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  • 特許-エレベーターおよびブレーキ診断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】エレベーターおよびブレーキ診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20220225BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20220225BHJP
   B66B 11/08 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B66B5/02 W
B66B3/00 R
B66B11/08 G
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019049201
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020147442
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 繁
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025526(JP,A)
【文献】特開2014-118299(JP,A)
【文献】特開2006-089162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-5/28
B66B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごと、前記かごを昇降させる巻上機と、硬化度合が温度に依存する素材から成る緩衝材を有し前記巻上機の回動を制動するブレーキと、前記巻上機と前記ブレーキとを制御するエレベーター制御装置と、前記ブレーキの周囲の温度である環境温度を検出する温度検出装置とを備え、前記ブレーキの動作状態を検出し、前記ブレーキが動作に要した時間であるブレーキ動作時間を前記ブレーキの動作状態を基に測定するエレベーターにおいて、
前記ブレーキ動作時間と、前記環境温度と、前記ブレーキが動作した回数であるブレーキ動作回数とに基づいて、前記緩衝材の状態を判断するブレーキ診断部、
を備えることを特徴とするエレベーター。
【請求項2】
前記ブレーキ診断部は、
前記ブレーキ動作時間が前記ブレーキ動作時間の閾値である時間閾値以上か否かの判断である第1の判断を実施し、
前記第1の判断の結果が真の場合に、前記緩衝材の硬度を適正化するための運転であるなじみ運転を実施し、当該なじみ運転の最中または後において測定されたブレーキ動作時間が前記時間閾値以上か否かの判断である第2の判断を実施する、
請求項1に記載のエレベーター。
【請求項3】
前記ブレーキ診断部は、
前記第2の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキの点検の指示を発行する、
請求項2に記載のエレベーター。
【請求項4】
前記ブレーキ診断部は、前記ブレーキ動作回数と前記環境温度と前記ブレーキ動作時間との関係を基に、前記ブレーキ動作時間が前記時間閾値以上になるときの前記環境温度を予測し、
前記ブレーキ診断部は、
前記検出された環境温度が前記予測された環境温度以下であるか否かの判断である第3の判断を実施し、
前記第3の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキ動作時間を計測するための運転である診断運転を実施し、
前記ブレーキ診断部は、前記診断運転の最中または後に前記第1の判断を実施する、
請求項2に記載のエレベーター。
【請求項5】
前記ブレーキ診断部は、対象期間と当該対象期間でのブレーキ動作回数とに基づくブレーキ動作頻度を算出し、
前記予測された環境温度は、前記算出されたブレーキ動作頻度に応じた環境温度である、
請求項4に記載のエレベーター。
【請求項6】
前記対象期間は、前記緩衝材の硬化度合が一定度合以上に硬くなるほどに前記環境温度が低温であり続けたと定義された期間である、
請求項5に記載のエレベーター。
【請求項7】
前記ブレーキ診断部は、単位期間毎に、
当該単位期間において測定されたブレーキ動作時間のうち最長のブレーキ動作時間を特定し、
前記特定された最長のブレーキ動作時間と、前記ブレーキ動作時間についての所定の閾値との差分を算出し、
当該差分が一定値以下であるか否かの判断である第4の判断を実施し、
前記第4の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキのうちの少なくとも前記緩衝材の整備または交換の指示を発行する、
請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載のエレベーター。
【請求項8】
かごと、前記かごを昇降させる巻上機と、硬化度合が温度に依存する素材から成る緩衝材を有し前記巻上機の回動を制動するブレーキと、前記巻上機と前記ブレーキとを制御するエレベーター制御装置と、前記ブレーキの周囲の温度である環境温度を検出する温度検出装置とを備え、前記ブレーキの動作状態を検出し、前記ブレーキが動作に要した時間であるブレーキ動作時間を前記ブレーキの動作状態を基に測定するエレベーターにおける前記ブレーキを診断する方法において、
前記ブレーキ動作時間と、前記環境温度と、前記ブレーキが動作した回数であるブレーキ動作回数とに基づいて、前記緩衝材の状態を判断する
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
かごと、前記かごを昇降させる巻上機と、硬化度合が温度に依存する素材から成る緩衝材を有し前記巻上機の回動を制動するブレーキと、前記巻上機と前記ブレーキとを制御するエレベーター制御装置と、前記ブレーキの周囲の温度である環境温度を検出する温度検出装置とを備え、前記ブレーキの動作状態を検出し、前記ブレーキが動作に要した時間であるブレーキ動作時間を前記ブレーキの動作状態を基に測定するエレベーターの前記ブレーキを診断するシステムにおいて、
前記ブレーキ動作時間と、前記環境温度と、前記ブレーキが動作した回数であるブレーキ動作回数とを取得する取得部と、
前記ブレーキ動作時間と、前記環境温度と、前記ブレーキ動作時間とに基づいて、前記緩衝材の状態を判断する制御部と
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項10】
前記制御部は、
前記ブレーキ動作時間が前記ブレーキ動作時間の閾値である時間閾値以上か否かの判断である第1の判断を実施し、
前記第1の判断の結果が真の場合に、前記緩衝材の硬度を適正化するための運転であるなじみ運転を実施し、当該なじみ運転の最中または後において測定されたブレーキ動作時間が前記時間閾値以上か否かの判断である第2の判断を実施する、
請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記制御部は、
前記第2の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキの点検の指示を発行する、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御部は、前記ブレーキ動作回数と前記環境温度と前記ブレーキ動作時間との関係を基に、前記ブレーキ動作時間が前記時間閾値以上になるときの前記環境温度を予測し、
前記制御部は、
前記検出された環境温度が前記予測された環境温度以下であるか否かの判断である第3の判断を実施し、
前記第3の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキ動作時間を計測するための運転である診断運転を実施し、
前記制御部は、前記診断運転の最中または後において前記第1の判断を実施する、
請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記制御部は、対象期間と当該対象期間でのブレーキ動作回数とに基づくブレーキ動作頻度を算出し、
前記予測された環境温度は、前記算出されたブレーキ動作頻度に応じた環境温度である、
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記対象期間は、前記緩衝材の硬化度合が一定度合以上に硬くなるほどに前記環境温度が低温であり続けたと定義された期間である、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記制御部は、単位期間毎に、
当該単位期間において測定されたブレーキ動作時間のうち最長のブレーキ動作時間を特定し、
前記特定された最長のブレーキ動作時間と、前記ブレーキ動作時間についての所定の閾値との差分を算出し、
当該差分が一定値以下であるか否かの判断である第4の判断を実施し、
前記第4の判断の結果が真の場合に、前記ブレーキのうちの少なくとも前記緩衝材の整備または交換の指示を発行する、
請求項9乃至14のうちのいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、エレベーターのブレーキ診断に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ動作音を低減させるための対策として、ブレーキの緩衝材が用いられ、例えば、塗布型のものやゴム素材のものが挙げられる。しかし、緩衝材として、温度の低下に伴い硬化していく素材が採用された場合、環境温度(ブレーキの周囲の温度)が低いとブレーキの動作時間が長くなる。
【0003】
従来、ブレーキの動作時間が環境温度に依存するような場合、ブレーキの動作異常を検出する基準値(ブレーキ動作時間の閾値)を平均的な環境温度に対応したブレーキ動作時間に設定すると、冬季や寒冷地ではブレーキの動作異常を誤検出する虞がある。一方、基準値を、平均的な環境温度ではなく低い環境温度に対応したブレーキ動作時間に設定すると、高い環境温度におけるブレーキの異常検出が遅れてしまう虞がある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1の発明のように、ブレーキ温度(環境温度)の変化に対応してブレーキ動作時間の基準値を変化させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-025526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、環境温度の変化に対応してブレーキ動作時間の基準値を変化させるだけでは、ブレーキ動作時間が異常であることしか判別できず、原因の特定が困難で、保守員が現地に出動しないと復旧できない、別の言い方をすれば、ブレーキ動作時間に異常があれば常にブレーキの故障と診断されかこが停止し復旧までに時間がかってしまうという問題点がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、硬化度合が温度に依存する素材がブレーキの緩衝材として用いられているエレベーターにおけるブレーキの状態を正確に診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
エレベーターが、かごと、かごを昇降させる巻上機と、硬化度合が温度に依存する素材から成る緩衝材を有し前記巻上機の回動を制動するブレーキと、巻上機とブレーキとを制御するエレベーター制御装置と、ブレーキの周囲の温度である環境温度を検出する温度検出装置とを備え、ブレーキの動作状態を検出し、ブレーキが動作に要した時間であるブレーキ動作時間をブレーキの動作状態を基に測定するようになっている。当該エレベーター(または、当該エレベーターにおけるブレーキを診断するシステム)が、ブレーキ動作時間と、環境温度と、ブレーキ動作回数(ブレーキが動作した回数)とに基づいて緩衝材の状態を判断する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、硬化度合が温度に依存する素材がブレーキの緩衝材として用いられているエレベーターにおけるブレーキの状態を正確に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係るエレベーターを含むシステム全体の構成例を示す図である。
図2】ブレーキの構造の一例を示す図である。
図3】実施例1に係る準備処理および診断処理を含む処理のフローチャートである。
図4】ブレーキ動作頻度毎のブレーキ吸引時間の環境温度依存性を示すグラフの一例である。
図5】季節とブレーキ吸引時間の関係を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明では、「インターフェース装置」は、一つ以上のインターフェースデバイスでよい。当該一つ以上のインターフェースデバイスは、一つ以上の同種の通信インターフェースデバイスであってもよいし二つ以上の異種の通信インターフェースデバイスであってもよい。
【0012】
また、以下の説明では、「メモリ」は、一つ以上のメモリデバイスであり、典型的には主記憶デバイスでよい。メモリにおける少なくとも一つのメモリデバイスは、揮発性メモリデバイスであってもよいし不揮発性メモリデバイスであってもよい。
【0013】
また、以下の説明では、「永続記憶装置」は、一つ以上の永続記憶デバイスである。永続記憶デバイスは、典型的には、不揮発性の記憶デバイス(たとえば補助記憶デバイス)であり、具体的には、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。
【0014】
また、以下の説明では、「記憶装置」は、メモリと永続記憶装置の少なくともメモリでよい。
【0015】
また、以下の説明では、「プロセッサ」は、一つ以上のプロセッサデバイスである。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、典型的には、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサデバイスであるが、GPU(Graphics Processing Unit)のような他種のプロセッサデバイスでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、シングルコアでもよいしマルチコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、プロセッサコアでもよい。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、処理の一部または全部を行うハードウェア回路(たとえばFPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit))といった広義のプロセッサデバイスでもよい。
【0016】
また、以下の説明では、「kkk部」の表現にて機能を説明することがあるが、機能は、一つ以上のコンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで実現されてもよいし、一つ以上のハードウェアデバイス(たとえばFPGAまたはASIC)によって実現されてもよいし、それらの組合せによって実現されてもよい。各機能の説明は一例であり、複数の機能が一つの機能にまとめられたり、一つの機能が複数の機能に分割されたりしてもよい。
【0017】
以下、図面を参照して幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベーターを含むシステム全体の構成例を示す図である。
【0019】
エレベーター1は、かご101、つり合いおもり102、主ロープ103、巻上機104、ブレーキ105、エレベーター制御装置106、動作状態検出装置107、および、温度検出装置108を備える。ブレーキ105は、ブレーキ動作音を低減し硬化度合が温度に依存する素材から成る緩衝材の一例として緩衝ゴム205(図2参照)を有する。
【0020】
かご101は、主ロープ103の一端に取り付けられ、かご101を走行させるモータと主ロープ103をかけるシーブとを有する巻上機104によって走行する。主ロープ103の他端にはつり合いおもり102が吊り下げられる。巻上機104の回動および巻上機104の回動を制動するブレーキ105の吸引釈放はエレベーター制御装置106によって制御される。エレベーター制御装置106は、少なくとも巻上機104を制御することによってかご101を昇降させ、着床階で停止させる。動作状態検出装置107は、ブレーキ105の吸引釈放状態(動作状態の一例)を検出する。ここで、ブレーキ105の「吸引状態」とは、ブレーキ105が巻上機104の回動を制動していない状態を意味する。ブレーキ105の「釈放状態」とは、ブレーキ105がかかって巻上機104の回動を制動している状態を意味する。温度検出装置108は、環境温度(ブレーキ105の周辺の温度)を検出する。温度検出装置108は、温度センサ、または、温度センサと温度判定部(温度センサから出力された温度情報(検出された環境温度を示す情報)を受信し当該温度情報が示す環境温度を特定する機能)から構成されてもよい。
【0021】
エレベーター制御装置106の状態は、遠隔監視装置109を通して、定期的に又は不定期的に(例えば常時)、監視センター110に送信される。また、必要に応じて、監視センター110は、営業所端末(営業所の情報処理端末)115と保守員端末(保守員114が携帯する情報処理端末)113の少なくとも一つと通信を行う。遠隔監視装置109と監視センター110は、ネットワーク49を介して通信する。
【0022】
エレベーター制御装置106は、ブレーキ105の吸引が行われる(ブレーキ105が開く)都度に、例えば、ブレーキ吸引時間、環境温度、およびブレーキ吸引時刻を示すデータセットであるブレーキデータセットを取得し、且つ、ブレーキ吸引回数(ブレーキ105が吸引された(開いた)回数)をインクリメントする。「ブレーキ吸引時間」は、ブレーキ105の吸引に要した時間(例えば、エレベーター制御装置106からブレーキ105を閉じるブレーキ動作指令が出力されてからブレーキ105が吸引状態になるまでの時間)である。「環境温度」は、温度検出装置108によって検出された、ブレーキ105の周囲温度である。「ブレーキ吸引時刻」は、ブレーキ105の吸引が行われた時刻(例えば、ブレーキ105の吸引が開始されたまたは終了した(ブレーキ150が吸引状態になった時刻))である。
【0023】
エレベーター制御装置106から例えば決まった周期で遠隔監視装置109を通して監視センター110にブレーキデータセットおよびブレーキ吸引回数が収集されデータベース111に格納される。監視センター110にブレーキデータセットが収集されてから次にブレーキデータセットが収集されるまでの間、エレベーター制御装置106の記憶装置に、取得されたブレーキデータセットが蓄積されていてよい。
【0024】
監視センター110は、ブレーキ診断部112を有する。ブレーキ診断部112は、例えば取得部50と制御部60とを有する。取得部50は、収集されたブレーキデータセットおよびブレーキ吸引回数をデータベース111に蓄積したり、データベース111からブレーキ吸引時間、環境温度およびブレーキ吸引回数を特定したりする。制御部60は、特定されたブレーキ吸引時間、環境温度およびブレーキ吸引回数から後述の予測モデルを作成したり、対象期間についてのブレーキ吸引頻度を算出したり、後述の診断運転およびなじみ運転を実施したり(正確には、そのような運転をエレベーター制御装置106に実施させたり)する。対象期間の一例は後述する。
【0025】
本実施例では、下記のうちの少なくとも一つが採用されてよい。
・エレベーター制御装置106、遠隔監視装置109および監視センター110の各々が、インターフェース装置、記憶装置およびそれらに接続されたプロセッサを有してよい。
・監視センター110において、データベース111は、監視センター110の記憶装置に格納されてよい。
・ブレーキ吸引回数(累積値)は、エレベーター制御装置106、遠隔監視装置109および監視センター110のうちのいずれにおいてカウントされてもよい。本実施例では、ブレーキ診断部112が監視センター110に存在するため、監視センター110において少なくとも対象期間についてのブレーキ吸引回数が取得される。ブレーキ吸引回数は、例えば、ブレーキデータセットの数でよい。ブレーキデータセットは、ブレーキ吸引毎に得られるためである。例えば、対象期間についてのブレーキ吸引回数は、対象期間にブレーキ吸引時刻が属するブレーキデータセットの数でよい。
・ブレーキ105を診断するシステムは、ブレーキ診断部112でよい、すなわち、取得部50と制御部60で構成されてよい。ブレーキ診断部112は、監視センター110に代えて、図1に鎖線で示すように、エレベーター制御装置106または遠隔監視装置109に存在してもよい。また、ブレーキ診断部112を構成する複数の機能が、エレベーター制御装置106、遠隔監視装置109および監視センター110の少なくとも二つに分散していてもよい。
・一つのエレベーター1についてのブレーキデータセットおよびブレーキ吸引回数を格納するデータベースが、エレベーター制御装置106または遠隔監視装置109に存在してもよい。
・複数のエレベーター1が存在してよい。遠隔監視装置109は、エレベーター1毎に存在してもよいし、二つ以上のエレベーター1に共通でもよい。監視センター110は、複数のエレベーター1に共通でよい。
【0026】
図2は、ブレーキ105の構造の一例を示す図である。図2は、ブレーキ105の部分断面図を含む。
【0027】
ブレーキ105は、コア201と、アマチュア202と、ブレーキドラム(図示せず)に押し付けられて制動を保持するシュー203とから構成されている。コア201に通電すると、アマチュア202がコア201に吸引され、シュー203がブレーキドラムから離れ、かご101の走行が可能となる。
【0028】
アマチュア202が吸引方向に動くと、動作状態検出装置107の検出部の一例であるマイクロスイッチ204が動作し、ブレーキ105が吸引状態であることを、動作状態検出装置107が検出してエレベーター制御装置106に伝える。このとき、緩衝ゴム205は、アマチュア202の吸引の衝撃を受けて圧縮される。環境温度(ブレーキ105の周囲温度)が低下すると緩衝ゴム205の硬度が上昇し、故に、マイクロスイッチ204が投入されるまでの時間が長くなる。
【0029】
逆に、環境温度が高かったり、環境温度が低くてもブレーキ105が頻繁に動作したりしていれば、緩衝ゴム205の硬度は適正に保たれ、故に、マイクロスイッチ204が投入されるまでの時間は短くて済む。
【0030】
図3は、実施例1に係る準備処理および診断処理を含む処理のフローチャートである。
【0031】
準備処理は、診断処理の前処理に相当する。準備処理は、S01~S03を含む。
【0032】
診断処理は、準備処理において準備された情報を使用してブレーキ105の診断を行う処理である。診断処理は、S04~S11を含む。
【0033】
以下、図3を参照して、準備処理および診断処理を説明する。
【0034】
<準備処理>
【0035】
取得部50が、データベース111から、対象期間に属するブレーキ吸引時間、環境温度、ブレーキ吸引回数をデータベース111から取得する(S01)。
【0036】
ここで、「対象期間」は、エレベーター1の稼働期間として定義された期間(例えば、前日)の全部または一部でよい。例えば、「対象期間」は、低温期間、具体的には、緩衝ゴム205の硬化度合(例えば弾性係数)が一定度合以上に硬くなるほどに環境温度が低温であり続けたと定義された期間である。対象期間が低温期間とされる理由は、低温期間では、緩衝ゴム205の硬化度合が一定度合未満か否か(つまり、緩衝ゴム205の硬化度合が適切か否か)は、ブレーキ吸引頻度に依存すると期待されることにある(言い換えれば、低温期間以外の期間では、ブレーキ吸引頻度の高低に関わらず、緩衝ゴム205の硬化度合は一定度合に維持されると期待されることにある)。低温期間は、下記のうちのいずれでもよい。
・低温期間は、データベース111から取得されるブレーキデータセットから取得部50または制御部60により定義されてもよい。例えば、低温期間は、環境温度が或る温度以下の状態が一定時間以上続いた期間でよい。
・低温期間は、予め定義されていてもよい。例えば、低温期間は、“xx月~yy月の夜間(0時~6時)”でよい。低温期間は、地域によって異なっていてもよい。
【0037】
次に、制御部60が、S01で取得されたデータを基に、ブレーキ吸引時間と環境温度の関係を示す予測モデルを作成する(S02)。予測モデルは、既知の学習手法を利用して作成されたモデル、例えば、自己回帰移動平均モデル(例えばARIMA(Autoregressive Integrated Moving Average)モデル)やニューラルネットワークでよい。例えば、図4によれば、S01で取得されたデータは、エレベーター1毎に、複数のデータセット(ブレーキ吸引時間および環境温度)と、対象期間におけるブレーキ吸引回数とを含む。制御部60は、エレベーター1毎に、対象期間と対象期間におけるブレーキ吸引回数とに基づくブレーキ吸引頻度を算出する。制御部60は、エレベーター1毎にブレーキ吸引頻度を高頻度と低頻度に分け、高頻度と低頻度の各々について、環境温度とブレーキ吸引時間の回帰式(予測モデルの一例)を導き出す。高頻度と低頻度の分類にはクラスター分析等の分析技術が用いられてよい。高頻度と低頻度の境界はエレベーター1毎に異なるので、エレベーター1台1台に特有の傾向が、分類に考慮されてよい。そして、制御部60は、高頻度について回帰式F1を導き出し、低頻度について回帰式F2を導き出す。
【0038】
次に、制御部60が、ブレーキ吸引時間が時間閾値以上になるときの温度である予測温度(温度閾値)を予測、予測された環境温度である予測温度(温度閾値)をデータベース111に登録する(S03)。具体的には、例えば、制御部60は、S02で作成された予測モデルF1およびF2を用いて、高頻度および低頻度の各々について、予測温度が決定される。高頻度に対応した回帰式F1によれば、高頻度に対応した予測温度はT1であり、低頻度に対応した回帰式F2によれば、低頻度に対応した予測温度はT2である。図4の例によれば、ブレーキ吸引頻度が比較的低ければ、緩衝ゴム205の硬化度合は比較的高いままであり、故に、環境温度が比較的低い予測温度T1以下であれば、ブレーキ吸引時間は時間閾値に達してしまう。なお、時間閾値は、ブレーキ故障の設定値より手前、例えば、ブレーキ故障の設定値の90%とすることが考えられる。
【0039】
以上のようにして、準備処理では、対象期間に属するブレーキ吸引時間、環境温度、ブレーキ吸引回数を基に、予測温度(温度閾値)が決定される。準備処理は、診断処理から独立した処理でよく、定期的に行われてよい。
【0040】
<診断処理>
【0041】
一つのエレベーター1を例に取る(以下の説明において「対象エレベーター1」)。
【0042】
制御部60は、対象エレベーター1に関して所定の条件が満たされた場合(例えば、対象エレベーター1のブレーキ吸引回数が予め定められた一定の値に到達した場合、又は、対象期間が終了して通常運転期間が開始する場合)、対象期間と当該対象期間におけるブレーキ吸引回数とに基づくブレーキ吸引頻度が高頻度か低頻度かを分類する(S04)。
【0043】
制御部60は、環境温度が、S04の分類結果に対応した予測温度(T1またはT2)以下であるか否かを判断する(監視する)(S05)。S05の判断は、第3の判断の一例である。
【0044】
S05の判断の結果が真の場合(S05:Y)、制御部60は、診断運転指令をエレベーター制御装置106に出す(S06)。それにより、診断運転が実施される。「診断運転」とは、ブレーキ吸引時間を計測するための運転である。S05で比較される予測温度は、ブレーキ吸引時間が時間閾値以上になる程に緩衝ゴム205が硬くなるぐらいに低温であると考えられる環境温度である。環境温度が予測温度以下であれば、低温によって緩衝ゴム205が硬化していることが原因でブレーキ吸引時間が長くなることが考えられる。故に、そのような場合に診断運転が実施される。
【0045】
制御部60は、診断運転の最中または後において測定されたブレーキ吸引時間が時間閾値以上か否かを判断する(S07)。S07の判断が、第1の判断の一例である。
【0046】
S07の判断の結果が真の場合(S07:Y)、制御部60は、なじみ運転指示をエレベーター制御装置106に出す(S08)。それにより、なじみ運転が実施される。「なじみ運転」とは、緩衝ゴム205の硬度を適正化するための運転である。例えば、なじみ運転では、S05で比較された予測温度に応じた回数だけブレーキ吸引が行われることで、緩衝ゴム205の硬度の適正化、言い換えれば、緩衝ゴム205の温まりが期待される。
【0047】
制御部60は、なじみ運転の最中または後に測定されたブレーキ吸引時間が時間閾値以上か否かを判断する(S09)。S09の判断が、第2の判断の一例である。なじみ運転によって、緩衝ゴム205が温まると、緩衝ゴム205の硬度が下がり、ブレーキ吸引時間は時間閾値未満に下がり、結果として、通常運転(平常運転)に戻ることが期待される。
【0048】
一方、緩衝ゴム205以外の箇所に不具合があるとブレーキ吸引時間は改善されない(ブレーキ吸引時間は時間閾値未満とはならない)。この場合(具体的には、S09の判断結果が真の場合(S09:Y))、制御部60は、営業所端末115と保守員端末113の少なくとも一つにブレーキの点検指示を出す(S10)。そして、ブレーキの点検や整備が行われると、不具合状態から正常状態への復帰がされる(S11)。
【0049】
本実施例では、監視センター110がS01~S10を実施するようにしているが、監視センター110に加えて遠隔監視装置109もブレーキ診断部112(およびデータベース111)を有していれば、万一、監視センター110と遠隔監視装置109の間が通信異常であっても、遠隔監視装置109がブレーキ105の状態を常時監視することができる。
【0050】
以上の実施例によれば、緩衝ゴム205の硬化による故障を未然に防止することができる。また、ブレーキ故障時の原因究明時間を短縮に寄与することが期待できる。
【実施例2】
【0051】
実施例2を説明する。その際、実施例1との相違点を主に説明し、実施例1との共通点については説明を省略または簡略する。
【0052】
図5は、季節とブレーキ吸引時間の関係を示すグラフの一例である。
【0053】
図5が示す例によれば、エレベーター1が二つのブレーキ105(以下、第1のブレーキおよび第2のブレーキ)を有する。符号B1mは、第1のブレーキのブレーキ最大値の遷移を示す。符号B2mは、第2のブレーキのブレーキ最大値の遷移を示す。符号B1aは、第1のブレーキのブレーキ平均値の遷移を示す。符号B2aは、第2のブレーキのブレーキ平均値の遷移を示す。「ブレーキ最大値」は、単位期間(例えば1日)において測定されたブレーキ吸引時間のうち最長のブレーキ吸引時間を意味する。「ブレーキ平均値」は、単位期間(例えば1日)において測定されたブレーキ吸引時間の平均を意味する。
【0054】
図5の例によれば、季節の変化にブレーキ吸引時間は依存し、且つ、季節のサイクルが進むにつれて(つまり、時間経過に伴い)、ブレーキ吸引時間は長くなる傾向にある。言い換えれば、稼働期間が長くなるにつれ、緩衝ゴム205の硬度が高くなり、結果として、ブレーキ吸引時間が長くなる傾向にある。
【0055】
ブレーキ診断部112(例えば制御部60)は、単位期間毎に、下記を行う。
・当該単位期間において測定されたブレーキ吸引時間のうち最長のブレーキ吸引時間であるブレーキ最大値を特定する。
・特定されたブレーキ最大値と、ブレーキ吸引時間についての所定の閾値の一例である交換基準値との差分を算出する(「交換基準値」は、ブレーキのうちの少なくとも緩衝ゴム205の交換の目安とされるブレーキ吸引時間である)。
・当該算出された差分が一定値以下であるか否かを判断する(この判断が第4の判断の一例である)。
・当該判断の結果が真の場合に、ブレーキ105のうちの少なくとも緩衝ゴム205の整備または交換の指示を、営業所端末115と保守員端末113の少なくとも一つに発行する。
【0056】
実施例2によれば、例えばデータベース111に数年間分のブレーキデータセットが蓄積されてよい。実施例2によれば、ブレーキ最大値でブレーキ交換(例えば少なくとも緩衝ゴム205の交換)の予兆が診断される。図5の例によれば、交換時期として冬季が予測され、ブレーキ故障前にブレーキを交換することが期待できる。
【0057】
以上、幾つかの実施例を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこれらの実施例にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。例えば、硬化度合が温度に依存する素材(つまり緩衝材の素材)としては、ゴム以外の素材が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 エレベーター
図1
図2
図3
図4
図5