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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/06 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F17/06 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018118144
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019220618
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】古川 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】奥村 圭佑
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-9985(JP,A)
【文献】特開2016-46090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 5/00
H01F 5/06
H01F 27/32
H01F 37/00
H01F 41/12
H01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面視略円形状の配線と、前記配線を被覆する磁性層とを備え、
前記配線は、導体線と、前記導体線を被覆する絶縁層とを備え、
前記磁性層は、異方性磁性粒子と、バインダとを含有し、
前記配線の半径の1.5倍以内の周辺領域において、
前記異方性磁性粒子が前記配線の円周方向に沿って配向する第1領域と、
前記異方性磁性粒子が前記円周方向と交差する交差方向に沿って配向するか、または、前記異方性磁性粒子が配向していない第2領域と
を有することを特徴とする、インダクタ。
【請求項2】
前記第2領域を複数有することを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記第2領域は、前記異方性磁性粒子が前記配線の径方向に沿って配向する領域であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記第2領域において、前記異方性磁性粒子の充填率が、40体積%以上であることを特徴とする、請求項3に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記磁性層は、前記周辺領域の外側において、前記異方性磁性粒子が前記配線の径方向に沿って配向する第3領域を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタは、電子機器などに搭載されて、電圧変換部材などの受動素子として用いられることが知られている。
【0003】
例えば、磁性体材料からなる直方体状のチップ本体部と、そのチップ本体部の内部に埋設された銅などの内部導体とを備え、チップ本体部の断面形状と内部導体の断面形状とが相似形であるインダクタが提案されている(特許文献1参照。)。すなわち、特許文献1のインダクタでは、断面視矩形状(直方体状)の配線(内部導体)の周囲に磁性体材料が被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-144526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁性体材料として、扁平状磁性粒子などの異方性磁性粒子を用いて、配線の周囲に、その異方性磁性粒子を配向させて、インダクタのインダクタンスを向上させることが検討されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のインダクタでは、配線が、断面視矩形状であるため、角部などの存在によって、その配線の周囲に異方性磁性粒子を配向させにくい不具合が生じる。そのため、インダクタンスの向上が不十分となる場合がある。
【0007】
そこで、断面視円形状の配線を用いて、その配線の周囲に異方性磁性粒子を配向することがさらに検討されている。
【0008】
しかしながら、この方法では、インダクタンスが向上するものの、直流重畳特性が不十分であり、さらなる改良が求められている。
【0009】
本発明は、インダクタンスおよび直流重畳特性が良好であるインダクタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、断面視略円形状の配線と、前記配線を被覆する磁性層とを備え、前記配線は、導体線と、前記導体線を被覆する絶縁層とを備え、前記磁性層は、異方性磁性粒子と、バインダとを含有し、前記配線の半径の1.5倍以内の周辺領域において、前記異方性磁性粒子が前記配線の円周方向に沿って配向する第1領域と、前記異方性磁性粒子が前記円周方向と交差する交差方向に沿って配向するか、または、前記異方性磁性粒子が配向していない第2領域とを有する、インダクタを含む。
【0011】
本発明[2]は、前記第2領域を複数有する、[1]に記載のインダクタを含む。
【0012】
本発明[3]は、前記第2領域は、前記異方性磁性粒子が前記配線の径方向に沿って配向する領域である、[1]または[2]に記載のインダクタを含む。
【0013】
本発明[4]は、前記第2領域において、前記異方性磁性粒子の充填率が、40体積%以上である、[3]に記載のインダクタを含む。
【0014】
本発明[5]は、前記磁性層は、前記周辺領域の外側において、前記異方性磁性粒子が前記配線の径方向に沿って配向する第3領域を有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載のインダクタを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインダクタは、配線と、配線を被覆する磁性層とを備え、配線の周辺領域において、異方性磁性粒子が配線の円周方向に沿って配向する第1領域を有するため、インダクタンスが良好である。また、第1領域以外の第2領域において、異方性磁性粒子が交差方向に沿って配向するか、または、前記異方性磁性粒子が配向していないため、直流重畳特性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のインダクタの第1実施形態の斜視図を示す。
図2図2は、図1の軸方向と直交する方向における断面図を示す。
図3図3A-Bは、図1に示すインダクタの製造工程であって、図3Aは、磁性シートおよび配線を対向配置する工程、図3Bは、磁性シートを配線に積層する工程を示す。
図4図4は、図1に示すインダクタの実際のSEM写真断面図を示す。
図5図5は、図1に示すインダクタの変形例(内側径方向配向領域の一部に、粒子が充填されていない形態)の断面図を示す。
図6図6は、図1に示すインダクタの変形例(4つの内側径方向配向領域を有する形態)の断面図を示す。
図7図7は、図1に示すインダクタの変形例(1つの内側径方向配向領域を有する形態)の断面図を示す。
図8図7は、図1に示すインダクタの変形例(2つの内側径方向配向領域の間に中心が位置しない形態)の断面図を示す。
図9図9は、本発明のインダクタの第2実施形態の斜視図を示す。
図10図10は、本発明のインダクタの第3実施形態の斜視図を示す。
図11図11は、実施例1~5のシミュレーションに用いたインダクタのモデル図を示す。
図12図12は、実施例6~8のシミュレーションに用いたインダクタのモデル図を示す。
図13図13は、実施例9~11のシミュレーションに用いたインダクタのモデル図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2において、紙面左右方向は、第1方向であって、紙面左側が第1方向一方側、紙面右側が第1方向他方側である。紙面上下方向は、第2方向(第1方向と直交する方向)であって、紙面上側が第2方向一方側、紙面下側が第2方向他方側である。紙面紙厚方向は、第3方向(第1方向および第2方向と直交する方向、軸方向)であって、紙面手前側が第3方向一方側、紙面奥側が第3方向他方側である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0018】
<第1実施形態>
本発明のインダクタの第1実施形態の一実施形態を、図1図2を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、インダクタ1は、軸方向に長く延び、例えば、平面視略ループ形状を有する。インダクタ1は、配線2と、磁性層3とを備える。
【0020】
図1および図2に示すように、配線2は、軸方向に長尺に延び、断面視略円形状を有する。配線2は、絶縁層が被覆された電線であり、具体的には、導体線4と、それを被覆する絶縁層5とを備える。
【0021】
図2に示すように、導体線4は、断面視略円形状を有する。
【0022】
導体線4の材料は、例えば、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、これらの合金などの金属導体であり、好ましくは、銅が挙げられる。導体線4は、単層構造であってもよく、コア導体(例えば、銅)の表面にめっき(例えば、ニッケル)などがされた複層構造であってもよい。
【0023】
導体線4の半径Rは、例えば、25μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0024】
絶縁層5は、導体線4を薬品や水から保護し、また、導体線4の短絡を防止するための層である。配線2の外周面全面を被覆するように、配置されている。
【0025】
絶縁層5は、配線2と中心軸線を共有する断面視略円環形状を有する。
【0026】
絶縁層5の材料としては、例えば、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの絶縁性樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0027】
絶縁層5は、単層から構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。
【0028】
絶縁層5の厚みRは、円周方向のいずれの位置においても配線2の径方向(円周方向と交差する交差方向の一例)において略均一であり、例えば、1μm以上、好ましくは、3μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0029】
絶縁層5の厚みRに対する、導体線4の半径Rの比(R/R)は、例えば、1以上、好ましくは、10以上であり、例えば、200以下、好ましくは、100以下である。
【0030】
配線2の半径(R+R)は、例えば、例えば、25μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0031】
磁性層3は、インダクタンスを向上させるための層である。
【0032】
磁性層3は、配線2の外周面全面を被覆するように、配置されている。
【0033】
磁性層3は、異方性磁性粒子6とバインダ7とを含有する磁性組成物から形成されている。
【0034】
異方性磁性粒子6を構成する材料としては、軟磁性体、硬磁性体が挙げられる。好ましくは、インダクタンスの観点から、軟磁性体が挙げられる。
【0035】
軟磁性体としては、例えば、磁性ステンレス(Fe-Cr-Al-Si合金)、センダスト(Fe-Si-Al合金)、パーマロイ(Fe-Ni合金)、ケイ素銅(Fe-Cu-Si合金)、Fe-Si合金、Fe-Si―B(-Cu-Nb)合金、Fe-Si-Cr-Ni合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al-Ni-Cr合金、フェライトなどが挙げられる。これらの中でも、磁気特性の点から、好ましくは、センダスト(Fe-Si-Al合金)が挙げられる。
【0036】
異方性磁性粒子6の形状としては、異方性の観点から、例えば、扁平状(板状)、針状などが挙げられ、好ましくは、面方向(二次元)に比透磁率が良好である観点から、扁平状が挙げられる。
【0037】
バインダ7としては、バインダ樹脂が挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0038】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。接着性、耐熱性などの観点から、好ましくは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂(6-ナイロン、6,6-ナイロンなど)、熱可塑性ポリイミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)などが挙げられる。好ましくは、アクリル樹脂が挙げられる。
【0040】
樹脂としては、好ましくは、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の併用が挙げられる。より好ましくは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の併用が挙げられる。これにより、異方性磁性粒子6を所定の配向状態で、かつ、高充填で、配線2の周囲により確実に固定できる。
【0041】
また、磁性組成物は、必要に応じて、熱硬化触媒、無機粒子、有機粒子、架橋剤などの添加剤を含有することもできる。
【0042】
磁性層3では、バインダ7内に異方性磁性粒子6が配向しながら均一に配置されている。
【0043】
磁性層3は、断面視において、一の主部8と、複数(2つ)の側部9とを一体的に備える。
【0044】
主部8は、配線2と中心軸線を共有する断面視略円環状を有する。主部8は、内側に区画される周辺領域11と、その外側に区画される外周領域12とを一体的に有する。
【0045】
周辺領域11は、断面視略円環状を有する。周辺領域11は、主部8のうち、配線2の中心点Cから配線2の半径Rの1.5倍以内の範囲に位置する領域である。すなわち、周辺領域11は、周辺領域11の内周縁から、径方向外側に半径Rの0.5倍の距離の範囲に位置する領域である。
【0046】
周辺領域11は、複数(2つ)の内側円周方向配向領域13(第1領域の一例)と、複数(2つ)の内側径方向配向領域14(第2領域の一例)とを連続して有する。
【0047】
内側円周方向配向領域13は、断面視において、異方性磁性粒子6が円周方向に沿って配向している。すなわち、異方性磁性粒子6の比透磁率が高い方向(例えば、扁平状異方性磁性粒子では、粒子の面方向)が、配線2の中心点Cを中心とした円の接線と略一致する。より具体的には、粒子6の面方向と、その粒子6が位置する円の接線とがなす角度が、15度以下である場合を、粒子6が円周方向に配向していると定義する。
【0048】
内側円周方向配向領域13では、その領域13に含まれる異方性磁性粒子6全体の数に対して、円周方向に配向している異方性磁性粒子6の数の割合が、50%を超過し、好ましくは、70%以上である。すなわち、内側円周方向配向領域13では、配向していない異方性磁性粒子6を50%未満、好ましくは、30%以下含んでいてもよい。
【0049】
複数の内側円周方向配向領域13は、配線2を挟んで、第2方向に互いに間隔を隔てて対向配置されている。
【0050】
複数の内側円周方向配向領域13の面積の割合は、周辺領域11全体に対して、50%以上、好ましくは、60%以上であり、また、例えば、90%以下、好ましくは、80%以下である。
【0051】
内側円周方向配向領域13において、異方性磁性粒子6の充填率は、例えば、40体積%以上、好ましくは、45体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下である。充填率が上記下限以上であれば、インダクタンスに優れる。
【0052】
充填率は、実比重の測定、SEM写真断面図の二値化などによって算出することができる。
【0053】
内側円周方向配向領域13において、円周方向の比透磁率は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、30以上であり、また、例えば、500以下である。径方向の比透磁率は、例えば、1以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、50以下、より好ましくは、25以下である。また、径方向に対する円周方向の比透磁率の比(円周方向/径方向)は、例えば、2以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、50以下である。比透磁率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0054】
比透磁率は、例えば、磁性材料テストフィクスチャを使用したインピーダンスアナライザ(Agilent社製、「4291B」)によって測定することができる。
【0055】
内側径方向配向領域14は、断面視において、異方性磁性粒子6が径方向(図2では、第1方向)に沿って配向している。すなわち、異方性磁性粒子6の比透磁率が高い方向(例えば、扁平状異方性磁性粒子では、粒子の面方向)が、径方向と略一致する。より具体的には、粒子6の面方向と、その粒子6が位置する径方向とがなす角度が、15度以下である場合を、粒子6が径方向に配向していると定義する。
【0056】
内側径方向配向領域14では、その領域14に含まれる異方性磁性粒子6全体の数に対して、径方向に配向している異方性磁性粒子6の数の割合が、50%を超過し、好ましくは、70%以上である。すなわち、内側径方向配向領域14では、配向していない異方性磁性粒子6を50%未満、好ましくは、30%以下含んでいてもよい。
【0057】
複数の内側径方向配向領域14は、配線2の第1方向一方側と、配線2の第1方向他方側に、配線を挟んで互いに対向配置されている。具体的には、一方側の内側径方向配向領域14と他方側の内側径方向配向領域14との間に、配線2の中心点Cが位置する。
【0058】
また、複数の内側円周方向配向領域13と複数の内側径方向配向領域14とは、円周方向において交互に配置しており、具体的には、径方向に対向する2つの内側径方向配向領域14が、円弧形状を有する2つの内側円周方向配向領域13に挟まれている。
【0059】
複数の内側径方向配向領域14の面積の割合は、周辺領域11全体に対して、10%以上、好ましくは、20%以上であり、また、例えば、50%以下、好ましくは、40%以下である。
【0060】
内側径方向配向領域14において、異方性磁性粒子6の充填率は、例えば、40体積%以上、好ましくは、50体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下である。充填率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0061】
内側径方向配向領域14において、径方向の比透磁率は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、30以上であり、また、例えば、500以下である。円周方向(図2では、第2方向)の比透磁率は、例えば、1以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、50以下、より好ましくは、25以下である。また、円周方向に対する径方向の比透磁率の比(径方向/円周方向)は、例えば、2以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、50以下である。比透磁率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0062】
また、周辺領域11において、その内側の領域(最内側領域)における異方性磁性粒子6の充填率は、例えば、40体積%以上、好ましくは、50体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下である。充填率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0063】
最内側領域は、主部8のうち、配線2の中心点Cから配線2の半径Rの1.25倍以内の範囲に位置する領域とする。
【0064】
外周領域12は、断面視略円環状を有する。外周領域12は、主部8のうち、周辺領域11の外側に位置する領域である。外周領域12の内周縁は、周辺領域11の外周縁と一体的に連続する。
【0065】
外周領域12は、複数(2つ)の外側円周方向配向領域15と、複数(2つ)の外側径方向配向領域16とを有する。
【0066】
複数の外側円周方向配向領域15は、複数の内側円周方向配向領域13に対応して、複数の内側円周方向配向領域13の径方向外側に位置する。複数の外側円周方向配向領域15は、内側円周方向配向領域13と同様の構成を有しており、異方性磁性粒子6が、円周方向に配向されている。
【0067】
複数の外側径方向配向領域16は、複数の内側径方向配向領域14に対応して、複数の内側径方向配向領域14の径方向外側に位置する。複数の外側径方向配向領域16は、内側径方向配向領域14と同様の構成を有しており、異方性磁性粒子6が、径方向に配向されている。
【0068】
主部8の厚みRは、配線2の半径Rの0.3倍以上、好ましくは、0.5倍以上であり、また、例えば、5.0倍以下、好ましくは、3.0倍以下である。具体的には、例えば、50μm以上、好ましくは、80μm以上であり、また、例えば、500μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0069】
複数の側部9は、主部8の両外側において、第1方向(径方向)に延びるように配置されている。複数の側部9は、主部8の第1方向一方側と、主部8の第1方向他方側に、主部8を挟むように互いに間隔を隔てて対向配置されている。
【0070】
複数の側部9の第2方向一方面および第2方向他方面は、平坦となるように形成されている。
【0071】
複数の側部9は、それぞれ、側部配向領域17(第3領域の一例)を有する。
【0072】
側部配向領域17は、側部9の第2方向中間に配置されている。また、側部配向領域17は、径方向配向領域(内側径方向配向領域14および外側径方向配向領域16)の径方向外側に配置されている。
【0073】
側部配向領域17は、異方性磁性粒子6が径方向(図2では、第1方向)に沿って配向している。すなわち、異方性磁性粒子6の比透磁率が高い方向(例えば、扁平状異方性磁性粒子では、粒子の面方向)が、径方向と略一致する。より具体的には、粒子6の面方向と、径方向とがなす角度が、15度以下である。
【0074】
側部配向領域17では、その領域17に含まれる異方性磁性粒子6全体の数に対して、径方向に配向している異方性磁性粒子6の数の割合が、50%を超過し、好ましくは、60%以上である。
【0075】
側部9における側部配向領域17以外の領域では、異方性磁性粒子6は、側部配向領域17の配向方向(第1方向、径方向と平行する方向)に沿って配向している。
【0076】
すなわち、側部9の全領域は、異方性磁性粒子6が第1方向に沿って配向している。
【0077】
側部9において、異方性磁性粒子6の充填率は、例えば、40体積%以上、好ましくは、50体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下である。充填率が上記下限以上であれば、インダクタンスに優れる。
【0078】
側部9において、径方向の比透磁率は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、30以上であり、また、例えば、500以下である。円周方向(図2では、第2方向)の比透磁率は、例えば、1以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、50以下、より好ましくは、25以下である。また、円周方向に対する径方向の比透磁率の比(径方向/円周方向)は、例えば、2以上、好ましくは、5以上であり、また、例えば、50以下である。比透磁率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0079】
側部9の第1方向長さW(主部8の第1方向最外側から、側部9の外側端縁までの第1方向距離)は、例えば、10μm以上、好ましくは、80μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、500μm以下である。
【0080】
側部9の第2方向長さ(厚さ)Tは、例えば、100μm以上、好ましくは、200μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、1000μm以下である。
【0081】
次いで、図3A-Bを参照して、インダクタ1の製造方法の一実施形態について説明する。インダクタ1の製造方法は、例えば、配線2、および、2つの異方性磁性シート20を用意する用意工程、配線2を埋設するように、2つの異方性磁性シート20を、積層する積層工程を備える。
【0082】
用意工程では、配線2は、例えば、エナメル線として公知または市販のものを用いることができる。
【0083】
異方性磁性シート20は、面方向に延びるシート状を有し、磁性組成物から形成されている。異方性磁性シート20では、異方性磁性粒子6が、面方向に配向されている。好ましくは、異方性磁性シート20は、半硬化状態(Bステージ)である。
【0084】
このような異方性磁性シート20としては、特開2014-165363号、特開2015-92544号などに記載の軟磁性熱硬化性接着フィルムや軟磁性フィルムなどが挙げられる。
【0085】
積層工程では、まず、図3Aに示すように、2つの異方性磁性シート20の間に配線2を配置し、具体的には、2つの異方性磁性シート20が配線2の第2方向一方側および第2方向他方側に位置するように、2つの異方性磁性シート20および配線2を対向配置する。
【0086】
続いて、図3Bに示すように、配線2を埋設するように、2つの異方性磁性シート20を互いに近接させて積層する。具体的には、第2方向一方側の異方性磁性シート20を第2方向他方側に向かって押圧し、第2方向他方側の異方性磁性シート20を第2方向一方側に向かって、押圧する。
【0087】
この際、異方性磁性シート20が半硬化状態である場合は、加熱する。これにより、異方性磁性シート20が硬化状態(Cステージ)となる。また、2つの異方性磁性シート20の界面が消滅し、2つの異方性磁性シート20は、一の磁性層3を形成する。
【0088】
これにより、図2に示すように、断面視略円形状の配線2と、それを被覆する磁性層3とを備えるインダクタ1が得られる。すなわち、インダクタ1は、複数(2つ)の異方性磁性シート20を、配線2を挟むように、積層してなるものである。なお、実際のインダクタの断面図(SEM写真)を図4に示す。
【0089】
このインダクタ1は、磁性層3の主部8において、円周方向配向領域(内側円周方向配向領域13および外側円周方向配向領域15)および径方向配向領域(内側径方向配向領域14および径方向配向領域16)を有し、磁性層3の側部9において、径方向配向領域を有する。また、主部8において、円周方向配向領域と径方向配向領域との境界周辺では、異方性磁性粒子6は、円周方向から径方向に(または円周方向から径方向に)、緩やかに配向角度が傾斜している。
【0090】
インダクタ1は、電子機器の一部品、すなわち、電子機器を作製するための部品であり、電子素子(チップ、キャパシタなど)や、電子素子を実装する実装基板を含まず、部品単独で流通し、産業上利用可能なデバイスである。
【0091】
インダクタ1は、例えば、電子機器などに搭載される(組み込まれる)。図示しないが、電子機器は、実装基板と、実装基板に実装される電子素子(チップ、キャパシタなど)とを備える。そして、インダクタ1は、はんだなどの接続部材を介して実装基板に実装され、他の電子機器と電気的に接続され、コイルなどの受動素子として作用する。
【0092】
そして、インダクタ1は、断面視略形状の配線2と、配線2を被覆する磁性層3とを備え、磁性層3は、異方性磁性粒子6およびバインダ7を含有する。また、磁性層3の周辺領域11において、異方性磁性粒子6が配線2の円周方向に沿って配向する内側円周方向配向領域13を有する。そのため、インダクタンスが向上している。
【0093】
また、周辺領域11において、異方性磁性粒子6が径方向に沿って配向する内側径方向配向領域14を有する。そのため、直流重畳特性が向上している。
【0094】
(変形例)
図5図8を参照して、図1図2に示す一実施形態の変形例について説明する。なお、変形例において、上記した一実施形態と同様の部材には、同様の符号を付し、その説明を省略する。これら変形例についても、上記した一実施形態などと同様の作用効果を奏する。
【0095】
図2に示す実施形態では、磁性層3では、異方性磁性粒子6が均一に配置されているが、例えば、図5に示すように、内側径方向配向領域14において、異方性磁性粒子6が一部充填されていなくてもよい。
【0096】
すなわち、内側径方向配向領域14は、その中に、異方性磁性粒子6が充填されていない非充填領域18を有していてもよい。
【0097】
非充填領域18の径方向長さRは、内側径方向配向領域14の径方向長さに対して、例えば、90%以下、好ましくは、50%以下である。具体的には、例えば、80μm以下、好ましくは、50μm以下であり、また、例えば、0μmを超過する。
【0098】
この場合、内側径方向配向領域14の充填率は、例えば、5体積%以上、好ましくは、10体積%以上であり、また、例えば、70体積%以下、好ましくは、60体積%以下である。
【0099】
好ましくは、インダクタンスの観点から、図2に示す形態が挙げられる。
【0100】
図5に示す実施形態は、例えば、積層工程で、異方性磁性シート20の加圧条件(温度、圧力など)を適宜変更することにより製造することができる。
【0101】
図2に示す実施形態では、インダクタ1は、2つの内側径方向配向領域14および2つの側部9を備えているが、これらの数は限定されず、例えば、図6に示すように、インダクタ1は、4つの内側径方向配向領域14および4つの側部9を備えていてもよい。また、例えば、図7に示すように、インダクタ1は、1つの内側径方向配向領域14および1つの側部9を備えていてもよい。
【0102】
図6に示すインダクタ1は、例えば、4つの異方性磁性シート20を配線2に四方向から配置することにより製造することができる。また、図7に示すインダクタ1は、1つの異方性磁性シート20を配線2に巻きつけるように配置することにより製造することができる。
【0103】
図2に示す実施形態では、一方側の内側径方向配向領域14と他方側の内側径方向配向領域14との間に、配線2の中心点Cが位置するが、例えば、図8に示すように、一方側の内側径方向配向領域14と他方側の内側径方向配向領域14との間に、配線2の中心点Cが位置しなくてもよい。
【0104】
図1に示すインダクタ1は平面視略ループ形状を有するが、その形状は限定されず、目的および用途によって軸方向の延び方が決定される。
【0105】
<第2実施形態>
図9を参照して、本発明のインダクタの第2実施形態について説明する。なお、変形例において、上記した第1実施形と同様の部材には、同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0106】
第2実施形態のインダクタ1では、周辺領域11は、複数の内側円周方向配向領域13(第1領域の一例)と、複数の内側非配向領域21(第2領域の一例)とを一体的に有する。
【0107】
内側非配向領域21は、断面視において、異方性磁性粒子6が配向していない。すなわち、異方性磁性粒子6の比透磁率が高い方向(例えば、扁平状異方性磁性粒子では、粒子の面方向)が、不規則となるように、複数の異方性磁性粒子6が配置されている。
【0108】
複数の内側非配向領域21は、配線2の第1方向一方側と、配線2の第1方向他方側に、配線2を挟むように、互いに間隔を隔てて対向配置されている。具体的には、一方側の内側非配向領域21と他方側の内側非配向領域21との間に、配線2の中心点Cが位置する。
【0109】
複数の内側非配向領域21の面積の割合は、周辺領域11全体に対して、10%以上、好ましくは、20%以上であり、また、例えば、50%以下、好ましくは、40%以下である。
【0110】
内側径方向配向領域14において、異方性磁性粒子6の充填率は、例えば、40体積%以上、好ましくは、50体積%以上であり、また、例えば、90体積%以下、好ましくは、70体積%以下である。充填率が上記範囲であれば、インダクタンスに優れる。
【0111】
第2実施形態のインダクタ1も、第1実施形態などと同様の作用効果を奏する。
【0112】
高インダクタンス化の観点から、好ましくは、第1実施形態が挙げられる。
【0113】
第1実施形態の変形例も、第2実施形態に同様に適用することができる。
【0114】
(第3実施形態)
図10を参照して、本発明のインダクタの第3実施形態について説明する。なお、変形例において、上記した第1実施形と同様の部材には、同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0115】
第3実施形態のインダクタ1は、複数の側部9を備えない。すなわち、磁性層3は、主部8のみからなる。
【0116】
第3実施形態のインダクタ1も、第1実施形態などと同様の作用効果を奏する。
【0117】
インダクタンスをさらに向上させることができる観点から、好ましくは、第1実施形態が挙げられる。
【0118】
第3実施形態の変形例も、第1実施形態に同様に適用することができる。また、第2実施形態と同様に、第3実施形態において、内側径方向配向領域14を内側非配向領域21とすることもできる。
【0119】
<シミュレーション結果>
実施例1
図11に示すモデルにおいて、下記に示す条件にて、インダクタのインダクタンスおよび直流重畳特性をシミュレーションによって算出した。
【0120】
ソフト:ANSYS社製の「Maxwell 3D」、導体線4の軸方向長さ:10mm、導体線4の半径R:110μm、絶縁層5の厚みR:5μm、磁性層3の主部8の厚みR:100μm、内側径方向配向領域14の第2方向長さ(厚み)T:50μm、各領域において扁平状異方性磁性粒子6の面方向に沿う方向の比透磁率μ:140、各領域において扁平状異方性磁性粒子6の厚み方向に沿う方向の比透磁率μ:10、周波数:10MHz
直流重畳特性は、外部の磁界強度Hに対する磁気特性Bの変化を設定した。また、面方向に対しては非線形(外部の磁界強度Hが強くなると徐々にBが飽和するモード)で設定し、厚み方向に対しては、線形(外部の磁界強度Hに対してBが常に一定で飽和しないモード)で設定した。
【0121】
配線に直流電流を印加した状態で、直流磁界に対するインダクタンス値を算出した。
【0122】
電流値を0.1A~100Aまで掃引した。この際、直流電流が0.1Aである際のインダクタンス値を基準(100%)とし、70%に低下した際の直流電流の値を、直流重畳電流値として、算出した。結果を表1に示す。
【0123】
実施例2~5
内側径方向配向領域14の厚みTを表1に記載の厚みに変更した以外は、実施例1と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表1に示す。
【0124】
比較例1
内側径方向配向領域14の厚みTを0μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表1に示す。
【0125】
実施例6
図12に示す直線状のインダクタのインダクタンスおよび直流重畳特性をシミュレーションによって算出した。
【0126】
具体的には、側部9の長さWを50μm、および、その第2方向長さ(厚み)Tを300μmに設定した以外は実施例1と同様の設定でシミュレーションを実施した。結果を表2に示す。
【0127】
実施例7~8
側部9の長さWを表2に記載の長さに変更した以外は、実施例6と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表2に示す。
【0128】
比較例2~4
内側径方向配向領域14の厚みTを0μmに変更し、側部9の長さWを表2に記載の長さに変更した以外は、実施例6と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表2に示す。
【0129】
実施例9
図13に示す直線状のインダクタのインダクタンスおよび直流重畳特性をシミュレーションによって算出した。
【0130】
具体的には、実施例1において、内側径方向配向領域14の内側縁から22.5μm以までの領域を非充填領域18(異方性磁性粒子6が含有していない比透磁率μが1である等方性領域)として設定した以外は、実施例1と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表3に示す。
【0131】
実施例10~11
非充填領域18の距離Rを表3に記載の距離に変更した以外は、実施例9と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表3に示す。
【0132】
比較例5
粒子未充填領域の距離Rを100μmに変更した、すなわち、内側径方向配向領域14に異方性磁性粒子6が完全に含有していない条件に変更した以外は、実施例9と同様にして、インダクタンス値および直流重畳電流値を算出した。結果を表3に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【符号の説明】
【0136】
1 インダクタ
2 配線
3 磁性層
4 導体線
5 絶縁層
6 異方性磁性粒子
11 周辺領域
13 内側円周方向配向領域
14 内側径方向配向領域
17 側部配向領域
21 内側非配向領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13