(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220225BHJP
B29C 55/16 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/16
(21)【出願番号】P 2017228572
(22)【出願日】2017-11-29
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】秦 和也
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕司
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-140725(JP,A)
【文献】特開2008-023775(JP,A)
【文献】特開2015-206994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/16
B29L 7/00
B29L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬入側から搬出側へ向けて把持ゾーン、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび冷却ゾーンが順に設けられているテンター延伸装置を用いる、長尺状の光学フィルムの製造方法であって、
該把持ゾーンにおいて把持具により把持された長尺状の樹脂フィルムを、該予熱ゾーンにおいて加熱する予熱工程と、
該延伸ゾーンにおいて、該長尺状の樹脂フィルムの搬送方向および/または該搬送方向に直交する方向における該把持具の間隔を変化させて、該長尺状の樹脂フィルムを延伸する延伸工程と、
該冷却ゾーンにおいて、該延伸された長尺状の樹脂フィルムを冷却する冷却工程と、を含み、
該テンター延伸装置が、パンタグラフ機構により該把持具の間隔を変化させるよう構成されており、
該把持具の中立点が、延伸ゾーン以外に位置するよう設定されている、
方法。
【請求項2】
前記把持具の中立点が、前記予熱ゾーンに位置するよう設定されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記把持具の中立点が、前記冷却ゾーンに位置するよう設定されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記把持具の中立点よりも搬入側においては、実際の把持具の間隔が設定された把持具の間隔よりも小さく、該把持具の中立点よりも搬出側においては、実際の把持具の間隔が設定された把持具の間隔よりも大きい、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、把持具の中立点を延伸ゾーン以外に位置させることにより光学軸の方向を制御することを含む長尺状の光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置のような画像表示装置には、光学フィルム(例えば、偏光膜、位相差フィルム)が用いられている。このような光学フィルムは、代表的には延伸を含む製造方法により得られる。しかし、延伸により得られる光学フィルムは、長手方向および/または幅方向における光学軸の方向にばらつきが生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、光学軸の方向が制御された長尺状の光学フィルムを製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、長尺状の光学フィルムの製造方法が提供される。この製造方法は、搬入側から搬出側へ向けて把持ゾーン、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび冷却ゾーンが順に設けられているテンター延伸装置を用いる。この製造方法は、該把持ゾーンにおいて把持具により把持された長尺状の樹脂フィルムを、該予熱ゾーンにおいて加熱する予熱工程と;該延伸ゾーンにおいて、該長尺状の樹脂フィルムの搬送方向および/または該搬送方向に直交する方向における該把持具の間隔を変化させて、該長尺状の樹脂フィルムを延伸する延伸工程と;該冷却ゾーンにおいて、該延伸された長尺状の樹脂フィルムを冷却する冷却工程と;を含み、該テンター延伸装置が、パンタグラフ機構により該把持具の間隔を変化させるよう構成されており、該把持具の中立点が、延伸ゾーン以外に位置するよう設定されている。
1つの実施形態においては、上記把持具の中立点は、上記予熱ゾーンに位置するよう設定されている。別の実施形態においては、上記把持具の中立点は、前記冷却ゾーンに位置するよう設定されている。
1つの実施形態においては、上記把持具の中立点よりも搬入側においては、実際の把持具の間隔は設定された把持具の間隔よりも小さく、該把持具の中立点よりも搬出側においては、実際の把持具の間隔は設定された把持具の間隔よりも大きい。
1つの実施形態においては、得られた長尺状の光学フィルムの長手方向における光学軸の方向のばらつきは、標準偏差で0.15以下である。
1つの実施形態においては、上記光学フィルムは偏光膜であり、上記光学軸は吸収軸である。別の実施形態においては、上記光学フィルムは位相差フィルムであり、上記光学軸は遅相軸である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、パンタグラフ機構を備えたテンター延伸装置を用いる長尺状の光学フィルムの製造方法において、把持具の中立点を延伸ゾーン以外に位置させることにより、得られる光学フィルムの光学軸の方向を制御することができる。より具体的には、得られる光学フィルムの光学軸の方向のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
【
図2】
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図であり、クリップピッチが最小の状態を示す。
【
図3】
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図であり、クリップピッチが最大の状態を示す。
【
図4】本発明の製造方法における把持具の中立点を説明するためにスライダとレールとの関係を簡略化して示す概略平面図であり、
図4(a)は中立点よりも搬入側の状態を示し、
図4(b)は中立点の状態を示し、
図4(c)は中立点よりも搬出側の状態を示す。
【
図5】本発明の製造方法における予熱、延伸および冷却の各工程の一例を説明する概略図である。
【
図6】実施例および比較例に関して、予熱、延伸および冷却の各ゾーンの所定位置における設定クリップピッチを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.光学フィルムの製造方法
本発明の実施形態による長尺状の光学フィルムの製造方法は、把持具により把持された長尺状の樹脂フィルムを加熱する予熱工程と、長尺状の樹脂フィルムの搬送方向および/または該搬送方向に直交する方向における該把持具の間隔を変化させて、長尺状の樹脂フィルムを延伸する延伸工程と、該延伸された長尺状の樹脂フィルムを冷却する冷却工程と、を含む。この製造方法は、把持具としての複数のクリップを備え、搬入側から搬出側へ向けて把持ゾーン、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび冷却ゾーンが順に設けられているテンター延伸装置を用いて行われる。テンター延伸装置は、パンタグラフ機構により該把持具の間隔を変化させるよう構成されている。この製造方法においては、把持具の中立点を延伸ゾーン以外に位置させることにより、得られる光学フィルムの光学軸の方向を制御する。「把持具の中立点」の定義および具体的な説明については後述する。
【0009】
光学フィルムを形成する長尺状の樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体から形成されてもよい。以下、一例として、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層との積層体を用いて偏光膜を製造する実施形態について説明するが、本発明の製造方法は当該実施形態に限定されない。例えば、本発明が単層の樹脂フィルムを用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法または樹脂フィルムの積層体を用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法にも同様に適用可能であることは、当業者に明らかである。
【0010】
A-1.積層体の作製
積層体は、樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製される。樹脂基材は、PVA系樹脂層(得られる偏光膜)を片側から支持し得る限り、任意の適切な構成とされる。
【0011】
樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0012】
樹脂基材に、予め、表面改質処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。なお、表面改質処理および/または易接着層の形成は、上記延伸前に行ってもよいし、上記延伸後に行ってもよい。
【0013】
上記PVA系樹脂層の形成方法は、任意の適切な方法を採用することができる。好ましくは、延伸処理が施された樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
【0014】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、塗布液がゲル化しやすく、均一な塗布膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0015】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0016】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部~20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0017】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用し得る。
【0018】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0019】
上記乾燥温度は、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましく、さらに好ましくはTg-20℃以下である。このような温度で乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する前に樹脂基材が変形するのを防止して、得られるPVA系樹脂層の配向性が悪化するのを防止することができる。こうして、樹脂基材がPVA系樹脂層とともに良好に変形し得、後述の積層体の延伸および収縮を良好に行うことができる。その結果、PVA系樹脂層に良好な配向性を付与することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。ここで、「配向性」とは、PVA系樹脂層の分子鎖の配向を意味する。
【0020】
A-2.延伸装置
上記のとおり、本発明の実施形態による製造方法は、積層体の把持手段(把持具)としての複数のクリップを備え、搬入側から搬出側へ向けて把持ゾーン、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび冷却ゾーンが順に設けられているテンター延伸装置を用いて行われる。テンター延伸装置としては、例えば、レール間距離が一定である直線部と、必要に応じて設けられるレール間距離が連続的に減少するテーパー部と、を有する一対のレールと;各レール上をクリップ間隔を変化させながら走行可能な複数のクリップと;を備える延伸装置が用いられ得る。このような延伸装置によれば、積層体の両側縁部をクリップで把持した状態で、搬送方向のクリップ間隔(同一レール上のクリップ間距離)および幅方向のクリップ間隔(異なるレール上のクリップ間距離)を変化させることによって、積層体の延伸および収縮が可能となる。
【0021】
図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図1を参照しながら、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置について説明する。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、無端レール10Lと無端レール10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、積層体の入口側から見て左側の無端レールを左側の無端レール10L、右側の無端レールを右側の無端レール10Rと称する。左右の無端レール10L、10R上にはそれぞれ、積層体把持用の多数の把持具(代表的には、クリップ)20が配置されている。クリップ20は、それぞれのレールに案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端レール10L上のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端レール10R上のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。図示例の延伸装置においては、積層体の搬入側から搬出側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、延伸ゾーンC、および冷却ゾーンDが順に設けられている。なお、これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となるフィルムが実質的に把持、予熱、延伸および冷却されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0022】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、処理対象となる積層体の初期幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。図示例においては、延伸ゾーンCでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が連続的に減少するテーパー部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、予熱ゾーンB側から冷却ゾーンD側に向かうに従ってレール間距離が上記積層体の所望の幅に対応するまで徐々に減少する構成とされている。このような構成は、フィルム長手方向の延伸と同時に幅方向の収縮を行う製造方法に適用され得る。フィルム長手方向の延伸と同時に幅方向の収縮を行わない製造方法においては、延伸ゾーンCは、レール間距離が一定である直線部として構成され得る。フィルムの幅方向に延伸を行う場合には、延伸ゾーンCは、レール間距離が連続的に拡大するテーパー部として構成され得る。冷却ゾーンDでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされており、代表的には、上記積層体の最終的な幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0023】
左側の無端レール10L上のクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端レール10R上のクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端レール10Lの駆動用スプロケット50a、50bが電動モータ40a、40bによって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端レール10Rの駆動用スプロケット50a、50bが電動モータ40a、40bによって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット50a、50bに係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材30に走行力が与えられる。これにより、左側のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側のクリップ20および右側のクリップ20をそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0024】
さらに、左側のクリップ20および右側のクリップ20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って搬送方向(MD)のクリップ間隔(クリップピッチ)が変化し得る。本発明の実施形態においては、可変ピッチ型のクリップは、リンク機構(パンタグラフ機構)により構成されている。以下、簡単に説明する。
【0025】
図2および
図3に示すように、クリップ20を個々に担持する平面視横方向に細長矩形状のクリップ担持部材30が設けられている。図示しないが、クリップ担持部材30は、上梁、下梁、前壁(クリップ側の壁)、および後壁(クリップと反対側の壁)により閉じ断面の強固なフレーム構造に形成されている。クリップ担持部材30は、その両端の走行輪38により走行路面81、82上を転動するよう設けられている。なお、
図2および
図3では、前壁側の走行輪(走行路面81上を転動する走行輪)は図示されない。走行路面81、82は、全域に亘って基準レール70に並行している。クリップ担持部材30の上梁と下梁の後側(クリップと反対側)には、クリップ担持部材の長手方向に沿って長孔31が形成され、スライダ32が長孔31の長手方向にスライド可能に係合している。クリップ担持部材30のクリップ20側端部の近傍には、上梁および下梁を貫通して一本の第1の軸部材33が垂直に設けられている。一方、クリップ担持部材30のスライダ32には一本の第2の軸部材34が垂直に貫通して設けられている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には主リンク部材35の一端が枢動連結されている。主リンク部材35は、他端を隣接するクリップ担持部材30の第2の軸部材34に枢動連結されている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には、主リンク部材35に加えて、副リンク部材36の一端が枢動連結されている。副リンク部材36は、他端を主リンク部材35の中間部に枢軸37によって枢動連結されている。主リンク部材35、副リンク部材36によるリンク機構により、
図2に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の後側(クリップ側の反対側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士の縦方向のピッチ(以下、単にクリップピッチと称する)が小さくなり、
図3に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の前側(クリップ側)に移動しているほど、クリップピッチが大きくなる。スライダ32の位置決めは、ピッチ設定レール90により行われる。
図2および
図3に示すように、クリップピッチが大きいほど、基準レール70とピッチ設定レール90との離間距離が小さくなる。リンク機構を構成する上記各部材の取り付け部分には、各部材を稼働させるよう所定の遊びが設けられている。なお、リンク機構は当業界において周知であるので、より詳細な説明は省略する。
【0026】
ここで、
図4を参照して「把持具の中立点」について説明する。
図4は、スライダとレールとの関係のみ焦点を当てて簡略化した模式図である。前提として、クリップの走行において、スライダ(ローラ)とレールとの関係は走行初期(搬入側、上流)から後期(搬出側、下流)にかけて変化し得る。走行初期の状態においては、スライダにかかる力としては後方(上流側)からの「押し」が主となる。そのような状態においては、
図4(a)に示すように、基準レール70を走行するスライダ32は基準レールの外側(ピッチ設定レールから離間した側)71に押し付けられ、ピッチ設定レール90を走行するスライダ32はピッチ設定レールの外側(基準レールから離間した側)91に押し付けられる。この状態においては、スライダ32は、
図4(a)の矢印に示すように回転する。このような走行状態は、例えば、設定されたクリップピッチよりも実際のクリップピッチが小さくなる。一方、走行後期の状態においては、スライダにかかる力としては前方(下流側)からの「引き」が主となる。そのような状態においては、
図4(c)に示すように、基準レール70を走行するスライダ32は基準レールの内側(ピッチ設定レールに近接した側)72に押し付けられ、ピッチ設定レール90を走行するスライダ32はピッチ設定レールの内側(基準レールに近接した側)92に押し付けられる。この状態においては、スライダ32は、
図4(c)の矢印に示すように回転する。このような走行状態は、例えば、設定されたクリップピッチよりも実際のクリップピッチが大きくなる。走行初期の状態から走行後期の状態に切り替わる際に、スライダに「押し」の力も「引き」の力もかからないニュートラルな状態が実現する。本明細書において「把持具の中立点」または「クリップの中立点」とは、クリップ(実質的には、スライダ)がこのようなニュートラルな状態となる、レールにおけるクリップ位置を意味する。中立点においては、
図4(b)に示すように、スライダは基準レール70またはピッチ設定レール90の外側71、91および内側72、92のいずれにも押し付けられない。中立点は、代表的には、スプロケット間のクリップ数を増減させることにより制御することができる。具体的には、クリップ数を増大させると、増大分は設定されている遊びで吸収されてクリップが詰まった状態となり、その結果、中立点は上流側に移動する。一方、クリップ数を減少させると、逆のメカニズムにより中立点は下流側に移動する。
【0027】
本発明の実施形態においては、上記把持具(クリップ)の中立点が延伸ゾーン以外に位置するよう設定する。このようにすることにより、得られる光学フィルムの長手方向における光学軸の方向のばらつきを抑制することができる。より詳細には以下のとおりである:上記のとおり、中立点においては、スライダ(ローラ)はレールの外側および内側のいずれにも押し付けられず、遊んだ(不安定な)状態となっている。したがって、クリップピッチが変動しやすく非常に不安定となる。このような状態で延伸を行うと、クリップピッチが不安定なことに起因して、精密な延伸(クリップピッチの拡大)を行うことができない。結果として、得られる光学フィルムの光学軸の方向の制御が不十分となり、特に長手方向における光学軸の方向のばらつきの抑制が不十分となる。ここで、上記のようなテンター延伸装置を用いてフィルムを長手方向に延伸する場合においては、
図4(a)に示す走行初期の状態から
図4(c)に示す走行後期の状態への変化が不可避である。当該変化は、設定されたクリップピッチよりも実際のクリップピッチが小さい状態から、設定されたクリップピッチよりも実際のクリップピッチが大きい状態へと変化させることにより実現できるので、この変化が起こる位置(レールにおけるクリップ位置)を調整することにより、上記把持具(クリップ)の中立点を所望の位置に制御することができる。本発明の実施形態においては、この手段を用いて中立点を延伸ゾーン以外に位置するよう設定することにより、クリップピッチが不安定な状態での延伸を回避し、結果として、得られる光学フィルムの長手方向における光学軸の方向のばらつきを抑制することができる。中立点は、実質的には予熱ゾーンの手前、予熱ゾーンまたは冷却ゾーンに位置するよう設定される。予熱ゾーンの手前、予熱ゾーンまたは冷却ゾーンのいずれにおいてもクリップピッチは一定であるので、いずれのゾーンに設定しても本発明の効果が得られ得る。
【0028】
以下、
図1および
図5を参照しながら、把持、予熱、延伸および冷却の各工程についてより詳細に説明する。なお、
図5は、予熱、延伸および冷却の各工程の一例を説明する概略図である。
【0029】
A-3.把持工程
まず、把持工程(把持ゾーンA)において、左右のクリップ20によって、延伸装置に取り込まれた積層体60の両側縁部を一定の把持間隔(クリップ間隔)で把持し、左右の無端レールに案内された各クリップ20の移動により、当該積層体60を予熱ゾーンBに搬送する。把持ゾーンAにおける両側縁部の把持間隔(クリップ間隔)は、代表的には互いに等しい間隔L1とされる。
【0030】
A-4.予熱工程
次いで、予熱工程(予熱ゾーンB)において、左右のクリップ20で把持された積層体60を延伸ゾーンCに向けて搬送しながら予熱する。予熱ゾーンBにおいては、搬送方向のクリップ間隔はL1で維持され、かつ、左右の無端レール10R、10Lのレール間距離は一定に維持される。予熱工程のエリア温度(すなわち、予熱ゾーン全体における平均温度:予熱温度)T1は、代表的には50℃~150℃である。予熱時間は、代表的には5秒~120秒である。予熱時間は、予熱ゾーンの長さおよびクリップの移動速度を変化させることにより調整することができる。予熱工程における温度が変化する場合には、予熱温度T1は、予熱工程全体における平均温度を意味する。
【0031】
A-5.延伸工程
次いで、延伸工程(延伸ゾーンC)において、左右のクリップ20で把持された積層体60を搬送しながら延伸する。図示例では、長手方向の延伸(MD延伸)について説明するが、本発明が幅方向の延伸(TD延伸)および二軸延伸(斜め延伸を含む)にも同様に適用され得ることは当業者に明らかである。積層体60のMD延伸は、クリップ20の搬送方向への移動速度を徐々に増大させ、搬送方向のクリップ間隔をL1からL2まで拡大することにより行われる。延伸ゾーンCの入口における搬送方向のクリップ間隔(把持工程における把持間隔)L1と延伸ゾーンCの出口における搬送方向のクリップ間隔L2とを調整することにより、延伸倍率(L2/L1)を制御することができる。
【0032】
延伸工程における延伸倍率(L2/L1)は、例えば1.1倍~6.0倍、好ましくは1.2倍~5.0倍、より好ましくは1.3倍~3.0倍である。延伸倍率が1.1倍未満であると、所望の光学特性が得られない場合がある。一方、延伸倍率が6.0倍を超えると、積層体が破断する場合がある。
【0033】
図示例の実施形態による製造方法は、積層体を長手方向に延伸すること(MD延伸)を含み、必要に応じて積層体を幅方向に収縮させること(TD収縮)を含む。TD収縮を行う場合、TD収縮はMD延伸と同時に行ってもよく、MD延伸の前に行ってもよく、MD延伸の後に行ってもよい。図示例においては、延伸ゾーンCにおいて、TD収縮を開始した後でMD延伸を開始し、その後、MD延伸とTD収縮とが同時に行われる。具体的には、延伸ゾーンCにおいては、左右の無端レール10R、10Lはレール間距離が連続的に減少するテーパー部とされているので、当該ゾーンを通過させることによって、積層体60の幅方向への収縮が行われる。TD収縮率は、レール間距離の変化量を調整することによって制御することができる。具体的には、延伸ゾーンCの入口(予熱ゾーンB側端部)におけるレール間距離に対する延伸ゾーンCの出口(冷却ゾーンD側端部)におけるレール間距離の比を小さくするほど、大きい収縮率が得られる。
【0034】
TD収縮を行う場合のTD収縮率((延伸ゾーンCの出口における積層体の幅:W2)/(延伸ゾーンCの入口における積層体の幅:W1))は、任意の適切な値に設定することができる。TD収縮率は、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8~0.5である。このような収縮率とすることにより、より優れた光学特性を得ることができる。
【0035】
積層体の延伸温度T2は、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg-20℃~Tg+30℃であり、より好ましくはTg-10℃~Tg+20℃であり、さらに好ましくはTg程度である。用いる樹脂基材により異なるが、温度T2は、例えば70℃~180℃であり、好ましくは80℃~170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1-T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱工程で温度T1まで加熱されたフィルムは温度T2まで冷却され得る。なお、延伸ゾーンの温度は、任意の適切な温度プロファイルを有していてもよい。具体的には、延伸ゾーンの温度は、一定であってもよく、連続的または段階的に変化してもよく、単調増加であってもよく、単調減少であってもよく、極大値または極小値を示すように変化してもよい。延伸工程における温度が変化する場合には、延伸温度T2は、延伸工程全体における平均温度を意味する。
【0036】
延伸については一例としてMD延伸を説明してきたが、上記のとおり、本発明がTD延伸および二軸延伸(斜め延伸を含む)にも同様に適用され得ることは当業者に明らかである。TD延伸および二軸延伸いずれの場合であっても、上記把持具の中立点を延伸ゾーン以外に設定することにより、得られる光学フィルムの光学軸の方向のばらつきを抑制することができる。より具体的には、MD延伸の場合には、得られる光学フィルムの長手方向における光学軸の方向のばらつきを抑制することができ;TD延伸の場合には、得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向のばらつきを抑制することができ;斜め延伸の場合には、得られる光学フィルムの所定方向(設計した方向、例えば長手方向に対して45°の方向)における光学軸の方向のばらつきを抑制することができる。
【0037】
A-6.冷却工程および解放工程
次いで、冷却工程(冷却ゾーンD)において、積層体を冷却して冷却処理する。冷却温度T3は、例えば40℃~80℃であり得る。冷却時間は、冷却ゾーンの長さおよびクリップの移動速度を変化させることにより調整することができる。冷却工程における温度が変化する場合には、冷却温度T3は、上記のとおり冷却工程全体における平均温度を意味する。
【0038】
最後に、積層体60を把持するクリップ20を解放する。冷却工程(および解放工程)においては、代表的には、クリップピッチは一定とされる。
【0039】
A-7.その他の工程
本実施形態の偏光膜の製造方法は、上記以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、染色工程、架橋工程、上記延伸とは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥(水分率の調節)工程等のPVA系樹脂層を偏光膜とする工程が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0040】
上記染色工程は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する工程である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に染色液を塗布する方法、PVA系樹脂層に染色液を噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に積層体を浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。なお、積層体両面を染色液に浸漬させてもよいし、片面のみ浸漬させてもよい。
【0041】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。二色性物質は、好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~1.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解性を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物塩を配合することが好ましい。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物塩の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~15重量部である。
【0042】
染色液の染色時の液温は、好ましくは20℃~40℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒~300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂層に十分に二色性物質を吸着させることができる。
【0043】
上記不溶化工程および架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃~100℃である。
【0044】
B.偏光膜
上記製造方法により作製される偏光膜は、実質的には、二色性物質を吸着配向させたPVA系樹脂膜である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率(Ts)は、好ましくは39%以上、より好ましくは39.5%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは40.5%以上である。なお、単体透過率の理論上の上限は50%であり、実用的な上限は46%である。また、単体透過率(Ts)は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、顕微分光システム(ラムダビジョン製、LVmicro)を用いて測定することができる。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.93%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0045】
偏光膜は、長手方向における吸収軸のばらつきが、標準偏差で好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.13以下であり、さらに好ましくは0.10以下である。このように、本発明の製造方法により得られる偏光膜は、長手方向の軸精度に非常に優れている。結果として、当該偏光膜は光学特性の面内均一性に優れるので、裁断後の最終製品としての偏光膜における製品ごとの品質のばらつきが小さく、かつ、画像表示装置に用いられた場合に優れた表示特性を実現することができる。また、本発明の製造方法により得られる偏光膜は、軸精度に優れることにより歩留まりが高く、コスト的にも有利である。なお、本発明の製造方法により位相差フィルムを作製する場合も同様に、当該位相差フィルムの長手方向における遅相軸のばらつきは、標準偏差で好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.13以下であり、さらに好ましくは0.10以下である。本明細書において「長手方向における光学軸の方向のばらつき」とは、光学フィルムの端から幅方向に所定の長さ内側の位置において、長手方向に所定の間隔ごとに測定した光学軸の方向から算出した標準偏差をいう。
【0046】
偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、単一層のPVA系樹脂フィルムとして使用してもよく、樹脂基材とPVA系樹脂膜との積層体として使用してもよく、PVA系樹脂フィルムまたはPVA系樹脂膜の少なくとも一方に保護フィルムを配置した積層体(すなわち、偏光板)として使用してもよい。
【0047】
C.偏光板
偏光板は、偏光膜と偏光子の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムとを有する。保護フィルムの形成材料としては、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。
【0048】
保護フィルムの厚みは、好ましくは20μm~100μmである。保護フィルムは、代表的には、接着層(具体的には、接着剤層、粘着剤層)を介して偏光子に積層される。接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤や活性エネルギー線硬化型接着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。樹脂基材/PVA系樹脂膜(偏光膜)の積層体を用いる場合、好ましくは、樹脂基材は保護フィルムを偏光子の樹脂基材と反対側の面に積層した後に剥離され得る。必要に応じて、剥離面に別の保護フィルムが積層され得る。樹脂基材を剥離することにより、カールをより確実に抑制することができる。
【0049】
実用的には、偏光板は、最外層として粘着剤層を有する。粘着剤層は、代表的には画像表示装置側の最外層となる。粘着剤層には、セパレーターが剥離可能に仮着され、実際の使用まで粘着剤層を保護するとともに、ロール形成を可能としている。
【0050】
偏光板は、目的に応じて任意の適切な光学機能層をさらに有していてもよい。光学機能層の代表例としては、位相差フィルム(光学補償フィルム)、表面処理層が挙げられる。例えば、保護フィルムと粘着剤層との間に位相差フィルムが配置され得る(図示せず)。位相差フィルムの光学特性(例えば、屈折率楕円体、面内位相差、厚み方向位相差)は、目的、画像表示装置の特性等に応じて適切に設定され得る。例えば、画像表示装置がIPSモードの液晶表示装置である場合には、屈折率楕円体がnx>ny>nzである位相差フィルムおよび屈折率楕円体がnz>nx>nyである位相差フィルムが配置され得る。位相差フィルムが保護フィルムを兼ねてもよい。この場合、画像表示装置側に配置される保護フィルムは省略され得る。逆に、保護フィルムが、光学補償機能を有していてもよい(すなわち、目的に応じた適切な屈折率楕円体、面内位相差および厚み方向位相差を有していてもよい)。なお、「nx」はフィルム面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」はフィルム面内で遅相軸と直交する方向の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
【0051】
表面処理層は、外側の保護フィルムのさらに外側に配置され得る(図示せず)。表面処理層の代表例としては、ハードコート層、反射防止層、アンチグレア層が挙げられる。表面処理層は、例えば、偏光子の加湿耐久性を向上させる目的で透湿度の低い層であることが好ましい。ハードコート層は、偏光板表面の傷付き防止などを目的に設けられる。ハードコート層は、例えば、アクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を表面に付加する方式などにて形成することができる。ハードコート層としては、鉛筆硬度が2H以上であることが好ましい。反射防止層は、偏光板表面での外光の反射防止を目的に設けられる低反射層である。反射防止層としては、例えば、特開2005-248173号公報に開示されるような光の干渉作用による反射光の打ち消し効果を利用して反射を防止する薄層タイプ、特開2011-2759号公報に開示されるような表面に微細構造を付与することにより低反射率を発現させる表面構造タイプが挙げられる。アンチグレア層は、偏光板表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に設けられる。アンチグレア層は、例えば、サンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式、透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて表面に微細凹凸構造を付与することにより形成される。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。表面処理層を設ける代わりに、外側の保護フィルムの表面に同様の表面処理を施してもよい。
【0052】
ここまで、本発明の光学フィルムの製造方法の一例として、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光膜を製造する実施形態について説明してきたが、上述のとおり、例えば、本発明が単層の樹脂フィルムを用いる偏光子や位相差フィルムの製造方法または樹脂フィルムの積層体を用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法にも同様に適用可能であることは、当業者に明らかである。すなわち、本発明は、樹脂基材/PVA系樹脂層の積層体を単層の樹脂フィルムまたは樹脂フィルムの積層体に置き換えても、同様の手順が適用可能であり、同様の効果が得られ得る。例えば、PVA系樹脂の単層フィルムに本発明を適用することにより、長手方向の軸精度に優れた偏光子を得ることができ;シクロオレフィン系樹脂の単層フィルムに本発明を適用することにより、長手方向の軸精度に優れた位相差フィルムを得ることができ;樹脂フィルム/樹脂フィルムの積層体に本発明を適用することにより、長手方向の軸精度に優れた偏光子または位相差フィルムを得ることができる。加えて、本発明は、MD延伸をTD延伸または二軸延伸(例えば、斜め延伸)に置き換えても、同様の手順が適用可能であり、同様の効果が得られ得る。例えば、上記の偏光膜または偏光子の製造方法にTD延伸を採用することにより、幅方向の軸精度に優れた偏光膜または偏光子を得ることができ;シクロオレフィン系樹脂の単層フィルムに斜め延伸を採用することにより、所定方向(設計した方向、例えば長手方向に対して45°の方向)の軸精度に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
<積層体作製工程>
樹脂基材として、非晶性PET基材(100μm厚)を準備し、該非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50℃~60℃の温度で乾燥した。これにより、非晶性PET基材上に15μm厚のPVA層を製膜し、積層体(幅1000mm)を作製した。
【0055】
<予熱、延伸および冷却工程>
得られた積層体を、
図1に示すようなテンター延伸装置を用いて、予熱、延伸(MD延伸およびTD収縮)、および冷却の各工程に供した。具体的な条件としては、
図6に示すように、ゾーン1(予熱ゾーン)、ゾーン2~4(延伸ゾーン)、ならびに、ゾーン5~8(冷却ゾーン)を便宜的に設定し、
図6に示すように所定位置におけるクリップピッチを所定値に設定した。予熱温度は80℃であり、延伸温度は140℃であり、冷却温度は70℃であった。延伸倍率は2.3倍であり、延伸(MD延伸およびTD収縮)後の積層体の幅は650mmであった。
図6に示すような設定クリップピッチに対して、ゾーン1の入口における実際のクリップピッチが40mmとなるようにして積層体の搬送を行い、当該積層体を予熱、延伸および冷却の各工程に供した。すなわち、ゾーン1の入口より手前(上流側)にクリップの中立点が位置するように設定した。
【0056】
<染色処理>
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。
【0057】
<架橋処理>
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させ、該ホウ酸水溶液中でさらに2.0倍長手方向に延伸した。
【0058】
<洗浄処理>
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。
このようにして、樹脂基材上に、厚み6.0μmの偏光膜を作製した。
【0059】
<評価>
延伸後の積層体の長手方向における光学軸の方向のばらつきを測定した。具体的には、測定装置としてAXOMETRICS社製、AXOSCANを用い、積層体の端から幅方向に50mm内側の位置において、長手方向にわたって20mmごとに光学軸の方向を測定し、標準偏差を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
[実施例2]
表1に示すように実際のクリップピッチを変更して、ゾーン1にクリップの中立点が位置するように設定したこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
表1に示すように実際のクリップピッチを変更して、ゾーン3にクリップの中立点が位置するように設定したこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例2]
表1に示すように実際のクリップピッチを変更して、ゾーン4にクリップの中立点が位置するように設定したこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
表1に示すように実際のクリップピッチを変更して、ゾーン6にクリップの中立点が位置するように設定したこと以外は実施例1と同様にして偏光膜を作製した。得られた偏光膜を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0065】
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、クリップの中立点を延伸ゾーン以外に位置するように設定することにより、長尺状の光学フィルム(偏光膜)の長手方向における光学軸(吸収軸)の方向のばらつきを良好に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造方法は、偏光膜、光学補償フィルム等の光学フィルムの製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0067】
10 レール
20 クリップ
60 積層体(樹脂フィルム)
100 延伸装置