(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】潤滑流体
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220225BHJP
C10M 105/04 20060101ALN20220225BHJP
C10M 127/06 20060101ALN20220225BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20220225BHJP
C10M 143/12 20060101ALN20220225BHJP
C10M 143/10 20060101ALN20220225BHJP
C10M 143/00 20060101ALN20220225BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220225BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220225BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220225BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220225BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20220225BHJP
C10N 40/06 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/04
C10M127/06
C10M145/14
C10M143/12
C10M143/10
C10M143/00
C10M137/10 Z
C10N20:00 A
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N40:06
(21)【出願番号】P 2018561203
(86)(22)【出願日】2017-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2017062473
(87)【国際公開番号】W WO2017202873
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】201610352708.2
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100205453
【氏名又は名称】柴田 朝彦
(72)【発明者】
【氏名】ラン,リシン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シー
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ピーター・ウィリアム・ロバート
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-516107(JP,A)
【文献】特表2010-531923(JP,A)
【文献】特表2010-531922(JP,A)
【文献】特開2015-040299(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102766512(CN,A)
【文献】国際公開第2008/123249(WO,A1)
【文献】特表2010-523736(JP,A)
【文献】特表2009-530460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバー用の潤滑流体であって、
(a)前記潤滑流体の重量を基準として、少なくとも40重量%のGTL基油と、
(b)前記潤滑流体の重量を基準として、5~25重量%の線状及び/または分岐状アルキル基を有する一または二置換され
たアルキルベンゼンの混合物であって、前記アルキル基がC6~C20アルキル基であるアルキルベンゼンの混合物と、
(c)前記潤滑流体の重量を基準として、0.1~20重量%のメタクリレート、ブタジエン、オレフィン、またはアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマーから選択される粘度指数改善剤と、を含み、
前記潤滑流体が、50~1000の範囲の粘度指数、及び-30℃未満の流動点を有する、潤滑流体。
【請求項2】
50~90重量%の範囲でGTL基油を含む、請求項1に記載の潤滑流体。
【請求項3】
金属含有または金属非含有アルキルチオホスフェートを前記潤滑流体の0.4重量%~1.4重量%の量で含む、請求項1又は2に記載の潤滑流体。
【請求項4】
アクリルコポリマーまたは脂肪アミンエトキシレートを前記潤滑流体の重量を基準として、0.1重量%未満の量で含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショックアブソーバー流体として好適に使用される潤滑流体に関する。本発明は更に、ショックアブソーバーにおける潤滑流体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ショックアブソーバー(時にダンパーとも称される)は、突発的な衝撃インパルスを平滑化または減衰させ、運動エネルギーを消散させるように設計された機械的装置である。ショックアブソーバーは、自動車、バイクまたは自転車のサスペンション、航空機の着陸ギア、列車のサスペンション、及び多くの産業機械用の支持体の重要な部分である。大きなショックアブソーバーは建築及び土木工学にも使用されて、構造の地震被害及び共鳴に対する感受性を軽減する。
【0003】
ショックアブソーバーは、運動エネルギーを、その後に消散され得る熱エネルギーに変換する。油圧ショックアブソーバーは、内部に摺動ピストンを有するシリンダで構成されている。シリンダはショックアブソーバー流体で満たされている。この流体で満たされたピストン/シリンダの組み合わせは、ダッシュポットとも称される。車両においては、ホイールサスペンションは通常、コイルバネ、板バネ、またはトーションバーなどの圧力弾性手段と大抵組み合わされたいくつかのショックアブソーバーを含有する。これらのバネは、バネがエネルギーを貯蔵だけして消散または吸収しないので、ショックアブソーバーではない。ホイールを水平方向に動かすと、バネは上下の力を吸収し、これを熱に変換する。ショックアブソーバーは、例えばホイールのタイヤにおけるヒステリシスと共に、バネ下重量の上下の動きを抑制し、それによってホイールバウンスを効果的に減衰させる。これは、内部バルブなどの狭いオリフィスを通るショックアブソーバー流体の流れによる流体摩擦によって、運動エネルギーを熱に変換することによって達成される。
【0004】
WO201063752は、高い生物学的分解性、及び特に低温で粘度改善剤との高い適合性を有するショックアブソーバー流体として使用され得る流体を開示している。その流体は、基油組成物及び粘度指数改善剤を含む。その基油組成物は、GTL基油及びポリヒドロキシ化合物のエステルを含む。
【0005】
本発明者は、有利な特性、例えば、商業的に入手可能なショックアブソーバー流体より良好な長期剪断安定性及び/またはより良好な低温粘度特性を有するショックアブソーバー流体としての使用に好適な潤滑流体を提供しようとしてきた。
【発明の概要】
【0006】
本発明者は、ショックアブソーバー流体としての使用に好適な潤滑流体が、GTL基油、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレン、及び粘度改質剤の有利な組み合わせから調製され得ることを見出した。そのような組み合わせは、良好な剪断安定性及び良好な低温粘度を示す。
【0007】
したがって、本発明は、潤滑流体であって、
(a)前記潤滑流体の重量を基準として、少なくとも40重量%のGTL基油と、
(b)前記潤滑流体の重量を基準として、5~25重量%のアルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンと、
(c)前記潤滑流体の重量を基準として、0.1~20重量%の粘度指数改善剤と、を含み、
潤滑流体が、50~1000の範囲の粘度指数、及び-30℃未満の流動点を有する、潤滑流体を提供する。
【0008】
潤滑流体は、ショックアブソーバー流体として使用するのに好適であるが、フォーク油として、または作動流体もしくはベアリング及び循環油などの工業用潤滑剤として使用することもできる。
【0009】
本発明は更に、ショックアブソーバーにおける本発明による潤滑流体の使用を提供する。
【0010】
本発明はまた更に、本発明による潤滑流体を含む車両を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
潤滑流体は、潤滑流体の重量を基準として、少なくとも40重量%のGTL基油を含む。潤滑流体は、好ましくは、潤滑流体の重量を基準として、50~90重量%、より好ましくは60~85重量%の範囲のGTL基油を含む。
【0012】
「GTL基油」という用語は、天然ガスを液体燃料に変換するフィッシャー・トロプシュ法によって合成される基油を記載するために使用される。それらは、原油から精製される鉱油基油と比較して非常に低い硫黄含有量及び芳香族含有量を有し、非常に高いパラフィン組成比を有する。GTL基油は、異なる粘度を有するいくつかの異なるGTL基油の混合物であり得る。好ましくは、100℃でのGTL基油の動粘度は、2~10mm2/sの範囲、より好ましくは2.5~7mm2/sの範囲である。動粘度は、ASTM D445によって好適に決定される。「GTL4」及び「GTL3」で知られている好適な基油は、Shellから入手可能である。
【0013】
潤滑流体は、潤滑流体の重量を基準として、5~25重量%のアルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンを含む。好適には、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンは、異なるアルキルベンゼン分子及び/またはアルキルナフタレン分子の混合物である。アルキルベンゼン及び/またはアルキルナフタレンは、一または多置換されていてもよいが、好ましくは一または二置換されている。好ましい実施形態では、潤滑流体は、線状及び/または分岐状アルキル基で一または二置換された5~25重量%のアルキルベンゼンの混合物を含み、そのアルキル基が、C6~C20アルキル基、好ましくはC9~C15アルキル基である。アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンの40℃での動粘度(ASTM D445によって好適に測定される)は、好適には3~400mm2/s、好ましくは3~50mm2/s、より好ましくは3~10mm2/sである。平均相対分子量は、好適には180~300、好ましくは200~280、より好ましくは230~260である。
【0014】
潤滑流体は、潤滑流体の重量を基準として、0.1~20重量%の粘度指数改善剤を含む。潤滑流体は、好ましくは1~18重量%、より好ましくは3~10重量%の粘度指数改善剤を含む。
【0015】
粘度指数改善剤(VI改善剤、粘度改質剤、または粘度改善剤としても知られている)は、潤滑剤に高温及び低温操作性を提供する。これらの添加剤は、上昇した温度及び低い温度で剪断安定性及び許容可能粘度を付与する。好適な粘度指数改善剤には、低分子量及び高分子量の炭化水素の両方、ポリエステル、及び粘度指数改善剤及び分散剤の両方として機能し得る粘度指数改善剤分散剤が含まれる。これらのポリマーの典型的な分子量は、約10,000~1,000,000、より典型的には約20,000~500,000、更により典型的には約50,000~200,000である。好適な粘度指数改善剤の例は、メタクリレート、ブタジエン、オレフィン、またはアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマーである。
【0016】
好ましくは、粘度指数改善剤は、ポリメチルメタクリレート(更にPMMAとも称される)、すなわち、様々な鎖長のメチル及びアルキルメタクリレートのコポリマーである。特に好ましいPMMA粘度指数改善剤は、商業的に入手可能なViscoplex粘度改善剤である(Viscoplexは、
【数1】
)である。
【0017】
潤滑流体は、ショックアブソーバー流体に典型的に使用される1種以上の添加剤を好適に更に含む。これらの添加剤は、添加剤パッケージの形態で添加され得る。典型的な添加剤パッケージには、酸化抑制剤及び耐磨耗剤が含まれるが、分散剤、洗剤、腐食及び錆抑制剤、金属不活性化剤、極圧添加剤、抗発作剤、流動点降下剤、ワックス改質剤、封止適合剤、摩擦改質剤、潤滑剤、抗染色剤、色素剤、抗発泡剤、及び解乳化剤も含まれ得る。
【0018】
潤滑流体は好ましくは耐摩耗添加剤を含む。好適な耐摩耗添加剤には、潤滑流体の約0.4重量%~約1.4重量%の量で典型的に使用される亜鉛ジアルキルジチオホスフェートなどの金属含有及び金属非含有アルキルチオホスフェートが含まれる。
【0019】
潤滑流体は好ましくは抗発泡剤を含む。シリコーン及び有機ポリマーは典型的な抗発泡剤である。好ましくは、抗発泡剤は、アクリルコポリマーまたは脂肪アミンエトキシレートなどの低ケイ素または無ケイ素抗発泡である。抗発泡剤の量は、潤滑流体の重量を基準として、好適には1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満、より好ましくは0.05重量%未満である。
【0020】
潤滑流体は、50~1000の範囲、好ましくは100~600の範囲の粘度指数を有する。好適には、粘度指数は、ASTM D2272に従って決定される。粘度指数が低すぎると、潤滑流体は低温で粘性が高すぎる可能性が高く、高温では粘度が低すぎる可能性が高く、次いで潤滑流体はショックアブソーバーにおいて効果的に機能しなくなる。
【0021】
潤滑流体は、-30℃未満、好ましくは-45℃未満の流動点を有する。好適には、流動点はASTM D97に従って決定される。潤滑流体がより高い流動点を有する場合、次いで流体は低温周囲条件では流れず、流体を含有するショックアブソーバーは機能しないであろう。
【0022】
潤滑流体は好適には、40℃で少なくとも7mm2/s、好ましくは少なくとも10mm2/s、より好ましくは少なくとも12mm2/sの動粘度を有する。好適には、40℃での動粘度はASTM D445に従って測定される。そのような粘度を有することは、潤滑流体がショックアブソーバーにおいて効果的に機能すべき場合に重要である。
【0023】
潤滑流体は好適には、-40℃で2000cP未満、より好ましくは1500cP未満、最も好ましくは1250cP未満のブルックフィールド粘度を有する。好適には、-40℃でのブルックフィールド粘度は、ASTM D2983によって決定される。そのような粘度を有することは、潤滑流体がショックアブソーバーにおいて効果的に機能すべき場合に重要である。
【0024】
潤滑流体は好適には、CEC L-45-99に従って測定して40℃で10%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは3%未満の剪断安定性を有する。ショックアブソーバーで用いられる場合、潤滑流体が最長のあり得る期間での効率的な動作のための正しい粘度範囲を有するように、潤滑流体は最高のあり得る剪断安定性(及び試験条件下での最低のあり得る剪断安定性の損失)を有することが重要である。潤滑組成物が不十分な剪断安定性を有する場合、経時的に剪断され、粘度はすぐに必要な範囲外になる。
【0025】
本発明を以下の実施例を参照して以下に説明するが、本発明の範囲を限定することは何ら意図されていない。
【実施例】
【0026】
表1に示される配合を有するショックアブソーバー流体(実施例1)を調製した。
【表1】
【0027】
両方のGTL基油はShellから入手可能である。GTL4基油は、100℃で3.80~4.20cStの粘度(ASTM D445によって測定される)を有していた。GTL3基油は、100℃で2.8cStの粘度(ASTM D445によって測定される)を有していた。アルキルベンゼンは、40℃で3~5mm2/sの動粘度を有する一置換アルキルベンゼンの混合物であった。均質な混合物が生じるまで、成分の全てを混合し、加熱することによって流体を調製した。
【0028】
試験
実施例1のショックアブソーバー流体及び2種の商業用ショックアブソーバー流体(比較例1及び比較例2)を試験した。表2は、試験された特性、使用された試験方法、ならびに実施例1、比較例1、及び比較例2の結果を示している。
【表2】
【0029】
結果は、3つのショックアブソーバー流体は全て同様の密度、40℃及び100℃での粘度、ならびに粘度指数を示していた。本発明のショックアブソーバー流体(実施例1)は、商業用のショックアブソーバー流体(比較例1及び比較例2)と比較して改善したブルックフィールド粘度を有し、より良好な剪断安定性も有していた。