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  • 特許-無細胞タンパク質合成系 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-24
(45)【発行日】2022-03-04
(54)【発明の名称】無細胞タンパク質合成系
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
C12P21/02 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019560483
(86)(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2018051822
(87)【国際公開番号】W WO2018138195
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】17153005.8
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597159765
【氏名又は名称】フラウンホーファーゲゼルシャフト ツール フォルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシユング エー.フアー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ブントル,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴォゲル,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】シルベルク,ステファン
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521568(JP,A)
【文献】PNAS, 2004, Vol. 101, No. 7, pp. 1863-1867
【文献】BMC Biotechnol., 2014, Vol. 14, No. 37, pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/02
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含み、タバコBY-2細胞溶解物であり、
前記凍結保護剤がトレハロースまたはジメチルスルホキシド(DMSO)であって、前記トレハロースは濃度が1.25~2.5%w/vの範囲内であり、前記DMSOは濃度が1~4%v/vの範囲内である、無細胞タンパク質合成系。
【請求項2】
凍結される、請求項に記載の無細胞タンパク質合成系。
【請求項3】
-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度で貯蔵される、請求項1または2に記載の無細胞タンパク質合成系。
【請求項4】
無細胞タンパク質合成のための方法であって、
a)請求項1~のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系を、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結させるステップ、
b)前記凍結された無細胞タンパク質合成系を貯蔵するステップ、
c)前記無細胞タンパク質合成系を解凍するステップ、
d)前記無細胞タンパク質合成系および核酸鋳型を使用することによって、タンパク質をin vitroで合成するステップ
を含む、方法。
【請求項5】
前記凍結保護剤が、タンパク質を合成する前に除去されない、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記無細胞タンパク質合成系が、使用前に室温で解凍される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
無細胞タンパク質合成系を保存する方法であって、
a)無細胞タンパク質合成系を凍結保護剤と接触させて、請求項1~のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系を得るステップ、
b)前記凍結保護剤と接触した状態で前記無細胞タンパク質合成系を凍結させるステップ
を含む、方法。
【請求項8】
前記無細胞タンパク質合成系が、ショック凍結によって凍結される、請求項に記載の方法
【請求項9】
前記無細胞タンパク質合成系が、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結される、請求項7または8に記載の方法
【請求項10】
前記凍結された無細胞タンパク質合成系が、使用前に室温で解凍される、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無細胞タンパク質合成のための新規方法および系、特に、短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含む、無細胞タンパク質合成系に関する。
【背景技術】
【0002】
新たな治療的タンパク質、技術的酵素、タンパク質操作および機能ゲノミクスに対する需要の増加は、迅速かつ効率的なタンパク質産生およびスクリーニングプラットホームを必要とする。
【0003】
無細胞タンパク質合成(CFPS)の新興のテクノロジーは、この需要を満たす助けになり得る(Carlson et al., 2012)。粗製溶解物に基づくCFPS系は、in vivoの系を超えるいくつかの利点を提供し、タンパク質操作、バイオ医薬品製品開発およびポストゲノム研究における広い適用を提供する。
【0004】
細胞ベースの発現と比較して、CFPSは、より短い処理時間ならびに反応条件の直接的な制御およびモニタリングなどの利点を提供する。PCR産物は、労力を要するクローニングおよび形質転換ステップなしの複数のタンパク質の同時発現のために直接使用され得る。CFPSプラットホームは、タンパク質フォールディングまたは非天然アミノ酸の取込みを促進するアクセサリー因子の付加を可能にする(Albayrak and Swartz, 2013;White et al., 2013)。これらは、生きた細胞中では産生できない細胞毒性タンパク質の発現も促進する。
【0005】
粗製溶解物は、翻訳、タンパク質フォールディングおよびエネルギー代謝のために必要な成分を含み、従って、それらにアミノ酸、エネルギー基質、ヌクレオチドおよび塩を提供することは、RNA鋳型によってコードされるほとんど全てのタンパク質が合成されるのを可能にする。適切なRNAポリメラーゼがさらに補充されたカップリングされた転写/翻訳系では、DNA鋳型もまた使用され得る。
【0006】
上述のように、伝統的な細胞ベースの発現方法とは対照的に、CFPSは、より短い処理時間、限定的なタンパク質加水分解、および毒性タンパク質、または規定された位置において特定の化学基もしくは非天然アミノ酸を含むタンパク質を発現する能力を提供する。さらに、この系のわかりやすい性質により、反応を直接制御およびモニタリングすることが可能になる。化学合成は、<40残基長のペプチドの迅速かつ制御された合成を可能にするが、これは、より大きいポリペプチドの産生のためには、経済的に実行可能な方法ではない。
【0007】
最も広く使用される無細胞系は、大腸菌(Escherichia coli)抽出物(ECE)、コムギ胚芽抽出物(WGE)、ウサギ網状赤血球溶解物(RLL)および昆虫細胞抽出物(ICE)に基づく。これらは、タンパク質の発現、フォールディングおよび改変を異なる方法で増強する多様な細胞成分および補因子を含む。従って、最も適切な系は、標的タンパク質の起源および生化学的性質に依存する。ECEの調製は、単純かつ安価であり、一般に、標的タンパク質に依存して、バッチ反応において、1ミリリットル当たり数百マイクログラム~ミリグラムという最も高いタンパク質収量を達成する。
【0008】
対照的に、真核生物系は、あまり生産的ではなく、抽出物調製はより労力を要するが、複雑なタンパク質はより効率的に産生され得、拡張された翻訳後改変は支持される。WGEは通常、タンパク質および反応形式に依存して、1ミリリットル当たり数十マイクログラム~ミリグラムの組換えタンパク質を生じるが、抽出物調製には4~5日かかり、コムギ種子からの抽出物の収量は低い。RLL系の収量は、典型的には、WGEよりも規模が2オーダー低く、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)から調製されたICEは、最大で50μg/mLの収量を達成できる。
【0009】
最近、CHO細胞および出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)に基づく2つのさらなる真核生物系が記載されている。CHO抽出物は、最大で50μg/mLの活性ホタルルシフェラーゼを生じるが、発酵培地は非常に高価である。対照的に、酵母抽出物の調製は安価であるが、この系は、8μg/mLの活性ホタルルシフェラーゼという低い標的タンパク質レベルのみを産生する。従って、現在の無細胞系の欠点は、大量に迅速に調製され得る高度に生産的な真核生物無細胞系に対する需要を生み出している。
【0010】
タバコBY-2細胞に基づくカップリングされていないCFPS系は、文献中に記載されている(Buntru et al. Buntru et al. BMC Biotechnology 2014, 14:37)。さらに、タバコBY-2細胞溶解物(BYL)に基づく高度に効率的なカップリングされた無細胞転写-翻訳系は、先行技術にも記載された(Buntru et al, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 112, No. 5, 2015, 867-878)。
【0011】
しかし、先行技術の無細胞タンパク質合成系は、確立のための高いコストに起因して、その広い使用および適用が制限されてきた。高いコストの問題は、無細胞タンパク質合成のための触媒として機能する細胞抽出物を調製するための複雑でコストのかかる手順によってもたらされる。さらに、溶解物または抽出物の調製は、時間がかかることが多く、それにより、各in vitro翻訳反応のためにそれを新鮮に調製するのは、経済的に実行不能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、先行技術の欠点を有さないin vitroタンパク質合成のための改善された方法および無細胞タンパク質合成系を提供することが、本開示の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は一般に、無細胞タンパク質合成(in vitroタンパク質合成または略記してCFPSとも呼ばれる)の凍結保存の分野に関する。より具体的には、本開示は、凝固点未満での短期および長期貯蔵の間、細胞溶解物の代謝活性を維持するための、いわゆる凍結保護剤(例えば、糖、DMSO、アミノ酸、適合性の溶質)による真核細胞溶解物(または抽出物)の処理のための方法および系に関する。
【0014】
第1の態様では、本開示は、短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した新規無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含む、無細胞タンパク質合成系に関する。
【0015】
特に、凍結保護剤は、非還元糖トレハロースまたはジメチルスルホキシド(DMSO)であり、特に、トレハロースの濃度は、0.5~10%w/v、特に、1.0~5.0%w/v、特に、1.25~2.5%w/vとの間の範囲であり、DMSOの濃度は、0.8~8%、特に、1~4%v/vの範囲である。
【0016】
本開示は、第2の態様では、無細胞タンパク質合成のためのさらなる新規方法であって、
a)本開示に従う無細胞タンパク質合成系を、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結させるステップ、
b)前記凍結された無細胞タンパク質合成系を貯蔵するステップ、
c)前記無細胞タンパク質合成系を解凍するステップ、
d)前記無細胞タンパク質合成系および核酸鋳型を使用することによって、タンパク質をin vitroで合成するステップ
を含む、方法に関する。
【0017】
第3の態様では、本開示は、無細胞タンパク質合成系を保存する方法であって、
a)無細胞タンパク質合成系を凍結保護剤と接触させて、本開示に従う無細胞タンパク質合成系を得るステップ、
b)前記凍結保護剤と接触した状態で前記無細胞タンパク質合成系を凍結させるステップ
を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、凍結する前および液体窒素中で凍結し-80℃で1日貯蔵した後の、タバコBY-2細胞溶解物(BYL)を使用するカップリングされた無細胞転写-翻訳反応におけるeYFPの収量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、無細胞タンパク質合成のための新規方法および系、特に、短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含む、無細胞タンパク質合成系に関する。
【0020】
本開示に従う無細胞翻訳系を、使用前に凍結および貯蔵することができることが、本発明の利点である。従って、細胞抽出物/溶解物のバルクを、産生、凍結および貯蔵することができ、使用される前に新鮮に調製する必要はない。異なる原核および真核細胞、例えば、酵母、哺乳動物または植物細胞に由来する溶解物が確立された。溶解物または抽出物の調製方法は、時間がかかることが多く、それにより、各in vitro翻訳反応のためにそれを新鮮に調製するのは、経済的に実行不能である。従って、かかる溶解物/抽出物調製物の貯蔵および長期安定性が、非常に目的とされる。
【0021】
本開示は、特に長期貯蔵のための、無細胞溶解物の凍結を記載する。有利な実施形態では、タバコBY-2細胞溶解物(BYL)に基づく最近開発された無細胞系(Buntru et al. BMC Biotechnology 2014, 14:37およびBuntru et al. Biotechnology and Bioengineering, Vol. 112, No. 5, 2015, 867-878)は、凍結前の新鮮に調製された溶解物と比較して、液体窒素中での凍結、-80℃での貯蔵および解凍後に、タンパク質翻訳活性における高い減少を示した。凍結貯蔵の間の活性喪失の問題を回避し、溶解物の特徴を維持するために、特定の凍結保護剤、例えば、DMSO、アミノ酸および糖、例えばトレハロースの添加は、凍結-解凍サイクルの後の無細胞溶解物のin-vitro翻訳能を増加および維持する。
【0022】
上述のように、本開示は、短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含む、無細胞タンパク質合成系に関する。
【0023】
無細胞タンパク質合成(in vitroタンパク質合成または略記してCFPSとも呼ばれる)は、生きた細胞を使用せずに生物学的機構を使用するタンパク質の産生である。in vitroタンパク質合成環境は、細胞生存度を維持するために必要な細胞壁または恒常性条件によって束縛されない。従って、CFPSは、翻訳環境の直接的なアクセスおよび制御を可能にし、これは、タンパク質合成、非天然アミノ酸の取込み、ハイスループットスクリーニングおよび合成生物学を研究するために、タンパク質産生の最適化、タンパク質複合体の最適化を含むいくつかの適用にとって有益である。
【0024】
無細胞タンパク質合成(CFPS)系は、タンパク質発現のための強力なテクノロジーとして登場した。著名な適用には、医薬タンパク質およびワクチンの産生が含まれる(Goerke, A. R. et al. "Development of cell-free protein synthesis platforms for disulfide bonded proteins," Biotechnol. Bioeng. 99, 351-367 (2008);Kanter, G. et al. "Cell-free production of scFv fusion proteins: An efficient approach for personalized lymphoma vaccines," Blood 109, 3393-3399, (2007);Stech, M. et al. "Production of functional antibody fragments in a vesicle-based eukaryotic cell-free translation system," J. Biotechnol. 164, 220-231 (2012);Yang, J. et al. "Rapid expression of vaccine proteins for B-cell lymphoma in a cell-free system," Biotechnol. Bioeng. 89, 503-511 (2005);Yin, G. et al. "Aglycosylated antibodies and antibody fragments produced in a scalable in vitro transcription-translation system," MAbs 4, 217-225 (2012);Zawada, J. F. et al. "Microscale to manufacturing scale-up of cell-free cytokine production- a new approach for shortening protein production development timelines," Biotechnol. Bioeng. 108, 1570-1578 (2011))。
【0025】
かかる系は、in vivoで産生することが困難なタンパク質のin vitro発現、ならびにタンパク質進化、機能ゲノミクスおよび構造研究のためのタンパク質ライブラリーの迅速かつハイスループットな産生を可能にする(Madin, K. et al. "A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system prepared from wheat embryos: Plants apparently contain a suicide system directed at ribosomes," Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 559-564 (2000);Takai, K et al. "Practical cell-free protein synthesis system using purified wheat embryos," Nat. Protoc. 5, 227-238 (2010))。
【0026】
2つの基本的な成分が、in vitroタンパク質発現を達成するために必要である:(1)標的タンパク質をコードする遺伝子鋳型(mRNAまたはDNA)、ならびに(2)必要な転写および翻訳の分子機構を含む反応溶液。細胞抽出物(または無細胞タンパク質合成(CFPS)系)は、
・mRNA転写のためのRNAポリメラーゼ、
・ポリペプチド翻訳のためのリボソーム、
・tRNAおよびアミノ酸、
・酵素補因子およびエネルギー源、
・適切なタンパク質フォールディングに必須の細胞成分
を含む、反応溶液の分子の全てまたはほとんどを供給する。
【0027】
細胞溶解物は、酵素の正確な組成および割合、ならびに翻訳に必要な構成要素を提供する(通常、エネルギー源およびアミノ酸も、合成を持続させるために添加する必要がある)。細胞膜は、細胞のサイトゾルおよびオルガネラ成分のみを残して除去される(従って、用語「無細胞抽出物/溶解物」)。無細胞タンパク質発現のために開発された最初の型の溶解物は、原核生物に由来した。より最近、昆虫細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞由来の抽出物に基づく系が開発され、市販されている。
【0028】
本開示に従う無細胞タンパク質合成系は、原核または真核細胞溶解物などの生物学的抽出物/溶解物を含む。タンパク質の転写/翻訳のための反応ミックスは、高分子、例えば、DNA、mRNAなどの産生のための鋳型;合成される高分子のためのモノマー、例えば、アミノ酸、ヌクレオチドなど、ならびに合成に必要なそのような補因子、酵素および他の試薬、例えば、リボソーム、tRNA、ポリメラーゼ、転写因子、エネルギー再生系、例えば、クレアチンリン酸/クレアチンキナーゼなどを含む。かかる合成反応系は、当該分野で周知であり、文献中に記載されている。ポリペプチド合成のためのいくつかの反応化学が、本発明の方法において使用され得る。例えば、反応化学は、2002年1月8日に発行された米国特許第6,337,191号明細書および2001年1月2日に発行された米国特許第6,168,931号明細書に記載されている。
【0029】
無細胞発現系は、DNA鋳型からのタンパク質合成(転写および翻訳)またはmRNA鋳型からのタンパク質合成(翻訳のみ)を支持し得る。原理上、無細胞発現系は、2つの別々の逐次的反応(カップリングされていない)として、または同時的に1つの反応(カップリングされた)として、転写ステップおよび翻訳ステップを達成するように設計され得る。
【0030】
原核生物大腸菌(Escherichia coli)抽出物ベースの無細胞系は、急速に開発された(総説については、Carlson, E. D. et al. "Cell-free protein synthesis: Applications come of age," Biotechnol. Adv. 30, 1185-1194, (2012)を参照のこと)。本発明の目的のために、任意の原核または真核細胞溶解物が、無細胞タンパク質合成系として使用され得る。無細胞タンパク質合成系としての原核細胞溶解物として、大腸菌(E. coli)S30無細胞抽出物が、Zubay, G. (1973, Ann. Rev. Genet. Vol 7, p. 267)によって記載された。これらは、発現される遺伝子が、適切な原核生物調節配列、例えば、プロモーターおよびリボソーム結合部位を含むベクター中にクローニングされている場合に使用され得る。
【0031】
無細胞系は、転写および翻訳が、抽出物へのDNAの添加後に同時に起こる場合、「カップリングされた」とみなされる。一部の有利な実施形態では、本開示に従う無細胞タンパク質合成系は、カップリングされた無細胞タンパク質合成系である。
【0032】
しかし、真核生物無細胞溶解物は、種々の翻訳後プロセシング活性を保持することに少なくとも部分的に起因して、多くの理由のために好ましい発現系である。例えば、イヌミクロソーム膜を無細胞コムギ胚芽抽出物に添加することで、シグナルペプチド切断およびコアグリコシル化などのプロセシング事象が試験され得る。真核細胞溶解物はまた、幅広い種類のウイルスおよび他の原核生物RNA、ならびに真核生物mRNAのin vitro翻訳を支持する。
【0033】
以前に開発された主要な真核生物CFPSプラットホームには、コムギ胚芽抽出物(WGE)(Goshima, N. et al. "Human protein factory for converting the transcriptome into an in vitro-expressed proteome," Nat. Methods 5, 1011-1017 (2008);Hoffmann, M. et al. in Biotechnol Annu Rev Vol. 10, 1-30 (Elsevier, 2004);Takai et al. (2010))、ウサギ網状赤血球溶解物(RRL)(Jackson, R. J. et al. in Methods Enzymol Vol. Vol. 96 (eds. Becca Fleischer, Sidney Fleischer) Ch. 4, 50-74 (Academic Press, 1983));昆虫細胞抽出物(ICE)(Ezure, T et al. "A cell-free protein synthesis system from insect cells," Methods Mol. Biol. 607, 31-42 (2010);Kubick, S et al. in Current Topics in Membranes, Vol. 63 (ed. Larry DeLucas) 25-49 (Academic Press, 2009);Tarui, H. et al. "Establishment and characterization of cell-free translation/glycosylation in insect cell (Spodoptera frugiperda 21) extract prepared with high pressure treatment," Appl. Microbiol. Biotechnol. 55, 446-453 (2001));リーシュマニア・タレントラエ(Leishmania tarentolae)抽出物(Kovtun, O. et al. "Towards the construction of expressed proteomes using a Leishmania tarentolae based cell-free expression system," PLoS One 5, el4388 (2010);Mureev, S. et al. "Species-independent translational leaders facilitate cell-free expression," Nat. Biotechnol. 27, 747-752 (2009));ならびにHeLaおよびハイブリドーマ細胞抽出物(Mikami, S. et al. in Cell-Free Protein Production Vol. 607 Methods in Molecular Biology (eds. Yaeta Endo, Kazuyuki Takai, & Takuya Ueda) Ch. 5, 43-52 (Humana Press, 2010))から作製された系が含まれる。これらの真核生物溶解物は全て、研究者の間で一般的であり、広く入手可能である。
【0034】
本開示によれば、無細胞タンパク質合成系として使用される細胞抽出物は、細胞溶解、高速遠心分離(30,000RCF)、事前インキュベーション、透析および低速遠心分離(4,000RCF)の逐次的ステップを含む方法によって調製され得る。本開示で使用される細胞は、好ましくは、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、コムギ胚芽、イネ胚芽、オオムギ胚芽、CHO細胞、ハイブリドーマ細胞および網状赤血球からなる群から選択されるが、これらに限定されない。
【0035】
本開示の有利な実施形態では、タバコBY-2細胞溶解物が好ましい。このタバコBY-2細胞溶解物は、例えば、Buntru et al. BMC Biotechnology 2014, 14:37およびBuntru et al, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 112, No. 5, 2015, 867-878によって記載される方法によって調製され得る(実施例を参照のこと)。
【0036】
本開示に従う無細胞タンパク質合成系は、凍結保護剤を含む。凍結保護剤は、凍結誘導性のストレス(即ち、氷形成に起因する)に対してタンパク質および膜を安定化するために使用される抗凍結化合物または抗凍結タンパク質(AFP)である。凍結保護剤は、凍結保存と関連する損傷を低減させる化学物質である。凍結保護剤の例は、アミノ酸またはその誘導体、糖、例えば、ジサッカリドもしくはオリゴサッカリドまたはそれらの誘導体、サルコシン、プロリン、ベタイン、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、N-アセチルリジン、グリコシルグリセレート、ならびにエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、PEGあるいはそれらの混合物である。
【0037】
本開示に従う無細胞タンパク質合成系中に含まれる凍結保護剤は、アセトアミド、アガロース、アルギネート、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、抗凍結タンパク質、ベタイン、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エリスリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセロール、グリセロホスフェート、モノ酢酸グリセリル、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルデンプン、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロパンジオール、ピリジン N-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリン、キシロースおよびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0038】
一部の有利な実施形態では、本開示に従う無細胞タンパク質合成系中に含まれる凍結保護剤は、トレハロースなどの非還元糖および/またはジメチルスルホキシド(DMSO)である。一部の有利な実施形態では、トレハロースの濃度は、驚くべきことに、0.5~10%w/v、特に、1~5%w/vの範囲、特に、1.25~2.5%w/vの低い濃度範囲である。凍結保護剤としてDMSOを使用する場合、DMSOの濃度は、0.8~8%、特に、1~4%v/vの範囲である。
【0039】
好ましい実施形態では、凍結保護剤は、トレハロースまたはDMSOである。凍結および解凍手順の後、凍結保護剤が添加された溶解物は、最大で21倍高い翻訳活性を示し、凍結前の新鮮に調製された溶解物の活性のおよそ100%を維持する(図1)。
【0040】
従って、新鮮に調製された真核細胞溶解物、特に、タバコBY-2溶解物への、凍結保護物質の添加は、凍結貯蔵および解凍の後に溶解物の機能性を維持するために重要である。これは、溶解物の機能的オルガネラ、例えばミクロソーム、および他の小胞構造が必要とされる場合、特に重要である。
【0041】
本開示の有利な実施形態では、タバコBY-2細胞溶解物(BYL)に基づく無細胞系(Buntru et al., 2014; 2015)は、凍結前の新鮮に調製された溶解物と比較して、-80℃で凍結され解凍された後、タンパク質翻訳活性における高い減少を示した。凍結貯蔵の間の活性喪失の問題を回避し、溶解物の特徴を維持するために、本発明者らは、特定の凍結保護剤、例えば、DMSO、アミノ酸および糖、好ましくはトレハロースの添加によって、凍結-解凍サイクルの後の無細胞溶解物のin vitro翻訳能を増加および維持することができることを解明した。
【0042】
BYLの凍結保存のためにこれもまた有用であるはずのトレハロースに加えた化合物には、他の糖および糖の組合せ;他の代謝活性化因子および阻害剤;ならびに他の不透過性の保護的または適合性の浸透圧調節物質、例えば、ジサッカリドまたはオリゴサッカリド、サルコシン、プロリン、ベタイン、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、N-アセチルリジン、グリコシルグリセレート、ならびにエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、PEGおよび誘導体が含まれる。トレハロースは、非還元糖であるので、好ましい凍結保護剤であり、非還元糖とは、それがタンパク質のアミン基と容易には反応しないことを意味し、この反応は有害であり得る。
【0043】
有利な実施形態では、本開示に従う無細胞タンパク質合成系は、凍結される(凍結乾燥ではなく)、即ち、無細胞タンパク質合成系は、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度を有する。
【0044】
さらに、本開示は、本開示に従う無細胞タンパク質合成のための方法であって、
a)本開示に従う無細胞タンパク質合成系を、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結させるステップ、
b)前記凍結された無細胞タンパク質合成系を貯蔵するステップ、
c)前記無細胞タンパク質合成系を解凍するステップ、
d)前記無細胞タンパク質合成系および核酸鋳型を使用することによって、タンパク質をin vitroで合成するステップ
を含む、方法に関する。
【0045】
上述のように、本開示に従う無細胞タンパク質合成系は、凍結される、即ち、無細胞タンパク質合成系は、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度を有する。
【0046】
無細胞タンパク質合成系を凍結するための方法は、溶解物アリコート(ポリプロピレンチューブ中)を、-196℃の液体窒素中に5分間浸漬させ、その後、-80℃または-196℃の液体窒素下で貯蔵することによる、新鮮に調製されアリコートにされた溶解物調製物のショック凍結が含まれる。あるいは、新鮮に調製されアリコートにされた溶解物調製物は、-80℃で直接貯蔵され得る。
【0047】
さらに、本開示に従う方法は、-20℃~-196℃の間またはそれよりも低い温度で、無細胞タンパク質合成のための細胞抽出物を貯蔵するステップを含む。これは、短期貯蔵、または好ましくは、数日間、数週間、数か月間もしくは数年間にわたる長期貯蔵であり得る。
【0048】
驚くべきことに、本発明者らは、本開示に従う無細胞タンパク質合成系を使用してタンパク質を合成する前に、凍結保護剤を除去する必要がないことを見出した。
【0049】
有利な実施形態では、無細胞タンパク質合成系は、使用(即ち、タンパク質の合成)前に室温で解凍される。好ましくは、合成するステップ(d)は、20℃と25℃との間の温度で実施される。
【0050】
本明細書で使用する場合、「発現鋳型」または「核酸鋳型」とは、ポリペプチドまたはタンパク質へと翻訳され得る少なくとも1つのRNAを転写するための基質として機能する核酸を指す。発現鋳型には、DNAまたはRNAから構成される核酸が含まれる。発現鋳型のための核酸として使用するためのDNAの適切な供給源には、ゲノムDNA、cDNA、およびcDNAへと変換され得るRNAが含まれる。ゲノムDNA、cDNAおよびRNAは、任意の生物学的供給源、例えば、とりわけ、組織サンプル、生検、スワブ、痰、血液サンプル、便サンプル、尿サンプル、剥離物由来であり得る。ゲノムDNA、cDNAおよびRNAは、宿主細胞またはウイルス起源由来であり得、現存生物および絶滅生物を含む任意の種由来であり得る。本明細書で使用する場合、「発現鋳型」、「核酸鋳型」および「転写鋳型」は、同じ意味を有し、相互交換可能に使用される。
【0051】
本明細書で使用する場合、「翻訳鋳型」とは、ポリペプチドまたはタンパク質を合成するためにリボソームによって使用され得る発現鋳型からの転写のRNA産物を指す。用語「核酸」および「オリゴヌクレオチド」とは、本明細書で使用する場合、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)、およびプリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドである任意の他の型のポリヌクレオチドを指す。用語「核酸」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」の間には、長さの区別は意図されず、これらの用語は、相互交換可能に使用される。これらの用語は、分子の一次構造のみを指す。従って、これらの用語は、二本鎖および一本鎖DNA、ならびに二本鎖および一本鎖RNAを含む。本発明での使用のために、オリゴヌクレオチドは、塩基、糖またはリン酸骨格が改変されたヌクレオチドアナログ、ならびに非プリンまたは非ピリミジンヌクレオチドアナログもまた含み得る。
【0052】
一部の有利な実施形態では、本開示に従う方法において、タンパク質合成は、反応混合物、特にCFPS反応混合物の存在下で実現される。用語「反応混合物」とは、本明細書で使用する場合、所与の反応を実施するために必要な試薬を含む溶液を指す。「CFPS反応混合物」は、典型的には、粗製のまたは部分的に精製された原核または真核細胞抽出物/溶解物、DNA転写鋳型(またはRNA翻訳鋳型)、およびDNA転写鋳型(またはRNA翻訳鋳型)からの無細胞タンパク質合成を促進するために適した反応緩衝液を含む。一部の実施形態では、CFPS反応混合物は、外因性RNA翻訳鋳型を含み得る。他の実施形態では、CFPS反応混合物は、DNA依存的RNAポリメラーゼのためのプロモーターエレメントに作動可能に連結されたオープンリーディングフレームをコードするDNA発現鋳型を含み得る。これらの他の態様では、CFPS反応混合物は、オープンリーディングフレームをコードするRNA翻訳鋳型の転写を指示するために、DNA依存的RNAポリメラーゼもまた含み得る。これらの他の態様では、さらなるNTPおよび二価カチオン補因子が、CFPS反応混合物中に含まれ得る。反応混合物は、反応を可能にするために必要な全ての試薬を含む場合、完全と言われ、必要な試薬のサブセットのみを含む場合、不完全と言われる。
【0053】
反応成分が、簡便さ、貯蔵安定性を理由として、または成分濃度の適用依存的な調整を可能にするために、成分全体のサブセットを各々が含む別々の溶液として慣用的に貯蔵されること、および反応成分が、完全な反応混合物を創出するために反応前に組み合わされることが、当業者に理解される。さらに、反応成分が、商業化のために別々に包装されること、および有用な市販のキットが、本発明の反応成分の任意のサブセットを含み得ることが、当業者に理解される。
【0054】
前記無細胞タンパク質合成系を使用することによってタンパク質をin vitroで合成するための典型的な設定は、以下に記載される。溶解物アリコートは、-80℃での貯蔵から取られ、室温で解凍される。タンパク質発現を開始させるために、核酸鋳型(カップリングされた転写-翻訳反応の場合にはDNA、カップリングされていない転写-翻訳反応の場合にはmRNA)が、溶解物に添加され、さらにHEPES緩衝液、グルタミン酸マグネシウム、グルタミン酸カリウム、NTP(カップリングされた転写-翻訳反応についてはATP、GTP、CTPおよびUTP、カップリングされていない転写-翻訳反応についてはATPおよびGTP)、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、およびT7 RNAポリメラーゼ(カップリングされた転写-翻訳反応についてのみ)から構成される反応混合物が添加される。カップリングされた転写-翻訳反応およびカップリングされていない転写-翻訳反応の両方は、サーモミキサー中で25℃および700rpmで18時間実施される。標的タンパク質の性質に基づいて、合成されたタンパク質は、異なる方法、例えば、蛍光測定、酵素アッセイおよびSDS PAGEによって分析され得る。
【0055】
本開示のさらなる実施形態は、無細胞タンパク質合成系を保存する方法であって、
a)無細胞タンパク質合成系を凍結保護剤とともに調製し、本開示に従う無細胞タンパク質合成系を得るステップ、
b)前記凍結保護剤と接触した状態で前記無細胞タンパク質合成系を凍結させるステップ
を含む、方法に関する。
【実施例
【0056】
本開示の一実施形態では、BYLを、Buntru et al. (2015)に記載されるように調製した。
【0057】
タバコBY-2溶解物(BYL)の調製
脱液胞化(evacuolated)BY-2プロトプラストからの溶解物の調製を、顕著な改変を伴って、Komoda et al. (2004)およびGursinsky et al. (2009)に記載されたとおりに実施した。プロトプラストを、細胞を発酵培地中で3.5%(v/v)Rohament CLおよび0.2%(v/v)Rohapect UF(共にAB Enzymes、Darmstadt、Germanyから)で直接処理することによって、連続発酵の指数増殖期にある細胞から調製した。培地のモル浸透圧濃度を、360mMマンニトールの添加によって調整した。得られたプロトプラストを、0.7Mマンニトール、20mM MgClおよび5mM PIPES-KOH(pH7.0)中(下から上に)70%(v/v、3ml)、40%(v/v、5ml)、30%(v/v、3ml)、15%(v/v、3ml)および0%(3ml)のPercoll(GE Healthcare、Munich、Germany)を含む不連続Percoll勾配上に層状化した。スウィングバケットローター中で25℃で1時間の6,800gでの遠心分離後、脱液胞化プロトプラストを、40~70%(v/v)のPercoll溶液界面から回収した。脱液胞化プロトプラストを、50mlのComplete EDTA-free Protease Inhibitor Mixture(Roche Diagnostics、Mannheim、Germany)当たり1錠を補充した3容積のTR緩衝液(30mM HEPES-KOH(pH7.4)、60mMグルタミン酸カリウム、0.5mMグルタミン酸マグネシウム、2mM DTT)中に懸濁し、Dounce組織グラインダー(Sigma-Aldrich、St.Louis、Missouri、USA)を30ストロークで使用して破壊した。核および非破壊細胞を、4℃で10分間の500gでの遠心分離によって除去した。
【0058】
1.25%、2.5%および5%の濃度のトレハロース、1%、2%および4%の濃度のDMSO、ならびに0.5%の濃度のアミノ酸プロリンなどの、異なる量の凍結保護化合物を、上清のアリコートに添加した。
【0059】
これらの新鮮に調製されたアリコートの一部を、蛍光レポータータンパク質eYFPをコードするプラスミド鋳型を用いたカップリングされたin vitro転写-翻訳反応において、直接使用した(Buntru et al., 2015)。残りのアリコートを、液体窒素中でショック凍結し、-80℃で貯蔵した。-80℃で1日の貯蔵後、アリコートを室温で解凍して、以前に言及したのと同じ条件下で、カップリングされたin vitro転写-翻訳反応を反復した。
【0060】
バッチ反応におけるBYLのin vitro翻訳活性
BYLの性能を、プラスミドpIVEX_GAAAGA_Omega_Strep-eYFPを鋳型として使用してレポータータンパク質eYFPを産生することによって調査した。カップリングされた転写-翻訳反応を、インキュベーターシェーカー(Kuehner、Basel、Switzerland)中で25℃および500rpmで16時間、50μlアリコート中で実施した。標準的な反応は、40%(v/v)BYL、40mM HEPES-KOH(pH7.8)、8.5mMグルタミン酸マグネシウム、3mM ATP、1.2mM GTP、1.2mM CTP、1.2mM UTP、30mMクレアチンリン酸、0.1μg/μLクレアチンキナーゼ、80ng/μlベクターDNAおよび50ng/μl自家製T7 RNAポリメラーゼを含んだ。
【0061】
eYFPからの蛍光シグナルを、485/20nm励起フィルターおよび528/20nm発光フィルターを備えたSynergy HT Multi-Mode Microplate Reader(Biotek、Bad Friedrichshall、Germany)を使用して定量化した。eYFPの量を、DNA鋳型なしのBYL転写-翻訳反応における異なる濃度のeYFPに基づく検量線を生成することによって決定した。eYFP標準を、BYL転写-翻訳系を使用して産生し、Strep-Tactin(登録商標)Sepharose(登録商標)によって精製した。精製されたeYFPの濃度を、比色アッセイ(Bradford, 1976)を使用して決定した。
【0062】
結果
凍結および解凍手順の後、凍結保護剤が添加された溶解物は、最大で21倍高い翻訳活性を示し、凍結前の新鮮に調製された溶解物の活性のおよそ100%を維持する(図1)。
【0063】
図1は、凍結する前および液体窒素中でショック凍結し-80℃で1日貯蔵した後の、
タバコBY-2細胞溶解物(BYL)を使用するカップリングされた無細胞転写-翻訳反
応におけるeYFPの収量を示す。溶解物のアリコートに、異なる量の凍結保護剤(CP
)トレハロース、DMSOおよびプロリンを補充した。プラスミドpIVEX_GAAA
GA_Omega_Strep-eYFPを鋳型反応として使用することを、25℃およ
び500rpmで16時間実施した。eYFPからの蛍光シグナルを、485/20nm
励起フィルターおよび528/20nm発光フィルターを備えた蛍光リーダーを使用して
定量化した。eYFPの量を、DNA鋳型なしのBYL転写-翻訳反応における異なる濃
度のeYFPに基づく検量線を生成することによって決定した。eYFP標準を、BYL
転写-翻訳系を使用して産生し、Strep-Tactin(登録商標)Sepharo
se(登録商標)によって精製した。精製されたeYFPの濃度を、比色アッセイを使用
して決定した。データは、3つの独立した転写-翻訳実験の平均および標準偏差を示す。

本出願に係る発明の例として、以下のものも挙げられる。
[1] 短期または長期貯蔵のための凍結の前および後のタンパク質合成に適した無細胞タンパク質合成系であって、凍結保護剤を含み、タバコBY-2細胞溶解物である、無細胞タンパク質合成系。
[2] 前記凍結保護剤が、トレハロースなどの非還元糖またはジメチルスルホキシド(DMSO)であり、特に、トレハロースの濃度が、0.5~10%w/v、特に、1.0~5.0%w/v、特に、1.25~2.5%w/vの範囲であり、DMSOの濃度が、0.8~8%、特に、1~4%v/vの範囲である、上記[2]に記載の無細胞タンパク質合成系。
[3] 前記凍結保護剤が、ジサッカリドまたはオリゴサッカリド、サルコシン、プロリン、ベタイン、エクトイン、ヒドロキシエクトイン、N-アセチルリジン、グリコシルグリセレート(glycosylglycerate)、ならびにエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、PEGおよびそれらの混合物からなる群から選択される、上記[1]~[2]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系。
[4] 前記凍結保護剤が、アセトアミド、アガロース、アルギネート、アラニン、アルブミン、酢酸アンモニウム、抗凍結タンパク質、ベタイン、ブタンジオール、コンドロイチン硫酸、クロロホルム、コリン、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオン、シクロヘキサントリオール、デキストラン、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エリスリトール、エタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ホルムアミド、グルコース、グリセロール、グリセロホスフェート、モノ酢酸グリセリル、グリシン、糖タンパク質、ヒドロキシエチルデンプン、イノシトール、ラクトース、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、マルトース、マンニトール、マンノース、メタノール、メトキシプロパンジオール、メチルアセトアミド、メチルホルムアミド、メチル尿素、メチルグルコース、メチルグリセロール、フェノール、プルロニックポリオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プロリン、プロパンジオール、ピリジン N-オキシド、ラフィノース、リボース、セリン、臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソルビトール、スクロース、トレハロース、トリエチレングリコール、酢酸トリメチルアミン、尿素、バリン、キシロースおよびそれらの混合物からなる群から選択される、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系。
[5] 凍結される、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系。
[6] -50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度で貯蔵される、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系。
[7] 無細胞タンパク質合成のための方法であって、
a)上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系を、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結させるステップ、
b)前記凍結された無細胞タンパク質合成系を貯蔵するステップ、
c)前記無細胞タンパク質合成系を解凍するステップ、
d)前記無細胞タンパク質合成系および核酸鋳型を使用することによって、タンパク質をin vitroで合成するステップ
を含む、方法。
[8] 前記凍結保護剤が、タンパク質を合成する前に除去されない、上記[7]に記載の方法。
[9] 前記無細胞タンパク質合成系が、使用前に室温で解凍される、上記[7]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 無細胞タンパク質合成系を保存する方法であって、
a)無細胞タンパク質合成系を凍結保護剤と接触させて、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系を得るステップ、
b)前記凍結保護剤と接触した状態で前記無細胞タンパク質合成系を凍結させるステップ
を含む、方法。
[11] 前記無細胞タンパク質合成系が、ショック凍結によって凍結される、上記[10]に記載の無細胞タンパク質合成系。
[12] 前記無細胞タンパク質合成系が、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、-80℃未満、-90℃未満または-196℃未満の温度まで凍結される、上記[10]~[11]のいずれか一項に記載の無細胞タンパク質合成系。
[13] 前記凍結された無細胞タンパク質合成系が、使用前に室温で解凍される、上記[10]~[12]のいずれか一項に記載の方法。
【0064】
参考文献
【0065】
【表1】
図1