の上体がシート2に対して大きく倒れてしまうことを抑制できる。
【0041】
本実施形態では、各カーブにおいては、各カーブの曲がり具合および自動車1の傾き具合に応じて、シート2に着座した乗員の上体に作用する車幅方向の加速度を減らすように、通常の傾斜角度の制御を実施する。これにより、通常のカーブでは、乗員に対して上体を大きく倒すような加速度が作用し難くなる。
しかも、本実施形態では、左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいては、傾斜角度の制御開始タイミングの遅れによる制御不足を補うように、通常より大きく傾斜角度を制御する。よって、左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいても、乗員に対して上体を大きく倒すような加速度が作用し続けることが起き難くなる。
【0042】
特に、たとえば、各カーブにおいて、各カーブの曲がり具合および自動車1の傾き具合に応じて、各カーブの走行期間中に傾斜角度を調整する制御を実施し、左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいては、各カーブの走行期間中での累積的な傾斜角度が、傾斜角度の制御開始タイミングを遅らせていない場合のものに近づくように、傾斜角度を大きく制御する。これにより、左右へ切り返す連続カーブの最初のカーブにおいても、他のカーブの場合と同様に、カーブの曲がり具合および自動車1の傾き具合に応じた制御を実施できる。
【0043】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…自動車(車両)、2…シート、10…シート制御装置、11…車外カメラ、12…加速度センサ、13…姿勢センサ、14…タイマ、15…駆動機構、16…駆動モータ、17…マイクロコンピュータ、18…シート制御部(制御部)、19…湾曲レール、20…ローラ、21…自動運転制御部、22…操舵装置、23…制動装置、24…駆動装置