(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】塗布具及びこれを用いたガラス板モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05C 1/02 20060101AFI20220225BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220225BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220225BHJP
B60J 1/02 20060101ALI20220225BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B05C1/02 101
B05D7/00 E
B05D1/26 Z
B60J1/02 111A
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018069233
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594162582
【氏名又は名称】米島フエルト産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595048773
【氏名又は名称】グローリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】増子 淳
(72)【発明者】
【氏名】長尾 博仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 良知
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0764517(KR,B1)
【文献】特開2007-001535(JP,A)
【文献】特開2013-169538(JP,A)
【文献】特開平06-099120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00-21/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板に樹脂製のモール部を成形するため、もしくは前記モール上にさらに部材を接 着するための前工程として、前記ガラス板に液状の前処理剤を塗布するための塗布具であって、
発泡樹脂により形成されている、塗布体と、
前記塗布体を支持する支持部材と、
を備
え、
前記塗布体は、一の軸方向に延びる柱状体により形成され、
前記支持部材は、前記柱状体が軸方向に嵌まる開口を有しており、
前記ガラス板に接触し前記前処理剤を塗布する前記塗布体の先端部は、前記支持部材の開口から突出するように配置されており、
前記塗布体は、軸周りの外周面と、当該外周面の先端側の縁部に連結される先端面とを有し、
前記外周面から前記前処理剤が排出されないように構成されている、塗布具。
【請求項2】
前記発泡樹脂の密度が、0.2~0.5g/cm
3である、請求項1に記載の塗布具。
【請求項3】
前記発泡樹脂の平均孔径が、15~300μmである、請求項1または2に記載の塗布具。
【請求項4】
前記発泡樹脂のアスカーC硬度が20~70である、請求項1から3のいずれかに記載の塗布具。
【請求項5】
前記発泡樹脂は、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、EVA、及びオレフィン系エラストマーから選ばれる少なくとも一つにより形成さ れている、請求項1から4のいずれかに記載の塗布具。
【請求項6】
前記柱状体は、円柱状部分及び多角柱状部分の少なくとも一方の部分を有している、請求項
1から5のいずれかに記載の塗布具。
【請求項7】
前記塗布体の先端部は、平坦な面により形成されている、請求項
1から6のいずれかに記載の塗布具。
【請求項8】
前記塗布具の先端部は、前記軸方向に直交する平坦な第1面と、前記第1面に直交し軸方向に延びる平坦な第2面と、を備えている、請求項
1から6のいずれかに記載の塗布具。
【請求項9】
前記外周面から露出する気孔が閉じられている、請求項
1から8のいずれかに記載の塗布具。
【請求項10】
前記外周面が液不透過性の部材により被覆されている、請求項
1から8のいずれかに記載の塗布具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布具及びこれを用いたガラス板モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に取付けられる固定窓には、ガラス板の周縁部に樹脂製のモール部が取り付けられることがあり、このモール部を接着剤などで車両に固定するようにしている。このようなモール部は射出成形によってガラス板に取り付けられるが、その前処理として、プライマーや接着剤などの液状の前処理剤をガラス板に塗布し、その塗布領域にモール部を成形するのが一般的である。このような前処理剤を塗布する装置として、例えば、特許文献1には、繊維材料であるフエルトに接着剤を供給し、フエルトからしみ出した接着剤をガラス板に塗布している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、フエルトは繊維材料であるため、プライマーを塗布する際には、フエルトをガラス板に押しつけながら、ガラス板の周縁に沿って移動させるため、フエルトには強い外力が作用し、繊維が離脱するおそれがある。そのため、このような繊維がプライマーに混じり、ガラス板に付着するおそれがある。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、繊維の離脱といった不具合が生じるのを防止することができる、塗布具及びこれを用いたガラス板モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る塗布具は、ガラス板に樹脂製のモール部を成形するため、もしくは前記モール上にさらに部材を接着するための前工程として、前記ガラス板に液状の前処理剤を塗布するための塗布具であって、発泡樹脂により形成されている、塗布体と、前記塗布体を支持する支持部材と、を備えている。
【0006】
なお、本発明における発泡樹脂とは、内部に連続する気孔を有する樹脂であって、その孔により樹脂体内に液体を含有させることができ、また、液体をある一面から他面へ透過させることができる樹脂をいう。
【0007】
発泡樹脂は、典型的には、溶融させた樹脂と、前記樹脂の成分に不溶であり、かつ前記樹脂を溶解させない溶媒に可溶な粒子を混合して成形体を形成した後、溶媒を用いて粒子を溶出させて製造されるが、本発明に使用される発泡樹脂は、そのような製造方法に限定されない。
【0008】
上記塗布具においては、前記発泡樹脂の密度を、0.2~0.5g/cm3とすることができる。
【0009】
上記塗布具においては、前記発泡樹脂の平均孔径を、15~300μmとすることができる。
【0010】
上記塗布具においては、前記発泡樹脂のアスカーC硬度を20~70とすることができる。
【0011】
上記塗布具において、前記発泡樹脂は、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、EVA、及びオレフィン系エラストマーから選ばれる少なくとも一つにより形成することができる。
【0012】
上記塗布具において、前記塗布体は、一の軸方向に延びる柱状体により形成され、前記支持部材は、前記柱状体が軸方向に嵌まる開口を有しており、前記ガラス板に接触し前記前処理剤を塗布する前記塗布体の先端部は、前記支持部材の開口から突出するように配置することができる。
【0013】
上記塗布具において、前記柱状体は、円柱状部分及び多角柱状部分の少なくとも一方の部分を有することができる。
【0014】
上記塗布具において、前記塗布体の先端部は、平坦な面により形成することができる。
【0015】
上記塗布具において、前記塗布具の先端部は、前記軸方向に直交する平坦な第1面と、前記第1面に直交し軸方向に延びる平坦な第2面と、を備えることができる。
【0016】
上記塗布具において、前記塗布体は、軸周りの外周面と、当該外周面の先端側の縁部に連結される先端面とを有し、前記外周面から前記前処理剤が排出されないように構成することができる。
【0017】
上記塗布具においては、前記外周面から露出する気孔を閉じることができる。
【0018】
上記塗布具においては、前記外周面を液不透過性の部材により被覆することができる。
【0019】
本発明に係るガラス板モジュールの製造方法は、ガラス板を準備するステップと、上述したいずれかの塗布具により、液状の前処理剤を、前記ガラス板に塗布し、塗布領域を形成するステップと、前記塗布領域の少なくとも一部を覆うように、前記ガラス板の周縁部の少なくとも一部に、樹脂製のモール部を成形するステップと、を備えている。
【0020】
上記ガラス板モジュールの製造方法において、前記ガラス板は、車両用のガラス板であり、前記ガラス板における、車内側の第1面、車外側の第2面、及び前記第1面及び第2面を連結する端面の少なくとも一つに、前記塗布領域を形成することができる。
【0021】
上記ガラス板モジュールの製造方法において、前記ガラス板は、車両用のガラス板であり、前記ガラス板における、車内側の第1面、車外側の第2面、及び前記第1面及び第2面を連結する端面のうち、前記第1面及び前記端面に、前記塗布領域を形成することができる。
【0022】
上記ガラス板モジュールの製造方法においては、前記モール部を成形するステップに続いて、当該モール部上に装飾部材を配置するステップをさらに備えることができる。
【0023】
上記ガラス板モジュールの製造方法において、前記モール部を成形するステップでは、前記モール部の一部を前記ガラス板の第2面に成形するとともに、当該第2面に成形される前記モール部上に装飾部材を配置することができる。
【0024】
上記ガラス板モジュールの製造方法においては、前記塗布体の第1部位から前記前処理剤を注入しつつ、前記第1部位とは異なる第2部位から前記前処理剤を排出することで、前記前処理剤の塗布を行うことができる。
【0025】
上記ガラス板モジュールの製造方法においては、前記塗布体の第1部位から前記前処理剤を注入し、前記第1部位から前記前処理剤を排出することで、前記前処理剤の塗布を行うことができる。
【0026】
上記ガラス板モジュールの製造方法においては、前記前処理剤を予め含浸させた前記塗布体により、前記前処理剤の塗布を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、繊維の離脱といった不具合が生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係るガラス板モジュールの一実施形態の平面図である。
【
図7】装飾部材が取り付けられたガラス板モジュールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るガラス板モジュールの製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1はガラス板モジュールを車両の外部から見た平面図である。以下では、まず、ガラス板モジュールについて説明し、その後、その製造方法及び製造装置について説明する。
【0030】
<1.ガラス板モジュールの概要>
図1に示すように、本実施形態に係るガラス板モジュール10は、車両の側面に取り付けられる固定窓を構成している。そして、このガラス板モジュール10は、ガラス板1と、このガラス板1の周縁部に沿って取り付けられたモール部2と、を備えており、このモール部2が接着剤などを介して、車両に取り付けられる。このようなガラス板モジュール10は、車両の後部ドアの後方で後部ドアの窓ガラスと隣接して配置されるが、配置される位置は特には限定されない。以下、各部材について説明する。
【0031】
<1-1.ガラス板>
図1に示すように、ガラス板1は、下辺11、前辺12、及び後辺13を輪郭とする三角形状に形成されている。すなわち、
図1の左側が車両の前方を示し、右側が後方を示している。ガラス板1の下辺11は概ね水平方向に延びるように形成されており、前辺12は、下辺11の前端部から前方にいくにしたがって上方に傾斜するように延びている。後辺13は、下辺11の後端部からやや湾曲しながら、前方にいくにしたがって、上方に延びている。そして、前辺12と後辺13の上端部同士が連結している。また、以下では、説明の便宜上、車内を向く面を第1面101、車外を向く面を第2面102、これら第1面101及び第2面102を連結する面を端面103と称することとする。
【0032】
ガラス板1としては、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、プライバシーガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。
【0033】
本実施形態に係るガラス板1の厚みは特には限定されないが、1.5~7.0mmとすることが好ましく、2.0~5.0mmとすることがさらに好ましく、2.3~4.0mmがさらに好ましい。また、後のガラス板1は、平板状であってもよいし、湾曲していてもよい。
【0034】
また、このガラス板1の周縁部には、黒などの濃色のセラミックで形成されたマスク層15が積層されている。このマスク層15は、車内また車外からの視野を遮蔽するものであり、ガラス板1の内面の3つの辺に沿って積層されている。マスク層15の形状は特には限定されず、
図1に示すように、ガラス板1の下辺11、前辺12、及び後辺13に沿う幅(ガラス板1の端縁から内側へ向かう長さ)が相違していてもよい、同じであってもよい。また、マスク層15によって囲まれる領域、つまりガラス板1において車内外を透過する領域の形状も特には限定されず、
図1のような三角形状であってもよいし、円形状、多角形状など種々の形状にすることができる。
【0035】
マスク層15は、セラミックなどの種々の材料で形成することができる。また、マスク層15は、セラミックを積層するほか、濃色の樹脂製の遮蔽フィルムを貼り付けることで形成することもできる。
【0036】
<1-2.モール部>
次に、モール部2について、
図2及び
図3も参照しつつ説明する。
図2は
図1のA-A線断面図、
図3は
図1のB-B線断面図である。
図1~
図3に示すように、モール2は、ガラス板1と車体との隙間を埋めるものであり、ガラス板1の周縁部に沿って形成されている。上述したように、ガラス板1の周縁部にはマスク層15が積層されているが、モール部2は、マスク層15の幅よりも小さい幅で、ガラス板1の周縁部に取り付けられている。
【0037】
具体的には、
図2に示すように、モール部2のうち、ガラス板1の下辺11に沿う部分は、ガラス板1の第1面101、端面103、及び第2面102を覆うように、断面U字状に形成されている。ここでは、モール部2において、ガラス板1の第1面101に配置される部位を第1部位21、第2面102に配置される部位を第2部位22、端面103に配置される部位を第3部位23と称することとする。上述したように、ガラス板1の第2面102には、マスク層15が積層されているため、モール部2の第1部位21は、マスク層15上に配置される。また、第1部位21と第2部位22の幅は、概ね同じであるが、相違していてもよい。
【0038】
一方、
図3に示すように、モール部2のうち、ガラス板1の前辺12に沿う部分は、ガラス板1の第1面101及び端面103を覆うように、断面L字状に形成されている。すなわち、この部分のモール部2は、第1部位21及び第3部位23によって構成され、第2部位22を有していない。また、第3部位23の車外側の端部は平坦に形成され、ガラス板1の第2面102とは一致するように(面一となるように)形成されている。また、図示を省略するが、モール部2のうち、ガラス板1の後辺13に沿う部分も、
図3と同様に、断面L字状に形成され、第1部位21と第3部位23のみで形成されている。
【0039】
モール部2の厚さ、つまり、ガラス板1の各面101~103からの厚さは、例えば、0.5mm~50mmとすることが好ましく、3mm~8mmであることがさらに好ましい。また、第1部位21における車内を向く面、及び第2部位22において車外を向く面は、平坦面で構成されている。そして、この平坦面の幅は、例えば、2mm~40mmであることが好ましく、4mm~20mmであることがさらに好ましい。
【0040】
このモール部2を構成する材料は特には限定されないが、例えば、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)で形成することができる。その他、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム)によって形成することができる。
【0041】
<2.ガラス板モジュールの製造方法>
次に、ガラス板モジュールの製造方法について説明する。まず、マスク層15が積層されたガラス板1を準備する。そして、
図4に示すように、このガラス板1を台55の上に配置し、その周縁部に、前処理剤として、プライマーを塗布する。プライマーは、モール部2がガラス板1上に形成されやすくするための接着剤のような液状の材料であり、例えば、ウレタン系、シランカップリング剤等、公知の材料を用いることができる。また、プライマーに代わって、またはプライマーに続いて、液状の接着剤を塗布することもできる。接着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、酢酸ビニル系、ウレタン系等、公知の材料を用いることができる。なお、これらプライマー及び接着剤が本発明の前処理剤に相当する。そして、前処理剤としては、プライマー及び接着剤の少なくとも一方であればよい。
【0042】
このプライマーを塗布するに当たっては、
図4に示すような塗布装置が用いられる。以下、この塗布装置50について説明する。
図4に示すように、この塗布装置50は、図示を省略するロボットアーム等に取り付けられた板状の連結部材5と、この連結部材5の先端部に取り付けられる円柱状の塗布具6と、塗布具6と連結部材5とを連結する治具7と、を備えている。治具7は、塗布具6の後端部(
図4の上方側の端部)に取り付けられる、固定部71と、この固定部71から上方に延びる軸部材72とを備えている。軸部材72は、連結部材5の先端部に形成された貫通孔51を貫通し、上方に延びている。そして、軸部材72の上端部には、貫通孔51の径よりも大きい抜け止め部材73が取り付けられている。これにより、軸部材72が連結部材5から下方に離脱するのを防止することができる。また、固定部71と連結部材5の下面との間には、軸部材72の周囲を覆うようにバネ74が取り付けられている。例えば、ロボットアームにより、連結部材5を介して塗布具6をガラス板1に押圧したときには、このバネ74が緩衝材となり、ガラス板1に過度な力が作用するのを防止している。
【0043】
次に、塗布具について、
図5も参照しつつ説明する。塗布具6は、円筒状に形成された支持部材61と、この支持部材61の内部空間に嵌め込まれた円柱状の塗布体62とを有している。塗布体62は、支持部材61の下部開口からやや下方に突出するように配置されている。また、この塗布体62には、プライマーが供給されるように構成されており、支持部材61、治具7の固定部71及び軸部材72には、プライマーを供給する通路が形成されており、軸部材72の上端には、プライマーを供給するためのチューブ75が取り付けられている。
【0044】
塗布体62は、多数の連続する気孔を有する発泡樹脂で形成されており、ガラス板1に接する下端面621が平坦面により形成されている。そして、塗布体62の気孔を通じて下端面621から浸み出るプライマーがガラス板1の表面に塗布される。塗布体62の物性は特には限定されないが、例えば、以下のいずれかを有するものとすることができる。
【0045】
(1)発泡樹脂の密度は、0.2~0.5g/cm3とすることができるが、好ましくは0.22~0.38g/cm3、さらに好ましくは0.24~0.35g/cm3である。密度は、JIS K7222:2005に規定された方法により測定することができる。発泡樹脂の密度が0.2g/cm3に満たない場合、塗布体内のプライマー保液量が増加し、ガラス形状等に伴う塗布面内での押し付け圧力の局所差に追随できず、塗りむらが発生しやすく可能性がある。また、逆に密度が0.5g/cm3を超えると、塗布体内のプライマーの保液量が減ることで、塗布の効率が低下する可能性がある。このような観点から、発泡樹脂の密度の範囲を上記のように規定することができる。
【0046】
(2)発泡樹脂の平均孔径は、15~300μmとすることができるが、好ましくは30~250μm、さらに好ましくは100~220μmである。平均孔径が15μmに満たない場合、塗布体内でのプライマー浸透速度が遅くなり、プライマー塗布面での塗布むら等が発生しやすくなる可能性がある。また、逆に平均孔径が300μmを超えると、塗布面へのプライマーの供給が過剰となることがあり、予定していた塗布領域からのプライマーのはみ出しが発生しやすくなる可能性がある。このような観点から、平均孔径の範囲を上記のように規定することができる。
【0047】
平均孔径は、例えば、当該発泡樹脂のある断面の電子顕微鏡による観察結果を画像解析処理することなどで求めることができる。また、樹脂と粒子との混合より成形された発泡樹脂については、添加した粒子の平均粒径をもって平均孔径とすることができる。
【0048】
なお、本願において、平均粒径は、100μm以下の場合は、レーザー回折散乱法(マイクロトラックベル社、マイクロトラックMT3300EXII型機)による体積分布基準での平均粒径
の値とすることができる。また、平均粒径がそれ以上になる場合は、JIS Z8815に準じた篩い分けによる測定結果から決定することができる。例えば、平均粒径300μmは、60メッシュの篩い上残分が質量基準で50%以上、220μmは90メッシュの篩い上残分が質量基準で50%以上、200μmは100メッシュの篩い上残分が質量基準で50%以上、と規定することができる。
【0049】
(3)発泡樹脂のアスカーC硬度を、20~70とすることができるが、好ましくは30~60、さらに好ましくは40~55である。硬度は、日本ゴム協会標準規格SRIS 0101に規定された、スプリングかたさ試験機(アスカーC型)により測定することができる。アスカーC硬度が20に満たない場合、発泡樹脂をガラスに押し当てた際に変形しやすくなり、予定していた塗布領域からプライマーがはみ出しやすくなる可能性がある。また、逆にアスカーC硬度が70を超えと、発布樹脂をガラスに押し当てた際の追随性が悪くなり、プライマーの塗りむらが発生しやすくなる可能性がある。このような観点から、アスカーC硬度の範囲を上記のように規定することができる。
【0050】
また、発泡樹脂を構成する材料は限定されないが、例えば、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、EVA、及びオレフィン系エラストマーから選ばれる少なくとも一つにより形成することができる。
【0051】
以上のように構成された塗布装置50により、プライマーを塗布体62に供給しながら、塗布体62をガラス板1の表面に押圧させて、プライマーをガラス板1に塗布する。そして、塗布体62がガラス板1の周縁部に沿って移動するように、ロボットアームを移動させ、ガラス板1の周縁部全体に亘ってプライマーを塗布する。プライマーは、モール部2を形成する領域に塗布されるため、ガラス板1の第1面101の周縁部、端面103、及び第2面102の下辺11に沿う部分に塗布される。このとき、プライマーを塗布する領域に応じて、塗布体62の向きを変えたり、あるいは、ガラス板1を支持する向きを変える。
【0052】
こうして、プライマーが塗布されたガラス板を成形型に配置し、射出成形によりモール部2を成形する。こうして、ガラス板モジュールが完成する。
【0053】
<2.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)従来は、フエルトなどの繊維材料によりプライマーを塗布していたため、使用に伴って繊維が離脱し、塗布面に入り込む問題があったが、本実施形態に係る塗布体は、発泡樹脂で形成されているため、材料の一部が離脱し、塗布面に入り込むのを防止することができる。
【0054】
(2)発泡樹脂は、繊維を交絡させることで形状を維持しているため、ガラス板1に押しつけるなどして外力が作用すると、形状が変わることがある。これに対して、発泡樹脂は、ガラス板1に押圧されても形状が大きく変形しない。そのため、プライマーの塗布領域の寸法精度を高くすることができる。また、繊維材料は一旦変形すると、初期形状には復元しにくく、恒久的な変形のおそれがあるが、発泡樹脂は、外力が作用しなくなると、形状が復元するため、塗布領域の寸法精度をさらに高くすることができる。
【0055】
(3)塗布体62を支持部材61の下部開口から突出させているため、支持部材61がガラス板1に接触するのを防止することができる。支持部材61は塗布体62を支持するため金属などで形成されることがあるが、ガラス板1と接触すると、ガラス板1を損傷するおそれがあるため、これを防止することができる。
【0056】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例は適宜組合せが可能である。
【0057】
<3-1>
塗布体62の形状は特には限定されず、円柱状のほか、角柱状に形成することができる。また、円柱状の部位と角柱状の部位を軸方向に連結することで塗布体62を形成することもできる。したがって、ガラス板1に接する面の形状は、上記のような円形のほか、多角形状にすることもできる。また、下端面(先端面)621を球面状に形成することもできる。
【0058】
また、上記実施形態では、塗布体62の下端面621を平坦にし、この面をガラス板1に押しつけてプライマーを塗布しているが、複数の面にプライマーを塗布するように構成することもできる。例えば、
図6に示すように、塗布体62の軸方向に直交する第1面601と、この第1面601と垂直に連結する第2面602を有するような断面L字状に形成することもできる。このようにすると、例えば、ガラス板1の第1面101と端面103、または第2面102と端面103のようにガラス板1のいずれか2面に同時にプライマーを塗布することができ、作業効率が向上する。なお、第1面601及び第2面602の形状は特には限定されず、半円状、多角形状など、種々の形状にすることができる。
【0059】
上記実施形態では、塗布体62の下端面621から浸み出るプライマーをガラス板1に塗布しているが、塗布体62は、支持部材61の下部開口から突出しているため、塗布体62の外周面622は外部に露出している。そのため、塗布体62の外周面622の気孔からもプライマーが浸み出てしまい、予定していた塗布領域からプライマーがはみ出したり、設備にプライマーが付着するおそれがある。これに対して、プライマーが塗布体62の外周面622から浸み出るのを防止するため、外周面622から気孔が露出しないようにすることができる。そのためには、例えば、外周面622を熱加工して気孔を閉じたり、あるいは液不透過性の他の部材で外周面622を覆うこともできる。
【0060】
また、塗布体によるプライマーの供給方法としては、種々の方法がある。すなわち、上記実施形態のように、塗布体62の軸方向の一端部(上端部)からプライマーを供給し、他端部(下端面621)からプライマーを排出することができるほか、例えば、塗布体62の下端面621にプライマーを注入した後、その下端面621をガラス板1に接触させて、プライマーを塗布することができる。あるいは、予め塗布体62にプライマーを含浸させておき、その塗布体62をガラス板1に接触させてプライマーを塗布することができる。この場合、プライマーの塗布中には、塗布体62にはプライマーを注入しない。
【0061】
<3-2>
ガラス板1の形状は特には限定されず、上記のような三角形状以外でも多角形状、円形など、種々の形状にすることができる。モール部2は、そのようなガラス板1の周縁部に配置される。
【0062】
上記実施形態では、ガラス板1の下辺11においては3つの面に接触するようにモール部2を形成し、前辺12及び後辺13には2つの面に接触するようにモール部2を形成している。しかし、これは一例であり、ガラス板1のいずれの面にモール部2を形成してもよい。また、モール部2の形状も特には限定されず、取り付けられ車両の形状等に合わせて、適宜変更することができる。さらに、モール部2は、ガラス板1の周縁部の全周に亘って設けなくてもよく、一部であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、ガラス板1の第1面101の周縁部、端面103、及び第2面102の下辺11に沿う部分にプライマーが塗布され、この塗布領域にモール部を成形しているが、これに限定されない。すなわち、プライマーは、ガラス板1の第1面101、第2面102、及び端面103の少なくとも一つに塗布されればよく、これに合わせてモール部2が成形される。したがって、例えば、ガラス板1の第1面101にのみプライマーが塗布された場合には、第1面101にのみモール部2が形成される。
【0064】
また、必ずしもマスク層15上にモール部2を形成する必要はなく、マスク層15を超えてガラス板1に直接、モール部2を形成することもできる。さらに、マスク層15も必ずしも設けなくてもよい。
【0065】
<3-3>
モール部2上に装飾部材を設けることもできる。例えば、
図7に示すように、モール部の第1~第3部位21~23を覆うように断面U字状に形成された金属板などで形成された装飾部材8を取り付けることができる。装飾部材8は、モール部2上のいずれの位置に配置してもよく、第1~第3のいずれの部位に配置することもできる。したがって、断面U字状以外の形状でもよい。また、このような装飾部材8を取り付けるには、例えば、装飾部材8においてモール部2と接触する面に上記のようなプライマーを塗布した後、ガラス板1とともに成形型に配置し、射出成形を行う。これによりモール部2を形成すると同時に、モール部2に装飾部材8を固定することができる。
【0066】
また、モール部2を成形した後に、モール部2の表面に装飾部材8を取り付けることもできる。この場合、成形型からガラス板モジュールを取り出した後、モール部2の表面に、上述した塗布具6でプライマー等を塗布し、その後、装飾部材8を取り付けることができる。
【0067】
<3-4>
上記各実施形態では、ガラス板モジュール10を後部ドアの後方に配置しているが、これに限定されない。すなわち、本発明に係るガラス板モジュールは、車両のいずれの位置に取り付けることもでき、上記実施形態のような固定窓のほか、開閉可能なガラス窓とすることもできる。あるいは車両以外の建築物などに取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1 ガラス板
2 モール部
6 塗布具
61 支持部材
62 塗布体