(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】ブラケット付き防振装置及びブラケット付き防振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20220225BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
F16F13/10 L
B60K5/12 Z
(21)【出願番号】P 2018143402
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】川畑 義博
(72)【発明者】
【氏名】永井 廣明
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-264517(JP,A)
【文献】実開昭54-164348(JP,U)
【文献】実開平03-015707(JP,U)
【文献】特開2013-036581(JP,A)
【文献】特開平10-252810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12
7/00- 8/00
16/00
F16B 23/00-43/02
F16F 11/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置本体に対して、該第一の取付部材に第一のブラケットが固定されていると共に、該第一のブラケットが該第一の取付部材と該第二の取付部材とを相互に接近する荷重作用方向に押圧して該本体ゴム弾性体に予圧縮が及ぼされているブラケット付き防振装置において、
前記第一の取付部材に螺合されて締め付けられることで該第一の取付部材を前記第一のブラケットに固定する固定ボルトが、前記本体ゴム弾性体への予圧縮の方向で該第一のブラケットを貫通して該第一の取付部材に螺合されていると共に、
該第一の取付部材に螺合された該固定ボルトの長さが、該第一の取付部材と該第一のブラケットとが当接して重ね合わされた状態でボルト頭部が該第一のブラケットから離れて外方に突出するように設定されており、
該固定ボルトの頭部を該第一のブラケットに当接せしめることで該第一のブラケットから離隔された該第一の取付部材と該第一のブラケットとの重ね合わせ面間に形成される隙間に、該固定ボルトの側方から差し入れられたスペーサが挟まれて、該固定ボルトの該第一の取付部材への締め付けによって固定されていることを特徴とするブラケット付き防振装置。
【請求項2】
前記第一のブラケットを介して車両ボデー側に取り付けられる前記第一の取付部材の上方に、第二のブラケットを介してパワーユニット側に取り付けられる前記第二の取付部材が配置されていると共に、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されており、振動入力時に該流体室内で流体流動が生ぜしめられる倒立タイプの流体封入式防振装置とされている請求項1に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項3】
前記スペーサが、前記固定ボルトが挿通される貫通孔から外周に向かって延びて外周端に開口する差入用のスリットを有している請求項1又は2に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項4】
前記スペーサにおける前記貫通孔が円形とされていると共に、前記差入用のスリットが、該貫通孔から外周端の開口部に向かって次第に大きくなる開口幅を有している請求項3に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項5】
前記スペーサにおける前記差入用のスリットには、開口幅が前記固定ボルトの外径寸法よりも小さくされた狭窄部が設けられている請求項3又は4に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項6】
前記スペーサには、外周端における周方向で部分的に位置して外周側に突出する外周突部が設けられている請求項1~5の何れか一項に記載のブラケット付き防振装置。
【請求項7】
本体ゴム弾性体で連結された第一の取付部材と第二の取付部材とを含んで構成された防振装置本体を、第一のブラケットに設けられた枠状の装着部分に対して側方から組み付けると共に、該第一のブラケットの挿通孔を通じて該第一の取付部材のねじ穴に螺合された固定ボルトによって該第一の取付部材を該第一のブラケットへ固定するブラケット付き防振装置の製造方法において、
前記防振装置本体を前記第一のブラケットに設けられた枠状の前記装着部分へ側方から組み付けた後、
前記第一の取付部材の前記ねじ穴へ前記第一のブラケットの前記挿通孔を通じて押込部材を挿入して、該押込部材で該ねじ穴の底面を前記本体ゴム弾性体側に押し込むことで該本体ゴム弾性体を軸方向で圧縮して予圧縮状態とし、その後、
前記押込部材の押し込みにより離隔した前記第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れて、該スペーサにより前記本体ゴム弾性体の予圧縮状態を維持せしめることを特徴とするブラケット付き防振装置の製造方法。
【請求項8】
前記押込部材として前記第一の取付部材のねじ穴に螺合される前記固定ボルトを用い、該固定ボルトの押し込みにより離隔した該第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れた後、該固定ボルトを締め付けて該第一の取付部材と該第一のブラケットとを該スペーサを挟んで相互にねじ固定する請求項7に記載のブラケット付き防振装置の製造方法。
【請求項9】
前記押込部材として前記第一の取付部材のねじ穴に螺合される前記固定ボルトとは別の押込ピンを用い、該押込ピンの押し込みにより離隔した該第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れた後、該押込ピンを該ねじ穴から抜去して、その後に前記第一のブラケットの前記挿通孔を通じて該固定ボルトを該ねじ穴へ螺合させて締め付けることで該第一の取付部材と該第一のブラケットとを該スペーサを挟んで相互にねじ固定する請求項7に記載のブラケット付き防振装置の製造方法。
【請求項10】
前記押込ピンの外径寸法が前記固定ボルトの外径寸法よりも小さくされていると共に、前記スペーサに設けられた差入用のスリットには、該押込ピンの外径寸法より大きく且つ該固定ボルトの外径寸法より小さい狭窄部が設けられている請求項9に記載のブラケット付き防振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置本体にブラケットが装着されたブラケット付きの防振装置およびブラケット付きの防振装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結乃至は防振支持する防振装置が知られており、自動車のエンジンマウントなどに適用されている。このような防振装置は、例えば特開2013-36581号公報(特許文献1)に示されているように、第一の取付部材(ボス部材11)と第二の取付部材(外筒部材12)とが本体ゴム弾性体(防振基体13)で連結されることで構成された防振装置本体を備えており、当該防振装置本体における第一の取付部材が第一のブラケット(第2ブラケット30)を介して車両ボデーに取り付けられるとともに、第二の取付部材が第二のブラケット(第1ブラケット20)を介してパワーユニットに取り付けられることで、パワーユニットが車両ボデーに対して防振支持されている。
【0003】
ところで、前記特許文献1においては、第一のブラケットが枠状の装着部分を有しており、かかる第一のブラケットの装着部分に対して防振装置本体が側方から組み付けられている。そして、このような防振装置が車両に装着されることでパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされて、第一の取付部材と第二の取付部材が相互に接近する方向に本体ゴム弾性体が圧縮されるようになっている。これにより、第二の取付部材の周囲には、第一のブラケットとの間において、要求されるばね特性に応じた大きさのクリアランスが形成されるようになっている。このようなクリアランスの大きさの調節に際しては、前記特許文献1の
図19や
図26に示されるように、防振装置本体を第一のブラケットに圧入状態で組み付けることで本体ゴム弾性体を予め圧縮しておくなど、車両装着前の本体ゴム弾性体の弾性変形量(予圧縮量)を適宜調節することが好ましい。
【0004】
ところが、本体ゴム弾性体の圧縮状態を維持しつつ防振装置本体を第一のブラケットへ側方から組み付ける作業が難しかったのであり、第一及び第二の取付部材が第一のブラケットへ干渉することにより防振装置本体やブラケットが損傷するおそれもあった。また、要求されるばね特性やストッパクリアランスなどに応じて、本体ゴム弾性体の予圧縮量を調節したい場合もある。かかる調節は、例えば第一の取付部材や第二の取付部材、第一のブラケットにおける枠状の装着部分などの大きさを変更することでも対応可能であるが、大きさの異なる取付部材やブラケットを複数準備する必要があり、対応が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、防振装置本体を第一のブラケットへ容易に組み付けることができると共に、本体ゴム弾性体の予圧縮量を容易に調節することのできる、新規な構造のブラケット付き防振装置および新規なブラケット付き防振装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結された防振装置本体に対して、該第一の取付部材に第一のブラケットが固定されていると共に、該第一のブラケットが該第一の取付部材と該第二の取付部材とを相互に接近する荷重作用方向に押圧して該本体ゴム弾性体に予圧縮が及ぼされているブラケット付き防振装置において、前記第一の取付部材に螺合されて締め付けられることで該第一の取付部材を前記第一のブラケットに固定する固定ボルトが、前記本体ゴム弾性体への予圧縮の方向で該第一のブラケットを貫通して該第一の取付部材に螺合されていると共に、該第一の取付部材に螺合された該固定ボルトの長さが、該第一の取付部材と該第一のブラケットとが当接して重ね合わされた状態でボルト頭部が該第一のブラケットから離れて外方に突出するように設定されており、該固定ボルトの頭部を該第一のブラケットに当接せしめることで該第一のブラケットから離隔された該第一の取付部材と該第一のブラケットとの重ね合わせ面間に形成される隙間に、該固定ボルトの側方から差し入れられたスペーサが挟まれて、該固定ボルトの該第一の取付部材への締め付けによって固定されていることを特徴とするものである。
【0008】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、スペーサの厚さ寸法を調節することで本体ゴム弾性体の予圧縮量ひいては車両装着時における防振装置本体(第二の取付部材)と第一のブラケットとのクリアランス量を容易に調節することができる。
【0009】
また、所定長さの固定ボルトを備えていることから、例えば第一の取付部材に螺合された固定ボルトを押圧して第一の取付部材を第一のブラケットから離隔させた状態で側方からスペーサを差し入れてから固定ボルトを締め付けることで、固定ボルトの螺合と締め付けに際してスペーサを装着することも可能になる。
【0010】
本発明は、各種の防振装置に対して適用することができる。特に、本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係るブラケット付き防振装置において、前記第一のブラケットを介して車両ボデー側に取り付けられる前記第一の取付部材の上方に、第二のブラケットを介してパワーユニット側に取り付けられる前記第二の取付部材が配置されていると共に、壁部の一部が前記本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された流体室が形成されており、振動入力時に該流体室内で流体流動が生ぜしめられる倒立タイプの流体封入式防振装置とされているものである。
【0011】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る防振装置において、前記スペーサが、前記固定ボルトが挿通される貫通孔から外周に向かって延びて外周端に開口する差入用のスリットを有しているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、例えば第一の取付部材に螺合された固定ボルトに対して、差入用のスリットを通じて側方から固定ボルトへスペーサを外挿状態に装着することも可能となる。
【0013】
なお、スペーサの具体的な形状や大きさ、更には差入用のスリットの形状や大きさは適宜に設定可能である。特に、本発明の第四の態様は、前記第三の態様に係るブラケット付き防振装置において、前記スペーサにおける前記貫通孔が円形とされていると共に、前記差入用のスリットが、該貫通孔から外周端の開口部に向かって次第に大きくなる開口幅を有しているものである。
【0014】
本発明の第五の態様は、前記第三又は第四の態様に係るブラケット付き防振装置において、前記スペーサにおける前記差入用のスリットには、開口幅が前記固定ボルトの外径寸法よりも小さくされた狭窄部が設けられているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、固定ボルトへの外挿状態で装着されたスペーサが意図せず側方へ抜け出してしまうことが、狭窄部における固定ボルトへの当接で防止される。なお、固定ボルトの外径寸法よりも小さいスリット幅の狭窄部を設けた場合でも、例えば固定ボルトの外周面に小さな二面幅部分を設けることで、当該二面幅部分とスリットを位置合わせしてスペーサの側方からの差し入れを実現することができる。
【0016】
本発明の第六の態様は、前記第一~第五の何れか一つの態様に係るブラケット付き防振装置において、前記スペーサには、外周端における周方向で部分的に位置して外周側に突出する外周突部が設けられているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、スペーサの外周突部を利用して、例えばスペーサを把持して取り扱ったり、スペーサを位置決めしたり、スペーサを外部から容易に目視可能にすることが可能となり、スペーサの取り扱いを容易にすることができる。
【0018】
本発明の第七の態様は、本体ゴム弾性体で連結された第一の取付部材と第二の取付部材とを含んで構成された防振装置本体を、第一のブラケットに設けられた枠状の装着部分に対して側方から組み付けると共に、該第一のブラケットの挿通孔を通じて該第一の取付部材のねじ穴に螺合された固定ボルトによって該第一の取付部材を該第一のブラケットへ固定するブラケット付き防振装置の製造方法において、前記防振装置本体を前記第一のブラケットに設けられた枠状の前記装着部分へ側方から組み付けた後、前記第一の取付部材の前記ねじ穴へ前記第一のブラケットの前記挿通孔を通じて押込部材を挿入して、該押込部材で該ねじ穴の底面を前記本体ゴム弾性体側に押し込むことで該本体ゴム弾性体を軸方向で圧縮して予圧縮状態とし、その後、前記押込部材の押し込みにより離隔した前記第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れて、該スペーサにより前記本体ゴム弾性体の予圧縮状態を維持せしめることを特徴とするものである。
【0019】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、防振装置本体を第一のブラケットに組み付けた後に押込部材を押し込んでスペーサを組み付けることで予圧縮を及ぼすことができる。それ故、防振装置本体の第一の取付部材への困難な圧入作業やそれに伴う部材の損傷リスクが回避され得る。
【0020】
本発明の第八の態様は、前記第七の態様に係るブラケット付き防振装置の製造方法において、前記押込部材として前記第一の取付部材のねじ穴に螺合される前記固定ボルトを用い、該固定ボルトの押し込みにより離隔した該第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れた後、該固定ボルトを締め付けて該第一の取付部材と該第一のブラケットとを該スペーサを挟んで相互にねじ固定するようにしたものである。
【0021】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、固定ボルトを押込部材として利用することで、製造工程において第一の取付部材のねじ穴に挿入した押込部材をその後に抜去する必要がなくなり、製造工程の簡略化が図られ得る。
【0022】
本発明の第九の態様は、前記第七の態様に係るブラケット付き防振装置の製造方法において、前記押込部材として前記第一の取付部材のねじ穴に螺合される前記固定ボルトとは別の押込ピンを用い、該押込ピンの押し込みにより離隔した該第一の取付部材と前記第一のブラケットとの軸方向間の隙間に側方からスペーサを差し入れた後、該押込ピンを該ねじ穴から抜去して、その後に前記第一のブラケットの前記挿通孔を通じて該固定ボルトを該ねじ穴へ螺合させて締め付けることで該第一の取付部材と該第一のブラケットとを該スペーサを挟んで相互にねじ固定するようにしたものである。
【0023】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、製造工程において第一の取付部材と第一のブラケットとを離隔させるための外力が固定ボルトに及ぼされることが回避されて、固定ボルトの無用な損傷が防止され得る。なお、押込ピンとしては、ねじ穴に螺合されないで挿抜可能なロッド等が採用可能であり、それによって押込ピンのねじ穴への挿抜を速やかに実行できると共に、ねじ穴の損傷も防止され得る。
【0024】
本発明の第十の態様は、前記第九の態様に係るブラケット付き防振装置の製造方法において、前記押込ピンの外径寸法が前記固定ボルトの外径寸法よりも小さくされていると共に、前記スペーサに設けられた差入用のスリットには、該押込ピンの外径寸法より大きく且つ該固定ボルトの外径寸法より小さい狭窄部が設けられているものである。
【0025】
本態様に従うブラケット付き防振装置の製造方法によれば、押込ピンの挿抜に際してのねじ穴の損傷を防止できる。また、製造工程において、ねじ穴に挿入された押込ピンをスリットへ通すことでスペーサを側方から差し入れることを可能となしつつ、ねじ穴に固定ボルトが締め付けられた装着状態では、仮に固定ボルトが緩んでも、スペーサのスリットを通じての固定ボルトの通り抜けが狭窄部で阻止されることで、固定ボルトの脱落が防止され得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、例えば固定ボルトを押圧して第一の取付部材を第一のブラケットから離隔させた状態で側方からスペーサを差し入れてから固定ボルトを締め付けることで、固定ボルトの螺合と締め付けに際してスペーサを容易に装着することも可能になる。
【0027】
また、本発明方法によれば、防振装置本体を第一のブラケットに組み付けた後に押込部材を介して第一の取付部材を押圧してスペーサを組み込むことで予圧縮を及ぼすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのブラケット付き防振装置を固定ボルトの螺合状態で示す正面図。
【
図2】
図1に示されたブラケット付き防振装置の左側面図。
【
図5】
図1に示されたブラケット付き防振装置を構成するスペーサの平面図。
【
図7】
図1に示されたブラケット付き防振装置を固定ボルトの螺合前の状態で示す縦断面図であって、
図3に対応する図。
【
図8】本発明の第二の実施形態としてのブラケット付き防振装置を構成するスペーサの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
先ず、
図1~4には、本発明に係るブラケット付き防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は防振装置本体12を備えており、当該防振装置本体12が、第一の取付部材14と第二の取付部材16とが本体ゴム弾性体18で弾性連結された構造を有している。そして、
図3に示されるように、第一の取付部材14が、第一のブラケット20を介して防振対象部材である車両ボデー22に取り付けられるとともに、第二の取付部材16が、第二のブラケット24を介して振動源であるパワーユニット26に取り付けられることにより、パワーユニット26が車両ボデー22によって防振支持されるようになっている。なお、
図3,4の装着状態はパワーユニット26の分担支持荷重が及ぼされていない状態を示す。また、以下の説明において、上下方向および軸方向とは、車両装着状態において上下方向となり、防振装置本体12の中心軸方向となる
図1~4中の上下方向をいう。更にまた、左右方向とは、
図1中の左右方向をいうとともに、前後方向とは、
図2中の左右方向をいう。尤も、左右方向や前後方向は、車両装着時における左右方向や前後方向と必ずしも一致するものではない。
【0031】
より詳細には、第一の取付部材14は、全体として上下方向に延びる略円形のブロック形状とされており、金属や硬質の合成樹脂などからなる高剛性の部材とされている。そして、第一の取付部材14の下端部には、外周側に突出するフランジ部28が一体形成されているとともに、下面には、中心軸上を上方に延びて下方に開口するねじ穴30が形成されている。また、かかるねじ穴30の内周面には、雌ねじが形成されている。
【0032】
一方、第二の取付部材16は、全体として上下方向に延びる薄肉大径の略円筒形状とされており、第一の取付部材14と同様に、金属や硬質の合成樹脂などの材質から形成されている。かかる第二の取付部材16の軸方向中間部分には段差部32が設けられており、段差部32を挟んで上方が小径筒部34とされているとともに、下方が大径筒部36とされている。
【0033】
そして、第一の取付部材14の上方に第二の取付部材16が同心的に配置されて、これら第一の取付部材14と第二の取付部材16とが本体ゴム弾性体18によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体18は、全体として逆向きの略円錐台形状を有しており、小径側の端部(下端部)が第一の取付部材14に加硫接着されているとともに、大径側の端部(上端部)の外周面が第二の取付部材16の大径筒部36に加硫接着されている。本実施形態の本体ゴム弾性体18は、第一の取付部材14と第二の取付部材16とを備えた一体加硫成形品として形成されている。また、本体ゴム弾性体18の大径側端部からは、一体形成された薄肉筒状のシールゴム層38が上方に向かって突出しており、第二の取付部材16の小径筒部34の内周面が略全体に亘ってシールゴム層38で被覆されている。
【0034】
さらに、本体ゴム弾性体18には、大径凹所40が形成されている。大径凹所40は、略すり鉢形状を有する凹所であって、本体ゴム弾性体18の大径側の端面(上端面)に開口している。
【0035】
かかる第二の取付部材16には可撓性膜42が取り付けられている。可撓性膜42は、薄肉の略円板形状を有していると共に、上下方向に湾曲して弛みを備えている。また、可撓性膜42の外周端部は、固定部材44に固着されている。固定部材44は、筒状乃至はリング状の部材であって、その中心孔を塞ぐように可撓性膜42が固着されている。本実施形態では、可撓性膜42が、固定部材44を備えた一体加硫成形品として形成されている。そして、かかる可撓性膜42の一体加硫成形品が第二の取付部材16の小径筒部34の上側開口部に挿入配置された後、小径筒部34に縮径加工が施されることで、可撓性膜42が第二の取付部材16の上側開口部を液密的に閉塞するように配設されている。
【0036】
このように可撓性膜42が本体ゴム弾性体18に対して上方に離隔して対向配置されることで、これら本体ゴム弾性体18と可撓性膜42の軸方向対向面間には、外部空間に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体室46が形成されている。すなわち、流体室46の壁部の一部が、本体ゴム弾性体18で構成されている。なお、流体室46に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではなく、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が何れも好適に採用される。更に、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0037】
また、かかる流体室46には、仕切部材48が配設されている。仕切部材48は、合成樹脂や金属などで形成された硬質の部材であって、全体として円板形状とされていると共に、外周部分が内周部分に比して厚肉とされている。そして、当該厚肉とされた外周部分には、周方向に延びる周溝50が、外周面に開口して形成されている。
【0038】
かくの如き構造とされた仕切部材48は、流体室46に配設されている。すなわち、仕切部材48は、第二の取付部材16の小径筒部34に挿入されており、仕切部材48の外周面が第二の取付部材16の内周面に対して嵌着状態で支持されて、略軸直角方向に広がっている。
【0039】
また、仕切部材48の配設によって流体室46は、仕切部材48を挟んで上下に二分されている。これにより、仕切部材48を挟んだ下方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室52が形成されている。一方、仕切部材48を挟んだ上方には、壁部の一部が可撓性膜42で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室54が形成されている。換言すれば、大径凹所40の開口部が仕切部材48で覆われることによって、本体ゴム弾性体18と仕切部材48との間に受圧室52が形成されていると共に、小径筒部34の下側開口部が仕切部材48で覆われることによって、可撓性膜42と仕切部材48との間に平衡室54が形成されている。なお、受圧室52および平衡室54には、非圧縮性流体が封入されている。
【0040】
さらに、仕切部材48の外周面がシールゴム層38を介して第二の取付部材16に密着されることで、周溝50の外周開口部が第二の取付部材16によって流体密に覆蓋されて、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状流路の一方の端部が図示しない連通孔を通じて受圧室52に連通されると共に、他方の端部が図示しない連通孔を通じて平衡室54に連通されることにより、受圧室52と平衡室54とを相互に連通するオリフィス通路56が形成されている。なお、オリフィス通路56は、通路断面積(A)と通路長(L)との比(A/L)を調節することで、流動流体の共振周波数(チューニング周波数)が設定されている。
【0041】
このような構造とされた防振装置本体12には、第一のブラケット20と第二のブラケット24とが取り付けられている。
【0042】
第一のブラケット20は、金属などで形成された高剛性の部材であって、第一の取付部材14に固定される連結プレート58と、当該連結プレート58に固着された門形部材60と、当該門形部材60の両端部に固着された一対の脚部材62,62とを備えている。
【0043】
連結プレート58は、左右方向に延びる略板状の部材であって、例えば金属素板をプレス加工などで折り曲げることにより、長手方向中央部分が、両側部分よりも下方に位置している。すなわち、連結プレート58の長手方向中央部分には、凹状の収容凹部64が形成されているとともに、両側部分には、収容凹部64の開口部から左右方向外方に延びる当接部66,66が形成されている。また、収容凹部64の底部の中央には、上下方向に貫通する貫通孔68が形成されている。
【0044】
さらに、門形部材60は、例えば左右方向に延びる金属素板をプレス加工などで折り曲げることなどにより形成される、下方に開口する略逆U字形状の部材とされており、左右方向で対向する一対の側壁部70,70と、これら側壁部70,70の上端部分を相互に接続して、左右方向に延びる天壁部72とを備えている。なお、かかる門形部材60の幅方向一方(前後方向一方であって、後方となる
図2中の右方)には、門形部材60の長さ方向の略全長に亘って外方に突出する補強リブ74が設けられている。また、門形部材60における一方(
図4中の右方)の側壁部70と天壁部72との接続部分、要するに略U字形状とされた門形部材60の一つの角部には、幅方向他方(前方となる
図2中の左方)に突出する取付片76が溶接などにより固着されている。かかる取付片76の突出先端部分(前端部分)には、厚さ方向で貫通する図示しないボルト挿通孔が設けられている。
【0045】
そして、かかる門形部材60の下端開口部において、連結プレート58が溶接などにより固着されている。すなわち、門形部材60における側壁部70,70の突出先端部(下端部)と連結プレート58の長さ方向両端部とが相互に固着されることで、門形部材60の下端開口部が連結プレート58により閉塞されている。これにより、第一のブラケット20には、連結プレート58、両側壁部70,70、天壁部72により略矩形枠状をもって囲まれた装着部分としての収容領域78が形成されており、当該収容領域78が、前後方向両側に開口している。
【0046】
また、門形部材60における両側壁部70の突出先端部(下端部)、即ち側壁部70における連結プレート58との固着位置には、下方に延びる略板状の脚部材62が溶接などにより固着されている。これらの脚部材62,62は、下方に延び出して、その下端部において左右方向外方に折れ曲がっており、当該折曲部分において厚さ方向で貫通する図示しないボルト挿通孔が設けられている。なお、これら脚部材62の幅方向両側(前後方向両側)および下端部には、外方に突出する補強リブ80が連続して形成されている。
【0047】
一方、第二のブラケット24も、第一のブラケット20と同様に金属などで形成された高剛性の部材であって、第二の取付部材16に取り付けられる環状の装着部82と、当該装着部82の周上の一部から側方に突出する取付部84とを備えている。
【0048】
装着部82は、周方向に連続して、上下方向に開口する環状とされており、その内径寸法が、第二の取付部材16における大径筒部36の外径寸法と略等しくされている。なお、装着部82の内周面には、軸直角方向に広がる略環状の段差面86が設けられており、当該段差面86よりも上方の内径寸法が下方の内径寸法に比べて僅かに大径とされている。また、装着部82の上下方向寸法は周方向で異ならされており、装着部82の前方部分における上下方向寸法が第二の取付部材16における大径筒部36の上下方向寸法と略等しくされているとともに、装着部82の左右方向両側部分には、上方に突出する当接部88が設けられている。これにより、装着部82における当接部88の形成位置での上下方向寸法が第二の取付部材16の全体の上下方向寸法よりも大きくされている。さらに、装着部82の後方部分は取付部84と一体的に形成されており、その上下方向寸法が、第二の取付部材16における大径筒部36の上下方向寸法よりも大きくされている。更にまた、装着部82の左右両側における下方部分には、左右方向外方に突出する側方突出部89が設けられている。
【0049】
また、装着部82の外周面には緩衝ゴム90が固着されている。すなわち、装着部82の下面には、略環状の下側緩衝ゴム92が固着されているとともに、装着部82における当接部88,88の上方には上側緩衝ゴム94,94が固着されている。そして、これら下側緩衝ゴム92と上側緩衝ゴム94とが、装着部82の左右方向両側の外周面に固着される側方緩衝ゴム96,96により連結されている。要するに、装着部82の外周面に固着される緩衝ゴム90が、下側緩衝ゴム92と上側緩衝ゴム94と側方緩衝ゴム96とにより構成されている。特に、本実施形態では、下側緩衝ゴム92の下面においてシボ状突起が形成されている。
【0050】
さらに、取付部84は、装着部82の後方部分に対して一体的に形成されており、
図1に示されるように左右方向に延びている。この取付部84には、上下方向に延びる図示しないボルト挿通孔が複数設けられているとともに、下方に向かって突出する位置決めピン98が設けられている。
【0051】
かかる構造とされた第一のブラケット20および第二のブラケット24が、防振装置本体12に取り付けられている。すなわち、第二のブラケット24における装着部82に対して防振装置本体12の第二の取付部材16が上方から圧入されて、第二のブラケット24と防振装置本体12の第二の取付部材16とが相互に固定されている。なお、かかる防振装置本体12の、第二のブラケット24における装着部82への圧入は、第二の取付部材16の下端(大径筒部36の下端)が、装着部82の内周面に設けられた段差面86に当接することによって位置決めされるようになっている。
【0052】
そして、かかる防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体を、第一のブラケット20における収容領域78に対して後方から組み付ける(後述する
図7参照)。これにより、防振装置本体12が収容領域78内に位置せしめられるとともに、第二のブラケット24における取付部84が、第一のブラケット20の後方に位置せしめられるようになっている。
【0053】
ここにおいて、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体の収容領域78への挿入に際しては、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体における収容領域78内に収容される部分の上下方向寸法a(
図7参照)が、収容領域78の上下方向寸法b(
図7参照)と略同じ(a≒b)か小さく(a<b)されていることから、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体が収容領域78へ、困難な圧入を必要とすることなく装着可能とされている。即ち、防振装置本体12における本体ゴム弾性体18が上下方向において人手で困難な程に圧縮されることなく、挿入され得るようになっている。
【0054】
そして、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体を収容領域78へ収容して、第一のブラケット20における連結プレート58の貫通孔68と第一の取付部材14におけるねじ穴30とを相互に位置合わせした状態において、貫通孔68に固定ボルト100を挿通してねじ穴30における雌ねじと螺合せしめ、更に締め付けることで防振装置本体12における第一の取付部材14と第一のブラケット20とが相互にボルト固定されるようになっている。
【0055】
ここにおいて、本実施形態では、
図3に示されているように、固定ボルト100の軸部の長さ寸法(ボルト長)をcとすると共に、固定ボルト100のねじ穴30へのねじ固定に必要な規定ねじ込み量(規定の螺合深さ寸法であって、例えば5mm以上乃至はボルト長cの1/3以上、又はボルト外径の2倍以上等として規定され得る)をdとし、後述するスペーサ104の厚さ寸法をe、更に連結プレート58の厚さ寸法をfとすると、固定ボルト100として、c>d+e+fの条件を満足するものが用いられている。
【0056】
具体的には、例えば第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58とが当接して直接に重ね合わされた状態(即ち、
図7において第一の取付部材14が連結プレート58に対して隙間なく重なった状態)を想定すると、第一の取付部材14のねじ穴30に対して少なくとも規定ねじ込み量dで螺合された固定ボルト100が、連結プレート58の外面(下面)から所定長さで外方(下方)に突出し得るように、固定ボルト100の長さ寸法cが設定されている。特に、かかる固定ボルト100の連結プレート58からの突出長さは、固定ボルト100のボルト頭部103が、連結プレート58に対して、スペーサ104の厚さ寸法eよりも大きな寸法だけ離れ得るように設定されている。
【0057】
これにより、段落番号[0085]において後述するように、防振装置本体12が第一のブラケット20の収容領域78に収容された状態において、第一の取付部材14に対して規定ねじ込み量dだけ螺合せしめた固定ボルト100を用いて、即ち固定ボルト100のボルト頭部103に軸方向の外力を及ぼして第一の取付部材14を第一のブラケット20から離隔させてボルト頭部103と連結プレート58とが当接するまで上方に押し上げることで、第一の取付部材14と連結プレート58との間には、スペーサ104の厚さ寸法eより大きな軸方向寸法の隙間124(後述)が形成されることから、本体ゴム弾性体18に予圧縮を及ぼして、スペーサ104を側方から差し入れるようにして組み付けることも可能とされている。
【0058】
そして、このように防振装置本体12を収容領域78へ収容した状態において、第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58との上下方向間には、
図5,6に示されるスペーサ104が配設されている。
【0059】
このスペーサ104は、外周形状を限定されるものでないが、本実施形態では、第一の取付部材14の下端面と略対応した外周形状をもって形成されて、具体的には全体として略角丸の矩形板状とされており、金属や硬質の合成樹脂などの高剛性の部材とされている。なお、このスペーサ104の外形寸法は、第一のブラケット20の連結プレート58における収容凹部64の底面上に載置可能に設定されている。また、かかるスペーサ104の中央部分には、直径D(
図5参照)が、固定ボルト100の軸部における外径寸法g(
図3参照)よりも僅かに大きくされた、上下方向に貫通する円形の貫通孔106が形成されているとともに、貫通孔106の周囲が、一定の厚さ寸法をもって周方向に一周弱の長さで外周側に広がる周囲板状部108とされている。
【0060】
ここにおいて、周囲板状部108には、周上の一部(
図5中の上方)において切欠きが設けられており、貫通孔106から延びるスリット状の空間が、スペーサ104の外周端部に開口部110をもって開口している。すなわち、スペーサ104には、貫通孔106から径方向外方(外周側)に延びて外周端部の開口部110において開口する差入用のスリット112が形成されている。
【0061】
本実施形態では、スリット112の開口部110における開口幅h(
図5参照)が、貫通孔106の直径Dより大きくされており、スリット112には、貫通孔106から開口部110に至る間において、開口幅が次第に大きくなるテーパ状部114が設けられている。なお、本実施形態では、スリット112の内周端によって、貫通孔106が半周より短い周長で切り開かれることで、貫通孔106の内周面が半周よりも長い周長で延びる円弧状部116とされている。
【0062】
特に、本実施形態では、スリット112において、開口幅i(
図5参照)が、後述する押込ピン122の外径寸法jよりも大きく(j<i)、且つ、固定ボルト100の軸部における外径寸法gよりも小さくされた(i<g)狭窄部118が設けられている。かかる狭窄部118は、貫通孔106とスリット112との接続部位における貫通孔106の弦長をもって、貫通孔の内径(直径)Dよりも小さな狭窄寸法(i)を設定されている。
【0063】
一方、本実施形態のスペーサ104には、スリット112と反対側の径方向位置における外周端部おいて、周上で部分的に、外周側に突出する外周突部120が設けられている。なお、かかる外周突部120の大きさや形状は特に限定されるものではなく、例えば後述するスペーサ104の差入時に、手指や治具で把持し得る大きさや形状であることが好適である。
【0064】
そして、第一のブラケット20と第二のブラケット24が組み付けられた防振装置本体12において、第一のブラケット20における連結プレート58と第一の取付部材14との隙間124(後述)に対して、上記の如きスペーサ104が側方から差し入れられており、固定ボルト100によって締め付けられて固定されることで、本体ゴム弾性体18への軸方向の予圧縮が及ぼされた本実施形態のエンジンマウント10が構成されている。
【0065】
以下に、本実施形態のエンジンマウント10の製造方法の具体的な一例を、
図7などを用いて詳述するが、エンジンマウント10の製造方法は、以下に記載の方法に限定されるものではない。
【0066】
先ず、防振装置本体12、第一のブラケット20、第二のブラケット24、スペーサ104を別個に製造して準備する。防振装置本体12の製造方法は、何等限定されるものではなく、従来公知の製造方法が採用され得るが、例えば本体ゴム弾性体18の一体加硫成形品と、仕切部材48および可撓性膜42の一体加硫成形品との組付けを非圧縮性流体中で行うことにより、流体室46への非圧縮性流体の封入が実現され得る。
【0067】
そして、第二のブラケット24における装着部82に対して上方から防振装置本体12の第二の取付部材16を圧入して固定する。
【0068】
その後、
図7に示されるように、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体を第一のブラケット20における収容領域78に側方(後方)から挿入して組み付ける。その際、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体における収容領域78に収容される部分の上下方向寸法aは、収容領域78の上下方向寸法bと略同じか小さくされていることから、本体ゴム弾性体18が上下方向で大きく圧縮されることなく、即ち防振装置本体12が第一のブラケット20に対して大きな圧入代をもって圧入されることなく、挿入されるようになっている。なお、
図7では、防振装置本体12と第二のブラケット24との組付体の上端となる上側緩衝ゴム94と第一のブラケット20における天壁部72とが相互に当接するとともに、第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58とが相互に離隔した状態で示されている。
【0069】
次に、第一の取付部材14におけるねじ穴30と第一のブラケット20における貫通孔68とを相互に位置合わせした状態で、ねじ穴30に対して、貫通孔68を通じて、
図7に二点鎖線で示される押込部材としての押込ピン122を軸方向で上方に向けて挿入する。押込ピン122は、金属等の剛性材で構成される、例えば棒状の部材であって、本実施形態では、押込ピン122の外径寸法j(
図7参照)が、固定ボルト100の外径寸法gや第一の取付部材14のねじ穴30の内径寸法よりも小さくされている。
【0070】
そして、第二のブラケット24を固定支持せしめた状態下で、ねじ穴30に挿入した押込ピン122により、ねじ穴30の上底面102を本体ゴム弾性体18側、即ち軸方向上方に押し上げて、本体ゴム弾性体18を上下方向で圧縮して予圧縮状態とする。したがって、本実施形態では、本体ゴム弾性体18の略弾性主軸となる上下方向が、本体ゴム弾性体18の予圧縮の方向とされている。なお、かかる本体ゴム弾性体18の予圧縮量は、エンジンマウント10を車両に装着した際の、パワーユニット26の分担支持荷重や、当該分担支持荷重が及ぼされることに伴う本体ゴム弾性体18の弾性変形量などに応じて、軸方向のストッパクリアランスも考慮して、適宜設定され得る。尤も、押込ピン122の押込量は、本体ゴム弾性体18に設定される設計上の予圧縮量より大きくてもよく、押込ピン122の抜去に伴う本体ゴム弾性体18の弾性的な復元変形を考慮に入れてもよい。
【0071】
また、かかる押込ピン122の上方への押込みにより、第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58との対向面間(重ね合わせ面間)には、第一の取付部材14と連結プレート58とが相互に離隔することで上下方向の隙間124が形成される。そして、押込ピン122の上方への押込状態を保持せしめた状態で、当該隙間124に対して、側方からスペーサ104を差し入れる。かかるスペーサ104の側方からの差入れは、スペーサ104のスリット112を押込ピン122が通過して、スリット112の貫通孔106内に押込ピン122が位置するまで差し入れることによって行われる。特に、本実施形態では、スリット112のテーパ状部114によって、押込ピン122が貫通孔106内に容易に案内され得る。
【0072】
さらに、スペーサ104を差し入れた後、押込ピン122をねじ穴30から抜去する。これにより、本体ゴム弾性体18が弾性的に復元変形して、スペーサ104が、第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58との上下方向間で挟まれて摩擦力等によって位置決め配置されるようになっている。すなわち、本体ゴム弾性体18の弾性的な復元力がスペーサ104で受けられることから、押込ピン122の抜去後においても本体ゴム弾性体18の予圧縮状態が維持される。換言すれば、防振装置本体12が、第一のブラケット20の収容領域78にスペーサ104を挟んで組み付けられることで、第一のブラケット20における連結プレート58と天壁部72とにより、本体ゴム弾性体18が、スペーサ104を介して、第一の取付部材14と第二の取付部材16とを相互に接近させる荷重作用方向に押圧されて、予圧縮が及ぼされるようになっている。
【0073】
そして、かかる本体ゴム弾性体18の予圧縮状態を維持した状態で、第一のブラケット20における貫通孔68およびスペーサ104の貫通孔106を通じて固定ボルト100を下方から上方に向かって挿通して、第一の取付部材14のねじ穴30に対して、設計上の規定螺合長さを超える深さで螺合させる。これにより、第一の取付部材14と第一のブラケット20とをスペーサ104を挟んで相互にねじ固定(ボルト固定)する。
【0074】
かかる手順により、本実施形態のエンジンマウント10が製造され得る。そして、かかるエンジンマウント10において、第一のブラケット20における両脚部材62,62と取付片76に設けられた図示しないボルト挿通孔に取付ボルトが挿通されて車両ボデー22に螺着されるとともに、第二のブラケット24における取付部84に設けられた図示しないボルト挿通孔に取付ボルトが挿通されてパワーユニット26に螺着されることで、パワーユニット26が車両ボデー22に対してエンジンマウント10を介して弾性的に支持されることとなる。
【0075】
なお、このようにエンジンマウント10を車両に装着することにより、パワーユニット26の分担支持荷重が本体ゴム弾性体18に及ぼされて、第二の取付部材16が下方に引っ張られることで、本体ゴム弾性体18が軸方向で圧縮変形せしめられる。ここで、本体ゴム弾性体18は、第一の取付部材14と第二の取付部材16との間で軸方向に予圧縮されていることから、本体ゴム弾性体18にリバウンド方向の入力荷重が及ぼされた際に、本体ゴム弾性体18に引張変形が入らないようにすることができる。その結果、本体ゴム弾性体18の耐久性を満足する為の上側緩衝ゴム94,94と天壁部72との間に所定の大きさのリバウンド方向におけるストッパクリアランスが形成されるとともに、下側緩衝ゴム92と当接部66,66との間にも所定の大きさのバウンド方向におけるストッパクリアランスが形成される。
【0076】
また、このようにエンジンマウント10が車両に装着されることにより、パワーユニット26からの振動が入力された際に、受圧室52と平衡室54とを連通するオリフィス通路56を通じての非圧縮性流体の流体流動が生ぜしめられて、流体流動作用に基づく防振効果も発揮される。すなわち、本実施形態では、エンジンマウント10が、流体封入式の防振装置とされており、車両ボデー22に取り付けられる第一の取付部材14が、パワーユニット26に取り付けられる第二の取付部材16の下方に位置する、倒立タイプの防振装置とされている。
【0077】
ここにおいて、バウンド方向(第一の取付部材14と第二の取付部材16とが相互に接近する方向)において大きな荷重が入力された場合には、第二のブラケット24における装着部82が下側緩衝ゴム92を介して第一のブラケット20の連結プレート58における当接部66,66に当接するようになっている。これにより、第一の取付部材14と第二の取付部材16との相対的な変位量が緩衝的に制限されるようになっており、本実施形態では、装着部82と当接部66,66と下側緩衝ゴム92を含んでバウンドストッパ126が構成されている。
【0078】
同様に、リバウンド方向(第一の取付部材14と第二の取付部材16とが相互に離隔する方向)において大きな荷重が入力された場合には、第二のブラケット24における当接部88,88が上側緩衝ゴム94,94を介して第一のブラケット20の天壁部72に当接するようになっている。これにより、本実施形態では、当接部88,88と天壁部72と上側緩衝ゴム94,94を含んでリバウンドストッパ128が構成されている。また、左右方向において大きな荷重が入力された場合には、第二のブラケット24における側方突出部89,89が側方緩衝ゴム96,96を介して第一のブラケット20の側壁部70,70に当接するようになっている。これにより、本実施形態では、側方突出部89,89と側壁部70,70と側方緩衝ゴム96,96とを含んで左右方向ストッパ130,130が構成されている。
【0079】
以上の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10では、防振装置本体12が第一のブラケット20の収容領域78に対して困難な圧入を必要とせずに組み付けることができると共に、所定のストッパクリアランスを設定することが可能になる。また、防振装置本体12のブラケットへの圧入に伴う第一および第二の取付部材14,16や第一のブラケット20等の部材の損傷も回避され得る。更にまた、スペーサ104の厚さ寸法を調節することで本体ゴム弾性体18の予圧縮量乃至はストッパクリアランスを容易に調節することも可能となる。
【0080】
特に、本実施形態では、ねじ穴30に対して直線的に挿抜可能な押込ピン122を採用したことで、スペーサ104の組み付けによる予圧縮に際してのねじ穴30の損傷も回避され得る。
【0081】
また、本実施形態では、スペーサ104のスリット112において、固定ボルト100の外径寸法gよりも開口幅が小さくされた狭窄部118が設けられていることから、スペーサ104の装着後、万一固定ボルト100が緩んだりスペーサ104が位置ずれした場合でも、固定ボルト100と狭窄部118とが相互に当接することで、エンジンマウント10からのスペーサ104の脱落が防止され得る。
【0082】
さらに、本実施形態では、スペーサ104の外周端部において、周上で部分的に、外周側に突出する外周突部120が設けられていることから、当該外周突部120を手指や治具で把持してスペーサ104を第一の取付部材14と第一のブラケット20における連結プレート58との間に容易に差し入れることができる。また、かかる外周突部120は容易に確認できることから、スペーサ104の組付忘れの防止等にも貢献する。
【0083】
次に、
図8,9には、本発明に係るブラケット付き防振装置の第二の実施形態としてのエンジンマウントに採用されるスペーサ132が示されている。本実施形態のスペーサ132は、前記実施形態における狭窄部(118)が設けられていない。すなわち、本実施形態におけるスペーサ132のスリット134は、中心部分の貫通孔106の直径Dと略等しい開口幅をもって直線状に延び出した後に、テーパ状部114において開口部110に向かって開口幅が次第に大きくなっている。スペーサ132がかかる形状とされた本実施形態のエンジンマウントにおいても、前記実施形態と同様の効果が発揮され得る。
【0084】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでない。
【0085】
たとえば、前記実施形態では、固定ボルト100とは別体の押込部材として押込ピン122が採用されており、押込ピン122により本体ゴム弾性体18が圧縮されてスペーサ104の側方からの差し入れが実現されていたが、固定ボルト100を押込部材として用いることも可能である。具体的には、前記実施形態において、第一のブラケット20の収容領域78に防振装置本体12を挿入した後に、第一の取付部材14におけるねじ穴30と第一のブラケット20における連結プレート58の貫通孔68とを相互に位置合わせした状態で、第一の取付部材14におけるねじ穴30に固定ボルト100を螺合して、設計上の規定螺合長さ以上の深さまで螺合せしめた状態で、当該固定ボルト100のボルト頭部103に対して第一のブラケット20における連結プレート58に当接するまで上方に向かう外力を作用せしめることで第一の取付部材を上方に押圧して本体ゴム弾性体18に予圧縮方向の変形を及ぼすようにしてもよい。かかる場合には、前述のように、固定ボルトの軸部における上下方向寸法cが、規定ねじ込み量dと装着されるスペーサ104の厚さ寸法eと連結プレート58の厚さ寸法fとの総和よりも大きく(c>d+e+f)されていることで、第一の取付部材14を第一のブラケット20における連結プレート58から離隔せしめて、スペーサ104を側方から挿入するための隙間124を空けることが可能になる。
【0086】
このように固定ボルト100を押込部材として利用してスペーサ104を装着するようにすれば、特別に押込部材を別途に準備する必要がないだけでなく、スペーサ104の組み付けに際して本体ゴム弾性体18を軸方向に圧縮変形させるのに用いた押込部材である固定ボルト100を、スペーサ104の組付後に抜去する必要がなく、かかる固定ボルト100をその後に更に締め付けるだけでスペーサ104を介しての第一の取付部材14の第一のブラケット20に対する固定作業を行うことが可能になる。
【0087】
さらに、スペーサの具体的な形状は、特に限定されるものではない。たとえば、外周側に突出する外周突部は必須なものではない。かかる外周突部に代えて、または加えて、スペーサの差入れを案内するガイドレールが、例えば第一のブラケットや第一の取付部材に設けられてもよい。
【0088】
また、前記第一の実施形態におけるスペーサ104において、スリット112を挟んで対向する両側の壁部から対向方向内方に突出する部分が設けられることで開口幅が小さくされた狭窄部118が形成されていたが、対向する一方の壁部から他方の壁部に向かって突出する部分が設けられることで開口幅が小さくされた狭窄部が形成されてもよい。更にまた、スペーサ104の抜け出しを阻止するために、かくの如き狭窄部に代えて、或いは加えて、スペーサ104と第一の取付部材14の重ね合わせ面間に凹凸係合部を設けること等も可能である。なお、差入用のスリットは、テーパ形状とする必要もなく、直線状に延びる必要もない。
【0089】
更にまた、防振装置本体や第一のブラケット、第二のブラケットなどの具体的な構造は、何等限定されるものではない。すなわち、前記実施形態では、エンジンマウント10が、倒立タイプの流体封入式防振装置とされていたが、本発明に係るブラケット付き防振装置は、流体封入式でない、所謂ソリッドな防振装置であってもよいし、パワーユニットに取り付けられる第一の取付部材が車両ボデーに取り付けられる第二の取付部材の上方に位置する、正立タイプの防振装置であってもよい。また、前記実施形態におけるバウンドストッパ126、リバウンドストッパ128、左右方向ストッパ130,130は、何れも必須なものでもない。さらに、第一のブラケットは防振装置本体が装着される装着部分を備えていればよいが、装着部分は、前記実施形態の如き略矩形の収容領域78とされる必要はない。
【0090】
なお、前記実施形態では、本発明に係るブラケット付き防振装置が、自動車用のエンジンマウント10として示されていたが、本発明に係るブラケット付き防振装置は、自動車用のメンバマウントやボデーマウントなどに適用されてもよいし、自動車以外の防振装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
10:エンジンマウント(ブラケット付き防振装置)、12:防振装置本体、14:第一の取付部材、16:第二の取付部材、18:本体ゴム弾性体、20:第一のブラケット、22:車両ボデー、24:第二のブラケット、26:パワーユニット、46:流体室、78:収容領域(装着部分)、100:固定ボルト(押込部材)、102:上底面(底面)、103:ボルト頭部、104,132:スペーサ、106:貫通孔、110:開口部、112,134:差入用のスリット、118:狭窄部、120:外周突部、122:押込ピン(押込部材)、124:隙間