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特許7029927抗ウイルス剤、並びにそれを用いたのど飴、うがい薬及び洗口液
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  • 特許-抗ウイルス剤、並びにそれを用いたのど飴、うがい薬及び洗口液 図1
  • 特許-抗ウイルス剤、並びにそれを用いたのど飴、うがい薬及び洗口液 図2
  • 特許-抗ウイルス剤、並びにそれを用いたのど飴、うがい薬及び洗口液 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、並びにそれを用いたのど飴、うがい薬及び洗口液
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20220225BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220225BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20220225BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220225BHJP
   A23G 3/48 20060101ALI20220225BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220225BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20220225BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61K36/82
A61P31/16
A61K36/48
A61P43/00 121
A23G3/48
A61Q11/00
A61K8/9789
A61P1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017203245
(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2019077617
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591266157
【氏名又は名称】株式会社龍角散
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(72)【発明者】
【氏名】福居 篤子
(72)【発明者】
【氏名】中坪 拓也
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-104797(JP,A)
【文献】特開2003-212771(JP,A)
【文献】特開2016-209802(JP,A)
【文献】特開平11-193242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 8/00-8/99
A61Q 11/00
A23G 1/00-9/52
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小豆抽出物及び抹茶を含有し、前記小豆抽出物と前記抹茶の質量比が1:8~2:1の範囲内であり、
前記小豆抽出物は、生赤小豆を常温~100℃ の水に一晩浸漬し、水を濃縮して乾燥して得られた乾燥抽出物であり、前記乾燥抽出物の乾燥重量が前記生赤小豆の約0.5~3重量%である、A型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記小豆抽出物と前記抹茶の質量比が1:2~2:1の範囲内である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記小豆抽出物と前記抹茶の質量比が1:2である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
インフルエンザウイルスに対して用いられる請求項1~3のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含有する、抗A型インフルエンザウイルス用ののど飴。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含有する、抗A型インフルエンザウイルス用のうがい薬。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含有する、抗A型インフルエンザウイルス用の洗口液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤に関し、具体的には、小豆抽出物及び抹茶を含有する抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、これまでに多くの生命の存続を脅かしてきた。例えば、インフルエンザウイルスのパンデミックの発生は常に危惧されている事態であり、一度パンデミックが生じれば多くの生命が失われることが予測されている。インフルエンザウイルスのように感染力が高いウイルスは集団感染を引き起こし易く、しかも、感染したときには重症化する傾向にある。そのため、これらのウイルスの感染をいかに予防するかが重要な課題となっている。このような状況の下、様々な抗ウイルス薬の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、緑茶成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤が記載されている。また、特許文献2~4には、小豆抽出物が抗ウイルス活性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5653034号明細書
【文献】特開2008-290967号公報
【文献】特開2010-222344号公報
【文献】特開2012-062247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに様々な抗ウイルス剤が開発されてきたが、より効果的で副作用の少ない薬剤の開発が望まれる。そこで、本発明は、優れた抗ウイルス活性を有する新たな抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、小豆抽出物及び抹茶を含有し、前記小豆抽出物と前記抹茶の質量比が1:8~2:1の範囲内である抗ウイルス剤が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗ウイルス剤は、小豆抽出物と抹茶の相乗効果により、優れた抗ウイルス活性を有する。また、本発明の抗ウイルス剤は天然に存在する植物由来の原料を用いているため、人体、動物、環境への負荷が小さく、様々な食品、飲料、医薬品、医薬部外品等に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、抹茶濃度に対する細胞生存率をプロットしたグラフである。
図2図2は、小豆抽出物と抹茶の併用効果を示すアイソボログラムである。
図3図3は、薬剤中の小豆抽出物割合に対して相乗効果指数をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で適宜改変することができる。
【0010】
実施形態に係る抗ウイルス剤は、小豆抽出物と抹茶を含有する。
【0011】
小豆抽出物とは、小豆を溶媒に浸漬することで得られる抽出液、抽出液の希釈液若しくは濃縮液、又は抽出液を乾燥して得られる乾燥物を意味する。溶媒としては水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合物を用いることができる。特に、小豆抽出物は、生小豆を常温~100℃の水に一晩浸漬し、その水を濃縮し、乾燥した物であることが好ましく、それにより生小豆の約0.5~3重量%の乾燥抽出物が得られる。小豆抽出物の原料としては任意の種類の小豆を用いることができるが、例えば赤小豆を用いることができる。小豆抽出物は、株式会社AVSS社製の小豆抽出物「小豆RKS-POW」であってよい。
【0012】
本願において、「抹茶」とは粉末状の抹茶を意味する。抹茶は一般的な方法で製造されたものであってよく、市販の抹茶を使用してもよい。例えば株式会社堀田勝太郎商店製の抹茶「宇治抹茶KR-RSK001」を用いてよい。
【0013】
抗ウイルス剤が含有する小豆抽出物の質量と抹茶の質量の比は1:8~2:1の範囲内である。本願において、小豆抽出物の質量とは、小豆抽出物が溶媒を含有する場合、小豆抽出物から溶媒を除いた質量を意味する。小豆抽出物と抹茶の質量比は、1:2~2:1であってもよく、特に1:2であってもよい。質量比が上記範囲内であると、小豆抽出物と抹茶の相乗効果が高いため、優れた抗ウイルス活性が得られる。
【0014】
実施形態に係る抗ウイルス剤は、小豆抽出物の抗ウイルス活性と抹茶の抗ウイルス活性が相乗的に作用する。そのため、小豆抽出物のみを用いた抗ウイルス剤と比べて、より低い小豆抽出物濃度で十分な抗ウイルス活性を示すことができる。また、抹茶のみを用いた抗ウイルス剤と比べても、より低い抹茶濃度で十分な抗ウイルス活性を示すことができる。小豆及び抹茶は食経験が豊富であり、概して安全性は高いと考えられるが、高濃度茶成分については肝機能障害等の副作用の可能性があることが報告されている。実施形態に係る抗ウイルス剤は、上述のように小豆抽出物と抹茶を併用することで小豆抽出物と抹茶の濃度を低減させることができるため、小豆抽出物及び/又は抹茶による副作用の発生を抑制することができる。
【0015】
実施形態に係る抗ウイルス剤は、抗インフルエンザウイルス剤としてインフルエンザの予防又は治療に用いることができる。
【0016】
実施形態に係る抗ウイルス剤は、医薬品、医薬部外品又は飲食品に含まれてよい。医薬品及び医薬部外品の形態は特に限定されないが、例えば、カプセル剤、経口液剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤、経口ゼリー剤等の経口投与する製剤、トローチ剤、ドロップ剤、口腔用スプレー剤、含嗽剤(うがい薬)、洗口液等の口腔内に適用する製剤であってよい。飲食品の形態は特に限定されないが、例えば、のど飴等の飴、錠菓(タブレット)、ゼリー、飲料であってよい。
【0017】
抗ウイルス剤を含有するのど飴は、砂糖、水飴等の基材を加熱混合して得た素飴に、香料等を添加配合し、抗ウイルス剤を練り合わせることにより製造することができる。のど飴は、酸味料、乳化剤、着色料、甘味料等を含んでもよい。また、還元麦芽水飴等のシュガーレス基材を用いてもよい。
【0018】
抗ウイルス剤を含有するうがい薬又は洗口液は、水に抗ウイルス剤を添加したものであってよい。うがい薬は、香料、着色料、防腐剤、酸味料、乳化剤、甘味料等を含んでもよい。また、糖類、糖質等を含んでもよい。
【実施例
【0019】
以下、本発明の抗ウイルス剤を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で適宜改変することができる。
【0020】
小豆抽出物及び/又は抹茶を含有する薬剤の細胞毒性評価及び抗ウイルス活性評価を行った。評価には以下の材料を用いた。
小豆抽出物:株式会社AVSS製「小豆RKS-POW」
抹茶:株式会社堀田勝太郎商店製「宇治抹茶KR-RSK001」
細胞株:MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞
ウイルス株:A型インフルエンザウイルスA/WSN/33(H1N1)
【0021】
96ウェルマイクロプレートを、MDCK細胞、薬剤及びインフルエンザウイルスを添加する抗ウイルス活性評価領域、MDCK細胞及び薬剤を添加し、インフルエンザウイルスを添加しない細胞毒性評価領域、インフルエンザウイルスを添加しMDCK細胞及び薬剤を添加しない第1ブランク領域、MDCK細胞、薬剤及びインフルエンザウイルスを添加しない第2ブランク領域に区画した。
【0022】
MDCK細胞を10%血清含有MEM培地に懸濁し、3.0×10cells/mLのMDCK細胞懸濁液を調製した。抗ウイルス活性評価領域及び細胞毒性評価領域の各ウェルに100μLずつMDCK細胞懸濁液を添加した。これにより、各ウェルにMDCK細胞を3.0×10cells播種した。
【0023】
播種したMDCK細胞を37℃、5%COインキュベータ内で24時間培養した。その後、ウェル内のMEM培地をアスピレータを用いて除去した。抗ウイルス活性評価領域及び細胞毒性評価領域の各ウェルに無血清MEM培地を100μL添加し、除去することでMDCK細胞を1回洗浄した。
【0024】
小豆抽出物及び/又は抹茶をMEM培地に溶解させ、表1に示す濃度の薬剤を調製した。これらの薬剤100μLを抗ウイルス活性評価領域の各ウェルに添加した。同様に、細胞毒性評価領域の各ウェルにも薬剤100μLを添加した。第1ブランク領域及び第2ブランク領域のウェルには無血清MEM培地を100μL添加した。
【0025】
【表1】
【0026】
A型インフルエンザウイルス液を無血清MEM培地で希釈し、1000TCID50/mLのウイルス液を調製した。ウイルス液を抗ウイルス活性評価領域と第1ブランク領域のウェルに100μLずつ添加した。各ウェルのウイルス添加量は100TCID50(MOI換算0.002)となった。細胞毒性評価領域及び第2ブランク領域の各ウェルには、無血清MEM培地を100μL添加した。その後96ウェルマイクロプレートを37℃、5%COインキュベータ内に入れ、72時間培養を行った。
【0027】
培養後、アスピレータを用いて各ウェルから培地を除去した。各ウェルに70%エタノールを200μL加えて5分間室温に置くことで、細胞を固定した。次いで、エタノールをデカンテーションにて除去した。クリスタルバイオレットを含有する染色液を各ウェルに加え、残存するMDCK細胞(生細胞)を染色した。染色液をデカンテーションで除き、水道水でプレートを洗浄し、室温にてプレートを乾燥させた。
【0028】
マイクロプレートリーダー(TECAN社製「infinite M200」)を用いて、各ウェルの波長560nmにおける吸光度を測定した。
【0029】
細胞毒性評価領域のウェルはいずれも同等の吸光度であった。このことから、いずれの薬剤も細胞毒性がないことが確認された。
【0030】
以下の式により、抗ウイルス活性評価領域の各ウェルの細胞生存率を求めた。
【0031】
細胞生存率[%]={(A-Ab1)/(A-Ab2)}×100
:抗ウイルス活性評価領域のウェルの吸光度
b1:第1ブランク領域のウェルの吸光度
:細胞毒性評価領域のウェルの吸光度
b2:第2ブランク領域のウェルの吸光度
【0032】
薬剤中の小豆抽出物の濃度が0、16、31、63μg/mLの場合のそれぞれについて、抹茶濃度に対する細胞生存率をプロットしたグラフを図1に示す。また、薬剤中の小豆抽出物の濃度が0、16、31、63μg/mLの場合のそれぞれについて、抹茶のIC50(50%阻害濃度、Half maximal inhibitory concentration)を求めた。結果を図2中に示す。
【0033】
図2は、小豆抽出物と抹茶の併用効果を示すアイソボログラムである。図2中、破線と縦軸の切片は抹茶単独のIC50、破線と横軸の切片は小豆抽出物単独のIC50を示す。実験値(プロット)が破線上にある場合は、小豆抽出物と抹茶の併用効果が相加的であることを意味し、実験値が破線より下方の領域にある場合は小豆抽出物と抹茶の併用効果が相乗的であることを意味し、実験値が破線よりも上方の領域にある場合は小豆抽出物と抹茶の併用効果が拮抗的であることを意味する。本実験では、実験値のプロットが破線よりも下方にあったことから、小豆抽出物と抹茶の抗ウイルス活性が相乗的であることが示された。
【0034】
さらに、小豆抽出物と抹茶の相乗効果の度合いを示す相乗効果指数を以下のように定義した。
【0035】
相乗効果指数=CVab/(CV+CV
CVab:aμg/mLの小豆抽出物とbμg/mLの抹茶を含有する薬剤を使用したときの細胞生存率
CV:aμg/mLの小豆抽出物を含有し、抹茶を含有しない薬剤を使用したときの細胞生存率
CV:bμg/mLの抹茶を含有し、小豆抽出物を含有しない薬剤を使用したときの細胞生存率
【0036】
図3に、小豆抽出物割合(薬剤中の小豆抽出物と抹茶の合計質量に対する小豆抽出物の質量の割合)に対して相乗効果指数をプロットしたグラフを示す。小豆抽出物割合が0.111~0.667の範囲内であるとき、すなわち、小豆抽出物と抹茶の質量比が1:8~2:1の範囲内であるとき、相乗効果指数が1.5より大きくなり、高い相乗効果を示すことがわかった。さらに、小豆抽出物割合が0.333~0.667の範囲内であるとき、すなわち、小豆抽出物と抹茶の質量比が1:2~2:1の範囲内であるとき、相乗効果指数が2.0より大きくなり、より高い相乗効果を示すことがわかった。特に、小豆抽出物割合が0.333であるとき、すなわち、小豆抽出物と抹茶の質量比が1:2であるとき、相乗効果指数が約3となり、特に高い相乗効果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の抗ウイルス剤は、小豆抽出物と抹茶の相乗効果により、優れた抗ウイルス活性を有する。本発明の抗ウイルス剤は天然に存在する植物由来の成分を用いているため、人体、動物、環境への負荷が小さく、様々な食品、飲料、医薬品、医薬部外品等に応用可能である。
図1
図2
図3