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特許7030112歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を調製するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20220225BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220225BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20220225BHJP
   A61K 6/889 20200101ALI20220225BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C08F8/30
A61P1/02
A61K6/887
A61K6/889
A61L27/16
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019518544
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 EP2017082158
(87)【国際公開番号】W WO2018114415
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-01-20
(31)【優先権主張番号】16206313.5
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シェフラー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レン,カロリーネ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム・エー
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-281614(JP,A)
【文献】特表2014-501821(JP,A)
【文献】特開平02-006358(JP,A)
【文献】特表2013-512933(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063882(WO,A1)
【文献】特開平07-027766(JP,A)
【文献】特表2000-500486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,A61P,A61K,A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性多酸性ポリマーを含む歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製方法であって、前記方法は以下のステップを含む方法:
(a)以下の式(I)の反復単位を有する直鎖多酸性アクリルポリマーを提供するステップ、
【化1】

[式中、
Aは同じでも異なってもよく、独立して以下の式(Ia)から(If)の群から選択され:
【化2】

k、l、m、n、およびoは、独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+oは、少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つは、少なくとも1であり;
前記多酸性ポリマーが10~300kDaの重量平均分子量を有する];
(b)前記直鎖多酸性アクリルポリマーを、溶媒中の以下の式(II):
R-X
(II)
[式(II)中、
Xは、アミノ基であり;および
Rは、以下の式(III)で表される基:
【化3】

であり、
式(III)中、
は、水素原子、カルボン酸基またはC1~3アルキル基であり、
は、水素原子、カルボン酸基またはC1~3アルキル基であり、
Lは、二価のリンカー基を表す]、
の一つ以上の重合性化合物と反応させて、アミド基によって前記アクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを調製するステップであって、前記直鎖多酸性アクリルポリマーのカルボン酸基が、前記式(II)の前記重合性化合物との反応の前に、結合剤で活性化される、ステップ;並びに
(c)セメント反応において前記多酸性アクリルポリマーと反応することができる反応性歯科用ガラスと、アミド基によって前記アクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する前記重合性直鎖多酸性アクリルポリマーとを合わせるステップ。
【請求項2】
前記直鎖多酸性アクリルポリマーがポリアクリル酸、またはアクリル酸とイタコン酸無水物との共重合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Lが基:
-YL’-
[式中、
Yは、OまたはNHを表し、
L’は二価の有機基を表す]
である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記結合剤がカルボジイミドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボジイミドがN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカーボネート(EDC)、またはN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記直鎖多酸性アクリルポリマーのカルボン酸基の総数に基づいて0.02~0.5当量の前記式(II)の一つ以上の重合性化合物を反応させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、および四塩化炭素の群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記式(I)の反復単位を有する前記直鎖多酸性アクリルポリマーと前記式(II)の前記一つ以上の重合性化合物との間の前記反応が、20~100℃の温度で、1~60時間実行される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する前記直鎖多酸性アクリルポリマーが、以下の式(IV)の反復単位:
【化4】

[式(IV)中、
ZはCOOHまたはCONHR(式中、Rは請求項1に定義された通りのRである)]を有し、
k、l、m、n、およびo は独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+o は少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つは少なくとも1であり、
Aは、同じでも異なってもよく、独立して以下の式(IVc)、(IVd)、および(IVf)の群から選択される基を表し:
【化5】

式(IVc)、(IVd)、(IVf)中、Zは前記式(IV)に定義された通りのZである]を有し、
前記多酸性ポリマーが12~400kDaの重量平均分子量を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、開始剤系および任意選択的に一つ以上の重合性モノマーを前記歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物に添加することをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物が2パック組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
前記歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物が、歯の硬質組織の一時的または最終的修復として歯科治療で使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製のための方法に関する。本発明はまた、本発明の方法によって得られる歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物にも関する。
【0002】
本発明によると、アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合可能なペンダント基を有する重合性の直鎖多酸性アクリルポリマーは、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物で使用する高分子量で都合良くかつ効率的に得られうる。重合性の直鎖多酸性アクリルポリマーは、酸性媒体に対して耐性があり、さらなる架橋を可能にし、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の保存安定性および長期的機械的耐性を提供する。
【背景技術】
【0003】
歯科用修復材料は、エナメル質及び/又は象牙質の、物理的損傷又はう蝕に関連する虫歯によって損傷された歯の構造の機能、形態及び完全性を修復するとして知られている。歯科用修復材料は、口腔内の修復材料に過酷な条件が与えられることを考慮すると、高い生体適合性、良好な機械的特性、並びに機械的及び化学的耐性を長期間にわたって有することが求められる。
【0004】
歯科用修復材料は、歯の硬質組織への良好な生体適合性及び良好な接着性を有する歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を含む。更に、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、フッ化物イオンの放出により、抗う蝕特性をもたらし得る。歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、反応性ガラス粉末とポリアルケン酸との間の酸-塩基反応によって硬化される。しかし、従来の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、比較的低い曲げ強度を有し、ポリ酸と塩基性ガラスとの間の塩に類似する構造のために脆い。
【0005】
歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の機械的特性は、多酸性ポリマーの選択により改善され得る。例えば、ペンダント基として重合性部分を有するポリマーは、架橋して、得られるガラスイオノマーセメントの機械抵抗を増大させることができる。
【0006】
特開第2005-65902A号には、特定のカルボン酸を含む重合性モノマーとして、芳香族基に結合した(メタ)アクリロイル基及びカルボキシル基を有するカルボン酸化合物を含む歯科用接着剤組成物が開示されている。しかし、エステル基を有するこのような重合性モノマーは、酸性媒体中で速やかに分解する。
【0007】
Chenら、及びNesterovaら(Chenら,J.Appl.Polym.Sci.,109(2008)2802-2807、Nesterovaら,Russian Journal of Applied Chemistry,82(2009)618-621)、それぞれアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含むN-ビニルホルムアミドの共重合体を開示している。しかし、これらの文献のいずれも、共重合体へ重合性部分を更に導入することには言及していない。
【0008】
国際公開第2003/011232号には、セメント反応後にポスト重合することができる水系の医療用及び歯科用ガラスイオノマーセメントが開示されている。歯科用ガラスイオノマーセメントは二つの別個のポリマーからなり、ポリマーの一方が、エステル結合を介してポリマーに連結するペンダント後重合性部分を有する。しかし、ポリマーと重合性部分との間のこのエステル結合は、酸性媒体中で再度、加水開裂を受け易い。
【0009】
国際公開第2012/084206A1号は、水溶性で、加水分解安定性の重合性ポリマーを生成するステップのためのポリマーを開示し、a)(i)少なくとも一つの任意に保護されたカルボン酸基および第一の重合性有機部分を含む第一の共重合性モノマーと、(ii)共重合体を含むアミノ基を得るための、一つ以上の任意に保護された第一及び/又は第二のアミノ基及び第二の重合性有機部分を含む第二の共重合性モノマーを含む混合物を共重合するステップ;b)第一のステップで得られる共重合体を含むアミノ基において、第二の共重合性モノマーに由来する反復単位のアミノ基と反応する重合性部分及び官能基を有する化合物を共重合体を含有するアミノ基に連結するステップを含み、前記任意に保護されたアミノ基は脱保護され、重合性ペンダント基は加水分解安定性の結合基によって骨格と連結し、任意に、重合性ポリマーを得るために、ステップ(a)またはステップ(b)の後で、保護されたカルボン酸基を脱保護するステップを含む。
【0010】
第一および/または第二の共重合性モノマーの保護基が使用されていない限り、国際公開第2012/084206A1号に記載の重合性ポリマーの調製は、重合中にカルボン酸とアミン塩基との塩反応によって妨げられうる。具体的には、(i)少なくとも一つのカルボン酸基を含む第一の共重合性モノマー、および(ii)共重合体を含むアミノ基を獲得するための一つ以上の第一のアミノ基および/または第二のアミノ基を含む第二の共重合性モノマーを含む混合物を共重合するステップの間に酸塩基反応が発生しうる。酸塩基反応は、遊離酸と塩基の溶解性とは異なる反応培地における溶解性を有する塩を形成しうる。一方、保護基の使用は、重合性ポリマーの構造および特性に影響を与える場合があり、また最大数のカルボン酸基を遊離するために追加的な保護ステップが必要である。さらに、第二の共重合性モノマーが酸性基を含まない場合、セメント反応に関係しうるカルボン酸基の数は、重合可能な基の量が増加し、重合性ポリマーで増加するにつれて減少する。
【0011】
欧州特許公開第3106146号は、水性歯科用ガラスイオノマー組成物で使用するための酸性基を含む水溶性重合性ポリマーを開示している。欧州特許公開第3106146によって開示されたポリマーにおいて、カルボン酸部分は、ポリマー骨格の少なくとも三つの炭素原子によって分離される。
【発明の概要】
【0012】
本発明の課題は、高い曲げ強度及び硬化後の歯牙構造への臨床的に適切な接着を含む改善された機械的特性、並びに硬化の前後における水性媒体中、特に酸性媒体中において加水分解安定性をもたらす歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製ステップを提供することである。
【0013】
この課題は、重合性多酸性アクリルポリマーを含む歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製による本発明にしたがって解決し、方法は以下のステップ:
(a)以下の式(I)の反復単位を持つ直鎖多酸性アクリルポリマーを提供するステップであって、
【化1】

(式中、
Aは同じまたは異なる場合があり、独立して次の式(Ia)から(If)の基から選択され:
【化2】

k、l、m、n、およびoは、独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+oは、少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つは、少なくとも1であり、
前記多酸性ポリマーが10~300KDaの重量平均分子量を有する、提供するステップと、
(b)前記直鎖多酸性アクリルポリマーを、溶媒中の以下の式(II)の一つ以上の重合性化合物と反応させるステップであって:
R-X
(II)
(式中、
Xはアミノ基およびイソシアネート基から選択され;および
Rは一つ以上の重合性二重結合を有する有機基であり、
アミド基によって前記アクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを調製するために、反応させるステップと、
(c)セメント反応の前記多酸性アクリルポリマーと反応することができる反応性歯科用ガラスを用いて、アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性の直鎖多酸性アクリルポリマーを組み合わせるステップと、を含む。
【0014】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を提供する。
【0015】
本発明による硬化水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物は、重合性ポリマーとの特定の組み合わせに基づいて、加水分解安定性であり、優れた機械的特性を有する。
【0016】
本発明の方法は、水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物に有用なポリマーを提供し、これは加水分解安定性であり、化学的抵抗性を改善する硬化歯科用ガラスイオノマー組成物を得るために重合され得る。ポリマーには、高い量の酸性基が提供されてもよく、これによって歯の硬質組織に対して優れた接着力をもたらす。さらに、本発明の方法は高分子量を有するポリマーを提供するため、硬化反応中の任意のポリマー収縮は容易に制御されうる。
【0017】
さらに、本発明による重合性ポリマーの調製は、重合中にカルボン酸およびアミン塩基の塩反応によって損なわれない。最後に、保護基を使用する必要はなく、それによって追加的な脱保護ステップが必要とされない。さらに、重合性基の数は、カルボン酸基の数に影響を与えず、その結果、カルボン酸基の最大数が重合性ポリマーに導入されうる。
【0018】
本発明者らは、樹脂強化型歯科用ガラスイオノマーセメントが、貯蔵中又は患者の口内での硬化後に劣化することを認識している。本発明者らは更に、加水分解性部分を従来含有する樹脂成分の加水分解性劣化がこの劣化の一因であることを認識している。そして、本発明者らは、ポリマーの調製に特定の方法を使用することにより、先行技術により公知の従来の樹脂強化型ガラスイオノマーセメントの欠点を克服する、ポリマーすなわち、改善された水溶性で加水分解安定性の重合性ポリマーを高分子量で調製することができると認識している。
【0019】
重合性ポリマーの重合性ペンダント基は、更に、重合性ペンダント基又は重合性二重結合を有するモノマーと反応することができ、架橋ネットワーク又はグラフトポリマーを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製のための方法は、重合性多酸性ポリマーを得るために、ステップa)、ステップb)およびステップc)を含む。
【0021】
本発明で使用される「アミド基によるアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマー」は、ガラスイオノマーセメント形成の後に重合化および架橋を可能にする一つ以上の重合性部分を含む多酸性アクリルポリマーであり、材料の長期機械的抵抗を増加させる。本発明で使用されるアミド基によってアクリルポリマー骨格によって連結した「重合性ペンダント基を有する重合性の直鎖多酸性アクリルポリマー」は、重合性多酸性ポリマーであり、同時にカルボン酸基を含む重合性多酸性ポリマーである。ポリマーのカルボン酸基は、反応ガラス成分と反応して、歯科用材料として使用できるガラスイオノマーセメントを形成することができる。重合性の直鎖多酸性アクリルポリマーは水溶性である。「水溶性」という用語は、少なくとも0.1g、好ましくは0.5gのポリマーが、20℃の水100gに溶解することを意味する。重合性直鎖多酸性アクリルポリマーは加水分解安定性である。「加水分解安定性」は、ポリマーが歯科用組成物中などの酸性媒体中で加水分解に対して安定であることを意味する。具体的には、ポリマーは、pH3の水性媒体中で、室温で一ヶ月以内に加水分解するエステル基等の基を含まない。
【0022】
本発明は、特定の重合性多酸性ポリマーを含む歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の調製のための方法を提供する。
【0023】
本発明による方法は、以下の式(I)の反復単位を持つ直鎖多酸性アクリルポリマーを提供するステップ(a)を含み、
【化3】

(式中、
Aは同じまたは異なる場合があり、独立して次の式(Ia)から(If)から選択され:
【化4】

k、l、m、n、およびoは、独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+oは、少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つは、少なくとも1であり、
前記多酸性ポリマーが10~300KDaの重量平均分子量を持つ。
【0024】
式(I)の直鎖多酸性アクリルポリマーは、アクリル酸またはアクリル酸を含む混合物によって調製されうる。
【0025】
アクリル酸を含む混合物は、一つ以上の不飽和モノカルボン酸または不飽和ジカルボン酸または不飽和ジカルボン酸の無水物をさらに含みうる。具体的な例には、イタコン酸、マレイン酸、メタクリル酸、2-クロロアクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、メサコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、utraconic酸、および不飽和ジカルボン酸の無水物が含まれる。イタコン酸及びマレイン酸が好ましい。イタコン酸が特に好ましく、Aが同じまたは異なる場合があり、独立して、上記に定義される式(Ia)から(Id)の基から選択される。
【0026】
さらに、アクリル酸を含む混合物は、カルボン酸官能性またはその無水物を持たない共重合性モノマーをさらに含んでもよく、それにより、不飽和カルボン酸単位の比率が、構造単位全体の50モル%以上であることが好ましい。直鎖多酸性アクリルポリマーは、50~100モルパーセントのアクリル酸反復単位を含むことが好ましい。
【0027】
共重合性モノマーは、エチレン性不飽和重合性モノマーであることが好ましく、共重合性モノマーは、例えば、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニル、塩化アリル、1,1,6-トリメチルヘキサメチレンジメタクリレートエステルを含む。
【0028】
式(I)のこれらの直鎖多酸性アクリルポリマーにおいて、アクリル酸のホモポリマー、およびアクリル酸およびイタコン酸無水物の共重合体が好ましい。好ましい実施形態によると、直鎖多酸性アクリルポリマーは、ポリアクリル酸またはアクリル酸とイタコン酸無水物の共重合体である。
【0029】
式(I)の直鎖多酸性アクリルポリマーが10KDa未満の重量平均分子量を持つ時、硬化した歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の強度は低い。一方で、これらのポリアルケン酸が300KDaの粘度を超えた重量平均分子量を持つ場合、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を混合すると、作業性が一部の場合に低下する。従って、ポリアルケン酸の好ましい重量平均分子量は10~300KDaである。
【0030】
本発明による方法は、直鎖多酸性アクリルポリマーを、溶媒中の以下の式(II)の一つ以上の重合性化合物と反応させるステップ(b)を含み:
R-X
(II)
(式中、
Xはアミノ基およびイソシアネート基から選択され;および
Rは一つ以上の重合性二重結合を有する有機基であり、
アミド基によって前記アクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを調製するためにある。
【0031】
ステップb)によるカップリングは、一つ又は複数の重合性部分を直鎖多酸性アクリルポリマーに導入する役割を担い、該重合性部分は、付加的な共有結合による架橋を行うように後重合することができ、付加的な強度をポリマーを含む歯科用材料に与える。本発明によれば、ポリマーのカルボン酸基が保護される必要ない。したがって、アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーは、さらなる処理なしに、本発明によるポリマーとして使用されうる。代替的な実施形態では、ポリマーのカルボン酸基は保護される。しかしながら、ポリマーがセメント反応で使用される前に、カルボン酸基は脱保護される必要がある。したがって、この代替的な実施形態は好ましくない。
【0032】
好ましい実施形態によると、式(II)のRは、以下の式(III)の部分であり:
【化5】

(式中、
は水素原子、カルボン酸基またはC1~3アルキル基であり、
は水素原子、カルボン酸基またはC1~3アルキル基であり、
Lは二価の有機リンカー基を表す。
【0033】
式(III)では、Lは基
-YL’-であることが好ましく、
(式中、
YはOまたはNHを表し、
L’は二価の有機基を表す。
【0034】
式(III)では、Xはアミノ基であることが好ましく、また直鎖多酸性アクリルポリマーのカルボン酸基は、式(II)の重合性化合物との反応の前に結合剤で活性化される。好ましい実施形態によれば、結合剤はカルボジイミドである。具体的には、カルボジイミドは、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチル炭酸塩(EDC)、およびN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)から選択されうる。
【0035】
式(III)では、Xがイソシアネート基である時、イソシアネートにカルボン酸を加えると、最初に混合酸無水物を得て、デカルボキシル化が生じ、これがN置換アミドにつながる。
【0036】
本発明による方法では、直鎖多酸性アクリルポリマーのカルボン酸基の総数に基づいて、式(II)の一つ以上の重合性化合物の0.02~0.5等量が、反応されることが好ましい。
【0037】
本発明のステップb)による反応の反応条件は特に制限されない。従って、適切な任意の溶媒または二つ以上の溶媒の適切な混合物で反応を実行することが可能である。溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、およびジオキサンの群から選択されうることが好ましい。より好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、および/または四塩化炭素が使用される。
【0038】
反応温度は特に制限されない。好ましくは、反応は-10℃と溶媒の沸点との間の温度で実行される。反応温度は0℃~100℃の範囲であることが好ましい。反応時間は特に限定されない。好ましくは、反応時間は、10分~120時間、より好ましくは1時間~80時間の範囲内である。式(I)の反復単位を有する直鎖多酸性アクリルポリマーと、式(II)の一つ以上の重合性化合物間の反応は、20~100℃の温度で1~60時間実行されることが好ましい。
【0039】
ステップb)で得られる反応生成物を沈殿及び濾過により単離してもよい。この生成物は、適切な溶媒で洗浄することで精製されうる。
【0040】
本発明の方法は、好ましくは以下の式(IV)の反復単位を有するアミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を持つ直鎖多酸性アクリルポリマーである特定の重合性多酸性ポリマーを歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の構成要素として使用する。
【化6】

(式中、
Rは請求項1に記載の通りであり、
k、l、m、n、およびo
は独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+o
は少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つ
は少なくとも1であり、
Aは同じまたは異なる場合があり、独立して以下の式(IVc)、(IVd)、および(IVf)の群から選択される基を表す:
【化7】

式中、ZはCOOHまたはCONHR’(式中、R’は請求項1に記載のRと同じ意味を有する)であり、
および
前記多酸性ポリマーが12~400KDaの重量平均分子量を持つ。
【0041】
好ましい実施形態によると、同じまたは異なる場合があるAは、式(IVc)、および(IVd)の群から選択される基を独立して表す。
【0042】
本発明による方法は、アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを、セメント反応で多酸性アクリルポリマーと反応することができる反応性歯科用ガラスと合わせるステップ(c)を含む。ステップ(c)に従って「合わせる」とは、構成要素の物理的混合と、構成要素の物理的混合が好ましくは単一のステップで促進されるような構成要素の結合を含む。従って、重合性直鎖多酸性アクリルポリマーおよび反応性歯科用ガラスは、重合性直鎖多酸性アクリルポリマーおよび反応性歯科用ガラスが保存用に分離されるパーツキットまたは二つもしくはマルチパック組成物に合わせることができる。
【0043】
歯科用材料として有用な歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の形成は、セメント反応におけるポリ酸性アクリルポリマーと反応性歯科用ガラスとの間の水の存在下での反応に基づく。水は、多酸性アクリルポリマーと反応性歯科用ガラスとの間で発生するイオン酸塩基反応に必要な媒体を提供する。本発明の実施形態によると、水は、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の総重量に基づいて、約0.5重量%~約40重量%の量で存在してもよい。例えば、一実施形態では、水は、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の1.0重量%~30重量%の量で存在してもよい。別の実施形態では、水は、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の2.0重量%~25重量%の量で存在してもよい。
【0044】
本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、多酸性アクリルポリマー、セメント反応の多酸性アクリルポリマーと反応することができる反応性の歯科用ガラス、および任意選択的に開始剤系、粒子非反応性フィラー、一つ以上の追加的モノマー、または架橋剤およびさらなる添加剤を含む。
【0045】
反応性歯科用ガラスの例には、カルシウムまたはストロンチウム含有材料及びアルミニウム含有材料などの歯科用組成物の当技術分野で一般的に知られている材料が含まれる。粒子反応性フィラーは、浸透可能なフッ化物イオンを含むことが好ましい。反応性歯科用ガラスの具体例は、カルシウムアルミノケイ酸ガラス、カルシウムアルミノフルオロケイ酸ガラス、カルシウムアルミニウムフルオロホウケイ酸ガラス、ストロンチウムアルミノケイ酸ガラス、ストロンチウムアルミノフルオロケイ酸ガラス、ストロンチウムアルミニウムフルオロホウケイ酸ガラスから選択される。好適な反応性ガラスは、酸化亜鉛および酸化マグネシウム等の金属酸化物ならびにイオン溶出性ガラスをさらに含み、例えば米国特許第US-A3,655,605号、同US-A3,814,717号、同US-A4,143,018号、同US-A4,209,434号、同US-A4,360,605号および同US-A4,376,835号に記載されている。
【0046】
好ましくは、反応性微粒子ガラスは、
1)20~45重量%のシリカと、
2)20~40重量%のアルミナと、
3)20~40重量%の酸化ストロンチウムと、
4)1~10重量%のPと、
5)3~25重量%のフッ化物と、を含む反応性微粒子ガラス充填剤である。
【0047】
反応性微粒子ガラスは、例えば電子顕微鏡法により、又はMALVERN Mastersizer S若しくはMALVERN Mastersizer 2000装置により具現される従来のレーザー回折粒度分布測定法を用いて測定され、一般に0.005~100μm、好ましくは0.01~40μmの平均粒子径を有する。反応性微粒子ガラスは、異なる平均粒子径を有する二つ以上の微粒子画分の混合物を表す多峰性反応性微粒子ガラスであってもよい。反応性微粒子ガラスはまた、異なる化学組成の粒子の混合物であってもよい。反応性微粒子ガラスは、表面改質剤によって表面改質されていてもよい。
【0048】
本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、20~90重量%、より好ましくは30~80重量%の反応性微粒子ガラスを含む。
【0049】
好適な非反応性フィラーは、歯科用修復組成物に現在使用されている充填剤から選択することができる。充填剤は、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)の粒子径分布を有してもよい。充填剤は無機材料とすることができる。充填剤はまた、重合性樹脂に不溶性であり、所望により無機充填剤で充填される架橋有機材料とすることもできる。充填剤は、放射線透過性、放射線透過性または非放射線不透過性とすることができる。適切な非反応性無機フィラーの例は、石英、窒化ケイ素のような窒化物、例えばCe、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba及びAlに由来するガラス、コロイダルシリカ、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア、及び亜鉛ガラスのような天然材料又は合成材料、及び焼成シリカのようなサブミクロンシリカ粒子である。適切な非反応性有機充填剤粒子の例としては、充填又は非充填粉砕ポリカーボネート又はポリエポキシドが挙げられる。好ましくは、充填剤粒子の表面は、充填剤とマトリックスとの間の結合を強化するためにカップリング剤で処理される。適切なカップリング剤の使用としては、ガンマ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ガンマ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
本発明による方法は、開始剤系および任意選択的に一つ以上の重合性モノマーまたは架橋剤を、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物に組み合わせることをさらに含みうる。
【0051】
したがって、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、重合開始剤系を含むことが好ましい。重合開始剤系としては、本発明による重合反応を開始することができる任意の化合物又は系を用いることができる。重合開始剤は、光開始剤若しくはレドックス開始剤、又はそれらの混合物であってもよい。
【0052】
好適なレドックス開始剤は、一つ以上の還元剤と一つ以上の酸化剤を含み、それらは典型的には互いに反応するか、さもなければ互いに協働して、光が存在しない暗反応において、重合可能な二重結合の重合を始めることができるフリーラジカルを生成する。還元剤及び酸化剤は、典型的な歯科条件下での貯蔵及び使用を可能にするために、重合開始剤系が十分に貯蔵安定性があり、望ましくない着色がないように選択される。更に、還元剤及び酸化剤は、重合開始剤系が樹脂系と十分に混和して組成物中に重合開始剤系が溶解することができるように選択される。
【0053】
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及び米国特許第5,501,727号に記載されているような金属錯体化アスコルビン酸化合物;アミン、即ち、第三級アミン(4-tert-ブチルジメチルアニリンなど);芳香族スルフィン酸塩(p-トルエンスルフィン酸塩及びベンゼンスルフィン酸塩なdl);チオ尿素(1-エチル-2-チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、及び1,3-ジブチルチオ尿素など);並びにそれら混合物、が挙げられる。他の補助還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、亜ジチオン酸又は亜硫酸陰イオンの塩、及びそれらの混合物が挙げられてもよい。
【0054】
適切な酸化剤としては、過硫酸及びその塩、例えば、アンモニウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びアルキルアンモニウム塩が挙げられる。追加の酸化剤としては、ベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物、クミルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、並びに、塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)などの遷移金属の塩、過ホウ酸及びそれらの塩、過マンガン酸及びそれらの塩、過リン酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。一つ若しくは複数の異なる酸化剤又は一つ若しくは複数の異なる還元剤を重合開始剤系に使用することができる。少量の遷移金属化合物を添加してレドックス硬化の速度を促進してもよい。還元剤及び酸化剤は、適切なフリーラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。
【0055】
適切なレドックス開始剤は、過酸化ベンゾイル/アミン、ペルオキソジ硫酸カリウム(K)/アスコルビン酸、ペルオキソジ硫酸ナトリウム、ピロスルホナイト(Na))から選択することができる。
還元剤又は酸化剤は、組成物の貯蔵安定性を増強するため、及び必要に応じて、還元剤及び酸化剤を一緒に包装できるようにするためにマイクロカプセル化されてもよい(米国特許第5,154,762号)。封入剤を適切に選択することにより、貯蔵安定状態で酸化剤と還元剤とを組み合わせ、且つ酸官能性成分及び所望により充填剤さえも組み合わせることができる場合がある。さらに、水不溶性封入剤を適切に選択することにより、微粒子反応性ガラス及び水と一緒に還元剤及び酸化剤を貯蔵安定状態で組み合わせられる。
【0056】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するのに好適な光開始剤は、二成分系及び三成分系を含み得る。三成分系光開始剤は、米国特許第5,545,676号に記載されているように、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物を含み得る。好適なヨードニウム塩には、ジアリールヨードニウム塩、例えばジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが含まれる。好適な光増感剤は、約400nm~約520nm(好ましくは約450nm~約500nm)の範囲内のある量の光を吸収するモノケトン及びジケトンである。特に好適な化合物は、約400nm~約520nm(更により好ましくは、約450~約500nm)の範囲内の光を吸収するαジケトンを含む。例としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロ-ヘキサンジオン、フェナントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン等、1-アリール-2-アルキル-1,2-エタンジオン、及び環状αジケトンが挙げられる。好適な電子供与体化合物は、置換アミン、例えばエチルジメチルアミノベンゾエートを含む。
【0057】
好適な光開始剤はまた、典型的には、約380nm~約1200nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドを含み得る。約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有するホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤の例としては、米国特許第4,298,738号、同第4,324,744号、および同第4,385,109号ならびに欧州特許公開第0173567号に記載されているようなアシルホスフィンオキシドおよびビスアシルホスフィンオキシドが挙げられる。アシルホスフィンオキシドの具体例として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイル-ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、および2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシドを挙げることができる。約380nm超~約450nmの波長範囲で照射された場合、フリーラジカル開始が可能な市販されているホスフィンオキシド光開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403)、重量比25:75のビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(IRGACURE 1700)との混合物、重量比1:1のビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR 4265)との混合物、およびエチル2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナート(LUCIRIN LR8893X)、を含む。典型的には、ホスフィンオキシド開始剤は、組成物の総重量に基づいて、触媒有効量、例えば0.1重量%~5.0重量%で組成物中に存在する。
【0058】
第三級アミン還元剤は、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用されることができる。適切な芳香族第三級アミンの例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノンエチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エステル、及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。脂肪族第三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、およびトリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0059】
アミン還元剤は、組成物の総重量に基づいて、0.1重量%~5.0重量%の量で組成物中に存在してもよい。
【0060】
重合開始剤の活性種の量は特に限定されない。好適には、重合系中の重合開始剤の量は、モノマーの総量に基づいて0.001~5mol%の範囲である。
【0061】
適切なモノマーまたは架橋剤は、少なくとも一つの重合性官能基を含有する。好ましくは、一つの重合性二重結合を有するモノマーは加水分解安定性であり水溶性である。「加水分解安定性」という用語は、モノマーが、酸性媒体、例えば歯科用組成物等の酸性媒体中で加水分解に対して安定であることを意味する。加水分解安定性、水溶性モノマーは、重合開始剤系の存在下でアミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する直鎖多酸性アクリルポリマーと共に重合しうる。それにより、モノマーは、それ自体と、及び/又は直鎖多酸性アクリルポリマーの重合性ペンダント基と、重合することができる。従って、モノマーからなるポリマーの形成の他に、モノマーが直鎖多酸性アクリルポリマーの重合性ペンダント基と反応するグラフト重合があり、それによりグラフトポリマーが形成される。更に、モノマーからなるグラフト側鎖は、別の直鎖多酸性アクリルポリマーのペンダント重合性基と付加反応して、それにより架橋ポリマーを得ることができる。
【0062】
水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物の好ましい実施形態では、一つの重合性二重結合を有する加水分解安定性の水溶性モノマーは、カルボン酸基を有し、一般式(V)で表される化合物であり:
【化8】

式(V)中、Rは水素原子または直鎖状もしくは分枝状C1~3アルキル基であり、Rは水素原子または-COOH基で置換されていてもよい直鎖状もしくは分枝状C1~6アルキル基である。式(V)中、点線は、Rがcis配位又はtrans配位のいずれかであってもよいことを示す。好ましくは、Rは水素原子であり、Rは水素原子、または必要に応じて-COOH基で置換されたC1~3アルキル基である。より好ましくは、Rは水素原子であり、Rは水素原子又は-COOH基で置換されたメチル基であり、すなわち式(V)の化合物はアクリル酸又はイタコン酸である。最も好ましくは、式(V)の化合物はアクリル酸である。
【0063】
式(V)において、残基R及びRは、一つの重合性二重結合を有するモノマーの分子量が最大200Da、好ましくは最大150Da、より好ましくは最大100Daであることが条件で選択される。
【0064】
更に、一つの重合性二重結合を有する加水分解安定性の水溶性モノマーは、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、及びN-エチル-N-メチル(メタ)アクリルアミドであることができる。さらなるモノマーには、アルファ、ベータ-不飽和モノマー、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリセリンモノアクリラート及びグリセリンモノメタクリラートが挙げられる。
【0065】
モノマーは、好ましくは最終水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物の良好な加工性及び適応性の観点で、特に粘度に関して選択される。従って、モノマーの粘度は、好ましくは0.1~100mPa・s、より好ましくは0.3~50mPa・s、更により好ましくは0.5~25mPa・s、更により好ましくは0.8~10mPa・s、特に0.9~3mPa・sである。
【0066】
カルボン酸基を含むモノマーは、このようなモノマーが水性歯科用ガラスイオノマー組成物中の酸性ポリマーに追加のカルボン酸基を導入するので、特に有利であり、該組成物はセメント反応を受けて、(B)による反応性微粒子ガラスの存在下で硬化反応が更に改善される。
【0067】
好ましくは、モノマーは、水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物中に、水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物の総重量に基づいて、0.1~20重量%、より好ましくは1~15重量%、更により好ましくは2~10重量%の量で含有される。
【0068】
本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、架橋剤をさらに含有してもよく、これは少なくとも二つの重合性二重結合を有する重合可能な加水分解安定架橋剤であることが好ましい。
【0069】
架橋剤は、アルキレンジオールジメチルアクリレート、例えば1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、アルキレンジオールジビニルエーテル、例えば1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はトリアリールエーテル、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びトリメチロールプロパントリアクリレートであることができる。架橋剤は、1,3-ビス(アクリルアミド)-N,N’-ジエチルプロパン、N,N-ジ(シクロプロピルアクリルアミド)プロパンであることもできる。
【0070】
好ましくは、架橋剤は、欧州特許公開第2705827号及び国際特許公開第2014040729号に開示されている、下記式(VI)の重合性化合物であり:
A’’-L(B)n’(VI)
(式中、
A’’は下記式(VII)の基であり:
【化9】

(X10は、CO、CS、CH、又は基[X10010であり、ここでX100は酸素原子、硫黄原子、又はNHであり、Z10は直鎖又は分岐のC1~4アルキレン基であり、kは1~10の整数であり、
10は、水素原子、
-COOM10
3~6シクロアルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1~16アルキル基、
1~16アルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3~6シクロアルキル基、
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、であり、
20は、水素原子、
-COOM10
6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 及び-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1~16アルキル基、
1~16アルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 若しくは-SO10によって置換されていてもよいC3~6シクロアルキル基、又は
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、及び-SO10によって置換されていてもよいC6~14アリール基又はC3~14ヘテロアリール基、である)の基であり、
Lは単結合又はリンカー基であり、
Bは独立して、
A’’の定義による基、
下記式(VIII)の基:
【化10】

(式中、
20は、独立して、式(VII)においてXについて定義されるのと同じ意味を有し、
10及びR20は、互いに独立して、及び独立して、式(VII)について定義されるのと同じ意味を有し、
R°は、水素原子、
3~6シクロアルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1~16アルキル基、
1~16アルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3~6シクロアルキル基、
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6~14アリール基、である)の基、
下記式(IX)の基:
【化11】

(式中、
30は、CO、-CHCO-、CS、又は-CHCS-であり、
10及びR20は、互いに独立して、及び独立して、式(VII)について定義される意味と同じ意味を有する)、又は、
基[X40200E、
(式中、
200は、直鎖又は分岐のC1~4アルキレン基であり、
40は、酸素原子、硫黄原子、又はNHであり、
Eは、水素原子、
PO
3~6シクロアルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1~16アルキル基、
1~16アルキル基、C6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3~6シクロアルキル基、
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6~14アリール基若しくはC3~14ヘテロアリール基であり、及び
pは、1~10の整数である)であり、
および
n’は1~4の整数であり、
ここで、互いに独立しているM10は、それぞれ水素原子又は金属原子を表す。好ましくは、Lが単結合である場合、BはA’’の定義による基であることも、式(VIII)の基であることもできない。
【0071】
以下の基は、式(VII)の好ましい基であり、Mは水素原子又は金属原子である。
【化12】

好ましい二価のリンカー基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン及び以下の二価の基から選択され得る:
【化13】

N,N’-(2E)-ブタ-2-エン-1,4-ジアリルビス-[(N-プロパ-2-エン-1)アミド、及びN,N-ジ(アリルアクリルアミド)プロパンが好ましい。
【0072】
さらに架橋剤として、アルファ、ベータ-不飽和架橋剤、例えば、ビス-フェノールAのジグリシジルメタクリレート(「bis-GMA」)、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシド反復単位の数は2~30で変化する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレンオキシド反復単位の数は2~30で変化する、特にトリエチレングリコールジメタクリレート(「TEGDMA」)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート及びテトラアクリレート並びにペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールのジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサンエチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2,1-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリレート]プロパン、並びに2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパンが挙げられる。重合性成分の他の好適な例は、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルアズラクトン、ビニルピロリドン、スチレン、ジビニルベンゼン、ウレタンアクリレート又はウレタンメタクリレート、エポキシアクリレート又はエポキシメタクリレート、及びポリオールアクリレート又はポリオールメタクリレートである。必要に応じて、α、β-不飽和モノマーの混合物を添加することができる。
【0073】
好ましくは、本発明の混合されているが未硬化の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、混合されているが未硬化の歯科用ガラスイオノマー組成物成分の(水、溶媒、希釈剤及びα、β-不飽和モノマー及び架橋剤を含む)総重量に基づいて、約0.5~約50%、より好ましくは約1~約40%、最も好ましくは約5~35%の水、溶媒、希釈剤及びα、β不飽和モノマーの組み合わせ重量を含む。
【0074】
本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、米国特許第4,089,830号、同第4,209,434号、同4,317,681号、及び同4,374,936号に記載されているように、セメントを調製する場合に、ガラスイオノマーセメント反応の作業時間及び硬化時間をそれぞれ調整するために、酒石酸等の改質剤を含んでもよい。その上、一般に、作業時間の増加は、硬化時間を増加させる。
【0075】
「作業時間」は、ポリマーと改質微粒子反応性充填剤を水の存在下で結合させた場合の硬化反応の開始と、その系に対して更なる物理的な作業、例えば意図する歯科または医学用途のためにそれをスパチュレートすること、または再形成することを、もはや実際にできなくなるまで硬化反応が進行した時点との間の時間である。
【0076】
「硬化時間」は、修復における硬化反応の開始から、その後の臨床又は外科的処置が修復物の表面上で行われることが可能な十分な硬化が起きた時点までが測定された時間である。
【0077】
硬化反応では、重合性二重結合の存在により、重合反応が起こる。
【0078】
本発明はまた、本発明の方法に従って得ることができる歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を提供する。本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、従来的な混合技術を使用してすべての構成要素を組み合わせることによって調製することができる。歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、アミド基によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する直鎖多酸性アクリルポリマーとセメント反応で多酸性アクリルポリマーと反応できる反応性歯科用ガラスとの間のイオン反応によって、部分的または完全に硬化しうる。さらに、本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、重合性成分および光開始剤を含んでもよく、光開始によって硬化されてもよく、または組成物が例えば酸化剤および還元剤を含むフリーラジカル開始剤系を含む酸化還元硬化系などの化学重合によって部分的または完全に硬化されてもよい。別の方法として、本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、組成物が光重合性および化学的に重合性のある組成物、ならびにイオン性硬化性組成物の両方とすることができるように、異なる開始剤系を含みうる。
【0079】
本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、1パックシステムまたはマルチパックシステム、例えば、2パック粉末/液体、ペースト/液体、ペースト/粉末およびペースト/ペーストシステムとして提供されうる。それぞれがペースト、粉末、液体、またはゲルの形態であるマルチパック組み合わせを用いるその他の形態も可能である。歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、2パック組成物であることが好ましい。
【0080】
本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の構成要素は、別個のパックに分割されてもよい。ところが、重合性直鎖多酸性アクリルポリマーおよびセメント反応の多酸性アクリルポリマーと反応できる反応性の歯科用ガラスは、同一のパック内には存在しないが、これらのうちのいずれか二つはその他の構成要素の任意の組み合わせとともに同一の部品でグループ化されうる。さらに、レドックスマルチパックシステムでは、一つのパックは一般に、酸化剤を含み、別のパックは典型的には還元剤を含む。しかしながら、還元剤および酸化剤は、構成要素が分離された場合、例えば、マイクロカプセル化の使用を通して、システムの同じパック内で組み合わせられうる。
【0081】
一実施形態では、本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、2パック、ペーストペーストシステムとして提供される。第一のパック、ペーストAは、反応性歯科用ガラス、水、還元剤、および光開始剤を含みうる。さらなる随意の構成要素を、ペーストAに加えることができる。第二のパック、ペーストBは、アミド基および酸化剤によってアクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを含みうる。ペーストBは、モノマーまたは架橋剤構成要素、非反応性フィラー、光硬化触媒およびさらなる任意の構成要素をさらに含みうる。ペーストAおよびペーストBにおける成分の組み合わせは一般に、象牙質およびエナメルへの接着力、X線診断の放射性、および良好な審美性を持つ安定した歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物を提供する。こうした組成物は、便利なワンステップで簡単な混合直接修復方法による歯修復のバルク充填に特に有用である。
【0082】
一部の実施形態では、2パックの歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、第一のバレルおよび第二のバレルを有する二重バレルシリンジ内に提供されてもよく、ペーストAは、第一のバレルに存在し、ペーストBは、第二のバレルに存在する。他の実施形態では、本発明の2パック歯科組成物は、単位用量カプセルに提供されうる。一部の実施形態では、複数部品の歯科用システムの各部分を、静止ミキサーを使用して一緒に混合することができる。
【0083】
歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の構成要素をキット内に含めることができ、ここで組成物の内容物がパッケージ化され、必要になるまで構成要素の保存が可能となる。
【0084】
歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物として使用される場合、歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の構成要素は、従来技術を使用して混合され、臨床的に適用され得る。光重合性組成物の開始には、硬化用照光が必要である。
【0085】
本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は硬化性歯科用組成物である。硬化した歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物をそこから得ることができる。硬化したとき、本発明の歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は以下の特性を有することが好ましい:
-前記組成物の象牙質に対する接着結合強度は、ISO29022:2013に従って測定すると少なくとも5MPaであり、
-前記硬化した組成物の曲げ強度は、ISO4049に従って測定すると少なくとも80MPaである。
【0086】
歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物の特に好ましい実施形態
特に好ましい実施形態によれば、本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、
(A)
1)20~45重量%のシリカ、
2)20~40重量%のアルミナと、
3)20~40重量%の酸化ストロンチウム、
4)1~10重量%のP
5)3~25重量%のフッ化物、を含む反応性微粒子ガラスと、
(B)以下のステップを含む方法によって得ることができる重合性多酸性ポリマーであって、
(a)以下の式(I)の反復単位を持つ直鎖多酸性アクリルポリマーを提供するステップであって、
【化14】

(式中、
Aは同じまたは異なる場合があり、独立して次の式(Ia)から(If)の基から選択され:
【化15】

k、l、m、n、およびoは、独立して少なくとも0の整数であり、
k+l+m+n+oは、少なくとも2であり;および
k、l、n、およびoのうちの少なくとも一つは、少なくとも1であり、
前記多酸性ポリマーが10~300KDaの重量平均分子量を有する、提供するステップと、
(b)直鎖多酸性アクリルポリマーを、溶媒中の以下の式(II)の一つ以上の重合性化合物と反応させるステップであって、
R-X
(2)
(式中、
Xはアミノ基およびイソシアネート基から選択され;および
Rは一つ以上の重合性二重結合を有する有機基であり、
アミド基によって前記アクリルポリマー骨格に連結された重合性ペンダント基を有する重合性直鎖多酸性アクリルポリマーを調製するために、反応させるステップと、を含む方法によって得ることができる重合性多酸性ポリマーと、
(C)一つの重合性二重結合とカルボン酸基を有する加水分解に対して安定な水溶性モノマーであって、最大200Daの分子量を有する前記モノマーは、下記一般式(4’):
【化16】

(式中、
6’は、水素原子、又は直鎖若しくは分岐のC1~3アルキル基であり、
7’は、水素原子、又は-COOH基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1~3アルキル基であり、ここでR6’及びR7’は、式(4)の前記化合物の分子量が最大200Daであることが条件で選択され、
好ましくは、
6’は、水素原子であり、
7’は、水素原子、又は必要に応じて-COOH基で置換されたC1~3基であり、
より好ましくは、
6’は、水素原子であり、
7’は水素原子、又は-COOH基で置換されたメチル基である)で表される化合物であり、前記組成物は、更に、
(D)光開始剤若しくはレドックス開始剤又はそれらの混合物の形態のラジカル開始剤に基づく重合開始剤系と、
(E)少なくとも二つの重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性で加水分解に対して安定な架橋剤を更に含む。
【0087】
本発明による水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物は、任意の成分の他に、追加の任意成分を含むことができる。
【0088】
本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、非反応性フィラーおよび/またはさらなる構成要素、例えば阻害剤もしくは増感剤、溶媒、顔料、フリーラジカルスカベンジャー、重合阻害剤、非反応性希釈剤、界面活性剤(阻害剤の溶解性を強化するため、例えば、ポリオキシエチレン)フィラーの反応性を高めるためのカップリング剤、例えば、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、およびレオロジー改質剤などのさらなる構成要素を含みうる。
【0089】
好適な溶媒又は非反応性希釈剤は、エタノール及びプロパノールなどのアルコールを含む。好適な反応性希釈剤は、靱性、接着性及び硬化時間等の特性を変化させるα、β不飽和モノマーである。
【0090】
好適なフリーラジカルスカベンジャーの一例は、4-メトキシフェノールである。好適な阻害剤の例は、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ヒドロキシトルエン又はブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)である。阻害剤の量は、共重合体/コモノマー/水混合物の総重量に基づいて、0.001~2%、好ましくは0.02~0.5%から選択することができる。
【0091】
例えば、本発明による歯科用樹脂修飾ガラスイオノマー組成物は、CaWO、ZrO、YF等の放射線不透性を改善するための更なる成分、又はYF等のフッ化物放出を増加させるための更なる成分も含み得る。
【0092】
好ましくは、本発明の混合されているが未硬化の歯科用組成物は、混合されているが未硬化の水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物成分の(水、溶媒、希釈剤及びα、β-不飽和モノマーを含む)総重量に基づいて、約0.5~約50%、より好ましくは約1~約40%、最も好ましくは約5~35%の水、溶媒、希釈剤及びα、β不飽和モノマー及び架橋剤を含む。
【0093】
重合性ポリマーを含む混合物は、歯科用組成物の調製のために、好ましくは硬化歯科用組成物の調製のために、より好ましくは硬化水溶性歯科用ガラスイオノマー組成物の調製のために使用することができる。
【0094】
歯科用組成物は、口腔内で使用される歯科用材料であってもよい。具体的には、本発明による歯科組成物は、修復および充填材料、潤滑用セメント、接着剤、基材または矯正用セメント、キャビティライナー及び基材、ピット及びフィッシャーシーラント、矯正用接着剤、及び歯科用コーティング剤を含む、様々な歯科および歯科矯正用途で有用である。歯科組成物はまた、特に3D印刷を含む任意の適切な方法により、例えば、歯科ミルブランク、歯冠、歯科充填剤、歯科補綴物、および歯科矯正装置を形成するために硬化によって歯科物品を調製するために使用されうる。
【0095】
本発明を以下の実施例により更に説明する。
【実施例
【0096】
実施例1-PAAのポリマー類似修飾
60℃で、80MlのDMF中の10g(139mmol)のポリアクリル酸(136KDa)溶液に、3.1~76,3mmol(0.02~0.55等量)N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を加え、2分間攪拌した。次いで2.8~69,4mmol(0.02~0.50等量)のN-(2-アミノエチル)-メタクリルアミド塩酸塩を局所沈殿が凝集しないように加えた。その後、反応混合物を60℃で24時間攪拌し、冷却した。沈殿しているジシクロヘキシル尿素結晶を濾過した。ポリマー溶液を溶媒の蒸留部分により濃縮し、400mLのアセトニトリルで沈殿させた。沈殿物を濾過し、50mLの蒸留水に溶解し、4Lの蒸留水(MWCO=1000、または2500g/mol、一日当たり二倍の水交換量)に対して4日間透析した。その後、溶液を濾過し、ポリマー溶液の凍結乾燥によってポリマーを得た。
【0097】
実施例2-PAAのポリマー類似修飾
10.89g(0.120mol)のポリアクリル酸(136KDa)および1.38gのDCC(6.7mmol、0.06等量)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を100mLのDMF中に溶解し、60℃で2~3分間攪拌した。並行して、10mLのDMF溶解した1.12g(6.7mmol、0.06等量)のN-(2-アミノエチル)-メタクリルアミド塩酸塩を0.930ml(0.06等量)のトリエチルアミンに添加した。この溶液を、多酸溶液に10分間滴下して加えた。次いで、混合物を、光保護下で60℃で20時間攪拌した。その後、溶媒を除去し、高粘性の残渣を30分以内に200mLのアセトニトリルに加えた。その後、混濁したアセトニトリル相を固体部分からデカントした。残渣を200mLの蒸留水に溶解し、凍結乾燥した。得られた修飾ポリマー(12.85g)は、H-NMRスペクトルによって、遊離カルボン酸基に対して5~6mol%のアクリル酸修飾を示す。
【0098】
実施例3-2-[(2-メタクリロイル)アミノ]エチルアミンで修飾されたポリ(アクリル酸-co-イタコン酸)
10gのポリ(tert.-ブチルアクリレート-co-イタコン酸無水物)を、ポリマー中の無水物基について、40gのジオキサンおよび1等量のトリエチルアミンの100mLのフラスコに溶解した。このポリマー溶液に、10mlエタノール中の1.1等量の2-[(2-メタクリロイル)アミノ]エチルアンモニウムクロリドを5分間加え、2時間攪拌した。その後、エタノールを蒸留し、残渣を冷トリフルオロ酢酸に溶解し、一晩攪拌した。形成された無色の固形物を分離し、アセトニトリルに溶解した。溶液を水に滴下した。この再沈殿を二回繰り返した。次に、固形のポリマーを真空乾燥させた。
【化17】

歩留まり:62~72%
【数1】

H-NMR(300Mhz、DMSO-d):δ(ppm):12.4(br、COOH)、8.0(br、2,5)、5.9(br、6)、5.3(br、7)、3.4(br、3,4)、2.2(br、9)、1.9(br、8)、1.7-1.1(br、1,10)。
DSC:Tg=117℃
【0099】
比較例1-2-ヒドロキシエチルメタクリレートで修飾したポリ(アクリル酸-co-イタコン酸)
5mLのジオキサン中の0.5g(5.5mmol)のポリ(アクリル酸-co-イタコン酸無水物)の溶液に、600mg(4.6mmol)の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびヘラ先分のヒドロキノンを加えた。溶液を90℃で二日間攪拌した。その後、溶媒を蒸留することで、溶液を濃縮し、アセトニトリルに沈殿させ、2mLの水に1時間攪拌した。ポリマーをアセトニトリル中で再び沈殿させ、単離し、真空中で乾燥させた。
【化18】

歩留まり:75~80%(変換HEMA:10%)
【数2】

H-NMR(300Mhz、DO):δ(ppm)=12.5(br、10)、6.2(br、5)、5.7(br、6)、4.4(br、3,4)、2.8(br、2)、2.4(br、1,9)、1.8(br、8)、1.3(br、7)。
適用例と比較例
【0100】
液体1及び比較液体2~4の組成を表1に要約する。RMGI試験検体を調製するために、液体を、2.8/1の粉末/液体比で名前付きガラスと常に混合される。
【0101】
実施例1並びに比較例2及び4の液体に基づくガラスイオノマー組成物の曲げ強度を表1に示す。
表1:液体1及び比較液体2~4の組成及びガラスイオノマー組成物の曲げ強度
【表1】

【表2】